会社が取り組む 社員の健康管理 【第6回】 「メンタルヘルス対策」 社会保険労務士 佐藤 信 1 はじめに 近年、経済・産業構造が変化する中で、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなってきた。 精神障害等に係る労災補償状況をみると、請求件数、認定件数とも近年、増加傾向にあり、社会的にも関心を集めている(下記【参考】を参照)。 このようなことから、心の健康問題が労働者、その家族、事業場及び社会に与える影響がますます大きくなってきたといえる。 今回はメンタルヘルスの予防策を中心に、職場で取り組んでいくことが望ましいものについて触れていくこととする。 2 事業者による積極的なメンタルヘルスケア ストレス要因は、仕事、職業生活、家庭、地域等に存在している。 心の健康作りは、労働者自身がストレスに対処することの必要性を認識することが重要であるが、職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くことができないものもある。 このため、事業者によるメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であり、組織的かつ計画的な対策の実施が大きな役割を果たすことになる。 3 計画の実施 計画の実施に当たっては、次の4つのメンタルヘルスケアが継続的かつ計画的に行われるよう教育研修・情報提供を実施する必要がある。 上記4つのケアを効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにしていかなければならない。 以下、労働者自身及び職場による対処として実施しておきたいものを触れていくこととする。 4 労働者自身による対処(セルフケア) 心の健康作りを推進するためには、労働者自身がストレスに気付き、これに対処するための知識、方法を身に付け、それを実施することが重要である。 ストレスに気付くためには、労働者がストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要がある。 次に掲げる項目等を内容とする教育研修、情報提供を行っていくとよい。 なお、社内に教育研修、情報提供に関する知識を有する者がいないときは、行政機関等の問い合わせ窓口を利用していくとよい。 厚生労働省が設置しているメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」において、専門相談機関が公開されている。 5 職場による対処(ラインによるケア) (1) 管理者に対する教育研修・情報提供 管理監督者は、部下である労働者の状況を日常的に把握しており、また、個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図ることができる立場にあることから、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応を行うことが求められる。 会社は、管理監督者に対し、次に掲げる項目等を内容とする教育研修、情報提供を実施しておきたい。 なお、実施にあたり不明点があるときや社内体制が整っていないときは、労働者への教育研修と同様に前記厚生労働省サイトに掲載された相談機関を活用していただきたい。 (2) 管理監督者による部下への接し方 職場によるケアで大切なのは、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気付くことである。 速やかな気付きのためには、日頃から部下に関心を持って接しておき、いつもの行動様式や人間関係の持ち方について知っておくことが必要である。 なお、病気の判断は管理監督者自身が行うのではなく、産業医又は医師が扱う範囲のものであるため、管理監督者が異常を感じたときは産業医など専門家に委ねる必要がある。 日頃から、産業医その他の専門家のところに相談に行く仕組みを事業場の中に作っておくことが望ましい。 6 職場環境等の改善を通じたストレスの軽減 職場の照明・温度などの物理環境や作業レイアウトも労働者の心理的なストスの原因になることがある。 情報の流れ方、職場組織の作り方なども労働者のストレスに影響を与えることがあるため、作業環境の整備はストレスの軽減促進のためにも実施しておきたい。 なお、職場環境の改善策については、前回の記事(第5回 快適な職場環境作り)を参照していただきたい。 7 職場のいじめ・嫌がらせによるメンタルヘルス不調の防止 職場のいじめ・嫌がらせは、職場内の人間関係を悪化させるとともに、職場の秩序を乱し、労働者の勤労意欲の阻害や組織の生産性の低下をもたらし、さらには心身の不調をもたらすなど、労働者のメンタルヘルス不調の原因にもなることがある。 職場のメンタルヘルス対策においては、「職場のいじめ・嫌がらせ」の防止も重要であり、全社的な取組みを実施しておく必要がある。 (1) ストレスを抱える上司からのいじめ ① 問題点 上司がメンタルヘルス不調のためにイライラしてささいなことで部下を強く叱責したり、部下のメンタルヘルス不調による仕事の効率の低下や遅刻・突発休暇の増加を上司が本人の資質の問題と考えて強く叱責して、結果的にいじめになるような例がある。 ② 対応策 まずは、上司自身のストレスへの気付きの機会の付与、メンタルヘルス不調の早期発見、心の健康問題の正しい知識の付与等のための教育・研修を実施する。 (2) 上司の理解不足からくるいじめ・嫌がらせ ① 問題点 上司自身が「厳しい指導」と考える言動が、時代の変化や労働者の意識の変化とともにいじめ・嫌がらせとなり得ることがある。 ② 対応策 管理監督者(上司)や部下に対する意識改革のための教育を実施する。 パワーハラスメントの相談窓口を設置し、職場全体で部下との接し方や指導方法を見直す機会を設ける。 (3) メンタルヘルス不調に伴う被害者意識の発生 ① 問題点 自尊心の強さ、過敏性などより、通常の職場の人間関係に適応できず、本人がいじめ・嫌がらせを受けたと感じることがある。 ② 対応策 本人の状態を理解して否定的な感情を抑え、本人の問題行動については(叱責ではなく)指導・修正させるとともに、場合によっては人間的な成長を促す指導・教育を実施する。 8 個人情報の保護 メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要である。 メンタルヘルスに関する労働者の個人情報は、健康情報を含むものであり、その取得、保管、利用等において特に適切に保護しなければならないが、その一方で、メンタルヘルス不調の労働者への対応に当たっては、労働者の上司や同僚の理解と協力のため、当該情報を適切に活用することが必要となる場合もある。 個人情報の利用目的の公表や通知、目的外の取扱いの制限、安全管理措置、第三者提供の制限など十分な対策をとっていかなければならない。 9 おわりに メンタルヘルス不調により休業した労働者が円滑に職場復帰し、就業を継続できるようにするためには、回復に向けて本人の治療を継続していくことのほか、会社及び周囲の労働者の多大な支援が必要となることがある。 そのような状況となる一歩前に措置を講じるなど予防を強化し、メンタルヘルス不調による休業者を発生させない職場作りを行っていきたい。 次回は、過重労働に伴う健康障害について触れていくこととする。 (了)
「石原産業役員責任追及訴訟 第一審判決」から読む 会社経営者としての責任の分水嶺 【3】 弁護士 中西 和幸 10 フェロシルトが産業廃棄物であることについて責任が認められた取締役 (1) 平成13年4月27日開催の取締役会に出席した取締役 平成13年4月27日開催の取締役会に出席した取締役について、Y5及びY23も含め、役職と属性及びフェロシルトの廃棄物性に関して認識していた事情をもとに、いずれも廃棄物処理法違反であるかどうかを認識し得なかったとして、責任を認めていない。 (2) 推進会議の構成員である取締役 推進会議の構成員については、これらの者が反対すればフェロシルトの搬出を阻止できたとしたうえで、Y23については、平成13年8月6日の会議及び同月付稟議において、T国際空港が受入れを断りこれにつきY5が推進会議において虚偽の説明をしたことを知っており、Y5の説明にも疑いを向け、「フェロシルトは有償の処分が実態である」との発言がされたことについて気が付くことが可能であったとして責任を認めた。 また、Y5については、自ら虚偽の発言をし、また、自ら有償の処分が実態であると発言したことを根拠として、産業廃棄物であることを認識できたと認定している。 その一方で、他の取締役については、その役職と属性及びフェロシルトの廃棄物性の認識について検討したうえで、責任がないものと認定している。 (3) 平成13年8月10日付稟議書に捺印した取締役 標記稟議書では、平成13年4月27日に取締役会において承認された搬出費用を超える費用を支出することが決裁の対象であった。そして、発議分掌上位者である被告Y5及び合議者の被告Y21、Y23、被告Y12、被告Y14 及び被告Y22 が、それぞれの押印に際し、相当の論拠に基づいて、フェロシルトが「廃棄物」に該当し、本件新規搬出先へ搬出することは産業廃棄物処理法に違反するとの意見を述べた場合には、本件新規搬出先への搬出が中止される可能性があったと論じた。 そのうえで、まず、Y23及びY5について、各取締役の役職と属性及び廃棄物性について認識した事情を検討し、T国際空港からフェロシルトの受入れを断られていたことを知っていたこと、8月6日の推進会議におけるY5の説明が虚偽であることを知っていたことを契機として、商品として販売するならば本来発生しない「埋立費用」(本来ならば購入者が負担する費用である)に気が付くなど、Y1らの説明に不自然な点があり、会社から本件新規搬出先の業者に対して売却代金を上回る費用が支払われ、実質的に会社がフェロシルトの処理費用を負担するなど、フェロシルトは取引価値のないものであり、廃棄物に該当することを認識し得たと認定している。 (4) Y23及びY5が賠償すべき損害 産業廃棄物であることを認識し得たY23及びY5が賠償すべき損害として認定されたのは、QMS違反と異なり、約72万トンのフェロシルトについて会社が支払った、運搬費、用途開発費、改質加工費等の名目の産業廃棄物処分費用からフェロシルトの売却代金を差し引いた22億6,700万円と、産業廃棄物処理法違反による罰金5,000万円であるとされた。 11 事件全体を通じたまとめ (1) 担当取締役としての責任 ア 責任が重い取締役 本判決において、工場長であったY5とY6の事実認識における最大の差異は、T国際空港がフェロシルトの受入れを延期したのではなく断ったことを認識していたかどうかである。Y5は、これを知りつつ推進会議において虚偽の説明を行っているのに対し、Y6は推進会議の構成員ではなく、無論、T国際空港がフェロシルトの受入れを断っていたことを知らなかったため、責任を負わなかったのである。 このように、担当取締役であっても、そのカギとなる事実関係を知らなければ義務違反にならないのであるから、事実を知らないようにして責任を軽減したくなるかもしれない。しかし、「何も知らない」「何も聞かない」では、職務を遂行することすらできない。こういった点でみると、取締役の責任は重いが、それゆえに従業員と比較してより高額の報酬が得られるともいえる。 イ 虚偽の説明と虚偽説明の放置 Y5やY23とその他の取締役を分けた差異について、本判決をよく読んでみると、Y5及びY23は、T国際空港がフェロシルトの受入れを断ったことを知っていたことだけではなく、Y5は推進会議において虚偽の説明を行ったこと、Y23は推進会議におけるY5の虚偽の説明を訂正しなかったことが認定されている。すなわち、実質的には、自らの職務に忠実に正確な説明を行い、又は、説明が虚偽であることを知ったらこれを訂正するといった、その職務に誠実に正面から向き合うことが重要であり、正面から向き合わなかったが故に、責任を問われたのではなかろうか。 特に、フェロシルトがアイアンクレーという毒性のある産業廃棄物の加工品であり、その取扱いに慎重さが要求されるリスクの高い製品であることを知っていた以上、虚偽説明を行い、又は放置することは許されないとされたという側面があるのではないか。 (2) 社内規定・マニュアルの重要性と監視・監督義務 通常の企業であれば、社内規定やマニュアルが一定の水準で整備されている。この社内規定やマニュアルは、会社が組織として活動する際に、さまざまなリスクを回避し効率的な会社経営を行うために整備されるものである。管理職や管掌取締役は、まさにかかる社内規定やマニュアルが遵守されているかどうかを監視・監督・調査・指導することが主要な業務といえよう。 したがって、部下が社内規定やマニュアルに違反したとしても、管掌取締役は、違反を疑わせるような事実を認識していなければ、Y6のように他の役職員を信頼してよいとしても、これを疑わせる事実を認識していた場合には、これを調査・監視・是正しなければ、会社としてリスクを回避し又は極小化することはできないのである。その意味でも、管掌取締役の責任は重大といえよう。 一方、他の取締役としては、管掌取締役以上に社内規定やマニュアルを知っていることを要求するのは酷であるし、また、会社経営として非効率的でもあるから、まず第一次的に管掌取締役の責任が問われるのはやむを得ないであろう。 (3) 会議体構成員の明暗 本件では、実行本部の構成員の責任は問われておらず、推進本部の構成員の一部、とりわけ、平成13年8月6日の会議出席者と同月10日付の稟議に捺印した者の一部について責任が問われている。 このように、フェロシルトの搬出を阻止できる機会が限られていた本件では、特定の会議等に関与していたかどうかということに加え、その時にどのような事実を認識していたかという点で、明暗が分かれている。 本判決に従うと、管掌取締役としては、当該会議において、事前に十分な情報を得ているか、会議時の説明が正確か、意思決定が独断でないか、等相当程度慎重に運営しなければならないことになる。かかる管掌取締役の義務は重いが、「取締役」という会社における地位等にかんがみれば、自らの管掌する業務に関する会議に慎重に臨まなければならないというのは、過大な責任とまではいえないのではなかろうか。 本判決は、取締役の責任の重さを改めて認識させられるものといえよう。 (参考文献:金融商事判例1367号41頁、1399号24頁、旬刊商事法務1970号15頁) 本解説記事は、裁判所が公表した判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121119105409.pdf の記号を使用しています。 参考文献 資料版商事法務342号131頁以下(但し、上記判決文と記号が一部異なる) (連載了)
企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第4回】 「香港の税制(前編)」 アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範 香港税制の全体像 1) 税制の主な特徴 ① 低税率 香港はタックスヘイブンとして認知されているように、日本や東南アジア諸国に比べ低税率に抑えられている。 ② 簡素な税制 複雑で難解な日本の税制に比べ、税金の種類が少なく税法も非常にシンプルである。相続税、贈与税、消費税、関税はない。 また、香港法人と外国法人を区別するような税制はなく、外国企業に対する優遇税制も存在しない。 ③ 非課税所得 多くのタックスヘイブン国と同様に、オフショア所得(香港外源泉所得)は非課税とされている。加えて、キャピタル・ゲイン、配当金も非課税である。 ④ 源泉徴収制度 利子、配当、給与を支払う場合の源泉徴収の制度が原則としてない(源泉徴収があるのは、非居住者へロイヤリティを支払う場合など、非常に限定的である)。 2) 税制の体系 香港の税金には、内国歳入法(IRO:Inland Revenue Ordinance)にて規定される所得に対して課される税金と、印紙税法など個別の法令にて規定されるその他の税金がある。 また、課税当局の解釈及び実務指針(DIPN:Departmental Interpretation and Practice Notes)が公表されているが、これは課税当局内の取扱通達であり、日本の基本通達に相当するもので、納税者は実務上の解釈における参考とすることができる。 3) 税金の種類 上記の体系に基づく税金の種類は、以下のとおりである。 ① 所得に対する税金 ・事業所得税(Profits Tax) ・給与所得税(Salaries Tax) ・資産所得税(Property Tax) ② その他の税金 ・印紙税(Stamp Duty) ・賭博税(Betting Duty) ・商業登記料(Business Registration Fees) ・物品税(Excise Duty) ・不動産税(Rates) 事業所得税とは 1) 納税義務者 香港で事業を行う法人、個人事業主等は、香港を源泉とする所得に対し、事業所得税が課税される。 居住者、非居住者で区別されるのではなく、香港を源泉とする所得を得ているかどうかで課税関係が決定する。香港外の源泉の所得しか得ていない場合は、課税されない。 香港源泉所得を得ている場合は、非居住者、外国法人の支店・駐在員事務所、香港に拠点を有しない外国法人についても納税義務者となる。 2) 税率(2012/13課税年度) ●法人・・・・・・・・・16.5% ●個人事業主・・・15% ※軽減措置 2011/12課税年度の事業所得税については、納税額の75%を減額する。 ただし、12,000香港ドルを上限とする。 3) 申告期限 事業所得税申告書は、通常4月に税務局から緑色の封筒に入って納税義務者に送付される。 申告書の提出期限は申告書の発行日から1ヶ月以内とされているが、税務代理人に委託する場合、一般的には税務局へ申告期限の延長申請をするため、決算期に応じて以下の提出期限までに税務申告を行う。 ・4~11月決算 翌年4月末 ・12月決算 翌年8月15日 ・1~3月決算 11月15日 なお、申告書が送付されてこない場合であっても、課税所得があるときは、事業年度終了日から4ヶ月以内に、税務局に書面による通知を行う義務がある。 4) 申告書の提出 事業所得税の申告書を提出する場合、監査報告書を添付することが要求される。 5) 課税所得の計算方法 会計上の利益に税務上必要な加減算調整を行うという点では、日本の税制と同じである。 しかしながら、その調整項目は日本とは大きく異なるため、その代表的なものを以下に列挙する。 ① オフショア所得 香港における事業活動から生じた所得(オンショア所得)に対してのみ課税されるのが原則となっているため、それ以外の所得(オフショア所得)については課税されない。 なお、実務上、オフショア申請を行った場合は、税務局からの質問状の対象とされる可能性が高い。 ② キャピタル・ゲイン、配当金 資本的資産の売却損益(キャピタル・ゲイン又はロス)、資本的性格(キャピタル・ネイチャー)の収入及び支出、受取配当金は課税されない。 ③ 減価償却費 税法独自の減価償却方法が定められているため、会計上の減価償却費とは全く異なる計算を行う。 ④ 交際費 交際費ついては日本のような特別な規定は定められておらず、それが課税所得を得るために必要な費用である限り損金算入が可能である。 6) 繰越欠損金 税務上の繰越欠損金は、原則として、永久に繰り越して将来の課税所得と相殺することができる。 7) 帳簿の保管 香港で事業活動を行う場合、取引の詳細が確認でき課税所得を容易に確定することができるだけの十分な帳簿を、英語又は中国語で作成し保管することが要求される。 帳簿は最低7年間の保管義務があり、帳簿の作成保管義務に違反した場合、最高100,000香港ドルの罰金が課される。 給与所得税とは 1) 納税義務者 香港を源泉とする給与所得を有する者は、給与所得税が課税される。 香港を源泉とする給与であれば、日本払いの給与であっても課税対象となる。 2) 税率及び税額 下記のいずれか有利な方を採用できる。 〈累進税率(2012/13課税年度)〉 〈標準税率(2012/13課税年度)〉・・・15% ※軽減措置 2011/12課税年度の給与所得税については、納税額の75%を減額する。 ただし、12,000香港ドルを上限とする。 3) 所得控除 〈人的所得控除〉 ※香港ドル(2012/13課税年度) 〈その他控除〉 ※1 香港ドル、2012/13課税年度 ※2 15課税年度 4) 申告期限 給与所得税申告書は、通常4月に、税務局から緑色の封筒に入って納税義務者に送付される。 申告書の提出期限は、申告書の発行日から1ヶ月以内である。課税対象期間は、毎年4月1日から3月31日までである。 5) 雇用主(会社)の手続 ① 雇用主支払報酬申告書(Form BIR56A, IR56B) 雇用主は、その従業員に対して課税期間(4月1日から3月31日まで)に支払った給与、賞与等について、雇用主支払報酬申告書(個人別・総括表)を作成し税務局へ提出しなければならない。 申告書は、通常4月に税務局から緑色の封筒に入って雇用主に送付される。申告書の提出期限は、申告書の発行日から1ヶ月以内である。 また、個人別の雇用主支払報酬申告書は各従業員に配布され、従業員はその記載内容に基づき給与所得税の申告を行うことになる。 ② 雇用開始通知書(Form IR56E) 雇用主は、香港で従業員を採用し、その従業員に課税所得が発生する場合には、雇用開始から3ヶ月以内に、雇用開始通知書を税務局に提出しなければならない。 通知書には、従業員の氏名及び住所、雇用開始日、雇用条件を記載する。 ③ 雇用終了通知書(Form IR56F) 雇用主は、香港で従業員の雇用を終了し、その従業員に課税所得が発生する場合には、雇用終了日の1ヶ月前までに、雇用終了通知書を税務局に提出しなければならない。 通知書には、従業員の氏名及び住所、雇用終了日を記載する。 ④ 出国通知書(Form IR56G) 雇用者は、従業員が香港から1ヶ月以上の期間にわたり香港を出国する見込みである場合、出国予定日の1ヶ月前までに、出国通知書を税務局に提出しなければならない。 ただし、香港の雇用に基づく業務での海外出張の場合は除く。 (了)
NPO法人 “AtoZ” 【第2回】 「NPO法人の認証から登記までの流れ」 税理士 岩田 聡子 1 認証までの流れ(NPO法10条) NPO法人を設立するためには、次に掲げる書類を添付した申請書を所轄庁に提出して、認証を受けなければならない。 所轄庁は、申請書を受理した後、遅滞なく、①申請があった旨、②申請のあった年月日、③申請にしたNPO法人の名称、代表者の氏名及び主たる事務所の所在地並びにその定款に記載された目的等を受理した日から2ヶ月間、公衆の縦覧に供することとなる。 提出された申請書等に不備がある場合には、申請書を受理した日から1月以内に限り、その不備が所轄庁の定める軽微なものである場合にのみ、補正をすることができる。 正当な理由がない限り、申請書を受理した日から4ヶ月以内(所轄庁が条例で縦覧期間を経過した日から2ヶ月より短い期間を定めているときはその期間内)に、所轄庁は、認証又は不認証の決定を行い、書面により通知する(NPO法12)。 2 認証後の設立の登記(NPO法13条) NPO法人は、設立の認証後、申請者が主たる事務所の所在地において設立の登記を行うことにより成立する。 登記は、通知があった日から2週間以内に行わなければならず、設立の認証を受けた後、6ヶ月以内に登記をしないときは、所轄庁が認証を取り消すこともある。 また、設立をする際、NPO法人は費用の面で、優遇を受けている。 通常、株式会社であれば、設立時に法人設立や定款作成のための費用、登録免許税がかかるのだが、これらの手数料、税が無料となり、当初資金が少なくても、設立が容易となっている。 3 法人成立後の届出 NPO法人は、法人が登記により成立した後、遅滞なく、①設立登記完了届出書、②登記事項証明書、③設立の時の財産目録を所轄庁に提出しなければならない(NPO法13②)。 なお、財産目録は常に主たる事務所に備え置かなければならない。 所轄庁以外にも、県税事務所及び市役所に法人設立届出書を、収益事業を行う場合や給与等を支払う場合には税務署に収益事業開始の届出書、給与支払事務所等の開設届出書等を、労働保険・社会保険に加入する場合には労働監督署・社会保険事務所等に必要書類を提出しなければならないので、届出漏れのないように注意する必要がある。 4 設立認証申請の注意点 設立の際、作成する定款(上記1の(1))とは、法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行などについての根本規則を記載した書面で、法人の運営は定款に従って行われるものである。 設立趣意書(上記1の(7))と定款の目的は当然一致するものであり、さらに事業計画書、活動予算書との関係においても、内容に整合性がとれていなければならない。 NPO法人で重要なことは、「公益の増進に寄与することを目的とするものである」ということであり、これに該当する特定非営利活動を行う法人であるかどうかはこれらの書類を中心としてチェックされる。そのため、特にその内容に矛盾のないよう注意する必要がある。 また、所轄庁(都道府県、指定都市)には、NPOの相談窓口もあるので、設立の際は、事前に相談をすることがよいであろう。 (了)
会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第4回】 「決算が終了すれば 必ず経営分析の資料をつけているが、 これは本当に役立っているのか」 株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和 受験勉強をしていますと、必ずと言っていいほど経営分析の話が出てきます。また本屋さんへ行くと、経営分析の本がズラッと並んで置いてあります。 私は学生の頃、経営分析の本を見て、早くこんな企業分析ができるようになりたいなあと憧れたものでした。 私は会計士試験に合格して、税務署へ勤務しました。調査先で税理士からソフト会社の経営分析一覧表を見せてもらった時には、こんな資料がコンピュータで出てくるのかとびっくりしてしまいました。 独立して実務についた時には、決算が終われば必ず経営分析表をつけてお客様に説明するのが、最良にして最高の指導であると信じていました。 ましてや、会計ソフトの会社がすばらしい経営分析表を売り込んできましたので、より一層、当然のことと思い込むようになっていきました。 そんな時ある社長から「経営分析なんて、しょせん過去の資料さ。我々は明日どうすれば利益が出るのかを知りたいんだ。そんな資料をもってきてくれないとダメだよ」と言われて唖然としてしまいました。 さらにその社長は「何%外注費率を下げれば利益が出ますよと言われて、納得している社長なんかいない。率なんかじゃダメだ。いくらの金額の外注費をどのように下げればいいのか、絶対額で話をしないと、まったくもって役に立たない」とも言われました。 私は、その社長の言葉を、ひとつひとつ思い出して考えてみました。 すると、私はお客様に対して「利益を出すためには、材料費を3%、外注費を4%下げればいいんです」と自信をもってアドバイスしていたのでした。 お客様から「それを実現するにはどうすればいいのですか」と尋ねられると、返答に困ってしまいました。そして「それは社長、一生懸命がんばる以外にありません」と精神論で返していました。 またある時は、経営分析表の同業者比較表を持っていき「社長、同業者と比較しますと、御社は借入金比率が高いですよ」とこれまた自信をもってアドバイスしました。 すると社長は「俺の所は先を見越して積極的に設備投資を行っているんだ。だから借入金比率が高くたって当たり前だろ。社長の考え方によって経営は変わってくるもの。それを十把一絡げにして同業者比較すること自体がおかしいのだ」逆に教えられたものでした。 長い年月をかけて慣れ親しんだ私の経営分析は、これらの社長の一言をもって終わってしまったのでした。 (了)
鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む③ 「相続税が増税」 ~しかし、居住用宅地の減額特例の改正で~ 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) (二) (三) (四) (了)
《速報解説》 株式保有特定会社に係る 「財産評価基本通達」の 一部改正(案)について 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成25年4月2日付で国税庁からパブリックコメント『「財産評価基本通達」の一部改正(案)に対する意見公募の手続の実施について』が発表された。 これは、平成25年2月28日の東京高裁判決を受けたもので、改正(案)の概要は次の通りである。 ※この改正後の評価通達は相続税又は贈与税について、改正後に納税者が申告する場合又は税務署長が更正・決定にする場合の財産評価に適用する。 2 判決の概要 本件事案は、取引相場のない株式の評価上、大会社に該当する評価会社が、保有資産に占める株式の割合が25%以上である場合には、一般の評価会社に適用できる「類似業種比準方式」は認められず、株式保有特定会社として一律に「純資産価額方式」又は「S1+S2方式」で評価しなければならないのかが争われたものである。ちなみに、本件事案の評価会社の株式保有割合は25.9%であった。 一審の東京地裁においては、一律適用は不合理であり、評価会社の規模や実態を考慮すべきとして、納税者の主張が認められた(平成21年(行ウ)第28号、平成24年3月2日判決)。 二審の東京高裁でも一審の判決が支持され、「類似業種比準方式」で評価すべきであるとされた(平成24年(行コ)第124号、平成25年2月28日判決)。 本事案は、上告受理の申立てがなされず確定している。 3 国側の主張 現行の財産評価基本通達によれば、株式保有割合による大会社の評価方法は以下のようになっており、25%以上になると通常有利な類似業種比準方式を選択できない。 国側は、株式保有割合25%という数値は、平成2年の通達改正当時の法人企業統計等に示された資本金10億円以上の会社の株式保有割合が平均7.8%であったことなどから、25%はその3~4倍であり、資産構成が著しく株式に偏っている会社と認識され、決定されたものであるとし、さらに、本件事案の相続開始時である平成15年度の法人企業統計を基に算定された資本金10億円以上の営利法人の株式保有割合は16.31%であり、25%と比べ、なお低い水準にあるため、不合理ではないと主張していた。 4 裁判所の判断 しかし、平成9年の独占禁止法改正によって従前は全面禁止されていた持株会社が一部認容されるなど、会社の株式保有に関する状況は大きく変化しており、独占禁止法では、総資産額に占める子会社株式の取得金額の割合が50%超の会社を持株会社とし、特別な規制がされていること等から、25%以上の大会社のすべてについて一律に、類似業種比準方式を用いるべき前提を欠くということはできないとし、株式保有特定会社に該当するか否かは、その企業規模等を総合考慮して判断するのが相当であるとした。 5 今後の運用 上記判決によれば、今後は、株式保有割合に加え、その会社の実態等も総合考慮して株式保有特定会社に該当するか否かを判断することになるが、この判定基準そのものが合理性を有するものであれば、会社の実態等を考慮することまでをも求めるものでないとして、従来どおり形式基準は維持することとされた。 また、この改正(案)は、申告のみならず、税務署長の更正・決定の財産評価にも適用される。したがって、この通達が改正された場合には、取扱いの変更を知った日の翌日から2月以内であれば更正の請求が可能となる。 ただし、国税当局が更正できる期間は、その更正の対象となる申告分の法定申告期限から5年以内に限られているため、法定申告期限から5年を過ぎている分については、更正を受けることができない。 (了)
monthly TAX views -No.3- 「番号制度をどう税制に活用するか、 これからの課題」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 国民一人ひとりに住民基本台帳に基づく番号を割り振って、年金、医療、介護保険、福祉、労働保険、税務の6分野での活用する、番号制度(民主党政権下では「マイナンバー」と称した)導入の法律(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)が成立しそうだ。 この法律は、昨年の通常国会に民主党政権が提出し、自民、公明、民主の3党で修正合意していたが、同年11月の衆院解散で廃案になったものである。 これにより、個人に、生涯変わらない番号が交付され、様々なサービスを受けることが可能になる。 わが国を除く先進諸国は、IT時代に不可欠な番号というツールを活用して、効果的で効率的な行政を展開しており、やっとわが国もその仲間入りしたということであろう。 今回の法律は、いわば番号というハードウエアを導入したということである。どのようなソフトを開発し、どのように行政に役立てるのかという点は、これからの仕事である。 では、税務の活用としては、どのようなことが考えられるのだろうか。 まずは、正確な所得把握の向上に向けて、支払調書制度の「範囲を拡大する」ことの検討である。これまでの議論では、米国などすでに番号制度を導入している国を参考にしながら、どのような情報を新たに求めるのか検討していくことになっている。 今後議論になると予想されるのは、諸外国と比較してわが国が求めていない、預貯金利子所得の情報を求めるかどうかという点である。預貯金利子については、わが国では源泉分離課税制度となっているので、税務当局は情報をとる必要がない。 しかし今後、消費税率引上げの際の低所得者対策として給付付き税額控除を導入するということになれば、利子所得を求める必要が出てくる。なぜなら、所得は低いが金融資産が多くあるという人は、この制度の対象から排除する必要があるからである。 このように、フローの金融所得情報を活用して、ストックを調べることの有用性・必要性は、今後様々な社会保障制度において、求められるであろう。 番号を活用して、納税者ごとに利子所得の名寄せができるようにするためには、源泉分離課税を申告分離課税に制度改正する必要がある。銀行にとっては、あらたな手間やコストがかかることになる。 さらに、資産税への番号の活用を求める声もある。個人の持つ不動産に番号を付けて管理できれば、相続税や固定資産税の課税実務が向上するという議論である。 注意すべきは、わが国はガチガチの徴税国家になるべきではないということだ。個人の資産残高をすべて、番号付きで税務当局に報告するような制度はとるべきではない。そこにはおのずから限度がある。 もう一つ重要なことは、国民利便の観点からの番号の活用も忘れてはならないということである。この点筆者は、「事前記入式申告制度」の導入を提言している。 番号導入後には、個人全員に「マイ・ポータル」というウエブサイトが提供され、行政サービスの対象者を国家が番号で割り出し、必要な行政サービスを自動的に届けることとされている。申請を忘れたために必要なサービスが受けられなくなった、ということは原則なくなるわけで、国家と国民の関係を変えるものである。 またポータルには、給与所得の源泉徴収額、各種支払調書の内容、社会保険料や医療費の支払額などが表示されることになっている。欧州では、それらの情報をあらかじめ申告書に記入し、納税者はそれを確認して、必要に応じて訂正して、送り返すことにより申告となる「記入済み申告制度」が導入されている。わが国でもぜひ導入すべきではないか。 将来的には、e‐Tax(イータックス)を組み合わせ、選択的に自らが確定申告できるような制度も検討をしていく必要があろう。 自らの納税額を自らが確定することによって、民主主義の基本であるタックスペイヤーの自覚が芽生え、様々な行政の無駄を批判する基礎ともなる。16年に導入予定の番号制度活用のソフトとして、今後積極的な検討を進めてもらいたい。 (了)
株式交換前に株式交換完全子会社が 自己株式を保有している場合の 会計・税務処理 公認会計士・税理士 有田 賢臣 1 会社法上の取扱い P社がS社を吸収する合併では、S社が保有する自己株式に対して合併対価を割り当てることはできない(会社法749①三かっこ書)。一方、P社がS社を完全子会社とする株式交換では、S社が保有する自己株式にも対価の割当てが行われる(会社法768①三)。 子会社は親会社株式を取得してはならないとされているが(会社法135①)、株式交換により自己株式と引換えに親会社株式の割当てを受ける場合には、例外的に親会社株式の取得が認められている(会社法135②五、会社法施行規則23二)。なお、子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない(会社法135③)。 子会社において、株式交換の効力発生前に自己株式を消却すれば、株式交換により子会社が親会社株式を取得することはない。自己株式を消却するには、取締役会にて、消却する自己株式の数を決議する必要がある(会社法178)。 ただし、株式交換に反対するS社株主が、株式買取請求権(会社法785①)を行使する場合には注意が必要である。反対株主が株式買取請求権を行使すると、株式交換の効力が生じる直前にS社は反対株主から自己株式を取得することになる。反対株主による株式買取請求権の行使は、株式交換期日の前日まで認められていることから、株式交換期日よりも前に、消却する自己株式の数を特定し、取締役会決議を行うことができるのかという実務上の問題が生じるからである(詳しくは、商事法務No.1812「株式交換における反対株主の株式買取請求と子会社への親会社株式割当て」参照)。 2 会計上、税務上の取扱い 【設例】 S社の発行済株式総数10株(P社が7株、S社が1株、外部株主が2株を保有) P社は株式交換により、S社の株主に対しP社株式(時価 @80)を交付する。 株式交換比率は、1:1とする。 〈会計上の仕訳〉 平成25年1月11日に公表された「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(案)」(以下「企業結合適用指針(案)」)に基づく会計処理は以下のようになる。 ① 親会社(P社) ※S社株式の取得原価=S社の株主資本簿価400×持分比率30%=120 ※現在の企業結合適用指針に基づくS社株式の取得原価は240(P社株式時価@80×3株)である。 親会社が追加取得する子会社株式の取得原価は、当該子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額を基礎として算定する(企業結合適用指針(案)236項)。 親会社の株主資本は、株主資本等変動額(=子会社の株主資本簿価を基礎として算定した額)だけ増加する。その増加額は資本金又は資本準備金に計上される。債権者保護手続を行えば、その他資本剰余金への計上も可能となる(会社計算規則39)。 ② 子会社(S社) ※P社株式の取得原価=S社の株主資本簿価400×持分比率10%=40 ※現在の企業結合適用指針に基づくP社株式の取得原価は80(P社株式時価@80×1株)である。 自己株式と引換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、親会社が付した子会社株式の取得原価を基礎として算定する。また、親会社株式の取得原価と自己株式の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額としてその他資本剰余金に計上する(企業結合適用指針238-3項)。 〈申告調整仕訳〉 ① 親会社(P社) ※税務上のS社株式の取得価額は40(S社の自己株式簿価0と外部株主のS社株式簿価40の合計額)であるが、会計処理によりS社株式の帳簿価額が120増加しているので80減額する。 ※資本金等の額は、株式交換により移転を受けた子会社株式の取得価額40だけ増加するが、会計処理により資本金が120増加しているので80減額する。 適格株式交換により、親会社が追加取得する子会社株式の取得価額は、子会社の株主数が50人未満である場合には、子会社株主における子会社株式の税務上の帳簿価額を基礎として算定する(法令119①九イ)。なお、S社が保有するS社株式(自己株式)の税務上の帳簿価額は0であることに注意が必要である。 親会社の資本金等の額は、株式交換により移転を受けた子会社株式の取得価額だけ増加する(法令8①十)。 ② 子会社(S社) ※税務上のP社株式の取得価額は0(=S社の自己株式簿価)であるが、会計処理によりP社株式の帳簿価額が40増加しているので40減額する。 ※資本金等は増減しないが、会計処理により自己株式が100増加し、その他資本剰余金が60減少しているので40減額する。 自己株式と引換えに受け入れた親会社株式の取得価額は、当該自己株式の税務上の帳簿価額を基礎として算定する(法令119①八)。自己株式の税務上の帳簿価額は0であることから、親会社株式の取得価額は0となる。 子会社は保有する子会社株式(自己株式)と交換に親会社株式を受け入れたに過ぎないため、資本金等は増減しない(法令8①一ヘ)。 3 親会社株式の処分 S社がP社株式を外部に90で売却した場合、会計上は売却益が50計上されるのに対し、税務上は売却益が90計上され、思わぬ課税が生じてしまう。P社株式の会計上の帳簿価額は40であるのに対し、税務上の帳簿価額は0であることによる。 そこで、売却に代えて、P社株式を現物配当することが考えられる。100%子会社であるS社が親会社P社に対して行う現物配当は、P社・S社が内国法人である限り、適格現物分配に該当する(法法2十二の十五)。 適格現物分配の場合、S社ではP社株式を簿価で譲渡したものとして取り扱われることにより譲渡益が認識されず(法法62の5③)、配当に係る源泉徴収も不要とされている(所法24①)。一方、P社ではP社株式の配当直前の帳簿価額で自己株式を取得したものとされ(法令8①十八ロ・123の6①)、P社株式を受け入れたことにより生ずる収益は益金不算入となる(法法62の5④)。 (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第1回】 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 法人が対価性のない、あるいは対価性の乏しい行為をすることで、第三者に対して経済的な利益の移転がなされる場合がある。そのような利益の移転行為については、法人の事業に直接又は間接的に関連する場合と、間接的にも関連しない場合があり得るが、その境界は必ずしも明確でないといえる。 そこで、そのような利益の移転行為については、それが法人の事業と直接関連することが明らかな場合を除き、寄附金に該当するものとして、一定の基準によって損金算入限度額を定めて、その限度額の範囲内でのみ損金算入を認め、それを超える部分については損金算入を認めないものとされている(法法37①)。 この寄附金税制は、事業とは関連しない、あるいは関連性の乏しい支出を無制限に認めることによって、各事業年度の所得金額を操作されるおそれがあること、他方、事業に関連する支出は本来費用となるべきであるが、その事業関連性は必ずしも明確に判断できるものではないことから、一種の割り切りとして、損金算入限度額の範囲内であれば、事業関連性の有無を問わず、形式的に損金算入を認めるが、それを超えるものについては、一律に損金算入を否定するものである。 実務上は、税務調査などにおいて、寄附金該当性をめぐって争われることが非常に多いことから、本稿では、寄附金の範囲に関する論点を中心として、寄附金税制に係る論点を整理することとしたい。 取り上げる予定のテーマは、以下のとおりである。 2 寄附金の範囲(総論) 寄附金とは、 を意味する。 法律上は、「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)」とされている(法法37⑦)。 また、寄附金には、無償行為による支出以外に、対価の不均衡(低廉取引)によってなされる経済的利益の移転も含まれ、法律上は、「資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」も寄附金に含まれるとされている(法法37⑧)。 このように、寄附金には、経済的利益の移転が広く含まれるものと解されるが、事業に直接関連する費用(法律上は、「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費」と規定される)については、寄附金に含まれないとされている。 そこで、寄附金の範囲(寄附金該当性)をめぐっては、第一に、寄附金に含まれない費用(事業に直接関連する費用)に該当するか否かが問題となる。第二に、「任意に」経済的利益の移転がなされたものといえるかが問題となり、第三に、「対価性」の有無等が問題となる。 言い換えれば、第一の問題は、隣接費用との区分の問題であり、第二の問題は、貸倒損失等との区分の問題であり、第三の問題は、対価性の有無等という本来の意味での寄附金該当性の問題である。 3 隣接費用との区分 (1) 広告宣伝費等との区分 広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用は、一般的な販売管理費に含まれるものであり、事業と直接関連することが明らかといえることから、これらの性質を有する支出等については、寄附金には該当しないことになる。 この広告宣伝費等に該当するか否かは、その目的及び効果に照らして実質的に判断がなされるべきであり、 であれば、その支出等の名目いかんにかかわらず、また、その支出等の相手方が事業とは直接関係のない者であったとしても、広告宣伝費等に該当し得ることになる。 例えば、販促キャンペーンとしてのキャッシュバックや景品供与等が広告宣伝費等に該当することはもちろん、宣伝効果を期して自社製品を配布すること、大会やイベント、あるいは一定の団体に資金を提供すること(ただし、自社名の表示など、実際に宣伝効果を有することが必要である)、広告宣伝を統括する親会社に合理的な範囲で負担金を拠出することなども広告宣伝費等に該当するのであり、寄附金には該当しない。 (2) 交際費等との区分 交際費等については、事業との関連性が一定程度認められるものの、冗費としての性格を有するものであることから、寄附金税制とは別に、租税特別措置法によって損金算入が制限されている(措法61の4①)。この交際費等と寄附金については、対価性がない(乏しい)という点で共通していることから、その区分が問題となる。 一般には、その区分に当たっては、交際費等に該当するか否かを先に判断し、交際費等に該当しない場合に、寄附金に該当するか否かを判断することになる。 交際費等の要件は、次のとおりである。 したがって、事業に関係のない者に対して利益の供与がなされた場合、また、事業に関係のある者に対して利益の供与がなされた場合であっても、それが事業とは無関係の目的からなされたものであるときには、交際費等には該当せず、寄附金(場合によっては、役員に対する給与)に該当し得ることになる。 (3) 役員又は従業員に利益供与がなされた場合の費用区分 ア 給与に該当する場合 法人から役員又は従業員に対して経済的利益の供与がなされた場合、明確な対価関係が認められないとしても、通常、それは役員等としての地位に基づいて利益を受けるものであり、広く労務の対価としての性質を有するものとみなされることになる。 したがって、そうではないことが明らかなもの(役員等以外の地位に基づいて利益を受けるものであることが明らかなもの)を除き、給与に該当することが多いといえる。 また、第三者に対して経済的利益の供与がなされた場合であっても、その第三者が役員等の親族などの関係者であり、法人から供与された利益が実質的には当該役員等個人に帰属するとみられる場合は、その者に対する寄附金ではなく、当該役員等に対する給与となる(拙稿《役員給与》編・6(2)参照)。 すなわち、利益供与が役員等個人の私的な理由によってなされる場合、本来個人が負担すべきものを法人が代わって負担する場合(法基通9-4-4の2参照)には、その利益は当該個人に帰属するものとして、その者に対する給与に該当することになる。 イ 福利厚生費に該当する場合 前記アのとおり、法人が役員等に経済的利益の供与をした場合は、通常は、給与に該当することになる。もっとも、形式的には、役員等個人に利益が帰属するかのようにみえる場合であっても、実質的には、法人の便宜のためになされるものについては、福利厚生費として給与には該当しないと考えられる。 この福利厚生費に該当するための要件は、次のようなものとなる。 このようなものであれば、その経済的利益は実質的には役員等個人ではなく、法人自身に帰属するものとして、福利厚生費に該当することになると考えられる。 例えば、職場の士気、労働意欲を高めるために社員優待制度を設けること、社員の結束を高めるために社員旅行をすること、健康増進のための器具備品を備えること、健康診断の費用を負担することなど、合理的な範囲で物心両面から職務環境を整えることは個人の利益を図る目的を超えて法人の事業遂行の目的のために必要であるので、その対象者に不合理な限定がなされておらず、その範囲が過剰なものではない(費用対効果が均衡していると言い得る)限りにおいては、その利益は実質的には法人自身に帰属すると言えることから、福利厚生費として損金算入が認められる。 次回は、「貸倒損失等との区分」について解説する。 (了)