〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第9回】 「情報セキュリティはどの程度まで行う義務があるのか」 弁護士 影島 広泰 -Question- 情報セキュリティについて様々な文書が公表されていますが、会社としては、いったいどの程度まで対策を行う必要があるのでしょうか。 -Answer- 「その当時の技術水準」に従った対策を講じる必要があります。各種のガイドライン等で「必要である」とされている対策は行うようにしましょう。 情報セキュリティについては、様々な組織・団体がガイドラインや報告書等を公表している。いったい何をどこまで対応すればよいのか、頭を悩ませている方も多いであろう。 今回は、法的な義務として、どこまで対応することが求められるのかを、2つの裁判例に基づいて検討する。 1 サイバーセキュリティの法的義務(東京地裁平成26年1月23日判決) ある会社が、商品の受注システムの開発をITベンダに委託し、稼働を開始した。ところが、そのシステムにセキュリティ上の脆弱性があり、顧客のクレジットカード番号が漏えいしてしまった。そこで、発注元の会社がITベンダに対して損害賠償請求をしたのがこの事件である。 本件でクレジットカード番号が漏えいしてしまった理由は、大きく2つあった。①SQLインジェクション攻撃(※)に対する対応をしていなかったことと、②クレジットカード番号を暗号化せずに長期間保存していたことである。東京地裁は、①についてはITベンダの責任を認め、②については責任を認めなかった。責任の有無を分けたのがどの点であったのかが、本件のポイントである。 (※) SQLとは、データベースを操作するための言語である。SQLインジェクション攻撃とは、SQLに特別な操作をすることにより不正な処理を行わせ、データを漏えいさせる攻撃をいう。 まず、①について、東京地裁は、以下のとおり判示した。この部分が、この判決で最も重要な部分である。 つまり、契約書などにセキュリティ要件が明確に記載されていないとしても、「その当時の技術水準に沿ったセキュリティ対策」を施すことが当然に法的な義務であるとしているのである。 そうなると、「その当時の技術水準」をどのように決めるのかが問題となる。この点について、東京地裁は、以下のとおり判示した。 このように、経済産業省やIPAが「重点的に実施することを求める」あるいは「必要である」としていたことから、SQLインジェクション攻撃への対応は「その当時の技術水準」であるとされ、これに対応していなかったことは債務不履行であると判断されたのである。 これに対し、②クレジットカード番号を暗号化せず長期間保存していた点については、経済産業省の当時の個人情報保護法のガイドライン及びIPAの文書において「対策を講じることが『望ましい』と指摘するものにすぎない」ことなどから、債務の内容を構成しないと判断している。 この裁判例の教訓としては、契約書や利用規約などにセキュリティについて明記されていなくても、経済産業省やIPAのような公的な団体が「対策が必要である」などとしていると「当時の技術水準」であるとして当然に法的な義務であるとされる可能性があるということである。 冒頭に述べたとおり、様々な組織・団体がガイドラインや報告書等を公表している。これらは、それ自体が法的拘束力を有していないとしても、万が一情報漏えいなどが発生した際に、情報セキュリティを十分に施していたといえるかどうかを判断する「当時の技術水準」として引用される可能性があるものである、ということになる。 取引先、顧客、クライアントなどからデータを預かる場面は数多くあると思われるが、各種ガイドラインや報告書が「必要である」としているものは対応するよう心がける必要がある。 2 システム外の社内体制等(東京高裁平成25年7月24日) もう1つの裁判例が、株式の誤発注事件をめぐる証券会社と東京証券取引所との訴訟である。 証券会社の担当者が「61万円で1株」と売り注文すべきところ、誤って「1円で61万株」と入力してしまった。証券会社は、誤りに気付いて注文の取消処理を行ったが、東京証券取引所のシステムのバグがあり、取消処理が行えなかった。そのため次々と売り注文が成約し、400億円を超える売却損が生じてしまった。そこで、証券会社が、東京証券取引所に417億円の損害賠償請求をしたのがこの事件である。 東京高裁は、東京証券取引所に一部の責任を認め、107億円の請求を認容した。 この事件では、システムにバグがあったことには争いがなかったため、まず、①バグの作り込みを回避することが容易であったか(取引所に重過失があったか)が問題となった。 これは技術的な争点であり、原告・被告双方から専門家の意見書が提出されていたが、東京高裁は「科学的・技術的争点であるが、当事者双方が提出する専門家意見書が相反するものであり、甲乙つけがたい」とし、「双方の専門家意見書の証拠評価を試みた結果、本件においては、一定の蓋然性ある事実として、本件バグの発見等が容易であることを認定することが困難であったということに尽きる。争点の性質上、司法判断としてはやむを得ないところである。」と判示した。 つまり、このような技術的な争点については、裁判所としては判断できなかったと認めたのである。これは、法的には、この論点の重過失について立証責任を負っていた証券会社側の負けということを意味している。 では、取引所側の責任はどこで認められたのか。東京高裁は、②売買を停止すべき義務があったとして、その義務違反を認めた。 つまり、異常な取引であることを認識しており、売買を停止することが可能であったにもかかわらず売買を停止しなかったことが義務違反であるとして、107億円の損害賠償義務を認めたのである。 上記のとおり、システム内のバグの作り込みを回避することが容易であったかどうかといった技術的な争点について、責任があったと認められなかったものの、システム外で何をすべきであったのかという論点で責任が認められたのである。 システムのバグやセキュリティには、100%はあり得ない。会社としては、そのようなバグやセキュリティホールによりインシデントが発生してしまった場合に何をすべきであったのかという、システムの外側にある会社としての体制が問われ、そこで過失を認定される可能性があるため注意が必要である。 3 代表的なガイドラインとは 以上で述べた2つの裁判例は、車の両輪のようなものである。システムとしては「当時の技術水準」に沿ったセキュリティ対策を施すことが法的な義務であり、システムの外側ではインシデント発生時の社内体制が問われる。 このような情報セキュリティと社内体制の両方をカバーしたガイドラインとして、個人データの取扱いについては個人情報保護法の通則ガイドラインが義務を定めていることはこれまで述べてきたとおりであるが、サイバーセキュリティについては、経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」が現在最も著名で包括的な内容を定めている。同ガイドラインが定めている「重要10項目」の対策をし、システム的にも社内体制としても十分な対策ができている状態を目指したい。 (了)
2018年12月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.297を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.71- 「日本型記入済み申告制度の導入へ」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 政府税制調査会の「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について(意見の整理)」(2018年11月7日、以下「意見の整理」)を読むと、ようやくわが国も、日本型記入済み申告制度に向けて舵を切ったということが見て取れる。 その参考資料の25ページに、「マイナポータルを活用した申告の簡素化策(検討中の方向性のイメージ)」として、行政機関等から医療費データなどをデータ連携でポータルに送付する方法と、民間企業から保険料控除証明書データや住宅ローンの年末残高証明書データ、支払情報(要検討)などを民間送達サービスを通じて入手するという2つのルートを図示している。 【参考】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 税制調査会ホームページより このコンセプトは、筆者たちが提言してきた「日本型記入済み申告制度」であり、本連載のNo.53及びNo.55において述べたものである。おそらく完全導入にはまだ時間がかかるだろうが、わが国の記入済み申告制度は、国税当局が納税者に直接申告に必要な情報を提供するのではなく、マイナンバー制度のマイナポータルを通じて「順次情報の範囲を広げていく」という方法で進んでいくということである。 その理由は、筆者が推測するに、わが国には世界に冠たる年末調整制度が導入されており、国税当局としては、まずはこのIT化を進めていくことの方が優先度合いが高いということではなかろうかと想像する。 * * * では、「順次情報の範囲を広げていく」という場合、どのように展開していくのだろうか。カギとなるのは、プラットフォーマーからの情報入手である。 この点について「意見の整理」では、「ロ 税務当局による必要な情報の取得等」として、以下の点を挙げている(筆者要約)。 上記からは、①任意の照会についての法整備と、②悪質な場合等の実効的な照会・不服申立てといった2本立ての対応となることが読み取れる。 12月中旬には与党税制調査会で大綱の決定という形で結論が出るが、この問題は今後とも検討が続けられていくであろう。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第3回】 「法人税の課税所得計算と損金経理(その3)」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 (5) 確定決算主義と逆基準性 次に、わが国における法人税の課税所得計算に関して、企業会計準則主義とともに重要な原則である「確定決算主義」について確認しておきたい。 確定決算主義とは一般に、法人は確定した決算に基づき、確定申告書を作成し提出すべきことを指す(法法74①)(※1)。ここでいう「確定した決算」とは、会社法上、定時株主総会による計算書類の承認(会社法438②)又は定時株主総会に提出された計算書類の取締役による内容の報告(会社法439)を意味する(※2)。 (※1) なお広義では、損金経理や公正処理基準を含むと解されている。岡村忠生『法人税法講義』(成文堂・2004年)29頁。一方、渡辺教授は、確定決算主義は手続的なルール、公正処理基準は実体的なルールと整理する。渡辺徹也『スタンダード法人税法』(弘文堂・2018年)36頁。 (※2) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)868頁。 ただし、判例上、例えば、事業年度末に総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に作成した決算書類に基づいて作成し行った確定申告は、当該決算書類につき株主総会の同意を得ていないとしても有効であるとされる(福岡高裁平成19年6月19日判決・訟月53巻9号2728頁)など、一定の場合には、株主総会の承認を受けていない計算書類に基づく確定申告も有効であると解されている。 ところで、このような確定決算主義をめぐりかねてから問題となってきた事象に、いわゆる逆基準性(逆基準現象)の問題がある。この点については、会計学と租税法とではやや異なった見解が提示されている。 会計学では、伝統的に、わが国の法人税の課税所得計算の構造について、企業会計(金融商品取引法)、商法・会社法、法人税法とが相互に影響を及ぼしている、いわゆる「トライアングル体制」がみられるという指摘がなされてきた。これについて以下で検討してみる。 〇トライアングル体制の概念図 上記のようなトライアングル体制は、会計学者や企業会計に携わる実務家からネガティブに語られることが多い。すなわち、トライアングル体制の問題点として、上記のうちの法人税法・税務会計が商法・会社法会計又は企業会計・金融商品取引法に影響を及ぼす「逆基準性」があるとされるのである。 逆基準性とは一般に、例えば減価償却費のように、法人税法に定められた耐用年数、償却方法等により株主総会で承認され確定した決算において計算し算出した金額を費用として計上した場合にのみ、法人税法上も損金として認められる(損金経理要件、法法31①)ことから、企業が会計理論上は他の基準の方が適切である場合も、損金として認められる等の理由で法人税法の基準(税務会計)に従ってしまうという現象を指す。更に、企業会計の基準が明確でない場合、法人税法の規定や取扱い(税務会計)で確立された基準が企業会計に影響を及ぼすことも、逆基準性が生じる理由として挙げられる(※3)。 (※3) 金子前掲(※2)書332頁参照。渡辺教授はこのことを「租税法の規律密度が高い」と称する。渡辺前掲(※1)書44頁。 要するに、「逆基準性」の問題とは、会計理論とは別個の法人税法の基準に企業が従ってしまうため、企業の財務諸表が「不当に歪められてしまう」ということである。これは、法人税法の強制力が会計慣行や会社法よりも強いことを意味する。 これに対しては、租税法学者の有力な反論がある。すなわち、法人税の課税所得計算構造は、まず基底に企業会計があり、その上に商法・会社法の会計規定があり、更にその上に法人税の規定(税務会計)がある(会計の三重構造という)のであり、企業会計が商法・会社法を媒介せず直接法人税の規定(税務会計)に影響を及ぼすことが前提となっている、上記トライアングル体制という認識そのものが誤りであるということである(※4)。 (※4) 金子前掲(※2)書331-332頁。 そう考えると、確定決算主義における逆基準性の問題はあくまで法人税法と商法・会社法の間の問題であり、企業会計が直接これを問題視するのは越権行為であるといえるのであろう。 〇法人税の課税所得計算構造(会計の三重構造(※5)) (※5) 中里教授は「三層構造」と呼んでいる。中里実「法人税における時価主義」金子宏編『租税法の基本問題』(有斐閣・2007年)458-459頁参照。 渡辺教授は、租税法の立場から、確定決算主義を採用する根拠に説得力のあるものが少なく、理論的には商法計算と税法計算とは分離すべきであると主張する(※6)。一方、確定決算主義を採用しないアメリカにおいては企業会計上の利益が課税所得を大幅に上回っている半面、確定決算主義を採用するわが国は全く逆の現象がみられるという興味深い事実を指摘する研究もある(※7)。 (※6) 渡辺徹也「確定決算主義の再考」『蓮井良憲先生・今井宏先生古稀記念企業監査とリスク管理の法構造』(法律文化社・平成6年)591-603頁参照。 (※7) 土居信彦=島袋伊津子=松木智博「企業会計と税務会計の乖離とコーポレート・ガバナンス」『企業統治の多様化と展望』(金融財政事情研究会・2007年)246-249頁参照。 私見では、確定決算主義の効果は企業会計上の利益との比較で課税所得を維持することに表れており、確定決算主義を維持すべき最大の理由はここにあると考えるところである。わが国において、特に中小企業においては、会社法上の監査役よりも税務署による税務調査の方が財務諸表の正当性・健全性を担保するのに重要な役割を果たしているというのは、企業会計実務に携わる多くの者の偽らざる気持ちであろう。また、確定決算主義の下では、株式公開企業は監査役監査・公認会計士監査に加え、課税庁のチェックも受けることとなり、結果として課税所得は維持される傾向にあるといえるであろう。 仮に逆基準性の弊害があるとした場合、その問題を解決する会計技術上の手段としては、例えば、税効果会計の採用があり、更に「逆基準性により歪められた」金額を注記として開示する方法等が挙げられる。したがって、現在の法人税法と企業会計との関係を変えることなくして逆基準性の弊害を除去することは、実はそれほど難しくないものと考えられる。 ところで、近年は世界各国によるIFRS(国際財務報告基準)の採用に伴う国内会計基準のIFRSへの収斂・準拠(コンバージェンス)により、会計基準の目的が従来と変貌しつつある。そのような中、政府税調が、「法人税の課税所得は、今後とも、商法・企業会計原則に則った会計処理に基づいて算定することを基本としつつも、適正な課税を行う観点から、必要に応じ、商法・企業会計原則における会計処理と異なった取扱いとすることが適切と考える。(※8)」としているように、会計基準と法人税の課税所得計算とに乖離が生じる項目(例えば組織再編成など「別段の定め」の精緻化(※9))が増加している。 (※8) 政府税調「平成8年法人課税小委員会報告」(平成8年11月)参照。 (※9) 濱田洋「国際化の中の確定決算主義」『租税法研究』40号78頁。 会計基準による利益計算と法人税の課税所得計算とでは算定目的が異なるため、ある程度の乖離は免れないとみるべきであろうが、一方で、法人税法に則って課税所得計算を行う法人の大部分はIFRSとは縁遠い中小企業であることを踏まえると、現行法人税の課税所得計算の原則である公正処理基準と企業会計準拠主義、確定決算主義は、今後も維持することが基本となるであろう。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第65回】 「印紙税調査とは」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 印紙税に関する税務調査とはどのようなもので、どのように行われるのでしょうか。 印紙税の調査は、国税局又は税務署の調査担当者が、調査時対象先において日常作成されている文書を把握し、その文書に対する課否判定を行い、適正に収入印紙が貼付されているかどうかの確認が行われる。 [印紙税調査の方法] 印紙税調査の方法は印紙税の調査のみを行う「印紙税単独調査」と所得税や法人税等の調査時に併せて行う「印紙税同時処理」に分けられる。 [調査の対象者] (1) 印紙税単独調査 (2) 印紙税同時処理 「印紙税同時処理」は所得税、法人税等の調査時に同時に実施されるものであり、その際に不納付文書が把握された場合には、過怠税の賦課徴収がされる。 [印紙税調査の担当者] (1) 国税局職員が調査する納税者 原則として資本金50億円以上の法人や資本金50億円未満の企業であって国税局長が特に指定する法人(課税文書の作成が多量にあると認められる法人等)。 (2) 税務署の職員が調査する納税者 (1)の国税局職員が調査する納税者以外の法人等。 [調査の方法] [調査の処理] 不納付が把握された場合は、納付しなかった印紙税の3倍又は1.1倍の過怠税が賦課決定される。なお、法第11条又は第12条による申告納税方式による場合は、修正申告又は更正による処理となる。また、不正の行為により印紙税を免れるような場合には罰則規定が設けられているなど、厳しい処分となっている。 不納付の指摘を受けないためにも、対外的に発する文書の作成時には、事前に印紙税の検討が必要である。なかでも営業サイド等で作成され、総務、法務サイドでは把握されていない文書については印紙税の検討がされておらず、不納付の指摘を受ける場合も多いため、対外的に文書を作成するような場合は必ず総務、法務部等を通すなどの措置を講ずることが必要である。 (了)
海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第9回】 「移住後に公的年金(国民年金や厚生年金)を受け取る場合」 税理士・行政書士 島田 弘大 Question 私は来年、海外へ移住することを検討しています。現在、公的年金を受け取っていますが、移住して非居住者となった後はその受け取った年金について確定申告をする必要があるのでしょうか。移住後の課税関係を教えて下さい。 Answer 1 はじめに リタイア後に海外へ移住してゆっくりと過ごしたいと考える方も多い。年金の取扱いについて質問を受けることがあるが、ご質問のように、非居住者となった後に国民年金や厚生年金などの公的年金を受領する場合、日本側ではどのような課税関係になるのか解説したい。 2 非居住者が公的年金(国民年金や厚生年金など)を受け取る場合の課税関係 今回も非居住者の国内源泉所得の課税関係であるため、まずは国内法によりその年金収入が国内源泉所得に含まれるのかを確認し、さらに日本と居住地国との間の租税条約を確認して日本側の課税関係を整理する流れになる。 (1) 日本の所得税法 ① 非居住者の課税所得の範囲 日本の所得税法上、居住者は原則として、日本国内だけでなく国外も含めた全世界所得が課税対象とされるが、非居住者は日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされる(所法161)。 ② 国内源泉所得の範囲 上記①の通り、非居住者は「国内源泉所得」のみが課税対象になるが、平成29年分以降の「国内源泉所得」の範囲は下記の通りである(所法161①~⑰)。下記の通り、所得税法第161条12号ロに「公的年金」が含まれている。つまり、非居住者が受領する公的年金は国内源泉所得に該当することになる。 退職所得のように居住者であった期間に行った勤務に基因するものに限定されていないため、非居住者期間中に行った勤務に基因するものも含めて、公的年金は日本の国内源泉所得とされている。 ③ 公的年金等の定義 ここでいう「公的年金等」とは、所得税法第35条3項に定義されているものとされている。 さらに、所得税法第31条第1号及び第2号に規定されている年金について詳しく見ていきたい。 なお、外国の法令等に基づいて支給される年金は、公的年金の範囲から除かれている(所令285②、所令72③八)。 つまり、「公的年金等」とは国民年金や厚生年金だけでなく、共済年金や企業年金も含まれることになる。ただし、外国の法令に基づく年金は国内源泉所得には含まれない。 ④ 課税方法と税率 上述の通り、非居住者が受領する公的年金(国民年金や共済年金など)はその全額が国内源泉所得に該当し、一定額を控除した残額に対して20.42%の税率により源泉徴収する必要がある。源泉分離課税であるため、20.42%の源泉徴収により課税関係は完結し、所得税の確定申告を行う必要はない。 なお、源泉徴収される金額の計算方法は下記の通りである(所法213①一イ、措法41の15の3③)。 (2) 租税条約の取扱い ① 租税条約に「居住地国のみで課税」の規定がある場合 アメリカやシンガポール、マレーシア、香港、スイスなどに移住する場合には、日本と各国との租税条約にて「居住地国のみで課税」と規定されている。つまり、租税条約の届出を提出することにより日本での源泉徴収20.42%は免除されることになる。 ② 租税条約に「居住地国のみで課税」の規定がない場合・租税条約を締結していない場合 一方で、タイやカナダなどとの租税条約では特に年金に関する条項がなく、その他の所得として日本でも課税できることになっている。つまり、日本の所得税法が適用され、日本で20.42%の源泉徴収が必要になる。 ③ 最後に居住地国の税法を確認 移住先の国との間の租税条約に「居住地国のみで課税」という規定があれば、日本で源泉徴収は免除されるが、居住地国で課税されるかどうかは移住先の国の税法を確認する必要がある。 ここからは参考までにであるが、例えばシンガポールに移住した場合、シンガポール国内法では日本での公的年金は国外源泉所得として課税対象にはならない。また、上述の通り日本・シンガポール租税条約では「居住地国(この場合シンガポール)のみで課税」とされているため、日本での源泉徴収は免除される。したがって、特に受領する公的年金について納税義務は生じないこととなる。 ④ 租税条約の届出 なお、租税条約により源泉徴収の免除の適用を受けたい場合には、届出が必要であるため注意が必要だ。 具体的には、最初の年金の支払いを受ける日の前日までに「租税条約に関する届出書 様式9(退職年金・保険年金に対する所得税及び復興特別所得税の免除)」をその年金の支払者を経由して税務署に提出する必要がある。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第14回】 「今後予定されているe‐Taxソフトの機能変更等」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 本来、e‐Taxソフトで申告データ作成時に基本情報として入力する必要がある自社の法人名及び本店所在地、また、一部の勘定科目内訳明細書に入力する必要がある取引相手先等の法人名及び本店所在地について、 2019年4月以後の申告からは、「法人番号」を入力することにより国税庁の「法人番号公表サイト」から最新情報を取得して自動反映することができる機能がe‐Taxソフトに実装される予定です。 この場合に、勘定科目内訳明細書に入力する各取引相手先等の「法人番号」については、初年度は「法人番号公表サイト」において検索した番号を入力フォームに入力する必要がありますが、翌年度以降は当該取引相手先の法人名及び本店所在地の情報を自動転記するだけで済むため、効率的な入力が図られます。 また、勘定科目内訳明細書に記載された各取引相手先の債権債務等残高については、提出先税務署において手入力で資料化されることになりますが、法人番号が入力されてデータ送信されることにより、資料収集の自動化・資料内容の高精度化が図られ、行政側にとっても大きなメリットがあります。 【e‐Taxソフトの機能変更(法人番号)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) 国税庁は総務省と連携して、「e‐Taxソフト」と「eLTAXソフト(PCdesk)」の仕様を共通化し、法人税申告情報等のエクスポート機能やインポート機能等を実装し、法人税及び地方法人二税(法人住民税及び法人事業税)の電子申告における共通記載事項の重複入力排除に向けて取り組んでいて、 2020年3月以後の申告から利用可能となる予定です。 なお、共通記載事項の重複入力排除については、市販ソフトでは既に実装されているものが多いので、「e‐Taxソフト」や「eLTAXソフト(PCdesk)」の機能改善を待たずに「市販ソフト」を導入することにより、余裕を持ったスケジュール感で義務化に対応することができるでしょう。 また、法人税及び地方法人二税については申告データの提出先の一元化についても検討が進められていますが、こちらについては民間ソフトベンダーにおいても今後の対応となるでしょう。 【e‐Taxソフトの機能変更(法人税及び地方法人二税の共通記載事項の重複入力排除)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) (了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第8回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 13 返品権付き販売 (1) 返品権付き販売 返品権付き販売とは、顧客との契約において、商品・製品(及び一部のサービス)の支配を顧客に移転するとともに、当該商品・製品(及び一部のサービス)を「返品して、以下の(ⅰ)から(ⅲ)を受ける権利」を顧客に付与する場合をいう(適用指針84)。 返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付で提供される一部のサービス)の販売では、以下の①から③の会計処理を行う(適用指針85、86、87、88、105)。 なお、返品受入期間中に返品される商品・製品の受入れに備えるという約束は、返金を行う義務とは別の履行義務として処理しない(適用指針161)。 また、正常品と交換するために欠陥のある商品又は製品を顧客が返品することができる契約は、財又はサービスに対する保証(12.(連載第7回)参照、適用指針34~38)に従って会計処理する(適用指針89)。 (2) 返品権付き販売(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 14 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション (1) 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション 顧客との契約において、既存の契約(商品・製品の販売やサービスの提供)に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合で、そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときには、当該オプションは履行義務に該当する。 ここで、重要な権利を顧客に提供する場合とは、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合をいう(適用指針48)。 例えば、ポイント制度、販売インセンティブ、顧客特典クレジット、契約更新オプション、将来の財又はサービスに対する値引き等が該当する(適用指針139)。 重要な権利を顧客に提供するオプションは履行義務であるため、取引価格を本体部分の履行義務(商品・製品の販売、サービスの提供)とオプションに配分(【STEP4】参照)し、その履行義務ごとに収益を認識する必要がある。 ① 独立販売価格 オプションへの取引価格の配分は、【STEP4】のとおり独立販売価格の比率で行う(【STEP4】参照、基準66)。しかし、追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合には、オプションの行使時に顧客が得る値引きについて、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の要素を反映して、オプションの独立販売価格を見積る(適用指針50)。 ② 収益の認識時期 追加の財又はサービスが移転する時あるいは消滅する時までは、オプションに配分した金額は、契約負債として収益を繰り延べる。そして、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは追加の財又はサービスを取得するオプションが消滅する時に収益を認識する(適用指針48)。 したがって、従来、取引価格全額を収益として認識した上で、ポイント引当金を計上していたと考えられるが、収益認識基準等ではポイント部分に取引価格を配分することになる。また、ポイント引当金の計上においては、販売価格ベースで計上する場合又は企業が負担する原価ベースで計上する場合があると考えられるが、収益認識基準等では取引価格の配分(ポイント部分(契約負債)の計上)は独立販売価格で行う。 (2) 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第80回】 スルガ銀行株式会社 「取締役等責任調査委員会調査報告書(平成30年11月14日付)」 「監査役責任調査委員会調査報告書(平成30年11月14日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 本連載では、【第78回】と【第79回】の2回に分けて、スルガ銀行株式会社(以下「スルガ銀行」と略称する)が設置した第三者委員会による調査報告書の内容を概観し、シェアハウスオーナーの被害の実態を検証してきたが、後編となった【第79回】の公開直前である11月12日に、スルガ銀行は、現旧取締役等に対する損害賠償請求訴訟の提起を行ったこと、設置した「取締役等責任調査委員会」及び「監査役責任調査委員会」の報告書を受領したことを公表した。 そこで本稿では、スルガ銀行が11月14日に公表した「取締役等責任調査委員会調査報告書(公表版)」(以下「取締役責任報告書」と略称する)及び「監査役責任調査委員会調査報告書(公表版)」(以下「監査役責任報告書」と略称する)について検証したい。 なお、取締役責任報告書では、「シェアハウスローンの監視監督義務違反の有無」とともに、「内部統制システムの構築に関する取締役の善管注意義務違反の有無」について、監査役責任報告書では、「シェアハウスローンに関する監査役の善管注意義務違反の有無」とともに、「内部統制システムの構築に関する監査役の善管注意義務違反の有無」をそれぞれ判断しているが、本稿では、紙幅の関係から、「内部統制システム」については論考を割愛し、「シェアハウスローン問題」に限って、取締役等及び監査役の責任がどのように判断されたのかを検証する。 【スルガ銀行による適時開示】 【シェアハウス向け融資をめぐる経緯】 取締役責任報告書では24頁以下に、監査役責任報告書では28頁以下に、シェアハウス向け融資問題に関する事実経過の概要が記載されているので、その中から特に重要な事実について抜粋する。 なお、両報告書による事実関係の時系列表には、記載内容に相違がある部分もあるが、本稿では、主として監査役責任報告書をベースとし、一部、取締役責任報告書で補っていることをお断りしておく。 上記「発生した事実」のうち、スルガ銀行にとってターニングポイントとなったかもしれないものについて、以下では個別に事実関係を検証しておきたい。 1 スマートライフに関する不芳情報と取引禁止 (1) 2015年2月の告発とそれに対する対応 2015年2月3日、スルガ銀行のお客さま相談センターに、スマートライフ及び同社の実質オーナーに関して、下記の内容の不芳情報が届いた。 上記情報は、お客さま相談センターから経営企画部に報告され、経営企画部と審査部で情報を共有するとともに、審査部長は、外部調査機関の信用情報等を確認し、この告発内容には信憑性があると判断し、喜之助氏に報告を行った。 報告を受けた喜之助氏は、審査部長に対し、スマートライフが関与する融資を取扱中止とする旨、及び営業部門と審査部にその旨を共有するよう指示し、審査部はスマートライフを取扱中止とした。 しかしながら、横浜東口支店の所属長は、スマートライフがスルガ銀行の融資に直接的に関与すること(具体的には、土地を仕入れたスマートライフが、投資家となる借主に対して土地を売ること)のみが禁止されたものと考え、スマートライフ側は、2015年2月9日に、従業員の1人を代表者としてアマテラスを設立させ、アマテラスが持ち込んだ案件という形で、実質的にスマートライフが関与する案件が継続されることとなった。 (2) アマテラスに関する告発 2015年5月8日に、スマートライフがアマテラスというダミー会社を設立して、同社を通じて取引を行っている旨の再度の情報提供が行われた。この提供情報を重く見た審査部は、アマテラスについても、2015年5月13日に取扱中止とした。 (3) その後の偽装工作 一連の告発により、これ以降のスマートライフ案件について、アマテラスではない不動産会社から持ち込む外形を作出しなければならないこととなった結果、横浜東口支店の所属長らは、様々な販売会社を表向きの持込業者とすることで対応することとし、スマートライフ案件の販売会社であった特定のチャネルに、スマートライフの案件を様々な販売会社に振り分ける総代理店のような立場を担わせることとした。 このようにしてスマートライフとの迂回取引は継続し、スキームが安定化したこともあり、スマートライフ案件の融資は急増することとなった。 2 サクトの経営破綻とサクト会議 2017年2月に、シェアハウス運営会社であるサクトが、国税の差押えを受け、実質的に破綻に至った。元専務執行役員営業本部パーソナル・バンク長麻生治雄(以下「麻生氏」と略称する)は、同年3月7日にはシェアハウス全体の融資残高が1,528億円(1,283件)に上ること、その支店別、チャネル別の内訳等の情報を整理して認識しており、サクトの破綻により、同様のリスクが及ぶ範囲を確認していた。 4月6日の信用リスク委員会では、初めてサクト問題について報告がなされたが、そこでの麻生氏による報告は、「サクトの破綻はサクト固有の事情であり、シェアハウスの需要は非常に見込めるため、債務者からの要望に対しては管理会社を変更すれば良い」といった趣旨の報告であった。しかも、スルガ銀行が紹介する管理会社は、シェアハウスの取扱いが豊富なスマートライフとする旨の報告がなされている。 以上のような背景の中、サクトに関して不安を持った元代表取締役専務(経営企画部管掌)白井稔彦(以下「白井氏」と略称する)の要請により、サクトの破綻により生じる問題について議論する目的で、同月13日に、第1回サクト会議が開催されることとなった。 計4回開催されたサクト会議のうち、スマートライフが取扱中止処分を受けている業者であることの指摘があったのは第4回会議のみにとどまっている。また、第4回会議では、審査部から、「シェアハウスの疑問点」という資料が提出され、シェアハウスの実態が一切関わることを禁止されていたスマートライフではないかという指摘や稟議申請時の賃料と募集賃料が乖離している等の事実を指摘されたが、議事録では、①入居状況の再調査、②スマートライフへの対応を明確にする、③有担保ローンのスピード感を減速させない、④本件は軟着陸させる、シェアハウスローンは月10億円で検討することなどが記載されており、有担保ローンの取扱い見直しまでには至らなかった。 【取締役責任報告書の概要】 《取締役等責任調査委員会の概要》 取締役等責任調査委員会は、銀行の取締役が負うべき注意義務について、拓銀事件判決(最決平成21年11月9日刑集63巻9号1117頁)を引用する形で、次のように述べている。 そのうえで、取締役は、他の取締役や従業員が、相当な債権保全措置を取らずに融資業務を実施していないかどうかについて監視監督義務を負うと解され、このような事実を認識し又は認識し得た場合には、是正に向けた措置を講ずべき義務を負う(最判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁等)ことから、融資業務を直接に所管しない取締役であっても、担当取締役又は従業員が債権保全措置を講じているかを監視監督する義務を負うという前提に立って、各取締役等の監視監督義務違反の有無を判断することとしている。 1 シェアハウスローンにおける監視監督義務に関する考え方 取締役等責任調査委員会は、本件では、各取締役において、シェアハウスローンについて相当な債権保全措置が講じられておらず、シェアハウスローンを実行し続けることがスルガ銀行に重大な損害を及ぼす危険性を認識し、又は認識し得た場合には、それぞれの地位や管掌に応じて損害発生回避のために相当な措置を講ずる義務が発生すると解すべきであるとして、具体的には、シェアハウスローンに関し相当な債権保全措置が講じられていないことを示す兆候である下記の各事実についての認識を総合考慮して判断することとした。 2 各取締役・執行役員の監視監督義務違反の有無と損害の認定 取締役等責任調査委員会は、各取締役及び麻生氏の監視監督義務違反について、個別に事実認定を行ったうえで、調査対象者のうち、現代表取締役社長である有國氏及び3名の社外取締役を除く全員の監視監督義務違反を認める判断を下した。 そのうえで、スルガ銀行は、取締役の善管注意義務違反及び執行役員の義務違反により、実行すべきでなかったシェアハウスローンを実行していた。このため、シェアハウスローンの実行額のうち回収不能となるものを善管注意義務違反(義務違反)と相当因果関係を有する損害として、各取締役、執行役員の善管注意義務違反が生じた時点ごとに分けてその3割相当額を善管注意義務違反と相当因果関係を有する損害とみなすこととした。 なお、実際に各取締役等に賠償を求めるとした場合には、各取締役等の地位、役割や寄与度、回収可能性、現時点で生じている実損の額、訴訟コスト等を勘案して請求額を定めるべきである。 取締役等責任調査委員会による相当因果関係のある損害の認定額とスルガ銀行が訴訟を提起した損害賠償請求額は以下のとおりである。 〈現旧取締役らに対する損害賠償請求〉 (*) 上段は、監視監督義務違反、下段は、内部統制システムの構築に関する善管注意義務違反 (注) 取締役責任報告書120頁から124頁を参考に、筆者が作成。なお、損害賠償請求額については、11月12日付適時開示「シェアハウスその他の収益不動産に係る融資問題に関する当社現旧取締役及び旧執行役員に対する損害賠償請求訴訟の提起等に関するお知らせ」より引用。 【監査役責任調査報告書の概要】 《監査役責任調査委員会の概要》 監査役責任調査委員会は、監査役の義務として、一般に、監査役は、取締役の業務執行について、不正行為、法令・定款違反行為、又は著しく不当な行為(経営判断の原則を逸脱した著しく不合理な行為) がないか否か、監査する義務を負うと解されると要約したうえで、スルガ銀行監査役監査基準18条2項3号を引用している。 そのうえで、監査役の負う善管注意義務違反については、監査を行った当時、銀行の常勤監査役あるいは社外監査役として一般的に要求されていた監査の水準を基礎として、当該監査役が置かれた立場・状況を加味して注意義務の程度・内容を検討すべきであるとして、①違法行為等の兆候が認められない場合(平時)と②違法行為等の兆候が認められた場合(異常時)とに分けて、論じている。ここでは、異常時における監査役が負う善管注意義務の程度・内容について、委員会の見解を引用しておきたい。 1 監査役の責任判断の前提となる事実 監査役責任調査委員会は、シェアハウスローンに関する監査役の善管注意義務違反の有無を検討するうえでの前提として、スルガ銀行の実態を、次のようにまとめている。 2 違法行為等の兆候についての各監査役の認識・認識可能性及び善管注意義務違反の有無 (1) 廣瀬氏について 監査役責任調査委員会は、まず、元常勤監査役廣瀬正明(以下「廣瀬氏」と略称する)について、「廣瀬氏が出席した取締役会、経営会議等の会議において、審査の実質的な形骸化を窺わせる事実が報告されたことは認められない」としたうえで、その他の違法行為等の兆候の認識・認識可能性についても、その在任期間中の往査を通じて、取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められないことから、監査役としての善管注意義務違反は認められないと結論づけた。 (2) 土屋氏について 次いで現常勤監査役土屋隆司(以下「土屋氏」と略称する)についても、廣瀬氏と同じく、「出席した取締役会、経営会議等の会議において、審査の実質的な形骸化を窺わせる事実が報告されたことは認められない」としたうえで、その他にも、「審査部による審査が有効に機能しておらず、実質的に形骸化していることを疑うべき事情を認識し、又は認識し得たとは認められない」とした。さらに、その他の違法行為等の兆候の認識・認識可能性についても、「スマートライフが取扱中止になったことや、同社が問題のある業者であることも認識していなかった」ことから、第三者委員会の見解を否定する判断を下している。 例えば、2017年10月19日の経営会議については、簡易宿所や収益物件全般に関する3つの融資基準を光喜氏の指示により決定したことはリスクを低減させる方向の決定であったうえ、融資基準の細部を後日決定するという結論になったと見る余地があり、土屋氏がこれを監査役会に報告すべき重要な情報であると考えなかったとしても不合理とはいえず、監査役会に報告すべき法的義務があったとまでは認められないとした。 また、2017年11月13日の融資管理への往査の際に受領した業者との癒着の疑義がある行員6名のリストについては、同リストには、業者との癒着等が疑われるとする根拠の記載や当該行員により不正行為が行われていることを示す具体的な記載はなかったうえ、現常勤監査役灰原俊幸(以下「灰原氏」と略称する)は、リスト記載の複数の行員について、支店長等にヒアリングを行っていたが、不正が疑われる事実は判明していなかったこと、不正行為等の具体的な記載がない上記リストを受領したことをもって、取締役の違法行為等の兆候を認識し得たとはいえず、事実を取締役会又は監査役会に報告すべき法的義務があったとは認められないとした。 以上の事実から、委員会は、土屋氏は、監査役の在任期間中、取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められず、監査役としての善管注意義務違反は認められないと判断した。 (3) 灰原氏について 監査役責任調査委員会は、灰原氏についても、「出席した取締役会、経営会議等の会議において、審査の実質的な形骸化を窺わせる事実が報告されたことは認められない」としたうえで、灰原氏が、2017年10月19日の経営会議・取締役会までの間に、取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められず、同日の経営会議における議事を監査役会に報告すべき法的義務があったとも認められないと、第三者委員会の判断を否定した。 さらに、灰原氏が出席していた2017年10月31日の社内会議についても、麻生氏の提案が同月19日の経営会議で議論、決定された3つの融資基準にどのような点で抵触するのかは明確ではなかったうえ、灰原氏もまた、スマートライフが取扱中止となっていることや、問題のある業者であることを認識していなかったことから、この会議への出席によって、取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められず、この事実を取締役会又は監査役会に報告すべき法的義務があったとは認められないと、本件についても、第三者委員会の判断を否定した。 以上の事実から、委員会は、灰原氏は、監査役の在任期間中、取締役の違法行為等の兆候を認識し、又は認識し得たとは認められず、監査役としての善管注意義務違反は認められないと判断した。 (4) 社外監査役 監査役責任調査委員会は、社外監査役については、審査の実質的な形骸化、融資関係書類等についての改ざん・偽装、取扱いを停止したチャネルとの迂回取引等を窺わせる兆候を何ら認識する機会がなかったこと、社外監査役が出席する会議等で「シェアハウスローン」に関して問題として採り上げられたのは2017年10月19日の取締役会でありその全容が開示されたのは2018年2月7日の取締役会であって、社外監査役としては、それまではシェアハウスローンがスルガ銀行にとり大きなリスクになり得ることを認識し得なかったと考えられると認定した。 そのうえで、スルガ銀行の社外監査役は、いずれも合理的な基準に基づいて分担した職務を行っており、それ以上積極的に取締役の行為について注意義務を尽くす必要があるような取締役の違法行為等の兆候を認識することはできなかったことから、社外監査役3名については、いずれも善管注意義務違反は認められないと結論づけた。 【金融庁に対する業務改善計画の提出】 スルガ銀行は、11月30日、金融庁による業務改善命令に基づき、業務改善計画を提出したことを公表した。項目については以下のとおりである。 行員の処分については、「処分対象としたのは、お客さまの自己資金に関する資料の改ざん、物件のレントロールの改ざん、取引停止チャネルとの取引継続などに関与した営業担当者及びそれらの監督権限者(執行役員・理事を含む)であり、合計117名」であり、その内訳は、降等19名、停職・昇給停止24名、減給44名、譴責30名であった。 シェアハウスオーナー向けの救済策としては、「金融機関としてとり得るあらゆる選択肢について踏み込んだ検討を行ない、元本の一部カットも含めた対応」に取り組むとしており、返済に行き詰まるなどした物件所有者との交渉については、最大70%の元本カットを視野に入れているとの一部新聞報道もあったが、会見では、有国三知男社長は、具体的なカット幅は「検討中」として明言を避けたということである。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第7回】 「取得原価の配分方法②」 -無形資産などの取扱い- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、取得原価の配分方法に関して解説する。 今回は、無形資産、取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い、時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 無形資産への取得原価の配分 取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後1年以内に配分する(企業結合会計基準28項、結合分離適用指針51項)。 識別可能資産に関して、受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う(企業結合会計基準29項)。 1 分離して譲渡可能な無形資産 受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産について、次のように規定されている。 2 その他の留意点 企業結合の目的の1つが、特定の無形資産の受入れにあり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、取得企業は、利用可能な独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法(結合分離適用指針53項)を利用し、あるいは外部の専門家も関与するなどして、通常、取締役会その他の会社の意思決定機関において、当該無形資産の評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行い、それに基づいて企業結合が行われたと考えられている(結合分離適用指針367-2項)。 このような場合には、当該無形資産については、識別して資産計上することが適当と考えられ、分離して譲渡可能なものとして取り扱われている(結合分離適用指針59-2項)。 また、企業結合により受け入れた研究開発の途中段階の成果について資産として識別した場合には、当該資産は企業のその後の使用実態に基づいて、有効期間にわたって償却処理されることとなるが、その研究開発が完成するまでは、当該無形資産の有効期間は開始しない点に留意するとされている(結合分離適用指針367-3項)。 3 無形資産の認識要件を満たさないものの例 「法律上の権利など分離して譲渡可能」という認識要件を満たさないため、無形資産として認識できないものの例としては、被取得企業の法律上の権利等による裏付けのない超過収益力や被取得企業の事業に存在する労働力の相乗効果(リーダーシップやチームワーク)がある(結合分離適用指針368項)。 これらは識別不能な資産としてのれん(又は負ののれんの減少)に含まれることになる。 4 いわゆるブランドの取扱い 企業結合によって受け入れた、いわゆるブランドについて、のれんと区分して無形資産として認識可能かどうかという論点に関して、結合分離適用指針は、ブランドを、プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランド(企業又は企業の事業全体のブランド)に分けて説明している(結合分離適用指針370項)。 プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランドは、商標権又は商号として、ともに法律上の権利の要件を満たす場合が多いと考えられるが、無形資産として認識するためには、その独立した価額を合理的に算定できなければならない(結合分離適用指針370項)。 コーポレート・ブランドの場合には、それが企業又は事業と密接不可分であるため、無形資産として計上することは通常困難であるが、無形資産として取得原価を配分する場合には、事業から独立したコーポレート・ブランドの合理的な価額を算定でき、かつ、分離可能性があるかどうかについて留意する必要がある(結合分離適用指針370項)。 Ⅲ 取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い 結合分離適用指針53項にかかわらず、次のいずれの要件も満たす場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できる(結合分離適用指針54項)。 取得原価の配分額は、受け入れた資産及び引き受けた負債の企業結合日における時価を基礎として算定することが原則であるが、上記の規定は、実務の負担を考慮して、定めたものである。 したがって、例えば、土地など、通常、適正な帳簿価額と時価等との差異が重要になると想定される項目については、当該方法の適用について慎重に判断する必要があるとされている(結合分離適用指針363項)。 Ⅳ 時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例 1 会計処理 取得原価は、識別可能資産及び負債の企業結合日時点の時価を基礎として配分する(企業結合会計基準28項)。 時価に関しては、観察可能な市場価格がない場合の方が現実には圧倒的に多く、そのような場合にも、その時価を何らかの方法により見積ることになる(企業結合会計基準103項、結合分離適用指針53項)。 企業結合会計基準103項は、受け入れた資産に大規模工場用地や近郊が開発されていない郊外地のように時価が一義的には定まりにくい資産が含まれ、これを評価することにより、負ののれんが多額に発生することが見込まれる場合には、「その金額を当該固定資産等に合理的に配分した評価額も、ここでいう合理的に算定された時価であると考える」としているので、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額とすることができる(結合分離適用指針55項)。 ただし、企業結合条件の交渉過程で取得企業が利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき当該資産の価額を算定しており、それが取得の対価の算定にあたり考慮されている場合には、その価額を取得原価の配分額とする(結合分離適用指針55項)。 2 基本的な考え方 取得原価の配分額の算定にあたり、時価が一義的に定まりにくい土地をはじめとした固定資産等の資産を何らかの仮定に基づき評価すると、多額の負ののれんの発生が見込まれる場合には、企業結合条件の交渉過程で当該資産はもともと低く評価されていたと考えられるので、当該資産の評価を改めて行う意義は見出しづらいことから、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額(当該資産を何らかの仮定に基づき評価した額から追加的に発生することが見込まれる負ののれんを控除した額)とすることができる(結合分離適用指針55項、364項)。 ただし、時価が一義的に定まりにくい資産であっても、取得企業は企業結合条件の交渉過程で、利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき、一定の評価を行っていることが想定されるので、結合分離適用指針では、取得の対価の算定にあたり、その評価額が考慮されている場合には、その評価額を基礎に取得原価を配分することとしている。したがって、このような場合には、当該資産に対する取得原価の配分額を備忘価額とすることは適当ではない。 なお、当該取扱いは、時価が一義的に定まりにくい資産に限定したものであるので、合理的な評価が可能である資産について、当該取扱いを適用することは認められない(結合分離適用指針55項、364項)。 (了)