公開日: 2023/08/03 (掲載号:No.530)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例54】「貸付金に係る貸倒損失の損金算入時期」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例54】

「貸付金に係る貸倒損失の損金算入時期」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、中部地方のある県庁所在地において医薬品の卸売業を営む株式会社X(資本金1億円)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医薬品の販売は、近年、全国的に大手のドラッグストア(その多くが上場企業)とその系列の薬剤師が常駐し処方箋を扱う薬局(調剤薬局)が大きなシェアを握っております。

ドラッグストアは元々調剤を行わずに、一般用医薬品(風邪薬などの薬剤師の関与がなくとも購入できる医薬品)を扱う小売店でしたが、近年では単にそれにとどまらず、化粧品やトイレットペーパー、洗剤といった日用品や菓子、食料品を安価に販売することで、いわば「医薬品を扱うスーパーマーケット」という位置づけで都市部の消費者の支持を獲得し、M&Aを繰り返すことで急成長していった業態であると考えられます。

そのような中、わが社の取引先である独立系の中小の薬局は、年々ジリ貧で経営状態が厳しくなっている状況です。わが社は戦前の創業で、戦後の高度成長期には急速に事業を拡大させたこともあって過去の剰余金が資本として蓄積しており、比較的余剰資金があるといえます。そのため、取引先から緊急の融資を依頼されることもままあり、当社も「取引先とともに成長する」という社是を守る社長の判断で、それに応じることがあります。しかし、この判断の多くは裏目に出て、大半の融資は回収できない事態に陥りました。仕方なく、ギリギリまで回収努力を行った上で、やむを得ず貸倒損失を計上しました。

ところが、先日から受けている当社の法人税にかかる税務調査で、なんと当該貸倒損失が問題とされております。調査官によれば、貸倒損失の計上時期に問題があり、貸付先が債務超過になった段階で損失を計上すべきであり、それをわざわざ翌々期まで繰り延べたのは利益調整に当たり許されないとのことでした。当社は、ギリギリまで回収努力を行った上で、やむを得ず貸倒損失を計上したのであり、貸付先が債務超過になったからといって直ちに損失を計上するのは、時期尚早であり妥当ではないと反論しております。この場合、法人税法上はどのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例54】

「貸付金に係る貸倒損失の損金算入時期」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、中部地方のある県庁所在地において医薬品の卸売業を営む株式会社X(資本金1億円)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医薬品の販売は、近年、全国的に大手のドラッグストア(その多くが上場企業)とその系列の薬剤師が常駐し処方箋を扱う薬局(調剤薬局)が大きなシェアを握っております。

ドラッグストアは元々調剤を行わずに、一般用医薬品(風邪薬などの薬剤師の関与がなくとも購入できる医薬品)を扱う小売店でしたが、近年では単にそれにとどまらず、化粧品やトイレットペーパー、洗剤といった日用品や菓子、食料品を安価に販売することで、いわば「医薬品を扱うスーパーマーケット」という位置づけで都市部の消費者の支持を獲得し、M&Aを繰り返すことで急成長していった業態であると考えられます。

そのような中、わが社の取引先である独立系の中小の薬局は、年々ジリ貧で経営状態が厳しくなっている状況です。わが社は戦前の創業で、戦後の高度成長期には急速に事業を拡大させたこともあって過去の剰余金が資本として蓄積しており、比較的余剰資金があるといえます。そのため、取引先から緊急の融資を依頼されることもままあり、当社も「取引先とともに成長する」という社是を守る社長の判断で、それに応じることがあります。しかし、この判断の多くは裏目に出て、大半の融資は回収できない事態に陥りました。仕方なく、ギリギリまで回収努力を行った上で、やむを得ず貸倒損失を計上しました。

ところが、先日から受けている当社の法人税にかかる税務調査で、なんと当該貸倒損失が問題とされております。調査官によれば、貸倒損失の計上時期に問題があり、貸付先が債務超過になった段階で損失を計上すべきであり、それをわざわざ翌々期まで繰り延べたのは利益調整に当たり許されないとのことでした。当社は、ギリギリまで回収努力を行った上で、やむを得ず貸倒損失を計上したのであり、貸付先が債務超過になったからといって直ちに損失を計上するのは、時期尚早であり妥当ではないと反論しております。この場合、法人税法上はどのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~40】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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