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建築物の『耐震改修工事』に伴う税務上の留意点~耐震改修促進税制を中心に~ 【第2回】「耐震改修促進税制の適用とその他の留意点」

建築物の『耐震改修工事』に伴う税務上の留意点 ~耐震改修促進税制を中心に~ 【第2回】 「耐震改修促進税制の適用とその他の留意点」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎     1 耐震改修促進税制の概要 青色申告法人が有する耐震改修対象建築物につき平成27年3月31日までに所定の報告を行ったものが、平成26年4月1日からその報告を行った日以後5年を経過する日までの間に、建設後事業の用に供されたことのない耐震基準適合建物等を取得し、または耐震基準適合建物等を建設して、これをその法人の事業の用に供した場合には、事業供用した日の属する事業年度において、その耐震基準適合建物等の取得価額の25%相当額の特別償却を行うことができる(措法43の2①)。   2 耐震改修促進税制の適用要件 本税制の適用要件は以下のとおりである。   前回述べたとおり、「耐震改修対象建築物」(要安全確認計画記載建築物または要緊急安全確認大規模建築物)の所有者は、耐震改修促進法に従い、所定の時期までに耐震診断を実施したうえで、その結果を報告しなければならない(耐震改修促進法7、同法附則3①)。 耐震改修促進法によれば、『要安全確認計画記載建築物』については、地方公共団体が定める日(都道府県耐震改修促進計画または市町村耐震改修促進計画に記載された期限)までに、また、『要緊急安全確認大規模建築物』については平成27年12月31日までに、耐震診断結果を報告することとされている。 しかし、本税制を適用するためには、いずれの建築物についても平成27年3月31日までに報告することが必要とされており、耐震改修促進法に定める期限よりも早期に期限が到来する点に留意が必要である。 このように、本税制適用のための報告期限は意外にも切迫している。期限までに耐震診断を実施しただけでは足りず、結果の報告を行うことが要件となっているため、耐震診断が義務づけられている対象者においては早急に対応する必要があろう。   耐震診断の結果、耐震改修が必要と判断された場合には、その後耐震改修工事が行われることとなるが、耐震改修対象建築物について施行される耐震改修工事に伴って取得し、もしくは建築される部分を「耐震基準適合建物等」という(措法43の2①)。 そして、平成26年4月1日から耐震診断結果の報告日(上記(要件2)参照)以後5年を経過する日までの間に、それまで事業の用に供されたことのない耐震基準適合建物等を取得または建設して当該法人の事業の用に供した場合には、本税制の適用対象となる。 ただし、本税制の適用を受けるためには、以下の者によって、その耐震改修工事が各種の「耐震関係規定」(地震に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定(耐震改修促進法5③一))またはこれに準ずるものとして「国土交通大臣が定める基準」(同法17③一)に適合することとなる旨の書類により証明されていることが必要である(措規20の11①)。 この証明書に記載される証明年月日も、計算明細書(特別償却の付表(9) [14欄])に記載する必要がある(下記(要件4)参照)。   本税制の適用を受けるためには、確定申告書等に耐震基準適合建物等の償却限度額の計算に関する明細書を添付する必要がある(措法43の2③、43②)。 具体的には、特別償却の付表(9)「耐震基準適合建物等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」を添付することとなる。 特別償却の付表(9) 耐震基準適合建物等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表   5 その他税務上の留意事項 以上の要件を満たさず、耐震改修促進税制の適用を受けられない場合であっても、耐震改修関連の支出を予定している場合には、税務上、以下のような点につき留意が必要と考える。 ※なお本稿では、住宅に係る耐震改修特別控除(措法41の19の2)については取り上げない。 (1) 資本的支出と修繕費 法人が有する固定資産について支出する金額のうち、資産の使用可能期間を延長させるものや資産価値の向上をもたらすものについては、「資本的支出」となるため、支出日の属する事業年度において損金算入されず、新たな固定資産の取得と同じように取り扱われる(法令132)。 この点、耐震改修工事は資産の使用可能期間の延長をもたらすことから、一般的には「資本的支出」として取り扱われると考えられる。 ただし、震災等で被災した資産について、二次災害を回避する等の目的で行われる耐震補強工事については、同規模の地震や余震の発生を想定し被災建物の崩壊等の被害を防止するなど、被災前の効用を維持するためのものが多いと考えられる。 このため、法人が、被災資産(その被害に基づき評価損を計上したものを除く)の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出した費用について、これを修繕費として経理したときは、その処理が認められる(法基通7-8-6(2))。(※) これに対し「耐震診断」については、その結果として耐震改修が必要かどうかを判断するための支出であるから、耐震診断費用が直接的に資産の使用可能期間の延長をもたらすものとは考えにくい。 そのため、耐震診断費用については支出日の属する事業年度において損金算入することができると考えられる。 (2) 消費税の取扱い 消費税率が予定通り平成27年10月1日に10%へ引き上げられることとなった場合、耐震改修工事は「請負工事」に該当すると考えられるため、経過措置により、平成27年3月31日(平成27年指定日の前日)までに締結した請負契約に基づき、平成27年10月1日以後に課税資産の譲渡等(耐震改修工事の完成引渡し)が行われる場合には、引き続き旧税率(8%)が適用されるものと考えられる。 (連載了)

#No. 82(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2014/08/21

生産性向上設備投資促進税制の実務 【第8回】「『平成26年3月31日までに終了する事業年度』に生産性向上設備等を取得した場合の申告書の記載方法の確認」

生産性向上設備投資促進税制の実務 【第8回】 「『平成26年3月31日までに終了する事業年度』に 生産性向上設備等を取得した場合の申告書の記載方法の確認」   税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行   前々回は別表6(21)〈生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉について具体例を基に、申告書の記載方法を解説した。さらに前回は、生産性向上設備投資促進税制の特別償却を選択した場合に作成する特別償却の付表(7)〈特定生産性向上設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表〉について、こちらも具体例を基に、申告書の記載方法を解説した。 今回は、『平成26年3月31日までに終了する事業年度』において、生産性向上設備等を取得した場合の申告書の記載方法について、具体例を基に確認していく。   1 平成26年3月31日までに終了する事業年度において対象設備を取得等した場合の特例適用 産業競争力強化法の施行の日(平成26年1月20日)以降、平成26年3月31日までに終了する事業年度において対象設備を取得等し事業の用に供した場合は、その年度では税制措置が受けられず、翌事業年度に税制措置を受けることとなる。   2 申告書の記載方法 【記載例】 別表6(21):生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 平成26年1月20日以降、平成26年3月31日までに取得した設備等を記載する(各欄の記載方法等、詳細な解説は第6回を参照していただきたい)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【記載例】 特別償却の付表(7):特定生産性向上設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表 付表(7)の各欄の書き方については、第7回において詳細な解説をしているため、今回は変更点のみ記載する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 82(掲載号)
#石田 寿行
2014/08/21

貸倒損失における税務上の取扱い 【第24回】「判例分析⑩」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第24回】 「判例分析⑩」   公認会計士 佐藤 信祐   第20回においては法人税基本通達9-6-1(3)についての検討、第21回から第23回までにおいては法人税基本通達9-6-1(4)についての検討を行った。 第24回にあたる本稿においては、法人税基本通達9-4-1についての検討を行う。第23回で解説したように、本通達の適用が認められるか否かは解除条件付債権放棄の効力が生じたか否かという点が論点となる。 ④ 法人税基本通達9-4-1の検討 第23回で解説したように、本事件においては、被告側の主張としては、法人税基本通達9-4-1の適用を否定しておらず、その帰属年度のみについて争っている。すなわち、寄附金には該当しないという判断を行っていることが分かる。 これは、原告側も主張しているように、 であることから、「より大きな損失を避けるためにやむを得ず」行ったものであるということは否定し難いからであると考えられる。 そのため、納税者側が敗訴となった控訴審判決においても、 としており、債権放棄に付された解除条件の不成就が確定した翌事業年度において損金算入することについては否定していないことが分かる。 すなわち、法人税基本通達9-4-1を適用することができるか否かという点は、債権放棄の効力がどの時点で生じていたかという点のみが論点となってくる。しかしながら、控訴審判決においても、停止条件付債権放棄と異なり、解除条件付債権放棄の私法上の効力は当該意思決定の時の生ずることは認めている一方で、 としており、税法上の「確定」という概念を保守的に捉えていたことが分かる。これに対し、更正処分及び裁決においては、おそらくは私法上の法律構成による否認論に近い考え方により、実際には停止条件付債権放棄であると認定したようであるが、他の事案であればともかくとして、本事件においては、納税者を敗訴させた控訴審ですら採用しなかった考え方であることから、私法上の法律構成による否認論の適用は難しかったのではないかと推測される。 そうなってくると、解除条件付債権放棄についての私法上の効力を認める一方で、税務上のみ債権放棄の効力を翌事業年度に生じたとする控訴審の理論がよく分からないところである。この点につき、第1審判決に対する評釈として、秋山忠人氏は とし、木村弘之亮教授は としており、法人税法上の損失の判断については、私法上の効力発生の判断とは異なるという解説をされている。 たしかに、解除条件が成就する可能性が高いのであれば、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準においても、貸倒損失の計上については過度の保守主義として認めないという判断もあり得るため、法人税法上も、貸倒損失の計上を認めないという理屈も分からなくはないが、そうであるならば、実質的には停止条件付債権放棄であるという認定がなされなければならず、それを行わなかった控訴審判決についてはその論理に誤謬があると言わざるを得ない。 これに対し、前述のように、私法上の法律構成による否認論を適用し、停止条件付債権放棄であると認定することができるか否かという点であるが、大渕博義教授によると、 としたうえで、 としており、まさに正論である。 結局のところ、本事件においては、解除条件が成就する可能性は社会通念上ほとんど存在しなかったにもかかわらず、バーチャルな不確実性を持ち出して、債権放棄が確定していないという論理を持ち出したところに無理があったのではないかと考えられる。 なお、品川芳宣教授は、 としており、利益操作が容易になるという点を指摘されているが、そもそも、含み損を実現させることにより課税所得を圧縮させるような節税は一般的に行われており、不良債権の含み損を実現させるという行為について利益操作ということで懸念を示すのは過剰な反応であると思われる。 なお、現在の実務においては、サービサーに対して不良債権を譲渡することにより、債権譲渡損として損失を早期に計上することが可能となっており、おそらく本事件のようなことが現在において生じれば、解除条件付債権放棄ではなく、サービサーに対する債権譲渡を検討したであろうことが推定されることから、解除条件が成就する可能性が高い状況であればともかくとして、一般的には、あまり懸念を示す点でもないと考えられる。 このように、本事件においては、法人税基本通達9-4-1を適用することについては特段の問題もなく、解除条件付債権放棄であっても、原則として、債権放棄の効力は生じていたとみるべきであると考えられる。しかしながら、最高裁判決においてはこの点については触れられておらず、法人税基本通達9-6-2のみで判断が示されている。 次回以降においては、本事件に対する法人税基本通達9-6-2の適用について解説を行う予定である。 (了)

#No. 82(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/08/21

〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第28回】 「延納を行う際に気をつけたいこと」

〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第28回】 「延納を行う際に気をつけたいこと」   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   前回述べたとおり、相続税の納税につき『金銭で納付することを困難とする理由がある場合』には、その困難とする金額を限度として、相続税を延納することが可能である(相続税法38条)。 今回は実際に延納を行う際の注意点を取り上げる。延納が認められる場合には一定の要件があるが、それは後述するとして、まずは延納が認められた場合の延納方法について説明する。   1 延納の方法 延納が認められた場合、相続税額のうち金銭で納付することを困難とする金額を限度として、延納期間にわたって、分割して相続税を納税することができる。 ただし、この場合、相続税に加えて「利子税」を納付し、かつ、「担保」を提供する必要がある。「延納期間」及び「利子税割合」は下表の通りである。  (国税庁「相続税・贈与税の延納の手引(平成18年4月1日以後 相続開始分・平成19年1月1日以後 贈与分)(平成26年1月)」p1) (1) 延納期間 延納税額が150万円未満(上表②③⑥に該当する場合は200万円未満)の場合、不動産等の価額の割合が50%以上(上表②③に該当する場合は75%以上)であっても、延納期間は延納税額を10万円で除した数(1未満の端数は切上げ)に相当する年数が限度となる。 (2) 延納利子税割合 平成26年1月1日以降の期間に適用される延納利子税割合については、各年の延納特例基準割合が7.3%に満たない場合には、以下の算式により計算される割合(特例割合)が適用される。 なお、「延納特例基準割合」とは、その分納期間の開始の日の属する年の前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいう(0.1%未満の端数は切捨て)。 なお、上記「財務大臣が告示する割合」について、平成25年12月12日付財務省告示第396号で示された割合は0.9%であり、このため平成26年1月1日から12月31日は、「1.9%」が延納特例基準割合となる。 延納を選択する場合は、相続財産に不動産の占める割合が高いケースが多いと推測されるが、その場合には上表②に該当するケースが多いと思われる。 そのような場合、延納期間は最長20年、延納利子税割合は、(延納特例基準割合が1.9%であるケースで考えると、3.6%×(1.9%÷7.3%)=)0.9%となる。   2 延納要件 相続税を延納する場合、以下の要件を満たしている必要がある(相続税法38条)。 (1) 金銭で納付することが困難な金額の算定 金銭で納付することが困難な金額(延納許可限度額)は、下記の計算式で計算される。  (国税庁「相続税・贈与税の延納の手引(平成18年4月1日以後 相続開始分・平成19年1月1日以後 贈与分)(平成26年1月)」p8) 【参考】 「金銭納付を困難とする理由書」より一部抜粋 (裏面) (2) 「延納申請書」及び「担保提供関係書類」の期限内提出 提出期限は、相続税の申告期限(納期限)と同じである。なお、提出期限までに担保提供関係書類の提出ができない場合には、その提出期限までに「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出することにより、担保提供関係書類の提出期限を延長することができる(延長可能な期限は3ヶ月)。 したがって、相続税の納税を現金一括で行うことができず、延納を選択する可能性がある場合には、「金銭で納付することが困難な金額」の算定、提出書類の準備などがあるため、延納を選択しない場合よりもスケジュールを前倒しにして作業を進める必要がある。 なお、相続税の延納については、国税庁から「相続税・贈与税の延納の手引(平成18年4月1日以後 相続開始分・平成19年1月1日以後 贈与分)(平成26年1月)」が公表されており、相続税延納を選択する場合には非常に参考となる。 次回は本連載の最終回として、相続税の税務調査を取り上げたい。 (了)

#No. 82(掲載号)
#根岸 二良
2014/08/21

日本の会計について思う 【第8回】「“2つの”中小企業会計基準が抱えるジレンマ」

日本の会計について思う 【第8回】 「“2つの”中小企業会計基準が抱えるジレンマ」   関西学院大学教授 平松 一夫   中小企業向けの会計基準が必要とされた背景 バブル経済の崩壊により、中小企業の資金調達形態は、不動産等を担保として金融機関から融資を受ける形態から収益性を基礎とする形態へと変化してきた。中小企業の収益性を評価するには財務諸表が不可欠であるが、そのためには大企業向けとは異なる中小企業向けの適切な会計基準が必要とされる。 こうした要請を受けて策定されたのが「中小会計指針」であり、また「中小会計要領」である。 そして現在、わが国には2つの中小企業会計基準が併存する。 これは特異な状況である。   改正を繰り返す「中小会計指針」 2005年8月、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会により「中小企業の会計に関する指針」(中小会計指針)が公表された。 中小会計指針は、基本的に企業会計基準を簡素化したものであり、企業会計基準の動向に合わせて毎年のように改正されている。 その経緯を簡単にみてみよう。 最初の改正は公表の翌年2006年4月に行われた。具体的には、各種の企業会計基準や会社法等を踏まえ、貸借対照表の純資産の部の表示、株主資本等変動計算書、注記表及び組織再編の会計、引用条文の訂正等が行われた。 2007年4月には「金融商品に関する会計基準」や「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」により、2008年5月には「棚卸資産の評価に関する会計基準」及び「リース取引に関する会計基準」により、2009年4月には「工事契約に関する会計基準」により、2010年4月には「資産除去債務に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」、「企業結合に関する会計基準」により、それぞれ会計処理の見直し等が行われた。 2011年7月には企業会計基準、会社計算規則、税法等の関連諸規定の改正に伴う所要の検討が行われ、2013年2月には平易な表現に改める等の見直しが行われた。そして本年2014年2月には「退職給付に関する会計基準」に対応した用語の見直し等が行われた。 このように、IFRSとのコンバーシェンスが進められている企業会計基準に応じて改正されるということは、中小会計指針も結果的にIFRSに近づいていくことを意味しており、これを遵守することは中小企業にとって容易なことではない。 そのため、中小会計指針は期待されたほどには普及していない。   取得原価主義による「中小会計要領」 そのような背景のもと、2012年2月、「中小企業の会計に関する検討会」が「中小企業の会計に関する基本要領」(中小会計要領)を公表した。 「中小企業の会計に関する研究会中間報告書」(中小企業庁、2010年9月)によれば、多くの中小企業が次の属性を有している。 中小会計要領は中小企業のこのような実態に即して作成されたものである。 先に挙げた「中小会計指針」と「中小会計要領」の会計処理には、例えば次のような違いがある。 また、中小会計要領は毎年改正されることがなく安定的で、取得原価主義により、税法との親和性も備えている。そのため、中小企業によって広く活用されることが期待されている。   両基準とも「当初の目的」を果たすことができない実情 日本における中小企業向け会計基準の主な策定目的は、不動産担保による融資から脱却することであった。しかし、中小会計要領は取得原価主義を重視しているため、金融機関による融資判断に必要な時価情報をほとんど含まない。 そのため、金融機関は企業の収益性を判定するのとは別に、やはり時価評価に関する情報を入手する必要に迫られることになる。 中小会計指針によってある程度達成されると思われた融資判断情報の提供という機能は、中小会計要領では達成されない。しかし、中小企業としては「指針」ではなく「要領」を選好する。 ここに、わが国における中小企業向け会計基準のジレンマがあるといえよう。 (了)

#No. 82(掲載号)
#平松 一夫
2014/08/21

基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第5回】「7つの「指導原則」とは?(その2)」

基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第5回】 「7つの「指導原則」とは?(その2)」   公認会計士 若松 弘之   前回は、以下7つの「指導原則」のうち、「(A)戦略的焦点と将来志向」「(B)情報の結合性」「(C)ステークホルダーとの関係性」について解説しました。 特に、「情報の結合性」が統合報告において非常に重要な視点であることも合わせて確認しておいてください。 今回は「(D)重要性」以降の「指導原則」を解説していきます。 前回は「情報の結合性」をしっかり理解することの重要性を述べましたが、今回特に大事なポイントは「重要性」の原則といえるでしょう。   (D) 重要性 「重要性」の定義は、「情報の結合性」と同様にシンプルなものですが、フレームワークの「指導原則」の中では最も紙面を割いて説明しています。 なぜ、フレームワークでは「重要性」を大事なポイントして扱っているのでしょうか。 統合報告の主たる目的は、企業の長期にわたる価値創造のプロセスや見通しをステークホルダーに簡潔明瞭に伝えることであったと思います。ところが、価値創造につながる事象は、企業活動の様々な領域において、直接的または間接的に広範囲に存在しており、どれをどの程度伝えれば良いかを判断するのが非常にやっかいです。ステークホルダーにとって少しでも有用な情報をすべて網羅しようとすれば、膨大な報告書になってしまい、簡潔で高い利便性を目指す統合報告書の趣旨を阻害することになってしまいます。 そこでフレームワークでは、報告書に記載すべき事象か否かを判断するための「ものさし」を「重要性」という視点で提供しています。もしも、この「ものさし」が企業によって恣意的にねじ曲げられてしまっては、統合報告書の内容そのものの利用価値が下がってしまうことになります。そのため、フレームワークでは「重要性」の決定プロセスを丁寧に定めています。 (1) 「重要性」の決定プロセス いかがでしょうか。なんとなく分かったようでも、実務などで作業をしないとイメージがわかないというのが正直なところだと思います。 このあたりのプロセスは、今後、統合報告書が数多く作成されていく中で実務指針が定着していくことを期待しましょう。 (2)  「報告境界」とは? 「重要性」を理解するうえで、もう一つフレームワークが強調している概念が、統合報告書の取扱い範囲を定める「報告境界」です。 まずはフレームワークで示されているイメージ図を見てみましょう。 【報告境界を決定する際に検討される事業体とステークホルダー】 (出所:IIRC国際統報告フレームワーク日本語訳) 内側の点線で囲まれた領域は、「財務報告事業体」が有価証券報告書などを通じて開示している従来の財務報告イメージです。 一方、統合報告書の特質としてぜひ理解しておかなければならないのは、外側の点線で囲まれた領域です。この領域には、財務報告企業の価値創造能力に重要な影響を与える、従業員・顧客・サプライヤーなどその他のステークホルダーが存在します。統合報告書では、これらのステークホルダーとの関係によって発生する「リスク」や「機会」、「アウトカム(6つの資本への影響)」を特定する必要があります。これは従来の財務報告では求められていない、統合報告ならではの部分になります。   (E) 簡潔性 統合報告書では、専門用語や高度な技術用語ではなく、できるだけ平易な言葉を使い、短い文章で明瞭に説明することを求めています。また、後述の「完全性」や「比較可能性」など、他の指導原則とのバランスを取ることにも留意する必要があります。   (F) 信頼性と完全性 企業にとってプラスの情報だけではなく、マイナスの情報についてもバランスを取りながら説明し、そこには重要な誤りを含んでいないことが情報の信頼性を高めることになります。 また、コストとベネフィットを考慮しながらも、重要な情報がもれなく開示されることで情報の完全性を達成することができます。   (G) 首尾一貫性と比較可能性 「首尾一貫性」として、統合報告の方針を毎期継続的に適用することを求めています。例えば、複数期間にわたり重要な指標となるKPIを毎期コロコロ変えてしまっては報告書の利用者が混乱してしまいます。もちろん、環境の変化や報告の質を高めるための方針変更は、その変更の影響をきちんと開示することを条件に認められます。 また、統合報告書は各企業が独自に実行する価値創造の過程を、それぞれの視点で開示するため、当然、多様性を伴います。ただし、すべての企業が従うべき最低限のコンテンツである「内容要素」をしっかり記載することで、企業間における一定水準の「比較可能性」を守ろうとしています。 *   *   * 前回から今回にかけて、7つの「指導原則」を解説してきました。少々とっつきにくい部分もあったと思いますが、これから実務が定着していくプロセスでは、具体的な検討・開示事例などが提供され、理解しやすくなっていくと思われます。現時点では、7つの「指導原則」に関するおおよそのイメージをつかんでおけばいいでしょう。 次回は、いよいよ統合報告書の3つの重要概念の最後であり、報告書に必ず盛り込むべきコンテンツである「内容要素」について解説します。 (了)

#No. 82(掲載号)
#若松 弘之
2014/08/21

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第53回】人件費に関する会計処理②「役員退職慰労引当金」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第53回】 人件費に関する会計処理② 「役員退職慰労引当金」   仰星監査法人 公認会計士 薄鍋 大輔   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X1年3月期 決算時 (*1) 当期の負担に属する額 (*2) 前期までの負担に属する額 (*3) 期末における要支給額 ② 退任時 (*4) 貸借差額 支給額850-引当額800=50 ③ 役員退職慰労金制度廃止時(廃止に伴い支給額について株主総会の承認決議を行った場合) (*5) 制度廃止時点の引当金残高 〈会計処理の解説〉 1 役員退職慰労引当金の計上 役員退職慰労引当金は、会社の役員(取締役・監査役・執行役等)の将来における退職慰労金の支払いに備えて計上されるものであり、当該支給見積額のうち各事業年度の負担相当額は原則として、営業費用に計上されます。 役員退職慰労金の経済的性質に関しては様々な見解がありますが、いずれも退職する役員の在任期間中の役務の提供に関わる性質を持つ点では共通しています。また、その支給は株主総会による承認決議を前提とするため、株主総会の承認決議前の段階では、法律上は債務ではありませんが、会計上は企業会計原則注解18に示される、いわゆる負債性引当金の性格を有するものです。 役員退職慰労金については、注解18の要件を踏まえ、以下の具体的な点を満たす場合には、各事業年度の負担相当額を各期の費用として役員退職慰労引当金に繰り入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部に計上しなければなりません。 役員退職慰労金の支給に関する内規に基づき(在任期間・担当職務等を勘案して)支給見込額が合理的に算出されること 当該内規に基づく支給実績があり、このような状況が将来にわたって存続すること(設立間もない会社等のように支給実績がない場合においては、内規に基づいた支給額を支払うことが合理的に予測される場合を含む) なお、本事例では、当期に新たに内規を設け、これに基づき当期末時点の要支給額を算定した結果、当該要支給額には、前期までの負担に属する金額が含まれています。前期までの負担に属する金額については、損益計算書上、特別損失として表示します。   2 役員退職慰労引当金の取崩し 役員が退任し、株主総会決議を得て、退職慰労金を実際に支給した時には、当該役員に係る役員退職慰労引当金を全額取り崩し、当該取崩額と実際支給額の差額は、当期の損益として処理します(引当金の見積りが合理的である場合に限る)。 3 役員退職慰労金制度廃止の場合の会計処理 既存の役員退職慰労引当金設定会社が役員退職慰労金制度を廃止する場合の会計処理は、役員に対する廃止時点までの内規に基づく支給額についての株主総会の承認決議をどの時点で行うかによって異なります。 以下の2つの場合が考えられます。 ①の場合で、当該役員の退任時まで承認済の慰労金の支給を留保するケースにおいては、当該支払留保金額は、退任時点に支払うという条件付きの(金額確定)債務であると考えられるため、株主総会での承認決議後、実際に支払われるまでの間は、原則として長期未払金として表示されるものと考えられます(ただし、1年以内に支給されることが確実である場合には、未払金として表示されます)。 ②においては、株主総会決議を得ていないことから法律上は債務となっていないため、引き続き役員退職慰労引当金として表示されます。 (了) ※8月は「連結会計」を取り上げます。

#No. 82(掲載号)
#薄鍋 大輔
2014/08/21

国際出向社員の人事労務上の留意点(海外から日本編) 【第2回】「エクスパットの社会保険適用」

国際出向社員の人事労務上の留意点 (海外から日本編) 【第2回】 「エクスパットの社会保険適用」   社会保険労務士 平澤 貞三     (1) 健康保険・厚生年金保険の取扱い 健保・厚生年金の適用事業所に「使用される」人は、その人の意思・地位・性別・年齢・収入・国籍を問わず、一部の例外(臨時に使用される人など)を除き、すべて健康保険・厚生年金保険の被保険者となる。 「使用される」とは、事実上の使用関係を意味するものであり、労務の提供の有無及びその報酬の支払関係、人事労務管理の有無などによって実態的に判断されるものである。 一般的に、保険者側の見方は、日本の子会社や支店が直接本人に金銭給与を支払っているかどうかを重要視しており、実際にはそれのみで判断していると言っても過言ではない。 最終的な加入の判断は保険者が行うものであり、ルールや基準による一定の答えは出てこないが、一般的には、金銭払いがなく現物給与のみ支給を受けているようなエクスパットの場合は、保険加入を要しないと判断されるケースが多いようである。 もちろん、社会保障協定の相手国から赴任しているエクスパットについては、厚生年金保険または健康保険、あるいはその両方の加入が免除される可能性があるため、事前に免除対象となる保険の種類を確認し、派遣元国の会社または本人を通じて相手国の保険者が発行する加入証明書を入手しておく必要がある。   (2) 雇用保険の取扱い 東京労働局職業安定部が発行する事務手引書による説明は次のとおりである。 実際に、ハローワークの窓口において外国の失業補償制度の適用を受けていることの立証は求められないため、外国の失業補償制度に加入していることを日本の受入企業側が認識できていれば、その事実をもって被保険者資格取得届を提出しない、というのが現実の事務処理である。もちろん、外国の失業補償制度に加入していないエクスパットであれば、被保険者資格取得届を提出することで日本での雇用保険加入は認められる。 各国との社会保障協定によれば、ベルギー、オランダ、チェコ、ハンガリーについては、その協定により、相手国の雇用保険制度に加入していれば他方の国では雇用保険加入が免除される仕組みになっているが、ハローワーク側では社会保障協定をあまり意識しておらず、二重加入にならないような自主的判断をされているようである。   (3) 労災保険の取扱い エクスパットの日本での活動内容は様々であり、その業務が日本の事業主の指揮命令下におけるものもあれば、出向元である海外の事業所からの命令であることもある。 業務災害が起きた場合は、その業務命令が誰のものかによってケースごとに労災保険の対象か非対象か判断されるものである。 毎年の労働保険料の対象賃金に加えるべきかどうか議論されるところであるが、エクスパットは民間の海外傷害保険などに加入していることが多く、実務上は対象賃金に加えていないケースが多い。 仮にエクスパットの賃金を保険料算定対象に含めていない場合でも、実際に日本側の指揮命令による業務中に労災事故が起きた場合は、その事故に対する給付を受けられるものであり、この場合、未納であったエクスパットの賃金に対する保険料は遡及して支払うことになる。 (了)

#No. 82(掲載号)
#平澤 貞三
2014/08/21

改正会社法―改正の重要ポイントと企業実務における留意点 【第3回】「監査等委員会設置会社の導入」

改正会社法 ―改正の重要ポイントと企業実務における留意点 【第3回】 「監査等委員会設置会社の導入」   西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子   改正会社法のポイントについて解説する本シリーズの第3回では、新しいガバナンス制度である監査等委員会設置会社について解説する。   1 監査等委員会設置会社とは 改正会社法により導入された監査等委員会設置会社とは、①株主総会、②取締役会、③監査等委員会(+会計監査人)の3つにより構成するガバナンス制度である。 監査等委員会は、取締役により構成され、監査役及び監査役会は設置されない。取締役会の監督機能強化による企業統治の充実を図るものであり、この点で現行法下の委員会設置会社と基調を同じくする。なお、改正会社法により、委員会設置会社は「指名委員会等設置会社」と名称が変更されることとなっている。改正会社法下の3つのガバナンス制度の比較におけるポイントは以下のとおりである。 〈改正会社法下の3つのガバナンス制度の比較〉   2 監査等委員会の任務 (1) 取締役等の職務執行の監査 監査等委員会の本質的な任務は、取締役の職務執行の監査である。当該監査は、適法性監査のみならず、妥当性監査も含む。当該監査については、指名委員会等設置会社と同様に、監査等委員自身ではなく、内部統制システム(取締役会により構築される、会社及びその企業集団の業務の適正を確保するための体制。改正会社法399条の13第1項1号ハ)を活用して行うことが想定されている。つまり、内部統制システムが適切に構成・運営されているかを監視し、必要に応じて同部門に対し具体的指示を行うことが、監査等委員会の任務とされている。 このように、監査等委員会においては、監査等委員自身による監査は想定されていないことから、「常勤」監査等委員の選任義務は課されていない。もっとも、法務省令において、常勤の監査等委員を選定していない場合にはその理由、また常勤監査等委員を選定した場合にはその理由及び当該常勤者に関する事項を事業報告に記載すべき旨を規定することが検討されている。 (2) 経営評価権限 監査等委員会は、監査委員以外の取締役の①選任・解任・辞任及び②報酬等について、監査等委員会において意見を決定する義務を負い(改正会社法399条の2第3項3号)、また、株主総会において意見を陳述することができる(選任について同法342条の2第1項、報酬等について同法361条6項)。 指名委員会等設置会社においては、上記①は指名委員会が(現行会社法404条1項)、②は報酬委員会が(同法404条3項)、それぞれ「決定権」を有するが、監査等委員会は、これらに及ばないまでも、かかる責務及び権限を通じて、社外取締役が過半数を占める委員会による経営評価を会社の運営に反映することを企図している。   3 監査等委員会の構成 (1) 員数及び社外取締役の要件 監査等委員会は最低3名の取締役から構成され、その「過半数」は社外取締役でなければならない。指名委員会等設置会社においては、各委員会の半数以上とされているため、社外取締役の選任義務は加重されている。 (2) 選解任時の独立性 監査等委員たる取締役の独立性確保の観点から、任期は2年とされ、定款による任期短縮も認められていない。なお、他の取締役の任期は1年と法定され、かつ、定款による任期の短縮が認められている(改正会社法332条1項、3項及び4項)。また、監査等委員の選任に関する株主総会議案については、監査等委員会に議案への同意権(拒否権)及び意見陳述権が付与されている(同法342条の2第1項)。さらに、解任には株主総会の特別決議が必要であり(同法344条の2第3項、309条2項7号)、かつ、解任・辞任に際しては、監査等委員に意見陳述権がある(同法342条の2第1項及び4項)。 (3) 報酬面での独立性 監査等委員たる取締役の選任及び報酬は、他の取締役と区別して株主総会の承認を得ることとされており、また、当該議案については、監査等委員の意見陳述権が付与されている(改正会社法361条2項・5項)。報酬の決議に際しては、総額(上限)の承認も可能であるが、具体的な配分は、監査等委員の協議により決定しなければならない(改正会社法361条2項・3項)。 これらの監査等委員会の構成上のポイントは下記のとおりである。   4 実務上の留意点 監査等委員会の概要は上記のとおりであるが、監査等委員会設置会社への移行による実務的なメリット及び移行に伴う負担として、どのようなものが考えられるであろうか。 (1) 監査等委員会設置会社への移行に伴うメリット ① 利益相反取引に関する任務懈怠推定の排除 改正会社法においては、いわば政策的に、監査等委員会設置会社の採用に伴うメリットが盛り込まれている。その一つが、利益相反取引について、監査等委員会が承認した場合には、任務懈怠の推定(現行及び改正会社法423条3項)は適用しないとの制度である(改正会社法423条4項)。 「利益相反取引」とは、①取締役と会社との間の取引であって、自己又は第三者の利益のために行うもの(例えば、会社に対する財産の譲渡)、及び、②取締役以外の第三者と会社との間の取引であって、取締役・会社間の利害が相反する取引(例えば、取締役の債務を会社が保証する)の双方を含み、(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を含む)取締役会設置会社においては、当該取引を行うに際して、取締役会の承認が必要とされている(現行会社法365条1項)。 もっとも、当該承認を得ても、利益相反行為により会社に損害が生じた場合には、当該取引に従事した取締役及び取締役会において承認に賛同した取締役には、法律上、任務懈怠が推定されるが(現行・改正会社法433条3項)、監査等委員会設置会社においては、当該取引につき監査等委員会の承認を得た場合には、これらの取締役(ただし、監査等委員であるものを除く)に関し、任務懈怠の推定の適用はないとの制度が新設された(改正会社法433条4項)。 ② 取締役会の決議事項の簡素化 改正会社法はさらに、①取締役の過半数が社外取締役である場合、又は、②定款においてその旨の規定がある場合には、法定の事項(下記(2)②参照)を除いて、重要な業務執行の決定の全部又は一部を、取締役会から取締役に委任することが可能とされている。 取締役に委任可能な事項は、指名委員会等設置会社と実質的に同じであり(重要な財産の処分・譲受、自己株式の取得価額等の決定、公開会社における募集株式・新株予約権の募集時効の決定、社債の募集に関する重要事項の決定等。改正会社法406条、399条の13第5項・6項)、これにより、指名委員会等設置会社のメリットとされている機動的な会社経営というメリットを、(指名・報酬の両委員会を欠くという点で取締役会による監督機能が必ずしも同等とはいえない)監査等委員会設置会社においても享受することが可能とされている。 (2) 監査等委員会設置会社への移行に必要な手続 ① 定款変更 監査等委員会設置会社は、定款変更にその旨の定めをおくことにより選択するものである(改正会社法326条2項)。また、株式会社であれば足り、大会社や公開会社であることは要件とされていない。 かかる定款変更は、平成14年商法改正により委員会等設置会社制度(当時)が導入された際と同様、改正会社法の施行前に株主総会を開催して行うことが可能であり、この場合、かかる定款変更(監査等委員会設置会社への移行)の効力は、次の定時総会の終結時から生じることとなる。 ② 内部統制システム等の整備 監査等委員会設置会社においては、上記のとおり、内部統制システムを通じた監査を想定している。そのため、同制度導入に際しては、取締役会に対し、以下の各点を決定・整備する義務が課される。また、指名委員会等設置会社同様、「経営の基本方針」の決定義務も課されている。 (3) 実務に与える影響 監査等委員設置会社の実務上の魅力は、上記(1)の2点(利益相反取引に関する任務懈怠推定の排除及び取締役会の決議事項の簡素化)にあるといえる。 一方、実務上、導入に際してのハードルとなる可能性があるのは、監査等委員会において「過半数が社外取締役」との要件であろう。もっとも、指名委員会等設置会社で既に当該要件を充たせる状態にある会社や、監査役(会)設置会社であっても社外取締役の複数選任を実現している会社にとっては、この点は実務上の障害とはならないため、上記のメリット等を重視して、監査等委員会設置会社への移行を選択する例も少なからず登場するように思われる。 (了)

#No. 82(掲載号)
#柴田 寛子
2014/08/21

女性会計士の奮闘記 【第20話】「時にはお休み返上で・・・個人の税金相談も」

女性会計士の奮闘記 【第20話】 「時にはお休み返上で・・・個人の税金相談も」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子     贈与に関する課税制度 ~生前贈与は最大の相続対策になります。将来を見据えた慎重な対策が必要です~ 贈与に対する課税制度には「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。 2種類の制度を以下に比較してみましょう。 ※上記は平成27年以降適用による制度。 ◆ワンポントアドバイス◆ 普段は会社の税務や会計でだけで関わっているお客様であっても、時には個人的な相談を受けることがあります。 最近は相続の相談も増えています。相続や贈与に関する知識も身につけ、日ごろからしっかり準備しておくことが必要です。 また、急なお客様の要望にも応えられるよう、体調管理にも気を配りましょう。 (了)

#No. 82(掲載号)
#小長谷 敦子
2014/08/21
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