《速報解説》 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」等が公表 ~ASBJ移管に伴い注記事項等開示関係を見直し~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年6月6日、企業会計基準委員会は、次の公開草案を公表した。 これは、日本公認会計士協会の税効果会計に関する実務指針について、企業会計基準委員会に移管するためのものであり、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行っており、主として開示に関する改正である。 意見募集期間は平成29年8月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 会計処理に関する改正 会計処理に関する改正は次のとおりである。 2 開示に関する改正 開示(表示及び注記)に関する改正は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 原則として、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するが、早期適用できる事項もある。 改正事項によっては、表示方法の変更として取り扱うもの、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものがあるので、実際の適用に際しては注意が必要である。 詳細は、公開草案に関する「本公開草案の概要及び質問項目」の「適用時期等」をご覧いただきたい。 (了)
2017年6月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.221を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第53回】 「国会審議から租税法条文を読み解く(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 雪下ろし費用の雑損控除の論拠 1 2つの解釈論的アプローチ 雪下ろし費用に係る雑損控除を認める論拠を解釈論上いかに説明するかについては、差し当たり2つの捉え方があり得ると思われる。 ① 豪雪損失説 豪雪被害による損失を考慮して雑損控除の対象とするという考え方 ② 損失拡大未然防止説 豪雪による被害をこれ以上拡大させないためになされる被害未然防止費用として雑損控除の対象とするという考え方 これらの見解について、それぞれ国会審議から確認することができるので、以下確認してみたい。 (1) 豪雪損失説 第一に、豪雪自体を雑損控除の対象として、この豪雪による損害の中に、「雪下ろし費用」を読み込むアプローチがある(豪雪損失説)。 例えば、昭和56年3月3日付け第94回国会衆議院・予算委員会第5分科会において、国税庁の冨尾一郎所得税課長(当時。後の国税庁次長)が次のように答弁している。 ここでは、「雑損控除の趣旨は、家財とか住居とかに損害を受けた場合に」とされているとおり、家財や住居に損害を被らせる雪下ろし費用について雑損控除の適用が認められるという趣旨の答弁がなされているといえよう。 (2) 損失拡大未然防止説 第二のアプローチとして、「雪下ろし費用」を豪雪による被害損失の拡大防止あるいは予防のために要した費用として、雑損控除の対象とするという構成が考えられる(損失拡大未然防止説)。 損失拡大未然防止説は、従前の枠組みの中にあって、「予防」に対する雑損控除を認める解釈論上の根拠である。 上記の豪雪損失説が、「損害を被らせる雪下ろし費用」について雑損控除を認めるものであるのに対し、損失拡大未然防止説は、「損害の予防・未然防止」についても雑損控除の適用を認めようとする点で、豪雪損失説とは大きく異なるものといえよう。 この点、所得税法及び所得税法施行令の条文を確認すると、損失拡大未然防止説のアプローチが採用されていることが判然とする。 すなわち、所得税法72条1項が雑損控除の範囲を「災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)」としているところ、同条項の委任を受けた所得税法施行令206条1項3号は、「災害により住宅家財等につき現に被害が生じ、又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合において、当該住宅家財等に係る被害の拡大又は発生を防止するため緊急に必要な措置を講ずるための支出」と規定する。 この規定によれば、「被害が生じ・・・被害の拡大を防止するため」と「まさに被害が生ずるおそれがあると認められる場合に・・・被害の発生を防止するため」の、2つの目的でなされる「緊急に必要な措置を講ずるための支出」が雑損控除の対象となることが分かる。 すなわち、同条は、「発生した被害の拡大防止」と「発生していない被害の発生防止」を対象としているのである。 この点について、国会審議をみてみよう。 平成18年2月24日の第164回国会参議院・災害対策特別委員会において、国税庁の竹田正樹課税部長(当時)は次のように当時の経緯を説明している。 (注) ここにいう「昭和48年の秋田県の豪雪」とは、いわゆる「四八(よんぱち)豪雪」と呼ばれるもので、昭和48年11月から翌49年3月まで続いた記録的な豪雪のことである。秋田豪雪とも呼ばれる。 「雪を下ろさないと家屋が壊れてしまうというふうな状況を勘案して」と説明されているとおり、これは、まさに損失拡大未然防止説によるアプローチであるといえよう。 家屋の倒壊という被害は発生していないが、倒壊のおそれがある場合に、その発生を未然に防ぐための支出も雑損控除の対象として取り扱うこととされたわけである。 その後、昭和52年に、豪雪の場合における雪下ろし費用等が雑損控除の対象になる旨を明確にした通達が発遣されたことは前述のとおりである(前回参照。国税庁長官通達(直所3-21)「豪雪の場合における雪下ろし費用等に係る雑損控除の取扱いについて」)。 そして、昭和56年度税制改正において、雑損控除の制度が拡充され、災害関連支出に新たに5万円控除の制度が導入されたことに伴い、所得税法施行令も改正、整備され、かかる改正により雪下ろし費用が雑損控除の対象として適用されることが所得税法上明確になったことも既述のとおりである。 2 損失拡大未然防止説の問題点 (1) 範囲の不明確性 このような「予防費用」に雑損控除の適用が認められるか否かについては、その範囲を巡って議論がある。 例えば、平成18年2月24日付け第164回国会参議院・災害対策特別委員会において、井上哲士議員(当時)は、融雪住宅の維持には燃料費が非常に高くかかるという点を指摘した上で、「この融雪のための燃料費が雑損控除の対象にならない」という点を問題視し、次のように質問を行っている。 この質問に対して、国税庁の竹田正樹課税部長(当時)は以下のとおり答弁している。 損失拡大未然防止説に立脚すれば、融雪屋根の設置目的が豪雪による家屋の倒壊を未然に防止するものであることに着目し、これについても雑損控除の適用を認めるべきとの見解も一理あるところであるが、上記政府参考人の答弁のとおり、融雪屋根については雑損控除の対象とはされていない。 このように、「予防費用」に係る雑損控除の適用については、その範囲が明確でないという問題を指摘することができるであろう。 なお、昭和53年3月2日付け第84回国会衆議院・予算委員会第2分科会において、米里恕大蔵大臣官房審議官(当時)は、この制度は除雪費関係だけに適用されるものではないと答弁している。 加えて、昭和59年6月28日付け第101回国会衆議院・災害対策特別委員会において、厚生省の清水康之社会局保護課長(当時)は、雪下ろし費用は「住宅維持費」、いわば「住宅維持補修費的な考え方」を適用していると説明するなど、必ずしもその範囲が判然としているわけではないことに注意する必要があろう。 (2) 生活維持費と雑損控除 さて、ここで「住宅維持費」と説明されている点であるが、所得控除の類型を踏まえると、ここには議論の余地があろう。 例えば、金子宏教授は、所得控除を大別して次の5つの類型に整理される(金子宏『租税法〔第22版〕』199頁以下参照)。 このように、雑損控除とは、③特定の支出が担税力を弱めることへの配慮としての所得控除として設けられていると解されるところ、上記「住宅維持費」が、要するに生活維持費を意味するものであるとすれば、雑損控除に①の類型に当たる生活維持費的な性格付けをすることには議論があるものと思われる。 すなわち、雑損控除とは、そもそも最低生活費保障への配慮とは別の性質のものであると解されるため、雑損控除に生活維持費的な考え方を取り込むことについては問題もあろう。 もっとも、所得税法72条が、生活に通常必要でない資産に係る損失を雑損控除の対象範囲から除外しているという点を裏返して考えれば、このような理解がまったくの筋違いであるともいえないが、こうした理解に問題がないといい切ることはできないであろう。 この点は、昭和59年3月1日付け第101回国会衆議院・災害対策特別委員会において、大蔵省の伊藤博行主税局税制第一課長(当時。後の国税庁次長)が、雑損控除に関連して、雪寒控除、いわば豪雪地帯の地域的な事情を勘案してのそういう特別な控除を設けるべきとの水谷弘議員(当時)からの指摘に対して次のように反駁しているとおりである。 また、「住宅維持補修費的な考え方」についても、雑損控除を納税者が被った損失という担税力の減殺を目的とするものであると理解する以上、雑損控除の解釈に持ち込むことは問題がありそうである。 (続く)
役員給与等に係る平成29年度税制改正 【第3回】 「特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)に関する改正」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 1 特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)に関する改正 特定譲渡制限付株式は、平成28年度税制改正により導入された、事前確定届出給与として損金算入が認められる株式報酬(法人税法34条1項2号・5項)をいう。 その主要な要件は以下のとおりである。 (※1) 市場価格のある株式と交換される株式、例えば、上場会社が発行する非上場の種類株式であって取得請求権の行使等により市場価格のある株式が交付されるものも含まれる。 (※2) 「関係法人」には、50%超の株式又は持分を保有する関係にある法人が含まれる(法人税法2条12号の7の5、法人税法施行令71条の2)。 平成29年度税制改正による改正点は、上記の要件②及び④に関するものである。 具体的には、上記要件②に関しては、平成29年度税制改正前は、特定譲渡制限付株式として認められるために必要な無償取得事由は、その株式の交付を受けた役員等につき「譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続しないこと」、「個人の勤務実績が良好でないこと」その他の「当該個人の勤務の状況に基づく事由」、又は株式の発行法人につき「法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないこと」その他の「法人の業績その他の指標の状況に基づく事由」(法人税法施行令111条の2第1項2号、所得税法施行令84条1項2号参照)のいずれかから選択することが求められていた。 しかし、平成29年度税制改正により、事前確定届出給与として損金算入が可能な特定譲渡制限付株式は、「役務の提供期間に応じて」無償取得されるものに限られることとなった(法人税法34条1項2号・5項)。これは、平成29年度税制改正において、金銭、株式又は新株予約権という報酬の支給手段を問わず、役員給与全般について損金算入の要件を統一化するとの横断的な整理が行われたことに伴い、特定譲渡制限付株式についても、事前に確定した給与を付与するとの性質を有するもののみが事前確定届出給与の対象とされ、業績に連動する無償取得事由を付したものは事前確定届出給与の対象外とされたことによる。 なお、特定譲渡制限付株式の割当契約書等において、無償取得事由として、会社に対する非違行為があった場合や、禁固以上の刑に処せられた場合等に特定譲渡制限付株式の全てが没収される旨を規定することがあるが、このような無償取得事由については「役務の提供期間以外の事由により無償取得される株式数が変動する」には該当しないと考えられ、上記②の要件の充足を阻害するものとはならない(経済産業省産業組織課「『攻めの経営』を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引き~」(平成29年4月28日時点版)(以下「経産省手引き」という)Q20・21参照)。 また、要件④に関しては、平成29年度税制改正前は、市場価格のある株式との要件は課されていない一方、役務提供を受ける法人又はその法人の直接かつ完全親法人の株式(改正前法人税法施行令111条の2第1項2号、所得税法施行令84条1項2号参照)に限られるとされていた。 平成29年度税制改正によって、上記の要件に関しては、市場価格のある株式に限られる一方(法人税法34条1項2号ロ・3号柱書)、関係法人、つまり50%超の株式又は持分を直接又は間接に保有する関係にある法人の発行する株式まで含まれることとなった。そのため、交付対象となる役員等の範囲につき、例えば、持株会社傘下の直接の完全子会社の役員に限られず、50%超の子会社の役員まで含むことが可能となった。 なお、市場価格のある株式との要件に関し、市場価格があることの判定は、報酬決定時点で行われるため、例えば、近く上場を予定している会社であっても、報酬決定時に非上場で市場価格がない場合には損金算入の対象とならない点には念のため留意が必要である。 2 発行スケジュールに関する留意点 上記の特定譲渡制限付株式に関する、事前確定届出給与としての損金算入要件に関する改正(厳格化)の適用は、本稿【第1回】に記載のとおり、平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る決議が行われるものとするとの経過措置が設けられている(所得税法等の一部を改正する等の法律(平成29年法律第4号)附則14条3項)。 また、特定譲渡制限付株式について、事前確定届出給与としての事前届出が不要とされるためには、平成29年度税制改正前と同じく、以下の要件を満たす必要がある(法人税法施行令69条3項)。 なお、上記(ア)の報酬債権額の確定と、(イ)の株式交付のための取締役会決議(発行決議)は、上記のとおり、同日であることは求められていないが、実務上、2つの決議は同時に行う必要が生じる。これは、発行決議においては、有利発行となることを避けるため、通常、発行決議の前日の終値を基礎に1株あたりの払込金額を決定するが、(払込金額に基づき決定される)現物出資に充てるべき金銭報酬債権額は「確定額」としなければならないという事前確定届出給与の要件を同時に満たすためには、2つの決議を同時に行う必要があることによる。 また、上記の要件を満たすためには、(イ)の株式交付のための取締役会決議(発行決議)において定められる払込期日(現物出資の給付期日)は、(ア)の報酬債権額の確定日(つまり発行決議日)から1ヶ月以内の日とする必要がある。 〔図表1〕は、2017年6月に定時株主総会が開催される会社において、譲渡制限期間を3年間(かつ、原則として3年間、役務提供を継続しない場合には無償取得されること)とする特定譲渡制限付株式を付与するケースにおいて、上記の要件を満たすスケジュールの概要を示したものである。 〔図表1〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成29年度税制改正後の事前確定届出給与としての損金算入の要件の適用を受けることとなる特定譲渡制限付株式は、〔図表1〕における、②取締役会(指名委員会等設置会社においては取締役又は執行役の報酬額決定についての報酬委員会)の決議が、平成29年10月1日以後となる場合ということとなる。 そのため、(定時株主総会から②の決議まで1ヶ月の期間を置くことを前提とすると)本年9月以降に定時株主総会が開催される会社において、特定譲渡制限付株式の発行を検討するに際しては、平成29年度税制改正後の要件に即した設計となっているかを確認する必要があることとなる。 3 損金算入に関する改正 特定譲渡制限付株式に関する税務・会計上の取扱いの主要な点については、平成29年度税制改正による変更はなく、従前どおりである(特定譲渡制限付株式に関する税務及び会計上の取扱いに関しては、経産省手引きQ47を参照されたい)。 もっとも、平成29年度税制改正により、損金算入の時期については、その法人において、その役員等における所得税の課税時期に関し、「給与等課税額が生ずることが確定した日」(改正前は「給与等課税事由が生じた日」)にその役務提供を受けたものとされ、その役務提供に係る費用の額を、同日の属する事業年度において損金の額に算入することとされた(法人税法54条1項)。 当該改正の具体的な適用については、当局のより具体的な解説が待たれるところであるが、譲渡制限期間満了よりも前に、無償取得されないことが確定した場合には(一例として、譲渡制限期間を3年間とするが、無償取得事由として1年間の勤務継続を要件とした場合であって、1年間の勤務を満了した場合)、当該時点において損金算入が可能となり得ると考えられる。 また、非居住者に関しては、平成29年度税制改正前は、非居住者である役員等に交付した特定譲渡制限付株式は損金算入の対象外であったが、平成29年度税制改正において、役員等が非居住者である場合にも、その役員等が居住者であるとしたときに給与等課税額が生ずることが確定した日において、役務提供を受けたものとして、その役務提供に係る費用の額が損金算入されるとの改正がなされている(法人税法54条1項、法人税法施行令111条の2第3項)。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第17回】 「「買換えの特例」の適用後における更正の請求又は修正申告」 -更正の請求及び修正申告- 税理士 大久保 昭佳 Q 「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けて申告した後、買換資産の見積額と実際の取得額が異なることとなった等の場合には、譲渡資産の譲渡の日の属する年分の所得税について、更正の請求又は修正申告をすることになるのですが、その場合の提出期限等について説明してください。 A 次の解説のとおりとなります。 ●○●○解説○●○● 1 更正の請求 譲渡資産を譲渡した年(以下「譲渡年」という)の翌年中に取得する見込みの買換資産の見積額を、譲渡価額よりも少なく見積もってこの特例を受けた場合には、買換資産の実際の取得価額がその見積額を上回ることとなり、当初申告した所得税額が本来納付すべき所得税額に比し過大となることがあります。 この場合には、買換資産の取得をした日から4ヶ月以内に更正の請求をし、その過大となった所得税額の還付を受けることができます(措法36の3②)。 2 修正申告 「買換えの特例」の適用を受けて申告した者が、本来納付すべき所得税額に不足額が生じることとなった場合にする修正申告書の提出期限は、その態様に応じ次のとおり区分されます(措法36の3①~③、措通36の3-1(修正申告書の提出期限))。 (1) 譲渡年中に買換資産の全部を取得した場合 (2) 買換資産の全部又は一部を譲渡年の翌年中に取得する見込みで申告した場合 (3) 譲渡年の翌年又は翌々年に、その譲渡資産と一体として居住の用に供されていた家屋又は土地等を譲渡した場合 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第24回】 「雑収入(受取利息)」 ~受取利息の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「受取利息の計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた京都地裁昭和54年2月23日判決(訟月25巻6号1680頁。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 本件理由付記は、素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。 2 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、加算の対象となる勘定科目、金額以外に加算理由を明示しているため、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨目的と記載の程度 (2) 理由付記の十分性 3 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が受取利息に計上していないX社名義以外の定期預金に係る利息を、X社の受取利息として計上すべきであるとするものである。そうであれば、受取利息に計上していないことの否認という広い意味において、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、表に記載されているS銀行G支店ほか8口の定期預金の受取利息を当期の益金の額に算入することを記載するのみである。これによって、加算の対象たる受取利息に係る定期預金の名義人や口座番号等を特定することは可能である。しかしながら、本件理由付記は、いかなる理由から、X社が受取利息に計上していない、しかもX社以外の名義で作成された定期預金に係る利息を、X社の受取利息として計上すべきであると判断したのか、その具体的な根拠や資料を記載していない。例えば、X社が当該各口座に係る通帳等を管理していたとか、当該各口座にはX社の売上金が入金されているとか、当該各口座からX社の費用が支出されているといった、当該各口座がX社に帰属することを裏付ける具体的な根拠や資料が記載されていないのである。したがって、本件理由付記は、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していないことになる。 また、仮に、本件理由付記の記載程度で十分であるとすると、課税庁は、当該各口座がX社に帰属することを裏付ける具体的な事実や証拠を把握していない段階で、恣意的ないし強引な課税処分又は憶測に基づく課税処分を行うことができてしまうといえるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨目的に適うものとはいえない。 以上からすれば、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 (3) 更なる議論① ~過年度の申告の内容を処分の根拠としている旨の記載を欠く理由付記~ 本判決に係る訴訟において、課税庁は、要旨次のとおり、X社が提出した前々事業年度の修正申告の内容が本件更正処分の根拠となっている旨主張している。 このようにX社が提出した前々事業年度の修正申告の存在及びその内容を念頭に置いて、本件理由付記を読むならば、本件理由付記から、上記主張のような課税処分の理由を推し量ることは容易である。 このことから、本件理由付記程度の記載であっても、理由付記の趣旨目的に適うものであるとか、あるいは、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示する必要はない、といった主張が成り立つ余地もある。 しかしながら、これに対しては、課税庁は、X社が提出した前々事業年度の修正申告の内容を受け入れて、これに基づいて、本件更正処分を行っていることを明示的に記載すべきであるという反論も予想される。 議論のあるところであるが、ここでは、過年度の申告の内容を処分の根拠ないし前提としていることが明らかであるような場合には、当該処分に係る理由付記にその旨の記載がないとしても、一律に理由不備となるものではないと解しておく。 (4) 更なる議論② ~本件修正申告を提出するに至った経緯が与える影響~ X社が本件修正申告を提出するに至った経緯に目を向けると、更に議論を展開することの必要性が見えてくる。当該経緯について、本判決は、要旨次のとおり判示している(下線は筆者)。 これを見ると、本件更正処分の前提ないし根拠であるX社が課税庁に提出した前々事業年度の本件修正申告は、各預金口座が一体誰に帰属するのかという点に関して、課税庁が調査を尽くさぬまま、あるいは確固たる資料を入手しないままに、X社に帰属するものとして、X社に対して修正勧奨したことによって提出されたという経緯があることがわかる。このことを考慮すると、そもそも本件修正申告において上記定期預金がX社に帰属するものとされていることを前提として本件更正処分を行うこと自体に問題があるという特段の事情が存在するといえる。 このような特段の事情の存在は、本件理由付記程度の記載では、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していない、あるいは更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨目的に適うものではないという評価へと導くものである。 さらにいえば、たとえ、本件理由付記に、本件更正処分は本件修正申告の内容に依拠して行われたものであることが明記されていたとしても、理由付記としては十分なものではないという評価にもつながり得る。すなわち、理由付記において帳簿書類の記載以上の信憑力のある資料として本件修正申告の存在及び内容を摘示していたとしても、これらはおよそ「帳簿書類の記載以上に信憑力がある」資料とはいえないとか、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨目的と適合しないという観点から、理由付記としては十分なものではないという評価へと接続するのである。 * * * 次回は、「新株引受権に係る受贈益計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第27回】 「賃料増額請求事件」 ~最判昭和53年2月24日(民集32巻1号43頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第7回】 「クレジットカード利用時に付加されるポイントを利用した場合の会計処理」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 A 周知のとおり、クレジットカードはキャッシュ・レスで物品の購入ができることに大きな特徴があるのだが、それに加え、利用者の購買意欲の促進を企図して、利用額に応じてポイントが付与されることがもはや当然のものとなっている。また、特定の期間にカードを利用することで付与されるポイントが通常の〇倍になるといった具合に、さらなる利用促進を行うケースも目立つ。 そこで本稿では、これらのポイントを利用した場合の会計処理について検討してみたい。 1 会計処理 〈ポイント①〉 値引と同様、ポイント使用後に実際に支払った金額で経理処理する。 (1) 減額後の金額で経理する もはや説明するまでもないことと思われるが、物品購入の際にクレジットカードのポイントを利用することにより、購入者はその代金の全額もしくは一部について、減額された金額でその物品を取得することになる。 この減額をどのように考えるべきだろうか。 これは、一種の値引と同等の取引と考えられることから、購入した物品を資産ないしは費用に計上する際に、減額金額を除く実際に支出した金額で計上することになり、これ自体については特段の違和感はないのではないかと思われる。 会計理論的には、取得原価主義のもとでは、資産・費用の計上額をその支出額に基づき測定することになるから、ポイント利用により減額された金額で取得した以上、その取得に当たって支払われた減額後の金額により経理処理することが合理的である。 このことを図示すると以下のようになる。 (2) 物品の全額についてポイントを利用した場合 物品の全額についてポイントを利用した場合には、支払額はゼロ、つまり支払が発生しないことになる。この場合であっても、上記と同様に考えることができる。すなわち支払額がゼロである以上、経理処理は発生しない。 一方、全額減免という事実はもはや値引と同等と考えることはできず、物品の無償取得であるという整理の仕方も成り立つのではないだろうか。そして、これが成り立つのであれば、無償による資産の取得として、会計的にはその物品の時価(この場合であれば定価)で計上することになるがどうだろうか。 結論としては、成り立たないと筆者は考える。 なぜなら、ポイントを利用して物品を購入するという行為は、法人が現物寄付を受ける場合のような、本来的な無償取引ではなく、あくまでも有償取引であり、金銭の代わりにポイントという対価を支払う行為であるからである。 こちらも同様に図示すると以下のようになる。 2 会社経費の精算時に従業員の個人所有クレジットカードに付与されるポイントの取扱い 〈ポイント②〉 本来的には会社に帰属する財産であり、何らかの対応が望まれる。 従業員による経費の立替払い時に個人所有のクレジットカードの使用を認めている会社は多い。ただ、その際に疑問が生じるのが、当該個人所有のクレジットカードに付与されたポイントの取扱いである。 便宜上、従業員所有のクレジットカードに付与されたものであっても、それが会社経費の支払によって生じたものである以上は、本来的には会社財産であり、このポイントの処分権を有するのは会社であるはずだが、事務処理上の便宜から何らかの「返還手続き」はされておらず、結果としてこれらのポイントを従業員が自身のものとして自由に使用していることも多いのではないかと思われる。 個人所有のクレジットカードと一口にいっても、信販会社や使用時期によりポイント還元率も異なり、カードの利用によって一体いくらのポイントが付与されたのかの捕捉が非常に困難ではあるが、従業員のモラル醸成の観点からは、何らかの方法で会社に「返還」してもらうことが望ましいと考えられる。 経費精算については個人所有のクレジットカードの使用を認めないようにしたり、それが難しければ、個人所有のクレジットカードによる経費精算にあたっては一定のポイント還元率を社内で定め、これを支給金額から差し引くなどの方法が考えられる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第59回】 GMOアドパートナーズ株式会社 「第三者委員会中間調査報告書(平成29年3月30日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【GMOアドパートナーズ株式会社の概要】 GMOアドパートナーズ株式会社(以下「AP」と略称する)は、1999(平成11)年9月設立。総合ネットメディア・広告事業を主たる事業とする。資本金約13億円。売上高30,494百万円、経常利益275百万円(数字は、いずれも平成28年12月期)。従業員数813名。本店所在地は東京都渋谷区。JASDAQ上場。 今回、一部の売上計上根拠の信憑性に疑義があることが発覚したのは、連結子会社であるGMO NIKKO株式会社(以下「NK」と略称する)で、エージェンシー(広告代理店)事業を行っている。資本金100,000千円、売上高18,246百万円(数字は、いずれも平成28年12月期)、本店所在地は東京都渋谷区。 【第三者委員会調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 APは、平成28年12月決算において、同社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」と略称する)から、連結子会社であるNKと取引先Aとの間の売上計上根拠の信憑性に疑義があり、第三者委員会を設置して事実調査を行うことが望ましいとの要請を受けたため、APは、平成29年2月27日付で、APと利害関係を有しない外部の専門家から構成される第三者委員会を設置した。 なお、トーマツが、疑義であると判断した契機は、以下の2つの事象の発生による。 2 調査結果の概要 (1) NKにおける業務フロー(調査報告書p.19以下) NKでは、営業担当者が社内システムを用いて業務推進部に対し請求書発行依頼を行い、業務推進部の担当者は書面による請求書を作成し営業担当者の確認を受けた後、顧客へ郵送するという業務フローを実施していたが、売上計上されているにもかかわらず、請求書発行依頼がなく、請求書が未発行になっている案件が存在していた。 業務推進部の担当者は、こうした未請求取引について、営業担当者ごとにアラートを行っていたが、こうした未請求取引に対するアラートの実施を義務付ける社内規程等は存在せず、業務推進部担当者には、アラートに対して回答が得られなかった場合の調査権限も付与されていなかった。 (2) 調査の対象となった未請求売掛金残高(調査報告書p.11、p.24以下) 第三者委員会が取引の実在性に疑義が認められるとした取引先ごとの売掛金残高と未請求残高は次のとおりであり、そのうち、調査に基づいて、売上の取消処理を行うべきとされた金額を右欄に追記する。なお、金額は千円単位であり、売掛金残高・未請求残高は消費税額等を含んだ金額になっているが、取消処理をすべき売上高の金額は税抜きで表示している。 (3) 第三者委員会が売上高の取消処理をすべきであると判断した理由 第三者委員会は、各取引先からの発注書、各取引先の従業員及びNKにおける取引先担当者からのヒアリングによって、各未請求売掛金の大半を、「発生原因となる取引の実在性を根拠づける客観的な事実の存在は認められなかった」と結論づけて、売上高の取消処理をすべきであると判断した。 3 不正の動機(報告書p.36以下) 上記の不適切な売上計上のうち、取引先Eに対するもの以外の3取引先の担当者は、NK従業員のAとされており、第三者委員会のヒアリングを受けている。その中では、従業員Aにとって取引先Aは重要な顧客であり、競合他社に対してNKの優位性を保ち続け、関係を維持する強いインセンティブがあったことを推認しており、そのため、競合他社に比べ安いコストで良質な業務を提供する必要性から、採算が合わないことを認識しつつ、きわめて安価な価格でサービスを提供するようになったとしているが、これが、いわゆる架空売上の計上にどうつながるのか、報告書では必ずしも明示されていない。 提供したサービスに係る売上原価を、請求可能な売上高に負担させると取引先Aとの間の取引が赤字になるため、実在性のない受注・売上を計上してそこに原価を負担させ、しかも請求書を発行しないことによって、売掛金の回収遅延を回避するという意図があったのではないかと、報告書からは読み取れなくもないが、少し説明不足の感が否めない。 また、従業員Aは、取引先担当者から送信されたメールを改竄して、受注したかのように装ったり、メールを捏造して滞留債権の存在を装ったりしていた事実が明らかにされているが、報告書には、こうした偽造メールの送信に関する動機の記述もなく、従業員Aにおける動機の解明については、全般に説明が足りないのではないだろうか。 なお、従業員Aに類似する呼称として、調査報告書8ページには、「元従業員A」という記載があり、「事情聴取に協力することを依頼したが、聴取を実施できていない」とされているが、この「元従業員A」と「従業員A」は同一人物ではないという理解で報告書を読み進めたのだが、公表されている「別紙1(聴取対象者一覧)」が空白とされているために、同一人物かもしれないとの疑問の残るところである。 4 再発防止策の提言 第三者による再発防止策の提言は、4月14日付「追加調査報告書」に記載がある。 【調査報告書の特徴】 本件は、不正に売上計上した金額や不正の手法から見れば、大きな不正ではないのだが、第三者委員会の調査結果の公表手続きが、これまでとは異なるものであり、不正調査実務の参考になるのではないかと考えて、取り上げた次第である。 1 事実関係の調査結果である「中間報告書」と責任追及と再発防止策を提言した「追加調査報告書」 第三者委員会は、不正が行われたかどうか、どこに問題点があるかといった事実関係の調査結果を「中間調査報告書」として3月30日に会社に提出し、その後、追加調査を行ったうえで、責任の所在と再発防止策の提言をまとめた「追加調査報告書」を4月14日に提出した。これを受けて、APは、4月20日に、調査報告書の全文を公表している。 こうした第三者委員会の報告手法は、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の指針のうち、「調査報告書の事前非開示」には準拠していないと言えるが、責任の所在の追及にあたって、事実関係の誤りがないかを確認させることは、第三者委員会における事実認定の誤りを未然に防ぎ、会社側にも手続き面での保障を与えることとなり、昨年あたりから増え始めた、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」には準拠しているが、「第三者委員会ガイドライン」の一部には準拠していないことを明言する調査報告書(※)の公表方法の新しい形を示すものであると評価できる。 (※) 本連載【第53回】「高田工業所第三者委員会調査報告書」にも同様の記述がある。 2 売上計上済み未請求売掛金残高に対する認識 第三者委員会は、APグループ役職員において、未請求売上取引に対するリスク感度が全社的に高くないことを指摘しているが、やや表現が手ぬるいように感じる。一般的には、売上計上したにもかかわらず、請求書の発行を行わない取引はきわめてイレギュラーなものであり、多くの経理担当者はそこに不正の端緒を見るのではないかと思われる。 しかし、第三者委員会による再発防止策の提言には、「売上計上と同時に請求書が発行されるように業務プロセスを改める」といった内容はなく、現状の「売上を計上しても営業担当者が依頼するまでは請求書が発行されない」業務フローはそのままに、業務推進部の機能・権限の強化によって、再発を防止する内容となっているが、制度設計は「性悪説」に立ったものでなければ、実効性が欠けるのではないだろうか。 3 APによる再発防止策の内容 APが、4月28日公表した「当社連結子会社における不適切な売上計上に関する再発防止策について」というリリースによれば、APは、第三者委員会による再発防止策の提言をそのまま受け容れるとともに、「決算にかかる内部統制の強化について」として、以下の項目を追加している。 「3ヶ月の発行遅延を認める」内容になっていることに、賛否はあろうが、第三者委員会の提言から自社の業務を考量して、さらなる再発防止策の実効性を高めようとするものであり、一定の評価は可能であろう。 4 関係者の処分 不正実行者である「従業員A」の動機が判然としない点は、上述のとおりであるが、さらに不正実行者(従業員Aと従業員B)及びその上長である者の処分内容についても、報告書、APによるリリースともに記述がない。 一方、第三者委員会「追加調査報告書」により、「責任がある」と認定された取締役らについては、4月28日付「役員報酬の返上に関するお知らせ」というリリースで、月額報酬の10%から30%を1ヶ月から3ヶ月の間返上することによって、経営責任を明確にすることが公表されている。 5 特別調査費用等の開示 APが、5月29日公表したリリース「特別調査費用等の特別損失の計上に関するお知らせ」によれば、第三者委員会の調査費用と追加監査に伴う監査法人への支払報酬額は合計で133百万円と確定したということで、APはこれを平成29年12月期第2四半期決算において、特別損失として計上する見通しである、ということである。 不正な売上計上額が220百万円余りであるにもかかわらず、その調査に要した費用が133百万円という金額に達することを、不正防止策の採用にあまり積極的ではない経営者には、ぜひ、認識してもらいたいものである。なお、APがトーマツに支払っている監査証明業務に基づく報酬は年間27百万円である(平成28年12月期有価証券報告書)。 第三者委員会による調査費用などが公表される事例はあまり多くないので、取り上げておきたい。 (了)
「法定相続情報証明制度」の手続ポイント 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 はじめに 平成29年5月29日、いわゆる法定相続情報証明制度(以下、「本制度」という)が施行された。本制度の概要については下記の通り、既に本誌上にて解説を行っているが、本稿では、施行により明らかになった具体的な手続等について解説を行う。 なお、本稿の内容については筆者個人の見解であり、所属する団体等の見解を代表するものではないことを申し添える。 2 本制度の影響を受ける税理士実務 本制度の影響を受ける税理士実務としては、まず戸籍謄本等が添付書類とされている相続税申告手続が考えられる。 この点、相続税申告手続に関する添付書類は、相続税法施行規則等の法令に定められており、添付書類として法定相続情報一覧図の写しを戸籍謄本等の代わりとして許容するためには、法令改正が必要となる。 添付書類を定める法令に改正がない限り、本制度施行後直ちに影響はないといえるが、今後改正される可能性は十分考えられる。 また、相続税申告手続には対応していなくとも、今後法定相続情報一覧図の写しが、戸籍謄本等の代わりとして社会に出回ることに変わりはない。 税理士は、顧問等としてエンドユーザーに密接に関与することが多く、相続が発生した場合に、税務申告のほか、不動産登記手続、預金の名義変更等の相続関連手続についても専門家紹介等を通じて関与することが多い。 そのため、税理士としても本制度の理解を深めることは必須といえる。 3 申出について (1) 申出ができる者 本制度により、法定相続情報一覧図の保管及び写しの交付の申出ができる者は、被相続人の相続人(数次相続の相続人を含む)に限られる(不動産登記規則247条1項、以下、本稿において不動産登記規則を単に「規則」という)。 複数相続人が存在する場合には、各相続人がそれぞれ申出を行うことができる。よって、被相続人ひとりについて、数種類の法定相続情報一覧図が存在する可能性はある。 申出を代理人により行うことも可能であるが、代理人となることができるのは、申出人の法定代理人のほか、委任による代理人になることができるのが、①親族、②税理士・公認会計士・司法書士・弁護士等の戸籍法10条の2第3項に定められた、いわゆる士業に限られる(規則247条2項)。 (2) 申出書について 申出書には、①申出人の氏名、住所、連絡先及び被相続人との続柄、②代理人によって申出をする場合には、代理人の氏名又は名称、住所及び連絡先等、③利用目的、④交付を求める通数、⑤被相続人名義の不動産があるときは、不動産の所在事項等の不動産を特定する情報、⑥申出の年月日、⑦送付の方法により法定相続情報一覧図の写しや添付書類の返却を求めるときは、その旨を記載する。申出書は郵送にて提出することもできる。 申出書の書式は次のとおりである(申出書の記入例については法務局ホームページを参照されたい)。 〈法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書(書式)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 法務局ホームページではワードデータで入手可能 (3) 添付書類について 申出人は申出を行う場合、申出書のほか、次の書類を添付書類として提出する。 登記官はこれらの添付書類を元に、提出された法定相続情報一覧図に記載された情報が正確か否かの確認を行う。 (4) 管轄について 申出をすることができる管轄登記所は、申出人の利便に資するため複数の管轄が認められており、①被相続人の本籍地、②被相続人の最後の住所地、③申出人の住所地、④被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所に申出をすることができる(規則247条1項)。 (5) 受付後の手続 管轄登記所により若干の相違があるが、登記所内に専門の受付窓口が設けられている。 上述の通り、提出された法定相続情報一覧図が正確かどうかを、添付書類として提出された戸籍謄本等を元に審査をするため、受付から交付までには数日の期間を設ける場合があるようである。申出人には受付時に交付予定日を記載した引換証が交付される登記所もある。 このあたりは今後統一されていくものと考えられる。 4 法定相続情報一覧図について (1) 形式について 法定相続情報一覧図の形式については、前回の解説でも掲載したが、より詳細な形式が法務局のウェブサイトに紹介されている。 法定相続情報一覧図は、被相続人の死亡時点の相続関係を表すものである。相続放棄の有無、遺産分割協議の内容は反映されない。よって、遺産分割協議などの情報の反映には、別途提出が必要となる。推定相続の廃除があった場合には、当該廃除された者の記載はなされない。数次相続が発生している場合には、数次相続をまとめて記載することはできない。被相続人一人ずつにつき、それぞれ作成する必要がある。 (2) 保管期間、再交付について 法定相続情報一覧図の保管期間は、作成の年の翌年から5年間とされた(規則28条の2第6号)。これにより保存期間を経過した場合は、廃棄される。 申出人が、法定相続情報一覧図の写しの再交付を希望する場合には、当初申出をした登記所に、保管期間内は再交付の申出をすることができる。再交付の申出をすることができるのは、保管の申出をした相続人に限られる(規則247条7項)。 〈法定相続情報一覧図の再交付の申出書(書式)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 法務局ホームページではワードデータで入手可能 (3) 法定相続情報に変更があった場合 被相続人の死亡後に子の認知があった場合、被相続人の死亡時に胎児であった者が生まれた場合、法定相続情報一覧図の保管及び写しの交付後に廃除があった場合など、当初の法定相続情報に変更が生じた場合には、再度の申出をすることができる。 (4) 有効期限 法定相続情報一覧図の写しには、規則上有効期限の定めはない。そのため、仮に交付から相当な期間が経過した法定相続情報一覧図の写しを元に手続を行う場合、手続実施時点において、有効な法定相続情報を反映しているかは別途確認が必要になる場合がある。 5 終わりに 本制度が広がることにより、相続手続において必要とされていた「戸籍謄本」等という膨大な書類が法定相続情報一覧図の写し1枚で置き換えることができるようになる。 これはペーパレス化の流れに沿ったものであり、筆者個人としては今後浸透していくことになるのではないかと考える。 読者の方々においても、本稿をきっかけに本制度に関心を強めていただければ幸いである。 (了)