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固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第23回】「住宅用地か否かを現地確認せず賦課決定処分を行ったことは違法であるとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第23回】 「住宅用地か否かを現地確認せず賦課決定処分を行ったことは違法であるとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷住宅用地に係る軽減措置 固定資産税は土地や家屋を課税標準とするが、住宅用地に対しては特に税負担を軽減する必要があるとの考慮から(※)、課税標準の特例という軽減措置が設けられている。住宅用地には専有住宅地と併用住宅地があり、併用住宅については居住用部分の割合に応じた率を乗じて軽減額を算定することになる。 (※) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂)788頁。 このように住宅用地について軽減されることから、納税義務者に対して申告が求められている。しかし、固定資産税は所得税等のような申告納税ではなく賦課決定処分であることから、申告がなかったとしてもこの特例措置が否定されるものでなく、行政側に固定資産の調査の義務がある。 この調査において、住宅の敷地である土地の所有者と家屋の所有者が同一人である場合は、家屋が住宅であるかどうかの確認は容易である。しかし、家屋の所有者と土地の所有者が別人であり、かつ、家屋が住宅か否か判別がつかない場合は、土地の所有者が、家屋が住宅であることを証明するのは難しく、このような場合、行政側が調査を行い確認をする必要がある。 今回は、このようなケースにおいて、行政側の調査不足による賦課決定処分が違法かどうかで争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か 所有者の異なる隣接した4筆を合わせて一画地とした土地の上に、複数の家屋が建築されていた。そのうちの1軒の家屋が滅失したことを受け、令和2年11月に処分庁が調査を行ったところ、複数ある家屋の1つが事務所として登録されていたが、この家屋について非住宅割合が反映されていなかった。 そこで処分庁はその家屋等の敷地の所有者である甲に対して令和2年12月15日に調査を行い、課税台帳上の居住部分の登録面積と現況の居住部分が異なっていることが判明したため、非住宅割合8%と認定して令和3年4月7日に課税処分を行った。これを不服とした審査請求人甲が審査請求を行ったものである。   ▷事案の争点 本事案の争点は「本件家屋の令和3年度賦課期日時点の状況」及び「本件家屋の現況に関する情報提供を行った時期」についてである。 争点に関するそれぞれの主張は以下のとおり。 〔令和3年度賦課期日時点の状況について〕 〔家屋の現況に関する情報提供を行った時期〕   ▷審理員の判断 審査請求の結論までのプロセスとして、まず、審理員(処分に関与していない職員から指名)が調査して審理員意見書を作成、提出し、行政不服審査会に諮問することとなる。 審理員の判断は、本件画地のうち、家屋が存する土地について住宅用地特例を適用しないのは違法性及び不当性が認められるから取り消すべきであるとした。 理由としては次のとおりである。 〔令和3年度賦課期日時点の状況について〕 〔家屋の現況に関する情報提供を行った時期〕 前橋市行政不服審査委員会は上記の審理意見書を精査したところ、処分庁の調査義務の適正さへの着目に終始し、客観的な事実の認定や、追加資料の要求に不十分な点があるとして検討した。 令和3年1月に、甲が居住の実態がある旨の情報の提供を行い、令和3年5月13日及び5月18日に行った調査の結果、本件家屋の2階から4階について住宅の認定要件を確認していた。令和3年1月1日以降、居住部分について改修工事がなされていないことから、令和3年5月の時点と令和3年1月1日の時点で家屋の状況が同様であった可能性が高いと認定できる。令和3年1月1日時点で住宅の認定基準の要件を充足していると認定し得る状態であったにもかかわらず、認定しないことは、処分には違法性がある。したがって、甲の主張には理由があり、本件家屋が存する土地について住宅用地特例を適用しなかったことを取り消すべきであるとした。 固定資産税は賦課決定処分であるから、最終的には行政側に、調査を行い公正な評価をする義務がある。通常ならできたであろう対応をしなかった場合は、適法性を主張することはできない。この裁決は、基本的な確認ミスは救済されないということを物語っている。 (了)

#No. 500(掲載号)
#菅野 真美
2022/12/22

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第7回】「タイバーツ移転価格課税事件-金銭消費貸借の金利スワップレート実在性を中心に-(地判平18.10.26)(その2)」~租税特別措置法66条の4、租税特別措置法施行令39条の12、租税特別措置法関係通達66の4(5)-4~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第7回】 「タイバーツ移転価格課税事件 -金銭消費貸借の金利スワップレート実在性を中心に- (地判平18.10.26)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4、租税特別措置法施行令39条の12、租税特別措置法関係通達66の4(5)-4~   税理士 畠山 和夫     3 要件事実に関する争点の検討 (1) 国外関連取引該当性 ① 原告の主張 原告は、本件各貸付は訴外子会社の生産設備取得に充当されたものであり、貸付開始後4年以内に全額が増資という形で資本金に振り替えられているから、実質的には「投資」であって、出資として扱うのが相当であるから、移転価格税制の適用はないと主張した。 ② 裁判所の判示 裁判所は、本件ではLOAN AGREEMENTと題する契約書が作成され、その中で元本の返済、利息の支払い等について明確な合意があることから、本件各貸付は金銭消費貸借であり、措置法66条の4第1項所定の「国外関連取引」に当たると判示した。 併せて、本判決は、OECD移転価格ガイドラインのパラグラフ1.37 (※3)を引用しつつ、次のとおり判示した。 (※3) OECD移転価格ガイドラインのパラグラフ1.37「資金を借りる会社の経済状況を考慮すると、独立企業間ではそのような形での投資は期待できないという場合に、金利付きの負債という形での関連者に対する投資をする場合・・・、税務当局は、その経済的な実質に基づいてこの投資を性格付けし、この融資を出資として扱うのが適当であろう。」 ③ 本判示についての検討(※4) (※4) 西村あさひ法律事務所 太田洋、弘中聡浩、宇野伸太郎『タイバーツ移転価格課税事件・東京地裁判決の検討』(「月刊 国際税務Vol.30(2010年10月5日号)」、税務研究会)参照。 本件処分が対象とした貸付が行われた平成9年1月~10年11月は、平成9年7月にタイを震源地として始まった「アジア通貨危機」の最中であった。この当時、タイの国内企業への投融資はリスクが非常に高く、独立当事者間で貸付を行ったとすれば、高い利率となるのは当然であった。他方このような異常な状況下で、高い利率を付したとしても、実際に貸付に踏み切る企業が存在したか否かをどのように検証するかということは難しい問題である。 このような異常な状況の中でも、平時を念頭に置いた法令ないし通達の規定を機械的に適用して独立企業間価格を算定し、移転価格税制に基づく課税処分を行うことが許容されるのかは、本件の背後に潜む本質的な問題として存在するように思われる。 (2) 措置法66条の4第2項2号ロ(独立価格比準法(同項1号イ)に準ずる方法と同等の方法)該当性 ① 本件各取引との比較可能性 (ア) 一般企業と金融機関の比較可能性 後述の④の「(イ) 独立企業間価格の算定方法選択の適否」のとおり。 (イ) 市場という「場所」の比較可能性 (ⅰ) 争点 本件貸付と比較可能性を有する貸付に該当するか否かを決定する要素の1つとして、「市場」を考えるべきかどうかが争われた。 (ⅱ) この争点に関する被告(課税庁)の主張 現代では、コンピューター及び通信技術が進歩し、世界各地の金融市場及び市場参加者はオンラインによる通信網により結ばれており、国際金融市場に参加する金融機関等は、世界のいずれの場所からも即時に参加して資金調達等の取引が可能であり、また、相場水準についても、いずれの金融市場においてもほぼ均一となっていることなどから、比較対象取引の選定においては、いずれの市場であるかは考慮する必要がない。 (ウ) 比較対象取引を分解することの当否 本件において、原告は、「本件各貸付と被告の想定する比較対象取引とで条件が同一であるのは、通貨、貸付日及び金額だけであり、貸出期間(中略)、貸出方式(中略)及び信用度(中略)が異なるから、両取引間に比較可能性はない。」旨主張した。 (エ) 裁判所の判示 本判決は「被告の想定する比較対象取引と本件各貸付との比較可能性を阻害する要因は見当たらず、被告の想定する比較対象取引は、措置法66条の4第2項2号ロの算定方法に適合的なものということができる。」と原告の主張を排斥した。 ② 融資形態としての合理性 原告は、スワップ取引は、単に変動金利と固定金利とを交換する取引にすぎず、法人税法上も、会計処理上も金利として取り扱われていないとして、スワップレートによる融資取引を想定することの不合理性を主張した。 本判決は、被告の想定するスワップレートによる融資取引は、金利スワップ取引そのものではなく、金利スワップ取引によって調達した長期資金を貸し付ける取引であるから、原告の主張は失当というべきであると排斥した。 ③ 被告主張の金利によることの経済的合理性 本判決は、主に次のように述べ、原告の主張を排斥した。 また、原告は、仮に被告が計算するような金利で貸付が行われる例があるとしても、独立企業間においてはこれと異なる金利を設定することも十分に考えられるから、被告の算出する金利を唯一の独立企業間価格として設定し課税を行うことには合理性がないと主張した。 これに対し、裁判所は「課税庁側の主張する独立企業間価格の算定方法が措置法66条の4第2項の規定に適合し、これにより算出される独立企業間価格の数値にも合理性が認められる場合には、これよりも優れた算定方法が存在し、算出される数値にもより高い合理性が認められることについての(原告からの)主張・立証がない限り、課税庁側の主張する独立企業間価格に基づく課税について、これを違法ということはできないものというべきである。」と判示した。 ④ 独立企業間価格の適用 (ア) 「準ずる方法」と「同等の方法」の意義の解釈 判決では、準ずる方法とは、「基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法を用いることができることを定め」たものである。同等の方法とは、「それぞれの取引の類型に応じて、基本三法及びこれに準ずる方法と同様の方法を用いるべきことを定めるものである。」と判示した。 (イ) 独立企業間価格の算定方法選択の適否 原告は、金融機関の行う貸付においては常に調達コストを考慮する必要があるのに対し、一般企業の行う貸付には、調達コストを要しない手持資金の貸付もあり得るので、この両者を単純に比較することは不当である旨を主張した。 これに対し、本判決は「一般企業の『手持資金』なるものも、様々なコストをかけて得られたものであることが通常であるし、・・・手持資金の貸付であるから、調達コストを考慮する必要はないと断定することは困難であり、むしろ、あるべき標準的取引価格を求めようとする独立企業間価格の算定に当たっては、特段の事情がない限り、融資取引の代表例である金融機関による貸付を基準とすることにも十分な合理性があるものというべきである。」と判示し、原告の主張を排斥した。 (ウ) 本判示についての検討 本件のように、手持円資金を融資日の為替レートでバーツ転換し為替の先物予約を行わず、将来返済されたときのバーツから円転の為替ポジションをオープンにしておき、将来の為替リスクをヘッジせずに自社で飲み込んでしまう取引を行うことができるのが、円の手持余剰資金のある日本の一般企業であり、かつそういう経営判断が許されるのも日本の一般企業であると思われる。 他方、金融機関の融資取引では、一般企業とは異なり、外貨を先物予約ないしは金利スワップ等を用いてリスクヘッジを行い自社の調達コストを確定させてその上に自社の利益と管理コストであるスプレッドをオンしてからでないと貸出を行わないのが体制であると思われる。このような、リスクの取り方が許されるかどうかの企業風土や体制の相違を無視して、一般企業と金融機関の取引を同一の土俵で比較可能性があるとする本判決の判断には疑問がある。 ⑤ 比較対象取引の実在性 (ア) 本件判決 (イ) 批判(※5) (※5) 前掲(※4)書参照。 上記判決は、本件貸付に対し移転価格税制を適用するとの結論を先取りしたものであり、理由づけとして適切さを欠くと評さざるを得ない。本判決の判示を一般化し、個別性の高い複数の取引の平均値を用いて比較対象取引とすることは「準ずる方法」としても許されないのではないかと思われる。 本件に即して言えば、当時のタイの異常な経済情勢の中で、独立当事者間において金銭消費貸借が成立し得る可能性が存していたのか、仮にそのような可能性が存しないのであれば、机上の独立企業間取引を想定して、それとの比較で乖離しているとみなされる国外関連取引の条件を当該架空の取引の条件に引き直して課税を行うというのは、移転価格税制の趣旨から逸脱するのではないか、という問題である。 ⑥ スワップレートの実在性 (ア) 被告(課税庁)の主張 (イ) 金利スワップの計算方法(※6) (※6) 三菱UFJ信託銀行ホームページ「2.金利スワップの計算方法」参照。 (ウ) 被告(課税庁)の主張への批判(私見) 変動金利を支払い固定金利を受け取る金利スワップの場合、原告の主張のとおり、スワップレート(固定金利)はIFRを基に算出される計算値にすぎない(※7)。 (※7) 原告は次の理由により「左辺の固定金利は右辺のIFRを基に算出される計算値にすぎない」ので、独立企業間価格になりえないと主張しているものと思われる。 被告は、「スワップレートを基に将来の金利の理論値であるIFRが算出される」と説明するが、スワップの等式〈固定金利=IFR〉の左辺と右辺を言い換えたにすぎない主張であり、被告の「原告の上記主張は自ら提出した文献の説明を理解せずになされた誤った主張である。」とする批判は当を得ていない。 (エ) 本件への当てはめ スポットレートを基に将来の各期間ごとの計算値であるIFRが算出され、その期間ごとの計算値であるIFRを集計したものが、固定金利の評価(理論値)、すなわちスワップレートである。 金利スワップの取引は取引所を通さずに当事者間で直接取引を行う相対取引になるので、まずこの金利スワップに応じてくれる相手方が見つからなければならないし、また見つかったとしても、オファーしたスワップレートで相手側が応じるかどうかは交渉次第で未確定である。以上から、スワップレートの実在性については否定せざるを得ない。   4 まとめ (1) 「準ずる方法」と「同等の方法」に関する裁判所の判示 原告は、措置法66条第2項の「準ずる方法」と「同等の方法」といった抽象的で不明確な条文のみに基づき、比較可能性や比較対象取引の実在性その他本来の独立価格比準法において必要とされる要件から逸脱して本件のような課税処分を行うことは、納税者の予測可能性を害し租税法律主義に違反し、違法であると主張した。 これに対し、裁判所は、措置法66条の4第2項は、基本三法を用いることができない場合には、基本三法に「準ずる方法」として「基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法」を用いることができることを定め、次に棚卸資産の販売又は購入以外の取引について、これらの方法と「同等の方法」としてそれぞれの取引類型に応じて、基本三法及び「準ずる方法」と同様の方法を用いるべきことを定めており、租税法律主義に違反する抽象的で不明確な条文ではないとした。 (2) 租税法律主義(課税要件明確主義) 金子宏教授は『租税法〈第23版〉』(弘文堂・2019年)84頁~87頁において、次のとおり述べている(下線筆者)。 (3) 裁判所の法令解釈についての疑問 本件判決は、結論を導く理由の中で「親子会社間当特殊関係企業間の取引を通じて行う所得の海外移転に対処し適正な国際課税を実現することを目的とする移転価格税制の趣旨に照らし、このような場合に実在の取引を見出せないからといって直ちに移転価格税制の対象外とすることが措置法66条の4の立法趣旨とは考えられない。」と述べている。裁判所のこの解釈は、法の終局目的から課税要件を追加補充する解釈であり、上記(2)の「終局目的ないし価値概念を内容とする不確定概念」となりはしないか。 また、裁判所は一方では「措置法66条の4第2項の規定は、国外関連取引と比較可能な非関連者間の取引が実在する場合には、同項1号イ及び2号イにより、当該実在の取引を比較対象取引とすることを原則とするが、そのような取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような仮想取引を比較対象取引として独立企業間価格の算定を行うことも、同項1号ニの『準ずる方法』及び同項2号のこれと『同等の方法』として許容する趣旨と解するのが相当である。」と述べ、「実在の取引」を比較対象取引とすることを原則とし「指標による仮想取引」を例外とする扱いを認めており、他方では租税法律主義適合性の判示において「基本三法を用いることができない場合には、これに『準ずる方法』として基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法を用いることができることを定める・・・ものである。」と述べている。 結局のところ、裁判所は、「独立価格比準法」は比較対象取引を実在取引に限定し、独立価格比準法に「準ずる方法と同等の方法」はそれと乖離しない方法に限定しているにも拘わらず、本件の事例にあたっては、実在の取引からみると例外の取引となる指標による仮想(実際は架空)の取引をも実在の取引から乖離しない取引であるとしている。 (了)

#No. 500(掲載号)
#畠山 和夫
2022/12/22

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第6回】「金融商品に関する注記①」-金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項-

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第6回】 「金融商品に関する注記①」 -金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項-   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表における金融商品に関する注記のうち金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表において、時価をもって貸借対照表価額とする金融資産及び金融負債について、時価の算定に用いたインプットの観察可能性及び重要性に応じたレベル1からレベル3の分類別の時価の合計額をそれぞれ注記する必要があります。 なお、会社計算規則は、「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」の「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」として注記が求められるすべての事項について、適用指針と同水準の注記を求めているわけではないので、各社の実情に応じて必要な限度で開示することもでき、連結計算書類において当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、連結計算書類において当該事項について注記しないことも許容されます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 金融商品に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、重要性が乏しいものを除き、連結注記表・個別注記表で記載すべき金融商品に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第109条第1項)。 (※1) 連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における注記を要しません。 (※2) 連結計算書類の作成義務のある会社(会社法第444条第3項に規定する株式会社)以外の株式会社は注記を省略することができます。 (※3) 注記を要しないと合理的に判断される場合には、連結計算書類において当該事項について注記しないことも許容されます。 (2) 注記事項の解説 金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項の注記は、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」の公表を契機に、2021年4月1日以後開始する連結会計年度から導入されました。 日本では、これまで時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでしたが、国際的な会計基準の定めとの比較可能性を向上させるため「時価の算定に関する会計基準」で金融商品の時価の算定方法に関する詳細なガイダンスを定め、注記に関しても制度が見直されました。 今回のテーマの「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」の注記では、上記1の経団連のひな型のように、時価を算定する際に用いたインプット情報の客観性の高さに応じた区分(レベル1~3)ごとに時価を記載し、算定された時価がどの程度客観性があるか等の情報を提供します。 レベルごとの詳細な定義は「時価の算定に関する会計基準」等をご覧いただき、ここからは実際の注記事例を見て、注記のイメージを掴んでもらいましょう。 [三菱食品株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※三菱食品株式会社「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」6頁より抜粋。 [TAC株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※TAC株式会社「第39回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」14~16頁より抜粋。 *  *  * 金融商品が多くない企業であれば、それほど実務的に大きな影響は出ないと想定されますので、経団連のひな型や企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」の参考(開示例)等を参照することで、大きな問題もなく注記は作成できるのではないかと思います。 次回の第7回は、「金融商品に関する注記②-金融商品の時価等に関する事項-」をテーマに解説します。   (了)

#No. 500(掲載号)
#竹本 泰明
2022/12/22

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第61回】「賃貸等不動産関係注記」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第61回】 「賃貸等不動産関係注記」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、賃貸等不動産関係注記について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 「賃貸等不動産」とは、棚卸資産に分類されている不動産(販売用不動産、開発事業等支出金)以外のもので、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産をいう(企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準(以下、「賃貸等不動産開示基準」という)4(2))。言い換えると、自社で使用している不動産は対象外である。 具体的には、以下の不動産が該当する(賃貸等不動産開示基準5、企業会計基準適用指針第23号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針(以下、「賃貸等不動産開示指針」という)4)。 なお、ファイナンス・リース取引の不動産は、貸手においては、売買処理として処理され、金銭債権等として計上されるため、賃貸等不動産には該当しない。一方、借手においては、固定資産に計上されるため、賃貸している場合、賃貸等不動産に含まれる。 上記に該当する賃貸等不動産は、注記する必要があるため、賃貸等不動産(連結財務諸表作成会社の場合、子会社を含めて)を網羅的に集計する必要がある。連結財務諸表作成会社の場合、連結ベースで注記するため、連結子会社間で賃貸借している不動産は、自社グループ内で利用している不動産であり、賃貸等不動産に含まれない。 賃貸等不動産の注記では、時価を注記する必要があるため、時価を算定する必要がある。 時価の算定方法としては、以下が挙げられる(賃貸等不動産開示指針11~13、33)。 上記のとおり、原則、不動産鑑定評価基準により評価する必要があるため、重要な不動産については、不動産鑑定評価書を入手する必要がある。 (1) 有価証券報告書の場合 賃貸等不動産を保有している場合は、以下を注記する(連結財務諸表作成会社の場合、個別財務諸表での注記は不要である)。ただし、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略することができる。また、管理状況等に応じて、注記事項を用途別、地域別等に区分して開示することができる(賃貸等不動産開示基準3、8、賃貸等不動産開示指針16、26)。 なお、賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合は、時価を注記せず、重要性が乏しいものを除き、その事由、当該賃貸等不動産の概要及び貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産とは別に注記する(賃貸等不動産開示指針14)。 (2) 計算書類の場合 計算書類においては、以下の注記が必要である(連結で注記している場合、個別での注記は不要である)。有価証券報告書よりも概括的な注記で足りる(会社計算規則110)。 【事例】(株)キングジム(2022年6月期 有価証券報告書) *  *  * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 500(掲載号)
#西田 友洋
2022/12/22

〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第11回】「循環取引の違法性とその見極めのための予防策」

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第11回】 「循環取引の違法性とその見極めのための予防策」   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 循環取引の実態 循環取引に定まった定義はない、しかしその実態は複数の企業間でお互いに通じ合い、取引を連続して互いに発注を繰り返し、売上が計上されているかのように装う取引をいう。売買なら実際の商品や製品は物理的に動かない、請負なら現場は存在しない、つまり書類上の架空取引だが、取引上の資金だけは動く。帳簿上で転売が繰り返され、あたかも売買取引による売上があったかのようにみせかける。 この連続した取引は、最初に商品や製品を販売した売主が、最後に買主となって登場し、商品・製品を買い取り、連続した複数社による取引はループのように円形を描いて完了する。 〈循環取引のイメージ図〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   2 循環取引はなぜ不正か 取引の対象となる商品や製品は動かずに、消費されることはない。売上や資金に窮した企業は、取引によって一旦は売上を計上でき、支払による対価を得るため一時的ながら資金的に潤う。しかし、健全な取引による売上ではなく、みせかけに過ぎない。資金に窮した会社は、一旦は息をつけるが、やがて仕入代金の支払が巡ってくる。複数の取引が繰り返されるたびに仕入や売上には手数料などのマージンが雪だるま式に加算されるので、仕入コストや売上高は徐々に高額となる。とはいえ売上は伸びるため、金融機関からの融資は得られ易く、当面の決済には困らない。 しかしこうした取引を継続すれば、決済のための資金を求めて新たに循環取引を拡げなければならない状況に追い込まれた挙句、取引に加担した会社のいずれかが売掛代金の精算に困って循環は破綻することが想定できる。循環取引は、今に始まった特別な取引ではなく、売上増加のプレッシャーに悩まされ、資金的に窮した企業や担当者がつい、手を染めやすい禁断の取引といえる。   3 IT業界で発覚した循環取引の実際 2020年に東芝ITサービス株式会社、ネットワンシステムズ株式会社、株式会社日鉄ソリーションズにおいて次々と循環取引が判明した。なぜIT業界に循環取引が散見されるのか、おそらくは、開発の対価となるフトウェアは移動させる必要がないうえ、物理的な商品や製品とは異なり、対象を特定することが困難であることが理由の1つとして考えられよう。 日鉄ソリューションズ株式会社(東証1部(現在は東証プライム))の内部統制報告書(2020年)は、循環取引の状況を次のように伝えている。 主体的に循環取引に関わったのではなく、架空取引のスキームに取り込まれたに過ぎないと述べても、代金の支払を巡る訴訟に発展した場合には、取引を見極める適切な注意義務を払ったかどうかが重要な論点になる。   4 循環取引の兆しに気づく 循環取引は売上ノルマ達成や損失隠し、業績を偽って金融機関からの融資を得るなどの目的から、はじめは2社間で循環取引が始まり、やがてその裾野が拡大する傾向がある。予防として、組織上特定の者への権限の集中を避け、業務のローテーションを図ることはもちろんだが、その徴候に早期に気づくため、注意すべき視点を以下に挙げる。月末や月初め、あるいは決算時には必ず確認を試みることを強く勧める。 (1) 財務上の観点から (2) 契約や取引上の観点から (3) 取引を行う人脈の観点から   5 取引の違法性を考える 上場会社は、有価証券報告書をはじめとする開示資料を通じて決算の内容を正しく開示しなければならない。にもかかわらず、売上や利益に関わる粉飾行為は、内部統制の有効性が問われるにとどまらず、有価証券報告書の虚偽記載として処罰の対象となる。具体的には10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又は併科に処せられる(金融商品取引法第197条第1項)。 更に会社の取締役などの役員が会社に財産上の損害を与えれば、会社法上の特別背任罪が、また、粉飾により金融機関を欺いて融資を引き出せば、刑法上の詐欺罪がそれぞれ問われることにもなりかねない。 例えば、冷凍食品大手の株式会社のいわゆる加ト吉事件では、循環取引により元役員が逮捕され、2010年に最高裁で懲役7年の実刑判決が下っている。法令の厳しい監視の眼が光っていることを忘れてはならない。 (了)

#No. 500(掲載号)
#打田 昌行
2022/12/22

税理士事務所の労務管理Q&A 【第11回】「支払賃金と最低賃金との比較」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第11回】 「支払賃金と最低賃金との比較」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   最低賃金の額が年々上昇しており、本稿執筆現在、東京都、神奈川県及び大阪府では時給1,000円を超えています。事務所の労務管理としては、毎月支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかを確認することも大切です。 今回は、実際に支払われている賃金と最低賃金額との比較方法等について解説します。 * * 解 説 * * 1 最低賃金とは 労働者の賃金は「最低賃金法」で定められた最低賃金額以上でなければなりません。最低賃金には、都道府県ごとに定められている「地域別最低賃金」と特定の産業(鉄鋼業、自動車小売業等)に係る「特定最低賃金」(産業別最低賃金)があります。 両方に該当する場合には、どちらか高い方が適用されます。 また、会社に本店や支店があり、所在地が都道府県をまたぐ場合には、本店や支店の所在地の都道府県の最低賃金が、派遣社員の場合には、派遣元の所在地の最低賃金が適用されます。   2 最低賃金の適用対象者 最低賃金は、常用労働者に限らず、臨時労働者やパ-トタイム労働者にも適用されます。ただし、次の①~④に掲げる労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、労働能力その他の事情を考慮して一定額を減じた額により、最低賃金が適用されます。   3 最低賃金の対象となる賃金 最低賃金の対象となる賃金は、通常の労働時間、労働日に対する賃金に限られます。したがって残業手当などは、最低賃金額と比較するときには、賃金に含めません。   4 最低賃金との比較方法 最低賃金額は時間によって定められていますので、賃金が時間以外によって定められている場合は、次のように、その賃金を時間額に換算した上で最低賃金額と比較します。 ① 時間給の場合 時間給と最低賃金額とを比較します。 【時間給の事例】 ② 日給の場合 「日給 ÷ 1日の所定労働時間」と最低賃金額とを比較します。 【日給の事例】 ③ 月給の場合 「月給 ÷ 1月の平均所定労働時間」と最低賃金額とを比較します。 なお「1月の平均労働時間」とは、年間の総所定労働時間(年間の所定労働日数 × 1日の所定労働時間)を12で除したものです。 【月給の事例】 ④ 日給と月給が混在している場合 ご質問のように日給と月給が混在している場合は、下記のように計算します。 【日給と月給が混在している事例】   5 留意点 最低賃金を下回ると、刑事罰として罰金を支払わなければならないこともあります。 支払っている賃金と最低賃金額とを比較する場合は、単に賃金額を比較するのではなく、上記のように、賃金額から除外する賃金を控除して比較します。 基本給及び各種手当は対象となる賃金に含まれますが、各種手当のうち、精皆勤手当、通勤手当、家族手当は除外されます。また、深夜労働の割増分や残業手当も除外されますので、注意が必要です。 (了)

#No. 500(掲載号)
#佐竹 康男
2022/12/22

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第13回】「新設された管理不全土地・建物管理制度の概要と手続」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第13回】 「新設された管理不全土地・建物管理制度の概要と手続」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 管理不全土地・建物の管理制度とはどのような制度ですか。 【A】 所有者が土地・建物を管理せずに放置していることで近隣住民などに危害が及ぶおそれがある場合に、裁判所の命令により土地・建物の管理人を選任し、所有者に代わって管理や処分をさせる制度である。 -《解説》- 1 制度創設の経緯 所有者の所在が判明している土地であっても、所有者による管理が適切になされず荒廃・老朽化することで近隣に危険や悪影響を生じさせることはありうる。現行法においては、このような土地や建物(以下、これらをあわせて「管理不全土地・建物」という)による侵害又はその危険が及ぶ近隣の土地所有者は、管理不全土地・建物の所有者に対し、所有権に基づく妨害排除請求等を行使することができるが、管理人による管理は想定されていないため、土地・建物について継続的な管理が必要であるケースなどには、必ずしも対応することができなかった。 そこで、管理不全土地管理人・管理不全建物管理人(以下、これらをあわせて「管理人」という)を通じて土地・建物の継続的な管理を図り、土地・建物の状態に応じた適切な管理措置を講ずることができるよう管理不全土地管理制度及び管理不全建物管理制度(以下、これらをあわせて「管理不全土地・建物管理制度」という)が作られることになった。   2 手続の流れ (1) 申立て・証拠提出 管理不全土地・建物管理制度を利用する場合、裁判所に申立てをする必要がある。 この申立ては対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所にする必要がある(新非訟事件手続法第91条第1項)。 また、申立てをすることができるのは、利害関係人(新民法第264の9第1項、同法第264条の14第1項)とされている。利害関係人にあたるか否かは個別の事案ごとに裁判所において判断される。具体例として、ひび割れ・破損が生じている擁壁を土地所有者が放置しており、隣地に倒壊するおそれがあるケースにおける隣地所有者や、ゴミが不法投棄された土地を所有者が放置しており、臭気や害虫発生による健康被害を生じているケースにおける健康被害を受けている者は、利害関係人にあたると考えられる。 なお、所有者不明土地に関しては、その適切な管理のため特に必要があると認めるときは、地方公共団体の長等は地方裁判所に対し所有者不明土地管理命令を出すよう請求することができるとされているが(新所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第42条第2項)、管理不全土地に関しては、地方公共団体の長等に管理不全土地管理命令の申立権を付与することの是非について、国土交通省において今後検討するものとされている。 (2) 所有者の陳述の聴取 管理不全土地・建物管理命令を発令するためには、裁判所は、原則として、管理不全土地管理命令の対象となるべき土地・建物の所有者の陳述を聴取することが必要であるとされている(新非訟事件手続法第91条第3項1号、同条第10項)。 ただし、緊急に修繕措置を施す必要があるケースなど、これにより申立ての目的を達することができない事情があるときには、所有者の陳述聴取は不要とされている(新非訟事件手続法第91条第3項ただし書、同条第10項)。 (3) 管理命令の発令・管理人の選任 裁判所は、所有者の陳述聴取の手続を経るなどした上で、要件が認められると判断した場合には、管理不全土地・建物管理命令を発し管理人を選任することになる。 管理不全土地・建物管理命令は、申立人並びに管理人及び管理不全土地・建物の所有者に告知しなければならない(非訟事件手続法第56条第1項)。 そして、管理不全土地・建物管理命令は、管理人又は管理不全土地・建物の所有者に告知することにより効力を生じる(非訟事件手続法第56条第2項)。 なお、所有者不明土地・建物管理命令とは異なり、管理不全土地・建物管理命令が発せられた場合であっても、その旨を登記することとはされていない。 (4) 管理人による管理 管理人の権限・義務等については後記3参照。 (5) 職務の終了(管理命令の取消) 裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理不全土地・建物管理命令を取り消さなければならないとされている(新非訟事件手続法第91条第7項、同条第10項)。 「財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」には、当該不動産の管理不全状態が解消された場合や、管理に要する費用を支払うことが困難である場合において、申立人からの必要な金銭の追納もされないときなどが該当すると考えられる。   3 管理人の権限・義務等 (1) 権限 管理人は、対象となる財産を管理・処分する権限を有しているが、所有者不明土地・建物管理命令とは異なり、所有者が自ら管理処分権を行使することも考えられることから、このような管理処分権は管理人に専属するものとはされていない。 管理人は、①保存行為及び②管理不全土地・建物等の性質を変えない範囲内の利用・改良行為については、裁判所の許可を得ることなく行うことができるが、これを超える行為をする場合には裁判所の許可を得る必要がある(新民法第264条の10第2項本文、同法第264条の14第4項)。 また、管理不全土地・建物管理命令の対象とされた土地・建物を処分する場合には、その所有者の同意がなければ、裁判所は処分についての許可をすることができないとされている(新民法第264条の10第3項、同法第264条の14第4項)。 管理人が、裁判所の許可を得るべきであったにもかかわらずこれを得ずに行った行為については効力を生じないと考えられるが、取引の安全を図るために、裁判所の許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできないとされている(新民法第264条の10第2項ただし書、同法第264条の14第4項)。 管理人が管理不全土地・建物等の売却等をした場合、管理人はそれにより生じた売却代金等の金銭を、土地・建物の所有者(共有持分権者)のために、対象不動産の所在地の供託所に供託することができるとされており、供託をした場合にはその旨を公告することとされている(新非訟事件手続法第91条第5項、同条第10項)。管理不全土地・建物等の売却等をしたケースでは、管理人による管理を継続する実際上の必要性がなくなることも少なくないと考えられるが、そのような場合には売却代金等を供託することで管理を終了することができると考えられる。 (2) 義務 管理人は、管理不全土地・建物等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならないとされている(新民法第264条の11第1項、同法第264条の14第4項)。 また、数人の者の共有持分を対象として管理不全土地・建物管理命令が発せられたときは、管理人は、当該命令の対象とされた共有持分を有する全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならないとされている(新民法第264条の11第2項、同法第264条の14第4項)。 (3) 対象となる財産 管理人による管理処分の対象となる財産は、①管理不全土地・建物管理命令の対象とされた土地・建物、②土地・建物にある動産で所有者(共有持分権者)が所有しているもの、③管理人が管理・処分等により得た金銭等の財産(売却代金等)のほか、建物の場合にはその敷地利用権(借地権等)にも及ぶとされている(新民法第264条の9第2項、同法第264条の10第1項、同法第264条の14第2項、同法第264条の14第4項)。 なお、区分所有建物については、管理不全建物管理制度は適用されない(新建物の区分所有等に関する法律第6条第4項)。 (4) 解任・辞任 管理人がその任務に違反して管理不全土地・建物等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理人を解任することができる(新民法第264条の12第1項、同法第264条の14第4項)。 また、管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て辞任することができる(新民法第264条の12第2項、同法第264条の14第4項)。 (5) 報酬 管理人は、管理不全土地・建物等から、裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる(新民法第264条の13第1項、同法第264条の14第4項)。 また、管理人による管理不全土地・建物等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とされている(新民法第264条の13第2項、同法第264条の14第4項)。 4 管理不全土地・建物等に関する訴訟 所有者不明土地・建物管理命令とは異なり、管理不全土地・建物管理命令が発せられた場合には、管理不全土地・建物管理人が管理不全土地・建物等に関する訴訟における原告・被告となる旨は定められていない。 そのため、管理不全土地・建物管理命令が発せられた後でも、管理不全土地・建物等の所有者は自ら管理不全土地・建物等に関する訴訟を提起することができ、また、第三者が管理不全土地・建物等に関する訴えを提起しようとするときは、管理不全土地・建物等の所有者が被告となって応訴することになる。 (了)

#No. 500(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/12/22

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例78】株式会社カッパ・クリエイト「代表取締役の異動に関するお知らせ」 (2022.10.3)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例78】 株式会社カッパ・クリエイト 「代表取締役の異動に関するお知らせ」 (2022.10.3)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社カッパ・クリエイト(以下「カッパ・クリエイト」という)が2022年10月3日に開示した「代表取締役の異動に関するお知らせ」である。田邊公己氏(以下「田邊氏」という)が代表取締役を退任し、山角豪氏(以下「山角氏」という)が新たな代表取締役に就任するという内容だが、その「選任の理由」は次のとおりである(下線は筆者による)。なお、カッパ・クリエイトと株式会社アトム(以下「アトム」という)はともに株式会社コロワイド(以下「コロワイド」という)の上場子会社であり、カッパ・クリエイトとアトムはともに回転寿司事業を運営している。 カッパ・クリエイトの株主のうち、この「選任の理由」を読んで納得する者は、コロワイドを除いていないだろう。代表取締役の兼任以前に同業の会社間で取締役を兼任すること自体が、また、共通の親会社を持つ会社間で事業が重複すること自体が、いずれかの会社の非支配株主の利益を毀損する可能性を有している。子会社の上場を維持するならば、事業の重複は整理し、取締役の兼任も行わないくらいのことは必要かと思われるのだが。   2 異動の理由 「選任の理由」は、山角氏を後任の代表取締役にした理由である。田邊氏が代表取締役を退任した理由は、別に「異動の理由」に記載されている。その記載は次のとおりである。 田邊氏から「不正競争防止法違反による逮捕勾留されたことを理由」とした辞任の申し出があったとのことだが、2021年7月5日に開示された「当社役員に対する競合会社からの告訴について」には次の記載がある。 「当社の代表取締役個人」は田邊氏のことである。同氏はこの後逮捕され、2022年9月30日に「当社役職員の逮捕について」が開示されている。   3 10回の代表取締役の異動 田邊氏が不正行為に手を染めていたのは「2020年11月から12月中旬の期間」とのことだが、同氏は2020年11月にカッパ・クリエイトに入社し、翌月12月に同社の代表取締役になることが決まっている(2020年12月21日開示「代表取締役の異動に関するお知らせ」)。同氏は前職も他社の代表取締役だったため、代表取締役になることは既定路線だったのかもしれない。 田邊氏のカッパ・クリエイトでの代表取締役在任期間は特別な理由により1年半ほどになってしまったが、同社のこれまでの代表取締役の在任期間は短いのが通常だった。同社は、コロワイドの子会社になることが決まってから(2014年10月27日開示「株式会社コロワイドの連結子会社である株式会社SPCカッパによる当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」、2014年11月28日開示「株式会社SPCカッパによる当社株式に対する公開買付けの結果、第三者割当による新株式発行並びに親会社、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」)、今回の開示を含めて、以下のとおり実に10回の代表取締役の異動に関する開示を行っている。 このように代表取締役が頻繁に入れ替わっている(他の取締役も)。カッパ・クリエイトにおいて、代表取締役は短期間で結果を出すことが求められるようである。田邊氏の行為の原因は基本的に同氏の資質によるものだと思われるが、それだけで片付けていいのだろうか。   4 意識だけの問題? カッパ・クリエイトは、今回の件を受けて、2022年10月21日に「営業秘密の管理等に関する取組みについて」を開示し、「営業秘密管理を含むコンプライアンスに関する取組みをより一層強化し徹底」するとしているが、それで終わりなのだろうか。 不正行為の原因は、意識の低さや知識の欠如だけではない。人は追い詰められると、悪いと分かっていることでも、行わざるを得なくなることがある。同社は、独立した第三者によって、今回の件が発生した背景について調査してもらった方がいいのではないだろうか(同社だけでなくコロワイドのグループ会社全体において必要かもしれない)。場当たり的な対応で解決できる問題ではないように思われる。 (了)

#No. 500(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/12/22

プラス思考の経済効果 【第10回】「秋祭りの経済効果」~ぎふ信長まつり~

プラス思考の経済効果 【第10回】 「秋祭りの経済効果」 ~ぎふ信長まつり~   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 毎年、秋には日本各地で「秋祭り」が開催されます。特に、今年は新型コロナウイルスの流行により中止、延期されていた秋祭りが3年ぶりに各地域で再開されています。今回は、この秋祭りのなかで大成功した「ぎふ信長まつり」の経済効果についてお話をしましょう。 岐阜市では、2022年11月5日(土)、6日(日)の両日、「ぎふ信長まつり」を「岐阜市産業・農業まつり」と共同で「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」として、3年ぶりに開催しました。これまでにない人出で大いに盛り上がり、テレビなどのマスコミでもたびたび取り上げられました。 今年度は、来年1月上映予定の話題の映画「THE LEGEND&BUTTERFLY」に出演する人気俳優の木村拓哉さんと、地元岐阜市出身の伊藤英明さんが参加されたので過去にない盛り上がりになったと考えられます。 筆者は、まつりの前の10月22日に東京の某テレビ局からの依頼で「経済効果」を計算してテレビで放送されましたが、その時の経済効果の予想値は約148億8,116万円でした。そして、今回はまつりが終わった後、主催者の1人である岐阜市役所の経済政策課から入手した観客数や経費などの確定値と、国土交通省観光庁が発表した最新の「旅行・観光消費動向調査」の数値などの確定値に基づいて経済効果を検証しました。 その結果、2022年度の「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」の経済効果は約150億2,412万円となりました。事前の予測値は約148億8,116万円でしたので、確定値はそれよりもさらに約1億4,296万円増加したことになります。2日間のまつりとしては非常に大きい経済効果でした。そして、このまつりはマスコミでも大きく取り上げられて大成功であったと言えます。   2 「ぎふ信長まつり」の直接効果の項目と金額 「ぎふ信長まつり」の直接効果の項目は、観光客の消費額と主催者・企業の消費・投資額の2種類です。 (1) 観光客の消費額 例年、まつりの2日間では約20~30万人の人が来場しましたが、今年は人気俳優の木村拓哉さんと、地元岐阜市出身の伊藤英明さんが参加しましたので、岐阜市役所の経済政策課の発表によると、初日は約16万人、2日目は約46万人、合計約62万人がこのまつりに参加しました。特に、木村拓哉さんが信長に扮した「信長公騎馬武者行列」には、観覧者をネットで募集すると、定員1万5,000人に対して、全国から96万6,555人もの応募がありました。これは、岐阜市の人口約40万3,000人の2倍以上の応募でした。 これらの観光客の消費額を推計します。まず、最初に参加者を日帰客と遠方から来た宿泊客に分けます。「岐阜観光コンベンション協会」のデータによると、岐阜市内のホテル、旅館、さらに公共の宿泊施設を合わせると、岐阜市内では合計5,632人が宿泊できるとのことでした。そして、市内の大きなホテルや宿泊施設のいくつかに問い合わせをすると、4日(金)、5日(土)の両日はほぼ満室で、6日(日)は約9割の宿泊であったとのことでした。その結果、岐阜市内の3日間の宿泊観光客は次のように16,333人となりました。 これらの宿泊者以外に、親類、友人の家に宿泊した人、さらに岐阜市外に宿泊した人もかなりいると思われますが、それらの人々の実数値は把握することができませんでしたので、今回は宿泊観光客としては数えないことにします。その結果、宿泊観光客は16,333人、日帰り観光客は60万3,667人となりました。 国土交通省観光庁の2022年9月26日発表の「旅行・観光消費動向調査2021年年間値」によると、岐阜県を訪れる宿泊客の1人平均の消費額は53,428円、日帰り観光客の消費額は1人平均で16,775円でしたので、消費総額は次のように約109億9,915万円となります。 (2) 主催者の消費額 岐阜市役所はじめ開催主催者の話では、当初予算が1,100万円、さらに警備費(3,150万円)を含めた補正予算が3,700万円の合計4,800万円が開催費用に充てられたとのことでした。 (3) 直接効果の合計 上記(1)と(2)より、直接効果の合計は約110億4,715万円となりました。   3 「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」の経済効果 前節で分析した「ぎふ信長まつり」の直接効果約110億4,715万円を基にして、経済効果を推計します。岐阜県の最新の産業連関表(平成27年発表の37部門の産業連関表)を用いて推計しますと、経済効果は次のように約150億2,412万円となりました。   4 まとめ 前述のように、10月22日に公表した「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」の経済効果の予想値は約148億8,116万円でしたので、確定値はそれよりもさらに約1億4,296万円増加したことになります。予測値と確定値の誤差は約1%でした。 これまでの「ぎふ信長まつり」は2日間で20~30万人の観光客を集めていましたので、30~40億円の経済効果があったと推察されます。したがって、今年の「ぎふ信長まつり」は非常に大きい経済効果をもたらしたと言えると思います。 大きな経済効果になったのには次のような理由が考えられます。 「信長公騎馬武者行列」だけではこのように大きな経済効果にはならなかったと考えられます。つまり、信長まつりの行列を見るだけでは、観客は多額の消費をしませんが、産業・農業祭を同時開催して、いろいろな店が出店して、農産物、特産品、クラフト、雑貨などを販売し、飲食店では岐阜特産の食事を提供したことが、観客の消費意欲を刺激して経済効果を大きくしたと考えられます。 今年の「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」は大成功であったと言えます。このように独創的なアイデアによるイベントの開催によって地域が活性化することがわかれば、日本の各地域で有名タレントや地元の出身の人気者を招待して、1つの祭りだけではなく他のイベントとの共同開催を行うなどの試みが次々と行われることによって、日本全体が元気になっていくことになるでしょう。 今年の「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」は、日本各地の活性化策のお手本になると考えられます。 (了)

#No. 500(掲載号)
#宮本 勝浩
2022/12/22

《速報解説》 税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等~令和5年度税制改正大綱~

 《速報解説》 税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等 ~令和5年度税制改正大綱~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   1 はじめに 与党(自由民主党・公明党)による令和5年度税制改正大綱(以下「令和5年度大綱」という)が、12月16日(金)に公表された。本稿では、令和5年度大綱において明記された「税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等」について、その概要をまとめたい。 本項目は、これまで罰則による禁止条項のみが定められていた、いわゆる「ニセ税理士」等が行う税務相談について、財務大臣が税務相談の停止を命令できることとする制度を創設するものである。   2 令和4年度税制改正大綱における「税理士制度の見直し」 令和4年度税制改正大綱(以下「令和4年度大綱」という)では、税理士制度の見直しとして、下記の12項目(その他所要の措置を除く)が列挙されていた(令和4年度大綱82~85頁)。 令和5年度大綱に盛り込まれた「税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度」は、上記(10)に掲げる「税理士法に違反する行為又は事実に関する調査の見直し」をさらに補完するものであることから、当該項目の詳細を令和4年度大綱より引用しておきたい。 令和5年度大綱では、上記①の「税理士業務の制限又は名称の使用制限に違反したと思料される者を加える」措置の具体策として、本命令制度が創設されたものであると説明している。   3 税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等(令和5年度大綱108頁以下) 「税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度」の概要を、令和5年度大綱から引用しておきたい(注書き、括弧書きを省略している)。   4 まとめ 以上より本命令制度のポイントをまとめると、次のとおりとなる。 なお、本命令制度は、令和6年4月1日から施行することとされている。 (了)

#米澤 勝
2022/12/21
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