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〔平成30年度税制改正対応〕非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度(事業承継税制の特例措置) 【第2回】「贈与税の納税猶予制度の特例(その1)」

〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第2回】 「贈与税の納税猶予制度の特例(その1)」   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳    今回から2回にわたり、非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の7の5)について解説していく。 贈与税の納税猶予及び免除の特例を受けるにあたっての手続きは、以下のとおりである。 ① 特例承継計画の提出・確認 ↓ ② 非上場株式等の贈与・円滑化法の認定 ↓ ③ 贈与税の申告 ↓ ④ 事業の継続(贈与後5年間) ↓ ⑤ 株式の継続保有(5年経過後) ↓ ⑥ 猶予贈与税の免除(先代経営者の死亡・事業継続が困難な場合等)   1 特例承継計画の提出・確認 贈与税の納税猶予において特例措置の適用を受けるためには、まず「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書(特例承継計画)」【様式第21】を平成35年3月31日までに都道府県知事に提出する必要がある(円滑化規則17①一)。また、平成35年3月31日までに贈与を行う場合は、贈与後に、後述する2(2)の認定申請書と特例承継計画を併せて提出することも可能とされている。 特例承継計画には、以下の事項を記載するとともに、別紙において認定経営革新等支援機関による所見等(指導・助言の内容)を記載することが求められている。 さる5月16日に、中小企業庁のWEBサイトに特例承継計画マニュアル及び記載例が公表されているので、記載例等については以下のページを参照されたい。   2 非上場株式等の贈与・円滑化法の認定 (1) 非上場株式等の贈与 ① 特例認定贈与承継会社 特例措置の対象となる特例認定贈与承継会社とは、円滑化法の認定を受けた会社で、以下の(a)~(f)のすべてを満たすものをいう(措法70の7の5②一)。 一般措置の対象となる認定贈与承継会社の要件についても同様である。 上記(f)に掲げた「円滑な事業の運営を確保するために必要とされる要件」は以下のとおり(措令40の8の5⑨)。 (※) 特定特別関係会社とは、次の(ア)、(イ)、(ウ)が所有する議決権の合計が総議決権数の50%を超える会社をいう(措令40の8⑧)。 また、納税猶予の対象となる非上場株式等は、一般措置においては議決権総数の2/3まで(措法70の7①)であったが、特例措置においてはその上限が撤廃されている。 ② 特例贈与者の要件 今回の特例措置創設により、先代経営者以外からの非上場株式等の贈与においても納税猶予の適用を受けることができるようになったが、先代経営者以外の者が特例贈与者となるためには、贈与の直前において以下のいずれかに該当する者が存在することが必要とされており(措令40の8の5①二)、代表権を有していたことのない代表者の配偶者等が最初の特例贈与者にはなれないことが規定されている。 (※) 贈与者については、一般措置においても複数名からの贈与を可能とする改正が行われており、特例措置と同じ要件が追加されている(措令40の8①)。 上記の要件が満たされない状況、つまり、初めて特例措置による贈与が行われる際には、代表権を有していた個人で以下の(a)~(c)のすべてを満たす者が特例贈与者となる(措令40の8の5①一)。したがって、最初に特例措置による贈与を実行する者は先代経営者でなければならない。 例えば・・・ この場合、妻Yの持ち株40株を子Zに特例措置により贈与するためには、先代経営者Xが先に子Zに贈与を行い、特例措置の適用を受けておく必要がある。つまり、先代経営者Xからの特例措置による贈与を子Zが受けていれば、先代経営者以外からの特例措置による贈与が可能となるのである。 ③ 特例経営贈与承継期間 特例措置による贈与が認められる期間は、先代経営者からの贈与については、平成39年12月31までである。 そして、先代経営者以外からの贈与については、先代経営者の贈与の日から特例経営贈与承継期間の末日までの間に贈与税の申告期限が到来する贈与に限るとされている(措法70の7の5①)。 「特例経営贈与承継期間」とは、最初に特例措置の適用を受ける贈与に係る贈与税の申告期限の翌日から次のいずれか早い日までの期間をいう(措法70の7の5②七)。 例えば、平成38年10月に特例措置の適用を受ける最初の贈与があった場合、先代経営者以外からの特例措置を受けることができる期限は下図の通りとなる(特例経営承継期間は5年と仮定)。 つまり、特例経営承継受贈者又は特例贈与者の死亡がない場合は、特例措置の適用を受ける最初の贈与に係る贈与税の申告期限の翌日から5年間が特例経営贈与承継期間となるため、上記のように先代経営者以外から特例措置により贈与ができる期間が、平成39年12月31日を超えることがある。 一方、平成33年に特例措置の適用を受ける最初の贈与が行われた場合、下図のように、先代経営者以外の者からの贈与の期限は平成38年12月末となり、平成39年12月末よりも早く期限が到来するので注意が必要だ。 ④ 特例経営承継受贈者(後継者) 特例贈与者から特例認定贈与承継会社の非上場株式等を取得した個人で、次に掲げるすべての要件を満たす必要がある(措法70の7の5②六)。 上記(h)に掲げた「経営を確実に承継すると認められる要件」は、経営承継円滑化法施行規則第17条第1項の確認を受けた特例認定贈与承継会社の当該確認に係る特例後継者であること(措規23の12の2⑨)とされており、特例承継計画に記載された特例後継者であることが要件とされている。 今回の改正により、最大3名まで特例措置の適用を受けることが可能となったが、複数人への贈与は議決権が分散することから、実務上それほどの利用は見込まれないものと予想される。 ⑤ 非上場株式等の取得数要件 特例措置の適用を受けるためには、特例経営承継受贈者は、次の区分に応じた一定数以上の株式を取得する必要がある(措法70の7の5①一)。 ① 特例経営承継受贈者が1人である場合は、次の区分に応じた株数以上 ●A ≧ B×2/3-Cのとき ⇒ B×2/3-C以上の株数 ●A < B×2/3-Cのとき ⇒ Aのすべての株数 A:贈与直前において、贈与者が有していた株式数 B:贈与直前の特例認定贈与承継会社の発行済株式総数 C:後継者が贈与の直前において有していた会社の株式数 ② 後継者が2人又は3人の場合 ⇒それぞれの後継者が10%以上の株式を取得し、かつ、それぞれの後継者が贈与者の株式数を上回ること   (2) 円滑化法の認定 非上場株式等の贈与を受けた場合には、その贈与を受けた年の翌年の1月15日までに特例認定贈与承継会社の主たる事務所の所在地の都道府県知事に認定申請書を提出し、認定(円滑化法12①)を受けなければならない(円滑化規則7⑥⑧)。 申請書は2種類からなり、①先代経営者から後継者への贈与については「第一種特例贈与認定中小企業者に係る認定申請書」【様式第7の3】(円滑化規則7⑥)、②先代経営者以外の株主から後継者への贈与については「第二種特例贈与認定中小企業者に係る認定申請書」【様式第7の4】(円滑化規則7⑧)に必要事項を記載して申請することになる。 申請書等の様式等については、中小企業庁WEBサイトを参照されたい。 *  *  * 次回も引き続き本特例制度について、贈与税の申告以後の制度を解説する。   (了)

#No. 274(掲載号)
#日野 有裕、梶本 岳
2018/06/28

中小企業の生産性向上のための設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第3回】「既存の経営強化法による特例制度との相違から見た注意事項」

中小企業の生産性向上のための 設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第3回】 (最終回) 「既存の経営強化法による特例制度との相違から見た注意事項」   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   最終回となる今回は、適用に当たっての留意点や、平成28年度の税制改正で創設された中小企業等経営強化法に基づく軽減措置との違いにも触れてみたい。   (1) 対象者 ① 税法と生産性向上法の相違 本特例の対象者(法人に限る)は、【第1回】で見た通り、中小企業者であり、認定の対象となる者も中小企業者であるが、用語は同じでも、その内容が異なる点に留意が必要である。 すなわち、前者は租税特別措置法上の「中小企業者」であるのに対し、後者は生産性向上法上の〈中小企業者〉である(本稿では、税法は「 」、生産性向上法は〈 〉を付して区別する)。 前者については既に説明済みなので、後者についてその内容を確認すると、中小企業等経営強化法に規定する〈中小企業者〉とされている。具体的には、業種ごとに定められている資本金基準又は従業員数基準のいずれかを満たす会社(下表参照)と、事業協同組合等一定の組合がこれに該当する。 (注) 資本金基準又は従業員数基準のいずれかで判断する。 例えば、資本金が8,000万円で従業員数60人の小売業を営む会社は、「中小企業者」であっても〈中小企業者〉には該当しない。その結果、生産性向上法の認定を受けることができないため、本特例を適用することはできない。 また、資本金が2億円で従業員数400人の製造業を営む会社は、〈中小企業者〉であるが、「中小企業者」には該当しない。したがって、生産性向上法上の認定を受けることができるものの、本特例を適用することはできない。 ② 生産性向上法と経営強化法の相違 さらに、既存の中小企業等経営強化法(以下、経営強化法という)に基づく固定資産税の軽減措置においても同法に基づく認定を受けることが特例の適用を受ける前提となるが、認定を受けることができるのは、経営強化法上の“中小企業者等”である。この“中小企業者等”は、〈中小企業者〉を含むより広い概念である。 例えば、医療法人や一定の一般社団法人は、〈中小企業者〉には該当しないが、“中小企業者等”には該当する。そして、これらの法人は「中小企業者」にも該当する可能性があるため、該当する場合には、経営強化法に基づく固定資産税の軽減措置の適用を受けることが可能である。 ただし、これらの法人は〈中小企業者〉には該当しないため、仮に、「中小企業者」に該当する場合であっても、生産性向上法に基づく固定資産税の軽減措置の適用を受けることはできない。なお、経営強化法に基づく軽減措置、生産性向上法に基づく軽減措置、いずれにおいても固定資産税の軽減措置の対象となる「中小企業者」の定義は同じである。   (2) 対象設備 既存の経営強化法に基づく軽減措置と、生産性向上法に基づく軽減措置を比較すると、対象設備については、設備の種類(用途又は細目を含む)、最低投資価額、販売開始時期、生産性向上要件のいずれにおいても、その内容は同様である。唯一異なるのは、生産性向上法においては、「直接商品の生産若しくは販売又は役務の提供の用に供するものであること」という要件が必要となる点である。 これは、例えば、製造業を営む法人の工場、小売業を営む法人の店舗などのように、その法人が行う生産活動、販売活動、役務提供活動その他収益を稼得するために行う行動の用に直接供される、という意味ではないかと推測される。そうすると、本店、事務用器具備品、福利厚生施設のようなものは該当しないことになる。いずれにしても、経営強化法では求められていない設備要件があることに留意が必要である。 なお、経営強化法に基づく軽減措置では、機械装置以外の設備については、一定の地域において対象業種が限定されていたが、生産性向上法に基づく軽減措置ではそのような制限はない。   (3) 認定要件 経営強化法、生産性向上法のいずれにおいても認定を受けるためには、一定の労働生産性の向上が求められる。経営強化法では、計画期間が3年ないし5年とされ、労働生産性は5年間の計画の場合、計画期間である5年後までの目標伸び率が2%以上のものが求められる(計画期間が3年間の場合は1%以上の目標を、4年間の場合は1.5%以上の目標が求められる)。 これに対し、生産性向上法では、計画期間は3年以上5年以内とされ、労働生産性は年平均3%以上向上することが要求される。つまり、計画期間が3年の場合は9%以上、4年の場合は12%以上、5年の場合は15%以上の伸び率を設定する必要がある。 したがって、経営強化法におけるよりもより高いレベルの労働生産性の向上が求められているといえる。なお、労働生産性の定義は両制度で変わらない。   (4) 手続 ① 認定経営革新等支援機関による事前確認 生産性向上法において認定を受けるためには、労働生産性が年平均3%以上向上することが求められるが、この点を認定経営革新等支援機関が事前に確認し、確認書を発行することが必要とされ、認定申請に当たっては、確認書の添付が義務付けられる。経営強化法では、このような事前確認は求められていなかったため、留意が必要である。 ② 設備の取得時期 経営強化法、生産性向上法のいずれにおいても、中小企業者が認定を受けた後に対象設備を取得することで特例の適用が認められる。しかし、経営強化法では、設備を取得した後に計画を申請し認定を受ける場合でも、設備取得から60日以内に計画が受理され、取得した年の年末までに認定を受けることを条件に例外的に適用が認められる。 しかし、生産性向上法においてはそのような例外的な取扱いは認められないようなので留意が必要である。 (※) 中小企業庁ホームページより   (5) 市町村の対応 経営強化法では、課税標準の軽減割合が2分の1とされているが、生産性向上法では、ゼロ以上2分の1以下の範囲内とされており、具体的には、各市町村の条例により定められることになる。 中小企業庁が各市町村にアンケート調査を行ったところ、特例率をゼロとする意向を示した自治体の数は9割以上となっている。これはアンケート実施時点の各市町村の意向であり、地方議会の審議等により、対応の変更があり得るようであるが、興味深い数字である。 なお、軽減割合だけでなく、対象者や対象設備についても市町村の条例により変更が加えられる可能性があるため、いずれにしろ各市町村の条例を確認することが重要となる。   (6) 経営強化法に基づく軽減措置との共存 平成28年度の税制改正により創設された経営強化法に基づく軽減措置は適用期限である平成31年3月31日をもって廃止される予定である。したがって、生産性向上法の施行日(平成30年6月6)から平成31年3月31日までは、両制度が共存することになる。 単純に軽減割合だけを考えると、新制度が有利になる可能性が高いと思われるが、既に述べた通り、両制度では対象者や対象設備、認定要件、手続等に微妙な違いがあることから、経営強化法に基づく軽減措置しか適用ができない場合も想定されるため、適用に当たっては両制度を比較検討の上、慎重に対応することが肝要である。 (連載了)

#No. 274(掲載号)
#安積 健
2018/06/28

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第27回】「別表6(25) 復興産業集積区域等において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除、企業立地促進区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除又は避難解除区域等において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第27回】 「別表6(25) において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除、において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除又はにおいて機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第27回目は、書籍等での掲載頻度が少ない東日本大震災関連税制のうち、実務では比較的使うケースがある「別表6(25) 復興産業集積区域等において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除、企業立地促進区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除又は避難解除区域等において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 (※) 平成30年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改訂され、この別表6(25)は一部変更の上、番号が6(26)となりました。本稿では関連する様式が未公表のため、旧様式を用いて解説します。   Ⅱ 概要 この別表は、法人が東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(以下「震災特例法」という)第17条の2第2項(復興産業集積区域等において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除)、第17条の2の2第2項(企業立地促進区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除)又は第17条の2の3第2項(避難解除区域等において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除)の規定の適用を受ける場合に作成する。 (1) において機械等を取得した場合 これは、認定地方公共団体(東日本大震災の特定被災区域のうち復興推進計画につき内閣総理大臣の認定を受けた地方公共団体)の一定の要件を満たす適用対象法人が、東日本大震災復興特別区域法(以下「復興特区法」という)施行の日(平成23年12月26日)から平成33年3月31日までの間に一定の減価償却資産の取得等をしてその事業の用に供した場合、その事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却との選択適用のうえ税額控除が受けられる制度である。 この制度の適用対象法人は、次の要件を全て満たしている必要がある。 また、この制度の対象となる適用対象資産は、復興特区法の施行の日(平成23年12月26日)から平成33年3月31日までの間に、復興産業集積区域内における産業集積事業又は建築物整備事業の用に供した機械及び装置、建物及びその附属設備並びに構築物である。 この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 適用対象資産の取得価額×税額控除割合(※) ➡ ただし、その適用年度の調整前法人税額の20%相当額を超える場合には、その20%相当額が限度額となる。 (※) 税額控除割合は次に掲げる区分に応じた控除率となる。 ➡なお、福島県又は福島県の区域内の市町村の認定地方公共団体の指定を受けた法人については、いずれの時期も機械及び装置は15%、建物及びその附属設備並びに構築物は8%となる。 (2) において機械等を取得した場合 これは、福島復興再生特別措置法第23条の規定に基づき提出企業立地促進計画の提出があった等の日以後5年を経過する日までの間に、避難解除等区域復興再生推進事業実施計画について福島県知事から一定の要件を満たす適用対象法人が、企業立地促進区域内において避難解除等区域復興再生推進事業の用に供する機械及び装置、建物及びその附属設備並びに構築物の取得等をしてその事業の用に供した場合、その供用年度において、特別償却との選択適用のうえ税額控除が受けられる制度である。 この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 ➡ ただし、その適用年度の調整前法人税額の20%相当額を超える場合には、その20%相当額が限度額となる。 (3) において機械等を取得した場合 これは、福島復興再生特別措置法第36条の規定に基づき避難対象区域内に平成23年3月11日において事業所が所在していたことについて、福島県知事の一定の要件を満たす適用対象法人が、避難解除区域等に係る避難等指示が解除された等の一定の日以後5年を経過する日までの間に、機械及び装置、建物及びその附属設備並びに構築物の取得等をしてその事業の用に供した場合、その供用年度において、特別償却との選択適用のうえ税額控除が受けられる制度である。 この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 ➡ ただし、その適用年度の調整前法人税額の20%相当額を超える場合には、その20%相当額が限度額となる。   Ⅲ 「別表6(25)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 「法人税額の特別控除額の計算」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)

#No. 274(掲載号)
#菊地 康夫
2018/06/28

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例63(消費税)】 「委託販売等に係る手数料を課税売上高から控除できたにもかかわらず、これを控除せずに簡易課税で申告を行ってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例63(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆簡易課税制度(消法37、消令57) その課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行う簡易課税制度の適用を受けることができる。 この制度は、仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするもので、この一定割合をみなし仕入率といい、売上げを以下の6つに区分し、それぞれの区分ごとに定められたみなし仕入率を乗じて計算する。 ・第1種事業(卸売業)    90% ・第2種事業(小売業)    80% ・第3種事業(製造業等)   70% ・第4種事業(その他の事業) 60% ・第5種事業(サービス業等) 50% ・第6種事業(不動産業)   40% ◆委託販売等に係る手数料(消基通10-1-12) 委託販売等に係る委託者については、受託者が委託商品を譲渡等したことに伴い収受した又は収受すべき金額が委託者における資産の譲渡等の金額となるのであるが、その課税期間中に行った委託販売等の全てについて、当該資産の譲渡等の金額から当該受託者に支払う委託販売手数料を控除した残額を委託者における資産の譲渡等の金額としているときは、これを認める。       (了)

#No. 274(掲載号)
#齋藤 和助
2018/06/28

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第43回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第43回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) 2 国税庁の公式見解 (1) 新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて 前回解説したように、新設合併又は新設分割を行った場合には、設立登記の日に資産及び負債が引き継がれることとされた。そのため、合併予定日又は分割予定日が土日である新設合併又は新設分割を行う場合には、事業年度開始の日を合併予定日又は分割予定日とすることができず、日割計算を行わなければならないという不都合が生じる。そのため、平成19年4月に「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」が公表された。 「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」では、3月決算法人が4月1日に新設合併を行う場合において、4月1日が行政機関の休日であったため、4月2日に登記申請を行った事案を想定している。このような場合には、4月2日を合併の日とみなして決算を行うべきであるが、それでは、4月1日の1日だけの事業年度に係る決算を行わなければならず、極めて不合理な結果となる。 そのため、以下の要件を満たす場合には、4月1日を合併の日とみなしたうえで確定申告書の提出を行うことが認められた。 なお、当時の税制では、分割型分割を行った場合にみなし事業年度を区切ることとしていたため、「新設分割型分割を行った分割法人の分割型分割の日の前日を含む事業年度の損益の帰属についても、上記新設合併に係る損益の帰属に準じて取り扱われます。」という記述があるが、新設分社型分割のようなみなし事業年度を区切らない場合に異なる取扱いをする理由もないため、新設分社型分割であっても同様に取り扱うべきであると考えられる。 このように、「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」では、3月決算法人が4月1日に新設合併を行おうとした事案について解説されている。これに対し、3月決算法人が8月1日に新設合併を行おうとしたところ、8月1日が行政機関の休日であったため、8月2日に登記をした場合において、8月1日を合併の日として取り扱うことができるかが問題となる。この点については、森秀文「組織再編税制適用上の留意点」租税研究702号60頁(平成20年)において否定的に解されている。 (2) 共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A ① 総論 平成19年4月に「共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A」が公表された。平成19年度税制改正により、事業関連性要件の明確化が行われたことに対応したQ&Aである。 まず、本Q&Aの1頁では、法人税法施行規則で定めた事業性の明確化は、「納税者の予見可能性を高める観点から、従来の運用の実態を踏まえて規定することとされた」としたうえで、 としている。これにより、ファンドが行うような、ペーパーカンパニーを買収のための合併法人とする手法については、事業関連性要件を満たさないことが明らかにされている。 そのため、本連載で解説する予定であるが、時価純資産超過額がある場合の特例(法令113、123の9)において、買収価額を時価純資産価額とし、のれんに相当する金額を時価純資産価額に含め、時価純資産超過額を増加させることにより実質的な解決を図ろうという動きに繋がっていったと思われる。 このような厳格な解釈は、『平成19年度改正税法のすべて』284頁からも読み取ることができる。 すなわち、法人税法施行規則3条1項1号ハで規定されている「自己の計算」とは、合併後においても、被合併法人又は合併法人自らがその判定を行う際の要件となる商品販売等により収益を獲得することが見込まれている状態にあることをいうため、事業性の三要素の1つである売上や売上準備行為が行われていたとしても、それが合併の相手方のために行われるものと認められる場合には、売上や売上準備行為があったものとは認められないことが明らかにされている。すなわち、合併することを前提として、合併の相手先のためだけに行われるような市場調査や許認可の取得は、売上準備行為とは認められないことになる。 その結果、ペーパーカンパニーを買収のための合併法人とする手法において、当該ペーパーカンパニーが行う売上準備行為は、せいぜい合併により受け入れる事業に対する許認可の取得であることから、事業性が認められないことになる。 このような解釈により、M&Aや合弁会社の設立が阻害されている実態は否定できない。平成19年当時では外資系企業やファンドに対する規制が強化されようとした時代背景があり、その顕著な例として合併等対価の柔軟化の1年間の延期が挙げられる。当時とは時代背景が異なることから、より柔軟にM&Aや合弁会社の設立が行えるように、国税局は解釈の変更を行うべきであると思われる。 ② 各論 本Q&Aの4-5頁では機械部品製造業、6頁では不動産賃貸業、7頁では製薬業を例に挙げて解説が行われている。ここで留意が必要なのは、本Q&A5頁において、 と記載されており、事業の定義を厳格に捉えていることが分かる。 実務で問題となった事案であるが、ある会社(被買収会社)を買収したものの簡易合併に該当しないことから、合併を遅らせたうえで、事前に被買収会社から従業者を買収会社に移転させようとした事案がある。例えば、12月20日が買収日であり、1月1日に従業者を移転させ、合併が7月1日になった場合を想定していただきたい。この場合には、合併の直前に被買収会社に従業者が存在しないことから、事業関連性要件を満たさないことになる。このような問題が起きないようにするためには、合併の直前である6月30日に固定施設、従業者、売上の3要素を満たす形にしておく必要があると言える。 合併前に従業者が存在しなくなってはいけないことは分かりやすいが、実務上、固定施設をどのように考えるべきかが問題となる。上記のように、「当該支店にS社の本店所在地を置きながら、P社との間で賃貸借契約もなくS社の事務所としての実体を有していないとき」とあるため、買収会社の事務所の一部を間借りする形にするにせよ、買収会社と被買収会社の事務所は明確に分かれている必要はあるし、家賃も精算する必要があるようにも思われる。 平成19年当時では、別の事務所を借りないとリスクがあるとする見解もあったが、本稿校了段階では、1つの事務所の中に複数の会社があるようなことが日常的になっており、そこまで厳密な解釈は実態に合致しない。事務所としての機能を有しているのであれば、固定施設があると解することに問題はないと考えられる。 *   *   * 次回では、平成21年1月29日に公表された文書回答事例(三社合併における適格判定について)、平成21年3月19日に公表された文書回答事例(投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について)について解説を行う予定である。 (了)

#No. 274(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/06/28

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第18回】「非居住外国人の相続税の納税地と申告期限」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第18回】 「非居住外国人の相続税の納税地と申告期限」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - A(オーストラリア国籍)は、平成30年6月28日にシドニーで亡くなりました。Aは、以前は横浜市に住んでいましたが、平成28年にオーストラリアに帰国しました。Aの財産には国内財産も国外財産もあります。Aの配偶者は既に他界していますが、子供はB、C、Dの3人がおり、3人とも平成30年6月28日にAの死亡を知りました。 B(オーストラリア国籍)は以前から千葉市に住んでいます。C(オーストラリア国籍)は以前からシンガポールに住んでいますが、相続税の納税管理人の届出を提出し、納税地として仙台市を指定しています。D(オーストラリア国籍)は名古屋市に住んでいましたが、平成30年9月6日に、納税管理人の届出をせずにオーストラリアに帰国し、それ以降はシドニーに住んでいます。 このAの相続に係る相続税の納税地、すなわち相続税の申告書の提出先は、Aが以前住んでいた横浜市にあるとして、平成31年4月28日までに申告しなければならないのでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷相続税法上の納税地 納税地とは、納税者が申告書を提出し、税金を納付する相手先の税務署のある場所を示している。相続税の申告書を提出する際、通常は、被相続人の住所地の所轄税務署長に提出するが、これは例外の規定である(相法附3)。原則は、相続時に相続人等が日本に住所を有していた場合は、その者の住所地(国内に住所を有しないこととなった場合は居所地)が納税地となる(相法62①)。 もし、相続時に相続人等が日本に住所を有していない場合は、納税地を定めて、納税地の所轄税務署長に申告しなければならないし、もし、申告がないときは、国税庁長官がその納税地を指定して通知することになる(相法62②)。   ▷本ケースに当てはめた場合の納税地 本ケースにおいては、被相続人は、相続時にシドニーに在住していることから、被相続人の住所を相続税の納税地とする例外規定は当てはまらない。そこで、各相続人の納税地を考えていくことになる。 Bについては、Aの相続時の住所が千葉市になるので、千葉市が納税地となる。 Cについては、Aの相続時の住所がシンガポールであることから、国内に住所を有していない。しかしCは、納税地として仙台市を指定していることから、仙台市が納税地となる。 Dについては、Aの相続時の住所が名古屋市となることから、納税地は名古屋市となる。   ▷申告期限 それでは次に、相続税の申告書の提出期限であるが、これは、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内となる。ただし、 相続人等が納税管理人の届出をしないで住所及び居所を有しないこととなる場合は、住所及び居所を有しないこととなる日までとなる(相法27①)。   ▷本ケースに当てはめた場合の申告期限 本ケースにおいて、Bは、Aの相続開始時から引き続き千葉に住んでいるため、申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内であることから、平成31年4月28日となる。 Cは、Aの相続開始時から引き続きシンガポールに住んでいる。しかし、納税管理人の届出をして納税地として仙台市を指定していることから、B同様に、申告期限は平成31年4月28日となる。 Dについては、相続開始時は名古屋市に住んでいたが、平成30年9月6日に出国しており、かつ、相続税について納税管理人の届出を出国時までに提出していない。したがって、例外の適用となり、申告期限は出国日の平成30年9月6日となる。仮にDが出国日までに納税管理人の届出を提出している場合は、申告期限は原則に戻り、平成31年4月28日となる。   ▷Annex:納税管理人の届出を提出せずに出国した場合の所得税と贈与税の申告期限 次に、暦年単位課税である所得税と贈与税について、出国した場合の申告期限を検討する。 例えば、事業所得のみが継続して生じているXが、平成31年2月3日に、納税管理人の届出を提出しないで出国した場合は、平成31年2月3日までに、平成30年1月1日~平成30年12月31日までの所得の確定申告と、平成31年1月1日から2月3日までの所得に係る確定申告をしなければならない(所法126、127)。 それでは、Xが平成30年6月にYから300万円の現金の贈与を受け、平成31年1月10日にZから200万円の現金の贈与を受け、平成31年2月3日に出国したとする。 この場合、平成30年分の300万円の贈与に係る贈与税については平成31年2月3日が贈与税の申告期限となり、平成31年1月の200万円の贈与に係る贈与税については平成32年3月15日が贈与税の申告期限となる。 相続税法28条では、贈与の年の翌年の1月1日から3月15日までに納税管理人の届出をしないで住所及び居所を有しなくなる時は、有しないこととなる日までに贈与税の申告書を提出しなければならない旨が定められているが、贈与年の中途において出国した場合の取扱いについては定められていないことから、原則通りの申告期限になると考えられる。 日本に住所を有しなくなった者から翌年贈与税を徴収することは非常に難しいにもかかわらず、このように所得税と異なる申告期限が定められている理由の1つには、所得税と異なり、贈与税については、受贈者から税額が徴収できなくとも、贈与者からも贈与税の全部又は一部を徴収することが可能だからではないかと推察される(相法34④)。   (了)

#No. 274(掲載号)
#菅野 真美
2018/06/28

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第4回】「運転資本の分析(その2)」-正常運転資本-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第4回】 「運転資本の分析(その2)」 -正常運転資本-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷M&Aで引き継ぐべき運転資本の検討 M&Aで企業を買収する場合、買収側は、「運転資本」に含まれる「正常な部分」のみを買収によって引き継ぐことが多い。運転資本のうち、正常な部分を引き継ぐことができれば、一般的に買収後の事業継続は可能となる。 したがって、M&Aによって買収すべきは、通常の場合、「運転資本のうち正常な部分」、すなわち「正常運転資本」に限られる、ということになる。 では、M&Aによって引き継ぐべき「運転資本の正常性」は、どういった要因から判断すべきであろうか。   ▷正常運転資本の考察 「正常運転資本」について、通常の場合、以下のような図が示されることが多い。 ◆正常運転資本のイメージ (筆者作成) 「A.回収可能性に疑義のある売上債権」は、破綻企業に対する売上債権など、何らかの理由により回収が滞っている(ないしは滞ることが予想される)滞留債権を指す。また、「B.販売可能性に疑義のある棚卸資産」は、同様に何らかの理由により販売が滞っている(ないしは滞ることが予想される)滞留在庫、現状有姿での定価販売は困難と思われる在庫等、いわゆる「不良在庫」を指す。 これらはいずれも正味実現可能価値で評価の上で引き継がれるか、もしくは換金処分の手間等から、譲渡側に残置されることが一般的であろう。このため、こうした不良資産については、その資金化にどのような疑義が見込まれるか、実現可能な回収金額はどの程度見込まれるか、また、回収までの間にどのようなプロセスが想定され、そのために必要な支出はどの程度見込まれるか等から、正味実現可能価値を推定することになる。 「C.支払が留保されている仕入債務」としては、支払期日を過ぎてなお、支払を延期しているようなケースであるが、こうした状況は、よほどの経営危機で資金繰りが極端に窮している場合でない限り、お目にかかることは少ないであろう。 ただし、中小企業同士の取引では「ある時払い」のような慣例が今なおまかり通っていることも多いので注意すべきである。 さらに、貸付金等のうち余剰資金の運用目的でなされている部分や、未払利息等に含まれる借入利息等についても、買収側で当然に引き継ぐべき必然性は通常はないことから、こうした「非正常運転資本項目」についても区分して把握する必要があろう。 留意すべきポイントとして、事業継続に必要不可欠な技術等を有する取引先等に対する資金支援等を行っている場合等が挙げられる。当該取引先との取引関係そのものの継続が買収後の事業継続に不可欠であれば、こうした与信残高の引継ぎの要否についても検討する必要があるだろう。 なお、こうした関係は、下記の【実務事例4-1】のように貸付金等の与信残高のみならず、仕入代金の立替払としても同時に計上されているケースもある。 こうした分析を通して「非正常運転資本項目」と思われる金額を把握・調整することで、「正常運転資本」の水準を判断する必要がある。 【実務事例4-1】 産業機器メーカーであるM工業の運転資本の分析に際して、主要得意先であるT物産に対して売掛金だけでなく、多額の「買掛金」が両建てで計上されており、その支払は売掛金との相殺による差額決済によって行われていた。 M工業では資金繰りの悪化から仕入先に対する支払資金の工面ができずにいたところ、T物産にとってはM工業が有する技術が極めて魅力的であったことから、材料調達をM工業に代わってT物産が行う代わりに、M工業からの製品仕入代金と相殺決済が行われていたものである。   ▷「正常運転資本」と決済条件の関係 買収対象企業の貸借対照表に計上されている運転資本項目が「正常な運転資本」であるか否かの判断基準は、売上債権や仕入債務の決済条件、棚卸資産の保有期間等にも及ぶ。 例えば、買収対象企業が有している売上債権の回収が、当該得意先との間で締結している決済条件のとおりに回収されることが明らかでさえあれば、こうした売上債権は「正常なもの」と言い切れるだろうか? 答えは「否」である。 例えば、売上債権の決済条件そのものが「正常」とは言えないような場合はどうだろうか。当該債権の回収条件が、買収側が運用している通常の決済条件や社会的な通例から大幅に乖離したものであるとすれば、買収後、当該事業の継続に必要な運転資本の総額が買収側の想定から大きく乖離する可能性もある。 【実務事例4-2】 半導体業界向けの先端機器の製造販売を行っていたY工業では、納入した機器に対する得意先の要求精度の評価作業に相応の期間を要することから、販売代金の回収条件は「納品後12ヶ月後の振込払」とされていた。 実際は、機器精度が必ずしも十分でない状態での売上の早期計上が伝統的になされており、得意先からの検収合格に至るまでの長期にわたって売掛金が未回収の状態となっており、決算をまたぐ場合には得意先から当該資産の「預かり証」を受領することで、社内的な収益計上の根拠証憑としていた(そもそも販売済みであれば「預かり」という概念は生じないはずであるが)。 上記は極端な例であるとしても、社会通念上、行き過ぎと思われる決済条件から生じた売掛金は「正常なもの」と言えるだろうか。実質的には「販売代金の長期分割回収」とみなすか、もしくは、そもそも「出荷/収益計上が早すぎた」だけ、すなわち会計処理に問題があると判断されるべきかもしれない。 こうした決済条件での取引に経済合理性がない場合、これらの取引はやはり「正常なもの」とは言えないであろうし、そのような取引を行う経営者の誠実性にも疑問を呈さざるを得ず、そうなると、そもそもそうした経営者が行ってきた事業そのものの実力や、従業員のモラルなどについても信頼が損なわれる結果となるであろう。   ▷M&A後の会計方針等 こうした取引条件は「M&Aによってどのような変更を余儀なくされるか」、また、「M&Aによって将来的な運転資本の水準にどのような影響が生じるか」、についても検討する必要がある。 具体的には、買収対象企業が採用する会計処理方法の相違が、運転資本の正常性を左右するケースが挙げられよう。 前述のとおり、買収対象企業の採用している会計方針や会計処理方法そのものに問題がある場合もあるかもしれないが、買収対象企業が採用している会計処理が合理的なものであるとしても、採用されている収益計上基準が買収側の基準とは異なる場合、買収対象企業の貸借対照表に計上されている売上債権の金額は、そもそも「売上債権」として計上されるべきものであるかどうか検討すべきケースも生じるであろう。 例えば、M&Aの実行後、それらの売上債権は買収側の収益計上基準を満たさず、適正原価で「棚卸資産」として計上されるべきものかもしれないし、買収側で長期滞留在庫について評価減を実施する会計処理基準が採用されていれば、場合によってはそちらの基準に従ったライトオフが適用されて然るべきものが含まれているかもしれない。 運転資本項目の分析に必要な判断基準は一様ではない。広範な視点からの分析が必要と言える。   ▷主な手続(まとめ) (了)

#No. 274(掲載号)
#石田 晃一
2018/06/28

連結会計を学ぶ 【第21回】「子会社の欠損及び優先株式に関する非支配株主持分の特殊な処理」

連結会計を学ぶ 【第21回】 「子会社の欠損及び優先株式に関する非支配株主持分の特殊な処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、子会社の欠損及び優先株式に関する非支配株主持分の特殊な処理について、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)及び「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社の欠損 子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分として処理される(連結会計基準26項)。 1 基本的な会計処理 子会社の欠損のうち、当該子会社に係る非支配株主持分に割り当てられる額が当該非支配株主の負担すべき額を超える場合には、当該超過額は、親会社の持分に負担させる(連結会計基準27項、資本連結実務指針50項)。 この場合において、その後当該子会社に利益が計上されたときは、親会社が負担した欠損が回収されるまで、その利益の金額を親会社の持分に加算する。 特定の非支配株主と親会社又は他の株主や債権者との間で子会社の債務の引受けなど、出資を超えた非支配株主による負担が合意されている場合には、当該負担額まで非支配株主持分に欠損の負担を行わせ、それを超える欠損額はその後子会社に利益が計上され、超過欠損額が相殺されるまで親会社が負担する(資本連結実務指針69項)。 2 考え方 上記の会計処理となる理由は次のものであり、通常、非支配株主の負担すべき額は非支配株主の出資額に限定される(資本連結実務指針69項)。   Ⅲ 子会社が発行し外部株主が保有する優先株式の処理 子会社が発行し外部株主が保有する優先株式については、次のように会計処理する(資本連結実務指針51項、70項)。 また、優先株式の株主が議決権を有するかどうかにより、次のように会計処理する(資本連結実務指針51項、70項)。 (了)

#No. 274(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/28

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第4回】「遺産分割等の見直し」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第4回】 「遺産分割等の見直し」   弁護士 阪本 敬幸   前回までは、配偶者の居住に関する権利について、配偶者居住権(長期居住権)及び配偶者短期居住権についてそれぞれ解説してきたが、今回は、遺産分割に関するいくつかの改正事項を取り上げる。   [1] 配偶者に対する居住用不動産の遺贈・贈与についての持ち戻し免除の意思の推定(法案903条4項) 1 趣旨 前回まで解説した配偶者の居住に関する権利のように、今般の相続法改正においては、高齢化社会の進展に伴い、被相続人の死後も長期間生活することとなる被相続人の配偶者(以下、単に「配偶者」という)の保護を図った点が多い。 本条項案も配偶者保護の一環であり、被相続人の持ち戻し免除の意思を推定することにより、相続時の配偶者の取得額を大きくするものである。 もともと法制審議会では、配偶者の法定相続分を引き上げることが検討されていたが、問題点・反対意見が多かった。それでも配偶者保護の必要性はあるところ、居住用不動産については夫婦の協力によって形成されることが多いこと、相続税法上も配偶者に対する贈与についての特例があることなどから、本条項案が設けられることとなった(追加試案の補足説明4~5頁)。 2 持ち戻し免除の意思表示の推定規定の内容 共同相続人の相続分の算定においては、相続人に対する贈与の目的財産を相続財産とみなし、相続人が贈与・遺贈を受けて取得した財産は特別受益として、贈与・遺贈を受けた相続人の相続分の額から特別受益分を控除することとされている(民法903条1項)。 こうした計算(持ち戻し計算)をすれば、贈与・遺贈の額が相続人の法定相続分を超えていない限り、贈与・遺贈を受けた相続人と他の相続人の最終的な取得額は変わらない。しかし、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていた場合、持ち戻し計算をすることはなくなるため、贈与・遺贈を受けた相続人は他の相続人と比べて多くの財産を取得することができる(民法903条3項)。 本条項案は、婚姻期間20年以上の夫婦の一方が他方に対し、居住用不動産を贈与・遺贈する場合には、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定するものである。 婚姻期間20年以上・居住用不動産という限定が設けられたのは、20年以上の婚姻期間がある夫婦であれば、類型的に居住用不動産の取得における夫婦間の相互協力の度合いが高く、また居住用不動産を贈与・遺贈する場合には、相続人である配偶者の生活に配慮していることが通常であり、持ち戻し免除の意思表示を推定する基礎があるからである。 当然であるが、「みなす」規定ではなく「推定する」規定であるから、推定を覆す意思表示(黙示も含まれる)があれば、持ち戻し免除されることはない。 3 成立要件 法案の文言からすれば、贈与の時点で婚姻期間が20年以上であることが必要であり、贈与後に婚姻期間が20年を超えたとしても本条項案が直接適用されることはないと考えられる。 4 問題点 本条項案は、居住用不動産(「居住の用に供する建物又はその敷地」)について持ち戻し免除の意思表示を推定するものであるが、居住用不動産の範囲について詳しく定められてはいない。 このため、 といった点が問題として残されている。 法制審議会では、①居宅兼店舗の場合でも少なくとも居宅部分については本条項案の適用があるが、居宅部分以外の部分については他の具体的事情による、②贈与時を基準とする(ただし、贈与時点で現に居住していなくても近々居住予定があれば足りる)、と考えたようであるが(追加試案の補足説明8~9頁)、今後の議論・裁判例が待たれる。   [2] 遺産分割前の預貯金債権の行使(法案909条の2) 1 趣旨 平成28年12月19日最高裁決定により、預貯金債権は相続により当然分割されず、遺産分割等の対象となることとなった。このため、預貯金債権については、遺産分割が終了するまで、共同相続人全員で行使しなければならないこととなり、葬儀費用や共同相続人の生活費等の、早急に必要な支払ができないという不都合が生じることとなった。 これを受けて、共同相続人の公平を確保しつつ、早急に必要な支払を可能とすべく、本条項案が設けられた。 2 内容 各共同相続人は、相続開始時にある預貯金債権の額の3分の1に、共同相続人の相続分を乗じた額については、単独で権利行使することができる。ただし、行使金額については諸般の事情を勘案の上、法務省令で上限を設けるものとされている。法制審議会では金融機関1つあたりの上限を100万円と考えていた(追加試案の補足説明18~19頁)。 行使された預貯金債権は、遺産の一部分割により取得したものとみなされる。追加試案の段階では、行使された金額を最終的な遺産分割時に清算することが提案されていたが、本条項案では一部分割により取得したものとみなされるとされたため、払い戻しに応じる金融機関としては、紛争に巻き込まれる恐れが低下したといえるだろう。 なお、本条項案とは別に、家事事件手続法の改正により、遺産分割調停・審判係属中に、債務弁済・相続人の生活費支弁等の必要がある場合には、預貯金債権の一部を仮に取得することができるとする仮払の制度が設けられる予定であるが(改正家事事件手続法法案200条3項)、この点は民法改正に伴う他の法律の改正として、後日解説することとしたい。 なお、上記の平成28年最高裁決定の詳細については、本誌掲載の下記拙稿を参照されたい。   [3] 遺産の一部分割の規定の明確化について(法案907条) 1 趣旨 現在の実務上も、一定の場合(遺産の範囲に相続人間で争いがあり、その確定を待っていては他の財産の分割が著しく遅延するような場合など)には遺産の一部分割も行われていたが、一部分割が可能であることを明確に示す条文はなかった。このため、一部分割が可能であること、その要件を明確にする趣旨である。 2 内容・要件 当事者の協議(法案907条1項)、裁判所に対する請求(法案907条2項)により、一部分割が可能である。遺産分割の範囲について、共同相続人に処分権限を認めるものといえる。ただし、他の共同相続人を害する恐れがある場合には認められない(法案907条2項但書)。 現行法と基本的な要件は変わらない。すなわち、①協議による分割の場合は、被相続人が遺言で遺産分割を禁じていなければ、いつでも一部分割が可能、②裁判所に対する請求の場合は、共同相続人間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときに可能である。   [4] 遺産分割前に遺産の処分がされた場合の遺産の範囲(法案906条の2) 1 趣旨 遺産分割は、分割時に存在する遺産を分割すると考えられており、共同相続人の1人が遺産分割前に遺産を処分した場合、処分された遺産は、分割時にはもはや遺産ではないから分割対象とはならない。またこのような場合も、処分を行った共同相続人は自らの遺産共有持分を処分しているに過ぎないため、不法行為・不当利得は成立しないと考えられている。 このように遺産分割前に遺産が処分された場合に、遺産を処分した共同相続人に特別受益があったときなどには、共同相続人間で不公平が生じることがあり得るため(下記の〔例〕参照)、共同相続人間の公平を図るべく、処分された財産も遺産として存在するものとみなすこととされた。 〔例〕 ▷[ケース1] 遺産分割前に遺産処分がなかった場合 Aの特別受益を持ち戻して具体的相続分を計算すると・・・ ⇒Aは(1,000万+600万+2,000万)÷2-2,000万=△200万円となり、ゼロ。 ⇒Bは(1,000万+600万+2,000万)÷2=1,800万円となり、遺産全部を取得。 ▷[ケース2] 遺産分割前にAが不動産共有持分2分の1を処分して300万円を取得した場合 [ケース1]のように、Aは本来、遺産分割時に何も取得できないはずなのに、300万円を取得することになる。そして、遺産分割時に存在する遺産は、預金1,000万円と不動産持分300万円のみであるから、Bは1,300万円分しか取得できない。 (※) なお、仮にAの特別受益がなかった場合には、A・Bの相続分はそれぞれ800万円となり、[ケース2]のようにAが遺産分割前の不動産共有持分の処分により300万円を取得したとしても、Bの相続分への影響はない。 2 内容・要件 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合で、共同相続人全員の同意があった場合には、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる(法案906条の2第1項)。 一部の共同相続人により財産が処分された場合には、財産処分を行った相続人の同意は不要であり、これらの相続人の同意がなくても遺産として存在するとみなすことができる(法案906条の2第2項)。 処分された財産も遺産として存在することとみなされた場合、これに基づいて遺産分割が行われるということになる。 3 適用範囲等 上記のように本条項案は、遺産処分者に不法行為も不当利得も成立しないことにより共同相続人間に不公平が生じることを防ぐことを目的としていた。この点を考えると、遺産処分者が、自己の相続分を超えて遺産を処分(他の相続人の相続分をも侵害)したような場合には、自己の相続分を超える部分については本条項案の対象とはならないとも考えられる。 しかし本条項案の文言上、「遺産に属する財産が処分された場合」とされており、遺産処分者の相続分の範囲内の処分があった場合に限定して本条項案が適用されるとはされていないため、遺産処分者の相続分を超えた処分があった場合にも本条項案の適用はある。遺産の全部についての処分があった場合でも同様である。 また、遺産処分者が自己の相続分を超えて遺産を処分した場合に、要件を満たす場合には不法行為・不当利得も成立する。本条項案は、「処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなす」と定めるのみであり、財産的な請求権の発生・消滅を直接定めるものではないからである。 なお本条項案は、相続人が財産処分をした場合について定めるものであるから、相続人以外の第三者が財産処分した場合には本条項案の適用がないことは当然である。 (了)

#No. 274(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/06/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例26】神鋼鋼線工業株式会社「仮監査役(一時監査役職務代行者)の選任に関するお知らせ」(2018.4.13)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例26】 神鋼鋼線工業株式会社 「仮監査役(一時監査役職務代行者)の選任に関するお知らせ」 (2018.4.13)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、神鋼鋼線工業株式会社(以下「神鋼鋼線」という)が平成30年4月13日に開示した「仮監査役(一時監査役職務代行者)の選任に関するお知らせ」である。 仮監査役(一時監査役)とは、監査役が欠けた場合や、会社法や定款で定めた監査役の員数が欠けた場合に、利害関係人の申立てを受けて裁判所が選任した、監査役の職務を行う者である(会社法346条2項)。株主総会で正式に監査役として選任されるまでの間、仮の監査役としてその職務を行うのである。 今回の開示はその仮監査役の選任に関するもので、最初の主文は次のように記載されている。 そして、「選任の理由」は次のように記載されている。 同社は、平成29年9月28日、「その他の関係会社および親会社の異動に関するお知らせ」を開示して、それまでその他の関係会社(自社を関連会社とする会社)だった株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼所」という)が親会社になるとしている。 その結果、これまで社外監査役だった方は神戸製鋼所の使用人であり、社外監査役の要件を満たさなくなるので、他の方を仮監査役として選任するよう裁判所へ申立てを行ったというのである(後日開催される株主総会で正式に監査役として選任される予定)。   2 これまで社外監査役だった方は? 神戸製鋼所が親会社となるため、同社の使用人である方が社外監査役の要件を満たさなくなるというのは分かる。しかし、神戸製鋼所は、神鋼鋼線にとって、もともとその他の関係会社だったのである。その他の関係会社の使用人である方が社外監査役の要件を満たすのだろうか。 社外監査役の要件は、会社法2条16号で次のように規定されている。その他の関係会社の使用人であっても、一応、社外監査役の要件は満たすのである。   3 社外監査役に求められるもの 監査役会は半数以上を社外監査役としなければならないが(会社法335条3項)、それは、会社と利害関係のない社外監査役に客観的な監査を期待してのことだろう。 神鋼鋼線も、平成29年7月3日に開示した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の「Ⅱ経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況 3.現状のコーポレート・ガバナンス体制を選択している理由」において、次のように記載している。 しかし、これまで同社の社外監査役だった方は、確かに法律上の社外監査役の要件を満たしてはいたが、本当に「外部的視点から取締役の職務執行状況を十分監視」することができていたのだろうか。また、「外部からの客観的・中立的な立場で」監査を行えていたのだろうか。   4 新たに社外監査役となる方は? それでは、今度新たに社外監査役となる方(今回仮監査役に選任された方)はどうだろうか。客観的な監査を行えそうな方なのだろうか。 今回の開示において、今井一雅氏の現職は「神鋼EN&Mサービス(株)常勤顧問役」とされている。神鋼EN&Mサービス株式会社(以下「神鋼EN&Mサービス」という)と神鋼鋼線及び神戸製鋼所との資本関係は不明だが、神鋼EN&Mサービスのホームページを見ると、「神戸製鋼グループ」と記載されている。 今回の開示からは、神鋼鋼線の企業統治に対する意識がどのようなものなのかをうかがうことができる。企業統治に対する意識が本当に高い企業ならば、同社のような社外監査役の選び方はしないだろう。 神鋼鋼線の親会社である神戸製鋼所は、アルミ等の品質検査のデータ改竄で問題になっているが、子会社でも、過去、同様の問題が生じたことがある(平成28年6月9日に「当社子会社におけるJIS規格に関わる不適合事象について」を開示)。神鋼鋼線が属する企業集団全体が抱える問題の一端も、今回の開示は示しているのではないだろうか。 (了)

#No. 274(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/06/28
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