《速報解説》 広島局、市が交付した空家等除去に係る補助金の 課税上の取扱いについて文書回答事例を公表 ~所有者の親族が空家等を除去し交付を受けた場合、 所得税法44条は適用されず総収入金額に算入~ 税理士 仲宗根 宗聡 広島国税局は、平成28年9月12日付(ホームページ公表は10月3日)で、「市の空家等除去支援事業補助金交付要綱に基づき交付される補助金の課税上の取扱いについて」の事前照会に対し、貴見のとおりで差し支えないとした回答文書を公表した。 以下では、その内容について解説する。 【 前 提 】 〈所得税法第44条:移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入〉 居住者が、国又は地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転、移築、除去等の一定の行為(以下「資産の移転等」という)の費用に充てるために補助金の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付目的に従って資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。 ただし、その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上、必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については、この限りではない。 〈A市の空家等除去支援制度〉 A市は、放置することが不適切な状態の空家等の除去を促進し、地域の住環境の向上を図る目的で、空家等の除去を行う者に対して、その除去費用の一部を補助するための空家等除去支援制度を設けている。 この制度の補助金の交付対象者は、補助対象となる空家等の所有者又は空家等の所有者の承諾を得て除去を行う空家等の所有者の親族で、一定の要件を満たしたものとなる。 そのため、空家等の所有者の親族が、補助金の交付を受けることができる。 【事前照会者の見解(要約)】 A市は、老朽化した家屋等の除去を行う者に対し、その除去に要した費用の一部を補助するため、補助金を交付する制度を設けている。この制度による補助金は、所得税法第44条《移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入》の規定により、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない旨の取扱いが適用されるが、所得税法第44条では「その者の資産」と規定していることから、補助金の対象となる空家等の所有者と補助金の交付を受ける者が異なるときは、所有者要件を満たさないため、その補助金の交付を受ける者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入すると解して差し支えはないか。 【見解の理由(要約)】 (1) 空家等の所有者が空家等の除去を行い、補助金の交付を受けた場合 補助金の対象となる資産の所有者が除去を行い、補助金の交付を受けたときは、所得税法第44条の所有者要件を満たすため、その補助金のうち除去費用等に充てた金額は、資産の所有者の各種所得の金額の計算上、総収入金額不算入となる。 (2) 空家等の所有者の親族が空家等の除去を行い、補助金の交付を受けた場合 補助金の対象となる資産の所有者の親族が、資産の所有者の承諾を得て除去を行い、補助金の交付を受けたときは、所得税法第44条の所有者要件を満たさないため、その補助金は、その親族の各種所得の金額の計算上、総収入金額算入となる。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成28年9月29日、「平成28年1月から3月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全17件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が10件、棄却された事例が7件となっている。税法・税目としては、国税通則法3件、所得税法5件、法人税法4件、相続税法3件、登録免許税法及び国税徴収法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年1月~3月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された17件の裁決事例のうち、重加算税に関する不服審判所の考え方が示された上記②の裁決を含む3件の裁決事例を紹介したい。 なお、毎回のことであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 重加算税(隠ぺい、仮装の意図)・・・② (1) 争点 争点は、請求人らが、課税要件事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったと認められるか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人らは、相続財産を隠ぺいし、本件相続に係る相続税を無申告で済ませようとする態度、行動をできる限り貫こうとしたとまではいい難いと判断して、原処分のうち、無申告加算税相当額を超える部分の金額について違法であり、当該部分を取り消すべきである、と判断した。 2 不動産所得(必要経費――造成工事費用等)・・・④ (1) 争点 土地の貸付に当たって行われた工事に係る各費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か。 なお、審判では、請求人の所有する他の不動産に関する分離長期譲渡所得の金額の計算についても争われたが、本稿では割愛する。 (2) 原処分庁の主張 建物の解体費用について、原処分庁は、使用貸借の対象となった不動産は、不動産所得を生ずべき業務の用に供された資産とはいえないから、当該不動産に係る費用は不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しないと主張した。 一方、土地の造成工事等の費用については、土地の取得費に算入すべきものであるから、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないと主張した。 (3) 審判所の判断 審判所は、審査請求人が支出した工事代金について、その工事内容ごとに精査したうえで、それぞれ次のように判断を示した。 ① 土地の上に存した建物の解体工事費用 審判所は、まず、一般的な必要経費算入の要件として、次のように述べる。 そのうえで、本件については、取り壊した建物は、平成21年12月以降、不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない非業務用資産に該当し、その取壊しは、業務の用に供されていない資産を任意に処分する行為にすぎないことになるから、当該取壊し後の敷地の利用目的にかかわらず、本件解体工事に係る費用は、非業務用資産の処分に要する費用すなわち家事費であって、これを不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない、と結論づけた。 ② 外構工事・造成工事 審判所は、これらの工事のうち、外構造成工事は土地の形質を変更し改良する工事と認められるので、当該工事に要した費用は、土地の改良費(資本的支出)に該当し、土地の取得費に算入されるべきものであると判断を示した。 一方、土留め工事については、隣接地との境界のコンクリートブロックの一部の撤去及び積直しをしたものにすぎず、土地を改良し、その価額を増加させるための工事であるとは認められないことから、通常の管理又は修理に係る修繕費等に係る費用として、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである、と結論づけた。 ③ 乗入・側溝改修工事 次いで、審判所は、乗入側溝改修工事について、請求人は、本件乗入側溝改修工事を行うことにより本件借地権設定契約に基づき賃料を取得するという便益を受けることが認められ、その効果は、本件乗入側溝改修工事に係る費用の支出の日以後1年以上に及ぶものであることから、請求人が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用に該当し、繰延資産に該当すると判断して、その償却費を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであると判断した。 ④ 境界等整備に係る費用・土壌汚染調査費用 最後に、審判所は、境界等整備に係る費用及び土壌汚染調査に係る費用については、土地を改良するものではないし、その価額を増加させるものでもないが、本件借地権設定契約を履行するために必要なものと認められ、そうすると、土地の貸付けに係る業務と直接関係し、当該業務の遂行上必要なものと認められるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである、と結論づけた。 3 役員給与(みなし役員)・・・⑨ (1) 争点 代表取締役Eは、その就任前においても、法人税法上の役員に該当するか否か。 なお、請求人からは、調査手続に、原処分の取消事由となる違法又は不当がある旨、また、理由附記に不備があるという主張もされていたが、いずれも、不服審判所により「理由がない」という判断が示されているため、本稿では割愛する。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、以下の事実をもとに、Eは、請求人の創業時から請求人の事業運営上の重要事項に参画していたものと認められるので、代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において、法人税法施行令第7条第2号に規定する「会社の経営に従事しているもの」に該当する、と主張した。 (3) 審判所の判断 こうした原処分庁の主張に対し、審判所は、以下のような理由をあげて、Eが平成23年3月期及び平成24年3月期において、請求人の「経営に従事しているもの」に該当すると認めるに足りないといわざるを得ないと結論づけ、原処分庁の主張を斥けた。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「公益法人会計基準に関する実務指針」の 改正(公開草案)を公表 ~過年度遡及会計基準や資産除去債務等の取扱いを新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年10月13日、日本公認会計士協会は「非営利法人委員会実務指針第38号「公益法人会計基準に関する実務指針」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。同日、日本公認会計士協会から「会長声明「非営利法人への公認会計士監査の導入に当たって」」も公表されている。 公開草案は、内閣府公益認定等委員会から公表された「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」(平成27年3月26日)及び「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成28年3月23日)に対応するものであり、Q&A形式により記載されている。 意見募集期間は平成28年11月13日までである。 なお、監査上の取扱いについては、平成28年9月27日に、「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の財務諸表に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第34号)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 過年度遡及会計基準関係 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。「過年度遡及会計基準」という)の適用について、Q5及びQ6に記載されている。 公益法人では、原則として過年度遡及会計基準に準拠することになるが、未適用の会計基準等に関する注記は、会社計算規則98条「注記表の区分」で特に記載が求められていないことから、当該注記を行うかどうかは各法人の任意と考えられている(Q5)。 また、Q6において、設例を用いて、会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積りの変更、減価償却方法の変更、過去の誤謬の訂正が説明されている。 2 金融商品会計関係(開示) 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。「金融商品会計基準」という)40-2項における時価の開示について、Q29及びQ30に記載されている。 Q29では、「平成27年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成28年3月23日、内閣府公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会)の記載を用いて、開示すべき金融商品の範囲を金融商品会計基準で規定するすべての金融商品を対象とするのではなく、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びにデリバティブ取引(先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引)等の法人の資産運用を図る手段として用いられる金融商品に限定していることが述べられている。 また、当該金融資産の運用次第では、公益目的事業の安定的な持続可能性に影響を与えるなど、法人運営に相当のリスクをもたらすおそれがあると法人が判断した場合に注記することとすべきであるとされているが、それ以外の場合であっても法人が自主的に注記を行うことは妨げられないことについて述べられている。 Q30では、「金融商品の状況に関する事項」の財務諸表における開示例が示されている。 3 資産除去債務関係 Q49では、公益法人における資産除去債務の会計処理上の留意点が述べられている。 資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額及び時の経過による資産除去債務の調整額は、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて事業費又は管理費に計上することになる。 資産除去債務の発生時に当該債務を合理的に見積もることができない場合についても述べられているが、例えばとして、建物を期限の定めなく公益目的事業に使用してほしいということで寄付を受けているが、当該保有に関する制約が寄付者等からいつ解除されるか明確ではない、すなわち資産除去債務の履行時期が寄付者等から明示されていないことだけをもって、ただちにその金額を見積もれない理由となるものではないことに留意するとし、このような場合には、当該資産に適用している耐用年数等から撤去時期を合理的に見積もることができないか慎重に検討する必要があるとしている。 4 賃貸等不動産関係(開示) Q50からQ53までにおいて、公益法人における賃貸等不動産について述べられている。 基本的に「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第20号)等に従って記載されているが、公益法人に関する留意点についても述べられている。 Ⅲ 適用時期等 平成28年4月1日から開始する事業年度から適用する予定であるが、同日前に開始する事業年度から適用することを妨げないと提案されている。 (了)
2016年10月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.189を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第46回】 「宝くじに係る課税と所得の実現(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅰ 課税の時期の原則 1 権利確定主義 所得税法36条は、 と規定し、同条2項において、 と規定している。同条は、一般的に権利確定主義を表したものといわれている。 植松守雄氏は、「権利確定主義における『確定』概念とは、財産価値の変動がそのような状態にあることを判断するための内容をもつものと考えるべきで、その具体的な内容としては、『市場による測定可能性』や『現実性』ということが挙げられ、経済取引における諸要素がこれらの観点から評価されなければならない。」と主張される(植松「収入金額(収益)の計上時期に関する問題-『権利確定主義をめぐって』-」租税8号『租税実体法の判例と解釈』101頁)。 租税法上の所得の本質から出発して、その損益発生の時期を考えるのであれば、植松氏の主張されるように、「個人・法人の損益は、その財産(資産・負債)価値の変動(消費・生成等)を通じて現われ、そこに損益発生(認識)」の徴表的基本があるが、税法上の所得というためには、単に経済上の所得というだけでは足りず、さらにその利得が消費および測定可能なもので、結局において新たな『購買力』を組成するに足る程度のものでなければならず、そのような状態にある利得であってこそ、租税債務の源泉として相応なものと認められ、『課税適状』にあるもの」(植松・前掲稿100頁)であると解するのが相当であると考えられる。 旧所得税基本通達において、権利確定主義という表現がみられたが、所得税基本通達の改正によりかかる表現がなくなったにもかかわらず、依然として所得税法における収入計上基準は権利確定主義であるとする解釈が判例を中心に展開されているところである。 権利確定主義については、①その用語の意味する内容が不明確であること、②条文上の根拠が希薄であり、税法上の基準としては不適当であることから、会計用語としての実現(Realization)の概念を特定させて法律用語として取り入れることが適当であるとする主張もある。 所得税法36条にいう「収入すべき金額」の「収入すべき」とは「収入とみるべき」という意味であろうと解されるが、実定法解釈において、「実現」概念を論ずる所以はここにあると考えられる。 2 実現概念 (1) 問題意識 ヘイグは所得を「二時点間における経済力の増加の貨幣価値」と定義している(Haig, R, M. (1938), “The Concept of Income”, in R. M. Haig (ed.), The Federal Income Tax, Columbia University Press. 神野直彦「所得概念論」木下和夫=金子宏『21世紀を支える税制の論理 第2巻 所得税の理論と課題』21頁(税務経理協会1996))。 この理論を発展させたサイモンズは、「所得とは(1)消費の権利行使の市場価値と、(2)期首と期末間の保有財産権価値の変化の代数和」と定義している(Simons, H. C. (1928), Personal Income Taxation, University of Chicago Press.)。 これらの定義を前提として所得概念を捉えると、およそ市場において貨幣価値の増加として認識されるものはすべからく所得として捉えることになるのかもしれない。ここで注意しておきたいのは、これら代表的な包括的所得概念論者の主張は、経済的価値を貨幣価値若しくは市場における価値として捉えている点である。 さらに、かかる包括的所得概念論の考え方では、未実現の所得に課税することは想定されていないとされている(Bittker, B. I. (1967). “A ‘Comprehensive Tax Base’ as a Goal of Income Tax Reform”, Harvard Law Review, Vol. 80 No.5. 金子宏「ボーリス・ビトカーの『包括的課税ベース』批判論の検討」『雄川一郎先生謹呈論集 行政法の諸問題』(有斐閣1990)。佐藤進『現代税制論』(日本評論社1970)122頁)。 金子宏教授は、「人の担税力を増加させる利得であっても、未実現の利得(unrealized gain)-所得資産の価値の増加益-・・・はどこの国でも、原則として課税の対象から除外されている。わが国でも、所得税法は、所得を収入という形態でとらえているから、それらは原則として課税の対象から除かれていると解さざるをえない。」とされている(金子『租税法〔第21版〕』(弘文堂2016))。 (続く)
「更正の予知」の実務と 平成28年度税制改正 【第4回】 税理士 谷口 勝司 8 調査・行政指導と更正の予知 (1) 調査と行政指導の区分 更正の予知に関して、主に実地の調査を前提にこれまで説明してきたが、実地の調査以外の税務執行が実際にどのように行われ、これに伴って更正の予知がどのように取り扱われているか、理解しておくことも実務上重要である。 例えば、提出された申告書の計算内容、記載内容等に誤りがあるのではないかと考えられる場合、国税当局から納税者への働きかけは、「申告書に計算誤りがあると思われるので、見直してほしい(確認してほしい)」といったように、見直し要請・確認要請という「行政指導」として実際には幅広く行われている。 その結果、この行政指導に基づいて提出された修正申告書は、納税者が調査のあったことを了知したとはいえず(したがって更正の予知がない)、納税者の自発的なものとして扱われ、加算税賦課が行われないことになる。 申告書の比較的軽微な誤り等について、納税者に対して調査、行政指導のいずれで対応するかは、国税当局の行政スタンスによるともいえるが、現状は、まずは行政指導による対応が行われて修正申告書(減額の場合は更正の請求)の提出が勧奨され、多くのものが納税者の自発的なものとして処理されている。そして行政指導で対応できない場合には、次の段階として調査に移行して対応されている。 このように、行政指導による税務執行が広く行われているのは、国税当局としては、申告納税制度の維持・発展のため、納税者によって納税義務が自発的に履行されるようにすることが重要と考えている、というのが一番大きな理由であろう。申告に誤りがあれば、納税者自身にできる限り是正してもらう、という考えである。 また、国税当局としては、限られた定員や機構の下で、多くの事務日数を要する税務調査は、高額・悪質、富裕層、国際、無申告、消費税といった重点分野にできる限り充てていきたい、ということもあると思われる。このため、効率的な事務運営等も勘案し、行政指導で対応できる事務はできる限り行政指導で対応しようとしている。 また、このような税務執行は、平成23年度税制改正で調査手続が法定化されたことを契機に、さらに進められていると思われる。 平成23年度税制改正において、事前通知、調査結果説明、修正申告勧奨、申告是認通知書の発送(交付)、不利益処分の理由付記、再調査等の調査手続が法定化され、平成25年1月から施行されている。この改正は、改正前から運用により行われていた調査手続を大きく変更するものではなかったが、法定化された調査手続の的確な履行やその履行検証に相当な事務コストを要していることも事実である(例えば、法人税の調査件数は改正前後で年間129千件から91千件に約30%減少し、いわゆる実調率は約3%に低下)。国税当局も、調査手続に係る法令遵守(コンプライアンス維持)に相当なコストを払っているともいえよう。 国税通則法上の調査は、前述「4 更正の予知における2つの要件と「調査」の意義」(【第2回】参照)のとおり、実地の調査だけではなく、署内調査などを含む幅広い概念である。そして、法定化された調査手続においては、実地の調査以外の調査についても、調査結果説明、修正申告勧奨等の手続を義務付けており、その適正な履行が求められている。 調査手続法定化後、国税庁は、行政指導について、「『調査』に該当しない行為」として、その意義を明確化している(調査解釈通達1-2)。 すなわち、「次に掲げる行為のように、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しない」とし、その行為の例示の1つに、「当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為」を掲げている。またこの他にも、多くの行為が調査に該当しない行為(行政指導)として例示されている。 従前、国税当局では調査・行政指導の区分はあったものの、特に実地の調査以外の事務については、調査か行政指導かの区分を明確に意識して行うことは必ずしも多くなかったと思われるが、行政指導の意義等を定めた通達によって、事務の適正性・透明性等が確保されたということになる。 また、調査運営通達の第2章1では、「納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。」と定め、調査・行政指導の区分を納税者に明示して事務を行うことを明確にしている。 この行政指導は、その態様として、通達に示されている対面、電話、書面等のほか、来署依頼や事業所等への臨場などによるものもある。一方、調査も、対面、電話、書面、来署依頼、臨場等の態様があるが、いずれにせよ、態様のいかんを問わず、調査か行政指導かの区分は口頭、文書等によって国税当局から明示される(納税者は了知できる)、ということが重要である。 このような通達発遣は、法定化された調査手続の的確な履行や、事務の適正性・透明性や納税者の予測可能性を確保しようとするものである。 〇通達における事務区分とその意義 さらに、調査解釈通達では、調査に該当しない行為(行政指導)のみに起因して提出された修正申告書は、更正を予知してなされたものには当たらない(過少申告加算税を賦課しない)旨を定めている(調査解釈通達1-2)。これは調査が行われていない(納税者が調査のあったことを了知したとはいえない)から、いわば当然ともいえよう。 一方、調査であることが明示されて開始(着手)されれば、これまで述べてきたとおり、納税者が調査のあったことを了知した(原則更正を予知した)ものに当たり、実務上は、過少申告加算税が賦課されることになる。 このように、実務上は、調査か行政指導かの事務区分が納税者に明示されて事務が行われ、また結果的に加算税の取扱いも明確化されていると思われる。 (2) 行政指導による事務 いくつかの事務を例に、行政指導などが実務上どのように行われているか紹介しよう。 (イ) 申告書の計算誤り等(事後処理等) 申告書の計算誤り等があると思われるケースについて、所得税における事後処理事務を例にとろう。 所得税確定申告書の審査検算等の結果、所得金額・税額の計算誤り、各種所得控除の適用誤り、証明書の添付漏れ等、その計算に誤り等があると思われる場合には、納税者(関与税理士を含み、既に実地の調査の対象選定されている者を除く)に対して、電話や文書等で、行政指導であることを明示した上で、計算見直し等の依頼が行われる(見直し依頼に際して具体的な項目・金額が示されることがある)。 また、納税者が計算誤り等を確認できれば修正申告書の提出(又は更正の請求の提出)を依頼し、提出された修正申告書は納税者の自発的なもの(加算税免除)として扱われる。 ただし、納税者の自発的な見直しや修正申告書提出等が行われない場合、更正処理を要する場合等は、「調査」であることを電話や文書等で明示(実務上は調査宣言とも称される)し、調査(通常は実地の調査以外の調査)に移行して処理が行われる。また、事業所得者等で帳簿提示を求める必要がある場合(質問検査権行使が必要な場合)等についても、調査であることを明示して処理が行われる。 なお、法人税における申告書・別表の計算誤り等についても、その事務処理はほぼ同様である。 (ロ) 法人税の無申告 法定申告期限までに申告書が提出されない場合、期限後申告書の提出又は決定により納付すべき税額に対して原則15%の無申告加算税が賦課されるが、期限後申告書の提出が「決定の予知」をしたものでない場合には、無申告加算税は原則5%に軽減される(通則法66①⑥)。そしてこの「決定の予知」は、「更正の予知」と実務上の取扱いは同じである。 法人税の場合、清算結了等で法人が消滅しない限り、申告書の提出が義務付けられている。しかし、国税庁が公表した平成25年事務年度事務事績によると、法人数3,007千件に対して申告件数は2,771千件であり、実際には、債務超過、倒産、代表者の死亡や所在不明等による休業・事業廃止等、無申告も相当数ある。また、このような無申告は、所得計算等を行っても欠損金額又はゼロとなり、納付すべき税額が生じないものがほとんどである。税務執行上は的確で効率的な処理が求められる事務の一つであろう。 法人税の無申告が認められる場合、(イ)と同様、通常、行政指導によりその対応が行われる。電話、文書、臨場等により、行政指導であることを明示した上、申告書提出の有無、事業活動の状況等の実態の確認を行うとともに、期限後申告書の提出依頼を行う。実務上は、無申告実態確認などと称されるが、この行政指導によって提出された期限後申告書は、納税者が調査のあったことを了知したとはいえない(決定の予知がない)ことになり、無申告加算税が原則5%に軽減されることになる。 ただし、自発的な期限後申告書提出等が行われない場合や、決定を要する場合、質問検査権を行使しなければ所得計算ができない場合等については、「調査」であることを明示し、調査に移行して処理が行われる。また、資料情報や過去の調査状況等からみて法人の事業活動が行われており納付税額も生ずると認められる場合(稼働しているにもかかわらず無申告が常態となっているような場合)には、行政指導を経ることなく、調査であることを明示して処理が行われる。 (ハ) 源泉所得税の未納整理 法定納期限までに源泉所得税が完納されなかった場合、納税の告知に係る税額又は期限後納付された税額に対して10%の不納付加算税が徴収される。そして期限後納付が「納税の告知の予知」をしたものでない場合、すなわち自発的な納付であった場合には、不納付加算税は5%に軽減される(通則法67①②)。この「納税の告知の予知」も、「更正の予知」と同じ扱いである。 給与等の源泉所得税が納期限までに納付されない理由としては、資金繰り悪化、怠慢、失念などのほか、休業や事業廃止等による給与支払なし等、様々なものがある。 源泉所得税の未納整理は、現状、国税局の中に組織される「源泉所得税事務集中処理センター室」(以下「源泉センター」という)において、国税局管内の全税務署の事務の一括集中処理が行われている。 納期限までの納付が確認できない場合、源泉センターでは、納付照会往復はがきの発送(納付の有無、未納税額、納付見込み時期等を照会)、電話による照会(はがき回答内容の確認、はがき未回答者への未納税額の確認等)等を行う。また、自主納付の場合は加算税5%、納税の告知の場合は加算税10%である旨を説明するとともに、自主納付のしょうようを行う。以上は、行政指導であることを明示して行われ、これにより納付された場合の不納付加算税は5%に軽減される。 しかし、自主納付が見込めない場合(納税の告知を行う場合)、はがきや電話等による照会に回答がない場合、未納税額等把握のため帳簿提示を求める必要がある場合(質問検査権行使が必要な場合)等については、調査であることを明示し、各税務署における調査手続に移行して処理が行われる。 * * * 以上見てきたように、実務上は行政指導によって、納税者による自発的な納税義務履行が幅広く促されている。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q15】 「公募株式投資信託の解約請求と買取請求の差異」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 株式投資信託の換金方法としては、①ファンドへの解約請求による場合と、②販売会社等への買取請求による場合があります。「解約請求」は、証券会社などの販売会社を通じて、信託財産の一部の解約を請求することにより信託財産を取り崩して換金する手法です。一方、「買取請求」は、投資家が保有している投資信託の受益権を証券会社などの販売会社に対し買い取ってもらうという換金方法です。 買取請求の場合は、法的には証券会社などの販売会社への譲渡として取り扱われるため、換金による収入額は株式等の譲渡に係る譲渡収入の金額とされます。 一方、解約請求の場合は、ファンドに対する解約のため、所得税法上は、原則として、交付を受ける金銭等の額のうち、当該株式投資信託について信託された金額を超える部分の金額については配当所得に係る収入金額とされます。ただし、平成19年度税制改正により、居住者が、公募株式投資信託(キーワード参照)について解約請求する場合、交付を受ける金銭等についてはすべて株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額として取り扱われることとなりました。 結果として、公募の株式投資信託については、解約請求であっても、買取請求の場合と同様、払い出された金額は上場株式等の譲渡に係る譲渡収入の金額とされます。 〈投資信託の解約時の所得分類〉 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第20回】 「海外赴任から帰国した従業員のマイナンバーの手続きと年末調整」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 海外の支店で3年間勤務していた従業員が10月1日に帰国し、東京の本社で勤務しています。 この従業員のマイナンバーの手続きと年末調整について教えてください。 〈A〉 1 マイナンバーの手続き 海外の支店に勤務していた期間は日本に住民票がないため、この従業員にマイナンバーは通知されていない。 帰国後住民票が作成されると従業員にマイナンバーが通知されることから、会社は従業員のマイナンバーの取得、保管といった手続きを行う。 2 年末調整 会社は、帰国日の10月1日以後に、従業員に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出してもらい、10月1日から12月31日までに給与及び賞与の支給期が到来するものを対象に、年末調整を行う。 なお、1月1日から9月30日までの海外の支店に勤務していた期間は非居住者であるため、給与は課税されない。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第17回】 「租税法上の評価①」 公認会計士 佐藤 信祐 前回までは、会社法の観点からの非上場株式の評価について裁判例を紹介した。 本稿以降では、租税法上の観点から非上場株式の評価についての裁判例・裁決例について解説を行う。 1 大阪高裁昭和62年6月16日判決・TAINSコード:Z158-5926 (1) 事実の概要 本事件は、原告らが、粟井機鋼株式会社(以下「訴外会社」という)の株式を従業員等から譲り受けた事件である。 課税庁は、譲り受けた訴外会社株式の譲受価額が、財産評価基本通達に定める中心的な同族株主に該当し、かつ、大会社に該当するとした場合の評価額に比べて著しく低いことから、贈与税の対象とした。 これに対し、原告らは、 と主張して、課税処分の取消しを求めた。 なお、上告審(最高裁昭和63年7月7日判決・TAINSコード:Z165-6134)では、棄却されている。 (2) 第一審(大阪地裁昭和61年10月30日判決・TAINSコード:Z154-5816) (3) 控訴審 控訴審は、第一審の判断をそのまま踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 評釈 このように、裁判所は、納税者の主張を認めず、国側の課税処分を認めた。 本事件で留意すべき点は、零細株主から中心的な同族株主への譲渡を原則的評価方式によるべきと判断したという点である。 たしかに、本事件は、自然人から自然人への譲渡であるため、譲渡人である零細株主において、所得税法59条1項2号に規定するみなし譲渡の問題はない。そのため、譲受人である中心的な同族株主の贈与税の議論のみであるため、一物二価の問題は生じない。 これに対し、もし、本事件の譲渡人が法人である場合には、譲渡人における法人税の議論が問題となり、譲受人が法人である場合には所得税の議論が問題となる。このように、零細株主から中心的な同族株主への譲渡につき、譲渡人では特例的評価方式、譲受人では原則的評価方式になる場合が考えられる。このような場合には、一物二価の問題が生じるため、実務上、どのように処理すべきか議論のあるところである。 この点についての優れた先行研究として牧口晴一・齊藤孝一『非公開株式譲渡の法務・税務(第4版)』中央経済社(平成26年)、森富幸『取引相場のない株式の税務(第2版)』日本評論社(平成25年)があるため、興味のある読者は、是非、参照されたい。 しかし、本事件では、贈与税の議論とはいえ、零細株主から中心的な同族株主への譲渡につき、原則的評価方式によるべきことを明確に示している。本事件を参考にすれば、零細株主から中心的な同族株主が株式を買い集める際には、原則的評価方式によらないと贈与税の議論が生じるということになる。 とりわけ、平成26年改正会社法により、株式併合、株式等売渡請求といった少数株主の締出し手法が整備され、少数株主を締め出すことにより安定的な企業経営を行いたいというニーズは少なくない。多くの場合には、支配株主にとっての株式価値により評価を行っていると思われるが、もし、特例的評価方式により少数株主を締め出した場合には、租税法上の問題が生じる可能性があるという点に留意が必要である。 なお、原告の主張する「自由な立場に立つ売買当事者の合意に基づく適正な価額」という考え方は裁判所に否定されていないと思われるが、さすがに、従業員との取引においてそれを主張することには無理があったということが言える。「自由な立場に立つ売買当事者の合意」というものを広く捉えようとする実務家も存在するが、社会通念を考えて慎重に判断する必要があると言える。 次回では、東京高裁平成12年9月28日判決について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【92】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その20:「「交際費」の範囲③」(東京高裁平15.9.9)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (2) 東京高裁平成15年9月9日 前回は東京地裁平成14年9月13日判決を見たが、これに対して、控訴審はこの原審の判断を覆している。 この裁判例は、裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 そこでは、交際費の意義として、以下の旨判示する(下線筆者)。 このように、高額であることや冗費濫費であることは要件として否定したが、上記3要件を示したのである。 そして次に、この英文添削の支出の目的について、以下のように判示する。 このように、2つ目の要件である「支出の目的」の点から、交際費該当性を否定したが、続けて3つ目の要件である「行為の形態」の点から、この差額負担の「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」該当性について検討し判示する。 まず初めに、以下のようにその該当性についての前提を提示する。 これに続けて、以下の事実認定(ただしこの中には、「その他これらに類する行為」の法解釈が含まれている)をしている。 続けて、条文にこそ明記されていないが、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」が、相手の歓心を買う行為であるという本質から、以下の見解を示している。 続けて、上記の「受益する者のみが免税で利益を得ることに対する国民一般の不公平感を防止」という点から、以下のように判示する。 また、この受益の機会が広く開放されていない点の批判について、以下のように判示する。 そして、この受益者の側が「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」を受けていたと認識していなかった点から、以下のように判示する。 5 萬有製薬事件判決の意義 本事案は、受益者の側に、利益を得ていたという認識がなかったものである以上(相場よりも低額ならば利益を得ていたという認識が皆無とは言えないが、だからといって萬有製薬がそれを負担していたと認識していたとは断定できない)、「行為の形態」として「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」ではなかったことから、交際費該当性を否定している。 この「行為の形態」が「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること」という点について、相手方の快楽追求欲、金銭や物品の所有欲、又は歓心を買う行為という特質が重視されている点は、これまでの裁判例とは異なっている。 例えば、「贈答」が単なる「贈与」と同じにとらえ、相手側の認識が不要と考えるのではなく、相手側の認識があってこそ「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」としている点、条文の文意からも正当な判断であり、重要な裁判例といえよう。 ただし、2つ目の要件である「「支出の目的」が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ること」は、条文上の根拠はないため、もう少し検討が必要であろう。 なお、国側が上告しなかったため、最高裁が判断をしていないことから、判例とまで言えるか疑問視される点、残念である。 * * * 次回は、文理解釈の意義について争われたホステス報酬源泉事件(最高裁平成22年3月2日判決)を取り上げる。 (続く)