《速報解説》 平成28年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」等が 3月31日付官報:特別号外第13号にて公布 ~施行日は原則4月1日~ Profession Journal編集部 平成28年3月29日の参議院本会議で可決・成立した平成28年度税制改正関連法である「所得税法等の一部を改正する法律」が、3月31日(木)夜に官報特別号外第13号にて公布された(法律第15号)。施行日は原則平成28年4月1日(法附則第1条)。また地方税関係の改正法「地方税法等の一部を改正する等の法律」も官報同号にて公布されている(法律第13号)。 以下では主な法律、政令、省令の官報該当ページへのリンクを紹介した。 官報:平成28年3月31日付(特別号外第13号)で公布された主な税制改正関連法令 ※主な関連告示についても順次追加予定。 ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令等の一部を改正する政令 所得税法施行規則等の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 ※減価償却関係(第48条の2) 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法の一部改正(第3条関係) 地方法人税法施行令の一部を改正する政令 地方法人税法施行規則の一部を改正する省令 相続税法の一部改正(第4条関係) 相続税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第5条関係) ※附則:平成29年4月1日からの経過措置関係 消費税法施行令等の一部を改正する政令 ※附則:平成29年4月1日からの経過措置関係 消費税法施行規則等の一部を改正する省令 ※附則:平成29年4月1日からの経過措置関係 印紙税法施行令の一部を改正する政令 国税通則法の一部改正(第6条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第7条関係) 国税徴収法施行令の一部を改正する政令 外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律の一部改正(第8条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第9条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第10条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第12条関係) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第13条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 復興特別所得税に関する政令の一部を改正する政令 ◆地方税法等の一部を改正する等の法律 ( 附 則 ) 地方税法施行令等の一部を改正する等の政令 地方税法施行規則等の一部を改正する省令 地方税法施行規則の一部を改正する等の省令 ▷その他関係法令 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令等の一部を改正する省令 国税質問検査章規則の一部を改正する省令 ▷主な関連告示 租税特別措置法施行令第40条の4の4第6項及び第7項並びに租税特別措置法施行規則第23条の5の4第2項第4号及び第7号の規定に基づき内閣総理大臣が財務大臣と協議して定める費用、医療機関及び施設の一部を改正する件 ※子育て結婚資金贈与特例関連 租税特別措置法施行令第26条の27の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める一般用医薬品等 ※スイッチOTC薬控除関連 租税特別措置法施行令第26条の4第8項及び第26条の28の5第17項の規定に基づき、国土交通大臣が財務大臣と協議して定める他の世帯との同居をするのに必要な設備の数を増加させるための増築、改築、修繕又は模様替を定める告示 ※三世代同居改修関連 租税特別措置法施行令第26条の28の5第7項の規定に基づき、国土交通大臣が財務大臣と協議して多世帯同居改修工事等の内容に応じて定める金額を定める件 ※三世代同居改修関連 租税特別措置法施行令第40条の6第6項第4号の効率的かつ安定的な農業経営の基準として農林水産大臣が定めるものを定める件 ※農地等の納税猶予(贈与税)関係 消費税法施行令等の一部を改正する政令附則第三条第二項の規定に基づき、財務大臣の定める基準を定める件 ※消費税軽減税率関係 (了)
《速報解説》 大阪国税局、「土地とともに取得した建物の取壊しに伴う 補助金等の税務上の取扱いについて(文書回答事例)」を公表 税理士 小谷 羊太 大阪国税局は3月1日付(ホームページ公表日は3月23日)、「土地とともに取得した建物の取壊しに伴う補助金等の税務上の取扱いについて(文書回答事例)」を公表し、「標題のことについては、御照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません。」と回答した。 照会の内容については下記リンクから参照されたい。 以下、その要点について解説する。 〇使用目的による分類 土地と建物を一括購入した場合には、購入後、その土地と建物をどのように使用する目的で購入したのかにより、税務上の取扱いも変わってくる。 例えば、「建物を使用する目的」で購入したのであれば、土地の代金に係る部分については「非減価償却資産」として計上し、建物の代金に係る部分については「減価償却資産」として計上する。減価償却資産として分類された建物については、期末までその建物を使用していたのであれば、事業供用日後から事業年度末日までの期間に対応した減価償却費の計上をすることになる。 一方、土地を購入するためにその付随物として建物が付いていた場合には、購入者の本来の目的は「その土地の取得」にあるわけであり、建物を使用する目的で購入したものではない。よって、その購入代金に含まれる建物代金は土地の取得価額とすることになる。 〇付随費用の取扱い 購入時にかかる費用としては、本体代金のほかに取得経費や事業供用費が挙げられる。 (※) 拙著『実務で使う法人税の減価償却と耐用年数表』(清文社)より これらの金額についても、「土地の購入に係る取得経費」は土地の取得価額を構成し、「建物の購入に係る取得経費」は建物の取得価額を構成する。事業供用費についても同じように、取得後、「土地を事業供用するために支出した費用」は土地の事業供用費として土地の取得価額に算入し、「建物を事業供用するために支出した事業供用費」は建物の取得価額に算入することになる。 なお、それぞれにかかった共通経費については、土地と建物の本体代金の比で按分するなど、合理的な算定基準によりそれぞれの負担額を計算して割り当てる。 付随費用についても、建物の使用を目的として購入した建物に付随する費用は、建物の取得価額を構成するのであるが、そもそも土地の取得を目的として、その付随する建物を購入した場合には、その建物に係る本体代金が土地の取得価額を構成するだけでなく、建物の購入に係る付随費用も、その土地の取得価額を構成することになる。 つまり、建物の購入代金、及びそれに係る付随費用はすべて、土地を取得するために支出した付随費用という位置づけになる。 また、購入した土地を利用するために一括購入した建物を取り壊したのであれば、その取り壊し費用については、土地を利用するために支出する費用となるので、土地に係る事業供用費となる。 〇建物の取り壊し費用に係る補助金の取扱い 今回の事例で照会されたのは、建物を取り壊すためにかかる経費の負担額として、補助金の交付を受けた場合の取扱いである。 この場合、その取り壊し費用の経費負担額としての補助金は、取り壊しに要した支出経費から差し引くこととなると照会され、上述の通り「貴見のとおりで差し支えありません。」との回答が行われた。つまり、その補助金の額を差し引いた残額が事業供用費として土地の取得価額に算入する金額となる。 (了)
2016年3月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.163を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
改正国税通則法と 新たな不服申立制度のポイント 【第1回】 「法改正の経緯、改正概略及び適用時期」 弁護士 坂田 真吾 1 はじめに 平成26年6月、国税通則法の改正が行われ、不服申立て制度(異議申立て、審査請求)に係る規定が大きく変更された。当該改正法は、本稿公開日の翌日である、平成28年4月1日以降になされた処分から適用される。 そこで本連載(全5回を予定)では、①法改正の経緯とその概略、②不服申立が従前の二段階の手続から選択的なものとされ、「異議申立て」が「再調査の請求」と名称変更されたこと、及び、改正後において「再調査の請求」を行うか否かの判断要素、③証拠の閲覧、謄写権の新設による実務の変化とこれへの納税者の対応方法、④その他の改正点を述べた上で、⑤現在の審判所における取消裁決の傾向、不服申立段階における効果的な主張、立証の在り方について私見を記したいと考えている。 なお、本連載では、上記改正前後の国税通則法の条文を区別する場合には、改正前を旧通則法といい、改正後を新通則法という。 2 法改正の経緯 更正処分、決定処分、加算税の賦課決定処分等の課税処分や徴収処分については、その適法・違法は最終的には裁判所で判断されることとなるが、その前に、行政庁(課税庁)における不服申立にて適法性等の審理が行われる。これを不服申立前置主義という。 行政処分等についての不服申立については、行政不服審査法がその手続等を規律しているが、その特則として、国税通則法75条以下では、国税に関する法律に基づく処分についての不服申立制度の規定がおかれ、国税に関する不服申立手続を自足的・網羅的に規定している。 行政不服審査法は、昭和37年の制定以降、50年以上にわたり実質的な改正は行われなかったところ、国民の権利意識の変化や、行政手続法の制定(平成5年)、行政事件訴訟法の改正(平成16年)などを踏まえ、平成25年6月に、総務省が「行政不服審査制度の見直し方針」をとりまとめた。 その結果、平成26年6月に、「行政不服審査法」「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」「行政手続の一部を改正する法律」が成立し、公布された。 このうち、「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の中で、国税に関する不服申立手続について定める国税通則法の改正が行われた。 なお上記の詳細については、財務省資料「行政不服審査法の改正に伴う国税通則法等の改正」を参照されたい。 3 改正の概略 本連載では、次回以降、法改正のうち特に注目すべき点について概説するが、はじめに今回の法改正の概略を示せば次のとおりである。 【参考図】 (※) 国税不服審判所ホームページより 4 適用日関係(処分日基準) 上述の通り、国税通則法の改正が規定された「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」は平成26年6月に公布されたが、施行時期が未定であったところ、昨年11月公布の政令により、平成28年4月1日の施行が明らかとなった(下記拙稿を参照)。 これにより改正通則法は、平成28年4月1日以降になされた課税処分等に係る不服申立てに適用され、同年3月31日までにされた課税処分等に係る不服申立てについては、現行の国税通則法が適用される。 5 関連する政令、通達の改正 なお、法改正にあわせて政令、通達も改正されている。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第2回】 「別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書」及び 「別表6(1)付表 所得税額の控除に係る 元本所有期間割合の計算等に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第2回目は、平成27年12月22日に国税庁のホームページで新様式が公表されたばかりの「別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書」及び「別表6(1)付表 所得税額の控除に係る元本所有期間割合の計算等に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、法人が受ける利息や配当について課された所得税について、当期の法人税額から控除する場合に作成する。 平成25年度の税制改正により、平成28年1月1日以後に法人が支払を受ける公社債の利子については、その所得税額の全額控除が可能となった。これに伴い、別表6(1)の様式も改正され、平成28年1月1日前と以後で明細を区分するようになるとともに、所有期間按分に係る明細書が付表として新たに設けられた。 したがって、別表6(1)は、平成28年1月1日以後終了する事業年度分から新様式を使用することになり、早ければ28年1月決算法人からの適用となる。 そもそも、法人が支払を受ける利子・配当等に係る所得税等(復興特別所得税を含む)については、法人税の前払いという性質から、法人税額からの税額控除が認められている。ただし、公社債の利子や株式の配当等に係る所得税等の額については、従来から、その元本の所有期間に対応する部分の額のみが所得税額控除の対象とされていた。 平成25年度税制改正では、そのうち公社債の利子等に係る所得税等の額について、平成28年1月1日以後に支払を受けるものから、その所有期間にかかわらず、その全額について法人税額から控除できるものとされたのである。 これらをまとめると、次の表のようになる。 (※) その他には、みなし配当や、所得税法第174条第3号から第10号に規定する定期積金に係る契約に基づく給付補てん金等がある。 Ⅲ 「別表6(1)」及び「別表6(1)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年1月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 別表6(1) 別表6(1)付表 (了)
特定株主等によって支配された欠損等法人の 欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い ~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第5回】 「〈事例3〉欠損等法人の債権を額面未満で 取得しているケース(第3号事由)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 〈事例3〉 欠損等法人の債権を額面未満で取得しているケース(第3号事由) 《検討》 本ケースにように、ある事業会社を買収しようとした場合に、売主の希望により、その事業会社の株式とともに、その事業会社に対する債権を額面未満の金額で取得する場合があるが、買収前から営んでいる事業(旧事業)を継続する場合は、第1号事由及び第2号事由に該当しないため、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)は適用されないであろうか。 [検討1] A社は欠損等法人に該当するか? 本ケースの場合、A社は、平成24年10月1日(特定支配日)に、P社による特定支配関係を有することになり、特定支配事業年度前の事業年度において生じた繰越欠損金を有するため、欠損等法人に該当する。 [検討2] 特定事由に該当するか? 本ケースでは、買収前から営んでいる事業(旧事業)を継続するため、第1号事由及び第2号事由に該当しない。 しかし、買収時に、P社が欠損等法人A社に対する貸付債権を取得している。 したがって、本ケースでは、特定支配日以後5年を経過した日の前日(平成29年9月30日)までに、第3号事由「他の者又は関連者(当該他の者との間に当該他の者による特定支配関係がある者)が欠損等法人に対する特定債権を取得している場合で、欠損等法人が旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ又は出資等を行うこと」に該当するかを検討することとなる。 第3号事由の取扱いは次のとおりである。 ① 特定債権が取得されている場合とは 特定債権とは、欠損等法人に対する債権でその取得の対価の額が当該債権の額の50/100に相当する金額に満たない場合で、かつ、当該債権の額(欠損等法人の債権で当該他の者又は関連者が既に取得しているものの額を含む)のその取得の時における欠損等法人の債務の総額のうちに占める割合が50/100を超える場合における当該債権とする(法令113の2⑰)。 そして、特定債権が取得されている場合には、特定支配日前に特定債権を取得している場合を含むものとし、当該特定債権につき特定支配日以後に債務免除等を行うことが見込まれている場合は除かれる(法法57の2①三)。 また、特定債権が取得されている場合から除かれる債務免除等を行うことが見込まれている場合には、次に掲げる債務免除又は現物出資が行われることが見込まれる場合で、これらの行為によって消滅する欠損等法人の債務の額が当該行為の直前における債務の総額の50/100に相当する金額を超える場合が含まれる(法令113の2⑨⑱)。 本ケースでは、欠損等法人A社に対する貸付債権(額面1,000百万円)を400百万円(当該貸付債権の額の50%未満)で取得しており、当該貸付債権の額(1,000百万円)が欠損等法人A社の債務の総額(1,500百万円)の50%を超えている。また、A社に対する貸付債権の債務免除及び現物出資を行う予定はない。したがって、特定債権が取得されている場合に該当する。 ② 欠損等法人が旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ又は出資等を行うこと 〈事例2〉(前回参照)と同様の考え方により検討することとなる。 [検討3] 使えなくなる繰越欠損金と繰越欠損金が使えなくなる事業年度は? 本ケースでは、欠損等法人A社において、第3号事由に該当する場合、平成27年4月1日~平成28年3月31日事業年度(適用事業年度)から、平成26年4月1日~平成27年3月31日事業年度以前の事業年度に生じた繰越欠損金が使用できなくなる。 また、平成27年4月1日~平成29年9月30日までの適用期間(適用事業年度開始の日から同日以後3年を経過する日は、平成30年3月31日となる)において生ずる特定資産の譲渡等損失額は損金不算入となる。 以上より、本ケースでは、法人税法第57条の2及び60条の3の適用により、第3号事由に該当する場合、欠損等法人A社の繰越欠損金は切り捨てられ、特定資産の譲渡等損失額が損金不算入となる。 〈事例3〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第4回】 「募集株式の発行等③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、大阪地裁昭和48年11月29日判決について解説を行った。 【第4回】に当たる本稿では、大阪高裁昭和51年4月27日決定、佐賀地裁昭和51年4月30日判決について解説を行うこととする。 3 大阪高裁昭和51年4月27日決定・判時836号107頁 (1) 事実の概要 本事件は、①ボーリング場関係業務の執行が定款違反の重要な事実が疑われ、かつ、②新株の発行が有利発行に該当するものとして、検査役選任の申請を認容した事件である。現在と法制度が異なることから、検査役選任という点についてはあまり気にしないでも良いが、裁判所が民間専門家の鑑定を排斥した事件として参考になろう。本稿は、非上場株式の評価についての連載であることから、有利発行に該当する部分についてのみ解説を行うこととする。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、野村総合研究所が算定した230円という発行価格を保有している含み資産を考慮していないことを主たる理由として、有利発行に該当する疑いがあるとして検査役の選任をしている。 なお、含み資産が考慮されないのは、類似業種比準方式の計算要素に簿価純資産が考慮されたとしても、時価純資産が考慮されないからであり、計算方式としてやむを得ないようには思える。さらに、抗告人の主張を見てみると、国税庁方式が採用されていることから、財産評価基本通達に従った処理であると言えるが、そうなると、時価純資産方式との折衷方式ならば良かったのではないかという疑いも生じてくる。 このような国税庁方式により株価の算定をしようとするのは、かつての裁判例の特徴であり、近年ではあまり見られない。裁判所の判断が、徐々に国税庁方式から離脱していっているということは、過去の裁判例を見るうえで、重要であると考えられる。 4 佐賀地裁昭和51年4月30日判決・判時827号107頁 (1) 事実の概要 本事件は、8万株の募集株式を発行するに際し、そのうち4万株を企業提携のために特定の第三者に割り当てた際に、その発行価額580円が有利発行に該当するものとして差止めの仮処分を請求したが、裁判所がそれを認めなかった事件である。 本事件の特徴としては、純資産方式により算定された価額の半額であるにもかかわらず、有利発行に該当しないとした点である。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、資本参加を主たる目的としていることから、配当還元法を採用することはできなかったし、類似会社が存在しないことから類似会社比準方式も採用することはできず、結果として、純資産方式を採用している。現在であれば、収益還元法やDCF法も検討に値するところであるが、やや古い事件であるため、これらは採用されていない。 本事件で注目すべき点は、871円81銭、979円64銭よりもはるかに安い580円を特に有利ではないとしてしまった点である。上場会社では募集株式の消化を図るために10%のディスカウントを行うことはあり、非上場会社でも同様に取り扱うことができるかは意見が分かれるところであろうが、本事件では、半値近い金額を容認してしまっており、現在でも同様に取り扱うことができるかは疑問に感じるところである。 次回では、神戸地裁昭和51年6月18日判決について解説を行う予定である。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第7回】 「番号法に規定されている罰則」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 番号法に規定されている罰則について教えてください。 〈A〉 番号法に規定されている罰則は、図表1の通りである。当事者に対し、懲役、または、罰金が科される。加えて、当事者が勤務する会社に対し、罰金が科される(番号法77条1項)。 図表1 番号法に規定されている罰則(出典:内閣官房 マイナンバー社会保障・税番号制度) (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第8回】 「減価償却費」 ~架空の減価償却資産と判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して、減価償却資産を架空資産と認定した上で、これに係る減価償却費の損金算入を否認した法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成24年4月9日裁決(裁決事例集87号291頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、理由付記は法人税法130条2項に規定する要件を満たさない違法なものであると判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 関係法令等 本件更正処分は、X社が損金の額に算入していた各建物附属設備に係る減価償却費について、課税庁が、いずれの設備も架空の資産であると認定し、当該減価償却費の損金算入を認めないというものである。 そうすると、根拠条文は、減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法について定める法人税法31条1項であるといえるが、そもそも架空の減価償却資産(法法2二十三)に係る減価償却費を損金の額に算入できないことは明らかである(法法22③、④)。 問題は「いかなる事実に基づいて架空の資産であると認定したのか」である。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分の理由は、架空の減価償却資産(各建物附属設備)に係る減価償却費の損金不算入である。したがって、課税庁は、X社が固定資産台帳などの帳簿書類に記載した減価償却資産について、実際には、そのような資産は存在しないと認定して更正処分を行ったことになる。そうであれば、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 ア 信憑力のある資料の摘示の有無 本件理由付記は、各建物附属設備が架空であると判断した根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していない。 例えば、税務調査官が現場を調査したところ各建物附属設備の存在を確認することができず、また、各建物附属設備に係る施工業者に確認したところ、実際にはX社とは何ら取引を行っておらず、X社から受領した代金もX社の代表取締役に返金しているという話があったなど、各建物附属設備が実際には存在しないものであることを示す根拠資料の摘示がないのである。 この点で、本件理由付記は十分なものであるとはいえないと考える。 なお、素材とした裁決に係る審査請求おいて、課税庁は、次のような主張を行っている。 イ 理由付記の趣旨目的との適合性 (4) 異なる視点 ただし、別の考え方として、X社からすれば、単に、自らが減価償却資産として計上している各建物附属設備について、架空のものではなく実際に存在する資産であることを主張・立証すればよいのであるから、本件理由付記のように、減価償却費のうち損金の額に算入されない部分を特定した上で、各建物附属設備が架空の資産であり、これらに係る減価償却費は損金の額に算入されないことが記載されていれば、少なくとも、相手方に不服申立ての便宜を与えるという上記趣旨目的との関係においては、理由付記不備による違法があるとまでは言い切れないという主張もあり得る。 * * * 次回は、土地に係る固定資産評価損の損金算入を否認した法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【79】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その7:「事業に従事したことその他の事由」の解釈③ ~夫弁護士・妻税理士事件(最判平17.7.5)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 3 「夫弁護士・妻税理士事件」(最高裁平成17年7月5日判決) 前回の「夫弁護士・妻弁護士事件」に続き「夫弁護士・妻税理士事件」を見ていく。 この判決は、弁護士業を営む原告が、税理士業を営む妻に対して、顧問税理士契約に基づいて税理士報酬等を支払った点について、税務署長が「生計を一にする配偶者」に支払ったものに該当するから所得税法56条を適用し、それを必要経費に算入しえないとして更正決定をしたところ、原告がこれを不服として、原告が負担させられた金額について誤納金として返還するよう請求した事案である。 (1) 第一審の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 ここでは争点が以下のように、3つ挙げられている。 しかし争点1から結論が出ており、「その余の争点について判断するまでもなく」とされ、争点2以下については判断が示されていない。以下に争点1について見ていこう。 原告は、立法趣旨等の他、次のような主張をする。 これに対し、被告(国)は、次のような主張をする。 確かに国の主張する通り、事業所得も対象から除外されていない以上、国の主張するように従事する者が事業所得者であることを法は除外していないと言える。だがそれをもって「従事」の意味に限定がないという国の主張は誤っている。また「その他の事由」が前にある「~事業に従事したこと」に影響を受けるか否かという点については、判決は示唆に富む。では判決を見ていこう。 裁判所は、次のように判示する。 まず、このように筆者が先に記した「従事」の意味を明らかにしている。次に、要件の後半部分である「その他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」の意義について以下のように判示する。 これに続けて、この解釈例を示して、以下のように結ぶ。 以下で立法趣旨を検討し、それは旧法(旧11条の2)と同一であるとして旧法の立法趣旨を確認すべしとして、その適用を受けるのは「当該納税義務者の経営する事業(中略)から所得を受ける場合」に限られるべきとした上で、以下のように判示した。 また国側の「事業者の配偶者等に対する対価の支払は、事業者が所得の中から支出すべき家族の生計維持費用の分担としての性質を有するのであり、事業者の総収入金額のうち、配偶者等に対する対価の支払に充てられる部分には担税力が認められるから、仮にこれを必要経費に算入して、所得の計算上総収入金額から控除するものとすれば、かえって租税負担の不公平を生じる」という主張に対しては、以下のように判示する。 また国側の従事する者が事業所得者であることを法は除外していないとの主張に対しては、 そして事実認定において、「訴外Dは原告とは別個独立に税理士業を営んでおり、原告は、訴外Dとの間で、・・・顧問契約を締結したことが認められ、訴外Dの税理士報酬等は、上記委嘱に基づく税理士業務に対する報酬として支払われたもの」としてこの56条の適用がないと判決している。 (2) 控訴審の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 ここでは以下の、3つの争点について示されている。 ① 争点1:法56条の規定の解釈適用について まず立法趣旨を検討しているが、この立法趣旨について、第一審と異なる判断をしている。 このように、この立法経緯から、「納税義務者と生計を一にする配偶者その他の親族が、当該納税義務者の経営する事業から所得を受ける場合」の規定であり、「従事」に限られないという結論を導いている。 そして続けて「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」につき、判断を示している。 そして続いて、「その他の事由」における「その他の」の用法についての判断を示している。 そして続いて、「その他の事由」における「その他の」の用法についての判断を示している。 ② 争点2:「生計を一にする配偶者」該当性 被控訴人(第一審の原告)は、妻である税理士が「生計を一にする配偶者」ではないと主張していた。この点は【75】及び【76】で取り上げたテーマであるため、ここでは判決を紹介するに留める。この点の判示は、以下の通りである。 ③ 争点3:法56条の規定の憲法適合性について ここでもまず最初に、大島訴訟における合憲性の推定に基づく「ゆるやかな合理性の基準」によって(またここでこの56条を合憲と判断した2つの最高裁判断を参照している(最高裁三小平成10年6月16日・最高裁一小平成9年4月23日))合憲と判断している。続けて立法目的等の点からも合憲である旨、以下のように判示している。 (3) 最高裁の判断 最高裁判決は、裁判所ホームページでは公開されていないため、理由以下を掲げる。最高裁では、高裁の判断を支持し納税者の敗訴が確定した。 なお上記「(略)」の多くに、先に検討した妻弁護士事件の最高裁判決が参照されている。 4 まとめ 各論点の詳細な説明は、これまで判決等で論じられているために省くが、唯一納税者勝訴となった妻税理士事件の地裁判決(かの藤山裁判長が扱っているという点もさることながら)、結論を左右したのは、「その他の事由」の「その他の」の部分、すなわち「Aその他のB」の読み方である。 この連載でも「Aその他のB」においては、AはBの例示であると解説してきているが、ここで問題となるのは「BはAにどの程度縛られるべきか」という点である。例示なのであるから全く無関係で良いとは思われない(この点、地裁の限定されるべきという判示は、正当である)が、例示が1つしかない場合(この場合はA)、AからBの範囲をどの程度限定し得るのかという問題である。つまり、例示が複数ある場合にはこの範囲の想定も比較的容易でるが、1つしかない場合にAと全く同性質のものとまで限定し得るのか疑問であるからである(その場合は条文に「類する」等の文言が入るであろう)。 よって、原則的には、この解釈については、私見としては、最高裁の判断が妥当なものと考えている。 立法当時の立法趣旨からは、限定されるべきとも思えるが、文理解釈によるべき租税法においては、その文理から読みとれる点を優先すべきである以上、やむをえないであろう。 ただし、時代にそぐわない改正すべき条文と考え、また適用により違憲となる可能性も否定しないが、法令そのものが違憲とまで判断すべきかは疑問である。 すなわち、弁護士や税理士の法人化が困難な一部の者だけが不利益を甘受し得ない状況である点もまた事実であり、これが租税公平主義に照らしてどうかという点は別の問題であり、この場合には適用違憲もあり得るように思われる。その意味では最高裁の判決は、この点の審理が不十分であり残念なものと言えよう。 * * * 次回からは、大島訴訟最高裁判決までは租税法律主義に関する基本的判例とされていた昭和30年3月23日最高裁大法廷判決を取り扱う。 (続く)