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さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第84回】「愛知交通事件」~最判昭和45年12月24日(民集24巻13号2243頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第84回】 「愛知交通事件」 ~最判昭和45年12月24日(民集24巻13号2243頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 510(掲載号)
#菊田 雅裕
2023/03/09

〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第3回】「税務調査手続によって課税処分が違法になるレベル」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第3回】 「税務調査手続によって課税処分が違法になるレベル」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 税務調査手続法定後に争点化するケースが増加 平成23年12月改正で、国税の調査の開始から終了までの手続が国税通則法に法定化され、平成25年1月1日以後の質問検査等に適用されている。 筆者は、平成26年7月に特定任期付職員として大阪国税不服審判所神戸支所国税審判官に任官されたが、その当時は、法定化された税務調査手続の運用が始まって間もなくの時期であり、導入によって調査現場の負担が増加したからか、一時的に審査請求件数が鍋底状に減少した時期である。 法定化後は、これまでの「苦情」という水準を超えて、税務調査手続違法が正面から取り上げられるケースが増加したという印象を抱いていたが、これは、審査請求人(又は代理人である弁護士・税理士)側が、はじめから税務調査手続違法を意識して主張を展開し、担当審判官による主張整理の結果、争点化されるケースが増加してきたのではないかと考えられる。 そうであるとはいえ、調査手続違法のみを主張するのではなく、それと各実定法における争点(2の事案については「相続税における被相続人の配偶者名義の財産の計上の要否」)がセットになっていることがほとんどである。   2 名古屋国税不服審判所令和4年2月15日裁決における税務調査手続違法の法令解釈   3 法令解釈の出所 (1) 税務調査手続の法定化前の考え方 法定化前は、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されており(最高裁昭和48年7月10日第三小法廷決定)、調査手続の単なる瑕疵は更正処分に影響を及ぼさないというのが原則的な考え方であった。 ただし、例外として、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解するのが相当である(東京高裁平成3年6月6日判決)と判断されてきた。 (2) 法定化後で原処分の取消しの判断要素の変化 ここで、この「重大な違法」という判断要素は、「調査により」更正決定するとしている国税通則法第24条等の解釈から導き出されるものであるが、これら規定は改正されていないため、この判断要素は税務調査手続の法定化後においても引き続き有効と考えられ、上記2の③においても引き継がれているといえるだろう。 しかし、最近はこれに修正が加えられる判断もなされてきており、東京高裁令和4年8月25日判決は、国税通則法第74条の11の規定の趣旨に反する場合については原処分の取消事由になり得る旨を判示している。   4 原処分の取消しが意識される税務調査手続 (1) 手続は違法となるが「重大な違法」ではなく原処分が取り消される可能性が低い場合 (2) 手続が違法となり「重大な違法」に該当して原処分が取り消される可能性が顕在化する場合   5 上記2の裁決における「理由付記」の趣旨 (1) 法令解釈 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、当該処分の理由が、上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。 (2) 理由の記載の当否は不服申立てにおいて審理されるべき 審査請求事件について、税務調査手続とは別に、原処分通知書の「処分の理由」欄に記載された事項の事実認定の誤りや記述の不十分さをもって原処分の取消しを求める主張がなされることがある。 しかし、その記載の当否は審査請求の過程において審理されるべきものであり、仮に記述に矛盾や不足があった場合には、その過程において担当審判官が適切に原処分庁に対して求釈明を行うべき(又は審査請求人が担当審判官に対して質問検査の申立てをすべき)ものであるから、「理由の記載内容(事実認定)が誤っている」という理由のみで原処分の取消事由に該当するものではないと考えられる。 (了)

#No. 510(掲載号)
#大橋 誠一
2023/03/09

2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】

2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋     Ⅰ 税制改正等   1 2023年3月期における税率 2023年3月期に適用される税率は、基本的に、2022年3月期と変更はない。ただ、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から、資本金が1億円を超える普通法人(外形標準課税適用法人)の事業税の所得割について、年800万円以下の所得に係る軽減税率は廃止されている。 【東京都 外形標準課税適用法人】 【設例①】 東京都で外形標準課税適用法人の場合 【設例②】 東京都で外形標準課税「不」適用法人の場合 2 賃上げ促進税制 2023年3月期に賃上げを行っている会社については、賃上げ促進税制を適用できるかどうか確認する必要がある。 (1) 大企業向け (※1) マルチステークホルダー方針とは、「法人が事業を行う上での、従業員や取引先等の様々なステークホルダーとの関係の構築の方針として、賃金引上げ、教育訓練等の実施、取引先との適切な関係の構築、等の方針を記載したもの」をいう。 (※2) 上乗せ要件は、①②のいずれか一方のみの適用、①②の併用、いずれも可能。 (※3) 税額控除率は、通常要件のみの場合15%、上乗せ要件①を適用する場合25%、同②を適用する場合20%、同①②を適用する場合30%となる。 (※4) 税額控除額は法人税額又は所得税額の20%を上限。 (2) 中小企業向け (※1) 上乗せ要件は、①②のいずれか一方のみの適用、①②の併用、いずれも可能。 (※2) 税額控除率は、通常要件のみの場合15%、上乗せ要件①を適用する場合30%、同②を適用する場合25%、同①②を適用する場合40%となる。 (※3) 税額控除額は法人税額又は所得税額の20%を上限。   3 租税特別措置の適用除外 一定の要件に当てはまる大企業は、以下の租税特別措置(税制)について適用することができない。 上記の租税特別措置を適用することができない一定の要件とは、以下のとおりである。なお、②について、令和4年度税制改正で要件が厳格化されているため、2023年3月期において、以下の要件に当てはまるかどうかを確認する必要がある。 以下の3つの要件全てに当てはまる場合、上記を適用することができない。 (※) 令和4年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度:0.5%以上 令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する事業年度:1%以上   4 少額の減価償却資産 令和4年度税制改正において、以下の制度から「貸付け(主要な事業として行われるものを除く)」の用に供した資産が除外された。この改正は、令和4年4月1日以後に取得する資産から適用される。   5 完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直し 親法人に支払われる完全子法人株式等と関連法人株式等(直接保有)の配当について、現行では、源泉徴収が必要であるが、令和4年度税制改正において、2023年10月1日以後に支払いを受けるべき配当等から、源泉徴収が不要となる改正が行われた。 (出所:金融庁「令和4年度税制改正について-税制改正大綱等における金融庁関係の主要項目-」P.19)   6 令和5年度税制改正大綱 令和5年度税制改正大綱(以下、「税制改正大綱」という)のうち、主要な改正案として、以下が挙げられる。 (1) グローバルミニマム課税への対応 グローバルミニマム課税とは、2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において国際的に合意されたものであり、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業を対象に、一定の適用除外を除く所得について各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組みである。この対応のため、以下の改正が予定されている。 (出所:財務省「令和5年度税制改正(案)のポイント(令和5年2月):国際課税」) ① 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(国税)(仮称)の創設 (※1) 「特定多国籍企業グループ等(※2)」とは、企業グループ等(以下に掲げるものをいい、多国籍企業グループ等に該当するものに限る)のうち、各対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度の総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額以上であるものをいう。 (イ) 連結財務諸表等に財産及び損益の状況が連結して記載される会社等及び連結の範囲から除外される一定の会社等に係る企業集団のうち、最終親会社(他の会社等の支配持分を直接又は間接に有する会社等(他の会社等がその支配持分を直接又は間接に有しないものに限る)をいう)に係るもの (ロ) 会社等(上記(イ)に掲げる企業集団に属する会社等を除く)のうち、その会社等の恒久的施設等の所在地国がその会社等の所在地国以外の国又は地域であるもの (※2) 「多国籍企業グループ等」とは、以下に掲げる企業グループ等をいう。 ❶ 上記(※1)(イ)に掲げる企業グループ等に属する会社等の所在地国(その会社等の恒久的施設等がある場合には、その恒久的施設等の所在地国を含む)が2以上ある場合のその企業グループ等その他これに準ずるもの ❷ 上記(※1)(ロ)に掲げる企業グループ等 ② 特定基準法人税額に対する地方法人税(国税)(仮称)の創設 ③ 適用時期 令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用する。 会計処理への影響 法定実効税率の影響については、後述の「Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」を参照されたい。 *  *  * (2) 電子帳簿等保存制度の見直し ① システム対応が間に合わなかった事業者 電子取引データの保存要件に従って保存することができない場合の経過措置が廃止され、代わりに猶予措置が整備された。令和6年1月1日より適用される。 ② 国税関係書類に係るスキャナ保存制度の見直し 以下の見直しが行われ、令和6年1月1日以後に保存が行われる国税関係書類について適用される。 (出所:財務省「令和5年度税制改正(案)のポイント(令和5年2月):納税環境整備」) (3) インボイス制度の円滑な実施に向けた所要の措置 ① 適格請求書発行事業者となる小規模事業者の納税額に関する負担軽減措置 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられない場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、当該課税標準額に対する消費税額に80%を乗じた額とし、納付税額を当該課税標準額に対する消費税額の20%(=つまり、消費税の納税額を売上金額の20%)とすることができる。 (出所:財務省「令和5年度税制改正(案)のポイント(令和5年2月):消費課税」) ② 中小企業等に対する事務負担の軽減措置 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間(インボイス制度の施行から6年間)の1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても一定の事項が記載された帳簿のみの保存により、仕入税額控除を認める。 (出所:財務省「令和5年度税制改正(案)のポイント(令和5年2月):消費課税」) ③ 少額な返還インボイスの交付義務の見直し 売上げに係る対価の返還等の金額が1万円未満(少額の値引等)である場合、その適格返還請求書の交付義務を免除する。令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について適用する。 (出所:財務省「令和5年度税制改正(案)のポイント(令和5年2月):消費課税」) ④ 適格請求書発行事業者登録制度の見直し 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、課税期間の初日から登録を受けようとする場合、当該課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日)までに登録申請書を提出しなければならない。この場合、当該課税期間の初日後に登録がされたときは、同日に登録を受けたものとみなされる。 また、免税事業者が、適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置の適用により、令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合、登録申請書に、提出する日から15日を経過する日以後の日を登録希望日として記載する。この場合でも、当該登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなされる。 ⑤ 適格請求書発行事業者登録制度の手続の柔軟化 令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、申請期限(※)後に提出する登録申請書の「困難な事情」について、当該記載を求められない。 (※) 令和5年10月1日に登録を受けるためには、原則として令和5年3月31日までに申請しなければならない。 (4) 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置 日本の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施し、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。当該措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とされている。 ① 法人税 法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除する。 ② 所得税 所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。 ③ たばこ税 1本当たり3円相当の引上げを段階的に実施する。 会計処理への影響 当該改正は、2023年3月期末までに行われないため、法定実効税率への影響はない。 *  *  * Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)   2023年2月8日に、ASBJより実務対応報告公開草案第64号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)(以下、「グローバル・ミニマム案」という)」が公表された。 令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設される予定であるが、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)に係る税効果会計の適用に関して、当面の取扱いが示されている。   1 当面の取扱い 繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき計算する。決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう(企業会計基準適用指針第 28 号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(以下、「税効果適用指針」)」44)。 ここで、グローバル・ミニマム課税制度は 2024年4月1日以後開始する事業年度から適用される予定であるが、その考え方が必ずしも明らかではなく、実務上の負担も想定されることから、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)においてグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であると考えられる(グローバル・ミニマム案11)。 そのため、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)における税効果会計については、税効果適用指針に関わらず、当面の間、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しない(グローバル・ミニマム案3)。   2 開示 グローバル・ミニマム課税制度の影響が見込まれる企業においてグローバル・ミニマム案を適用した旨を開示することも考えられるが、企業がグローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があるため、当該開示は求めない(グローバル・ミニマム案15)。   3 適用時期 グローバル・ミニマム案は、公表日以後適用する。 (了)

#No. 510(掲載号)
#西田 友洋
2023/03/09

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2023年2月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年2月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年2月1日から2月28日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第64号)を公表し、意見募集を行っていた(意見募集期間は2023年3月3日まで)。 これは、令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設される予定であるが、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示すものである。   Ⅲ 企業内容等開示関係(サステナビリティ等) 2023年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第11号)が公布されている。 これは、有価証券報告書等において、サステナビリティに関する企業の取組みの開示及び人的資本・多様性に関する開示、コーポレートガバナンスに関する開示などを行うものである。 あわせて、金融庁から「記述情報の開示の好事例集2022」も公表されている。   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント2022(内容:金融庁からKAMの記載に関する適用2年目に見られた創意工夫と課題についてまとめたものが公表されている) ② 品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第3号「監査事務所及び監査業務における品質管理並びに監査業務に係る審査に関するQ&A(実務ガイダンス)」(内容:「監査事務所における品質管理」(品質管理基準報告書第1号)などに従って監査業務を実施するに際し、理解が必要と思われる事項を解説) ③ 品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」(内容:「監査に関する品質管理基準」において求められている品質管理システムの構築に当たっての具体的な手順や文書等に関する実務ガイダンス) (了)

#No. 510(掲載号)
#阿部 光成
2023/03/09

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第36回】「逆パワハラの申告があった場合の対応のポイント」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第36回】 「逆パワハラの申告があった場合の対応のポイント」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社の社員Bから、上司であるA部長からパワハラを受けているとの申告があったため、A部長のヒアリングを実施したところ、A部長はパワハラの事実を否定するとともに、むしろ自分が部下Bから逆パワハラを受けていると主張しました。 逆パワハラとは、部下から上司に対するパワハラのことを意味すると理解していますが、A部長は自分にかかったパワハラの嫌疑をそらすため、逆パワハラにあっているなどと虚偽の主張をしているのではないかと疑っています。A部長の申告に対して、どのように対応するべきでしょうか。 【Answer】 逆パワハラは、パワハラ指針等においてパワハラになり得るものとして認められています。上司には人事権等があるため、部下からパワハラを受けるはずはないと思われがちですが、逆パワハラの申告を虚偽であると決めつけることなく、上司が人事権を行使できる状況にあったのかなどを慎重に見極めるべきです。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 逆パワハラとは 逆パワハラとは、部下や後輩から上司や先輩に対するパワハラのことを指す。 この点、パワハラとは、次のように定義されている(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。 「パワハラ指針」(※1)によると、①「優越的な関係を背景とした」言動とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指すとされているが、典型的には、職務上の地位が上位の者(上司等)がその優越的な関係を背景に部下に対して行う言動が想定されていると思われる。 (※1) 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)。 もっとも、同指針においては、「同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの」や「同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」も「優越的な関係を背景とした」言動に含まれるとされており、逆パワハラもパワハラに含まれ得ることが明記されている。また、報道等においてもしばしば部下から上司に対するパワハラ事件が取り上げられているし(※2)、実務上もその存在を認められているものである(※3)。 (※2) 最近のケースとしては、中学校で事務職員が校長や教頭ら同僚職員合わせて6人に対してパワハラ行為を繰り返したとして停職6ヶ月の懲戒処分となった例が報道されている(2023年2月27日付けのNHK NEWS WEB等) (※3) パワハラ該当事案における加害者と被害者の関係の割合について、部下から上司に対するものは7.6%とされており、少なくない割合の逆パワハラが認められたことが示されている(厚生労働省が発表した「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)。 しかし、実際に会社において逆パワハラを認めて懲戒処分等を行ったことがあるというケースは意外と少ないのではないか。弊職も、従前は逆パワハラの相談を受けることはあまり多くはなかったが、最近、逆パワハラの事案が増加しているようにも感じられるため、今回、テーマとして取り上げた次第である。   2 逆パワハラを疑うべき場合 逆パワハラはなぜ典型的なパワハラに比べて認定されにくいのか。逆パワハラを行えば、通常は懲戒処分や異動の対象となったり、勤務評定で不利益な評定をされたりすることが予測できるため、そもそも逆パワハラが行われるはずがない、と一般に考えられていることが、逆パワハラが認められにくい1つの理由であろう。 また、逆パワハラが行われたのであれば、対象となった上司からの何らかの対抗措置(懲戒処分等)がとられるはずであり、それがとられていない以上は、仮に部下から上司に対する何らかの言動があったとしても、②業務上必要かつ相当な範囲を超えていない、又は、③その雇用する労働者の就業環境が害されていない、など推定されてしまうということも、逆パワハラが認定されにくい一因であろう。 逆に言えば、逆パワハラを行う者が懲戒処分や異動の対象となったり勤務評定で不利益な評定をされたりするといった組織のあるべき機能が働いていない場合には、逆パワハラに注意する必要があるということになる。 具体的には、以下の状況・兆候が見られる場合に注意すべきである。 (1) 上司が部下の勤務状況を評価・評定する体制となっていない このような場合、上記の組織のあるべき機能が働く前提を欠くことから、逆パワハラを疑うべき状況にあると言える。 (※4) 京都地判平成27年12月18日は、医事課長Xが職場の上司や部下からのいじめ行為等によりうつ病に罹患したと主張して、労災保険法に基づき、療養の給付及び休業補償給付を請求し、処分行政庁に給付をしない旨の処分がなされたことから、取り消しを求めて提訴したところ、裁判所はXのうつ病発症につき業務起因性を認め、請求を認容したという事案である。同事案においては、医事課長Xが医事課の職員の仕事内容をチェックしたり、勤務状況を評価・評定して上司に報告する体制がとられておらず、Xだけで上記状況の是正を図ることが困難であったという事情が認められている。 (2) 当該上司を軽く扱うような雰囲気が醸成されている このような場合、上司が懲戒処分等の手段に訴えようとしても、会社が真剣に対処しないなどの理由により、上記組織のあるべき機能が働かない状況が発生する恐れがある。 (※5) 前掲(※4)の京都地判平成27年12月18日においては、事務部長が医事課長Xのことを指して「それはあのぼんくらのことだろう」と発言するなど、職場においてXを軽く扱うような雰囲気が醸成されていたとの事情が認められている。 (3) 会社が従業員からの申告について真剣に対処しない風潮がある このような場合においても、上司が逆パワハラを行っている者の懲戒処分や異動を会社に訴えても会社に取り合ってもらえないといった事態が起きることがある。また、上司が上記の組織のあるべき機能が働かないであろうと端から諦めてしまうことも多い。 (4) 上司の能力が部下よりも劣る場合・上司が部下よりも年下の場合・上司が女性の場合等 逆パワハラを行った部下に対して懲戒処分等を実施するためには、逆パワハラを受けていることを会社に告げることになるが、部下より能力が劣る上司、年下の上司、女性の上司は、逆パワハラを受けたことを会社に告げることにより会社からの評価が下がるのではないかと心配し、懲戒処分等の手段に訴えることをためらうことがある。 上司の能力が部下よりも劣る場合とは、例えば上司がITに関する知識が乏しく、PC等のIT機器の扱いを苦手とする場合などが挙げられる。また、上司が年下の場合や女性の場合、逆パワハラの申告を行うと、「若いやつは根性がない」とか「女性はすぐに音を上げる」といったステレオタイプ的な偏見や決めつけがなされることを恐れて、上記の組織のあるべき機能の発動に訴えることができないといったことも考えられる。 (※6) 前掲(※4)の京都地判平成27年12月18日においては、エクセルを使用したことがなくその基本機能すら理解できていなかった医事課長Xが、部下から「エクセルのお勉強してください。分からなかったら娘さんにでも教えてもらってください。」などと、通常の企業においては部下が上司に対して行うことなど到底考えられない発言を行った事実が認定されている。   3 まとめ 上記のとおり、組織の構造上、部下から上司へのパワハラは想定しづらいため、会社としては、逆パワハラの申告があっても今ひとつ信用できないというのは理解できる。特に、本問のように、上司がハラスメントの嫌疑をかけられて初めて逆パワハラの申告を行ったような場合には、より一層信じがたいといった気持ちになるのではないか。 しかし、逆パワハラがあるということは、組織の機能に何らかの歪みが生じていることのサインでもある。会社においては、そのようなサインを見逃さずに対処していくことが、職場環境の改善・整備につながるものである。 (了)

#No. 510(掲載号)
#柳田 忍
2023/03/09

《速報解説》 ADW事件・ムゲン事件、最高裁判決下る~加算税賦課決定処分含め納税者全面敗訴~

《速報解説》 ADW事件・ムゲン事件、最高裁判決下る ~加算税賦課決定処分含め納税者全面敗訴~   公認会計士・税理士 霞 晴久   最高裁は3月6日、新聞報道等でも大きく取り上げられた2つの居住用賃貸建物仕入税額控除事件について、課税庁による過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも国税通則法65条4項にいう正当な理由は認められず適法であるとの最終判断を示した(※1)。なお、本件については、判決に先立つ2月9日にそれぞれの口頭弁論が開かれており、その判断の行方に注目が集まっていた。 (※1) 2つの事件の最高裁裁判官は全く同一である。 ここでいう2つの事件とはマンション販売業者である(株)ムゲンエステート(ムゲン)と(株)エー・ディー・ワークス(ADW)に係る訴訟をいい、両社とも賃借人付きで中古マンションを購入し、改修工事等を施した後転売するという事業モデルを展開していたが、同マンション購入時の課税仕入れについて、同課税仕入れを個別対応方式における「課税売上げ」対応に区分すべきか(納税者主張)、あるいは、転売までの期間に非課税の賃貸収入が発生していたことから「共通」対応に区分すべき(課税庁主張)かが争われた。さらに、課税当局内部においても、同様の事案につき、「課税売上げ」対応を認めるような見解がかつて存在していたとの指摘があったことから、過少申告加算税の賦課決定処分につき、国税通則法65条4項にいう正当な理由があるか否かについても争点とされた。 両事件の第一審及び控訴審における結論を表にて要約すると以下のとおり(〇は「納税者勝訴」、✕は「課税庁勝訴」)となる(※2)。その結果、ムゲン事件では、国側(課税当局)が過少申告加算税の賦課決定処分取消しを不服として上告受理申立てを行い、また、ADW事件では、納税者側が、賦課決定処分だけでなく、課税仕入れに係る消費税の更正処分の取消しを求めて上告受理申立てを行った。 (※2) 結果を見ると、ADW事件の東京地裁判決のみ異質な判断が示されたということができる。そこでは、「納税者が得る賃料収入は、収益不動産の販売を行うための手段としての賃貸から不可避的に生じる副産物として位置付けられる(下線筆者)」とした上で、「本件各仕入日に賃料収入が見込まれることをもって、共通対応課税仕入れに区分することは、本件事業に係る経済実態から著しくかい離する」というユニークな判断が示されていた。 ➤ムゲン事件 ➤ADW事件 最高裁は、ムゲン事件(※3)について、 と判示し、上告人(国側)の主張を認めた。 (※3) 最判一小令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号) 一方、ADW事件(※4)について最高裁は、ムゲン事件とほぼ同様の判断を示した上で、国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められないとし、消費税の更正処分については、 と判示し、納税者の主張を排斥した。 (※4) 最判一小令和5年3月6日(令和4年(行ヒ)第10号) なお、令和2年度の税制改正により、居住用賃貸建物の課税仕入れについては、原則仕入税額控除が認められない(※5)こととされたため、現在では、本件のような争いは生じない。 (※5) ただし、購入後3年以内に課税売上に係る賃貸収入が生じた場合や、他に転売された場合には、購入時の課税仕入れについての調整計算が行われ、仕入税税額控除の対象となる(消法30⑩、同35の2、消令53の2)。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#霞 晴久
2023/03/08

税制改正情報

税制改正情報 平成18年度以降の税制改正情報を掲載しています。過年度改正の確認などにお使いください。 以下の内容は清文社発行の小冊子「税制改正のポイント」をプロフェッションネットワークのホームページ用に再構成したものです(平成28年度分からはPDFデータによる掲載となります)。 内容はすべて各年度の改正当時における情報であり、現行制度においては延長・廃止・縮減等が行われている可能性がありますので、ご利用に当たってはご注意ください。 なお、最新版の税制改正情報については清文社より小冊子を発行しております。 300部以上お申込みの場合には、ご希望により表紙下に貴(社)名を無料で印刷しますので、クライアントへの販促物等として、ぜひご検討ください(50部以上は送料サービス)。 他にも清文社では研修テキストなどでお使いいただける小冊子を多数発行しておりますので、詳しくは清文社ホームページからお問い合わせください。                                                            

2023/03/07

プロフェッションジャーナル No.509が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年3月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.509を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/03/02

monthly TAX views -No.122-「歳出改革の各論-ふるさと納税を見直せ」

monthly TAX views -No.122- 「歳出改革の各論-ふるさと納税を見直せ」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   今後防衛費の増額、異次元の少子化対策など兆単位の財源が必要とされることから、具体的な歳出削減が重要であることについて前回触れた。現在自民党内に設置された「防衛関係費の財源検討に関する特命委員会」で議論が行われている。 その内容を見ると、60年国債償還ルールの見直しが検討されているが、60年償還を80年償還に変更して浮いた(?)お金を歳出に充てると借金総額はその分増えてしまう。まるで内容のない検討だ。 歳出改革を行うには、1つ1つのテーマについて個別具体的に議論を行うことが必要である。本稿では、歳出面ではなく、歳入面(税制)の無駄として、「ふるさと納税」を取り上げ、その縮小(本来の寄付税制に戻すこと)を提案してみたい。 *  *  * ふるさと納税の導入を提言した総務省の「ふるさと納税研究会報告書」(平成19年10月)を読むと、この制度の意義は主に、「今は都会に住んでいるが、教育を受け育んでくれた『ふるさと』に自分の意志で納税できる制度を創設し、恩返しをするとともに、われわれの自治意識を進化させる」ことと書いてある。 背景には都市と地方の税収格差の是正がある。またわが国に根付いていない寄付文化の醸成も目的とされている。 この目的のもと、自ら住んでいる自治体に払うべき税金を、自分の意思で「ふるさと」に「寄付」する制度は、自治体が配る返礼品を目当てに大いに盛り上がっている。令和4年度課税における住民税控除額実績は5,672億円、控除適用者数は約741万人と年々拡大している。 この金額が都市から「ふるさと」に移転されるのであれば、当初の趣旨通りではないかと思われそうだが、高所得者が自分の住む自治体の住民税を他の自治体に移転させれば、当該自治体のサービスは減少し、その被害はふるさと納税を活用しない低所得者の住民にしわ寄せされる。 自己負担2,000円で、寄付額の3割程度の「返礼品」が送られてくるが、所得の多い寄付者ほど大きな利益(返礼品)が得られる点も不公平な制度といえよう。また「ふるさと」とは関係のない自治体にお金が流れている点は当初の目論見とは異なる。 また自腹を切るどころか「得をする」制度になっているので、「寄付」とは言えない。したがってこの制度が興隆したからといって、わが国に寄付文化が根付いているわけではない。 次に、寄付により税収が減った自治体が交付税交付団体であれば、減収部分の4分の3が国から地方交付税で補てんされる。また所得税(国税)も減税されており、この制度のツケは国(国民)が背負っていることになる。つまり、単に自治体間で税収を移転させる制度ではないということだ。 さらに言えば、受け取った自治体も、寄付額の半分は返礼品の調達や送付などの事務手数料に消えてしまう。 このように当初の趣旨とは大きく異なり公平性に問題のある制度をどう変えていくべきか。 筆者は、自治体にとって地元産業の振興につながる返礼品について大きく変更する必要はないと思っている。問題は、過剰になった「寄付」税制を、本来の姿に戻すことである。 寄付税制というのは、「身銭を切る」人に、国・地方がインセンティブとして減税をする税制である。国・地方公共団体、認定NPO法人などへ寄付した場合には、寄付額から2,000円を差し引いた残りの金額について、所得控除か税額控除(国・地方合計で50%)かを選択できる仕組みとなっている。 したがって、10万円寄付すると、国・自治体から4万9,000円(10万から2,000円を引いて、最大税額控除率である所得税・地方税合計50%をかける)が税額控除という形で戻って来るので、自らの5万円の寄付に国・地方が5万円をマッチングしてくれる(寄付を支援する)税制といえる。 ふるさと納税は、寄付税制を手本としつつ、控除額を50%から全額に拡大した。自腹を切る「寄付」の要素をなくしてしまったのである。筆者の提案は、本来の「寄付=自腹を切る」部分を残す通常の寄付税制に戻して無駄遣いをやめ、寄付文化を醸成する制度に改めることである。 *  *  * これまでこの制度の見直しは、制度の創設者である菅前総理の目が光っており無理という霞が関の忖度があったが、岸田総理に代わったことで、その点の障害はなくなった。 「悪魔は細部に宿る」というが、歳入・歳出面での各論の積み重ねこそ、歳出改革につながっていく。 (了)

#No. 509(掲載号)
#森信 茂樹
2023/03/02

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例50】「公益社団法人に移行した法人の職員に対する賞与の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例50】 「公益社団法人に移行した法人の職員に対する賞与の損金性」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、近畿地方においていくつかの医療機関や福祉施設を運営する公益社団法人Xにおいて、事務方のトップである事務長を務めております。わが国においては、医療機関は様々な経営主体が経営しており、具体的には、地方自治体や独立行政法人、国立大学法人や公立大学法人、日本赤十字社といった公的機関もあれば、厚生労働省が管轄する法律に基づいて設立される医療法人(医療法)や社会福祉法人(社会福祉法)、私立大学医学部付属病院を経営する学校法人などがあり、それぞれ適用される会計ルールが異なるなど、かなり混沌とした状況となっております。私の勤務する公益社団法人は、いわゆる公益法人改革で社団法人から移行した組織で、もともと医療機関や福祉施設を運営していましたが、今から数年前に、より公益性を貫徹した組織に改組され、現在に至っております。 わが法人が運営する事業の中核は病院で、中でも回復期・リハビリテーションに力を入れているY病院は、当該病院が立地する2次医療圏でも定評があり、集患にはそれほど苦労しておりません。そのため、ここ数年続くコロナ禍の下においても、法人全体の経営状況は比較的順調であるといえます。 ところが、そのような黒字体質の当法人を狙い撃ちしたのか、先日から所轄税務署の税務調査を受けております。今回問題となっているのは、公益社団法人移行後に職員に支給した賞与の取扱いです。当法人は給与規定を職員に開示しており、それには給与のほか賞与を予定日に支給する旨が明記されております。そのため、当該規定に基づき既に支給予定日が到来している賞与は、当然のことながら全額損金に算入されるものと考えておりましたが、今回調査官は、未払計上した賞与の額につき、当該賞与支給額が決算日以後に職員に通知されていることから、当該事業年度における損金算入は認められないと主張しております。 このような調査官の主張は民間の事業に対する不当な介入であり、到底認められるものではないと考えておりますが、税法上どのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 平成10年度の税制改正で賞与引当金が廃止されたのちの法人税法によれば、労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与については、使用人にその支給額の通知がされているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度において、その支給額につき損金経理をしている場合には、当該支給予定日又は通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金の額に算入するとされております。 したがって、本件のように賞与支給額が損金算入した事業年度の翌事業年度に職員に通知されている場合には、たとえその支給が法人の給与規定に明記されているとしても、その金額を決算日までに各職員が知ることができるわけでもないため、損金算入は認められないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 公益法人と公益法人制度改革 私人の自由な意思決定による事務遂行のために、私法に準拠して設立された権利義務の主体である法人を「私法人」といい、当該私法人はさらに「社団法人」と「財団法人」とに分類される(※1)。社団と財団の相違点であるが、一般に、社団は人の集まりを基礎とする一方で、財団は財産を基礎とすると解されている。 (※1) 四宮和夫・能見善久『民法総則(第8版)』(弘文堂・平成22年)85頁。 もう少し具体的に言えば、社団法人は社員を不可欠な要素とし、社員総会が最高の意思決定機関として自律的活動を行う組織で、財団法人は設立者が拠出した財産を基礎に、定款に示された設立者の意思を活動の準則とする組織である(※2)。 (※2) 四宮・能見前掲(※1)書85頁。 現在、公益法人(旧民法34条法人)とされる法人形態は、公益法人制度改革により平成18年に制定された一般法人法(※3)で設立され、公益性の認定を受けた法人(公益認定法2、9)のみならず、社会福祉法が定める社会福祉法人、私立学校法が定める学校法人、宗教法人法が定める宗教法人などが挙げられる。 (※3) 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(平成18年法律48号)をいう。それまで民法34条によって設立されていた公益法人制度が廃止され、当該法律により、非営利目的の法人が準則主義で設立できるようになった。 一般法人法で設立された非営利目的の法人は、一般社団法人及び一般財団法人となる。一般社団法人及び一般財団法人は、国・都道府県に設置されている公益認定等委員会ないし審議会によって公益性の認定(23種類の公益目的事業をいう、公益認定法別表参照)を受けた場合には、公益社団法人又は公益財団法人となる。   (2) 公益法人税制の概要 上記(1)で見たとおり、平成18年にいわゆる公益法人3法(一般法人法、公益認定法及び前記両法施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)が制定され、わが国の公益法人制度は新たにスタートした。当該制度改正に合わせ、平成20年度税制改正で公益法人税制も大幅に改正された。公益法人税制の特徴は以下の5点である。 また、公益法人税制においては、一般社団法人及び一般財団法人のうち、(ア)事業から利益を得たり、その得た利益を分配することを目的としない法人であって、その事業を運営するための組織が適正であるもの(法法2九の二イ、法令3①、法規2の2①)、及び、(イ)その会員から受ける会費により会員に共通する利益を図るための法人であって、その事業を運営するための組織が適正であるもの(法法2九の二ロ、法令3②、法規2の2①)を「非営利型法人」と呼んで、公益法人等の範囲に含めている(法法2九の二)。 なお、上記非営利型法人以外の一般社団法人及び一般財団法人は、法人税法上、普通法人として扱われる(法法4)。   (3) 賞与引当金の廃止と未払計上の損金算入措置 企業会計上、将来の費用又は損失の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該年度の負担に属する金額を費用又は損失として繰り入れる金額を一般に「引当金」という。現行の法人税法は、このような企業会計の考え方に従って、費用収益対応の原則の観点から、貸倒引当金及び返品調整引当金の2種類の引当金が認められている。 もっとも、平成10年度の税制改正までは、上記に加え、賞与引当金、特別修繕引当金及び製品保証引当金の3種類の引当金が認められていたが、課税ベース拡大の観点から、賞与引当金と製品保証引当金は廃止され、特別修繕引当金は準備金として存続することとなった(※4)(措法57の8)。さらに、返品調整引当金も平成30年度の税制改正で廃止となった(令和12年度までの経過措置が認められている、平成30年附則5)。 (※4) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)425頁。 賞与引当金は、労働給付の提供と給与の支払い(賃金後払い)とが期間的に一致しないことに基づき、労働給付の提供によってもたらされる収益と対応する形で給与の支払額を期間的に前取りし、適正な期間対応を実現しようとする引当金である(※5)。しかし、平成10年度の税制改正で、課税の公平性・明確性を期する観点から、専ら財源確保の要請に沿った形で、賞与引当金は廃止されることとなった。そのため、現在の法人税法においては、賞与は実際支給日の属する事業年度の損金の額に算入されることが原則となった(法令72の3三)。 (※5) 武田隆二『平成15年版法人税法精説』(森山書店・2003年)872-873頁。 一方で、賞与引当金が廃止されたのちの法人税法においては、使用人賞与につき、実際に賞与を支払ったものと同視し得るような状態にある以下の2つのカテゴリーに係る未払費用については、未払賞与としての損金計上の措置が講じられている。 (※6) 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給する場合のその通知は、ここでいう「すべての使用人」に対する通知には該当しない(法基通9-2-43)。   (4) 公益社団法人に移行した法人の職員及び医師に対する賞与の損金性が問われた事例 それでは、本件と同様に、公益社団法人に移行した法人の職員及び医師に対する賞与の損金性及び損金算入の時期が問われた事例(東京地裁平成27年1月22日判決・税資265号-7(順号12590)、TAINSコード:Z265-12590)について以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、昭和61年に全国のへき地を中心とした地域保健医療の調査研究及び地域医学知識の啓蒙と普及を行うとともに、地域保健医療の確保と質の向上等住民福祉の増進を図ることで地域の振興に寄与するため、へき地等に勤務する医師の確保等、へき地等の医療を支援する病院等の開設及び運営管理の受託等の事業を行うことを目的とし、改正前の民法34条に基づく社団法人として設立され、平成21年12月1日に公益社団法人へ移行した原告の事案である。 原告は平成21年4月1日から同年11月30日までの事業年度の法人税につき、その運営する施設に勤務する職員及び医師に対し同月以降に支給した賞与等の合計額22億8,118万9,407円を損金の額に算入して確定申告をしたところ、処分行政庁が、上記賞与等の合計額を損金の額に算入することを否認するなどして、原告に対し、更正処分をするとともに、過少申告加算税の賦課決定処分をしたため、原告が被告に対し、本件各処分の取消しを求めたところである。 ② 事案の争点 法人が公益社団法人移行後にその勤務する職員及び医師に対して支払った賞与につき、移行前の事業年度においてその金額を損金算入することができるか。 ③ 裁判所の判断 なお、本裁判例は控訴されたが棄却され(東京高裁平成27年10月15日判決・税資265号-157(順号12740)(TAINSコード:Z265-12740)、さらに上告されるも不受理(最高裁平成29年2月3日決定・税資267号-27(順号12976)(TAINSコード:Z267-12976)で確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 今回問題となったのは従業員への賞与の支給に関する損金性であるが、そもそも現代における賞与の意義や位置づけは必ずしも一義的ではない。本裁判例で裁判所が指摘するように、賞与は功労報償、生活補填及び将来の労働への意欲向上策等も含む様々な性格を兼ね備えているものと解されるが、かかる性格に照らすと、通常は、主として法人税法22条3項2号に掲げる当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用に該当するものと考えられる。それを踏まえると、未払賞与については、債務が確定しているかどうかが重要となり、その要件として、法人税法は「賞与の支給対象者全員に対し賞与に係る支給額を通知すること」を挙げている。 法人税法施行令第72条の3第2号の規定のうちの「支給額の通知」に関して、裁判所は、「単に給与規程及び内規等による所定の計算式が存在することを知るだけでは、賞与の具体的支給額を知ることができるとはいえず、上記規程等が周知されただけで通知があったといえるという原告の主張は採用できない」というように具体的な数字の通知が必要と判示しており、実務の参考になるものと考えられる。   (5) 本件へのあてはめ 平成10年度の税制改正で賞与引当金が廃止されたのちの法人税法によれば、労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与については、使用人にその支給額の通知がされているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度において、その支給額につき損金経理をしている場合には、当該支給予定日又は通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金の額に算入するとされている。 したがって、本件のように賞与支給額が損金算入した事業年度の翌事業年度に職員に通知されている場合には、たとえその支給が法人の給与規定に明記されているとしても、その金額を決算日までに各職員が知ることができるわけでもないため、損金算入は認められないものと考えられる。 (了)

#No. 509(掲載号)
#安部 和彦
2023/03/02
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