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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第16回】「課税要件事実の認定に関する実質主義」-未経過固定資産税等相当額清算金の性質決定に関する裁判例の検討-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第16回】 「課税要件事実の認定に関する実質主義」 -未経過固定資産税等相当額清算金の性質決定に関する裁判例の検討-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回扱った財産評価も、税法における事実認定であることは前回Ⅳ(おわりに)でも述べたが、税法における事実認定には、ほかに、事実状態・事実行為の確認、法律行為・契約の解釈、公正妥当な会計処理(法税22条4項)の結果の確認も含まれる。これらにおいて認定されるべき課税要件事実とは、課税要件に包摂されるべき事実をいい、それは、課税要件を組成する法律要件要素(課税要件要素 [Steuertatbestandsmerkmal])に高められ抽象化された類型的事実(法律事実)ではなく、法律事実に該当する個々の具体的事実(税法の適用・税法的評価を受ける前のいわゆる「ナマの事実」)を意味する事実的概念である(以上については拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【56】参照)。 今回は、前記の事実認定のうち契約解釈の問題を、未経過固定資産税等相当額清算金(以下本文では単に「清算金」という)の課税上の取扱いに関する裁判例を素材にして、検討することにするが、その検討に入る前に、課税要件事実の認定において妥当する実質主義ないし実質課税の原則について、次のⅡで一般論を整理しておく(税法の解釈について妥当するものも含め実質主義一般については前掲拙著【42】、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第6回・第20回等参照)。 なお、清算金とは、後のⅢで検討する東京高判平成26年4月9日訟月60巻11号2448頁(以下「平成26年東京高判」という)に従い、「賦課期日とは異なる日をもって固定資産の売買契約を締結するに際し、買主が売主に対し、売主が納税義務を負担することになる固定資産税等の税額のうち売買契約による所有権移転後の期間の部分に相当する金額を支払うことを合意した場合」における「この合意に基づく金額」をいうものとする。   Ⅱ 課税要件事実の認定に関する実質主義 課税要件事実の認定に関する実質主義については、一般論を次のとおり説く見解(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)148-149頁。下線筆者)が広く支持されている。 上記の引用のうち下線部で述べられていることについては、法的実質主義と経済的実質主義とを対比する形で論じられてきたが、租税法律主義の下での厳格な事実認定の要請の下では、前者のみが許容されるものとされている。法的実質主義とは、私法上の法律関係について、私的自治の原則に従って形成された真実の法律関係を、実体・実質として捉え課税の基礎とすべきであるとする考え方をいい、経済的実質主義とは、そのような真実の法律関係を離れて、法律関係の経済的な動機・目的や成果を、実体・実質として捉え課税の基礎とすべきであるとする考え方をいうのである(以上について前掲拙著【57】のほか【41】も参照)。 確かに、経済的実質主義は、理論的に突き詰めると、経済的概念である担税力の把握に資し、担税力に応じた公平負担の建前(前掲拙著【21】【22】参照)には適合するであろう。しかし、経済的実質主義の下では、実体・実質の基準や範囲が必ずしも明らかでないため、実際には、事実認定において税務官庁の形成的・裁量的判断が介入し、その結果、ある課税要件事実と経済的実質の点で類似する事実について、公平負担の見地から課税要件該当性を肯定する判断につながったり、また、場合によっては逆に租税負担が不公平になったり予測可能性・法的安定性が害されたりすることになるおそれがある。それゆえ、経済的実質主義は厳格な事実認定の要請に反し許容されないのである。 これに対して、法的実質主義は、「実質」という語をその名称の中に含んではいるが、しかし、それは、法律関係が真実であること、すなわち、仮装でないことを要求するが故に、法的「実質主義」と呼ばれるにすぎない。法律関係という形式(法形式)を事実認定の基準とするという意味では、「形式主義」である。法的実質主義は、このような意味における「形式主義」であるからこそ、事実認定への税務官庁の形成的・裁量的判断の介入に対する「防波堤」となり、しかも事実認定における予測可能性・法的安定性の保障にも資するのである。 法的実質主義の下では、課税要件事実の認定について、論理的には、課税の基礎となる私法上の法律関係を、まず専ら私法の観点から法律行為・契約の解釈により、認定した上で、その認定を尊重し、そのまま課税要件事実として受け入れる、というような2段階の事実認定構造を観念することができる。このような考え方は「二段階事実認定論」(前掲拙著【59】)と呼ぶことができよう。 実際の事実認定がこのように截然と2段階に分かれて行われるかどうかはともかく、厳格な事実認定の要請からすれば、課税要件事実の認定に当たって、私法上の法律関係は専ら私法の観点から認定されるべきであり、その認定に税法独自の観点(税収確保・公平負担のための価値判断)を混入させ反映させてはならない。そうでなければ、帰するところ、真実の法律関係から離れ、経済的実質主義による事実認定を容認することになってしまうからである。   Ⅲ 未経過固定資産税等相当額清算金の性質決定 1 裁判例の立場 課税要件事実の認定に関する以上の一般論を踏まえて、以下では、清算金の課税上の取扱いについて、その基礎となる清算金の性質決定をめぐる契約解釈の問題を検討することにする。 清算金の課税上の取扱いについては、法人税・消費税においても問題になるが(福岡高判平成28年3月25日税資266号順号12833参照。この事件に関する国税不服審判所平成25年8月30日裁決・裁決事例集92集293頁については拙稿「未経過固定資産税等相当額清算金の課税上の取扱い」拙著『税法創造論』(清文社・2022年)716頁[初出・2015年]参照)、ここでは、所得税における不動産所得に係る必要経費該当性について判断した平成26年東京高判を中心に、検討することにする。 平成26年東京高判は、清算金の性質決定をめぐって清算金の定めのある不動産売買契約の解釈について下記のとおり判示しているが(下線筆者)、そこで示された契約解釈に関する考え方は、譲渡所得に係る総収入金額該当性ついて判断した東京高判平成28年3月10日訟月63巻1号70頁や上記の福岡高判においても採用されており、下級審レベルでは裁判例の立場として固まっているとみてよかろう。 2 清算金の支払の基礎にある法律関係 平成26年東京高判の上記判示は、法的実質主義に基づく判断であると解される。というのも、清算金が固定資産の売買契約における合意に基づき支払われるものである以上、その支払の基礎にある法律関係が法形式上は売買契約によるものであることは明らかであるが、このことに加えて、平成26年東京高判は清算金を「実質的には」という観点から固定資産の購入代価の一部として性質決定しているからである。 ここでいう「実質的には」という観点は、その前の説示すなわち「この合意は、固定資産の売買契約を締結するに際し、売主が1年を単位として納税義務を負う固定資産税等につき買主がこれを負担することなく当該固定資産を購入するという期間があるという状況を調整するために個々的に行われるものであること」(下線筆者)に着目するものと解されることからすると、平成26年東京高判は、清算金の支払の基礎には、個々の売買契約における代価の合意に係る個別具体的な判断に基づき形成された法律関係があるという観点から、清算金の性質決定を行うものと解される。 確かに、そのような法律関係が、私的自治の原則に従って形成された「真実の」法律関係であることは明らかである。ただ、それは、清算金の支払の基礎にある法律関係については、形成の結果ないし法形式からみると、確かにそのように(「真実の」と)いえることではあるが、「売主が1年を単位として納税義務を負う固定資産税等につき買主がこれを負担することなく当該固定資産を購入するという期間があるという状況を調整するために」(下線筆者)という形成の動機ないし目的を考慮に入れると、直ちにそのように(「真実の」と)いえるかどうかは、必ずしも明らかでなく、更に検討を要するように思われる。 この点について、平成26年東京高判も次のとおり判示している(下線筆者)。 この判示のうち「直ちに」以下の説示は、前記の「実質的には」という観点から清算金支払の動機・目的について説示するところとは、論理的にも内容的にも整合しないように思われる。というのも、平成26年東京高判は、清算金支払の動機・目的については、前記のとおり、固定資産税等の「負担」を問題にしているのに対して、上記の「直ちに」以下では固定資産税等の「納税義務」を問題にしているからである。固定資産税等の「負担」を問題にするのであれば、上記の判示で参照されている最判昭和47年1月25日民集26巻1号1頁(以下「昭和47年最判」という)を重視して、清算金の性質決定について検討すべきであったように思われる(佐藤英明「判批」TKC税研情報24巻4号(2015年)77頁、84頁、86頁も参照)。 昭和47年最判は、固定資産税に係る台帳課税主義(地税342条1項・2項前段)における「課税上の技術的考慮」を「私法上にも推し及ぼす」(千種秀夫「判解」最判解民事篇(昭和47年度版)1頁、5頁)かどうか、及びそうするとしてどの程度推し及ぼすかという問題を、固定資産課税台帳上の所有者が「真の所有者」と異なる場合における前者から後者に対する不当利得返還請求の成否について検討した結果、その考慮を私法上には推し及ぼさず専ら私法の観点だけからその成否を判断するという考え方(谷口知平「判批」民商67巻3号(1972年)403頁、405頁参照)に親和的な判断を示したものと解される。すなわち、台帳課税主義における「課税上の技術的考慮」から「さらに遡って、固定資産税そのものの[物税としての]性格」(千種・前掲「判解」5頁)をも考慮して「真の所有者が、その物の負担としてのこれら[固定資産税等の]税金を負担すべき考え方」(同頁。以下「真の所有者負担説」という)に基づき、「私法上は、衡平の観点から」(同頁)、その不当利得返還請求の成立を認めたものと解されるのである(以上の理解については、拙稿「判批」別冊ジュリ253号(2021年)・租税判例百選〔第7版〕186頁、187頁参照)。 以上で検討してきたところを踏まえて、固定資産税等の「納税義務」ではなく「負担」を問題にし真の所有者負担説に基づき清算金の性質決定について検討すると、清算金は不当利得の返還金としてその性質を決定するのが相当であるように思われる。 もっとも、清算金のそのような性質決定は、売主が納税義務者として納付した固定資産税等のうち未経過固定資産税等相当額を買主が「負担」する場合におけるその「負担」の動機・目的に着目するものであるが故に、経済的実質主義による性質決定(事実認定)との関係ないし区別が微妙である。このことは、例えば次の見解(佐藤孝一「判批」月刊税務事例47巻7号(2015年)9頁、17頁。下線筆者)の説く「私法上の経済実質的な評価」による清算金の性質決定について、問題になるように思われる。 確かに、法的実質主義のいう「法的実質」は、概念上は、「経済的実質」と全く異質なものと考えるべきではなく、むしろ私法上の法形式の枠内で把握される経済的実質を意味し、私法上の法形式の枠にとらわれることなく専ら経済的観点から把握される経済的実質(いわば「ナマの経済的実質」。これが経済的実質主義のいう「経済的実質」である)とは明確に区別されるべきものである(前掲拙著【57】参照)から、上記の見解も「私法上の経済実質的な評価」として法的実質主義による事実認定を説くものと解することができるかもしれない。 しかし、概念上の区別はともかく、実際上は、「法的実質」と「ナマの経済的実質」との区別や「私法上の経済実質的な評価」の位置づけは微妙であるといわざるを得ない。清算金の性質決定については、固定資産税等の「負担」という動機・目的が売買契約書の中で明示されていれば格別、そうでなければ、そのような区別や位置づけはなおさら微妙であろう。 そうすると、清算金の性質決定については、結局のところ、事案ないし契約内容によって判断が分かれることがあり得るといわざるをえないであろう(前掲拙著【59】、前掲拙稿「判批」187頁参照)。   Ⅳ おわりに 今回は、課税要件事実の認定について、法的実質主義及び経済的実質主義並びに二段階事実認定論を概観した上で、清算金の性質決定をめぐる契約解釈の問題を検討した。 清算金は、平成26年東京高判が説示するとおり、「固定資産の売買契約を締結するに際し、売主が1年を単位として納税義務を負う固定資産税等につき買主がこれを負担することなく当該固定資産を購入するという期間があるという状況を調整する」という動機・目的に基づき合意されるものであるが、固定資産税等の「負担」に関するそのような動機・目的に着目すると、清算金の性質決定は経済的実質主義による事実認定に傾斜してしまうおそれがある。 この点、平成26年東京高判が清算金の支払に関する合意の法形式に着目して清算金を購入代価の一部として性質決定したのは、経済的実質主義による事実認定に対する歯止めとなるという意味では妥当である。 もっとも、固定資産税等の「負担」それ自体については、昭和47年最判の当時でさえ既に、「私的な取引においては、多くの場合、固定資産税等の公租公課の負担を明確に取り決めるか、あるいは代金額に折り込んで取引している」(千種・前掲「判解」5頁)と指摘されていたし、また、平成26年東京高判についても次のような指摘(片山直子「判批」新・判例解説Watch(法学セミナー増刊速報判例解説)vol.17(2015年)257頁、260頁)がみられるところである。 上記のⅢ2における検討に加え、不動産取引の慣行に関するこれらの指摘に鑑みると、清算金の性質決定については、課税要件事実の認定(法的実質主義)の観点からアプローチするだけではなく、むしろ不動産取引の実務において、固定資産税等の「負担」につき真の所有者負担説(昭和47年最判)に基づき、不動産売買契約書(その書式については公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会HP参照)の「公租・公課の負担」条項に、清算金を固定資産税等の「負担」に伴う不当利得の返還金として明文で定めるか又は少なくとも同契約書にその旨の特記事項を記載することができるようにすることも検討すべきであろう。 このようにして固定資産税等の「負担」の動機・目的を契約書上明示することによって清算金の支払に関する契約当事者の意思が明確に表示されることになれば、法的実質主義に基づき清算金を不当利得の返還金として性質決定することに伴う微妙な問題(前記Ⅲ2参照)は解消されることになろう。課税要件事実の認定においても契約書が処分証書として重視されること(前掲拙著【58】参照)を考えると、なおさらである。 (了)

#No. 479(掲載号)
#谷口 勢津夫
2022/07/28

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例112(贈与税)】 「新築マンションの購入につき、贈与年の翌年3月15日までに引渡しを受けていないとして住宅取得資金贈与の非課税特例の適用が受けられなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例112(贈与税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(措法70の2) 平成27年1月1日から令和5年12月31日までの間に、直系尊属から一定の住宅用家屋の新築又は取得等のための金銭の贈与を受け、贈与年の翌年3月15日までに住宅用家屋の新築又は取得等をして同日までに居住の用に供し、又はその後遅滞なく居住の用に供することが確実であると見込まれる場合で、同年12月31日までに居住の用に供し、一定要件を満たす場合には、贈与を受けた金銭のうち以下の金額までは贈与税が非課税となる。 【消費税率10%適用者】 【上記以外の者】 (注) 令和4年1月以降については、新築等に係る契約時期にかかわらず、住宅用家屋の区分に応じ、以下の金額になる。なお、消費税率10%適用者か否かの判定が不要になる。 ◆住宅用家屋の取得の意義(措通70の3-8) 住宅用家屋の取得とは、売主から住宅用家屋の引渡しを受けたことをいうものとする。したがって、いわゆる建売住宅や分譲マンションについては、売買契約が締結されている場合又はこれらの建物が新築に準ずる状態にある場合であっても、その引渡しを受けていない限り住宅用家屋の取得には該当しないことに留意する。 ◆新築に準ずる状態(措規23の6①) 新築に準ずる状態とは、屋根(その骨組みを含む)を有し、土地に定着した建造物として認められる時以後の状態とする。 【贈与年の翌年3月15日の状態による特例の可否】       (了)

#No. 479(掲載号)
#齋藤 和助
2022/07/28

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第46回】「被相続人以外の者が建物を所有している場合の特定同族会社事業用宅地等の特例の適否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第46回】 「被相続人以外の者が建物を所有している場合の 特定同族会社事業用宅地等の特例の適否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲の相続発生に伴い、甲の所有していた土地建物を長男乙が取得した場合には、乙が適用できる小規模宅地等に係る特定同族会社事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 乙は甲と生計を一にしていた者に該当し、A社(相続開始の直前において100%の株式を乙が保有しています)の代表取締役として飲食店を経営しています。 甲が所有していた土地建物の相続発生前の利用状況は、下記のとおり、1階部分は乙が経営しているA社の飲食店の事業で使用しており、2階部分は甲と生計を別にする被相続人の兄である丙とその内縁の妻・丁が居住しています。 土地は被相続人が100%所有していますが、建物は、甲が10分の4、乙が10分の1、丙が10分の3、丁が10分の2を所有しています。 甲は建物所有者から地代を収受していません。建物所有者は、A社から周辺相場程度の家賃を収受していますが、丙・丁の居住部分からは賃料は収受していません。 【相続発生前】 [A] 小規模宅地等に係る特定同族会社事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の適用面積は、60㎡(200㎡ × 120㎡/200㎡ × 5/10)となります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲 特定同族会社事業用宅地等の要件については、前回解説していますが、「法⼈の事業の⽤に供されていた宅地等であること」が要件の1つとなっています。 租税特別措置法関係通達69の4-23(法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲)では、下記のとおり定められています。 租税特別措置法関係通達69の4-23(法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲) (下線部は筆者による) 〔上記(1)について〕 被相続人の有する宅地等の上に特定同族会社が建物を有する場合に相当の対価で貸付けを行っている場合が該当します。宅地等の貸付けが事業に該当する場合に限るとされており、事業には準事業(事業と称するに⾄らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に⾏うもの)が含まれていますので、その貸付けが相当の対価を得て継続的に行われていることが必要となります。 したがって、宅地等の貸付けが使用貸借である場合には、特例の対象にならないことになります。 〔上記(2)について〕 被相続人の有する宅地等の上に被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族が建物を有する場合に相当の対価で建物を特定同族会社に貸付けを行っている場合が該当します。建物の貸付けが事業に該当する場合に限るとされており、事業には準事業(事業と称するに⾄らない不動産の貸付けその他これに類する⾏為で相当の対価を得て継続的に⾏うもの)が含まれていますので、建物の貸付けが相当の対価を得て継続的に行われていることが必要となります。 一方で被相続人の有する宅地等の上に被相続人の生計一親族が建物を有する場合には、被相続人から無償で借り受けていることが前提となります。この場合における無償には、相当の対価に至らない程度の対価の授受がある場合を含みます(措通69の4-4)。民法上の使用貸借の場合には、借主は、通常の必要費を負担することになっています(民法595)ので、固定資産税その他の通常の必要費について借主が負担していたとしても、通達の「無償」に含めて考えることになります。 したがって、被相続人の有する宅地等の上に被相続人の生計一親族が建物を有する場合には、使用貸借であることが前提となりますので、土地が賃貸借である場合には、特例の対象にはなりませんが、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例に該当する可能性はあります。 また、建物所有者は被相続人又は被相続人の生計一親族に限られている点には注意が必要です。特定事業用宅地等の場合には、【第16回】で解説のとおり、生計一親族以外の親族もその範囲に含まれていますが、特定同族会社事業用宅地等の場合には、生計一親族以外の親族はその範囲に含まれておらず、より厳格な要件となっています。 以上をまとめると、被相続人が有する宅地等の上に被相続人以外の個人が建物を有する場合には、下記の要件を満たす必要があります。 なお、上記の取扱いは、相続開始の直前において配偶者居住権が設定されていない場合が前提となります。配偶者居住権が設定されている場合には、上記の通達(注2)の読み替えに基づき特例の適否を判断することになります。   2 本問への当てはめ 本問の場合には、法人に貸し付けられていた宅地等ではありませんので、上記の租税特別措置法関係通達69の4-23(2)に該当するか否かを判断することになります。 1階部分はA社の事業用宅地等ですが、2階部分は丙・丁の居住用宅地等に該当しますので、まず土地の面積を床面積で按分する必要があります。そうするとA社の事業用宅地等の面積は120㎡(200㎡ × 120㎡/200㎡)となります。 土地は使用貸借であり、建物利用者であるA社が建物所有者から賃貸借により借り受けていますが、丙は生計別親族であり、丁は被相続人の親族ではないため、それぞれが所有する10分の3及び10分の2部分については、特例の対象にはなりません。したがって、A社の事業用宅地等の面積の10分の5部分である60㎡(120㎡ × 5/10)が特例の対象になります。 なお、土地は使用貸借ですが、仮に賃貸借である場合には、被相続人の貸付事業用となり、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例対象に該当する可能性があっても、特定同族会社事業用宅地等の特例対象にはなりません。   ★実務上のポイント★ 被相続人以外の個人が建物を有している場合には、被相続人又は被相続人の生計一親族が建物を所有することが要件となりますので、建物所有者が生計別親族や親族でない場合には、相続発生前に持分を買い取り、要件を整理することも必要となります。   (了)

#No. 479(掲載号)
#柴田 健次
2022/07/28

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第19回】「固定資産税の課税標準である土地の価格は収益還元法に基づくか否かで争われた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第19回】 「固定資産税の課税標準である土地の価格は 収益還元法に基づくか否かで争われた事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の課税標準となるものは 固定資産税の課税標準となるものは、土地の場合は、賦課期日における価格で土地課税台帳もしくは土地補充課税台帳に登録されたものとするとされている(地法349①)。 固定資産の価格は、固定資産評価基準によって決定しなければならないとされている(地法403①)。つまり、「固定資産評価基準は、一種の委任立法であり、補充立法である」(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)794頁。 これは相続税法の財産評価基本通達とは異なる。相続税法においては、配偶者居住権等一定の財産については、相続税法上で評価方法が定められている。また、「その他の財産についてはその評価はすべて解釈・適用にゆだねられている」(※2)として財産評価基本通達で定められているが、これはあくまでも課税庁側の内部通達であり法令ではない。しかし、実務上は、財産評価基本通達に基づいて運用が行われている。 (※2) 金子前掲(※1)書734頁。 では、この固定資産評価基準に基づく土地の価格は何に基づいているのか。これは、「売買実例価額を基に算定した正常売買価格を基礎として、地目別に定められた評価方法により評価」(※3)される。 (※3) 一般財団法人資産評価システム研究センター「令和3年度 固定資産税のしおり」12頁。 しかし、固定資産を所有していることから毎年課される固定資産税について、売却を前提とした価格に基づいて課税されるのは問題ではないか。このようなことから争われた事案について、今回は検討する。   ▷事案の概要と主たる争点は 東京都渋谷区の土地355.09㎡及び50.24㎡の平成9年度の土地課税台帳に登録された価格が合計8億8,700 万8,760円であるのは、適正な時価(4億7,140万円)を上回るとして、先代が審査申出をしたが平成10年3月24日に棄却され、その相続人のXが取消しを求めて訴えたものである。 主たる争点は、固定資産税の課税標準となる賦課期日における土地の価格は、収益還元法に基づくか否かである。   ▷地裁の判断は 地裁は、土地の適正な価格は収益還元価格に基づく4億7,140万円であると認定した上、登録価格が賦課期日における対象土地の時価以下でないときはその限度で登録価格の決定は違法となり、この違法事由の存在は、本件決定の全部の取消事由になるとして、Xらの請求をすべて認容した。 この判決に不服な東京都固定資産評価審査委員会が控訴した。   ▷高裁の判断は 高裁も、Xの請求をすべて認容し、登録価格について3億8,929万9,728円と5,489万2,532円(合計4億4,419万2,260円)を超える部分について取り消すと判断した。 固定資産税の課税対象である土地の評価は、その制度本来の趣旨からして、土地の収益力を資本還元した価格(収益還元価格)を上限とすべきである。固定資産税は、物税で、資産の保有継続を前提にしているから、その年度の標準的な収益で支払うことが予定されており、所有者がその他の所得や貯蓄を取り崩して支払うことが予定されているものではない。よって、収益還元価格を超えて定めた土地の登録価格は、金額を超える部分において違法であるとした。 そして、この判決に不服な東京都固定資産評価審査委員会が上告した。   ▷最高裁の判断は 最高裁は、東京都固定資産評価審査委員会の敗訴部分を破棄し、東京高等裁判所に差し戻した。 固定資産税は、土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって、個々の土地の収益性の有無にかかわらず、その所有者に対して課するものであるから、その課税標準とされている土地の価格である適正な時価とは、正常な条件の下に成立する土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値と解される。平成9年1月1日における客観的な交換価値を確定することなく、収益還元価格を超える部分を取り消すべきものとした原審の判断には、法令の違反があり、敗訴部分は破棄を免れない。そして、土地の価格が客観的な交換価値及び評価基準によって決定される価格を上回るものでないかどうかについて審理を尽くすために原審に差し戻すとした。   ▷高裁(差戻し審)の判断は 差戻し審は、固定資産評価基準にしたがって算定した登録価格が適正な時価を上回るものではないとして、原判決を取り消した。すなわち、鑑定評価による収益還元価格を時価とは認めないとした。 固定資産税の課税標準は土地の適正な時価、つまり客観的な交換価値である。固定資産税における固定資産の評価は、自治大臣の告示である評価基準に委ね、市町村長は、評価基準によって、固定資産価格を決定しなければならないとされている。 本件土地については、評価基準の市街地宅地評価法に基づいて算定している。市街地宅地評価法が適正な時価への接近方法として合理的で、合理性を欠くという事情は見当たらない。本件画地の評価は評価基準等に適合するものというべきだから、適正な時価を超えないものと推認することができる。 鑑定評価額が適正な時価であり、登録価格が適正な時価を上回るような特別の事情に当たると主張するが、評価基準等自体が違法であるなど評価基準によって適正な時価を算定することができない特別の事情がない限り、評価基準等に従って算定された価格は適正な時価として推認される。鑑定評価という事柄の性質上、評価する者の個人差による評価の不均衡が不可避であり、個別鑑定による評価額を根拠として特別の事情に当たるということはできないとした。 *   *   * このように固定資産税においては、収益還元価格に基づく評価は認めないと判断された。固定資産税の本質を考えると収益還元法も合理的であるが、将来の収益という不確定な数字に基づいて課税標準を算定すると、課税の公平が保てないことから難しいと判断したのだろう。 (了)

#No. 479(掲載号)
#菅野 真美
2022/07/28

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第83回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第83回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     〈Q8〉 引渡基準と管理支配基準 平成30年度改正前は、権利確定主義のほかに、法人税法における収益の計上基準として、利得が利得者の管理支配の下に入った場合に所得として実現したものとする管理支配基準が採用されているという見解があった。この管理支配基準と引渡基準との関係はどのように考えるべきか。 〈A8〉 引渡基準を管理支配基準と調和的に解することができるか否かについて、議論の余地があると考えている。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 収入の原因となる権利の確定した日に収益を計上する権利確定主義は、大体の場合を律しうる原則的基準として妥当性を認められるべきであるが、すべての場合に妥当しうるわけではなく、それが妥当しえない例外的な場合がある。その場合には、代わりに、利得が利得者の管理支配の下に入った場合に所得として実現したものとする管理支配基準を適用すべきである。 管理支配基準は色々な場合に適用しうるが、それが租税法律関係を不安定にするおそれがあることは否定できないため、厳格な要件の下に、例外的な場合にのみその適用が認められるべきであり、この中には、権利の確定がそもそも考えられないケース(無効な利得のケース)と、権利確定主義が取引の状況に適合しないケース(農地の譲渡につき知事の許可が遅れたケース等)とが考えられる(金子宏「所得の年度帰属―権利確定主義は破綻したか―」『所得概念の研究』302~304頁(有斐閣1995)〔初出1993〕参照)。 法人税法22条の2第1項の引渡基準は、両ケースをカバーし、この管理支配基準を包摂する可能性がある。つまり、両ケースにおいても引渡基準がそのまま適用される可能性があるということである。 しかしながら、違法薬物の売買取引や暴利行為とされる売買取引など契約が無効になりうるケースについてまで、引渡しはあるものの未収の段階で収益計上することを法人税法22条の2第1項は要請するものなのか、そのような課税は妥当かという問題もある。 所得税法に係る事件であるが、制限超過利息・損害金に対する課税の許否が争われた事件において、最高裁昭和46年11月9日第三小法廷判決(民集25巻8号1120頁)は次のとおり判示している。 その後、旧法人税法の事件であるが、最高裁昭和46年11月16日第三小法廷判決(刑集25巻8号938頁)は、「利息制限法所定の制限を超過する利息・損害金については、約定の履行期が到来しても、なお未収であるかぎり、旧法人税法9条にいう『益金』に該当しない」と判示している。 違法薬物の売買取引や暴利行為とされる売買取引など契約が無効になりうるケースまでも、引渡し済み、かつ、未収の段階で、収益計上を要請することになる法人税法22条の2第1項の引渡基準は、この限りにおいてその妥当性を問う余地がある。 このようなケースでは管理支配基準の適用が妥当であると解するならば、例えば、引渡基準を管理支配基準と調和的に解するアプローチも考えられるが、法人税法22条の2第1項の「目的物の引渡し」又は「役務の提供」という語から管理支配基準のような考え方を読み取ることができるかなど、議論の余地がある。 解釈論の限界線をどこに引くかという難しい問題が待ち受けている。 (了)

#No. 479(掲載号)
#泉 絢也
2022/07/28

〔今こそ確認したい〕サステナビリティ及び気候関連開示の現状 【第1回】「開示の現状と参考となる公表情報」

〔今こそ確認したい〕 サステナビリティ及び気候関連開示の現状 【第1回】 「開示の現状と参考となる公表情報」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 昨今、非財務情報(サステナビリティ、気候関連等)の開示を重視する機関投資家が増えているため、世界的にサステナビリティ及び気候関連の開示が進んでいる。 また、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則3-1③では、プライム市場の上場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実を求めている。 「サステナビリティ関連の開示」とは、地球環境等への配慮や社会システムの変化を踏まえ、中長期に渡って良好な経済活動を維持し続けるにあたって、想定されるリスク及び企業の対応等を開示することをいう。 「気候関連の開示」とは、気候関連に関するリスク及び企業の対応等を開示することをいう。 このような中、2022年3月31日に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)から、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」(以下、「S1号」という)及びIFRS S2号「気候関連開示」の公開草案(以下、「S2号」という)が公表された。 また、日本でもS1号及びS2号の開示を検討するために、2022年7月1日に公益財団法人財務会計基準機構内に、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が設立されている。そのため、日本でもサステナビリティ及び気候関連の開示が今後求められることが想定される。 今、各社が行う対応としては、情報収集が重要であると考えられる。そこで、今回から3回にわたって、サステナビリティ及び気候関連開示の概要を解説する。   Ⅰ 現状のサステナビリティ及び気候関連の開示 1 サステナビリティ関連開示 現状、サステナビリティ関連の開示としては、以下の基準などを参考に開示していると考えられる。 (1) GRIスタンダード GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)は、1997年にボストンで設立された団体である。GRIは、2016年にGRIスタンダードを公表している。 「GRIスタンダード」とは、会社が経済、環境、社会に与える影響を報告し、持続可能な発展への貢献を説明するためのフレームワークである。 そして、GRIは2021年10月5日、共通スタンダードの改訂版、及び石油・ガスのセクター別スタンダードを公表しているが、現時点では日本語訳は公表されていない。 なお、GRIスタンダードの開示事項(日本語)については、以下の会社のWebページが参考となる。 (2) 国際統合報告フレームワーク IIRC(International Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会))は、2010年に設立され、2013年に、統合報告書の作成に係る指導原則や内容要素をまとめた「国際統合報告フレームワーク(The International〈IR〉Framework)」を公表している。日本語訳も公表されている。 国際統合報告フレームワークの特徴は、以下のとおりである。 (3) SASBスタンダード SASB(Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会))とは、サンフランシスコに設立された団体である。2018年11月に11セクター77業種について情報開示に関するスタンダードを作成し、公表している。日本語訳も公表されている。 SASBスタンダードでは、企業のサステナビリティを分析する視点として、以下のとおり、5つの局面(Dimension)と、それに関係する26の課題カテゴリー(General Issue Category)を設定している。 (出所:日本取引所グループ「SASB(Sustainability Accounting Standards Board, サステナビリティ 会計基準審議会)スタンダード」) SASBスタンダードの開示事項(インターネットメディア&サービス業界)については、以下の会社のWebページが参考となる。 2 気候関連開示 金融安定理事会(FSB)は、2015年12月に民間主導の「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)」を設置し、2017年6月に、年次の財務報告において財務に影響のある気候関連情報の開示を推奨する報告書が公表された。また、2021年10月に一部改訂が行われている。 日本では、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにより、プライム市場の上場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実が求められている。 TCFDでは、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することが推奨されている。 (出所:日本取引所グループ「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures,TCFD)提言」) TCFDの開示事項については、以下の会社のWebページが参考となる。   Ⅱ 公表されている情報 上記Ⅰで記載した情報以外にも、サステナビリティ及び気候関連開示について、以下のとおり様々な情報が開示されていることから、参考にされたい。 ◆公表されている主な情報◆ (注) 上記は主な情報を記載しており、公表されている情報を網羅しているわけではない。 (了)

#No. 479(掲載号)
#西田 友洋
2022/07/28

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第1回】「本連載の狙いと“注記の全体像”」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第1回】 「本連載の狙いと“注記の全体像”」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   ◆連載開始にあたって◆ 近年、上場会社を中心に有価証券報告書や計算書類の注記が毎年のように改正され、注記の量もさることながら、注記する内容も自由度が高くなってきていることで、開示担当者からは「何を書けばいいの?」「どこまで書けばいいの?」という悲鳴を聞くことが多くなりました。 そもそも注記は、注記する事項は定められているものの、実際に記載する場合の文章や開示内容の詳細さ・明瞭さは企業によって差があるのが実情で、それだけに担当者は困ってしまうことが多い分野といえるでしょう。 そこで、本連載では計算書類の個別注記表(連結計算書類の連結注記表)において開示担当者が作成に困ってしまいそうな注記事項に焦点を当てて、注記事項を解説していきます。 こんな声が聞こえてくる気がします。この連載で計算書類の個別注記表(連結計算書類の連結注記表)に焦点を当てる理由は、主に次の2つです。 ➤有価証券報告書に比べて、計算書類の個別注記表は検索しにくく、他社の注記の実例を調べにくい。 ➤計算書類の個別注記表について手短にまとめられたサイトが少ない。 連結注記表・個別注記表について手軽に概要を掴めるような情報を提供したい、そんな思いで連載を書いていこうと考えています。 なお、この連載では会計監査人設置会社の開示担当者を読者層として想定し作成していきます。そのため、会計監査人を設置していない会社にとっては”お手軽”な内容になっていないかもしれません。その点、あらかじめご了承ください。 *  *  * 〇 注記の全体像 今回は第1回目ですので、いきなり各論に入るのではなく、まずは注記の全体像を説明し、第2回目から各論に入っていきたいと思います。 会計監査人設置会社であり、かつ、大会社であって有価証券報告書の提出義務のある会社の2021年4月1日以後開始する事業年度の個別注記表で作成が求められる注記は次のとおりです。 (※) 会社計算規則第98条第1項より抜粋。 連結計算書類や連結注記表を作成する場合には、個別注記表における注記を省略できるものも含まれていますが、会計監査人設置会社の場合、概ね上記の注記の作成が必要となります。 *  *  * 第2回目以降の連載では、上記の注記をテーマにQ&A形式で実際の注記例を紹介しながら、どのように注記を作成すればいいかを説明していきます。 第2回となる次回は、「収益認識に関する注記(収益の分解情報)」をテーマに解説します。   (了)

#No. 479(掲載号)
#竹本 泰明
2022/07/28

〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第6回】「グループ会社に内部統制報告制度を導入する際の留意事項」~コロナ禍を経た変化とは~

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第6回】 「グループ会社に内部統制報告制度を導入する際の留意事項」 ~コロナ禍を経た変化とは~   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 コロナ禍で培った情報技術によるノウハウを最大限活用(のグループ会社) 国内外問わず、人の物理的な移動制限が2年以上に及んだ結果、オンラインを活用した情報交換手段が飛躍的に普及したことは周知の通りである。テレワーク、リモート会議、オンライン研修や監査まで我々は物理的な移動をせず、低コストで事業の目的を達成するための様々なノウハウや工夫、手段を開発してきた。こうした情報技術の活用やノウハウを、移動制限が解除されたからといってすっかりなくしてしまうような対応は、決して賢明ではない。 これまでオンラインで代替が難しかった事項が、リアルによる対応によって可能となったことは、もちろん好ましいことではあるが、他方で情報技術を活用したノウハウをフル活用できる事項は、リアルと並行し有効に活用し続けるべきである。特に海外向けに制度を導入する時は、まず渡航の必要性があるかどうかを十分に吟味し、オンライン会議やインターネットを活用した撮影映像等のノウハウを用いて解決できる事項は、それらを有効活用すべきである。 例えば、制度の概要説明、内部統制文書の作成指導、文書内容の確認や整備状況の評価であれば、あえて国内外の拠点には赴かず、オンライン会議や現地を撮影した映像や写真、PDF等を活用することができる。また評価の対象サンプルが、整備状況の評価に比べて増加する運用状況の評価であっても、本社の特定サーバーにサンプル等を送信、保管することで、対応できる事項を選び出し、出張者の人数を絞り込めば、出張費の大幅削減や業務の効率化に効果を上げることが可能になる。   2 コロナ禍で増加した第三者への業務委託の対応に注意(のグループ会社) 長引くコロナの影響のためか、グループ会社で社内業務を外部に委託するケースが増加傾向にある。製品の配送を自社で行っていた会社が、感染予防とコスト削減のため、倉庫からの製品出荷、配送とそれに伴う顧客への請求業務を外部業者に委託する。あるいはテレワークの導入で、思い切って社内の管理業務を圧縮しようと、給与計算を専門業者に外注するグループ会社も増えている。こうした外部の専門業者を使った業務の委託は、社内業務と切り離された外部への委託業務であることから、内部統制報告制度の枠外であると考えがちだが、それは誤りである。 たとえ委託した業務であっても、製品出荷の確認、請求に伴う売上の計上、給与計算の正確性や網羅性の検証は、依然として財務報告の信頼性を担保するための重要なコントロールである。そのため、結論的には委託元で適切に管理することが求められる。では、どのようにして内部統制文書として管理すべきだろうか。 (1) 委託元企業の内部統制文書を使って管理する 例えば、給与計算の業務委託であれば、委託先から委託元に提出された給与計算の結果のうち、一定数の計算結果を無作為にサンプルとして抽出して再計算を試み、正確性を確認する。もちろん全件を再計算する必要はない。無作為抽出か、給与金額に応じて段階を設けてサンプルの抽出をして、検査してもよい。こうした計算結果の検証作業を内部統制上重要なコントロール(キーコントロール)として位置づけ、自社の内部統制文書に表し、毎期の評価を行う。一方、具体的に給与計算を行う手続は、委託先の問題であり、委託元として文書に書き表す必要はない。 (2) 委託先の内部統制評価の結果を活用する 委託先が、受託した業務について専門家による評価を受け、その結果を示す報告書を委託元が入手して自社の評価に代替することができる。この報告書は、正式には「受託業務に係る内部統制の保証報告書」といわれ、日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会実務指針第86号に基づき作成される。しかし、専門家による保証報告書の作成は有償であり、コストを要するため、なるべくなら上記(1)の方法で、自社のキーコントロールとして管理、評価することが望ましい。 (3) 業務の委託先に赴いて評価をする 委託元が委託先に赴いて評価を直接する方法もある。しかし、たとえそれができたとしても、評価範囲はかなり限定される。例えば、給与計算を委託した場合、委託先に具体的な計算手続やそれに用いるシステムに関する情報を開示することには抵抗があり、委託元による直接評価の実施に同意したがらないケースが多い。たとえ同意してもその範囲は相当限定されよう。こうして結論的に、委託元が委託先に赴き、直接に評価することは推奨できないのが現実である。   3 EU公益通報者保護指令に基づく公益通報者保護制度の導入(のグループ会社) これまでフランスでは、個人情報の保護や労働法上の労働者保護の観点から、内部通報制度の導入は自由を侵害する恐れがあり、長く困難視されてきた。筆者もかつて、全社的な内部統制の評価項目の一環として、内部通報制度をフランスのある事業所に導入しようと試みたが、断念せざるを得なかった。しかしEU公益通報者保護指令の成立によってこの状況は一変した。 (1) EU公益通報者保護指令の成立 EUにおける脱税、マネーロンダリング、贈収賄、汚職、データ保護違反を取り締まるため、これを知った者からの通報を求め、通報した者の利益を保護するEU公益通報者保護指令が2019年に成立した。指令によればEU加盟国は、原則2021年12月17日までに公益通報者制度を国内法として整備することが求められた。更に、現在、従業員50名以上249名以下の事業所では、内部統制報告制度の適用の有無にかかわらず、2023年12月17日までに内部通報制度を社内に導入しなければならない。 (2) 社内における内部通報制度の整備 こうしてEU加盟国に進出した従業員50名以上249名以下の日系企業のうち、これまで内部通報制度の導入をひかえてきた会社や初めて事業を開始する会社は、導入による対応を急がねばならない。もし事業所が小規模で、社内に通報窓口を立ち上げるのが現実的でなければ、海外に拠点を持つ日本の弁護士事務所に通報窓口を委託し、本社に直接通報内容を和文で報告してもらうことも可能である。 *  *  * なお、参考までに、金融庁公表の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」では、財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例の1つとして、下記が示されている。 (了)

#No. 479(掲載号)
#打田 昌行
2022/07/28

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第8回】「新設された不動産所有者の死亡情報を登記記録へ反映させる制度の概要と注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第8回】 「新設された不動産所有者の死亡情報を登記記録へ 反映させる制度の概要と注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行      【Q】 新たに創設された不動産所有者の死亡情報を登記記録に反映させる制度について教えてください。 【A】 法務局の登記官は、不動産の所有者が死亡した場合、職務上の権限により、登記記録に死亡を示す符号を表示することができるようになった。 -《解説》- これまでは、不動産の所有者が死亡しても、その相続人等の申請に基づき相続登記がされない限り、所有者が死亡した事実を登記記録から読み取ることはできなかった。 そのため、公共事業(例:東日本大震災の被災地における高台移転事業等)や民間の土地開発事業の計画段階において、登記記録のみから候補地の所有者の死亡を知ることができず、取得にかかる手間やコストを計算できないことが問題とされてきた。 この問題に対処するため、法務局の登記官は、住民基本台帳ネットワークシステム等の他の公的機関から不動産の所有者が死亡した情報を取得した場合、職務上の権限により、登記記録に死亡を示す符号を表示することができるようになった(不動産登記法76条の4)。その結果、相続登記がなされていなくとも、登記記録を見れば不動産の所有者の登記名義人が死亡しているかどうか把握可能となった。 また、このように法務局の登記官が、相続の発生を不動産登記に反映させるための方策をとる前提として、次のような仕組みが採用された。 (※) 法制審議会民法・不動産登記法部会第16回会議(令和2年8月4日開催)「部会資料38 不動産登記法の見直し(2)」9頁参照。 (了)

#No. 479(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/07/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例73】株式会社サン・ライフホールディング「特別損失の計上及び2023年3月期連結業績予想の修正に関するお知らせ」 (2022.5.27)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例73】 株式会社サン・ライフホールディング 「特別損失の計上及び2023年3月期連結業績予想の修正に関するお知らせ」 (2022.5.27)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社サン・ライフホールディング(以下「サン・ライフホールディング」という)が2022年5月27日に開示した「特別損失の計上及び2023年3月期連結業績予想の修正に関するお知らせ」である。 同社は、同日、この開示と併せて「退任取締役への特別功労金贈呈に関するお知らせ」を開示し、2022年6月24日開催予定の定時株主総会の終結のときをもって退任する代表取締役会長の竹内恵司氏(以下「竹内氏」という)に対して特別功労金360百万円を贈呈するとしている。今回の開示は、その特別功労金を特別損失として計上するため、2023年3月期の連結業績予想を修正するという内容である。 なお、同社が修正前の2023年3月期連結業績予想を公表したのは、18日前の5月9日に開示した「2022年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」においてである。その際、「代表取締役の異動に関するお知らせ」も併せて開示し、そこで竹内氏の退任について公表している。 竹内氏に対する特別功労金贈呈は5月9日時点では決まっておらず、それから18日後の27日までの間に急に浮上した話のようである(仮にそうした話が出ていながら、5月9日に業績予想を開示したのだとしたら、かなり問題である)。   2 黒字から赤字に こうした特別功労金贈呈に関する開示は、2022年になってから本稿執筆時点(2022年7月10日)までの間で、サン・ライフホールディングの他に3社が行っている。 順にみていくと、まず株式会社サンリオが3月15日に「特別功労金の贈呈およびそれに伴う特別損失の計上に関するお知らせ」を開示し、特別功労金300百万円を2022年3月期に特別損失として計上するとしている。5月13日に開示した「2022年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」によると、それを計上したうえでの連結の最終利益は3,423百万円である。 次に株式会社オービックは4月21日に「創業者特別功労金の贈呈に伴う特別損失の発生に関するお知らせ」を開示し、特別功労金360百万円を2022年3月期に特別損失として計上するとしている。同日に開示した「2022年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」によると、それを計上したうえでの連結の最終利益は43,500百万円である。 最後にタビオ株式会社は6月8日に「特別功労金の贈呈に伴う特別損失の計上に関するお知らせ」を開示し、特別功労金79,900 千円を2023年2月期に特別損失として計上するとしている。4月11日に開示した「2022年2月期決算短信〔日本基準〕(連結)」によると、2023年2月期の最終利益の予想値は260百万円とされている(6月8日の開示では「2022年4月11日公表の2023年2月期における連結業績予想に織り込み済み」とされており、なぜ4月11日に特別功労金贈呈に関する開示を行わなかったのか、疑問である)。 それに対して、サン・ライフホールディングは、特別功労金360百万円を特別損失に計上することにより、2023年3月期の最終利益の予想値を270百万円から△90百万円に修正している。同社の場合、他の3社と異なり、特別功労金360百万円が業績に与える影響は決して軽微とはいえない。 なお、今回の開示には、「既に積立済みの役員退職慰労金とは別に」特別功労金を贈呈すると記載されている。「退任取締役への特別功労金贈呈に関するお知らせ」にその役員退職慰労金の額が記載されているのだが、200百万円である。   3 少数株主にとって不利益ではない? 竹内氏はサン・ライフホールディングの支配株主である。同社が2022年3月9日に開示した「コーポレートガバナンス報告書」によると、竹内氏は近親者等と合わせて同社の議決権を50.43%所有している。今回の開示には、特別功労金贈呈は株主総会の「承認を得ることを前提として」いると記載されているのだが、竹内氏が支配株主であるため、株主総会では必ず承認されるのである。 同社は、2022年6月27日に「臨時報告書」を開示し、今回の特別功労金贈呈が付議された株主総会の結果を公表している。当然、特別功労金贈呈の議案は承認されたものの、すべての議案の中で反対数が最も多かった。「退任取締役への特別功労金贈呈に関するお知らせ」には、竹内氏の「長年にわたる当社グループへの多大な功績と在任中の労に報いるため」、同氏に対する特別功労金贈呈を決議したと記載されているが、どうしてもお手盛りの決定に見えてしまう。 批判をかわす必要があると思ったのだろうか。「退任取締役への特別功労金贈呈に関するお知らせ」には、「支配株主と利害関係を有しない社外取締役のみで構成される『支配株主との重要な取引等に係る特別委員会』を設置し、同委員会から『当該取引が少数株主にとって不利益でないことに関する支配株主と利害関係のないものからの意見書』を入手」したと記載されている。しかし、「支配株主と利害関係を有しない社外取締役」といっても、竹内氏の意向次第で決まる株主総会で選ばれた取締役である。本当に竹内氏の意向を無視した判断ができるのだろうか。 「退任取締役への特別功労金贈呈に関するお知らせ」には、その意見書の概要も記載されている。その最後は、「特別功労金支給による企業価値の向上について」として、次のように記載されているのだが、これを理解するのは難しい。 同社の説明を聞いて納得することができた少数株主はいないのではないだろうか。竹内氏の在任年数が示されているだけで、金額の算定根拠も明確ではない。以前から予定されていたことならばともかく、今回のように業績予想を短期間で黒字から赤字に覆すような決定は、少数株主にとって利益であるとは決していえないはずである。特に2022年5月9日に業績予想が開示された後、5月27日に修正されるまでの間に同社の株式を取得した株主には「騙された」といわれても仕方ないだろう。 (了)

#No. 479(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/07/28
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