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M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第15回】「労働債務の分析(その3)」-役員に対する労働債務-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第15回】 「労働債務の分析(その3)」 -役員に対する労働債務-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷役員に対する報酬等 役員に対して支給される報酬等(いわゆる役員報酬等)としては、以下のようなものが挙げられる。 役員報酬等に関しては、いわゆる「お手盛り防止」のため、会社法上、以下のような規制がなされている(会社法第361条)。   ▷定期的に支給される定額報酬等 毎月、もしくは年俸として金額が確定している報酬に関しては、定款等で報酬の上限のみを定め、各人別の金額の決定は取締役会に一任することも会社法上許容されている。 ただし、最近世間を賑わせた大手製造業の例からすると、極めて強大な権力が一部役員にのみ集中するような場合の株主によるガバナンスの在り方については議論されて然るべきかもしれない。 いずれにせよ、定期的に支給される役員報酬等に関して労働債務として認識されるべきものは、定額報酬のうち、支払期日を経過してなお支払われていない部分があれば、当該金額について未払金として認識するか、もしくは支払期日が到来していない場合であっても、期間の経過等に伴って受給権が発生していると認められる場合には、当該部分について未払費用として労働債務が認識されることになろう。 M&Aに際しては、基準日における上記未払債務の計上有無と、基準日以降、クロージング日における当該未払債務の取扱い等について確認しておく必要があろう。   ▷役員賞与 会社法の施行に伴い、役員賞与は利益処分項目としてではなく、発生主義に基づく費用項目として処理されることとなったが、当該金額について定款に定めがない場合、当該役員賞与の支給については決算日後、株主総会による決議を要することから、決算日現在では支給が確定した債務には当たらず、条件付き債務ということになる。 したがって、この場合には当該決議事項とされる金額又はその見込額につき、原則として役員賞与引当金等として引当計上されることとなる。 M&Aに際しては、基準日における引当計上額の妥当性、基準日以降、クロージング日までの間における役員賞与の支給要否に関する取扱い等について確認しておく必要があろう。   ▷金額の確定していない業績連動型報酬等 役員報酬のうち、期間業績に応じて支給額が決定するもの等、いわゆる業績連動型の役員報酬等については、会社法上、その具体的な算定方法を定款等で定める必要がある。 業績連動型の役員報酬等に関する算定方法としては、例えば、以下のようなケースが考えられる。 (注) ROE:株主資本利益率、ROIC:投下資本利益率 このように定められた算定方法に従って、金額が確定してから1ヶ月以内に支給される等の諸要件を満たす場合、税務上の損金算入が認められることになるが、会計上は金額が確定する以前であっても、発生主義に従って受給権が発生していると認められる場合には、当該金額について未払認識の要否等につき検討する余地があるだろう。 M&Aに際しては、基準日における上記未払債務の認識の要否に加え、基準日以降、クロージング日までの当該業績連動債務の取扱い等について確認しておく必要があろう。   ▷役員退職慰労金 退職する役員に対する退職慰労金の支払は、通常の場合、支給方法や金額の決定方法等に関する内規に基づき行われることが一般的である。近年、上場企業等を中心として、こうした内規の見直しにより、ストックオプションなどの導入に代えて役員退職慰労金の内規を廃止する動きが見られるが、中小企業等における役員退職慰労金の支給実務は依然として多く見られる。 総務省が平成25年に実施した「民間企業における役員退職慰労金制度の実態に関する調査」では、調査対象となった2,997社のうち「役員退職慰労金制度がある」とした企業が全体の45.5%を占めたほか、「制度はあったが廃止した」企業が13.0%に上った。 ◆役員退職慰労金制度の有無 内規等に基づく役員に対する退職慰労金の支給は、議論はあるものの、従業員に対する退職金と同様、勤務実績に応じた報酬対価の後払としての性格等を有するものとされる。したがって、勤務実績に応じて、発生主義によってその期の負担に属する金額を営業費用として認識すべきものとされ、累積した退職慰労金相当額については、役員退職慰労引当金として引当計上されることが一般的な会計処理であろう。 ただし、税法基準等によっている非上場企業の多くはこうした内規を有していながら、役員退職慰労引当金を計上していないのが実情といってもよいだろう。 M&Aに際しては、基準日における引当計上額の妥当性、基準日以降、クロージング日までの間における追加的な引当計上額の発生見込額、M&Aに伴う役員退職慰労金の支給に関する取扱い等について確認しておく必要があろう。 ◎オーナー創業者に対する役員退職慰労金 役員に対する退職慰労金は、例えば以下のような方法で算定されることが多い。 オーナー企業等の場合、会社の創業以来、創業者が代表取締役として継続して就任しているケースや、最終報酬月額が高額な場合等があり、オーナー経営者に対する役員退職慰労金が莫大な金額となる場合がある。 会計上は、内規に定められた計算式に従って計算された金額であって、支給に耐え得るだけの内部留保や現預金等の裏付けがあるのであれば、これを過大なものとして取り扱う余地はなく、株主総会の決議に委ねるほかないが、税務上は不相当に高額な役員退職金については、当該不相当な部分について損金算入が認められない場合がある。このため、M&Aに際してはオーナー経営者に対する退職慰労金について、全額の損金性が認められる範囲内といえるか否か、について検討が必要な場合もあろう。 ただし、税務上、役員退職金の水準に関する明文での規定はなく、業務従事期間や退職事情等について、同種・類似規模の事業法人の支給状況等に照らして判断されることになるため、明確にシロクロの判断が可能というわけではない。功績倍率の目安として、例えば「社長3倍」などということがよくいわれるが、これとて普遍的な基準ではなく、あくまで個別の案件ごと、ケースバイケースでの実態に即した判断、ということになろう。 一方で、別の目安として役員退職金に関する非課税枠としての「退職所得控除」が挙げられることもある。 ◆退職所得控除の計算方法 当該金額までは所得税が課されない、という意味で、上記の「退職所得控除」はある意味、役員に対する退職慰労金の下限を示す、といわれることもある。明確な金額として計算が可能であるとはいえ、金額の大小を論ずるための基準とはいえず、そうした役割を有するものではないであろう。 M&Aに伴い、株主でもあるオーナー経営者から株式を買収すると同時に当該オーナー経営者が対象会社の役員も退任する場合には、実質的には株式の譲渡対価の一部を退職慰労金として支払うといったケースも見受けられることから、役員退職慰労金については、税理士等も交えた慎重な検討が必要な領域であるといえよう。 (了)

#No. 298(掲載号)
#石田 晃一
2018/12/13

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第145回】金融商品会計⑯「デット・エクイティ・スワップ」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第145回】 金融商品会計⑯ 「デット・エクイティ・スワップ」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈事例による解説〉   〈会計処理の解説〉 1 会計処理の考え方 貸付金などの金融資産の消滅にあたっては、通常、「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品会計基準」という)第8項及び第9項の要件を満たす必要があるが、DESの場合、債権(P社にとっての貸付金)と債務(S社にとっての借入金)が同一の債務者(S社)に帰属し当該債権は混同により消滅するため、支配が他に移転したかどうかを検討するまでもなく金融資産の消滅の認識要件を満たすものと考えられる。 したがって、債権者は当該債権の消滅を認識するとともに、消滅した債権の帳簿価額とその対価としての受取額との差額を、当期の損益として処理することとなる(実務対応報告第6号2(1))。 2 債権者側の取得したS社株式の取扱い DESによりP社が取得したS社株式は、貸付金とは異なる資産のため、S社株式の取得は新たな金融資産の取得に該当する。そのため、P社では貸付金の消滅を認識するとともに、S社株式を時価により計上する(実務対応報告第6号2(2)、金融商品会計基準第11項及び第13項)。 P社における貸付金の消滅の認識にあたっては、当該貸付金に貸倒引当金が計上されているため、貸付金の残高から貸倒引当金を控除した金額で、取得したS社株式の時価との差額を算定し、当期の損益として処理することになる。 3 取得したS社株式の時価 S社株式に市場価格がある場合は、「市場価格に基づく価額」がS社株式の時価であり、市場価格がない場合は、「合理的に算定された価額」が時価となる(金融商品会計基準第6項)。 実務対応報告第6号によれば、DESは債務者が財務的に困難な場合に債務者の再建の一手法として行われることが多く、債権者が取得する債務者の発行した株式の時価は、消滅した債権に関する帳簿価額を上回らないと想定される。すなわち、DES実行時点において利益が発生するのは、極めて例外的な状況に限られることとなると整理されている(実務対応報告第6号2(3))。 そのため、DESにより利益が発生した場合には、時価の算定に誤りがないか、再度確かめる必要がある。   (了)

#No. 298(掲載号)
#竹本 泰明
2018/12/13

税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第1回】「なぜ税理士は税務争訟に違和感を抱くのか」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第1回】 「なぜ税理士は税務争訟に違和感を抱くのか」   弁護士 下尾 裕   -連載開始にあたって- 税理士等の会計専門家(この連載においては、わかりやすさの観点から敢えて税理士と呼ばせていただく)と税務訴訟の判決内容等について意見交換をさせていただくと、時に税務争訟(課税処分を争うための再調査請求、審査請求又は税務訴訟)に関与する弁護士や訟務検事(税務訴訟において国を代理する法務局等の職員。その多くは検察官又は裁判官の出向者である)の戦い方、さらには判決における裁判官の判断について、「本来主張すべき事項が十分に主張されていない」又は「当該事案以外の実務への影響等が十分に考慮されていない」などのお叱りを受ける場合がある。 また、逆に税務に携わる弁護士と意見交換をしていると、税理士が再調査請求又は審査請求を代理した後に税務訴訟の提起について相談を受ける事案等において、税務訴訟において本来争点とすべき事項が十分に検討されないままに審査請求等の手続が進められているとの不満を耳にすることがある。 もちろん、本当に法曹又は税理士の税務争訟における戦略・理解に問題があるケースもあるのであろうが、そうでない場合に、なぜ、同じ税務に携わる専門家同士でこうしたすれ違いが生じるのかを、時には裁判手続の解説を交えながら、弁護士目線で可能な限りで紐解いてみようというのが、この連載の趣旨である。 最初にお断りしておくと、この連載でお話することは、東京国税局での任期付職員としての勤務を経て、税務に携わっている一弁護士としての筆者の私見である。また、この連載で言及する税理士と法曹との間での税務に対する物の見方の差異はあくまで「傾向」であり、読者の皆様の中には、こうした傾向が当てはまらない方もおられるかもしれない。 それでも、この連載を通じて、税務における法曹の思考の傾向(「法曹マインド」)をご理解いただくことは、読者の皆様が、自らが関与する税務争訟等において弁護士と協働し、訟務検事や裁判官と対峙される際の一助となりうるものと思われることから、1つの読み物として、お目通しをいただけると幸甚である。   1 税理士と法曹のマインドの違い-経済的実質と法律的実質- 税理士と法曹の思考の違いを説明する言葉として、弁護士は「事実」で考え、会計専門家は「仕訳」で考えるなどと言われることがある。この言葉は、両専門家の感覚的差異を捉えるものであるが、この機会にもう少し具体的に検討してみたい。 例えば、以下のような仕訳を例にとって、税理士と法曹のマインドの差異を考えてみたい。読者の皆様はこの仕訳を見て何を感じられるだろうか。 まず、これを税理士の立場から見た場合、もちろん実際には記帳の前提として、クライアントの取引の内容を把握される場合がほとんどであると思われるが、究極においては、仕入及び売上の計上時期やこれらの金額が把握できれば基本的な仕訳処理は可能であり、それ以上の具体的な取引の内容の確認が絶対に必要というわけではないと思われる。 一方、これを法曹が見た場合、この帳簿上の取引を把握するにあたっては、裁判実務における主張のルールに従って、仕訳の背景にある具体的な事実関係、すなわち、①取引の当事者、②取引の日付、さらには③取引の法的性質(「売買契約」であるのか、(請負の要素を持つ)製造物供給契約であるのかなど)を確認しなければ、実態が分からないとの感想を持つと思われる。 このような違いは、税務処理の前提となる仕訳が、財務状況の表示を目的としており、その結果、前提となる取引の事実関係を捨象して記載される(さらに言えば、生の事実がどのようなものであれ、経済的実質からみて同じ経済的効果を生むものは同じように仕訳されうる)のに対し、法曹が法律を適用するにあたってはより具体的な事実関係(ここでの事実の中には生の事実だけでなく、上記のとおり契約の性質といった一定の法的評価を含むものである。この連載においてはこうした具体的事実を「法律的実質」と呼ぶことにする)が必要であることに起因するものであるとの説明が可能である。 また、税理士においては、日常的に仕訳を前提とした会計処理を行う結果として、個々の取引の具体的事実関係よりはその取引が生じる経済的効果、言い換えれば、経済的実質により重点を置いた思考回路になる傾向があるという分析も可能かもしれない。   2 税務は経済的実質のみをベースに処理されるのか では、税務は、先ほど述べた経済的実質のみをベースに処理されるのであろうか。実はここに、冒頭で述べたような“すれ違い”の一因がある。 読者の皆様もご承知のとおり、税務も根本をたどるとそこには租税法律主義(憲法第84条)という大原則が存在し、そこでは「事実」を租税法という法律に当てはめて結論を導くという作業が行われることが前提となっている。言い換えれば、税務は、日常的には事実関係を捨象した「仕訳」の積み重ねの中で処理され、経済的実質重視の思考による運用が行われているにもかかわらず、いざ課税の根拠が問われる段になると「事実」(法律的実質)を重視する法曹マインドが登場することになるのである。 また、租税法の文言においては、民法等の考え方をそのまま持ち込んでいるもの(いわゆる「借用概念」と呼ばれるもの)があり、こうした租税法の文言の適用においては、特に法曹マインドによる思考の比重が高まるように思われる。 その一例として、少し前の裁判例ではあるが、いわゆる「レポ取引」に関する東京地判平成19年4月17日を取り上げてみたい。 この裁判例は、内国法人である信託銀行が米国子会社を通じて米国法人に対して、一定期間後の買戻しを前提に米国国債等を売却した場合において、再売買代金と売買代金の差額(売買差益)が当時の所得税法第161条第6号における「国内において業務を行う者に対する貸付金(これに準ずるものを含む)で当該業務に係るものの利子」に該当するかどうか(上記信託銀行が源泉徴収義務を負うか)が問題となった事案である。 この事案の問題点を端的に理解するため、信託銀行が当初100万円で米国国債等を売却して、一定期間後に110万円で買い戻す約束になっていたと仮定してみたい。 この場合、信託銀行は、買戻時点で米国国債等の価値が110万円以上になっていれば利益が出る一方、仮にその価値が110万円を下回っていたとしても110万円で買い戻さなければならず(いわゆる「マージン・コール条項」)、この場合には信託銀行に損失が生じることになる。逆に、米国法人は、一定期間100万円を提供することにより、必ず10万円の利益を得ることが保証されている。 このレポ取引は、上記のとおり法的には米国国債等の売買及び買戻し(再売買)と整理されているが、取引を全体として見れば、信託銀行が米国国債等を担保に米国法人から利子10万円で100万円を借りたのと経済的には変わりがないことから、課税当局はこうした経済的実質を重視して売買差益を「利子」とみて源泉所得税の対象となると主張したのである。 これに対し、東京地裁は、以下のように述べて上記売買差益は「利子」には該当しない(源泉徴収を要しない)ものと判示し、この結論はそのまま上訴審においても維持されるに至った。 この裁判例では、少し乱暴に整理すれば、課税庁は「レポ取引」の経済的実質を重視した課税を行ったのに対し、法曹(裁判官)は、「利子」という言葉の意味をその出自である民法をベースに解釈した上、どのような契約であったのかという法律的実質から考え、その課税を違法としたとの評価が可能である。 課税庁の職員も多くは税理士と同じマインドを持っているであろうことからすれば、この裁判例は、税理士と法曹のマインドの違いの一端を示すものと言える。 *  *  * 次回においては、税務調査から税務訴訟に至るまでの手続において、本日ご説明したマインドの違いがどのような影響を及ぼすのかを考えてみたい。 (了)

#No. 298(掲載号)
#下尾 裕
2018/12/13

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第9回】「情報セキュリティはどの程度まで行う義務があるのか」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第9回】 「情報セキュリティはどの程度まで行う義務があるのか」   弁護士 影島 広泰   -Question- 情報セキュリティについて様々な文書が公表されていますが、会社としては、いったいどの程度まで対策を行う必要があるのでしょうか。 -Answer- 「その当時の技術水準」に従った対策を講じる必要があります。各種のガイドライン等で「必要である」とされている対策は行うようにしましょう。 情報セキュリティについては、様々な組織・団体がガイドラインや報告書等を公表している。いったい何をどこまで対応すればよいのか、頭を悩ませている方も多いであろう。 今回は、法的な義務として、どこまで対応することが求められるのかを、2つの裁判例に基づいて検討する。   1 サイバーセキュリティの法的義務(東京地裁平成26年1月23日判決) ある会社が、商品の受注システムの開発をITベンダに委託し、稼働を開始した。ところが、そのシステムにセキュリティ上の脆弱性があり、顧客のクレジットカード番号が漏えいしてしまった。そこで、発注元の会社がITベンダに対して損害賠償請求をしたのがこの事件である。 本件でクレジットカード番号が漏えいしてしまった理由は、大きく2つあった。①SQLインジェクション攻撃(※)に対する対応をしていなかったことと、②クレジットカード番号を暗号化せずに長期間保存していたことである。東京地裁は、①についてはITベンダの責任を認め、②については責任を認めなかった。責任の有無を分けたのがどの点であったのかが、本件のポイントである。 (※) SQLとは、データベースを操作するための言語である。SQLインジェクション攻撃とは、SQLに特別な操作をすることにより不正な処理を行わせ、データを漏えいさせる攻撃をいう。 まず、①について、東京地裁は、以下のとおり判示した。この部分が、この判決で最も重要な部分である。 つまり、契約書などにセキュリティ要件が明確に記載されていないとしても、「その当時の技術水準に沿ったセキュリティ対策」を施すことが当然に法的な義務であるとしているのである。 そうなると、「その当時の技術水準」をどのように決めるのかが問題となる。この点について、東京地裁は、以下のとおり判示した。 このように、経済産業省やIPAが「重点的に実施することを求める」あるいは「必要である」としていたことから、SQLインジェクション攻撃への対応は「その当時の技術水準」であるとされ、これに対応していなかったことは債務不履行であると判断されたのである。 これに対し、②クレジットカード番号を暗号化せず長期間保存していた点については、経済産業省の当時の個人情報保護法のガイドライン及びIPAの文書において「対策を講じることが『望ましい』と指摘するものにすぎない」ことなどから、債務の内容を構成しないと判断している。 この裁判例の教訓としては、契約書や利用規約などにセキュリティについて明記されていなくても、経済産業省やIPAのような公的な団体が「対策が必要である」などとしていると「当時の技術水準」であるとして当然に法的な義務であるとされる可能性があるということである。 冒頭に述べたとおり、様々な組織・団体がガイドラインや報告書等を公表している。これらは、それ自体が法的拘束力を有していないとしても、万が一情報漏えいなどが発生した際に、情報セキュリティを十分に施していたといえるかどうかを判断する「当時の技術水準」として引用される可能性があるものである、ということになる。 取引先、顧客、クライアントなどからデータを預かる場面は数多くあると思われるが、各種ガイドラインや報告書が「必要である」としているものは対応するよう心がける必要がある。   2 システム外の社内体制等(東京高裁平成25年7月24日) もう1つの裁判例が、株式の誤発注事件をめぐる証券会社と東京証券取引所との訴訟である。 証券会社の担当者が「61万円で1株」と売り注文すべきところ、誤って「1円で61万株」と入力してしまった。証券会社は、誤りに気付いて注文の取消処理を行ったが、東京証券取引所のシステムのバグがあり、取消処理が行えなかった。そのため次々と売り注文が成約し、400億円を超える売却損が生じてしまった。そこで、証券会社が、東京証券取引所に417億円の損害賠償請求をしたのがこの事件である。 東京高裁は、東京証券取引所に一部の責任を認め、107億円の請求を認容した。 この事件では、システムにバグがあったことには争いがなかったため、まず、①バグの作り込みを回避することが容易であったか(取引所に重過失があったか)が問題となった。 これは技術的な争点であり、原告・被告双方から専門家の意見書が提出されていたが、東京高裁は「科学的・技術的争点であるが、当事者双方が提出する専門家意見書が相反するものであり、甲乙つけがたい」とし、「双方の専門家意見書の証拠評価を試みた結果、本件においては、一定の蓋然性ある事実として、本件バグの発見等が容易であることを認定することが困難であったということに尽きる。争点の性質上、司法判断としてはやむを得ないところである。」と判示した。 つまり、このような技術的な争点については、裁判所としては判断できなかったと認めたのである。これは、法的には、この論点の重過失について立証責任を負っていた証券会社側の負けということを意味している。 では、取引所側の責任はどこで認められたのか。東京高裁は、②売買を停止すべき義務があったとして、その義務違反を認めた。 つまり、異常な取引であることを認識しており、売買を停止することが可能であったにもかかわらず売買を停止しなかったことが義務違反であるとして、107億円の損害賠償義務を認めたのである。 上記のとおり、システム内のバグの作り込みを回避することが容易であったかどうかといった技術的な争点について、責任があったと認められなかったものの、システム外で何をすべきであったのかという論点で責任が認められたのである。 システムのバグやセキュリティには、100%はあり得ない。会社としては、そのようなバグやセキュリティホールによりインシデントが発生してしまった場合に何をすべきであったのかという、システムの外側にある会社としての体制が問われ、そこで過失を認定される可能性があるため注意が必要である。   3 代表的なガイドラインとは 以上で述べた2つの裁判例は、車の両輪のようなものである。システムとしては「当時の技術水準」に沿ったセキュリティ対策を施すことが法的な義務であり、システムの外側ではインシデント発生時の社内体制が問われる。 このような情報セキュリティと社内体制の両方をカバーしたガイドラインとして、個人データの取扱いについては個人情報保護法の通則ガイドラインが義務を定めていることはこれまで述べてきたとおりであるが、サイバーセキュリティについては、経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」が現在最も著名で包括的な内容を定めている。同ガイドラインが定めている「重要10項目」の対策をし、システム的にも社内体制としても十分な対策ができている状態を目指したい。 (了)

#No. 298(掲載号)
#影島 広泰
2018/12/13

プロフェッションジャーナル No.297が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年12月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.297を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/12/06

monthly TAX views -No.71-「日本型記入済み申告制度の導入へ」

monthly TAX views -No.71- 「日本型記入済み申告制度の導入へ」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   政府税制調査会の「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について(意見の整理)」(2018年11月7日、以下「意見の整理」)を読むと、ようやくわが国も、日本型記入済み申告制度に向けて舵を切ったということが見て取れる。 その参考資料の25ページに、「マイナポータルを活用した申告の簡素化策(検討中の方向性のイメージ)」として、行政機関等から医療費データなどをデータ連携でポータルに送付する方法と、民間企業から保険料控除証明書データや住宅ローンの年末残高証明書データ、支払情報(要検討)などを民間送達サービスを通じて入手するという2つのルートを図示している。 【参考】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 税制調査会ホームページより このコンセプトは、筆者たちが提言してきた「日本型記入済み申告制度」であり、本連載のNo.53及びNo.55において述べたものである。おそらく完全導入にはまだ時間がかかるだろうが、わが国の記入済み申告制度は、国税当局が納税者に直接申告に必要な情報を提供するのではなく、マイナンバー制度のマイナポータルを通じて「順次情報の範囲を広げていく」という方法で進んでいくということである。 その理由は、筆者が推測するに、わが国には世界に冠たる年末調整制度が導入されており、国税当局としては、まずはこのIT化を進めていくことの方が優先度合いが高いということではなかろうかと想像する。 *  *  * では、「順次情報の範囲を広げていく」という場合、どのように展開していくのだろうか。カギとなるのは、プラットフォーマーからの情報入手である。 この点について「意見の整理」では、「ロ 税務当局による必要な情報の取得等」として、以下の点を挙げている(筆者要約)。 上記からは、①任意の照会についての法整備と、②悪質な場合等の実効的な照会・不服申立てといった2本立ての対応となることが読み取れる。 12月中旬には与党税制調査会で大綱の決定という形で結論が出るが、この問題は今後とも検討が続けられていくであろう。 (了)

#No. 297(掲載号)
#森信 茂樹
2018/12/06

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第3回】「法人税の課税所得計算と損金経理(その3)」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第3回】 「法人税の課税所得計算と損金経理(その3)」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   (5) 確定決算主義と逆基準性 次に、わが国における法人税の課税所得計算に関して、企業会計準則主義とともに重要な原則である「確定決算主義」について確認しておきたい。 確定決算主義とは一般に、法人は確定した決算に基づき、確定申告書を作成し提出すべきことを指す(法法74①)(※1)。ここでいう「確定した決算」とは、会社法上、定時株主総会による計算書類の承認(会社法438②)又は定時株主総会に提出された計算書類の取締役による内容の報告(会社法439)を意味する(※2)。 (※1) なお広義では、損金経理や公正処理基準を含むと解されている。岡村忠生『法人税法講義』(成文堂・2004年)29頁。一方、渡辺教授は、確定決算主義は手続的なルール、公正処理基準は実体的なルールと整理する。渡辺徹也『スタンダード法人税法』(弘文堂・2018年)36頁。 (※2) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)868頁。 ただし、判例上、例えば、事業年度末に総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に作成した決算書類に基づいて作成し行った確定申告は、当該決算書類につき株主総会の同意を得ていないとしても有効であるとされる(福岡高裁平成19年6月19日判決・訟月53巻9号2728頁)など、一定の場合には、株主総会の承認を受けていない計算書類に基づく確定申告も有効であると解されている。 ところで、このような確定決算主義をめぐりかねてから問題となってきた事象に、いわゆる逆基準性(逆基準現象)の問題がある。この点については、会計学と租税法とではやや異なった見解が提示されている。 会計学では、伝統的に、わが国の法人税の課税所得計算の構造について、企業会計(金融商品取引法)、商法・会社法、法人税法とが相互に影響を及ぼしている、いわゆる「トライアングル体制」がみられるという指摘がなされてきた。これについて以下で検討してみる。 〇トライアングル体制の概念図 上記のようなトライアングル体制は、会計学者や企業会計に携わる実務家からネガティブに語られることが多い。すなわち、トライアングル体制の問題点として、上記のうちの法人税法・税務会計が商法・会社法会計又は企業会計・金融商品取引法に影響を及ぼす「逆基準性」があるとされるのである。 逆基準性とは一般に、例えば減価償却費のように、法人税法に定められた耐用年数、償却方法等により株主総会で承認され確定した決算において計算し算出した金額を費用として計上した場合にのみ、法人税法上も損金として認められる(損金経理要件、法法31①)ことから、企業が会計理論上は他の基準の方が適切である場合も、損金として認められる等の理由で法人税法の基準(税務会計)に従ってしまうという現象を指す。更に、企業会計の基準が明確でない場合、法人税法の規定や取扱い(税務会計)で確立された基準が企業会計に影響を及ぼすことも、逆基準性が生じる理由として挙げられる(※3)。 (※3) 金子前掲(※2)書332頁参照。渡辺教授はこのことを「租税法の規律密度が高い」と称する。渡辺前掲(※1)書44頁。 要するに、「逆基準性」の問題とは、会計理論とは別個の法人税法の基準に企業が従ってしまうため、企業の財務諸表が「不当に歪められてしまう」ということである。これは、法人税法の強制力が会計慣行や会社法よりも強いことを意味する。 これに対しては、租税法学者の有力な反論がある。すなわち、法人税の課税所得計算構造は、まず基底に企業会計があり、その上に商法・会社法の会計規定があり、更にその上に法人税の規定(税務会計)がある(会計の三重構造という)のであり、企業会計が商法・会社法を媒介せず直接法人税の規定(税務会計)に影響を及ぼすことが前提となっている、上記トライアングル体制という認識そのものが誤りであるということである(※4)。 (※4) 金子前掲(※2)書331-332頁。 そう考えると、確定決算主義における逆基準性の問題はあくまで法人税法と商法・会社法の間の問題であり、企業会計が直接これを問題視するのは越権行為であるといえるのであろう。 〇法人税の課税所得計算構造(会計の三重構造(※5)) (※5) 中里教授は「三層構造」と呼んでいる。中里実「法人税における時価主義」金子宏編『租税法の基本問題』(有斐閣・2007年)458-459頁参照。 渡辺教授は、租税法の立場から、確定決算主義を採用する根拠に説得力のあるものが少なく、理論的には商法計算と税法計算とは分離すべきであると主張する(※6)。一方、確定決算主義を採用しないアメリカにおいては企業会計上の利益が課税所得を大幅に上回っている半面、確定決算主義を採用するわが国は全く逆の現象がみられるという興味深い事実を指摘する研究もある(※7)。 (※6) 渡辺徹也「確定決算主義の再考」『蓮井良憲先生・今井宏先生古稀記念企業監査とリスク管理の法構造』(法律文化社・平成6年)591-603頁参照。 (※7) 土居信彦=島袋伊津子=松木智博「企業会計と税務会計の乖離とコーポレート・ガバナンス」『企業統治の多様化と展望』(金融財政事情研究会・2007年)246-249頁参照。 私見では、確定決算主義の効果は企業会計上の利益との比較で課税所得を維持することに表れており、確定決算主義を維持すべき最大の理由はここにあると考えるところである。わが国において、特に中小企業においては、会社法上の監査役よりも税務署による税務調査の方が財務諸表の正当性・健全性を担保するのに重要な役割を果たしているというのは、企業会計実務に携わる多くの者の偽らざる気持ちであろう。また、確定決算主義の下では、株式公開企業は監査役監査・公認会計士監査に加え、課税庁のチェックも受けることとなり、結果として課税所得は維持される傾向にあるといえるであろう。 仮に逆基準性の弊害があるとした場合、その問題を解決する会計技術上の手段としては、例えば、税効果会計の採用があり、更に「逆基準性により歪められた」金額を注記として開示する方法等が挙げられる。したがって、現在の法人税法と企業会計との関係を変えることなくして逆基準性の弊害を除去することは、実はそれほど難しくないものと考えられる。 ところで、近年は世界各国によるIFRS(国際財務報告基準)の採用に伴う国内会計基準のIFRSへの収斂・準拠(コンバージェンス)により、会計基準の目的が従来と変貌しつつある。そのような中、政府税調が、「法人税の課税所得は、今後とも、商法・企業会計原則に則った会計処理に基づいて算定することを基本としつつも、適正な課税を行う観点から、必要に応じ、商法・企業会計原則における会計処理と異なった取扱いとすることが適切と考える。(※8)」としているように、会計基準と法人税の課税所得計算とに乖離が生じる項目(例えば組織再編成など「別段の定め」の精緻化(※9))が増加している。 (※8) 政府税調「平成8年法人課税小委員会報告」(平成8年11月)参照。 (※9) 濱田洋「国際化の中の確定決算主義」『租税法研究』40号78頁。 会計基準による利益計算と法人税の課税所得計算とでは算定目的が異なるため、ある程度の乖離は免れないとみるべきであろうが、一方で、法人税法に則って課税所得計算を行う法人の大部分はIFRSとは縁遠い中小企業であることを踏まえると、現行法人税の課税所得計算の原則である公正処理基準と企業会計準拠主義、確定決算主義は、今後も維持することが基本となるであろう。 (了)

#No. 297(掲載号)
#安部 和彦
2018/12/06

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第65回】「印紙税調査とは」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第65回】 「印紙税調査とは」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   印紙税に関する税務調査とはどのようなもので、どのように行われるのでしょうか。 印紙税の調査は、国税局又は税務署の調査担当者が、調査時対象先において日常作成されている文書を把握し、その文書に対する課否判定を行い、適正に収入印紙が貼付されているかどうかの確認が行われる。   [印紙税調査の方法] 印紙税調査の方法は印紙税の調査のみを行う「印紙税単独調査」と所得税や法人税等の調査時に併せて行う「印紙税同時処理」に分けられる。   [調査の対象者] (1) 印紙税単独調査 (2) 印紙税同時処理 「印紙税同時処理」は所得税、法人税等の調査時に同時に実施されるものであり、その際に不納付文書が把握された場合には、過怠税の賦課徴収がされる。   [印紙税調査の担当者] (1) 国税局職員が調査する納税者 原則として資本金50億円以上の法人や資本金50億円未満の企業であって国税局長が特に指定する法人(課税文書の作成が多量にあると認められる法人等)。 (2) 税務署の職員が調査する納税者 (1)の国税局職員が調査する納税者以外の法人等。   [調査の方法]   [調査の処理] 不納付が把握された場合は、納付しなかった印紙税の3倍又は1.1倍の過怠税が賦課決定される。なお、法第11条又は第12条による申告納税方式による場合は、修正申告又は更正による処理となる。また、不正の行為により印紙税を免れるような場合には罰則規定が設けられているなど、厳しい処分となっている。 不納付の指摘を受けないためにも、対外的に発する文書の作成時には、事前に印紙税の検討が必要である。なかでも営業サイド等で作成され、総務、法務サイドでは把握されていない文書については印紙税の検討がされておらず、不納付の指摘を受ける場合も多いため、対外的に文書を作成するような場合は必ず総務、法務部等を通すなどの措置を講ずることが必要である。   (了)

#No. 297(掲載号)
#山端 美德
2018/12/06

海外移住者のための資産管理・処分の税務Q&A 【第9回】「移住後に公的年金(国民年金や厚生年金)を受け取る場合」

海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第9回】 「移住後に公的年金(国民年金や厚生年金)を受け取る場合」   税理士・行政書士 島田 弘大   Question 私は来年、海外へ移住することを検討しています。現在、公的年金を受け取っていますが、移住して非居住者となった後はその受け取った年金について確定申告をする必要があるのでしょうか。移住後の課税関係を教えて下さい。   Answer 1 はじめに リタイア後に海外へ移住してゆっくりと過ごしたいと考える方も多い。年金の取扱いについて質問を受けることがあるが、ご質問のように、非居住者となった後に国民年金や厚生年金などの公的年金を受領する場合、日本側ではどのような課税関係になるのか解説したい。   2 非居住者が公的年金(国民年金や厚生年金など)を受け取る場合の課税関係 今回も非居住者の国内源泉所得の課税関係であるため、まずは国内法によりその年金収入が国内源泉所得に含まれるのかを確認し、さらに日本と居住地国との間の租税条約を確認して日本側の課税関係を整理する流れになる。 (1) 日本の所得税法 ① 非居住者の課税所得の範囲 日本の所得税法上、居住者は原則として、日本国内だけでなく国外も含めた全世界所得が課税対象とされるが、非居住者は日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされる(所法161)。 ② 国内源泉所得の範囲 上記①の通り、非居住者は「国内源泉所得」のみが課税対象になるが、平成29年分以降の「国内源泉所得」の範囲は下記の通りである(所法161①~⑰)。下記の通り、所得税法第161条12号ロに「公的年金」が含まれている。つまり、非居住者が受領する公的年金は国内源泉所得に該当することになる。 退職所得のように居住者であった期間に行った勤務に基因するものに限定されていないため、非居住者期間中に行った勤務に基因するものも含めて、公的年金は日本の国内源泉所得とされている。 ③ 公的年金等の定義 ここでいう「公的年金等」とは、所得税法第35条3項に定義されているものとされている。 さらに、所得税法第31条第1号及び第2号に規定されている年金について詳しく見ていきたい。 なお、外国の法令等に基づいて支給される年金は、公的年金の範囲から除かれている(所令285②、所令72③八)。 つまり、「公的年金等」とは国民年金や厚生年金だけでなく、共済年金や企業年金も含まれることになる。ただし、外国の法令に基づく年金は国内源泉所得には含まれない。 ④ 課税方法と税率 上述の通り、非居住者が受領する公的年金(国民年金や共済年金など)はその全額が国内源泉所得に該当し、一定額を控除した残額に対して20.42%の税率により源泉徴収する必要がある。源泉分離課税であるため、20.42%の源泉徴収により課税関係は完結し、所得税の確定申告を行う必要はない。 なお、源泉徴収される金額の計算方法は下記の通りである(所法213①一イ、措法41の15の3③)。 (2) 租税条約の取扱い ① 租税条約に「居住地国のみで課税」の規定がある場合 アメリカやシンガポール、マレーシア、香港、スイスなどに移住する場合には、日本と各国との租税条約にて「居住地国のみで課税」と規定されている。つまり、租税条約の届出を提出することにより日本での源泉徴収20.42%は免除されることになる。 ② 租税条約に「居住地国のみで課税」の規定がない場合・租税条約を締結していない場合 一方で、タイやカナダなどとの租税条約では特に年金に関する条項がなく、その他の所得として日本でも課税できることになっている。つまり、日本の所得税法が適用され、日本で20.42%の源泉徴収が必要になる。 ③ 最後に居住地国の税法を確認 移住先の国との間の租税条約に「居住地国のみで課税」という規定があれば、日本で源泉徴収は免除されるが、居住地国で課税されるかどうかは移住先の国の税法を確認する必要がある。 ここからは参考までにであるが、例えばシンガポールに移住した場合、シンガポール国内法では日本での公的年金は国外源泉所得として課税対象にはならない。また、上述の通り日本・シンガポール租税条約では「居住地国(この場合シンガポール)のみで課税」とされているため、日本での源泉徴収は免除される。したがって、特に受領する公的年金について納税義務は生じないこととなる。 ④ 租税条約の届出 なお、租税条約により源泉徴収の免除の適用を受けたい場合には、届出が必要であるため注意が必要だ。 具体的には、最初の年金の支払いを受ける日の前日までに「租税条約に関する届出書 様式9(退職年金・保険年金に対する所得税及び復興特別所得税の免除)」をその年金の支払者を経由して税務署に提出する必要がある。 (了)

#No. 297(掲載号)
#島田 弘大
2018/12/06

企業の[電子申告]実務Q&A 【第14回】「今後予定されているe‐Taxソフトの機能変更等」

企業の[電子申告]実務Q&A 【第14回】 「今後予定されているe‐Taxソフトの機能変更等」   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● 本来、e‐Taxソフトで申告データ作成時に基本情報として入力する必要がある自社の法人名及び本店所在地、また、一部の勘定科目内訳明細書に入力する必要がある取引相手先等の法人名及び本店所在地について、 2019年4月以後の申告からは、「法人番号」を入力することにより国税庁の「法人番号公表サイト」から最新情報を取得して自動反映することができる機能がe‐Taxソフトに実装される予定です。 この場合に、勘定科目内訳明細書に入力する各取引相手先等の「法人番号」については、初年度は「法人番号公表サイト」において検索した番号を入力フォームに入力する必要がありますが、翌年度以降は当該取引相手先の法人名及び本店所在地の情報を自動転記するだけで済むため、効率的な入力が図られます。 また、勘定科目内訳明細書に記載された各取引相手先の債権債務等残高については、提出先税務署において手入力で資料化されることになりますが、法人番号が入力されてデータ送信されることにより、資料収集の自動化・資料内容の高精度化が図られ、行政側にとっても大きなメリットがあります。 【e‐Taxソフトの機能変更(法人番号)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) 国税庁は総務省と連携して、「e‐Taxソフト」と「eLTAXソフト(PCdesk)」の仕様を共通化し、法人税申告情報等のエクスポート機能やインポート機能等を実装し、法人税及び地方法人二税(法人住民税及び法人事業税)の電子申告における共通記載事項の重複入力排除に向けて取り組んでいて、 2020年3月以後の申告から利用可能となる予定です。 なお、共通記載事項の重複入力排除については、市販ソフトでは既に実装されているものが多いので、「e‐Taxソフト」や「eLTAXソフト(PCdesk)」の機能改善を待たずに「市販ソフト」を導入することにより、余裕を持ったスケジュール感で義務化に対応することができるでしょう。 また、法人税及び地方法人二税については申告データの提出先の一元化についても検討が進められていますが、こちらについては民間ソフトベンダーにおいても今後の対応となるでしょう。 【e‐Taxソフトの機能変更(法人税及び地方法人二税の共通記載事項の重複入力排除)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) (了)

#No. 297(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/12/06
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