2024年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 2023年12月22日に金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、「内閣府令」という)」等の改正が公表され、諸外国に比べて「重要な契約」に関する開示が不足していると考えられていたことから、有価証券報告書への「重要な契約」等の開示について改正が行われた。 1 改正内容 (1) タイトルの変更 有価証券報告書及び有価証券届出書(以下、「有価証券報告書等」という)について、現行は、「経営上の重要な契約等」というタイトルで重要な契約について記載していたが、改正後は「重要な契約等」にタイトルが変わる。 (2) 有価証券報告書等の開示内容の追加 有価証券報告書等の「重要な契約等」に、以下①から③の開示が必要となる。 ① 企業・株主間のガバナンスに関する合意 ② 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 ③ ローン契約と社債に付される財務上の特約 (※1) 法的拘束力を有する合意が開示対象となるため、口頭の合意であっても、法的拘束力を有する場合には、開示の対象になる(「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、「コメント対応」という)6)。 (※2) 記載すべき事項の全部又は一部を他の箇所において記載した場合には、その旨を記載することによって、他の箇所において記載した事項の記載を省略することができる(内閣府令 第二号様式 記載上の注意(以下、「記載上の注意」という)(33)f,g,h)。 (※3) 法令上の開示の要請は、当事者間の合意による秘密保持義務に優先することから、個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらない(コメント対応21)。 (※4) 一定の合意を含む契約が「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断すべきである。例えば、合意の相手方以外の株主が特定かつ少数で、かつ全株主が合意の内容を把握しているなど、少数株主保護の必要性が乏しいものや、事前承諾権を定めた合意のうち、契約が通常の事業過程で締結されたものであり、かつ、事前承諾の対象となる行為が一部に限定されているなど、ガバナンスに対する影響が限定的であるものについては、「重要性の乏しいもの」に該当する(コメント対応13~17)。 (※5) 保有株式の譲渡に関する制限は、株主に一方的に不利になりうるため、これが単独で合意されるのではなく、当該合意に付随又は関連して他に取り決めが行われていることがある。ここで、保有株式の譲渡制限等に関する合意に付随し又は関連してされている合意を常に開示することまでは求められていない。しかし、必要に応じて、当該合意に関する開示事項(合意の目的等)の中で付随する合意に開示することが考えられるほか、付随する合意自体が提出会社にとって重要な契約等である場合には、記載上の注意(33)aに基づいて開示を行う必要がある(コメント対応50)。 (※6) 提出会社の財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができない事由が生じたことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約に限る(内閣府令19⑳)。 (※7) 純資産額維持や利益維持等、財務指標の維持を目的としその抵触時の効果が期限の利益を喪失するものについては「財務上の特約」に該当するが、財務指標の維持を目的とするものではない、配当制限や担保提供制限といった財務制限条項やレポーティング・コベナンツそれ自体については、「財務上の特約」に該当しない(コメント対応72)。 (※8) コベナンツ抵触時の効果が期限の利益を喪失するものでなく、利率の引上げ等に留まる場合には、「財務上の特約」には該当しない(コメント対応72)。 (※9) 「財務上の特約が付された金銭消費貸借契約」には、特定融資枠契約(一定の期間及び融資の極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間において当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して手数料を支払うことを約する契約)は含まれない(「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下、「ガイドライン」という)5-17-2、コメント対応80)。 (※10) 属性の具体的な記載方法としては、「個人」や「事業会社」のほか、金融機関については、金融庁のホームページに掲載されている免許の区分に応じ、都市銀行、地方銀行等といった記載を行うことが考えられる。なお、個社名を開示することも可能である(コメント対応94、95)。 (※11) 「担保の内容」は、財務諸表の担保付資産の注記等を参考に具体的な記載を行うことが考えられる(コメント対応96)。 (※12) 「財務上の特約の内容」は、抵触事由の基準となる財務指標の内容やその値、財務上の特約に抵触した際の効果等を記載することが考えられる(コメント対応96)。なお、投資者の理解を損なわない程度に要約して記載することも可能である(ガイドライン5-17-4)。 (3) 臨時報告書の提出事由の追加 以下のとおり、臨時報告書の提出事由が追加されている。 (※13) 特定融資枠契約(コミットメントライン)は、「財務上の特約が付された金銭消費貸借契約」には含まれず、同契約に基づいて、実際に資金の借入れを行った場合、当該借入額が一定の基準を超えるときに臨時報告書を提出する必要がある(コメント対応80)。 (※14) 期限の利益を喪失する旨の特約を解除するために担保権を設定した場合には、財務上の特約の内容に変更があった場合として、臨時報告書の提出が必要になる(コメント対応72)。 (※15) 金銭消費貸借契約の終了又は社債の償還があった場合には臨時報告書の提出は不要であるが、金銭消費貸借契約の弁済期限変更や社債の償還期限の変更があった場合には、臨時報告書の提出が必要となる。また、金銭消費貸借契約や社債に付された財務上の特約を削除する場合は、財務上の特約の内容の変更として、臨時報告書の提出が必要となる(コメント対応104、110)。 2 適用時期 (1) 有価証券報告書等 上記1(1)及び(2)の適用時期は、以下のとおりである(内閣府令附則3①②)。 (2) 臨時報告書 上記1(3)の適用時期は、以下のとおりである(内閣府令附則2①②)。 Ⅷ インボイス制度 2023年10月1日からインボイス制度が開始され、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れにおける「消費税額とみなされない金額(仕入税額控除できない金額)(※)」の会計処理については、明確な規定がない。 (※) 2023年10月から2026年9月までは、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、80%まで仕入税額控除できる。2026年10月から2029年9月までは、50%まで仕入税額控除できる。 ただし、日本公認会計士協会「消費税の会計処理について(中間報告)」をもとに考えると、以下の会計処理が考えられる。 Ⅸ 分配可能額 配当は、債権者保護の観点から、配当の効力発生日時点における分配可能額を超えて行うことができないとされている(会社法461①)。しかし、昨今、分配可能額を超える、剰余金の配当又は自己株式の取得が行われている事例が数件発生している。そのため、ここでは分配可能額の算定について解説する。 分配可能額は、以下の流れで算定する。 (1) 事業年度末日における剰余金の額の算定 まず、事業年度末日における剰余金の額を、以下のように算定する(会社法446)。以下に従って算定すると、決算日における剰余金の額は、「その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額」となる。 (2) 分配時点における剰余金の算定 次に、分配時点における剰余金を算定する(会社法446)。 (3) 分配可能額の算定 最後に、分配可能額を算定する(会社法461)。ここで算定した分配可能額を超えて配当を行ってはならない。 (4) 実務上の留意点 上記(1)から(3)で計算式を解説したが、会社としては、最初から細かい検証をするのではなく、まず、配当総額と「期末日におけるその他資本剰余金+その他利益剰余金」を比較し、配当総額を十分に下回っているか確認をすることが重要である。 十分に下回っている場合は、通常、分配可能額を超えることはないと考えられる。 一方、十分に下回っていない場合は、詳細に検証する必要がある。その際には、監査人や顧問弁護士等に相談しながら検証することが望まれる。 Ⅹ サステナビリティ開示 2023年3月期の有価証券報告書からサステナビリティ開示が行われている。将来的には、サステナビリティ開示は増えていくことが予定されているため、2024年3月期でも特段の改正はないが、前期と同様の開示にすればよいと安易に考えるのではなく、各社、十分に考えて開示をすることが望まれる。 なお、その際には、2023年12月27日に金融庁より公表されている「記述情報の開示の好事例集2023」(以下、「好事例集」という)を参考にされたい。 好事例集では、投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイントとして、以下が挙げられている。これらのポイントを参考にして、開示の検討をすることが望まれる。 (了)
能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス 【第2回】 「被災により納品ができない場合における不可抗力条項の活用(1)」 ~契約書に記載がない場合の対応~ 弁護士法人飛翔法律事務所 弁護士 濱永 健太 〇はじめに 令和6年1⽉1⽇に発⽣した能登半島地震によって現地では甚大な被害が生じ、未だに生活するにも苦労を強いられており、また、事業活動においても従前のような活動が再開できていない事業者も多い。 例えば、事業者が製造メーカーであり、既に取引先から製品の発注を受けていたとしても、今回の地震によって事業所や生産設備、在庫商品などが毀損し、また、役員及び従業員の方も被災されて避難生活を余儀なくされている状況においては、物理的な面だけでなく、人的な面でも生産活動が困難な状況と言える。さらには、流通経路自体も十分に復旧されておらず、材料が入っていないことによって生産を行いたくても行えない状態が続いている事業者も多いかと思われる。 このような場合、受注に際して取り決められていた納期を遵守することが難しくなるところ、発注者側が任意に納期の変更や義務の免除を認めてくれる場合もあるが、発注者がこれらを承諾しない場合に受注者として検討すべきものが契約書の不可抗力条項である。 本連載では、2回にわたって不可抗力条項の基本的な理解や活用しやすい不可抗力条項への見直しに関するアドバイスを行いたい。 1 不可抗力条項とは 「不可抗力」とは、人の力による支配・統制を観念することができる事象か否かを基準として、外部から生じた要因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止し得ない事由を言うとされている。 簡単に言えば、人の力ではコントロールができない事象が生じ、事業者が相当の注意をしても避けられないようなケースである。 一般的な契約書においては、下記のような条項が設けられている場合が多いかと思われる。 〈一般的な不可抗力条項〉 数年前には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって生産ができない場合に、契約書の不可抗力条項を用いて免責されるか否かが大きな議論になったが、今回の能登半島地震が上記の条項に列挙されたもののうち「地震」に該当することは明らかである。 そうすると、当該不可抗力条項をそのまま見れば、地震によって納品が不可能ないし遅れが生じるような場合には一律に責任を負わないとの結論になりそうである。 しかしながら、上記の通り、不可抗力はコントロールできない事象が生じたことに加えて、防止のために相当の注意を払っても防止できないものであるとされているところ、例えば、予測不可能な地震によって壊滅的な被害を受けた上で、事業所は被災地にしかなく、従業員も被災している状況の中では基本的には不可抗力条項によって免責が認められるものと思われる。 他方、会社内の別の事業所が被災地以外にあり、その事業所では生産が可能な場合や、被災地以外にある別の協力業者に臨時で委託することで対応が可能な場合のように、代替措置を採ることができるようなケースでは、そのような代替措置の有無や容易性、それを選択する現実的な可能性を考慮しながら、免責を認めるべきか否かが判断されることになる点は注意が必要である。 なお、代金を支払うべき債務(金銭債務)については、法律上、不可抗力による免責を受けられないものとされており(民法419条3項)、その旨を確認する条項が規定されている場合も多い。これは金銭については流通性が高いため、他からの調達が十分に可能であり、不可抗力があっても履行が行われるべきとの考え方があるからである。 2 不可抗力条項がない場合の対応 契約書に不可抗力条項がない場合において、受注者が納期遅延等の責任を負うか否かについては、債務不履行に関して債務者の帰責事由がないこと(民法415条1項但書)、危険負担の考え方(民法536条)、あるいは事情変更の原則による免責を検討することになる。 まず、帰責事由に関しては、不可抗力の概念と非常に共通する部分が多く、上記で述べた通り、相当の注意を払っても避けられなかった場合には帰責事由がないことを理由に免責される場合が多いであろう。しかしながら、免責されるためには受注者にて自身に帰責事由がないことを立証する必要があるが、どのような場合に帰責事由がないと言えるのかの判断については、具合的な事由が明確に列挙された不可抗力条項がある場合に比べて困難な場合がありうる。 また、地震などのようなケースでは双方に帰責事由がない場合も多いと思われるが、その場合には危険負担(民法536条1項)によって事実上の免責を得られる可能性はある。つまり、現在の危険負担は双方に帰責事由がない状態で受注者が履行できない場合、発注者側は代金の支払を拒否できるというものである。これによれば、双方の債務自体は当然には消滅しないものの、受注者側は債務不履行責任を負わず、かつ、発注者側も支払義務を負わないので、免責を受けるのと同様の状態となる。ただし、受注者において帰責事由がないことを立証する必要があることは上記と同様である。 最後に、予見できない重大な事象が生じたことで契約をそのまま維持するのが不合理であることを理由に契約内容の変更を求める事情変更の原則については、裁判所もこれを認めることに非常に消極的であるため、これをもとにした免責の主張は現実的でないと言える。 * * * 次回は、不可抗力条項による契約解除と活用しやすい不可抗力条項に見直すための方法について述べたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第51回】 「減価の査定にそれなりの判断を伴う土地(その5)」 ~がけ条例の適用を受ける場合~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 数多い土地のなかには、がけに隣接しているものも見られます。例えば、以下のようなイメージの土地がこれに該当します。 〈がけに隣接した土地のイメージ〉 (出所) 埼玉県ホームページ「埼玉県建築基準法施行条例と解説」 一般の人を対象にこのような土地の価格について説明する場合には、「近隣でがけに接していない土地と比較して、がけによる危険度を考慮(減価)してX円/㎡と査定しました」という話の方が分かりやすいと思われます。しかし、がけの高さのいかんによってはこれだけでは説明がつかず、減価の程度を査定するに当たっては建築基準法の知識を必要とするケースがあります。 今回取り上げるのは、いわゆるがけ条例(正式には「○○県建築基準法施行条例」等の名称で都道府県ごとに定められている条例中のがけに関する規定)が適用される土地であり、厳しい建築制限が課されているケースです。 2 建築基準法及び条例による建築制限 建築基準法では、以下のとおり、地方公共団体が条例により本来の規定以上に制限を厳しくすることができる旨を定めています。 この規定を根拠に、都道府県が建築基準法の施行に関する条例を定めているケースが多く見受けられますが、今回取り上げるがけ条例もこれに該当します。 例えば、ある県の建築基準法施行条例では、がけについて以下の規定を置いています(下線は筆者によります)。 なお、「がけ」とは斜面の勾配が30度を超えるものを指すのが一般的です。 この条例の趣旨を要約すれば、がけ高が2mを超える場合は、擁壁を築造せずにがけの下端の基点からがけ高の2倍以内の位置に建築物を建築すること(そのための敷地造成も含みます)が禁止されるということです(擁壁の築造には相当の費用を要するため、これに見合う分が土地の評価減となります)。 3 鑑定評価に当たって がけに隣接する土地には上記のような建築制限があるため、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際には、市町村等の建築担当窓口で対象地ががけ条例の適用を受けるかどうかを十分に確認するようにしています。 また、がけ条例の適用を受ける土地の場合、(上記条例でも掲げているとおり、技術的な面から擁壁の築造が不要とされる例外規定も存することから)、次の事項の確認も欠かすことはできません。 これらの調査結果を踏まえ、(ア)建替えの際には新しい擁壁に置き換えることが必要であるとか、(イ)(建替え又は現状どおりの建物使用を含めて)既設の擁壁に補強が必要である旨の判断がなされた場合には、費用面から減価の程度を査定することとなります。 4 宅地建物取引業法における重要事項説明義務との関連 土地評価の問題ではありませんが、不動産売買における重要事項説明の対象としてがけ条例の存在は大きな意味を有しています。 これに係る裁判例ですが、土地の購入者が宅地建物取引業者から、がけ条例が存在することの説明を受けなかったとして売買契約の解除を認められたケースがあります(東京地裁平成23年4月20日判決、ウエストロー・ジャパン)。 本件において、裁判所は次の旨判示しています。 (※) 2020年4月1日から施行された改正民法前の規定に基づく裁判例であり、現行民法では、契約不適合責任の規定(同法第565条)が適用されています。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第10回】 「登記の優先順位」 ~同一区内の優先順位~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 「順位番号」がポイント 不動産に関する登記記録の権利部は「甲区」と「乙区」から構成されている。「甲区」には主に所有権に関する事項が登記され、「乙区」には担保権などの所有権以外の権利に関する事項が登記されている。「甲区」内、「乙区」内にそれぞれ複数の権利が登記されることもあり、権利の対立が起きた場合に優先順位が問題になることがある。 「甲区」内の複数の権利や、「乙区」内の複数の権利のように「同一区」内で権利が対立し、どちらを優先すべきか問題が生じた場合には、登記された「順位番号」を基準に判断することになる。 2 「甲区」内で複数の権利が登記されているケース 【差押の登記後に所有権移転登記がされているケース】 この事例では、順位番号2番で差押の登記がなされた後に、順位番号3番で「佐藤太郎」が所有権移転登記を行っている。差押の登記が入っていることを知りながら不動産を購入することは通常はないが、不動産取引が行われている最中に差押の登記がなされ、気が付かないまま売買代金を支払い、所有権移転登記が行われる事例は稀に発生しているようである。この場合、差押に基づき不動産競売が実行されると、佐藤太郎の所有権の登記は抹消されることになる。 【仮登記がされた後に所有権移転登記がされているケース】 この事例では、順位番号2番で「佐藤次郎」が所有権移転請求権仮登記を行った後に、順位番号3番で「鈴木太郎」が所有権移転登記を行っている。「仮登記」の意義については別の機会に解説を行うが、仮登記には「順位を保全する効力」がある。佐藤次郎が順位番号2番で登記された仮登記に基づき、所有権移転の「本登記」を行うと、鈴木太郎の所有権移転登記は最終的には抹消される結果となる。 3 「乙区」内で複数の権利が登記されているケース 【賃借権設定登記後に根抵当権設定登記がされているケース】 この事例では、順位番号1番で賃借権者である「山田太郎」が賃借権設定登記を受けた後に、順位番号2番で根抵当権者「ABC銀行」が根抵当権の設定登記を受けている。もし、根抵当権者ABC銀行が根抵当権を実行して不動産を競売にかけた場合、順位番号1番で登記された賃借権は消滅してしまうのだろうか。もちろんこの事例では、賃借権の設定登記が先になされているため、不動産の競売が行われても抹消されることはない。 4 まず登記記録をしっかり見ることが重要 同一区内の登記の優先順位は、順位番号によることになるためどちらが優先されるかの判断はそれほど難しくはない。しかし、実務では自らの権利が否定される可能性があるにもかかわらず、認識しないまま登記をしていることもある。まずは登記記録を見て登記を行うことが重要といえる。 (了)
2024年株主総会における 実務対応のポイント 三井住友信託銀行 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠 本年は、株主総会実務に直接的に影響のある制度改正は特段ないものの、株主総会資料の電子提供制度への対応が2年目となり、新型コロナが「5類」となってからも2年目の総会運営となる。株主総会プロセスの電子化の定着と、アフターコロナの総会対応という、引き続き新たな取組みに向けた模索が続くこととなる。 ここでは、これらの留意点を踏まえたうえで、本年株主総会における実務対応のポイントについて解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。 1 株主総会資料の電子提供制度対応 (1) 株主あて送付物の対応 2023年6月総会での株主あて送付物は、アクセス通知が7%、サマリーが29%、フルセットが64%となり(当社調べ)、当初の予想どおりに、これまでの送付物と同じ内容の招集通知を作成し、送付するフルセットが過半を占めることとなった。 しかし、これは株主数によって大きく傾向が分かれ、株主数3,000名未満の会社ではフルセットが82%を占めたが、株主数30,000名以上の会社ではサマリーが60%と過半を占めることとなった。やはり株主数の少ない会社では、従来どおりのフルセットでもあまりコスト的な負担感はないものの、株主数の多い会社では送付物のスリム化に向けた関心が高いという結果となった。 そもそも電子提供制度の移行初年度において、事業報告や株主総会参考書類の情報を原則ウェブ掲載とすることが、株主への情報提供の大きな後退となり、議決権行使比率が低下する懸念があったこともフルセットやサマリーが多くを占めた理由でもあった。 しかしながら、肝心の議決権行使比率については、最もシンプルなアクセス通知の送付でも前年より向上しており、当社の調べではアクセス通知を送付した会社の事前行使率(株主数に占める事前行使株主の割合)は、41.8%となって前年より0.6ポイント上昇した。特にその内訳としてインターネット行使は26.2%と、前年より2.7ポイントも上昇している。これは個人株主の議決権行使方法としてスマートフォンの利用が大幅に普及したことと、株主に事前の議決権行使を丁寧に要請した発行会社の努力によるものと考えられる。 当初の懸念であった議決権行使への影響も概ね杞憂となり、実際にアクセス通知を選択した会社の株主からも目立ったクレーム等は寄せられなかった状況を踏まえると、今後は制度趣旨を勘案したうえでフルセットからサマリー又はアクセス通知を選択する流れになるものと予想する。もちろん2年目から急激にアクセス通知が増加するとも考え難いが、実生活において、日常的な情報提供がネットでなされていることを踏まえれば、いつまでも多量の紙媒体による情報提供を続けることに一般株主が逆に違和感を感じることも考えられる。 なお、電子提供制度でのアクセス通知の様式は全株懇モデルの一体型アクセス通知(※1)が参照されたが、本年2月に一部改正がなされているので(※2)、そちらも併せて参照されたい。 (※1) 全国株懇連合会理事会決定「電子提供制度における招集通知モデル(電子提供措置事項の一部を含んだ一体型アクセス通知)の制定について」(2022年10月21日) (※2) 全国株懇連合会理事会決定「電子提供制度における招集通知モデル(電子提供措置事項の一部を含んだ一体型アクセス通知)の改正について」(2024年2月2日) (2) 書面交付請求 どのぐらいの請求があるのか注目された書面交付請求であるが、当社調べでは2023年6月総会での総議決権株主数に対する書面交付請求の割合については、平均0.44%と僅少であった。また基準日後に書面での送付要請があったかどうかについては、送付要請なしの会社の割合は72%となった。2023年はフルセット対応の会社が多かったことから、株主も制度変更に気づかなかったことも考えられるが、書面交付請求株主は予想より大幅に少ない状況であった。 なお、書面交付請求を失効させる異議催告手続きは(会社法325条の5第4項)、書面交付請求から1年を経過した株主に対して可能なため、本年から実施できるが、そもそも書面交付請求があまりなかったことから、本年早々に実施する会社は少ないであろう。 2 アフターコロナでの総会運営 (1) 2023年の状況 コロナが「5類」となって行動制限もなくなった2023年6月総会においては、出席者数はまだまだコロナ前には及ばないものの徐々に増加しており、所要時間と質問数はかなりコロナ前に戻ってきた印象である。 出席者数がコロナ前の水準に至らないのは、総会のお土産の実施割合が大幅に減少したことも要因の1つとなっている。当社調べでは、コロナ前の2019年6月総会でのお土産の実施割合は57%であったが、2023年6月総会では10%程度となっている。一部お土産を復活させた動きもあるものの、限定的である。お土産がなくても経営陣とのやり取りを期待して来場する株主を前提とする総会が、アフターコロナでの総会運営となったと考えられる。 (2) 運営の留意点 コロナ禍での総会運営の特徴として、総会時間短縮のためにこれまで形式的であった運営事項の大幅な簡略化がなされたが、もはや大幅短縮の必要もなくなったことから再び従前の運営に戻す動きも出てきた。 しかしながら、総会運営の中で大きなウェイトを占める事業報告の説明については、事業報告に記載されている内容を一字一句読み上げることはせずに、業績のポイントや成長戦略に絞って説明する方が株主の満足度も高いと考えられる。 電子提供制度となって、そもそも紙ベースでの従前の招集通知を作成・配布する必要もなくなって、総会場でのスクリーン等でのスライド・ビデオ映像を主体とした説明となれば、株主にとっても事業のトピックスを中心にビジュアルで説明された方がわかりやすく、会社への理解度も上がることにつながるであろう。また、総会当日の事業報告の映像を総会後にオンデマンド配信することも総会には来場できない株主の情報収集の助けとなる。このような取組みで合理的に会社の説明時間を短縮し、その分を株主との質疑応答に充てられるようにしたい。 3 機関投資家の議決権行使基準の動向 機関投資家の議決権行使基準は年々厳格化しており、その傾向を踏まえた対応策も年々必要となっている。特に近年では社内取締役に関する議決権行使のポイントも多岐にわたっており、本年はISSが取締役選任議案への賛否推奨における「ROE基準」の適用を再開したことは注目される。 すなわちISSは新型コロナの感染拡大により2020年6月から同基準の適用を停止していたが、本年はROEが基準(過去5期平均のROEが5%)を下回りかつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役への反対推奨が再開されることとなったのである(※3、4)。 (※3) ISS「2024年版ISS議決権行使助言方針(ポリシー)改定に関するコメント募集」、「2024年版日本向け議決権行使助言基準(2024年2月適用)」などを参照されたい。 (※4) グラスルイスの議決権行使助言基準も参照されたい。 そのほか国内機関投資家の主な動きとしては、①取締役会の多様性、②社外取締役の在任期間、③政策保有株式等がポイントとなっている。①取締役会の多様性については、ジェンダーダイバーシティにかかる議決権行使基準を厳格化する動きがあり、女性取締役が不在の場合、経営トップ等へ反対行使がされる。②社外取締役の在任期間については、社外取締役の独立性への懸念が生じると判断される在籍年数を12年とする動きがあり、計画的な社外取締役のサクセッションに取り組む必要が出てきた。加えて、③過大な政策保有株式等にかかる基準を新設する動きがあり、基準を満たさない場合は経営トップ等への反対行使がなされることとなる。 このような環境から、経営トップに反対行使がされやすい状況が続いている。必ずしも昨年の議決権行使結果と同水準の賛成行使がされるとは限らないことから、必要に応じて議案の賛否状況のシミュレーションをしておくことが考えられる。 4 おわりに 年明け以降も株式市場は活況を呈しており、本年1月からの新NISAの影響も勘案すると会社によっては個人株主が大幅に増加していることも考えられる。これまでの抑制モードから平常モードに転換し、会社の成長戦略をアピールする総会運営に切り替えていくことも必要であろう。株式市況のニュースが日常的となり、株価への株主の関心は高まっていると考えられる。東証からは「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(※5)が要請されていることも相まって、自社の株価について経営の意識や取組み姿勢を問う質問も大いに想定される。株主からのこれらの問いかけには、会社からもしっかりした対応が望まれる。 (※5) 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」 (了)
《速報解説》 国税庁、定額減税Q&Aへ新たに8問を追加 ~今月下旬からは給与支払者向けの説明会(事前予約制)を全国で開始、専用コールセンターも~ Profession Journal 編集部 「令和6年分所得税の定額減税」に関する源泉徴収義務者に向けた情報発信として、既報のとおり国税庁は2月5日に「令和6年分所得税の定額減税Q&A」を公表しているが、このほど3月18日付けで同Q&Aを更新、新たに8つの設問を追加した。 今回追加されたのは以下の設問。 新設された6-13では、「令和6年中の所得金額の見積額が 900 万円超の基準日在職者が、その同一生計配偶者について障害者控除を受けるため、同一生計配偶者の氏名等を扶養控除等申告書の摘要欄に記載している場合、この同一生計配偶者は月次減税額の計算に含めることになるか」との問いに対し、「扶養控除等申告書に記載された同一生計配偶者のうち、月次減税額の計算に含めることができるのは、源泉控除対象配偶者である同一生計配偶者に限られるため、源泉控除対象配偶者でない同一生計配偶者を、月次減税額の計算に含めるためには、別途、基準日在職者から、同一生計配偶者についての記載がある「源泉徴収に係る申告書」の提出を受ける必要がある」としている。 「扶養控除等申告書」には同一生計配偶者が障害者控除を受けるための記載欄が設けられているが、この記載事項をもって月次減税の計算へ含めることはできないため、留意が必要だ。 「扶養控除等申告書に記載された同一生計配偶者」のうち、月次減税額の計算に含めることができるのは「源泉控除対象配偶者である同一生計配偶者」に限られるため、既設問6-5にある通り、扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者の「令和6年中の所得金額の見積額」が 48万円以下であるかどうかを確認し、月次減税額の計算に含めるべき同一生計配偶者か否かを判定することになる。 一方、「源泉控除対象配偶者でない同一生計配偶者」については、既報のとおり様式案が公表されている「令和6年分 源泉徴収に係る定額減税のための申告書」に同一生計配偶者に関する記載を行い提出することで月次減税額の計算に含めることができるとされているが、新設された6-14では、「扶養控除等申告書等以外の様式を使用して、基準日在職者から月次減税額の計算に含める配偶者や扶養親族の氏名等の提出を受けてもよいか」との問いに対し、「法令で定められた記載すべき事項が漏れなく記載できるのであれば、国税庁ホームページに掲載されている扶養控除等申告書及び「源泉徴収に係る申告書」以外の様式を使用して、基準日在職者から月次減税額の計算に含める配偶者や扶養親族の氏名等の提出を受けて差し支えない」とする柔軟な見解を示した。 また、「給与の支払者が、基準日在職者から扶養控除等申告書等に記載すべき事項に関し、電磁的提供を受けるための必要な措置を講じる等の一定の要件を満たしている場合には、その基準日在職者は、書面による申告書の提出に代えて、電磁的方法により申告書に記載すべき事項の提供を行うことができる」としている。 なお国税庁は3月1日に定額減税特設サイトにおいて「給与支払者向け所得税定額減税コールセンター」の開設を公表するとともに、早ければ今週後半にも「給与支払者向け定額減税説明会」を全国各地で開催するとし(無料・事前予約制)、同月8日には「定額減税に係る源泉徴収事務」の動画も公開している。 今後、これら相談者からの相談事例をもとに、新たなQ&Aが追加されることも想定されよう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税庁、「インボイス制度に関して多く寄せられるご質問」を更新、 クレジットカード決済のタクシーチケットについては 回収特例を適用可との見解を示す Profession Journal編集部 国税庁は3月18日付けで、先月29日に続き「インボイス制度に関して多く寄せられるご質問」を更新、新たに下記2問を追加した。 【令和6年3月18日公表分】 新設された問㉕では、クレジットカード会社が発行しているタクシーチケットについて、「タクシー事業者等が発行しているものとは異なり、クレジットカード利用明細書しか送られてこず、また、タクシーチケット自体、取引先等に手交していることから、タクシーを利用した際に交付を受ける適格簡易請求書の保存をすることもできない」との質問に対し、「クレジットカード会社が発行しているタクシーチケットについては原則としてタクシー事業者から受領した適格簡易請求書の保存が必要となる」としつつ、「タクシーチケットは取引先等に手交されることも多いことを踏まえれば、適格簡易請求書の保存が困難といった事情があると考えられる」ことから、使用の際に回収される入場券等と同様の取扱い(いわゆる「回収特例」(消令49①一ロ))が適用できるとの見解を示した。 具体的には、受領したクレジットカード利用明細書及び以下の資料に記載された内容等に基づき、利用されたタクシー事業者が適格請求書発行事業者であることが確認できる場合には、適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている証票が使用の際に回収される取引として、帳簿のみの保存により仕入税額控除の適用を受けることができるとしている。 また問㉖では、毎月末に使用料等を受領し領収書を発行している免税事業者(資産の貸付けの他、棚卸資産の譲渡及び役務の提供を行っている)が、月の途中に適格請求書発行事業者の登録を受けた場合で、上記の3つの取引の態様ごとに、適格請求書の交付義務の有無について解説している。 なお同日には「銀行振込手数料のインボイス対応」についての動画もアップされており、「ETC対応」「立替金精算」と合わせ3つの動画が国税庁動画チャンネル(YouTube)で公開されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
令和4年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和4年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2024年3月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.560を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第129回】 「消費税法上の実質行為者課税の原則(その2)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 実質所得者課税の原則 1 形式と実質 消費税法13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》1項は、「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。」と規定する。 所得税法や法人税法においては「実質所得者課税の原則」という表現が採られているが、この点、金子宏東京大学名誉教授は消費税法13条については、「実質行為者課税の原則」と表現されている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法〔第24版〕』830頁(弘文堂2021)。 金子教授は、「消費税においても、課税物件の帰属、すなわち、資産の譲渡等をしたのは誰か、特定仕入れをしたのは誰か、または外国貨物を保税地域から引き取ったのは誰かについて疑義が生ずることが少なくない。」ため、この点について、「消費税法13条1項は、所得税法12条、法人税法11条等の例にならい」実質行為者課税の原則を規定しているとされる(※2)。また、この規定は、「資産の譲渡等または特定仕入れの帰属について、名義と実体、形式と実質が一致しない場合の判定基準として、いわゆる実質行為者課税の原則を定めたものである。この規定の意義についても、法律的帰属説と経済的帰属説とがありうるが、法律的帰属説が妥当である。」と説明される(※3)。 (※2) 金子・前掲(※1)、830頁。 (※3) 金子・前掲(※1)、830頁。 ここでは、誰が実質的な行為者かを判断する基準としての意味が消費税法13条にあると述べられるのであろう。ここにいう「行為者」とは、消費税法に特有の意味を有すると思われるところ、「資産の譲渡等を行った者」としての意味が付与されていると解される。この点が、所得税法や法人税法とは建付けが異なる点である。 すなわち、所得税法や法人税法は、行為をした者(行為者)に着目するのではなく、何らかの原因に基づいて結果的に利益を享受した者に課税をするという法律構成を採用しているのに対し、消費税法は、資産の譲渡等を行った者(行為者)に対して課税をするという点で、その構成を異にしているのである。 2 原因・結果アプローチ 所得税法12条と法人税法11条は、それぞれ次のとおり規定する。 これらの条文は「実質所得者課税の原則」と呼ばれているが、かかる規定の解釈について、原因と結果に分けて考えてみたい(原因・結果アプローチ)。 所得税法や法人税法における実質所得者課税の原則では、長い間、経済的帰属説と法律的帰属説の対立があった。 すなわち、課税物件の法律上(私法上)の帰属と経済上の帰属が相違している場合に、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判定すべきと解する立場が「経済的帰属説」と呼ばれるものである(金子・前掲(※1)、182頁)。これに対して、課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合に、実質に即して帰属を判定すべきであるという趣旨として実質所得者課税の原則を理解する考え方を「法律的帰属説」と呼ぶ(同182頁)。これらのうち、法律的帰属説が判例・通説の採用するところであるといえよう。 この両者の対立を考えてみると、通説である法律的帰属説は、例えば資産性所得などの場合には、資産の所有者を判定した上で、資産から生じる果実であれば法律的にはかかる資産の所有者にこそ果実の収受権があるとして所得の帰属を考えるのであるから、いわば原因(行為)側に着眼をする考え方であるということができる。 また、勤労性所得などの場合には、何らかの経済的行為によって所得が発生することになる。例えば、給与所得は労務提供の対価であるから、その所得の発生原因は労働力の提供にある。されば、法律的には労働力の提供を行った者にこそ対価の収受権があると考えられるから、原則として、原因行為を行った者を認定することによって所得の帰属を考えることができよう。 これに対して、経済的帰属説を採用する立場からすれば、それが資産性所得であるとしても、その資産の所有者が誰であるかが問題となるのではなく、所得税法12条や法人税法11条が規定するとおり、「享受」をした者が誰なのかにこそ関心を寄せるべきことになる。つまり、資産の所有者に拘泥する必要はなく、実際の収益の享受者にこそ所得が帰属したものと解すべきであるという考え方である。これは、法律的帰属説が原因(行為)に着目するのに対して、収益の発生、さらにその先にあるかかる収益の享受という結果に着目した考え方であるということができよう。 このような観察方法が妥当するとした場合、これを消費税法上の実質行為者課税の原則になぞらえて考えると、同法における実質性は原因(行為)の方に着眼した原則であるとみることができるのではなかろうか。 すなわち、消費税法は、所得課税法よりも、さらに原因ないし「行為」という点に重きを置いていることは、課税対象を「課税資産の譲渡等」としていることからも判然としよう。かような意味において、金子教授が消費税法上の実質帰属の問題を「実質行為者課税の原則」と銘打っているのは、この点を明確に表す表現であるとみることができよう。 (続く)