改正相続法に対応した実務と留意点 【第7回】 「特別の寄与に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、特別の寄与に関する留意点について解説する。 1 特別寄与制度の概要 特別寄与制度は、被相続人に対し特別の寄与をした相続人以外の親族に、特別寄与料支払請求権を与える制度であり、今回の改正法で新設されたものである。従前から、相続人のためには寄与分制度(改正後民法904条の2、改正前民法と変更無し)が存在したが、相続人以外の者であっても、被相続人の財産維持・増加に寄与することはありえる。このような場合、「相続人ではない」という理由で寄与分を全く評価しないというのであれば、公平を害することになるため、特別寄与制度が設けられた。 まず、改正後民法1050条の条文を確認する。 上記改正後民法1050条1項に定められた特別寄与料請求権の発生要件を整理すると、以下のようになる。 【特別寄与料請求権の発生要件】 2 各発生要件に関する留意点 (1) 無償であること(要件①) 〔例〕 被相続人の長男の妻が、10年間にわたって、寝たきり状態であった被相続人の介護を行ってきた。介護は毎日5時間程度の時間を要した。被相続人は、長男の妻に対し、お礼として毎月3万円を渡していた。 無償性については、相続人の寄与分制度においても、解釈あるいは多くの裁判例で要求されていたところである。寄与分制度は、相続人間の公平を図る趣旨であるから、相応の対価を受領している場合には、原則として公平が害されているとはいえず、無償性が要求される。 特別寄与分制度も、相続人の寄与分制度同様、公平を図る趣旨であるため、無償性が要求されている。もっとも、私見であるが、ここでいう無償は「対価を1円ももらっていない」という意味ではなく、「相応の対価を受領していない」という意味ととらえるべきであろう。相応の対価を受領していない場合には公平は害されることになるし、労務の対価を受領していたとしても、相応の対価とはいえない場合には、労務に無償部分が存在すると言えるからである。 本件においては、毎日5時間程度の介護を10年間行っており、仮にこの労務を業者に依頼した場合に要する費用が、例えば1時間1,000円であるとした場合、1ヶ月あたり15万円(1,000円×5時間×30日)の費用が必要である。長男の妻は職業付添婦ではないことを考慮して何割か減額して考えたとしても、月額3万円では到底相応の対価を受領しているとはいえず、毎月10万円前後の無償の労務を行っていたと考えてよい。 そして、残る②~④の要件も満たす(③については、業者への依頼による支出を抑えることで、被相続人の財産維持に寄与している)と考えられるから、長男の妻は特別寄与料として、月額10万円前後の10年分の寄与分を請求できると考えるべきであろう(※)。 (※) 相続人が、被相続人を10年間無償で療養看護した事案で、職業付添婦に依頼した場合に要する費用から4割減額した額を寄与分として認めた審判例がある(盛岡家審S61.4.11)。 なお、上記は筆者の私見であり、条文上あえて「無償で」と書かれている(相続人の寄与分制度を定める改正後民法904条の2には「無償で」という文言はない)ことからすれば、厳密に「1円ももらっていない」場合のみ、特別寄与料を請求できると考えることも可能ではある。この点については、今後の解釈・裁判例が待たれる。 (2) 被相続人に対し療養看護その他の労務の提供をしたこと(要件②) 〔例〕 被相続人の長男の妻が、10年間にわたって、寝たきりであった被相続人の介護を業者に依頼し、業者に対して毎月10万円の支払を行ってきた。 相続人の寄与分制度を定める改正後民法904条の2では、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき」として、寄与行為の態様として「財産上の給付」「その他の方法」という労務提供以外のものが挙げられている。そして「その他の方法」として、一般的に、財産管理や自己の扶養義務の範囲を超えた扶養などが認められている。 しかし、特別寄与制度においては、条文上、「療養看護その他の労務の提供をしたこと」として、労務の提供のみに限定されており、財産上の給付・財産管理・扶養義務の範囲を超えた扶養などがあったとしても、特別寄与請求権発生の要件を満たさないと考えられる。「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明(85頁)」でも、あえて寄与行為の態様を「無償の労務の提供」に限定したことを前提にした説明がなされている。 ただし、条文上「療養看護その他の労務の提供」とされており、労務の態様としては療養看護に限定するものではなく、家業の手伝いなども考えられるところである。 本件では、長男の妻は労務の提供をしていない以上、特別寄与料を請求することはできない。 (3) 被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと(要件③) 〔例〕 被相続人の長男の妻が、30年以上にわたり、無償で、被相続人が経営する商店の事務作業を手伝った。 長男の妻は、無償で労務提供を行っており、本来事務員を雇用すれば支払うべき賃金の支払がなくなったことにより被相続人の財産維持・増加があったと考えられるから、上記の要件①~④はすべて満たされる。したがって、長男の妻は特別寄与料を請求できる。 もっとも、相続人から、長男の妻の勤務期間・勤務内容等を争われることは十分考えられる。このような場合、要件①~④の立証責任は長男の妻が負うことになり、証拠が重要となる。したがって特別寄与料請求を考えるときは、証拠の収集にも十分注意すべきである。 本件のような場合には、勤務期間や勤務内容を示す資料(確定申告書、業務日誌、メモ、写真等)、無償性が分かる資料(確定申告書、通帳、給与明細、家計簿等)を紛失しないよう、写しを取るなどして手元に保管しておくべきである。 (4) 被相続人の親族であること(要件④) 〔例〕 被相続人の長男の妻の姪が、30年以上にわたり、無償で、被相続人が経営する商店の事務作業を手伝った。 改正後民法725条(改正無し)は、①6親等内の血族、②配偶者、③3親等内の姻族、を親族として定める。 長男の妻の姪は、4親等の姻族に当たる(改正後民法726条・改正無し)から、親族には当たらず、特別寄与料を請求することはできない。 また、「被相続人の親族」とされている以上、内縁の妻や、養子縁組をしていない事実上の養子(配偶者の連れ子等)なども特別寄与料を請求することはできない。 (5) その他 条文に書いてある通りであるが、特別寄与料請求権は、特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月又は相続開始時から1年経過すると消滅する(改正後民法1050条2項)。「相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月」については、ある程度前後することもあり得るが、「相続開始時から1年」は明確であり、被相続人死亡1年経過が近づいてきた場合には、直ちに請求する必要がある。 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない(改正後民法1050条4項)。したがって、長期間の特別寄与があったとしても、相続財産の額によっては、ほとんど寄与料をもらえないこともあり得る。 なお、特別寄与料の負担割合は、法定相続分又は指定相続分に従う(改正後民法1050条5項)。 また、特別寄与料の支払を受けた者には、相続税が課税され、特別寄与料の額が決まってから10ヶ月以内に相続税申告書を提出しなければならない(相続税法4条2項、29条1項)。 3 経過措置 改正後民法施行日より前に開始した相続に関しては、1050条の適用はない(改正法附則2条)。 そして1050条については、他に経過措置が定められてはいないため、2019年(令和元年)7月1日より前に相続があったか、7月1日以後に相続があったかにより、特別寄与料を請求できるか否かが変わることになる。 もっとも、7月1日より前に発生した相続の場合でも、相続人の家族の寄与行為を相続人の寄与分とする考え方(東京高決H元.12.28、東京家審H12.3.8等)や、寄与行為による相続財産の維持・増加という結果を契約上の権利・不当利得返還請求権と構成するといった方法により、特別寄与料相当額の支払を求めることは考えられる。 (了)
定期保険及び第三分野保険に係る 改正法人税基本通達の取扱いとその影響 【第3回】 (最終回) 「改正前後の対策効果の検証」 税理士 三輪 厚二 今回は、通達改正前後における保険加入対策の効果を見てみることとする。 前回解説の通り、最高解約返戻率が85%を超えると資産計上割合が高くなってしまい対策効果がほとんどなくなってしまうので、以下では、最高解約返戻率が85%のケ-スを前提に検証を行う。 前提条件は、次のとおりとする。 ▷パターンA ※出口対策ありの場合で、当期利益が5,000万円、2期目以降利益が毎期1,200万円見込まれ、5期目に役員退職金を5,100万円支給する。 ① 保険加入なし 保険未加入の場合は、5年間の法人税等の税額が総額で2,838万円、手残り額が1,862万円となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 改正前の対策効果 改正前の通達において保険に加入した場合は、5年間の税額が総額で1,254万円、手残り額が2,546万円となり、節税額が1,584万円(2,838万円-1,254万円)、手残り額が+684万円(2,546万円-1,862万円)となる。これが、最も対策効果のある典型的なケ-スである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ③ 改正後の対策効果(その1) 通達改正後に同じ保険に加入した場合は、税額が総額で2,204.4万円、手残り額が1,595.6万円となり、節税額が633.6万円(2,838万円-2,204.4万円)、手残り額が▲266.4万円(1,595.6万円-1,862万円)となる。改正前と比べると節税額も小さく、2期目以後の資金が持ち出しとなって、最終の手残り額もマイナスになってしまう。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ④ 改正後の対策効果(その2:保険料を3,000万円にして節税額を同額にした場合) ③と同様、通達改正後に同じ保険に加入した場合で、保険料を1,200万円ではなく3,000万円に増やし節税額を同額になるようにした場合は、税額が総額で1,254万円、手残り額が1,196万円となり、節税額は同額でも手残り額がかなり目減り▲666万円(1,196万円-1,862万円)してしまうことになる。また、2期目以後の資金の持ち出しが大きく、資金繰りを考えるとなかなか対策として活用するのは厳しいと言わざるを得ない。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ▷パターンB ※出口対策(5年後の役員退職金支給)なしで、当期利益が5,000万円、2期目以降利益が毎期1,200万円見込まれる。 ⑤ 保険加入なし 保険未加入の場合は、税金の総額が3,234万円、手残り額が6,566万円となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ⑥ 改正前の対策効果 改正前の通達において保険に加入した場合は、5年間の税金が総額で2,937万円、手残り額が5,963万円となり、節税額が297万円(3,234万円-2,937万円)、手残り額が▲603万円(5,963万円-6,566万円)となる。 対策年度の節税額は大きいが、出口での課税があるので、結果として保険料の総額(6,000万円)と解約返戻金(5,100万円)の差額(900万円)に対する税額(297万円)分だけが少なくなった(900万円×33%)ということに過ぎず、言い換えるなら、900万円の掛け捨ての保険に加入したのと同じことになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ⑦ 改正後の対策効果 通達改正後に同じ保険に加入した場合は、税金が総額で2,937万円、手残り額が5,963万円となり、節税額が297万円(3,234万円-2,937万円)、手残り額が▲603万円(5,963万円-6,566万円)となる。 結果は改正前も改正後も同じだが、内容を見ると、(ⅰ)改正前は対策年度の節税額が大きい、(ⅱ)改正後は資金の持ち出しがある等の差があり、対策的には使いづらいものとなったといえよう。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ▷総括 上記の検証を踏まえ、通達の改正前と改正後の対策効果をまとめると、次のようになる。 ◆節税効率がかなり悪くなった。 ◆最高解約返戻率になるまでの期間、資金の持ち出しがある。 ◆出口対策のない場合は、節税の観点からすると、保険料の総額と解約返戻金との差額の掛け捨ての保険に加入したのと同じ結果になる。資金効率や保障から考えると単純にこの掛け捨ての保険に加入した方がよい(ニ-ズがあればの話だが)かもしれない。 ◆出口対策がある場合は、改正前に比べると節税効果は小さくなったものの、税金の先送りということからすると若干のメリットはある。ただし、資金の持ち出しがある。 (連載了)