空き家をめぐる法律問題 【事例59】 「区分所有法の改正要綱案を踏まえた専有部分の管理方法」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私が区分所有するマンションの一室は、区分所有者が行方不明になっており、管理費の滞納が続いています。玄関ドアの郵便受けから室内を見ると、ごみが散乱した状態となっており、住環境の悪化が懸念されます。空き家となった専有部分等の管理を適正化し、滞納管理費を回収するために、どのような方法がありますか。 1 はじめに 区分所有者が管理費を滞納したまま行方不明となり、専有部分等の管理が適正に行われていない事例が少なからず存在する。このような問題の対処方法は、現行法にも存在するが、法務省の法制審議会区分所有法制部会が令和6年1月16日に公表した「区分所有法制の見直しに関する要綱案」(以下「改正要綱案」という)には、上記のような問題にも利用できる所有者不明専有部分管理制度等の新たな財産管理制度も含まれている。 そこで、本事例では、現行法による方法とともに所有者不明専有部分管理制度について解説することとしたい。なお、改正要綱案を踏まえた建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)の改正法案は、令和6年秋の臨時国会に提出される見込みである。 2 従来の解決方法について (1) 不在者財産管理人による任意売却 管理費を滞納している区分所有者が行方不明である場合、他の区分所有者や管理組合(以下「他の区分所有者等」という)は、利害関係人として不在者財産管理人(民法第25条)の選任を申し立てることができる。 不在者財産管理人は、専有部分の管理を行うほか、管理費等の滞納を止めるために、裁判所の許可を得て区分所有権を第三者に任意売却することもできることから、管理権限の行使を通じて専有部分の管理の適正化を図ることが可能となる。 不在者財産管理人が裁判所の許可を得て任意売却をする場合で、抵当権者のような滞納管理費に優先する債権者がいないときは、他の区分所有者等は、売却代金から滞納管理費の弁済を受けることができる。 また、優先する債権者がいるときでも、売却代金が競売に比べて高くなる傾向があることや、区分所有権の取得者が滞納管理費の責任を負うこと(区分所有法第8条)を踏まえ、売却代金から滞納管理費を優先的に控除することについて、優先する債権者が同意する可能性もある(ただし、優先的に控除できる範囲は、滞納管理費の元金の一部に限定され、遅延損害金等は除外される可能性がある)。 (2) 区分所有法に基づく競売 区分所有法は、管理費のような規約等に基づいて区分所有者に対して有する債権について先取特権(同法第7条)を与えている(先取特権の行使として競売を行う)。また、多額の管理費を長期間にわたって滞納することは、共同利益違反行為(同法第6条)に該当しうるところ、一定の要件を満たす場合に競売の請求(同法第59条)も認められている。競売を通じて区分所有権を取得した者による専有部分の管理の適正化を期待することができる。 先取特権に基づく競売を行う場合に、抵当権者等の滞納管理費に優先する債権者がいないときは、他の区分所有者等は滞納管理費の弁済を受けられることになる。しかし、先取特権に基づく競売を申し立てても、これに優先する債権者等がいるため、剰余金が生じないと見込まれる場合には、当該競売手続は無剰余取消しとなる(民事執行法第188条、同法第63条)。 そこで、区分所有法第59条の競売請求以外の方法によって、共同利益違反行為を解消しえない場合には、管理費を滞納している区分所有者を除く区分所有者の全員又は管理組合法人は、無剰余取消しの適用のない同条に基づく競売請求の訴えを提起することが考えられる。 その後の競売手続は、滞納管理費を踏まえた区分所有建物の減額評価を行い実施されることになり、区分所有権の取得者は、他の区分所有者等に対して区分所有法第8条に基づいて滞納管理費や遅延損害金等の支払義務を負うことになる。 3 創設予定の所有者不明専有部分管理制度について 上記2の(1)の不在者財産管理制度は、不在者の財産全般を管理する制度であるため、予納金の額も含め管理コストが高くなる可能性がある。なお、令和3年の民法改正によって、所有者不明建物管理制度(民法第264条の8)が創設されたが、当該管理制度は区分所有建物には適用されない(区分所有法第6条第4項)。 また、上記2の(2)の競売申立ての可否は、抵当権者等の優先する債権者の有無、当該債権の額、共同利益違反行為の該当性の有無等によって影響を受ける。 改正要綱案では、区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分等を管理するため、所有者不明建物管理制度を参考にした「所有者不明専有部分管理制度」が創設される予定である。所有者不明専有部分管理人は、不在者財産管理人と異なり、専有部分等に特化した管理制度であるため、不在者財産管理人に比べて低い管理コストで専有部分等の適正な管理を実現できるようになると考えられる。 所有者不明専有部分管理人は、利害関係人(区分所有者、管理組合法人、当該専有部分の購入希望者等)からの申立てによって選任される。所有者不明専有部分管理人は、保存行為や専有部分等の性質を変えない範囲内で利用又は改良を目的とする行為のほかに、裁判所の許可を得て専有部分等の任意売却を含む処分を行うこともできる。 一方で、区分所有者の負う滞納管理費の支払債務は、所有者不明専有部分管理人の管理対象ではないため、当該債務の弁済は、所有者不明専有部分管理人の職務の内容に当然には含まれない。 しかし、専有部分等を第三者に任意売却したことによって得た代金は、管理対象財産となることから、第三者による専有部分等の適正な管理を実現するため、売却代金を滞納管理費の弁済に充てることが相当と認められるような事情がある場合には、その代金を債権者に弁済することについて、裁判所の許可を得て弁済することもできると考えられる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第79話】 「国会における質問主意書と答弁書」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 昼休みに、中尾統括官は、「派閥からの還付金(キックバック)の税務上の扱いに関する質問主意書」を熱心に読んでいる。 国会議員(衆議院議員又は参議院議員)は、国会開会中、議長を経由して内閣に対し文書で質問をすることができ、これを「質問主意書」という(国会法74)。一方、内閣は、当該質問に対して、議長に「答弁書」を提出することになる。これらの質問主意書及び答弁書は、衆議院又は参議院のホームページから見ることができる。 中尾統括官が読んでいるのは、国会議員の江田憲司氏が内閣に対し、令和6年2月5日に提出されたものである。その答弁書は、同月16日に受理している。 中尾統括官は、上記の質問主意書を読みながら、大きく頷く。 「・・・これは、どう考えても・・・議員個人の雑所得になるだろう・・・政治資金収支報告書に意図的に記載しなかったのだから・・・」 そう呟くと、中尾統括官は、これに対する答弁書を読む。 この答弁書は、一般論と断りながら、政治家個人に帰属する場合、「雑所得」と取り扱われると答弁しているが、後のページでは、その政治資金の帰属について、「個々の事実関係に基づき判断する必要があり」とし、「『還付金』を『交付』した者の当該『交付』に係る意図等のみで判断するものではない」と回りくどく述べ、結局、答弁書には、結論が示されていない。 そこに昼食後の浅田調査官がやってくる。 「・・・統括官・・・何を読んでいるのですか?」 そう言いながら、浅田調査官は、中尾統括官の机の上に置かれている「質問主意書」と「答弁書」を見る。 「・・・キックバックですか」 浅田調査官は、興味深そうに、覗く。 「・・・政治資金を収支報告書に記載せずに、政治家又はその秘書がお金を管理していたら、それは・・・常識的に考えると、個人に帰属するものと認識するのが一般的だと思うのですが・・・」 浅田調査官は、税務調査の経験から持論を述べる。 浅田調査官は、A4の用紙で3~4頁しかない質問主意書と答弁書を読みながら、不満そうに言う。 そして、浅田調査官は、キックバックへの課税について整理するために、図を描く。 「浅田君・・・君は、なかなか図が上手いね」 中尾統括官は、腕を組みながら、頷く。 「・・・キックバックが、政治団体に帰属するためには、収支報告書に記載しなければならないのですが・・・これを意図的に記載していなければ、議員個人に帰属すると考えるのが、税金の世界では当然だと思うのですが・・・」 浅田調査官は、図を見ながら言う。 「・・・ところで、政治団体については、過去に、国会議員の稲田朋美氏が内閣に質問しており、その答弁書(平成22年3月12日)では、次のように政治団体は、『権利能力なき社団』に該当すると記載している・・・」 中尾統括官が政治団体の性格について、説明する。 中尾統括官は、言葉を続ける。 「・・・したがって、権利能力なき社団は、法人税法上、人格のない社団等に該当する(法法3)ことになる・・・そうすると、人格のない社団等は、収益事業のみが課税対象となっている・・・そして、この収益事業(法法2十三)は、法人税法で34種類の事業(法令5①)が挙げられており、その中に、政治献金は含まれていない・・・」 中尾統括官は、税務六法で確認しながら、話す。 「・・・しかし、今回のキックバックは、国会議員個人に帰属すると認識するのが、常識だと思うのですが・・・裏金が指摘されたから、訂正した収支報告書を提出するなんて、後出しジャンケンのようで・・・納税者である国民が納得するわけがない」 浅田調査官の声が高くなる。 「ところで、裏金が雑所得の収入金額になる場合、その必要経費についてだが・・・」 と言いながら、中尾統括官は、答弁書を読む。 「・・・ということは、必要経費については、当然、他の納税者と同様に、政治家自らが立証しなければならないことになる・・・」 中尾統括官は、ハッキリと言う。 (つづく)
《速報解説》 ASBJが「移管指針の適用(案)」等を公表 ~会計士協会からの指針の移管に伴う実務への影響を最小限とするよう方針を定める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年4月3日、企業会計基準委員会は、移管指針公開草案「移管指針の適用(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、日本公認会計士協会が公表した実務指針等について、会計に関する指針のみを企業会計基準委員会に移管するものである。 意見募集期間は2024年6月3日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 移管対象の日本公認会計士協会が公表した実務指針等の所管を、企業会計基準委員会に移すことを主たる目的とし、当該移管により実務を変更しないことを意図することとしている。 このため、公開草案では、実務への影響を最小限とするように、次の方針に基づいて移管することを提案している。 公開草案では、「移管指針の適用」においてこれらの内容を全般的に定め、当該移管指針に個別の移管指針が紐付く体系とすることを提案している。 移管対象となる実務指針等には、「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)、「金融商品会計に関するQ&A」、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)、「持分法会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第9号)、「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第15号)など多くのものがある Ⅲ 適用時期等 移管指針の公表日及び適用日は2024年7月1日以降を予定している。 そのうえで、次の取扱いを設けることを提案している。 (了)
《速報解説》 令和6年度以降の有報の作成・提出に際して留意すべき事項等が 金融庁より公表される ~サステナビリティ開示等の課題対応にあたり参考となる開示例集も示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年3月29日、金融庁は次のものを公表した。 2024年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 今回、有価証券報告書レビューにおいて識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を、別冊付録(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集。表紙を含めて84ページ)として公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集を含む)について 2023(令和5)年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(2024年3月29日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の提出会社に共通して識別された課題に関し、今後の有価証券報告書の作成にあたって留意すべき事項等について述べている。 当該事項を記載している別紙1は、表紙を含めて40ページある。 2023年度の有価証券報告書レビューでは、以下の事項に着目して審査を実施している。 重点テーマ審査では、「サステナビリティに関する企業の取組の開示」について、規定等に基づく形式的な記載の有無に留まらず、開示の趣旨に照らして有価証券報告書の利用者に十分な情報が開示されているか否かについても審査を行ったとのことである。 審査結果を踏まえた留意すべき事項等として、以下の事項等が記載されている。 なお、「留意事項等」には、「法令等に準拠した開示を行うにあたって留意すべき事項」と「開示の充実に向けて参考になると考えられる事項(投資家・アナリスト・有識者の期待・コメント等)」がある。本稿では両者を区別せずに「留意事項等」に記載していることにご注意をいただきたい。 1 サステナビリティに関する企業の取組の開示 2 開示の充実に向けて参考になると考えられる全般的事項 サステナビリティに関する開示の充実に向けて参考になると考えられる全般的事項として、次のことが記載されている。 3 従業員の状況及びコーポレート・ガバナンスの状況等の開示 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(令和6年度) 1 法令改正関係審査 次の法令改正事項について、2024(令和6)年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の全提出会社を対象として審査を行う。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 2 重点テーマ審査 次のテーマに着目し、2024(令和6)年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の提出会社の中から 審査対象会社を選定するとのことである。 2023(令和5)年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令の適用に伴い、有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する記載内容について 自主的な改善に資するよう審査するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 会計士協会、四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューをQ&A形式で解説 ~期中レビュー報告書の文例及び経営者確認書の記載例も示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月28日、日本公認会計士協会は、「期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」」を公表した。 これは、四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューについて、Q&A形式によって解説するものである。四半期連結財務諸表に対する期中レビュー報告書の文例及び経営者確認書の記載例も示されている。 これにより、2024年2月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要とその対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等 東京証券取引所においては、金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しを受けて、次のように有価証券上場制度を見直している。 2 第1・第3四半期財務諸表等の財務報告の枠組み(Q1) 第1・第3四半期財務諸表等の財務報告の枠組みは、次のように整理される。 適正表示の枠組み又は準拠性の枠組みのいずれにより作成するかは、期中レビュー契約の新規の締結又は更新時に確認する。 「適正表示の枠組み」に基づいて作成された四半期財務諸表に対する期中レビューと「準拠性の枠組み」に基づいて作成された四半期財務諸表に対する期中レビューは、いずれも限定的保証であり、保証水準に違いはない。 3 東証短信レビューに適用するレビュー基準等(Q2) 期中レビュー基準は、年度の財務諸表の監査を実施する監査人が行う中間財務諸表その他の期中財務諸表に対するレビューの基準であることから、東証短信レビューを実施する場合(義務付けの場合も含む)、監査人は、期中レビュー基準に従うことになる。 期中レビュー基準の実務の指針として日本公認会計士協会が公表する期中レビュー基準報告書第2号も併せて適用する。 日本公認会計士協会は、期中レビュー基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針として、「金融商品取引法の要請で実施する期中レビュー」又は「金融商品取引法の要請以外で実施する期中レビュー」に適用する、次の2つの報告書を公表している。 東証短信レビューの実施において、「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第2号)を適用する際の留意点は次のとおりである。 4 適正性に関する結論と準拠性に関する結論を表明する場合の期中レビュー手続(Q3) 期中レビューを実施する際は、期中財務諸表の作成に当たって適用された会計基準に準拠しているかどうかに関して必要な質と量の証拠を入手する必要がある。 このことは、適正性に関する結論を表明する場合であっても、準拠性に関する結論を表明する場合であっても同様である。 このため、限定的保証を提供するための期中レビュー手続に違いはない。 適正性に関する結論の判断に際しては、期中財務諸表が表示のルールに準拠しているかどうかの評価と、期中財務諸表の利用者が財政状態や経営成績等を理解するに当たって財務諸表が全体として適切に表示されているか否かについての一歩離れて行う評価が含まれる。 準拠性に関する結論の判断に際しては、財務諸表が全体として適正に表示されているか否かについての一歩離れて行う評価は行われない。 適正表示の枠組みに比して、準拠性の枠組みにおける財務諸表等の開示量が少ない場合には、開示の検討に関する作業量は減少すると考えられる。 適正性に関する結論を表明するに当たっては、追加情報の記載の必要性を検討するなど、財務諸表が全体として適切に表示されているかという観点がある。 一方、準拠性に関する結論を表明する場合はその観点がないため、当該観点からの検討に対応する作業量は減少することが考えられる。 なお、開示の省略が認められる準拠性の枠組みの場合、任意で開示された項目についても準拠性の期中レビューの対象となることに留意する。 5 後発事象(Q5) 第1・第3四半期財務諸表等に係る財務報告の枠組みにおいては、重要な後発事象の注記の省略が可能である。 監査人は、後発事象の手続として、財務報告の枠組みにかかわらず、期中財務諸表において修正又は開示すべき後発事象があるかどうかについて、経営者に質問しなければならない。 会社が「四半期財務諸表等の作成基準」4条2項に基づき開示すべき後発事象(開示後発事象)の注記を省略した場合、準拠性の枠組みにおいては、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項の遵守が求められるのみである。 このため、期中レビュー手続においては、質問の実施が求められるのみであり、基本的にはそれ以外の手続を追加で実施することは求められていない。 6 継続企業の前提(Q6) 第1・第3四半期財務諸表等の作成に当たっては、「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)19項(14)又は25項(12)に基づく継続企業の前提に関する注記が求められており、省略することは認められていない(「四半期財務諸表等の作成基準」4条2項)。 このため、適正性に関する結論を表明する場合であっても、準拠性に関する結論を表明する場合であっても、継続企業の前提に関する手続は同様である。 7 訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する期中レビュー(Q7) 訂正前に公認会計士等による期中レビューを任意で受けた場合においては、訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する公認会計士等による期中レビューは任意となる(「決算短信・四半期決算短信作成要領等」4(2))。 訂正前に公認会計士等による期中レビューを受けていない場合にも、訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する公認会計士等による期中レビューは任意となると考えられる。 公認会計士等によるレビューを受けた第1・第3四半期決算短信に添付される四半期財務諸表等を訂正する場合で、訂正後の四半期財務諸表等について公認会計士等による期中レビューを受けていないときは、その旨を「決算発表資料の訂正」の開示において記載することに留意する(「決算短信・四半期決算短信作成要領等」4(2))。 8 任意の東証短信レビューの契約を締結していない場合の監査人の対応(Q8) 東証短信レビューの契約を締結していない場合においても、年度監査品質の維持の観点から、第1・第3四半期決算のタイミングで、会社の状況や変化を把握するために会社(経営者、監査役等)と十分にコミュニケーションを行うことが考えられる。 例えば、会計上・監査上の論点を先送りすることなく適時に検討することや、会社に対し、相談事項や確認事項等について早めに討議する等の依頼を行うことなどが考えられる。 監査人は四半期財務諸表等の内容を検討する義務を負わないが、四半期財務諸表等において虚偽表示又はその他の記載内容の誤りの存在等明らかに間違った開示の事実を把握した場合には、経営者等に対して当該虚偽表示等の存在を通知することが推奨される。 9 比較情報(Q8) 比較情報については、対応数値方式による開示が求められており(「四半期財務諸表等の作成基準」3条)、期中レビューの結論も対応数値方式によると考えられる。 東証短信レビューは、原則として任意であるため、比較情報に対するレビューが実施されていない場合が想定される。その場合、監査人は、期中レビュー報告書のその他の事項区分に、その旨を記載する。 適用初年度においては、前年度の金融商品取引法における四半期報告書及び有価証券報告書に対し、それぞれ四半期レビュー及び監査が実施されている場合には、東証決算短信レビューの対象となる比較情報に対して期中レビュー報告書のその他の事項区分への追記の必要はないと考えられる。 (了)
《速報解説》 東証、四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等を一部改正 ~新たに「四半期財務諸表等の作成基準」を規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月28日、東京証券取引所は、「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表した。 「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)の施行により、四半期報告書(第1・第3四半期)が四半期決算短信に「一本化」され、その具体的な方向性については、2023年11月22日に、「四半期開示の見直しに関する実務の方針」が公表されている。今回の見直し等は、これらを踏まえたものである。 これにより、2023年12月18日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 四半期決算短信の取扱い 1 開示事項 四半期累計期間(第2四半期を除く)に係る決算の内容の開示において、四半期財務諸表又は四半期連結財務諸表(以下「四半期財務諸表等」という)として、少なくとも次の事項を開示する。 四半期財務諸表等は、「別添9 四半期財務諸表等の作成基準」に準拠して作成するものとし、上記以外の事項については省略できる。 2 四半期財務諸表等の作成基準 四半期財務諸表等の作成基準については、有価証券上場規程施行規則の別添として、「別添9 四半期財務諸表等の作成基準」を規定する。 3 決算短信・四半期決算短信作成要領等 「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2024年4月、株式会社東京証券取引所)が公表されている。 2024年4月1日以降に開始する四半期会計期間又は四半期連結会計期間を含む事業年度又は連結会計年度に係る決算の内容、中間会計期間又は中間連結会計期間に係る決算の内容及び四半期累計期間又は四半期連結累計期間に係る決算の内容を開示する場合には、上記の「決算短信・四半期決算短信作成要領等」に基づいて決算短信及び四半期決算短信の作成・開示を行ってくださいと記載されている。 4 金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関するFAQ 金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関するFAQが公表されている。 例えば、「第1・第3四半期決算短信に添付される四半期財務諸表等に対して期中レビューを受ける場合、開示タイミングや開示方法はどのようにすればよいでしょうか。」、「会計不正に関する調査を開始することとなり、その結果次第では、レビューの義務付け要件に該当する可能性が出てきました。このような場合に留意すべき事項はありますか。」などが記載されている。 Ⅲ 公認会計士又は監査法人によるレビュー 四半期累計期間(第2四半期を除く)に係る四半期財務諸表等に対する公認会計士又は監査法人(以下「公認会計士等」という)による期中レビューを受けることは、原則として任意とする。 例外として、期中レビューを受ける場合が記載されている(直近の有価証券報告書などにおいて、無限定適正意見以外の監査意見が付される場合など)。 これは、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合に限り、公認会計士等によるレビューを義務付けるものである。 Ⅳ 上場規則の実効性の確保 1 上場会社による調査及び調査結果の報告 東京証券取引所が必要と認める場合には、会社情報に関して必要な調査及び調査結果の同取引所への報告を行うものとする。 会計不正等の疑義が生じた場合などに適用することを想定したものである。 上場会社は、調査結果について開示することが必要かつ適当と東京証券取引所が認める場合には、直ちにその内容を開示する。 2 公認会計士等との情報連携の強化 上場会社は、東京証券取引所が、実効性確保措置の検討に必要と認めて、監査証明等を行う公認会計士等(当該公認会計士等であった者を含む)に対して事情説明等を求める場合には、それに協力するものとする。 Ⅴ 「買収防衛策」の用語の見直し 「買収防衛策」の用語を「買収への対応方針」又は「買収への対抗措置」に改める。 Ⅵ 実施時期等 2024年4月1日から施行する。 四半期決算短信の取扱いに関しては、施行日以後に開始する四半期会計期間を含む四半期累計期間又は中間会計期間から適用する。 (了)
《速報解説》 令和6年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」が 3月30日(土)付官報:特別号外第28号にて公布 ~施行日は原則4月1日~ Profession Journal編集部 令和6年度税制改正関連法が3月28日(木)の参議院本会議で可決・成立し、3月30日(土)の官報特別号外第28号にて「所得税法等の一部を改正する法律」が公布された(法律第8号)。施行日は原則令和6年4月1日(法附則第1条)。地方税関係の改正法である「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第4号)。 今年度改正では、すでに法案成立前から多くの情報が公表されている定額減税をはじめ、住宅価格上昇を背景に子育て世帯等へ向けた住宅ローン控除等の拡充、デフレ完全脱却のための賃上げ促進税制の拡充(中小企業には繰越控除を存置)、スタートアップ支援のためのストックオプション税制の拡充、そして課税強化となる外形標準課税の見直しといった既存の諸問題への対応が図られる。 さらに新たな経済対策として、イノベーションボックス税制や戦略分野国内生産促進税制の創設などが盛り込まれたほか、まだ実務が定着しきっていないインボイス制度についても、実態を踏まえた帳簿の記載事項の見直しが行われるなど、整備事項も含め複数の改正が実現する。 * * * 以下では主な法律、政令、省令等の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については毎週木曜日公開号において、専門家による解説記事を順次掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された令和6年度税制改正関連の情報については「令和6年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを併せて参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた主な改正情報については、すでに本誌掲載済みの「令和6年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:令和6年3月30日(土)付(特別号外第28号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則等の一部を改正する省令 相続税法の一部改正(第3条関係) 相続税法施行令の一部を改正する政令 相続税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法の一部改正(第4条関係) 登録免許税法施行令の一部を改正する政令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第5条関係) 消費税法施行令等の一部を改正する政令 消費税法施行規則の一部を改正する省令 酒税法の一部改正(第6条関係) 酒税法施行令の一部を改正する政令 酒税法施行規則の一部を改正する省令 たばこ税法の一部改正(第7条関係) たばこ税法施行令の一部を改正する政令 たばこ税法施行規則の一部を改正する省令 揮発油税法の一部改正(第8条関係) 揮発油税法施行令の一部を改正する政令 石油石炭税法の一部改正(第9条関係) 石油石炭税法施行令の一部を改正する政令 印紙税法の一部改正(第10条関係) 国税通則法の一部改正(第11条関係) 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第12条関係) 国税徴収法施行令の一部を改正する政令 国税徴収法施行規則の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第13条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税関係 ・酒税関係 ・たばこ税関係 ・揮発油税・地方揮発油税関係 ・石油石炭税関係 ・自動車重量税関係 ・印紙税関係 租税特別措置法施行令の一部を改正する政令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律の一部改正(第14条関係) 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第15条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第16条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置に関する法律の一部改正(第17条関係) 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第18条関係) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第19条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法の一部改正(第20条関係) 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)の一部改正(第21条関係) 所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)の一部改正(第22条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 復興特別所得税に関する政令の一部を改正する政令 復興特別所得税に関する省令の一部を改正する省令 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 産業競争力強化法施行規則の一部を改正する命令 経営力向上に関する命令の一部を改正する命令 社外高度人材活用新事業分野開拓に関する命令の一部を改正する命令 奄美群島振興開発特別措置法第三十八条の地方税の課税免除又は不均一課税に伴う措置が適用される場合等を定める省令等の一部を改正する省令 令和六年度における四月交付分の地方特例交付金の額の特例に関する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 税理士法施行規則の一部を改正する省令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令 農業競争力強化支援法施行規則の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 中小企業等経営強化法施行規則の一部を改正する省令 地方税法等の一部を改正する法律 ( 附 則 ) ・1条関係 ・2条関係 ・3条関係 地方税法施行令の一部を改正する政令(一三六~一三八) 地方税法施行規則及び航空機燃料譲与税法施行規則の一部を改正する省令(総務三七) ▷その他の主な関係法令・告示 非課税口座に受け入れることができる上場株式等の範囲に関する基準の一部を改正する件 所得税法施行令第五十一条の三第一項第二号の規定に基づき要件を定める件 租税特別措置法施行令第三条の三第四項の規定に基づき要件を定める件 地方税法施行規則第七条の二の九第二項の規定に基づく総務大臣が定める額 法人税法別表第一独立行政法人の項の規定に基づき、法人税を課さない法人を指定する件の一部を改正する件 法人税法別表第二独立行政法人の項の規定に基づき、収益事業から生じた所得以外の所得に対する法人税を課さない法人を指定する件の一部を改正する件 登録免許税法別表第二独立行政法人の項の規定に基づき、自己のために受ける登記等につき登録免許税を課さない独立行政法人を指定する件及び同法別表第三の十九の二の項の規定に基づき、自己のために受ける登記等につき登録免許税を課さない独立行政法人等を指定する件の一部を改正する件 消費税法施行令第十四条の二第一項、第二項及び第三項の規定に基づき財務大臣が指定する資産の譲渡等を定める件の一部を改正する件 印紙税法別表第二独立行政法人の項の規定に基づき、印紙税を課さない法人を指定する件の一部を改正する件 事業適応の実施に関する指針の一部を改正する告示 事業再編の実施に関する指針の一部を改正する告示 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第九条第二項に規定する国税庁長官が定める処分通知等を定める件を廃止する件 租税特別措置法施行規則第十八条の十五の三第三十三項に規定する国税庁長官の定める基準を定める件の一部を改正する件 租税特別措置法施行規則第十八条の十五の三第三十四項に規定する国税庁長官が定めるファイル形式を定める件の一部を改正する件 国税通則法施行規則第十五条第一項に規定する国税庁長官が定める書類を定める件の一部を改正する件 消費税法施行令第四十九条第一項第一号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件 法人税法施行規則第四条の二の二第一項に規定する厚生労働大臣の定める要件 法人税法施行規則第五条の二第一項第三号に規定する厚生労働大臣及び農林水産大臣の定める基準 租税特別措置法施行令第六条の二の二第一項及び第三項並びに第二十八条の七第一項及び第三項等の農林水産大臣が定める基準を定める件の一部を改正する件 生産工程効率化等設備のうちエネルギーの利用による環境への負荷の低減に著しく資するものとして経済産業大臣が定める基準の一部を改正する告示 生産工程効率化等設備のうちエネルギーの利用による環境への負荷の低減に特に著しく資するものとして経済産業大臣が定める基準 租税特別措置法施行令第三十九条の三十四の三第一項第六号に規定する事業の成長発展が見込まれるものとして経済産業大臣が定める要件の一部を改正する告示 地方税法施行規則附則第二条の十一各号に規定する拠出金を定める告示 中小企業等経営強化法施行規則第十一条第二項第三号ロに規定する投資に関する契約の契約書の記載事項の一部を改正する告示 租税特別措置法施行規則第十八条の十五第六項及び第七項の経済産業大臣の認定に関する手続を定める件の一部を改正する告示 租税特別措置法施行令第十九条の三第九項第二号に規定する対象株式等の区分管理の方法として経済産業大臣が定める要件 地方税法施行規則附則第六条第二十八項に規定する船舶を定める告示の一部を改正する告示 租税特別措置法施行令に規程する国土交通大臣の証明に関する手続きを定める告示の一部を改正する件 租税特別措置法第十五条第一項及び第四十八条第一項の規定の適用を受ける倉庫用の建物及びその附属設備並びに構築物を指定する件の一部を改正する告示 租税特別措置法第十五条第一項及び第四十八条第一項の規定の適用を受ける地区を指定する件の一部を改正する告示 租税特別措置法施行令第四十三条第三項の特定国際船舶を指定する告示の一部を改正する告示 租税特別措置法施行令の規定に基づき、国土交通大臣が財務大臣と協議して子育て対応改修工事等の内容に応じて定める金額を定める件 租税特別措置法施行令の規定に基づき、国土交通大臣が財務大臣と協議して定める子育てに係る特例対象個人の負担を軽減するための増築、改築、修繕又は模様替を定める件 (了)
《速報解説》 会計士協会、「四半期レビュー」を改正し 「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」として公表 ~「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」は新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月28日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これは、「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂に係る意見書」(企業会計審議会)を受けたものである。 これにより、2023年12月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要とその対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー 金融商品取引法における中間財務諸表に対する期中レビューを対象とする。 現行の「四半期レビュー」(四半期レビュー基準報告書第1号)を改正し、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第1号)として公表する。 「四半期レビュー」を「期中レビュー」へ、また、「四半期財務諸表」を「中間財務諸表」へなどの用語の改正を行う。 「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)を受けた改正も行っている。 質問、分析的手続を中心とした期中レビュー手続であり、保証水準は「限定的保証」である。 適正表示の枠組みを対象とする。 Ⅲ 独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー 年度の財務諸表の監査を実施する監査人が行う、金融商品取引法における中間財務諸表に対するレビュー以外の期中レビューを対象とする。 任意の期中レビューを想定し、「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第2号)を新設する。 質問、分析的手続を中心とした期中レビュー手続であり、保証水準は「限定的保証」である。 適正表示及び準拠性の枠組みを対象とする。 Ⅳ 適用時期等 「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」の適用時期等は次のとおりである。 「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」の適用時期等は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和5年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2024(令和6)年3月27日、「令和5年7月から9月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、所得税法関係と国税徴収法関係がそれぞれ1件の合計2件で、筆者が公表裁決事例の速報解説を寄稿するようになった2013(平成25)年4月~6月分以降で、最も少ない件数となっている。 【表:公表裁決事例令和5年7月から9月分の一覧】 本稿では、公表された2件の裁決事例について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 インド共和国所在の外国法人に支払った金員に係る所得税の源泉徴収義務・・・① (1) 事案の概要 本件は、エレクトロニックス製品、電気製品、情報関連機器の企画、開発、輸出入、販売、設置、工事及び保守管理並びにアプリケーションソフトウエアの企画、開発等を目的とする法人であり、家電や住宅設備をスマートフォンのアプリから操作することのできる製品の開発及びサービスの提供を主要事業としている審査請求人が、インド共和国所在の外国法人であるJ社、K社及びL社に対して支払った金員(本件各支払金)について、原処分庁が、当該金員は、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金」に当たり、国内源泉所得に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を行ったことに対し、請求人が、当該金員の一部は「技術上の役務に対する料金」に該当しないなどとして、処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (※) グロスアップ計算とは、所得税基本通達181~223共-4(源泉徴収の対象となるものの支払額が税引手取額で定められている場合の税額の計算)に規定されている以下の計算方法をいう。 (3) 国税不服審判所の判断 〔争点1〕について、国税不服審判所は、請求人がインド共和国所在の外国法人であるJ社、K社及びL社に対して支払った金員は、いずれも、日印租税条約第12条第4項に規定する「技術上の役務に対する料金(技術者その他の人員によって提供される役務を含む経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタントの役務の対価としての全ての支払金)」に該当するという判断を示して、請求人の判断を斥けた。 一方、〔争点2〕については、国税不服審判所は、請求人とK社との間の契約には、K社に支払う金銭とは別に請求人が源泉徴収に係る所得税を負担することを約したと認められる取決めはなく、K社への支払金の額に源泉徴収に係る所得税の額を加算した金額を業務の対価の額であると定められているものとは認められないことから、業務の対価が本件通達に定める「支払額が税引手取額で定められている」ものとは認められず、源泉徴収に係る所得税の額をグロスアップ計算で算出することはできないという判断を示して、原処分庁の主張を斥け、賦課決定処分の一部を取り消した。 2 原処分庁による公売公告処分の違法性・・・② (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、審査請求人の滞納国税を徴収するため、運送業を営む請求人が所有する駐車場等の各不動産の公売公告処分を行ったのに対し、請求人が、請求人の滞納国税について「分割納付誓約書」を提出し、これに基づく納付計画に従って納付を継続していることからすれば、当該分割納付計画の期間中にした当該公売公告処分は、公売に付すべき時期を誤った違法又は不当な処分であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 原処分庁による公売公告処分は、公売に付すべき時期を誤った違法又は不当なものであるか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、原処分庁によって公売公告処分により本件各不動産を公売に付する時期について、原処分庁に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったとは認められないから、本件公売公告処分は適法であるとの判断を示した。 そのうえで、少なくとも請求人による分割納付誓約期間内においては、請求人が納付計画どおりの自主納付を継続する蓋然性が高く、直ちに換価をすることで、換価額の下落の回避又は換価額の相対的な価値の維持ができたともいえず、また、本件分割納付誓約期間内に本件各不動産が公売に付されることはないと期待した請求人としては、本件各不動産の代替土地を確保し得る機会及び期間が事実上なく、公売による請求人の事業に対する影響がより大きくなったというべきであり、これらの各事情を考慮すると、本件公売公告処分は、滞納者である請求人の個々の実情を十分に踏まえたものであるとはいい難く、また、必ずしも本件滞納国税の効果的な徴収に資するものであったともいい難いものであると評価をした。 結論として、原処分庁による公売公告処分は、分割納付誓約期間内に公売に付したという時期の判断において、その裁量権の行使が、差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当な処分であるといわなければならないとして、原処分の全部を取り消す判断を示した。 (了)
《速報解説》 四半期報告書制度の廃止に対応し、 関連する関係政令・内閣府令等が改正される ~四半期報告書及び四半期(連結)財務諸表関係の規定を削除~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年3月27日、「金融商品取引法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」(政令第71号)、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第29号)等が公布された。これにより、2023年12月8日から意見募集されていた政令・内閣府令案等が確定することになる。 これは、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年11月29日法律第79号)により、四半期報告書制度が廃止となることから、関連する関係政令・内閣府令等(関連するガイドラインを含む)を改正するものである。 政令・内閣府令案に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されている。例えば、コメントのNo.59~61では、「比較情報の取扱い」に関する金融庁の考え方が記載されている。また、コメントのNo.65では、会計方針の継続性に関して、前中間会計期間及び前中間連結会計期間の会計方針との継続性も求められる規定となるよう修正したことが記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 四半期報告書から半期報告書への改正関係 1 概要 金融商品取引法等の改正により、四半期報告書制度が廃止され、半期報告書の提出へと改正される。 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正により、四半期報告書及び四半期(連結)財務諸表関係の規定が削除されている。 このため、次の内閣府令を廃止し、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」及び「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」において、従前の四半期財務諸表を「第一種中間財務諸表」、従前の中間財務諸表を「第二種中間財務諸表」として中間財務諸表の作成方法等を含めて規定する。 2 第一種中間財務諸表と第二種中間財務諸表 前述のとおり、財務諸表等規則及び連結財務諸表規則において、従前の四半期財務諸表を「第一種中間財務諸表」、従前の中間財務諸表を「第二種中間財務諸表」として中間財務諸表の作成方法等を含めて規定する。 財務諸表等規則は次の構成となっている。 財務諸表等規則は、この規則において「連結財務諸表」、「第一種中間連結財務諸表」又は「第二種中間連結財務諸表」とは、それぞれ連結財務諸表規則1条1項各号に規定する連結財務諸表、第一種中間連結財務諸表又は第二種中間連結財務諸表をいうと規定している(財務諸表等規則8条15項)。 財務諸表等規則では、第三編において、第一種中間財務諸表に関する規定が設けられている。 例えば、第一種中間財務諸表作成の一般原則として、第一種中間財務諸表は、原則として財務諸表の作成に当たって適用される会計処理の原則及び手続に準拠して作成されなければならない(財務諸表等規則129条1項)や、「重要な後発事象の注記」として、中間貸借対照表日後、第一種中間財務諸表提出会社の当該第一種中間財務諸表に係る中間会計期間が属する事業年度(当該中間会計期間を除く)以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象が発生したときは、当該事象を注記しなければならない(財務諸表等規則137条)と規定されている。 Ⅲ 臨時報告書関係 次の事項について、臨時報告書の提出事由に追加する。 Ⅳ 施行日等 政令は2024年4月1日から施行する。 内閣府令等及び告示は、ガイドライン等と併せて、2024年4月1日から施行・適用する。 中間財務諸表等規則ガイドライン及び四半期財務諸表等規則ガイドラインは、財務諸表等規則ガイドラインへの統合により、2024年4月1日をもって廃止する(連結も同様)。 経過措置に注意する。 なお、金融庁の「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」では、次の「各決算期における適用時期(四半期報告書提出会社)」が掲載されている。 (金融庁ホームページより抜粋) (了)