〔会計不正調査報告書を読む〕 【第20回】 株式会社タカラトミー・ 「連結子会社における不適切な会計処理に関する調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概 要】 【株式会社タカラトミーの概要】 株式会社タカラトミー(以下「タカラトミー」という)は、1953(昭和28)年設立。2006(平成18)年3月、株式会社タカラと合併、現社名となる。玩具・雑貨・カードゲーム・乳幼児関連商品等の企画、製造及び販売を主な事業内容とする。連結売上高155,968百万円、経常利益3,372百万円、従業員数2,056名(平成26年3月期)。本店所在地は東京都葛飾区。東京証券取引所1部上場。 連結子会社である株式会社タカラトミーエンタメディア(以下「T2E」という)は資本金約357百万円、タカラトミーの持ち株比率は95%。コンテンツ企画・制作、通信コンテンツ企画・配信、広告・メディア事業を行っている。売上高2,499百万円、経常利益41百万円。 不適切な会計処理が判明したT2Eアドコミュニケーション部の売上高は1,825百万円(いずれも平成26年3月期)。 【T2Eの沿革】 2002年2月 設立。設立時の社名はタカラモバイルエンタテインメント株式会社。 2005年9月 合併前の株式会社タカラと株式会社トミーが、株式会社インデックス(以下「インデックス」という)との間で「戦略事業会社」として同社を位置付け、株式会社ティーツーアイエンターテイメントに商号を変更。 2009年10月 現社名に変更。 【報告書のポイント】 1 調査に至った経緯 (1) 社内調査委員会設置の経緯 調査報告書によれば、平成26年6月25日、T2Eは、取引先であるA社代理人から、同月23日付の内容証明郵便を受け取り、A社がT2Eとの間でいわゆる架空循環取引を行っていた旨の通知を受けた。 これを受けて、タカラトミーは事実関係の調査を行うため、社内調査委員会による調査が行われることとなった。 (2) 社内調査委員会にメンバー構成について 本件調査委員会は、日本弁護士連合会ガイドラインによる第三者委員会ではなく、社外取締役を委員長とし、社外監査役2名と、顧問弁護士と思われる大手法律事務所の弁護士がメンバーとなっている。さらに調査補助者として、フォレンジックサービスを専門とする公認会計士を加えている。 調査委員会が日弁連のガイドラインに準拠していない理由について、調査報告書には、特段の説明はない。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 2012年8月の内部監査 2011年3月に開始されたT2EとA社との取引は、いくつかの変遷を経て、T2EがE社に前渡金を支払い、A社は通常サイトでT2Eへの支払いを行う形になっていた。A社が発注する什器は、T2Eの出荷指示に基づき、業者からA社に直送されるため、T2Eでは、納品書等の書面により納品状況を確認していた。 2012年8月、そうした中行われたタカラトミーによる内部監査では、 が指摘され、リスク回避のための対策を経営陣で十分に議論するよう勧告がされた。 T2Eは、同年12月上旬、A社との間で取引基本契約を締結するとともに、前渡金の支払いについては直ちに停止し、A社との取引も2013年3月に中止する方針を決めた。 (2) 前渡金取引の実態 2013年1月中旬、T2E担当者はA社担当者から「資金の用立て」を依頼される。しかし、T2E経営陣は、前渡金の支払停止及びA社との取引中止を決定していたため、T2E担当者は、T2EとA社の間に受皿会社を、T2EとE社との間に前渡金支払会社を介在させる形で、取引の継続を決める。 T2E担当者は、内部監査の結果、厳しくなった与信チェック体制をかいくぐるため、14社に及ぶ受皿会社を介在させた。 また、前渡金支払会社についても、資金負担を軽減するため5社を介在させた。 T2E担当者が、受皿会社や前渡金支払会社を介在させることにより、社の方針に背いてまでA社との取引を継続した理由について、報告書には、 という理由が記述されているが、他の架空循環取引事件でも、同じようなジレンマから、ズルズルと取引を継続した結果、損害額が雪だるま式に増えていった状況は、本件でも変わらない。 (3) 子会社としての存在意義 調査報告書には、本件取引開始当時(2011年3月)のT2Eに関して、以下のような記述が繰り返されている。 もともとタカラトミーとインデックスとの間の戦略事業会社と位置づけられていたT2Eにとって、その後、インデックスの業績低迷に伴う資本政策の変更もあって、戦略事業会社としての存在意義は消失したことがうかがえるだけに、グループ外取引の拡大を焦る気持ちが、新規顧客との取引開始にあたって規程を無視し、与信チェックを行わない運用に向かったことが推察できる。 (4) 不適切な取引の業績に与えた影響 報告書及び訂正された有価証券報告書から、架空循環取引による影響は以下のとおりである(単位:百万円)。 不正関連損失に関しては、注記事項の中に、「偶発損失引当金」として、以下の説明がなされている。 3 再発防止策 調査委員会による再発防止策は、次の4項目である。 一見、目新しい項目はないが、「グループ会社管理体制の強化」の中で、子会社・孫会社に派遣する社外取締役及び社外監査役について言及している部分は興味深い。 報告書は、彼らが「職責を十分に果たしたとはいい難い」と断じながらも、彼らの本務がタカラトミーの従業員であり、「月に一度の取締役会に出席するのみで、T2Eの業務を継続的に監視・監督することは困難な状況にあった」ことを指摘、「いたずらに、社外取締役及び社外監査役に対して子会社及び孫会社の監視・監督の徹底を求めることは現実的であるとは思われない」ことから、次の3つの方策を提言している。 子会社・孫会社で取締役又は監査役として経験を積ませ、将来の経営幹部に育てるという人事政策を採用している企業は多く存在するが、実際に取締役の業務執行の監視・監督という機能がどこまで発現されているか、評価は難しい。 せっかく取締役又は監査役として派遣するのであるなら、本提言のように、取締役又は監査役としての教育・訓練を受けさせるとともに、本社管理部門においてサポートする体制を整えておかなければ、ただのお飾りとなってしまうのは、本報告書の指摘するとおりであろう。 4 架空循環取引を中止するためには何が必要か 2012年8月の内部監査の時点で、A社との取引について、現物確認やA社・E社に対する照会など、さらに突っ込んだ調査が行われていれば、はるかに軽微な損害で、取引を打ち切ることができたのではないだろうか。 あるいは、前渡金の一部が回収不能になったとしても、A社との取引中止が会社の方針である以上仕方ないと割り切っていれば、2013年3月までの架空売上高は3億円足らずであり、不正関連損失も8,000万円に止まっていた。 T2E担当者は、2013年11月になって初めて前渡金がA社の資金繰りに流用されていることを認識したが、特段の抵抗感や違和感を持たないまま取引を継続している。同氏が、実態を伴っていない取引に関して売上等を計上することが、「会計処理や財務報告上問題のある不適切な行為であるという知識や認識を有していなかった」ということが事実であるとすれば、コンプライアンス教育の不徹底では済まされないのではないだろうか。 循環取引は継続すればするほど取引金額が増大し、破綻した場合の損失が膨らむことは、循環取引に絡む会計不正の調査報告書を読んでいれば理解できるはずなのだが、残念ながら、そうした他社の不正事例を学ぶというカリキュラムは、タカラトミーのコンプライアンス教育にはなかったのかもしれない。 もともとはT2Eの50%を所有し、連結子会社としていたインデックスが、循環取引で売上や利益を水増しした粉飾決算を行っていたとして、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで強制調査を行ったのが、2013年6月12日であった。その後、インデックスは、急激な信用収縮によって自主再建が困難となり、6月27日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請している。 同じ時期、T2E経営陣の方針に反して、A社との取引を継続していたT2E担当者、それを容認していた上司であるメディア本部長は、こうした報道に接して、何も感じるところはなかったのであろうか。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第59回】 ストック・オプション③ 「ストック・オプションの権利放棄」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (*1) 新株予約権の金額 4名×50個×120円=24,000円 〈会計処理の解説〉 権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分(24,000円)を、原則として「新株予約権戻入益」等の科目名称を用いて、特別利益として計上します。この会計処理は、当該失効が確定した期に行います(基準9項、47項)。 ここで、過去の費用計上を取り消す処理も考えられますが、ストック・オプションの権利を付与することと引き換えに、従業員等から提供されたサービスが既に消費されている以上、過去による費用の認識は否定されないと考えられます。また、結果として、会社は株式を時価未満で引き渡す義務を免れることになり、従業員等から提供されたサービスを無償で消費したとも考えられます。 以上より、新株予約権が権利行使期間に行使されないことにより純資産が株主との直接的な取引によらず増加していることから、新株予約権を取り崩して戻入益を計上し純資産に算入しています(基準46項)。 * * * 次回は、ストック・オプションの条件変更について解説します。 (了)
最新!《助成金》情報 【第4回】 「雇用関連助成金の活用(その4) 《キャリア形成促進助成金》」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 1 キャリア形成促進助成金の目的 キャリア形成促進助成金は、労働者のキャリア形成促進の職業訓練を実施する事業主に対して経費や賃金を助成する制度で、次のA・B訓練の9コース(《中》は中小企業限定(【第1回】「雇用関連助成金の活用(その1)」6 中小事業主の範囲参照))がある。 対象事業主は企業規模とコースごとに確認が必要である。また、知識技能の習得以外の訓練や通常の業活動、法令で実施義務のある訓練等は対象外のため事前確認が必要である。 2 キャリア形成促進助成金の申請の流れ 3 支給額 キャリア形成促進助成金の支給額は次の額となる。 4 成長分野等人材育成コース (1) 目的 この助成金の目的は、次の成長分野での業務を行う雇用保険被保険者のキャリア形成の促進であり、介護職員初任者研修や再生エネルギー事業での技術士講座受講など、これから成長分野事業を予定する事業主とって関連業務の訓練には有効な制度と思われる。 【成長分野等の対象分野】(日本標準産業分類) (2) 訓練の基本要件 5 グローバル人材育成コース (1) 目的 この助成金の目的は、海外での生産、事業展開拠点の管理、市場調査、海外企業との提携・販売契約業務や国際法務などに従事する労働者の育成訓練の実施促進であり、既に海外関連業務を行っている事業主だけでなく、これから海外進出を計画している事業主には特に有効な制度と思われる。 (2) 訓練の基本要件 6 育休中・復職後等能力アップコース (1) 目的 この助成金の目的は、育児休業中の訓練、復職後1年以内の訓練、妊娠・出産・育児による離職後から子が小学校入学までに再就職し3年以内の訓練を促進することで対象者の能力向上と子の養育を支援することであり、育児中や出産を考えてる女性社員が多い事業所では、人材の離職防止と能力向上に特に有効な制度と思われる。 (2) 訓練の基本要件 7 若年人材育成コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、若年雇用保険被保険者のキャリア形成訓練の促進であり、未経験者や非正規労働者であった若い人材を採用した事業所にとって、若年者を基幹人材として育成するには特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 8 熟練技能育成・継承コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、次のような熟練技能者の指導力強化や技能継承のための訓練を促進させ、事業所内で次代を担う人材に技能を継承させることであり、熟練技能者の離職が近づき次世代人材の育成・技能継承が課題となっている事業所では特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 9 認定実習併用職業訓練コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、次の15歳以上45歳未満の雇用保険被保険者に対して大臣認定を受けた訓練を実施することでキャリア形成を促進させることであり、パートタイマーなどを通常労働者への転換を図りたい事業所では特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 10 自発的職業能力開発コース(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、就業規則などに雇用保険被保険者の自発的な職業訓練の経費負担や休暇付与を規定し、それに基づいて経費を負担し休暇を付与した事業主を助成することで被保険者の自発的な職業能力開発を支援することであり、被保険者の自由な発想で意欲的な職業能力開発を期待する事業所にとっては特に有効な制度と思われる。ただし、受講希望の訓練が助成金の対象か否か事前の確認が必要である。 (2) 訓練の基本要件 11 中長期的キャリア形成コース(平成26年10月新設) (1) 目的 この助成金は、次の資格取得や最新実務知識の習得を訓練目標とする大臣指定の講座を受講させる事業主を支援することで、雇用保険被保険者のキャリアを中長期的に形成させることが目的である。業務に不可欠な有資格者の増員や、従業員の最新高度な知識技能の習得を図りたい事業主には特に有効と思われる。 (2) 訓練の基本要件 12 一般型訓練(中小企業限定) (1) 目的 この助成金の目的は、政策課題対応型訓練以外の訓練により雇用保険被保険者の職業能力開発やキャリア形成を促進させることであり、事業所ごと独自に必要な訓練を実施したい事業主には有効な制度と思われる。ただし、職務に直接関連しない訓練やモラ―ル・マナー研修、経営改善、QCサークル等の訓練は対象外のため、訓練実施前に助成金の対象となる訓練であるかどうかの確認が必要である。 (2) 訓練の基本要件 13 東日本大震災復興対策による特例措置 青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県内の災害救助法が適用された市町村内に所在する事業主(大企業含む)には、「認定実習併用職業訓練」及び「一般型訓練」において特例措置が設けられている。 (了)
第三者行為災害による自動車事故と企業対応策 【第3回】 「事例検討」 社会保険労務士 井下 英誉 はじめに 第3回では、第2回の解説を踏まえて、実際の事故事例を取り上げ、事故処理をする際の判断ポイントや注意点を紹介する。 【事 例】 ある日、Aさんは自転車で税務署に向かいました。無事に用事を終えて会社に戻る途中、上司から携帯に電話がかかって来ました。急用だと思い、自転車を運転しながら携帯で話をしていたところ、一時停止を無視して路地から出てきた初心者マークの車と衝突しました。 Aさんはすぐに救急車で病院に運ばれましたが、足の骨折と全身打撲で14日間の入院を余儀なくされました。 その後、無事に退院しましたが、退院後も20日間の通院を要し、結果的に40日間会社を休むことになりました。 1 前提条件 2 処理の検討 ① 自賠責保険優先で処理した場合 第2回で解説したとおり、自賠責保険の上限は120万円である。 本件を自賠責保険で処理した場合、治療費と休業損害だけで140万円(100万円+40万円)となり上限の120万円を超えるため、結果的に治療費や休業損害ですら満額が支払われないことになる。 では、本件はどのように処理するのが良いのだろうか。 第2回の「3 給付選択の注意点」を思い出してほしい。ここでは、①被災労働者にも過失がある、②相手方が自賠責保険にしか加入していない、③負傷の程度が重い、のいずれかに該当する場合は、労災を優先したほうが被災労働者にとって有利であると述べた。 本件では、被災労働者は携帯電話を使用しながら自転車に乗っていたため過失があると考えられる(①に該当)。また、骨折と全身打撲から考えて負傷の程度が重い(治療が長期化する)と判断できる(③に該当)。 以上のことから、労災保険優先で処理をしたほうが有利であると判断できる。 ② 労災保険優先で処理した場合 本件の処理を労災保険優先で行った場合は、下表のように整理できる。 (※1) 労災保険の休業補償給付は休業開始から3日間は支給されない。また4日目以降についても休業1日につき平均賃金の60%しか支給されないので、差額の40%は自賠責保険に請求する。 労災保険を優先することで自賠責からの支払額は限度額(120万円)を下回り、かつ慰謝料等についても支払いを受けられたことになる。 * * * 次回以降は、Q&Aを用いて第1回から第3回の振り返りとポイント解説を行う。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第1回】 「自社に最適な『会計システム』を選定する手順」 公認会計士 坂尾 栄治 筆者は職業柄、企業の成長や企業統合を機に、会計システムの更改を検討する企業のお手伝いをすることが多い。 では、それらの企業が、自社の業務に合った会計システムを選定するために、どのようなことを行っているのであろうか。 ▼自社が『やりたいこと』を知る▼ システムを選定するためには、「そのシステムで何ができるのか」を知る必要がある。 しかしそれ以前に、「そのシステムに何をさせたいのか」を知ることのほうが、より重要である。 これには「どのような帳票が出力できる必要があるのか」とか、「どのようなシステムと連携させたいのか」等々、さまざまな要求がある。 乱暴な言い方をすれば、「機能が多いシステム=良いシステム」ということになるが、一般的には機能が多い分、価格も高くなる。このため、たとえ機能が多くても、その中の一部しか使わないのであれば、必要最低限の機能が備えられているシステムを選択したほうが経済的である。 また、機能が多いからといって自社の使いたい機能がより多く満たされているとも言いきれず、やはり自社に合ったシステムを選定するべきであり、そのための手続きを行うことが望ましいのは、お分かりいただけると思う。 ▼「やりたいこと」⇒「要求定義書」として文書化▼ 「要求定義」とは、利用者が「システムに何を求めているのか」を明らかにすることである。 つまり、その会計システムで何がしたいのか、何ができないと困るのかといった、システムに求める機能や満たすべき性能を定義することである。 通常は、これらの要求を「要求定義書」として文書化する。 「要求定義書」は、この後に続く会計システムの選定作業のために作成する「RFI」や「RFP」、あるいはその後の「要件定義書」のための基礎資料として使われるのが一般的である。 会計システムに限らず、一般にシステムを選定する上で、事前に要求定義を行い、自社が何をしたいのかを明らかにすることは、自社の業務に合ったシステムを選定する上で大変重要なプロセスである。 ▼ベンダーは絞り込め▼ 要求定義が終わると、いよいよシステムを選定することになるのだが、システムの開発会社(システムベンダー、以下「ベンダー」)へ、やみくもに声をかけデモンストレーションをしてもらうのは効率的ではない。 会計システムのベンダーは非常にたくさんあるため、それらのベンダーに片っ端からデモンストレーションや提案をしてもらっていたら、システムの選定だけで何ヶ月もかかってしまうし、あまりに多数のシステムを比較すると、選定する側が混乱してしまい、正しい評価ができなくなってしまう。 そしてそれ以前に、自社の要求に合っていないシステムのデモンストレーションに時間を割くのは無駄である。 そのため、デモンストレーションや提案を受ける前に、ベンダーを絞り込む作業を行うのが一般的である。 では、どのようにベンダーを絞り込んでいけばよいのであろうか。 ▼「RFI」を使って選定の第一関門に▼ ベンダーの絞込みに加え、有意義なデモンストレーションや提案を受けるための手続きとして、「RFI」や「RFP」を作成し、ベンダーに提示することが多い。 「RFI」とは“Request for Information”(情報提供依頼書)の略で、ベンダーに情報提供を依頼する文書である。「RFI」は後述する「RFP」に先立ってベンダー提示されることがあるが、「RFI」の提示は必ずしも必須の手続きではない。 企業側が、発注を検討しているシステムについての十分な知見や情報を持っていない場合や、取引したことのないベンダーに発注する場合、あるいはシステムの構成や機能などがベンダーのホームページ等の公開情報からは正しく把握できない場合などに発行される。 「RFI」への回答により、必要な情報を入手するのは当然であるが、加えて、おおよそのシステムの適合度やベンダーの力量を判断し、ベンダーを絞り込むための第1のゲートとする場合も多い。 ただし、会計システムの選定に際して、必ずしも「RFI」が作成されるわけではない。「RFI」を作らない場合でも、「要求定義書」にまとめた要求事項と、会計システムのおおよその適合度については、ベンダーのホームページから情報を取ることができるし、それ以外にもインターネットやIT関係の雑誌、データショウなどで情報を収集し判断することができる。 このような情報を元に、選定対象となるベンダーを数社(一般的には3社から5社程度)に絞り込むことができる。 ▼「RFP」を使ってさらなる絞込みを▼ これに対して「RFP」は、会計システムの選定に際し、筆者の知る限りほとんどのケースで作成されている(とはいっても一定規模以上の企業に限定された話であるが)。 「RFP」とは“Request for Proposal”(提案依頼書)の略で、ベンダーに提案を依頼する文書である。 「RFP」は上述した「要求定義書」や「RFI」を元に作成される場合が多く、会計システムに求められる機能やハードウエア、ソフトウエアの概要、依頼事項、保証要件、契約事項などを記述する。 とはいいながらも、実際には各社各様で、パワーポイントで数十枚に及ぶものもあればワードで3枚程度しか記載していないものもある。「RFP」の記載内容が多すぎるとベンダーが全体を把握しきれず、適切な提案をしてくれないことが多くなるが、逆に少なすぎると、本来の要求事項が提案に十分には盛り込まれず、選定後に「こんなはずじゃなかった・・・」といった結果になる場合も多い。 このため、「RFP」は適度なボリュームにすることが重要であり、何より各要求事項の重要度を、この要求は「必須」で、この要求は「nice to have(てきれば尚可)」、といったように判別できるようにしておくのがよいだろう。 「RFP」の発行は、3~5社のベンダーに対して行うのが一般的と思われるが、より多くのベンダーに「RFP」を提示し、デモンストレーションや提案の前に、提案書の提示を求め、その提案書で書類審査をし、デモンストレーションや提案を実施するベンダーを絞り込むといった作業を行う企業もある。 ▼提案・デモに対する評価基準を決めておく▼ 「RFP」を受けて、ベンダーはデモンストレーションや提案を行うことになる。企業側は、ベンダーのデモンストレーションや提案について評価を行い、会計システムを決定することになる。 ここで注意するのは、あらかじめ『評価基準』をちゃんと決めておく必要があるということである(「RFP」作成時には評価基準を決めてあるのが理想的である)。 この評価基準を決めずにデモンストレーションや提案を受けると、デモンストレーションや提案から受けた印象に流されてしまい、適切な評価ができなくなる可能性が高い。つまり、後から提案したベンダーの方が印象が良くなったり、提案の上手いベンダーの評価が高くなったりと、「RFP」の記載項目に対する対応レベルとは異なるところで評価してしまう場合がある。 ▼最適な『会計システム』の選定は時間をかけて▼ このような手続きを経ることで、ようやく自社の業務に合った会計システムを選定することができる。 この手続きには、要求定義の深さや範囲にもよるが、数ヶ月から半年くらいかかるのが一般的である。自社の業務に合った会計システムを選ぶのは、結構大変な作業なのである。 しかし、高いお金をかけて導入するものでもあるし、また導入してから数年、長いときは十数年使い続けるものでもあるので、選定段階における労力については、致し方ないのかもしれない。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第22話】 「相続税の計算、実はややこしいんです」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 相続税の計算のしくみ ~相続税の額が増えてしまう理由とは~ ◆ワンポントアドバイス◆ 相続税の計算のしくみは複雑です。お客様に分かりやすく説明ができるよう簡単な計算例を用意しておきましょう。 また、上記のように死亡保険金により、受取人ではない相続人の納税額が増えることになるため、不満が出ないように他の財産を分けておく等のアドバイスも必要です。 (注) 上記は本稿公開日(平成26年10月16日)現在の法令等によるものです。 (了)
《速報解説》 消費税法施行令の一部改正により税率10%引上げ時の経過措置規定を整備 ~新たにリサイクル料金等に関する経過措置を追加~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 平成26年9月30日付け官報号外第216号において、「消費税法施行令の一部を改正する政令」が公布された(改正後の政令は平成27年10月1日施行)。 この改正により、消費税率が5%から8%へ引き上げられた際に設けられた経過措置規定を8%から10%へ引き上げる際にも準用されることとなった。 なお、消費税法附則に規定されている旅客運賃に関する経過措置、工事の請負に関する経過措置、資産の貸付けに関する経過措置などについては、同法附則16条において10%引上げ時の準用規定が設けられているが、施行令附則に規定されている予約販売に関する経過措置(改正施行令附則5条1項)、特定新聞に関する経過措置(同条2項)、通信販売に関する経過措置(同条3項)、有料老人ホームの介護に係る入居一時金に関する経過措置(同条4項)などについては、10%引上げに伴う準用規定がなかったことから、今回の改正により新たに読み替え規定が定められた。 この改正の具体的内容は以下のとおりであるが、いずれの経過措置規定についても10%引上げに係る施行日を「平成27年10月1日」、その指定日を「平成27年4月1日」として規定している。 また今回の改正において、消費税率が5%から8%へ引き上げられた際に規定されていた経過措置以外に新たな経過措置が追加されたが、具体的には、以下のとおりである。 * * * 今回の改正により、消費税率引上げに伴う経過措置規定については、5%から8%へ引き上げられた際に設けられたものを8%から10%へ引き上げられる際にも同様に適用できることが明らかにされたが、今後の消費税実務においては、これらの経過措置規定により5%、8%、10%が適用される取引が混在することから、注意が必要である。 (了)
《速報解説》 国税庁、書画骨とう等の減価償却の取扱いの変更に向けパブコメ ~減価しない美術品等の範囲を取得価額基準20万円から100万円へ引上げに Profession Journal編集部 国税庁は、10月10日に減価しない美術品等の範囲を取得価額20万円以上から100万円以上へと引き上げる見直し案をパブリックコメントに付した。 ◆現行の書画・骨董品の取扱い 美術品等(絵画や彫刻等の美術品のほか工芸品など)の一部は、その希少価値などから経年することによって価値が上昇し続け、減価しないものもある。 そのため、その美術品等が減価償却資産とすべきかどうかの判断は極めて困難であることから形式基準として下記の定めを置いている(法令13、法基通7-1-1)。 ◆1点の取得価額=100万円以上基準で統一へ ②のとおり、減価償却資産に該当するかどうかが明らかでない美術品等については、取得価額が1点20万円(絵画にあっては、号2万円)未満であれば減価償却資産と取り扱うことができるとしていたわけだが、これに対して「近時の取引の実態に照らせば、金額基準として低すぎるのではないか」といった指摘があったことから取扱いの見直しへと至ったという。 今回の見直しでは、下記のような改正案が示されている。 また、その注書では、当該美術品等が移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなものであり、かつ、他の用途に転用すると仮定した場合にその設置状況や使用状況からみて市場に出回ることが想定できないようなもの――例えば、公共施設などの装飾品や壁に敷設されるなど用途が限定された状況のものなど――については、取得価額にかかわらず減価償却資産とみなすとしている。 ◆実務では取得価額20~100万円の美術品等をチェックし償却を行うか検討 この改正案については同じ内容を定める所得税基本通達や連結納税基本通達でも同様に見直すこととされており、平成27年1月1日以後に開始する事業年度において法人の有する美術品等に、また個人事業が所有する場合にあっては同日以降に、それぞれ適用を可能とすることが予定されている。 この見直しに伴い、これまでに所有する非減価償却資産として扱ってきた20万円超の美術品等で、そのうち100万円未満のものをチェックし該当の資産がある場合には、平成27年1月1日以後に開始する事業年度から減価償却資産として償却をすることが認められることとなる。 先に触れたとおり、本取扱いは昭和55年の現行の法人税基本通達制定時からのものであり、もはやスタンダードとなっているだけに、今回の見直しが行われた場合にはこれまでの“常識”の切り替えに迫られることとなる。 また、実務では、1月以降に償却を行う際の償却方法についても、どのように取り扱うことになるか注目されるところだ。 本通達は、企業会計や固定資産税の世界でも資産計上のための指針となっている。こうした分野についても、今回の改正が影響を及ぼすのか今後の動向には注意されたい。 なお、パブコメの締切りは11月10日(月)となっている。 (了)
2014年10月9日(木)AM10:30、Profession Journal No.89 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第22回】 「法人税法22条2項の「取引」の意義(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに これまでこのコーナーにおいてもしばしば論じてきたように、租税法律主義の下、租税法の解釈に当たってはできるだけ文理解釈によるべきとする考え方が支配的である。また、そのことの帰結として、法条の読み方についても、条文に用いられている概念(用語)の意義をどのように理解するかが重要となるため、この点が争われる事案は決して少なくない。そして、租税法中に用いられている概念は固有概念と借用概念に分類することができるが(すでにここでも紹介したとおり、「一般概念」として捉えるものもあり得る。)、その多くは借用概念であるといえよう。もっとも、ある用語が租税法固有の概念ではなく借用概念であると捉えたとしても、果たしてどこから借用してきたのかという点が議論されることもある。 今回は、法人税法22条《各事業年度の所得の金額の計算》2項に用いられている「取引」という概念の意義をどのように解すべきかが争点の一つとなった、いわゆるオーブンシャ・ホールディング事件を素材として、この辺りを考えてみたい。 Ⅰ オーブンシャ・ホールディング事件 1 事案の概要 内国法人であるX社(原告・控訴人・上告人)は、その保有するA社株式等を出資してオランダに100%出資の外国子会社B社を設立し、B社の株主総会において、新たに発行する株式の全部をX社の関連会社であるオランダ法人C社に割り当てる決議を行った。これに対し、かかる新株の発行は著しく有利な価額でC社に割り当てられたもので、これによりX社が保有するB社株式の資産価値を何ら対価を得ずにC社に移転させたとして、税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)は、その移転した資産価値相当額をC社に対する寄附金と認定し、X社の法人税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。本件は、X社が、本件更正処分のうち納付すべき税額を超える部分および本件賦課処分はいずれも違法であるとしてその取消しを求めた事案である。 以下、本稿において関心を寄せる「取引」の概念に関する部分を中心に、この事件を見てみよう。 2 当事者の主張 (1) X社の主張 X社の主張を分析してみよう。 X社の主張の骨子は、まず、法人税法が所得金額の計算に当たり企業会計の基準によるべきとするいわゆる公正処理基準を謳った法人税法22条4項の解釈により、B社における新株の有利発行によって生じたB社株式の含み益をX社の益金に算入する根拠はないと主張するところから始まる。 このように、X社は、企業会計においては、「第三者に対する新株の有利発行の際、旧株式の含み益が減少したとしても、旧株主において当該含み益が実現されたものとはされていない」との主張をしたのである。 上記のように、X社は、法人税法内に「別段の定め」がないことを前提として、旧株主において含み益を実現したとは扱わない企業会計の考え方が支配していると論じたのである。 次に、X社は、法人税法22条2項にいう「取引」の意義について次のように主張する。 このように、X社は、法人税法22条2項にいう「取引」について、格別の規定がないのであるから一般私法におけるのと同じ意義、すなわち私法からの借用概念であると解すべきと主張しているようである。 (2) Yの主張 次に、Yの主張をみてみよう。 このように、Yは、X社が行ったB社株主総会における決議は、X社が保有する資産価値の一部をC社に贈与する行為にほかならないとして、法人税法22条2項の要件を満たすと主張した。すなわち、法人税法22条2項にいう「無償による資産の譲渡・・・その他の取引」に該当するというのである。 そして、X社の主張は、法人税法22条4項の公正処理基準を企業会計と同視する前提において誤っているとした上で、次のように論じている。 Yは、法人税法22条2項にいう資産の譲渡又は「その他の取引」とは、所得を構成する資産の増加を認識すべき一切の場合を指すというのである。 この点が、「取引」概念の理解においてX社とYの主張の最も大きく異なるポイントであるといえよう。すなわち、X社は、「取引」とは法律概念であるとするのに対して、Yは、法律概念とは捉えていないのである。Yは、明示的に主張はしていないものの、借用概念ではないと解する主張をしているのであろうか。 (続く)