《速報解説》 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例 (3,000万円控除)が創設 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 内山 隆一 平成27年12月16日、平成28年度税制改正大綱が公表された。 近年社会問題となっている空き家問題について、地域住民の生活環境を整備し、より住みやすい環境を確保する観点から、適切な管理が行われない空き家の増加を抑制するため、相続により取得した一定の家屋で旧耐震基準しか満たしていないものを、耐震改修して売却した場合や、建物を取り壊してその敷地を売却した場合の譲渡所得について3,000万円の特別控除を適用することができる制度を導入することが盛り込まれており、その内容は次のとおりである。 1 空き家に係る譲渡所得の特別控除の内容 相続開始の直前において被相続人のみが居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築されたものに限り、マンション等の区分所有家屋を除く。以下「被相続人居住用家屋」という)及びその敷地の用に供されていた土地等を相続により取得した個人が、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に、次の2のいずれかの譲渡をした場合で、次の要件を満たすときは、その譲渡に係る譲渡所得について、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用することができる。 2 特別控除の対象となる譲渡 〔追記(2015/12/24)〕 (※) 財務省ホームページより 3 特例を受けるための手続 この特例は、確定申告書に、その被相続人居住家屋及びその敷地の用に供されていた土地等が上記2(1)又は(2)の要件を満たすことを地方公共団体の長等が確認した旨を証する書類等の添付をすることを要件として適用する。 4 その他 今回の大綱では、本特例を相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税額の取得費加算)との選択適用とするほか、居住用財産の買換え等の特例との重複適用など所要の措置を講ずる旨が盛り込まれている。 【参考図】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国土交通省ホームページより (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 役員給与税制、譲渡制限付株式による給与やROE連動型報酬等、 「攻めの経営」への対応を図る ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成27年12月16日、与党(自由民主党及び公明党)より平成28年度税制改正大綱が公表された。本年度においても、経済の「好循環」を確実なものとするため、企業が収益力を高めて前向きな国内投資や賃金引き上げに一層積極的に取り組んでいくよう促す観点から、引き続き成長志向の法人税改革が盛り込まれている。 その中で、企業の「稼ぐ力」の向上に向けた「攻めの経営」を促すべく、企業経営者に適切なインセンティブを付与するため、役員給与をめぐる税務上の取扱いについても改正されることとなった。 本稿では、平成28年度税制改正大綱に含まれた役員給与税制の見直しについての解説を行う。 2 改正前の制度の概要 法人の役員給与については、以下の区分のいずれかに該当するものは損金の額に算入される(法法34①)。 3 現行制度の問題点 法人税における役員給与の取扱いは、もともと、役員給与の支給の恣意性を排除して適正な課税を実現するという観点で整備されたものである。 平成18年度の税制改正において、それまで「報酬」か「賞与」という形式的な基準で損金算入の可否を定めていた取扱いを改め、「支給額に恣意性があるかどうか」との観点から損金算入の可否を判断することとされた。 この中で、恣意性の排除された「事前確定届出給与」及び「利益連動給与」について損金算入が認められることとなったとはいえ、特に利益連動給与については、法人の利益と連動して設定されるため課税上の弊害が最も大きいと考えられ、損金算入のための厳格な要件が付されている(法令69⑥~⑩)。 このことがネックとなって、経営者のインセンティブを確保するための柔軟な報酬設計が困難な状況となっているとの指摘がなされていた。 この点、平成27年8月25日に経済産業省より公表された「平成28年度税制改正に関する要望」においても、『役員報酬税制に関する上場企業の声』として、以下のような意見が紹介されていたところである。 4 改正の概要 平成28年度税制改正大綱では、わが国企業の「稼ぐ力」向上に向けた「攻めの経営」を促すべく、企業経営者に適切なインセンティブを付与するため、役員給与における多様な株式報酬や業績連動報酬の導入促進等を図る観点から、事前確定届出給与及び利益連動給与の取扱いについて、以下の2点の改正が行われることが盛り込まれた。 (1) 事前確定届出給与に係る改正事項 役員報酬として付与された一定の譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)による給与について、事前確定の届出を不要とすることで損金算入の対象とすることとされた。 この点に関し、法人が、個人(役員及び使用人)から受ける将来の役務の提供の対価として一定の譲渡制限付株式を交付した場合には、その役務の提供に係る費用の額は、原則として、その譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度の損金の額に算入することとされた。 すなわち、役員に対して一定の譲渡制限付株式を交付した場合には、その譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度において、役員給与として損金算入できるということになる。 この改正は、平成28年4月1日以後に交付の決議がされる譲渡制限付株式について適用される。 (2) 利益連動給与に係る改正事項 利益連動給与の算定指標の範囲にROE(自己資本利益率)その他の利益に関連する一定の指標が含まれることを明確化することとされた。 (了) ↓お勧め記事↓
《速報解説》 不動産登記に係る登録免許税の軽減措置の延長等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 平成27年12月16日、与党(自由民主党と公明党)による「平成28年度税制改正大綱」が公表された。 大綱で明らかとなった登録免許税に係る主な改正事項は、次のとおりである。 1 復興支援のための税制上の措置 ▷新設 復興整備事業(被災市町村が集団移転促進事業により取得した土地を利用する事業に限る。)が実施される一定の区域内の土地に関する権利を有する者が、平成28年4月1日から平成33年3月31日までの間に復興整備事業の用に供するためにその土地に関する権利を被災市町村に対して交換により譲渡し、交換により区域外の土地の所有権を取得した場合における土地の所有権の移転登記に対する登録免許税を免税とする措置を講ずる。 ▷延長 株式会社商工組合中央金庫が受ける抵当権の設定登記等に対する登録免許税の税率の特例に係る適用期間の延長の特例の適用期限を、平成33年3月31日まで延長する。 ① 不動産等の抵当権の設定の登記又は登録(本則:1,000分の4) ② 航空機等の抵当権の設定の登記又は登録(本則:1,000分の3) ③ 工場財団等の抵当権等の設定の登記又は登録(本則:1,000分の2.5) 2 租税特別措置等 ▷延長・拡充 (1) 特定創業支援事業による支援を受けて行う株式会社の設立の登記に対する登録免許税の税率の軽減措置について、適用期限を2年延長する。 ① 適用対象に次に掲げる会社の設立の登記に加え、登録免許税の税率を下記のとおり軽減する。 ② 事業を開始した日以後5年を経過していない個人が特定創業支援事業による支援を受けた場合における会社の設立の登記を適用対象に加える。 (2) 特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成30年3月31日まで2年間延長する。 (3) 認定低炭素住宅の所有権の保存設定登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成30年3月31日まで2年間延長する。 (4) 特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を平成30年3月31日まで2年間延長する。 ▷廃止 信託会社等が地方公共団体との信託契約に基づき建築する特定施設に係る土地等の所有権の信託登記に対する登録免許税は適用期限をもって廃止されることとなった。 (了)
《速報解説》 史上初、固定資産税での設備投資減税が創設、 赤字中小企業にも節税効果 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 平成27年12月16日に公表された「平成28年度税制改正大綱」(与党大綱)により、中小企業者等が新たな機械装置の投資をした場合の固定資産税の特例措置が創設されることとなった。 ローカルアベノミクスのさらなる浸透による地域経済の活性化に向けて、地域の中小企業による設備投資の促進を図ることが目的である。 1 制度の概要 「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」(※1)の制定を前提に、中小企業者等(※2)が、この法律の施行日から平成31年3月31日までの間において、「認定生産性向上計画(仮称)」に記載された「生産性向上設備(仮称)」(2を参照)のうち一定の機械装置(新品)の取得をした場合には、その機械装置に係る固定資産税(償却資産税)について、課税標準を最初の3年間、価格の2分の1とする。 (※1) 「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」は、平成28年1月に召集される第190回通常国会に提出される予定。 (※2) 「中小企業者等」とは、次の法人又は個人をいう。 ① 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人 ② 資本若しくは出資を有しない法人の場合、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 ③ 常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人 2 対象となる機械装置 対象となる機械装置は、次の①から③までのいずれにも該当するものとなる(※3)。 (※3) 既存の設備投資減税(生産性向上設備投資促進減税)の支援要件(①160万円以上、②生産性1%向上(10年以内に販売開始)、③最新モデル)から、中小企業への配慮から、③の最新モデル要件が除外されている。 【参考図】 (※) 経済産業省ホームページより 3 期待される効果 史上初の固定資産税での設備投資減税であり、赤字法人にも課される固定資産税を軽減することで、赤字比率の高い中小企業の設備投資意欲を高める効果が期待される。 (了)
《速報解説》 固定資産税は遊休農地への課税強化、 農地中間管理事業のための賃借権等設定に係る2分の1軽減措置 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 島田 晃一 以下では平成28年度税制改正大綱(与党大綱)で示された農地に係る固定資産税の課税強化及び軽減措置について解説する。 1 農地の固定資産税評価額の計算 農地の固定資産税評価額は「農地評価」と「宅地並み評価」に区分される。 このうち農地評価となる農地は、都市計画区域外にある農地、都市計画区域内にある農地で市街化調整区域・非線引区域にある農地、及び、三大都市圏の特定市の市街化区域農地で生産緑地指定がされたものである。 農地評価は将来にわたる農地利用が前提になるため、その農地の収益力を考慮して算定される。結果として、全国平均の評価額が1㎡あたり70円ほどで宅地の約500分の1と非常に低い金額になっている。 具体的には、各市町村内において田又は畑の別に状況類似地区を区分し、その地区内の農地から標準田又は畑が選定される。状況類似地区内の農地の価額は当該地区の標準田又は畑の価額に比準して計算される。 標準田又は畑の価額は、正常売買価格といい当該地区内の農地の売買実例を参考に定められた金額に0.55の割合を乗じて評定される。これは農地ごとの収益力の差を考慮し、評価に安全性を持たせるためである。 2 平成28年度における改正事項 (1) 遊休農地に対する課税の強化 平成28年度における改正では、耕作がされていない遊休農地のうち農業委員会による農地中間管理機構の農地中間管理権(農地を担い手に貸し付けることを目的とする賃借権又は使用貸借による権利をいう)の取得に関する協議の勧告を受けたものについて、正常売買価格に乗じていた0.55の割合を乗じないこととすることとされた。 これにより、対象遊休農地の固定資産税評価額及び税額は改正前の約1.8倍になる。 この改正は平成29年度から実施される。 各市町村に設置されている農業委員会は、毎年1回農地の現況を調査し、その農地が1年以上耕作が放棄されており今後再び耕作される見込みがないと認められるような場合は、農地所有者に対し自ら再び耕作をするか、農地中間管理機構に貸し付けるか、又は、農地中間管理機構以外の者に貸し付けるかといった意思を確認する利用意向調査を行う。 仮に意向調査から6ヶ月以内に回答がなかった場合、意向調査では自ら耕作すると回答しても実際には6ヶ月を経ても耕作を開始する様子がないような場合には、農業委員会から農地所有者に農地中間管理機構が農地中間管理権を取得するよう同機構との協議を行うことが勧告される。 平成29年度以降は、この勧告の段階で固定資産税評価額引上げの対象にされることになる。最終的に勧告に従わないときは、都道府県知事の裁定により、同機構が農地中間管理権を取得できるよう措置される。 なお、農地中間管理機構とは各都道府県に設置されている組織で、農業の継続が困難であるなどの理由等で農地を貸したい者から農地を借り受け農地としての管理を行い、一方で、農地を借りたい新たな担い手に対して農地を貸し付けることを主な業務としている(必要であれば基盤整備等の条件整備も行う)。 (2) 農地中間管理事業のための賃借権等の設定 10a(1,000㎡)以上の農地を所有する者が、所有するすべて農地に農地中間管理事業のための賃借等を設定し、かつ、賃借権等の設定期間が10年以上である農地の固定資産税・都市計画税については、次表のように評価額が軽減される。 この軽減措置は大綱では「2年間に限り講ずる」とされているが、平成28年度から2年間の間に賃借権等の設定を行った場合なのか、遊休農地に対する課税強化と同様に平成29年度からなのかは現段階では明らかにされていない。今後の情報を待ちたいところである。 (了)
《速報解説》 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例、 対象法人を縮小し適用期限2年延長 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 伊村 政代 12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)において、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例について適用期限の2年延長が決まった。ただし、次の通り対象法人の見直しが行われているため留意されたい。 Ⅰ 概要 この制度は、青色申告法人である中小企業者等が30万円未満である減価償却資産を取得した場合に、その取得価額相当額をその事業年度の損金の額に算入することができる制度である。 通常の減価償却であれば、取得価額相当額を耐用年数に応じた率で按分した金額を当期の減価償却費として損金算入するが、この制度では、取得事業年度での即時償却が認められる。 この制度の適用を受けるためには、事業供用日の属する事業年度において取得価額相当額を全額損金経理し、明細書を確定申告書に添付することが必要である。 Ⅱ 改正の沿革 平成15年の税制改正において創設された制度であり、創設以来、適用期限が延長されてきたものである。現在、平成15年4月1日から平成28年3月31日までの間に対象資産を取得等し、事業の用に供した場合に適用することができることとなっている。 12月16日に公表された「平成28年度税制改正大網」(与党大綱)によれば、対象法人から従業員数1,000人超の法人を除外した上、この適用期限が平成30年3月31日まで2年延長される。 つまり、改正前においては法人税の規定により定義される中小企業者のうち、青色申告法人であるすべての中小企業者及び農業協同組合等について適用があったが、改正後はそのうち資本等を有する中小企業者であっても、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人は適用ができなくなる。 Ⅲ 適用にあたっての留意点 1 適用対象となる法人 (※1) 「中小企業者」とは、次の法人をいう。 ・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち大規模法人との間に一定の支配関係のないもの。 ・資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 ・なお、増資や減資により資本金の額が事業年度中に増減した場合には、事業供用日の現況により判定する。 〈適用対象法人のポイント〉 2 適用対象となる資産(今回改正による変更なし) (※2) 取得価額は税務上の金額であるので、購入対価に引取運賃や取付け費用などの付随費用を加算した金額である。 (※3) 30万円未満であるかどうかの判定は通常取引される単位とする。したがって、1台、1組、1そろい等で判定することとなる。ただし、適用を受けようとする資産が複数であり、これらの取得価額の合計額が年300万円を超えるときは、その合計額のうち年300万円に達するまでの取得価額の合計額とする。なお、事業年度が1年未満であるときは、300万円をその月数で按分した金額を限度とする。 (※4) 有形、無形減価償却資産のほか、所有権移転外リース取引により取得をした資産、中古の資産も適用資産に該当する。 【参考図】 (中小企業庁ホームページより) 3 適用除外となる資産(今回改正による変更なし) 取得価額が10万円未満であるものは、法人税法上の少額の減価償却資産に該当し、その規定が優先的に適用される。また、一括償却の適用を受けるものについても、この制度の適用はない。 なお、租税特別措置法上の特別償却、税額控除、圧縮記帳との重複適用はできない。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 中小企業者等以外の欠損金の繰戻し還付不適用措置、 適用期限を2年延長 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 伊村 政代 12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)において、中小企業者等のみ認められている現行の「欠損金の繰戻し還付制度」が2年延長されることとなった。 Ⅰ 制度の確認 この制度は、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(欠損事業年度)において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる制度である。 ただし、次の欠損金額については、その適用が停止されている。 Ⅱ 平成28年度改正事項 上記Ⅰにおける②の不適用措置の適用期限は、平成28年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額となっているが、「平成28年度税制改正大綱」(与党大綱)により、その期限が平成30年3月31日まで2年間延長されることとなった。 つまり、今回の改正によって、中小企業者等以外の法人にあっては、欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる事業年度が2年間先送りとなったのである。 Ⅲ 適用にあたっての留意点 1 適用対象となる法人 欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる法人は、次の各期間に終了する各事業年度によって異なる。 2 還付金額の計算 3 適用の要件 この制度の適用を受けるには、次の要件をすべて満たさなければならない。 (了)
《速報解説》 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)が創設、 法人が支出した寄附金額の6割軽減 ~平成28年度税制改正大綱~ 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 本稿では、平成28年度税制改正で創設予定の地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の制度概要について、12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)の内容を元にまとめることとする。 (1) 創設の目的 地方公共団体が行う、地方創生のための効果的な事業を進めていく際に、事業の趣旨に賛同する企業が寄附を行うことにより、官民挙げて事業を推進することができるよう「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」が創設される。 対象事業を国が認定する枠組みの整備を前提として、事業に対する企業の寄附について、現行の損金算入措置に加えて、法人事業税・法人住民税及び法人税の税額控除が導入され、寄附金額の約6割の負担が軽減される。 (2) 適用要件 青色申告法人が、改正地域再生法の施行日から平成32年3月31日までの間に、地域再生法の認定地域再生計画に記載された地方創生推進寄附活用事業に関連する寄附金を支出した場合に、下記(3)に掲げる税額控除が適用できる。 (3) 税額控除の内容 ① 「法人事業税額」からの税額控除 〇平成29年3月31日までに開始する事業年度 控除税額=支出した寄附金の額の合計額×10% (当期の法人事業税額の20%が限度) 〇平成29年4月1日以後に開始する事業年度 控除税額=支出した寄附金の額の合計額×10% (当期の法人事業税額の15%が限度) ② 「法人住民税額」からの税額控除 〇平成29年3月31日までに開始する事業年度 (ア) 道府県民税 控除税額=支出した寄附金の額の合計額×5% (当期の法人道府県民税法人税割額の20%が限度) (イ) 市町村民税 控除税額=支出した寄附金の額の合計額×15% (当期の法人市町村民税法人税割額の20%が限度) 〇平成29年4月1日以後に開始する事業年度 (ア) 道府県民税 控除税額=支出した寄附金の額の合計額×2.9% (当期の法人道府県民税法人税割額の20%が限度) (イ) 市町村民税 控除税額=支出した寄附金の額の合計額×17.1% (当期の法人市町村民税法人税割額の20%が限度) ③ 「法人税額」からの税額控除 次の(ア)(イ)のうち、いずれか少ない金額(当期の法人税額の5%が限度)。 (※3) 2以上の都道府県又は2以上の市町村において事務所等を有する法人については、法人事業税からの控除税額は課税標準額を基準として按分し、法人住民税からの控除税額は従業者数を基準として按分する。 (4) 適用効果 【参考図】 地方創生応援税制(「企業版ふるさと納税」)の創設(案) (※) 財務省ホームページより (了)
《速報解説》 法人税率、平成28年4月1日以後開始事業年度から23.4%へ引下げ ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 当初は12月10日にも公表される予定と報じられていた、与党による平成28年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)であったが、消費税の軽減税率の適用範囲と財源をめぐる与党間の調整が遅れたことから、12月16日になってその内容が公表されるに至った。 本稿では、平成28年度税制改正における2つの焦点である消費税の軽減税率の適用範囲と法人税減税のうち、法人税の税率引下げについて、概要をまとめておきたい。 なお、新聞報道等によれば、大綱は、12月24日に政府が閣議決定したうえで、年明けに招集される通常国会に改正法案を提出することが予定されている。 2 法人税改革の必要性について 大綱冒頭の「第一 平成28年度税制改正の基本的な考え方(以下「基本的な考え方」と略称する。)」では、法人税改革の必要性について、次のように説明されている。 法人実効税率については、従前34.62%であった法人実効税率は、平成27年度税制改正において、平成27年度に32.11%(▲2.51%)に引き下げられ、平成28年度には31.33%(▲3.29%)としたうえで、平成28年度以降の税制改正において、「20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続」することが明記されていた。 平成28年度税制改正ではこれを前倒しして、平成28年4月から29.97%まで引き下げることとなった。これは現行税率から▲2.14%の引下げ、平成27年度税制改正と比しても▲1.36%さらに引き下げられる結果となった。 3 法人税率について 法人税においては、現行23.9%の基本税率を、平成28年4月1日以後に開始する法人の事業年度については23.4%、平成30年4月1日以後に開始する事業年度については23.2%まで引き下げることとした。 4 法人税率引下げに伴う財源の確保 平成27年度税制改正における法人実効税率の引下げは減税が先行する形となり、「財源なき減税」と批判されたことから、大綱では財源確保について、「基本的考え方」の中で以下のように説明している。 財源確保のための施策として、前年度同様、「課税ベースの拡大」が挙げられ、具体策としては、以下の3項目が挙げられている。 なお、租税特別措置については、別に記載があり、拡充等されるものが3項目、延長されるものが2項目、廃止・縮減等の対象となったものが19項目、それぞれ挙げられている。 【参考図①】 法人実効税率引下げのイメージ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 財務省ホームページより 5 地方法人課税の偏在是正 大綱では、経済の好循環に向けた動きが地域間でばらつきがみられる状況を是正するため、地方法人課税の偏在是正措置が講じられている。 その狙いについて「基本的な考え方」では、次のように説明している。 このための措置として、次の4項目を挙げている。 【参考図②】 28改正における地法法人課税の偏在是正(案)のイメージ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 財務省ホームページより 【参考図③】 これまでの法人税率の推移 ※筆者作成 (了)
《速報解説》 消費税軽減税率の導入に伴う 対象品目・経理処理方法のポイント解説 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 金井 恵美子 Ⅰ はじめに 平成27年12月16日、自民党、公明党は、平成28年度税制改正大綱を決定し、平成29年4月1日に消費税の軽減税率を導入することとした。その対象品目は、(1)酒類及び外食を除く飲食料品、及び(2)定期購読契約による新聞である。 ただし、1兆円にまで膨らんだ財源の検討は先送りされ、めどが付いていない。「平成28年度末までに歳入及び歳出における取組みにより、与党の責任において、確実に安定的な恒久財源を確保することとする。」とされている。 Ⅱ 軽減税率 軽減税率は、標準税率10%に対し、8%(国税6.24%、地方税1.76%)とされた。 Ⅲ 軽減税率の対象品目 軽減税率の対象は、(1)酒類及び外食を除く飲食料品の譲渡、(2)定期購読契約による新聞の譲渡の2つである。 1 酒類及び外食を除く飲食料品 対象となる飲食料品の範囲は、食品表示法に規定する食品であり、酒税法に規定する酒類は除かれ、外食サービスも対象とならない。 (1) 外食サービス 「外食サービス」は、「食品衛生法上の飲食店営業、喫茶店営業その他の食事の提供を行う事業を営む事業者が、一定の飲食設備のある場所等において行う食事の提供」とされている。 具体的には、「店内飲食」や「フードコートでの飲食」、「ケータリング」、「出張料理」が外食となる。 牛丼屋・ハンバーガー店のテイクアウト、そば屋の出前、ピザの宅配、テーブルや椅子等の飲食設備がない屋台の軽食、寿司屋のお土産など、「テイクアウト」、「持ち帰り」、「宅配」は外食にあたらない。 また、コンビニの弁当や惣菜は、そのコンビニにイートイン・コーナーがあっても、持帰りが可能な状態で販売される場合は、軽減税率の適用対象となる。つまり、皿に載せるか、返却不要の容器に入れるかによって税率が変わることになる。パン屋やケーキ屋などの食品小売店においても同様である。 (2) 一体商品 飲食料品と飲食料品以外の資産が組み合わされた一体商品は、原則として飲食料品に該当しない。ただし、少額であって、主たる部分が飲食料品から構成されているものについては、その全体を飲食料品として軽減税率の対象とする。 2 定期購読契約による新聞 「新聞」「書籍」「雑誌」は、一般的な呼称であって、これらを区分する客観的な規程は存在しない。また、出版物については、有害図書を排除しなければならないという課題がある。 そこで、軽減税率の対象は、「定期購読契約が締結された新聞(一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行される新聞に限る。)の譲渡」とされた。 Ⅳ 軽減税率の適用時期 軽減税率は、平成29年4月1日以後に国内において行われる課税資産の譲渡等及び課税仕入れ、保税地域から引き取られる課税貨物について適用される。 Ⅴ インボイス方式の導入 1 適格請求書等保存方式 適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)は、平成33年4月1日に導入されることとなった。 「適格請求書等保存方式」とは、適格請求書発行事業者(国税庁の登録を受けた課税事業者)が交付する適格請求書及び帳簿の保存を仕入税額控除の要件とするものである。したがって、免税事業者や消費者からの課税仕入れは、仕入税額控除の対象とならない。 2 経過措置~軽減税率導入から4年間は区分記載請求書等保存方式~ 現行の請求書等保存方式から適格請求書等保存方式への移行については、平成29年4月(軽減税率導入時)から平成33年3月までの4年間は、区分記載請求書等保存方式によることとする経過措置が設けられる。 区分記載請求書等保存方式とは、現行の請求書等保存方式を維持した上で、請求書等の記載事項に、①軽減税率の対処品目である旨、②税率ごとに合計した対価の額を加えるものである。 ただし、これら①②は、請求書の交付を受けた事業者が事実に基づき追記することが認められる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 Ⅵ 税額計算の特例 1 売上税額の計算の特例 売上げを税率ごとに区分することが困難な事業者のために、売上税額の計算の特例が設けられる。 ただし、売上げ及び仕入れを税率ごとに管理ができるかどうかは事業者自身でなければ判断ができないことから、課税売上高の上限以外に適用要件を設けることは困難であると考えられ、納税額の多寡を睨んだ選択適用が可能になると考えられる。 (1) 適用対象者 ▷課税売上高が5,000万円以下の中小事業者 ⇒平成29年4月1日(軽減税率導入時)から4年間 ▷上記以外の事業者 ⇒平成29年4月1日(軽減税率導入時)から1年間 (2) 計算の特例 次の割合により、軽減税率による売上高と標準税率による売上高とを区分することができる。 ① 卸売業・小売業(簡易課税制度の適用がない場合) ② 卸売業・小売業以外、簡易課税制度を適用する場合 ③ 主として軽減対象課税資産の譲渡等を行う事業者で①②の計算が困難である場合 2 仕入税額の計算の特例 仕入れを税率ごとに区分することが困難な事業者のために、仕入税額の計算の特例が設けられる。 売上税額の計算の特例と同様に、納税額の有利不利による選択が可能となるものと考えられる。 (1) 適用対象者 ▷課税売上高が5,000万円以下の中小事業者 ⇒平成29年4月1日(軽減税率の導入時)から1年間 ▷上記以外の事業者 ⇒平成29年4月1日(軽減税率の導入時)から1年間 (2) 計算の特例 ① 卸売業・小売業(簡易課税制度の適用がなく、上記①の売上税額の計算の特例の適用がない場合)は、次の割合により、軽減税率による仕入高と標準税率による仕入高とを区分することができる。 ② 簡易課税制度の事後選択 基準期間における課税売上高が5,000万円以下である課税事業者が、課税仕入れ等を税率ごとに区分することにつき困難な事情がある場合であって、平成29年4月1日から平成30年3月31日までの日の属する課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度を適用することができる。 また、基準期間における課税売上高が5,000万円超である事業者が、平成29年4月1日から平成30年3月31日の属する課税期間の末日までの間に、課税仕入れ等を税率ごとに区分することにつき困難な事情がある場合であって、その課税期間の末日までに簡易課税に準じた計算を行う旨の届出書を提出したときは、簡易課税に準じた方法により控除対象仕入税額を計算することができる。 3 適格請求書等保存方式の導入後6年間の経過措置 適格請求書等保存方式の導入後6年間は、免税事業者からの課税仕入れについて、次の割合で仕入税額控除が認められる。 免税事業者は、この間に、適格請求書の発行を行わないことが事業にどれほどの影響があるかを勘案して、適格請求書発行事業者となるために課税事業者を選択するかどうかを検討することとなろう。 Ⅶ おわりに 軽減税率導入のための財源は、1兆円を超える。総合合算制度を見送って捻出した4,000億円を充てても、現時点で6,000億円程度足りていない。 しかし、自民党、公明党両幹事長と国会対策委員長は、大綱決定の朝に会談し、両党で合意した軽減税率の関連法案について、1月下旬の提出を目指し、今年度中に成立させる方針を確認している。来年夏の参議院選挙は軽減税率のアメで戦い、ムチとなる増税は選挙後に提示するということだ。 民主党の岡田代表は、3,000億円余の低年金受給者等への給付金とあわせ、「節度なきバラマキ政治」と批判している。国会審議が激しく混乱することが予想されよう。 (了)