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これからの国際税務 【第10回】「ポストBEPSにおける『税の安定性プロジェクト』の進捗」

これからの国際税務 【第10回】 「ポストBEPSにおける『税の安定性プロジェクト』の進捗」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 増幅が懸念される「税の不安定性」リスクへの対応 BEPSプロジェクトの成果物は、国際課税ルールの間隙をついて二重非課税の便益を不当に得ている多国籍企業をターゲットにした各種処方箋であり、BEPS防止措置実施条約の締結や移転価格税制の改正などがその具体例である。 しかし、近年はBEPSプロジェクト以前から、二重課税事案の解決のための相互協議が増加しその解決が遅延していることが問題視されていたことから、新規の処方箋については、その解釈・適用の如何によっては新たな二重課税リスクを追加し、納税者・当局の双方にとって予測可能性をさらに弱めることが懸念されていた。条約における主要目的テスト(PPT)や評価困難な無形資産への移転価格税制の適用など、BEPSが新規導入した課税メカニズムの中には、各国での経験が豊かとはいえないものも含まれていることも、その懸念を増幅させていたのである。加えて、BEPSの実行段階において、国内法制の整備に際してBEPS合意の枠を超えた一国限りの立法も急に目立ち始めた。 G20の政治リーダーシップをバックにした「税の安定性(Tax Certainty)プロジェクト」は、そのような状況下での税の不安定がもたらす諸リスクを解消すべく、BEPSプロジェクトの推進主体であるOECD等の国際機関によって、BEPSと並行的に取り組まれている。納税者からの期待の高い分野であるので、今回は本プロジェクトの理念と代表的なプログラムを紹介する。   2 税の安定性確保に向けた3つの設計指針 本プロジェクトは、国際課税の文脈では、国境越えの貿易及び投資に悪影響を及ぼす二重課税発生等の不安定性を除くことに尽きるが、そのための施策設計に当たっての3つの指針を、以下の通り示している。 まず1つ目は、各国の税制立法において複雑性を除去し明確な条文とすることであり、手続き上は立法過程での事前コンサルテーションや遡及適用の回避などが求められている。2つ目は執行段階の留意点であり、税務当局によるタイムリーな解釈通達の開示や、個別案件における事前合意を含む納税者指導が内容とされた。また、3つ目は、効率的な紛争解決メカニズムの装備であり、BEPS行動14でミニマムスタンダードとされた諸施策の実行を内容としている。 そして、国際機関の下での取り組みでは、共有した課税情報の調和された評価に向けたプログラムと、国際合意に沿った調和された課税を実現する方向で途上国の弱い立法・執行能力に対し実施する支援プログラムが進行中であるので、以下に代表的なものを紹介する。   3 特に注目すべきパイロットプロジェクト (1) 国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP) 国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP:International Compliance Assurance Programme)とは、OECDの税務長官会議を構成する主要8ヶ国(我が国を含む)による、課税上低リスクの多国籍企業にコンプライアンス上の安心感を保証するパイロットプログラムである。 ICAPは、具体的には、国別報告書(グループ企業の国別の収入、税引前利益、納税額、従業員数、保有資産等を開示するもの)をはじめとした多国籍企業グループの活動情報に基づき、税務リスクの有無について協調した評価をグループ企業の所在地国当局間で合意することにより、低リスクと認定された場合には、事後2年間は関係国による照会や調査などの接触をしないで済ませるというスキームである。ただし、その分析に際しては国別報告書のみならずマスターファイル、ローカルファイル、バリューチェーン分析、税務上の和解等の資料も共有して行うこととされている。 本来は、課税主権のもとで課税リスクの評価は各国が勝手に行う建前であり、その結果同じ事実について評価が異なることにより二重課税が発生すると、厄介な事後的紛争解決手続きが不可欠とされてきた。このプロセスでの税務コストは納税者と当局の双方にとって膨大であり、改善が求められてきていたのである。 各国から保証レターが発出されることにより確定される強力なリスク評価の保証の対象となるのは、当面、移転価格と恒久的施設帰属所得が中心であるが、将来はその他の項目への拡大も予定されている。また、ICAPのメリットとしては、上記のリスク評価過程に納税者も参加でき、当局における国別報告書等の活用のされ方を知ることができる点も挙げられる。 なお、申請者はノーリスク・低リスクだと思っていたが、検討してみると税務リスクが認識された場合には、より詳細で包括的なリスク評価手続きが用意されている。すなわち、すぐに各国の調査に委ねるわけではなく、ICAPの枠内で参加国の協調した調査により対応し、二重課税リスクは極小化される方向となっている。 (2) 途上国における税の協調のためのプラットフォームとツールキット 途上国における税の安定性を図るための特別なプロジェクトの代表として、「税の協調のためのプラットフォーム(PCT)」に向けた各種ツールキット(施策マニュアル)の作成が挙げられる。 G20の開発ワーキンググループからのmandate(委任)によりPCTを立ち上げたのは、IMF、OECD、国連、世銀グループであり、そこでは、国際法人課税で8つの領域を特定して、途上国にとって立法・執行のガイダンス文書となる各ツールキットが起草されつつある。現在2つのツールキットが公開済みで、残りは今後2年間で完成する予定である。 公開済みのものは、まず投資奨励策の立法及び施行に関するツールキットであり、これはインセンティブ税制の制度設計と執行に関するもので、最も早く2015年に公表された。次に、移転価格の比較対象データの入手困難性への対応に関するツールキットが2017年に起草されたが、これには中間財として売買される鉱物資源の値付に関する情報ギャップへの対応も含まれており、いずれも途上国側のニーズが高い項目である。 今後公表予定のツールキットは、①持分のオフショア間接譲渡への課税に関するもの、②効果的な移転価格文書化の実施に関するもの、③条約交渉に関するもの、④税源浸食の支払手への対応に関するもの、⑤サプライチェーン再編に関するもの、⑥BEPSリスク評価に関するものであり、いずれも、多国籍企業が途上国で直面する税リスクについて、協調的な理解を促進し、納税者に税の安定性を保証する方向に貢献することが期待される項目である。 (3) 我が国多国籍企業の対応 ICAPパイロットへの申請者名は守秘義務により開示されていないが、本年中にはその成果のとりまとめが公表され、今後の本格実施が呼びかけられよう。また、各種ツールキットの作成過程では、ビジネスからの貢献も求められている。 税の安定化プロジェクトは、納税者・当局双方の協調の下にコンプライアンスリスクを低下させ人的資源の効率的活用に資する点で、双方にとってウィン・ウィンのプロジェクトである。租税回避性向の低いと評価されている我が国多国籍企業にとっては、今後の活用や貢献が大いに期待される領域といえよう。 (了)

#No. 296(掲載号)
#青山 慶二
2018/11/29

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第2回】「法人税の課税所得計算と損金経理(その2)」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第2回】 「法人税の課税所得計算と損金経理(その2)」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   (3) 損金にならない不正な支出 前回(1)で触れた「通常性」の要件を満たさないと考えられる不正な支出のうち、加算税や延滞税等は、所得税法の場合と同様に、損金算入が否定されている(法法55③④)。具体的には、延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税、印紙税の過怠税、延滞金、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金、罰金、科料、過料、国民生活安定緊急措置法・独占禁止法・金融商品取引法・公認会計士法による課徴金及び延滞金である。 また、上記に加え、通常性の要件を満たさないと考えられる不正な支出については、平成6年の最高裁決定(最高裁平成6年9月16日決定・刑集48巻6号357頁[株式会社エス・ヴイ・シー事件(※1)])等を受けて、平成18年度の税制改正で以下の通り新たな規定が設けられ、損金算入が否定されている(法法55)。 (※1) 本件で問題となった「脱税協力金」は収益獲得に貢献するものではないから、企業会計上の「費用」には該当せず、そのような支出につき損金算入を認めることは公正処理基準に反するといえるだろう。 第一に、内国法人が所得の金額もしくは欠損金額又は法人税の課税要件事実の全部又は一部の隠蔽・仮装により法人税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合には、その隠蔽・仮装行為に要する費用の額、又はそれにより生ずる損失の額は損金に算入しないこととなった(法法55①)。当該規定は、法人が納付すべき法人税以外の租税にも準用される(法法55②)。 第二に、内国法人が供与する刑法第198条に規定する賄賂又は不正競争防止法第18条第1項に規定する金銭その他の利益の合計額に相当する費用又は損失の額は、損金に算入しないこととなった(法法55⑤)。 また、平成21年度の税制改正で、外国もしくはその地方公共団体又は国際機関が納付を命ずる、独占禁止法の課徴金及び延滞金に類するものについても、損金に算入しないこととなった(法法55④三カッコ書)。 更に、平成27年度の税制改正で、景品表示法の規定による課徴金及び延滞金についても、損金に算入しないこととなった(法法55④六)。 損金に算入されない不正な支出をまとめると、以下の表の通りとなる。 〇損金に算入されない不正な支出の一覧表   (4) 資本等取引と損金 前回(1)で触れた、法人税法第22条第5項の「資本等取引」と損金とは、どのような関係にあるのであろうか。 資本等取引とは、出資や配当といった、法人と株主との間の取引と、設立・解散・分割・合併といった法人の組織再編に関するものに分類することができる。ここで損金の意義を規定した同条第3項第3号を確認すると、以下の通りとなっている。 当該事業年度の損失の額で資本等取引の以外の取引に係るもの 上記規定から明らかなとおり、資本等取引は損金から除外されていることが分かる。これは益金の規定である同条第2項で、資本等取引を益金から除外しているのと同様である。要するに、法人税法においては、資本等取引からは益金も損金も発生しないのである。法人税法における当該規定は、基本的に企業会計における資本取引・損益取引区分の原則(企業会計原則第一・三(※2))に準拠しているものと考えられる。 (※2) 「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」 ただし、学説上は、資本等取引の中には、現物配当やデットエクイティスワップ(DES)、自己株式の取得のように、損益取引の要素を含んだ取引も存在するが、当該取引は資本等取引と損益取引の混合取引であるとして、損益取引の要素からは損益が生じるので課税すべきとするものが有力である(※3)。 (※3) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)328頁。 (了)

#No. 296(掲載号)
#安部 和彦
2018/11/29

企業の[電子申告]実務Q&A 【第13回】「e‐Taxの送信容量の拡大・受付時間の拡大」

企業の[電子申告]実務Q&A 【第13回】 「e‐Taxの送信容量の拡大・受付時間の拡大」   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● (1) 送信容量の拡大 e‐Taxシステムへのデータ送信容量については、2019年1月以後の申告から、送信1回当たり、申告書についてはXML形式で現状(10メガバイト)の2倍となる20メガバイト(約5,000枚)、添付書類についてはイメージデータ(PDF形式)で現状(1.5メガバイト)の5倍以上となる8メガバイト(約100枚)の送信が可能になります。 また、申告書データ(XML形式)については通常1回限りの送信となりますが、イメージデータ(PDF形式)の場合には、申告書データと同時に送信する「同時送信方式」に加えて、申告書データを送信した後に追加で送信する「追加送信方式」が最大10回まで可能となっているため、2つの方式を併用すれば最大11回まで送信が可能です。 したがって、添付書類をイメージデータ(PDF形式)で送信する場合には、1回あたりの送信容量となる8メガバイト×11回で最大88メガバイトの送信が可能ということになります。 【e‐Taxの送信容量の拡大】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) (2) 受付時間の拡大 e‐Taxシステムにログインして申告等データを送信したり、メッセージボックスを確認したりすることができる時間帯(「e‐Taxの受付時間」)については、サービス開始以降、順次拡大が図られてきました。 例えば、2009年1月以降は確定申告期間中(1月中旬から3月中旬)の「24時間受付」が始まり、2013年8月以降は、8時30分~21時00分までだった平日(月曜日~金曜日)の受付時間が8時30分~24時00分までに延長されました。また、2016年5月からは、法人税申告書の提出件数が多い5月、8月、11月の最終土日にe‐Taxの受付がスタートしました。 さらに、今回の見直しにより、2019年1月以降は、これまで確定申告期間中のみに行われていた「24時間受付」が平日(月曜日~金曜日)すべてに拡大されるとともに、土日についても、特定月の最終土日のみの受付が毎月の最終土日の受付(8時30分~24時00分)へと拡大されます。 なお、受付時間の拡大は2019年1月以降に実施される予定です。 【e‐Taxの受付時間の拡大】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) (了)

#No. 296(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/11/29

外資系企業の税務Q&A 【第3回】「日本にPEを有しない外国法人が日本国内で商品の仕入・販売を開始する場合の消費税の取扱い」

外資系企業の税務Q&A 【第3回】 「日本にPEを有しない外国法人が日本国内で商品の仕入・販売を開始する場合の消費税の取扱い」   公認会計士・税理士・米国公認会計士 中島 崇賢   Q 当社は外国法人です。世界各国に子会社があり、日本にも100%子会社を有しています。当社は、日本に支店等の恒久的施設(PE)を有していません。 これまで日本子会社は、日本国内で機械部品を購入し、それを日本国内の法人顧客に販売する、というビジネスを行っていました。 今般、事業上の理由から、当社が継続的に日本子会社と日本の顧客との間に入り、当社が日本子会社から日本国内に所在する機械部品を購入し、それを日本の顧客に販売する、という商流に変更しました。日本の顧客との契約書上の契約者も当社に変更しました。当社は単なる名義人ではなく、顧客との交渉等を米国から行っています。 機械部品は、日本子会社から日本の顧客に直送しています。 当社は日本にPEを有しなくても、この商流変更により消費税の納税義務を負うのでしょうか。 なお、当社に係る状況は下記のとおりです。   A 以下、1期から5期の期間範囲については、後掲の図表をご参照下さい。貴社は、消費税課税事業者選択届出書を提出しない場合は、平成30年12月期(3期)は免税事業者、平成31年12月期(4期)は免税事業者と課税事業者のどちらかを任意に選択でき、平成32年12月期(5期)以降は課税事業者に該当します。なお、消費税課税事業者選択届出書を平成30年12月期中(3期)に提出すれば、平成30年12月期(3期)から課税事業者となることができます。   解 説 1 はじめに 「PEなければ課税なし」という言葉から、PEがなければ消費税の納税義務も負わないと誤解されているケースが見受けられる。 「PEなければ課税なし」とは、非居住者または外国法人が、我が国において行う事業について、我が国にPEを有していなければ事業所得について課税を行わないとする国際的な課税原則のことをいう。 消費税は事業所得に係る課税ではなく、PEを有しない外国法人でも納税義務が生じることがあるので留意が必要である。   2 消費税の課税対象 消費税の課税対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等及び外国貨物の引取りである(消法2、4)。 資産の譲渡が、国内で行われたかどうかの判定は、原則として、その譲渡が行われる時においてその資産が所在していた場所が国内にあるかどうかにより行う(消法4③一)。 今回のケースでは、貴社はその譲渡が行われる時において国内に所在している資産の仕入・販売をしているので、貴社が行う仕入と販売の両方が消費税法上の課税の対象となる。   3 外国法人の納税義務判定に係る留意点 今回のケースにおいて、上述のとおり、消費税の課税の対象となる取引が発生するため、貴社が消費税の納税義務があるかについて判定を行う必要がある。外国法人の納税義務判定に係る主な留意点としては下記があげられる。 (1) 新設外国法人の納税義務 新たに設立された法人は基準期間がないため、設立1期目と2期目は原則として免税事業者となる(消法9①)。しかし、その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金が1,000万円以上である法人や特定新規設立法人は、その基準期間がない事業年度について納税義務は免除されないこととされている(消法12の2①、12の3①)。 また、事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、その事業年度について納税義務は免除されない(消法9の2①)。 条文上、内国法人と外国法人は区別されておらず、外国法人であっても、本国において設立されてから2年間は、日本国内において取引を行う場合は新設法人に該当する。 ただし、今回のケースでは、日本で取引を開始する平成31年12月期(3期)において、貴社は外国で設立されてから3年目であり、基準期間がない法人には該当しない。 (2) みなし事業年度 外国法人が国内において恒久的施設の創設・廃止を行う場合や、人的役務の提供に係る事業を行う場合には、事業年度を区切る(みなし事業年度の適用を受ける)こととされている(消法2①十三、法法14①二十三・二十五)。 ただし、今回のケースでは、上記に該当しないため、みなし事業年度の適用は受けない。   4 納税義務判定 (1) 3期目(平成30年1月1日から平成30年12月31日)の納税義務判定 (a) 基準期間による判定 日本で課税取引が開始される3期目については、前々事業年度である1期目が基準期間となる。基準期間が存在するため、新設法人の規定は適用されない(消法12の2①)。したがって、1期目の課税売上高により判定することになるが、1期目に課税売上高は発生していないため、免税事業者に該当する。 (b) 特定期間による判定 3期目に係る特定期間は、前事業年度(2期)の開始の日以後6月(平成29年1月1日から平成29年6月30日)となり(消法9の2④二)、この期間の課税売上高で判定される。当該期間の課税売上高は発生していないため、免税事業者となる。 (2) 4期目(平成31年1月1日から平成31年12月31日)の納税義務判定 (a) 基準期間による判定 4期目については、前々事業年度である2期目が基準期間となる。基準期間が存在するため、新設法人の規定は適用されない(消法12の2①)。したがって、2期目の課税売上高により判定することになるが、2期目に課税売上高は発生していないため、免税事業者に該当する。ただし、下記のとおり、特定期間による判定の方法次第では、課税事業者となるので留意が必要である。 (b) 特定期間による判定 4期目に係る特定期間は、前事業年度(3期)の開始の日以後6月(平成30年1月1日から平成30年6月30日)となり(消法9の2④二)、この期間の課税売上高で判定される。当該期間の課税売上高は1,500万円であり、1,000万円を超えているため、課税事業者となる。ただし、課税売上高に代えて、特定期間の給与等支払額(0円)で判定する場合(消法9の2③)には、1,000万円以下となるため、免税事業者となる。どちらの基準で判断するかは法人の任意である。 (3) 5期目(平成32年1月1日から平成32年12月31日)の納税義務判定 (a) 基準期間による判定 5期目については、前々事業年度である3期目が基準期間となる。したがって、3期目の課税売上高により判定することになる。3期目の課税売上高は4,500万円(500万円×9月)であり、1,000万円を超えているため、課税事業者となる。 (b) 特定期間による判定 特定期間による判定は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者に対して事業者免税点制度を不適用とする特例である。したがって、当該基準期間における課税売上高がもともと1,000万円を超えている場合は、特例制度の適用はなく、原則(消法9①)に基づいて判定される。よって、上述の基準期間による判定に基づき、貴社は課税事業者となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   5 消費税課税事業者選択届出書の適用開始時期 免税事業者が、「消費税課税事業者選択届出書」を、「国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に提出する場合は、原則と異なり、その提出があった日の属する課税期間以後の課税期間について、課税事業者となることができる(消法9④、消令20一)。国外取引のみを行っていた法人が、新たに国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間もこれに含まれる(消基通1-4-7)。 ここで、貴社の状況を勘案すると、貴社は、当該届出書を、平成30年12月期中(3期)に提出すれば、平成30年12月期(3期)から課税事業者となることができる。当該届出書を提出し忘れることにより、本来受けられるべき還付が受けられなくなるということもありえるため、注意が必要である。また、一度課税事業者を選択すると2年間は課税事業者となるため(消法9⑥)、今後の事業計画等を考慮して検討する必要がある。   6 消費税の申告手続き (1) 納税地はどこか 国内に事務所等を有しない外国法人が課税事業者となる場合の納税地は、下記のとおり決定される(消法22三、消令43)。 また、国内に事務所等を有しない外国法人が、納税申告書を提出する必要があるときは、納税手続きを代行させるため、納税管理人を選任し、所轄する税務署長に届け出る必要がある(通則法117)。 納税地の選択は、基本的に、外国法人にとって利便性のよい場所を選べばよい。したがって、貴社の場合は、日本子会社や納税管理人の住所等を納税地とすることで問題ないと考えられる。 (2) 消費税申告書の提出時期 課税事業者となる外国法人は、原則として、課税期間の末日の翌日から2月以内に消費税及び地方消費税の確定申告書を提出し、その申告に係る消費税額等を納付しなければならない(消法45、49)。   (了)

#No. 296(掲載号)
#中島 崇賢
2018/11/29

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第32回】「別表6(19) 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」〈その2〉

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第32回】 「別表6(19) 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」〈その2〉   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第31回目からは、平成29年度をもって終了する従来の雇用促進税制(地方拠点強化税制における雇用促進税制へ改組)、及び平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、地方拠点強化税制における雇用促進税制の別表をあらためて採り上げており(※)、改正点を踏まえながらその適用パターンごとに分けて順次解説している。 (※) 改正前の様式については【第10回】及び【第11回】を参照。   Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12第1項ないし第2項(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)又は平成30年改正前の措置法第42条の12の2第1項から第3項まで(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定(平成28年改正後の「雇用促進税制」)の適用を受ける場合に作成する。 このうち、従来の雇用促進税制については前回解説したところであるが、地域再生法に基づき都道府県知事が認定する「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」(拡充型計画(※1)又は移転型計画(※2))を実施する法人は、従来の雇用促進税制の上乗せとして以下の税制優遇(地方事業所税額控除)が受けられる。 (※1) 拡充型計画とは、地域再生法第17条の2第1項第2号に掲げる事業に関する地方活力向上地域特定業務施設整備計画をいう。地方に本社等を置く企業が本社等を増築する場合や、東京23区以外に本社等を置く企業が地方都市に本社等を移転する場合などが該当する。 (※2) 移転型計画とは、地域再生法第17条の2第1項第1号に掲げる事業に関する地方活力向上地域特定業務施設整備計画をいう。東京23区に本社等を置く企業が地方都市に本社等を移転する場合などが該当する。 (※3) 本制度は前回解説した適用要件のうち、②の「基準雇用者数を適用年度開始の日の前日における雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数で除した数(基準雇用者割合)が10%以上であること。」の要件以外の要件を満たせば適用はできるが、②の要件をあわせて満たす場合は、それぞれ括弧書きの上乗せ金額となる。 (※4) 地方事業所基準雇用者数とは、適用年度開始の日から起算して2年前の日からその適用年度終了の日までの間に拡充型計画又は移転型計画の認定を受けた法人が地方活力向上地域において整備した地域再生法に規定する特定業務施設のみをその法人の事業所とみなした場合における基準雇用者数として所定の証明がされた数をいう。 なお、ここでいう特定業務施設とは、調査・企画部門、情報処理部門、研究開発部門、国際事業部門、その他管理業務部門のいずれかを有する事業所又は研究所もしくは研修所であって重要な役割(いわゆる本社機能)を担う事業所をいう。 (※5) 新規雇用者総数とは、特定業務施設においてその適用年度に新たに雇用された雇用者でその適用年度終了の日においてその特定業務施設に勤務する者の総数(その適用年度の地方事業所基準雇用者数を上限とする)として所定の証明がされた数をいう。 (※6) 特定新規雇用者数とは、その法人が受けた地域再生法の認定に係る特定業務施設において適用年度に新たに雇い入れた無期雇用かつフルタイム(注)の雇用者でその適用年度終了の日においてその特定業務施設に勤務するものの数として所定の証明がなされた数をいう。 (注) 無期雇用とは労働契約法(平成19年法律第128号)第17条第1項に規定する有期労働契約以外の労働契約を締結していることをいい、フルタイムとは短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第2条に規定する短時間労働者でないことをいう。 なお、移転型計画の認定を受けた法人で本制度の適用を受ける場合、その適用を受ける事業年度以後の各適用年度において、雇用保険法の適用事業を行っている場合には、次の特例措置(地方事業所特別税額控除)が適用できる。 (※7) 地方事業所特別基準雇用者数とは、適用年度開始の日から起算して2年前の日からその適用年度終了の日までの間に移転型計画の認定を受けた法人のその適用年度及びその適用年度前の各事業年度のうち、その計画の認定を受けた日以後に終了する各事業年度のその法人が地方活力向上地域に移転して整備した特定業務施設のみをその法人の事業所とみなした場合における基準雇用者数として所定の証明がされた数の合計数をいう。   [適用にあたっての注意点] 1 上記(Ⅰ)の控除税額は、適用事業年度の法人税額の30%相当額から、前回〈その1〉で解説した本体部分の控除税額と、地方拠点建物等を取得した場合の税額控除制度(措法42の11の2、旧措法42の12)による控除税額との合計額を控除した残額が上限となる。また、上記(Ⅱ)による控除税額は、これらと(Ⅰ)による控除税額との合計額を控除した残額が上限となる。 2 本拡充措置を適用するためには、確定申告書等に次の書類の添付が必要。 (1) 適用事業年度開始後2ヶ月以内に公共職業安定所に雇用促進計画の提出を行い、適用事業年度終了後2ヶ月以内に都道府県労働局又は公共職業安定所で計画の達成状況についての確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨の書類の写し (2) 控除の対象となる基準雇用者数、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類   なお、以下の解説では前回の〈その1〉で解説した内容と重複する部分については極力その解説を省略しているので、必要に応じて〈その1〉もあわせてお読みいただきたい。   Ⅲ 「別表6(19)」「別表6(19)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(19) 〔認定地方活力向上地域等特定業務施設整備計画に関する事項〕 〔地方事業所基準雇用者数に係る当期税額控除額の計算〕 〔地方事業所特別基準雇用者数に係る当期税額控除額の計算〕 ◆別表6(19)付表 〔基準雇用者数等の計算に関する明細〕 (了)

#No. 296(掲載号)
#菊地 康夫
2018/11/29

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第4回】「相続した不動産を社会福祉法人へ寄附した場合の課税関係」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第4回】 「相続した不動産を社会福祉法人へ寄附した場合の課税関係」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 父から相続した不動産を社会福祉法人に寄附したいと考えていますが、課税関係はどのようになりますか。   - 回 答 - 相続した財産を公益法人等に寄附した場合、当該寄附については相続財産から除外できることとなっています。 また、寄附をした日から4ヶ月以内に国税庁長官へ非課税承認申請を提出し、当該寄附が非課税の承認要件を満たす限り、譲渡所得非課税の適用を受けることができます。 なお、寄附をした年度の確定申告を行う際、寄附財産について寄附金控除の利用ができます。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 相続人が相続等により取得した財産を相続税の申告期限までに国・地方公共団体、一定の公益法人に寄附した場合には、一定の要件を満たす限りにおいて、その寄附した財産については相続税が非課税となります(措法70)。 「一定の要件」とは、次の2つとなります。 相続税申告書に上記の租税特別措置法70条特例の適用を受ける旨を記載し、定められた添付書類と共に期限内に申告を行う必要があります。 さらに、当該寄附財産について、寄附をした日から4ヶ月以内に国税庁長官への非課税承認申請を提出すれば、他の一定の承認要件を満たす限り、非課税措置の適用を受けることができます(措法40①後段)。 なお、社会福祉法人は、国税庁長官に承認申請書を提出した日から1ヶ月以内(株式は3ヶ月)に、その申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったとき、その申請について承認があったものとみなされる「非課税承認特例」の対象法人に該当するため(措令25の17⑦⑧)、寄附をした者が当該法人の役員等並びにこれらの者の親族等に該当しないなど非課税承認特例の要件を満たす場合は、非課税措置ではなくこちらの承認特例制度を利用した方が手続が簡便であり、短期間で承認結果が判明します。 また、寄附をした年度の確定申告において、寄附金控除の適用を受けることもできます(所法78)。寄附金控除の額は、非課税措置の適用を受ける場合は寄附財産の取得価額となり、非課税措置の適用を受けない場合は寄附財産の時価相当額となります。 (了)

#No. 296(掲載号)
#中村 友理香
2018/11/29

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第7回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第7回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   10 個別論点総論 ここまで5つのSTEPについて解説した。どの取引についても5つのSTEPに従って、収益を認識することになるが、以下の個別論点については、別に規定が設けられている。 そのため、以下の個別論点については、5つのSTEPにプラスして各個別論点で規定されている内容を検討しなければならない。 〈個別論点と関連【STEP】〉   11 本人か代理人か (1) 本人か代理人か ここでの論点は、収益(売上)を「総額」で認識するか、「純額」で認識するかである。 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、顧客との約束の性質が、企業が自ら提供する履行義務であるのか、あるいは財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配する履行義務であるのかを検討し、「本人」に該当するか、「代理人」に該当するか判定する(適用指針39)。自ら提供する履行義務である場合、「本人」に該当する。一方、手配する履行義務である場合、「代理人」に該当する。 具体的な判定は、以下の①から③のとおりである。 ① 本人か代理人かの判定 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、以下の(ⅰ)から(ⅲ)のいずれかを顧客に提供される「前」に企業が支配している場合、企業は「本人」に該当する(適用指針44)。企業が支配していない場合、企業は「代理人」に該当する。 ② 本人か代理人かの判定に当たっての具体的な指標 上記①だけでは、本人か代理人かの判定を行うことは難しいため、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたって、例示ではあるが具体的な指標(以下の(ⅰ)から(ⅲ))が、設けられている(適用指針47)。 なお、上記の指標は例示にすぎないため、特定の財又はサービスの性質及び契約条件により、財又はサービスに対する支配への関連度合いが異なり、契約によっては、説得力のある根拠を提供する指標が異なる可能性があるので注意が必要である(適用指針136)。 ③ 本人か代理人かの判定のその他の留意点 本人か代理人かの判定に当たっては、以下の点についても留意する必要がある。 ④ 会計処理 上記までの判定の結果、企業が「本人」に該当する場合、財又はサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識する(適用指針39)。 一方、企業が「代理人」に該当する場合、他の当事者により提供されるように手配することと交換に企業が権利を得ると見込む報酬又は手数料の金額(あるいは他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る額から当該他の当事者に支払う額を控除した純額)を収益として認識する(適用指針40)。つまり、売上と売上原価を相殺(NET)した金額を売上として計上するということである。 (2) 本人か代理人かの判定(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 12 財又はサービスに対する保証 (1) 財又はサービスに対する保証 財又はサービスを販売した際に当該財又はサービスに対して保証を付ける場合がある。当該保証は、以下のとおり会計処理する。 ① 財又はサービスに対する保証に当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスが含まれているかどうかの判定 財又はサービスに対する保証に保証サービス(顧客にサービスを提供する保証)が含まれているかどうかにより会計処理が異なるため、まず、財又はサービスに対する保証に当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービス(履行義務)が含まれているかどうかを判定する(適用指針37)。 この際、例えば以下の(ⅰ)から(ⅲ)の要因を考慮する(適用指針37)。 なお、上記の要因のとおり、無償の保証であるから、即、合意された仕様に従っているという保証というわけではないので注意が必要である。 ② 合意された仕様に従っているという保証のみである場合の会計処理 顧客に約束した財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証のみである場合、当該保証について、引当金(例えば、製品保証引当金)として会計処理する(適用指針34、企業会計原則注解(注18))。 ③ 保証サービスを含む場合の会計処理 顧客に約束した財又はサービスに対する保証又はその一部が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを含む場合には、保証サービスは履行義務であり、取引価格を財又はサービス及び当該保証サービスに配分する(適用指針35)。具体的には、保証サービスに配分した金額は契約負債として認識し、保証サービスの提供に応じて収益を認識する。 なお、合意された仕様に従っているという保証部分の会計処理については、上記②のとおりである。 【製品の提供に加えて合意された仕様に従っているという保証と保証サービスがセットの場合】 なお、財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証と保証サービスの両方を含む場合で、それぞれを合理的に区分できないときには、両方を一括して単一の履行義務として処理し、取引価格の一部を当該履行義務に配分(【STEP4】参照、基準65~73)する(適用指針36)。 (2) 財又はサービスに対する保証(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (了)

#No. 296(掲載号)
#西田 友洋
2018/11/29

税効果会計における「繰延税金資産の回収可能性」の基礎解説 【第10回】「繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い」

税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第10回】 「繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   1 はじめに 前回は、その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱いについて、その他有価証券の評価差額が一時差異となる理由を説明した上で、スケジューリングが可能かどうかによって、一時差異の取扱いがどのように異なるかを説明した。特に、税効果会計が会計上の資産又は負債と税務上の資産又は負債の間の差に着目している点は非常に重要なため、ぜひ理解しておいていただきたい。 今回は、その他有価証券の評価差額と同様に、純資産の部の「評価・換算差額等」に計上される繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱いについて、その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱いとの比較を交えながら説明していきたい。   2 繰延ヘッジ損益とは何か 繰延ヘッジ損益とは、リスクヘッジしたい取引(ヘッジ対象)から生じる損益とリスクヘッジのための手段(ヘッジ手段)から生じる損益を、同じ会計期間の損益計算書に計上するために、ヘッジ対象の損益が認識されるまでの間、ヘッジ手段から生じる損益(時価評価に係る損益など)を直接、純資産の部に計上して“損益計算書への計上を一時待機”させる際の計上科目である。 【図1】  繰延ヘッジ損益のイメージ なお、ヘッジ会計の詳細については、次の連載を参照されたい。   3 なぜ繰延ヘッジ損益が一時差異となるのか 繰延ヘッジ損益が一時差異となる理由は、前回(その他有価証券の評価差額)の解説と同じである。つまり、会計上の資産又は負債と税務上の資産又は負債の間に差が生じているためである。 税効果会計が会計上の資産又は負債と税務上の資産又は負債の間の差に着目している点については、前回の解説を参照されたい。   4 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い 前回の解説では、その他有価証券の評価差額に係る一時差異はいつ解消するかが不明確な場合が多いため、スケジューリング可能な場合とスケジューリングが不能な場合に分けて、一時差異の取扱いを説明した。 一方で、繰延ヘッジ損益は、ヘッジ対象に係る損益が発生するときに損益計算書に計上され、純資産の部から姿を消すが、ヘッジ対象に係る損益がいつ発生するかがあらかじめわかっていて、それにあわせてヘッジ手段(デリバティブ取引)を開始するため、一時差異がいつ解消するかがわからないといったことはあり得ない。 そのため、繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱いは、その他有価証券の評価差額に係る一時差異と比べてシンプルなものとなっている。 繰延ヘッジ損益に係る一時差異は、これらをネットした純額で取り扱うのではなく、繰延ヘッジ利益と繰延ヘッジ損失に分けて取り扱う。 (1) 繰延ヘッジ利益に係る将来加算一時差異の取扱い 繰延ヘッジ利益は、将来の課税所得を加算させる効果があるため、将来加算一時差異となり、繰延税金負債を計上する。 (2) 繰延ヘッジ損失に係る将来減算一時差異の取扱い 繰延ヘッジ損失は、将来の課税所得を減算させる効果があるため、将来減算一時差異となる。繰延ヘッジ損失に係る将来減算一時差異は、連載【第2回】で説明した手順で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上する。 ① 分類1に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 上記の判断指針に従い、繰延ヘッジ損失に係る繰延税金資産も含め、すべての繰延税金資産について回収可能性があると判断する。 ② 分類2に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 すでに説明したとおり、繰延ヘッジ損益に係る一時差異はいつ解消するかが把握できるため、スケジューリングが可能である。そのため、繰延ヘッジ損失に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断する。 ③ 分類3に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 分類3に該当する会社は、一時差異等のスケジューリングを行い、その結果、回収可能と判断される金額のみ繰延税金資産として計上するのが原則である。 しかし、繰延ヘッジ損失に係る繰延税金資産は、この判断を行わずに、いわば無条件に回収可能性があると評価され、ここに繰延ヘッジ損失に係る一時差異の取扱いの最大の特徴がある。 なぜ、このように取り扱われるかというと、前掲【図1】のように、繰延ヘッジ損益はヘッジ手段から発生し、ヘッジ手段には対になるヘッジ対象が存在するため、通常、ヘッジ対象に係る評価差益に関する将来加算一時差異とほぼ同時期に同額で解消されるものとみることもできると考えられるためである。 そのため、分類1及び分類2に加え、分類3に該当する会社においても、繰延ヘッジ損失に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとされている。 ④ 分類4に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 分類4に該当する場合は、原則どおりの取扱いとなる。 すなわち、解消見込年度のスケジューリングを行い、その上で、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を判断する。 ⑤ 分類5に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 分類5に該当する場合も、原則どおりの取扱いとなる。 すなわち、原則として、繰延ヘッジ損失に係る繰延税金資産も含め、すべての繰延税金資産に回収可能性がないと判断する。   5 まとめ 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱いを検討する際は、ヘッジ対象という対になる存在を意識する必要がある。 連載最終回となる次回は、法定実効税率と税効果考慮後の負担率の差異について説明する。 (了)

#No. 296(掲載号)
#竹本 泰明
2018/11/29

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第144回】ストック・オプション⑤「未公開企業が発行する場合」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第144回】 ストック・オプション⑤ 「未公開企業が発行する場合」   仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹     〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X4年3月期 《人件費の計上》 ⇒ 仕訳なし (注) 行使価格(75,000円)が割引キャッシュ・フロー法により算定された株式の評価額(50,000円)を上回っていることから、付与時の単位当たりの本源的価値は0円。 ② X5年3月期 《人件費の計上》 ⇒ 仕訳なし (注) 付与時の単位当たりの本源的価値が0円であるため。 ③ X6年3月期 《人件費の計上》 ⇒ 仕訳なし (注) 付与時の単位当たりの本源的価値が0円であるため。 《ストック・オプションの行使》 ストック・オプションの行使を受け、A社は新株を発行する。 (注1) 払込金額:75,000円/株×160株/名×5名=60,000,000円 (注2) 行使されたストック・オプション金額:付与時単位当たり本源的価値が0円であるため、0円。 ④ X7年3月期 《ストック・オプションの行使》 ストック・オプションの行使を受け、A社は新株を発行する。 (注1) 払込金額:75,000円/株×160株/名×3名=36,000,000円 (注2) 行使されたストック・オプション金額:付与時単位当たり本源的価値が0円であるため、0円。 《権利行使期間満了による失効分を利益に振替》 新株予約権のうち、権利行使期間中に権利行使されなかった(権利不行使による失効)分については、新株予約権戻入益として利益に計上する。 ⇒ 仕訳なし (注) 付与時の単位当たりの本源的価値が0円であるため。   〈会計処理の解説〉 ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上します(ストック・オプション会計基準4項)。 各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額です(ストック・オプション会計基準5項)。 未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価額を損益計算に反映させるに足りるだけの信頼性をもって見積ることが困難な場合が多く、また一般投資家がいないことも考慮し、本則であるストック・ オプションの公正な評価単価に代え、その単位当たりの本源的価値の見積りによることが認められています(ストック・オプション会計基準60項)。 この場合、付与日現在でストック・オプションの単位当たりの本源的価値を見積り、その後は見直さないこととなります。ここで、「単位当たりの本源的価値」とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点でのストック・オプションの原資産である自社の株式の評価額と行使価格との差額をいいます(ストック・オプション会計基準13項)。 なお、本源的価値によった場合には、ストック・オプションの行使価格がその原資産である自社の株式の評価額を上回る条件で付与された場合を除き、ストック・オプションの価値がゼロとなるため、費用が計上されません (ストック・オプション会計基準61項)。 ただし、ストック・オプションの各期末における本源的価値の合計額及び各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額については、注記で開示する必要があります(ストック・オプション会計基準62項、63項)。 【ストック・オプションの本源的価値のイメージ】 本事例においてA社は、付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価を合理的に見積ることができないことから、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行っています。 なお、行使価格(75,000円)が割引キャッシュ・フロー法により算定された株式の評価額(50,000円)を上回っていることから、付与時の単位当たりの本源的価値は、0円となり、各期のストック・オプション付与に応じて企業が従業員等から取得するサービスは、0円と評価されます(各期の《人件費計上》仕訳、④ X7年3月期の《権利行使期間満了による失効分を利益に振替》仕訳を参照)。 また、ストック・オプションの各期末における本源的価値の合計額及び各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額については、注記で開示されます(各期の開示を参照)。   (了)

#No. 296(掲載号)
#渡邉 徹
2018/11/29

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第4回】「保証(その1)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第4回】 「保証(その1)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 保証制度に関して改正があったようですが、具体的にどのような点が変更されるのでしょうか。 【A】 例えば、銀行から会社が金銭を借りたときに、その会社が中小企業のときには、代表者などがその借入債務を連帯保証することが多い。保証制度については、取引実務においてよく活用されているが、個人が会社の債務を保証する場合など、個人が過大な負担を強いられている場合があり、保証人保護の必要性を訴える声があった。 今回の改正では、そうした実情も踏まえて、主に次の点が改正されることとなった。 (※) ③については、次回に取り上げる。   1 包括根保証の禁止対象の拡大について 「包括根保証」とは、特定の債務を保証するのではなく、将来発生する不特定の債務を保証し、保証の期間について特に定めず、また保証金額の上限も特に定めないものである。債権保全の観点からすれば有用な制度といえるが、保証人としては予想外に過大な債務を負担することがあり、保証人の保護に欠けるとの批判がなされてきた。 金融機関からの借入れなどを主債務の範囲に含む「貸金等債務」に関する根保証契約(貸金等根保証契約)については、平成16年の民法改正で規制が導入されているが、その他の根保証契約(賃貸借契約の保証や継続的な商取引における保証)についても、今回の改正で規制を導入することとなった。 具体的には、保証人が責任を負う範囲を限定する「極度額」を定めなければならないとしたほか(改正法465条の2第2項)、次のとおり変更されることとなった。 (※1) 個人根保証契約:一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないもの(改正法465条の2) (※2) 個人貸金等根保証契約:個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という)を含むもの 個人根保証契約について、元本確定期日(保証期間)が設けられていないのは、個人根保証契約がアパートなどの賃貸借契約の保証人などに利用されていることに鑑みて、3年~5年で保証人がいなくなるような事態を避けるためである。 この改正により、個人根保証制度を利用している企業としては、契約書の見直しを行う必要が生じる。特に影響が大きいといわれているのが、不動産賃貸事業や医療機関であり、極度額を定めない契約書を使用している場合が多い。極度額を定めない個人根保証契約は無効となるため、弁護士等に相談のうえ、見直しの検討を進めるべきであろう。   2 公証人による保証意思の確認手続の新設 (1) 保証意思の確認 保証契約は、口頭による合意では成立せず、必ず書面にて保証契約を取り交わさなければ無効となる。保証人は重い負担を負うことから、保証契約の合意があったことを明確にするためである。 しかし、それでも保証人が十分に債務の内容や保証人としての責任を正確に理解せず、安易に保証契約を締結している場合も多いため、今回の改正では、公証人による保証意思の確認手続を新設した。 (2) 制度の内容 個人が主債務者の事業用の貸金等債務を対象に保証をする場合、保証契約を締結する日の1ヶ月以内に公正証書(保証意思宣明公正証書)を作成し、そのなかで保証人があらかじめ保証意思を表示しなければならないこととされている(改正法465条の2)。保証意思宣明公正証書は、保証契約の契約書とは別に作成する必要があり、作成がなされない場合には、当該保証契約は無効となる。 この規定については一部例外が設けられており、会社の代表取締役が会社の貸金等債務について保証人になる場合など、経営に密接に関わっている個人が保証人になる場合には、作成は不要となる(改正法465条の9)。保証意思の確認にあたっては、必ず保証人となる本人が意思表示しなければならず、代理人によることは認められない。 【一部の例外にあたる場合】 なお、これらの例外にあたるか否かは、登記簿や株主名簿等から判断することとなる。 (了)

#No. 296(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2018/11/29
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