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電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる会計処理と税務Q&A 【第6回】「仮想通貨の譲渡の非課税措置」~平成29年度税制改正~

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第6回】 「仮想通貨の譲渡の非課税措置」 ~平成29年度税制改正~   公認会計士・税理士 八代醍 和也   A 本連載【第1回】で概要を述べたが、平成29年度税制改正では、ビットコインをはじめとする仮想通貨の譲渡取引について、消費税が非課税とされることになった。 今回は施行時期が近づくこの改正について、世間的な注目も相当高まっていることもあり、解説を加えてみたい。   1 改正の概要 【第1回】で述べたとおり、今回の改正は「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」)が改正され、その第2条5項において仮想通貨が定義されたことに加え、国際的な課税のバランス、今後の仮装通貨の利用増加の可能性等に考慮して、これを非課税とすることになったものである。 改正事項をまとめると次の3点である。 以下、これら各項目について説明を加える。   2 平成29年7月1日以後、資金決済法に定める仮想通貨の譲渡について消費税が非課税となる 資金決済法に定義された仮想通貨の譲渡が非課税になるというのは、単純に「消費税がかからなくなる」ということと分かるが、実務面では具体的にどのような場合が想定されるのか。 ビットコイン等の仮想通貨がどのようなものか関心はあるものの、実際の流通量が非常に限られたものであり、未だ一般に馴染みがないことから、そういった疑問も巷にはあるようである。 (1) 譲渡取引の3つのタイプ 実務的な観点で「仮想通貨の譲渡」とは何を指すのかという点については、主に以下の3点が考えられる。 ①の購入は分かりやすいが、②③の売却する場合については、要約すると仮想通貨の取得態様を問わず、仮想通貨そのもの譲渡して換金した場合がこれに該当する。したがって、仮想通貨を単に決済手段として物品の販売や購入を行った場合には、仮想通貨の譲渡を行ったことにはならない。 ちなみに、本稿の論点からは若干ずれるが、上記のような仮想通貨を決済手段とした売買取引を行った場合の課税上の取扱いについて規定する法人課税・所得課税上の明文規定は存在しないため、今後、税務行政上の手当・対応が必要と考えられるところである。 (2) 平成29年7月1日以後の譲渡から適用 適用開始時期にも留意が必要である。仮想通貨の譲渡(取得・売却を含む)について、当然ながら、改正法適用前の平成29年6月30日以前の取引については消費税の課税取引となるため、会計処理や消費税計算において誤りが生じないよう事務処理において留意が必要である。   3 仮想通貨の譲渡取引については、課税売上割合の算定上、資産の譲渡等には含めない 公表された改正消費税法施行令では、事業者が行う仮想通貨の譲渡の対価について、これを課税売上割合の計算から除外されることになった(いわゆる課税対象外取引)。 これも仮想通貨が資金決済法において法律上定義されたことを受け、消費税法上非課税売上高に含めないこととされる「支払手段の譲渡」に類するものと評価して、課税売上割合を算定するように措置したものである。 以下、具体的な計算を設例で紹介する。 設 例 上記課税売上割合の算式に基づき、改正前後の課税売上割合を計算すると、それぞれ次のようになる。 なお、当該改正点も平成29年7月1日以後の仮想通貨の譲渡から適用されるから、平成29年6月30日の属する課税期間においては、平成29年6月30日以前の仮想通貨の譲渡高は課税売上高に含め、平成29年7月1日以後の仮想通貨の譲渡高は上記計算に含めずに計算する必要があることに留意が必要である。   4 一定の経過措置が設けられる 平成29年6月30日現在において、税抜で100万円以上の仮想通貨(国内で譲受けを受けたものに限る)を有する場合、その保有数量が平成29年6月中の平均保有数量に対して増加した場合に、その増加分に係る消費税について仕入税額控除を認めないなどの経過措置が設けられた。 今般の改正に伴い、仮想通貨を平成29年6月中に大量に市場から購入し、これに係る消費税額について仕入税額控除を適用し、これを平成29年7月以後に譲渡することにより、消費税の負担を不当に軽減することに対する一定の制限が加えられた形となる。 (了)

#No. 220(掲載号)
#八代醍 和也
2017/06/01

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第16回】「買い換えた土地の上に親族が家屋を建築して同居した場合」-居住の用の判定-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第16回】 「買い換えた土地の上に親族が家屋を建築して同居した場合」 -居住の用の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、自己の居住用財産(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を5,000万円で譲渡し、その譲渡代金で新たに土地を取得しましたが、家屋の建築資金がないため、長男が銀行からその資金を借入れし、長男名義で家屋を建築させました。 Xは、長男と共にその家屋に居住していますが、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 「買換えの特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「買換えの特例」は、買換資産を一定の時期までに、その譲渡者が居住の用に供することを要件として適用を受けることができるものですが、買換資産である土地等について、その土地等をその居住の用に供したかどうかは、その土地等の上にあるその譲渡者の所有する家屋をその譲渡者が居住の用に供したかどうかにより判定することとされています(措通36の2-17(買換資産を当該個人の用に供したことの意義))。 したがって、本事例の場合、X所有の家屋ではないことから、つまり、Xが買い換えた家屋でないため、その買い換えた土地はXの居住の用に供したことにはなりませんので、「買換えの特例」の適用を受けることができません。 なお、土地等と家屋の所有者が異なり、これらの所有者が生計を一にする親族である場合において、その家屋と土地等を一体として譲渡し、その譲渡代金でそれぞれ家屋と土地等を取得して、従前と同様に一体として利用してその家屋に、これらの者が居住(同居)した場合には、上記の例外として、その土地等の所有者についても、つまり、その土地等の上にある家屋の所有者が自己以外の者であっても、「買換えの特例」の適用を受けることができることとされています(措通36の2-19(居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い))。 (了)

#No. 220(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/06/01

租税争訟レポート 【第32回】「租税特別措置法上の当初申告要件(東京地方裁判所判決)」

租税争訟レポート 【第32回】 「租税特別措置法上の当初申告要件 (東京地方裁判所判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 本件は、建物内外の保守管理・清掃業務・住宅リフォーム等を営む有限会社である原告が、平成26年3月期の事業年度に係る法人税の確定申告書の提出の際、租税特別措置法42条の12の4の規定による特別控除(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)の適用を失念していたとして、同条4項に規定する書類を添付し、上記特別控除を適用して計算し直した上で更正の請求をしたところ、所沢税務署長から、確定申告書に同条の規定による計算に関する明細を記載した書類の添付がないなどとして、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたことから、その取消しを求める事案である。 争点は、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除の規定は、更正の請求によって、適用を受けることができるか否か、である。   【原告・納税者の主張】 原告は、以下のように理由を列挙したうえで、「更正請求書」のみに控除明細書の添付がある場合であっても、控除明細書に記載された「雇用者給与等支給増加額」と「控除を受ける金額」に基づき、本件特別控除が適用されるというべきであり、本件各通知処分は、違法なものであり、取り消されるべきである、と主張した。 1 措置法42条の12の4第4項前段は、「第1項の規定は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。」と規定しており、控除明細書が添付された更正請求書が提出された場合にも、本件特別控除の適用があることは、条文の文言上明らかである。 2 措置法42条の12の4第4項後段の「当該確定申告書等」を中間申告書及び確定申告書に限定し、これらに添付された控除明細書による計算の限度で本件特別控除の適用が認められると解することは、措置法42条12の4第4項前段との整合性や申告納税制度の趣旨に照らして合理的とはいえない。 3 本件特別控除は、企業に対して税額控除というインセンティブを与えることにより、消費税等の増税で負担が増える給与所得者の給与等の増額を促すということを目的とするという意味で、極めてマクロ的な政策配慮に基づくものである。 また、措置法は、平成26年法律第10号附則82条は、平成26年3月31日以前に終了する事業年度についての経過措置を設け、「改正前の適用要件を充足していない場合であっても、改正後の適用要件を充足していれば、平成27年3月期に給与等の増額に伴う法人税等の税額控除に関する上乗せ適用ができる」という趣旨を規定し、給与等の増額を促すことにより消費税増税の負担を緩和するという極めてマクロ的な政策目的の実現を図ったのであるから、本件特別控除の適用範囲については、できる限り広範に解するのが立法者の意思に合致するというべきである。   【被告・課税庁の主張】 被告は、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除の制度について、次のように、その趣旨を説明したうえで、当初申告要件が必要であることを主張した。 1 当初申告要件が満たされていないこと 措置法42条の12の4第4項前段の「確定申告書等」とは、中間申告書及び確定申告書をいい、それを受けた同項後段の「当該確定申告書等」も、同項前段の「確定申告書等」、すなわち、中間申告書及び確定申告書をいうのであって、修正申告書又は更正請求書を含まないことは明らかであり、本件特別控除によって控除される金額は、中間申告書及び確定申告書に添付された控除明細書に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限られるのであって、修正申告や更正の請求において、雇用者給与等支給増加額を増加することはできず、また、上記中間申告書及び確定申告書に控除明細書の添付がない場合には、当該各申告書に添付された控除明細書に記載された雇用者給与等支給増加額がないことになるから、修正申告や更正の請求において、本件特別控除の適用を受けることはできない。 原告は、本件法人税確定申告書に控除明細書を添付しなかったのであるから、本件各更正の請求において、本件特別控除の適用を受けることはできない。そうすると、本件法人税確定申告書の提出により納付すべき法人税額が過大であるとはいえない。 したがって、本件各更正の請求は、通則法23条1項1号に規定する場合には該当せず、本件各更正の請求に対しその更正をすべき理由はないものと認められるから、本件各通知処分は適法である。 2 原告の主張に理由がないこと (1) 措置法42条の12の4第4項の「確定申告書等」の意義については、措置法2条2項柱書き及び同項27号において、中間申告書及び確定申告書をいう旨明確に定義されているのであり、原告の主張は、これらの規定による定義を無視するものである。 また、措置法42条の12の4第4項前段において、「確定申告書等、修正申告書又は更正請求書」とされているのは、確定申告書等に添付した控除明細書に記載された雇用者給与等支給増加額以外の事項について、確定申告書等に記載された金額に変動がある場合には、当該事項について変更した修正申告や更正の請求を行うことができることを規定したものであり、本件特別控除は、措置法42条の12の4第4項後段のとおり、確定申告書等に添付した控除明細書に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限って適用を受けることができるのであって、雇用者給与等支給増加額の変更ないし適用を理由として修正申告又は更正の請求ができないことは法文上明らかというべきである。 (2) 特例措置の適用を受けるためには、実質的要件の有無にかかわらず、手続的要件の履践が必要であると解されることからすれば、措置法42条の12の4第4項後段は、確定申告書等(中間申告書及び確定申告書)に添付した控除明細書に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限って本件特別控除の適用を受けることができる旨明確に規定しているのであるから、実際に原告の本件事業年度において雇用者給与等支給増加額に該当する金額が存在していたとしても、適用要件である確定申告書への控除明細書の添付を欠く以上、本件特別控除を適用することはできないのであって、原告の主張は理由がない。 (3) 本件特別控除の制度を創設した立法者は、立法趣旨に基づいて法律を制定し、適用要件等に関して法律を改正し、経過措置を設ける一方、当該制度の目的・効果や課税の公平等の観点から、適用要件のハードルを下げて適用事業者を単に増やすといったことにならない様に配慮しているのであって、そもそも法律の定めを超えて広範に本件特別控除を適用することまで予定していたとは到底認められない。 (4) 最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決を受けて、法人税法68条3項が改正されたのは、同条が規定する所得税額控除の制度は、内国法人が支払を受ける利子及び配当等に対し法人税を賦課した場合、当該利子及び配当等につき源泉徴収される所得税との関係で同一課税主体による二重課税が生ずることから、これを排除する趣旨で、当該利子及び配当等に係る所得税の額を法人税の額から控除する旨規定したものであり、このような制度の目的・効果等に鑑みて、当初申告要件について廃止されたものである。本件特別控除と法人税法68条の所得税額控除では、制度の目的や性質が全く異なり、それによって当初申告要件の有無についても違いが生じているのであって、このことは、その規定内容が異なっていることからも明らかである。   【東京地方裁判所の判断】 東京地方裁判所は、本制度が求める当初申告要件について、まず、以下のように判示した。 その上で、原告の主張については、 とそれぞれ斥けた上で、結論として、以下のようにまとめて、「本件各通知処分について、その余の違法をうかがうこともできないから、本件各通知処分はいずれも適法であると結論づけた。   【解説】 法人税法上の当初申告要件が、本判決でも引用されている最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決により改正された一方、租税特別措置法上の当初申告要件はそのまま存続された。これは、本訴訟を通じて、国・処分行政庁が主張したように、「インセンティブ措置」については、当初申告要件を廃止することは適当ではないと判断されたためである。 本訴訟において、原告・納税者は、租税特別措置法上の当初申告要件についても、法人税法上の当初申告要件撤廃と同様の取扱いがされるべきであると主張したが、裁判所はそうした主張を一蹴した。そして、平成29年度税制改正でも、当初申告要件の見直しは行われたが、当初申告要件を堅持するとともに、納税者が立証すべき事項が明確化されるという形での改正となっている。 1 平成23年度税制改正による当初申告要件の撤廃 平成23年12月2日に公布された「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」により改正が行われた法人税法及び租税特別措置法のいわゆる「当初申告要件」及び「適用額の制限」については、国税庁は、「いわゆる当初申告要件及び適用額の制限の改正について」と題するQ&A集を公開している。 この改正では、法人税法における「受取配当等の益金不算入」など12の制度につき、当初申告要件が廃止されたことが説明されているが、この段階では、租税特別措置法においては、当初申告要件は存続することとされていた。 2 平成29年度税制改正 (1) 平成29年度税制改正大綱における当初申告要件の見直し 平成29年税制改正大綱では、「円滑・適正な納税のための環境整備」として、以下のように、当初申告要件の明確化などが織り込まれている。 (2) 所得税法等の一部を改正する等の法律案要綱 平成29年税制改正大綱公表時には、「当初申告要件の撤廃か」ということで話題になった租税特別措置法の一部改正であったが、法案段階において、「撤廃」ではなく「見直し」「要件の厳格化」といった改正に落ち着いた。 当初申告要件の見直しについて、財務省が公開している法律案要綱では、「十二 租税特別措置法の一部改正(第12条関係)」「2 法人課税」として、以下の表記がある(条文番号等は省略)。 (3) 改正後の雇用者給与等支給額が増加した場合の特別税額控除の規定 雇用者給与等支給額が増加した場合の特別税額控除の規定は、平成29年度税制改正に伴い、条文番号が、租税特別措置法第42条の12の5に改められるとともに、第4項からは、この改正前の措置法42条の12の4第4項後段部分が削除され、代わりに、適用できる申告書について、「確定申告書等(同項の規定により控除を受ける金額を増加させる修正申告書又は更正請求書を提出する場合には、当該修正申告書又は更正請求書を含む。)」という文言が加わり、「控除を受ける金額を増加させる」修正申告又は更正の請求においても適用可能であることが明記された。 しかし、本改正は、当初申告要件の撤廃ではなく、当初申告要件を維持したうえで、控除額が増加する場合の修正申告や更正の請求でも、要件を満たしている場合には控除額を変更できるよう、改正がされたと考えるべきである。   (了)

#No. 220(掲載号)
#米澤 勝
2017/06/01

〔経営上の発生事象で考える〕会計実務のポイント 【第15回】「工場を新設した場合」

〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第15回】 「工場を新設した場合」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 日本公認会計士協会準会員 素村 康一     1 建設仮勘定の計上と本勘定への振替 《解説》 建設中の建物等に対し、着工前や完成前に建設費用の一部を前払いすることがある。このときの支出は、工事が完成し、実際に引渡しを受けるまでは建設仮勘定に計上する。 そして、工事が完成し、実際に引渡しを受けた時点で、建設仮勘定から本勘定(建物、建物付属設備等)に振り替える。このため、建設仮勘定として計上する支出には資産性が求められ、修繕費等、当期の費用として計上すべきものが含められていないかどうかに留意が必要である。 また、本勘定に振り替えた後、実際に事業の用に供した時点(=稼働開始日)で、減価償却を開始する。引渡日と実際の稼働開始日が大きく異なる場合には、引き渡されていても、稼働開始日まで減価償却を開始しないこともあるため留意が必要である。   2 建設仮勘定の減損の検討 《解説》 減損の対象となる固定資産には、有形固定資産に属する建設仮勘定が含まれる(適用指針第68項)。 以下のような場合には、減損の兆候があると判定され、減損損失を認識するかどうかの判定が必要となる。 【減損の兆候の例示】 ① 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合 ② 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合 ③ 経営環境の著しい悪化の場合 ④ 市場価額の著しい下落の場合 (適用指針第12項~第15項) 建設仮勘定に関しては、建設中であるため営業活動は生じていないものの、建設計画の中止又は大幅な延期が決定されたり、当初の計画に比べて著しく滞っていたりする場合には、②に該当する減損の兆候があるものとされ、減損損失を認識するかどうかの判定が必要となる(適用指針第13項)。 そして、減損損失の認識の判定に用いる将来キャッシュ・フローは、合理的な建設計画や使用計画等を考慮して、完成後に生ずると見込まれる将来キャッシュ・イン・フローから、完成まで及び完成後に生ずると見込まれる将来キャッシュ・アウト・フローを控除して見積もる。 この結果、割引前将来キャッシュ・フローが建設仮勘定の帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額と回収可能価額の差額を当期の損失とする。 〔設例〕 当社は新工場の建物を建設中であり、貸借対照表には当該建物に係る建設仮勘定が計上されている。X2年度に当該建設中の建物に減損の兆候が存在し、今後完成までに要する支出及び完成後に生ずる将来キャッシュ・フローを見積もったところ、以下の通りであった。 減損損失の認識の判定及び測定の際に使用する建設仮勘定等の割引前将来キャッシュ・フローは、合理的な使用計画に基づき、完成後に得られるであろうキャッシュ・イン・フローの見積額から、完成まで及び完成後の利用や処分に要するキャッシュ・アウト・フローの合理的な見積額を控除して算定することとなる。この結果、減損損失の認識の判定は以下のようになると考えられる。 そして、回収可能価額が100と算出されたとすると、以下のような会計処理となる。 (※) 減損損失計上額=150-100=50   3 建設仮勘定に対する資産除去債務の検討 《解説》 資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう(会計基準第3項(1))。 資産除去債務は、発生したときに負債として計上する。一方、資産除去債務に対応する除去費用は、当該負債計上額と同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。さらに、当該除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する(会計基準第7項)。 資産除去債務の対象となる有形固定資産には、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産のほか、それに準じる有形の資産も含む。したがって、建設仮勘定も対象に含まれることになる(会計基準第23項)。 そのため、建設仮勘定として計上した資産に、当該資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものが含まれている場合には、その時点で資産除去債務の計上が必要となる。 このとき、計上される資産除去債務に対応する除去費用は、建設仮勘定の帳簿価額に加えられ、工場が完成して事業の用に供したときから減価償却を通じて費用化されることとなる。   【検討事項のチェックリスト】 ~工場を新設した場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 220(掲載号)
#竹本 泰明、素村 康一
2017/06/01

連結会計を学ぶ 【第4回】「連結の範囲に関する適用指針②」―子会社の範囲の決定―

連結会計を学ぶ 【第4回】 「連結の範囲に関する適用指針②」 ―子会社の範囲の決定―   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回に引き続き、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号。以下「連結範囲適用指針」という)にしたがって連結の範囲を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社の範囲の決定 連結会計基準では、次のように、他の企業の意思決定機関を支配しているケースを規定している(連結会計基準7項)。 ① 他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有している企業 ② 他の企業の議決権の100分の40以上、100分の50以下を自己の計算において所有している企業であって、かつ、一定の要件に該当する企業 ③ 自己の計算において所有している議決権と、緊密な者及び同意している者が所有している議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めている企業であって、かつ、一定の要件の要件に該当する企業   連結範囲適用指針は、議決権の過半数を所有していないが他の企業の意思決定機関を支配しているケースについて、次のように規定している(連結範囲適用指針11項~15項)。 【議決権の過半数を所有していないが、他の企業の意思決定機関を支配しているケース】 連結の範囲については、日本公認会計士協会から「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の留意点についてのQ&A」(監査・保証実務委員会実務指針第88号)が公表されているので、連結の範囲を適切に判断するためには、当該実務指針にも注意が必要である。 (了)

#No. 220(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/01

外国人労働者に関する労務管理の疑問点 【第3回】「外国人留学生(大学生)を社員として雇うとき(「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格への変更)①」~手続き・制度の概要~

外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第3回】 「外国人留学生(大学生)を社員として雇うとき (「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格への変更)①」 ~手続き・制度の概要~   社会保険労務士・行政書士 永井 弘行     1 「在留資格の変更許可申請」の手続きとは これまで外国人を社員として雇ったことのない会社の人事担当者や経営者にとって、「就労ビザの仕組み・制度は、よくわからない」ということが少なくありません。 このようなケースで、会社と本人(外国人留学生)が必要な手続きについて見ていきます。なお、留学生の就職先や従事業務によっては、「研究」や「教育」などの在留資格に変更する場合がありますが、以下では最もケースが多い「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について説明します。 外国人留学生を社員として雇用する場合は、会社に入社する前に、外国人本人が「留学」の在留資格から、「技術・人文知識・国際業務」などの就労の在留資格に変更することが必要です。 これが「在留資格の変更許可申請」の手続きです。 「本人が用意する書類」、「会社が用意する書類」をそれぞれ準備し、入国管理局に申請します。3月卒業、4月入社の場合は、前年の12月から申請が受付されます。11月~12月には書類を準備して、12月~1月には申請するのが賢明です。 留学生の採用が決まり、内定通知を出している場合でも、入国管理局から就労の在留資格が許可されなければ、会社で勤務することができません。在留資格の許可を得ずに働くと、外国人本人だけでなく、会社も「不法就労」として罰せられることになります。 外国人留学生の雇用は、こうした点が日本人学生とは大きく異なります。日本人学生と全く同じようには雇用できない場合がありますので、注意が必要です。   2 就労を目的とする外国人の受入方針(日本の入国管理行政) 現在の日本は、移民を受け入れていません。これは、外国人が「どんな仕事でも良いから、日本で働きたい。」と希望しても、日本政府は、就労の在留資格や日本での在留を許可しない、ということです。 では、現在の日本の入国管理行政の考え方は、どうなっているのでしょうか。 (大阪外国人雇用サービスセンター作成資料より抜粋) このように、現在の入国管理行政は、「単純労働に従事することを目的とした在留資格」を設けていません。 例えば、外国人留学生がアルバイト先(飲食店、コンビニ、工場など)から仕事ぶりを認められて「卒業後は正社員として働きませんか?」と誘われても、入管法で定められた要件を満たしていなければ、就労の在留資格が許可されません。 日本人学生であればすぐに就職が決まるケースでも、在留資格が許可されないために外国人留学生は仕事に就けない場合があるのです。   3 留学ビザから就労ビザへの変更手続き 留学ビザから就労ビザへの変更に必要な手続きの概要について、5W1Hでまとめると、次のようになります。   4 入国管理局に申請する時期は 上述したように、「在留資格の変更許可申請」の手続きは、大学生など3月卒業で4月入社の場合、前年の12月から入国管理局で申請が受付されるのが一般的です。 入国管理局のQ&Aでは「日本国内の大学に在籍する留学生の場合は、卒業見込証明書の提出があれば、申請を受け付けることとします。」と書かれています。 なお、審査後に許可されて、新しい在留資格に変更されるのは、留学生が大学を卒業後に「卒業証明書」を入国管理局に提示した後になります。これは「大学(短大を含む)を卒業していること」が許可の要件になっているからです。 つまり12月以降に申請して、1月や2月に許可予定の通知を得ても、大学の卒業式が3月の場合、「技術・人文知識・国際業務」などの在留カードを得るのは、卒業式の日以降になります。 申請から許可までの時期を図示(イメージ図)すると、次のとおりです。 〈申請から許可までのイメージ図〉 (注) 入社予定日が決まっていても、在留資格変更が許可されなければ、就労できません。その場合は、入社日を後ろにずらす(許可日以降にする)ことが必要です。   5 在留資格の活動内容と許可の基準は 日本の大学を卒業した留学生が、「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更するには、まず、日本で行う就労活動(会社での業務内容)が、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に当てはまることが必要です。 入管法の別表第一の「本邦において行うことができる活動」として、次のように書かれています。 つまり、「大学で専攻した知識や技術を必要とする業務」、または「外国人の語学力を必要とする業務」に従事することが必要です。 このように、入国管理局の審査では、まず、「どのような業務に従事するか」が重要なポイントになります。 次に、入管法や基準省令で定められた要件を満たしていることが必要になります。 主な要件は次のとおりです。 次の表をご覧ください。 〈入管法第7条第1項第2号(入国審査官の審査)の基準を定める省令(基準省令)の要旨〉 (注) それぞれの職種は、あくまでも例示です。会社で従事する業務内容と、大学・専修学校等で履修した科目等の専門的知識、技術との関連性があること、入管法の定める基準を満たすことが必要です。  入国管理局の審査は、個別の内容により判断されます。詳細は申請先の入国管理局に確認することが重要です。 少し専門的になりますが、この表の「活動内容」の欄に書かれていることを『在留資格該当性』と言います。「在留資格が許可される活動内容か(従事業務か)」ということです。 また、「許可基準」の欄に書かれた内容を『基準適合性』と言います。 「留学」から「技術・人文知識・国際業務」に変更するときは、入管法で定められた『在留資格該当性』と『基準適合性』の両方を満たさなければ、許可されないということです。 極端な例ですが、大学の経営学部でマーケティングを専攻した留学生が、コンビニのレジ担当者として正社員になることを希望しても、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は許可されません。入国管理局は、コンビニのレジ担当の業務は「人文科学の分野に属する技術または知識を要する業務」ではない、と判断するからです。 一方、小売業の会社で、経営学部の留学生が店舗経営や企画、マーケティングの担当者として勤務する場合は、「人文科学の分野に属する技術または知識を要する業務」ですので、許可される可能性があります。この場合でも、給料の水準や、会社の事業の安定性(決算状況)、継続性、その他の要件が、個別に審査されます。   6 留学生の採用選考時に注意・確認することは 在留資格の活動内容と許可の基準を理解したうえで、面接や採用選考を行います。 まず会社は、「在留資格が許可される範囲の従事業務」を予定します。つまり今回の場合、「専門的・技術的な分野の従事業務」や「外国人の語学力を必要とする業務」の採用を予定するということです。 次に、履歴書等の情報をもとに、大学の専攻(学科、専門分野)や職歴・実務経験年数の有無などで、在留資格が許可される可能性のある外国人を選考します。入社後の従事業務が「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格の基準を満たしているか、という視点で確認します。さらに面接では、学歴、専攻、前職がある場合の従事業務や経験年数などの詳細を確認します。 なお、内定を出すときには、あらかじめ「就労の在留資格が許可されなければ、内定は無効」である点を伝えるのが賢明です。 〈外国人の採用手続き:入社までの主な流れ〉   7 在留資格の変更申請に必要な書類は 最後に、入国管理局に申請する書類は、何が必要かを見ていきます。 入国管理局は、留学生と会社の両方を書類審査します。 現在の制度では、会社は事業規模等に応じて次のように「カテゴリー1」~「カテゴリー4」に区分され、上場企業(カテゴリー1)や、年間で1,500万円以上の所得税を支払っている会社など(カテゴリー2)の場合には、申請時の必要書類が少なくて済みます。 具体的には、下記(1)、(2)の書類のうち、在留資格変更許可申請書以外の大半の提出が免除されます(ただし、ケースによっては、申請後に書類の追加提出を求められることがあります)。 一方、年間で支払う所得税の総額が1,500万円未満の規模の会社など(カテゴリー3、4の会社)は、下記(1)、(2)の書類をそろえて申請する必要があります。   8 規模の大きな会社は提出書類が免除される 先述のカテゴリー1~4の関係を図示すると、次のとおりです。 在留資格の変更許可申請では、外国人と会社の両方が審査されます。ここで、上場企業(カテゴリー1)などは、書類提出が免除されています。「会社の書類審査を行うまでもない」ということです。 〈在留資格変更許可申請の提出書類 「技術・人文知識・国際業務」〉 (※) 法務省ホームページを元に筆者作成 *  *  * 今回は制度の全体像について見てきました。次回は、具体的な事例や、より詳しい事項について説明する予定です。 法務省入国管理局が公開しているガイドラインなどは次のとおりです。 【参考】 ▷在留資格関係公表資料 ▷留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更許可のガイドライン ▷「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について (了)

#No. 220(掲載号)
#永井 弘行
2017/06/01

これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務 【第4回】「定期メンテナンスの入り口」-定款を活用した任期到来の時期の特定①-

これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第4回】 「定期メンテナンスの入り口」 -定款を活用した任期到来の時期の特定①-   司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹   はじめに 登記管理をするうえで、役員改選の登記手続としての定期メンテナンスを中長期的にわたって漏れなく運用する視点が欠かせない。その流れを作るためには、①役員の任期到来の時期を特定することによって、定期メンテナンスの入り口を明確にし、つづいて②任期管理の体制づくりによって、中長期的な定期メンテナンスの実現を図る必要がある。 【例:役員の任期4年のイメージ図】 具体的には、まず自社や顧問先の会社の役員について直近の任期到来の時期を特定する。そのうえで、役員の任期が4年であれば、4年後、8年後、12年後・・・と、定期的に漏れなく役員改選の登記手続を行うために、任期管理の体制づくりに着手する。   最新の定款が必須 本稿では、①定期メンテナンスの入り口として、役員の任期到来の時期を的確に特定するうえで必須となる定款に着目して解説する。なお【第3回】で解説したとおり、定款には役員の任期規定がある。その定款を参照する際には、内容が“最新”であることが前提となる。 それでは以下のフローチャートに沿って、定款管理について確認してみよう。 【定款管理の簡易チェックフローチャート】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   ①定款の有無 定款は会社の本店に備え置かなければならない(会社法第31条第1項)が、長年定款を外部に提出する機会がなく、紛失していることがある。もし定款の所在が不明である場合には、以下の表を参照して、外部から定款を入手できるかを検討する。   ②外部から定款を入手する方法 外部から定款を入手する方法をまとめると、次の通りである。 《原始定款》 会社の設立手続の一環で定款認証をした公証役場では、原始定款が20年間保存されている(公証人法施行規則第27条第1号)。役員改選の登記手続の時期をはじめて迎える比較的新しい会社は、原始定款と現在の定款の内容が一致することが多い。また定款の保存期間の観点からも、入手ルートの一つとして有力である。 《各種届出等で使用した定款》 士業による各種届出等で定款を使用する場合がある。例えば、司法書士では登記申請、税理士では税務署への届出、行政書士では許認可申請、社会保険労務士では助成金申請といった場面で定款が用いられることがある。 《登記申請の附属書類》 登記受付日から5年以内であれば、登記申請をした法務局に保存されており、閲覧することができる(商業登記規則第34条第4項第4号)。 《定款の所在が不明の場合》 上記いずれによっても定款を入手できない場合には、定款変更の株主総会議事録や登記記録等の情報を参考にして定款を全面的に復元することになる。   ③現行法に沿った内容で整備されているか 平成18年の会社法施行前の制度に関する表記が記載されている場合がある。もしそのような記載があれば、定款が長年更新されていないことを意味する。 【会社法施行前と現行法の用語の比較:例】   ④株式の整備 現行法の表記に定款を整備したり、紛失等により定款を全面的に復元したりするには、株主総会の特別決議を経る必要がある(会社法第309条第2項第11号・第466条)。株主総会の特別決議は、原則として、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければならない。 ここで、株主総会の特別決議が成立するか、株主構成や議決権数の割合をみてもらいたい。総議決権の3分の2以上の株式を有する株主の同意を得られるかどうかが一つの目安となる。 株主総会の特別決議に必要な株主の同意を得られないとなれば、商号や目的の変更等の定款変更や、合併や会社分割の組織再編等といった、会社の重要な意思決定を円滑に行えず、【第1回】でいう会社の履歴書が更新されない状態といえる。 この場合、会社の意思決定が滞りなく行われるよう、株主総会の特別決議の成立に必要な株式の整備が急務となる。詳しくは「株主管理」のテーマ時に解説する。   ⑤役員の任期変更に関する株主総会の決議があるか 株主総会の特別決議によって役員の任期を変更することができ(会社法第309条第2項第11号・第466条)、その旨を定款に反映する必要がある。任期は定款には記載されるが、登記記録で明示されるものではない。 定款は会社が自ら管理するものであり、なかには定款の更新が滞ってしまうことがある。定款が更新されないと、誤って古い内容を参照し、役員の任期到来の時期を見誤ってしまうおそれがある。 そこで、最新の定款をもとに任期等を精査するために、変更の決議ごとに定款の更新を行ったり、変更の決議の履歴を明示したりする等の工夫が求められる。詳しくは「議事録管理」のテーマ時に解説する。   ⑥定款と登記記録の内容が一致しているか 役員の任期の規定のほかに、定款と登記記録の記載が一致しているかを精査する。目的、商号、発行可能株式総数といった項目は、定款、登記記録いずれにも記載される項目である。登記はされているにもかかわらず、定款が更新されていない場合は、登記記録や、登記申請の添付書面である株主総会議事録をもとに定款に反映する。 *  *  * 以上、役員の任期到来の時期を的確に特定するために、任期規定のある定款を確認するだけでも、定款の保管状況や株主構成等、メンテナンスする項目が多岐にわたる点に着目してもらいたい。 次回は、最新の定款の内容を前提として、役員の任期到来の時期を特定する方法について引き続き解説していく。 (了)

#No. 220(掲載号)
#本橋 寛樹
2017/06/01

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第10回】「死後に遺言書の無効が争われるケース(その2)」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第10回】 「死後に遺言書の無効が争われるケース(その2)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   [設問10] 【設問09】では、死後に遺言書の有効性が争われたケースにつき、遺言書の無効を主張する立場にたって検討した。 今回は、逆の立場、すなわち、遺言者本人及び有効な遺言書を残してもらうことにメリットを有する相続人の立場にたった紛争予防策、あるいは万一の場合に備えた準備事項を解説したい。   1 「遺言書を残す者/残してもらう者」ができることとは? 生前に遺言書を残した本人は、当然ながら、自分の死後には遺言書通りの遺産の承継が円滑に実現することを希望するだろう。 同様に、遺言者本人から生前に知らされていたかどうかはともかくとして、遺言書により遺産を相続する立場の相続人としても、遺言書の有効性を主張するのが通常であろう。 ところが、本人の死後に遺言書の有効性が争われる余地もあることは、【設問09】で見たとおりである。 そこで、遺言書を残す本人、もしくはこの者に遺言書を残してもらうことに利益を有する者としては、遺言書の有効性を確保するためにどのような予防策が取れるであろうか。   2 遺言書の有効性を担保するための方法(その1) -公正証書遺言にする 死後に争われにくい遺言書の作成を考えるのであれば、自分自身で作成する自筆証書遺言ではなく、公証役場にて公正証書遺言を作成すべきである。 公正証書遺言であれば、公証人のチェックのもとで遺言書が作成されるため、法律上要求されている記載要件を書き漏らす心配はない。また、不動産の相続等に関しては自筆証書遺言の場合には対象物件の特例の仕方が厳密ではない場合も多く、相続登記の申請の際に遺言書を使えない場合も多い。しかし、公正証書遺言であれば、通常、そのようなことはない。 加えて、遺言無効確認訴訟において必ず争点になると行ってよい「判断能力(遺言能力)の有無」の点も、公証人により遺言者本人の状態の観察・確認が行われ、判断能力には問題ないと判断されて初めて遺言書が作成されるのである。 他方、遺言書作成時に既に判断能力を完全に喪失しているようなケースでは、遺言書の作成に応じてくれないことは勿論である。 このように、遺言書の作成に公証人が関与することの大きなメリットの一つは、通常はなかなか決定的な証拠を確保しておくことが困難である遺言能力につき、有力な証拠を確保することできるということである。 遺言書が有効であると主張する側は、公正証書を作成した公証人がまだ存命であれば、この者に照会をし、公正証書遺言作成当時の遺言者の状態等につき回答してもらうことができる。回答内容は、遺言能力があったとする内容であろうから、遺言書の有効性を主張する側にとっては非常に大きな証拠となる。 同様に、必要に応じて、証人尋問において遺言書を作成した公証人に出廷してもらい、証言してもらうことも可能である。 なお、公正証書遺言を作成することを躊躇し、自筆証書遺言にこだわるケースにおいて当事者にその理由を聞くと、余計な費用がかかることを気にかけている場合がある。 公証人に支払う手数料は、遺言書作成時点における所有資産の総額に応じて異なる。通常の場合、概ね数万円から十万円前後程度の費用で作成できる(間に士業に入ってもらって条項等を調整していく場合は、その者に対する報酬が別途必要となる)。 これを安いと見るか高いと見るかはそれぞれであるが、前述のように死後に遺言書の効力を争われた場合の強力な備えが確保できると考えれば、決して高い費用ではないであろう。   3 遺言書の有効性を担保するための方法(その2) -各種資料を残す 以上に加えて、遺言書作成当時の遺言能力の存在を基礎づける資料、たとえば、①遺言書作成当時における医師の診断書、②入通院先の診療録、看護記録、③本人の状態を記録した映像や文書等といった資料を予め確保しておけば、より万全と言えよう。これら資料の確保については、解説編【第5回】を参照されたい。 加えて、④遺言書の有効性判断の一つの考慮要素とされる「遺言で定めた内容に至った動機・経緯」に関して、なぜ遺言者が今回のような遺言内容と決めたのかにつき、それまでの経緯(人間関係や生前贈与の有無・金額等を含む)や本人の心情等については、手紙に残すなどしておいてもらった方が良いであろう(これらを、遺言書末尾の付言事項に記載するケースもある)。 なぜならば、遺言書作成の動機・経緯は遺言者本人もしくは近親者しか知り得ない事項であり、後日にこれを記憶喚起し、証拠化しようとしても困難を伴うからである。   4 公正証書遺言であるにも関わらず、無効とされる場合があるか? 実際上、本人の死後に公正証書遺言が無効とされるケースは少数であるといえるが、裁判例を見ていると決して皆無というわけでもない。実際、公正証書遺言の無効を争う訴訟の件数は、判例データベースや公刊物等を見る限り、増加していると感じられる。 これらには、遺言書作成当時の診療記録を見ると認知症等による判断能力の減弱が見られるにも関わらず、遺言書作成時における公証人による遺言能力の確認が不十分であり、そのため遺言能力の存在に疑義が生じているというケースが多い。 公正証書遺言が無効とされた裁判例は公刊され、判例雑誌等でも取り上げられていることから、現在の公証役場においてはより一層、遺言能力の確認には慎重を期していると聞く。 たとえば、①公証役場に来た、あるいは病院における遺言者の身体の状態や行動をよく観察する、②遺言者とたわいのない雑談をし、その反応や受け答えの内容を観察する、③作成しようとする遺言書の概要を言えるかを確認する等した上で、それらの結果を執務記録に書き残しておくというようにである(記念撮影と称して、作成当日の遺言者の様子を写真撮影しておく公証人もいると聞く)。 遺言書を残す側としては、公証人にも遺言能力を十分確認してもらうことはもちろん、前記3で述べたような各種資料を生前から入手し、確保しておくことで万全を尽くすべきであろう。 (了)

#No. 220(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/06/01

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第2回】「社外取締役の活用の在り方について」

コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第2回】 「社外取締役の活用の在り方について」   PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー 公認会計士 手塚 大輔   本シリーズでは、2017年3月31日に経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を取り上げている。CGSガイドラインは、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、ガバナンスへの取り組みを深化させる目的で策定されたものである。 今回は、CGSガイドラインから、「3.社外取締役の活用の在り方」を取り上げる。 なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りする。   〔社外取締役活用への提言〕 CGコードにおいて導入された、複数の独立社外取締役選任に関する原則(原則4-8)は、平成26年改正会社法で導入された、社外取締役を選任しない企業に説明責任を課す規定とともに、日本におけるコーポレートガバナンス改革を象徴する取り組みの一つといえる。 日本におけるコーポレートガバナンス改革は、日本再興戦略(2013年6月閣議決定)において、社外取締役の機能を積極活用することにより、攻めの会社経営を後押しすることが掲げられたように、日本企業の中長期的な収益性の向上によって、日本経済の停滞を打破するという成長戦略の重要施策の一つとして進められたものである。 CGコード導入から2年経過した現在、企業に期待されることは、複数の独立社外取締役の選任による「コンプライ」に満足せず、社外取締役を活用してコーポレートガバナンスを深化させることといえる。 すなわち、取締役会での議論を一層活性化させ、ステークホルダーとのエンゲージメントによって、取締役会における議論に対する支持を得て、十分な経営資源を成長戦略に投入することによって持続的な収益力を高めるという一連のプロセスを継続的に実行することである。 そして、取締役会の議論を充実させるために、社外取締役の知見・経験に基づく助言や監督が期待されている。   〔社外取締役の活用の在り方についてのガイドラインの内容〕 CGSガイドラインは、コーポレートガバナンスに取り組みたいものの、具体的に何をすれば有益なのかといった実務上の参考となるガイダンスを望む声に応えて、有益と考えられる検討事項や取り組みを紹介すべく取りまとめられたものである。すなわち、CGSガイドラインの内容は、企業に押し付けられるものではなく、自社に適したガバナンスについて議論する際に参考情報として活用されることが期待されていることに留意が必要である。 社外取締役の活用の在り方では、社外取締役の「活用に向けて」及び、社外取締役の「人材の拡充に向けて」について提言されている。 「社外取締役の活用に向けて」においては、①社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面、②社外取締役を探し、就任を依頼する場面、③社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面、④社外取締役を評価し、選解任を検討する場面の、それぞれに応じて企業が行うべきことを提案しており、さらに、【別紙2:社外取締役活用の視点】において具体的な提言を行っている。 「社外取締役の人材の拡充に向けて」においては、経営経験者が退任者・現役者を問わず、積極的に他社の社外取締役を引き受けることを検討することを提言している。これは、企業からは、社外取締役に経営経験者を望む声が多いが、その人材市場には十分な厚みが足りていないという現状認識を踏まえたものである。これには一企業の努力だけでは改善が困難であるため、ガイドラインを通じて広く働きかけを行ったものといえる。 以下、「社外取締役の活用に向けて」が提案する、4つの「検討の場面」及び場面ごとの「検討事項(ステップ)」について紹介していく。 場面1 社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面 《検討事項(ステップ)》 ◆自社の取締役会の在り方を検討する。 ◆社外取締役に期待する役割・機能を明確にする。 ◆役割・機能に合致する資質・背景を検討する。 企業の置かれた状況は各社各様であり、取締役会の在り方も多様であることから、社外取締役の選任の要否、期待する役割・機能、人数・割合が異なりうることを認識することが必要である。したがって、目指すべき自社の取締役の姿を自覚的に整理することが有益であると提言している。 CGSガイドラインでは、次のように、取締役会の在り方において、(1)経営において社長・CEO に権限を集中させたいのか否か(横軸)、また、(2)取締役会でなるべく個別の意思決定まで行いたいのか否か(縦軸)という視点から検討する方法を参考として図示している。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「CGSガイドライン」p11より) 社外取締役に期待する役割・機能が明確でない場合には、社外取締役の候補者の選任や評価が困難になるため、これを明確にすることを提言している。CGSガイドラインでは、期待される役割・機能だけでなく、期待しない役割・機能も例示している。 次に、明確にした役割・機能に合致する資質・背景を検討することになる。ここでは、特に、社外取締役の活用を有効にするためには、経営経験を有する社外取締役の選任を提言していることに特徴がある。社外取締役に期待される役割・機能を一人の社外取締役が果たすことは難しいケースもあるため、その場合には多様な資質・背景を有する人材の組み合わせにより、社外取締役全体として機能させることも有益であるとしている。 CGSレポートと合わせて公表された「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」からは、社外取締役に他社の経営陣幹部の経験を求めるという回答が非常に多いことが示されたが、財務・会計や法務などの専門知識を期待する意見も相当程度あり、多様な人材の組み合わせにより社外取締役全体を機能させるという提言の背景を示すものとなっている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p99より) 場面2 社外取締役を探し、就任を依頼する場面 《検討事項(ステップ)》 ◆求める資質・背景を有する社外取締役候補者を探す。 ◆社外取締役候補者の適格性をチェックする。 ◆社外取締役の就任条件(報酬等)について検討する。 CGSガイドラインp58には社外取締役候補者を探す選択肢が示されているが、それぞれに懸念すべき点があり、経営経験者が積極的に他社の社外取締役を引き受けることが望まれるという、社外取締役の人材の拡充への提言に繋がっている。 (経済産業省「CGSガイドライン」p58を基に筆者作成) 就任条件のうち報酬については、以下のような観点を検討すべきことが提言されている。   場面3 社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面 《検討事項(ステップ)》 ◆就任した社外取締役が実効的に活動できるようにサポートする。 社外取締役が活躍するために実施している工夫について、「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」では、取締役会以外の自由闊達な議論の場を設けているという回答が最多であった。また、独立社外者のみの会合はCGコード補充原則4-8①、筆頭独立社外取締役の設定は補充原則4-8②で示されている内容である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p101より) 場面4 社外取締役を評価し、選解任を検討する場面 《検討事項(ステップ)》 ◆社外取締役が、期待した役割を果たしているか、評価する。 ◆評価結果を踏まえて、再任・解任等を検討する。 社外取締役が常に優れているとは限らず、社外取締役の質の向上の観点からも期待される役割を果たしているかの評価が必要であり、また、社外取締役の評価を踏まえ、再任・解任等について検討すべきと提言している。また、社外のステークホルダーから見た場合に、会社内における社外取締役の活躍の状況を把握できる情報が乏しいため、このような情報を積極的に発信することや、社外取締役が株主等と対話する機会を設けることを提言している。 なお、就任期間の長さについて、事業に対する理解や経営陣への影響力などで好ましい点がある一方、会社からの独立性の維持の観点から疑念が生じる可能性があるため、定量的な就任期間の目安(例えば10年)を定めることや、社外者中心の指名委員会等を活用し再任・解任等の適否を判断することを提言している。   〔おわりに〕 CGSガイドラインのうち、社外取締役の活用の在り方は、別紙を含めるとガイドラインの多くの割合を占めている。これは、取締役会に対する監督機能の中心の一つとなるべき社外取締役の活用が重視される中で、実感のある形で活用が進んでいないという現状認識が反映されたものと考えられる。 コーポレートガバナンスは、中長期的な観点で企業の在り方を反映すべきものであり、間に合わせの対応が可能なものでもない、じっくりと腰を据えて取り組むことが期待されるものである。社外取締役の活用は、日本におけるコーポレートガバナンス改革における最重要の取り組みの一つであるが、多くの企業にとって、その取り組みはまだ始まったばかりである。 複数の社外取締役を選任後、直ちに業績の向上やステークホルダーの理解が得られなくとも、社外取締役の活用に効果がないと早計にするのではなく、CGSガイドラインや先進の事例を参考としながら、前向きで中長期的な取り組みが望まれる。 次号(第3回)では、「経営リーダー人材育成についてのガイドラインの概要」を取り上げる予定である。 (了)

#No. 220(掲載号)
#手塚 大輔
2017/06/01

〈小説〉『資産課税第三部門にて。』 【第21話】「未分割と更正の請求」

〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第21話】 「未分割と更正の請求」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「これは・・・法の欠缼(けんけつ)では・・・?」 谷垣調査官は田中統括官の机の前で頸を傾げている。 「何が・・・問題だって?」 田中統括官は頭を掻きながら、うるさそうな顔をしてペンを止めた。第三部門の来月以降の実行(調査)計画等を策定していたところである。 「ええ・・・第2次相続に係る相続税の申告をした後、第1次相続について分割が確定したケースなんですが・・・」 谷垣調査官はすぐさま説明を始める。 田中統括官は事務計画の作成を諦め、仕方なく谷垣調査官の話を聞くことにした。 「それで、当初、第1次相続が未分割であったために、第2次相続の財産は、法定相続分50で申告したのですが、それが、後にゼロと確定したため、第2次相続の相続人乙・丙が更正の請求をできるのか・・・ということなのです。」 谷垣調査官は困ったような表情をする。 田中統括官は谷垣調査官の話を聞きながら罫紙に図を描いた。 「君の話では・・・こんな状況の申告をしたということだね。」 田中統括官は、自分の描いた図を見せる。 「そうです。甲は配偶者ですから、100の1/2である50が法定相続になります。そして第2次相続では、その50を子供2人が乙30と丙20で分割した・・・」 そこまで言うと、谷垣調査官は田中統括官の顔を見た。 「例えば、配偶者甲の50が、遺産分割ではゼロに確定したとすると、第2次相続の財産はなくなるので、乙30と丙20に係る相続税については、還付がなされなければならない・・・そのためには、相続税法32条1項1号の規定に基づく更正の請求ができなければならない・・・しかし、これはダメなんですよね。」 谷垣調査官は恨めしそうに言う。 田中統括官は腕を組んで黙ったまま「税務六法」を開いた。 「この相続税法32条1項1号は・・・」 田中統括官は、条文を見ながら説明する。 「・・・同法55条の規定により分割されていない財産について、民法の規定による相続分の割合によって課税価格が計算された場合において、その後にその財産の分割が行われ、共同相続人がその分割により取得した財産に係る課税価格がその相続分の割合に従って計算された課税価格と異なったことのケースを掲げているから・・・」 さらに田中統括官は説明を続ける。 「・・・すなわち、相続税法32条1項1号に基づく更正の請求は、同号に規定する事由に該当した場合に限って認められるのであって、同号は、未分割の遺産につき、一旦相続税法55条の規定による計算で税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、既に確定した相続税額が過大になるという相続税に固有の後発的事由について規定したものであって、その規定に基づく更正の請求は、当初の申告(第1次相続)に存在するとされる過誤の是正を「第2次相続」で求めるものではないと解されている・・・」 そう言うと、田中統括官は再びペンをとって、図を描く。 「しかし、乙や丙は、結局、相続財産がなくても、当初(第2次相続)の申告に係る更正の請求ができなければ、おかしなことになります・・・」 谷垣調査官はキッパリと言う。 「・・・確かに・・・君の言うとおりだ・・・」 田中統括官は大きく頷く。 「・・・このケースのように、納税者に対して、課税上、著しく不公平になる場合には、国税通則法71条2号の規定(下記の下線部分)を適用して・・・納税者を救済することはできる・・・かもしれない。・・・ただ、未分割を分割(確定)にすることは、『無効な行為』や『取消しうべき行為』とは異なるものだと思うけど・・・」 田中統括官は「税務六法」を開いて谷垣調査官に条文を見せた。 「・・・しかし、この条文の見出しは、『国税の更正、決定等の期間制限の特例』と題しているように、課税庁側の規定で、納税者から減額更正を求めることができる規定ではありません・・・」 谷垣調査官は不満そうに言う。 「この規定は、納税者側から是正する手続がない場合で、これを放置すると納税者に課税上著しい不公平が生ずるときには税務署長が減額更正できるという・・・まあ、一種の納税者を救済する規定なのだから・・・」 そう言い終わると、田中統括官は再び机上にある実行(調査)計画等の書類に目を向けた。 (つづく)

#No. 220(掲載号)
#八ッ尾 順一
2017/06/01
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