《速報解説》 固定資産税(商業地等)の負担調整措置の改正 ~令和4年度税制改正大綱~ 税理士 菅野 真美 以下では12月10日公表の「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)における固定資産税の負担調整措置について、そのポイントを解説する。 固定資産税は、毎年1月1日に土地、家屋、償却資産を所有している者が、固定資産の価格に基づいて算定された税額を固定資産が所在する市町村等に納める税金である。土地は地目により区分され、土地のうち宅地の価格は、原則的には公示価格等の7割を目途として算定される。 土地と家屋については3年に一度評価替えが行われ、原則的には、基準年度の価格が据え置かれる。ただし、宅地等の評価水準が、以前、市町村ごとにばらつきがあったことから、負担水準の均衡化のために負担調整措置が設けられている。 ▷令和3年度税制改正における措置 令和3年度は評価替えの年であったが、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化の影響を考慮して、宅地のうち商業地等(住宅用地以外の宅地)については、負担水準(当年度の評価額に対する前年度課税標準額の割合)に応じて、令和3年度に限り、次のように定めていた。 【令和3年度】 このため令和4年度、5年度については以下のとおり予定されていた。 【令和4年度・5年度】 (※) ただし、計算した金額が当年度の評価額の60%を超える場合は評価額の60%相当額、評価額が20%に満たない場合は評価額の20%相当額が課税標準額となる。 その他、令和3年度改正についての詳細は、下記拙稿を参照されたい。 ▷大綱で示された令和4年度税制改正案 税制改正大綱で示された令和4年度税制改正案では、商業地等の課税標準額のうち負担水準が60%未満について次のように改正される。これは地価上昇による商業地等の税額負担に配慮したものと考えられる。 (※) ただし、計算した金額が当年度の評価額の60%を超える場合は評価額の60%相当額、評価額が20%に満たない場合は評価額の20%相当額が課税標準額となる。 上記2.5%の税率は令和4年度限りとされており、令和5年度は従前どおり5%となる。また、このような税率の低減措置は商業地等に限られ、住宅用地や農地等については改正がない。都市計画税に関しても所要の改正が行われる。 (了)
《速報解説》 「「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)が公表される」 ~賃上げ税制は抜本見直し、住宅ローン控除は控除率縮小、 改正電帳法に宥恕規定・インボイス制度は期中登録可能期間が延長~ Profession Journal編集部 12月10日(金)、自由民主党・公明党は「令和4年度税制改正大綱」(いわゆる与党大綱)を公表した。 当初、令和4年度税制改正では「相続税・贈与税の一体化」や「金融所得課税の見直し(税率の見直し・損益通算範囲の拡充)」などが実現するとの一部報道もあったものの、衆議院選挙の日程や世論の影響もあってか、今回は見送りとされ、賃上げ税制の見直しなど政権主導の施策の他、過去に会計検査院から指摘を受けた事項への手当てが個別に行われるなどの内容が中心となっている。 また後述のとおり、改正電子帳簿保存法や適格請求書等保存制度(いわゆるインボイス制度)といった、制度設計が固まり施行を迎えるものに対する見直しも織り込まれている。すでに準備を進めていた企業等にとって、工程の見直しなどの検討も求められよう。 以下、主な改正事項を紹介する。例年のとおり重要な改正事項については年末から年始にかけて個別に速報解説を順次公開していくので、そちらを参照いただきたい。 なお、こちらの[資料リンク集]ページも今後更新を重ねていくので、ログインの上、ブックマークボタンを押すなどして確認できるようにしていただきたい。 さらに12月26日(日)には毎年ご好評いただいている弊社主催セミナー「60分でわかる!令和4年度税制改正大綱はこう読む」が開催されるため、ぜひお申込みの上、ご視聴されたい。 〇法人課税 まず岸田総理が「新しい資本主義実現会議」において期待を示した「3パーセントを超える賃上げ」を後押しするため、いわゆる賃上げ税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における所得拡大促進税制)(措法42の12の5))について、次の見直しが行われる。 まず大企業向け制度(いわゆる人材確保等促進税制)は現行の適用要件である「新規雇用者の給与総額:対前年度増加率2%以上」を「継続雇用者の給与総額:対前年度増加率3%以上」と改め、資本金10億円以上等の大企業のみ一部取組・届出要件を追加した上で、税額控除の対象については「新規雇用者の給与総額」を「雇用者全体の給与総額の対前年度増加額」とし、継続雇用者の給与総額や教育訓練費の増加率に応じて控除率を3段階(15%・25%・30%(現行:15%・20%))とする仕組みへ改組される。 次に中小企業者等における所得拡大促進税制では、適用要件、税額控除の対象は変更せず、人材確保等促進税制と同様に控除率を3段階(15%・30%・40%(現行:15%・25%))に拡充する。 本制度は令和3年度改正においてもコロナ禍を踏まえた制度改正が行われており、3年続けての見直しとなることから、適用要件について十分な注意が必要となろう。 また上記の実効性を高めるため、研究開発税制等の適用に係る「特定税額控除規定(措法42の13⑥)」について、資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上で前期黒字法人については継続雇用者給与等支給額の要件(下記①)が強化(1%以上。令和4年度は0.5%以上)される。 次に期限切れとなる措置の延長等について、5G導入促進税制(認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の特別償却又は税額控除:措法42の12の6等)は税額控除率含む要件を見直し令和7年3月31日まで3年延長、オープンイノベーション促進税制(特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の課税の特例:措法66の13等)は対象に「設立10年以上15年未満の研究開発型スタートアップ」を追加する等の拡充を行い令和6年3月31日まで2年延長される。また、①(令和4年3月31日が計画の認定期限となる)地方拠点強化税制(措法42の12等)、②倉庫建物等の割増償却(措法48等)、③海外投資等損失準備金(措法55等)は、それぞれ適用期限が2年延長される(①②については要件見直しあり)。特定災害防止準備金(措法56等)は適用期限の到来をもって廃止される。 交際費等の損金不算入制度(措法61の4等)及び中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻しによる還付の不適用(措法66の12)(※)については、適用期限が2年延長(令和6年3月31日まで)される(後者については一部対象の見直しあり)。 (※) コロナ税特法7条により資本金1億円超10億円以下の法人についても令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた青色欠損金については適用可能とされている(詳しくは国税庁ホームページ参照)。 中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入の特例(措法67の5等)も令和6年3月31日まで2年延長となったが、対象資産から「貸付け(主要な事業として行われるものを除く。)の用に供した資産」が除外される。また10万円未満の少額の減価償却資産の損金算入制度(法令133)及び20万円未満の一括償却資産の損金算入制度(法令133の2)についても同様の資産が適用除外とされる。これは利益圧縮を目的に、自らが行う事業で使用しない少額な資産(建設用足場やドローン等)を大量に取得し貸付けの用に供することによる節税スキームを防止するねらいによるもの。 他に個別の対応として、令和3年3月11日最高裁判決(国際興業事件)を受け既報のとおり国税庁が当面の対応を公表していたが、資本の払戻しに係るみなし配当の額の計算の基礎となる払戻等対応資本金額等及び資本金等の額の計算の基礎となる減資資本金額について、その資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額を限度とする等の法整備が行われる。 また「令和元年度決算検査報告」での会計検査院による指摘を受け、企業の事務負担等軽減を目的に、完全子会社株式等(株式保有割合100%)の配当に係る源泉徴収を行わない(所得税を課さない)こととする等の措置が講じられる。 さらに大法人に対する法人事業税の所得割の軽減税率(年400万円以下の所得の部分の0.4%の標準税率及び年400 万円を超え年800 万円以下の所得の部分の0.7%の標準税率)について、1社あたりの軽減額が極めて少ないことなどから、廃止するとともに、これらの部分の標準税率を1.0%とする等の措置が講じられる(令和4年4月1日以後開始事業年度から)。 〇住宅関連税制 住宅ローン控除制度は13年間の控除期間特例がコロナ税特法により延長されていたが、会計検査院の平成30年度決算検査報告で低金利により毎年の住宅ローン控除額が住宅ローン支払利息額を上回っている状況について指摘を受けたこと等から、次の対応がなされる。 また、住宅ローン控除適用に必要であった年末の借入金残高証明書の提出・提示が不要となる(これに代えて銀行等が年末残高の情報等を記載した調書を税務署へ提出)など手続面での見直しも行われる(居住年が令和5年以後である者が、令和6年1月1日以後に行う確定申告及び年末調整より適用)。 なお、住宅取得・増改築に係る次の特例措置についても、それぞれ適用期限が2年(令和5年12月31日)まで延長される(一部見直しあり)。 また、居住用財産の買換え等に係る、本年末が期限切れとなる次の特例措置については、それぞれ適用期限が2年(令和5年12月31日)まで延長される(一部見直しあり)。 「平成21年及び平成22年に土地等の先行取得をした場合の課税の特例(措法37の9、66の2)」については、個人又は法人の所有する他の土地等の譲渡期限が令和3年12月30日に到来し、その後において本制度の適用はないことから廃止される。 また、令和3年度限りの措置として採られていた固定資産税の負担軽減措置については、令和4年度限りの措置として、商業地等(負担水準が60%未満の土地に限る)の令和4年度の課税標準額を、令和3年度の課税標準額に令和4年度の評価額の2.5%(現行:5%)を加算した額(ただし、その額が評価額の60%を上回る場合には60%相当額とし、評価額の20%を下回る場合には20%相当額とする)とされる。 その他、令和4年3月31日で期限切れとなる「住宅用家屋の所有権の保存登記等の税率の軽減(措法72の2等)」(要件緩和あり)、「工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の税率の特例(措法91)」については、それぞれ適用期限が令和6年3月31日まで2年間延長される。 〇資産課税 まず住宅ローン控除と同様に令和3年度改正で床面積要件の緩和等が行われた「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(措法70の2)」は、適用期限を令和5年12月31日まで2年延長した上、非課税限度額は契約の締結時期にかかわらず「耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋:1,000万円」「それ以外の住宅用家屋:500万円」とする他、築年数要件や受贈者の年齢要件の見直し(20歳以上→18歳以上)が行われる。 次に「財産債務調書」について、現行では以下のいずれにも該当する者が提出義務者となるが、①に該当しない(所得2,000万円以下)場合であっても、高額の資産を保有するケースがあるとの指摘があった。 このため改正案では、上記現行の提出義務者のほか、「その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が10億円以上である者」が提出義務者とされ(令和5年分以後の財産債務調書について適用)、調書の提出期限を翌年6月30日まで(現行:翌年3月15日まで)とする(国外財産調書についても同様)などの見直しが行われる。 また、非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度について、特例承認計画の提出期限が令和6年3月31日まで1年延長される。 上場株式等の配当所得について、現行では「大口株主等」(発行済株式の総数等の3%以上に相当する数又は金額の株式等を有する個人:措法9の3一)が支払いを受ける配当等は総合課税となり、申告不要方式や申告分離課税方式による譲渡損失との損益通算が選択できないこととされている。 ただし、この大口株主等に該当しない場合であっても、議決権の過半数を保有している法人を通じ権利行使するなど実質的に大口株主等と同等の者がこれらの特例措置を適用しているとの会計検査院による令和2年度決算検査報告の指摘を受け、持株割合が同族会社である法人との合計で3%以上となる場合には、その支払を受ける配当等を総合課税の対象とする等の見直しが行われる(令和5年10月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当等について適用)。 なお、上場株式等の配当所得等に係る課税方式をめぐっては、現行、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選択することができるが、これにより国民健康保険料の負担額(個人住民税における総所得金額をもとに計算)に差異が生じるなど他制度への影響を考慮し、所得税と個人住民税の課税方式を一致させる(令和6年度以後の個人住民税から適用)。これにより所得税を総合課税、個人住民税を申告不要(特別徴収)とする選択が不可となる。 〇改正電帳法、制度開始直前に2年間の紙保存宥恕規定を設ける 令和4年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法については、Q&Aや届出様式の公表が相次ぎ制度開始を待つまでとなっていたが、企業のデジタル化への対応が間に合わないとの声も聞かれたこと等から、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に保存義務者が行う電子取引について、所轄税務署長が、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存できなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、その保存義務者が質問検査権に基づくその電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る)の提示・提出の求めに応じられるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置が講じられる(令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用)。 〇インボイス制度、令和5年10月1日含む事業年度以降も6年間は期中の登録が可能に またインボイス制度に関して、現行では、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を申請した場合、「令和5年10月1日の属する課税期間」のみ、課税期間の途中でも登録を受けた日から適格請求書発行事業者となることができる経過措置が設けられており、その後の課税期間では課税事業者選択届出書と登録申請書を提出し、翌課税期間から登録を受けることとされているが、改正案では、「令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中」において登録を受けた場合は、その登録日から適格請求書発行事業者となることができることとする。ただしこの場合、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度が適用されない。 なお、インボイス制度については他にも規定の整備が行われるが、税制とは別に、インボイス制度に関しては免税事業者への影響を考慮し、取引のある事業者(発注者側)からの一方的な値引きなどを受けないよう、独禁法等関係法令上のルールを明確化する(Q&Aなどの公表)模様だ。 〇税理士制度・税理士試験制度の見直し 経済社会のICT化やコロナ禍を契機とした税理士を取り巻く業務環境の変化を受け、事務所設置規制(税理士法40、税理士法基本通達40-1)について、設備や使用人の有無といった物理的事実による判定を行わないこととすることで、業務の場所・形態にとらわれない働き方を促進するほか、懲戒逃れを図る税理士等への対応(税理士調査の対象に元税理士・にせ税理士を加える等)や税理士試験の受験資格の見直し(会計学に限り受験資格を不要化、履修科目要件を社会科学全般(現行:法律学又は経済学)に拡充)が行われる(令和5年4月1日から)。 〇納税環境整備 現行制度では、所得税の納税地について異動があった場合や、納税地を住所地から居所地や事業場の所在地等に変更する場合には、異動前(変更前)の納税地の所轄税務署長に届出書を提出しなければならないが、手続簡素化のため、これらの届出書の提出が不要とされる(転居については住民票の異動情報、転居以外については確定申告書の記載内容で確認)(令和5年1月1日以後の異動等から)。 次にe‐Taxによる相続税申告の添付書類について、現行ではイメージデータの送信により行うこととされているが、書類が大部となるケースもあることから、光ディスク等による提出が可能とされる(令和4年4月1日以後の申請等から)。 また、登録免許税の納付方法については現金納付が原則とされオンライン申請の場合のみインターネットバンキングによる納付が認められているところ、書面・オンラインといった申請の態様を問わず、現金納付、インターネットバンキングに加えクレジットカードによる納付も可能とされる(令和4年4月1日から)。 その他、年末調整や確定申告において「社会保険料控除」又は「小規模企業共済等掛金控除」の適用を受ける際に書面による添付が必要とされている控除証明書について、書面による提出に代えてQRコード付き証明書による提出及び電磁的記録による提供(データ提供)が可能とされる(年末調整については令和4年10月1日以後提出分から、確定申告については令和4年分以後の申告から)。 (了)
《速報解説》 「監査及びレビュー等の契約書の作成例」を会計士協会が改正 ~「合意された手続業務に関する実務指針」の改正を受け、様式の統合や記載内容の見直し等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年12月7日付けで(ホームページ掲載日は2021年12月10日)、日本公認会計士協会は、法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正を公表した。 これは、11月15日付けで改正された監査・保証実務委員会実務指針第92号「専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」」(以下「専門実 4400」という)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主に次の改正が行われている。 なお、今回の改正に伴い、別途協会ウェブサイトに掲載している個別の監査契約書・監査約款の更新は予定していないとのことなので、利用に際しては注意が必要である。 1 合意された手続業務契約書の作成例 「Ⅴ 合意された手続業務契約書の作成例」の箇所及び様式について、専門実4400の記載に合わせて修正している。 削除項目と追加項目が多数ある。 2 様式13と様式14の統合 様式13(業務依頼者との間の業務契約書(実施結果の利用者が「業務依頼者」のみの場合))及び様式 14(業務依頼者との間の業務契約書(実施結果の利用者が「業務依頼者」と「その他の実施結果の利用者」の場合))を統合している。 記載の内容の見直しも行われている。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓
《速報解説》 会計士協会、収益認識会計基準の公表等を受けて 監基報580「経営者確認書」を改正 ~一部を除き2022年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年12月7日付けで(ホームページ掲載日は2021年12月10日)、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書580「経営者確認書」の改正」を公表した。 これにより、2021年10月18日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。「公開草案に対するコメントの概要及び対応」も公表されており、コメントを受けて公開草案から見直されている事項がある。 これは、「収益認識に関する会計基準」の公表、「金融商品に関する会計基準」の改正などを受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 経営者確認書の記載例において、以下で説明する文例が示されている。 詳細については「《付録2 経営者確認書の記載例》4.その他追加項目の確認事項(財務諸表監査全般に共通する事項)の記載例」をお読みいただきたい。 なお、経営者確認書の入手に当たっては、経営者に対して十分に説明することが経営者確認書の実効性の確保につながると考えているとの記載があるので、監査業務に従事する監査法人及び公認会計士は、被監査企業に対して十分に説明することになると考えられる。 1 売上関連 次の文例へ改正する。 なお、契約資産を計上している場合は必要に応じて、「営業債権」を「営業債権及び契約資産」とする。 また、個別に確認すべき重要な検討事項(例えば、変動対価、独立販売価格や履行義務の充足に係る進捗度等の見積り)について確認項目として追加する必要があると判断した場合には、その内容を記載する。 2 金融商品関連 次の文例へ改正する。 Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 2021年1月14日付けで改正された《付録1》及び《付録2》の会計上の見積りの監査に関連する事項は、2023年3月決算に係る監査及び2022年9月に終了する中間会計期間に係る中間監査から実施する。ただし、それ以前の決算に係る監査及び中間会計期間に係る中間監査から実施することを妨げない。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓
2021年12月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.448を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第102回】 「節税義務が争点とされた事例(その5)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 東京地裁平成7年11月27日判決(判時1575号71頁)は、2億8,000万円もの税理士の債務不履行責任が肯定された事例として、つとに有名な事件である。3,000万円もの報酬をとりながら、「時間がなかったのでとりあえず延納の手続をとっておきました。物納にしたければ、そのときまた私が手続をとります。」などという誤った教示をしていた事件として、税理士の賠償責任問題を論ずる際、しばしば登場する事件である(※)。 (※) 須藤英章「税理士の責任」川井健=塩崎勤『新・裁判実務大系 専門家責任訴訟法』191頁以下(青林書院2004)参照。 とかく、この事件は税理士の負わされた損害賠償額の大きさが注目される事件であるが、角度を変えて見れば、別の論点を提供する素材となる。具体的には、依頼者と税理士との間に締結された(準)委任契約における「委任の本旨」の解釈の問題や税理士の裁量権の問題という論点を投げかける大変興味深い問題が潜在しているといえよう。 Ⅰ 事案の概要 1 事実 Xら(原告)は、税理士Y(被告)に対して相続税の申告を依頼した際に、併せて物納手続を依頼したにもかかわらず、Yは物納手続を行うことなく延納の手続をしたほか、土地の評価について実測によらず登記簿上の地積をそのまま採用して土地を過少に評価したり、土地の利用区分、路線価、画地計算、借家権割合の控除率についての過誤が明らかとなったので、XらはYとの契約を解除した上、新たに訴外税理士に依頼して修正申告書を提出し、物納の手続を行った。 Xらは、「Yは、税理士として、委任の本旨に則り、依頼者にとって最も利益となるように相続税の申告手続及び納付手続をすべき義務があ〔る〕」などと主張し、物納財産としての土地の価額と相続税の納付のために売却せざるを得なくなった土地の価額との差額、延滞利子税相当額、過少申告加算税相当額などの損害を被ったとして、Yに対しその賠償を請求した。 2 裁判所の判断 裁判所は、XらがYに対して本件相続税の申告手続を依頼するに際し、併せて物納の申請手続を依頼したことを認定した上で、次のように断じた。 物納は、納税義務者について、その納付すべき相続税額を金銭で納付することを困難とする事由がある場合において、税務署長の許可があって初めて認められることとされていることから(平成4年改正前相続税法41条1項)、裁判所は、金銭納付を困難とする事由があるか否か、物納に充てることができる財産を有していたか否かについて検討を加えた上で、Yの債務不履行を認めた。 そして、財産評価の過誤等についても、委任の本旨に則ったものということはできないとして、次のように判示した。 Ⅱ 節税措置義務と委任の本旨 1 「委任の本旨」の意義と問題点の所在 税理士は、一般に依頼者との間の委任契約若しくは準委任契約に基づく民法644条《受任者の注意義務》の善管注意義務を負っていると解されている。また、民法415条《債務不履行による損害賠償》では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」には、受任者は債務不履行の責任を負うこととされている。 本件判決は、「Yは、税務の専門家として、租税に関する法令、通達等に従い、適切に相続税の申告手続をすべき義務を負うことはもちろん、納税義務者たるXらの信頼にこたえるべく、相続財産について調査を尽くした上、相続財産を適切に各相続人に帰属させる内容の遺産分割案を作成、提示するなどして、Xらにとってできる限り節税となりうるような措置を講ずべき義務をも負うものということができる。〔下線筆者〕」と説示しており、税理士にかような義務が課されているとの理解が基礎にあるようである。 この「節税となりうるような措置を講ずべき義務」とは何を指すのであろうか。この点、本件判決の文脈では、「XらとYとの間で締結された本件相続税の申告の手続等の委任契約の趣旨」に照らして導出される義務であるとしていることから、あくまでも民法643条《委任》の委任契約の一部であるということができよう。 本件では税理士に対して、「物納」の手続をすることが具体的に依頼されていた旨が認定されているが、仮に、物納によらず延納によった方が節税になると税理士が判断したとすれば、税理士はいずれの納付方法を採用すべきなのであろうか。換言すれば、具体的に税理士が委任された内容(以下「具体的委任事項」という。ここでは「物納」を指す。)と、税理士が節税措置として妥当と判断した内容(以下「抽象的委任事項」という。ここでは「延納」を指す。)とが相反する場合にまで、税理士は自己の信じる節税効果を常に優先して処理に当たるべきということになるのかという問題がある。 2 本件裁判所の考え方 本件裁判所は、「物納の方法によりがたいとか、延納が物納より納税義務者であるXらに有利である等の特段の事情の認められない本件においては、Yが右依頼の趣旨に反して延納の申請手続をしたことは、債務不履行に該当する」としている。 つまり、①物納の方法により難い場合と、②延納が物納よりも節税となる場合には、税理士が延納を採用したことに責めはないということを意味しよう。かかる判示からすれば、裁判所は、税理士が節税措置として自らの判断の下において採用した措置、すなわち抽象的委任事項の履行として税理士が採った措置についての責任を問わない姿勢を看取することもできる。 例えば、物納にする根拠として、仮に税負担を軽減できずとも遺族間での遺産分割が容易になるといった利便性があったとしても、そのことは税理士の責任論のレベルでは無視されるとの考えがあるのであろう。かように考えると、税理士は常に節税措置など税務上の取扱いを判断の中心に置いて行動していれば、債務不履行責任を負うことはなさそうである。 もっとも、このような判示が下されているのは、裁判所が依頼人との税理士顧問契約ないし個別の「物納手続の依頼」が、ともに節税措置の依頼を包摂していると解釈したからにほかならないと考えれば理解しやすい。 ただ、判決が「税務の専門家として、・・・適切に相続税の申告手続をすべき義務を負うことはもちろん、納税義務者たるXらの信頼にこたえるべく、・・・Xらにとってできる限り節税となりうるような措置を講ずべき義務をも負う」と説示している点には留意が必要であろう。すなわち、「節税措置を講ずべき義務をも・・負う」として、節税措置を二次的な義務と解していると理解することもできそうである。 (了)
“国際興業事件”を巡る5つの疑問点 ~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【第1回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 はじめに 国際興業事件の最高裁判決(※1)(以下「本件最判」という)では、配当を行う子会社の配当直前の利益積立金がマイナスである場合、減少する資本剰余金を上回る「払戻等対応資本金額等」が計算され、その結果、利益剰余金を原資とする部分の一部まで資本の払戻しとして取り扱われることとなるため、「払戻等対応資本金額等」を算定するプロラタ計算の法人税法施行令(法令23①三(現行四))は、法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるという結論が導かれた。 (※1) 最高裁令和3年3月11日第一小法廷判決(令和元年(行ヒ)第333号)、TAINSコード:Z888-2354。 本件において、X(原告、被控訴人、被上告人)は、米国に所在する子会社から、資本剰余金を原資にする配当(以下「資本配当」という)と利益剰余金を原資とする配当(以下「利益配当」という)を同時に収受したのであるが、この場合のXのみなし配当(法法23の2により益金不算入となる)及び子会社株式の譲渡損失(当然に損金に算入される)の計算方法が争われたのである。このように、資本配当と利益配当を同時に行うことを混合配当と呼ぶ。 混合配当が問題となるのは、資本剰余金を先に払い出したと考えるのか、それとも利益剰余金を先に払い出したかと考えるかによって計算結果が異なる可能性があるからである。この混合配当の先後関係問題については数値例を使った複数の論考(※2)があるが、結論を述べると、計算結果に差異が生じるのは、①剰余金の配当を行う法人の資本金等の額と利益積立金の額の双方がプラスの場合のみである。この場合、利益配当を先に行うとその分簿価純資産価額が減少するので、後述するプロラタ計算式の分母が小さくなって、その分資本の払出し部分(株式又は出資に対応する部分)が大きくなるからである(※3)。要は資本配当を先に行った場合より、株式又は出資の譲渡対価が大きく計算され、みなし配当の金額が小さくなるのである。 (※2) 太田洋・伊藤剛志「企業取引と税務否認の実務」大蔵財務協会(2015年)534~553頁、大島恒彦「資本と利益の同時、混合配当に関する裁決事例(平成24年8月15日審判所裁決)の争点とその問題点」租税研究(2014年1月)260~287頁、坂本雅士「事例研究第187回(続)利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当」税研211号(2020年5月)77~81頁等。 (※3) 小山真輝『配当に関する税制の在り方-みなし配当と本来の配当概念との統合の観点から-』税大論叢62号(2009年)30頁は、先後関係問題について、「これは、分母の簿価純資産価額(税法基準)の変化によって起こるものである」と述べている。 これに対し、②資本金等の額がマイナスで利益積立金の額がプラスの場合、直前資本金等の額が零以下であればプロラタ計算の分数割合も零とみなされるため(法令23①四本文括弧書き)、いずれの配当を先に行ったとしても資本配当の額がみなし配当の額、利益配当の額が(通常の)配当の額となって計算結果に差異はない。 また、③資本金等の額がプラスで利益積立金の額がマイナスの場合(※4)、プロラタ計算の分数割合は1とされ(法令23①四本文括弧書き及び同号ロ括弧書き)、払戻等対応資本金額が資本剰余金の減少額を超えたとしても、配当総額(資本剰余金の減少額)を超えて資本金等の額の減少は生じない(法令8①十九)とされているので、いずれの配当を先に行ったとしても資本配当の額が株式の譲渡対価、利益配当の額が(通常の)配当の額となってこちらも計算結果に差異は生じない。 (※4) ただし、資本金等の額を超えて資本剰余金が減少するような資本の払戻しは想定していない。 本件は③の場合で、国側主張のとおりプロラタ計算に係る法人税法施行令の文言に従って計算要素を当てはめていくと、結果的に、資本配当の金額を超えて、払出法人の資本金等の額全額が株式又は出資の譲渡対価となり、本来の利益配当の一部が「資本の払出し」に食い込んでしまうという不都合が生じたため、その限りにおいて法人税法施行令は違法なものという結論が導かれたのである。 今般、本件最判により、法人税法施行令が違法無効とされたことで、何らかの改正が行われるはずである(※5)が、筆者は、上記の混合配当の問題に加え(※6)、外国法人が行う剰余金の配当等には、根本的な問題がいくつか潜んでいると考えている。本稿では、以下、本件におけるXの行為の是非、及び外国法人が行う剰余金の配当等に内在する疑問点について、5つの点から問題提起してみたい。 (※5) 国税庁は、2021年10月25日、同HP『お知らせ』において、「最高裁判所令和3年3月11日判決を踏まえた利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の取扱いについて」を公表し、今後は、本件最判に従い、現行の法人税法施行令23条1項4号及び同様の規定である所得税法施行令61条2項4号について、混合配当があった場合に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限として取り扱うこととした。なお、詳しくは、拙稿「《速報解説》 国税庁、最高裁判決を踏まえた混合配当の取扱いについて公表~混合配当の際に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限に~」参照。 (※6) さらに、資本剰余金の配当と利益剰余金の配当について、意図的に配当決議の日をずらした場合どのように取り扱うかという問題も残されている。 《疑問点1》 利益積立金がマイナスの法人が何故配当することができたのか Xに剰余金を分配した米国デラウエア州法人Kyo-ya Pacific Company, LLC(以下「KPC社」という)は、Xの100%子会社であり法人税法23条の2第1項所定の外国子会社に該当する。本件第一審(※7)判決文に添付されている別表2-1によれば、KPC社の払戻し等の直前の簿価純資産価額の金額は97,684,743米ドル(小数点以下略。以下同じ)で、Xが交付を受けた金銭の額は644,000,000米ドルであることから、この点だけを見れば、KPC社は直前の簿価純資産価額の約6.6倍もの配当を行ったことになる。 (※7) 東京地裁平成29年12月6日判決(平成27年(行ウ)第514号、TAINSコード:Z267-13095)。 しかしながら、下記の《疑問点2》で検討するように、ここでいう直前の簿価純資産価額とは、KPC社の前期期末時の金額(筆者は、KPC社の平成23年12月期の金額と推定する)であり、Xに剰余金の配当を行った時点のものとは異なっている。さらに、本件最判によれば、Xは、KPC社及びその子会社から資金をXに還流させることを企図し、KPC社は、その子会社であるKyo-ya Company, LLC(以下「KC社」という)から、利益の配当として644,000,000米ドルの送金を受け、Xに還流したとのことである。すなわち、複数の判決文から総合すると、KPC社がKC社から同額の配当を受領したのが平成24年11月12日、KPC社が同額の資金をXに送金したのが同13日(Xの受領が同14日)とされているので、KPC社は中間持株会社として機能し、極めて短期間のうちに644,000,000米ドルもの資金をKC社➡KPC社➡Xと還流させたことになる。 そこで、第一審別表2-1記載の金額と上記資金循環から、KPC社の貸借対照表(税務上)の株主資本の変動を推定すると、下記〔表1〕のとおりとなる。なお〔表1〕は、KPC社の決算日を12月31日とし、かつ、同社の平成24年12月期の事業活動は極めて受動的(passive)なものであったと仮定した上で、株主資本の変動の状態を推定している(グレーの列が各時点の残高を示す)。また、第一審判決別表2-1にある前期期末時から払戻し等の直前の時までの資本金等の額等の増減額1,016,000米ドルについては、内容は不明ながら、下記〔表1〕では利益積立金の減少(相手科目は資産の減少)とした。 〔表1〕KPC社の税務上の貸借対照表項目の推移(筆者による試算) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〔表1〕のとおり、KPC社がKC社から配当を受け取る前の利益積立金の額は、マイナスの112,357,028米ドルと推定されるが、果たしてそのような状態で剰余金の配当が可能かという問題がある。KPC社が設立準拠法とするデラウエア州の会社法は、直前期末の利益剰余金が不足する場合でも、当該事業年度の純利益を含めた額を限度として剰余金の配当が認められるとされており(DGCL§170(a))、〔表1〕のとおり、前期期末に利益積立金がマイナスだったとしても、配当資金を親会社Xの孫会社から配当として収受し、当期の純利益が増加したことで配当原資を得て、同資金をXに還流させることができたと思われる(※8)。 (※8) 我が国の会社法では、株主総会の決議に基づき、任意の時期に剰余金の配当をすることができる(会453)ので、事業年度の途中で剰余金の配当を行う場合には、臨時決算を行って臨時計算書類を作成し(会441①)、株主総会又は取締役会の承認を得て、臨時決算日までの期間損益を反映させて分配可能額を計算することとされている(会461①②)。したがって、KPC社のように中間持株会社の前期末の利益剰余金がマイナスのような場合であっても、究極の親会社に資金を循環させることは不可能ではないと解される。 《疑問点2》 プロラタ計算の分母は、払戻し等の直前の株主資本の状態を示しているか 法人税法施行令23条1項4号は、資本の払戻しに係るみなし配当の金額の計算上、法人(株主)が交付を受けた金銭その他の資産から控除される株式又は出資に対応する部分の金額を求める算式について、以下のように規定している。 上記の〔A〕を求める計算式を展開すると、 となり、分数式で求められるのは、簿価純資産価額(※9)に占める資本金等の額の割合となるので、この計算式の意味するところは、減少した資本剰余金の額のうち、全体の簿価純資産価額に対する資本金等の額の占める割合に相当する金額を計算することにある。この計算がプロラタ(按分)計算と呼ばれるのはその所以である。ただし、このプロラタ計算の分数式の分母〔B〕の金額は、平成29年度税制改正前の法人税法施行令23条1項3号によれば、払戻法人の前期期末時・・・・・の簿価純資産価額を出発点とし、当該前期期末時から当該払出し等の直前の時までの「資本金等の額等」(※10)の増減を調整した金額とされていた。ここでいう「資本金等の額等」とは、前期期末時から資本の払出し(法令23①三イからの読み替え)の直前の時までの資本金等の額の増減と、同一期間の利益積立金の額の増減から構成されると定義されている(連結個別資本金等の額及び連結個別利益積立金も同様の取扱い)。 (※9) 平成29年度税制改正前の法人税法施行令23条1項2号イ括弧書きの規定振りから、ここでいう簿価純資産価額とは、資本金等の額と利益積立金から構成される、あくまで税務上の概念であることが理解される(本文中の算式〔B〕)。 (※10) 「資本金等の額等」なる用語は平成29年度税制改正で廃止されたが、同改正後もプロラタ計算式の分母の計算構造は基本的に変わっていない。 しかしながら、後者の利益積立金からは、法人税法施行令9条1項1号若しくは同6号を除外する旨規定されている。同1号には利益積立金の加減算項目がイからルまで列挙(平成29年度税制改正前)されており、例えば、そのイは所得の金額、ロは受取配当等の益金不算入額、ハは外国子会社から受ける配当等の益金不算入額、等々と規定されている。この規定振りから、資本の払戻し等の原資には、それが行われた事業年度の損益項目は含まれず、あくまで前期末の簿価純資産価額から払い出されるものであることが前提とされていることが分かる(※11)。すなわち、前期期末と資本の払戻し等を行う時点との簿価純資産価額の中身の構成には変化がないというのが暗黙の了解となっているのである。 (※11) 現行法の規定振りからも、この前提は維持されていると解される。 本件において、プロラタ計算の算式分母である簿価純資産価額を法令に当てはめて計算すると、剰余金の払戻しを行った平成24年11月13日(米ドル送金日)から遡ること約11ヶ月前(※12)の平成23年12月31日(KPC社の前期期末に相当)の金額ということになる。上記〔表1〕が示すとおり、KPC社の平成23年12月31日時点での簿価純資産価額は、98,700,743米ドル であるのに対し、その内訳の資本金等の額は211,057,771米ドル、利益積立金の額はマイナスの112,357,028米ドルであった。この状況ではKPC社の配当原資としては不十分だったため、KPC社は、KC社からの資金を受け、同額をXに還流させたのは上述したとおりである。 (※12) 本稿では、米国において、我が国法人税法71条に規定する中間申告制度類似の制度がなかったものと仮定している。 すなわち、KPC社は同社の子会社から配当原資を吸い上げたのち、それを親会社に払い戻したが、子会社からの配当金収受の事実は、先のプロラタ計算の算式では全く反映されないまま、株主の払込資本に対応する部分が計算されたことになる。すなわち、プロラタ計算は、本件のような同一事業年度内に、中間持株会社であるKPC社を経由して、孫会社➡子会社➡親会社といった資金還流が行われ、簿価純資産価額の中身が入れ替わってしまったような場合には全く対応できないのである。 このことは、仮にKPC社が我が国の法人であったとしても同じことがいえる。本稿(※7)記載のとおり、我が国法人が事業年度途中に剰余金の配当を行う場合には、会社法上の財源規制の要請から、臨時計算書類を作成し、臨時決算日までの当該事業年度の期間損益を反映させる仕組みとなっていることと対照的である。 本件最判で法人税法施行令に定めるプロラタ計算は違法・無効であるという判断が確定したことにより、今後、同施行令が改正されることが予想される(※13)が、本件のような中間持株会社経由の資金還流スキームにも対応するような制度設計が望まれることはいうまでもない。 (※13) 前掲(※5)参照。 (続く)
〔令和3年度税制改正における〕 人材確保等促進税制の創設 (賃上げ・投資促進税制の見直し) 【第3回】 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 ←(前回) | (次回)→ 3 新規雇用者比較給与等支給額【新設】 法人の適用年度開始の日の前日を含む事業年度(前事業年度)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額から、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額のうち雇用安定助成金額を除いた金額を控除した金額をいう(措法42の12の5③六)。 ただし新たに集計する必要はなく、前事業年度の確定申告において集計した「新規雇用者給与等支給額」をそのまま用いればよい。 適用初年度については、前事業年度において「新規雇用日から1年を経過していない者」を把握したうえで、それらの者に対する前事業年度中の給与等の支給額を集計することとなる。 ここで、前事業年度の月数と適用年度の月数が異なる場合、その月数の大小関係に応じて以下のように算定する(措令27の12の5⑥)。 ① 前事業年度の月数が適用年度の月数を超える場合 当該前事業年度における新規雇用者給与等支給額に当該適用年度の月数を乗じ、これを当該前事業年度の月数で除して算定する。 ② 前事業年度の月数が適用年度の月数に満たない場合 (ア) 当該前事業年度の月数が6月に満たない場合 当該適用年度開始の日前1年以内に終了した各事業年度(「前1年事業年度等」という)に係る新規雇用者給与等支給額の合計額に当該適用年度の月数を乗じて、これを当該前1年事業年度等の月数の合計数で除して算定する。 (イ) 当該前事業年度の月数が6月以上である場合 当該前事業年度における新規雇用者給与等支給額に当該適用年度の月数を乗じ、これを当該前事業年度の月数で除して算定する。 前事業年度の月数が6月以上である場合の計算が簡便化されているのは、半年以上の期間があれば、賞与(ボーナス・一時金)を含め1年を通じた給与等支給額の月平均とおおむね同等になると考えられるためである(※4)。 (※4) 財務省「平成30年度 税制改正の解説」416~417頁を一部変更して引用。 ③ 前事業年度がない場合 特別の規定はなく、新規雇用者比較給与等支給額はゼロとして取り扱われることとなる。 (注) 新規雇用者比較給与等支給額がゼロである場合 前事業年度がない場合や、前事業年度において国内新規雇用者が存在しない場合等、新規雇用者比較給与等支給額がゼロとなる場合には、人材確保等促進税制の適用要件を満たさない(措令27の12の5㉒)。 4 控除対象新規雇用者給与等支給額【新設】 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額から、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額を控除した金額のうち、その法人のその適用年度の調整雇用者給与等支給増加額(⇒ 下記の 6 参照)に達するまでの金額をいう(措法42の12の5③四)。 人材確保等促進税制の控除税額はこの金額を基礎として計算されることとなるが、以下の点に留意が必要である。 このように、「国内新規雇用者に対する給与等の支給額」と「新規雇用者給与等支給額」は似たような用語ではあるが下表のとおり取扱いが異なっているので注意が必要である。 ◎両者の取扱いの相違点 (所得拡大促進税制) 5 雇用者給与等支給額【改正】 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額から、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額のうち雇用安定助成金額を除いた金額を控除した金額をいう(措法42の12の5③五、十)。 6 比較雇用者給与等支給額【改正】 法人の適用年度開始の日の前日を含む事業年度(前事業年度)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額から、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額のうち雇用安定助成金額を除いた金額を控除した金額をいう(措法42の12の5③五、十一)。 ここで、前事業年度の月数と適用年度の月数が異なる場合、その月数の大小関係に応じて以下のように算定する(措令27の12の5⑲、⑥)。なお、この取扱いは令和3年度の税制改正において改正されておらず、従来の所得拡大促進税制における取扱いと同じである。 ① 前事業年度の月数が適用年度の月数を超える場合 当該前事業年度における雇用者給与等支給額に当該適用年度の月数を乗じ、これを当該前事業年度の月数で除して算定する。 ② 前事業年度の月数が適用年度の月数に満たない場合 (ア) 当該前事業年度の月数が6月に満たない場合 当該適用年度開始の日前1年以内に終了した各事業年度(「前1年事業年度等」という)に係る雇用者給与等支給額の合計額に当該適用年度の月数を乗じて、これを当該前1年事業年度等の月数の合計数で除して算定する。 (イ) 当該前事業年度の月数が6月以上である場合 当該前事業年度における雇用者給与等支給額に当該適用年度の月数を乗じ、これを当該前事業年度の月数で除して算定する。 ③ 前事業年度がない場合 特別の規定はなく、比較雇用者給与等支給額はゼロとして取り扱われることとなる。 この場合には、所得拡大促進税制の適用要件を満たさない(措令27の12の5㉓)。 (【第4回】(最終回)に続く)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第36回】 「株式交付による持株会社への株式承継①(会社法・スキーム編)」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私は、ソフトウェアの製造・開発を営むL社の代表取締役Fです。L社は、私が15年前に創業した会社で、私が過半数の株式を保有し、残りを創業時からの役員・従業員5名が保有しています。 私は今年で60歳になりました。私が保有するL社株式は、5年ないし10年後を目途に長男に承継したいと考えていますが、創業メンバーである役員・従業員は、これを面白く思っていないようです。 〈L社の株主構成〉 当社の顧問税理士が、①定款に相続等による売渡請求の定めが存在すること、②業績好調で株価が上昇し続けることの2点を懸念しており、相続・事業承継対策としてL社の株式を法人で所有するように提案してくれています。法人には相続が発生せず、個人が保有する場合に比べ株価上昇も抑制しやすいとのことです。 顧問税理士の提案は、株式移転による持株会社X社の設立で、私を含むL社の株主全員がL社株式を譲り渡し、代わりにX社株式を保有することになるというものです。X社の定款に売渡請求を定めないことができる点と、今後の株価上昇が抑制できる点が気に入っているのですが、私の相続対策という私的な理由では他の株主の理解が得られそうにありません。 株式移転を行うには、L社の株主総会で特別決議の承認が必要になるようですが、他の株主から同意が得られない場合、私が保有する株式だけでも持株会社に移すことができないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 株式交付制度 株式交付制度とは、株式会社が他の株式会社を子会社(議決権の50%超を保有)とするために、子会社とする会社の株式を譲り受け、対価として自社の株式を交付する制度です。自社株式にあわせて金銭を交付する混合対価とすることも可能です。 自社株式を交付して株式を取得する会社を「株式交付親会社」、譲り受ける株式を発行している会社を「株式交付子会社」といいます(会2三十二の二、774の3①、会規3③一、4の2)。 〈株式交付制度〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」(経済産業省)の17頁の図を筆者加工。 株式交付制度は、令和元年12月4日に成立した「会社法の一部を改正する法律案」において創設され、令和3年3月1日に施行された会社法の新制度で、議決権割合が50%以下の会社を新たに議決権割合50%超の子会社にする場合に限り実施することが可能です。したがって、すでに議決権の50%超を保有している会社に対しては実施することができません(会2三十二の二、会規3③一、4の2)。 株式交付は、株式交換や株式移転と同様に、自社株式を対価として他の会社の子会社化を可能とする手法です。株式交換や株式移転は、全ての株主から株式を取得して完全子会社化することが前提であるのに対して、株式交付は、一部の株主との合意により過半数取得に足る株式だけを取得することが可能であり、会社法手続きの面でも使い勝手の良い制度となっています。 株式交換や株式移転により持株会社へ株式を移行する場合は、子会社となる会社(株式交換完全子会社、株式移転完全子会社)において株主総会の特別決議が必要となります。したがって、L社のようにオーナー経営者が株主総会の特別決議に必要な3分の2以上の議決権を有していない場合には、組織再編を行うための承認が得られない可能性がありますが、株式交付の場合は、株式交付子会社となるL社の株主総会決議が必要なく、F氏が保有する譲渡制限株式を持株会社Y社に譲渡することについて、取締役会の承認(※)が得られれば、F氏の保有するL社株式をY社に譲渡することが可能です。 (※) 株式交付子会社の定款で定めた機関による承認が必要となります。 〈株式交換・株式移転との比較〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [2] 結論 本事例においては、顧問税理士が提案した株式移転では、L社の株主総会において承認が得られない可能性がありますが、株式交付を活用すれば、他の株主の意思にかかわらず、F氏の保有するL社株式をF氏自身が新設する持株会社Y社に承継することが可能です。 F氏の保有株式をY社に承継することで、F氏と顧問税理士の懸念材料であった、①相続等による売渡請求、②株価上昇の抑制の2つの課題を解決することができますし、Y社への承継にあたってF氏に課税関係が生じることもありません(課税関係については【第37回】(②税務編)にて解説します)。 株式交付制度は、株式対価M&Aを促進するための措置として創設された制度ですが、会社法上の手続きや課税の繰延べ要件などのハードルが比較的低いこともあり、オーナー経営者の事業承継対策においても非常に使い勝手の良い制度といえるでしょう。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第9回】 「電子帳簿保存法と電子インボイス」 税理士 石川 幸恵 【Q】 国税庁ホームページで公表されている「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)」には次のような問があります。令和5年10月1日以降、インボイスも電子データでやり取りし、保存することができるのでしょうか。 令和4年1月1日の改正電子帳簿保存法の施行にあたり、消費税について注意点があれば、併せて教えてください。 〔ポイント〕 (1) 適格請求書発行事業者は適格請求書(インボイス)を電子データで提供することが可能です(新消法57の4①⑤)。 (2) 適格請求書を電子データにより受領した場合に、仕入税額控除の適用を受けるためには、電子データのまま、又は紙に印刷したものを保存します(インボイスQ&A問100)。 (3) 電子データにより受領した適格請求書を電子データで保存する場合は、電子帳簿保存上の保存方法と同様の方法となります(インボイスQ&A問100)。現在、公表されている情報によれば、上記の【回答】(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問14】の【回答】)のような方法により保存することが可能と思われますが、インボイス制度が開始されるまでに追加の情報が公表されるかもしれません。 (※) 電子帳簿保存法の定義(電帳法2三)では、「電子的方式、電磁的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式」を「電磁的方式」、「電磁的方式で作られる記録で電子計算機による情報処理の用に供されるもの」を「電磁的記録」としていますが、本稿ではわかりやすくするため、この「電磁的方式」と「電磁的記録」をいずれも「電子データ」と表現します。 * * * 【A】 (1) 適格請求書は電子データでの授受が可能 適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて、適格請求書に係る電子データを提供することもできます(インボイスQ&A問28)。電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問15】の「PDFの請求書」が適格請求書の記載事項を満たしていれば、適格請求書として認められます。 (2) 適格請求書を電子データにより受領した場合の仕入税額控除の適用を受けるための保存方法 ① データのまま保存 データのまま保存する場合は、真実性や可視性を確保するため、次の要件を満たす必要があります(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問14】、インボイスQ&A問100)。 ② 書面に印刷 整然とした形式及び明瞭な状態で印刷した書面を保存することも認められます(新消規15の5②、インボイスQ&A問83)。 (3) 区分記載請求書等保存方式(令和5年9月30日まで)での帳簿の記載及び請求書等の保存 ① 仕入税額控除の要件 消費税の仕入税額控除には、必要な事項が記載された帳簿及び請求書等(書面)の保存が必要ですが、取引金額が3万円未満の場合や、3万円以上でも書面での請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合には、帳簿のみを保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます(消法30⑦⑧)。 請求書等を電子データで受け取ったことは、「請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合」に該当します(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問4】)。このため、次の事項を追加で記載した帳簿を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます。 ② 書面に印刷も可 消費税法の仕入税額控除の要件としては、電子データで受け取った請求書等を書面に印刷して保存することも認められています(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問18】)。 (4) 法人税、申告所得税での電子取引の取扱い(参考) 電子取引とは、注文書や領収書等の内容を電子データで授受する取引をいいます。PDFの請求書が電子メールに添付されて送付されてくるのは、電子取引に含まれます(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問2】)。 令和3年12月31日までは、このようなPDFの請求書を印刷して保存することが認められていますが、令和3年度税制改正により、令和4年1月1日以降受け取ったPDFの請求書は電子データのままで保存しなければならなくなります(電帳法7、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問3】)。 なお、改正電子帳簿保存法の施行にあたり、「電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないか?」との懸念がありました。 これに対して、令和3年11月12日に、国税庁により「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」が公表され、その中の【補4】にて、取引情報の内容を書面などにより確認できるような場合には、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、経費として認められないということはないとの補足説明がなされています。 (了)