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空き家をめぐる法律問題 【事例37】「ライフラインの設備の設置・使用に関する民法改正」

空き家をめぐる法律問題 【事例37】 「ライフラインの設備の設置・使用に関する民法改正」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 自宅の土地は公道と接しておらず、公道の地下に埋設されている給水管に接続することができなかったため、以前から隣地の空き地部分に給水用配管を設置してきました。給水用配管も老朽化してきたこともあり、令和5年4月以降に取替工事を行うことを検討しています。 隣地は空き家となっており、隣家の方の連絡先や行方も分かりません。このような場合に、どのようにして給水用配管の取替工事を行えばよいでしょうか。   1 ライフラインの設備の設置等に関する民法改正の経緯 現代の生活において、電気、水道、ガス等のライフラインの確保は必要不可欠である。しかし、民法には、ライフラインを確保するために、他人の所有地に導管等の設備を設置することや、他人の所有する導管等の設備を使用することに関する一般的規定が置かれていなかった。そこで、所有者不明土地問題に関する民法改正の一環として、ライフラインの設備の設置権等に関する一般的規定が新設された。なお、以下、改正前の民法を「改正前民法」と表記し、改正後の民法を「改正後民法」と表記する。   2 民法改正前までの裁判例の状況 改正前民法には、①高地の所有権者の低地への排水権(民法第220条)や②高地又は低地の所有権者が所有する通水設備の使用権(同法第221条)に関する規定のような、ライフラインに関する規定が限定的に置かれていた。また、下水道に関しては、前記各条の特則である下水道法第11条が、他人の土地に排水設備を設置し、他人の設置した排水設備を使用できることを認めていた。 他方で、裁判例においては、民法改正前から、上記各規定の場面に限らず、ライフラインを確保するために他人の所有地に導管等の設備を設置等することは認められてきた。 もっとも、その法的根拠は、①民法第220条を類推適用するものや、②同法第209条、同第210条、同第220条、同第221条や下水道法第11条の趣旨を類推適用するものなどがあり、必ずしも統一されていなかった(なお、設備の設置ではなく、既設の設備の利用の可否が争われた最判平成14年10月15日民集56巻8号1791頁は、民法第220条及び同法第221条の類推適用と判示していた)。 また、類推適用による法的効果(権利の内容)についても判断は分かれており、①土地の所有権者は一定の場合に他人の所有地に設備を設置し、既設の設備を利用する権利を有するとするものや、②設備の設置等の承諾を求める権利を有するとするものなどがみられた。なお、②は、地方公共団体が工事に先だって利害関係人の承諾を求めてくることに対応することを意図したものとされている。   3 ライフラインの設備の設置権等に関する規定の内容 (1) 設備設置権・設備使用権の新設 改正後民法においては、土地の所有権者は、他人の土地(注:隣地や囲繞地に限られない)に配管等の設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ、電気、ガス、水道等の供給を受けられない場合、損害が最も少ない方法によって、他人の土地に設備を設置し、他人が所有する設備を使用する権利を有することとされた(改正後民法第213条の2第1項、同条第2項)。 立法過程では、下級審裁判例のように、設備の設置等の承諾を求める権利とすることも提案されていたが、承諾を求める権利の内容が明らかではない等の批判を受けて、端的に設備設置権・設備使用権とすることとされた。ただし、設備設置権や設備使用権は土地の所有権者に認められた権利ではあるが、自力救済まで認めるものではない。 (2) 2種類の通知義務と留意点 土地の所有権者は、設備設置権や設備使用権を行使する場合、設備を設置する土地の所有権者や設備の所有権者、現に土地を利用している者に対して、あらかじめ目的、場所、方法を通知しなければならない(改正後民法第213条の2第3項)。この通知は、隣地使用権の事後の通知の規定(改正後民法第209条第3項ただし書)が準用されていないため、通知の名宛人が行方不明の場合等には公示による意思表示(民法第98条)による必要がある。 なお、当該設備を現に使用している当該設備の所有権者以外の者がいる場合、法律上、当該者に対する通知は求められていないが、事実上、通知を行っておくことが望ましいとされている。 また、土地の所有権者は、設備設置権や設備使用権を行使するために、設備を設置する土地や設備が設置された土地を利用することができる。この場合、隣地使用権の規定に準じて通知等を行う必要がある(改正後民法第213条の2第4項)。この通知は、設備設置権・設備使用権を行使する際の通知と同時に行うこともできる。 (3) 償金の支払義務 設備設置権者は、設備の設置工事等のために一時的に土地の利用を制約し、その後も継続的に土地の利用を制約することになるため、設備設置権の行使を受ける者に対して償金の支払義務を負う。また、設備使用権者も設備の接続工事等のために一時的に土地の利用を制約することになるため、設備使用権の行使を受ける者に対して償金の支払義務を負うほか、設備の設置、改築、修繕、維持に要する費用を分担しなければならない。 【償金の種類等】 (※) 条文番号はいずれも改正後民法。   4 改正後民法の適用関係 改正後民法は令和5年4月1日から施行され、個別の経過措置がない限り施行日より前から発生している権利義務関係についても改正後民法が適用されることになる。設備設置権や設備使用権に個別の経過措置は規定されていないため、施行日より前から他の土地に設備を設置していたり、既設の設備を使用している場合であっても、施行日以降は改正後民法が適用されることになる。   5 本件について 給水用配管の取替工事(=新たな設備の設置)は令和5年4月以降に予定されているため、改正後民法第213条の2の適用を受けることになる。また、取替工事のために隣地を使用する必要があるため、給水用配管の取替えを行うこと及び土地を利用することの通知をする必要があるところ、隣地の所有権者が行方不明であるため、公示による意思表示の方法によって通知を行うことになると考えられる。 次に、隣地の所有権者が行方不明である場合に、訴訟を経ずに設備設置権を行使することが違法な自力執行に当たらないか問題となりうる。この問題に関して、法務省の見解によれば、隣地を実際に使用している者がおらず、かつ設備の設置等が妨害されるおそれもないような場合には、訴訟を経ずに設備の設置を適法に行えることが示されている。 従前から同じ場所に給水用配管が長期間設置されてきたことや、隣地が空き家となっていることからすると、隣地の所有権者が給水用配管の取替工事を妨害するおそれは低いと考えられる。したがって、訴訟を経ずに給水用配管の取替工事を行うことができる。 また、隣地の所有権者に対する償金を支払う必要があるかも問題となりうる。個別の判断にならざるを得ないが、取替工事時に隣地の所有権者に実損害が発生せず、取替工事後も空き家の利用を制限しないような場合には償金の支払義務が発生しないこともありうるように思われる。 (了)

#No. 464(掲載号)
#羽柴 研吾
2022/04/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第55話】「過少申告加算税等の加重措置」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第55話】 「過少申告加算税等の加重措置」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・最近の税制改正は、いい加減な納税者に対して、厳しい対応を採る内容になっていると思わない?」 久しぶりに、中尾統括官は、浅田調査官を誘って、軽く1、2杯ということで、居酒屋で飲んでいる(新型コロナウイルス対策を徹底している居酒屋にて、マスク会食をしていることを申し添えておく)。 「もっとも、我々の仕事にとっては、都合が良いけれどもね・・・」 中尾統括官は、焼酎のお湯割に口を付ける。 コロナ禍で、2人とも、長い間、外でほとんど飲んでいなかったので、飲む動作が何となくぎこちない。 「また、仕事の話ですか?」 浅田調査官は、生ビールを飲みながら、顔をしかめる。 「まあ、まあ、そう言わずに、聞いてくれ・・・君と話をするときは、税金のことしか頭に浮かばないのだから・・・」 中尾統括官は、苦笑いをする。 そう言いながら、中尾統括官は、カバンから『令和4年度税制改正大綱』を取り出して、「納税環境整備」の箇所を開く。 「・・・この中に・・・帳簿の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の整備・・・という項目がある・・・」 そう言うと、中尾統括官は、カッコ書きを飛ばして、それを読み上げる。 読み終えると、中尾統括官は、冷めた焼酎を口に運ぶ。 「・・・これは、売上金額などをごまかした帳簿を納税者が税務職員に対して、提示又は提出をすると、ペナルティーが重くなるということですか?」 1杯目の生ビールで、既に顔に赤みが差している浅田調査官が訊ねる。 「例えば、税務調査中に、税務職員が納税者に対して、帳簿の提示又は提出を求めた場合、それに従わなかったときやその帳簿の売上金額等の記載が著しく不十分又は不十分の場合には、ペナルティーが加重されるということになる」 中尾統括官が答える。 「・・・その著しく不十分とか不十分は・・・どのように判定するのですか?」 頬を染めている浅田調査官は、質問を終えると、生ビールを注文する。 中尾統括官は、テーブルの上に罫紙を置き、図を描く。 「この10%又は5%の加算は、過少申告加算税と無申告加算税についてで・・・それから一定帳簿とは、仕訳帳とか総勘定元帳などが該当することになる」 浅田調査官が大綱の内容を確認する。 「これによって・・・国税通則法65条と66条が改正されることになる・・・まだ、改正された条文は見ていないけれど・・・」 と言うと、中尾統括官も2杯目の焼酎を注文する。 「ところで、君は、国税通則法65条の規定を読んで、過少申告加算税の額を計算できる?」 中尾統括官は、さすがに顔は赤くなっていない。 「・・・例えば・・・法人税の当初申告税額が300万円であったが、税務調査の結果、その申告税額が800万円(修正申告)となったとする・・・そして、その調査中、税務職員から帳簿の提示を求められ、納税者は、著しく不十分な帳簿を提示していたとする・・・そうすると、過少申告加算税はいくらになるか?」 中尾統括官は、お酒が入っても、計算には自信があるらしい。 「ややこしいですね」 浅田調査官も、スマートフォンで、国税通則法65条を検索し、考え始める。 「・・・この規定では・・・次のように過少申告加算税を計算することになるのでは・・・」 そう言うと、浅田調査官は、罫紙の上に図を描き始める。 「・・・しかし、令和4年度税制改正が導入されると、更に、10%(50万円)が加重されることになりますから、過少申告加算税の額は、110万円になる・・・これって、納税者には重いペナルティーになりますね・・・この法律は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税から適用されますから、まだ時間はありますが・・・」 浅田調査官は、グラスに残っているビールを飲み干すと、腕時計を見ながら、「そろそろ帰りましょうか」と中尾統括官に告げる。 (つづく)

#No. 464(掲載号)
#八ッ尾 順一
2022/04/07

《速報解説》 会計士協会、法人税等会計基準等の改正案を受け、「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」を含む5つの公開草案を公表

《速報解説》 会計士協会、法人税等会計基準等の改正案を受け、 「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」を含む5つの公開草案を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年3月30日、日本公認会計士協会は、次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、同日、企業会計基準委員会が公表した企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」等を受けたものである。 意見募集期間は2022年6月8日までである。 文中、意見に関する部分は私見であることを申し添える。   Ⅱ 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税) 企業会計基準委員会の公開草案では、原則的な方法として、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することが提案されている(法人税等会計基準改正案5項、5-2項)。 そのため、外貨建取引等実務指針等の改正(案)では、株主資本及びその他の包括利益の各項目(評価差額及び繰延ヘッジ損益等)について、従来の繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することに加えて、各項目に対して課税された法人税等の額についても控除した金額を計上することとする。   Ⅲ グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 企業会計基準委員会の公開草案では、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、連結財務諸表上のみ、売却時に税金費用を計上しないようにすることが提案されている。 そのため、持分法適用会社における留保利益、のれんの償却額、負ののれんの処理額及び欠損金について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11)に該当する当該持分法適用会社の株式売却の意思決定を行った場合には、税効果を認識しないようにする。   Ⅳ 適用時期等 改正後の「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)等を適用する連結会計年度及び事業年度から適用することを予定している。 (了)

#No. 463(掲載号)
#阿部 光成
2022/04/04

《速報解説》 ASBJが「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正案を公表~税金費用の計上区分及びグループ法人税制適用の場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いを示す~

《速報解説》 ASBJが「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正案を公表 ~税金費用の計上区分及びグループ法人税制適用の場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いを示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年3月30日、企業会計基準委員会は、次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、次の2つの論点についての取扱いを示すものである。 意見募集期間は2022年6月8日までである。 なお、上記の公開草案を受けて、日本公認会計士協会の実務指針等を改正する公開草案も公表されている。 文中、意見に関する部分は私見であることを申し添える。   Ⅱ 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税) 1 概要 その他の包括利益に計上された取引又は事象が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合がある。 公開草案は、その他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分について見直しを行うものである。 2 その他の包括利益に対して課税されるケース 公開草案の対象となるものとして、例えば、次のようなケースが考えられる。 なお、株主資本に対して課税される場合については、すでに「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)等において規定されており、⑤の場合を除いて、公開草案による影響はない。 3 会計処理の見直し 原則的な方法として、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上する(法人税等会計基準改正案5項、5-2項)。 例外的な方法として、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができる(法人税等会計基準改正案5-3項(2))。 これに該当する取引として、公開草案では、退職給付に関する取引が想定されている。 また、重要性が乏しい場合の取扱いとして、損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができることとする(法人税等会計基準改正案5-3項(1))。 4 株主資本及びその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱い 株主資本及びその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱いとして、次のことを規定する(法人税等会計基準改正案5-4項)。 税効果適用指針28項では、子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合において、親会社の持分変動による差額として計上される資本剰余金から控除する法人税等相当額は、売却元の課税所得や税金の納付額にかかわらず、原則として、親会社の持分変動による差額に法定実効税率を乗じて計算すると規定されている(法人税等会計基準改正案29-8項)。 公開草案は、実務上の配慮は、税効果適用指針で定める取引以外についても同様に必要になると考えられることなどから、上記の規定を提案している。 5 その他の包括利益の組替調整に関する取扱い その他の包括利益の組替調整(リサイクリング)に関する取扱いとして、次のことを規定する(法人税等会計基準改正案5-5項)。 6 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の取扱い 税効果適用指針30項における、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩す(税効果適用指針改正案9項(3)、30項、31項)。 7 その他の包括利益の開示に関する取扱い 「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)8項における、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「税金費用(法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及びそれらに関する税効果の金額をいう。)の金額」に改正する(包括利益会計基準改正案8項)。   Ⅲ グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11))に係る税効果の取扱いについて、以下に述べるように改正する。 なお、公開草案の規定する会計処理が適用されるのは、100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士あるいは当該親会社とその100%子会社との間で、当該親会社あるいはその100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合である。 1 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11)、連結財務諸表において次の処理を行う(税効果適用指針改正案39項、143項、143-2項、22項、23項、105-2項、106-2項)。 2 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法61条の11)、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における処理については、現行の税効果適用指針17項の取扱い(当該売却損益に係る一時差異について、税効果適用指針8項及び9項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する)を見直さない(税効果適用指針改正案143-2項)。   Ⅳ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 なお、会計方針の変更に関する取扱いに注意する。 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられるため、特段の経過的な規定を設けない予定である。 (了)

#No. 463(掲載号)
#阿部 光成
2022/04/04

《速報解説》 令和4年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律」が3月31日付官報:特別号外第37号にて公布~施行日は原則4月1日~

《速報解説》 令和4年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」が 3月31日付官報:特別号外第37号にて公布 ~施行日は原則4月1日~   Profession Journal編集部   令和4年度税制改正関連法が3月22日(火)の参議院本会議で可決・成立し、3月31日(木)の官報特別号外第37号にて「所得税法等の一部を改正する法律」が公布された(法律第4号)。施行日は原則令和4年4月1日(法附則第1条)。地方税関係の改正法である「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第1号)。 なお今年度改正では、予想されていた抜本的な制度改正は見送られ、成長と分配の好循環の実現に向けた賃上げ税制の抜本的見直しや過去に会計検査院から指摘を受けた事項への手当として、住宅借入金等特別控除制度の見直しや企業の事務負担等軽減を目的に、完全子会社株式等(株式保有割合100%)の配当に係る源泉徴収を行わない(所得税を課さない)こととする等の措置のほか、明日(4月1日)より制度開始となるグループ通算制度の投資簿価修正に関する見直しなど、整備を中心とした改正が実現する。 *  *  * 以下では主な法律、政令、省令等の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については毎週木曜日公開号において、専門家による解説記事を順次掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された令和4年度税制改正関連の情報については「令和4年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを併せて参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた主な改正情報については、すでに本誌掲載済みの「令和4年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:令和4年3月31日付(特別号外第37号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則等の一部を改正する省令 所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則第14条第2項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第3条の規定による改正前の法人税法の一部改正(第3条関係) 地方法人税法の一部改正(第4条関係) 地方法人税法施行規則の一部を改正する省令 相続税法の一部改正(第5条関係) 相続税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法の一部改正(第6条関係) 登録免許税法施行令の一部を改正する政令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第7条関係) 消費税法施行令等の一部を改正する政令 消費税法施行規則等の一部を改正する省令 自動車重量税法の一部改正(第8条関係) 自動車重量税法施行令の一部を改正する政令 自動車重量税法施行規則の一部を改正する省令 国税通則法の一部改正(第9条関係) 国税通則法施行令等の一部を改正する政令 国税通則法施行規則及び国税収納金整理資金事務取扱規則の一部を改正する省令 所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則第14条第2項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第13条の規定による改正前の国税通則法の一部改正(第10条関係) 租税特別措置法の一部改正(第11条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・地価税関係 ・登録免許税関係 ・消費税関係 ・酒税関係 ・たばこ税関係 ・揮発油税・地方揮発油税関係 ・石油石炭税関係 ・航空燃料税関係 ・自動車重量税関係 ・国際観光旅客税関係 ・印紙税関係 ・利子税等関係 租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・地価税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・地価税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 ・延滞税関係 所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則第14条第2項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第16条の規定による改正前の租税特別措置法の一部改正(第12条関係) 税理士法の一部改正(第13条関係) 税理士法施行令及び国税審議会令の一部を改正する政令 税理士法施行規則の一部を改正する省令 輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律の一部改正(第14条関係) 輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律施行令の一部を改正する政令 輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第15条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第16条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第17条関係) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第18条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令等の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則等の一部を改正する省令 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第19条関係) 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)の一部改正(第20条関係) 酒税法施行令の一部を改正する政令 酒税法施行規則の一部を改正する省令 たばこ税法施行令の一部を改正する政令 揮発油税法施行令の一部を改正する政令 石油ガス税法施行令の一部を改正する政令 石油石炭税法施行令の一部を改正する政令 自動車重量税法施行令の一部を改正する政令 自動車重量税法施行規則の一部を改正する省令 災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令の一部を改正する政令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する省令の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令等の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則等の一部を改正する省令 復興特別所得税に関する政令の一部を改正する政令 法人税法施行令等の一部を改正する政令の一部を改正する政令 法人税法施行規則等の一部を改正する省令の一部を改正する省令 電子情報処理組織を使用して処理する場合における国税等の徴収関係事務等の取扱いの特例に関する省令及び税関関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令の一部を改正する省令 国税徴収法施行規則の一部を改正する省令 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 国税質問検査章規則の一部を改正する省令 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令の一部を改正する省令 地方税法等の一部を改正する法律  ( 附 則 ) ・1条関係 ・2条関係 地方税法施行令等の一部を改正する政令(一三三) 地方税法施行規則等の一部を改正する省令(総務二七) ▷その他の主な関係法令・告示 中小企業等経営強化法施行規則の一部を改正する省令 地方税法施行規則第三条の三の二第三項、第五条の二第三項、第十条第五項、第十条の二の八第三項及び第二十四条の三十九第三項に規定する情報通信の技術の利用における安全性及び信頼性を確保するために必要な基準の一部を改正する件 特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律第二十八条の規定に基づく特定高度情報通信技術活用システムの適切な提供及び維持管理並びに早期の普及に特に資するものとして経済産業大臣及び総務大臣が定める基準の一部を改正する告示 特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律第二十八条の規定に基づく特定高度情報通信技術活用システムを構成する上で重要な役割を果たすものとして経済産業大臣及び総務大臣が定めるものの一部を改正する告示 特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律第二十八条の規定に基づく主務大臣の確認に関する手続の一部を改正する告示 法人税法施行規則第五十九条第三項(同令第二十六条の三第二項、第六十二条及び第六十七条第三項において準用する場合を含む。)の規定に基づき、法人税法施行規則第八条の三の十第三項(同令第二十六条の三第四項及び第三十七条の三の二第三項において準用する場合を含む。)及び第五十九条第三項(同令第二十六条の三第三項、第二十六条の五第二項、第三十七条の三の二第四項、第六十二条及び第六十七条第三項において準用する場合を含む。)に規定する保存の方法を定める件の一部を改正する件 登録免許税法別表第二独立行政法人の項の規定に基づき、自己のために受ける登記等につき登録免許税を課さない独立行政法人を指定する件及び登録免許税法別表第三の十九の二の項の規定に基づき、自己のために受ける登記等につき登録免許税を課さない独立行政法人等を指定する件の一部を改正する件 国税庁長官の権限に属する事務の一部を国税局長及び税務署長に取り扱わせる件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第一項第二号に規定する国税庁長官が定める者を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第三項第四号に規定する国税庁長官が定める添付書面等を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第四項、法人税法施行規則第三十六条の三の二第六項及び第三十七条の十五の二第六項、地方法人税法施行規則第八条第六項並びに消費税法施行規則第二十三条の四第五項の規定に基づき国税庁長官が定めるファイル形式を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第三項第三号に規定する国税庁長官が定める添付書面等及び国税庁長官が定めるものを定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第五項に規定する国税庁長官が定める添付書面等を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条の二第一項に規定する国税庁長官が定める申請等を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条の二第一項に規定する国税庁長官の定める基準を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第一項第二号に規定する国税庁長官が定める措置を定める件 租税特別措置法施行規則第二十一条第一項等に規定する経済産業大臣の認定に関する手続き等の一部を改正する告示 租税特別措置法第四十一条の十九の三第十項第一号に掲げる工事が行われた家屋と一体となって効用を果たす太陽光の利用に資する設備として経済産業大臣が財務大臣と協議して指定する設備に係る告示の一部を改正する告示 地方税法施行規則第三条の二の十九第一項の規定に基づき、平成三十年国土交通省告示第九百十三号の一部を改正する告示 地方税法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴い、令和二年国土交通省告示第八百五十号の一部を改正する告示を定める件 地方税法施行規則の規定に基づく国土交通大臣が総務大臣と協議して定める書類を定めた告示の一部を改正する件 地方税法施行規則附則第六条第八十項及び第八十一項の規定に基づき、国土交通大臣が総務大臣と協議して定める書類を定める件 租税特別措置法施行規則第十八条の二十一第八項第一号チの規定に基づく書類を定める件 租税特別措置法施行規則第十八条の二十一第十八項の規定に基づく書類を定める件 租税特別措置法施行規則第十八条の二十一第十六項の規定に基づく書類及び同条第十七項の規定に基づく書類を定める件 租税特別措置法施行令第二十六条第二十三項の規定に基づく基準及び同条第二十四項の規定に基づく基準を定める件 (了)

#No. 463(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/03/31

プロフェッションジャーナル No.463が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年3月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.463を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/03/31

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第12回】「借用概念論の伝統的・本来的意義とその形式的外縁」-サプリメント購入費医療費控除事件・東京高判平成27年11月26日訟月62巻9号1616頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第12回】 「借用概念論の伝統的・本来的意義とその形式的外縁」 -サプリメント購入費医療費控除事件・東京高判平成27年11月26日訟月62巻9号1616頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 本連載では、基本的には、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)の叙述の順に従って、それぞれの箇所で取り上げている「税法基本判例」を順次検討していくことにしているが(第1回Ⅰ参照)、今回は、借用概念論(上掲拙著【50】以下参照)に関して特にその議論の射程を検討しておきたい。 今回取り上げる判例は、サプリメント購入費医療費控除事件・東京高判平成27年11月26日訟月62巻9号1616頁(以下「本判決」という)である。本判決は、まず、原審・東京地判平成27年5月12日訟月62巻9号1640頁の次の判示(以下「判示①」という。下線筆者)を引用している。 この判示①は、他の(本来の)法分野からの概念の借用という枠組み(以下「概念借用枠組み」という)を前提にして、税法上の概念の解釈を行っているが、この点に着目すれば、借用概念論に基づく判断を示したものといってよいのかもしれない。   Ⅱ 借用概念論の伝統的・本来的意義 もっとも、借用概念論は、学説史的には、「税法と私法」論との密接な関連において展開されてきたことに異論はなかろう(金子宏『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)386頁以下[初出・1978年]のほか、特にドイツの議論に関しては差し当たり中川一郎編『税法学体系〔全訂増補版〕』(ぎょうせい・1977年)【42】[中川一郎執筆]参照)。 「税法と私法」論は、「租税は、私的部門で生産された富の一部を国家の手に移すための手段であり、私的部門における財貨の生産と交換は私法の規律するところであるから、租税法は私法と密接な関係をもっている。」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)126頁)あるいは「課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済効果に則してされるものであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われる」(大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁。大阪高判平成14年6月14日訟月49巻6号1843頁等参照)というような認識に基づき、展開されてきた議論であるが、原理的には私法関係準拠主義に基礎を置く議論であると考えられる。 私法関係準拠主義とは、私法上の行為に基づいて現実に発生している経済的成果を、私法上の法律関係によって把握する、という税法の根本規律ないし構造的規律をいう(前掲拙著【60】)。この規律は、租税国家における「税法の世界」(これの図については前掲拙著【2】、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第50回参照)では税法が自由主義という憲法の根本原理によって規律されていること(自由主義的税法であること)から導き出されると考えられる。 もっとも、私法関係準拠主義は、私法上の行為に基づいて現実に生じている経済的成果を税法が把握する場合におけるその把握の仕方に関する規律であって、立法者が課税要件を定めるに当たって私法上の概念を借用することを論理必然的に要請するものではない。とはいえ、実際の租税立法においては、立法技術上の便宜としてそのような借用が行われることが多かったし今日でも多いのは事実である。 ここに、借用概念論が税法の解釈論上の重要問題として長く議論されてきた実質的基盤が認められるのである。しかも、借用概念論は、借用概念を税法独自の概念(固有概念)と区別することによって「租税法の解釈に関する錯綜した議論を多少とも整理し、またいわゆる実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈をもち込むことに対して歯止めをかけること」(金子・前掲『租税法理論の形成と解明 上巻』386頁)という、税法解釈論上の実践的な意図をもって展開されてきたものとみてよい。 そのような実践的意図は、借用概念と固有概念とで解釈の仕方に違いを認め、借用概念の解釈について統一説(私法におけると同様の意味に解釈すべきであるとする見解)を支持すること(わが国における通説・判例。前掲拙著【52】参照)によって、最もよく達成することができると考えられる。というのも、独立説(固有概念と同じく税法独自の意味に解釈すべきであるとする見解)は勿論、目的適合説(固有概念と同じく目的論的解釈を貫徹すべきであるとする見解)においても、税法の法文・文言から離れた、実質主義による場合と同じ自由な解釈(前掲拙著【42】、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第6回参照)が行われるおそれがあるのに対して、統一説においては、私法におけると同様の意味に解釈することによって、税法独自の意味での解釈や目的論的解釈を排除し、もって実質主義による場合と同じ自由な解釈の余地をなくすことができるからである。 借用概念論を検討するに当たっては、以上で述べたような借用概念論の伝統的・本来的な意義を忘れてはならないと考えるところである。   Ⅲ 借用概念論の形式的外縁 これに対して、近時は、税法が他の(本来の)法分野といっても私法ではなく行政規制法令から概念を借用すること(「行政規制法令からの借用概念」)が借用概念論において議論される場合が、増えてきているように思われる(この点については、佐藤英明『スタンダード所得税法〔第3版〕』(弘文堂・2022年)513頁以下のほか金子・前掲『租税法』126頁注7参照)。 本判決の前掲判示①(原審判決引用判示)もそのような場合の1つといってよかろう。ただ、本判決はその判示①に続けて次のとおり判示している(以下「判示②」という。下線筆者)。 この判示②も判示①と同じく、所得税法上の医療費控除制度にいう「医薬品」(73条2項)の概念が薬事法2条1項の「医薬品」の概念を借用したものであるという枠組み(概念借用枠組み)を前提としてはいるが、しかし、判示②それ自体は、借用概念論の前記の実践的な意図に基づくものといえないし、そもそもそのような意図を「医薬品」の解釈において問題にすらしていない。 換言すれば、本判決は、判示②において薬事法の趣旨・目的と所得税法上の医療費控除制度の趣旨・目的との違いから「医薬品」の意義及び範囲に「自ずから違いがある」と判示していることからすると、両法分野における目的論的解釈によってそれぞれの分野における「医薬品」の意義及び範囲を明らかにしたものであって、伝統的・本来的な意義での借用概念論の射程内にある判決とはいえない。 このようにみてくると、本判決の概念借用枠組みについては、「それを『借用』と呼ぶかどうかは表現の問題でしかない」(佐藤・前掲書515頁)といわざるを得ないであろう。本判決はせいぜい借用概念論の形式的外縁に位置づけることができるにすぎないと考えるところである(前掲拙著【52】参照)。 なお、本判決は、判示②において「同法[=薬事法]の医薬品の定義に該当し、同法の規制の対象となるべきものでありながら、正当な理由なく同法の規制を免れているものの購入費用」について、「そもそも医療費控除制度が控除の対象として予定する通常必要と認められるものに当たらないと解するのが相当」とする判断の根拠として「社会通念」を援用しているが、この判示は、次回取り上げる判例(最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁)が次のとおり判示して(下線筆者)違法配当も所得税法上の利益配当に含まれると判断するに当たって、「取引社会における利益配当の観念」(一種の社会通念)を援用したのと同じく、税法の解釈における「社会通念」の意義・位置づけを検討する上で興味深いものである。ここでは、この点を指摘するにとどめておく。   Ⅳ おわりに 以上、今回は、借用概念論の実践的な意図ないし伝統的・本来的意義が、「税法と私法」論との密接な関連において私法からの借用概念の解釈を、実質主義による自由な解釈から遮断することにあったことを確認した上で、行政規制法令からの概念借用枠組みはそのような伝統的・本来的な借用概念論との関係ではその形式的外縁にあるとはいえ実質的にはその射程外にあることを、本判決を素材にして明らかにした。本判決からは、税法の解釈において概念借用枠組みそれ自体は特別な意味をもたないということを学ぶべきであろう。 最後に、税法の解釈において時折みられる概念借用枠組みの「独り歩き」は、特別な意味をもたないだけでなく、文理解釈を基本とする厳格な解釈の要請(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1、第7回1のほか前掲拙著【44】参照)に反する結果をもたらす場合もあることを指摘しておきたい。 例えば、建築基準法上の「改築」は、通常の意味における「改築」と比較して、狭い意味で用いられているが、租税特別措置法にいう「改築」の意味について、この用語が建築基準法上用いられていることを理由にして、これを「建築基準法の『改築』からの借用概念」として概念借用枠組みの中で捉え建築基準法の「改築」と同義に解すべきであるとすると、このような概念借用枠組みに基づく解釈は、実質的には、「改築」という用語の縮小解釈に帰結するが故に、文理解釈を基本とする厳格な解釈の要請に反し、許されないと考えられる(東京高判平成14年2月28日訟月48巻12号3016頁、前掲拙著【53】参照)。 (了)

#No. 463(掲載号)
#谷口 勢津夫
2022/03/31

これからの国際税務 【第30回】「グローバルミニマム税の行方」

これからの国際税務 【第30回】 「グローバルミニマム税の行方」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 はじめに 昨年10月に約140ヶ国から成るOECD/IFで合意されたGloBEルール(グローバルミニマム税構想)については、昨年12月に、各国が国内法立法をする際のモデルとなる法令案をOECD/IFが公表した。そして、その後、同法令案の技術的内容を詳述するコメンタリーが3月14日に追加発表された。 それぞれの内容を踏まえた詳細な実施枠組みは本年末までに準備されることとされているが、モデル法令案とコメンタリーによってグローバルミニマム税執行のための国内法の詳細が明らかになったことで、いよいよ、IF参加国での国内法立法化作業が本格化する基盤が整えられた。 低課税国に所在する関連会社の税負担を15%の実効税率まで追徴可能とするミニマム税については、法人税率をめぐる底辺への競争を防止する効果を持つ「租税回避防止機能」に加えて、追加的に親会社等所在地国に見込める大幅な法人税収に鑑み、IF参加国では早期の施行への希望が強く、それが、2022年内の国内法改正及び2023年からの実施という野心的なスケジュール設定の理由とされていた。しかし、年明け以来のOECD/IFや各国の動向をみると、そのようなスピーディな施行に疑問を投げかける変化が観察される。 以下では、そのような動向の要因と思われるモデルルールに内在する論点及びそれらをめぐる米国とEUの対応ぶりを概観し、最後に我が国の取組みへの影響を予測する。   2 モデルルールの課題 15%までのトップアップ税額の算定過程では、対象所得や調整対象税額について、国別に構成会社の財務会計上の当期利益・当期税金費用の合算をベースに調整するという、新規に追加される複雑な算定の仕組みについて不満が示されている。納税者のコンプライアンスコストを高めるモデルは、更に簡素化すべきとの要望がビジネス界から強い(注1)。 (注1)  OECDビジネス諮問委員会(BIAC)租税委員会議長からOECDへの書簡(2022.1.22) また、適格国内ミニマム税額(QDMTT)が存在する場合の斟酌など低税率国側の対応措置や、適格低課税支払いルールの作用の確認手順などからは、対象税額の確認にあたっての手続きの複雑性のみならず、制度自体の合理性や永続性への懐疑なども指摘され始めている(注2)。 (注2)  Lee Sheppard, “Pillar2 and QMDTT”(Tax Note International,2022.2.14) これらの諸課題は、今後の市中協議でも議論される可能性があるものの、その帰趨は、採否が任意とされたGloBEルールの国内法ドラフティングの内容やタイミングを左右するものと思われる。なお、ビジネス界が重視する簡素化措置としての、適用対象を絞り込むセーフハーバーについて、年末の実施枠組みで検討すると結論が先送りされたことも、今後の動向の不確実性を暗示する要因と思われる。   3 各国の動向 (1) 米国 バイデン政権の税制改革案について、議会では、GILTI及びFDIIという国境越え無形資産由来所得についての課税特例を、15%に近い実効税率にする方向で、協議が継続されている。これらが、最終的にGloBE税制と整合的とされるかどうかは、今後の法案決着を待つしかないが、仮に不調和とされると、他国の執行するGloBE税制との間で二重課税が発生する可能性があり、競争条件の悪化を招くので、ビジネス界は、GILTI税率のみならず、同制度の中での適格事業用資産投資控除(QBAIと呼び、GloBE税制の「有形資産・給与に係る控除(カーブアウト)」に匹敵。現行法では10%であるがバイデン政権は縮小を提案)についても、GloBE税制のQMDTTと整合的に修正するよう求めている(注3)。 (注3)  James P.Fuller etc.,“US Tax Review”(Tax Note International,2022.2.21) なお、バイデン税制改革案には、財務上と税務上の利益の乖離による節税ギャップを埋める方策として、10億ドル超の調整法人所得を対象にした代替的ミニマム税(税率15%)も提案されているが、本税制は構造上、QMDTTに相当するものではないと考えられている。 これらの米国の税制改正案については、議会において3月に至るもまだ決着がついておらず、国際ルールとの調整の行方は不透明なままである。また、後述するEUでの指令案提案などの動きに対しては、QMDTTを含めたEU主導での制度設計が本来の第2の柱の立案趣旨から乖離しているのではとの不満等が米国では散見される。 (2) EU EUの欧州委員会は、OECD/IFのモデルルール公表に合わせて昨年12月にグローバルミニマム税についてのEU指令案を公表した。GloBE税制の内容は、モデルルールと変わらないが、EUが共通市場を目指しているため、大規模国内グループに対しても同ルールを適用するほか、QMDTTについての細目も明らかにしている。これは、アイルランドやハンガリーをはじめ実効税率が15%を下回る可能性のある加盟国への配慮が現れたものと考えられる。 2022年前半での指令の合意を目指す欧州委員会の提案の背景には、底辺への競争防止と租税回避への対応というOECDでの趣旨に加えて、パンデミック後の財源調達対応とグリーン化・デジタル化への税制対応も追加されていた。 しかし、今年に入って、早期決着を目指す指令案に対し、閣僚理事会ではまだスウェーデンをはじめ4ヶ国が不支持の姿勢をとっており、決着は4月以降に繰り延べられている(注4)。 (注4)  Elodie Larmer, “Opposition to Pillar 2 shrinks at ECOFIN meeting”(Tax note International, 2022.3.21)。ポーランドは第1の柱との同時決着を主張するなど、反対国は、いずれも指令案の検討には時間を要するとしている。   4 我が国への含意 GloBE税制の国内法化に向けては、経団連をはじめとする我が国ビジネス界から、簡素化に向けた多方面の課題の指摘と提案がなされている。そこで指摘された技術的課題については、OECD/IFも認める通り、年末に向けさらなる市中協議が必要と考えられる。 他方で、国内法制化に向けたスタンスでは、施行タイミングのずれや実施内容の濃淡によって、企業グループの競争条件に格差を生む可能性があり、いたずらに先行するわけにはいかないと思われる。ただし、先行した国が、低課税支払いルール(UTPR)の適用に際して未実施国企業を適用対象にするリスクがあり、税率の高い我が国企業もこのリスクからは完全には逃れられないと思われるので、各国の立法・施行ぶりの進展にも注意する必要があろう。 ビジネスが重視するセーフハーバーの議論の決着は、単に執行レベルのみならず、制度設計にも影響を及ぼすと思われるので、この論点についてのIFでの議論には、政府・民間を通じて特に積極的にかかわっていく必要があると思われる(注5)。 (注5)  経済産業省では、今年中の立法化に向けた税制改正要望に向け準備作業が行われているようである。最近の公表事績として、経済産業省ホームページ「デジタル経済下における国際課税のあり方について(デジタル経済下における国際課税研究会中間報告書)(令和3年8月19日)」等がある。 (了)

#No. 463(掲載号)
#青山 慶二
2022/03/31

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第30回】「部屋ごとに区分登記がされていない場合の特定居住用宅地等の特例の適用」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第30回】 「部屋ごとに区分登記がされていない場合の特定居住用宅地等の特例の適用」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年3月26日)は、下記の土地及び家屋を所有していました。土地建物の生前の利用状況は、下記の通り、1階及び2階部分は甲及び長男である乙が居住の用に供し、3階及び4階部分は甲の賃貸の用に供し、5階部分は長女である丙家族が居住の用に供しています。 1階、2階及び5階部分と3階及び4階の2区分で区分登記がされており、各階の占有部分の床面積は下記の通りとなります。甲は乙及び丙から賃料は収受していません。 【相続発生前の利用状況】 【占有部分の床面積】 甲の相続発生に伴い、甲の所有していた土地を乙及び丙が1/2ずつ取得した場合には、乙及び丙が適用できる特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 相続人は乙と丙の2人です。乙は甲と生計を一にしていましたが、丙は甲と生計を別にしており、乙及び丙は、相続後は引き続き上記の土地家屋に居住しています。 [A] 乙は取得した宅地等の面積の1/2相当である144㎡のうち1階及び2階部分に相当する58㎡(144㎡×290㎡/720㎡)について特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下、単に「特例」という)を受けることができますが、丙は同居親族とは認められず、特例の適用を受けることはできません。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等の意義 被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等(当該宅地等が2以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。「第19回で解説」)で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます(措法69の4③二)。 一定の要件を満たす被相続人の親族は、下記の(1)~(3)のいずれかを満たす親族をいいます。 (1) 同居親族 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。 政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。 (2) 別居親族 当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 (3) 生計一親族 当該親族が当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を⾃⼰の居住の⽤に供していること。   2 特定居住用宅地等の範囲 特定居住用宅地等の範囲は、原則として、被相続人等の居住の用に供されていた部分に限られていますので、被相続人等の居住の用以外の用に供されていた部分については、特例の対象にはなりません。 ただし、被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)。   3 本問への当てはめ 本問の場合には、入口の要件として被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか、出口の要件として取得者の要件を確認することになります。 入口の要件としては、上記2で解説の通り、区分登記がされている建物である場合には、被相続人等の居住の用に供されていた部分(1階及び2階)のみが特例の対象になります。仮に5階部分が1階及び2階と構造上つながっており、被相続人の居住の用に供されている場合には特例対象になりますが、本問の場合には、5階部分は丙家族のみが利用しており、被相続人等が居住していないことが前提となりますので、5階部分は特例の対象になりません。 続いて取得者の要件ですが、取得者ごとに確認すると下記の通りとなります。 〔乙について〕 乙は上記1(1)に記載されている「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」であり、かつ、「相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること」の要件を満たします。したがって、取得者の要件を満たすことになりますので、他の要件を満たせば特例の対象になります。 特例の対象は、被相続人等の居住の用に供されていた1階及び2階部分のみとなりますので、乙が取得した土地等の面積を家屋の床面積で按分する必要があります。この場合の家屋の床面積の按分については、一棟の床面積を基に按分するのか、占有部分の床面積を基に按分するのかの問題があります。 小規模宅地等の特例は、建物の利用状況に基づき、居住用、居住用以外等に区分する必要があり、利用状況に基づき床面積で按分する必要があります。一棟の建物の床面積には、廊下や内階段等といった共用部分の面積も含まれていますが、占有部分の面積は区分所有者が完全に自己の所有物として扱うことができる部屋の内側の面積となりますので、占有部分で建物の利用状況を考えた方がより合理的な計算になると考えられます。 したがって、乙の特例の適用面積は、乙が取得した宅地等の面積の1/2相当である144㎡のうち1階及び2階部分に相当する58㎡(144㎡×290㎡/720㎡)となります。 〔丙について〕 同居親族の判定については、丙は被相続⼈の居住の⽤に供されていた部分に居住していないため、上記1(1)の要件である「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」とは認められませんので、同居親族の要件を満たしません。区分登記がされている場合には、被相続人の親族の居住部分も含めて判定するという措置がありませんので、この点については注意が必要となります。 別居親族の判定については、上記1(2)③の要件を満たしませんので、別居親族の要件も満たしません。したがって、丙は特例の適用を受けることはできません。 なお、本問の場合には、3階及び4階部分については、他の要件を満たせば、乙及び丙は、それぞれ64㎡(288㎡×1/2×320㎡/720㎡)ずつ貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。   ★実務上のポイント★ 相続開始前に区分登記を解消した場合には、丙の居住部分も含めて特例適用が可能となりますので、事前にアドバイスすることも重要となります。   (了)

#No. 463(掲載号)
#柴田 健次
2022/03/31

街の税理士が「あれっ?」と思う税務の疑問点 【第5回】「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円控除)」~数次相続の場合の遺産分割~

街の税理士が「あれっ?」と思う 税務の疑問点 【第5回】 「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円控除)」 ~数次相続の場合の遺産分割~   城東税務勉強会 税理士 大塚 進一   問 題 父が所有し、父母が2人で住んでいた1戸建て建物(昭和50年築、非耐震)とその敷地について、令和2年9月に父が死亡し、父死亡後は母が1人で住んでいましたが、令和3年3月に母が死亡(数次相続)しました。 なお、法定相続人は、父死亡時は母と別居の子供2人(長男・次男)であり、母死亡時は子供2人(長男・次男)です。令和3年10月に、相続人が建物取壊しの上、第3者の他人に土地全部を5,000万円で売却した場合、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下、「空き家特例」という)は、どう遺産分割していれば土地全体の売買につき適用できますか。 回 答 空き家特例とは、①被相続人が1人で住んでいて相続によって空き家になった、②昭和56年5月31日以前に建てられた家屋(区分所有でない)を、③相続又は遺贈により、その家屋及びその敷地等を取得した相続人が、 ④相続発生から3年後の12月31日までに、⑤親子や夫婦など特別の関係がある人以外に、⑥1億円以下で、⑦ その家屋を一定の耐震基準を満たすようにして、又は家屋を取り壊し更地にして、⑧その家屋あるいは家屋とともに敷地、又は更地にした土地を売却した場合に、譲渡所得から3,000万円を控除することができる特例です。 よって上記の問題では、父死亡時、①父は1人で住んでおらず、死亡後は母が住み、空き家ではないので、空き家特例は適用できません。ただし母死亡時は、①母が1人で住んでいて、死亡後は空き家になっており、さらに上記②及び④~⑧の要件を満たすので、あとは土地全体につき③を満たせば、空き家特例の3,000万円控除が全部につき適用可能です。 そのためには、父死亡の相続時、父の持分は一旦母に帰属したとして、母の死亡の相続時に長男あるいは次男又はその両方が、その家屋と敷地の両方を取得しなければなりません。なお、長男と次男がその家屋と敷地を1/2ずつ等の共有持分で両方相続した場合には、長男と次男それぞれに3,000万円の控除の適用が可能です。ただし、土地を長男に家屋を次男になど、土地と家屋を別々に相続した場合には、家屋と敷地の両方を取得していないので空き家特例の適用はできません。 考 察 この特例は、相続又は遺贈によって、被相続人の居住用家屋とその敷地の両方をセットで取得した者にだけ適用されます。家屋とその敷地を、別々の者が取得した場合は適用されません。すなわち、家屋と土地の両方を取得した者は、適用することができますが、土地だけを相続した者は、家屋を取得していないので適用できません。同様に家屋だけを相続した者にも適用はできません。 ◆租税特別措置法(所得税関係)通達35-9(「被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした個人」の範囲) (※) 下線部筆者 また、上記回答で父死亡時に、相続により家屋とその敷地を1/2ずつの持分で母と長男で取得し、母死亡時に、残り1/2の家屋とその敷地持分を相続により長男(又は次男)が取得した場合のように、被相続人の居住用家屋とその敷地のうち、相続人が相続開始前にすでに所有していた共有持分については、この特例の適用はありません。つまり、母死亡時に長男(又は次男)が相続した1/2の持分についてのみ、この特例が適用できます。 なお、⑥の譲渡対価1億円以下の判定は、上記で、母死亡時に長男が相続した場合、その敷地(及び家屋)は全体として長男が売却する事になるので、全体の(父からの相続分(1/2)と母からの相続分(1/2)の両方の)譲渡対価が対象になります(措通35-22(「対象譲渡資産一体家屋等」の判定)(1))。しかし、母死亡時に次男が相続した場合、長男と次男でその敷地(及び家屋)の全体を売却しても、母の相続時には長男(特例の適用不可)は家屋も敷地も取得していないので、次男(特例の適用可)は相続分(1/2)のみの譲渡対価が1億円以下か否かで判定します。 さらに、1億円以下の判定は相続開始から対象資産の譲渡を行った翌年以降3年目の年度末までに行った対象資産と一体的に居住の用に供していた資産の譲渡も含めて判断します。その譲渡には贈与や低額譲渡も対象になり、この場合時価により判断します。 また、本事例の家屋とその敷地の持分が次の〔A〕〔B〕のような時、その場合によって以下が考えられます。 *  *  * なお、実際の空き家売買では、相続によって空き家になった家屋と敷地をそのまま売却する事例が散見されます。その場合、要件を満たさないことが多く、空き家特例は適用不可となります。昭和56年5月31日以前の建築家屋が一定の耐震基準を満たすことはほとんどなく、売却物件への耐震補修も考えにくいので、家屋を取り壊した後の売却が現実的です。また空き家購入後に、買主側業者での取壊しが多いのも事実です。事前に相談を受けた場合は、取壊しについて注意を払う必要があります。   (了)

#No. 463(掲載号)
#城東税務勉強会
2022/03/31
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