Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第28回】 「〔第1表の1〕事業承継に伴い株式を移転する場合の 配当還元価額の適用の可否」 税理士 柴田 健次 Q A社の代表取締役である甲は、現在65歳であり、5年後に代表権の移譲を検討しています。後継者は親族外の役員でA社の取締役である乙又は丙のいずれかに代表権を移譲する予定です。甲は、乙に60株、丙に30株のA社株式をそれぞれ額面(1株50,000円)で売却を行いました。 発行済株式総数は200株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。 A社の資本金は10,000,000円であり、全て甲が出資したものとなります。 乙は甲及び丙の同族関係者には該当しません。 甲が乙及び丙にA社株式を譲渡したことに対して、甲、乙及び丙の課税関係はどのようになりますか。 なお、甲は、乙及び丙に株式を譲渡した後も代表権を有しており、譲渡後においても甲は、引き続き会社の意思決定を行っています。 A社株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額等は次の通りです。 なお、A社の会社の規模区分は大会社に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。 A ■甲の課税関係 乙及び丙への株式の譲渡については、譲渡対価を基に譲渡所得の計算を行うことになります。1株当たりの譲渡損益は0円(50,000円-50,000円)であるため、課税関係は生じないことになります。 ■乙の課税関係 乙が著しく低い価額で株式を譲り受けた場合には、時価と対価との差額については贈与税課税の対象となりますが、この場合の時価は、乙にとっての時価となりますので、配当還元価額となります。乙は配当還元価額以上で株式を譲り受けていますので、贈与税の課税問題は生じることはありません。 ■丙の課税関係 乙と同様になります。 ◆ ◆ ◆ ① 個人から個人に対して譲渡した場合の売主の課税関係 個人から個人に対して資産を譲渡した場合には、法人への低額譲渡(所法59①)のようにみなし譲渡の適用はありませんので、現実に収受した対価の額を基に譲渡所得の計算を行うことになります。なお、時価の2分の1未満の金額で個人に対して資産を譲渡した場合には、譲渡損失はなかったものとみなされます。(所法59条②、所令169)。 本問の場合には、1株当たりの譲渡対価は50,000円、1株当たりの取得価額も50,000円(10,000,000円/200株)となり、譲渡損益は0円であるため、課税関係は生じないことになります。 ② 個人から個人に対して譲渡した場合の買主の課税関係 個人が著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、その財産の譲渡があった時に、譲渡を受けた者が、譲渡対価と譲渡があった時におけるその財産の時価との差額に相当する金額を譲渡した者から贈与により取得したものとみなされます(相法7)。 この場合における時価は、財産評価基本通達を基にその算定がなされます。これは、個人間の売買においては、所得税法59条1項の適用がなく、相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定め、財産評価基本通達1項(2)(時価の意義)では、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」とされているため、相続税法7条の時価は、原則として、財産評価基本通達に基づき算定されることになります。 したがって、財産評価基本通達8章1節(株式及び出資)に基づき、非上場株式の時価算定を行う必要がありますが、財産評価基本通達の定めにより評価をすることが著しく不適当と認められる場合には、財産評価基本通達6項(以下、「総則6項」という)の定めにより、国税庁長官の指示を受けて評価するものとされています。 本問の場合には、特例的評価方式である配当還元価額が時価として認められるか否かが問題になりますが、まず形式要件である株主判定を財産評価基本通達8章1節(株式及び出資)に基づき行い、次いで実質要件である総則6項の定めに該当しないかどうかを確認することになります。 配当還元価額の適否についてまとめると、下記の通りとなります。 【配当還元価額の適用フローチャート】 ③ 個人間売買が行われた場合における買主の株主判定(形式要件) 乙及び丙の株主判定は、取得後の議決権数に基づき、下記の通り行うことになります。 【同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。本問の場合には、取得後で株主判定を行うことになりますので、甲は同族株主に該当しますが、乙及び丙は同族株主には該当しません。 ▷同族関係者 法人税法施行令4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 ◆本問の場合における株主判定 筆頭株主グループの議決権割合は50%超となり、50%超の区分に該当することになります。乙及び丙は、取得後の議決権割合は、50%未満となりますので、特例的評価方式(配当還元価額)が適用される株主に該当することになります。 したがって、配当還元価額(25,000円)以上の対価で取得していれば、原則的には、贈与税の課税問題は生じないことになります。 ④ 総則6項の定め(実質要件) 総則6項を適用し、財産評価基本通達によらない評価を行う場合には、特別の事情が必要になります。財産評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなど、この評価方法によらないことが正当と是認されるような特別な事情がある場合には、他の合理的な方法により評価をすることが許されるものと解されています。 したがって、形式的には配当還元価額が適用できる場合においても、配当還元価額を適用することで、租税負担の公平を著しく害することが明らかである場合などの特別の事情がある場合には、総則6項により配当還元価額は否認されることになります。 東京地裁平成17年10月12日判決(TAINSコード:Z255-10156)は、配当還元価額を多少上回る評価額による譲渡がみなし贈与に該当するか否かが争われ、みなし贈与には当たらないとされた事件ですが、配当還元価額の趣旨を下記の通り、判示しています。 上記の配当還元価額の趣旨から、配当を受領することに限られる同族株主以外の株主であれば、配当還元価額は認められることになりますが、株式取得後において、事業経営に実効的な影響力を与え得る地位を得ている株主に該当していると認定されれば、同族株主以外の株主であったとしても、特別な事情があるとされ、配当還元価額は認められないことになります。 本問の場合には、株式取得後においてなお甲が実効的な支配を有し、乙又は丙は実効的な支配を有しているとは認められませんので、配当還元価額は認められることになります。 ☆実務上のポイント☆ 低額譲受に該当するかどうかの時価は、財産評価基本通達を基に計算することになりますが、配当還元価額の適用にあたっては、実効的に会社を支配している株主であるかどうかの着眼点も含めて検討する必要があります。 (了)
《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書の 記載方法に係る通達改正案を公表 ~計算結果が0円となる場合の端数処理に注意~ 税理士 柴田 健次 令和5年8月1日、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」の一部改正(案)が公表され、意見公募(パブリックコメント)が開始されました。受付締切は、8月31日までとなります。 1 改正案の概要 取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等について、表示単位未満の金額に係る端数処理の取扱いが改正されます。例えば、類似業種比準価額の計算における1株当たりの資本金等の額が0円となる場合には、現状においては類似業種比準価額が0円となり、株式価額が適切に反映されないため、端数処理の見直しが行われることになりました。 2 改正の時期 令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されます。 3 改正前の端数処理で計算した場合 例えば、下記の前提事項及び第4表、第5表の記載がある場合において、乙の相続により丙が株式を相続した場合には、第3表において原則的評価方式による価額が0円、配当還元方式による価額も0円となり、株式の価額が0円となるため、丙が取得した株式評価は0円となります。 ◆前提事項 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第3表(一部抜粋)〕 4 改正案の内容 (1) 計算結果により0円となった場合に分数又は課税時期における発行済株式数の桁数で端数を処理 第5表における1株当たりの純資産価額や1株当たりの純資産価額の80%相当額の算定、第3表における中会社又は小会社の1株当たりの価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の課税時期における発行済株式数(第1表の1①)の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨てたものを記載します。 第5表の⑪欄、⑫欄の金額及び第3表の⑥欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 課税時期の発行済株式数は35,000,000株であるため、9桁(8桁+1桁)以下の端数を切り捨て (※2) 分数表示 28,150,000/35,000,000 × 8/10 = 225,200,000/350,000,000 小数点表示 0.80428571 × 8/10 = 0.64342856 (※3) 分数表示 426/1,750(第4表の㉖下記(2)参照)× 0.5 + 225,200,000/350,000,000 × 0.5 = 426/3,500 + 225,200,000/700,000,000 = 310,400,000/700,000,000 小数点表示 0.24342856(第4表の㉖下記(2)参照)× 0.5 + 0.64342856 × 0.5 = 0.44342856 (2) 計算結果により0円となった場合に分数又は直前期末における発行済株式数の桁数で端数を処理 第4表における類似業種比準価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や1株当たりの比準価額の算定、第3表における配当還元価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や配当還元価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の直前期末における発行済株式数(第4表の②)の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨てたものを記載します。 第4表の④欄、第4表の㉖欄の金額、第3表の⑬欄の金額及び第3表の⑲欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 直前期末の発行済株式数は35,000,000株であるため、9桁(8桁+1桁)以下の端数を切り捨て (※2) 分数表示 14.2 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 426,000,000/1,750,000,000 = 426/1,750 小数点表示 14.2 × 0.85714285/50 = 0.24342856 (※3) 分数表示 2.5/0.1 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 750,000,000/1,750,000,000 = 75/175 小数点表示 2.5/0.1 × 0.85714285/50 = 0.42857142 上記により原則的評価方式による価額は310,400,000/700,000,000(0.44342856)円(第3表の⑥)となり、配当還元価額方式による価額は75/175(0.42857142)円となり、丙が取得した株式の評価金額は、2,142,857円(5,000,000株 × 75/175(0.42857142)円)となります。 5 別表ごとの改正案の端数処理 今回の改正案で端数処理に影響がある部分を評価明細書ごとに表示すると、下記の通りとなります。課税時期における発行済株式数と直前期末における発行済株式数で、使い分けがされていますので、課税時期と直前期末において発行済株式数が異なる時には注意が必要となります。 〔第3表〕 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第6表〕 〔第7表〕 〔第8表〕 (了)