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これからの国際税務 【第33回】「グローバルミニマム税の国内立法化の動向」

これからの国際税務 【第33回】 「グローバルミニマム税の国内立法化の動向」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 G20/OECDでの実施枠組みの検討 軽課税国に所在する子会社等の税負担が、国際的に合意された最低税率(15%)に達するまで、親会社の所在する国において課税する所得合算ルールを中核とする「グローバルミニマム税」については、2021年10月のG20/OECDでの合意を受けて、国内法立法のガイダンスとなるモデルルール(2021年12月)及びその内容を解説するモデルルールコメンタリー(2022年3月)がOECD/IFにより公表され、現在は、執行面のルール等に関する「実施枠組み」の策定作業が行われている状況にある。 合意に基づく詳細設計が明らかになったことを受け、2022年中の国内法導入、2023年の施行という合意スケジュールに沿って、各国における国内法制化の動きが始まっており(注1)、我が国も、昨年の与党税制改正大綱で合意に沿った国内法整備を公約した。 (注1) EU及び米国における動向については、本連載の第32回で紹介している。なお、EUや英国は、目下のところ施行開始時期を2023年12月31日とする方向で法案を作成している。 本稿では、年末の令和5年度税制改正案の内容となると予測されるグローバルミニマム税の国内法制化について、9月1日に経済産業省研究会が公表した報告書「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方について」(注2)を紹介し、国内法制化に際しての主要課題等を検討するものである。 (注2) 同報告書では、国際合意に係る新税制を「最低税率課税制度」と呼称しているが、本稿では従来からの呼称である「グローバルミニマム税(GloBE税制)」を使用する。   2 経済産業省研究会の報告 (1) 研究会の目的 グローバル化の下で、外国の多国籍企業との間で厳しい競争条件下にある我が国企業を支援する観点も踏まえて、当研究会は、米国、EU、英国での対応状況を踏まえて、グローバルミニマム税の我が国における円滑な制度導入のための論点整理を行うとともに、日本企業に過度な負担を負わさないように既存のCFC税制との関係整理及び簡素化を検討している。 なお、当研究会は、グローバルミニマム税については、合意による制度の枠組みが決定していることもあり、簡素化・明確化の議論に集中した提言にとどまっているのに対し、これと制度趣旨が重なり、最近の諸改正で過度に複雑化してきたと指摘されているCFC税制については、重複回避の必要性から、抜本的なCFC税制改革が可能ではないかとの視点に立って、令和5年度税制改正の案を検討している。 (2) グローバルミニマム税の議論状況の確認と課題の提示 最終合意に沿って、グローバルミニマム税を構成する2つのルール(所得合算ルールと軽課税所得ルール、両者を合わせてGloBEルールと呼ぶ)について必要な国内法改正を2022年に提案するとの政府方針を踏まえ、かつ、モデルルールで許容されることが明らかになった「適格国内ミニマム税」(注3)への対応も含めて、本報告書は以下の論点を抽出している。 (注3) 適格国内ミニマム税は、自国に所在する事業全体の実効税率が15%未満の場合に、他国において上乗せ課税されるのを防ぐため、各国が導入できる制度である。 ① 制度の簡素化 GloBEルールについての簡素化要請は、産業界から、課税要件の各構成要素ごとに要望されているが、特に力点が置かれているのは、子会社群についての国別の実効税率計算の簡素化である。国別実効税率は、CFC税制などの従来の制度が基礎をおいてきた企業別の租税負担割合計算とは異なる仕組みのため、適用対象となる大規模多国籍企業(連結年間総収入7.5億ユーロ以上)にとっても、新規の煩雑な追加事務を要し、負担が重いとされてきた。 特定の要件に該当する場合には、15%の実効税率の計算を不要とする「簡素化オプション」を認めるとする合意はあったものの、その内容は、モデルルールでは明らかにされず、執行枠組みの検討過程で確定するとされ、現在未確定の状況にある。報告書は、この点について、次の3点の要望を取りまとめた。 ② 制度の明確化 GloBEルールの中で国内法制化のために更なる明確化が必要な分野として、以下の3点を指摘している。 ③ 導入の時期 日本企業の競争相手先の居住地国におけるGloBEルールの導入時期に配慮した、早期の国内法制化を求めている。そのうえで、グローバルミニマム税の申告納付は、GloBE情報申告書の提出後に行う順序とすべきとしている。 ④ 外国の適格国内ミニマム税のモニタリング モデルルールで適格国内ミニマム税が上積み税額算定で斟酌されることが明らかになったため、今後同制度が多くの国で採用が見込まれるとし、我が国立法化に際してその動向のモニタリングの重要性を指摘している。同制度は、GloBEルールが当初予定していた親会社所在地国での追加税収を削減するものであるため、適格性の判断が適正かをチェックする必要性と、更にはそのためにGloBE情報申告書に追加する事務負担がないように、外国税制をモニタリングすべきとしている。 (3) 我が国CFC税制の現状と見直しの必要性 BEPS防止に加えて法人税引下げ競争に終止符を打つという目的のGloBE税制と、実質活動を伴わない外国子会社を利用した租税回避防止を目的とするCFC税制は、目的の違いはあるものの、親会社所在地国で追加的課税を行う点で共通した仕組みを持っている。 そのことを踏まえて、研究会の検討の出発点は、現行CFC税制の遵守手続複雑化の中で、立法趣旨の類似したGloBE税制が導入された場合の事務負担軽減の視点(CFC税制簡素化の視点)であったが、併せて、経済活動基準の構成(CFC税制の適用除外を画する仕組み)がグローバルビジネスの実態から乖離しているとの産業界からの問題提起にも応える視点(CFC税制適正化の視点)でも検討が行われた。 その結果、報告書が指摘したCFC税制の検討課題及びその検討の方向性は、以下のとおりである。 ① 簡素化の視点からの課題 ② 簡素化・適正化の双方の観点からの課題 各経済活動基準が、企業のビジネス実態の変化に即しておらず、かつ、判定のための事務負担も煩雑との指摘であり、この機会に適正化も図るべきとの指摘である。 (4) CFC税制の論点と今後の対応 ① 上記4つの課題についての対応策の検討 上記の4点の課題に対し、報告書では、見直しの方向性について詳細に検討した結果、下表のとおり見直しの処方箋を提言している。 〔研究会の提示する見直しの方向性〕 ② その他 報告書では議論されたものの、答えが出ないまま検討が持ち越されたCFC税制改正の課題項目がいくつかある。そのうち、最も重要と思われるGloBE税制が適用されない企業(連結年間総収入金額7.5億ユーロ未満)への上記のCFC税制改正案の適用の可否については、賛否両論が紹介されている。 中小企業にも、CFC税制改革の中でGloBE税制との併存を斟酌した簡素化・適正化の利益を与えるべきかの議論は、第1の柱で取り上げられる利益Bの適用範囲とも関係する問題であり、国際ルールと国内法の間で今後調整の如何が議論される可能性があると思われる。 (了)

#No. 488(掲載号)
#青山 慶二
2022/09/29

〔令和4年度税制改正〕財産債務調書・国外財産調書制度の見直し

〔令和4年度税制改正〕 財産債務調書・国外財産調書制度の見直し   税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 大塚 英司   令和4年度税制改正案に盛り込まれた「財産債務調書制度等の見直し」案について、去る3⽉22⽇の国会において可決・成⽴し、令和5年分以後の財産債務調書等より適用がされていく。 また、7月6日には、国税庁から「財産債務調書制度等の見直しについて」のチラシが公開され、改正前後の取扱いについて周知が行われている。   1 改正の背景 所得が2,000万円以下の納税者については、仮に高額資産を所有していたとしても従前までは財産債務調書の提出義務がなく、課税庁側としても納税者の資産状況等を適切に把握できているとは言い難い状況であった。 そこで、財産債務調書の提出期限を後ろ倒しにすることや記載内容を省略・簡便化するなどの提出義務者の事務負担の軽減を図る一方で、財産債務調書の提出義務者の範囲の拡充が行われた。 また、国外財産調書についても、提出期限、宥恕措置、一部記載事項の見直しが同様に行われている。   2 改正の内容 (1) 10億円以上の資産保有者も提出義務者となる 令和5年分以降、財産債務調書の提出義務者の拡充として、所得がない者でも所有する財産合計額が10億円以上ある場合には財産債務調書の提出が必要となった。 (2) 提出期限は翌年6月30日に後ろ倒し 令和5年分以降、提出義務者の事務負担の軽減を図るため、財産債務調書等の提出期限はその年の翌年の6月30日へ後ろ倒しとなった(国外財産調書も同様)。 (3) 財産債務調書への記載を簡略化できる範囲が拡充した 令和5年分以降、捕捉困難な家庭用財産について、財産債務調書への記載を省略できる基準額が300万円未満となった。 また、件数や総額での記載ができる財産債務の範囲や記載の一部省略ができる預貯金の取扱いについても以下のとおり拡充となっている。 ① 所在別に区分することなく、件数及び総額で記載することのできる範囲 ② 記載を省略することのできる範囲 ③ 新たに記載を一部省略することができるもの ④ 資産ごとに区分して記載することなく、総額で記載することができるもの(国外財産調書も同様) (4) 提出期限後に財産債務調書等が提出された場合の宥恕措置の見直し 令和6年1月1日以後に提出される財産債務調書等について、期限後に提出された場合における過少申告加算税等の特例に対する宥恕措置が見直された(国外財産調書も同様)。   3 適⽤時期 上述の改正については、基本的には令和5年分(提出期限令和6年6月30日)の財産債務調書等から適用され、「(4) 提出期限後に財産債務調書等が提出された場合の宥恕措置の見直し」についてのみ令和6年1月1日以後提出分からの適用となる。 なお、令和4年分以前の財産債務調書は、従前どおりの提出義務、期限、範囲となっているのでご留意いただきたい。 (了)

#No. 488(掲載号)
#大塚 英司
2022/09/29

〈令和4年度税制改正の解説〉完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直し 【第2回】

〈令和4年度税制改正の解説〉 完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直し 【第2回】   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   ←(前回)   【第1回】では、完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直しに関する改正の背景及び創設された特例措置の内容について解説した。 今回の【第2回】では、完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置の具体例、その他の措置と施行日前後(経過措置)の取扱いについて確認する。   4 具体例 (1) 個人による完全支配関係がある場合 〔前提〕 ① 受取配当等の益金不算入制度 受取配当等の益金不算入制度における完全子法人株式等は、配当等の額の計算期間を通じて内国法人との間に完全支配関係があった場合の当該他の内国法人の株式等をいい、完全支配関係は法人による完全支配関係に限定されておらず、個人による完全支配関係がある場合も含まれるため、B社及びC社がD社から受ける配当については完全子法人株式等からの配当に該当し、全額益金不算入となる。 ② 完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置 特例措置では、完全子法人株式等に該当する株式等に係る配当等が適用対象とされているため、B社及びC社がD社から受ける配当については所得税が課されず、源泉徴収義務の対象から除外される。 (2) 計算期間の中途において株式を取得した場合 〔前提〕 ① 受取配当等の益金不算入制度 受取配当等の益金不算入制度における完全子法人株式等や関連法人株式等は配当計算期間中の継続保有が求められているため、基準日の2ヶ月前に100%保有することになったとしても、A社がB社から受ける配当はその他の株式等の配当に該当し、50%相当額が益金不算入となる。 ② 完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置 特例措置では、基準日等において、その内国法人が保有する他の内国法人の株式の発行済株式等の総数等に占める割合が3分の1超である場合における当該他の内国法人の株式等に係る配当等が適用対象とされているため、基準日にA社が100%保有するB社からの配当については所得税が課されず、源泉徴収義務の対象から除外される。 (3) 完全支配関係がある法人グループ全体の保有株式数等で関連法人株式等に該当する場合 〔前提〕 ① 受取配当等の益金不算入制度 受取配当等の益金不算入制度における関連法人株式等の保有割合の判定は、完全支配関係がある他の法人の保有株式数等を含めて判定することとなるため、A社とB社の保有割合を合算すると40%となり、3分の1を超えるため、A社及びB社がC社から受ける配当は関連法人株式等の配当に該当し、全額(控除負債利子を除く)が益金不算入となる。 ② 完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置 特例措置では、基準日等において、その内国法人が保有する他の内国法人の株式の発行済株式等の総数等に占める割合が3分の1超である場合における当該他の内国法人の株式等に係る配当等が適用対象とされており、基準日の単独の保有割合で判定するため、A社とB社の保有割合はともに3分の1に満たないことから特例措置の適用対象とはならず、A社及びB社がC社から受ける配当については源泉徴収を行う必要がある。 *  *  * 上記(2)における配当は、特例措置の対象となり源泉徴収が不要となるが、受取配当等の益金不算入制度における関連法人株式等には該当しない。 逆に、上記(3)における配当は、特例措置の対象とならず源泉徴収が必要となるが、受取配当等の益金不算入制度における関連法人株式等に該当する。 このように、全額益金不算入となる部分と特例措置で源泉徴収義務の対象外となる部分は必ずしも一致しない点に留意が必要である。   5 その他の措置 完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置の対象となる配当等は、源泉徴収義務の対象から除外されるため、下記の制度の対象からも除外される。   6 施行日前後(経過措置)の取扱い 今回の特例措置は、一定の内国法人が令和5年10月1日以後に支払を受けるべき配当等について適用される(改正法附則6)。 したがって、源泉徴収義務についても、内国法人に対し令和5年10月1日以後に支払うべき配当等について適用し、内国法人に対し同日前に支払うべき配当等については従前どおりの取扱いとなる(改正法附則8)。   7 今後の留意点 令和4年度税制改正大綱で、 と記載されていることから、令和5年度税制改正で何らかの見直しがなされる可能性もあるため、今後もその動向に注視する必要がある。   (連載了)

#No. 488(掲載号)
#川瀬 裕太
2022/09/29

〔令和4年度税制改正における〕賃上げ促進税制の抜本的見直しについて 【第3回】

〔令和4年度税制改正における〕 賃上げ促進税制の抜本的見直しについて 【第3回】 (最終回)   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   ←(前回)   4 上乗せ控除のための要件 改正後の賃上げ促進税制においても、一定の要件を満たした場合に税額控除率の引上げ措置が設けられている。具体的には下表のとおりである(措法42の12の5①②)。 大企業向け制度については、改正前(人材確保等促進税制)は教育訓練費の要件のみが定められていたところ、改正後は賃上げの要件も追加されている。なお、教育訓練費の要件自体についての変更はない。 中小企業者等向けの制度については、改正前(所得拡大促進税制)では賃上げの要件を満たした上で教育訓練費の要件又は経営力向上の要件を満たすことが必要とされ、双方の要件を満たした場合に限り控除率の上乗せの適用を受けることができたが、改正後の制度では経営力向上の要件が廃止された。 また、改正後の制度(大企業向け、中小企業者等向け制度共通)では、双方の要件を満たさなければ上乗せ控除の適用を受けられないということではなく、それぞれの要件に対応して上乗せ控除率が定められている。このため、いずれかの要件を満たせばそれに対応する控除率の上乗せの適用を受けることができる。   5 その他の改正点 (1) 用語の定義 改正後の賃上げ促進税制で用いられている用語の定義について、改正前の制度から変更されているものはないものと理解してよい。「継続雇用者」の定義については、改正前は「特定税額控除規定の不適用措置」において規定されていたが、その内容がそのまま本税制にスライドする形で規定されている。 ただし、条文の組立て方の違いによるものと考えられるものとして「基準日」という単語の使い方が変更されている。「基準日」は、組織再編成が行われた場合において比較雇用者給与等支給額及び比較教育訓練費の額について一定の調整が必要な局面で用いられる概念であり、その内容は2種類ある。1つは比較雇用者給与等支給額の調整計算に用いられるもの(給与等基準日)、もう1つは比較教育訓練費等の額の調整計算に用いられるもの(教育訓練費基準日)である。 現行の条文上は、教育訓練費基準日のことを単に「基準日」と称し(措令27の12の5⑰)、これとは別に「給与等基準日」の定めが置かれている(同⑲)。これに対して令和3年度までは、給与等基準日のことを単に「基準日」と称し(R3措令27の12の5⑫)、別途「教育訓練費基準日」の定めが置かれていた(R3同⑮)。実質的な内容に変更はないものの、用法が変更されているので留意されたい。 (2) グループ通算制度における取扱い 連結納税制度を適用する法人が改正前の制度(人材確保等促進税制・所得拡大促進税制)を適用する場合、グループ全体で適用要件を判断するとともに、税額控除可能額もグループ全体で計算することとされていた。 これに対して、グループ通算制度を適用する法人(通算法人)において改正後の制度(賃上げ促進税制)を適用する場合には、通算法人ごとに適用可否を判断し、本税制を適用することとされている。 また中小企業判定についても、通算法人にあっては、通算グループ内の法人のうちいずれかの法人が中小企業者に該当しない場合には、その通算グループ内の法人のすべてが中小企業者に該当しないものとされている(措令27の4㉕三)。 かつての連結納税制度では、連結親法人が中小企業者に該当する場合に限り、その連結親法人及び連結子法人(資本金の額等が1億円以下のものに限る)について中小連結法人として取り扱われていたが(R3措令39の39⑳)、グループ通算制度では通算親法人が中小企業者に該当するだけでは足りず、グループ内のすべての通算法人が中小企業者の要件を満たす必要がある。 さらに、通算グループ内の法人のうちいずれかの法人が適用除外事業者に該当する場合には、その通算グループ内の法人のすべてが適用除外事業者として取り扱われることとなる(通算適用除外事業者。措法42の4⑲八の二)。 (3) 地方税の取扱い 中小企業者等の法人住民税(法人税割)の計算上、課税標準となる法人税額は本税制適用後の金額を用いることとされており、税額控除の影響は法人住民税にも及ぶ点には変更がない。 また、法人事業税(外形標準課税・付加価値割)の計算上、改正後の本税制の適用要件を満たす場合には、一定の調整を加えた雇用者給与等支給増加額を付加価値額から控除するという取扱いにも変更はない。 (連載了)

#No. 488(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2022/09/29

令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第9回】

令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第9回】 (最終回)   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   3 連結納税制度からグループ通算制度へ移行した場合の投資簿価修正の取扱い (1) 移行通算子法人の株式に係る投資簿価修正の適用関係 連結納税制度からグループ通算制度へ移行した通算子法人(移行通算子法人)が、通算グループから離脱する場合又はグループ通算制度が取りやめとなる場合、その株主である通算法人において、その通算終了事由が生じるその移行通算子法人の株式の通算終了直前の帳簿価額をその移行通算子法人の通算終了直前の簿価純資産価額(加算措置を適用する場合は資産調整勘定等対応金額を加算した金額)とする。 つまり、移行通算子法人については、連結納税制度の投資簿価修正は適用されず、原則どおり、グループ通算制度の投資簿価修正が適用される。 ただし、グループ通算制度への移行初日(令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度の開始の日)に通算グループから離脱した法人又はグループ通算制度が取りやめとなった法人については、その連結完全支配関係がなくなったことをもって連結納税制度の投資簿価修正が適用されることとなる(令2改法令附4⑥)。 (2) 移行通算子法人の投資簿価修正の加算措置に関する取扱い 連結納税制度からグループ通算制度へ移行した通算子法人(移行通算子法人)の株式については、グループ通算制度の投資簿価修正が適用されるが、資産調整勘定等対応金額の加算措置については、移行前の連結納税制度の適用をグループ通算制度の適用とみなして、移行通算子法人以外の通算子法人と同様に資産調整勘定等対応金額が計算される。 具体的には、移行通算子法人の株式について、資産調整勘定等対応金額の加算措置を適用する場合、次の経過措置が設けられている(令4改法令附6、令4改法規附2)。 [移行通算子法人の株式に係る投資簿価修正の加算措置に関する経過措置]   (連載了)

#No. 488(掲載号)
#足立 好幸
2022/09/29

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第53回】「二世帯住宅である建物(区分登記あり)に配偶者居住権を設定した場合の特定居住用宅地等の特例の適用」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第53回】 「二世帯住宅である建物(区分登記あり)に配偶者居住権を設定した場合の特定居住用宅地等の特例の適用」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年9月23日)は、下記の土地及び建物を所有していました。土地建物の生前の利用状況は、1階部分は甲と甲の配偶者である乙が居住の用に供し、2階部分は長女である丙家族が居住の用に供しています。1階と2階で区分登記がされており、建物の各階ごとに玄関があります。また、甲は丙から賃料は収受していませんでした(区分登記の有無以外は、前回の設問と同じ前提条件となります)。 甲の相続発生に伴い、甲の所有していた1階部分の建物については、乙が配偶者居住権を取得し、丙が所有権を取得、2階部分の建物及び土地の所有権については丙が取得した場合には、乙及び丙が適用できる特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 相続人は乙と丙の2人です。丙は甲と生計を別にしており、相続後は引き続き2階に居住しています。 (※) 配偶者居住権の存続年数に応じた複利現価率 [A] 乙は取得した1階部分に係る敷地利用権の面積108㎡について、小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができます。丙は特例対象者ではありませんので、特例の適用を受けることはできません。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります。居住建物の全部というのは、配偶者が相続開始の時に居住していた建物の全部という意味ですが、区分登記されている場合には、建物ごとに登記を行いますので、本問の場合には、1階部分のみが配偶者居住権の設定対象となります(民法1028)。 区分登記がされている2階部分については、配偶者が相続開始の時に居住していた建物には該当しませんので、配偶者居住権の設定の対象とはなりません。 したがって、配偶者居住権及び敷地利用権の及ぶ範囲をまとめると下記のとおりとなります。   2 特定居住用宅地等の特例の適否 区分登記がされている場合の小規模宅地等の特例の適否については、本連載【第28回】で解説しています。特例の判定にあたっては、入口の要件として被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか、出口の要件として取得者の要件を確認することになります。 〔被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか〕 被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)。 したがって、区分登記がされている場合には、1階部分については、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当し、2階部分については、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当しないことになります。 〔取得者の要件〕 乙は配偶者で要件はありませんので、特例対象者となります。 丙は生計一親族ではありませんので、同居親族の要件又は別居親族の要件を満たしているかを確認することになります。 同居親族の要件及び別居親族の要件は、下記のとおりとなります。 (1) 同居親族 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。 政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。 (2) 別居親族 当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 丙は、上記(1)に記載されている「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」に該当しないため、同居親族の要件は満たさないことになります。 また、別居親族の要件に該当するかどうかですが、上記(2)の④に記載されている「相続開始前3年以内に日本国内にある当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の三親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと」が問題となります。 被相続人は、三親等内の親族ですので、相続開始前3年以内に被相続人の所有する家屋に居住したことがある場合には、要件を満たさないことになります。ただし、括弧書きにおいて「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く」とされていますので、本問の場合にこれに該当するか否かを検討することになります。 法令や通達等において「被相続人の居住の用に供されていた家屋」の範囲を定めたものはありませんが、租税特別措置法関係通達69の4-21(被相続人の居住用家屋に居住していた親族の範囲)においては、下記のとおり記載されています。 租税特別措置法関係通達69の4-21(被相続人の居住用家屋に居住していた親族の範囲) 上記の通達に記載されているとおり、一棟の建物で構造上区分されているときは、被相続人が居住していたその独立部分を被相続人の居住の用に供されていた家屋に該当するとしています。あくまでも上記の通達は、(2)の③の要件の判定をする際の取扱いですが、上記(2)の④の要件を判定する際にも同様に考えて問題ないかと思います。 したがって、丙は「被相続人の居住の用に供されていた家屋」に居住していたとは認められず、特例を受けることはできないことになります。 上記により特例対象宅地等の適否は、下記のとおりとなります。   3 利用区分ごとの相続税評価額の算定と面積の計算 本問の場合には、1階部分について敷地利用権と敷地所有権がありますので、計算手順としてステップ❶で2階部分と1階部分に区分して計算し、ステップ❷で敷地利用権と敷地所有権に区分して計算することになります。 ステップ❶ 土地の相続税評価額について2階部分と1階部分に区分します。 ・2階部分の土地の相続税評価額 ・1階部分の土地の相続税評価額 ステップ❷ 1階部分について敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。 ・1階部分の敷地利用権の相続税評価額 ・1階部分の敷地所有権の相続税評価額 ・1階部分の敷地利用権の面積 ・1階部分の敷地所有権の面積   4 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 乙が取得した1階部分の敷地利用権の面積108㎡となります。   5 区分登記の有無の取扱いの比較 区分登記の有無の取扱いについて【第52回】と【第53回】(本稿)を整理すると、下記のとおりとなります。 ★実務上のポイント★ 区分登記の有無における配偶者居住権が及ぶ範囲と特定居住用宅地等の特例の適否を整理しておきましょう。   (了)

#No. 488(掲載号)
#柴田 健次
2022/09/29

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《収益・費用の計上-収益認識》編 【第2回】「割戻しを見込む販売(変動対価)」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《収益・費用の計上-収益認識》編 【第2回】 「割戻しを見込む販売(変動対価)」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 平成30年3月に「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」とします)が公表され、上場企業や会社法上の大会社等公認会計士又は監査法人の監査を受ける会社を対象に、令和3年4月1日以降開始する事業年度から強制適用されています。これを受けて、平成30年度税制改正において法人税法等の改正も行われました。 しかし、中小企業は、収益認識について、従来どおりの会計処理を継続できることとなりました。今回の『収益認識』編では、中小企業に適用義務化されなかった収益認識会計基準や平成30年度税制改正後の法人税等の取扱いによる会計処理をご紹介します。それらの中から今回は、「割戻しを見込む販売」を取り上げます。 【設例2】 当社(生活用品製造業。3月31日決算)は、新製品Nの販売について、卸売問屋U社と2年間の販売数量に基づく割戻しを単価に反映するように、当社からU社への販売単価設定の契約を締結し、取引を始めました。 この契約上販売単価(税抜)は、当社からU社への販売数量が、0個から20,000個までは@500円/個。20,001個から40,000個までは@450円/個。40,001個以上は@400円/個とされました。 当社は、U社への販売数量を2年間で40,000個と予測していました。 2年間の販売実績は、当社からU社へ、X4年4月4日に20,000個、X5年4月3日に20,000個販売しました。 消費税率10%   1 収益認識会計基準を適用した場合の当社の仕訳 当社の仕訳は、収益認識会計基準によった場合、次のとおりです。 〈X4年4月4日:販売時〉 〈X5年4月3日:再販売時〉 以上(2)及び(3)により、会計処理は、上記1の仕訳のとおりです。   2 収益認識会計基準により会計処理した場合の法人税法上の取扱い 収益認識会計基準の公表を受けて、平成30年度税制改正において法人税法等の改正も行われ、商品販売に係る契約の対価について、変動する可能性がある金額(変動対価)がある場合の収益計上についても、次の①から③の要件のすべてを満たせば、法人税法上も上記1の会計処理のとおりとされました(法基通2-1-1の11)。   3 収益認識会計基準により会計処理した場合の消費税法上の取扱い 収益認識会計基準の公表を受けて、法人税法等の改正は行われたものの、消費税法の改正はありませんでした。したがって、収益認識会計基準の会計処理ではなく、それ以前の従来どおりの会計処理に合わせた仮受消費税の処理となります。 この設問の場合、上記1の仕訳のとおり、X4年4月4日の販売時には、契約上の販売単価は@500円/個なので、販売金額は10,000,000円(=20,000個×@500円/個、税抜)の消費税率10%を乗じた1,000,000円を仮受消費税処理し、X5年4月3日の販売時には、契約上の販売単価は@450円/個なので、販売金額は9,000,000円(=20,000個×@450円/個、税抜)の消費税率10%を乗じた900,000円を仮受消費税処理します。   (了)

#No. 488(掲載号)
#前原 啓二
2022/09/29

〔今こそ確認したい〕サステナビリティ及び気候関連開示の現状 【第3回】「IFRS S2号「気候関連開示」[案]の概要」

〔今こそ確認したい〕 サステナビリティ及び気候関連開示の現状 【第3回】 (最終回) 「IFRS S2号「気候関連開示」[案]の概要」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   2022年3月31日に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(以下、「S1号」という)等、及びIFRS S2号「気候関連開示」等の公開草案を公表している。現状、両方を合わせて「IFRSサステナビリティ開示基準(ISSBが公表した基準)」という。 (注) 今後、上記以外の基準も公表され、「IFRSサステナビリティ開示基準」の数は増えることも想定される。 これらの公開草案が最終確定された場合、企業価値を評価する際の投資者の情報ニーズを満たすように設計されたサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインとなる(公開草案-スナップショット「はじめに」)。 今回は、気候関連の開示について定めたIFRS S2号「気候関連開示」等の公開草案の概要について解説する。 IFRS S2号「気候関連開示」(以下、「S2号」という)等の公開草案は、以下のように構成されている。   1 S2号の目的 S2号の目的は、企業が重大な(significant)気候関連のリスク及び機会に対する情報を開示することにより、財務報告の利用者が以下を可能とすることにある(S2号1)。   2 S2号の範囲 S2号の範囲は、以下のとおりである(S2号3)。   3 開示内容 本連載の【第2回】で解説したとおり、開示の柱は、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」である。 (1) ガバナンス(S2号4~6) (2) 戦略(S2号7~15) (3) リスク管理(S2号16~18) (4) 指標及び目標(S2号19~24)   4 企業の対応 S1号及びS2号が適用されることにより、有価証券報告書等の開示がどのように変わっていくかは、まだ明らかになっていない。一方、気候関連を含む非財務情報の開示は、今後、拡大することは避けられないと考えられる。 そのため、企業が今、行うべき対応は、情報収集を行い、現状、開示が進んでいる会社ではどの程度の開示を行っているかを把握し、自社でそのレベルの開示を行うためには、どうすればよいかをシミュレーションすることが大事であると考えられる。 情報収集するにあたっては、本連載の【第1回】に情報ソースを記載しているため、参照されたい。 (連載了)

#No. 488(掲載号)
#西田 友洋
2022/09/29

〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第8回】「違反行為等の自己申告を促す「リニエンシー制度」導入によるメリット」

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第8回】 「違反行為等の自己申告を促す「リニエンシー制度」導入によるメリット」   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 違法行為や反倫理的行為に関する自己申告の実際 筆者は、長年にわたり内部統制報告制度の導入現場で仕事をしてきたが、そのなかでリニエンシー制度にまつわる経験をしている。それは、国内外に多くの拠点を持つ上場会社で、架空売上による不正が複数件にわたり発覚した時のことである。経営層はこれに対して、他の拠点でも同様の不正が蔓延っているのではないかと大きな危機感を抱いた。そこで彼らは、とても賢明な対策を考え出した。 それは、ほかにも架空売上に加担した者は、一定期間内に必ず名乗り出ること、もし名乗り出れば、処分は軽減するか、理由によっては不問に付すという呼びかけを実施することであった。当時はリニエンシー制度という名称は存在していなかったが、これがまさに、リニエンシー制度そのものである。その後、会社では、呼びかけに応じて複数の者が自ら不正を名乗り出て、不正調査に一定の効果をあげたといわれている。過日、この会社がリニエンシー制度を正式に導入することを決めたことは言うまでもない。   2 リニエンシー制度がもたらすメリットを考える 会計上の不正に限らず、パワハラ、セクハラ、違法な時間外労働などの違法行為や反倫理的な行為に対して、企業が日頃から眼を光らせ、これらを早期に摘発しようとすれば、対応する陣容、コスト、それに費やす時間等はおのずから膨大とならざるを得ない。 こうした取り締まりと摘発に要する膨大なコストに対し、得られる効果は必ずしも見合うものではない。しかし、いったんは違法行為や反倫理的な行為に手を染めても、その張本人が処分の軽減を条件として自発的に名乗り出る機会を認めるならば、会社は調査や摘発に要するコストに頭を悩ます必要はなくなる。本人による自己申告を求めるリニエンシー制度は、企業にとって効率的で、コストを省くうえで高い効果を持つ制度である。そして、このリニエンシー制度は、談合やカルテルを取り締まる公的機関でも実際に導入されている。   3 公正取引委員会による課徴金減免制度 公正取引委員会は、独占禁止法に基づいて日頃から談合やカルテルに対して厳しい監視の眼を光らせている。談合やカルテルは、まさに密室で画策される悪事に他ならず、明るみにすることは難しい。 そこで企業が自ら関与した入札談合やカルテルについて、違反の内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合には、課されるべき課徴金が減免される仕組みを導入している、これが課徴金減免制度である。さらに自主的に報告した順位と事件の真相解明に貢献した程度に応じ、減免の割合が異なる調査協力減算制度を採用し、実際に減免率を明確にして公表をしている。 これらの制度は独占禁止法に定められ、談合やカルテルに手を染めた企業に自己申告を求めている。この制度の根底にはリニエンシー制度の考え方が存在する。こうした、リニエンシー制度導入の実情の裏を返せば、密室で行われる談合やカルテルの摘発がいかに困難であるかを暗示している。   4 公正取引委員会による実際の摘発事例 近年の摘発事例としては、リニア中央新幹線の建設工事をめぐるゼネコン大手4社の談合事件があった。公正取引委員会は、優越的な地位を濫用し談合を行ったとして、独占禁止法違反を認定、大成建設、鹿島、大林組、清水建設の4社に対して違反行為の是正、再発防止などを求める命令を出した。 これら4社は、リニア中央新幹線の品川、名古屋駅の新設工事において談合を図った。しかしこのなかで、大林組と清水建設の2社は、課徴金減免制度に基づき、談合行為について自己申告を行っており、本来支払うべき課徴金の額から30%の減免を受けた。リニエンシー制度が密室における談合の切り崩しに効果を上げた好事例といえよう。   5 企業内のリニエンシー制度における懲戒処分等の開示 独占禁止法における調査協力減算制度では、罰金が軽減される状況を数量化して明確に示すことができるが、社内の懲戒等の処分について、あらかじめこうした明示をすることは困難である。なぜなら違反の態様や違反者の立場や状況に応じ、企業は事案ごとに、個別かつ具体的に検討を行い、処分を決定せざるを得ないからである。 しかし、リニエンシー制度を用いた場合に、どの程度処分の軽減についてメリットがあるのか、懲戒事例を公表して、社内周知を図らなければ、具体的な成果は上がらないという議論がある。懲戒処分の軽減事例の開示にあたっては、実際に処分を受けた者が持つ個人情報保護の権利(プライバシー)の保護や処分の公平性を知らせるために、どこまで個別の処分情報を開示するのか、開示情報の一般性をどのように確保するのか、まずこうした課題を十分にクリアにしたうえで、開示することが求められる。   6 悪事に手を染めた者との取引を認めるか 懲戒処分等を軽減することを材料に、法や倫理に触れた違反者との取引を行うこと自体、企業倫理上問題であるという少々潔癖な反論もある。 しかしながら、コンプライアンスを貫き企業の運営を推進するには、法令違反に関与した者といえども、自主的な通報や調査に積極的に協力する機会を与えることで、問題の早期発見と解決を図ることができる。処罰等の処分の減免は、得られる成果を補って余りある、合理的かつ妥当な対応ではないだろうか。 刑事訴訟法の改正に基づく、いわゆる日本版の司法取引制度が2018年より導入されている。社内で犯罪に加担した者が、検察官と取引に応じ、起訴等の処分の軽減と引き換えに内部情報を提供した結果、日産自動車のゴーン元会長の逮捕に大きな成果を上げた。 違反者といえども、その情報提供がなければ、より大きな悪を裁くことができないと考えると、リニエンシー制度は極めて賢明かつ戦略的な仕組みであると考えられる。 (了)

#No. 488(掲載号)
#打田 昌行
2022/09/29

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第10回】「形骸化した登記の抹消手続き簡略化の概要」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第10回】 「形骸化した登記の抹消手続き簡略化の概要」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 形骸化した登記(存続期間が満了している地上権等や買戻しの期間が経過している買戻しの特約)の抹消手続きが簡略化されたと聞きました。今回のこの改正について教えてください。 【A】 所有者不明土地の利用を円滑にする観点から、存続期間が満了している地上権等の登記を抹消するにあたり登記義務者の所在の調査を簡略にした。また、買戻しの期間が経過している買戻し特約の登記を一定の条件で登記権利者が単独で抹消できることとした。 -《解説》- 郊外の不動産を開発して、物流施設や太陽光パネルを設置する大規模な発電施設を建設することがある。このような郊外の不動産には、存続期間が満了している地上権の登記や買戻しの期間が経過している買戻しの特約の登記が設定されたままになっていることがまま見られる。この形骸化した登記が原因で不動産の売却が進まず、物流施設や太陽光発電施設の建設が進まないという問題があった。 そのため、形骸化した登記の抹消を促進することで、不動産の所有権や利用権の取得を容易にし、土地の利用を円滑にすることが期待されていた。 この問題を解消するために、以下のように不動産登記法の改正がなされた。   1 存続期間が満了している地上権等の抹消の調査手続き もともとは、登記の存続期間が満了した地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権を抹消する場合において、登記義務者やその相続人の住所地等での現地調査を踏まえた調査報告書の提出が求められていた。そして、このような調査のため現地まで行き情報を収集することの手間とコストが問題になっていた。 この手間とコストを解消するために、登記義務者やその相続人の住所地に宛てて、配達証明付きの郵便物を送りその郵便が不到達であることを証明する調査で足りることになると考えられている(不動産登記法70条2項)。   2 買戻しの特約に関する登記の抹消手続きの簡略化 県や住宅供給公社等から土地を購入する際には、買戻し特約の登記を付けることがある。この買戻の期間は最長で10年だが、10年を経過した買戻しの特約を抹消する場合でも、買戻し権利者と土地の所有者が共同して登記を申請する必要があった。このため、土地の所有者は買戻し権利者に連絡を取り、買戻しの特約に関する登記の抹消手続きへの協力を要請しなければならなかった。 ところが、買戻し期間の法律の上限は10年であり、伸長をすることはできない(民法580条1項・2項)。とすると、10年を経過し、明らかに買戻し特約の効力が消滅しているならば、所有者が単独で抹消できるとしても買戻し権利者を害しない。 そこで、買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができることになった(不動産登記法69条の2)。   3 施行日 形骸化した登記の抹消手続きの簡略化は令和5年4月1日に施行される。 (了)

#No. 488(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/09/29
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