公開日: 2016/06/02 (掲載号:No.171)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第1話】「わが社もIFRS導入!?」

筆者: 関根 智美

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第1話】

「わが社もIFRS導入!?」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

● ○ プロローグ ○ ●

 桜井の朝

「今日もすがすがしいなぁ。」

桜井は自席に座ると、大きく伸びをした。6月にしては晴れて気持ちの良い朝だ。

朝7時30分。早朝のオフィスはまだ閑散としていて、空調の静かな音だけが室内に響いている。会社の始業は9時だが、満員電車を避けるため毎日1時間以上早く出社している。その1時間に流行の自己啓発本や専門情報誌を読むのが桜井の日課だ。今日も『できる人の10箇条』という本をパラパラめくり、しおりを探した。

桜井は機械部品を製造する東証一部上場企業のA社の経理部に勤めている。入社直後から経理部に配属され、今年で3年目になる。初めは全く歯が立たなかった業務も一通りこなせるようになり、少しゆとりも出てきた。

「お、勉強か。感心感心。」

突然、桜井の背後の光が遮られ、視界が暗くなる。

桜井が振り返ると、彼より2年先輩の藤原が桜井の手許を覗き込んでいた。

藤原は185センチの長身と筋骨隆々の体型どおり、頼りがいのある人物だ。彼は桜井が新入社員の頃の教育係だったことから入社以来世話になっており、桜井は藤原のことを秘かに尊敬している。藤原は桜井の隣の席にかばんを置き、背広を脱ぎ始めた。

「おはようございます。今日はいつもより早いですね。」

「早朝会議だよ。社長がこの時間しか空いていなかったんだ。」
藤原はあくびをかみ殺して、昨日用意したと思われる会議資料の確認を始めた。

「え?会議に社長が出るんですか? 経理部の会議ですよね?」
桜井はびっくりして思わず声が裏返ってしまった。

「お前も覚悟しておけよ。とうとうウチの会社もIFRSを導入するかもしれないぞ。社長直々のご提案だ。」

桜井は再び驚いて、口をあんぐりと開けた。まさに寝耳に水である。

 

 再び盛り上がるIFRS

IFRSとは、「国際財務報告基準」と言われる会計基準のことだ。日本では2010年3月期の連結財務諸表から一定の要件を満たす上場企業に対して、IFRSの任意適用が認められている。当初2012年を目途にIFRSを強制適用するかの判断をすることになっていたが、2011年にその判断が実質的に無期延期になったことから、企業のIFRS採用に対する熱はいったん下がった。

しかし、2013年にIFRSを任意適用できる会社の要件が緩和されたこともあり、IFRSを採用する会社は年々増加傾向にある。現在では、今後IFRS適用を決定している会社を含めると、IFRS適用会社は100社を超えている。

桜井は入社前のことであるため話にしか聞いていないが、2010年頃はIFRSの強制適用の可能性があったことから、A社でも勉強会を開いたり、監査法人から情報収集したりと、ちょっとした騒ぎであったらしい。

しかし、A社も他の大多数の企業の例に漏れず、2011年を機にIFRS対策チームは自然消滅し、経理部の情報共有ファイルに残っているIFRS関連の資料は2011年以降更新されないまま放置されているのが現状だ。

 

 大手企業が次々とIFRS適用

「確かにこの業界の大手が次々とIFRSを任意適用しているのは知っていますが、規模がウチとはケタ違いじゃないですか。売上だけみたって、数兆円とか、数千億円の規模ですよね?」

桜井の勤める会社は上場しているとはいえ、売上高は連結で500億円ほど。機械部品を製造している会社としては決して大きくない。

「それがなぁ・・・」
藤原は短い髪をポリポリと掻いた。

「K社が来期からIFRSを適用するって発表したんだよ。まぁ、K社にしたって売上規模はウチの3倍もあるが、業界の中ではせいぜい20位くらいだ。で、他の会社はどうしてるのか調べてみたら、ウチの業界でもIFRS適用に向けて動いてる会社が何社かあるみたいなんだ。」

「それで『わが社も負けてはいられない!』ってなったんですか。」

「まだ社長が提案しただけで、これから他の役員を説得するに足る資料作りをしなくちゃいけないって段階だが、社長のあの様子だとほぼ決まりだな。
IFRSのことを相当勉強しているところをみると、どうやら社長は前々からIFRS導入を検討していたみたいなんだよ。」

「あぁ、想像できますね。社長は精力的なタイプですから。」

「問題は、保守的な社内でIFRS適用の同意をどうやって早く得るか、だ。
社長もK社の発表をきっかけに、保守層に重い腰を上げてもらいたいんだろう。こういうことは勢いが大事だからな。」

 

● ○ IFRSを導入するメリット ○ ●

 グループ全体を同じ「モノサシ」で見る

藤原は机の脇に置いていたホッチキス止めされた分厚い資料を手に取ると、桜井に渡した。

「金融庁が出した『IFRS適用レポート』だ。IFRS任意適用会社がIFRSへ移行する際に生じた課題やIFRSを導入することのメリット・デメリットをまとめたものなんだが、他の会社がどういった経緯で導入に踏み切ったのか、どのくらいのコストと時間がかかったのかを知るのに参考になるぞ。お前も読んでおいたほうがいいだろう。」

桜井は渡された資料にざっと目を通す。

「そんなにIFRSを導入することが良いことなんですか?」

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【第1話】

「わが社もIFRS導入!?」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

● ○ プロローグ ○ ●

 桜井の朝

「今日もすがすがしいなぁ。」

桜井は自席に座ると、大きく伸びをした。6月にしては晴れて気持ちの良い朝だ。

朝7時30分。早朝のオフィスはまだ閑散としていて、空調の静かな音だけが室内に響いている。会社の始業は9時だが、満員電車を避けるため毎日1時間以上早く出社している。その1時間に流行の自己啓発本や専門情報誌を読むのが桜井の日課だ。今日も『できる人の10箇条』という本をパラパラめくり、しおりを探した。

桜井は機械部品を製造する東証一部上場企業のA社の経理部に勤めている。入社直後から経理部に配属され、今年で3年目になる。初めは全く歯が立たなかった業務も一通りこなせるようになり、少しゆとりも出てきた。

「お、勉強か。感心感心。」

突然、桜井の背後の光が遮られ、視界が暗くなる。

桜井が振り返ると、彼より2年先輩の藤原が桜井の手許を覗き込んでいた。

藤原は185センチの長身と筋骨隆々の体型どおり、頼りがいのある人物だ。彼は桜井が新入社員の頃の教育係だったことから入社以来世話になっており、桜井は藤原のことを秘かに尊敬している。藤原は桜井の隣の席にかばんを置き、背広を脱ぎ始めた。

「おはようございます。今日はいつもより早いですね。」

「早朝会議だよ。社長がこの時間しか空いていなかったんだ。」
藤原はあくびをかみ殺して、昨日用意したと思われる会議資料の確認を始めた。

「え?会議に社長が出るんですか? 経理部の会議ですよね?」
桜井はびっくりして思わず声が裏返ってしまった。

「お前も覚悟しておけよ。とうとうウチの会社もIFRSを導入するかもしれないぞ。社長直々のご提案だ。」

桜井は再び驚いて、口をあんぐりと開けた。まさに寝耳に水である。

 

 再び盛り上がるIFRS

IFRSとは、「国際財務報告基準」と言われる会計基準のことだ。日本では2010年3月期の連結財務諸表から一定の要件を満たす上場企業に対して、IFRSの任意適用が認められている。当初2012年を目途にIFRSを強制適用するかの判断をすることになっていたが、2011年にその判断が実質的に無期延期になったことから、企業のIFRS採用に対する熱はいったん下がった。

しかし、2013年にIFRSを任意適用できる会社の要件が緩和されたこともあり、IFRSを採用する会社は年々増加傾向にある。現在では、今後IFRS適用を決定している会社を含めると、IFRS適用会社は100社を超えている。

桜井は入社前のことであるため話にしか聞いていないが、2010年頃はIFRSの強制適用の可能性があったことから、A社でも勉強会を開いたり、監査法人から情報収集したりと、ちょっとした騒ぎであったらしい。

しかし、A社も他の大多数の企業の例に漏れず、2011年を機にIFRS対策チームは自然消滅し、経理部の情報共有ファイルに残っているIFRS関連の資料は2011年以降更新されないまま放置されているのが現状だ。

 

 大手企業が次々とIFRS適用

「確かにこの業界の大手が次々とIFRSを任意適用しているのは知っていますが、規模がウチとはケタ違いじゃないですか。売上だけみたって、数兆円とか、数千億円の規模ですよね?」

桜井の勤める会社は上場しているとはいえ、売上高は連結で500億円ほど。機械部品を製造している会社としては決して大きくない。

「それがなぁ・・・」
藤原は短い髪をポリポリと掻いた。

「K社が来期からIFRSを適用するって発表したんだよ。まぁ、K社にしたって売上規模はウチの3倍もあるが、業界の中ではせいぜい20位くらいだ。で、他の会社はどうしてるのか調べてみたら、ウチの業界でもIFRS適用に向けて動いてる会社が何社かあるみたいなんだ。」

「それで『わが社も負けてはいられない!』ってなったんですか。」

「まだ社長が提案しただけで、これから他の役員を説得するに足る資料作りをしなくちゃいけないって段階だが、社長のあの様子だとほぼ決まりだな。
IFRSのことを相当勉強しているところをみると、どうやら社長は前々からIFRS導入を検討していたみたいなんだよ。」

「あぁ、想像できますね。社長は精力的なタイプですから。」

「問題は、保守的な社内でIFRS適用の同意をどうやって早く得るか、だ。
社長もK社の発表をきっかけに、保守層に重い腰を上げてもらいたいんだろう。こういうことは勢いが大事だからな。」

 

● ○ IFRSを導入するメリット ○ ●

 グループ全体を同じ「モノサシ」で見る

藤原は机の脇に置いていたホッチキス止めされた分厚い資料を手に取ると、桜井に渡した。

「金融庁が出した『IFRS適用レポート』だ。IFRS任意適用会社がIFRSへ移行する際に生じた課題やIFRSを導入することのメリット・デメリットをまとめたものなんだが、他の会社がどういった経緯で導入に踏み切ったのか、どのくらいのコストと時間がかかったのかを知るのに参考になるぞ。お前も読んでおいたほうがいいだろう。」

桜井は渡された資料にざっと目を通す。

「そんなにIFRSを導入することが良いことなんですか?」

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連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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