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IFRSの適用と会計システムへの影響 【第2回】「『複数元帳』への対応」

IFRSの適用と会計システムへの影響 【第2回】 「『複数元帳』への対応」   公認会計士 小田 恭彦     「2つの総勘定元帳」が必要に IFRSが適用となるのは上場企業等が開示する連結財務諸表のみです。よって連結財務諸表作成のベースとなる企業グループ各社の個別財務諸表をIFRS適用し、それをもとに連結財務諸表を作成する必要があります。 一方で、個別財務諸表は適用対象外です。つまり、税務申告等のための各社の個別財務諸表は従来どおり日本基準で作成することになります。 このためIFRSを適用する企業及びそのグループ各社はIFRSと日本基準の2つの個別財務諸表を作成する必要があることから、「2つの総勘定元帳」が必要になります。   複数元帳の構造 従来の会計システムでは、通常、総勘定元帳は1つです。これまでは複数の総勘定元帳を用意して1つの事実に対し異なった会計処理をするという考え方は、基本的にありませんでした。 よって、これまでの会計システムを使ってIFRSを適用する企業及びそのグループ各社がIFRSと日本基準の2つの総勘定元帳を手配するには、会計システムを2つ用意する必要が生じます。 厳密に言うと、会計システム自体を2つ用意するのではなく、1つの会計システムの中に2つの会社を設定し、それぞれの会計基準に準拠した総勘定元帳を作成することになります。 確かにこの方法でも2つの総勘定元帳を持つことは可能ですが、取引を常に二重に登録する必要があったり、両基準の差異内容の把握も難しかったりと現実的ではありません。 そこで登場したのが「複数元帳」機能です。 複数元帳対応の会計システムは、1つの会社の中で複数の元帳を保持することができます。 具体的には下図のようなイメージになります。 〈複数元帳機能のイメージ図〉 IFRSを適用した場合でも、通常ほとんどの取引はIFRSと日本基準で同じ会計処理を適用しますので、共通的な会計処理に関しては共通処理として計上し両者で共有します((B)の部分)。 そして、IFRSと日本基準で異なる会計処理が求められる事項に関しては、それぞれの元帳を指定し、それぞれの会計処理を適用します((C)の部分)。 その結果、「期首残高(A)」+「当期の取引の共通処理(B)」+「当期の取引-各会計基準で異なる処理(C)」を集計することにより、それぞれの元帳を作成します((D)の部分)。 そのうえで、IFRSの総勘定元帳は連結財務諸表作成の元データとして使い、日本基準の総勘定元帳は個別財務諸表の元データとして税務申告等に使います。   会計システムの複数元帳対応の状況 このような複数元帳機能は、2005年における欧州のIFRS適用の頃から欧州製のERPパッケージ(統合型業務システム)を中心に対応がされはじめ、IFRSを適用している日系企業でもこれらのERPシステムが多く採用されています。 日本製会計システムの対応状況ですが、2009年6月30日に金融庁-企業会計審議会から「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」が公表された当時は、企業もIFRS対応を主な目的とした会計システム刷新の動きが高まったのを受け、多くの会計システムベンダーも「複数元帳対応」をする方向で動き出しました。 しかし、数年後のIFRS強制適用が延期されたことにより、企業側も会計システムベンダー側も一気にトーンダウンしました(詳しくは前回を参照)。 現在は、IFRS導入を目指す比較的大規模な企業をターゲットにしている大手会計システムベンダーの一部は実際に複数元帳に対応しましたが、中堅企業向け会計システムベンダーの多くは、対応を見合わせたようです。   複数元帳が必要なのは親会社だけか? 連結財務諸表の作成にはグループ各社の個別財務諸表が必要であるため、IFRSで連結財務諸表を作成するためには親会社だけでなく、その子会社もIFRSの個別財務諸表を作成する必要があります。 よって、基本的にグループ各社は、複数元帳対応の会計システムを利用することに越したことはありません。ただ、現実的には以下のポイントを考慮したうえで、グループ各社の複数元帳対応の要否を決定することになろうかと思います。   複数元帳に対応しない場合のIFRS個別財務諸表の管理 複数元帳を使わない場合には、総勘定元帳は日本基準で作成しIFRSの個別財務諸表との差分はシステムの外で把握したうえで、連結の際に日本基準の個別財務諸表にその差分を反映することで、IFRSの個別財務諸表を作成することになります。 この作業は各子会社が行う場合もありますし、子会社からは日本基準の個別財務諸表で報告を受け親会社が行う場合もあります。 *   *   * なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えます。  (了)

#No. 96(掲載号)
#小田 恭彦
2014/11/27

〔会計不正調査報告書を読む〕【第23回】ジャパンベストレスキューシステム株式会社・「第2次第三者委員会調査報告書(平成26年7月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第23回】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社・ 「第2次第三者委員会調査報告書(平成26年7月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【ジャパンベストレスキューシステム株式会社の概要(再掲)】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下「JBR」という)は、1997(平成9)年創業。創業時の社名は、日本二輪車ロードサービス株式会社。その後、平成11年8月に現社名に変更。 JBRホームページには、以下のような事業目的が記載されている。 連結売上高10,405百万円、連結経常利益141百万円(数字はいずれも平成25年9月期)。従業員数196名。本店所在地、愛知県名古屋市。東証1部、名証1部上場。   【2014(平成26)年5月以降の適時開示】   【概 要】   第2次調査委員会による報告書のポイント 1 第三者委員会の再設置に至った経緯 平成26年5月2日に設置された調査委員会(以下「第1次調査委員会」という)で調査の対象となった株式会社バイノス(以下「バイノス」という)における不適正な売上計上については、調査報告書受領後の6月13日に公表されたJBRの2014年9月期第2四半期報告書には、追加情報として以下の記載がある。 これに加えて、会計監査人である有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という)は、平成26年9月期第2四半期において出資し、関連会社としている日本電源技術社株式会社(以下「NDG」という)の出資に関する減損処理及びNDG向け貸付金に対する貸倒引当金計上などの一連の取引に関する経済合理性についての疑義を指摘しており、再設置された第三者委員会(以下「第2次調査委員会」という)により、調査と評価を行うこととなった。   2 第2次調査報告書により判明した事実(その① バイノスにおける不適正な売上計上) (1) 調査・検討対象 第2次調査委員会では、第1次調査委員会における結論を前提に、不適正な売上計上について、JBR代表取締役社長榊原氏(以下「榊原社長」という)、JBR取締役管理部長鈴木氏(以下「鈴木取締役」という)、JBR取締役加盟店サポート部長竹内氏(以下「竹内取締役」という)及びJBR管理法務グループ兼バイノス取締役F氏(以下「F氏」という)の関与または認識していたか否かを判断するため、関係者に対するヒアリング、受領した書類及びデータの閲覧・検討、役職員が使用していたPC及びサーバーから保全したデータの分析により、調査を行った。 (2) 榊原社長の関与又は認識 e-mail調査及び他の関係者のヒアリングによれば、榊原社長自身は、バイノスの個々の現場や案件等を把握しておらず、不適正な売上計上についての関与又は認識を推察させる証拠はないことから、第2次調査委員会は、同氏の関与又は認識があったとまでは認められないと判断した。 (3) 鈴木取締役の関与又は認識 鈴木取締役及びその他の関係者は、同氏がバイノスにおける不適正な売上計上についての関与又は認識を否定し、逆に、同氏がバイノスに対する管理を強めていたことをうかがわせるe-mailが存在していたことを併せて検討した結果、第2次調査委員会は、同氏の関与又は認識があったとまでは認められないと判断した。 (4) 竹内取締役の関与又は認識 第2次調査委員会は、竹内取締役に送信された複数のe-mailには、売上の先行計上が強く推認される記載があり、同氏がそれらのe-mailを読んだことを認めていることから、同氏は、バイノスにおける不適正な売上計上の事実を認識していたと判断したが、一方、同氏が調達業務を担当していたこと、不適正な売上計上について命令又は指示をしたことを推認させる証拠はないことから、積極的に関与したとまでは認められないとした。 (5) F氏の関与又は認識 F氏に送信されたe-mailには、バイノスにおける不適正な売上計上に関係するものはなく、他の証拠からも、同氏が不適正な売上計上に関与又はこれを認識していたことを推認させるものはなく、第2次調査委員会は、同氏について、関与又は認識があったとまでは認められないと判断した。   3 第2次調査報告書により判明した事実(その② NDGに対する投融資) (1) 調査・検討対象 JBRは、NDGに対する投融資について、平成26年第2四半期において、貸付金121,000千円全額に貸倒引当金を設定し、出資金及び出資に係る付随費用33,975千円全額を減損処理している。 第2次調査委員会の調査内容は以下の2点である。 第2次調査委員会は、役職員その他関係者に対するヒアリング、受領した書類及びデータの閲覧・検討、PC及びサーバーから保全したデータの分析により、調査を行った。 (2) 投融資に至った経緯 平成26年2月5日、JBR榊原社長は、知人を介してNDG代表取締役社長原田克平(以下「原田社長」という)と面会し、資金支援の要請を受けた。原田社長から、NDGの手がけるLED照明ビジネスの将来性を聞かされ、提携によるJBRのメリットがあると判断した榊原社長は、投資を検討することを伝えた。 その後、法務デューデリジェンス、財務デューデリジェンス及び株価算定などを専門家に依頼し、並行して、NDG製LED照明と他社製品とのスペックの比較など、技術的裏付けについても検討を行った。 そして、平成26年2月27日は、以下の内容で取締役会決議を行った(ただし会社法370条に基づくみなし決議(※))。 JBRは、同決議に基づき、同月27日付で投資契約書を、同月28日付で金銭消費貸借契約書を締結し、実行した。同時に、集合物根譲渡担保設定契約及び債権根譲渡担保設定契約に基づき、動産譲渡登記及び債権譲渡登記手続がされている。 (3) 本件投融資の判断内容について 第2次調査委員会は、以下の判断に基づき、本件投融資についてその判断過程及び内容に著しく不合理な点があるとまでは認められないから、JBR各取締役が善管注意義務に違反したとまでは認められないと判断した。 (4) NDGにおける資金調達及び使途に関する検討 第2次調査委員会は、NDGにおける資金調達に不適切な点がないかどうか、また、資金使途に合理性があるかどうかを検討したところ、いずれも、不適切と認められるに足りる疑義は確認できなかった、としている。   4 改善報告書 (1) 東京証券取引所による公表措置 JBRによる2度にわたる第三者委員会の設置を受け、東京証券取引所は、8月8日、「公表措置及び改善報告書の徴求について」をリリースした。その理由として、次のように説明している。 (2) 取締役及び監査役の辞任 改善報告書では、バイノスにおける不適切な売上計上に関与し、又はこれを認識していた湯川社長、竹内取締役及びJBR管理部経理グループ・シニアマネージャーD氏(第1次調査報告書ではY氏とされていた)は、8月25日開催予定のバイノス臨時株主総会で辞任し、新任取締役が選任されることが報告されている。 (3) 再発防止に向けた改善措置 改善報告書に記載された改善措置については、以下のとおりである。   -3度目の第三者委員会設置へ- 再発防止策を実行中のJBRに、グループの元関係者から告発文書が届いたのは、平成26年10月20日。JBRは、「告発文書に係る記載内容等には信憑性に疑義がある」としながらも、3度目の第三者委員会の設置に踏み切った。 その目的としては、以下の4点を挙げている(同月29日リリース)。 今般の告発文書はJBR榊原社長に関わるものであり、過去2回の調査委員会とは調査の範囲を異にする可能性もあるが、第3次調査委員会がどのような結論を導くのか、注目されていたところ、本稿執筆中の11月11日、第3次調査報告書が公表された。 第3次調査報告書については、内容を検証のうえ、次回の本連載で取り上げたい。 (第24回(12/4公開)へ続く)

#No. 96(掲載号)
#米澤 勝
2014/11/27

公的年金制度の“今”を知る 【第4回】「公的年金制度の今後を考える」

公的年金制度の“今”を知る 【第4回】 (最終回)  「公的年金制度の今後を考える」   特定社会保険労務士 大東 恵子   1 女性の労働参加と少子化脱却という2つの課題の同時達成 6月3日に公的年金制度の今後を考えるうえで非常に重要な「平成26年財政検証結果」と「オプション試算結果」が厚生労働省から発表された。 公的年金は、少なくとも5年ごとに財政見通しを作成し、年金財政の健全性を検証することとされ、今年はちょうどその5年ごとの年に当たった。平成21年以来、2回目の検証となるが、今回の試算では、前回「前提が甘い」という批判を受け、8パターンの経済前提で計算された。 現在の公的年金制度は、少子高齢化と連動させて受給できる年金額を削減することにより財政のバランスを保つ仕組みになっている。今回の財政検証結果を読み解くにあたっても、私たちは「将来、受給できる年金がどこまで減るのか」を見ることになる。特に、将来のモデル世帯の年金水準が、法律で決められた下限(現役世代の平均手取り収入の50%)を超えているかどうかが、判断のポイントとなる。 今回の財政検証結果では、計算の前提に「女性」の労働参加を見込むかどうかで、結果が大きく分かれることが明らかになった。 女性の労働参加が進むパターンが実現すれば、将来の給付水準が法律で定められた下限を上回る結果になるものの、女性の労働参加が進まないパターンの場合、法定の下限を下回る結果となった。また、女性の労働参加が進むパターンでも、将来の日本全体の出生率が全国最下位の東京並みに低下すれば、給付水準が下限を下回る結果となった。 「女性の労働参加」と「少子化脱却」という2つの課題の同時達成、すなわち、男女が協力して子どもを産み育てながら仕事を続けられる社会の実現が、公的年金ひいては日本の未来を左右する重要な鍵となることが改めて見て取れる。 このようなケースを「実現困難」と捉えず、子どもを育てながら仕事を続けられる社会の実現に向けて社会をどう変えていくか。政治は、現役世代の保険料を担う側の社会的進出を促進する具体策の検討に注力すべきだろう。   2 若年世代と公的年金制度 厚生労働省の調査(平成23年)によると、20代の国民年金の第1号被保険者のうち保険料の支払い義務がある人(学生納付特例など納付の猶予・免除者を除く)の約46%が保険料を滞納している。 ここでは、20代で保険料を滞納した理由から、若年世代と公的年金制度の未来を考えてみる。 滞納理由のうち最も多い理由は「保険料が高く納付が困難」である。 若年世代の国民年金加入者のうち、非正規労働者の比率は20代前半では約38%、20代後半でも34%と高く、そもそも収入の少ない若年世代にとって保険料を納付し続けること自体に困難を伴っているのが現実である。若年世代が保険料を納付できない現状が意味すること、若年世代の雇用対策など根本的な社会構造が是正されない限り、年金制度に未来はない。 滞納理由のうち2番目に多い理由は、「公的年金制度や厚生労働省が信用できない」という『年金不信』であった。 根拠のない「年金破綻説」や「年金保険料の払い損説」など、年金不安を煽る一部世論に影響されている側面があることは否定できない。第3回でも述べたが、年金制度は、財政的に均衡するよう給付を抑制するか負担を引き上げれば持続可能である。また、老齢年金は生涯支給されるため、若年世代でも寿命によっては負担した保険料以上の給付を受ける可能性がある他、障害年金や遺族年金まで考えれば、必ずしも保険料の払い損ということはない。 滞納理由の3番目に「うっかり忘れた」がある。 これは、年金保険料の納付しやすい環境整備として、平成16年2月からはコンビニでの納付、同年4月からはインターネットによる納付、平成17年4月からは口座振替による保険料割引制度、平成20年2月からはクレジットカードによる納付と、若年世代が納付しやすい環境を広げてきた。 それでも「うっかり忘れた」という理由が挙げられる背景には、若年世代の公的年金制度に対する意識の希薄さ、また根底には根深い年金不信の影響も無関係とは言えないだろう。滞納が続けば将来、年金が受給できない場合もある。若年層が保険料を納付する意識を高める啓蒙が必要である。   3 おわりに これまで4回にわたり、公的年金制度の過去・現在・未来を考えてきた。これまでの考察で見えてきたことには、少子高齢化を背景に、公的年金制度の維持のためには、財政的に何らかのリスクや痛みを伴う改革を断行すること、そして女性や若年世代の雇用環境の改善が不可避であることが確認できた。これらの問題解決は、最終的には政治の力に委ねるしかない。 一方で、私たち国民がこれからの公的年金制度をどう考えるか。予測することができない人生の将来のリスクは、個人だけで備えるには限界がある。そして、日本国内に住所のあるすべての人が公的年金保険料は加入を義務づけられているという原点に立ち返ると、究極的には、「生きている限り、生活の一部を支える現金を受け取ることができる」安心感を担保するための「税金」と同様なのかもしれない。 (連載了)

#No. 96(掲載号)
#大東 恵子
2014/11/27

現代金融用語の基礎知識 【第12回】「日本版コーポレートガバナンス・コード」

現代金融用語の基礎知識 【第12回】 「日本版コーポレートガバナンス・コード」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 日本版コーポレートガバナンス・コードとは 日本版コーポレートガバナンス・コードとは、日本の上場企業における望ましいコーポレートガバナンスのあり方を示すものであり、現在、金融庁と東京証券取引所を事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」において、その内容が検討されている。平成27年6月頃までに東京証券取引所がその規則として策定する予定である。 以前解説した日本版スチュワードシップ・コードは、日本の上場企業のコーポレートガバナンスの質を向上させるために、機関投資家の投資先企業への適切な関与の仕方についての指針を示すものであるが、日本版コーポレートガバナンス・コードの方は、日本の上場企業自体に対してコーポレートガバナンスの指針を示すものである。 なお、日本版コーポレートガバナンス・コードは、上述のとおり東京証券取引所の「規則」として策定される予定ではあるが、日本版スチュワードシップ・コードと同様に、「しなければならない」規則ではなく、あくまで「すべきである」原則であり、日本の上場企業すべてが受け入れなければならないものではない。ただし、受け入れない場合には説明が必要とされる(コンプライ・オア・エクスプレイン)。   2 そもそもコーポレートガバナンスとは 日本版コーポレートガバナンス・コードは、日本の上場企業における望ましいコーポレートガバナンスのあり方を示すものなのだが、そもそもコーポレートガバナンスとは何なのだろうか。何となく分かるようでいて、正確に説明しようとすると、困ってしまうのではないだろうか。 コーポレートガバナンス(corporate governance)は、日本語では「企業統治」と訳されるが、実はそれには明確な定義があるわけではない。様々な言説の中で定義付けされることがあるが、それらは同一であるとは限らず、また、社会や時代によっても定義が異なることがある。 コーポレートガバナンスの様々な定義に共通する部分を抽出し、あえて最も簡潔な定義付けを行うとするならば、「企業が適切な意思決定を行うための仕組み」といえるのではないかと筆者は考えている。 企業には様々な利害関係者が存在するため、企業の意思決定はそれらの意向を踏まえて行われる必要がある。しかし、様々な利害関係者の意向をどのように企業の意思決定に反映させるのかについて何らかの仕組みが存在していなければ、混乱し、適切な意思決定など不可能なはずである。その仕組みがコーポレートガバナンスなのである。   3 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容 「企業が適切な意思決定を行うための仕組み」という定義は、抽象的でわかりにくいかもしれないが、具体的には、わが国の場合、その仕組みは「会社法」という法律において定められている。株主総会、取締役会、代表取締役、監査役といった言葉は聞いたことがあるだろう。それらがコーポレートガバナンスを具体的に構成する要素である。 日本版コーポレートガバナンス・コードにおいては、それらの望ましいあり方が示される。具体的な内容は、現時点では分からず、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」の議論の結果を待たなければならないが、OECD(経済協力開発機構)コーポレートガバナンス原則が参考になるかもしれない。コーポレートガバナンス・コードは欧米各国において定められているのだが、それらは各国の事情に応じて異なる。それに対して、OECDコーポレートガバナンス原則は、各国に適用可能なものとして定められているので、日本版コーポレートガバナンス・コードの内容も、それとかけ離れたものにはならないだろう。 【OECDコーポレートガバナンス原則の構成】   4 適当な社外取締役の人数 平成27年中に施行される改正会社法では、経済界の反対により、社外取締役設置を義務付けることは見送られた。しかし、監査役会設置会社(公開大会社に限る)のうち、その発行する株式について有価証券報告書の提出義務が課される会社は、社外取締役を置かない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を定時株主総会で説明する必要があるとされた。したがって、上場企業には、最低1名の社外取締役の設置が実質的に義務付けられたといえる。 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容についての議論で最も難航しそうなのが、この社外取締役の人数である。 さらに複数の社外取締役を置くよう求めるべきとする意見がある一方、当然のことながら経済界の側はこれに反対している。複数の社外取締役を置くべきとする意見は、外部の客観的な視点を経営に反映させるのが望ましいという考えに基づくのだが、企業側にとっては、適当な社外取締役を複数確保するのはハードルが高い。また、社外取締役といっても、企業とまったく無関係の人物が就任するわけではなく(結局、経営者の「お友達」かもしれない)、その意義に懐疑的な意見もある。 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容がどのようなものになるのか、そして、それをどの程度の上場企業が受け入れるのか、現時点では分からない。しかし、確実であるのは、内向きの経営はもう許されないということだろう。  (了)

#No. 96(掲載号)
#鈴木 広樹
2014/11/27

〔小説〕『東上野税務署の多楠と新田』~税務調査官の思考法~ 【第2話】「赤羽のスナックにて」

〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第2話】 「赤羽のスナックにて」 税理士 堀内 章典   ▼   ▲   ▼ 上野のとある日本料理店の座敷で、酒を酌み交わす6名の男女がいた。 東上野税務署法人課税第5部門の田村統括官をはじめとする5名の部下、新田調査官と多楠調査官、そして他署から異動してきた三浦上席調査官、小泉調査官、淡路調査官が初めてそろった部門の顔合わせ会である。 調査官の序列は、小泉、新田、淡路、多楠といった並びである。 淡路調査官は女性で、今回の異動で希望が叶い、十条税務署管理運営部門から法人の調査部門に配属になった。法人課税第1部門の経験はあるが、調査は多楠と同じく初めてである。三浦上席が淡路の指導役として指名されていた。 同じ部門に調査経験1年目の調査官が2人、職員の若返りが進んでいる最近の税務署ではけっして珍しい配置ではない。ベテランの調査官が毎年続々と定年で退官し、新たに採用された若手職員が調査官として調査部門に補充されているというのが主な理由である。 飲み会も開始から30分を過ぎ、メンバーが席の移動を始めたころ、末席にいた多楠ははじめに田村にビールを注ぎに、次に新田のところに行った。新田は東北出身ということもあり(1部門で同じだった先輩から聞いた)、先ほどから手酌で一人、冷酒を飲んでいた。 多楠が新田に対しあいさつ以外で言葉を交わすのは初めてであった。 恐る恐る冷酒を注いだが、緊張で少々手が震えていた。 「新田先輩、よろしくお願します。調査は初めてなのでいろいろと教えてください。」 新田は冷酒の入った杯を見つめながら、ポツリと言った。 「多楠、お前、なぜ調査部門に来た。」 多楠 「専科(国税専門官採用の職員の通称)は法人課税部門の内部事務を1年やったら必ず次の年は調査部門に配属になるようです。」 新田 「そんなことは百も承知。俺はおまえ自身の気持ちを聞いているんだ。」 多楠は戸惑いながら 「僕は1部門にいたころから早く調査に出たくて仕方なかったのです。大学の商学部で会計学を専攻していましたし、ゼミで2年間、みっちり租税法も勉強しましたので、調査で自分の力を試してみたいのです。」 それを聞いた新田は苦笑を浮かべ、初めて多楠に顔を向けた。 「じゃお前に聞くが・・・調査で一番大切なもの、なんだと思う?」 少し思案した多楠 「やはり仕事に対する意気込み、調査への情熱ですか。」 新田 「・・・・・・。」 多楠 「それに税法や通達を日ごろから勉強して、それを調査で活用することですか。」 先ほどから淡路と会話を始めた田村統括官が、心配そうに多楠の方をチラチラ見ている。 その視線を感じた新田は小さな声で 「多楠、お前このあと俺につき合え。いいな。」 もともと体育会系なので、先輩から無理難題を言われるケースには慣れている。心の内は顔に出さないように心がけたが、“まさかあの新田さんから誘いを受けるなんて”、目が点になる多楠であった。 「わかりました。よろしくお願いします。」 ▼   ▲   ▼ 顔合わせ会はその後1時間半ぐらいで終了、5部門のメンバーは三々五々解散した。皆にあいさつをして別れた多楠は、新田に指定された上野駅前にある大型電気店の入り口で、再び落ち合った。 多楠が待ち合わせ場所に到着すると、新田はすでにイライラした様子でタバコをふかしながら待っていた。 酒に強いと思われる新田であったが、2時間以上冷酒を呑んでいたので頬のあたりがやや赤く染まっている。しかし、あいかわらずのしかめっ面。 新田は多楠の顔を見るとすぐに 「行くぞ。」 と言って、さっさとタクシーに乗ってしまった。 多楠もあわててタクシーに乗り込むと、新田は運転手に赤羽に行くよう告げ、うたた寝を始めた。 多楠が聞いた話によれば、新田は山形出身で地元の高校を卒業したあと、家庭の事情で大学進学ができず、仙台国税局初級(普通科)採用として税務職員になったらしい。 多楠は思った。“新田が常々冷たい態度を取っていたのは、新田が多楠との境遇の違いを肌で感じていたからなのか?” 沈黙のうちにタクシーは赤羽の路地裏にある一軒のスナックに到着した。新田がスナック「かわばた」のドアを開けると、ママと思わしき40代後半の女性がカウンター越しに甲高い声で声をかけてきた。 「あら新田チャンいらっしゃい。今日は珍しくお連れさんがいるのね。」 スナックは横長の狭い店で、奥の方に3人ほど先客がいてカラオケを熱唱していた。 店に入ってすぐの席に案内された新田と多楠に、ママが近づいてきた。 「新田チャンどうだった? 税務署転勤したの?」 「いいや、残留。」 「あらそう、でも転勤したからといってご栄転とは限らないし、新田チャンなら間違いなく偉くなるはずだわ。仕事ができる男って、見ればわかるもの。」 (“新田、チャン?”) 新田はどうやらこの店の馴染みらしい。多楠は、このママが新田の勤め先、しかも民間からすればけっして快く思われない税務署の調査官であることを知っていることに驚いた。 新田は席に着き、水割りを二杯一気に飲み干した後、歌詞カードを広げるや、最近流行のポップスを歌い出した。歌はけっしてうまい方ではなかったが、熱唱するタイプのようだ。普段のクールな新田とは異なる姿を、ただ驚き、見つめるだけの多楠であった。 ▼   ▲   ▼ 会話らしい会話もないまま、どのくらいの時間が経っただろうか。ようやく店を引き上げようとしたとき、新田は多楠の方をまっすぐ見て言った。 「多楠、さっき聞いたことをもう一度聞く。・・・調査で一番大切なものはなんだ?」 「えっと・・・・・・」 答えを探している多楠に向かって、新田は小さな声であったがきっぱりと言った。 「それはな、不正を見つけることさ。税金をごまかしてスマしているヤツを絶対に見逃さないことだ。」 そう言い終わると新田はすばやく支払いを済ませ、店を出て通りへ出るなりタクシーをつかまえ、多楠に見向きもせずにさっさと帰ってしまった。 “新田さんはいったいオレに、何を言いたかったんだろう・・・” 今日の会話や立ち振る舞いで、ますます“新田”という男がわからなくなった多楠。 先が思いやられる長い長い一日が、ようやく終わった。 (続く)

#No. 96(掲載号)
#堀内 章典
2014/11/27

《速報解説》 ASBJより「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表~6月改正に続きリース契約変更時の取扱いについて新たに規定~

《速報解説》 ASBJより「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表 ~6月改正に続きリース契約変更時の取扱いについて新たに規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年11月21日付で、 企業会計基準委員会は、「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第43号(実務対応報告第31号の改正案))を公表し、意見募集を行っている。 「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第31号)については、平成26年6月30日付で、すでに公表されている(詳細はこちらの拙稿を参照)。 ただし、同実務対応報告において、契約変更時の借手の会計上の取扱いについて別途定めることとされていたため(実務対応報告第31号、13項)、これに関する取扱いについて、公開草案を公表するものである。 意見募集期間は、平成27年1月21日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 リース・スキームにおけるリース契約の変更の取扱いについて、以下のように会計処理を行う。 公開草案では、次の設例が示されている。 1 ファイナンス・リース取引かどうかの再判定 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された場合のファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの再判定にあたっては、契約変更時に、契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日に遡って判定を行う(公開草案3項、6項)。 判定を行うにあたって、借手が現在価値基準を適用する場合において現在価値の算定のために用いる割引率は、契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日における貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率とし、知り得ない場合は契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日における借手の追加借入に適用されていたであろうと合理的に見積もられる利率とする(公開草案7項)。 2 オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引への変更 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された結果、オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引となるリース取引については、契約変更日より通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う(公開草案8項)。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、リース適用指針23 項から30項の方法に準じて会計処理し、所有権移転ファイナンス・リース取引については、リース適用指針38項から44項の方法に準じて会計処理する。 リース物件とこれに係る債務をリース資産及びリース債務として計上する場合の価額は、原則として①の方法による。ただし、当該リース資産及びリース債務の価額を②の方法によることもできる(公開草案9項、25項)。   Ⅲ 適用時期 適用時期は、公表日以後適用する。 (了)

#No. 95(掲載号)
#阿部 光成
2014/11/26

Profession Journal No.95が公開されました!~今週のお薦め記事~

2014年11月20日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル)  No.95 が公開されました。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2014/11/20

日本の企業税制 【第13回】「解散・総選挙で平成27年度税制改正はどうなる」

日本の企業税制 【第13回】 「解散・総選挙で平成27年度税制改正はどうなる」   一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久     1 はじめに 安倍総理は、18日(火)夜の会見で、消費税率10%への引上げを2017年4月まで18ヶ月延期し、国民にアベノミクスへの信を問うために、11月21日(金)に衆議院を解散することを表明した。 当然ながら来年度税制改正や予算編成は中断し越年は免れないであろうが、その場合、平成27年度税制改正、とくに法人税制改正にはどのような影響が出るのであろうか。 あくまでも予測でしかないが、あり得るシナリオを考えてみたい。   2 消費税率引上げは延期へ まず、消費税率10%の引上げ時期の先送りは、どのような意味を持つのであろうか。 もともと、一体改革法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)附則第18条第3項では とされているが、これは「経済財政状況の激変にも柔軟に対応する」ための規定であった。 11月17日(月)に公表された7-9月のGDP(第1次速報値)は、年率換算で実質マイナス1.6%であり、4-6月の消費税率8%への引上げの反動減をカバーしきるものではないが、決して「激変」とはいえないものである。むしろトレンドとしては、プラスの方向に向かっていることが見て取れるものである。 にもかかわらず引上げ延期とするのは、アベノミクス第3の矢である成長戦略が確実に効果を表すまでは、消費への悪影響があることが確実である消費税率引上げは、先送りするとの判断であろう。 一方で、先送りをするのであれば、財政再建に大きなマイナスとなる。安倍総理は、プライマリーバランスを2020年に回復させるとの財政再建目標を維持すると言明しているが、そのためには、社会保障支出抑制をも含む、厳しい歳出削減に取り組む必要がある。 また、消費税10%時とされていた軽減税率の導入については、消費税率引上げ延期により時間的余裕を得たことで、自民・公明両党間で、平成27年度税制改正とりまとめに向けて具体的な姿が示される可能性が高くなったが、本件については別の機会に述べることとしたい。   3 平成27年度税制改正への影響 解散総選挙となれば、平成27年度税制改正作業も中断するが、投票日が12月14日であれば年内に与党税制調査会が再開でき、越年しても1月初めには与党大綱とりまとめが可能である。 時期以上に注視すべきは、与党選挙公約の中で税制にどのような言及がなされるのかである。 既に地方創生や景気対策として様々な税制措置が取り沙汰されているが、これらが公約に盛り込まれることとなれば、与党の税制改正審議を待たずに既定路線となる。 また、大型の所得税減税等の予想外の内容が公約に入れられれば、平成27年度改正の枠組み全体が変わることにもなりかねない。   4 法人税改正は予定通りか 一方で、解散・総選挙や消費税率引上げ先送りが、法人税改正へ与える影響はさほど大きくないと考えられる。 当初より、法人実効税率引下げの財源としての法人税課税ベースの見直しや法人事業税の外形標準課税の拡大は、消費税議論が本格化する11月中旬までに、事務的な調整を終えることを前提として進められており、ほぼ9割方まで終えた段階である。解散・総選挙による中断があるとしても、再開までには財源問題は整えられているはずである。 ただし、事務的な調整では、実効税率については触れられていない。 法人税課税ベースの見直しや法人事業税の外形標準課税の拡大は段階的に実施することとなるので、現状で課税当局側が考える財源額を税収中立レベルで実効税率に換算すれば、平成27年度(初年度)べースで、2.1~2.2%程度となる。 11月10日の経団連との会合で宮沢経済産業大臣は、平成27年度で2.5%以上の実効税率引下げに言及している。自民党経済産業部会では3%の引下げを主張しており、選挙公約に具体的な税率引下げ幅が言及されるかどうかに注目していきたい。 (了)  

#No. 95(掲載号)
#阿部 泰久
2014/11/20

〈平成26年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第4回】「『保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書』記載内容の検討」

〈平成26年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第4回】 「『保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書』記載内容の検討」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子     (1) 申告書の受領時期 保険料控除申告書の記載内容に基づいて、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除の4つの控除が適用され、配偶者特別控除申告書の記載内容に基づいて、配偶者特別控除が適用される。 これらの控除は、源泉徴収の時には考慮されず、年末調整で適用を受ける。よって、給与の支払いを受ける者は、保険料控除申告書と配偶者特別控除申告書を、その年最後の給与の支払いを受ける日の前日までに給与の支払者に提出することとされている(所法195の2①、196①)。   (2) 保険料控除申告書の記載内容の検討と注意点 ① 基本的事項 保険料控除申告書を提出する場合には、ほとんどの保険料について〈表1〉のとおり、証明書の添付が求められている(所法196②、所令319)。 控除の対象となる保険契約や掛金、受取人の範囲等については、所得税法等で詳細に規定されているが、実務的には添付された証明書により、保険料の内容及び控除の対象となる金額を確認することができる。 したがって、保険料控除申告書に記載される4つの控除の年末調整業務は、次の2つとなる。 〈表1〉 証明書の添付が求められる保険料の範囲 ② 生命保険料控除 申告された保険料について、一般の生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料の区分を確認し、生命保険料と個人年金保険料については、旧契約と新契約のどちらに該当するかを検討する。 従業員等が、最近の税制改正の内容を十分に理解していないことも多く、申告漏れや記載誤りが散見されるため、事前に制度の周知を行うとともに、申告書と証明書の内容を十分に照らし合わせることが必要である。 なお、生命保険料控除についての詳細は、拙稿「平成24年分おさえておきたい年末調整のポイント ①今年度適用となる改正事項」(本誌創刊準備2号掲載)及び「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「生命保険料控除について」」(本誌No.42掲載)をご覧いただきたい。 【誤りやすい事例】 ③ 社会保険料控除 保険料控除申告書で申告する社会保険料は、給与から徴収される社会保険料以外の保険料である(所法196①二)。 自分自身が負担すべき社会保険料の他、生計を一にする配偶者やその他の親族が負担することとなっている社会保険料を支払った場合にも、その金額を控除の対象とすることができる(所法74①)。 例えば、子の国民年金保険料を親が支払った場合や、妻の国民健康保険料を夫が支払った場合には、名義人ではなく実際に保険料を支払った親や夫が控除を受けることになる。 なお、上記〈表1〉に記載のとおり、国民年金保険料と国民年金基金の掛金を申告する場合には、証明書の添付が求められる(所令319一)。これら以外の社会保険料(例:国民健康保険料、介護保険料)を申告する場合には、証明書を添付する必要はない。 【誤りやすい事例】   (3) 配偶者特別控除申告書の記載内容の検討と注意点 配偶者特別控除を適用する場合の主な要件は、次の3つである(所法83の2①②)。 配偶者の所得要件だけでなく、本人の所得要件もあるので注意が必要である。 (注) 「合計所得金額」については、前回の解説を参照いただきたい。 【誤りやすい事例】   (4) 保険料控除申告書、配偶者特別控除申告書の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 *  *  * 次回は、「住宅借入金等特別控除申告書」を取り上げる予定である。 (了)

#No. 95(掲載号)
#篠藤 敦子
2014/11/20

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第14回】「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括③」

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第14回】 「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括③」   公認会計士 佐藤 信祐   2つの東京地裁平成26年3月18日判決については、初めて包括的租税回避防止規定が適用されたものであり、実務家の注目度も極めて高いものとなっている。 本稿においては、平成24年5月14日付鑑定意見書で触れられているグループ内の組織再編成による繰越欠損金の引継ぎについて考察を行うものとする。 ④ グループ内合併による繰越欠損金の引継ぎ 平成24年5月14日付鑑定意見書においては、 と記載されている。 また、近年においては、繰越欠損金の繰越期限が9年に延長されたことから、支配関係が生じてから5年待つという行為が想定されるため、財務省主税局で法人税法の立法に関与されていた佐々木浩氏は、 とした上で、 と指摘されている(※1)。 (※1) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』大蔵財務協会59頁 しかしながら、本鑑定意見書は、さらに一歩進んで、「親会社が自ら設立したり長期にわたって株式を保有している100%子会社」が保有している繰越欠損金を吸収合併で引き継ぐという行為を問題視しており、一歩進んだ解釈となっている。 たしかに、事業を抜き出してから、抜け殻になった会社を吸収合併するような場合には、長期的な100%子会社であったとしても問題視すべき場合もあり得るであろうし、この点については、佐々木浩氏も指摘されている(※2)。 (※2) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)前掲書130頁 本鑑定意見書については、単なるペーパー会社となった子会社について問題としているのか、このような事業を抜き出して、抜け殻になった子会社を吸収合併するようないわゆる繰越欠損金飛ばしスキームを問題としているのかについては、それほど明確には記載されていない。本事件においては、合併の前に分社型分割が行われており、繰越欠損金飛ばしスキームの変形ともいえるものであることから、それを念頭に置いたものと考えられなくもないが、これはあくまでも推測の域を出ない。 しかしながら、事前に事業を移転させるのではなく、単なるペーパー会社として放置されていたような100%子会社を吸収合併するような行為については、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 なぜならば、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、完全支配関係のある子会社を解散し、残余財産が確定した場合についても、親会社に繰越欠損金を引き継ぐことが可能になったため(法法57②)、そもそもとして、法人税の負担を不当に減少させたことにはならず、包括的租税回避防止規定を適用すべき事案ではないと考えられる。 そうなると、親会社が子会社を吸収合併する場合ではなく、他の子会社が吸収合併する場合については、繰越欠損金が引き継がれる法人が異なってくることから、法人税の負担が減少することも考えられるため、この場合には問題になりそうであるが、親会社が吸収合併をしようが、他の子会社が吸収合併しようが、解散させようが、事務上の手間はほとんど変わらないため、経済人として不自然・不合理な行為であるとまではいうことはできず、さらに、制度の趣旨・目的などから考えても、子会社から親会社にすべての資産および負債とともに繰越欠損金が移転するのは問題がなく、子会社から他の子会社にすべての資産および負債とともに繰越欠損金が移転するのは問題であるとするのは理路整然としないため、この点についても問題とすべきではないと考えられる。 さらに、前述のように、事業を抜き出してから、抜け殻になった会社を吸収合併するような場合であっても、実務上は、完全に抜け殻にすることはほとんどなく、主要な固定資産や借入金を残しておくことが一般的である。 なぜならば、例えば、事業を新会社に移転させた後に、旧会社を親会社に吸収合併させる場合において、当該旧会社に繰越欠損金が存在していたということであれば、新会社において新たに繰越欠損金が生じる可能性も否定できず、新会社においては資金調達能力に疑義が生じることも考えられる。むろん、親会社において連帯保証を行えば足りることであるが、金融機関との関係を考えた場合には、今後、必要となる設備投資に備えるために、主要な固定資産や借入金を親会社に移転した方が望ましいということも生じる。さらに、新会社に移転する資産は限定的にした方が望ましいということもあり、有価証券などを残しておくということも考えられる。このように完全に抜け殻にするということは考えにくく、実務上、大きな問題になったということはあまり聞かないというのも実態である。 本事件において、朝長英樹氏が鑑定意見書において敢えてこの点について触れたのは、いわゆる繰越欠損金飛ばしスキームと取締役副社長の送り込みという組み合わせが存在していたからであると想定され、実務上、今までとそれほど変わらない対応になると考えられる。 次回においては、平成24年7月12日に提出された補充意見書について考察を行うこととする。 (了)

#No. 95(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/11/20
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