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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第32回】「租税回避と実務上の問題点③」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第32回】

「租税回避と実務上の問題点③」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回では、①欠損等法人、②適格合併による繰越欠損金の利用、③損失の二重利用について解説を行った。

本稿では、清算所得課税とその他の論点についてまとめるとともに、実務上の留意事項についてまとめたい。

 

7 清算所得課税

包括否認本(拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定(中央経済社、平成21年))の第7章では、清算を利用した譲渡益課税の回避について解説した。当時と異なり、清算所得課税が廃止されたが、残余財産が確定した場合には、期限切れ欠損金の損金算入が認められることになったため(法法59)、現在でも有効な手法である。すなわち、解散の日以前に資産を譲渡した場合には譲渡益と期限切れ欠損金を相殺することができないが、解散の日後に資産を譲渡した場合には譲渡益と期限切れ欠損金を相殺することが可能になる。

そして、資産超過が100である法人と債務超過が△300である法人を適格合併した後に解散した場合には、債務超過が△200になるため、譲渡益と期限切れ欠損金を相殺することが可能になる。

さらに、資産超過が100である法人が分割型分割により分割承継法人に資産超過110を移転すると、分割法人は債務超過△10になる。この後に、分割法人を解散すると、分割法人が保有する資産の譲渡益と期限切れ欠損金を相殺することが可能になるかが問題となる。

この点については、欠損金額の定義が、「各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。(法法2十九)」としており、法人税基本通達12-3-2は分割法人を債務超過にするような分割型分割により創出されたマイナスの利益積立金額を含めた上で期限切れ欠損金とすることまでは認めていないと考えられる。そのため、条文上は、期限切れ欠損金を構成せずに、譲渡益と相殺することができないと解釈することも可能になる。

すなわち、グループ法人税制が導入される前は、包括的租税回避防止規定によらないと否認できなかったが、グループ法人税制導入後は、個別規定により否認できるようになった事案であるということが言える。

 

8 その他の論点

包括否認本の第8章では、①分割型分割による子会社整理損失の拡大、②被買収会社の不良資産を安く処分した場合の取扱い、③含み損資産飛ばしスキーム、④特定資産譲渡等損失の損金不算入についてそれぞれ解説した。これらは、グループ法人税制導入後もほとんど変わらない取扱いとなる。

なお、当時から、①②については、個別否認規定により否認される可能性があり、③④については包括的租税回避防止規定の検討が必要になると解説した。とりわけ、含み損資産を利益が生じている法人に移転することにより節税を図ったり、特定資産を他のグループ法人に移転することにより特定資産から除外したりする行為は、不自然、不合理なものになりやすいため、組織再編成の合理性だけでなく、選定する資産の合理性も含めた検討が必要になると考えられる。

 

9 まとめ

このように、グループ法人税制が導入されたことにより、導入前に想定されていた節税手法はほとんど使えなくなったということが言える。

これに対し、①M&Aにおいて、株式譲渡益と受取配当金のうちいずれか有利な所得が発生するスキームを選択する、②適格合併により繰越欠損金を利用するといった手法は、現在でも有効な節税手法であると言える。

なお、斉木論文では、包括的租税回避防止規定が適用されるケースとして、(イ)組織再編税制の基本的な考え方からの乖離、(ロ)組織再編成の濫用、(ハ)個別防止規定の潜脱の3つに類型化されている(※1)。このうち、(イ)は税制適格要件からの潜脱を問題視されており、(ハ)は個別防止規定からの潜脱を問題視されている。

(※1) 斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号9頁(平成24年)

(イ)(ハ)は、実務においては重複する部分が多いと思われるが、斉木教授が「潜脱」という点を重視している点は注目に値する。すなわち、【第30回】から解説を行ったが、包括否認本を出版した当時に想定していた節税スキームのほとんどはグループ法人税制の導入で使えなくなった。日本IBM事件についても同様である。

これに対し、ヤフー事件は上記(ハ)、IDCF事件は上記(イ)、Sスキーム事件は経済合理性基準で否認できるものである。とりわけ、組織再編税制では、迂回取引を行ったり、個別の要件に無理矢理当てはめたりすることにより、税制適格要件やみなし共同事業を満たすような行為が想定されやすいため、包括的租税回避防止規定の適用対象として「潜脱」というものを想定するというのは、極めて実務的な考え方であると思われる。

すなわち、従前から、①経済合理性の有無、②制度趣旨、③税務調査官の感情論を理解したうえで、包括的租税回避防止規定が適用されるべき事案か否かの検討を行うべきであると解説していたが(※2)、これらを検討する際に、「潜脱」という要素を加えることにより、実務的な対応が可能になると思われる。

(※2) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』35-38頁(中央経済社、平成21年)

さらに、最近の動きとして、相続税評価額の引下げとして組織再編成を利用することが増えてきた。

財産評価基本通達は、組織再編成が活発に行われることを想定した通達になっておらず、子会社に利益を移転したり、持株会社を設立したりすることで節税が可能になる欠陥を抱えている。わずかな事業目的のみを主張し、ほとんど税目的であるとしか言えない状態で組織再編成を行い、相続税評価額を引き下げる行為については、財産評価基本通達6項が適用される可能性があるという点に留意が必要である。

【第30回】からの解説により、ヤフー・IDCF事件東京地裁判決以降の租税回避に対する実務的な対応を検討してきた。次回では、ヤフー・IDCF事件最高裁判決を踏まえて、もう一度当該事件について検討を行うこととする。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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