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〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第28回】「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(23)付表1 給与等支給額、当期償却費総額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」〈その1〉

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第28回】 「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(23)付表1 給与等支給額、当期償却費総額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」〈その1〉   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第28回目以降は、平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、賃上げ・投資促進税制(改正前 所得拡大促進税制)関連の別表をあらためて採り上げるとともに、改正点を踏まえながらその適用パターンごとに分けて順次解説していく。 ※ 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいい、それ以外を大企業等という。 まず今回は、パターン①の場合における、「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。   Ⅱ 概要 この別表は、平成30年4月1日以前に開始し、平成30年4月1日以後終了する事業年度において、青色申告書を提出する法人が平成30年改正前の租税特別措置法(以下「平成30年旧措置法という」)第42条の12の5第1項の規定の適用を受ける場合に作成する。 改正前の所得拡大促進税制は、平成25年4月1日から平成30年3月31日までに開始する事業年度において、以下の(イ)、(ロ)及び(ハ)の要件をすべて満たした場合、国内雇用者(注1)に対する給与等支給増加額について、その一定割合の税額控除ができる(当期の法人税額の10%、中小企業者等は20%が上限)制度である。 (注1) 国内雇用者とは、法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者を除く)のうち国内事業所に勤務する雇用者(労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者)をいう。 (注2) 給与等支給額とは、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合はその金額を控除した額)をいう。 (注3) 基準事業年度とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度をいう。 (注4) 平均給与等支給額とは、適用年度の継続雇用者(適用年度及び適用年度の前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者)に対する給与等の支給額を、対象となる適用年度の月別継続雇用者の合計数で除した金額をいう。 ▼ 注意!▼ 上記の継続雇用者は、雇用保険の一般被保険者に該当するものに限られる。また、継続雇用制度(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条第1項第2号に規定する制度)の対象者は除く。 この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 給与等支給増加額(給与等支給額-基準事業年度の給与等支給額)×10%+加算額※1 ※1 平成29年4月1日以後に開始する事業年度において、適用年度の平均給与等支給額がその前事業年度の平均給与等支給額と比べて2%以上増加している場合、次の一定額を加算する。 ➡ ただし、その適用年度の調整前法人税額の10%相当額が限度額(中小企業者等は20%)となる。 また、平成28年度の税制改正により、いわゆる雇用促進税制との重複適用が一定の調整のもと可能となった。したがって、平成30年旧措置法第42条の12第1項から第3項まで(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定、又は改正後の同法第42条の12第1項もしくは第2項(地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定を重複して適用する場合には、調整計算のために「別表6(23)付表2 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」を作成することになる。 なお、この雇用促進税制(改正後の別表6(19))との重複適用の事例は別の機会に解説することとしたい。   Ⅲ 「別表6(23)」及び「別表6(23)付表1」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(23) 〔中小企業者等以外の法人〕欄 〔中小企業者等〕欄 ◆別表6(23)付表1 〔平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算〕欄 (了)

#No. 278(掲載号)
#菊地 康夫
2018/07/26

〔平成30年度税制改正対応〕非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度(事業承継税制の特例措置) 【第6回】「特例贈与者が死亡した場合の相続税の特例」

〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第6回】 「特例贈与者が死亡した場合の相続税の特例」   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳    今回は非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70の7の7)、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の8)について解説していく。 特例贈与者が死亡した場合において、相続税の納税猶予及び免除の特例を受けるにあたっての手続きは、以下のとおりである。 ① 特例贈与者の死亡 ↓ ② 非上場株式等の相続・円滑化法の確認 ↓ ③ 相続税の申告 ↓ ④ 事業の継続(相続後5年間) ↓ ⑤ 株式の継続保有(5年経過後) ↓ ⑥ 猶予相続税の免除(後継者の死亡・事業継続が困難な場合等)   1 特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税 特例措置により株式を贈与した特例贈与者が死亡した場合には、贈与税は免除されるが、当該贈与により取得した特例対象受贈非上場株式等は、後継者が相続又は遺贈により取得したものとみなされる。 この場合において、相続税の課税価格の計算の基礎に算入すべき特例対象受贈非上場株式等の価額は、贈与の時における価額を基礎として計算するものとする(措法70の7の7①)。   2 特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除 特例贈与者の死亡により、特例贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされた特例対象受贈非上場株式等について、相続の開始の日の翌日から8月を経過する日までに都道府県知事に申請し、「円滑化法の確認」(円滑化規則13①)を受け、一定の要件を満たす場合には、その相続又は遺贈により取得したとみなされた非上場株式等について、相続税の納税猶予及び免除の特例の適用を受けることができる(措法70の7の8①)。   3 非上場株式等の相続・円滑化法の確認 (1) 非上場株式等の相続 ① 特例認定相続承継会社 特例措置の対象となる特例認定相続承継会社とは、贈与税の特例措置の適用を受けた特例認定贈与承継会社で、相続の開始の時において、一定の要件を満たすものをいう(措法70の7の8②二)。 特例認定相続承継会社の要件については、贈与税の納税猶予における特例認定贈与承継会社、相続税の納税猶予における特例認定承継会社、一般措置の対象となる認定相続承継会社と同じである(【第2回】参照)。 ② 特例経営相続承継受贈者(後継者) 贈与税の特例措置の適用を受けていた特例経営承継受贈者で、次に掲げるすべての要件を満たすものをいう(措法70の7の8②一)。後継者の要件については、一般措置と同じである。 ③ 承継期間 相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の6)においては、「平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る相続又は遺贈による取得(以下略)」と期間を限定する記述が存在するが、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の8)には期間を限定する記述が存在しないことから、承継期間が限定されていないことが確認できる。 したがって、平成39年12月31日までに特例措置による贈与を実行している場合には、特例贈与者が平成40年1月1日以後に死亡した場合であっても、相続税の納税猶予を適用することが可能である。 (2) 円滑化法の確認 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例の適用を受ける場合には、特例贈与者の相続の開始の日の翌日から8月を経過する日までに、特例認定相続承継会社の主たる事務所の所在地の都道府県知事に申請書を提出し、上記(1)①及び②の要件を満たしていることについて、都道府県知事の確認(円滑化規則⑬一)を受けなければならない。 申請書は「施行規則第13条第2項の規定による確認申請書」【様式第17】(円滑化規則13②)とされており、一般措置と同じ様式を用いることとなる。   4 相続税の申告 特例措置の適用を受ける特例経営相続承継受贈者(後継者)は、この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書に以下の書類を添付して提出しなければならない(措法70の7の8⑤)。 申告期限、納税猶予分の相続税額、担保提供については、相続税の納税猶予と同じ内容が規定されている(措法70の7の8①・②四・④)。 上記(b)に掲げた「その他財務省令で定める事項」とは、特例経営相続承継受贈者に係る特例贈与者の死亡による相続の開始があったことを知った日、その他参考となるべき事項をいう(措規23の12の5⑪)。 *  *  * 次回は、【第3回】及び【第5回】で紹介した「事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除」の制度について詳しく解説する。   (了)

#No. 278(掲載号)
#日野 有裕、梶本 岳
2018/07/26

平成30年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第4回】「『情報連携投資等促進税制』の創設」

平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第4回】 「『情報連携投資等促進税制』の創設」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [2] 『情報連携投資等促進税制』の創設 第4次産業革命で激変するビジネス環境に迅速に対応するため、サイバーセキュリティ対策を講じながら行うIoT投資(ソフトウェア、センサー、ロボット等を連携させる投資)に対して特別償却又は税額控除ができる措置を講ずることになった。 情報連携投資等促進税制も他の設備投資促進税制と同様に、連結納税の場合でも、各連結法人ごとに適用要件の判定と特別償却限度額又は税額控除額の計算が行われる(つまり、税額控除について、研究開発税制や所得拡大促進税制のように連結納税グループでの全体計算の仕組みになっていない)。 ただし、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 具体的には、連結納税における情報連携投資等促進税制について、単体納税における取扱いと比較すると次のようにまとめられる。 なお、情報連携投資等促進税制は、「生産性向上特別措置法」の施行日(平成30年6月6日)から平成33年3月31日までの間に情報連携利活用設備の取得等をして、その事業の用に供した場合に適用される(平成30年所法等改正法附則1十四ロ)。 連結納税制度における情報連携投資等促進税制の税額控除の取扱いは上記のとおりであるが、単体納税と比較した場合の連結納税の有利・不利は次の点である。 ① 税額控除の限度額となる法人税額基準額が、連結法人税額及び連結法人税個別帰属額の両方を考慮して計算される。また、情報連携投資等促進税制の税額控除割合の上乗せ措置が適用できる賃上げ要件について、連結グループ全体で判定を行う。 例えば、次のようなケースの場合、連結納税では、損益通算後の連結法人税額を基礎にした法人税額基準額が単体納税の法人税額基準額より小さくなり、税額控除額が減少することになる。 ただし、この場合、そもそも連結納税の損益通算効果により連結グループ全体の法人税額が減少するため、その点において連結納税の採用は不利にならない。 なお、地方法人税についても課税標準が増加するため、連結納税の方が不利となる。 [情報連携投資等促進税制の有利・不利] ※画像をクリックすると別ページで拡大して表示されます。 ※1 連結法人税額11,600×20%×P社個別所得金額200,000/(P社個別所得金額200,000+B社個別所得金額100,000)=1,546 ※2 連結法人税額11,600×20%×B社個別所得金額100,000/(P社個別所得金額200,000+B社個別所得金額100,000)=773 ※3 連結法人税額11,600×20%×P社個別所得金額200,000/連結所得金額50,000=9,280 ※4 連結法人税額11,600×20%×B社個別所得金額100,000/連結所得金額50,000=4,640 ② 連結納税の場合、連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合(連結親法人が中小企業者に該当しない場合、あるいは、中小企業者に該当するが連結納税の適用除外事業者に該当する場合)、その税額控除額を住民税の課税標準(調整前個別帰属法人税額)から控除できないため、単体納税でこれを控除している連結法人がある場合、不利益が生じる。 (了)

#No. 278(掲載号)
#足立 好幸
2018/07/26

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例64(消費税)】 「特定期間で課税事業者になっていたことに気づかず、建物売却に係る消費税の納付が発生してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例64(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆特定期間(消法9の2④) 特定期間とは、法人の場合は原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう。 ◆特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例(消法9の2①) 法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、その法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されない。 ◆特定期間における課税売上高(消法9の2③) 特定期間における課税売上高については、法人が特定期間中に支払った所得税法第231条1項(給与等、退職手当金等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき給与等の金額に相当するものの合計額とすることができる。       (了)

#No. 278(掲載号)
#齋藤 和助
2018/07/26

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第19回】「所得税の納税管理人と納税地」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第19回】 「所得税の納税管理人と納税地」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は平成30年9月に、家族とともに海外へ転勤する予定です。現在は東京都(目黒区)の賃貸マンションに住んでおり、大阪市(中央区)には相続で取得した賃貸用不動産があります。海外転勤中も賃貸用不動産からの収入があることから、日本での申告が必要なのは理解しています。 聞くところによると、納税管理人の届出をすれば、その人が私の代わりに申告や納税をするということだそうですが、私の場合も簡単な申告なので、横浜市(青葉区)に住んでいる妹に頼もうと考えています。 そこで、納税管理人を選ぶ場合どうすればいいのか、何ができるのか、どこの税務署に申告書を提出すればいいのか、申告書を書く時はどうすればいいのかを教えてください。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷納税管理人とは 納税管理人とは、本人が海外転勤等で日本の非居住者となり日本における税金について自分で申告納税することできない場合に、本人に代わって申告納税等、税務関係の事務処理を行う者である。 納税管理人の届出を行った以後は、納税管理人が申告書を提出し、納税することになるが、もし本人から納税資金が送られてきていない場合は、納税管理人が立て替えて払う必要はない。この場合、納税せず、税務署から督促状が送られてきたとしても、本人に書類を送ればよいだけである。還付金がある場合も、非居住者である本人の口座ではなく、納税管理人の口座に送金される。 納税管理人は、納税者の親族や、法人もなることができる。もちろん、税理士が納税管理人に選任されるケースもある。税務関係の書類の受け渡しを本人に代わってやれることから、本事例のように非居住者の場合だけでなく、成年後見人が成年被後見人の納税管理人となることもできる。   ▷納税管理人の選任届 非居住者の申告手続きのために納税管理人を選任した場合は、納税管理人の届出書を納税地の所轄税務署長に提出することになる。この届出書には、本人の納税地や氏名、生年月日、マイナンバー、法施行地外の住所又は居所となるべき場所等本人に関する情報とともに、納税管理人の住所、氏名、本人との続柄(関係)職業、電話番号を記載する。   ▷納税地はどこになるのか 納税管理人の届出書は納税地の所轄税務署長に提出することから、どこが納税地になるのかが重要となる。居住者であるならば基本は住所地だが、非居住者となることから、納税地がどこになるのか判断しなければない。 そこで、条文を引くと、次のように優先順位が定められている。 上記六号における「政令で定める場所」は次のとおり。 本事例の場合、納税地となる可能性のある場所としては、出国まで居住していた東京都(目黒区)と賃貸用不動産のある大阪市(中央区)の2つが考えられる。もし、単身赴任で出国し、家族が残っているならば、元の住所地が納税地となるが(所法15四)、家族全員が出国するので、次の優先順位とされる国内源泉所得(不動産賃貸収入)の対価に係る資産の所在地である大阪市(中央区)が納税地となる(所法15五)。 したがって、妹は、大阪市(中央区)の所轄の税務署長に納税管理人の届出書を提出することになる。 このように所得税の納税地は細かく定められている。なお、贈与税の場合は、贈与時に日本に住所を所有していない者については、原則的には、納税地を定めて納税地の所轄税務署長に申告することとされており(相法62②)、取扱いが異なる。   ▷申告書の記載に関する留意点 所得税の申告書を提出するのは納税管理人となるが、どのように記載するのかは国税庁から公表されていない。その年1月1日現在の住所は、本人の外国の所在地となる。住所(納税地となる場所)や氏名は、本人と納税管理人の両方の記載が必要と考えられる。   (了)

#No. 278(掲載号)
#菅野 真美
2018/07/26

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第6回】「運転資本の分析(その4)」-棚卸資産-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第6回】 「運転資本の分析(その4)」 -棚卸資産-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷棚卸資産の調査 棚卸資産とは、販売用の製品・商品及び製作途中の仕掛品・半製品、製品生産用の原材料等を指すほか、製品カタログや梱包用の消耗資材などの「貯蔵品」も棚卸資産に含められることが多い。業態によっては、例えば「販売用不動産」等も「棚卸資産」となるが、本稿では主として製造業を中心として考察を進めることにする。 製造業の場合、棚卸資産は販売までに要した取得原価(製造原価)で貸借対照表に計上され、外部に販売された段階で、当該原価に適正な利潤が上乗せされ、売上債権に振り替わる。M&Aに際して棚卸資産の調査を行う場合のポイントは、棚卸資産の取得原価が販売によって適正な利潤を上乗せした金額に換価可能なものかどうか、すなわち「棚卸資産の評価額の適正性」にある。 棚卸資産のデューデリジェンスにおける主な手続は、下記のとおりである。   ▷「不良在庫」の見極め方と峻別の方法 本稿では、品質や性能に瑕疵がある等の理由から、現状有姿での定価販売が困難なものを「不良在庫」と呼ぶことにするが、棚卸資産の評価で問題となるのは、こうした「不良在庫」の見極め方と、これらの適正な評価額はいくらであるか、という点であろう。 一口に「不良在庫」と言っても、それらの中には以下のように様々なものが含まれている。 こうした「不良在庫」は、やむを得ず長期にわたり在庫として保有されている場合が多く、「滞留在庫」、「不動在庫」、「長期在庫」等と呼ばれることも多い。ある企業では、素材的に劣化が起こらないことを理由に、何十年も前に製造した製品が取得原価のまま在庫として計上されているケースもあった。品質に問題はなくとも、何十年も売れていない在庫は、果たして「正常な在庫」と言えるのであろうか。 上場企業等では、「不良在庫」について定期的に有税評価減を行っているケースも多く、この場合には税務申告における調整項目を把握することで、「不良在庫」の峻別と評価がどのように行われているかを把握できるが、非上場企業においてはそうした評価減を制度的に採用している企業は稀であろうし、とりわけ業績が悪化している企業の場合、こうした評価減を実施していない場合も多い。 このような場合、貸借対照表に計上されている棚卸資産のリストを数年分、できれば電子データ形式で入手し、これらを時系列で比較し、数量や金額に変動の見られないアイテムを抽出するとともに、在庫現物を目視して、在庫リストとの照合を行う、といった方法で、「不良在庫」の可能性のあるものを愚直にピックアップしていく必要がある。 ただし、棚卸資産は通常、膨大な量となることが多いため、現物の目視や在庫リストの照合を行う前段階として、こうした「不良在庫」の存在有無について、経営者や在庫管理担当者等にヒアリングするとともに、主力製品の品質面、機能面に問題が生じるような事象が生じていないか等について、例えば新製品の投入頻度や、当該新製品投入で代替される製品の有無、製品カタログの更新でカタログ落ちした製品の有無等について、多面的に聴取することで、こうした問題を孕んだ在庫の発生余地を把握することも有用であろう。   ▷「不良在庫」の評価方法 こうして峻別された「不良在庫」について、それらが内包している問題を踏まえ、どの程度の価値を有しているかを判断し、適正と思われる水準で評価額を与えていくことになる。 実務的には、峻別された個々の製品等について、それらが具体的にいくらの価値を有するかを個別に判定することは、技術的にも時間的にも困難な場合も多い。 自動車・船舶等の輸送機器や、汎用的な産業用機械等、中古品市場が確立されている場合には、こうした市場での売買事例をもって評価額とすることも可能であるが、そうでない場合には、金額的に重要な製品に絞って分析する等の対応が取られたり、同質の製品ごとに分類した上で、その分類ごとに一定の「掛け目」を乗じて評価することも多い。評価減を行う「掛け目」としては、製品寿命との関係等から、時の経過に伴う価値の減衰を「マイナス50%の評価減」、「ゼロ評価」等といった形で大まかに評価することもよく用いられる手法である。 品質に致命的な問題があり、もはや製品として販売することは困難な場合には、売却価値というよりは処分価値、すなわち「スクラップ価格-処分費用」等による評価となろう。   ▷「不良在庫」の存在が意味するもの こうした「不良在庫」が多額に計上されている場合、生産管理や在庫管理、販売予測の立案プロセスなどに問題がないか、十分に吟味する必要があるだろう。 上記はいずれも筆者らが実際に経験した実例の一部であるが、不良在庫の発生要因としては、想定外の経済事象の変化や得意先の事情によるケースも見受けられるものの、多くは経営者の判断ミスにより不良在庫が発生した、というケースが多い。不良在庫の存在は、買収対象企業の経営判断能力のレベルを映す鏡でもあると言えよう。 (了)

#No. 278(掲載号)
#石田 晃一
2018/07/26

連結会計を学ぶ 【第23回】「持分法に関する投資と資本の差額」

連結会計を学ぶ 【第23回】 「持分法に関する投資と資本の差額」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、持分法の会計処理に関して、投資と資本の差額及びその償却について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 持分法の会計処理 1 基本的な会計処理 「持分法」は、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法である(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)4項)。 投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額はのれん又は負ののれんとし、のれんは投資に含めて処理する(持分法会計基準11項)。 投資会社は、投資の日以降における被投資会社の利益又は損失のうち投資会社の持分又は負担に見合う額を算定して、投資の額を増額又は減額し、当該増減額を当期純利益の計算に含める(持分法会計基準12項)。 のれん(又は負ののれん)の会計処理は、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)32項(又は33項)に準じて行う(持分法会計基準12項)。 2 設例 【設例1】 投資会社と被投資会社(関連会社:20%)の個別貸借対照表は次のとおりとする。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 関連会社株式を取得した時、関連会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の取得 関連会社株式を取得した時(20%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の投資会社の個別貸借対照表に反映済み)。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社株式の取得時)  ⇒仕訳無し 持分法の適用に際して、関連会社株式の取得原価100と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100が一致している。 このため、投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がないので、のれん又は負ののれんは発生しない(持分法会計基準11項)。 〈関連会社株式の取得から1年後の個別貸借対照表〉 関連会社は、1年間の事業活動によって、当期純利益50を獲得した。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の会計処理 関連会社株式(20%の株式を保有)は、取得原価をもって貸借対照表価額としている(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)17項)。 このため、関連会社株式を取得した時の取得原価100が貸借対照表計上額となっている。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社における当期純利益の計上) 当期純利益50の20%持分額は10(=50×20%)である。 【設例2】 もし、関連会社株式の取得時の個別貸借対照表が次の場合には、関連会社株式の取得原価120と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100との間に、差額20(=120-100)が発生することになる。 当該差額20は、のれんとして会計処理することになる(持分法会計基準11、12項)。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 例えば、のれんを5年間で償却する場合の会計処理は次のようになる。 のれんの償却額4(=20÷5年)を計上する。 (了)

#No. 278(掲載号)
#阿部 光成
2018/07/26

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第6回】「遺留分制度の見直し」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第6回】 「遺留分制度の見直し」   弁護士 阪本 敬幸   (※) 下記法務省ホームページの記載による。 「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」 「法務局における遺言書の保管等に関する法律について」 前回は自筆証書遺言の方式緩和等、遺言制度の見直しについて解説したが、今回は遺留分制度の見直しについて解説する。   1 はじめに 現行民法では、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生じるとされているため、例えば相続財産に不動産がある場合、不動産の共有持分が遺留分となる。しかしこのような結論は、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせること、事業承継を困難にさせるといった問題が指摘されていた。 これを受けて法案においては、遺留分権の行使により生じる権利は金銭債権とされ、これが遺留分制度に関する改正の中心である。 このように法案では、遺留分権の行使は、遺留分を「減殺」するものではなく、侵害された遺留分に相当する金銭を請求するものとされたため、遺留分権を行使する請求権を「遺留分侵害額請求権」と呼んでいる(法案1046条、1048条等)   2 遺留分を算定するための財産の価額 現行法上も、遺留分を算定するための財産の価額を基本として、具体的遺留分の計算が行われている。 法案ではこのことを明確にするために、「遺留分を算定するための財産の価額」を、被相続人が相続開始時に有した財産の価額に贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額と定義し(法案1043条1項)、これに遺留分割合を乗じた額が遺留分となると定められた(法案1042条1項)。 遺留分割合や基本的な計算方法については、現行法と変わりはない。   3 遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の範囲 現行法上、「贈与は、相続開始前の1年間にしたもの」が遺留分の算定の基礎となるとされているが(民法1030条)、判例(最高裁平成10年3月24日判決)及び実務では、この条文は相続人以外の第三者に対して適用されるものであり、相続人に対する贈与は贈与の時期を問わず遺留分算定の基礎とされてきた。 しかし、全ての贈与が遺留分算定の基礎とされると、大昔の贈与も遺留分算定の基礎となり、このような場合に遺留分減殺請求があったとすれば、まず遺贈から減殺されるため、受遺者は自分が知らない大昔の相続人に対する贈与が原因となって減殺を受けるということとなり、受遺者に不測の損害が生じる恐れがある。 このため、相続人に対する贈与のうち、相続開始前10年間になされた、婚姻若しくは養子縁組のため又は成型の資本として受けた贈与に限って、遺留分を算定するための財産の価額に算入されることとなった(法案1044条3項)。   4 負担付贈与がされた場合における遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の価額等 現行法上、負担付贈与があった場合、目的の価額から負担の価額を控除したものについて減殺を請求できるとされている(民法1038条)。 法案も、負担付贈与があった場合、法案1043条1項に規定する贈与した財産の価額は、目的の価額から負担の価額を控除した額とするとされた(法案1045条1項)。現行法では、負担付贈与であっても、贈与額全部を遺留分算定のための財産の価額に加えて遺留分を算定しつつ、減殺の対象を負担額控除後の額とすると解釈する余地があったが、法案ではこのような解釈の余地は無くなった。 また現行法上、不相当な対価をもってした有償行為(廉価での売買等)について、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合には、これを贈与とみなし、遺留分権利者が遺留分減殺を請求した場合には、対象財産全部の減殺が認められ、(不相当な)対価を侵害者に償還することとされている(民法1039条)。 しかし法案により、遺留分権者の請求権が金銭債権化されたため、現行法のような「遺留分減殺及び対価の償還」という処理ではなく、全て金銭的に処理することになる。このため、不相当な対価をもってした有償行為は、対価を負担の価額とする負担付贈与とみなし、上記法案1045条1項に従って処理されることとなった。   5 遺留分侵害額の請求 冒頭で述べたように、遺留分権者の請求権は金銭債権化されて「遺留分侵害額請求権」とされ、法案1046条1項に定められた。これに伴い、遺留分減殺請求権を定める現行民法1031条、1032条は削除された。 また法案1046条2項には、遺留分侵害額の具体的計算方法が規定された。規定された計算方法は、現行実務と同様であり、以下の通りである。   6 受遺者又は受贈者の負担額 受遺者・受贈者の遺留分侵害額の負担の順序(法案1047条1項)については以下の通りであり、現行法(民法1033条ないし1035条)と特に変わるところはない。 また、受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担する点(法案1047条4項)も、現行法(民法1037条)と同様である。 さらに、遺留分権の行使により金銭請求権が発生することとなったことに伴い、以下のような変更がなされた。 ③は、実質的には相殺(遺留分侵害額請求権と、受遺者・受贈者が遺留分権利者に対して取得する求償債権との相殺)であるが、相殺適状が生じていないような場合(例えば、遺留分権利者が承継した債務が弁済期前であったが、受遺者・受贈者がこれを弁済した場合には、弁済期到来まで相殺適状とはならない)など、相殺ができない場面でも、相殺的な処理を可能とするものである。   7 遺留分侵害額請求権の期間の制限 現行法(民法1042条)と同様である。遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分侵害の事実があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で、消滅時効により消滅する。 (了)

#No. 278(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/07/26

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第2回】「消滅時効(その2)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第2回】 「消滅時効(その2)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 一定の理由で時効が中断される場合等について、見直しがあるようですが、どう変わるのでしょうか。 【A】 以下のように見直される。   1 現行法の時効の中断、時効の停止の制度 本連載【第1回】でも解説したとおり、消滅時効とは債権者が権利を行使しないまま一定期間が経過した場合、その権利を消滅させる制度である。一方、時効期間満了までに一定の法定の事由が生じたときには、時効期間がリセットされたり、時効の進行が一定期間停止するものとされている。これを現行法では、「時効の中断」または「時効の停止」という。 (1) 時効の中断 「時効の中断」とは、法律で定められた一定の事由が発生した場合に、それまで経過した時効期間はリセットされ、中断事由が終了したときから、新たに時効期間が進行する制度である。具体的には、債務者が一部弁済をするなど債務の承認にあたる行為をした場合(承認、現行法147条3号)や、債権者がその債権を請求する訴訟を提起した場合(請求、現行法147条1号、149条)などが中断事由として定められている。 また、「催告」も時効の中断事由として定められているが(現行法153条)、これは時効期間をリセットするものではなく、一定期間、その完成が猶予される制度である。 【時効の中断(現行法)】 (2) 時効の停止 一方、「時効の停止」とは、時効期間が満了するときに、債権者が訴訟を提起するなどして時効を中断することができない事情がある場合に、その事情が消滅してから一定期間が経過するまで時効の完成を猶予する制度である。具体的には、時効期間の満了直前に天災等が生じて訴訟を提起することなどができないときには、それが解消してから2週間の間は時効の完成が猶予される(現行法161条)。 【時効の停止(現行法)】   2 改正の内容 上記のとおり、現行法は「時効の中断」、「時効の停止」という用語が使われている。しかしながら、「中断」という言葉は、時効期間をリセットするという効果を想定しにくいし、また「中断」の効果には時効期間のリセットと完成猶予の概念とがあり、わかりにくかった。また、「停止」という言葉からも、完成が猶予されるという効果は想定しにくいと言われていた。そこで、以下のとおり用語を変更し、時効制度を整理することとした。 時効の中断事由については、その効果に着目し、時効期間が満了しても時効が完成しない事由である「完成猶予」と、時効期間をリセットして新たに1から時効が進行するという「更新」という2つの制度を作り、時効制度が再構成されている。 主な現行法の中断事由がどうなるかについては以下のとおりである。 また、現行法の時効の停止事由については、「完成猶予」事由とされた(改正法158条~161条)。 こうした時効制度の再構成については、実務上大きな影響はないといえるが、どうすれば時効期間をリセットできるのかなどについては、今一度整理していただきたい。   3 その他 (1) 天災等による完成猶予期間の伸長 天災等により時効中断事由がとれないときに、現行法においても、時効の停止(完成の猶予)が認められることは先に解説したとおりであるが、「天災等が解消してから2週間しか完成が猶予されないのは期間が短すぎるのではないか」という意見があった。 特に昨今は大きな災害が相次いでいるため、改正法ではこれを伸長し、その障害が消滅した日から3ヶ月間は時効の完成が猶予されるものとされた(改正法161条)。 (2) 協議による時効完成の猶予 現行法では、紛争解決のために当事者が協議し、さらに協議を継続すれば協議による解決が見込める場合でも、時効期間が迫っているときには、時効の完成を阻止するために訴訟を提起しなければならず、協議による解決の支障となることがあると指摘されていた。そこで、当事者の協議による柔軟な解決の道を拡げるため、改正法では、当事者の協議による時効の完成の猶予を認めることとした。 具体的には、当事者が書面または電磁的記録で協議を行う旨の合意をしたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までは、時効の完成が猶予されるものとされた(改正法151条)。 時効に関する規定は強行法規であり、改正法下においても、例えば当事者の合意によって時効期間を延長することは認められないが、例外的に、当事者の合意によって一定の範囲で時効の完成時期を変更することを認めたものといえる。 (了)

#No. 278(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2018/07/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例27】株式会社妙徳「会計監査人の異動に関するお知らせ」(2018.6.11)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例27】 株式会社妙徳 「会計監査人の異動に関するお知らせ」 (2018.6.11)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社妙徳(以下「妙徳」という)が平成30年6月11日に開示した「会計監査人の異動に関するお知らせ」である。 一見すると、よく見る平凡な、会計監査人の異動に関する開示である。異動の理由も、「定時株主総会終結の時をもって任期満了」という決まり文句となっている。 しかし、最初の主文が次のように記載されている。 機関決定日と開示日が異なり、遅延開示なのだ。しかも、1日や2日の遅延ではないため、「決議いたしましたが、(中略)開示しておりませんでしたので、下記のとおりお知らせいたします」という、なかなか目にしない言い回しがなされている。 筆者は、当初、「2月13日に開示すべきものを6月11日に開示するとは、4ヶ月も遅延したのか」と思っていた。 しかし、よく見るとそうではない。平成29年2月13日に開示すべきものを平成30年6月11日に開示しており、4ヶ月どころの遅れではなく、1年と4ヶ月遅れの開示なのである。これだけの遅延開示は極めて珍しい。   2 なぜ気づかなかったのか? この開示の「8.その他」は次のように記載されているが、体制強化以前の問題だろう。そもそも体制なるものが存在したのか、適時開示に関する知識を有する人物が存在したのかさえ、疑わしく思われてくる。 おそらく、開示に関わる者も役員も、公認会計士等の異動に関して適時開示が必要であることを知らなかったのだろう。そして、1年と4ヶ月が経ち、ようやく監査法人が交代している事実に気づいた証券取引所に指摘されたのだろうか。 某大学の「経営情報学部」の教授の方が社外取締役に、某証券会社出身の方が社外監査役に就任しているが、その方々も適時開示についてはご存知ではなかったようである。 公認会計士の方が社外取締役か社外監査役だったら、さすがにこの開示漏れには気づいたはずだ(注)。 (注) 妙徳はジャスダック上場会社なので適用されないが、コーポレートガバナンス・コードの「原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」の中には、「監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。」という記載がある。「財務・会計に関する十分な知見を有している者」に該当するのは、ほぼ公認会計士だろう。もとより公認会計士等の異動に関する適時開示の漏れの防止を意図した原則ではないが。   3 他にもあるのでは? 今回の開示を見ると、どうしても「他にも開示漏れがあるのでは?」と思えてくる。仮にインサイダー取引規制の対象となる情報の開示が漏れたまま、妙徳の関係者が同社株式の売買を行っていたら、大変である(平成28年には同社自体が自己株式の取得を行っているし)。「適時開示体制の強化に努める」前に「他に開示漏れがないか調べた方がいいのでは」と老婆心ながら忠告したくなる。 また、「こうした会社が他にもあるのではないか」と心配にもなってくる。上場会社の重要事実が投資家に対して最初に示され、株価形成に直接影響を与えるのが適時開示である。もしもこうした開示漏れがたくさん潜んでいるとしたら、日本の株式市場の信頼性に関わる問題だろう。 (了)

#No. 278(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/07/26
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