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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第51話】「債務免除とその所得区分」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第51話】 「債務免除とその所得区分」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   浅田調査官は、疲れた表情をして、中尾統括官の机の前にやって来る。 「税務調査に行ってきたのですが・・・」 中尾統括官は、パソコンのキーを叩くのを止めて、顔を上げる。 「ごくろうさん」 中尾統括官は、微笑む。 「それで・・・どうだった?」 中尾統括官が税務調査の結果を尋ねる。 「ええ、特に大きな問題はありませんでしたが・・・1つだけ・・・どうしようかと迷っていることがあります」 浅田調査官は、カバンから書類を取り出す。 「・・・これは、元帳のコピーなんですが、雑損失として300万円が計上されています・・・この損失は・・・従業員に対する貸付金を免除したというもので・・・」 浅田調査官は、元帳の「仕訳」を説明する。 「何故・・・事業主は、従業員の貸付金を免除したのだ?」 中尾統括官は、少し怒ったような声で聞く。 「それが・・・従業員の家が火災で燃えてしまったということらしいのです・・・」 浅田調査官は、事業主から聞いた話をそのまま伝える。 「それで・・・貸付金を免除したというのか・・・」 中尾統括官は、腕を組んで、思案顔になる。 「これって・・・贈与税の対象になるのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を覗く。 中尾統括官は、おもむろに、税務六法を開く。 所得税法36条1項は、次のように「収入金額」を規定している。 「そして、所得税基本通達36-15で、具体的に経済的利益を例示し、その(5)において『債務免除』を挙げている」 「・・・だから、事業主は・・・従業員に対して経済的利益を与えたことになる・・・そうすると、事業主も個人であるから、その経済的利益が贈与に該当するものであれば・・・相続税法8条(債務免除)によって、受贈者である従業員に対して、贈与税が課せられるということになるだろう・・・」 中尾統括官は、ゆっくりと説明する。 「ということは、源泉所得税が課せられないということですか?」 浅田調査官は、不満そうに言う。 「従業員は、使用人の地位に基づいて・・・・・・・・・・・、事業主から債務免除という経済的利益を受けたと解すれば、それは給与所得になり、源泉徴収の対象になるのではないかと思うのですが・・・」 浅田調査官は、当該債務免除を給与所得と考えている。 「うーん、使用人の地位に基づいて、債務免除を受けたということか・・・そうすると、事業主(個人)が法人である場合は、どうなる?」 中尾統括官は、逆に尋ねる。 「使用人の地位に基づいて債務免除を受けたとするならば、当然、法人の場合も給与所得になるのでしょう・・・もっとも、それが、純粋な贈与であるならば、一時所得になりますが・・・結局は・・・この債務免除に対価性があるか否かですが・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、罫紙に図を描く。 「この対価性の有無は、使用人の地位に基づくものであるかないかで決まるの?」 中尾統括官が尋ねる。 「・・・従業員としての地位が存しているから、債務免除されると考えるならば、単純に贈与と考えることはできないと思うのです・・・すなわち、債務免除をすることによって、従業員のモチベーションは高まり、昇給するのと同じ効果を期待できると事業主は考えるのでしょう・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の話を聞きながら、「(令和2年11月改訂)所得税実務問答集」(岸本明編・納税協会連合会・清文社)を取り出す。 「この本の150頁に、『借入金の債務免除による利益』と題して、次のような設例がある」 中尾統括官は、説例を読み上げる。 「この本の答えは・・・免除した債権者は5年前まで役員をしていた法人であり、また、免除を受けた債務はマイホーム資金の借入金であることから法人からの贈与として、一時所得に該当します・・・となっている・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「・・・このケースの借入金の債務免除は、会社を退職して、5年が過ぎていますから、役員としての地位に基づいて債務免除を受けたと解しないのでは・・・」 浅田調査官は、考えながら答える。 (つづく)

#No. 447(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/12/02

《速報解説》 改正電帳法に係る届出書等様式が公表される~「優良な電子帳簿の要件チェックシート」も~

《速報解説》 改正電帳法に係る届出書等様式が公表される ~「優良な電子帳簿の要件チェックシート」も~   Profession Journal編集部   国税庁は11月29日付(ホームページ公表は11月30日)で、施行が来月にせまる改正電子帳簿保存法に対応した届出書等の様式を定める通達を公表した。 また、特集ページ(令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて)において「申請書等様式」を新設、各手続の解説ページや記載例などが掲載されている(なお特集ページではかねてより、様式関係は11月中の公表を予告しており、月末ぎりぎりの公表となった)。 今回公表された様式は次の5点。新制度下では税務署長による電子帳簿保存の事前承認制度は廃止されたものの、過少申告加算税の5%軽減措置が適用できるのは優良な電子帳簿(特例国税関係帳簿)に限られるため、適用にあたっては、適用を受けようとする国税に係る法定申告期限までに、①の届出書を所轄税務署長に提出する必要がある。 なお、①の届出手続ページには、軽減措置が適用される「優良な電子帳簿」の要件が確認できるチェックシートが登載されている。 (※) 国税庁ホームページより (了)

#No. 446(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/12/01

《速報解説》 国税庁、新たに21の質疑応答事例を公表~改正評基通により見直された電話加入権の評価方法の事例等も追加~

《速報解説》 国税庁、新たに21の質疑応答事例を公表 ~改正評基通により見直された電話加入権の評価方法の事例等も追加~   Profession Journal編集部   国税庁は11月26日付けで質疑応答事例を更新。所得税、源泉所得税、譲渡所得、財産の評価、法人税、消費税、印紙税に関し、新たに21事例を追加した。 新設の21事例は以下のとおり。 なお、本年6月22日に改正された財産評価基本通達において電話加入権の評価方法が大幅に見直されたことは既報のとおりだが、今回、財産の評価に関する事例として、電話加入権の評価方法の基本的な質疑応答が追加されている。 (了)

#No. 446(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/11/29

プロフェッションジャーナル No.446が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年11月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.446を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/11/25

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第8回】「課税減免規定の限定解釈の意義・性格と射程」-外国税額控除余裕枠利用[りそな銀行]事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第8回】 「課税減免規定の限定解釈の意義・性格と射程」 -外国税額控除余裕枠利用[りそな銀行]事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 税法の解釈について、租税法律主義の下では、文理解釈が原則であることに異論はないが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1、第7回Ⅰ参照)、ただ、文理解釈の結果なお複数の解釈可能性が残る場合には、租税法律主義の下でも、租税法規の趣旨・目的を参酌して当該租税法規の意味内容を一義的に確定することが許されるし、むしろ、確定しなければならない。このような法解釈の方法は一般に目的論的解釈と呼ばれる。これは、法規の文言の通常の意味を明らかにしようとする文理解釈を補完する解釈方法である(文理解釈の補完としての目的論的解釈。これについて拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【45】参照)。 今回は、外国税額控除余裕枠利用事件における裁判所の判断を素材にして、税法の目的論的解釈に関連して課税減免規定の限定解釈の意義・性格と射程について検討する。外国税額控除余裕枠利用事件は複数の同種の事件の総称であるが、その中で特徴的な判断は、①三井住友銀行事件における大阪高判平成14年6月14日訟月49巻6号1843頁と②りそな銀行事件における最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁(以下「本判決」という)である。 前者(①)は、「租税法律主義の下でも、かかる場合[=規定の趣旨・目的に合致しない場合]に課税減免規定を限定解釈することが全く禁止されるものではないと解するのが相当である。」と判示したが、ここでいう課税減免規定の限定解釈は、「[課税減免規定の]趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」とされている。以下では、筆者も、課税減免規定の限定解釈という語をこの意味で用いる。 これに対して、後者(②=本判決)は次のとおり判示した(下線筆者)。 両者の関係について、本判決(前記②)を前記①の延長線上において捉えようとする見解がある。その代表的な見解は次のとおり(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)141頁。今村隆『租税回避と濫用法理』(大蔵財務協会・2015年)197頁[初出・2012年]のほか、杉原則彦「判解」最判解民事篇平成17年度(下)(7月~12月分)990頁、990頁も参照)であるが、この見解は、課税減免規定の限定解釈を、租税法律主義の下で許容される目的論的解釈(文理解釈の補完としての目的論的解釈)として性格づけるものと解される。 これに対して、筆者は、そもそも、前記①の判示した「[課税減免規定の]趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」という意味での課税減免規定の限定解釈を、文理解釈の補完としての目的論的解釈ではなく、目的論的制限(teleologische Reduktion)と呼ばれる、適用除外規定の欠缺すなわち隠れた欠缺(verdeckte Lücke)の補充による法創造に属する、課税減免規定に係る適用除外要件の定立方法として性格づけた上で、外国税額控除余裕枠利用[三井住友銀行]事件で大阪高判(前記①)が法人税法69条1項の「外国法人税(・・・・・・)を納付することとなる場合」にいう「納付」という文言について解釈的手法により限定解釈を加えたものであるのに対して、同[りそな銀行]事件では本判決(前記②)は、「我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様」での同制度の利用について、「納付」という文言の解釈を問題にすることなく、端的に、、、、それを同制度の「濫用」として同制度の適用を否認したものと理解してきた(差し当たり、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回参照)。 そして、本判決(前記②)の判断も法創造に属するものであるが、課税減免規定の限定解釈とは異なり、解釈的手法による法創造ではなく「租税法規の趣旨・目的の法規範化」による法創造として性格づけ、「課税減免制度濫用の法理」と呼ぶことにし、租税法律主義の下では許容されないと批判してきた(前掲拙著【47】参照)。 このように、本判決(前記②)については異なる理解ないし評価がみられるが、学説の中には、一見すると、その「中間」に位置するかのように思われる見解もみられる。その見解については、項を改めて紹介し検討することにする。   Ⅱ 課税減免規定の「限定解釈(不適用)」 本判決(前記②)については、次のような理解がみられる(今村・前掲著127-129頁[初出・2009年]。下線筆者)。 この理解によれば、本判決(前記②)は、法人税法69条(の定める外国税額控除制度)の適用の「限定の方法」について、後者の手法すなわち「同条の予定しているものではないとして同条の適用自体を否定する手法」を採用したものと解されているが、このような理解を、既にみたところの、本判決(前記②)を前記①の延長線上において捉えようとする見解と、結びつける見解がみられる。それは、「筆者の立場は、まず、外税最高裁判決[=本判決]は、基本的には、課税減免規定の立法趣旨による限定解釈の延長線上にあるということである。」(清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究-外国税額控除事件を出発点として-」税務大学校論叢59号(2008年)245頁、290頁)とした上で、次のように説く見解(ⓐ同291頁、ⓑ同293-294頁。下線筆者)である。 この見解は、本判決(前記②)の判断方法を「課税減免規定の『限定解釈(不適用)』」(清水・前掲論文298頁。太字筆者。同294頁注(60)も参照)と称しているが、それは、確かに、論者の主観においては、課税減免規定の限定解釈の延長線上にあると理解したいのであろう。しかし、税法の解釈適用方法論の観点からみれば、法人税法69条の「納付」という文言の解釈を問題にしていないこと及び「条文の背後にある当然の前提としての適用要件」という不文の濫用禁止要件を創造し、その要件をもって同条の適用を否定する根拠としていることからすると、筆者のいう課税減免制度濫用の法理と実質的には同じ考え方を説くものと解さざるを得ない。したがって、課税減免規定の「限定解釈(不適用)」という考え方も、課税減免制度濫用の法理と同じく、租税法律主義の下では許容されないと考えられる。 課税減免規定の「限定解釈(不適用)」という考え方は、前述のとおり、「条文の背後にある当然の前提としての適用要件」という不文の濫用禁止要件を創造するものであるが、そうすると、税法に「税法秩序の自力防衛」原則("Bewahrung der Steuerrechtsordnung aus eigener Kraft" Grundsatz. この原則については、差し当たり、拙稿・谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第12回Ⅱ2参照)が内在することを暗黙の前提とする考え方であると解される。しかし、もし租税法律主義が、そのような暗黙の前提に基づいて不文の濫用禁止要件を創造することを承認するならば、それは租税法律主義の自己否定である。 ところが、前記の見解は、「制度全体の趣旨から当然に導かれる要件だとしても、法律の条文上、明示的に書かれていない以上、憲法84条の租税法律主義に違反するという批判はあり得よう。」(清水・前掲論文293頁)としつつ、次のような理由により租税法律主義違反という批判に対して反論し、租税法律主義に違反しない旨を説いている(同。下線筆者)。 しかし、ここで述べられている理由は、租税法律主義の「目的」と「機能」との関係(これに関する筆者の見解については前掲拙著【11】参照)を正解した上で述べられたものとはいえないように思われる。確かに、「予測可能性と法的安定性の確保という観点」は租税法律主義において重要である。ただ、その観点は租税法律主義の「機能」の観点であり、しかもその機能(予測可能性・法的安定性保障機能)は派生的機能である。これに対して、租税法律主義の「目的」は、課税権者による恣意的・不当な課税から国民の財産及び自由を保護することであり、そこから導き出される機能は第一次的には課税の適法性保障機能であり、これこそが租税法律主義の本来的機能である。 要するに、課税の適法性が保障されて初めて予測可能性・法的安定性保障機能が意味をもつのであるから、「予測可能性と法的安定性の確保の観点」のみをもっては租税法律主義適合性の問題を判断することはできないと考えられるのである。前記の見解が租税法律主義違反を否定するために述べている理由に即していえば、納税者が課税減免規定の濫用を認識し意図していたとしても、これを否認する明文の規定が定められていない以上、当該納税者はその濫用が否認されないとも認識していたはずであるから、「予測可能性と法的安定性の確保の観点」からはそのことにも重要な意味を認めるべきであるにもかかわらず、前記の見解にはこの点に関する配慮はみられない。   Ⅲ 課税減免規定の目的論的限定適用の許容性 もっとも、課税減免規定の「限定解釈(不適用)」という考え方が、仮に、、、「条文の背後にある当然の前提としての適用要件」という不文の濫用禁止要件を創造するものではなく、法人税法69条の趣旨・目的を考慮して(すなわち目的論的に)「納付」という文言を限定解釈し、かつ、その解釈によって定立した規範を当該事案に限って適用する、いわば「目的論的限定適用」ともいうべき法適用の方法を採用するものであったとすれば、それについてはどう考えるべきであろうか。 わが国の税法判例で目的論的限定適用の方法を採用したものとしては、最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁がある(以下「延滞税最判」という。この判決に関する以下の検討については、拙稿・谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第16回参照)。この判決は次のとおり判示している(下線筆者)。 この引用部分の2つ目の文章の「上記の諸点に鑑みると」以下をみると、そこで述べられている判断構造は、前記Ⅱの冒頭で引用したように本判決(前記②)を、「同条[=法人税法69条]の予定しているものではないとして同条の適用自体を否定する手法」を採用したものとして理解した場合におけるその判断構造と、同じものであると解される。このことは、多数意見が本件における延滞税の発生を「法において想定されていないもの」と解したことについて、延滞税最判における千葉勝美裁判官の補足意見(以下「千葉補足意見」という)が次のとおり述べていること(下線筆者)からも、いえることであると考えられる。 ここで述べられている租税法規の適用方法は、租税法規が法人税法69条のような法人税の課税減免規定であるか又は国税通則法60条1項2号のような延滞税の課税根拠規定であるかの違いはあれ、租税法規の目的論的限定適用である。このことは、「延滞税の趣旨・目的と延滞税の発生を認めることによる不当な結果は、本件における減額更正、過納金の還付前の延滞税発生を否定すべき積極的理由となる。」と述べた上でその場合において「延滞税の発生要件を欠く」として延滞税の発生要件の欠缺を認める小貫芳信裁判官の意見について、千葉補足意見が「条文にはない明確な基準を示すことについては、それが解釈により不文の消極要件を作ることにもなる」(下線筆者)との的確な指摘を行っていることからも、いえるであろう。 このように考えてくると、課税減免規定の限定解釈(前記Ⅰで述べた目的論的制限)と課税減免規定の目的論的限定適用との違いが明らかになるであろう。両者は、租税法規の欠缺を補充する要件を創造するか否かの点で異なるのである。 では、課税減免規定の目的論的限定適用は、課税減免規定に係る適用除外要件の欠缺(隠れた欠缺)を補充する要件を創造することなく、どのようにして特定の事案に限って課税減免規定の適用を否定するのであろうか。延滞税最判は「課税上の衡平」の考慮により延滞税規定の目的論的限定適用を認めたが、「衡平」の観念は、「実定法の一般的な準則をそのまま個別的事例に適用すると、実質的正義の観点からみて著しく不合理な結果が生じる場合に、その法的準則の適用を制限ないし抑制する働きをする。」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)323頁。下線筆者)とされるところ、課税減免規定の目的論的限定適用についても、「課税上の衡平」の観念を援用することができるのであろうか。 この点については、「国(立法府)には法律制定権限があるが、納税者には法律制定権限はないという本質的な違い」(宮崎裕子「一般的租税回避否認規定―実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の目線から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、43頁)を考慮すべきであると考えられる。つまり、延滞税事件においては、国税通則法60条1項2号をそのまま適用すると「実質的正義の観点からみて著しく不合理な結果」が生じ、法律制定権限をもたない納税者はその結果を自分自身では除去することができないのに対して、外国税額控除余裕枠利用事件においては、法人税法69条をそのまま適用すると生じる結果は、それが国にとって著しく不合理であるとすれば、国としては、予め法律制定権限を行使して除去することが可能であり、少なくとも、そのような結果を立法事実として認知した場合には迅速・機動的に対応して同様の結果の再発を阻止することが可能であることからすると、「課税上の衡平」の観念を援用することは延滞税事件においては妥当であるとしても、外国税額控除余裕枠利用事件においては、その結果が実質的正義に反するとはいえないが故に、妥当ではなかろう。憲法が基本的人権として裁判を受ける権利を保障していること(32条)からしても、そのような判断の違いは正当化されるであろう。 そうすると、外国税額控除余裕枠利用事件においては、課税減免規定の目的論的限定適用という方法も採用することはできないと考えるところである。   Ⅳ おわりに 以上において、外国税額控除余裕枠利用事件に関する本判決(前記②)を素材にして、課税減免規定の限定解釈の意義・性格や射程を検討してきたが、その際、検討の観点を租税法律主義ないしその下における税法解釈のあり方に求めてきた。 最後に、検討の観点を広げ三権分立制の下での司法の役割をも視野に入れて、今回取り上げた問題について若干の所見を述べておきたい。三権分立制の下での司法の役割について、筆者は延滞税最判に関連して「司法は、そのような役割[=個別事案の解決]に加えて、法の欠缺が存在する場合には、個別事案の判断を通じてあるいはそれに関連して、そのことを公然と指摘することによって、立法者にその欠缺の存在を認識させ、もってその欠缺を補充するための法改正等の立法的対応を促すべきであるように思われる。」(前掲・拙稿第16回Ⅲ2)と述べ、延滞税の発生要件の欠缺を認めその補充のために要件を創造した小貫裁判官の意見を肯定的に評価した。 このような考え方は、外国税額控除余裕枠利用事件においても基本的には妥当すると考えられる。三井住友銀行事件において大阪高判(前記①)は、課税減免規定の限定解釈を採用したが、これは、前記Ⅰで述べたように、法人税法69条1項の「外国法人税(・・・・・・)を納付することとなる場合」という要件について適用除外要件の欠缺(隠れた欠缺)の存在を認め、「納付」という文言を限定解釈することによって実質的には適用除外要件を定立する法創造(目的論的制限)である。これは、三権分立制の下での司法の役割の観点からは、肯定的に評価されるべきものである。 もっとも、そのような法創造を認めるとしても、それは、租税法律主義の観点をも合わせ考慮すると、租税法規の趣旨・目的が文言による表現に匹敵するほどの明確性をもって一般に認識可能であることというような厳格な要件の下でのみ、許容されるべきであると考えられる(前掲拙著【46】参照)。この点においても、立法者の説明責任(第4回参照)は極めて重要である。 (了)

#No. 446(掲載号)
#谷口 勢津夫
2021/11/25

これからの国際税務 【第28回】「国際課税に関するG20最終合意」

これからの国際税務 【第28回】 「国際課税に関するG20最終合意」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 G20サミットで支持された最終合意 OECD/G20「BEPS包摂的枠組み(IF)」は、去る10月8日、136ヶ国の合意を得て、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する2つの柱の解決策に関する声明」を「詳細な実施計画」付きで公表した。その後、同声明は、10月13日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議コミュニケで支持され、10月31日のG20サミットコミュニケで、「より安定的で公平な国際課税制度を構築する歴史的成果」と評価されて、実施計画通り2023年からの実施に移せるよう、モデルルールや多国間条約を迅速に準備するようIFに要請している。 同声明で明らかにされた最終合意は、本年7月のIFの大枠合意(【第26回】に紹介済み)で明らかにされていた、①多国籍企業の利得を市場国へ再配分するメカニズム(利益A)を中心とする第1の柱、及び②租税競争を終わらせる効果的なグローバルミニマム税を創設する国内法改正(GloBEルール)を中心とする第2の柱について、それぞれの内容を確認・補充するとともに、各国への税収配分効果を大きく左右するため政治的決定が持ち越されていたいくつかの重要なキー指標を確定したものとなっている。 本稿では、追加された重要な政治決定等を中心に最終合意の内容を紹介し、併せて今後の展開について私見を交えて予測するものである。   2 最終合意で追加・修正された政治的合意等の概要 (1) 第1の柱 ① 課税対象 課税対象基準(全世界売上が200億ユーロ超、かつ、税引き前利益率が10%超の多国籍企業)の判定を、大枠合意の単年度ベースから、複数年の平均値ベースによることとする。 ② 市場国への配分割合 売上の10%を超える部分と定義される残余利益のうち、市場国への配分割合について、大枠合意では「20~30%」とされていたものを、「25%」とする。 ③ 税の安定性 利益Aの対象となる多国籍企業に、利益Aに関するすべての論点について義務的・拘束的な紛争防止・解決メカニズムを提供するとしているが、一定の途上国に対しては別途簡素な紛争解決メカニズムの選択を認める。 ④ 一方的措置への対応 大枠合意では、デジタルサービス税との間で適切な調整を図るとされていたが、その内容が具体化された。 すなわち、第1の柱を実施するために今後策定される多国間条約において、その締約国は、すべての企業に対するすべてのデジタルサービス税及びその他の関連する類似措置を廃止し、また将来にわたり導入しないことを定める。新たに施行されるデジタルサービス税及びその他の関連する類似措置は、2021年10月8日以降、2023年12月31日、又は多国間条約発効のいずれか早い日まで課されない。 ⑤ 大枠合意からの変更がない項目 市場国におけるネクサス(課税根拠)、売上の帰属国決定ルール、課税ベース、マーケティング・販売活動利益に関するセーフハーバー、二重課税の排除、利益B、執行については、大枠合意からの変更はない。 (2) 第2の柱 ① GloBEルールの課税方法 グローバルミニマム税を規定するGloBEルールについては、それを構成する所得合算ルール(IIR)と低課税支払いルール(UTPR)の基本的な適用方法に変更はないが、UTPRについては、一定の多国籍企業(5,000万ユーロ以下の有形資産を海外に保有し、自国外の5ヶ国以下の国で操業する多国籍企業)による海外での操業開始当初5年間の活動に対しては、UTPRの適用免除を認めている。 ② GloBEルールの最低税率 大枠合意で「15%以上」とされていたものが、「15%」に確定されている。 ③ GloBEルールの適用除外 GloBEルールの適用対象から、有形資産(簿価)と支払給与の「5%以上」(導入当初「5年間」は「7.5%以上」)の所得が控除されるとしていた大枠合意に対し、当初の控除率と経過期間、更には控除率逓減の方法について、以下の修正が行われている。 導入当初は、控除率を有形資産(簿価)の「8%」、支払給与の「10%」とし、いずれもその後「10年間」で「5%」まで逓減させる。逓減の仕方は、有形資産については、当初5年間は各年0.2%、その後5年間は各年0.4%の割合で逓減し、支払給与については、当初5年間は各年0.2%、その後5年間は各年0.8%の割合で逓減する、とされている ④ STTR(租税条約上のルール) 利子、使用料等一定の支払いに対し、STTRの最低税率を下回る名目税率を適用する国は途上国から求められた場合に、STTRを二国間条約に導入するとされているが、その最低税率を「9%」と決定する。 ⑤ 施行開始 大枠合意では、一体として2023年施行とされていたGloBEルールについて、IIRは2023年、UTPRは2024年に施行開始と改められている。 ⑥ 大枠合意からの変更がない項目 全体設計、GloBEの位置づけ、GloBEの課税対象、実効税率の計算方法、セーフハーバーを含む簡素化策、米国GILTI税制との共存などの項目については、大枠合意からの変更はない。 (3) 合意文書に付加された「詳細な実行計画」 最終合意は、一部の例外を除き、いずれも2022年の制度改正及び2023年からの施行という野心的なスケジュールを維持した。それに伴い、これを実行するための具体的スケジュール案を合意文書の付属文書とし、IF参加国はスケジュールに沿って施行に向けた立法化への最大限の努力をする旨、合意している。その概要は以下のとおりである。 ① 第1の柱 イ 多国間条約(MLC)による利益Aの2023年からの施行に向けた立法準備 ロ 国内法改正 利益Aの実施に必要な国内法改正に向けては、2022年初めまでにTFDEがモデルルールを作成する。 ハ 利益B 大枠合意で定められた利益Bの制度設計については、2022年末の期限に向け、IFはOECDの関連作業部会に内容の検討を依頼し、同制度の設計に関する一括文書を完成させる。 ② 第2の柱 イ GloBEルールのモデルルール公表とSTTRのモデル租税条約条項の公表 ロ 執行枠組みの公表 ③ 利害関係者との協議 厳しいスケジュール下であるが、今後も必要な協議は行う旨を宣言している。   3 最終合意の意義と今後の見通し 第1の柱における利益Aの市場国配分割合(25%)と第2の柱におけるグローバルミニマム税の賦課基準となる最低税率(15%)という、本プロジェクト参加者の最大の関心項目についての政治的合意が成立して、6年間延長されてきたBEPS最後の課題(デジタル経済対応)への処方箋が、「歴史的成果」と評価されて公表された。 今回の最終合意には、上記2つの項目の決定の裏で展開されたと思料される親会社所在地国・市場国間及び先進国・途上国間のいくつかの取引(ディール)の痕跡が確認される。例えば、利益Aの配分率25%の譲歩の裏には、一方的措置の撤廃に関する厳格なスケジュール監視などが認められるし、また、グローバルミニマム税の15%維持の裏には、既存投資保護の観点からの10年間に及ぶ経過措置を含んだ適用除外制度の合意が認められるからである。 また、今回の国際協調を可能にした一因である米国バイデン政権のIF協議への本格復帰も、評価しなければならないであろう。最終合意内容が、バイデン政権が進めるGILTI税制などの米国国内法改正と整合性を持つと認められる点にこそ、合意の推進力の源があるとも考えられる。 しかし、今後の実施に向けて課題は依然として残っている。それは、今回追加公表されたスケジュールからもうかがわれるが、まとめると次の2点になろう。 1つ目は、実施に向けた要検討事項の中には、利益Aの市場国配分のキー指標となる市場国売上などの確定方式や、GloBEルールの実効税率算定過程での会計と税務の調整方法など、未解決な重要事務手続きが残っている点である。政治決定を先行させ技術的検討を後送りしたしわ寄せは、今後の作業にじっくりと重圧をかける可能性もある。この点で、パブリックコンサルテーションについての前向きな表現が最終合意文書にない点も懸念される。 2つ目は、一方的措置の撤廃に関して、例えばインドの平衡税のような仕組みの異なるものについて、どこまで利益Aに伴う廃止対象として合意できるかの懸念である。これも多国間条約の内容として解決しなければならない困難な課題であり、スケジュール通りの進展が懸念される理由の1つである。 これらの懸念を抱えるものの、G20の下での政治的支援は、何よりも改革のエネルギーになると思われる。今後の作業の進展を、期待をもって注目し続けたい。 (了)

#No. 446(掲載号)
#青山 慶二
2021/11/25

〔令和3年度税制改正における〕人材確保等促進税制の創設(賃上げ・投資促進税制の見直し) 【第1回】

〔令和3年度税制改正における〕 人材確保等促進税制の創設 (賃上げ・投資促進税制の見直し) 【第1回】   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 令和3年度の税制改正によって、これまでの「賃上げ・投資促進税制」が抜本的に見直されて「人材確保等促進税制」に改組された。平成25年度の税制改正で創設された「所得拡大促進税制」は、平成30年度の税制改正によって「賃上げ・投資促進税制」に改組され、さらに今般「人材確保等促進税制」に改組されたということで、思いのほか息の長い税制として定着しつつある。 率直なところ、「賃上げ・投資促進税制」の適用要件に設備投資の要件が追加されたことで、適用ハードルを一気に引き上げてしまった感がある。賃上げの要件を満たすものの、設備投資の要件を満たせずに本税制の適用を受けられないケースが多発したのではないかと思うのである。国税庁から毎年公表されている租税特別措置の「適用実態調査報告書」において、平成30年度(平成30年4月~平成31年3月までの間に終了した事業年度又は連結事業年度)までは毎年安定的に10万件を超えて適用されていた所得拡大促進税制が「賃上げ・投資促進税制」に改組された途端、適用件数が10分の1近くまで激減していることが示されていたこともその証左であろう。 他方、中小企業者等には(設備投資要件が不要の)「所得拡大促進税制」が引き続き適用されており、こちらは安定的に多数の適用件数で推移していることからしても、賃上げ・投資促進税制における設備投資の要件が、同税制の適用阻害要因になっていたと断言してしまってよいだろう。 そのような中、「人材確保等促進税制」の適用要件から設備投資要件が撤廃されたのは朗報であるように思えるが、その代わりに設けられた適用要件からは、新規雇用者に対する給与支給額を毎年増加させることが期待されていると考えられる。これは単に新入社員の給与の引上げが期待されているわけではなく、毎期継続的に新規雇用を生み出し、その新規雇用者に対する給与支給額を前年比で増加させることが期待されているのである。「人材確保等促進税制」は、政策目標が「賃上げ・設備投資の促進」から「新規雇用の継続的創出」にシフトした新たな税制として捉えるべきであろう。 本稿は、令和3年度の税制改正によって抜本的に改組された「人材確保等促進税制」及び適用要件の改正が行われた中小企業者等向けの「所得拡大促進税制」について、改正前の制度からの変更点を中心にそれらの税制の概要について4回にわたって説明するものである。なお文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属する組織又は団体の公式見解ではないことをあらかじめ申し添える。   2 人材確保等促進税制の概要 青色申告法人が適用年度 (令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度)中に国内新規雇用者に対して給与等を支給する場合において、一定の適用要件を満たすときは、その給与等支給額の15%(又は20%)相当額を法人税額から控除するという制度である(措法42の12の5①)。 平たく言えば、「新規雇用者に対する給与の支払いを前年度から増やすこと(=人材確保・人材育成の拡大)によって受けられる税額控除」ということである。 この税制は、令和3年度の税制改正によって従来の「賃上げ・投資促進税制」から改組され創設されたものである。   3 中小企業者等向けの所得拡大促進税制の概要 中小企業者等が適用年度(平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に開始する事業年度)中に国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、一定の適用要件を満たすときは、前年度からの給与等支給増加額の15%(又は25%)相当額を法人税額から控除するという制度である(措法42の12の5②)。 平たく言えば、「国内雇用者に対する給与の支払いを増やすこと(=賃上げ)によって受けられる税額控除」ということである。 この税制は、もともと平成25年度に創設されたものが複数回にわたる適用要件等の改正を経て現在まで継続しているものである。   4 適用要件 (1) 人材確保等促進税制の適用要件 人材確保等促進税制の適用要件について、改正前の賃上げ・投資等促進税制における適用要件と対比する形で整理すると下表のとおりとなる。 このように、賃上げの要件については測定指標が変更されている(継続雇用者給与等支給額 ⇒ 新規雇用者給与等支給額)とともに、設備投資の要件は廃止されている。 なお、上乗せ控除のための教育訓練費の要件(教育訓練費の額が比較教育訓練費の額から20%以上増加していること)に変更はないが、比較教育訓練費の定義が変更されているので留意が必要である(詳細は【第4回】の5(2)10 参照)。 (2) 所得拡大促進税制の適用要件 中小企業者等向けの所得拡大促進税制の適用要件について、令和3年度の税制改正による変更点をまとめると下表のとおりとなる。 このように、賃上げの要件の測定指標が「継続雇用者給与等支給額」から「雇用者給与等支給額」に変更されている。 また、上乗せ控除のための要件も下表のとおり変更されている。 (【第2回】に続く)

#No. 446(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2021/11/25

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第4回】「非按分型分割」

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第4回】 「非按分型分割」   公認会計士 佐藤 信祐   1 種類株式発行会社における分割型分割 剰余金の配当について内容の異なる複数の種類の株式を発行している場合には、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いをすることが認められていることから(会社法454②二)、分割型分割により分割法人の株主に交付する分割承継法人株式について株式の種類ごとに異なる取扱いをすることができる。 しかしながら、按分型要件を満たすためには、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式のいずれか一方の株式又は出資が分割法人の発行済株式又は出資の総数又は総額のうちに占める当該分割法人の各株主等の有する分割法人の株式又は出資の数又は金額の割合に応じて交付されることが必要になるのに対し、条文上、分割法人株式が普通株式に相当する種類株式であるのか、他の種類株式であるのかは問われていない(法法2十二の十一柱書)。 そのため、例えば、普通株式1株に対して交付される分割承継法人株式の数と優先株式1株に対して交付される分割承継法人株式の数が異なる場合には、按分型要件に抵触することになる。 本稿では、普通株式50株、A種優先株式20株、B種優先株式30株が発行されている場合において、分割後に分割法人が債務超過にならないようにするために、A種優先株主及びB種優先株主のみに分割承継法人株式が交付され、普通株主には分割承継法人株式が交付されなかった事案を前提に解説を行う。   2 分割法人における種類資本金額の計算 分割法人が種類株式発行会社の場合には、分割法人において種類資本金額から減算すべき金額も問題になる。この点については、以下の計算により種類資本金額から減算すべき金額を計算することになる(法令8⑤)。 〈種類資本金額から減算すべき金額〉 ただし、上記算式の分母・分子は、自己株式及び分割型分割によってその時価が減少しなかったと認められる種類株式を除いて計算することになる。本事案では、分割前に普通株主が保有している分割法人株式の時価が0円であり、分割後も0円であることから、普通株式の時価が減少していないといえるため、A種優先株式及びB種優先株式に係る種類資本金額のみを減少させることになる。   3 普通株主の取扱い 法人税法24条1項では、「金銭その他の資産の交付を受けた場合」にみなし配当が発生するものと規定されており、同法61条の2第4項では、「分割型分割により分割承継法人の株式その他の資産の交付を受けた場合」に株式譲渡損益が発生するものと規定されている。すなわち、普通株主に対しては分割対価資産が交付されていないことから、みなし配当も株式譲渡損益も発生しないことになる。   4 A種優先株主及びB種優先株主の取扱い 法人税法61条の2第4項では、「第2条第12号の9イに規定する分割対価資産として分割承継法人又は分割承継法人との間に当該分割承継法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係がある法人(以下この項において「親法人」という。)のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されなかったもの(当該株式が分割法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占める当該分割法人の各株主等の有する当該分割法人の株式の数又は金額の割合に応じて交付されたものに限る。以下この項において「金銭等不交付分割型分割」という。)を除く。」と規定されている。すなわち、金銭等不交付要件に抵触する場合だけでなく、按分型要件に抵触する場合であっても、株式譲渡損益を認識する必要があることがわかる。そのため、金銭等不交付要件及び按分型要件を満たす非適格分割型分割の場合には、みなし配当のみを認識し、金銭等不交付要件又は按分型要件を満たさない非適格分割型分割の場合には、みなし配当及び株式譲渡損益を認識するということになる。 これを本事案に当てはめると、普通株主に対して分割対価資産を交付せずに、A種優先株主及びB種優先株主のみに分割対価資産を交付することから、按分型要件に抵触するため、みなし配当及び株式譲渡損益を認識する必要があるということになる。そして、みなし配当の計算については、法人税法施行令23条1項及び所得税法施行令61条2項では、6号に掲げる自己株式の取得については、二以上の種類の株式を発行している法人に係る規定が設けられているのに対し、2号に掲げる分割型分割については、そのような規定が設けられていない。そのため、種類資本金額ではなく、資本金等の額を保有比率で按分することにより、みなし配当の計算を行うことになる。 〈みなし配当の計算〉 (※) 実際には、もう少し細かな規定がなされているが、簡略化のために、基本的な内容のみを記載している。 ここで留意が必要なのは、「当該分割法人の当該分割型分割に係る株式の総数(第6項第2号に掲げる分割型分割にあっては、当該分割型分割の直前の発行済株式等の総数)で除し、これに同条第1項に規定する内国法人が当該分割型分割の直前に有していた当該分割法人の当該分割型分割に係る株式の数を乗じて計算した金額」(※)と規定されているという点である(法令23①二)。 (※) 所得税法施行令61条2項では、「当該分割法人の当該分割型分割に係る株式の総数(第4項第2号に掲げる分割型分割にあっては、当該分割型分割の直前の発行済株式等の総数)で除して計算した金額に同条第1項に規定する株主等が当該分割型分割の直前に有していた当該分割法人の当該分割型分割に係る株式の数を乗じて計算した金額」と規定されており、「第4項第2号に掲げる」と規定されている点を除けば、法人税法施行令と同様に規定されている。 すなわち、「第6項第2号に掲げる分割型分割」とは、対価の交付を省略したと認められる分割型分割のことをいい、「当該分割型分割の直前の発行済株式等の総数」で按分することが明らかにされている。これに対し、分割対価資産を交付する分割型分割については、「当該分割法人の当該分割型分割に係る株式の総数」で按分すると規定されており、対価の交付を省略したと認められる分割型分割とは異なる取扱いになっている。さらに言えば、非適格合併におけるみなし配当の計算においても、「当該被合併法人のその時の発行済株式又は出資(括弧内省略)の総数(出資にあっては、総額。以下この条において同じ。)」で按分すると規定されており、分割対価資産を交付する分割型分割ではなく、対価の交付を省略したと認められる分割型分割に似た規定の仕方になっている。 このように、あえて異なる規定を設けた理由は、「当該分割法人の当該分割型分割に係る株式の総数」は、本事案のような分割対価資産が交付されない普通株式を除いて計算するからであると考えられる。このように解するのであれば、発行法人サイドにおいては、普通株式に係る種類資本金額が減少せずに、A種優先株式及びB種優先株式に係る種類資本金額のみが減少するという取扱いとも整合するし、普通株主においては、みなし配当及び株式譲渡損益が認識されないという取扱いとも整合することになる。 すなわち、本事案では、A種優先株式20株及びB種優先株式30株により株数按分された資本金等の額により、みなし配当の金額を計算することになると考えられる。   (了)

#No. 446(掲載号)
#佐藤 信祐
2021/11/25

〔令和4年1月1日以降適用〕改正納税管理人制度

〔令和4年1月1日以降適用〕 改正納税管理人制度   弁護士 下尾 裕   本稿では、令和3年度税制改正において拡充された納税管理人制度の見直しについて解説する。 制度概要については、国税庁が公表している「特定納税管理人制度の概要(令和3年12月)」も併せて参照されたい。   1 納税管理人制度拡充の概要 納税管理人とは、非居住者又は外国法人(以下「非居住者等」という)が日本国内に住所・居所(以下「住所等」という)又は事務所・事業所(以下「事務所等」という)を有していない又は有しないこととなる場合において、納税申告書の提出等日本国内で国税に関する事項(以下「特定事項」という)を処理する必要がある場合に、当該処理を担う者を選任する制度である(通法117①)。 令和3年度税制改正前の納税管理人制度においても、非居住者等において特定事項を処理する必要がある場合について納税管理人の選任義務自体は定められていたものの、当該義務を履行しない場合に課税庁が採りうる措置については特段の定めがなかった。そのため、非居住者等が日本国内に支店等を設置することなく、電子商取引を通じて日本で事業を行っているような場合に、当該外国法人等に法定書類の送達ができず、税務調査やその後の更正処分に支障が生じていた。 これを踏まえ、令和3年度税制改正においては、非居住者等が任意に納税管理人を選任しない場合に、所定の手続を経て、課税庁において一方的に納税管理人を指定できるよう制度の拡充がなされた。 なお、本改正は、令和4年(2022年)1月1日以降に行う課税庁からの手続等について適用される(改正法附則1五ハ等)。   2 拡充後の納税管理人選任のフロー 拡充後の納税管理人選任の流れは、概ね以下のとおりである。なお、特定納税管理人の指定が解除される「特定事項を処理させる必要がなくなったとき」とは、税務調査の終了により納税者に接触する必要がなくなった場合や、納税者から納税管理人の届出がなされた場合が該当する(通基通(徴収部関係)第117条関係13)。 (※) ここでの「特定事項」とは、納税申告書の提出のほか、税務調査において納税者に対して発する書類の受領及び納税者への返送、納税者が提出する書類を受領し、これを提出することが含まれる(通規12の2)。   3 特定納税管理人となる者 特定納税管理人となる者は、以下の各類型のとおりとされており(通法117⑤)、どのような者がこれらの者に該当するかの詳細については、今後、通達により定めが置かれる予定となっている。その解釈適用については通基通(徴収部関係)第117条関係10及び11に定めがある。各類型に該当する者としては、例えば、以下の具体例に記載する者が挙げられる。 課税庁(所轄税務署長等)は、特定納税管理人の指定を行う場合は、対象となる納税者(特定納税者)及び特定納税管理人に対し書面によりその旨を通知する必要がある(通法117⑦) (1) 納税者が個人の場合 (2) 納税者が法人の場合 ここでの「特殊の関係」とは、移転価格税制(措法66の4)における「特殊の関係」と同様であり、具体的には相互に以下のような関係を有するものである(通令39の2)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 財務省「令和3年度 税制改正の解説」991頁(参考図表④)をもとに筆者一部加工。 上記図表でいうところの「発行済株式等の総数又は総額の50%以上の株式等を直接又は間接に保有する」かどうかの判定については、財務省「令和3年度 税制改正の解説」991~992頁も併せて参照されたい。   4 不服申立て 課税庁による特定納税管理人の指定は、「国税に関する法律に基づく処分」に該当することから、不服のある特定納税者又は特定納税管理人は、再調査請求又は国税不服審判所に対する審査請求を行うことができるほか(通法75①)、さらに当該指定の取消しを求める行政訴訟を提起することができる(通法114、115①)。   5 実務上の留意点 今回の納税管理人制度の拡充において適用が想定される1つの類型は、海外業者(非居住者等)が日本国内の消費者に対してオンラインゲームの提供等を行っているようなケースである。このような場面では、海外業者は、電子通信利用役務の提供の実施者として、日本において消費税の申告納税を行う義務があり、課税庁が申告漏れを発見した場合には税務調査や更正処分の前提として、国内事業者である当該ゲームのプラットフォーマーを特定納税管理人として選任するような流れが想定される。 現実には、仮に海外業者が納税管理人の指定を怠った結果、プラットフォーマーが特定納税管理人として指定されるような事態となれば、当該プラットフォーマーはコンプライアンス違反を問題視し又は面倒を避けるべく、当該業者との契約を解除しようとするなどの事態も想定される。この点に鑑みれば、今回の納税管理人制度の拡充は、上で述べた課税庁による納税管理人の指定を可能にしたのみならず、その過程において、国内便宜者への納税管理人就任要請を通じて、国外事業者が自主的に納税管理人の指定を行うよう動機付けを行っているとの見方も可能である。 また、現実問題として納税管理人を引き受けることができるのは、当該非居住者等の親族又はグループ法人のほか、税理士等の会計専門家に限られてくることから、税理士等が納税管理人に就任する事例も増加する可能性がある。 (了)

#No. 446(掲載号)
#下尾 裕
2021/11/25

〈令和3年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第3回】「年末調整の実務Q&A」~最近の改正事項を中心に~

〈令和3年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「年末調整の実務Q&A」 ~最近の改正事項を中心に~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   シリーズ最終回は、年末調整実務について、最近の改正事項等を中心にQ&A形式で解説を行う。 取り上げる事項は以下のとおりである。 なお、以下の拙稿にも年末調整に関係する事例を紹介しているので、あわせてご参照いただきたい。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。   《ひとり親控除・寡婦控除①》 - 解 説 - 「事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者」とは、次のいずれかに該当する者と規定されている(所法2①三十、三十一、所規1の3)。 住民票に上記の記載がある場合には事実婚の状況にあると判断されるが、記載がなければ事実婚の状況にあるとは判断されない。   《ひとり親控除・寡婦控除②》 - 解 説 - ひとり親には、「合計所得金額が500万円以下であること」という所得要件が設けられている(所法2①三十一ロ)。令和元年分以前においては、総所得金額等が38万円以下の子を有する寡婦に所得要件は設けられていなかった。改正の前後で、控除の対象となる人の範囲が異なるので注意が必要である。   《所得控除等の適用可否》 - 解 説 - 次の所得控除及び税額控除は、納税者本人の合計所得金額により控除額が異なる又は控除適用の有無が決まることになる。よって、年末調整の対象となる給与等以外の所得があるにも関わらず、それを考慮せずに年末調整を行うと、本来よりも多い控除額を適用したり、適用できない控除を適用する可能性がある。 (例) 給与所得800万円の人に以下の不動産所得があり、不動産所得を考慮せず年末調整を行った場合 〈参考〉 ① 基礎控除(所法86➀) ② 配偶者控除、配偶者特別控除(所法83➀、83の2➀) 納税者本人の合計所得金額に応じて控除額が変動し、合計所得金額が1,000万円を超えると配偶者控除及び配偶者特別控除を適用することはできない。 (出典) 国税庁パンフレット ③ ひとり親控除、寡婦控除(所法2➀三十、三十一ロ) ④ 住宅借入金等特別控除(措法41➀)   《所得金額調整控除》 - 解 説 - 2つの所得金額調整控除のうち、子ども等を有する場合の調整は、給与等の収入金額が850万円を超える人が、次の(ア)から(ウ)のいずれかに該当する場合に適用を受けることができる(措法41の3の3➀)。 同一生計配偶者とは、生計を一にする合計所得金額が48万円以下の配偶者(青色事業専従者等を除く)をいい、納税者本人の所得についての要件は設けられていない(所法2➀三十三)。 したがって、合計所得金額が1,000万円を超える者は、配偶者控除の適用を受けることはできないが、配偶者が特別障害者に該当しその合計所得金額が48万円以下である場合には、年末調整で所得金額調整控除の適用を受けることができる(措法41の3の4➀)。 ただし、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に対し「所得金額調整控除申告書」を提出することが必要である(措法41の3の4②)。   《休業手当の取扱い》 - 解 説 - 労働基準法第76条の規定に基づいて支給される休業補償は、所得税法の規定により非課税とされているが、休業手当を非課税とする規定はない(所法9➀三イ、所令20➀二)。したがって、休業手当を支給するときにはその金額を源泉徴収の対象とする必要があり、支給した休業手当は年末調整の対象となる給与等に含めることとなる。 なお、勤務先から休業手当を受け取っていない雇用保険法の被保険者に対して、国から直接給付される新型コロナウイルス感染症対応休業支援金は、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律(令和2年法律第54号)第7条の規定により非課税とされている。よって、当該支援金については、年末調整の対象となる給与等に含める必要はない。 (連載了)   

#No. 446(掲載号)
#篠藤 敦子
2021/11/25
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