M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 ←(前回) | (次回)→ 第9節 検出事項の評価 【第22回】 「検出事項の評価」 ▷前提事項 実態純資産の分析は、調査結果が修正簿価純資産法や時価純資産法などの事業価値評価に利用されることを前提に、帳簿計上の資産の実在性、負債の網羅性をできる限り調査して得られる結果である。 試算する実態純資産額は、定量化できる資産及び負債を時価等(公正価値又は公正価値に代替するもの)で評価した結果であり、下記の点に留意が必要である。 ▷実態純資産の試算の例 実態純資産の試算過程としては、基準日の簿価純資産を基礎として、デューデリジェンスの結果判明した定量化可能な重要な検出項目を調整することになる。 下記では、主な検出事項例を取り上げ、実際の数値を記載しておくので参照していただきたい。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第148回】 仮想通貨の会計処理① 「仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ◎ X1年3月期の会計処理 ① 仮想通貨購入時(X1年1月末) ② 仮想通貨の期末評価(X1年3月末) ◎ X2年3月期の会計処理 ① 仮想通貨の売却時の仕訳(X1年4月末) ② 仮想通貨の期末評価(X2年3月末) ◎ X3年3月期の会計処理 ① 仮想通貨の期末評価(X3年3月末) 〈会計処理の解説〉 1 仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理のイメージ 2 会計処理の解説 (1) X1年3月期の会計処理 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除きます。以下同じ)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理します(「仮想通貨当面の取扱い」第5項)。 具体的には、仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者が保有している活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価について、次のように会計処理するものとされています。 市場価格として仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所で取引の対象とされている仮想通貨の取引価格を用いるときは、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格を用い、取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格を用いるものとされています。また、期末評価に用いる市場価格には、取得又は売却に要する付随費用は含めないものとされています(「仮想通貨当面の取扱い」第9項)。 (2) X2年3月期の会計処理 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、仮想通貨の売却損益を当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識することとされています(「仮想通貨当面の取扱い」第13項)。 (3) X3年3月期の会計処理 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨が、その後、活発な市場が存在しない仮想通貨となった場合、活発な市場が存在しない仮想通貨となる前に最後に観察された市場価格に基づく価額をもって取得原価とし、評価差額は当期の損益として処理します(「仮想通貨当面の取扱い」第11項)。 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有する仮想通貨について、活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とします。しかし、期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理します(「仮想通貨当面の取扱い」第6項)。 なお、前期以前において、仮想通貨の取得原価と処分見込価額との差額を損失として処理した場合、当該損失処理額について、当期に戻入れを行いません(「仮想通貨当面の取扱い」第7項)。 (了)
今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第6回】 「債権譲渡(その1)」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 改正される債権譲渡とはどのような制度でしょうか。また、現行法とはどのような点が変わるのでしょうか。 【A】 商品の売買契約が成立したときには、売主は買主に対して、売買代金を請求する権利を取得し、買主は売主に対して商品を引き渡すよう請求する権利を取得する。このように、相手方に対して法的に何らかの請求をすることができる権利のことを債権という。 債権譲渡とは、このような債権を第三者に譲渡することをいう。 債権譲渡が頻繁に行われる類型にはいくつかあるが、例えば、①金融機関等が回収が困難になった融資先への貸付金債権をサービサーに譲渡する、②事業会社が得意先に対する売買代金等の債権を、金融業者等から融資を受けるために、その金融業者等に対して担保目的で譲渡するといった場合などがある。 このうち②について、以下具体的な事例を想定し、改正法の内容を解説することにする。 なお、現行法からの債権譲渡の主な変更点としては、次のとおりである。 (※) (2)については、次回に取り上げる。 (1) 「譲渡制限特約」についての効力の見直し 債権は、原則として自由に譲渡することができるが、債権者と債務者との契約書に、次のような条項が盛り込まれていることがある。上記事例でも、A社とB社との間の取引基本契約に、以下の条項があったこととする。 現行法においては、このような債権の譲渡を制限する特約(現行法においては「譲渡禁止特約」と呼ばれていた。改正法下においては「譲渡制限特約」と呼ばれている)に違反する債権譲渡は、原則として無効と理解されている。 上記事例でも、C社がこの譲渡制限特約の存在について悪意(知っている)又は重過失(知らないことに重過失がある)であるときには、債権を取得することができなかった。このため、優良な得意先の会社に対する売掛金等の債権を有していても、これを担保に資金調達をすることができず、債権譲渡による資金調達を阻害する要因になっているという指摘があった。 一方で、当該債権の債務者(第三債務者)の立場からすれば、このような特約があることで、支払先を固定し、相殺やその他の抗弁を主張する機会を確保できるというメリットがある。改正法では、これらのバランスを図り、譲渡制限特約の効力について見直しを行うこととした。 改正法の改正内容は以下のとおりである。 このように、債権の譲受人としては、譲渡制限特約の存在について悪意、重過失であっても、債権譲渡は有効で確定的に債権を取得することになるし、上記の各制度によって、最終的にその対象債権を回収する余地が相当広がったという面がある。 一方、譲渡された債権の第三債務者として、債権の譲渡人に対して弁済をしたり、その他の抗弁を主張する余地はあるし、供託をしてその債務を免れることもできるから、特段改正によって不利な面が生じたとはいえない。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第4回】 「遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度に関する留意点について解説する。 1 概要 最高裁平成28年12月19日決定により、預貯金債権が遺産分割の対象とされることとなったが、生活費・相続債務の弁済・葬儀費用等の支払のため、遺産分割前に預貯金債権を行使する必要性が認められる場合もある。 このため、今回の法改正において、遺産分割前の預貯金の払戻しを認める制度として、①裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しを認める制度(改正後民法909条の2)、②裁判所の判断(仮処分決定)の下で預貯金の仮払を認める制度(改正後家事事件手続法200条3項)という2つが設けられた。 いずれの制度も、2019年7月1日から施行される。 2 裁判所の判断を経ない払戻し制度について (1) 内容 改正後民法909条の2は、以下のように定める(下線筆者)。 また、上記「法務省令で定める額」は、平成30年11月21日公布の法務省令により150万円と定められた。 要するに、「預貯金債権額 × 1/3 × 相続分」(ただし上限150万円)については、共同相続人は銀行に対し単独で払戻しを請求でき、払戻しを受けた部分については、遺産の一部分割によりこれを取得したとみなされるということである。 (2) 留意点 ① 払戻しを求める預貯金の使途について制限がない 従前、預貯金債権は可分債権で当然分割とされていたが、多くの金融機関は、払戻しに相続人全員の同意を求めていた。ただし、葬儀や被相続人の債務の支払に必要な費用については、相続人全員の同意がなくても払戻しを認める場合があり、法制審議会においても、払戻しを認める場合の預貯金の使途を限定すべきか、という議論もあったところである。 しかし、上記改正後民法909条の2の条文を見れば明らかなように、預貯金の使途については何らの制限はない。括弧書きには「標準的な当面の必要性経費、平均的な葬式の費用の額」といった記載はあるが、これも預貯金の使途を定めるものではない。 したがって、金融機関としては、相続人から払戻しの請求があった場合、請求してきた相続人の相続分を確認して「預貯金債権額 × 1/3 × 相続分」(ただし上限150万円)を払い戻せば足りるのであり、他に預貯金の使途や葬儀費用の見積書などの提示を求める必要はない。 ② 仮払ではない 後述する裁判所の判断の下での仮払仮処分制度は、条文上「仮に取得」とされているが、改正後民法909条の2但書には「・・・当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」とされており、仮払ではない。 また、預金の払戻しが一部分割による取得と「みなされる」ということは、後日、当該払戻しと矛盾する内容の遺言が発見されるようなことがあったとしても、既に行われた払戻しの効力には影響しないということになる。したがって、改正後民法909条の2に従った払戻しについては、金融機関に法的責任が生じることは考えにくい。 ただし、相続人間においては、改正後民法909条の2に基づく払戻しによって相続人間の公平が害される場合(例えば一部の相続人に特別受益があり、払戻しにより具体的相続分を超える金銭を取得したような場合)、最終的には公平な形での遺産分割がなされねばならないだろう(この場合、代償金の支払等が考えられる)。 ③ 払戻しの計算は、預貯金債権ごとに行われる 上記改正後民法909条の2は、「・・・遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1」とし、預貯金債権ごと(例えば、同一銀行に対し、普通預金口座2つ・定期預金口座1つがある場合、各預金口座ごと)に計算することを明らかにしている。 ④ 「上限150万円」は、相続人1名、金融機関1社あたりの額である 上記改正後民法909条の2は、各共同相続人(相続人1名)が払戻しを受けられる額について定めている。また同条項括弧書きに「・・・預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。」とされている通り、債務者ごと、すなわち金融機関1社あたり、150万円という上限があることになる。 (3) 具体例 以下の事例を考えてみる。 相続人は子4名。相続財産として、A銀行に普通預金600万円、定期預金300万円、B銀行に普通預金3,000万円、定期預金900万円がある。 この場合、相続人1名は、以下の通りの請求ができる。 上記B銀行のような場合、普通預金と定期預金にどのように割り付けて払い戻すかという問題がある。この点について、法制審議会の考えは示されていないが、相続人間の公平・簡便な処理を考えれば、預貯金債権額に按分して割り付けると考えるべきではなかろうか。 (4) 経過措置 民法の一部改正においては、原則として、法律の施行日前に開始した相続については改正前民法が適用されるが(改正法附則2条)、改正後民法909条の2については、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも適用される(改正法附則5条1項)。 すなわち、相続開始日がいつかにかかわらず、2019年7月1日以降に預貯金の払戻し請求が行われた場合、改正後民法909条の2の適用がある。 3 裁判所の判断の下での仮払制度について (1) 内容 改正後家事事件手続法200条3項は、以下のように定める(下線筆者)。 (2) 留意点 ① 預貯金の使途について制限がない 上記条文上、「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情」といった事情が挙げられているが、使途について制限があるわけではない。 要は裁判所が、預貯金債権を行使する必要性ありと認めればよいのである。 ② 仮払である 上記条文上、「・・・遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる」とされており、仮払であることは明らかである。この点は前述の裁判所の判断を経ない払戻し制度と異なる。 裁判所の判断の下での仮払であるため、行使できる預貯金債権の額に上限はなく、預貯金債権の全部を取得させることも可能である。 したがって、後日、本案の調停・審判の中で、仮払とは無関係の判断がなされることもあり得る。 ③ 他の共同相続人の利益を害しないことが必要である 条文上、他の共同相続人の利益を害しないことが必要とされている。 どのような場合に、他の共同相続人の利益を害するといえるかという点については、今後の解釈によることになるだろうが、仮払仮処分の申立人の具体的相続分総額の範囲を超える場合、申立人の預貯金債権の具体的相続分の範囲を超える場合といった考えが示されている(追加試案の補足説明・13頁)。 ④ 本案となる調停・審判の係属が必要である 裁判所の判断の下での仮払であり、本案が継続していることが必要である。 (3) 経過措置 家事事件手続法の一部改正においては、民法の一部改正における改正法附則2条のような、法律の施行日以前に開始した相続についての定めはない。したがって、相続開始日がいつかにかかわらず、2019年7月1日以降は仮払仮処分を利用することができる。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例33】 株式会社デサント 「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する 公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 (2019.2.7) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社デサント(以下「デサント」という)が平成31年2月7日に開示した「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」である。 タイトルどおり、伊藤忠商事株式会社の完全子会社であるBSインベストメント株式会社(以下「伊藤忠商事株式会社」と「BSインベストメント株式会社」を合わせて「伊藤忠」という)によるデサント株式に対するTOB(公開買付け)へ反対の意見を表明している(伊藤忠は平成31年1月31日に「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示)。 伊藤忠によるTOBの買付期間は平成31年3月14日までであり、本稿執筆時点(3月7日)では未だ結果は分からない。しかし、買付価格は開示前日の終値に49.65%のプレミアムを付した高い価格であり、かつ、買付予定数はデサントの発行済株式総数の9.56%と少数であることから、成立は確実だと思われる(論末の【追記】参照)。 伊藤忠はデサント株式を30.44%所有しており、このTOBにより40%を所有することになる。過半数を所有することにはならないが、実質的にデサントを支配することが可能になる(デサントの開示によれば、同社の昨年の定時株主総会における議決権行使比率は87.35%)。確実に成立させることが可能で、かつ、費用対効果の高い、よく考えられたTOBであると言える。 2 伊藤忠のやりたい放題は可能か? デサントは、反対意見の理由として、以下の5つをあげている。 このうち、①から③では、専ら利益相反が問題とされている。伊藤忠の利益とデサントの利益が相反する、つまり、伊藤忠の利益が優先され、デサントの利益が犠牲にされる経営が行われるようになるというのである。 確かに、伊藤忠の議決権数が増え、影響力が増せば、利益相反の生じる可能性が高まるのは当然である。しかし、このTOB成立後、伊藤忠のやりたい放題は果たして可能になるのだろうか。おそらく無理だろう。 仮に、デサントの取締役が、伊藤忠が指名した者ですべて構成されたとしても、彼らはあくまでデサントのための経営を行わなければならない。そうでなければ、伊藤忠以外の60%の株主から責任を問われることになる。やりたい放題が可能なのは完全親会社だけである。伊藤忠はその点を十分自覚しているはずであり、これまで以上に利益相反に対して神経質になるだろう。 なお、デサントは、開示の最初で、「当社の株主の皆様には本公開買付けに応募されないようお願いする」としているが、①から③は、「このTOBが成立すると、株主の皆様は損をすることになりますよ」と言っているようなものであり、それでは逆に皆が応募したくなってしまうのではないだろうか(デサントの株主に留まらない方がいいと考えて)。「このTOBに応募すると、損をしますよ」といった理由を言えればよかったのだが。 3 不誠実なのはどちらか? ④は、伊藤忠のデサントに関する認識には誤りがあるというものである。伊藤忠とデサントを比べた場合、デサントに関する情報をより多く持っているのは、当然、伊藤忠ではなくデサント自身であり、こうした指摘はいくらでもできるだろう。 しかし、明らかに伊藤忠ではなくデサントの方が誤っている点がある。伊藤忠は、デサントの経営上の問題の1つとして、「コーポレート・ガバナンス体制の脆弱性」を指摘しているのだが、そう指摘する理由の1つとして、「対象者とその株主との間の建設的な対話の内容が第三者に漏洩した可能性がある点」をあげている。これは、おそらく、伊藤忠の代表とデサントの代表との間の対話の内容が週刊誌に漏洩したことだろうと思われる。 それに対して、デサントは、「コーポレート・ガバナンス体制との関連性が明らかでないばかりか、伊藤忠商事らの指摘はそもそも客観的な根拠のない憶測に基づく一方的な主張にすぎ」ないと反論しているのだが、こうした反論しかできないことから、デサントの代表が意図的に対話の内容を録音し、週刊誌に漏洩したと考えるのが筋であろう。対話の内容を録音し、週刊誌に漏洩したとしたら、上場会社の経営者としての資質が疑われる。そうした人物が代表を務めていることは、明らかにコーポレート・ガバナンス体制上の問題である。 なお、デサントは、「当社に対して何ら事前の連絡もないまま一方的に本公開買付けが開始された」と憤っているのだが、対話の内容を録音され、週刊誌に漏洩された伊藤忠からすれば、事前の連絡などできないだろう。伊藤忠は、その点について、「事前の協議を行った場合、情報漏洩等により対象者株式の市場株価の高騰及び市場の混乱を招き、また、本公開買付けに関する対象者株主の皆様の判断に多大なる影響を及ぼす可能性が危惧される」としている。 4 社外役員とはいえ 最後の⑤は、デサントから独立した社外取締役と社外監査役も、伊藤忠によるTOBに反対しているのだから、やはり反対意見は正しいはずであるというものである。しかし、その社外取締役と社外監査役が、本当にデサントから独立していて、外部からの客観的な視点で判断を行えているかどうかは分からない。 「社外」と言いながら、代表の意向どおりに動いてくれる、代表のお友達でしかないということは、よくある。本連載で取り上げた事例の中でも、そうしたことがあったはずである。⑤に記載された、社外取締役と社外監査役の反対意見は、①から④の内容をなぞったものである。 なお、そもそも社外監査役は、伊藤忠によるTOBに対して意見を述べるべき立場なのだろうか。 5 こうした事態を招いた責任は 伊藤忠の開示によると、デサントの現代表は同社の創業者の孫とのことである。同氏は、平成25年、伊藤忠出身の代表を追い出す形で代表に就任している。伊藤忠はデサントの2度の経営難を支援したこともあり、平成6年以降、伊藤忠出身者がデサントの代表を務めていた。また、平成20年以降、デサントは伊藤忠の関連会社となっている。 そうした中、デサントの現代表は、伊藤忠出身の代表を追い出す形で代表に就任したのである。その時点で、今回と同様の事態が生じてもおかしくなかったはずである。しかし、当時、伊藤忠は動かなかった。そのときの成功体験が今回の事態を招いてしまったのかもしれない。そして、今度は、代表間の対話の内容を週刊誌に漏らせば、相手は引くとでも思ったのだろうか。 伊藤忠とデサントでは、明らかに伊藤忠が強者、デサントが弱者である。強者と弱者が戦う場合、弱者には弱者なりの戦い方が求められるはずだが、今回のデサントの戦い方は正しかったのだろうか。反対の意見表明をすべきだったのだろうか。まともに戦えば負けることが確実な戦いにおいて、相手をいたずらに攻撃することは得策ではないのではないだろうか。 伊藤忠は、平成31年2月28日に「(訂正)公開買付届出書の訂正届出書の提出に伴う「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ「及び「公開買付開始公告」の訂正に関するお知らせ」を開示した。それによると、TOB開始後、伊藤忠とデサントの間で、TOB終了後のデサントの経営体制等に関する話合いが行われていたのだが、次のような理由から伊藤忠がそれを打ち切ったとのことである。 おそらくデサントの経営陣は刷新されることになるだろう。違う戦い方をしていれば、違う結果が待っていたかもしれないが。 【追 記】 予想どおりTOBは成立した(伊藤忠は平成31年3月15日に「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」を、デサントは同月18日に「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」を開示)。 そして、デサントは、平成31年3月25日、「代表取締役、取締役及び監査役の異動ならびに執行役員任命に関するお知らせ」を開示した。同社の経営陣は刷新されることになる。 伊藤忠の意向どおりになるわけだが、デサントの現経営陣による抵抗は同社のためになったのだろうか。こうした結果になるのは分かりきっていたのだから(もしかすると分かっていなかったのだろうか。抵抗すれば、どうにかなるとでも思っていたのだろうか)、同社のことを考え、いたずらに混乱を生じさせることのないよう、違う行動をとるべきではなかったのだろうか。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」を公表 ~新たに導入された会計手法等に関する実務上の留意事項をまとめる~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年3月19日(ホームページ掲載日は2019年3月26日)、日本公認会計士協会は、「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」(非営利法人委員会研究資料第7号)を公表した。 これは、「医療法人会計基準」(平成28年4月20日、厚生労働省令第95号)が厚生労働省から公表されたことを受け、同会計基準の適用に当たり新たに導入された会計手法等に関する実務上の留意事項をまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 固定資産の減損会計 医療法人における固定資産の減損会計は企業会計と同一ではなく、その適用は以下のとおりであると考えられている(Q1)。 そのほか、減損処理の対象資産、時価の著しい下落などについて、非営利実務指針第38号を参照しつつ、取扱いを示している。 また、Q7では、固定資産の減損処理及び注記方法について、設例により説明している。 2 税効果会計 医療法人、特定医療法人は全所得に対して課税されるため、税効果会計適用の要否を検討する必要がある。また、社会医療法人において法人税法上の収益事業を実施している場合は、繰延税金資産又は繰延税金負債の計上の要否を検討する必要がある(Q8)。 次のことが記載されている。 そのほか、医療法人の法定実効税率の考え方が記載されている(Q9)。 3 純資産の会計処理 医療法人に特徴的な純資産の会計処理について、設例により解説している(Q10)。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」の改正案を公表 ~IFRS第16号「リース」等を修正項目として取り扱わないとする提案~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年3月25日、企業会計基準委員会は、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告第18号の改正案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、在外子会社等において国際財務報告基準第16号「リース」(以下「IFRS 第16号「リース」」という)及び米国会計基準会計基準更新書第2016-02号「リース(Topic 842)」の取扱いを示すものである。 なお、わが国の会計基準におけるリース会計の取組みは、別途、審議を行っているとのことである。 意見募集期間は2019年5月27日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 実務対応報告第18号において、IFRS 第16号「リース」及びASU第2016-02 号「リース」を修正項目として取り扱わないとする提案である。 なお、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)では、当面の間、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)に準じて行うことができるものとする規定がある。 Ⅲ 適用時期等 実務対応報告第18号の改正案は、公表日以後適用する予定である。 (了)
《速報解説》 経産省、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』を改訂 ~役員報酬向けの株式交付信託に関する税務上の取扱いなど問合せの多い事項5問を追加~ 税理士 中尾 隼大 経済産業省は、中長期の企業価値向上に対応する役員報酬プランの導入を促すため、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』を作成・公表している。これは、企業の株式報酬・業績連動報酬の導入を可能とする環境整備を行い、企業の「稼ぐ力」向上につなげることを目標としているものである。 2016年の公表後も税制改正に合わせて見直しがなされてきたが、2019年3月8日、民間からの問合せに応える形で、主に以下3点についてQ&Aのさらなる改訂がなされた。 1 役員報酬向けの株式交付信託に関する税務上の取扱い(Q16等) 役員報酬向けの株式交付信託の取扱いが示され、役員に交付される株式が事前確定届出給与や業績連動給与又は退職給与の損金算入要件を満たす場合には、受益権確定日の属する事業年度において損金算入することができる旨が示された。 なお、この問では、信託協会が国税庁等と協議して取りまとめたQ&Aが信託協会のウェブサイト上に公表されている旨に触れている。 2 事前確定届出給与である株式報酬に相当する金銭報酬(ファントムストック)を非居住者役員に交付する場合の取扱い(Q18) 非居住者の役員では、日本の証券会社への口座開設が難しいことに触れ、業務執行役員全員に対し特定譲渡制限付株式、事後交付型リストリクテッド・ストックを交付しようとする場合、このような非居住者の業務執行役員については、居住者の業務執行役員に交付する株式の金銭を交付する制度を紹介している。 この非居住者役員に対する金銭報酬は業績連動給与(ファントム・ストック)に該当し、損金算入するためには業績連動給与の損金算入要件を満たす必要があるとされている。 なお、居住者役員に交付する株式については、事前確定届出給与の対象となるため、損金算入するためには、届出書の提出など事前確定届出給与の損金算入要件を満たす必要があるという留意点も示されている。 3 役員の病気や不祥事により業績連動給与の一部を支給しない場合の損金算入の取扱い(Q73) 病気や不祥事により勤務を行っていない期間がある場合においても、報酬を減額する算定方法をあらかじめ定めて開示していれば、損金算入が可能との認識が示された。 * * * 上記で概略に触れた問を中心に、計5問が追加された他、随所加筆修正が行われているが、その加筆修正箇所については見え消し版にて確認が可能である。 (了)
《速報解説》 金融庁、平成31年3月期以降の事業年度における 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項を公表 ~引当金、偶発債務等の会計上の見積り項目等について適切ではない事例を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成31年3月19日、金融庁は次のものを公表した。 平成31年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として、次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)による改正に関する次のものである。 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正(「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成30年3月23日、内閣府令第7号))の適用に注意する。 2 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項 平成30年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(平成31年3月19日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき事項について述べている(「別紙1」参照)。 記載内容が不十分であると認められた事項は、会計監査の対象となる財務諸表等に関わるものも含まれており、留意すべき事項については、有価証券報告書提出会社だけでなく、監査を実施する公認会計士又は監査法人においても、十分に留意いただきたいと記載されているので、改めて有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 平成30年度有価証券報告書レビューでは、以下の重点テーマに着目して審査している。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。 なお、「別紙1」では「留意すべき事項」として具体的な財務諸表等規則などの根拠規定が紹介されているので、実際に有価証券報告書を作成する際にお読みいただきたい。 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(平成31年度) 1 法令改正関係審査 平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の提出会社を対象として、平成31年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」による改正、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正について、適切な記載がなされているかを審査する。 2 重点テーマ審査 平成31年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 MD&A等、財務情報以外の開示情報(記述情報)に係る原則が確定 ~投資家・アナリストによる望ましい記述情報の開示事例集も公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成31年3月19日、金融庁は、「記述情報の開示に関する原則」(以下「原則」という)を公表した。これにより、平成30年12月21日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(平成30年6月28日)の提言を受けたものであり、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめたものである。 原則とともに、「記述情報の開示の好事例集」と「『記述情報の開示に関する原則(案)』に対する主なパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」も公表されている。 なお、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)も公布されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 原則の概要 原則などは、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促し、開示の充実を図ることを目的としている。 原則は、記述情報は、財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とするものであり、その開示により、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高めることができるとのことである。 記述情報の項目の中でも、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度ある建設的な対話につながる項目である、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報を中心に、有価証券報告書における開示の考え方などを整理している。 なお、原則は、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものであり、新たな開示事項を加えるものではないとのことである。 1 経営方針・経営戦略等 2 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等 3 事業等のリスク 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A) 5 キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報 6 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定 Ⅲ 「記述情報の開示の好事例集」 「記述情報の開示の好事例集」は全体で79ページに及ぶものであり、投資家・アナリストによる望ましい開示に関する意見や実例を取りまとめたものである。 三井物産(株)、ソニー(株)、トヨタ自動車(株)などの開示例が記載されている。 なお、開示の好事例としての公表をもって、開示例の記載内容に誤りが含まれていないことを保証するものではないとのことである。 (了)