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さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第77回】「稚内市過納金還付請求事件」~最判令和3年6月22日(民集75巻7号3124頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第77回】 「稚内市過納金還付請求事件」 ~最判令和3年6月22日(民集75巻7号3124頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 477(掲載号)
#菊田 雅裕
2022/07/14

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第15回】「請求人面談の留意点(その1)」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第15回】 「請求人面談の留意点(その1)」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 請求人面談は事件審理のヤマである 原処分が取り消されるか否かを争っている審査請求人にとって、一連の審理手続のうち、今回から2回にわたって解説する「請求人面談」が最大のヤマであるといえるだろう。 たとえ担当審判官が法と証拠に基づいて判断するといっても、担当審判官の請求人に対する印象が「答述内容の信頼性」に微妙な影響を与え、最終的には審理判断を左右するかもしれないからである。 一方、請求人を迎える担当審判官としても、余程複雑な事件でない限りは、この1回で面談を完結させたいと考えているし、お互いに予定を合わせて面談の機会を確保したからには、その成果物である「質問調書」の録取まで終えたいと願っている。 いずれにせよ、担当審判官に対して請求人の回答したい内容を満足に伝え、かつ、悪い印象を与えないようにするためには、これから経験することの概要をあらかじめ把握しておいた方が良いし、税理士・公認会計士が就任することが多い代理人としては、そもそも請求人は国税職員による質問調査にナーバスであることを踏まえて、請求人を不安にさせないように適切にリードすべきだろう。   2 面談のお知らせ (1) 可能な限り対応すること 担当審判官が請求人面談を行いたい場合、まずは、請求人(代理人)に対して、その申出を受諾するか否かの意思確認が行われる。 請求人の状況(病気療養中や長期出張中など)によっては、面談によらずに書面で回答を得る形に変更になることもあるが、特に証拠固めのための質問事項は、本人に直接その場で回答してほしい(そうした方が証拠力の向上が期待できる)ことから、可能な限り担当審判官の求めに応じた方が良い。 特段の理由もなく請求人面談に対応しないことは、権利救済を求めているはずの請求人が消極的な態度を示していると捉えられ、審理手続に良い影響を与えることはないだろう。 (2) 「面談のお知らせ」の様式 日程が確定すると、改めて書面で「面談のお知らせ」が送達される。これに当日の質問事項を概括的に記載した書面が添付されることがある。 事案によっては質問事項の送付を行わないケースもあるが、請求人(代理人)としては質問事項が予告されていた方が事前に準備できるため、「概括的な記載でも良いから事前に質問事項を予告されたい」旨を担当審判官に要請した方が良いだろう。 (3) 対応時間 筆者の経験上、面談は午後の早い時間帯から開始するケースが多かったが、丸1日を要すると見込んでいる場合には、午前中に開始され、昼食休憩を挟んで午後にも実施されることがある。 ここで、「回答する内容は事前に用意してあるから、(上記の例の場合)3時間30分も要するはずがない」と判断して別の予定を入れることは避けた方が良い。理由は、担当審判官は、請求人による口頭の答述を文章に起こし、それを「質問調書」にとりまとめることに時間を必要とするからであり、ひと通りの答述が終了しても解散にはならないからである。   3 質問事項の検討と回答案の作成 (1) 質問内容は主張確認か証拠収集か 担当審判官が質問事項を事前に予告する場合には、以下のいずれか一方又は双方の内容が含まれる。 (2) 事前の質問事項が詳細に書かれていない理由 担当審判官としては、以下のケースを想定して敢えて概括的な内容にしていることがある。 (3) 担当審判官の着眼点を窺う 主張確認のための「求釈明事項」、主張を裏付ける証拠収集としての「質問事項」のいずれにせよ、担当審判官は闇雲に質問内容を設定しているのではないと心得るべきである。 特に、口頭による回答を文章に起こす作業にかけるエネルギーを踏まえれば、質問内容は事前に参加審判官を含む合議体や法規審査担当者と綿密に打ち合わせていて、その事件において想定する判断プロセスに当てはまるように(換言すれば、想定する判断プロセスに必要な答述を得たいがために)質問順を含めて質問内容を厳選している可能性もある。 そうすると、質問内容に対する回答を考えることのみならず、「その質問を敢えて織り込んだことによる担当審判官の意図」を想定するといった視点で、質問内容自体を検討する必要があるだろう。   4 質問採取開始前の注意事項 (1) 自己紹介 初対面の場合、面談室で顔を合わせると、まず担当審判官をはじめとした国税不服審判所側の参加者の自己紹介がある。 そして、代理人が選任されていない事案(本人審査請求)や代理人が税理士・弁護士等でない場合(例えば、高齢の請求人につき親族を代理人としているケースなど)には、国税不服申立制度の概要と今後の進行について説明を受けることがある。 (2) 人定質問 質問採取手続の冒頭で、答述者は氏名・生年月日・職業・住所などを聞かれる。税務調査の「質問応答記録書」においても同様であるが、まるで取調べを受けているような気分になり、それだけで不満を述べる者もいなくはないため、このような形式的な手続があることをあらかじめ請求人に伝えておいても良いかもしれない。 (3) 録音許可は得られない 請求人が以下のような動機から「面談内容を録音(録画)したい」と申し出たとしても、担当審判官はそれを許可することはない。 国家公務員法上、国家公務員には秘密を守る義務が課せられている。行政不服審査は訴訟と異なり原則として非公開であるため、請求人の後日の行動によって審理手続が事実上公開されかねない行為を許可することはなく、その説得によっても録音(録画)しようとする場合は、最終的に面談は中止されることになる。 (4) フリートークの場ではない 請求人面談は担当審判官が必要と認めて行う審理手続であり、あくまで担当審判官のした質問に対して回答することが求められている。 したがって、請求人としては、たとえ当初の税務調査からの積年の思いがあったとしても、担当審判官が質問していないのに、例えば、以下のような内容を述べることは差し控えた方が良いだろう。 しかし、中には、請求人の属性(例えば、これまでの電話対応の傾向)から、敢えてはじめにフリートークをさせて「ガス抜き」をした方が、後の進行が円滑になるという戦略をとる担当審判官もいるかもしれない。その場合には、請求人としては担当審判官による審理に協力する姿勢を見せた方が良いだろう。 (了)

#No. 477(掲載号)
#大橋 誠一
2022/07/14

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第82回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第82回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     〈Q6〉 出荷基準にいう出荷とは 出荷基準にいう出荷とは、具体的にどのような意味か。 〈A6〉 出荷基準にいう出荷とは、一般的には、商品や製品を店舗や倉庫等から相手方に出荷した日、具体的には配送業者に引き渡した日、自社配送トラックに積載した日などを指す。法人税基本通達2-1-2における「出荷」も、このような一般的な用法と同義であると思われる。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 法人税法22条の2第1項との関係でいうと、同項は「出荷」という語を用いておらず、商品や製品の「引渡し」という語を用いている。このため、個別の事例を当てはめる際には、注意を要する。 議論の立て方として、次の2つが考えられるからである。 さらにいえば、例えば、通達で認められてきた出荷基準についても、その具体的な収益計上時点としては、商品等を倉庫又は工場等から出荷した時、貨車又はトラックに積み込んだ時、船積みした時、相手方の受入場所へ搬入した時、船荷証券又は貨物引換証を発行した時など種々の時点が考えられる(中村利雄「新法人税基本通達詳解(上)」『税理』12巻7号、同『法人税の課税所得計算〈改定版〉』87頁(ぎょうせい1990)参照)。 結局、出荷基準、検収基準、使用収益基準といったところで、やはり解釈の余地が生じることにも注意が必要である。 *  *  *   〈Q7〉 引渡基準と権利確定主義 平成30年度改正前は、法人税法における収益の計上基準として、収入の原因となる権利の確定した日に収益を計上する権利確定主義が採用されているという見解があったが、法人税法22条の2第1項は、収益の計上基準として引渡基準を採用したため、権利確定主義は収益の計上時期を決定する規範としての役割を終えたと考えるべきか。 〈A7〉 法人税法22条の2第1項が引渡・役務提供基準を明定したことにより、権利の確定それ自体を一種の要件と解することは難しくなった。もっとも、少なくとも平成30年度改正後において、収益の計上時期の判断に当たり、法的な観点を重視する立場が支持されるという考えを採用するのであれば、権利確定主義は役割を終えたものではないということになる。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 法人税法22条の2第1項は、収益の計上時期を決する原則的基準として、引渡・役務提供基準を明定した。同条には、権利の確定という文言は入っていない。このことから、権利確定主義は終焉したと見る向きもある。 例えば、次の諸点を考慮すると、引渡・役務提供基準の明定により権利の確定それ自体を一種の要件と解することは難しくなったが、平成30年度改正後において、収益の計上時期の判断に当たり、法的な観点を重視する立場が支持されるのであれば、権利確定主義は役割を終えたものではないという見方が成り立つ。 この意味では、今後、争訟の場面において、権利確定主義が生きながらえていることを示す事象が観察されることが予想される。 法人税法22条の2第1項の役務提供基準についても権利確定主義の文脈で解釈される可能性もあろう。今後、裁判所が引渡基準・役務提供基準と権利確定主義との関係について、どのような判断を示すのかが注目される。 なお、権利確定主義というネーミングの使用を続けるかどうかという議論もありうる。 (了)

#No. 477(掲載号)
#泉 絢也
2022/07/14

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第127回】株式会社オウケイウェイヴ 「調査委員会調査報告書(2022年6月10日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第127回】 株式会社オウケイウェイヴ 「調査委員会調査報告書(2022年6月10日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社オウケイウェイヴ調査委員会の概要】   【株式会社オウケイウェイヴの概要】 株式会社オウケイウェイヴ(以下「オウケイウェイヴと略称する)は、1999年(平成11年)7月設立。日本初、最大級のQ&Aサイト「OKWAVE」の運営及び関連する企業サービスの提供を主たる事業とする。連結売上高2,197百万円、連結経常損失834百万円、資本金1,733百万円、従業員数109人(いずれも2021年6月期実績)。2006年6月、名古屋証券取引所セントレックスに上場。本社所在地は東京都渋谷区。会計監査人は南青山監査法人であったが、同監査法人との監査契約を2022年4月28日付で合意解約して、公認会計士柴田洋及び公認会計士大瀧秀樹を一次会計監査人に選任することを決議している。   【調査報告書の概要】 1 調査委員会設置の経緯 オウケイウェイヴは、Raging Bull合同会社(報告書上の表記はZ合同会社。以下「RB社」と略称する)と業務委託基本契約を締結したうえで、個別の運用委託契約を締結し、各個別契約における定めに従って運用委託資金をRB社名義の銀行預金口座に送金し運用を委託するとともに、各個別契約に従った運用利益の配当を受領する取引を繰り返していた。 しかしながら、オウケイウェイヴが、2022年1月4日、同年2月1日に締結した個別契約に従いRB社に運用委託資金を送金したにもかかわらず、契約書に定められた運用利益の配当日を経過してもRB社から運用委託資金及び運用利益の支払いがなかった。 そこで、RB社に対し運用委託資金等の支払いを求めたところ、同年4月18日、RB社の代理人弁護士から債務整理手続の受任通知書が送達され、1月4日及び2月1日に個別契約に基づきオウケイウェイヴがRB社に対して送金した運用委託資金等の回収が困難になる可能性が明らかになった。また、RB社の代理人からの受任通知書には、RB社はオウケイウェイヴとの契約当初から個別契約書に定められた運用をしていなかったことが記載されていた。 その直後、本件に関連して、オウケイウェイヴの社外取締役廣瀬光伸氏(報告書上の表記はC、以下「廣瀬社外取締役」と略称する)及び廣瀬社外取締役が代表取締役を務める株式会社エグゼクティブ・パートナー(報告書上の表記はX)等に法律上の原因に基づかない金銭の支払いがなされたとして、4月28日、RB社から廣瀬社外取締役らに対して、不当利得返還請求訴訟が提起された。 オウケイウェイヴは、RB社が債務整理を行うことで多額の債権の回収が困難になることに留まらず、社外取締役の関与も疑われることから、本件投資の開始経緯や意思決定プロセス等の本件投資全体を調査・究明し、本件の事実関係を明らかにするため、外部専門家で構成される調査委員会を設置することとした。 2 RB社による投資スキーム オウケイウェイヴ取締役野崎正徳氏(報告書上の表記はB、以下「野崎取締役」と略称する)は、2021年3月から4月の間にかけて、本件投資スキームについてRB社代表社員スニール・ジー・サドワニ氏(報告書上の表記はR、以下「サドワニ氏」と略称する)から、「簡単な仕組みの説明と今回の案件」と題する書面、RB社とSBI証券(報告書上の表記はΓ証券、以下「SBI」と略称する)との関係を含むチャート図、サドワニ氏の経歴書をメールで受領したうえで、以下のような説明を受けたという。 なお、野崎取締役がRB社に赴き、本件投資スキームの説明を受けた際に、RB社名義のSBI証券口座に200億円以上の残高があることを視認しているが、正式なものであるかは不明である。 しかし、RB社代表サドワニ氏によって、こうした投資スキームは、実際には行われておらず架空のものであったことが自白され、RB社の債務整理の代理人弁護士も同様の認識とのことである。調査委員会は、サドワニ氏の自白が真実であるならばRB社が、本件投資スキームをうたって投資家から投資金を集めたことは詐欺であり、犯罪であると評価されなければならないと述べながらも、調査が十分できないことや関係者の守秘義務などを理由に、本件投資スキームが実態のない詐欺であったか否かについては、 判断を留保するとしている。 3 争点及び争点に対する調査委員会の見解 調査委員会は、争点として、次の6項目について事実認定を行い、その見解を示した。 (1) 本件投資を判断した取締役会決議の適法性について 調査委員会は、廣瀬社外取締役は、RB社との間で業務委託契約を締結し、顧客をRB社に紹介し投資させることで、営業支援・顧客紹介料を得ていたことを認めたうえで、特別利害関係人である廣瀬社外取締役が議決に加わった取締役会決議の効力について、会社法369条2項に違反する決議であって、その決議の効力は無効であるとしながら、当該取締役を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは、その効力は否定されるものではないと解されるという最高裁判所判決を引用している。 そのうえで、本件決議については、廣瀬社外取締役を含む賛成取締役が4名、反対取締役が1名で、廣瀬社外取締役を除外しても賛成取締役3名、反対取締役1名となり、議決の成立に必要な多数が存していることから、投資及び各個別契約を決議した取締役会決議の効力までは否定されないこととなるという見解を示した。 (2) 廣瀬社外取締役とRB社との共謀の可能性 調査委員会は、仮に本件投資スキームが詐欺であることが確定した場合、廣瀬社外取締役が、最初から本件投資スキームが架空のものであることを知ったうえで取締役会決議に参加していたのであれば、 オウケイウェイヴに対する重大な裏切り行為であり、取締役としての善管注意義務、忠実義務に違反するだけでなく、 RB社の詐欺の共犯者であることから、廣瀬社外取締役が、本件投資スキームを利用した詐欺行為に加担していたと言える可能性があるか否かが問題となるとした。 そのうえで、廣瀬社外取締役が、本件投資スキームの表向きとは異なる詐欺の実態を把握していたと判断できるだけの客観的証拠はいまだ調査委員会にも明らかになっていないことに加えて、 廣瀬社外取締役は、自己の利益のためにRB社との間で個人投資をし、また紹介料を得る業務委託契約を行っていた事実に照らせば、現時点で廣瀬社外取締役において本件投資スキームが架空のもの、つまり詐欺であることを知っていたと判断することはできないことから、廣瀬社外取締役についてRB社との共犯性を認定するのは困難であるという判断を示した。 (3) 廣瀬社外取締役の取締役としての義務違反の有無 調査委員会は、廣瀬社外取締役は、オウケイウェイヴが投資対象としているRB社との間で業務委託契約を締結し、RB社のために活動することで営業支援・顧客紹介料を得ていたことから、特別利害関係取締役に該当するため、取締役会決議においてその旨を自ら説明したうえで、取締役会決議に参加することを控えるべきであったにもかかわらず、RB社との関係を秘匿し、議決に参加して賛成議決権を行使した一連の行為は 、会社法369条2項に違反する行為であり、善管注意義務違反・忠実義務違反が認められるという判断を示した。 また、廣瀬社外取締役は、本件投資スキームについて、詳細を調査し自己の知り得る限りの情報をオウケイウェイヴに対して開示する必要があったにもかかわらず、本件投資の決議を行う際に本件投資スキームについて機密として扱うように要請するばかりか、自らRB社と業務委託契約を締結して活動していることまで秘匿し、議決に影響を及ぼす可能性のある重要な情報を伏せていたことは、各取締役の判断に影響を与えたであろうことは否定できず、取締役として会社に対し負っている善管注意義務・ 忠実義務に違反しているというべきであるという見解を示している。 (4) その他の各取締役とRB社の共謀の可能性 調査委員会は、野崎取締役に関しては、会社のメールではなく個人のメールアドレスで、RB社代表サドワニ氏と本件投資のやり取りを行っていたものの、野崎取締役がRB社から金銭を受領した事実及び本件投資スキームが架空であることを認知していたことを示す証拠はこれまで見つかっていないことから、仮に本件投資スキームが詐欺であることが確定したとしても、現時点では、野崎取締役に詐欺の共犯性を肯定することはできないとの見解を示すとともに、代表取締役福田道夫氏(報告書上の表記はA、以下「福田代表取締役」と略称する)及び社外取締役大森泰人氏(報告書上の表記はD、以下「大森社外取締役」と略称する)についても同様に、両名がRB社から金銭を受領した事実及び本件投資スキームが架空であることを認知していたことは認められないとしている。 (5) その他の各取締役の取締役としての義務違反の有無 調査委員会は、「野崎取締役による本件投資スキームの情報の秘匿」「取締役の経営判断」などの事実認定から、本件投資を決定した取締役会決議の意思決定について、決定の過程に軽率な部分は認められるものの、過程・内容に著しく不合理な点があったとまではいえず、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと考えられるという見解を示している。 (6) 監査役会及び各監査役の責任 調査委員会は、架空の投資スキーム、すなわち詐欺であった本件投資の実行により投資債権が回収困難に陥ったことについて、各監査役の責任が問題となるとしたうえで、2021年4月6日の取締役会において、監査役らは、本件投資の是非について忌憚のない意見を述べ、議論を促していることに加え、RB社からの償還が実行されなかった際は、監査役は、会計監査人と協議のうえ、与信管理について野崎取締役に提言しているなど、本件の各投資決議に関して、各監査役は、監査役会の一員として十分に職務執行の適法性の監査を行っており、取締役の職務執行を監査する義務を果たしていたといえると評価し、監査役らに善管注意義務違反があったとまでは認められないとした。 4 発生原因の分析(報告書40ページ以下) 調査委員会は、発生原因として次の4項目を挙げている。 この中で「取締役相互間の監査不足」について、調査委員会は、 などの事実は、取締役の職務執行の監査が不十分であったことの証左と言わざるを得ないと原因を分析している。 さらに、廣瀬社外取締役が、RB社との間で個人投資を行っていること、業務委託契約を締結し紹介料等を受領していることを把握できず、特別利害関係取締役であるにもかかわらず取締役会決議への参加を許してしまったことについても、オウケイウェイヴでは、日ごろから取締役相互間において利益相反に関連する情報の共有と監査が不足していたことは否めないとの見解を表明した。また、福田代表取締役が、マレーシアを拠点としており、他の取締役らとのやり取りはもっぱらメールや電話であったことから、コロナ禍で対面での面談が困難で、直ちに会うことができる環境になかったことが、何らかの兆候を見逃してしまう可能性を増大させたことは、否定できないとまとめている。 5 再発防止策の提言(報告書43ページ以下) 調査委員会は、再発防止策の提言として次の5項目を挙げている。 本事案に特有の再発防止策として、まず「特定の人物に対する先入観に流されないための対策」について、調査委員会は、本件投資を行うにあたってRB社及びその代表サドワニ氏に対する調査がおろそかになっていた理由の1つとして、特定の人物の紹介であり、サドワニ氏が廣瀬社外取締役の知人であることが挙げられるとしたうえで、オウケイウェイヴ取締役会には、特定の人物の知人・紹介というだけで、その人物又は会社を信頼することなく、個別取引の度に客観的事実、証拠に基づいて、判断することが求められるとともに、取締役会の中で同調圧力のような雰囲気がある場合にはそれを排除し、自己の責任において活動することが求められるとしている。 また、「取締役相互間の監督の強化」としては、調査委員会は、オウケイウェイヴ取締役会に対し、創業時からの古参の取締役らと新規に加入した取締役との間に隔たりがないようにする必要があり、新規に加入した取締役が外様感・疎外感を覚えないような雰囲気づくりも大切であるとしたうえで、個々の経営的判断の当否を議論する際に、事業内容そのものの客観的評価ではなく、誰の提案か、誰が反対をしているのかということに囚われた属人的な判断をすることは排除されなければならないという提言をしている。 さらに、「ガバナンス体制の根本的な改善・再構築」としては、調査委員会は、外部の有識者2名を加えたコーポレートガバナンス委員会の取組自体は評価できるとしたうえで、コーポレートガバナンス委員会の開催が、臨時取締役会の開催には対応できず、臨時取締役会を開催することで、コーポレートガバナンス委員会への上程を回避することができてしまうのは、せっかくのコーポレートガバナンス委員会を活かしきれていないといえることから、コーポレートガバナンス委員会の開催日程や開催場所、リモートでの参加等、再度検討することを求めるとともに、内部統制システムを実質的に機能させるために、実行・運用する機能部門に一定のマンパワーを割くことが不可欠であることから、必要な人員を拡充配置し、また時間をかけて人材を育成し、機能部門を強化していくことが望まれると、提言をまとめている。   【調査報告書の特徴】 FACTA ONLINEが号外速報として、オウケイウェイヴの「50億円消失」を報じた(※1)のは、2022年5月9日であり、次いで、DIAMOND online が5月25日付で、Raging Bull合同会社の詐欺の手法について詳細を報じた(※2)。 (※1) 「オウケイウェイヴ「50億円消失」の真相/社外取・廣瀬に資金還流/創業者・兼元に利益供与か」 (※2) 「被害額は100億円超か、上場IT企業まで絡む「投資詐欺」の全容」 オウケイウェイヴは、これらの記事について、いずれも会社としてのコメントを適時開示したが、その内容は、「調査委員会による事実確認」をしているというもので、報じられた内容については、特に否定はしていない。 公表された報告書を読む限り、FACTAやDIAMONDが報じた疑惑についての解明が十分できているとは評価できないが、いくつか特徴を検討しておきたい。 1 調査委員会内での意見の不一致 ほとんどの調査委員会が、調査報告書において、委員会全体の合意に基づく事実認定と見解の表明を行っている中、本調査報告書には、田島照久委員の個別意見が表記されている。 まずは、この個別意見を確認しておきたい。 (1) 投資内容の合理性について 調査委員会は、野崎取締役が、RB社サドワニ氏から説明を受けた投資スキームの内容は、IPO株式をロックアップ中に相対的な取引を行うことによって利益を生み出すことであり、IPO株に関係して行われるこのような非公式の取引自体は、あり得ない内容ではなく、一定の合理性があったという評価をしているが、この評価については、調査委員会内部で意見が分かれ、公認会計士である田島照久委員は、「一定の合理性があったとは評価できない」と評価していることを明らかにしている。 ただし、田島委員が、「一定の合理性があったとは評価できない」とした理由については、この項目では触れられてはいないが、次項の反対意見で、「取締役会での決定の過程に著しく不合理な点がなかったとは到底言い切れ」ないと表明している。 (2) 監査役らに善管注意義務違反 調査委員会は、本件の各投資決議に関して、各監査役は、監査役会の一員として十分に職務執行の適法性の監査を行っており、取締役の職務執行を監査する義務を果たしていたことから、監査役らに善管注意義務違反があったとまでは認められないと評価している。ところが、この評価についても、調査委員会内部でも意見が分かれており、田島委員の意見は次のとおりである。 2 会計監査人の異動とその理由 オウケイウェイヴは、「会計監査人の異動」について、最初に適時開示を行った後、異動理由の説明を2回、訂正している。訂正過程を検討したい。 4月28日に適時開示を行った「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」では、異動理由は次のように説明されている。 この異動理由を、5月23日付適時開示(※3)では、次のように訂正している。 (※3) 「「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」の一部訂正について」 この訂正は、当初、オウケイウェイヴが、債権取立不能先であるRaging Bull 合同会社の社名を明らかにしていなかったところ、これを明らかにするとともに、監査法人の求めに応じられていないことが、監査契約を合意解除した理由であることを明らかにしたものであると評価できる。 オウケイウェイヴは、調査報告書を開示した後の6月27日になって、この異動理由をさらに訂正する(※4)。 (※4) 「(訂正)「(訂正)「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」の一部訂正について」の一部訂正について」 監査法人が辞任を決断する過程がより詳細に開示されている点は評価できるが、監査役会と会計監査人とのやり取りについて、5月23日の段階では、オウケイウェイヴ取締役会が知らなかったのではないかという疑念を抱かせる、適時開示の過程である。 3 株主からの臨時株主総会開催提案 オウケイウェイヴは、6月17日、「株主による臨時株主総会招集請求に関するお知らせ」を開示して、6月10日付で、一部株主から、臨時株主総会の招集請求があったことを公表した。株主総会の目的である事項として、次の4件の議題が挙げられている。 この請求に対して、オウケイウェイヴは、7月7日に「臨時株主総会開催に関するお知らせ」をリリースして、8月25日に、臨時株主総会を開催することを公表した。議題は、株主提案のうち、「議題3 取締役 廣瀬 光伸 の解任の件」を除く3件である。なお、廣瀬社外取締役は、6月13日付で「一身上の都合」により辞任している(※5)。 (※5) 「取締役の辞任に関するお知らせ」 (了)

#No. 477(掲載号)
#米澤 勝
2022/07/14

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年6月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年6月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年6月1日から6月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 有価証券報告書の開示関係 金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループから、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」が公表されている。 サステナビリティに関する企業の取組みの開示、コーポレートガバナンスに関する開示、四半期開示などについて記載されている。   Ⅲ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 ① 「企業会計基準等の開発において開示を定める際の当委員会の方針 (開示目的を定めるアプローチ)」(内容:原則として、開示目的を定めた上で、当該開示目的に照らして開示する具体的な項目及びその記載内容を決定する旨を定める方針を採用する) 日本公認会計士協会から次のものが公表されている。 ② 「会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料 ~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」」(内容:DX環境下におけるソフトウェア関連取引に係る会計処理等の課題を抽出し検討したもの。ソフトウェアに関連する会計処理などを詳細に検討)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」の改正について」(内容:監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び同540「会計上の見積りの監査」の改正等に対応するもの) ②「「2021年度 品質管理レビューの概要」等の公表について」(内容:日本公認会計士協会の品質管理レビューによる指摘事項について記載) (了)

#No. 477(掲載号)
#阿部 光成
2022/07/14

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第28回】「ハラスメント社内研修のすすめ」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第28回】 「ハラスメント社内研修のすすめ」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社においては毎年ハラスメント研修を実施していますが、この度、内容や方法を見直すことになりました。そこで、検討を進めているのですが、研修内容だけでなく、実施時間、講師、オンラインかオフラインかなどの実施方法についても様々な選択肢があり、社内でも意見が割れています。ハラスメントの社内研修のベストな実施方法を教えてください。 【Answer】 ハラスメントの社内研修の実施方法にはそれぞれメリットがあり、一概にどれがベストであるとは言えません。ハラスメントの社内研修は少なくとも年1回は実施すべきだと考えますが、それぞれのメリットを活かすために、必ずしも1つの方法にこだわらず、毎度異なる方法を採用してみてもよいのではないかと思います。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 ハラスメント社内研修の重要性 パワハラ、セクハラ及びマタハラについては、関係法令や指針において、使用者に対して研修の実施等が求められ(労働施策総合推進法第30条の3第2項、男女雇用機会均等法第11条の2第2項、同法第11条の4第2項等)、また、ハラスメント関連の裁判例においても、社内研修を実施していたこと等を理由に使用者が責任を免れた例は少なくない。 このように、ハラスメント社内研修の重要性は言うまでもないところであり、各社においてもハラスメント社内研修を実施していると思われるが、その内容や方法について悩んでいる企業も多いのではないだろうか。そこで、本稿においては筆者の企業やスポーツ関連の組織等でのセミナーの経験を踏まえて、ハラスメント社内研修の各実施方法のメリット・デメリットや研修内容についてのポイントを解説する。   2 ハラスメント研修の方法 (1) 時間・頻度について ハラスメント研修の時間については、それぞれの組織におけるニーズにより異なるものではあるが、パワハラ・セクハラを内容とする場合は少なくとも45分間、マタハラも加える場合は少なくとも80分間ほどの時間を確保することが望ましい。 筆者は、最短20分間(パワハラ・セクハラ)、最長約5時間(休憩含む)(パワハラ・セクハラ・マタハラ・SOGIハラ等)のハラスメント研修を実施したことがあるが、さすがに20分間で実施した際には駆け足にならざるを得なかった。短時間でもポイントを押さえた研修を実施することはできるが、可能であれば、ある程度時間の余裕はあった方がよい。他方、長時間実施する場合には、受講者側が消化不良に陥るおそれがあるので、日を分けて実施するなどの工夫をした方がよい。 頻度については、少なくとも年1回程度は実施すべきである。ある程度定期的に実施することにより、受講者のハラスメントの知識を維持することができるし、ハラスメントの概念は時代や社会情勢によって変化し得るものであるから、受講者のハラスメントの知識を定期的にアップデートする必要があるためである。 (2) 講師について ① 社内の方・社外の方のいずれがよいか 講師は社内の方・弁護士等の社外の方のいずれでもよい。それぞれのメリットとしては、社外の方(例えば弁護士)が講師になる場合、法令や裁判例に関する正確な知識や実務経験に基づいた研修の実施を期待することができるといった点がある。一方、社内の方が講師になる場合、社内の実情を踏まえた内容の研修を実施することが可能である。よって、それぞれの場面やニーズに応じて使い分けるのがよい。 なお、筆者は、「私(内部の方)が研修の講師をすると、『お前、専門家じゃないだろう』『専門家ではないお前に何がわかるんだ』などと言われて真面目に話を聞いてもらえない」という理由で、ハラスメント研修の講師を依頼されたことがある。このように、より緊張感を持って話を聞いてもらいたいといった場合に、弁護士等の社外の方に講師を依頼することも考えられる。 ② 男性・女性のいずれがよいか こちらも、基本的にはどちらでもよいが、筆者は、特にセクハラやマタハラについて、「女性に話をしてほしい」「女性から話を聞きたい」との理由で講師の依頼を受けることが多い。セクハラの裁判例の中にはショッキングな内容のものも少なくないことから、男性がそのような裁判例に言及することについて不快感を覚える受講者がいる可能性があり、女性を講師にすることによりこれを回避することができる。 また、セクハラやマタハラといった類いの問題については、程度の差こそあれ被害者としての経験を有している女性が少なくないであろうことから、女性が講師を務める場合、経験に基づいたより深い話をすることができる可能性がある。 (3) オンライン研修について コロナ禍において、多くの研修がオンラインで実施されるようになったが、コロナ禍における行動制限が緩和するに伴って、オフラインでの研修の実施を検討している方もいるであろう。よく言われることではあるが、オンラインの研修の難点は、受講者の集中力を維持することが困難になりやすいことである。 しかし、他方で、オンラインの研修は、開催者側にとっては一度に大人数に対して実施しやすいというメリットが、受講者側にとっては移動の時間や手間が省けるうえ仕事の合間に参加しやすいといったメリットがある。 ハラスメントの研修において最も重要なことの1つは、受講者のハラスメントに対する知識を維持し、かつ、アップデートすることであるから、開催や受講が比較的容易であるオンライン研修の有効性は高い。よって、オンラインとオフライン、両方をバランス良く実施することが望ましい。 (4) グループディスカッションの活用について 筆者がハラスメントの研修で最も有用であると感じているのが、グループディスカッションの活用である。ハラスメントに該当するか否かは平均的な労働者の感じ方が基準となるが(※)、自分の感じ方が平均的な労働者の感じ方であるかどうか、確信がある人は少ないであろう。 (※) 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針・令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)及び「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号) そして、自分の感じ方が平均的な労働者の感じ方であると確信がある人に限って、平均的な労働者の感じ方からかけ離れた感覚を持っていることが少なくない。グループディスカッションは、他の参加者の見解に触れることにより平均的な労働者の感じ方をつかむ手段として有用である。 また、コロナ禍を契機に在宅勤務が増えた社員間のコミュニケーションの場としても意義がある。 (5) 受講者について ハラスメントの研修は、管理職等の加害者になる可能性が高い受講者とそれ以外の被害者になる可能性が高い受講者とに分けて実施することが望ましい。それぞれにおいて注意すべきポイントなどが異なるし、質疑応答の場面で、後者の受講者は、前者の受講者(上司等)の前でざっくばらんな質問などはしづらいと考えられるからである。 もっとも、マンパワー等の観点から、受講者のカテゴリーを分けたうえで研修を実施することが困難なケースもあることから、必ずしもそうしなければならないということはない。   3 ハラスメント研修の内容 ハラスメントには様々な種類のものがある。社内研修においてどこまで触れるかだが、パワハラとセクハラについてはどの組織においても必ずと言っていいほど問題になるものであるから、これらは内容に含めるべきであろう。その次に取り上げるべきはマタハラである。これも組織において問題になることが多いためである。その他のハラスメント(SOGIハラ等)については、各組織の実情に応じて触れるべきかどうか検討するのがよい。 研修において触れるべき具体的な内容としては、まずは各種ハラスメントの定義や裁判例等の実例である。更に、筆者が研修を実施する際には、ハラスメントの加害者になることにより生じる被害・損害、ハラスメントの加害者にならないためのポイント、被害者にならないための対処法等も盛り込んでいる。 多くの人が誤解している点(例えば、「相手が嫌だと思ったらハラスメントになる」)について解説を行うことも多い。受講者の誤解を解消してハラスメントに対する理解を深めてもらう効果があるうえに、受講者の興味を引き、研修に集中してもらうことができるためである。 また、「上司が、部下からハラスメントだと言われることを恐れてきちんとした指導ができない」といった問題についての対処法の説明を求められることも多く、これを盛り込むことも考えられるだろう。 (了)

#No. 477(掲載号)
#柳田 忍
2022/07/14

《速報解説》 国税庁、所得税基本通達を一部改正~控除対象扶養親族が国外居住親族である場合の「生活費等の支払38万円以上」の判定詳細示す

 《速報解説》 国税庁、所得税基本通達を一部改正 ~控除対象扶養親族が国外居住親族である場合の「生活費等の支払38万円以上」の判定詳細示す~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   令和2年度の税制改正では、国外居住親族に係る扶養控除が見直されており、令和5年分以後の所得税に適用される。 見直しの詳細は、拙稿「《速報解説》 国外居住親族に係る扶養控除の見直し~令和2年度税制改正大綱~」をご参照いただきたい。 見直しにより、令和5年1月1日以後、年齢30歳以上70歳未満の非居住者を控除対象扶養親族とするには、その者が次のいずれかに該当していることが要件となる(所法2①三十四の二ロ)。 国税庁は、7月4日付で「「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」等を公表し、上記(3)の「支払を38万円以上受けている」かどうかの判定について、具体的な内容が示された。 所得税基本通達の内容から、判定方法をまとめると以下のとおりである(所基通2-50)。 なお、円換算については、年間合計額について、その年最後の支払日のTTM又は最後の支払時に実際に適用された為替レートにより一括して換算することもできる(所基通2-50(注)1)。 また、換算に用いるTTMは、原則として、その支払に係る金融機関のものによるが、継続的に使用している場合には主たる取引金融機関のレートなど合理的なものも認められる(所基通2-50(注)2)。 ちなみに、今回の通達改正では上記のほか、令和4年度税制改正に係る事項として、簿外経費や住宅ローン控除に関する事項についても取扱い等を示している。 (了)

#No. 476(掲載号)
#篠藤 敦子
2022/07/12

《速報解説》 ふるさと納税に係る総務省告示が改正される~返礼品の代わりに現金を付与する仕組みへの対応~

《速報解説》 ふるさと納税に係る総務省告示が改正される ~返礼品の代わりに現金を付与する仕組みへの対応~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   6月23日付で、ふるさと納税に関する総務省告示が改正された。同時に各都道府県及び市町村のふるさと納税担当部長宛に、告示の改正を受け内容が更新された「ふるさと納税に係る指定制度の運用について」が公表された。 当該対応は、ふるさと納税をした人に返礼品の代わりに現金を付与する仕組みを提供する「キャシュふる」(6月8日にサービスを開始し、2日後の10日にサービスを停止)を念頭においたものとみられる。 キャシュふるは、ふるさと納税をした人(寄附者)が、返礼品の代わりに現金を受け取ることができるサービスで、返礼品が不要な寄附者と返礼品が欲しい人をマッチングするプラットフォームを提供する。 具体的には、キャシュふるが寄附者から預かった資金でふるさと納税を代行し、返礼品が欲しい人へ返礼品受領権を販売する。返礼品受領権の販売代金からキャシュふるの手数料が差し引かれ、最終的に寄附額の20%が寄附者へ支払われる仕組みである。 この仕組みに対し、総務省はふるさと納税の本来の趣旨に合っていないものとして、関連する告示の改正等を行った。 ふるさと納税に関しては、平成31年6月1日以降、指定制度が導入されており、総務大臣が、以下の基準に適合した地方団体を寄附金税額控除の特例控除の対象として指定することとされている。 今回の告示の改正により、寄附者から返礼品等の譲渡を受けその対価として金銭の支払をする業者を通じた募集は上記①に該当しないことが明記された。 なお、総務省から公表されている「ふるさと納税に係る指定制度の運用についてのQ&A」も更新されており、地方団体が上述のような業者へ直接委託する場合だけでなく、業者が地方団体名を掲げて寄附金の募集をすることを地方団体が承諾する場合や、返礼品等の対価として現金ではなくポイントその他の金銭に類するものを提供する場合も含まれる(基準に適合しない)ことが示された。 (了)

#No. 476(掲載号)
#篠藤 敦子
2022/07/12

《速報解説》 令和4年度税制改正に対応し、インボイス通達を国税庁が一部改正~届出書の追加、登録申請に関する経過措置、公益法人の特定収入等の規程を整備~

《速報解説》 令和4年度税制改正に対応し、インボイス通達を国税庁が一部改正 ~届出書の追加、登録申請に関する経過措置、公益法人の特定収入等の規程を整備~   税理士 石川 幸恵   「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達」はいわゆるインボイス通達であるが、令和4年6月30日、国税庁より一部改正が公表された。 以下では、改正の背景と概要について解説する。   1 今般の改正の背景 令和4年度税制改正における「特定収入がある場合の仕入税額控除の調整規定の整備」に伴うものとして4-11から4-14まで新設、「免税事業者の登録に関する経過措置の見直し(28年改正法附則44④)」に伴うものとして5-1が改正された。さらに、令和2年度税制改正における「消費税の申告期限の延長(消法45の2②)」に伴うものとして2-8が改正された。   2 改正の概要 ここからは通達の順に従って概説する。 (1) 2-8(事業の廃止による登録の失効) 適格請求書発行事業者が事業を廃止した場合、適格請求書発行事業者の登録は効力を失う(新消法57の2⑩二)。 「事業を廃止した場合」とは、「事業廃止届出書」の提出があった場合ほか各種の届出書に「事業を廃止した場合の廃止した日」の記載があった場合を含んでいるが、これらの届出書に「消費税申告期限延長不適用届出書」が追加された。 (2) 4-11(控除対象外仕入れに係る支払対価の額の意義)、4-12(取戻し対象特定収入の判定単位)、4-13(借入金等の返済又は償還のための補助金等の取扱い)、4-14(令第75条第1項第6号ロに規定する文書により控除対象外仕入れに係る支払対価の額の合計額を明らかにしている場合の適用関係) 国又は地方公共団体の特別会計、公共、公益法人等の仕入控除税額については、補助金等の対価性のない収入(特定収入)により賄われる課税仕入れ等に係る税額につき、仕入税額控除の対象から除外する調整計算の規定がある(消法60④、消令75)。 適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れは、本来、仕入税額控除額がないにもかかわらず、現在の調整計算では仕入税額控除の対象から除外する額に含まれてしまうため、結果として、除外が過大となってしまう。 令和4年度税制改正では、事業者が、課税仕入れ等に係る特定収入により適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れを一定程度行い、その特定収入により調整計算の規定の適用を受けた場合において、その適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額を国等への報告文書等により明らかにしているときは、一定の方法により計算した金額をその明らかにした課税期間における課税仕入れ等の税額の合計額に加算できることとされた。 (※) 「国・地方公共団体や公共・公益法人等と消費税(令和4年6月版)」の62頁より図表抜粋。 調整計算の具体的な方法は消費税法施行令第75条にあるため、令和4年度税制改正を受けて第75条が改正、追加されている。本改正通達において新設された4-11~4-14の内容はこの消費税法施行令の改正に対応するものである。 (3) 5-1(免税事業者に係る適格請求書発行事業者の登録申請に関する経過措置) 免税事業者に係る適格請求書発行事業者の登録申請に関する経過措置期間の延長に伴う改正であるが、内容自体は28年改正法附則44条4項及び5項の確認となっている。 なお、同法附則44条4項及び5項の改正については、下記拙稿も参照されたい。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 476(掲載号)
#石川 幸恵
2022/07/11
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