税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第15回】 「金融機関提出書類の作成ポイント(その7 資金繰り表)」 ~最も重要な書類~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 資金繰り表の内容と作成の流れは、【第3回】で説明したけれども、再度、簡単に説明しておく。 資金繰り表とは、会社の入出金情報を表す書類である。事業計画書とは別に、作成が求められる理由は、利益の確保と、借入返済に必要な資金を確保することは別だからである。利益が増えれば増えるほど、資金が不足する状況もありうる。資金繰り表は月次事業計画書を元に、現金主義ベースで作成する。売掛金や買掛金の決済条件、融資返済条件を元に、月ごとの入出金額を表に当てはめていく。 金融機関は、返済に必要な資金を会社が確保できるかどうかに関心を持つ。このため、それを示す資金繰り表は、融資関係書類の中で最も重視される。 以下、資金繰り表の作成ポイントを述べる。 資金繰り表のポイント①:各月末現預金残高はほどほどに 各月末現預金残高がマイナスの状態は、資金ショート、返済不能状態を意味するので論外であるけれども、ではプラスでさえあれば良いかというと、そうでもない。残高金額には適切なバランスがある。現金商売か信用商売かによっても異なるけれども、一般に、営業支出の1ヶ月分から2ヶ月分の残高を常に確保できるような資金繰りにしておく。 それよりも少ない現預金残高は印象が良くない。というのは、各月末現預金残高が営業支出の1ヶ月分にも届かない金額だと、売上見込みが少し下ブレしただけで、すぐに事業継続が困難になってしまうからである。金融機関は返済可能性について不安になる。 逆に、現預金残高が常に営業支出の半年分以上手元にある状態だと、金余りの状態とみなされてしまう。「使わずにそのまま返すのであれば、融資は不要なのでは?」と思われ、融資判断にマイナスとなる。 現預金残高の調整は、融資希望額や借入返済期間を変更したり、売上、仕入、経費の計画を見直すことで行う。エクセルなどの表計算ソフトを使って資金繰り表を作成すると、シミュレーションしやすい。 資金繰り表のポイント②:年間営業キャッシュフロー>年間返済額 年間営業キャッシュフロー、すなわち営業収入マイナス営業支出の金額が年間返済額を上回るように作成する。資金繰り表の元となる事業計画書は、簡易キャッシュフロー(=当期純利益+減価償却費)の考えを使って、融資返済に必要な利益と売上高を上回る水準で作成している。売上高には季節変動があるため、月によっては営業キャッシュフロー<返済額となることがあるとしても、年間トータルでは営業キャッシュフロー>返済額となるはずである。そうなっていることを確認する。 年間営業キャッシュフロー<年間返済額となっている状態は、事業から生み出すお金だけでは、返済額に足りないということを意味する。いずれ資金が枯渇し、返済不能に陥る。このような資金繰り表も金融機関を不安にさせるので避けるべきである。 資金繰り表のポイント③:対象期間は、融資を受けてから1年間 【第13回】で述べた通り、資金繰り表の元となる月次事業計画書は、借り入れ以降、1年間が含まれるように作成する。よって、資金繰り表もそれに合わせた期間で作成する。資金繰りは会計年度に関係なく行うものであるから、会計年度に区切って作成する必要はない。 金融機関によっては、2ヶ月分や3ヶ月分、半年分で良いといわれることがある。その際は、金融機関の指示に従う。 資金繰り表のポイント④:形式はシンプルに 重要な勘定科目に焦点を絞るため、金額が小さい複数項目は1つにまとめる、または「その他」という項目に集約する。事業計画書のポイントと同様である。表示単位も、千円単位以上とする。 取引先が多い場合は、債権または債務残高の80%程度をカバーする取引先について資金繰りを把握し、作成する。 資金繰り表のポイント⑤:非現金支出費用は除き、税込方式で作成する 資金繰り表は実際の入出金の状況を表す。よって減価償却費や繰延資産償却費、貸倒引当金繰入額などの非現金支出費用を記載する必要はない。 また、実際の入出金取引は税込みで行われるのであるから、資金繰り表も税込みで作成する。事業計画書を税抜方式で作成している場合は注意が必要である。税込方式に変換したうえで資金繰り表を作成する。 * * * 以上、【第9回】から今回まで金融機関に提出する資料として、損益計算書、貸借対照表、合計残高試算表、事業計画書、資金繰り表の作成ポイントをそれぞれ説明した。資料作成の主体はあくまで会社、社長であるけれども、ポイントを理解しておくことによって、税理士は適切な助言を行うことができる。 次回は書類作成の補足として、粉飾決算と経営指標について述べる。 (了)
《速報解説》 「会計監査の在り方に関する懇談会」提言を公表 ~監査法人のマネジメント強化等、信頼性確保に向けた議論を整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年3月8日、 金融庁は「『会計監査の在り方に関する懇談会』提言-会計監査の信頼性確保ために-」を公表した。参考として「施策の全体像」も公表されている。 提言は、基本的に公認会計士(監査人)の行う会計監査の改善に関するものであるが、監査を受ける企業に関連する事項も述べられているので、企業の方々も、ぜひお読みいただきたい。 なお、同日、日本公認会計士協会は、会長声明「金融庁『会計監査の在り方に関する懇談会』提言を受けて」を公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 会計監査の信頼性確保のための取組みについて、次の事項が述べられている。 以下、主な内容について述べる。 (了)
《速報解説》 設備投資に対する固定資産税軽減措置を定めた 「中小企業等経営強化法案」が国会へ提出 ~要件の「経営力向上計画」作成アドバイスは税理士等認定経営革新等支援機関の業務に Profession Journal編集部 平成28年度税制改正では中小企業者等へ向けた新たな減税策として、一定の設備投資に対する固定資産税の減税措置が行われる。この特例措置は史上初の固定資産税での設備投資減税といわれており、固定資産税は赤字法人にも課されることから、赤字比率の高い中小企業にもその効果が見込まれるため注目を集めている。 この特例措置は、3月4日に閣議決定された「中小企業等経営強化法案」(大綱では「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」)の中に規定されている(附則第3条 地方税法の一部改正)。 同法案は、労働力人口の減少や国際競争の活発化等に対し中小企業者等の経営強化を図るための支援措置が盛り込まれている。 具体的には、中小企業者等が作成した「経営力向上計画」(大綱では「生産性向上計画(仮称)」)について事業所管大臣から認定を受けることを要件として、認定事業者が、固定資産税軽減措置や金融支援等の特例措置が適用できるというもの。 この認定経営力向上計画は、大臣が定める事業分野別指針等に照らして適切なものである必要があり、次に掲げる事項を記載しなければならない。なお、事業分野別指針とは、中小企業者等の経営力向上が特に必要と認められるとして指定を受けた事業分野に係る経営力向上に関する指針をいう。 上記⑤の通り、この計画の認定には設備投資が前提となっていることが分かるが、この「経営力向上設備等」について、同法案では次のように規定されている。 なお、この経営力向上設備等のうち固定資産税の軽減対象となるのは機械及び装置に限られる点に留意したい。 ちなみに中小企業者等が経営力向上計画を作成し認定を受けるに当たり、すでに多くの税理士等が認定を受けている認定経営革新等支援機関が、新たな業務として指導及び助言をすることができる。クライアントへのサービスの一環として認識しておきたい。 上記を踏まえたうえで、改めて固定資産税軽減措置の内容を確認すると、中小企業等経営強化法の施行日から平成31年3月31日までに、認定経営力向上計画に基づき取得した経営力向上設備等に該当する機械及び装置で政令で定めるもの(下記大綱の表記を参考にされたい)に対して課される固定資産税の課税標準が、この機械・装置に対して新たに固定資産税が課されることとなった年度から3年度分の固定資産税に限り、課税標準の価格の2分の1の額とされる。 なお、中小企業等経営強化法の施行日だが、同法案附則1条において公布の日から起算して3ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、今国会の会期が6月1日までであることを考慮すると、8月中には施行されよう。 (了)
《速報解説》 改正「会計参与の行動指針」及び「Q&A」が公表 ~中小企業会計指針及び会社法の改正に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年2月29日、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会は「会計参与の行動指針」の改正を行った。また、中小事務所等施策調査会研究報告第1号「「会計参与の行動指針」に関するQ&A」の改正も行われている。 これらは、「中小企業の会計に関する指針」、「会社法」の改正に対応したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主に次の改正が行われている。 (了)
《速報解説》 「四半期レビューに関する実務指針」等が改正 ~修正国際基準へ対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 日本公認会計士協会は、次の実務指針等の改正を公表した。 ①及び②の改正は、基本的に企業会計基準委員会が公表した「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」に対応する改正である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 (了)
2016年3月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.159を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.38- 「IBM、ヤフー、BEPSと租税回避」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 本年2月18日、最高裁判所はIBM事件について、国の上告を不受理にする決定を行った。 周知のようにこの事件は、日本IBMの親会社(日本法人、中間会社)が、米国IBMから資金提供を受け、米国IBMの持つ日本IBM株を購入し、それを子会社の日本IBMが買い取り、自社株買いを活用して生じた譲渡損失を自社の利益と相殺することにより税負担の軽減を図った取引である。 この取引が、同族会社の行為計算の否認規定(法人税法132条)に規定されている、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかが争われたが、一審(東京地裁平成26年5月9日判決)も二審(東京高裁平成27年3月25日判決)も納税者勝訴となり、最高裁も不受理ということで決着がついた。 この事件と並行して争われているのがヤフー事件である。 この事件は、組織再編を行うことによって子会社の損失を取り込んだ取引が、組織再編に係る行為計算の否認規定(法人税法132条の2)に該当するかどうかという事案である。一審(東京地裁平成26年3月18日判決)も二審(東京高裁平成26年11月5日判決)も、IBM事件とは逆に、国税当局が勝訴、2月29日最高裁は納税者側の上告を棄却した。 ◆ ◆ ◆ ヤフー事件とIBM事件では事実関係が異なるので単純な比較はできないが、2つの事件を判断する法律の条文は、「法人税の負担を不当に減少させる」と、どちらも同じ文言である。 しかし両事件の判決では、「不当に」の解釈について異なる基準が提示されている。 ヤフー事件では、「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」と、「法律の趣旨・目的に反することが明らかである場合(いわゆる法の濫用)」の2つを基準とした。 これに対してIBM事件では、前者の基準だけで、いわゆる法の濫用基準は採用しなかったのである。 このように、法律上の文言が同じにもかかわらず異なった解釈がなされたことは、わが国経済界に、取引の不確実性を高め、大きな税務リスクを生じさせている。 ◆ ◆ ◆ この問題を根本的に解決するには、立法的解決しかない。 具体的には、経済取引が委縮しないように不確実性を軽減するという立場から、問題となる濫用(abuse)的な取引について、網羅的な例示を示しつつ、合理性のある取引の明確なガイダンスをつくり、それを民間人からなるアドバイザリーパネルで判断するという、英国型の解決(英国が2013年に導入した租税回避一般的否認規定、General anti-Abuse Law)がヒントを与えてくれる。 国際的に見ると租税回避の問題は、税制当局者間だけでなく、最高首脳レベルで大きな問題となっている。2012年の英国スターバックス問題に端を発し、アマゾンやグーグルなど米国IT企業の国際的租税回避の防止をターゲットとしてOECD租税委員会にBEPS(税源侵食と利益移転、Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトが立ち上がり、昨年9月に最終報告書がまとまった。 背景には、単に「税収確保」という話だけでなく、「米国多国籍企業との競争条件の均等化」という必要性があげられる。 ◆ ◆ ◆ 一方、わが国政府や学会の租税回避問題への対応は極めて遅れている。 わが国には、租税回避の定義すらコンセンサスのない状況である。 「私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少させあるいは排除すること」(金子宏教授『租税法(第20版)』)を前提として、租税法上の明文の規定がない限り租税回避の否認はできない、これがわが国の判例・通説である。 しかし、グーグルやアップルのスキーム、さらにはIBMやヤフーの租税回避事例はすべて課税要件を充足した租税回避であり、「課税要件の充足を免れ」てはいない。つまり、わが国の定義はBEPSの議論と異なるものとなっている。 このような状況の中で、わが国に、租税回避の要件を明確にした一般的租税回避否認規定の導入に向けた検討を急ぐことにより、課税の透明性・予見可能性を向上させ、経済取引の安定化を図ることが可能になる。 (了)
特定株主等によって支配された欠損等法人の 欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い ~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第1回】 「欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の取扱い」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 1 はじめに 繰越欠損金が使用できなくなる税制として、組織再編税制や連結納税制度以外に「特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用」(法法57の2)という規定があるのをご存じだろうか。 この規定は「休眠会社規制」と呼ばれており、繰越欠損金を持つ休眠会社を買ってきて、そこで新しい事業を開始して節税しようという行為を規制するために設けられている。 そう聞くと、「ウチの会社や顧問先では休眠会社を買収して節税なんてしない」ということで、「そんな規定を知る必要はない」と考える方も多いと思うが、この規定は、繰越欠損金を活用しようという意図がない場合でも形式的に規制がかかってしまうことがあり、「うっかり規制されてしまった」「いつの間にか規制されていた」といったケースが多く、落とし穴のような規定となっている。 そこで、今回、「欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の取扱い」(注1)について、その規定の概要と「繰越欠損金を活用しようという意図がない場合でも形式的に規制がかかってしまう事例」を紹介していきたいと思う。 なお、本連載では、単体納税制度を採用している場合の「欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の取扱い」について解説したい。 また、本連載の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 (注1) 筆者は、この取扱いを「休眠会社規制」と表現することが、休眠会社の買収という限定された場面でしか適用されないという思い込みに繋がっていると考えているため、本連載ではその表現を使わないことにする。 2 欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の取扱い 欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2)とは、「内国法人で他の者との間に当該他の者による50%超の支配関係(特定支配関係)を有することとなったもののうち、特定支配関係を有することとなった日(支配日)の属する事業年度(特定支配事業年度)において特定支配事業年度前の各事業年度において生じた繰越欠損金又は評価損資産を有するもの(欠損等法人)が、支配日(特定支配日)以後5年を経過した日の前日までに次に掲げる事由(特定事由)に該当することとなった場合に、その該当することとなった日(該当日)の属する事業年度(適用事業年度)以後の各事業年度において、適用事業年度前の各事業年度において生じた繰越欠損金について、繰越控除ができない」という規定である(法法57の2、法令113の2)。 そして、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2)が適用されることになる特定事由とは、次に掲げる事由となる(法法57の2①)(注2)。 なお、この特定事由の詳細については下記5(【第3回】以降)において事例を使って解説することとする。 (注2) 法人税法第57条の2第1項第6号では、特定事由として、「前各号に掲げる事由に類するものとして政令で定める事由」が定められているが、法人税法施行令では、政令で定める事由が規定されていない。 したがって、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の取扱いのポイントは次のとおりとなる。 以下、これら①~④のポイントについて解説する。 ① 欠損等法人とは この規定は、欠損等法人に適用されるが、欠損等法人とは、買収者に50%超の株式等を所有された内国法人で、買収時点で繰越欠損金又は含み損資産を所有している法人をいう。 具体的には、欠損等法人とは、内国法人で他の者(注3)との間に当該他の者による特定支配関係(注4)を有することとなったもののうち、特定支配関係を有することとなった日(支配日)の属する事業年度(特定支配事業年度)において特定支配事業年度前の各事業年度において生じた繰越欠損金又は評価損資産(注5)を有するものをいう(法法57の2①)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (注3) 他の者には、内国法人、外国法人、個人のすべてが該当する。 (注4) 特定支配関係とは、他の者が内国法人の発行済株式等(自己株式を除く)の総数の50%を超える数の株式等を直接又は間接に保有する関係(他の者と内国法人と間の当該他の者による支配関係)をいう(法法57の2①、法令113の2①。下記《例1》)。この場合、他の者(法人に限る)と内国法人との間に同一の者による支配関係がある場合における当該支配関係は、特定支配関係に該当しない(法令113の2①②)。 したがって、「P社の100%子会社であるA社」と「A社の100%子会社(P社の100%孫会社)であるB社」との間のA社とB社との間のA社による支配関係は特定支配関係に該当せずに(A社はB社の欠損等法人の判定において他の者に該当しない)、P社とB社の間のP社による支配関係が特定支配関係に該当することになる(P社はB社の欠損等法人の判定において他の者に該当する。下記≪例2≫)。 つまり、欠損等法人の支配関係の連鎖の頂点に立つ個人又は法人が欠損等法人を買収した日が、その欠損等法人に係る特定支配関係を有することとなった日に該当することになる。 また、次に掲げる事由によって生じた支配関係は、特定支配関係に該当しない(法令113の2⑤)。 ● 適格合併、適格分割、適格現物出資、適格株式交換、適格株式移転 ただし、他の者による特定支配関係がある内国法人と当該他の者による特定支配関係がある他の内国法人(関連者)について、適格合併等によって、当該内国法人と当該関連者との間に当該関連者による支配関係が生じる場合、その支配関係は、当該関連者による特定支配関係に該当する。 例えば、P社(他の者)の100%子会社であるA社とB社について、B社がP社を吸収合併(逆さ合併)することによって、B社とA社との間にB社による支配関係が生じた場合は、新たに、A社について、B社を他の者にしたB社による特定支配関係が生じることとなる。 ● 内国法人の債務処理計画(更生手続開始の決定等に関して策定された債務処理に関する計画)に基づいて行われる当該内国法人の株式の発行又は譲渡 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (注5) 評価損資産とは、内国法人が支配日において有する資産のうち、支配日における価額が支配日における帳簿価額に満たない次に掲げる資産をいう(法法57の2①、法令113の2⑥)。ただし、その満たない金額が内国法人の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円とのいずれか少ない金額(基準額)に満たないものは、評価損資産から除かれる(法令113の2⑥)。 ● 固定資産 ● 土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く) ● 有価証券(売買目的有価証券(法法61の3①一)及び償還有価証券(法令119の14)を除く) ● 金銭債権 ● 繰延資産 ● 譲渡損益調整資産に係る譲渡損失額に相当する調整勘定に係る資産(法令122の14⑬) ● 資産調整勘定(法法62の8①) ② 特定事由が生じる一定の期間とは この規定は、繰越欠損金や含み損資産を所有する会社が新しい親会社(オーナー)に買収されてから5年以内に新事業を開始する場合に適用される。 具体的には、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限は、特定支配関係を有することとなった日(特定支配日)以後5年を経過した日の前日までに特定事由に該当する場合に適用される(法法57の2①)。 また、次に掲げる事実が生じた場合は、これらの事実が生じた日までに特定事由に該当する場合に適用される(法法57の2①、法令113の2⑧⑨⑩)。 ③ 繰越欠損金の使用制限が生じる事業年度とは この規定では、特定事由に該当することとなった日(該当日)の属する事業年度(適用事業年度)以後の事業年度から繰越欠損金が使えなくなる(法法57の2①)。この場合、特定事由が第4号事由(適格合併に係る部分に限る)に該当する場合は、適格合併の日の前日を該当日とする(法法57の2①)。 ④ 使用制限の生じる繰越欠損金とは この規定では、適用事業年度前の事業年度において生じた繰越欠損金が使えない(法法57の2①)。つまり、組織再編税制では、支配関係を有することとなった日の属する事業年度前の事業年度において生じた繰越欠損金が使用できないが、この規定では、特定事由に該当することとなった日の属する事業年度前の事業年度において生じた繰越欠損金が使用できない。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第2回】 「募集株式の発行等①」 公認会計士 佐藤 信祐 【第2回】以降は、募集株式の発行等の裁判例について紹介することとする。募集株式の発行等が有利発行になるものとして争いになる裁判例としては、差止め請求についての裁判例(会社法210条)と損害賠償についての裁判例(会社法212条、423条、429条)に大きく分けられる。 【第2回】に当たる本稿では、やや古い裁判例であるが、大阪地裁昭和47年4月19日判決について解説を行うこととする。 1 大阪地裁昭和47年4月19日判決・判時691号74頁 (1) 事実の概要 本事件は、大阪中小企業投資育成会社に投資を依頼し、1株当たり650円の発行価額で株式を発行したところ、少なくても1株当たり1,280円の発行価額で発行すべきであり、本件新株発行は有利発行に該当するものとして新株発行の差止めを求める仮処分が申請された事件である。 本事件では、商法の事件でも、未だに財産評価基本通達に基づいた評価を採用していた時代の事件であるため、評価方法の選定という意味では参考にならないが、少数株主にとっての株式価値で評価をされた裁判例であり、その点についてのみ限定すると、現在でも参考にすることができる事件である。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、配当還元方式が妥当であるとしたうえで、類似会社比準方式は「取引相場のない株式を取引相場のある株式と同視する点でむりがあり」とし、収益還元方式は「利益の相当部分は内部留保にまわされる」ことから「非支配株主によって所有される株式の評価には不適当」であるとし、純資産方式は「営業活動を継続する会社にとっては持分は観念的な形態にとどまるものであるからその適用は小規模な会社か解散直前の会社に限らる(原文ママ)べきであると」して採用しなかった。 しかし、「特に類似業種の会社と比較して利益の内部留保を多くし、配当を少くしている会社に配当還元方式を適用するのは株価の他の構成要素である利益、純資産等を全く無視することとなるから妥当でないとする見解があるが、以上の検討結果からみれば本件では被申請会社が内部留保を多くしていることの方が合理的であると考えられるので本件で配当還元方式を適用することは不当ではないと解する。」としており、理論上はともかくとして、実務上はこのような理由で低い配当利回りに基づく配当還元法が採用されかねないという点は理解しておく必要があろう。 そして、期待利回りを11~13%が妥当とし、配当率を15%から18%が妥当であるとした結果、評価額を577円から818円が妥当であるとして有利発行に該当しないものとした。財産評価基本通達は実際配当還元法により評価がなされているが、本事件では配当利回りを予想することにより算定されており、やや特徴的である。 なお、配当性向を20%、22%、30%とする鑑定が行われた結果に対して、「右の新株発行によって被申請会社は増資の外に株式取得による経営支配の恐れなく株式上場基準に達するまでの再投資、再々投資が期待でき、かつ企業の社会的信用が増大し、取引先、金融機関等からの企業評価が高くなるという実益があるのであるから、本件の場合には絶対的に公正といえる価額があったとすれば、それより25ないし30パーセント下廻って(原文ママ)も『著しく不公正』とはいえないと考える」としたうえで、育成料や長期保有による危険を加味したうえで、30%の引下げを行っている。 このようにやや乱暴なロジックであるため、本来であれば、単純に配当率を15%から18%とした評価のみを採用しておけばよかったように思えるが、昭和47年という古い裁判例であることから、十分な理論の積み重ねが無かったためであると推定される。 さらに、本事件では、内部留保による配当の成長を加味するゴードン・モデル方式が採用されていない。近年では、少数株主にとっての株式価値をゴードン・モデル方式による配当還元法とする解説が多く、いずれこの連載でも触れていきたいと思う。 このように、細かな評価方法にはいろいろと問題のある判決ではあるが、少数株主となる引受人に対して少数株主にとっての株式価値で第三者割当を行った事件として参考になるものと考えられる。また、投資育成会社は事業承継対策で活用されることの多い会社であり、実務上も参考になる判決である。 本連載でも触れていくが、有利発行の事件では、引受人が支配株主になるのか、少数株主になるのかで評価方法を変えている事件が多い。その一方で、最近、公表されたアートネイチャー事件では異なる視点からの判断がなされており、有利発行に対する裁判例の傾向を見るうえでも参考になる。ただし、実務上は、このような第三者割当を行う場合には、いずれにしても、有利発行の手続きを行うことが望ましいことは言うまでもない。 次回では、大阪地裁昭和48年11月29日判決について解説を行う予定である。 (了)