《速報解説》 金融庁、「KAMの特徴的な事例と記載のポイント」を公表 ~今後の更なる実務の定着と浸透を図るための議論をまとめる~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年3月4日、金融庁は、「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」を公表した。 これは、KAMの今後の更なる実務の定着と浸透を図るため、「KAMに関する勉強会」の議論をまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 全体で49ページに及ぶものであり、多くの事例が紹介されている。 以下では、主な内容について述べる。 1 KAMの意義 勉強会では、例えば、次のような意見があった。 2 KAMの記載内容 勉強会では、例えば、次のような意見があった。 3 特徴的な事例 次のような事例が紹介されている。 4 検討が必要と考えられる事例 次のような指摘が記載されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2022年3月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.459を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.110- 「始まるか、独立財政機関の議論」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 今年盛り上がるのではないかと考えられる議論の1つは、財政独立機関の設置だ。政府から独立性を保ち、中立的・専門的な観点から客観的なデータに基づいて経済や財政状況を評価・分析し、場合によっては政府に対して助言を行う公的機関で、欧米を中心にOECD加盟38ヶ国中26ヶ国が設立している。 米国には、長い歴史を持つ米議会予算局(CBO)があり、財政支出の政策効果を大きく見せがちな政府に対して、専門的見地から客観的な見積もりに徹しようとする米議会予算局はより現実的な見通しを公表し、政府の政策の議会での審議に役立てている。 英国では2010年にリーマンショック後の財政赤字を監視する機関として予算責任局(OBR)が設立された。政府から独立した立場で、経済や財政の見通しを公表し、政府の予算策定の土台を提供している。税収や社会保障費の見積もりも担当し、最近では、政府のコロナ対策の財源見積もりの甘さを指摘、予算の見直しにつながった。 このように政府から独立した財政独立機関の設置は、政府の財政政策ににらみを利かせ、財政健全化に役立つという大きな意義がある。 * * * さてわが国では、1月14日に新たな「中長期の経済財政に関する試算」が公表された。試算によると、名目3%、実質2%の成長実現ケースでは、国・地方の基礎的財政収支(PB)が2026年度には0.2兆円の黒字になる。1年前の試算では2029年度までPB黒字にならないとされていたが、今回は大幅に改善した姿となった。 その理由は、法人税などの税収が大幅に伸びるという見積もりにある。この税収見積もりは、基本的に経済見通しに基づいており、足元ではほとんどゼロに近い全要素生産性の伸びを1.3%増と見込むなど、基礎となる経済の見通しはきわめて楽観的で、多くの経済学者からその信ぴょう性が問われている。 甘い見通しでその場はしのげても、財政健全化という目的は、年次が近づくにつれて先延ばしにされ、結局達成できない。現に、財政健全化目標であるPB黒字化は小泉内閣時代には「2010年代半ば」とされたが、その後の歴代の内閣によって、2025年まで先送りされてきたのである。 * * * IMFはわが国に対して、政府の予算編成過程を監視し、税金の無駄遣いをチェックする独立財政機関の設置が有効だと提言してきた。そして本年1月27日の対日審査訪問終了の声明に、「既存のベースラインシナリオと高成長シナリオに下振れシナリオを追加すれば、ベースラインを中心に据えて政策を議論することに役立つだろう。独立財政機関によって行われた予測は、枠組みの信頼性を高めうる。」と書き込んだ。 これに対し鈴木財務相は、「経済財政諮問会議で外部有識者参画のもとで議論している」とし、新組織の設置に否定的な考えを示した。「新しい組織を設置するより、今ある組織を有効に活用する」とし、「重要なのは手段ではなく、経済財政運営の専門的、中立的視点で検討を重ねることだ」と述べた。 米国発のインフレやロシア・ウクライナ情勢が世界経済に不気味な動きを見せ始め、経済の不確実性は高まっている。わが国でも政権に忖度した甘い推計を行うのではない独立財政機関の設立に向けた議論を急ぐ必要がある。昨年には、設立に向けて超党派の議員連盟が発足し、経済同友会や関西経済連盟など経済界も設立に向けて提言を行っている。 甘い経済見通しで安心する姿は、自らの人間ドックの検査結果を医者に頼んで甘くしてもらうようなもので、いつかその仕返しを受けることになるだろう。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例39】 「役員退職給与の支払時における損金算入」 国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、中国地方において海産物の製造・販売業を営む株式会社Aにおいて経理部長を務めております。当社は大正時代に創業し、創業者のBが日本料理の味付けに必須のだしを取るのに便利な削り節を他社に先駆けて製造・販売したことから、戦前・戦後にかけてそれなりの企業規模にまで成長しました。 現在は、上場こそしていませんが、製品の品質について、日本料理のプロからご家庭まで幅広くご支持・ご愛顧をいただいておりまして、お陰様で日本全国のスーパーや百貨店に自社製品を販売しており、業界内では確固たる地位を築いているものと自負しております。 本社は創業の地である中国地方にありますが、工場は全国に3ヶ所、営業所は北海道から九州まで12ヶ所に展開しており、百貨店や駅ビルに直営店も5店舗ほど出しております。 ところで、当社は創業家のCから代々社長を出していますが、創業家は専ら経営に専念しており、自社製品の開発はたたき上げの技術者によって行われております。数年前に、このようなたたき上げの製品開発責任者である取締役Dが退任し、それに際して当社は規定に従い、退職慰労金を支払っております。Dに対する役員退職慰労金は、当社の株主総会決議を経て、取締役会でその金額等に関する決議を行うことで支払うこととなっておりましたが、あいにく取引銀行との間でトラブルがあり、メインバンクを急遽変更することになったため、当初支払う事業年度の翌事業年度に実際の支払いを行うこととなりました。 これ自体はよくあることのように思われますし、租税回避の意図など全くないばかりでなく、源泉徴収も支払時に行っております。ところが、なぜか先週来当社にやってきて税務調査を行っている調査官は、当該役員退職慰労金につき、取締役会の決議により金額が確定した事業年度の損金とすべきと主張して譲りません。当社は当然のことながら、資金繰りがついて実際に退職慰労金を支払った事業年度の損金とすべきと主張しておりますが、これでよろしいでしょうか、教えてください。 【A】 役員退職慰労金の損金算入の時期は、他の費用の項目と同様に、株主総会の決議等によりその金額が具体的に確定した事業年度の損金とするのが原則ですが、短期的に資金繰りがつかず株主総会等の決議から一定程度経過してから実際の支払いを行うということもあり得ることであり、そのような場合においても原則的な取扱いしか認めないとするのは、企業の実情に反した、硬直的な執行であり適切とは言えないでしょう。 そのため、法人が役員に対する退職給与の額につき、これを実際に支払った日の属する事業年度において損金経理した場合には、税務上もそれを認めるというのが実情に即し、妥当なあり方であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員に対する退職給与 会社法においては、役員報酬のみならず役員賞与や役員退職慰労金も職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益と解されている。そのため、役員退職慰労金(弔慰金を含む)も在職中の職務執行の対価として定款・株主総会決議により額を定めなければならない(※1)、とされている。この場合、役員退職慰労金は通常の報酬等と異なり、総額を明示せず、具体的金額、支給期日、支給方法を取締役会等に決定を一任する旨の決議がなされるのが通例である(※2)。 (※1) 江頭憲治郎『株式会社法(第8版)』(有斐閣・2021年)481頁。 (※2) 江頭前掲(※1)481頁。 税法においては、退職給与(退職手当)につき、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう、としている(所基通30-1)。 なお、近年上場企業を中心に、退職慰労金の支給を廃止する傾向がみられる。これは、退職慰労金は業績連動性に乏しく、支給金額の根拠等が不明確であること、役員サイドとしては業績悪化等により株主総会の承認が得られず不支給となるリスクがあること、といった理由によるものである。そのため、代替的に、退職慰労金分を含めた役員報酬を設定する企業もみられるところである。 (2) 役員退職給与の範囲 (役員)退職給与についての法人税法上の定義は必ずしも明確ではないが、参考となる資料として、法人税取扱通達がある(昭和31年直法1-102(2))。それによれば、以下に掲げるものは、その実質が退職給与の一部と認められるものでない限り、退職給与(金)に含まれないとしている。 また、上記②については、別の法人税取扱通達(昭和34年直法1-150(51))で、葬祭料又は弔慰金の額のうち適正な金額は退職給与(金)として取り扱わないことができるとしており、適正額を超えた部分については退職給与とすることが示唆されている。 (3) 役員退職給与の損金算入時期 役員退職給与の損金算入時期は、通達によれば、通常の法人税の損金算入の基準に従い、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度を原則としている(債務確定基準、法法22③二、法基通9-2-28)。これは、役員への退職給与は会社法上、準委任契約に基づく業務執行の対価として支給されるもので、報酬の後払いとしての「退職金」ではなく、役員としての貢献を評価しての「退職慰労金」であることに基づく。したがって、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定しない限り、債務が確定したことにはならず、損金算入もできないこととなる。 ただし、例外として、退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてそ・の・支・払・っ・た・額・に・つ・き・損金経理をした場合も、当該損金経理による方法を認める、とされている(支給日基準、法基通9-2-28)。さらに、役員退職一時金の分割支給の場合も、原則としてその未払いの部分を含めて一括して損金の額に算入することができる(※3)、とされている。 (※3) 髙橋正朗『法人税基本通達逐条解説(十訂版)』(税務研究会・令和3年)916頁。 一方、役員退職年金は上記取扱いとは異なり、年金を支給すべきタイミングで損金の額に算入することとなる(法基通9-2-29)。したがって、年金の総額を未払金に計上しても、そのタイミングで全額を損金に算入することはできない(法基通9-2-29)。 (4) 役員退職給与の損金算入のタイミングが争われた事例 本件のように、役員退職慰労金(役員退職給与)の損金計上のタイミングが争われた裁判例(東京地裁平成27年2月26日判決・TAINSコード:Z265-12613)があるので、以下で確認していきたい。 ① 事案の概要 原告は、昭和51年3月6日に栃木県宇都宮市を本店所在地として設立された、生産性向上化のための自動専用機、治工具の開発及び設計製作、一般機械及び構造物の設計、計算、スケッチ、工業デザイン等の請負、航空機、自動車、造船等の生産設備、試験装置、風洞模型、立体モデル等の設計製作及び販売等を目的とする株式会社(8月決算)である。 原告は、原告の創業者である乙が平成19年8月31日に原告の代表取締役を辞任して非常勤取締役となったことに伴い、乙に対する役員退職慰労金として2億5,000万円を3年以内(平成22年8月まで)に分割して支給することを決定し、代表取締役辞任の日である平成19年8月31日に、当該退職慰労金の一部としてまず7,500万円を支払った。原告は、当該7,500万円の支払いが法人税法上の退職給与に当たるとして、同額を平成19年8月期における損金の額に算入して法人税の確定申告をした。 次に、平成20年8月29日に、支給決定額の残額のうち1億2,500万円を乙に支払い、平成20年8月期に係る法人税について、当該支払いが退職給与に該当することを前提としてその支払額を損金の額に算入し、また、原告が源泉徴収に係る所得税を納付するに際し、当該支払いが退職所得(所得税法第30条第1項)に該当することを前提として計算した源泉所得税額を納付した。 ところが、処分行政庁から、平成20年8月の支払額1億2,500万円は退職給与に該当せず損金の額に算入することはできないとして、法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受け、また、当該支払いは退職所得に該当しないとして、当該支払いが賞与であることを前提に計算される源泉所得税額と原告の納付額との差額について納税の告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を受けたことから、原告は、処分行政庁の所属する国を被告として、本件更正処分等及び本件告知処分等の取消しを求めるとともに、本件告知処分等に基づき、源泉所得税並びに源泉所得税に係る不納付加算税及び延滞税として充当され又は原告が納付した金額の返還を求めたところである。 なお、原告は本件提訴の前の税務調査において、乙に対する役員退職慰労金を2億2,000万円に減額することとし、取締役会決議を行っている。当該減額後の乙に対する役員退職慰労金2億2,000万円の算定根拠は、以下の算式の通りである。 ② 本件の争点 平成20年8月の支払額1億2,500万円が退職基因要件、労務対価要件及び一時金要件を満たしているか否か。また、当該支払いが法人税法上の退職給与に該当するか。さらに、当該支払いを平成20年8月期の損金に算入することができるか。 ③ 裁判所の判断 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、役員退職給与につき事業年度をまたがって分割支給した場合において、株主総会等の決議をした事業年度と異なる事業年度において支給した部分の金額の損金算入が認められるか否かにつき、法人税基本通達9-2-28ただし書の趣旨を踏まえて判断したものである。 原則は、株主総会等の決議によりその額が具体的に確定した事業年度の損金となるのであるが、例外として、損金経理を条件に、支払時の損金とすること(支給年度損金経理)も認められるとするのが通達ただし書の規定である。当該規定の趣旨は、①企業においては、資金繰りの観点から、役員退職給与を複数年度にわたって分割支給することもあること、②役員退職給与を分割支給する場合において、その額が確定した事業年度において全額を未払金に計上して損金経理するのではなく、本件通達ただし書に依拠して、分割支給をする都度、その金額を当該事業年度における退職給与として損金経理するという取扱いをしている中小企業も少なくない、ということであり、裁判所はそのような実務慣行を尊重して損金性を認めている。 本裁判例における裁判所の判示で興味深いのは、「多数の税理士や公認会計士が、自らのウェブサイトにおいて、同様の会計処理を紹介していることが認められる」とあるように、裁判所は税務会計に係る実務慣行につき、市販の書籍の記述のみならず、ウェブサイトにおける税理士や公認会計士の記事や記述もそれを構成する要素となり得ることを認めているという点である。本連載の記事も今後の裁判において、法人税法における公正処理基準(特に損金性について)を判断する際、税務会計に関する実務慣行を構成する要素となり得るということであり、その点、心して記述すべきであると改めて感じたところである。 (5) 本件へのあてはめ 役員退職慰労金の損金算入の時期は、他の費用の項目と同様に、株主総会の決議等によりその金額が具体的に確定した事業年度の損金とするのが原則であるが、短期的に資金繰りがつかず株主総会等の決議から一定程度経過してから実際の支払いを行うということもあり得ることであり、そのような場合においても原則的な取扱いしか認めないとするのは、企業の実情に反した、硬直的な執行であり適切とは言えない。 そのため、法人が役員に対する退職給与の額につき、これを実際に支払った日の属する事業年度において損金経理した場合には、税務上もそれを認めるというのが実情に即し、妥当なあり方であると考えられる。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第16回】 「経済活動基準のうちの実体基準にいう「固定施設」とは何か」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 経済活動基準のうちの実体基準にいう「固定施設」とは、どのようなものを指すか、具体的にご教示ください。 〔A〕 固定施設は、単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるため、外国関係会社の事業活動を伴った物的設備である必要があります。 ●●●〔解説〕●●● 1 実体基準 租税特別措置法66条の6第2項3号ロは、外国関係会社がその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していることを要件とするもので、物的な側面から独立した企業としての活動の実態を有するかを判定する基準(※1)である。なお、経済活動基準における実体基準は、ペーパーカンパニーの判定における実体基準(措法66の6②二イ(1))とは異なり、固定施設が本店所在地国(※2)に所在することが要件とされている。 (※1) 国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」平成30年1月(平成30年8月・令和元年6月改訂)8頁参照。 (※2) 我が国の税法では、内国法人の定義について、いわゆる本店所在地主義(設立準拠法主義)を採用しており、英国などのように、伝統的に事業の管理・支配の場所を基準とするいわゆる管理支配地主義を採用する国とは異なっている(ただし、現在英国は、両方式の併用である)。したがって、本店又は主たる事務所の所在する国といった場合には、その法人が設立に際し準拠した法令の施行地が、その本店所在地国ということになる。 ここでいう固定施設とは、単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるため、外国関係会社の事業活動を伴った物的設備である必要がある。例えば、外国関係会社が主たる事業として不動産賃貸業を行っている場合における賃貸不動産は、実体基準における固定施設には該当しない。 また、この場合における「人の活動」は、必ずしも外国関係会社に雇用された者によるものに限定されない。例えば、発電事業を主たる事業として行っている外国関係会社が、その有する発電所の運営をこれを専門とする他の会社に委託している場合のその発電所は、主として委託先である他の会社の役員又は使用人が利用する物的設備となるが、その発電所は、外国関係会社の発電等といった物的設備と共にそれを動かすための人を一体とした事業活動を伴ったものであるため、実体基準における固定施設に該当すると考えられる(※3)。 (※3) 前掲・「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」8頁。 以上から、主たる事業を行うために必要と認められる事務所等の判定に際しては、次の2つに留意することとされている(措基通66の6-6)。 過去の判例において、実体基準の具体的な当てはめが問題となった事例はいくつかあるが、本稿では、比較的最近の次の事例を検討する。 2 過去の裁判例 《レンタルオフィススペース事件》(※4) (※4) 第一審は、東京地裁平成24年10月11日判決(平成22年(行ウ)第725号・TAINSコード:Z262-12062)。控訴審は、東京高裁平成25年5月29日判決(平成24年(行コ)第421号・TAINSコード:Z263-12220)。 (1) 事案の概要 本件は、シンガポールにおいて設立されたA社の発行済株式総数7,800株のうち7,799株を保有するX(原告・被控訴人)が、所轄税務署長Yから、A社は租税特別措置法40条の4第1項(※5)に規定する特定外国子会社等に該当し、外国子会社合算税制の適用があるとして、A社の課税対象留保金額に相当する金額をXの雑所得に算入することを前提に、平成16年分から平成18年分までの各所得税の更正処分等(本件各処分等)を受けたため、A社は外国子会社合算税制の適用除外要件を満たすから、本件各処分等は違法であると主張して、Yに対し、本件各処分等の取消しを求めた事案である。 (※5) 株主Xは日本の居住者(個人)であるため、適用されたのは改正前租税特別措置法40条の4の規定であった。 A社は、内国法人B社及びその関連会社であるC社の製造する精密ねじ等の製品を東南アジアの日系企業に販売するために平成12年2月3日にシンガポールにおいて設立された株式会社である。Xは、A社の取締役2名のうちの1名であり、B社の常勤専務取締役であった(平成20年5月29日以降は、B社の代表取締役)。 また、A社の発行済株式総数7,800株のうちの1株を保有する乙は、A社の取締役であり、シンガポールに居住していた。他方乙は、昭和63年にシンガポールで設立されたD社のマネージングディレクターであり、同社の業務委託・経営コンサルタント部門は、シンガポールにおいて、事務所設備の賃貸、業務サポートサービスの提供及び営業担当者の派遣を行っていた。A社は、A社の設立時に、D社との間で、A社の周辺事務業務(経理・総務・営業事務)等につき業務委託契約を締結していた。 (2) 実体基準の趣旨 本件の第一審である東京地裁は、実体基準の趣旨について、次のとおり判示した。 (3) 裁判所の判断 本件の実体基準該当性について、東京地裁は、次のとおり事実認定した。 東京地裁は、以上から、「A社が使用していたD社のレンタルオフィススペース及び乙の専用執務室、Eの倉庫スペースは事務所及び倉庫としては必要な規模と考えられ、A社は主たる事業である精密機械部品等の卸売業を行うために十分な固定施設を有していたものと認められ、実体基準を満たしているものと認められる」と判示して、Yの主張を退けた。Yはこの判決を不服として控訴したが、東京高裁は原審を支持し、Y(国側)の敗訴が確定した。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第26回】 「介護のために同居した場合の特定居住用宅地等の特例の適否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年3月1日)は、A土地及び家屋を所有し1人で居住していましたが、介護が必要となり、長男である乙は、相続開始の1年前から週の半分ぐらいはA土地及び家屋に寝泊まりするようになり、住民票もA土地及び家屋に移しました。 乙は甲の相続開始の5年前に会社を退職し、Bマンションを購入し、乙及び乙の配偶者と居住していました。乙は甲の介護をするようになってから週の半分ぐらいはA宅地及び家屋に寝泊まりしていましたが、残りの半分ぐらいはBマンションで家族と過ごし、乙への郵送物についてもBマンションに郵送されていました。乙の配偶者は、A宅地及び家屋には寝泊まりしておらず、Bマンションに居住していました。 乙は甲の相続によりA宅地及び家屋を相続し、相続税の申告期限までは、引き続き週の半分ぐらいはA宅地及び家屋で寝泊まりしていましたが、相続税の申告期限後にA宅地及び家屋を売却し、住民票もBマンションに戻しています。 乙は甲の同居親族に該当し、取得者の要件も満たしていますので、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の対象になると考えていいでしょうか。 [A] 乙は、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができないと考えられます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等の意義 被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等(当該宅地等が2以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。「第19回で解説」)で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます(措法69の4③二)。 一定の要件を満たす被相続人の親族は、下記の(1)~(3)のいずれかを満たす親族をいいます。 (1) 同居親族 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。 政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。 (2) 別居親族 当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 (3) 生計一親族 当該親族が当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を⾃⼰の居住の⽤に供していること。 2 生活の拠点の判定 本問の場合には、乙は上記1(1)の同居親族の要件を形式的には満たすことになるかと思いますが、小規模宅地等の特例の趣旨は、居住の継続の保護であり、その趣旨からすると、相続前後のみの一定期間のみ被相続人の居住用宅地等に居住していた相続人にまで本特例を認めるべきではないことになります。 平成28年6月6日の国税不服審判所の裁決(TAINSコード:F0-3-485)では、同居親族の要件について、相続人が被相続人の居住用家屋に居住していたかどうかが争点となりましたが、下記の通り判示しています。 したがって、生活の拠点がどこにあったのかが重要となります。生活の拠点の判定にあたっては、所得税法における居住用家屋の範囲を定めた租税特別措置法関係通達31の3-2(居住用家屋の範囲)も参考となりますので、確認しておきましょう。 3 本問への当てはめ 本問の場合には、乙の生活の拠点がA宅地及び家屋にあったかどうかを判定することになります。乙は介護のためのみの一時的な利用を目的としていたこと、乙及び乙の配偶者の居住状況からBマンションが生活の基盤になっていると考えられること、介護の期間についてもBマンションに居住している事実があること等を総合勘案すれば、乙の生活の拠点はBマンションにあったと考えるのが相当です。 本問について上記1の要件判定をすると、下記の通りとなります。 〔同居親族の要件判定〕 上記1(1)の同居親族は、「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」であり、かつ、「相続開始時から申告期限まで引き続き居住していること」が要件になっています。 しかしながら、乙は生活の拠点としてA宅地及び家屋に居住していたとは認められないことになりますので、要件を満たさないことになります。 〔別居親族の要件判定〕 上記1(2)④の要件を満たしませんので、別居親族の要件には該当しません。 〔生計一親族の要件判定〕 乙が生計を一にしていた者であったとしても、上記1(3)の生計一親族は、「相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を⾃⼰の居住の⽤に供していること」という要件を充足する必要があります。しかしながら、乙は生活の拠点としてA宅地及び家屋に居住していたとは認められないことになりますので、要件を満たさないことになります。 なお、居住用財産に係る譲渡所得の3,000万円の特別控除(措法35①)の居住用財産に該当するかどうかの判定は、上記記載の租税特別措置法関係通達31の3-2(居住用家屋の範囲)に基づき乙の生活の拠点がA宅地及び家屋にあったかどうかで判定を行う(措通35-6)ことになり、考え方は同様になりますので、A宅地及び家屋の譲渡は、乙の居住用不動産の譲渡とは認められないことになります。 また、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円の特別控除(措法35③)については、「当該相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」及び「当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」等が要件となっていますので空き家の3,000万円控除の特例も認められないことになります。 したがって、本問の場合には、譲渡所得の3,000万円の控除の特例も受けることができないことになります。 ★実務上のポイント★ 住民票だけでは特例の判定をすることはできませんので、相続人等の生活の拠点がどこにあったのかを相続人等からヒアリングして確認することが重要となります。 (了)
遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第8回】 「不動産や株式等を遺贈寄付した場合の取扱い(その2)」 ~居住用財産の特別控除、相続空き家の特例、寄付金控除を利用する場合~ 税理士・中小企業診断士・行政書士 脇坂 誠也 前回から、不動産や株式など(以下「不動産等」とする)の現物資産を遺贈寄付した場合の課税上の取扱いについて解説している。 不動産等の現物資産を遺贈寄付した場合には、みなし譲渡所得税が課税される可能性があることを前回述べた。 みなし譲渡所得税は寄付をした不動産等に含み益がある場合に課税されるが、含み益があれば必ず課税されるわけではない。含み益があっても課税されないケース、あるいは課税されても課税額が少なくなるケースについて今回は確認していくことにする。 1 居住用財産を遺贈寄付した場合 居住用財産に係る譲渡所得の3,000万円特別控除(以下「居住用財産の特別控除」とする)の適用を受ける不動産を遺贈寄付した場合には、みなし譲渡所得税部分について、特別控除の適用を受けることができるので、含み益があっても、結果的に課税が発生しない可能性がある。 例えば、寄付者がお亡くなりになる直前まで住んでいた不動産を、相続人で引き継ぐ人がいないので、地元で活動するNPO法人等に寄付をするとする。みなし譲渡所得税の非課税特例を適用するという方法も考えられるが、特例を使うためには、寄付を受けた不動産等をNPO法人等が公益目的事業に直接供する必要があり、そのような使い道がない不動産等であれば、譲渡するか、他の人に賃貸するしかなく、そのような場合には、非課税の特例を受けることはできない。 しかし、居住用財産の特別控除の適用要件を満たしていれば、みなし譲渡所得についても、3,000万円までは特別控除を受けることができ、結果的に税額が発生しないという可能性もある。 居住用財産の特別控除の適用要件は、以下のとおりである(措法35)。 〈居住用財産の特別控除の適用要件〉 2 相続人が相続により取得した不動産等を遺贈寄付した場合 相続人が相続により取得した不動産等を寄付した場合にも、その不動産等に含み益があればみなし譲渡所得税が課税される可能性がある。 仮に、被相続人が、生前に居住していた不動産であっても、相続人が相続により取得した不動産に居住していなければ、居住用財産の特別控除の適用はない。しかし、相続により空き家になった不動産を相続人が寄付をした場合には、適用要件を満たしていれば、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得3,000万円特別控除の特例(以下「相続空き家の特例」とする)の適用を受けることができる(措法35③)。 相続空き家の特例の適用要件は以下のとおりである。 〈相続空き家の特例の適用要件〉 3 寄付金控除を受ける場合 寄付先が認定NPO法人や特定公益増進法人である場合には、寄付金控除を受けることができる。これは、不動産等の現物寄付であっても同様である。その場合に、寄付金控除の対象となる金額(特定寄付金の額)は、寄付をした時の、その寄付をした資産の価額(時価)によるので、みなし譲渡課税におけるその資産の価額(時価)と同額が特定寄付金の額となる。 ただし、寄付金控除は、特定寄付金の額のうち、「総所得金額等の40%が限度」となっている(所法78①)。したがって、被相続人にみなし譲渡による所得以外の所得が少ないか、存在しないような場合には、みなし譲渡所得のうち寄付金控除では相殺できない金額が発生する可能性があり、その場合には、その相殺できない金額に課税される。 以下、具体例を示す。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第73回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (8) 固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-14) ア 概要 法人税基本通達2-1-14は、固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期について定めている。その内容を図表で示すと次のようになる。 (※1) 固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、通達2-1-2の例による(本通達注書)(第71回参照)。 (※2) 農地や工業所有権等については、通達2-1-15、2-1-16を参照。 本通達ただし書は、当該契約効力発生日は近接日に該当するものとして、法人税法22条の2第2項の規定を適用すると述べるのみで、当該契約効力発生日の属する事業年度で益金算入するとまでは述べていない。 本通達ただし書に該当する場合においても、同項の他の要件を満たしていないなどの理由で同項の適用が認められない可能性があることを想定しているのかもしれない。 イ 本通達の趣旨 本通達ただし書は、法人税法22条の2第2項の近接日基準の適用を想定している。 本通達ただし書が認める契約効力発生日基準による収益の計上が、法人税法22条の2第2項の適用により認められるためには、少なくとも、①同基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当し、かつ、②目的物の引渡日に「近接する日」の属する事業年度の確定決算において収益として経理したものであることを要する(本連載第22回参照)。 ②について、同項は、「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日」として、わざわざ契約効力発生日基準を明記しており、少なくとも固定資産の譲渡に係る収益の計上時期について同基準の採用を認めていた旧通達2-1-14を意識した規定であるといえるかもしれない。 国税庁における本通達の趣旨説明によれば、本通達は次のとおり、上記①及び②を満たすものであると考えられていることがわかる(趣旨説明44~45頁)。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第39回】 「会計上の見積りの注記はここでミスする」 公認会計士 石王丸 周夫 1 「会計上の見積りに関する注記」のミス事例 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例39-1】 見積り計上された科目の残高が間違っている。 (出所) 株式会社フュートレック「第21期定時株主総会招集ご通知」 2021年3月期から、【事例39-1】のような「会計上の見積りに関する注記」が開示されるようになりました。「会計上の見積りに関する注記」というのは、見積りの影響を受ける財務数値について、その科目名と金額、そして理解に資する情報を記載するという注記です。近年、決算書において、見積りによる会計処理の重みが増してきたことを背景に、会計基準で定められたものです。 【事例39-1】も、その定めに従って、必要な事項を記載した注記となっていましたが、残高の金額を間違えてしまったというわけです。この事例の会社は2021年6月7日に記載内容の一部訂正を公表していますが、それによると、373,633ではなく350,782が正しかったとわかります。しかし、単なる入力ミスにしてはずいぶん違う数値です。どうしてこんなミスが起きてしまったのでしょうか。 2 同じパターンのミスが繰り返し起こる 間違って入力されていた373,633という数字ですが、実は、何の関係もない数字というわけではありません。【事例39-1】は、計算書類(個別決算)の注記なのですが、間違って入力されたこの数字は、連結貸借対照表の無形固定資産の残高だったのです。個別決算の数字を記載すべきところに連結決算の数字を記載してしまったというわけです。 「会計上の見積りに関する注記」は、連結でも個別でも記載が求められています。まず、連結計算書類の注記を作成し、その後に、コピペをして計算書類の注記を作成したのではないでしょうか。この連載で何度も取り上げてきたミスのパターンです。過去の事例としては以下のようなものがあります。 また、類似事例としては以下のような事例もありました。 3 ミスを予想できるようになろう 以上のとおり、同じパターンのミスが何度も繰り返されていることが、改めてよくわかります。会計上の見積りの開示に関する注記は2021年3月期から導入された注記ですが、新しい注記であっても、そこで起こるミスのパターンは定番のものだというわけです。 上記でリンクを貼った過去事例を参考にすると、会計上の見積りの開示に関する注記では、【事例39-1】のミス以外に次のようなミスが起こると予想されます。 いずれも読めばわかることであり、重大なミスではありませんが、こうした細かい部分の丁寧さが、開示実務のレベルアップにつながります。過去の事例を学んで、ミスを予想できるようになりましょう。 〈今回のまとめ〉 新たに導入された注記であっても、そこで起こるミスは定番のパターンであることが多いです。過去のミス事例を参考に、ミスを予想できるようになりましょう (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第24回】 「開示④」 (最終回) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 最終回となる今回も【第21回】から【第23回】に続いて、「開示(表示及び注記事項)」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報 1 契約資産及び契約負債の残高等 履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるように、次の事項を注記する(収益認識会計基準80-20項、192項)。 過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益(例えば、取引価格の変動)がある場合には、当該金額を注記する(収益認識会計基準80-20項、収益認識適用指針192項)。 契約資産及び契約負債の残高の変動の例として、次のものがある(収益認識適用指針106-8項)。 なお、当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動を注記するにあたり、必ずしも定量的情報を含める必要はない(収益認識適用指針106-8項)。 これは、例えば、契約資産及び契約負債の残高の重要な変動が1つの要因で発生している場合に、金額的な影響額を開示しなくても、当該要因が重要な変動の主要因であることを開示することにより、財務諸表利用者に有用な情報が開示される場合もあると考えられるため、当該注記には必ずしも定量的情報を含める必要はないこととしたと説明されている(収益認識適用指針192項)。 2 残存履行義務に配分した取引価格 既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるように、残存履行義務に関して次の事項を注記する(収益認識会計基準80-21項)。 3 残存履行義務の注記に含めないことができる事項(実務上の便法) 次のいずれかの条件に該当する場合には、収益認識会計基準80-21項の注記に含めないことができる(収益認識会計基準80-22項、195項、198項~202項)。 収益認識会計基準80-22項(1)(上記の①)の実務上の便法を採用するかどうかは任意であり、企業が収益認識に関する開示目的に照らして、当初に予想される契約期間が1年以内の契約も含めて注記することがより有用であると判断する場合には、当初に予想される契約期間が1年以内の契約も含めて注記することが望ましいと考えられる(収益認識会計基準198項)。 4 残存履行義務の注記に含めていないものがある場合の注記 収益認識会計基準は、収益認識会計基準80-21項における残存履行義務の注記に含めていないものがある場合に、企業間の比較可能性を担保し、残存履行義務の注記に含まれている金額の理解に役立つように、一定の注記を行うこととしている(収益認識会計基準203項)。 収益認識会計基準80-23項は、顧客との契約から受け取る対価の額に、取引価格に含まれない変動対価の額等、取引価格に含まれず、結果として収益認識会計基準80-21項の注記に含めていないものがある場合には、その旨を注記すると規定している(収益認識会計基準54項、80-23項、203項)。 収益認識会計基準80-24項前段は次のように規定しており、収益認識会計基準80-22項(1)から(3)の実務上の便法を使用した場合の注記を求めるものである(収益認識会計基準203項)。 5 残存履行義務の注記に含めるか否かを判断する単位 残存履行義務の注記は、長期の契約を有している事業を有する企業を評価するにあたって重要な情報である(収益認識会計基準196項)。 しかしながら、企業は複数の事業を営んでいる場合があり、事業により日常的に長期の契約を締結している場合もあれば、そうでない場合もある。 このため、開示目的(収益認識会計基準80-4項)に照らして収益認識会計基準80-21項の注記に含めるか否かを決定するにあたっては、収益認識会計基準80-10項における収益の分解情報を区分する単位(分解区分)ごと(複数の分解区分を用いている場合には分解区分の組み合わせ)又はセグメントごとに判断することも考えられる(収益認識会計基準205項)。 特定の分解区分(特定の分解区分の組み合わせ)又は特定のセグメントに関する残存履行義務についてのみ収益認識会計基準80-21項の注記に含めることとした場合には、収益認識会計基準80-21項の注記に含めた分解区分等を注記することが考えられる(収益認識会計基準205項)。 Ⅲ 終わりに 「収益認識会計基準を学ぶ」は、今回の【第24回】で終了することとなる。 収益認識会計基準は、原則として、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されている新しい会計基準であり、実務上、判断に迷うことも多いところである。 本連載が少しでも実務に役立てば幸いである。 (連載了)