《速報解説》 国税庁、最高裁判決を踏まえた混合配当の取扱いについて公表 ~混合配当の際に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限に~ 公認会計士・税理士 霞 晴久 国税庁は、2021年10月25日、同HP『お知らせ』において、「最高裁判所令和3年3月11日判決を踏まえた利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の取扱いについて」を公表した。 このお知らせ(以下「本件お知らせ」という)は、最高裁判所令和3年3月11日判決(以下「本件最判」という)において、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当(以下「混合配当」という)が行われた場合における「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算方法の規定について、一定の限度において、違法なものとして無効である旨判示されたことを契機とするものである。 本件は、内国法人であるX(連結親会社)が、外国子会社(米国デラウエア州法に基づき設立されたLLC)から、それぞれの決議を別にする混合配当を受け、同配当のうち資本剰余金部分については法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下、「法」という)24条1項3号(注:現行法24条1項4号)の資本の払戻しの一形態である「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)」に、利益剰余金部分については法23条1項1号にいう「剰余金の配当(・・・資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く。)」に該当することを前提に連結事業年度の連結確定申告をしたところ、所轄税務署長から、これらの剰余金の配当は、それぞれの効力発生日が同じ日であることなどから、その全額が法24条1項3号の資本の払戻しに該当するとして法人税の更正処分を受けたため、当該更正処分の一部の取消しを求めた事案である。 本件最判では、次のような判断が示された。 今後は、本件最判に従い、現行の法施行令23条1項4号及び同様の規定である所得税法施行令61条2項4号について、混合配当があった場合に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限として取り扱うこととされた。 本件お知らせでは、上記取扱いが今後どのように法施行令の改正の文言に反映されていくかについては具体的に示されていないが、改正施行令の施行を待たず、過去に遡って上記取扱いが適用されるものとして一般に告知されたものと解される。したがって、本件お知らせでは、上記取扱いにより直前払戻等対応資本金額等の再計算を行った結果、過去に行った申告内容等に異動が生じ、納付税額等が過大となる株主等納税者は、国税通則法の規定に基づき所轄の税務署に更正の請求を行うことができる(※)としている。 (※) ただし、本件お知らせでは、法定申告期限等から5年を経過している法人税又は所得税については、減額更正を行うことはできない(国税通則法23条1項本文)として注意喚起している。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年10月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.442を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第7回】 「税法の文理解釈における「一般人の理解」の意義と限界」 -レーシングカー「普通乗用自動車」事件・最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 税法の解釈について、租税法律主義の下では、文理解釈が原則であることはこれまでにも述べてきたが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1参照)、今回は、レーシングカー「普通乗用自動車」事件・最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁(以下「本判決」という)を素材にして、文理解釈の意義と限界を検討することにする。 その前に、税法における文理解釈の原則について、もう一度確認しておこう(①は清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、②は金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)123頁)。 Ⅱ 文理解釈における「一般人の理解」の重要性 文理解釈の意義について、その理解・表現には論者によって異なるところもあるが、それは「法令の文章や用語を通常の意味に理解すること、あるいは字義どおりに解釈すること」(金子宏「租税法解釈論序説―若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈のあり方」同ほか編『租税法と市場』(有斐閣・2014年)3頁)であると定義することに特に異論はなかろう。そして、ここで「通常の意味」とは、「法規の文字・用語は、言語慣用に従って、普通の常識的な意味に解するのが原則である」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)467頁)といわれる場合の「普通の常識的な意味」をいうことについても同様に特に異論はなかろう。 ただ、以上においていわれる「通常の」ないし「普通の」をどのように捉えるかについては、裁判官によっても判断が分かれることがある。その例として、ここでは本判決を取り上げることにする。本判決はレーシングカー(いわゆるフォーミュラータイプに属する競走用自動車)の「普通乗用自動車」(物品税法(昭和63年法律第108号により廃止)別表課税物品表第二種の物品七号2)該当性について次のとおり判示した(下線筆者)。 これに対して、尾崎行信裁判官の反対意見は次のとおり説示した(元原利文裁判官同調。下線筆者) このように、「普通乗用自動車」の意義について、多数意見は「人の移動という乗用目的のために使用されるもの」と定義し、反対意見は「一般人の理解」に従い「人間を運搬することから得られる効用を主目的とするもの」と定義している。両者の定義をみると、多数意見の定義は「一般人の理解」からすると、特に「普通」という文言に関して「非常識」なものであると考えられる(本件第一審・京都地判平成5年1月29日シュト377号18頁がその「普通」について示した「特殊な自動車でないとの意味をもつ」との解釈は妥当である)。この点について、金子宏教授は次のように述べておられる(同・前掲論文9頁。下線筆者。なお、佐藤英明「最高裁判例に見る租税法規の解釈方法」山本敬三=中川丈久編『法解釈の方法論-その諸相と展望』(有斐閣・2021年)341頁、347頁も多数意見の解釈を「背後に課税の必要性の判断を控えた拡張解釈」とみている)。 そもそも、税法の解釈においても、法解釈一般におけると同様、まずは、法規の法文及び文言を重視しなければならない。しかもそれが日本語という自然言語で書かれている以上、その「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」を「一般人の理解」に従って解明しなければならない。そうすることで、税法の規定の意味内容について、広く納税者の間に共通の理解が成立し、しかも解釈の「客観化」や予測可能性・法的安定性の保障にも資することになろう。このことは、民主主義国家、特に申告納税制度、における税法の解釈のあり方として、望ましいことである(以上について拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【44】参照)。 Ⅲ 文理解釈の「適正化」 Ⅰで引用した2つの文献からも明らかなように、税法の解釈において、文理解釈こそが租税法律主義の下での厳格な解釈の要請に最もよく適合することに異論はなかろう。もっとも、このことは、文理解釈が著しく不当・不合理な結果をもたらすものでない場合、換言すれば、当該租税法規が「租税立法の質」の観点からみて特段問題のない場合を前提にして、いえることである(前掲拙著【44】参照)。 ここで「租税立法の質」に関して「質の良い租税立法」とは、規定の趣旨・目的が妥当・合理的であり、かつ、これと当該規定の文言との間にズレ・乖離がない租税立法のことをいうのであるが、そうでない「質の悪い」租税法規についていくら文理解釈を「一般人の理解」に従って行ってもその結果が不当・不合理なものになるのは当然ではないか、文理解釈が租税法律主義の下での厳格な解釈の要請に適合するといえるためには「租税立法の質」の改善が必要ではないか、と以前から考えてきたところである。 この間そのような問題意識に基づき文理解釈の「適正化」について研究を行い、その成果を論文にまとめた(拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則-裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究-」税法学586号(日本税法学会創立70周年記念号・本年11月末発行予定)所収)。この論文の副題にいう「根拠理由」という表現は同義語反覆的であるように思われるかもしれないが、この論文では、「根拠」と「理由」のニュアンスの違いを踏まえ「法創造根拠理由」という場合これを、法創造の拠りどころとなる法の原理・原則、特別の事情等の個別的救済理由の総称として用いることにした。ここでは、この論文の概要を示すために目次を以下に掲げておく。 この論文の内容とりわけ結論は、前掲拙著(今月刊行)の改訂(第7版)において同【44】に採り入れた。その際、文理解釈の「適正化」を以下のとおり2つの場合に分けて述べた。少し長くなるがその部分を以下に引用しておく。 Ⅳ おわりに 今回は、税法の文理解釈における「一般人の理解」の意義と限界について検討した。税法の文理解釈において「一般人の理解」を基準としてこれに従うことは重要であるが、ただ、それだけでは、文理解釈の結果が常に正当かつ合理的なものになるとは限らない。文理解釈の結果が正当かつ合理的なものになるようにするためには、むしろ、その前提として「租税立法の質」の改善を図らなければならないと考えるところである。 「質の悪い」租税法規をいくら文理解釈によって「一般人の理解」に従って解釈してもその結果が不当・不合理なものになるのは当然であるが、その結果が課税権者たる国家にとって著しく不当・不合理なものである場合は国家が自ら立法権を行使して当該法規の質の改善を図るべきであるのに対して、その文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理なものである場合は、納税者としては裁判を受ける権利を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまる以上、裁判官が法創造によってでもその結果を除去し納税者の権利を救済すべきである。そうすることによって、裁判を受ける権利が実質化され実効的に保障されることになろう。 裁判を受ける権利の実質化・実効的保障を実現しようとする司法的救済保障原則は、違法な課税による納税者の権利侵害に対する救済を裁判所に要請するものであるが、この要請は、租税法律主義の目的(恣意的・不当な課税から国民の財産・自由を保護すること。前掲拙著【11】参照)からの帰結であると同時に、法の存立のための最低限の要請あるいは法が法として最低限満たすべき要請という意味での「法の支配」の諸要素のうち、国家機関の活動に対する独立の裁判所によるコントロールの確立という要素の、税法の領域における現れでもある(前掲拙著【27】参照)。 (了)
〈検証〉 PGM事件 国税不服審判所裁決 公認会計士・税理士 佐藤 信祐 1 事実の概要 令和2年11月2日にPGM事件に対する国税不服審判所の裁決が下された(現在、東京地裁で係争中)。 PGM事件は、A社が保有する繰越欠損金を完全支配関係があるB社に適格合併(第一次合併)で引き継いだ後に、完全支配関係がなく、支配関係のみがあるC社に適格合併(第二次合併)で引き継いだ事件である(第一次合併と第二次合併は同日に行われている)。A社を被合併法人とし、C社を合併法人とする適格合併を行わなかった理由は、A社に事業がないことから、事業継続要件(法法2十二の八ロ(2))を満たすことができないからである。 上記のほか、本事件では、(1)買収後にA社から新会社に対して分社型分割をした後に株式譲渡をすることにより譲渡損失を実現させ、上記の繰越欠損金が構成されていること、(2)支配関係発生日から5年を経過するまで待ってから合併したこと、(3)合併前に優先株式を取得することにより完全支配関係が成立していること、といった事実関係を踏まえたうえで、A社の繰越欠損金をC社に引き継がせることを目的に行われた租税回避であると認定されている。 上記のような事実関係に対して事業目的が十分に認められるかどうかについては、裁決書だけでは判断しかねるが、多くの税理士が本事件で最も注目しているのは、TPR事件と同様に完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される余地があるのかという点であろう。ただし、本稿では、平成15年度税制改正により導入された二段階組織再編成の特例に係る制度趣旨について何ら争われていないという点にも注目したい。原処分庁は二段階組織再編成を行ったことが不自然であると認定しているが、そうであるならば、二段階組織再編成の特例を認めた制度趣旨に反すると主張すべきであるにもかかわらず、そのような主張がなされていない。そうなると、PGMからすれば、正面から堂々と制度趣旨が争われたのではなく、搦手から制度趣旨が争われたともいえる。 本事件で注目されるべきは、①PGMの行った一連の組織再編成に事業目的が認められるかどうか、②完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるのかどうか、③PGMの行った一連の組織再編成が平成15年度税制改正により導入された二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反するのか否か、の3点である。 このうち、①については、東京地裁判決においてより細かな内容が明らかになると思われる。そして、②については、簿外債務を管理するという「受動的な業務」が組織再編成に関する税制において想定されている「事業」ということができると納税者が主張していることからも、争点になっていないということがいえる。すなわち、東京地裁において納税者が勝訴したとしても、完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるという前提で東京地裁判決が下されるため、税務訴訟で争う場合はともかくとして、保守的に実務を行うという観点からは、完全支配関係内の組織再編成であっても事業単位の移転が必要であるという前提でストラクチャーを構築せざるを得ないということがいえる。 本稿では、上記①~③のうち、③PGMの行った一連の組織再編成が平成15年度税制改正により導入された二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反するのか否かについて検討を行うこととする。 2 二段階組織再編成の特例 税制適格要件の判定では、円滑な組織再編成を行えるようにするために、適格合併により解散することが見込まれている場合には、税制適格要件に抵触しないという特例が設けられている(法法2十二の八ロ、法令4の3②二、㉕など)。 PGM事件では、第一次合併における被合併法人及び合併法人の発行済株式の全部が同一の者によって保有されていたが、第一次合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併により解散することにより、第一次合併における完全支配関係継続要件に抵触しないこととなっている。すなわち、第一次合併が完全支配関係のある法人との適格合併であり、第二次合併が支配関係のある法人との適格合併である場合において、二段階組織再編成の特例を認めた制度趣旨に反するのかが問題となる。 同一の者による完全支配関係のある法人間の合併に係る二段階組織再編成における完全支配関係継続要件の特例は、同一の者が適格合併により解散することが見込まれている場合には、第二次合併後も第二次合併に係る合併法人による完全支配関係の継続が要求されているのに対し(法令4の3㉕)、第一次合併に係る合併法人が適格合併により解散することが見込まれている場合には、第二次合併の直前の時まで完全支配関係の継続が要求されるに留まり、第二次合併後の完全支配関係の継続は要求されていない(法令4の3②二)。 PGM事件を租税回避であると認定するのであれば、第二次合併が完全支配関係のある法人との間の適格合併である場合に限定して二段階組織再編成の特例を設けるべきであったということもいえる。これに対し、完全支配関係のある法人との間で組織再編成を行った後に、共同事業を行うための適格合併により解散することが見込まれているような事案に対応するためには、そのような制限を設けるべきではなかったということがいえる。『平成15年版改正税法のすべて』『平成29年版改正税法のすべて』ではそこまで明確に記載されていないが、そのような意図があったとすれば、完全支配関係のある法人との間で組織再編成を行った後に、支配関係のある法人との間の適格合併により解散することも制度上は当然に想定されていたと考えられる。 もちろん、PGMの行った二段階組織再編成では、通常の組織再編成と異なり、事業継続要件が課されない形で、完全支配関係がなく、支配関係のみがあるC社に繰越欠損金が引き継がれてしまっているという問題がある。この点については、「組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題」【第1回】で解説したように、完全支配関係内の適格組織再編成だけでなく、支配関係内の適格組織再編成をも認めてしまった弊害であり、立法論の立場としては、両者を統合したうえで、発行済株式等の3分の2以上の適格組織再編成に構築し直すべきであると考えられる。 これに対し、解釈論の立場からすれば、円滑な組織再編成を認めるために二段階組織再編成の特例が設けられたにもかかわらず、二段階組織再編成を行ったことが不自然であるというのは、やや乱暴な理論構成であるようにも思われる。その一方で、二段階組織再編成の特例において、共同事業を行うための適格合併により解散することも認められているのであるから、なおさら支配関係内の適格合併により解散する場合であっても、二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反しないということにもなり、原処分庁としては、二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反するという主張をすることができなかったという背景があったようにも思われる。 そうであるならば、納税者としても、二段階組織再編成の特例を前面に押し出したうえで、一連の組織再編成について不自然なものではなく、法人税法が想定している通常の組織再編成であるという主張もできたようにも思われる。 3 結び 本稿では、PGM事件の国税不服審判所裁決について解説を行った。前述のように、完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるという前提で争われていることから、たとえ納税者が勝訴したとしても、今後の実務においては、完全支配関係内の組織再編成であっても事業単位の移転が必要であるという前提でストラクチャーを構築せざるを得なくなる。もちろん、条文上、事業単位の移転が必要であるという点が明確化されれば、そのような対応もやりやすいのであるが、包括的租税回避防止規定で対応されるとなると、税務専門家としては、どのようなアドバイスをすべきであるかという点が悩ましいところである。 上記の点を含め、現行の組織再編税制には様々な問題があることから、抜本的な組織再編税制の見直しをすべきであると考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第3回】 「持分会社の資本等取引」 公認会計士 佐藤 信祐 1 資本金の額の減少 (1) 会社法上の取扱い 合同会社と異なり、合名会社及び合資会社には無限責任社員がいることから、本来であれば、会社法上、資本金の額を定める必要性が乏しい。これは、無限責任社員の存在する合名会社及び合資会社と有限責任社員のみの合同会社を一括して規制したことによるものであると思われる。 そのような理論上の問題点があることから、会社計算規則30条2項に定められている資本金の額が減少する事由は、合同会社とそれ以外の持分会社で大きく異なっている。なお、そもそも持分会社は準備金の額を計上することができないことから、準備金の額の減少に係る規定は存在しない。 〈持分会社の資本金の額の減少事由とその減少額〉 このように、合同会社では、持分の払戻し、出資の払戻し又は損失のてん補に充てる場合において、会社法627条の規定による手続(債権者異議手続)をとったときに限り、資本金の額を減少することが認められている。 これに対し、合名会社及び合資会社では、会社法627条の規定による手続を行わずに資本金の額を減少させることができる。さらに、持分の払戻し、出資の払戻し又は損失のてん補に充てる場合だけでなく、資本剰余金の額を増加させるために資本金の額を減少させる場合であっても、会社法627条の規定による手続が不要とされているのである。 また、合同会社では資本金の額が登記事項とされているのに対し(会社法914五)、合名会社及び合資会社では資本金の額が登記事項とされていない(会社法912、913)。このように、合名会社及び合資会社にとって資本金の額というのは、何の意味もない数字に過ぎないのであるが、合同会社と一括して規制したことにより、資本金の額を定めざるを得なくなったということがいえる。 (2) 税務上の取扱い 資本金の額を減少することにより、剰余金の額を増加させた場合であっても、社員における課税上の影響はない。そして、発行法人でも、資本金等の額及び利益積立金額が変動しないことから(法令8①十二)、資本金の額を減少させることにより中小法人に該当させることができるといった影響はあり得るものの、原則として、法人税の課税所得の計算への影響はない。 そして、資本金の額を減少させ、欠損填補を行ったとしても、資本金等の額が変動しないことから、原則として、住民税均等割及び事業税資本割を減らすことができない。なお、株式会社の場合には、資本金の額を減少させて、その他資本剰余金の額を増加させてから1年以内にその他利益剰余金のマイナスと相殺することにより欠損填補を行った場合には、住民税均等割及び事業税資本割の計算上、当該欠損填補を行った金額を資本金等の額から控除することが認められている(地法23①四の五イ(3)、72の21①三、地規1の9の6②③、3の16②③)。 ただし、住民税均等割及び事業税資本割の特例は、会社法446条に規定する剰余金に限定されているところ、同条は株式会社の規定であることから、持分会社に対して本特例を適用することはできない(※1)。 (※1) 渡邊泰大「都道府県民税関係-法人住民税」月刊 税72巻12号52頁(ぎょうせい、平成29年)。 2 出資の払戻し又は持分の払戻し (1) 会社法上の取扱い 持分会社が出資の払戻し又は持分の払戻しをする場合には、資本金及び資本剰余金の額を減少させることになる(計規30②一、二、31②一、二)。なお、退社を伴わない払戻しを「出資の払戻し」といい(会社法624)、退社に伴う払戻しを「持分の払戻し」という(会社法611)。 持分会社が資本剰余金の額を減少させる場合には、出資の払戻しに該当することから、資本剰余金の額を原資として配当をするという考え方は採用されていない(※2)。そのため、後述するように、税務上も、その他資本剰余金の配当ではなく、自己株式の取得に準じた処理を行うこととされている。 (※2) 相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』596-597頁(商事法務、平成18年)。 なお、持分の払戻しを行う場合には、払戻財産の帳簿価額のうち払戻しを受けた社員に係る資本金及び資本剰余金の合計額を上回る部分は利益剰余金を減少させることとなるが(計規32②二)、出資の払戻しをする場合には、既に払込み等をした金銭等の払戻しであることから、利益剰余金を減少させることはできない(計規32②但書)(※3)。そのため、出資の払戻しではなく、社員が利益の配当を請求したことに伴って(会社法621)、利益剰余金を減少させることになると思われる。 (※3) 会社法626条2項では、「出資の払戻しのために減少する資本金の額は、第632条第2項に規定する出資払戻額から出資の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない」と規定されているが、この場合における「剰余金額」とは資本剰余金の額のことをいうため(会社法626④、計規164)、出資払戻額から資本剰余金の額を控除した金額が資本金の減少額になる。ただし、他の社員に帰属していた資本剰余金の額を払戻しに充当し、資本金の額を当該他の社員に振り替えることにより、全体としての資本金の額を減少させないことも可能であると解されている(相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』598頁(商事法務、平成18年))。 株式会社の場合には、出資の払戻し又は持分の払戻しと同様の取引をするためには、資本金又は資本準備金の額を減少させ、その他資本剰余金の額を増加させた後に、自己株式の取得又はその他資本剰余金の配当を行う必要がある。これに対し、持分会社の場合には、その他資本剰余金を増加させることなく、出資の払戻し又は持分の払戻しをすることになる。 株式会社と異なり、持分会社においては、資本金、資本剰余金及び利益剰余金が社員ごとに管理されているということを前提にすると、出資の払戻し及び持分の払戻しについて理解しやすいと思われる。 (2) 税務上の取扱い 持分会社が出資の払戻し又は持分の払戻しを行った場合には、法人税法施行令23条1項6号及び所得税法施行令61条2項6号において、株式会社による自己株式の取得と同様の取扱いがなされることが明らかにされている。 具体的には、法人税法施行令23条1項6号イ及び所得税法施行令61条2項6号イにおいて、「口数の定めがない出資を発行する法人を含む」と規定されていることから、出資の払戻し及び持分の払戻しにおける税務上の取扱いは、二以上の種類の株式を発行していない場合における自己株式の取得と同様の取扱いになることが分かる。そして、同項1号において、出資総額を「発行済株式等」の用語に含め、出資を「株式」の用語に含めていることから、1円に相当する出資金の額を1株に相当する株式として自己株式の取得を行った場合と同様の計算を行うことになる。 なお、非上場株式における相続株主からの自己株式を取得した場合には、みなし配当として取り扱わず、株式の譲渡収入として取り扱うという特例が定められている(措法9の7)。ただし、この特例は、株式会社が自己株式を取得する場合にのみ認められており、持分会社が出資の払戻し又は持分の払戻しをする場合には認められていない(※4)。 (※4) 国税不服審判所裁決平成3年1月23日裁決事例集No.41-246頁参照。 (了)
〔令和3年度税制改正における〕 繰越欠損金の控除上限の特例の創設 【第2回】 「産業競争力強化法の認定手続」 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 前回に引き続き令和3年度税制改正で創設された繰越欠損金の控除上限の特例について解説する。今回は本特例適用の前提となる産業競争力強化法の認定手続について確認する。 1 概要 本特例の適用を受けるためには、改正産業競争力強化法の認定を受ける必要がある。そのためには、事業者は、その実施しようとする事業適応に関する計画(事業適応計画)を作成し、主務省令で定めるところにより、これを主務大臣に提出して、その認定を受けることになる(強化法21の15①)。 事業適応とは、事業再構築やデジタルトランスフォーメーション、カーボンニュートラルの実現に向けた取組みであり、これに果敢にチャレンジする事業者に対して、必要な支援措置を講じ、産業競争力の強化を図るものである。 事業適応には、成長発展事業適応、情報技術事業適応及びエネルギー利用環境負荷低減事業適応の3つの類型があるが、このうち本稿に関係するのが「成長発展事業適応」である。 「成長発展事業適応」とは、ポストコロナに向け厳しい経営環境の中で赤字でも努力を惜しまず、カーボンニュートラル、デジタルトランスフォーメーション、事業再構築・再編等に向けた投資を行い、経営改革に果敢に取り組むことをいう。 2 事業適応計画の作成と認定 (1) 事業適応計画の作成 事業適応計画には、次に掲げる事項を記載する必要がある(強化法21の15③)。 (2) 事前相談 計画の認定の申請に当たっては、要件に合致するかどうかを確認するために、認定希望日から2ヶ月程度前までに、事業を所管している省庁へ事前相談が必要とされている。 (3) 事業適応計画の認定 事業適応計画が次のいずれにも適合するものであると認められる場合に、認定がされる(強化法21の15④)。認定をするときは、事業適応計画の提出を受けた日から原則として1ヶ月以内に認定書が交付される(強化法規則11の3①)。認定された計画はその内容が公表される(強化法21の15⑤)。 (4) 認定要件 成長発展事業適応に係る事業適応計画の認定を受けるために満たすべき具体的な要件は、以下のとおりである。 ① 計画期間 事業適応計画の実施期間は、5年以内とされる(強化法規則11の2⑤)。 ② 生産性の向上又は新需要の開拓(指針①二イ) 事業適応とは、事業者が、産業構造又は国際的な競争条件の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、その事業の生産性を相当程度向上させること又はその生産し、若しくは販売する商品若しくは提供する役務に係る新たな需要を相当程度開拓することを目指して行うその事業の全部又は一部の変更をいう(強化法2⑫)。そして、事業適応計画に定める事業を行うことにより、下記に掲げる生産性の向上に関する目標又は新たな需要の開拓に関する目標の達成が見込まれることが認定の要件とされる。 (※1) 修正ROA =(営業利益 + 減価償却費 + 研究開発費)/ 総資産の帳簿価額 × 100 (※2) 有形固定資産回転率 = 売上高 / 有形固定資産の帳簿価額 (※3) 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費 (※4) ROA = 営業利益 / 総資産の帳簿価額 × 100 (※5) EBITDAマージン =(営業利益 + 減価償却費)/ 売上高 × 100 ③ 財務の健全性(指針①三イ) 上記(3)③に記載したとおり、事業適応を実施する事業者全体における下記に掲げる財務内容の健全性の向上に関する目標の達成が見込まれることが認定の要件とされる。 計画の終了年度において次の(ア)及び(イ)の達成が見込まれること。 (※1) 有利子負債 = 借入金 + 社債 + リース債務(現金預金及び信用度の高い有価証券等の評価額並びに運転資金(売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務)の額を控除後の金額) (※2) CF = 留保利益(経常利益 - 法人税等 - 社外流出(配当等))+ 減価償却費+ 引当金増減額(引当金には、賞与引当金、退職給付引当金及び特別損益の部において繰入れ又は取崩しが行われる引当金は含まない) (※3) 経常収入 = 売上高 + 営業外収益 - 売上債権増加 + 前受金増加 + 前受収益増加 - 未収入金増加 - 未収収益増加 (※4) 経常支出 = 売上原価 + 販売費及び一般管理費 + 営業外費用 + 棚卸資産増加 - 仕入債務増加 - 減価償却費 + 前渡金増加 + 前払費用増加 - 貸倒引当金増加 - 未払金増加(未払税金含む)- 未払費用増加 - 引当金増加(特別損益の部において繰入れ又は取崩しが行われる引当金を除く) ④ 前向きな取組み(指針②一ハ) 予見し難い経済社会情勢の変化によりその事業の遂行に重大な影響を受けた事業者がその事業の成長発展を図るために行うものとして、次のいずれにも該当する必要がある。 ⑤ 全社的取組み 事業適応は、一事業部門・一事業拠点でなく組織的な意思決定に基づく必要があるため、取締役会その他これに準ずる機関による経営の方針に係る決議又は決定に基づくものであることが必要である。 ⑥ 事業者 事業者は暴力団関係法人でないことが認定の要件とされる。 3 主務大臣による確認 課税の特例の適用を受けるには、認定事業適応計画に従って実施される成長発展事業適応について、経済社会情勢の著しい変化に対応して行うものとして主務大臣が定める基準(成長発展事業適応特例基準)に適合することについて主務大臣の確認を受ける必要がある(強化法21の28①)。 この場合、上記2の認定申請書の提出と併せて、確認申請書を主務大臣に提出する必要がある(強化法規則11の18①)。そして、事業適応計画が改正産業競争力強化法の施行日(令和3年8月2日)から1年を経過する日までに開始するものであり、かつ、成長発展事業適応が成長発展事業適応特例基準に適合するものであることが確認されると認定書においてその旨が表示される(強化法規則11の18③)。なお、成長発展事業適応特例基準とは、上記2(4)②(ア)dに記載のとおりである。 4 証明の求め 上記3の確認を受けた認定事業適応事業者は、認定事業適応計画の終了の日を含む事業年度までの毎事業年度終了後1ヶ月以内に、認定をした主務大臣に対し、その実施した成長発展事業適応が認定事業適応計画に従って実施されたものであることの証明を求めることができ(強化法規則11の20①)、主務大臣により、認定事業適応計画に従って実施されたものと認められたときは、適合証明書が交付される(同11の21)。 証明を求めるに当たっては、適合証明申請書を提出することになるが、そこには、認定事業適応計画の開始の日から5年を経過する日までの間に、認定事業適応計画に従って、投資をした額の累計額(特例対象累積投資額)を記載することになっている。 申請から証明書の発行まで1ヶ月程度かかるとされる。また、前回の2(4)②の(※1)に記載したとおり、確定申告書等に適合証明書の写しの添付が求められている。したがって、事業年度終了後、早めの申請が望ましい。なお、前年度以外の投資を証明することはできないため、対象投資がない場合を除き、毎年度証明書の発行が必要になる。 5 実施状況の報告 認定事業適応事業者は、認定事業適応計画の実施期間の各事業年度における実施状況について、原則として当該事業年度終了後3ヶ月以内に、主務大臣に報告をしなければならない(強化法規則48①)。そして、本特例の適用を受けた認定事業適応事業者は、併せて特例措置による損金算入の額についても報告をする必要がある(同51①)。 * * * 〈特例適用までの産業競争力強化法の認定手続の流れ〉 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例103(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆青色欠損金の繰戻し還付 青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合には、その欠損金額をその事業年度(欠損事業年度)開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる。 ただし、この制度は、清算中に終了する各事業年度の欠損金額、解散等の事実が生じた場合の欠損金額及び中小企業者等の各事業年度において生じた欠損金額を除き、平成4年4月1日から令和4年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については適用が停止されている。この規定の適用を受けるためには、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を期限内申告書と同時に提出しなければならない。 なお、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する各事業年度においては、新型コロナ税特法の特例により、資本金1億円超10億円以下の法人(資本金10億円超の大規模法人の100%子法人等を除く)も適用が認められる。 ◆災害損失欠損金の繰戻し還付 災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度において災害損失欠損金額が生じた場合には、その災害損失欠損金額をその事業年度(災害欠損事業年度)開始の日前1年(青色申告である場合には、前2年)以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付を請求することができる。この規定の適用を受けるためには、「災害損失の繰戻しによる還付請求書」を確定申告書と同時に提出しなければならない。 なお、青色申告法人における災害損失金額は、青色欠損金に該当するため、「青色欠損金の繰戻し還付」及び「災害損失欠損金の繰戻し還付」のいずれも選択できる。 ◆災害 災害とは、震災、風水害及び火災、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいう。新型コロナウイルス感染症も災害に該当する。 ◆災害損失欠損金額 災害損失欠損金額とは、災害欠損事業年度の欠損金額のうち、災害損失の額(災害により棚卸資産、固定資産又は一定の繰延資産について生じた損失の額で、資産の滅失等により生じた損失の額、被害資産の原状回復のための費用等に係る損失の額及び被害の拡大又は発生の防止のための費用に係る損失の額(保険金、損害賠償金等により補填されるものを除く)の合計額をいう)に達するまでの金額をいう。 〈青色欠損金と災害損失欠損金の繰戻し還付の比較〉 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第9回】 「新たに事業の用に供された宅地等の判定 (特定事業用宅地等の判定)」 税理士 柴田 健次 [Q] 令和元年度税制改正により、特定事業用宅地等の範囲から、被相続人等の事業(貸付事業を除く)の用に供されていた宅地等で相続開始前3年以内に「新たに事業の用に供された宅地等」が除かれることになりましたが、次に掲げるA宅地からH宅地のうち、3年以内に「新たに事業の用に供された宅地等」に該当するものを教えてください。 [A] C宅地及びG宅地が「新たに事業の用に供された宅地等」に該当することになります。なお、C宅地及びG宅地が租税特別措置法施行令40条の2第8項で定める規模以上の事業(以下「特定事業」という)でない場合には、特定事業用宅地等に該当しないことになります。なお、特定事業の判定については、【第10回】で解説します。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 令和元年度の税制改正により除外される特定事業用宅地等 令和元年度税制改正により、節税を目的とした駆け込み的な適用など本来の趣旨を逸脱した小規模宅地等の特例を防止するため、特定事業用宅地等の範囲から、被相続人等の事業(貸付事業を除く。以下同じ)の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等を除くこととされました。ただし、特定事業を行っていた場合のその宅地等については、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③一、措令40の2⑧)。 この取扱いは、平成31年4月1日以後に新たに事業の用に供された宅地等から適用され、同日前に新たに事業の用に供された宅地等については、適用されません(附則79②、措通69の4-20の5)。 2 「新たに事業の用に供された宅地等」の範囲 「新たに事業の用に供された宅地等」とは、次に掲げる宅地等のいずれかが事業の用に供された場合のその宅地等をいうとされています(措通69の4-20の2)。 上記の判定の具体的な注意点については、それぞれ下記の通りとなります。 (1) 事業の用以外の用に供されていた宅地等 貸付事業の用又は居住の用から事業の用に供された場合には、当然に「新たに事業の用に供された宅地等」に該当することになります。一方で既に被相続人の事業の用に供されていた宅地等がその被相続人の他の事業の用に供された場合には、「新たに事業の用に供された宅地等」に該当しません。したがって、A宅地は「新たに事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。また、B宅地のように被相続人が借り受けていた宅地等を事業の用に供した場合において、その宅地等を取得して引き続き事業の用に供した場合も同様に「新たに事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。 なお、特定事業用宅地等は、被相続人又は生計一親族の事業の用に供されていた宅地等がその対象とされていますが、「新たに事業の用に供された宅地等」に該当するかどうかの判定は、被相続人又は生計一親族のそれぞれの利用状況により行うことになります。したがって、被相続人にとって「新たに事業の用に供された宅地等」であるかどうか、生計一親族にとって「新たに事業の用に供された宅地等」であるかが問題になります。本問のC宅地のように被相続人の事業を廃止した上で生計一親族の事業の用に供した場合には、生計一親族にとっては「新たに事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 ただし、被相続人が相続開始前3年以内に開始した相続又はその相続に係る遺贈により事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後その宅地等を引き続き事業の用に供していた場合におけるその宅地等については、この「新たに事業の用に供された宅地等」に該当しないこととされています(措令40の2⑨)。したがって、D宅地は被相続人の父から相続により承継していますが、父の相続時点においては「新たに事業の用に供された宅地等」とは考えず、父の事業開始時点まで遡って3年の判定を行うことになります。 (2) 宅地等又はその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の宅地等 被相続人が所有する未利用の宅地を被相続人又は生計一親族が事業の用に供した場合には、当然に「新たに事業の用に供された宅地等」に該当することになります。一方で次に掲げる場合のように、事業に係る建物等が一時的に事業の用に供されていなかったと認められるときには、その建物等に係る宅地等は、上記の「何らの利用がされていない場合」の宅地等に該当しないことになりますので、「新たに事業の用に供された宅地等」とは考えません。 上記の取扱いにより「何らの利用がされていない場合」の宅地等に該当しないことになった場合の新たに事業の用に供された時は、上記の建替え前又は休業前の事業に係る事業の用に供された時となります。 本問のE宅地のように2年前に建替えが行われた場合には、一時的に事業の用に供されていなかったと考えられますので、「新たに事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。これに対して、G宅地については、建物等の移転先の宅地等は移転前の宅地等と異なるため、被相続人にとって、「新たに事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 なお、被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのためその建物等を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物等に代わるべき建物等の建築中に、又はその建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合については、租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合)の救済措置がありますが、その救済措置が移転又は建替えが対象になるのに対して、「新たに事業の用に供された宅地等」の判定では、上記の通り、移転と建替えでは、取扱いが異なる点については注意する必要があります。 本問のH宅地のように2年前の台風被害については、一時的に事業の用に供されていなかったと考えられますので、「新たに事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。なお、本問のH宅地が仮に相続税の申告期限において台風被害のために事業を一時的に休業した場合には、租税特別措置法関係通達69の4-17(災害のため事業が休止された場合)の救済措置があります。 ★実務上のポイント★ 相続開始の直前において、被相続人又は生計一親族の事業の用に供されている宅地等がある場合には、その事業が3年以内に「新たに事業の用に供された宅地等」に該当するかどうか、遺族からヒアリングをすることが重要となります。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第10回】 「新築した建物が1月1日に登記されていない場合は、固定資産税の納税義務があるか否かが争われた判例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産税は誰に賦課されるものなのか 固定資産税は、その年1月1日において、固定資産の所有者であったものに課される税である(地方税法第343条第1項、第359条)。所有者であるかどうかは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者である(地方税法第343条第2項)。 固定資産課税台帳に登録された所有者が真の所有者と一致するとは限らないが、固定資産課税台帳に登録された所有者に対して課税することになる。 地方税法が台帳課税主義を採用したのは、①固定資産の数が多いため、固定資産税の課税事務を円滑・迅速に行うためには、確定処分に先立って、すべての固定資産の状況とそれに関する固定資産税の課税要件を客観的に明確にし、それを関係者の縦覧に供したうえで早めに確定させる必要があること、及び、②納税者、固定資産課税台帳の縦覧を通じて、その所有する固定資産の評価が適正に行われているかどうか、またそれが他の納税者の場合と比較して公平に行われているかどうかをチェックする機会を与える必要があること、の2つの理由によるものとされている(※)。 (※) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)749頁。 それでは、新築の家屋で年内に完成したが、翌年1月1日現在で登記されていないものについて、固定資産税は課税されるのであろうか。この件に関して争われた事案について、以下において検討する。 ▷どのような事案か 事案の経緯は次のとおりである。 ▷事案の争点 争点は、平成22年度の固定資産税等の納税義務を負うか否かである。 Xは次のように主張した。 ▷地裁の判断 地裁の判断は次のとおりである。 そこで、不服なXが控訴した。 ▷高裁の判断 高裁の判断は次のとおりである。 これに不服なY市が上告した。 ▷最高裁の判断 最高裁の判断は次のとおりである。 このように、最高裁は地裁の判断を支持し、1月1日に登記されていなくとも賦課決定処分時までに登記がされた場合は、納税義務者とするとした。もし、賦課期日までの登記が必要であると判断した場合、登記を遅らせれば課税時期を遅らせることを認めることになる。なお、新築の家屋に係る固定資産税の賦課については、市町村において定めた家屋の認定基準で実務上処理されているようである。 (了)
グループ通算制度における会計の留意事項 【第1回】 「会計処理編」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 2020年3月27日に「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)(以下「改正法人税法」という)が成立し、2022年4月1日以後に開始する事業年度からは、従来の「連結納税制度」から「グループ通算制度」に移行する。 これに伴い、2021年8月12日にASBJより、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(以下「実務報告」という)」が公表された。 グループ通算制度における会計の留意事項として、本連載では下記のとおり2回にわたって解説する。 1 グループ通算制度の概要 (1) 主な相違点 グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、その中で、損益通算等の調整を行う制度である。 そして、連結納税制度とグループ通算制度の主な相違点は、以下のとおりである。 〈グループ通算制度の申告納付計算のイメージ図〉 (出所) ASBJ「実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表」の「公表にあたっての別紙」1頁から抜粋。 〈連結納税制度における税額計算と申告のプロセスのイメージ図〉 (出所) ASBJ「実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表」の「公表にあたっての別紙」2頁から抜粋。 (2) 連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合 連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合は、承認又は届出は不要である。さらに、経過措置により、グループ通算制度に移行時に時価評価、繰越欠損金の切り捨て、含み損等の損金算入、損益通算の制限は適用されない。 (3) 単体納税制度からグループ通算制度に移行する場合 親法人及び子法人が、通算承認を受けようとする場合、原則として、その親法人のグループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3ヶ月前の日までに、その親法人及び子法人の全ての連名で、承認申請書を親法人の納税地の所轄税務署長を経由で、国税庁長官に提出する必要がある。 2 グループ通算制度による会計処理への影響 グループ通算制度は、納税申告手続等は異なるものの、完全支配関係にある企業グループ内において損益通算できる点は、連結納税制度と同様のため、実務報告では、基本的に連結納税制度における会計処理と同様の取扱いが定められている。 ただし、連結納税制度とグループ通算制度で相違点があるため、税効果会計に影響する点もある。 そのため、本解説では、グループ通算制度の開始により影響する論点を中心に解説する。 (1) 実務報告の範囲 通算会社が申告納付を行う税額は、通算前所得に対して通算グループ内の他の通算会社との損益通算や欠損金の通算を行った後の課税所得をもとに算定されたものであり、当該通算等による税額の減少額を通算税効果額として、通算会社間で金銭等の授受が行われることが想定されている。ただし、授受を行うか否かは任意である(実務報告37)。 当該通算税効果額に関して、連結納税制度においても個別帰属額(各連結事業年度の連結所得に対する法人税の負担額として帰せられ、又は当該法人税の減少額として帰せられる金額)の授受を行うことは任意であったが、授受を行っている場合が多いと考えられ、グループ通算制度においても一般的には通算税効果額の授受を行うことが想定される。また、通算税効果額の授受を行わない場合の取扱いの検討には一定の困難性がある。 したがって、実務報告においても通算税効果額の授受を行うことを前提として会計処理及び開示を定め、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含め取り扱っていない(実務報告38)。 (2) 会社分類及び繰延税金資産の回収可能性の検討方法 会社分類及び繰延税金資産の回収可能性の検討方法は、連結納税制度時と同様である。 (3) 税効果会計の個別論点 連結納税制度からグループ通算制度に移行する場合、グループ通算制度の開始に伴う時価評価等の規定(時価評価、繰越欠損金の切捨て、含み損等の損金算入、損益通算の制限)は適用されない。したがって、連結納税制度からグループ通算制度への移行において、これらの項目に関して税効果会計への影響はない。 一方、単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合は、グループ通算制度の開始に伴う時価評価等の規定が適用される。当該規定は、連結納税制度と異なるため、税効果会計に影響する。具体的な内容は、以下のとおりである。 (ⅰ) 親法人の制度開始時における時価評価損益 連結納税制度とグループ通算制度における制度開始時における親法人の時価評価損益に係る税効果会計の取扱いは、以下のとおりである。 (ⅱ) 親法人の制度開始前の繰越欠損金 連結納税制度とグループ通算制度における親法人の制度開始前の繰越欠損金に係る税効果会計の取扱いは、以下のとおりである。 (ⅲ) 特定資産に係る譲渡等損失額の損金算入制限 (ⅳ) 投資簿価修正 (ⅴ) 子法人株式の評価損 (ⅵ) 子法人株式を他のグループ内法人に譲渡した場合 3 適用時期 実務報告の適用時期は、以下のとおりである(実務報告31、65、66)。なお、グループ通算制度は新たな事実の発生に該当するため、過去の期間へ遡って適用しない(コメント対応(質問1)の2))。 4 経過措置 実務報告では、以下の経過措置が設けられている(実務報告32、67、68)。 (了)