公開日: 2018/12/20 (掲載号:No.299)
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相続税の実務問答 【第30回】「財産の取得の状況を証する書類(相続分がない旨の証明書を提出する場合)」

筆者: 梶野 研二

相続税実務問答

【第30回】

「財産の取得の状況を証する書類
(相続分がない旨の証明書を提出する場合)」

 

税理士 梶野 研二

 

[問]

平成30年8月20日に母が亡くなりました。相続人は、姉と妹である私の2人です。母の主な遺産は、母と私が居住の用に供していた川口市内の土地及び建物です。

姉と協議をした結果、姉は母から多額の生前贈与を受けていたことから、川口市内の土地及び建物を私が相続することとなりました。土地及び建物の相続登記をするに当たり、遺産分割協議書は作成せずに、姉に「相続分がない旨の証明書」を作成してもらい、これを登記原因を証する書類の一部として相続登記を行いました。

私が取得した土地は特定居住用宅地等に該当することとなりますので、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4第1項)を適用したいと考えていますが、相続税の申告書にこの「相続分がない旨の証明書」を添付することにより、この特例を適用することができますか。


[答]

原則として、この「相続分がない旨の証明書」の添付のみでは、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4第1項)を適用することはできません。

ただし、この「相続分不存在証明書」が、お姉様が法定相続分を超える特別受益を受けているという事実に基づいて作成されたものであって、その特別受益の明細書や特例の適用を受ける土地の登記事項証明書など「相続分不存在証明書」に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類の提出があった場合には、それらの書類のすべてをもって、同特例の適用に必要な書類の添付があったものとして取り扱われるものと思われます。

● 説 明 ●

1 相続分がない旨の証明書

共同相続人の中に、被相続人から民法第903条第1項に定められた特別受益を受けたことにより、相続分を有しない相続人がいる場合、被相続人から不動産を取得する相続人は、当該相続分を有しない相続人が作成した「相続分がない旨の証明書」(注)を登記原因を証する書類の一部とすることで、相続登記を行うことができます(昭和8年11月21日民事甲1314号民事局長回答、昭和28年8月1日民事甲1348号民事局長回答)。

(注) 「相続分がない旨の証明書」は、「民法903条により相続分がない旨の証明書」、「特別受益証明書」、「相続分不存在証明書」、「相続分皆無証明書」などと言われる場合もあります。

 

2 相続税の申告における添付書類としての「財産の取得の状況を証する書類」

相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する税額の軽減措置や租税特別措置法第69条の4第1項に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例等を適用するためには、「遺言書の写し、財産の分割の協議に関する書類(・・・省略・・・)の写し(・・・省略・・・)その他の財産の取得の状況を証する書類」を申告書に添付しなければなりません(相規1の6③一、措規23の2⑧一ハ)。

この「財産の取得の状況を証する書類」としては、財務省令に例示されている遺言書の写しや財産の分割の協議に関する書類(遺産分割協議書)の写しのほか、その財産が調停又は審判により分割されているものである場合には、その調停の調書又は審判書の謄本、その財産が相続税法の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされるもの(生命保険金や退職手当金など)である場合には、その財産の支払通知書等その財産の取得を証する書類が該当します(相基通19の2-18)。

で述べた通り、「相続分がない旨の証明書」は、登記実務において登記原因を証する書類の一部として取り扱われているところですが、これが相続税の申告において上記の特例措置を適用するために添付が求められている「財産の取得を証する書類」に該当するかどうかが疑問となります。

この点について、一般的には、「相続分がない旨の証明書」は、財務省令に定める「財産の取得を証する書類」には該当しないものと考えられています。しかしながら、「相続分がない旨の証明書」を作成した相続人が、被相続人から法定相続分を超える特別受益を受けている事実があり、その事実に基づいて「相続分がない旨の証明書」が作成されたものであって、その証明書に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類(特別受益財産の明細を記載した書類及び登記事項証明書など各財産が相続人に名義変更されたことが確認できる書類など)の添付があった場合には、これらのすべての書類をもって「財産の取得を証する書類」として取り扱われることとされています(国税庁 質疑応答事例「配偶者に対する相続税額の軽減の規定の適用を受ける場合の「相続分不存在証明書」の適否」)。

 

3 ご質問の場合

お姉様がお母様から多額の贈与を受けていたため、お母様の相続について具体的相続分がないことから、あなたはお姉様の作成した「相続分がない旨の証明書」を登記原因証書の一部として、お母様名義の土地及び建物の相続登記を行うことができました。

しかしながら、あなたが相続により取得した土地について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しようとする場合、この「相続分がない旨の証明書」の提出のみをもって、「財産の取得の状況を証する書類」の提出があったとは認められません。

ただし、「相続分がない旨の証明書」に加え、お姉様がお母様から受けられた特別受益財産の明細を記載した書類やお姉様がお母様から相続分を超える金額の贈与を受けたことが確認できる書類、同特例を適用する土地の登記事項証明書などを併せて提出した場合には、これらのすべての書類をもって同特例を適用するために必要な「財産の取得の状況を証する書類」の提出があったものとして取り扱われます。

〔凡例〕
相法・・・相続税法
相令・・・相続税法施行令
相規・・・相続税法施行規則
相基通・・・相続税法基本通達
所基通・・・所得税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措通・・・租税特別措置法関係通達
通法・・・国税通則法
(例)相法27①・・・相続税法27条1項

(了)

次回は2019年1月24日の掲載となります。

相続税実務問答

【第30回】

「財産の取得の状況を証する書類
(相続分がない旨の証明書を提出する場合)」

 

税理士 梶野 研二

 

[問]

平成30年8月20日に母が亡くなりました。相続人は、姉と妹である私の2人です。母の主な遺産は、母と私が居住の用に供していた川口市内の土地及び建物です。

姉と協議をした結果、姉は母から多額の生前贈与を受けていたことから、川口市内の土地及び建物を私が相続することとなりました。土地及び建物の相続登記をするに当たり、遺産分割協議書は作成せずに、姉に「相続分がない旨の証明書」を作成してもらい、これを登記原因を証する書類の一部として相続登記を行いました。

私が取得した土地は特定居住用宅地等に該当することとなりますので、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4第1項)を適用したいと考えていますが、相続税の申告書にこの「相続分がない旨の証明書」を添付することにより、この特例を適用することができますか。

連載目次

相続税の実務問答

第1回~第40回

第41回~

筆者紹介

梶野 研二

(かじの・けんじ)

税理士

国税庁課税部資産評価企画官付企画専門官、同資産課税課課長補佐、東京地方裁判所裁判所調査官、国税不服審判所本部国税審判官、東京国税局課税第一部資産評価官、玉川税務署長、国税庁課税部財産評価手法研究官を経て、平成25年6月税理士登録。
現在、相続税を中心に税理士業務を行っている。

【主な著書】
・『ケース別 相続土地の評価減』(新日本法規)
・『判例・裁決例にみる 非公開株式評価の実務』(共著 新日本法規出版)
・『株式・公社債評価の実務(平成23年版)』(編著 大蔵財務協会)
・『土地評価の実務(平成22年版)』(編著 大蔵財務協会)
・『贈与税の申告の実務-相続時精算課税を中心として』(編著 大蔵財務協会)
・『農地の相続税・贈与税』(編著 大蔵財務協会)
・『新版 公益法人の税務』(共著 財団法人公益法人協会)

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