組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第6回】 「試験研究を行った場合の税額控除(前半)」 公認会計士 佐藤 信祐 1 概要 租税特別措置法では、法人税額の特別控除に対する様々な特例が認められており、地方税法でも、同様の特例が定められている。このうち、本稿では、「試験研究を行った場合の税額控除(第6回、第7回)」と「給与等の支給額が増加した場合の税額控除(第8回)」を取り上げることとする。 租税特別措置法では、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除として、以下の3つについて定められている。 さらに、地方税法においても、中小企業者等が試験研究を行う場合には、道府県民税及び市町村民税(法人税割)の課税標準額が特別試験研究費に係る税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制を適用した後の法人税額をもとに計算されることから、道府県民税及び市町村民税(法人税割)も軽減されることになる(地法附則8①)。 上記のいずれの制度であっても、試験研究費の額又は特別試験研究費の額に税額控除割合を乗じることにより税額控除限度額が算定される。そして、税額控除割合の計算上、増減試験研究費割合及び試験研究費割合をそれぞれ計算する必要があることから、組織再編成による影響を受けることになる。 すなわち、増減試験研究費割合とは、増減試験研究費の額(※1)の比較試験研究費の額に対する割合をいい(措法42の4⑧三)、比較試験研究費の額とは、前3年以内に開始した各事業年度の試験研究費の額を平均した金額をいう(措法42の4⑧五)。そして、試験研究費割合とは、平均売上金額に占める適用年度の試験研究費の額をいう(措法42の4⑧六)。その結果、比較試験研究費と平均売上金額に対する組織再編成による影響を考慮する必要が生じるのである。 (※1) 適用年度の試験研究費の額から比較試験研究費の額を減算した金額をいう。 なお、令和3年度税制改正により、令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する各事業年度のうち基準年度比売上金額減少割合が2%以上であり、かつ、試験研究費の額が基準年度試験研究費の額を超える事業年度の控除税額の上限に適用年度の法人税額の5%を上乗せする特例が設けられたが(措法42の4③三、⑥三)、基準事業年度の売上金額及び基準年度試験研究費の額について、平均売上金額及び比較試験研究費の額と同様の調整を行うこととされている(措令27の4⑭~⑲)。 2 解散事業年度における取扱い 解散の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度においては、試験研究を行った場合の税額控除が認められていない。ただし、合併により解散する法人については、試験研究を行った場合の税額控除が認められている。これは、適格合併を行った場合であっても、非適格合併を行った場合であっても同様である。 これに対し、①分割又は事業譲渡をした日の属する事業年度において分割法人又は事業譲渡法人が解散する場合には、解散の日を含む事業年度において試験研究を行った場合の税額控除を適用することができず、②分割法人となる法人又は事業譲渡法人となる法人が解散した日の翌日に分割又は事業譲渡をする場合には、清算中の事業年度において試験研究を行った場合の税額控除を適用することができない。 3 設立事業年度における取扱い 設立事業年度である場合又は比較試験研究費の額が0である場合には、原則として、試験研究費に係る税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制における税額控除割合が0.085になる(措法42の4①二、⑤)。そして、設立後10年以内の法人については、一定の要件を満たせば、税額控除限度額の上限が法人税額の40%に相当する金額になる(措法42の4③一)。ただし、合併、分割又は現物出資による設立の場合には、これらの特例から除かれている(措法42の4③一、⑧四)。これは、適格組織再編成に該当する場合であっても、非適格組織再編成に該当する場合であっても同様である。さらに、通常の設立であったとしても、後述する組織再編成による調整が行われる場合には、これらの特例から除かれている(措法42の4⑧四、措令27の4⑦)。 4 比較試験研究費 (1) 基本的な取扱い 比較試験研究費の額とは、適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の試験研究費の額(※2)の合計額を当該3年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいう(措法42の4⑧五)。 (※2) 当該各事業年度の月数と当該適用年度の月数とが異なる場合にはこれらの試験研究費の額に当該適用年度の月数を乗じてこれを当該各事業年度の月数で除して計算した金額とする。 ただし、以下に掲げる合併法人等(合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人をいう)に該当する場合には、以下のように計算を行う(措令27の4⑧)。なお、基準事業年度試験研究費の額についても同様の特例が設けられている(措令27の4⑯)。 (※3) 残余財産の全部の分配に該当する現物分配である場合には、当該適用年度開始の日の前日から当該適用年度終了の日の前日までの期間内においてその残余財産が確定したものをいう。 (※4) 原則として、当該適用年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度のうち最も古い事業年度度開始の日をいうが、未経過法人に該当する場合には特例が定められている。なお、未経過法人とは、当該合併法人等が当該適用年度開始の日においてその設立の日の翌日以後3年を経過していない法人のことをいう。 (※5) 未経過法人に該当する場合には、基準日から合併法人等の設立の日の前日までの期間を当該合併法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 (※6) 残余財産の全部の分配に該当する現物分配である場合には、その残余財産の確定の日の翌日。 (※7) 残余財産の全部の分配に該当する現物分配である場合には、基準日の前日から当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度終了の日の前日までの期間内においてその残余財産が確定したものをいう。 (※8) 未経過法人に該当する場合には、基準日から合併法人等の設立の日の前日までの期間を当該合併法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 この場合における月別試験研究費の額とは、その合併等に係る被合併法人等の当該合併等の日前に開始した各事業年度の試験研究費の額(分割等(分割、現物出資又は現物分配をいう)の日を含む事業年度(以下、「分割事業年度等」という)にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合の当該分割事業年度等の試験研究費の額)をそれぞれ当該各事業年度等の月数(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数)で除して計算した金額を当該各事業年度等に含まれる月(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月)の試験研究費の額とみなした場合における当該試験研究費の額をいう(措令27の4⑨)。 なお、現物分配により試験研究用資産の移転を受けていない場合において、当該現物分配により試験研究用資産の移転を受けていない旨の届出をしたときは、上記の特例を適用しないことができる(措令27の4⑫、措規20⑨)。 (2) 分割又は現物出資の特例 分割又は現物出資を行った場合には、分割又は現物出資の日以後2ヶ月以内に「分割等による移転試験研究費の額の計算方法の認定申請書」「分割等による試験研究費の額の区分に関する届出書」を提出することにより、以下のように計算を行うことも認められている(措令27の4⑩、措規20③⑧)。なお、基準事業年度試験研究費の額についても同様の特例が設けられている(措令27の4⑰二、措規20⑩⑮)。 (※9) 移転事業に係る試験研究費の額をいう。 (※10) 未経過法人に該当する場合には、基準日から分割承継法人等の設立の日の前日までの期間を当該分割承継法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 (※11) 未経過法人に該当する場合には、基準日から分割承継法人等の設立の日の前日までの期間を当該分割承継法人等の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 この場合における月別移転試験研究費の額とは、その分割等に係る分割法人等の当該分割等の日前に開始した各事業年度の移転試験研究費の額をそれぞれ当該各事業年度の月数(※12)で除して計算した金額を当該各事業年度に含まれる月(※13)の移転試験研究費の額とみなした場合における当該移転試験研究費の額をいう(措令27の4⑪)。 (※12) 分割等の日を含む事業年度にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数。 (※13) 分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月。 なお、次回では、平均売上金額の調整と適用除外事業者について解説を行う予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例106(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(消法12の3①) 平成26年4月1日以後に設立される資本金1,000万円未満の新規設立法人のうち、その基準期間がない事業年度開始の日(以下「新設開始日」という)において特定要件(他の者により新規設立法人の発行済株式の50%超を保有されている場合その他一定の場合をいう)に該当し、かつ、新規設立法人が特定要件に該当する旨の判定の基礎となった他の者及びその完全支配法人のうち、いずれかの者のその新規設立法人のその新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として一定の方法により計算した金額が5億円を超えるもの(以下「特定新規設立法人」という)については、その特定新規設立法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間については納税義務が免除されない。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第21回】 「老人ホーム入居後に建て替えた場合の特定居住用宅地等の特例の適用」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲は、A宅地及び家屋を所有し自己の居住の用に供していましたが、相続開始の5年前に有料老人ホームに入居しました。老人ホームの入居前は、A宅地及び家屋にて長男家族と同居していましたが、建物も老朽化していたため、老人ホーム入居後に建替えを行っています。建替え後の利用状況が次のそれぞれの場合には、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の対象にならないものはありますか。 甲の相続人は、長男である乙のみです。乙は会社員であり、持家はありませんが、自己の収入に基づき生活をしており、甲との間に生活費等の援助はありませんので、老人ホーム入居後は被相続人と生計を別にしています。 〈建替え後の利用状況〉 [A] ②及び③のケースについては、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下、単に「特例」という)を受けることができませんが、①及び④のケースについては、他の要件を満たせば特例の適用を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等の範囲 特定居住用宅地等は、相続開始の直前において被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等に該当することが必要となりますが、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等であっても、一定の要件を満たす場合には、その被相続人が居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた宅地等については、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当することとされています(措法69の4①、措令40の2②③、措規23の2②)。 一定の要件については、第20回で解説していますが、本問の場合には、下記の老人ホーム等の入居後の用途制限の要件が関わってきます。 〈老人ホーム等の入居後の利用制限の要件〉 上記の利用制限の規定については、平成25年度の税制改正により法整備されたものですが、税制改正前については、国税庁の質疑応答事例で下記の要件を満たしている場合には、特定居住用宅地等の対象になるとされていました。 平成25年度の税制改正により上記の要件は整理され法令化されましたが、(4)の要件については、終身利用権のない老人ホームを希望しても空きがないため、やむを得ず、終身利用権のある老人ホームに入居した場合には、特例を受けることができないということが問題になったため廃止となり、(2)及び(3)の要件は、事実上、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件になりました。 老人ホーム等の入居後の利用制限の考え方は、老人ホームの入居前に被相続人の居住用宅地等に該当し、かつ、仮に被相続人が老人ホームから退去し、その入居前の宅地等に戻ってきた場合に被相続人が居住できる宅地等と認められるような場合には、特例対象にするという趣旨であると考えられます。 したがって、被相続人と本来同居を前提としない者が新たに居住している場合やその宅地等を事業の用に供した場合には、被相続人の居住用宅地等として考えるのは適当ではないとして特例の対象外とされています。 以上のことを鑑みれば、建替え後の建物について、被相続人が住むことを前提としていない建物構造である場合や生計一親族以外の親族が新たに居住している場合には、特例は認められないことになると考えられます。あくまでも改正後の要件を確認することが重要ですが、その改正の要件の趣旨を考えることも重要になります。 2 本問への当てはめ 〔①の場合〕 乙家族が引き続き居住しているため、他の要件を満たせば特例の対象になります。 老人ホーム入居後は、乙は生計別親族ではありますが、入居前は生計を一にし、引き続き居住していますので、上記の老人ホーム等の入居後の利用制限の要件の括弧書きの親族に該当することになります。 なお、建替えのために「引き続き居住」をしていないため、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件を満たさないのではないかとの疑問もあるかもしれませんが、居住の継続という観点から建替えは必要不可欠なものであり、一時的に居住の用に供しなくなったとしても、生活の拠点はA宅地と考えることができるため、乙が建替え後に生活の拠点をA宅地以外に移していると認められる場合を除き、「引き続き居住」をしている者に該当することになります。 したがって、相続開始の直前において生計別親族であったとしても、要件を満たし特例の適用を受けることができます。 また、建物名義については、被相続人の親族が所有していたもの(その家屋を所有していた被相続人の親族がその家屋の敷地を被相続人から無償で借り受けており、かつ、被相続人がその家屋をその親族から借り受けていた場合には、無償で借り受けていたときにおけるその家屋に限る。)も含まれます(措通69の4-7)ので、本問の場合にも被相続人の土地が使用貸借である限り、問題ありません。 〔②の場合〕 老人ホームの入居後に、事業の用に供されていた宅地等に該当し、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件を充足しませんので、特例を適用することはできません。 また、2階部分は生計を別にする親族である乙の事業の用に供されていた宅地等に該当するため、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例も適用できません。 〔③の場合〕 老人ホームの入居後に、被相続人等以外の者の居住の用に供されていた宅地等に該当し、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件を充足しませんので、特例を適用することはできません。 〔④の場合〕 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で、かつ、建物又は構築物の敷地の用に供されていることが要件とされています(措法69の4①)ので、相続開始時点で建築中である場合には、特例の適用を受けることができなくなってしまいます。 しかしながら、事業や居住の継続の観点から一時点で判断することは適当ではありませんので、相続開始時点において建築中である場合や、事業の用又は居住の用に供する前に相続が開始した場合については、租税特別措置法関係通達69の4-5、69の4-8において救済措置があります。 すなわち、居住用については、相続開始直前においてその被相続人等のその建物等に係る居住の準備行為の状況からみてその建物等を速やかにその居住の用に供することが確実であったと認められるときは、その建物等の敷地の用に供されていた宅地等は、居住用宅地等に該当するものとされています(措通69の4-5、69の4-8)。 具体的には、下記の要件を満たす必要があります。 本問の場合には、建築中の建物は乙名義であり、相続税の申告期限までに乙がA宅地を相続し、居住の用に供していますので、居住用宅地等に該当します。 したがって、他の要件を満たせば、特例の適用を受けることができます。 ★実務上のポイント★ 建替えを行う際には、老人ホーム等の入居後の利用制限の要件やその趣旨、通達の内容を確認することが重要となります。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第13回】 「年の中途に不動産を取得した者が固定資産の価格に不服がある場合に、不動産取得税の課税標準である固定資産の価格の適法性について訴えることができるか否かが争われた判例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産税の価格について不服を申し出ることができる人は 固定資産税は、毎年1月1日を賦課期日として、土地、家屋、償却資産を所有している者が固定資産課税台帳に記載された登録価格(以下「固定資産の価格」という)を基に算定した税額を固定資産の所在する市町村に納める税金である(地方税法第343条第1項、第349条第1項、第359条)。 この固定資産の価格のうち、土地や家屋については、原則的には、不動産取得税も課税標準として利用している(地方税法第73条の13第1項)。そして、納税義務者は不動産の取得者である(地方税法第73条の2第1項)。 しかし、不動産について増築、改築、損かい、地目の変換その他特別の事情がある場合で固定資産の価格により評価することが難しいときは、例外を認めている(地方税法第73条の21第1項)。 不動産取得税の課税標準である固定資産の価格に不服がある場合の、納税義務者の救済規定は不動産取得税では設けられていない。そのため、賦課処分に不服がある場合は、行政不服審査法の定めるところによる審査請求によることになる(地方税法第19条)。 固定資産の価格に不服がある場合の救済規定が設けられているのは固定資産税の方であり、固定資産評価審査委員会への審査の申出をすることができるのは、原則的には、固定資産税の納税義務者、すなわち、1月1日時点の所有者である(地方税法第343条第1項、第432条第1項)。 では、年の中途に不動産を取得した者は、固定資産の価格に不服がある場合、不動産取得税の課税標準である固定資産の価格について訴えることができるのか。 今回は、この件に関して、争われた事案について検討する。 ▷どのような事案か この事案の経緯は次のようなものである。 ▷事案の争点 争点は、不動産取得税の賦課処分に係る取消訴訟において、不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を争うことができるか否かである。 ▷地裁での原告(X)の主張 地裁において、原告(X)は以下のように主張した。 ▷地裁の判断 地裁は、次のような理由からXの請求を却下した。 ▷高裁でのXの主張 地裁判決に不服なXは控訴した。 Xは、登録価格が時価を上回るという事態が発生している場合は、登録価格そのものを適正な時価ではない旨主張して争うことができると主張した。 例として、「平成16年10月29日の最高裁判決では、評価基準によって決定された価格が、適正な時価を上回る場合には、その決定された価格に基づいてされた不動産取得税の賦課処分は違法となるとして、適正時価を上回ることを違法事由として主張して争うことができるとされた」と主張した。 ▷高裁の判断 高裁は、次のような理由からXの請求を棄却した。 ▷上告の結果 高裁の判決に不服なXは上告したが、不受理確定となった。 このように、不動産を取得した者が、固定資産税の登録価格が時価よりも高い場合においてもその価格について異議を申し出ることは否定された。時価よりも高いということをもって簡単に固定資産の価格が否定されるならば、不動産取得税の租税実務が煩雑となり、結局、国民の負担を増加させることから線引きは必要なのだろう。 では、不動産取得税の賦課処分が違法であると判断された事案はどのようなものだったのか。次回はこの事案について検討する。 (了)
〔コロナ禍で気をつけたい〕 固定資産管理のポイント 公認会計士・税理士 喜多 弘美 1 はじめに 2020年から新型コロナウイルス感染症により、ビジネスのあり方が大きく変化している。特に大きく変わったのは、テレワークが多くの企業に導入されたことではないだろうか。東京のオフィス空室率は上昇し、電通やエイベックスなど本社ビルを手放す企業も一部出てきている。感染者数は一時減少したものの、変異株が発見され、再び感染者数が増加している。企業が保有する固定資産の価値を見直す良い時期ともいえるだろう。 そこで今回は、コロナ禍で気をつけたい固定資産管理のポイントをまとめた。 2 固定資産管理のポイント 固定資産は一般的に投資金額が大きく、長期的に保有するものが多いため、一度購入すると会社に与える影響が大きい。具体的には、一度購入するとメンテナンスが必要な場合が多く、盗難のリスクもあるので、コンディションの確認が必要になる。そのため、購入した時だけでなく、保有し続けるためにも資金が必要になる。購入費用やメンテナンス費用など固定資産にかかるコスト以上に、収入を得ることができるかも重要だ。また、メンテナンスがきちんとできていないと事故なども起きる可能性があり、修理代だけでなく、従業員などの安全も意識することが必要になる。 このように、固定資産を購入することで、時間や資金、また、管理する人件費も必要になる。以下では、コロナ禍における固定資産の管理のポイントを(1)現物管理、(2)資産評価の視点からまとめる。 (1) 現物管理 固定資産は大きく分けると「有形固定資産」と「無形固定資産」に分類される。「有形固定資産」は故障や破損などのリスクがあるため、現物管理が必須になる。今回は、特にコロナ禍で気をつけたい有形固定資産の現物管理のポイントを記載する。 ① 現物があるか、実地棚卸の実施 冒頭でも記載した通り、コロナ禍になってからはテレワークが普及している。そのため、コロナ禍前より従業員が出社する機会が減っており、会社にいる人も少ない。つまり、コロナ禍前に比べて盗難などが起きやすい環境になっている。 よって、現物があるかどうかの確認として、実地棚卸の重要性が高くなってくるといえるだろう。コロナ禍前は実地棚卸の担当者が現物を確認することができた有形固定資産も、テレワークが普及した今は、従業員が自宅に持ち帰っている場合も多い。そのため、場合によっては現物の写真を各自に送ってもらうなど、現物確認の代替方法を検討することも必要になる。 ② 各資産の利用状況、コンディションの確認 次に、各資産の利用状況を把握することが大切になる。後述の(2)資産評価の話にもつながるが、製造業の機械装置などはコロナ禍前と現在で稼働状況が変わっているものもあるだろう。例えば、コロナ禍前より固定資産の稼働時間が短くなっている場合は、ずっと持ち続けるよりも手離す方が保全の手間やコスト、時間を省くことができる可能性がある。この場合、会社としては今後も固定資産を持ち続けるかの判断が必要になる。 また、コロナ禍前より稼働時間が長くなっている場合は、当初の予定よりも固定資産の劣化が早く、修繕や買替えの時期を早めたり、修繕費が多くかかったりする可能性がある。この場合、会社としては修繕にかかるコスト以上に、当該固定資産を保有し続けることで収益を得ることができるかを検討する必要がある。 上記のように、経営者が固定資産を保有し続けるか、また、修繕や買替えの資金繰りの検討をしやすい資料の提供を、財務経理担当者には求められる場合がある。この場合、現場担当者・管理者が確認した固定資産のコンディション(良好、修繕が必要、買替えが必要など)、今までの修繕時期と修繕にかかったコスト、固定資産の取得日・耐用年数・取得価額・現在の帳簿価額を一覧にすると判断しやすくなるだろう。 ③ 各資産の管理者の確認 上記のとおり、実地棚卸もコンディションの確認も、固定資産の管理には人が欠かせない。責任の所在を明らかにするためにも、管理者を決めておくことが重要になる。コロナ禍前も管理者は決めていたと思うが、テレワークが続き、従業員が自宅に持ち帰っているものがあったりすると、管理者が現物を管理できない場合がある。 工場にある機械装置は、コロナ禍で稼働時間を変更するなど今までとは異なる稼働の仕方をしている場合は、機械装置のコンディションも今までと異なる可能性がある。そのため、実際に該当する資産を使用している者や該当する機械装置の仕組みなどを把握している者を管理者に再設定する必要がある。効率良く管理するためにも、適切な管理者の指定が重要になる。 (2) 資産評価(減損) 次に、収益性の観点からも固定資産管理をする必要がある。固定資産は使用することで収益獲得につながると考えられるため、今後の収益性が著しく減少した場合には、収益性が著しく減少したことを帳簿価額に反映させる必要がある。いわゆる減損である。減損は、以下のステップにより実施される。 ④の減損損失の認識判定では、②でグルーピングをした資産グループが生み出す割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回っている場合に減損損失を認識することになる。⑤では回収可能価額を算定し、帳簿価額を回収可能価額まで減少させる。④、⑤で大事なのが、将来キャッシュ・フローである。将来キャッシュ・フローは、今後、当該資産グループから得られるキャッシュ・フローのことになる。また、将来キャッシュ・フローは固定資産を購入する際の検討材料になる。 コロナ禍でビジネスモデルも変わっている場合、今まで使用していた固定資産を使わなくなり、購入時点で想定していたキャッシュ・フローを得ることができなくなったり、固定資産自体の価値が下がったりする場合がある。そのため資産評価を適切に実施する必要がある。 3 令和3年度における固定資産税の負担調整措置について 固定資産に関係する税金として、固定資産税がある。固定資産税は、固定資産を保有するために必要な経費であるため、購入時や資産を保有し続けるかの判断材料に含める必要がある。 令和3年度の税制改正では、新型コロナウイルス感染症により経済活動を取り巻く環境が大きく変化したため、納税者の負担感を軽減する目的で、令和3年度に限り、土地の課税標準額の据え置きの措置が講じられている。固定資産税評価額が上がった土地は前年度と同額の評価額に基づく課税に据え置かれ、固定資産税評価額が下がった土地は下がった評価額に基づく課税になる。 令和3年度は3年に1度の固定資産税評価額の評価替えの年度にあたるため、固定資産税評価額が上がった土地は、本来なら前年度より高い評価額に基づく課税となり、納付する固定資産税は増加するが、固定資産税が前年度よりも高くならないように措置が講じられている。 固定資産税については、令和4年度の税制改正大綱でも負担調整措置があげられているため、財務経理担当者は、引き続き注視しておく必要がある。具体的には、固定資産税の納税通知書(納税明細書)が届いたら、固定資産税評価額などを確認し、負担調整措置の対象になるか検討することで、資金繰りの面で役立てられる可能性がある。 4 まとめ コロナ禍で気をつけたい固定資産管理のポイントとして、会計・税務の視点から以上のとおりまとめた。新型コロナウイルス感染症で働き方が変わったことにより、固定資産管理についても意識することが増えたかもしれない。 事業継続のためには、社会・経済の変化に柔軟に対応することが大事だといわれるが、固定資産管理については現物管理を重視すること、財務経理担当者として固定資産の投資や保有の経営判断の材料になる資料を作成すること、また、税務署などから送られてくる通知書をただ受け取るだけでなく、会計・税務の面から会社に有利になることを考えることで、会社全体への貢献につながる。また、自身の視野を広げ、知識を深めるチャンスに変えることもできるだろう。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2022年1月】 第3四半期決算(2021年12月31日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第3四半期決算(2021年12月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 2021年10月1日から12月31日までに公開した速報解説を対象としている。 第3四半期決算でも、第1四半期決算及び第2四半期決算に関連する速報解説に引き続き注意する必要がある。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 会計関係 記述情報の開示に関連する事項として、次のものが公表されている。 四半期報告書の作成に際しても参考になる部分があると考えられる。 ① 「記述情報の開示の好事例集2021」(サステナビリティ情報に関する開示)(金融庁。内容:「サステナビリティ情報」に関する開示の好事例を取りまとめたもの) ② 「サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて-「非財務情報の開示指針研究会」中間報告-」(経済産業省。内容:質の高い非財務情報の開示を実現するために求められる方向性について記載) Ⅲ 監査関係(監査法人等) 1 令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直し 日本公認会計士協会から、「令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しを受けた監査上の対応について(お知らせ)」が公表されている。 企業のスキャナ保存制度下において作成されたスキャン文書の利用を前提とした監査計画の策定、監査手続の実施などについて記載している。 電子帳簿等保存制度の見直しは2022年1月1日からの施行であるが、本稿で紹介した。 2 監査報告書関係 日本公認会計士協会は、監査報告書に関係する事項として、次のものを公表している。 ① 「監査報告書に係るQ&A」(監査基準委員会研究報告第6号)の改正(内容:監査報告書について、「自署・押印」から「署名」へ改正することなどを記載。改正公認会計士法は2021年9月1日から施行)。 ② 「EDINETで提出する監査報告書の欄外記載について(お知らせ)」(内容:EDINETで提出する監査報告書の欄外記載について、改正公認会計士法施行後の記載例を示す) 3 監査手続関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査手続などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準委員会報告書580「経営者確認書」の改正(内容:「収益認識に関する会計基準」などに対応する改正) ② 監査・保証実務委員会報告第83号「四半期レビューに関する実務指針」の改正(内容:監基報580「経営者確認書」の改正に対応) Ⅳ 監査関係(監査役等) 日本監査役協会から、次のものが公表されている。 期中における監査役等の監査業務に資するものがあると考えられる。 ① 「「監査役監査基準」等及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」等の改定」(内容:会社法の改正及び改正会社法に係る法務省令の改正、コーポレートガバナンス・コードの改訂等に対応) ② 「監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用初年度における検討プロセスに対する監査役等の関与について」(内容:KAM強制適用初年度となる2021年3月期決算の監査役等の監査対応を記載) ③ 「企業におけるコロナ禍の影響および監査役等の監査活動の変化について」(内容:コロナ禍における監査の視点の在り方や監査手法及び監査の課題を記載) (了)
〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第2回】 「相続登記の義務化の内容と注意点」 司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行 【Q】 相続登記が義務化されたと聞きましたが、具体的な内容について教えてください。 【A】 相続により不動産の所有権を取得した者は、自身のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務を負うことになった。 -《解説》- もともと相続登記は相続人の義務ではなく、相続人が必要に応じて行えばよかった。 ところが、相続登記がなされないことが所有者不明土地問題の主な原因であることが国土交通省の調査から分かってきた。平成29年度の調査では、所有者不明土地は22.2%(筆数ベース)であり、その発生原因として相続登記が未了であることが66%を占めることが判明した。 (※) 法務省資料より抜粋。 このような問題を解消するために、 政府は、国策として相続登記の促進に乗り出した。結果として、所有者不明土地の発生の予防のために相続登記の申請が義務付けされることとなった。 具体的な内容は以下のとおりである。 また、相続登記の義務化にあたり注意しておきたい点は以下のとおりである。 * * * (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例67】 片倉工業株式会社 「株式会社かたくらによる当社株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」 (2022.1.12) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、片倉工業株式会社(以下「片倉工業」という)が2022年1月12日に開示した「株式会社かたくらによる当社株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」である。 株式会社かたくら(以下「かたくら」という)が片倉工業に対するTOB(株式公開買付け)を行っていたのだが、それへの応募数が買付予定数の下限に満たなかったため、成立しなかったという内容である。「公開買付け後の方針等及び今後の見通し」に次のように記載されているとおり、このTOBは、片倉工業の株式非公開化を目的としたMBO(経営者による企業買収)であった。 2 みずほ銀行が主導? 片倉工業は、2021年11月8日、「株式会社かたくらによる片倉工業株式会社株式(証券コード:3001)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、かたくらによるTOB開始について伝えるのと同時に、「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」を開示し、MBOの目的を説明して、そのTOBへの応募を株主に対して訴えた。 TOBを行ったかたくらは、佐野公哉氏(以下「佐野氏」という)と上甲亮祐氏(以下「上甲氏」という)が半分ずつ出資する会社だが、代表取締役は上甲氏であり、MBOを主導したのも同氏のようである。 佐野氏は片倉工業の生え抜きで、2015年3月から2020年3月まで同社の代表取締役を務め、現在は取締役会長である。それに対して、上甲氏は株式会社みずほ銀行(以下「みずほ銀行」という)出身で、2017年5月に片倉工業に入り、2019年3月から代表取締役社長である(第112期有価証券報告書)。 みずほ銀行は片倉工業のメインバンクなのだろう。片倉工業の大株主でもあり(4.94%所有)、片倉工業の方も株式会社みずほフィナンシャルグループの株式を所有している。また、片倉工業には、上甲氏のほかに監査役にもみずほ銀行出身者がいる。 今回のTOBの資金も、みずほ銀行からの借入れによって賄われることになっている。「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」には、次のような記載がある。 次のような記載もある。お金の面倒は銀行に見てもらえばいいということのようである。銀行出身の上甲氏からすると、上場し続けることは、面倒な株主対応などが必要となるだけで、意義を見出しにくいものなのかもしれない。 3 オアシスの裏切り? かたくらは、片倉工業の筆頭株主であるOasis Management Company Ltd.(同社が運用するファンドが片倉工業株式を所有。以下「オアシス」という)のほか、何社かの大株主との間でTOBへ応募する契約を締結し、TOBは順調に行くように見えた。 しかし、オアシスはTOBへ応募することなく、他社へ片倉工業株式を全て売却してしまう(2021年12月21日開示「主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」)。オアシスは、TOBへ応募する契約をかたくらと締結していたはずである。「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」の中の「本公開買付けに関する重要な合意」にその契約の内容が記載されているのだが、そこには次の合意が含まれていた。 「第三者」からオアシスに対して「大幅に高い価格で買い付ける提案」があったのである。2021年12月21日に開示された「(変更)『MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ』の一部変更」によると、その「第三者」は、TOBの買付価格よりも10%ほど高い価格で片倉工業株式を買ってくれるとのことである。 「第三者」は、TOBの買付価格よりも10%ほど高い価格で片倉工業株式を買ったのだから、買付価格をそれよりも上げない限り、その「第三者」がTOBへ応募してくれることは期待できない。しかし、かたくらは、買付価格を上げるつもりはないと表明した(2022年1月4日開示「株式会社かたくらによる片倉工業株式会社株式(証券コード:3001)に対する公開買付けに係る株式会社かたくらの考え方に関するお知らせ」)。 また、TOBの期間である2021年11月9日から2022年1月11日までの間(2021年12月21日に「株式会社かたくらによる片倉工業株式会社株式(証券コード:3001)に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」が開示され、期間を延長)、片倉工業の株価はTOBの買付価格を上回ったままであった。 その結果、TOBは成立しなかったのである。 4 MBOの試みが裏目に? オアシスとのコミュニケーションを担っていたのも上甲氏である。「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」には、次のような記載がある。 銀行とオアシスのような所謂アクティビスト(物言う株主)とでは、考え方がまるで異なる。上甲氏とオアシスのコミュニケーションは本当に上手くいっていたのだろうか。上甲氏に何か読み違いは無かったのだろうか。 MBOが実現しなかった以上、片倉工業は今後も引き続き株主と向き合っていかなければならない。株主とのコミュニケーションは、もしかするとこれまでよりも大変なものになるかもしれない。これまで筆頭株主だったオアシスは手強い相手だったかもしれないが、考え方は実は明快だったはずである。新たに筆頭株主となった「第三者」は、現時点では得体の知れない相手である。ちなみに、その「第三者」は株式会社鹿児島東インド会社という会社なのだが、その代表者は、株式会社光通信の創業者の子息である(光通信・第34期有価証券報告書「大株主の状況」参照)。 (了)
《速報解説》 「その他の記載内容に関連する監査人の責任」に関連する後発事象への対応などを行うものとして、「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」の改正案をJICPAが公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年1月21日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会実務指針第103号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下「監基報720」という)に関連する後発事象への対応などを行うものである。 意見募集期間は2022年2月21日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 訂正後の財務諸表における後発事象 監基報720は、監査人に、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(その他の記載内容)を通読し、財務諸表及び監査人が監査の過程で得た知識とその他の記載内容に重要な相違があるかどうかを検討することを要求している。 訂正報告書については、監査人は、各年度の訂正報告書に含まれるその他の記載内容を通読し、通読の過程において、その他の記載内容と訂正後の財務諸表又は監査人が訂正後の財務諸表に対する監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうか検討すること、また、そのような重要な相違以外にその他の記載内容に重要な誤りの兆候があるかどうか注意を払うことが求められる(監基報720、13項及び14項)。 各年度の訂正報告書に反映させる後発事象は、訂正前の財務諸表に対する各年度の監査報告書日までに発生していた事象である(A69項)。 訂正前の財務諸表に対する監査報告書日後に発生した事象については、その訂正対象年度の翌年度(翌四半期)以降の有価証券報告書等の開示書類において反映されると考えられる(A69項)。 監査人が訂正後の財務諸表に対する監査の過程で得た知識には、訂正後の財務諸表に対する監査報告書日までに発生した事象に関して得た知識も含まれ、A69項を踏まえて、各年度の訂正報告書に含まれるその他の記載内容を通読し検討を行う(A69項-2項)。 Ⅲ 適用時期等 改正後の実務指針は、2022年〇月〇日以後に監査報告書を発行する訂正後の財務諸表に対する監査に適用する(公開草案では具体的な日付は記載されていない)。 (了)
《速報解説》 ASBJ、企業会計基準等における「廃止」の文言の意味を明確化 ~「廃止」に伴い削除していた過去の基準も今後はホームページ上に掲載へ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年1月21日(ホームページ掲載日)、企業会計基準委員会は、「企業会計基準等における「廃止」についての考え方」を公表した。 企業会計基準等では、主に適用時期等の記載箇所に「廃止」の文言を記載しているが、この「廃止」の意味を明確化するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 「廃止」の文言の意味 企業会計基準等において記載している「廃止」の文言の意味は、新たな企業会計基準等の適用により、従来の企業会計基準等を適用しないという、企業会計基準等の適用関係を明らかにすることを意図しているものである。 今後新たに開発又は改正する企業会計基準等においては、「廃止」という用語を用いないこととし、適用関係を明確に記載することとする。 なお、財務会計基準機構のホームページの掲載について、「適用が終了した会計基準等」として、これまで「廃止」に伴い削除していた企業会計基準等も含めて、掲載されることとなる。 2 過年度の財務諸表について誤謬の修正再表示を行う場合 過年度の財務諸表について誤謬の修正再表示を行う場合、当該過年度の財務諸表の作成に当たっては、当該過年度において適用することとされていた企業会計基準等を適用することになるため、過年度の財務諸表には「廃止」された企業会計基準等を適用することになる。 (了)