《速報解説》 適格請求書等保存方式への円滑な制度移行のための税制上の措置 ~令和5年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和4年12月16日(金)に「令和5年度税制改正大綱」(与党大綱)が公表された。以下では、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)に係る措置について概説する。 1 改正の背景 適格請求書等保存方式は、消費税の複数税率制度の下において適正な課税を確保するために必要な制度とされている。令和5年10月から円滑に制度移行できるよう、税制上の措置として、新たに(1)適格請求書発行事業者となる免税事業者の負担軽減、(2)事業者の事務負担軽減が講じられる。また、(3)適格請求書発行事業者登録制度についても見直しが行われる。 2 改正案の内容 (1) 適格請求書発行事業者となる免税事業者の負担軽減 ① 納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割に軽減 免税事業者が適格請求書発行事業者となった場合等の納付税額を、課税標準額に対する消費税額の2割に軽減する経過措置を設ける。 イ 適用期間 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間 ロ 適用対象者 免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書(令和5年10月1日前から当該届出書の適用を受けている事業者を除く)を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる事業者 ハ 適用要件 確定申告にこの経過措置の適用を受ける旨を付記 ② 各種届出書の効力について 課税事業者選択届出書の2年継続適用や簡易課税制度選択届出書の提出期限について緩和する。 (2) 事業者の事務負担軽減 ① 帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置 課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置を設ける。 イ 適用期間 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間 ロ 適用対象者 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者 ハ 適用要件 一定の事項が記載された帳簿の保存 * * * なお、帳簿を適正に記載するためには、領収書等の受領や保存は必要である。この経過措置の効果は、少額の経費支払い(タクシーなど)の際に相手の登録の有無を意識する必要がないなど、限定的と考えられる。 ② 売上に係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合の適格返還請求書の交付義務免除 取引の買手が振込手数料を差し引いて振り込み、売手が値引きとして処理するのは商慣習として多く行われている。この値引きについて、売手が適格返還請求書を交付しなればならないとするのは実務上、現実的ではないという指摘に対応するものである。 イ 適用時期 令和5年10月1日以後の売上に係る対価の返還等 ロ 適用対象者、適用要件 制限なし (3) 適格請求書発行事業者登録制度についての見直し ① 「適格請求書発行事業者の登録申請書」と「登録の取消しを求める旨の届出書」の提出期限の整合 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、課税期間の初日から登録を受けようとする(注)場合の提出期限と、適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書の提出期限が次のように改正された。 現行制度におけるこれら2つの書類の期限のわずかな違いから、誤認識・期限徒過というトラブルが懸念されていたところであったが、整合を図ったものと考えられる。 (注) 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合については、昨年の改正で、制度施行後6年間は課税期間の途中からの登録が可能とされている(平28年改正法附則44④、インボイス通達5-1)。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 したがって、この経過措置の適用期間における登録については、課税期間の初日から起算して15日前の日を徒過したときでも、次の課税期間まで登録できないということにはならない。 ② 免税事業者が令和5年10月1日後に登録を受けようとする場合の登録希望日 上図の経過措置の適用を受けて令和5年10月1日後に登録を受けようとする場合、提出日から15日を経過する日以後の登録希望日に登録を受けられるよう整備される。 ③ 登録申請手続きの柔軟化(令和5年4月1日以後の申請について) 令和5年10月1日から登録を受けようとする事業者の適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限は、令和5年3月31日である(平成28年改正法附則44①、インボイスQ&A問7)。 この期限までに登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合には、令和5年9月30日までの間に登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、登録を受けたときは、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされる(改正令附則15)。大綱では、この困難な事情の記載がなくても、改めて求めないものとされた。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和4年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2022(令和4)年12月14日、「令和4年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係が4件と所得税法関係が1件で、合わせて5件となっている。最近の公表件数は、4件→4件→5件(今回)と非常に少ない傾向が続いている。 今回の公表裁決5件のうち、4件で賦課決定処分の一部取消しの裁決が出ており、1件は棄却となっている。 【表:公表裁決事例令和4年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 公表された裁決事例のうち、重加算税の賦課決定処分について争われた4件はすべて「一部取消し」の判断が示されていることから、本稿では、国税不服審判所が、原処分庁によって、請求人の過少申告について隠蔽又は仮装の事実があると認定した審査請求人の行為を、隠蔽、仮装には当たらないとした判断の理由について、その判断内容を概説したい。 なお、事例③と④は、同じ被相続人に係る相続税申告において、被相続人の配偶者が審査請求である事例と被相続人の長男が請求人である事例であるので、本稿では、事例③についてのみ、概要を解説することとする。 【重加算税の賦課要件】 4つの裁決は、いずれも、最高裁判所平成7年4月28日第二小法廷判決を引用する形で、判断に当たって、次のように述べている。 【裁決の概要】 1 請求人が生命保険金を含めずに所得税等の確定申告をした事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、生命保険契約等に基づく一時金等を一時所得等に含めるなどして所得税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の過少申告について隠蔽又は仮装の事実があるとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、請求人は、本件一時金等について課税の対象となることを十分に認識していたにもかかわらず、本件一時金等についての税負担を回避するため、確定申告を補助した親族に預金通帳を提示しなかったこと、また、本件一時金等を申告しないことを意図して、生命保険に係る各書面を廃棄し、その後本件各保険会社に再発行を依頼していなかったことは、請求人が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たると主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した以下の事実に基づいて検討した上で、請求人が当初から本件一時金等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合に該当するような事実は認められないことから、請求人が本件確定申告において本件一時金等を申告しなかった行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとは認められないとして、本件賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法であり、取り消すのが相当であるとの裁決を示した。 2 請求人が相続財産の一部の貯金のみを申告していなかった事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、被相続人名義の貯金を申告していなかったことにつき、隠蔽又は仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の行為はないとして、当該処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、①請求人が申告しなかった貯金の相続(払戻)手続をして間もない時期に他の預金口座の残高証明書を取得して会計事務所職員に交付したこと、②請求人が請求人名義の貯金口座の通帳に①の払戻金の入金について「相続」などのメモを記載したことなどを根拠として、請求人が相続財産である貯金の存在を認識するとともに、資料を本件会計事務所に交付していない事実を認識していたことから、貯金の価額を課税価格に算入せずに相続税申告を行う意図の下、あえて残高証明書を取得しないなど、会計事務所に対して貯金の存在を秘匿したと認められることから、請求人は、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたといえる旨主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した以下の事実に基づいて検討した上で、請求人が相続税の申告を行うに当たり、①本件貯金口座の残高証明書を取得せず、②本件貯金の存在を会計事務所に伝えなかった一連の行為において、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと評価すべき事情は認められず、また、他に請求人において隠蔽又は仮装と評価すべき行為も見当たらないことから、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとはいえないと判断して、本件賦課決定処分のうち、通則法第65条第1項及び第2項の規定に従い計算した過少申告加算税相当額を超える部分の金額が違法であるから、取り消すべきであるという裁決を示した。 3 請求人が相続財産の一部の株式を申告していなかった事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、相続財産の一部を申告していなかったことに隠蔽の行為があるとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該隠蔽の行為はないとして、重加算税の賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、一部の申告漏れ株式について、当初申告の後に請求人が、本件口座振替手続や本件買取請求手続を行っていることからも、各株式について、相続財産としての認識があった旨主張するとともに、請求人が株式の取得状況等を記載していたノートを、過少申告の意図を持って、あえて税理士らに渡さなかったとして、隠蔽又は仮装に該当する事実があったと主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した以下の事実に基づいて検討した上で、請求人において、被相続人名義の株式に係る残高証明書等及び所有株式数証明書などを漏れなく取得しているか、当初申告書に計上した財産と税理士らに提出した残高証明書等及び所有株式数証明書の内容とが一致しているかなどの確認を怠ったことは認められるものの、一部の株式を相続税の申告財産から除外するために、あえて所有株式数証明書などを取得しなかった又は税理士に請求人がつけていたノート等の資料を提出しなかったとまでは認め難い上に、これらの行為について、隠蔽の行為そのものであるとか、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に出たものと認めるに足る事情は認められないと判断して、本件重加算税賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法があるから、その一部を取り消すのが相当であるという裁決を示した。 (了)
《速報解説》 高額・繰り返しの無申告に対する無申告加算税の加重措置 ~令和5年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 大橋 誠一 令和4年12月16日に決定された令和5年度税制改正大綱(与党大綱)においては、納税環境整備の適正化の一環として、 が盛り込まれた。 本稿においては、上記税制改正大綱の記載内容等を前提に、予定されている改正の概要について解説する。 1 問題提起 令和4年10月28日に開催された政府税制調査会の納税環境整備に関する専門家会合の第9回会合において、国税庁の担当官は、「税に対する公平感を大きく損なうような行為への対応」というタイトルの説明資料を提示し、その中の という各事例の説明に際して、 と述べ、このような重加算税が賦課される可能性もあるようなケースを無申告加算税の枠内として整理することの善良な納税者が抱くであろう不公平感について問題提起した。 これに対して、税制調査会の委員からは、 という発言がなされていた。 2 高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ (1) 現行制度 50万円以下の税額については15%(通知以後・予知前の段階においては10%)、50万円超の税額については20%(同じく15%)を乗じた金額とする。 (2) 改正案 50万円超の税額のうち、300万円超の税額について10%加重する(大綱104頁)。 〈図解〉 (※) 300万円を超えることにつき、その納税者の責めに帰すべき事由がない場合(例えば、相続税事案では、他の相続人の財産がその納税者の知らぬところで事後的に発覚したといった場合が想定される)には、所要の措置が講じられる。 3 一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置の整備 (1) 現行制度 連年にわたって無申告であっても、現行の10%加重措置(下記(4))の適用がなければ、単年度のみ無申告であったのと同様に、通常の無申告加算税・無申告重加算税の税率で課される。 (2) 改正案 前年度及び前々年度に無申告加算税若しくは無申告重加算税を課されたことのある者又はこれらを課されるべき者について、当年度の無申告加算税又は無申告重加算税を10%加重する(大綱104頁)。 〈図解(2の内容を含む)〉 (※) 大綱の記述による限り、3に該当する場合に上記2の10%加重措置が併科されるか否かについては必ずしも明確でなく、これについては今後明らかとなる税制改正法案を待つ他ないが、与党税制調査会資料では「300万円以下の税額部分」として、通知以後・予知前は20%(25%)、予知以後は25%(30%)である旨が記載されており、上記2と3はそれぞれ異なる措置であることから、大綱の公表時点では、「300万円超」について3に加えて上記2の10%加重措置の併科が想定される。 (3) 適用除外 過少申告加算税、不納付加算税及び過少申告・不納付に係る重加算税については加重の対象外である。 (4) 現行の10%加重措置との相違点 現行においても、過去に無申告加算税又は重加算税を課されたことがある場合に無申告加算税又は重加算税を10%加重する措置があるが、大綱で示された改正案とは下記の諸点において異なるものであり、今般の改正案による措置とのいずれかが適用されることになる。 4 まとめ 昨今は、暗号資産の譲渡等による所得やコロナ禍による各種給付金の収入除外など、本来は申告すべき納税者が申告せずに済ませようとする事例が惹起される社会環境下にあり、今般の税制改正大綱において示された一連の措置は、無申告を仮装隠蔽に近い類型として位置付け、より厳しい姿勢を採ろうとする課税庁の意図が窺える。 (了)
《速報解説》 令和5年度税制改正大綱(与党大綱)が公表される ~生前贈与加算期間は7年に、NISA抜本拡充・恒久化、 法人・所得の付加税は施行時期示さず、スタートアップ支援でSO税制等の見直し、 改正電帳法・インボイス制度は更なる緩和措置導入へ~ Profession Journal編集部 12月16日(金)、自由民主党・公明党は「令和5年度税制改正大綱」(いわゆる与党大綱)を公表、防衛費の財源確保に係る議論の影響を受け当初予定より1日ずれ込む工程となった。 令和5年度の大綱においても近年の税制改正と同様、経済産業省主導による経済対策としての税制措置が、今回は「スタートアップ・エコシステムの抜本強化策」をテーマに掲げエンジェル税制、オープンイノベーション促進税制、ストックオプション税制の見直し等盛り込まれているが、全体としては、施行時期の明記は避けたものの防衛費増加の財源確保としての法人税額及び所得税額に対する付加税の創設や、若年層の資産形成・資産移転を図るためのNISA拡充、生前贈与制度の見直し、「1億円の壁」と言われる超富裕層への課税強化といった、コロナ禍を経て浮き彫りになった国内外の様々な社会問題(格差等)への対応を個別に手当てする改正項目が目立つ。 また下記冒頭から紹介する通り、昨年に続きインボイス制度及び改正電子帳簿等保存法への激変緩和措置がそれぞれ複数手当てされることになった(制度の施行時期は変更なし)。新制度への対応が間に合わない又は過度な負担となる事業者等に向けた措置となっているが、それ以外の事業者等にとっても、すでにある程度のICTが浸透している税実務において各ソフトウェア(システム)の改修という側面での影響も考え得る。令和4年度改正に続く見直しによって制度全体がどのような姿になるのか、今後の情報にも注視されたい。 以下、主な改正事項を紹介する。例年のとおり重要な改正事項については年末から年始にかけて個別に速報解説を順次公開していくので、そちらを参照いただきたい。 なお、こちらの[資料リンク集]ページも今後更新を重ねていくので、ログインの上、ブックマークボタンを押すなどして確認できるようにしていただきたい。 さらに12月22日(木)には毎年ご好評いただいている弊社主催セミナー「60分でわかる!令和5年度税制改正大綱はこう読む」が開催されるため、ぜひお申込みの上、ご視聴されたい。 〇インボイス制度、課税転換した免税事業者は納税額が売上税額の2割へ 令和5年10月1日より適用開始となるインボイス制度は、令和4年度税制改正において、免税事業者に関する経過措置の見直しとして、令和5年10月1日含む事業年度以降も6年間は期中の適格請求書発行事業者の登録が可能となったほか、主に免税事業者への影響を考慮して、いくつかの規定の整備が行われた。 一方で、令和4年11月末現在の適格請求書発行事業者の新規申請件数は約200万件となっており、およそ300万者以上の課税事業者が存在することを考えると十分な登録状況であるとは言い難い。登録が進まない背景には、免税事業者が課税転換した際の税負担及び事務負担の増大などをはじめとする中小規模事業者の負担が大きいことが挙げられ、業界団体等からも政府に対して要望が寄せられていたことなどから、令和5年度税制改正においても円滑な制度移行に向けた見直しがなされる。 まず、適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置として、適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割とすることとされる。この計算方法について、現行の本則課税又は簡易課税とも異なる制度として位置付けられる場合、届出書や申告書の見直しなどにも影響し得る。 次に、基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が 5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月 30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、その課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿保存のみで仕入税額控除を認める経過措置が講じられる。 さらに、売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されることが明記された。 その他、免税事業者が課税期間の初日から登録を受けようとする場合の登録申請書の提出期限が、課税期間の初日から起算して15 日前の日(現行:1月前の日)とする、令和5年10 月1日から登録を受けようとする事業者が、その申請期限後に提出する登録申請書に記載する困難な事情については、運用上、記載がなくとも改めて求めないなど登録制度に係る柔軟な対応も行われる。 〇電子帳簿等保存制度の見直し 令和3年度税制改正に盛り込まれ令和4年から施行されている改正電子帳簿等保存法については、新制度開始直前の前年度(令和4年度)税制改正大綱において、企業のデジタル化への対応が間に合っていない状況を鑑み、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に保存義務者が行う電子取引について、一定の要件等のもと出力書面の保存をもってそのデータの保存に代えることを認める宥恕規定が設けられた(同年末に改正省令公布)。 今般の改正においても、経理の電子化による生産性の向上のほか、優良な電子帳簿の普及・一般化等に資する観点から、改めて制度の見直しが行われる。 まず、国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存制度について、優良な電子帳簿として過少申告加算税の軽減措置の対象となる帳簿が一定の範囲に絞られる。また、国税関係書類に係るスキャナ保存制度については、国税関係書類をスキャナで読み取った際の解像度、階調及び大きさに関する情報の保存要件の廃止等が行われ、さらに電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、検索条件の緩和等が明記された。 〇資産課税における中立・公平な税制へ向けた対応 まず大綱公表前の一部報道で盛んに報じられていた事項について確認する。 相続税評価額と市場売買価格(時価)とが大きく乖離しているとして本年4月の最高裁判決などでも注目を集めたマンションの相続税評価の見直しについては、大綱の「基本的考え方等」において次のとおり記載されるに留まった。 見直しが行われる場合は、年明け以降、上記のとおり適正化(通達改正)に向けた検討が始まることとなろう。 次に、高所得者層ほど所得に占める株式等や土地建物の譲渡所得(累進課税の適用を受けない)の割合が高いことから、所得が1億円を超えると税負担が下がる「1億円の壁」の問題を背景に、税負担の公平性の観点から、「極めて高い水準の所得」に対する課税強化が手当てされる。具体的には、その年分の基準所得金額(その年分の所得税について申告不要制度を適用しないで計算した合計所得金額(特別控除額の控除後))から3億3,000万円を控除した金額に22.5%の税率を乗じた金額がその年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税が課される(令和7年分以後の所得税から適用)。 現行の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から相続税よりも高い税率構造となっていることで若年層への資産移転が進みにくい一方、相続財産の多い一部の者にとっては限界税率が設けられていることで、財産を分割して贈与する場合、相続税の税率より贈与税の税率の方が低くなっている。この現状については本年10月に政府税制調査会(相続税・贈与税に関する専門家会合)において「資産移転の時期の選択に、より中立的な税制の構築」として意見が取りまとめられたところだが、その実現に向け以下の見直しが行われる。 まず、相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間を現行の相続開始前3年以内から「7年以内」とし、さらに相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産(いわゆる延長された4年分)については、総額100万円まで相続財産に加算しない。 また、相続時精算課税制度については、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別に、新たに課税価格から基礎控除110万円を控除できることとし、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等される贈与財産の価額は、上記の控除をした後の残額とされる。 上記二制度の見直しについては、令和6年1月1日以後の贈与より適用される。 また、教育資金の一括贈与の非課税措置(措法70の2の2)及び結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置(措法70の2の3)については、適用件数の減少に加え世代を超えた格差の固定化につながるとして廃止も含めた検討がなされていたが、結果として、受贈者が一定年齢に達した場合等の資金の残額に課される贈与税について税率が低く設定された特例税率ではなく一般税率を適用する等の見直しをしたうえで、教育資金特例は令和8年3月31日まで3年延長、結婚・子育て資金特例は令和7年3月31日まで2年間延長される。 他に、令和5年9月30日に厚生労働大臣の認定期限を迎える医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等は、移行期限を見直したうえで、適用期限が令和8年12月31日まで3年3ヶ月延長される。 その他譲渡関係では、来年12月31日で期限切れとなる空き家に係る譲渡所得の 3,000 万円特別控除の特例については、相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人の数が3人以上である場合における特別控除額を2,000万円とする見直し(令和6年~)等をしたうえで、その適用期限が令和9年12月31日まで4年延長される。 また、低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の100万円特別控除及び優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例については一部見直しをしたうえで適用期限が3年延長、短期所有土地の譲渡等をした場合の土地の譲渡等に係る事業所得等の課税の特例については適用停止措置の期限が3年延長される。特定の事業用資産の買換え特例については適用期限が3年延長されるが、既成市街地等の内から外への買換えを適用対象から除外するなどの見直し(縮減)が行われる。 登録免許税関係では、土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置は3年延長、信用保証協会が受ける抵当権の設定登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置は2年延長、特例事業者等が不動産特定共同事業契約により不動産を取得した場合の所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置は2年延長される。印紙税関係では、特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税措置(新型コロナ税特法11)が令和6年3月31日まで適用期限が1年延長される。 〇経済対策及び財源確保に係る法人課税等 法人課税においても大綱公表前に注目された項目から取り上げる。 ロシア・ウクライナ情勢及び東アジアの国際情勢不安定化等を背景に、世界の安全保障環境が激変したことで、日本も有事に備えた防衛力強化の必要性が高まり、政府は防衛費の増額に踏み切った。防衛費増額のための財源確保について、税制部分では次のとおりとされた。 このように具体的な数値が示されているものの、大綱では「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」として「具体的内容」ではなく「基本的考え方等」に掲載されるにとどまり、施行時期も「令和6年以降の適切な時期」とされている。 次に、一部の大企業が減資をすることで意図的に税法上の「中小企業」となっていた(実質的な大規模法人が外形標準課税の対象法人に含まれない)問題について、11月公表の「地方法人課税に関する検討会中間整理」(総務省)でも対応が求められていたが、大綱では外形標準課税の要件見直しについて具体的な施策は見送られ、「基本的考え方等」において「今後の外形標準課税の適用対象法人のあり方については、地域経済・企業経営への影響も踏まえながら引き続き慎重に検討を行う。」とされている。 以下、具体的な措置として、経済産業省が要望していた経済対策として「スタートアップ・エコシステムの抜本強化策」が掲げられ、それに伴いスタートアップの企業を中心に後押しする税制措置が、大綱で次のとおり整備されている。 まず、保有する暗号資産への期末時価評価課税が見直される。現行では、発行者が自己保有する暗号資産に加え、発行者以外の投資家等が保有するものも、税務上、期末に時価評価し、評価損益は課税対象となっている。しかし、こうした取扱いは、資本の少ないスタートアップにとってキャッシュフローを伴う実現利益がない(=担税力がない)中で継続して保有される暗号資産についても課税を求めることになり、日本での起業を妨げるとして経済産業省・金融庁から改正要望がなされていた。これを踏まえ、法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものや一定の譲渡制限が行われているものを除外する等の見直しが行われる。 次に研究開発税制では、投資を増加させるインセンティブを更に強化するため、試験研究費の増減率に応じた税額控除率のカーブ見直し、増減試験研究費割合によって税額控除の上限も変動させる新制度の導入、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合の上乗せ措置の3年延長(基準年度比売上金額減少割合が2%以上等の場合の上乗せ特例は適用期限の到来をもって廃止)、オープンイノベーション型の「研究開発型スタートアップ企業」の範囲拡大、企業による先導的研究開発人材(博士号取得者や、一定の経験を有する研究人材)の活用・育成を行った場合の人件費の一部を特別試験研究費の対象とし別枠で控除率等を設定する等の見直しが行われる。 また、ストックオプション税制は、現行では事業化まで時間を要するスタートアップや、グローバル展開を含め長期間かけて大きな成長を目指すスタートアップにとって使い勝手が良くないとの指摘を受け、利便性向上のため、適用対象となる新株予約権に係る契約の要件のうち、一定の株式会社が付与する新株予約権については、その新株予約権の行使はその付与決議の日後15年(現行10年)を経過する日までの間に行うこととするなどの見直しがされている。 その他オープンイノベーション促進税制やエンジェル税制、国外転出時課税制度についてもそれぞれスタートアップ支援を目的とした見直しが行われる。 中小企業関連では、来年3月末で期限を迎える中小企業者等の法人税率の軽減特例(15%)については令和7年3月31日まで2年間延長、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制及び特定事業継続力強化設備等の特別償却制度(中小企業防災・減災投資促進税制)については、それぞれ対象資産の見直しを行ったうえで適用期限が令和7年3月31日まで2年間延長される。また2年間(令和5年4月1日~令和7年3月31日)の時限措置として、中小事業者等を対象に、生産性の向上や賃上げの促進を図ることを目的とした償却資産に係る固定資産税の特例措置(課税標準2分の1~3分の1)が創設される。固定資産税関係では他に長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに係る固定資産税の減額措置が新設される(令和5年4月1日~令和7年3月31日)。 他に、短期の土地譲渡益に対する追加課税制度の適用停止措置、退職年金等積立金に対する法人税の課税の停止措置の適用期限が令和8年3月31日まで3年延長。また事業再構築のための私的整理法制が整備されることを前提に、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金制度及び欠損金の繰越控除制度について一部見直しが行われる。 〇デジタル課税に係る国際合意への対応 昨年10月にOECD/G20において、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への解決策に関する国際的な合意がまとめられた。本国際合意は、市場国への新たな課税権の配分(「第1の柱」)とグローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)の2つの柱からなるが、日本においても国際合意に則った法制度の整備を進めるとし、第2の柱として位置付けられるグローバル・ミニマム課税への対応が行われる(内国法人の令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用)。本制度については大綱のP119~131にかけて【付記】として詳細が示されている。 〇金融所得課税の見直し まず、いわゆる金融所得課税の一体化については令和4年度税制改正大綱において「早期に検討する。」と記載されていたところ、今般の大綱においても引き続き「検討事項」において、下記のとおり記載されている。 一方、岸田政権の「資産所得倍増プラン」における目玉施策として位置付けられる「NISAの抜本的拡充・恒久化」が大綱に盛り込まれている。 NISA(非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)は平成25年度税制改正で創設され、平成29年度税制改正では積立・分散投資を促進するため「つみたてNISA」を創設。また、令和2年度税制改正の見直しによって令和6年からは一般NISAが2階建ての「新NISA」となる予定であったところ、さらなる簡素化と使い勝手の良い制度とするべく、制度全体が抜本的に見直される。 まずNISA制度全体について非課税保有期間や口座開設可能期間が無期限化(恒久化)される。また、つみたてNISAの期限を令和5年12月31日までとしたうえで、一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠(年間投資上限額120万円)」及びつみたてNISAの役割を引き継ぐ「つみたて投資枠(年間投資上限額240万円)」の構成とし、この新たな2つの投資枠についてはこれまで認められていなかった併用も可能とする。一方で高所得者層優遇とならないための方策として生涯非課税限度額1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)が設けられる。 その他所得税関係では、特定非常災害の指定を受けた災害により生じた損失の繰越期間の延長(3年→5年)等が行われる。 〇納税環境整備 納税環境整備においては上述した電帳法関連の他、悪質な無申告行為を対象とした加算税について、無申告加算税の割合について、納付すべき税額が 300 万円を超える部分に対する割合の30%への引上げ(現行:15%(納付すべき税額が 50 万円を超える部分は 20%))や、一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置の整備、税理士等でない者が税務相談を行った場合(いわゆるニセ税理士が行う脱税相談等)の命令制度の創設などが行われる。 次に、相続税の除斥期間が満了する日以前6ヶ月以内に、一部の相続人から更正の請求があった場合、現行制度では、更正の請求をした相続人は請求があった日から6月を経過する日まで除斥期間が延長される一方、他の相続人に係る除斥期間は延長されなかったが、更正の請求をした相続人と同様に、他の相続人に係る除斥期間も請求があった日から6月を経過する日まで延長される(令和5年4月1日以後に申告書の提出期限が到来する相続税について適用)。 手続関係では、給与所得者の扶養控除等申告書の記載事項の簡素化(令和7年1月1日以後に支払を受けるべき給与等について提出する給与所得者の扶養控除等申告書について適用)や給与所得者の保険料控除申告書の記載事項の簡素化(令和6年10月1日以後に提出する給与所得者の保険料控除申告書について適用)なども記載されている。また、個人事業の開業・廃業等届出書の提出期限をその事業開始年分の確定申告期限とすることや記載事項の簡素化、その他届出書等の提出を一括で行が行えるよう見直しが行われる(令和8年~令和9年)。 〇消費課税 車体課税については電気自動車の普及や内燃機関自動車に対する規制強化にみられる脱炭素の要請への対応、保有から利用への移行などの歴史的大変化の直面を受け、自動車重量税のエコカー減税(国税)、自動車税及び軽自動車税の環境性能割・種別割(地方税)について燃費性能に関する要件の見直し等が行われる。 最後にカジノ関連の税制として、認定設置運営事業者のカジノ業務に係るものとして経理される課税仕入れ等の取扱いや、非居住者のカジノ所得の非課税制度の創設が盛り込まれている。 (了)
《速報解説》 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置について ~令和5年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 令和4年12月16日、与党(自由民主党及び公明党)より令和5年度税制改正大綱が公表された。わが国が現在直面する様々困難な状況に対応すべく、多様な観点からの税制措置が新たに講じられようとしている。 本稿では、結局のところ令和6年度以降に施行が先送りとなった「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」についてまとめておきたい。なお文中意見にわたる部分は筆者の私見であって、所属する団体・組織等の公式見解ではない点をあらかじめ申し添える。 2 税制措置の概要 ウクライナ情勢をきっかけとして、世界規模で自国の安全保障に対する関心が高まる中、わが国の防衛力強化の必要性も高まっていることは言うまでもない。 防衛力を強化するためには、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保することが必要であり、その財源の一部を税収によって確保することとなった。すなわち、令和9年度に向けて段階的に1兆円強の財源を確保するべく、具体的には法人税、所得税及びたばこ税についての特別措置を講ずることとされた。 ただし令和5年度からの措置ではなく、令和6年度以降の適切な時期から措置されることとなった。 3 税制措置の概要 (1) 法人税 法人税額を課税標準として、税率4%~4.5%の新たな「付加税」を課すこととされた。計算構造としては現在の地方法人税やかつての復興特別法人税と類似する。 ただし中小法人に配慮する観点から、当該「付加税」の課税標準の算定上、法人税額から500万円を控除することとされる。 (2) 所得税 所得税額を課税標準として、当分の間、税率1%の新たな「付加税」を課すこととされた。計算構造としては現在の復興特別所得税と類似する。 ただし現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率が1%引き下げられて1.1%となる。このため所得税、復興特別所得税及び付加税全体の負担率は、現在の水準と変わらない。 復興財源の総額を確実に確保するため、復興特別所得税については税率の引下げと合わせて課税期間を延長することとされた。延長期間は、この引下げ措置の施行タイミングに合わせて決定されることとなる。 もともと復興特別所得税は2013(平成25)年分から2037(令和19)年分までの25年間の予定で導入されているものであり、2022(令和4)年末でちょうど10年経過したところであるから、仮に令和6(2024)年から税率引下げが行われるとすれば、当初の施行期間(残り13年)に対応して13年延長することが想定される。 (3) たばこ税 1本当たり3円相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。 * * * (了)
2022年12月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.499を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第7回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 エ 年末時点での1単位当たりの取得価額 (ア) 総平均法と移動平均法 当年末の暗号資産評価額は、「当年末時点の1単位当たりの取得価額 × 当年末時点の保有数量」で算出することができる。 このうち「当年末時点での1単位当たりの取得価額」は、総平均法又は移動平均法のうちいずれかにより計算した金額である(所法48の2、所令119の2~3、国税庁FAQ「2-4 暗号資産の譲渡原価」)。 【総平均法の例】 前年から繰り越したBTCはないものとする。 当年末のBTC評価額 = 100万円 × 2BTC = 200万円 【移動平均法の例】 前年から繰り越したBTCはないものとする。 各購入時点のBTC1単位当たりの(改定)取得価額 = (※1) 取得価額 = 100万円 ÷ 2BTC = 50万円 (※2) 改定取得価額 =(50万円 + 200万円)÷(1BTC+1BTC)= 125万円 当年末時点のBTC1単位当たりの取得価額 = 125万円 当年末のBTC評価額:125万円 × 2BTC = 250万円 総平均法 と移動平均法の長所と短所については、次のように整理される(泉絢也=藤本剛平『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』118頁(中央経済社2022)参照)。 (イ) 評価方法の選定・変更等 ◆評価方法の選定(所令119の3、所基通48の2-2) 評価方法の選定は、BTC(ビットコイン)やETH(イーサ)など暗号資産の種類ごとに、初めて暗号資産を取得した場合又は異なる種類の暗号資産を取得した場合には、その取得した年分の確定申告期限までに、所轄税務署長に対し、届出書を提出することにより行う。 すでに評価方法を届け出ている暗号資産と同一種類の暗号資産を翌年以降に取得した場合に、再度、評価方法の届出書を提出することは不要である。 ◆暗号資産の種類と名称(所基通48の2-2) 実務上、暗号資産の評価の方法の選定に当たっては、BTC(ビットコイン)やETH(イーサ)など名称の異なる暗号資産は、それぞれ種類の異なる暗号資産として区分されている。 ◆法定評価方法(所法48の2①、所令119の5①) 評価の方法を選定しなかった場合又は選定した評価の方法により評価しなかった場合には法定評価方法により評価する。法人税の法定評価方法は移動平均法であるが(法法61①二、法令118の6⑦)、所得税の法定評価方法は総平均法である。 移動平均法と総平均法を比較した場合に、移動平均法については、その適用のために継続的な帳簿記録が必要になる。 法人と異なり、個人の場合には、所得税法上そのような継続的な帳簿記録を作成することが必ずしも前提とされていない者もいるし、そのような記録の作成を要請することが現実的ではない場合もあることなどを考えると、個人と法人で上記のとおり法定評価方法が異なることも理解できる。 後述するが、法人税法と所得税法における暗号資産の譲渡原価の計算の仕方が若干異なることも関係しているかもしれない。暗号資産の譲渡原価に係る所得税法の規定は、「その年12月31日において有する暗号資産の価額」の評価を行うものであるのに対して(所法48の2①)、法人税法の規定は、その文面上、譲渡の都度、原価計算をするような規定になっており、移動平均法になじむという見方である(法法61①、法令118の6①)。 ◆選定した評価方法で評価しなかった場合等(所令119の5②) 税務署長は、居住者が暗号資産につき選定した評価の方法(法定評価方法を含む)により評価しなかった場合において、次の①及び②のいずれにも該当するときは、①に掲げるその居住者が行った評価の方法により計算した各年分の事業所得の金額又は雑所得の金額を基礎として更正又は決定をすることができる。 ◆評価方法の変更(所法48の2、所令101②~⑤、119の4、所基通47-16の2、48の2-3) 選定した評価方法(評価の方法を届け出なかった場合に総平均法を評価方法としていた場合を含む)を変更しようとする場合には、その変更しようとする年の3月15日までに、所轄税務署長に対し、変更承認申請書を提出して、その承認を受けなければならない。 その提出した年の12月31日までに承認又は却下の通知がない場合は、その日において承認があったものとみなされる。 変更前の評価方法を採用してから相当期間(棚卸資産や有価証券と同様、特別の理由がない場合には3年)を経過していないときや、変更しようとする評価方法によっては所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請が却下される場合がある。 ◆暗号資産の一時的「取得」の場合(所令119の2②、所基通48の2-1) 総平均法及び移動平均法を適用する場合における「取得」には、暗号資産を購入・売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に、一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まない。 例えば、日本円や外国通貨と直接交換できない暗号資産Aが欲しい場合に、これとは種類の異なる暗号資産Bを一旦取得し、この暗号資産Bを介して暗号資産Aを取得するときなどは、上記の「取得」に含まれないということである。 この場合において、実務上、一時的に必要な暗号資産の譲渡原価の計算における取得価額は、個別法(その暗号資産について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法)により算出することとされている。 ただし、上記のような一時的「取得」の場合に、暗号資産の譲渡損益を認識しないという文脈ではなく、あくまで、年末時点での1単位当たりの帳簿価額の算出方法に関する文脈で「取得」に含まれないとされているにすぎないことに注意が必要である。すなわち、暗号資産同士の交換により譲渡損益が発生することに変わりはない。 暗号資産の一時的「取得」の議論については、法人税法にも同様の規定があるため、そこで同規定や関連する通達の問題点を更に考察する予定である。 (了)
相続税の実務問答 【第78回】 「葬式費用の範囲③(「お別れの会」に要した費用)」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の課税価格の計算上、控除することができる葬式費用とは、亡くなられた方を葬るための儀式としての葬式に要した費用です。これに対して、いわゆる「お別れの会」は、一般的に、葬式の後に、葬式に参列できなかった者などをも含め、故人を偲び、故人とのお別れをする場とするもので、これにより、生前の故人との親交に遺族などが謝意を表し、また、こうした人たちにとってはそれぞれが気持ちの整理をする機会ともなるもので、葬式とは別のものであるといえます。 お父様の「お別れの会」も葬式の後に行われたものであり、お父様に縁(ゆかり)の方々が集い、お父様を偲ぶとともに、あなた方遺族が参加者に対して謝意を表す場とするものであったと考えられます。そうしますと、この会の開催に要した費用は、相続税の課税価格の計算において控除することができる葬式費用には該当しないといえます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 いわゆる「お別れの会」 生前に交友の多かった者や広く社会活動をしていた者などについて、葬式とは別に、いわゆる「お別れの会」が催されることがあります。新聞広告などで「お別れの会」の開催案内を目にされた方もいらっしゃると思います。 〇「お別れの会」の新聞広告の例 〇山〇男「お別れの会」のご案内 弊社元代表取締役〇山〇男儀、3月19日永眠致しました。 ここに生前のご厚誼を深謝し謹んでご通知申し上げます。 なお密葬の儀は近親者にて相済ませました。 つきましては「お別れの会」を下記のとおり執り行います。 記 ・日時 5月16日(月)12時~13時 ・場所 □□ホテル 3階「△△の間」 随時献花をしていただきますのでご都合のよい時間に平服にてお越しくださいますようお願い申し上げます。 なお、誠に勝手ながらご香典ご供花ご供物の儀は固くご辞退申し上げます。 令和4年4月25日 〇〇〇〇株式会社 代表取締役 〇〇〇〇 喪 主 〇〇〇〇 「お別れの会」とは、葬式の後に、改めて故人とのお別れをする場として設けられるもので、「偲ぶ会」、「感謝の会」などの名称で開催されることもあります。葬式には参加できる者について限りがありますし、葬式の場では遺族とゆっくりと会話をすることもできません。また、新型コロナウイルス感染症の蔓延を背景に、急速に家族葬が広まったこともあり、「お別れの会」の開催が増えているようです。 「お別れの会」は、遺族が主催することもありますが、友人その他の生前に親交の深かった者、故人が役員を務めていた会社や団体などが主催者となり、遺族と連絡を取りながら、ホテルやセレモニーホールなどの会場予約、参加者への連絡や出欠確認、当日の進行などを仕切るケースの方も多いようです。飲食を伴う場合には会費制で行われることもあります。開催の時期についても、さまざまで、故人の四十九日、一周忌などに合せて行われることもありますが、宗教色を伴わないものが一般的であると考えられます。 2 葬式との違い この「お別れの会」の開催に要した費用を遺族が負担した場合に、相続税の課税価格の計算において、控除することができるでしょうか。 相続税法第13条第1項では、相続税の課税価格の計算上、「被相続人に係る葬式費用」で相続人又は包括受遺者の負担に属する部分の金額を控除する旨を定めていますが、葬式費用の定義については特に定められてはおらず、もっぱら合理的な解釈に委ねられています。 一般的に、葬式とは、「死者をほうむる儀式」のことをいいますが、相続税の申告において葬式費用として控除する金額は、次に掲げる金額の範囲内のものとされています(相基通13-4)。 「お別れの会」といっても、さまざまな形態のものがありますので、一概に決めつけることはできませんが、葬式が、宗教儀礼に即して厳粛に執り行われる儀式であるのに対し、「お別れの会」は、一般的には、それほど畏(かしこ)まったものではなく、葬式を済ませた後に、故人の知人その他の故人と生前に何らかのつながりのあった者が集い、故人を偲びながらお別れをする場として催されるものであり、そこで生前の故人との親交に遺族などが謝意を表し、また故人と関係のあったそれぞれが気持ちの整理をする機会ともなるものであり、その費用は、上記(1)から(4)のいずれにも該当しないと考えられます。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、お父様の葬式は家族葬で済ませ、その4ヶ月後に、都内のホテルで、お父様が生前にお世話になった方々に参加していただいて、「お別れの会」を開催したとのことです。 この会は、一般的な「お別れの会」の形式で行われたものと思われ、お父様の葬式に参列できなかった者をも含めお父様に縁(ゆかり)の方々が集い、お父様を偲ぶとともに、遺族の方々が生前の故人との親交に感謝の気持ちを表す場とするものであったと考えられます。そうしますと、この会の開催に要した費用は、相続税の課税価格の計算において控除することができる葬式費用には該当しないといえます。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第64回】 「限度面積を超える土地の買換えを行った場合における 小規模宅地等の特例と個人版事業承継税制の適用面積」 税理士 柴田 健次 [Q] 先代事業者甲は令和2年10月に後継者である長男乙に特定事業用資産である下記のA土地の贈与を行い、乙は個人版事業承継税制に係る贈与税の納税猶予の適用を受けました。その後、乙は令和3年11月にそのA土地の全てを売却して下記の買換資産であるB土地を同年12月に購入し、租税特別措置法70条の6の8(個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除)5項の買換承認の適用を受け、下記のB土地は贈与税の納税猶予の適用を受ける特例受贈事業用資産とみなされています。 〈前提事項〉 令和4年12月6日に甲に相続が発生した場合において、後継者以外の他の相続人である丙がC土地(面積100㎡)を相続しました。 C土地は小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の要件を満たしています。 次のそれぞれの場合の個人版事業承継税制に係る相続税の納税猶予の適用を受ける土地の適用面積及び小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用面積はそれぞれ何㎡になりますか。 [A] 次のそれぞれの場合で個人版事業承継税制に係る相続税の納税猶予の適用を受ける土地の適用面積及び小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用面積は、下記のとおりとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 買換資産を取得した場合の個人版事業承継税制の取扱い 贈与税の納税猶予の適用を受けた特定事業用資産(以下「特例受贈事業用資産」という)の全部又は一部を譲渡した場合において、その譲渡があった日から1年以内に当該譲渡の対価の額の全部又は一部をもって贈与税の納税猶予の適用を受けた後継者の事業の用に供される資産を取得する見込みであることにつき、譲渡があった日から1ヶ月以内に後継者の納税地の所轄税務署長に一定の事項を記載した申請書を提出し、承認が得られた場合で、「譲渡対価の額>買換資産の取得価額」である場合には、その超える部分に相当する贈与税の猶予税額は納税を行う必要がありますが、「譲渡対価の額<買換資産の取得価額」である場合には、引き続き贈与税の納税猶予は継続されることになります。 なお、譲渡があった日から1年を経過する日までに当該承認に係る譲渡の対価の額の全部又は一部が当該事業の用に供される資産の取得に充てられた場合には、当該取得をした資産は、贈与税の納税猶予の適用を受ける特例受贈事業用資産とみなされます(措法70の6の8⑤、措令40の7の8㉑)。 本問の場合には、「譲渡対価の額<買換資産の取得価額」となりますので、納税は行う必要はなく、引き続き贈与税の納税猶予は継続されることになり、B土地は特例受贈事業用資産とみなされます。 2 贈与者が死亡した場合の相続財産に加算される特例受贈事業用資産の価額 贈与税の納税猶予の適用を受けた後継者に係る贈与者が死亡した場合には、特例受贈事業用資産(猶予中贈与税額に対応する部分に限る)の贈与の時(民事再生法の規定による再生計画の認可の決定があった場合において納税が一部免除された場合には、認可決定日)における価額が相続財産に加算されます(措法70の6の9①)。 買換承認の適用を受けた場合には、買換資産は特例受贈事業用資産とみなされます(措法70の6の8⑤三)ので、相続時に加算される金額は80,000千円となります。 3 買換承認があった場合における限度面積の計算 個人版事業承継税制の適用がある場合の限度面積は、貸付事業用宅地等の特例の適用があるか否かに応じて、下記のとおりとなります(措法70の6の10②一、措令40の7の10⑦、措通70の6の10-17)。限度面積要件を満たさない場合には、全ての土地について小規模宅地等の特例及び個人版事業承継税制について適用を受けられないことになります(措通69の4-11、69の4-12、70の6の10-18)。 【限度面積の調整(個人版事業承継税制の適用がある場合)】 贈与者が死亡した場合の切替確認により相続税の納税猶予の適用を受ける場合には、「特例受贈事業用資産」が「特定事業用資産」とみなされ(措法70の6の10㉚)、上記の限度面積の計算がなされます。 贈与税の納税猶予の適用を受けた特定事業用資産に係る宅地等(以下「受贈宅地等」という)について買換承認があった場合における特例受贈事業用資産とみなされた資産(以下「受贈買換資産」という)については、下記の面積に基づき限度面積の計算を行うことになります(措令40の7の10㉟、措規23の8の9㉗、措通70の6の10-17)。 (※1) 贈与税の納税猶予の適用を受けることができる宅地等は400㎡までとされていますので、受贈宅地等の面積が400㎡を超えている場合には400㎡となります。 (※2) 民事再生法の規定による再生計画の認可の決定があった場合において納税が一部免除された場合(措法70の6の8⑱)には、認可決定日における価額となります。 (※3) その特例受贈事業用資産に係る贈与税の納税猶予税額の計算において特例受贈事業用資産に係る債務の金額が控除された場合には、その価額に次の割合を乗じて計算した金額となります。相続税の課税価格の計算の基礎に算入された特例受贈事業用資産の価額は、特例受贈事業用資産に係る債務の金額を控除した金額となりますので、下記の割合を乗じることにより特例受贈事業用資産に係る債務を控除する前の価額で計算することになります。 本問の場合の限度面積の計算の基礎となるB土地の面積の計算は、下記のとおりとなります。 実際のB土地の面積は600㎡ですが、300㎡とみなして限度面積の計算をすることになります。 4 本問の場合の当てはめ 次のそれぞれの場合で個人版事業承継税制に係る相続税の納税猶予の適用を受ける土地の適用面積及び小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用面積は、下記のとおりとなります。 (1) 小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用する場合 上記【限度面積の調整(個人版事業承継税制の適用がある場合)】の貸付事業用宅地等の特例の適用ありの区分で考えることになります。貸付事業用宅地等の特例がある場合には、全体を100%とした場合にそれぞれの特例で何%部分を適用したのかを考えると分かりやすいと思います。C土地の貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用することにより50%部分(100㎡/200㎡(貸付事業用宅地等の特例の限度面積))を適用し、残りの50%部分について個人版事業承継税制で適用することになりますので、B土地については200㎡(400㎡×50%)が選択面積となります。 B土地の選択面積の具体的な計算式は、下記のとおりとなります。 〈B土地の選択面積の計算〉 (2) 個人版事業承継税制に係る相続税の納税猶予を優先的に適用する場合 B土地で個人版事業承継税制を優先的に適用したことにより75%(300㎡/400㎡(特定事業用資産に係る土地の限度面積))適用したことになりますので、貸付事業用宅地等の特例の適用面積は50㎡(200㎡×25%)となります。 C土地の選択面積の具体的な計算式は、下記のとおりとなります。 〈C土地の選択面積の計算〉 ★実務上のポイント★ 買換資産の面積ではなく、受贈宅地等の面積を基に限度面積の調整を行いますので、贈与税の納税猶予の適用を受けた土地について買換承認がある場合には、留意する必要があります。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第47回】 「適格現物分配があった場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格現物分配があった場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限について解説します。 1 特定資産譲渡等損失の損金算入制限の趣旨 適格現物分配があった場合には、現物分配法人の有する資産は、現物分配法人の帳簿価額で譲渡されます。したがって、現物分配法人から移転を受けた資産の含み損を実現させ、被現物分配法人の所得と相殺する、あるいは、現物分配法人から移転を受けた資産の含み益を実現させ、被現物分配法人の含み損と相殺するといった租税回避行為が可能となります。 このような租税回避行為を防止する観点から、一定の適格現物分配があった場合に、その後に含み損を実現させたときは、その損失を損金の額に算入しないという規定が設けられています。 2 特定資産譲渡等損失の損金算入制限 (1) 内容 適格現物分配があった場合に、次のいずれにも該当しないときは、適用期間((2)参照)に被現物分配法人において生じた一定の特定資産譲渡等損失額((3)参照)が損金不算入となります(法法62の7①、法令123の8①)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令123の8①二)。 (2) 適用期間 「適用期間」とは、次のいずれか早い日までの期間をいいます。 支配関係が生じた時期により、適用期間が下図のように異なることになります。 又は (3) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、現物分配法人の特定資産(特定引継資産)に係る譲渡等損失額と被現物分配法人の特定資産(特定保有資産)にかかる譲渡等損失額の合計額をいいます(法法62の7②)。 ① 特定引継資産 「特定引継資産」とは、適格現物分配により現物分配法人から被現物分配法人へ移転した資産で、支配関係発生日前から現物分配法人が有していた資産(※)をいいます。 (※) 支配関係が生じた事業年度開始の日以後に有する資産が除外されるため(法令123の8②五)、特定保有資産と同様に支配関係が生じた事業年度開始の日前から有していた資産となります。 ② 特定保有資産 「特定保有資産」とは、支配関係が生じた事業年度開始の日前から被現物分配法人が有していた資産をいいます。 ③ 特定資産から除かれるもの 特定資産からは次の資産が除かれています(法令123の8②)。 ④ 1,000万円に満たないかどうかの判定 ③(ハ)における1,000万円の判定は、次のように区分した後の単位で判定することとされています(法規27の15①)。 ⑤ 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するための要件 適格現物分配の日の属する事業年度の確定申告書にその資産の時価及びその帳簿価額に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、時価の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存する場合に限ります(法規27の15②)。 ⑥ 特定資産譲渡等損失額の計算方法 特定資産譲渡等損失額は、特定引継資産及び特定保有資産について生じた譲渡、評価換え、貸倒れ、除却等の事由(譲渡等特定事由)による損失額から譲渡又は評価換えによる利益の額を控除して計算します。 (※) 特定引継資産の譲渡等損失額と特定保有資産の譲渡等損失額の損益通算は認められません。 (4) みなし共同事業要件 適格現物分配は、資産を移転するもので、事業の移転を前提としたものではないため、適格合併等と異なり、みなし共同事業要件によって特定資産譲渡等損失額の損金算入制限が課されないこととなる措置は設けられていません。 3 時価評価した場合の特例 (1) 内容 現物分配法人において含み益が生じている資産を多額に有しているケースでは、実現させた含み益の含み損との相殺は、含み損の自社利用であり、租税回避とはいえないため、特定資産の譲渡等損失について制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 時価純資産超過額がある場合 支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額がある場合には、特定資産譲渡等損失の制限はありません。 (3) 簿価純資産超過額がある場合 支配関係事業年度の前事業年度終了時における簿価純資産超過額がある場合には、簿価純資産超過額から繰越欠損金の制限対象金額についての特例で特定資産譲渡等損失額からなる欠損金額とみなされた金額を控除した金額が制限されます。 時価評価をした場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 4 移転資産の含み損益がある場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格現物分配の場合、移転資産の含み益に対応する特定保有資産の譲渡等損失額の損金算入制限をすれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、移転資産の含み損益がある場合には、特定保有資産の譲渡等損失額について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額に満たない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を超える場合には、移転資産の含み益から欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 5 被現物分配法人株式のみを現物分配する場合の特例 現物分配法人が被現物分配法人株式のみを現物分配する場合、つまり、子会社が保有する親会社株式を現物分配する場合には、被現物分配法人の特定資産譲渡等損失額の損金算入の制限はありません。この場合、時価評価した場合の特例や移転資産の含み損益がある場合の特例と違い、申告要件は課されていません。 ◆適格現物分配があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限のポイント◆ 現物分配法人の特定資産(特定引継資産)と被現物分配法人の特定資産(特定保有資産)の両方について損金算入制限の規定が設けられています。 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するためには一定の手続きが必要です。 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 特定保有資産の譲渡等損失額の制限対象金額の計算については、移転資産の含み損益がある場合の特例や被現物分配法人株式(親会社株式)のみを現物分配する場合の特例が設けられています。 (了)