公開日: 2023/02/22 (掲載号:No.508)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第23回】「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」-ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第23回】

「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」

-ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は異なる個別分野別一般的否認規定(法税132条1項と132条の2)の不当性要件について統一的解釈(個別分野別不当性要件の統一的解釈)に基づく検討を行ったが、今回は個別分野別一般的否認規定について個別的否認規定との適用関係を検討する。

その検討の素材としては、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)57条3項と132条の2との適用関係に関する未処理欠損金額引継規定濫用[ヤフー]事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)と同[TPR]事件・東京高判令和元年12月11日訟月66巻5号593頁(以下「TPR事件東京高判」という)を取り上げることにする。なお、TPR事件東京高判は、原審・東京地判令和元年6月27日訟月66巻5号521頁をほぼそのまま引用し控訴審における当事者の主張に対する判断を付加するにとどまるものであるから、以下では、引用部分については「原判決引用」と付記することにする。

法人税法57条3項と132条の2との適用関係については、TPR事件東京高判に関するある評釈の中で次の見解が示されている(平川雄士「TPR事件判決はPGM事件裁決の批判的検討-法人税法57条2項の趣旨の理解は正しいのか-」週刊税務通信3720号(2022年)15頁、18-19頁)。

判示(2)の法57条(個別規定)と法132条の2の関係についても、ヤフー・IDCF事件の各下級審判決で判示された点であり、やはり特段真新しい点はない。この判示(2)は、「法人税法57条3項は、同条2項による未処理欠損金額の承継の否認とその例外の要件を全て書き尽くしたものであり、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたものである」旨の納税者の主張に対する応答としての判示であるが、同主張は、要は、法132条の2の実体判断、つまり「組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から」の「逸脱」ひいては「組織再編税制に係る各規定」の「租税回避の手段として」の「濫用」の有無という実体判断に立ち入るまでもなく、法57条3項の個別否認規定に抵触しない限り、そもそもの「入口」段階において法132条の2を適用する余地はないという主張であるものと解される。ヤフー・IDCF事件の各下級審においては、同事件がリーディングケースであったことから、同様の主張が行われていたところであり、同事件の各下級審判決は同主張を排斥している。判示(2)もかかる立場を踏襲したものといえる。このように、司法の立場は、法57条3項等の組織再編税制の個別否認規定に抵触しない場合であっても、なお法132条の2を適用し「得る」、つまり同条の実体判断を行い得るということで固まっているといえる。このため、今後の法132条の2の事案においては、納税者としては、判示(2)に係る主張を主戦場とすることは得策とは言い難いことになろう。すなわち、本論で論ずるように、上記の実体判断の点を主戦場とするほうが相対的に「筋がよい」主張となるように思われる。

確かに、TPR事件東京高判は法人税法132条の2について上記見解にいう「入口」段階で止まらず「実体判断」に立ち入ってその適用を肯定し、これに対する上告受理申立てを最高裁は不受理と決定したが(週刊税務通信3662号(2021年)8頁参照)、そうである以上、同条の適用に当たっては、上記見解の説くように、「入口」段階ではなく「実体判断」段階が「主戦場」となるということが「司法の立場」として固まっているといえるかもしれない。

しかしながら、そのように結論づけるのは早計ではないかと思われる。その前に次のような疑問の解明が必要であるように思われるからである。すなわち、TPR事件における法人税法132条の2の適用上「入口」要件ともいうべき特定資本関係5年超要件は、ヤフー事件ではそもそも問題になっておらず、同法57条3項が同要件不充足を前提として定めるみなし共同事業要件のうち特定役員引継要件の充足の有無が、いきなり・・・・、同法132条の2の「実体判断」段階で争われたが、両事件の事案の違いを前提とするこのような要件判断の違いは、同条の適用において意味をもたないのであろうか。

換言すれば、ヤフー事件最判が判示した制度濫用基準(前回Ⅲ参照)は、「組織再編税制に係る各規定」の「租税回避の手段として」の「濫用」の有無を法人税法132条の2の判断基準とするものであるが、そこでいう「組織再編税制に係る各規定」には同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件の規定も含まれるところ、ヤフー事件においてはそもそも同要件が充足されていない事案であったが故に同要件規定の「濫用」は問題にならなかったのに対して、TPR事件においては同要件が充足されている事案であったが故に、同要件の充足が同要件規定の「濫用」として同法132条の2によって否認されない限り、同法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無という「実体判断」には、同項の規定の文理からしてもその構造からしても、立ち入ることはできないはずであるが、それにもかかわらず、TPR事件東京高判はヤフー事件最判を「平成28年最判」として参照しながら次のとおり(下線筆者)判示したのはなぜであろうか。

控訴人は、本判決第2・3(1)(控訴人の主張)アのとおり、本件合併のような合併は、法人税法132条の2が適用される類型とはいえないとし、同イのとおり、法人税法57条3項は、同条2項による未処理欠損金額の承継の否認とその例外の要件を全て書き尽くしたものであり、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたものであるなどと主張する。

しかしながら、本判決で付加訂正の上引用する原判決(以下「原判決」という。)が第5・2(1)で判示するとおり、法人税法132条の2の文言上、組織再編成に係る特定の行為又は計算を否認の対象から除外する定めはないこと、同条が、租税再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものであり、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものと解されること(平成28年最判参照)からすると、本件合併のような合併について、およそ法人税法132条の2の適用がないとする控訴人の主張は理由がない。

以上のような疑問について検討するに当たって、まず、次のⅡで法人税法57条3項と132条の2との適用関係に関するヤフー事件最判の考え方を明らかにし整理しておこう。

なお、今回の検討は、基本的には、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第31回及び第32回で既に検討したところをベースにし、その後の検討も加味しつつ、行うものである。

 

Ⅱ 法人税法57条3項と132条の2との「重畳的」適用

ヤフー事件最判は、法人税法132条の2の解釈により定立した制度濫用基準への事案の当てはめに関する判示の中で、「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る各規定」として、次のとおり(下線筆者)、①法人税法57条2項、②同条3項及び③同法施行令112条7項5号の各規定を挙げている。

以上[=前記事実関係等に関する判断]を総合すると、本件副社長就任は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを定める法57条2項、みなし共同事業要件に該当しない適格合併につき同項の例外を定める同条3項及び特定役員引継要件を定める施行令112条7項5号の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるというべきである。

そうすると、本件副社長就任は、組織再編税制に係る上記各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると解するのが相当である。

この判示から明らかなように、②法人税法57条3項は①同条2項の例外規定(適用除外規定)であるが、③同法施行令112条7項5号(の定める特定役員引継要件を含むみなし共同事業要件を定める同項)は、次の判示(下線筆者)から明らかなように、②同法57条3項の例外規定(適用除外規定)とされている。

組織再編成に伴う未処理欠損金額の取扱いについても、基本的に、移転資産等の譲渡損益に係る取扱いに合わせて従前の課税関係を継続させることとするか否かを決めることとされており、適格合併が行われた場合につき、被合併法人の前7年内事業年度において生じた未処理欠損金額は、それぞれ当該未処理欠損金額の生じた前7年内事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなすものとして(法57条2項)、その引継ぎが認められるものとされている。

もっとも、適格合併には、大別して、企業グループ内の適格合併(法2条12号の8イ及びロ。本件合併もこれに含まれる。)と共同事業を営むための適格合併(同号ハ)があるところ、企業グループ内の適格合併については、共同事業を営むための適格合併よりも要件が緩和されているため、その未処理欠損金額の引継ぎを無制限に認めると、例えば、大規模な法人が未処理欠損金額を有するグループ外の小規模な法人を買収し完全子会社として取り込んだ上で、当該法人との適格合併を行うことにより、当該法人の未処理欠損金額が不当に利用されるなどのおそれがある。そこで、そのような租税回避行為を防止するため、法57条3項において、企業グループ内の適格合併が行われた事業年度開始の日の5年前の日以後に特定資本関係が発生している場合[=特定資本関係5年超要件不充足の場合]については、「当該適格合併等が共同で事業を営むための適格合併等として政令で定めるもの」(みなし共同事業要件)に該当する場合を除き、特定資本関係が生じた日の属する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額等を引き継ぐことができないものとされている。

要するに、未処理欠損金額引継ぎに関する「組織再編税制に係る各規定」は、①法人税法57条2項について②同条3項が例外規定(適用除外規定)として定められ、②同条3項については③同法施行令112条7項5号が例外規定(適用除外規定)として定められる、という規定構造を形成しているのである。

これを規定内容の観点からみると、①法人税法57条2項は被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎを定める課税減免規定であり、②同条3項は①の濫用による租税回避の否認規定であり、③同法施行令112条7項5号は特定資本関係5年超要件不充足の場合における①の濫用による租税回避の否認規定であるといえよう。

②法人税法57条3項と③同法施行令112条7項5号は、このように、結論的には、同じく①同法57条2項の濫用による租税回避の否認規定であるといえようが、しかし、論理構成の点では、否認の意味を異にする。この点についてヤフー事件最判に即して次のとおり敷衍しておこう。

税法上の課税減免規定の濫用による租税回避の場合において濫用される「課税減免規定」には、ヤフー事件に即していえば、未処理欠損金額の引継ぎを認める①法人税法57条2項(以下「本来的課税減免規定」という)が該当するほか、同規定の濫用による租税回避を否認する②同条3項について適用除外要件を定める③同法施行令112条7項5号も該当する。というのも、その適用除外要件は、いわば「否認緩和要件」として、本来的課税減免規定の濫用による租税回避が否認される場合に比べて、「課税減免」の効果をもたらすからである。その意味で、そのような「課税減免」の効果をもたらす適用除外要件(否認緩和要件)を定める③同法施行令112条7項5号は、「派生的課税減免規定」ということができよう。要するに、ヤフー事件最判は、税法上の本来的課税減免規定の濫用による租税回避それ自体を否認したのではなく、税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避を否認したのである。

税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避に対する法人税法132条の2の適用を筆者は、②同法57条3項との「重畳的」適用と呼んできた(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)236頁[初出・2015年]参照)。そのような呼称は、「個別防止規定の潜脱」に関して述べられている、法人税法57条3項と132条の2との次のような適用関係(斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税務大学校論叢73号(2012年)1頁、78-79頁。下線筆者)を念頭に置いたものである。

当該個別規定[=法人税法57条3項]の適用により制限を受けた未処理欠損金については、本規定[=同法132条の2]を適用する余地はないものと考えられるが、制限を行わないとする、いわば緩和要件であるみなし共同事業要件については、これを形式的に該当させることなどにより、当該制限を回避する場合は、重複して制限を行うことにはならないため、本規定を適用できるものと考えられる。

 

Ⅲ 制定法踰越的法創造に基づく法人税法132条の2の適用

1 TPR事件東京高判の租税回避手段論

ヤフー事件では、特定資本関係5年超要件が充足されていないことは事実関係から明らかであり当事者間でも争われていなかったので、最高裁は②法人税法57条3項の定める要件のうち特定資本関係5年超要件についてその濫用の有無を判断することなく、いきなり、③同法施行令112条7項5号の特定役員引継要件についてその濫用の有無を判断したものと解される。これに対して、TPR事件では、逆に、特定資本関係5年超要件が充足されていることについて当事者間に争いがなく、裁判所もそのことを前提として法人税法132条の2の適用について判断しこれを肯定した。

ここで注目されるのは、ヤフー事件最判が「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る規定」の1つとして②法人税法57条3項を挙げており、かつ、TPR事件東京高判がヤフー事件最判を参照しているところ、それにもかかわらず、同東京高判が同法132条の2の適用を判断するに当たって、②同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無について判断しなかったことである。このことを換言すれば、特定資本関係5年超要件規定も派生的課税減免規定の1つであるから、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、特定資本関係5年超要件規定の濫用による租税回避に対しても法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったのである。

この点について、TPR事件東京高判がその検討をしなかった理由は、②法人税法57条3項に関する次の判示(原判決引用。下線筆者)から、読み取ることができるように思われる。

法人税法57条3項は、一定期間内に特定資本関係を有することとなった法人間で組織再編成が行われた場合、共同で事業を営むための適格合併等として政令で定めるものに該当する場合を除き、特定資本関係が生じた日の属する事業年度前に生じた欠損金額等の引継ぎを制限する旨定めており、このような同項の規定の構造に鑑みても、同項は、未処理欠損金額を有するグループ外の法人をいったんグループ内の法人に取り込んだ上でグループ内の他の法人と組織再編成を行うといったグループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であって、未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く、実際にも、特定資本関係5年超要件を満たす適格合併等であっても、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われる場合が想定されないとはいい難い。そうすると、同項は、むしろ、典型的な租税回避行為としてあらかじめ想定されるものを対象として定めた具体的な否認規定にすぎないものと理解するのが自然である。

この判示は、②法人税法57条3項について「未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く」と述べているところに端的に表現されているように、租税回避の類型(第20回Ⅲ参照)のうち税法(組織再編税制)上の課税減免規定の濫用による租税回避について、「租税回避の手段」として組織再編成に係る私法上の形成可能性を想定したものと解される。このことは、法人税法132条の2に関するTPR事件東京高判の次の判示(原判決引用。下線筆者。前記Ⅰで引用した判示も参照)に相呼応したものと解される。

法人税法132条の2は、組織再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用して巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものと解される(平成28年最判参照)。このように、組織再編成に係る租税回避について、これを包括的に防止するための一般的否認規定が設けられているのは、組織再編成の形態や方法が複雑、多様であり、立法の際に、組織再編成を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定した上で、個別的な否認規定を網羅的に設けることは、事柄の性質上困難であることによるものと解される。

この判示にいう「租税回避の手段」は、ヤフー事件最判が法人税法132条の2の「趣旨及び目的」に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」と同じく、組織再編成に係る私法上の形成可能性を意味すると解されるが、しかし、ヤフー事件最判が不当性要件について定立した制度濫用基準に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」、すなわち、「組織再編税制に係る各規定」は意味しない(ヤフー事件最判における2種類の「租税回避の手段」については第20回Ⅰの引用判示参照)。つまり、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避に関する筆者の租税回避手段論の用語法(前回Ⅲ3参照)によれば、TPR事件東京高判の前記判示やヤフー事件最判の前者の「租税回避の手段」は、租税回避の間接的手段であり、ヤフー事件最判の後者の「租税回避の手段」は、租税回避の直接的手段である。

以上の整理によれば、TPR事件東京高判は、②法人税法57条3項と132条の2との適用関係について判断するに当たって、ヤフー事件最判とは異なる「租税回避の手段」を想定して検討を行ったことになる。そうであるからこそ、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、「租税回避の手段」(直接的手段)としての特定資本関係5年超要件規定の濫用に対して法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったと考えられるのである。

2 TPR事件東京高判の制定法踰越的法創造

もし仮にTPR事件東京高判が法人税法132条の2の適用(「重畳的」適用)を検討する前に、②法人税法57条3項のうち特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無を判断しようとしていたとすれば、本件合併が「形式的には」特定資本関係5年超要件を充足するものの、特定資本関係5年超という「実質」を備えているとはいえないかどうかを判断しなければならなかったであろうが、しかし、そのようにはいえない場合は短期の超過期間を人為的に作出する場合等ないわけではないものの、TPR事件東京高判はそのような判断を介在させないまま、直ちに、②法人税法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無に関する判断に立ち入ったのである。

その際、TPR事件東京高判は「同条[=法人税法57条]3項が特定資本関係5年以下の組織再編成と5年超の組織再編成を区別して規定しているからといって、特定資本関係5年超の組織再編成について一般的否認規定の適用が排除されているとはいえない」(原判決引用)と判示したが、この論法によれば、同東京高判は、法人税法132条の2の適用に当たって、特定資本関係5年超要件の充足の有無にかかわらず、すなわち要するに同要件を無視して、制度濫用基準により(法文上は特定資本関係5年以内の組織再編成について定められた)みなし共同事業要件規定の濫用の有無を判断したことになろう。

このことは、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を法創造により創設したことを意味するが、そのことの根本的な問題は、そのような法創造(司法的立法)が租税法律主義の下で許容されるかどうかである。この問題を検討するに当たって、まず、②法人税法57条3項の制定の経緯及び趣旨をみておこう。

組織再編税制の立案段階では、「合併の場合には、租税回避行為を防止するための措置を講じた上、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが適当である。」(税制調査会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年10月3日)の(別紙)一 法人税における諸制度の基本的な取扱い〔繰越欠損金〕(1))という基本的考え方が確認された後も、当初は、「やはり租税回避防止というものを考えると、グループ内再編という怪しげなことが行われやすいこと」(阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎=中里実編『企業組織と租税法』(別冊商事法務252号・2002年)88頁)から、「共同で行うときには繰越欠損金を引き継ぐが、グループ内でやるときはだめだ」(同頁)という考え方が出されていたものの、共同事業による合併とグループ内再編とで「順序が違うと扱いが違う」(同89頁)という「実務的に非常に困ること」(同88頁)が明らかになったことから、次のような議論(同89頁。下線筆者)がなされ、みなし共同事業要件が定められることになった。

・・・・・・。まず合併をしてしまえばよいのに、先に持株会社をつくってしまったら、企業グループということになってしまって、そのなかでの再編については繰越欠損金は認められないというのは、あまりにもむごいではないか。これをどうしようかという議論が、10月の下旬頃から始められました。

一つの考え方は、企業グループ内の再編を同時にやったらどうか。同じタイミングで共同事業と企業グループ内の再編成をやったときには、これは認めてもよいのではないかということです。そうであれば、同じタイミングというものを少し何かでつないで、タイムラグを認めてくれてもよいのではないか、と主張されて出てきたのが、「みなし共同事業」という考え方です。

基本的にこの考え方は、企業グループ内の再編であっても、そのグループを形成してから、その各単体法人というか、各構成メンバーの姿形にあまり大きな変化がない場合は、その後のグループ内の再編成との間を一種のタイムトンネルでつないで、[共同事業による合併と]同じように考えようということです。

以上の経緯を経て定められた②法人税法57条3項について、「未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限措置を講ずる趣旨」は、「一定期間内に資本関係を有することとなった法人間で組織再編成が行われた場合に、その繰越欠損金等について制限を行うもの」であり、「企業グループ内の組織再編成については、共同で事業を営むための組織再編成に比べて適格組織再編成に該当するための要件が緩和されていることから、例えば、繰越欠損金等を有するグループ外の法人を一旦グループ内の法人に取り込んだ上で、グループ内の他の法人と組織再編成を行うこととすれば、容易に繰越欠損金等を利用することも可能となってしまうこと等が勘案されたもの」であると解説されている(中尾睦美ほか『平成13年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・2001年)199頁。下線筆者)。

要するに、法人税法57条3項は、グループ内再編による繰越欠損金の引継ぎの制限のために、まず、「タイムラグ」ないし「一定期間」として「5年」という期間を設定し特定資本関係5年超要件を規定し、「5年超」であれば未処理欠損金額の引継ぎを認め(武田昌輔監修『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規・加除式)3461の3頁も参照)、次に、「5年以内」であればみなし共同事業要件を充たす場合にのみ未処理欠損金額の引継ぎを認める、という二段階の構造を実定法化したものであり、同項の文言・法文はそのような構造を正確に表現していると考えられる。

以上の考察に基づきTPR事件東京高判の根本問題を総括すると、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を創設するという法創造(司法的立法)は、「制定法の元々の構想では定められていなかった新たな法制度を創設」する制定法踰越的法創造(Gesetzesübersteigende Rechtsfortbildung. K. Larenz, Methodenlehre der Rechtswissenschaft, 6. Aufl., Berlin 1991, 413)であるといえよう。これは、制定法の「構想に反した不完全さ(planwidwige Unvollständigkeit)」である制定法の欠缺(Gesetzeslücke)を補充する制定法内在的法創造(Gesetzesimmanente Rechtsfortbildung. S. K. Larenz, oben, 370ff.)とは異なり、租税法律主義の下で許容される余地はないと考えられる(制定法内在的法創造が許容される余地については、前掲拙著119頁以下、特に132頁以下[初出・2021年]、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【46】【49】参照)。

 

Ⅳ おわりに

今回は、TPR事件東京高判の根本問題を、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造に基づく同法132条の2の適用に認めたが、その問題の原因は、同東京高判がヤフー事件最判における両規定の「重畳的」適用の考え方を正解していなかったことにあるように思われる。

そのことについては、TPR事件東京高判が引用する原判決を対象として、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第32回Ⅲ(その見出しは「TPR事件東京地判にみられる誤解・不可解」)で述べたので繰り返さないが、ここでは、そのこと(「誤解・不可解」)に影響を与えたのではないかと思われる、同東京高判による法人税法57条3項の性格づけについて簡単に整理しておくことにする。同東京高判は同項を「個別的な否認規定」(原判決引用)として性格づけているが、そのような性格づけが、以下に述べるように、同項と132条の2との関係に関する正確な理解を妨げているように思われる。

法人税法57条3項は、確かに、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る本来的課税減免規定(同条2項)に限定・特定されているという意味では、「個別的否認規定」といえるが、しかし、租税回避の間接的手段の観点からみると、納税者が本来的課税減免規定の適用を受けるために行使する、組織再編税制に係る私法上の形成可能性を限定・特定せずそれらを一般的に否認する規定であるという意味では、組織再編成という個別分野における「一般的否認規定」というべきである。

もし仮にTPR事件東京高判が法人税法57条3項を上記の前者の意味で「個別的否認規定」と性格づけていたとすれば、同項の適用をヤフー事件最判による同法132条の2との「重畳的」適用に整合的に接合することができたであろうが、しかし、実際には、同法57条3項を租税回避の間接的手段の観点からみながら、それにもかかわらず「個別的否認規定」と性格づけた上で、同法132条の2との適用関係について判断したところにも、その判断の混乱(「誤解・不可解」)の原因があるように思われる。

これに関連して法人税法132条の2の性格づけについて付言しておくと、この規定は一般には個別分野別の「一般的否認規定」と性格づけられているところ、これは租税回避の間接的手段の観点からの性格づけであって、租税回避の直接的手段の観点からは「個別的否認規定」と性格づけられるべきである。というのも、この規定では、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る派生的課税減免規定(本来的課税減免規定の濫用否認規定に係る適用除外要件規定=否認緩和要件規定)に限定・特定されているからである。

最後に、今回の検討に関連して次の2つの点を指摘しておく。

1つには、法人税法57条3項との関係でヤフー事件最判が認めた同法132条の2の「重畳的」適用に相当するような考え方は、ドイツ税法においても租税回避の一般的否認規定(租税基本法42条)を「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」について適用するという形で議論されている。そのような議論については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第33回を参照されたい。

もう1つには、TPR事件東京高判は、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造によって、同事件の「入口」段階で特定資本関係5年超要件を無視し、同要件充足の場合についてもみなし共同事業要件を創設したと解されるが、さらにその「実体判断」の段階でも、「組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される。」(下線筆者。原判決引用判示も同旨)と判示し、完全支配関係にある法人間の適格合併についても事業継続要件を創設したと解される。このような制定法踰越的法創造はいずれにせよ租税法律主義の下では許容されないと考えるところであるが、この点については、次の見解(吉村政穂「繰越欠損金の引継ぎと組織再編成に係る行為計算否認規定の適用」税務事例研究177号(2020年)1頁、13-14頁。下線筆者)は傾聴に値する妥当な内容のほか、租税回避の一般的否認規定の適用における裁判官による法創造に関して更なる検討を要する課題も含んでいるように思われる。

以上見てきた通り、組織再編税制導入時の理念に基づいた趣旨・目的の理解は、(当時の制定法の構造はもちろんとして)その後の改正を経た現行法から導かれる理解との間に緊張関係を生じさせるものとなっている。一般的否認規定の適用には、規定の文言上は要件を充足する取引でありながらも、当該規定の趣旨・目的に反するというロジックによって効果発生を認めない、すなわち個別規定を書き換える権限が裁判所(ないし課税庁)に与えられるという性格を認めることができる。

このような構造を前提にしたとき、裁判所にはいかなる役割が期待されることになるか。もし立法府の代弁者として、立法によって語られなかった部分の補充が期待されるのだとすれば、裁判所による否認(書き換え)は、個別規定と相互補完的に機能(tandem approach)することが意識されるべきだと考える。裁判所が実際の個別規定の改正等を軽視し、立法当初における発想に拘泥することとなれば、個別規定または条文構造から読み取れる客観的な立法者意思とはかえって衝突する危険性が強くなることに留意すべきだろう。

現在の状況は納税者の予測可能性を害するものとして懸念されるとともに、慎重を期す納税者は、その危険性を認識した上で組織再編成の租税法上の取扱いについて検討をしなければならないことも事実である。その際には、明文で定められた要件のみならず、事業の継続という観点を考慮する必要がある。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第23回】

「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」

-ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は異なる個別分野別一般的否認規定(法税132条1項と132条の2)の不当性要件について統一的解釈(個別分野別不当性要件の統一的解釈)に基づく検討を行ったが、今回は個別分野別一般的否認規定について個別的否認規定との適用関係を検討する。

その検討の素材としては、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)57条3項と132条の2との適用関係に関する未処理欠損金額引継規定濫用[ヤフー]事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)と同[TPR]事件・東京高判令和元年12月11日訟月66巻5号593頁(以下「TPR事件東京高判」という)を取り上げることにする。なお、TPR事件東京高判は、原審・東京地判令和元年6月27日訟月66巻5号521頁をほぼそのまま引用し控訴審における当事者の主張に対する判断を付加するにとどまるものであるから、以下では、引用部分については「原判決引用」と付記することにする。

法人税法57条3項と132条の2との適用関係については、TPR事件東京高判に関するある評釈の中で次の見解が示されている(平川雄士「TPR事件判決はPGM事件裁決の批判的検討-法人税法57条2項の趣旨の理解は正しいのか-」週刊税務通信3720号(2022年)15頁、18-19頁)。

判示(2)の法57条(個別規定)と法132条の2の関係についても、ヤフー・IDCF事件の各下級審判決で判示された点であり、やはり特段真新しい点はない。この判示(2)は、「法人税法57条3項は、同条2項による未処理欠損金額の承継の否認とその例外の要件を全て書き尽くしたものであり、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたものである」旨の納税者の主張に対する応答としての判示であるが、同主張は、要は、法132条の2の実体判断、つまり「組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から」の「逸脱」ひいては「組織再編税制に係る各規定」の「租税回避の手段として」の「濫用」の有無という実体判断に立ち入るまでもなく、法57条3項の個別否認規定に抵触しない限り、そもそもの「入口」段階において法132条の2を適用する余地はないという主張であるものと解される。ヤフー・IDCF事件の各下級審においては、同事件がリーディングケースであったことから、同様の主張が行われていたところであり、同事件の各下級審判決は同主張を排斥している。判示(2)もかかる立場を踏襲したものといえる。このように、司法の立場は、法57条3項等の組織再編税制の個別否認規定に抵触しない場合であっても、なお法132条の2を適用し「得る」、つまり同条の実体判断を行い得るということで固まっているといえる。このため、今後の法132条の2の事案においては、納税者としては、判示(2)に係る主張を主戦場とすることは得策とは言い難いことになろう。すなわち、本論で論ずるように、上記の実体判断の点を主戦場とするほうが相対的に「筋がよい」主張となるように思われる。

確かに、TPR事件東京高判は法人税法132条の2について上記見解にいう「入口」段階で止まらず「実体判断」に立ち入ってその適用を肯定し、これに対する上告受理申立てを最高裁は不受理と決定したが(週刊税務通信3662号(2021年)8頁参照)、そうである以上、同条の適用に当たっては、上記見解の説くように、「入口」段階ではなく「実体判断」段階が「主戦場」となるということが「司法の立場」として固まっているといえるかもしれない。

しかしながら、そのように結論づけるのは早計ではないかと思われる。その前に次のような疑問の解明が必要であるように思われるからである。すなわち、TPR事件における法人税法132条の2の適用上「入口」要件ともいうべき特定資本関係5年超要件は、ヤフー事件ではそもそも問題になっておらず、同法57条3項が同要件不充足を前提として定めるみなし共同事業要件のうち特定役員引継要件の充足の有無が、いきなり・・・・、同法132条の2の「実体判断」段階で争われたが、両事件の事案の違いを前提とするこのような要件判断の違いは、同条の適用において意味をもたないのであろうか。

換言すれば、ヤフー事件最判が判示した制度濫用基準(前回Ⅲ参照)は、「組織再編税制に係る各規定」の「租税回避の手段として」の「濫用」の有無を法人税法132条の2の判断基準とするものであるが、そこでいう「組織再編税制に係る各規定」には同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件の規定も含まれるところ、ヤフー事件においてはそもそも同要件が充足されていない事案であったが故に同要件規定の「濫用」は問題にならなかったのに対して、TPR事件においては同要件が充足されている事案であったが故に、同要件の充足が同要件規定の「濫用」として同法132条の2によって否認されない限り、同法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無という「実体判断」には、同項の規定の文理からしてもその構造からしても、立ち入ることはできないはずであるが、それにもかかわらず、TPR事件東京高判はヤフー事件最判を「平成28年最判」として参照しながら次のとおり(下線筆者)判示したのはなぜであろうか。

控訴人は、本判決第2・3(1)(控訴人の主張)アのとおり、本件合併のような合併は、法人税法132条の2が適用される類型とはいえないとし、同イのとおり、法人税法57条3項は、同条2項による未処理欠損金額の承継の否認とその例外の要件を全て書き尽くしたものであり、特定資本関係5年超要件を充たす適格合併には一般的否認規定を適用しない趣旨を明確にしたものであるなどと主張する。

しかしながら、本判決で付加訂正の上引用する原判決(以下「原判決」という。)が第5・2(1)で判示するとおり、法人税法132条の2の文言上、組織再編成に係る特定の行為又は計算を否認の対象から除外する定めはないこと、同条が、租税再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものであり、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものと解されること(平成28年最判参照)からすると、本件合併のような合併について、およそ法人税法132条の2の適用がないとする控訴人の主張は理由がない。

以上のような疑問について検討するに当たって、まず、次のⅡで法人税法57条3項と132条の2との適用関係に関するヤフー事件最判の考え方を明らかにし整理しておこう。

なお、今回の検討は、基本的には、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第31回及び第32回で既に検討したところをベースにし、その後の検討も加味しつつ、行うものである。

 

Ⅱ 法人税法57条3項と132条の2との「重畳的」適用

ヤフー事件最判は、法人税法132条の2の解釈により定立した制度濫用基準への事案の当てはめに関する判示の中で、「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る各規定」として、次のとおり(下線筆者)、①法人税法57条2項、②同条3項及び③同法施行令112条7項5号の各規定を挙げている。

以上[=前記事実関係等に関する判断]を総合すると、本件副社長就任は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを定める法57条2項、みなし共同事業要件に該当しない適格合併につき同項の例外を定める同条3項及び特定役員引継要件を定める施行令112条7項5号の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるというべきである。

そうすると、本件副社長就任は、組織再編税制に係る上記各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると解するのが相当である。

この判示から明らかなように、②法人税法57条3項は①同条2項の例外規定(適用除外規定)であるが、③同法施行令112条7項5号(の定める特定役員引継要件を含むみなし共同事業要件を定める同項)は、次の判示(下線筆者)から明らかなように、②同法57条3項の例外規定(適用除外規定)とされている。

組織再編成に伴う未処理欠損金額の取扱いについても、基本的に、移転資産等の譲渡損益に係る取扱いに合わせて従前の課税関係を継続させることとするか否かを決めることとされており、適格合併が行われた場合につき、被合併法人の前7年内事業年度において生じた未処理欠損金額は、それぞれ当該未処理欠損金額の生じた前7年内事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなすものとして(法57条2項)、その引継ぎが認められるものとされている。

もっとも、適格合併には、大別して、企業グループ内の適格合併(法2条12号の8イ及びロ。本件合併もこれに含まれる。)と共同事業を営むための適格合併(同号ハ)があるところ、企業グループ内の適格合併については、共同事業を営むための適格合併よりも要件が緩和されているため、その未処理欠損金額の引継ぎを無制限に認めると、例えば、大規模な法人が未処理欠損金額を有するグループ外の小規模な法人を買収し完全子会社として取り込んだ上で、当該法人との適格合併を行うことにより、当該法人の未処理欠損金額が不当に利用されるなどのおそれがある。そこで、そのような租税回避行為を防止するため、法57条3項において、企業グループ内の適格合併が行われた事業年度開始の日の5年前の日以後に特定資本関係が発生している場合[=特定資本関係5年超要件不充足の場合]については、「当該適格合併等が共同で事業を営むための適格合併等として政令で定めるもの」(みなし共同事業要件)に該当する場合を除き、特定資本関係が生じた日の属する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額等を引き継ぐことができないものとされている。

要するに、未処理欠損金額引継ぎに関する「組織再編税制に係る各規定」は、①法人税法57条2項について②同条3項が例外規定(適用除外規定)として定められ、②同条3項については③同法施行令112条7項5号が例外規定(適用除外規定)として定められる、という規定構造を形成しているのである。

これを規定内容の観点からみると、①法人税法57条2項は被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎを定める課税減免規定であり、②同条3項は①の濫用による租税回避の否認規定であり、③同法施行令112条7項5号は特定資本関係5年超要件不充足の場合における①の濫用による租税回避の否認規定であるといえよう。

②法人税法57条3項と③同法施行令112条7項5号は、このように、結論的には、同じく①同法57条2項の濫用による租税回避の否認規定であるといえようが、しかし、論理構成の点では、否認の意味を異にする。この点についてヤフー事件最判に即して次のとおり敷衍しておこう。

税法上の課税減免規定の濫用による租税回避の場合において濫用される「課税減免規定」には、ヤフー事件に即していえば、未処理欠損金額の引継ぎを認める①法人税法57条2項(以下「本来的課税減免規定」という)が該当するほか、同規定の濫用による租税回避を否認する②同条3項について適用除外要件を定める③同法施行令112条7項5号も該当する。というのも、その適用除外要件は、いわば「否認緩和要件」として、本来的課税減免規定の濫用による租税回避が否認される場合に比べて、「課税減免」の効果をもたらすからである。その意味で、そのような「課税減免」の効果をもたらす適用除外要件(否認緩和要件)を定める③同法施行令112条7項5号は、「派生的課税減免規定」ということができよう。要するに、ヤフー事件最判は、税法上の本来的課税減免規定の濫用による租税回避それ自体を否認したのではなく、税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避を否認したのである。

税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避に対する法人税法132条の2の適用を筆者は、②同法57条3項との「重畳的」適用と呼んできた(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)236頁[初出・2015年]参照)。そのような呼称は、「個別防止規定の潜脱」に関して述べられている、法人税法57条3項と132条の2との次のような適用関係(斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税務大学校論叢73号(2012年)1頁、78-79頁。下線筆者)を念頭に置いたものである。

当該個別規定[=法人税法57条3項]の適用により制限を受けた未処理欠損金については、本規定[=同法132条の2]を適用する余地はないものと考えられるが、制限を行わないとする、いわば緩和要件であるみなし共同事業要件については、これを形式的に該当させることなどにより、当該制限を回避する場合は、重複して制限を行うことにはならないため、本規定を適用できるものと考えられる。

 

Ⅲ 制定法踰越的法創造に基づく法人税法132条の2の適用

1 TPR事件東京高判の租税回避手段論

ヤフー事件では、特定資本関係5年超要件が充足されていないことは事実関係から明らかであり当事者間でも争われていなかったので、最高裁は②法人税法57条3項の定める要件のうち特定資本関係5年超要件についてその濫用の有無を判断することなく、いきなり、③同法施行令112条7項5号の特定役員引継要件についてその濫用の有無を判断したものと解される。これに対して、TPR事件では、逆に、特定資本関係5年超要件が充足されていることについて当事者間に争いがなく、裁判所もそのことを前提として法人税法132条の2の適用について判断しこれを肯定した。

ここで注目されるのは、ヤフー事件最判が「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る規定」の1つとして②法人税法57条3項を挙げており、かつ、TPR事件東京高判がヤフー事件最判を参照しているところ、それにもかかわらず、同東京高判が同法132条の2の適用を判断するに当たって、②同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無について判断しなかったことである。このことを換言すれば、特定資本関係5年超要件規定も派生的課税減免規定の1つであるから、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、特定資本関係5年超要件規定の濫用による租税回避に対しても法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったのである。

この点について、TPR事件東京高判がその検討をしなかった理由は、②法人税法57条3項に関する次の判示(原判決引用。下線筆者)から、読み取ることができるように思われる。

法人税法57条3項は、一定期間内に特定資本関係を有することとなった法人間で組織再編成が行われた場合、共同で事業を営むための適格合併等として政令で定めるものに該当する場合を除き、特定資本関係が生じた日の属する事業年度前に生じた欠損金額等の引継ぎを制限する旨定めており、このような同項の規定の構造に鑑みても、同項は、未処理欠損金額を有するグループ外の法人をいったんグループ内の法人に取り込んだ上でグループ内の他の法人と組織再編成を行うといったグループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であって、未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く、実際にも、特定資本関係5年超要件を満たす適格合併等であっても、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われる場合が想定されないとはいい難い。そうすると、同項は、むしろ、典型的な租税回避行為としてあらかじめ想定されるものを対象として定めた具体的な否認規定にすぎないものと理解するのが自然である。

この判示は、②法人税法57条3項について「未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く」と述べているところに端的に表現されているように、租税回避の類型(第20回Ⅲ参照)のうち税法(組織再編税制)上の課税減免規定の濫用による租税回避について、「租税回避の手段」として組織再編成に係る私法上の形成可能性を想定したものと解される。このことは、法人税法132条の2に関するTPR事件東京高判の次の判示(原判決引用。下線筆者。前記Ⅰで引用した判示も参照)に相呼応したものと解される。

法人税法132条の2は、組織再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用して巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものと解される(平成28年最判参照)。このように、組織再編成に係る租税回避について、これを包括的に防止するための一般的否認規定が設けられているのは、組織再編成の形態や方法が複雑、多様であり、立法の際に、組織再編成を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定した上で、個別的な否認規定を網羅的に設けることは、事柄の性質上困難であることによるものと解される。

この判示にいう「租税回避の手段」は、ヤフー事件最判が法人税法132条の2の「趣旨及び目的」に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」と同じく、組織再編成に係る私法上の形成可能性を意味すると解されるが、しかし、ヤフー事件最判が不当性要件について定立した制度濫用基準に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」、すなわち、「組織再編税制に係る各規定」は意味しない(ヤフー事件最判における2種類の「租税回避の手段」については第20回Ⅰの引用判示参照)。つまり、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避に関する筆者の租税回避手段論の用語法(前回Ⅲ3参照)によれば、TPR事件東京高判の前記判示やヤフー事件最判の前者の「租税回避の手段」は、租税回避の間接的手段であり、ヤフー事件最判の後者の「租税回避の手段」は、租税回避の直接的手段である。

以上の整理によれば、TPR事件東京高判は、②法人税法57条3項と132条の2との適用関係について判断するに当たって、ヤフー事件最判とは異なる「租税回避の手段」を想定して検討を行ったことになる。そうであるからこそ、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、「租税回避の手段」(直接的手段)としての特定資本関係5年超要件規定の濫用に対して法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったと考えられるのである。

2 TPR事件東京高判の制定法踰越的法創造

もし仮にTPR事件東京高判が法人税法132条の2の適用(「重畳的」適用)を検討する前に、②法人税法57条3項のうち特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無を判断しようとしていたとすれば、本件合併が「形式的には」特定資本関係5年超要件を充足するものの、特定資本関係5年超という「実質」を備えているとはいえないかどうかを判断しなければならなかったであろうが、しかし、そのようにはいえない場合は短期の超過期間を人為的に作出する場合等ないわけではないものの、TPR事件東京高判はそのような判断を介在させないまま、直ちに、②法人税法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無に関する判断に立ち入ったのである。

その際、TPR事件東京高判は「同条[=法人税法57条]3項が特定資本関係5年以下の組織再編成と5年超の組織再編成を区別して規定しているからといって、特定資本関係5年超の組織再編成について一般的否認規定の適用が排除されているとはいえない」(原判決引用)と判示したが、この論法によれば、同東京高判は、法人税法132条の2の適用に当たって、特定資本関係5年超要件の充足の有無にかかわらず、すなわち要するに同要件を無視して、制度濫用基準により(法文上は特定資本関係5年以内の組織再編成について定められた)みなし共同事業要件規定の濫用の有無を判断したことになろう。

このことは、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を法創造により創設したことを意味するが、そのことの根本的な問題は、そのような法創造(司法的立法)が租税法律主義の下で許容されるかどうかである。この問題を検討するに当たって、まず、②法人税法57条3項の制定の経緯及び趣旨をみておこう。

組織再編税制の立案段階では、「合併の場合には、租税回避行為を防止するための措置を講じた上、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが適当である。」(税制調査会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年10月3日)の(別紙)一 法人税における諸制度の基本的な取扱い〔繰越欠損金〕(1))という基本的考え方が確認された後も、当初は、「やはり租税回避防止というものを考えると、グループ内再編という怪しげなことが行われやすいこと」(阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎=中里実編『企業組織と租税法』(別冊商事法務252号・2002年)88頁)から、「共同で行うときには繰越欠損金を引き継ぐが、グループ内でやるときはだめだ」(同頁)という考え方が出されていたものの、共同事業による合併とグループ内再編とで「順序が違うと扱いが違う」(同89頁)という「実務的に非常に困ること」(同88頁)が明らかになったことから、次のような議論(同89頁。下線筆者)がなされ、みなし共同事業要件が定められることになった。

・・・・・・。まず合併をしてしまえばよいのに、先に持株会社をつくってしまったら、企業グループということになってしまって、そのなかでの再編については繰越欠損金は認められないというのは、あまりにもむごいではないか。これをどうしようかという議論が、10月の下旬頃から始められました。

一つの考え方は、企業グループ内の再編を同時にやったらどうか。同じタイミングで共同事業と企業グループ内の再編成をやったときには、これは認めてもよいのではないかということです。そうであれば、同じタイミングというものを少し何かでつないで、タイムラグを認めてくれてもよいのではないか、と主張されて出てきたのが、「みなし共同事業」という考え方です。

基本的にこの考え方は、企業グループ内の再編であっても、そのグループを形成してから、その各単体法人というか、各構成メンバーの姿形にあまり大きな変化がない場合は、その後のグループ内の再編成との間を一種のタイムトンネルでつないで、[共同事業による合併と]同じように考えようということです。

以上の経緯を経て定められた②法人税法57条3項について、「未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限措置を講ずる趣旨」は、「一定期間内に資本関係を有することとなった法人間で組織再編成が行われた場合に、その繰越欠損金等について制限を行うもの」であり、「企業グループ内の組織再編成については、共同で事業を営むための組織再編成に比べて適格組織再編成に該当するための要件が緩和されていることから、例えば、繰越欠損金等を有するグループ外の法人を一旦グループ内の法人に取り込んだ上で、グループ内の他の法人と組織再編成を行うこととすれば、容易に繰越欠損金等を利用することも可能となってしまうこと等が勘案されたもの」であると解説されている(中尾睦美ほか『平成13年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・2001年)199頁。下線筆者)。

要するに、法人税法57条3項は、グループ内再編による繰越欠損金の引継ぎの制限のために、まず、「タイムラグ」ないし「一定期間」として「5年」という期間を設定し特定資本関係5年超要件を規定し、「5年超」であれば未処理欠損金額の引継ぎを認め(武田昌輔監修『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規・加除式)3461の3頁も参照)、次に、「5年以内」であればみなし共同事業要件を充たす場合にのみ未処理欠損金額の引継ぎを認める、という二段階の構造を実定法化したものであり、同項の文言・法文はそのような構造を正確に表現していると考えられる。

以上の考察に基づきTPR事件東京高判の根本問題を総括すると、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を創設するという法創造(司法的立法)は、「制定法の元々の構想では定められていなかった新たな法制度を創設」する制定法踰越的法創造(Gesetzesübersteigende Rechtsfortbildung. K. Larenz, Methodenlehre der Rechtswissenschaft, 6. Aufl., Berlin 1991, 413)であるといえよう。これは、制定法の「構想に反した不完全さ(planwidwige Unvollständigkeit)」である制定法の欠缺(Gesetzeslücke)を補充する制定法内在的法創造(Gesetzesimmanente Rechtsfortbildung. S. K. Larenz, oben, 370ff.)とは異なり、租税法律主義の下で許容される余地はないと考えられる(制定法内在的法創造が許容される余地については、前掲拙著119頁以下、特に132頁以下[初出・2021年]、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【46】【49】参照)。

 

Ⅳ おわりに

今回は、TPR事件東京高判の根本問題を、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造に基づく同法132条の2の適用に認めたが、その問題の原因は、同東京高判がヤフー事件最判における両規定の「重畳的」適用の考え方を正解していなかったことにあるように思われる。

そのことについては、TPR事件東京高判が引用する原判決を対象として、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第32回Ⅲ(その見出しは「TPR事件東京地判にみられる誤解・不可解」)で述べたので繰り返さないが、ここでは、そのこと(「誤解・不可解」)に影響を与えたのではないかと思われる、同東京高判による法人税法57条3項の性格づけについて簡単に整理しておくことにする。同東京高判は同項を「個別的な否認規定」(原判決引用)として性格づけているが、そのような性格づけが、以下に述べるように、同項と132条の2との関係に関する正確な理解を妨げているように思われる。

法人税法57条3項は、確かに、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る本来的課税減免規定(同条2項)に限定・特定されているという意味では、「個別的否認規定」といえるが、しかし、租税回避の間接的手段の観点からみると、納税者が本来的課税減免規定の適用を受けるために行使する、組織再編税制に係る私法上の形成可能性を限定・特定せずそれらを一般的に否認する規定であるという意味では、組織再編成という個別分野における「一般的否認規定」というべきである。

もし仮にTPR事件東京高判が法人税法57条3項を上記の前者の意味で「個別的否認規定」と性格づけていたとすれば、同項の適用をヤフー事件最判による同法132条の2との「重畳的」適用に整合的に接合することができたであろうが、しかし、実際には、同法57条3項を租税回避の間接的手段の観点からみながら、それにもかかわらず「個別的否認規定」と性格づけた上で、同法132条の2との適用関係について判断したところにも、その判断の混乱(「誤解・不可解」)の原因があるように思われる。

これに関連して法人税法132条の2の性格づけについて付言しておくと、この規定は一般には個別分野別の「一般的否認規定」と性格づけられているところ、これは租税回避の間接的手段の観点からの性格づけであって、租税回避の直接的手段の観点からは「個別的否認規定」と性格づけられるべきである。というのも、この規定では、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る派生的課税減免規定(本来的課税減免規定の濫用否認規定に係る適用除外要件規定=否認緩和要件規定)に限定・特定されているからである。

最後に、今回の検討に関連して次の2つの点を指摘しておく。

1つには、法人税法57条3項との関係でヤフー事件最判が認めた同法132条の2の「重畳的」適用に相当するような考え方は、ドイツ税法においても租税回避の一般的否認規定(租税基本法42条)を「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」について適用するという形で議論されている。そのような議論については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第33回を参照されたい。

もう1つには、TPR事件東京高判は、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造によって、同事件の「入口」段階で特定資本関係5年超要件を無視し、同要件充足の場合についてもみなし共同事業要件を創設したと解されるが、さらにその「実体判断」の段階でも、「組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される。」(下線筆者。原判決引用判示も同旨)と判示し、完全支配関係にある法人間の適格合併についても事業継続要件を創設したと解される。このような制定法踰越的法創造はいずれにせよ租税法律主義の下では許容されないと考えるところであるが、この点については、次の見解(吉村政穂「繰越欠損金の引継ぎと組織再編成に係る行為計算否認規定の適用」税務事例研究177号(2020年)1頁、13-14頁。下線筆者)は傾聴に値する妥当な内容のほか、租税回避の一般的否認規定の適用における裁判官による法創造に関して更なる検討を要する課題も含んでいるように思われる。

以上見てきた通り、組織再編税制導入時の理念に基づいた趣旨・目的の理解は、(当時の制定法の構造はもちろんとして)その後の改正を経た現行法から導かれる理解との間に緊張関係を生じさせるものとなっている。一般的否認規定の適用には、規定の文言上は要件を充足する取引でありながらも、当該規定の趣旨・目的に反するというロジックによって効果発生を認めない、すなわち個別規定を書き換える権限が裁判所(ないし課税庁)に与えられるという性格を認めることができる。

このような構造を前提にしたとき、裁判所にはいかなる役割が期待されることになるか。もし立法府の代弁者として、立法によって語られなかった部分の補充が期待されるのだとすれば、裁判所による否認(書き換え)は、個別規定と相互補完的に機能(tandem approach)することが意識されるべきだと考える。裁判所が実際の個別規定の改正等を軽視し、立法当初における発想に拘泥することとなれば、個別規定または条文構造から読み取れる客観的な立法者意思とはかえって衝突する危険性が強くなることに留意すべきだろう。

現在の状況は納税者の予測可能性を害するものとして懸念されるとともに、慎重を期す納税者は、その危険性を認識した上で組織再編成の租税法上の取扱いについて検討をしなければならないことも事実である。その際には、明文で定められた要件のみならず、事業の継続という観点を考慮する必要がある。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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