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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第33回】「100%親子会社間における資産の移動」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第33回】 「100%親子会社間における資産の移動」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 税理士 佐藤 達夫   相談内容 私は、金属加工業及び不動産賃貸業を営んでいるY社(非上場会社)の社長です。Y社の株式はX社が100%所有しており、X社の株式は私が100%所有しています。X社は私の資産管理会社となっています。 将来的にY社を息子に承継したいと考えていますが、将来的な業績の不透明感からY社をM&Aにより親族外へ売却することも選択肢の1つとして悩んでいます。 そこで、Y社の不動産賃貸業をX社へ移転させたいと考えていますが、Y社からX社へ賃貸不動産を移転させる手法としてどのような方法があるか、また、その留意点についてご教示ください。 【資本関係図】 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 会社分割 (1) 会社法 会社分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部(会2二十九、三十)」とされており、その対象を「事業」そのものに限定しておらず、特定の資産及び債務を承継することも可能です。 原則として、X社及びY社の株主総会の特別決議が必要です(会309②十二、783①、804①)。 また、債権者保護手続として、公告及び個別催告の期間として最低1ヶ月必要です(会789①二、810①二)。 (2) 税法 ① 分割法人(Y社) 会社分割が適格会社分割に該当する場合には、移転資産・負債に係る譲渡損益課税は生じず、帳簿価額による承継が可能です。 100%親子会社間での会社分割の場合、会社分割にあたって対価が発行されない無対価の会社分割を行うことが一般的です。この無対価の会社分割とは、次のすべての要件を満たす会社分割をいいます(法令4の3⑥二)。 ② 分割承継法人(X社) 移転を受ける資産の帳簿価額は、会社分割が適格会社分割に該当する場合には、分割法人の分割直前の帳簿価額になります(法法62の2④、法令123の3③)。 みなし共同事業要件(※)を満たさない会社分割で、分割法人(Y社)と分割承継法人(X社)との間の支配関係が、分割承継法人(X社)の会社分割を行った事業年度開始日の5年前の日等から継続していないときは、分割承継法人(X社)の会社分割を行った事業年度開始以後、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が課されます(法法57④、62の7①)。 (※) みなし共同事業要件は、会社分割が共同で事業を行うため、下記イ~ハまでのすべての要件又はイ及び二の要件を満たすことが求められています。    イ 事業関連性要件 ロ 事業規模要件 ハ 事業規模継続要件 二 特定役員要件 ただし、分割承継法人(X社)の支配関係発生日の属する事業年度の前事業年度末時点における時価純資産価額が簿価純資産価額以上あるなどの含み損益の特例計算の要件を充足する場合には、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が緩和されます(法令113①一、二、④、⑤、123の9①一、⑥~⑧)。 また、不動産移転コストは、次のとおりです。 (※) ただし、一定の要件を満たした場合には、不動産取得税が非課税となります。 一定の要件については、本連載の「【第27回】親族外承継における分割型分割の活用」の[2]不動産の移転コストをご参照ください。   [2] 現物配当 (1) 会社法 現物配当の対象となるのは、会社の財産に限定されます。 ただし、賃貸不動産に係る賃貸借契約や保証金・敷金返還債務は、現物配当に伴い親法人に承継されます(最高裁昭和33年9月18日判決、最高裁昭和44年7月17日判決)。 現物配当をする法人(Y社)の株主総会の決議が必要です(会454①、309②十)。 会社分割のような債権者保護手続として公告や個別催告は必要ありません。 また、分配可能額の範囲内で配当することが可能です(会461①八)。 (2) 税法 ① 現物配当をする法人(Y社) 次のすべての要件を満たす現物配当である場合には、現物配当資産の譲渡損益課税は生じず、帳簿価額による承継が可能です(法法2十二の十五)。 上記の要件を満たす現物配当については、配当に係る源泉所得税の徴収が不要です(所法24①)。 ② 現物配当を受ける法人(X社) 現物配当が上記①の要件を満たす場合には、配当金額の全額が益金不算入となります(法法62の5④)。 現物配当により受け入れた資産の帳簿価額は、現物配当をする法人の配当直前の帳簿価額を承継します(法令123の6①)。 現物配当をする法人(Y社)と現物配当を受ける法人(X社)との間の支配関係が、現物配当を受ける法人(X社)の現物配当の日の属する事業年度開始日の5年前の日等から継続していない場合には、現物配当を受ける法人(X社)の現物配当を受けた日の属する事業年度以後、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が課されます(法法57④、62の7①)。 ただし、現物配当を受ける法人(X社)の支配関係発生日の属する事業年度の前事業年度末時点における時価純資産価額が簿価純資産価額以上あるなどの含み損益の特例計算の要件を充足する場合には、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が緩和されます(法令113①一、二、④、⑤、123の9①、④~⑥)。 また、不動産移転コストは、次のとおりです。 (※) 会社分割と異なり、現物配当には不動産取得税の非課税規定はありません。   [3] 結論 100%親子会社間での資産の移動にあたっては、寄付という手法もありますが、将来的にY社を売却する可能性がある場合には、賃貸不動産の含み益がX社側でも実現する可能性があるため、お勧めしません。 ご相談の場合は、会社分割や現物配当の手法を用いることを検討することが良いと考えます。 両手法のポイントは次のとおりですが、賃貸不動産の数が少なく、短期間での資産移転を行いたい場合や、資産移転後にY社の売却の可能性がある場合には現物配当を選択することをお勧めします。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 435(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/09/09

金融・投資商品の税務Q&A 【Q67】「同族株主等が受領する社債利子に対する課税」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q67】 「同族株主等が受領する社債利子に対する課税」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 公社債の利子に対する課税の概要 (1) 特定公社債と一般公社債 内国法人が国内で発行した社債の利子については、その支払いの際に、原則として、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)で源泉徴収されます。 特定公社債の利子は、その金額にかかわらず、申告不要制度を適用して源泉徴収のみで課税関係を終了させることができますが、申告する場合には、上場株式等の配当所得等として申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となります。特定公社債の範囲については、【Q3】の「キーワード」をご参照ください。 一方、特定公社債に該当しない一般公社債の利子は、原則として、源泉分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となります。 したがって、特定公社債、一般公社債ともに、原則として、分離課税が適用され、総合課税の対象とはなりません。 (2) 同族会社の株主等が受領する一般公社債の利子に対する総合課税 一般公社債の利子であっても、同族会社の一定の株主等が受領する利子については分離課税の対象から除外され、総合課税されます。このような措置が講じられた背景としては、同族会社の株主の立場にある役員などが、その同族会社から支給される役員報酬に代えて、社債の利子として所得を得ることにより、本来は総合課税されるべき所得(すなわち給与所得)を分離課税の対象となる利子所得とすることが考えられます。このような税負担の軽減を図ることを目的とした所得の種類の変換に対応するために、この措置が設けられています。   2 総合課税の対象となる利子の範囲 総合課税の対象となる利子は、その支払いの確定した日において、下記に該当する者に対して支払われるものとされています。 また、令和3年度税制改正により、令和3年4月1日以後に支払いを受けるべき利子については、この総合課税の対象となる範囲が拡大され、利払いをする同族会社の直接の株主ではなく、特殊関係法人を通じて間接的にその同族会社を保有する個人が支払いを受けるものも含まれることになりました。特殊関係法人とは、判定の対象となる利子の受領者(対象者)との間に下記のいずれかの関係にある法人をいいます。 (※) 法人を支配している場合とは、発行済株式又は出資の総数又は総額の50%超、事業の全部若しくは重要な部分の譲渡など一定の決議に係る議決権の50%超を有する場合などをいいます。 【例】特殊関係法人が同族株主になる場合の総合課税 なお、総合課税の対象となる同族会社の株主等に対する利子は、源泉徴収される地方税(利子割)の対象とはなりませんので、支払いの際には、所得税及び復興特別所得税(15.315%)のみが課されます。   3 本件へのあてはめ 親族が経営する会社が発行した社債は、私募により発行されたものであるとのことですので、特定公社債には該当しないものと考えられます。また、当該会社が同族会社に該当するか否かを判定する際に、その判定の基礎となる株主に当該親族が含まれる場合には、分離課税の対象となる一般公社債にも該当しない可能性があります。 したがって、当該会社が同族会社に該当するか否か、当該親族がその判定の基礎となる同族株主に該当するか否かを確認し、これに該当する場合には、当該社債の利子は、総合課税の対象として、確定申告が必要となるものと考えられます。   (了)

#No. 435(掲載号)
#西川 真由美
2021/09/09

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第45回】「銀行からの住宅借入金と親族からの借入金がある場合」-住宅借入金等の意義-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第45回】 「銀行からの住宅借入金と親族からの借入金がある場合」 -住宅借入金等の意義-   税理士 大久保 昭佳   Q X(夫)とY(妻)は、9年程前から住んでいた共有の土地家屋を、本年4月に売却しましたが、多額の譲渡損失が発生したこともあり、売却代金の他に借入金を加えて買換資産を購入しました。 買換資産に係る借入金の内訳は、Xが銀行からの1,500万円及び父親からの500万円の計2,000万円、Yは母親からの2,000万円となっています。 その他の適用要件が具備されている場合、XとYは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることはできるでしょうか。 A Yは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができませんが、Xは金融機関からの住宅借入金があることから同特例を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」における「住宅借入金等」とは、住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又はその家屋の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるために、契約において償還期間又は賦払期間が10年以上の割賦償還又は割賦払の方法により返済することとされている次の借入金等をいいます(措法41の5⑦四、措令26の7⑫)。 したがって、本事例の場合、父母からの借入金は、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の対象となる借入金に該当しないことから、Yについては同特例の適用はありませんが、Xについては、銀行からの借入金が上記①の借入金に該当するため、特例の適用があることとなります。 (了)

#No. 435(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/09/09

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第5回】「審査請求を審理する国税不服審判所の特徴」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第5回】 「審査請求を審理する国税不服審判所の特徴」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 国税不服審判所の機能と目的 (1) 納税者の正当な権利利益の救済 国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行う機関であり、「納税者の正当な権利利益の救済」という目的を図るため、審査請求人と国税の賦課徴収を行う執行機関(税務署・国税局等)との間に立つ公正な第三者的立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行っている。 組織上は国税庁の特別の機関となっているが、これを機能面から見ると、国税庁長官の持つ権限のうちから、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に関する裁決権を分離し、その裁決権を国税不服審判所長に与え、執行権を行使する機関から独立した第三者的な立場を取る機関としての制度設計となっている。 (2) 税務行政の適正な運営の確保 また、国税不服審判所制度のもう1つの目的は、「税務行政の適正な運営の確保」に資することにある。 国税不服審判所長による裁決書は審査請求人のみならず課税庁(原処分庁)にも送達されるところ、課税庁が納税者に対して行った不利益処分を国税不服審判所長が取り消した場合、課税庁がその取消裁決を事後的に検証することによって、今後の税務調査を執行する上での教訓を汲み取ることが期待され、謙抑的な国家権力の執行という視点からも、そのようにすべきであろう。 このようにして、国税不服審判所は将来の税務行政(課税・徴収)を適正な方向に仕向ける作用(自己反省機能)を発揮している。   2 国税不服審判所の特色 (1) 執行機関からの独立 国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である課税庁(原処分庁)から分離・独立した機関として設けられている。 したがって、審査請求事件について審査請求人と原処分庁の双方の主張を聴き、必要に応じ自ら調査し、公正な第三者的立場で審理した上で裁決を行うことになる。 また、国税不服審判所長による裁決は税務行政部内の最終判断であり、仮に国税不服審判所長の裁決に不服があっても、原処分庁は訴訟を提起することはできない(納税者が裁決の後なお不服がある場合には、裁判所へ訴訟を提起することができる)。 (2) 国税庁長官通達に拘束されない ① 個別事案に即した法令解釈の余地 国税庁長官の発する法令解釈に関する通達は、税法が多数の納税者に対して適正、公平に適用されるようその解釈を具体的に示し、税務職員の職務執行の指針としているものであり、想定し得る事柄について適合するよう一般的な解釈や取扱いを定めている。 しかし、社会経済事象の進展を全て想定して通達することは不可能であり、納税者の特殊事情に応じた個別的、具体的事情を全て網羅できるものでもない。 そこで、国税不服審判所長は、裁決に当たっては、具体的な個別事案に即して独自に法令を解釈・適用することができるように、国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決を行うことができることとされている。 ② 行政判断の全国統一性との調和 しかし、このような場合、国税不服審判所長と執行機関である税務署長等とが、同一の法条について異なる解釈を行い、これによって税務行政が運営されることになれば実務に混乱をきたし、租税負担の公平という見地からも適当でない。 そこで、両者の調整を図るため、国税不服審判所長は、国税庁長官通達と異なる法令解釈により裁決をする場合や他の国税に係る処分を行う際における法令解釈の重要な先例となると認められる裁決をする場合には、あらかじめその意見を国税庁長官に通知することになっている。 国税不服審判所長の意見が審査請求人の主張を認容するものであり、かつ、国税庁長官がその意見を相当と認めるときは、そのまま裁決が行われるが、それ以外の場合には、国税不服審判所長と国税庁長官が共同して国税審議会に諮問し、国税不服審判所長は国税審議会の議決に基づいて裁決しなければならない。 ③ 国税庁長官からの機能的独立の発露 このように、行政判断の統一性を図るために一定の手続を必要とするものの、国税不服審判所長が、国税庁長官通達に拘束されずに裁決を行うことが可能であるという点が国税不服審判所制度の大きな特色であり、国税庁長官から機能的に独立していることの顕れである。 (3) 人事面の配慮 ① 国税審判官の資格は法令に規定されている 国税不服審判所の職員の多くは執行機関である国税局や税務署などからの任用(出向)であるが、国税審判官については、納税者の権利救済というその職責の重要性を考慮し、その資格が国税通則法施行令第31条において規定されており、「弁護士、税理士、公認会計士、大学の教授若しくは准教授、裁判官又は検察官の職にあった経歴を有する者で、国税に関する学識経験を有するもの」と定められている。 そのため、人的構成面からの裁決の公正性、適正性を確保するため、国税審判官等の一部に税務部外の人材を登用し、令和2年4月1日現在で65名(※1)が在籍している。 (※1) 国税不服審判所「国税不服審判所の50年」38頁参照。 ② 国税職員以外の登用者 特に歴代の国税不服審判所本部所長、東京国税不服審判所長、大阪国税不服審判所長及び法規・審査担当など枢要なポストには、裁判官又は検察官の職にあった者を任用している。 また、近年の経済取引の国際化、広域化等により、複雑・困難なものとなっている審査請求事件を適正かつ迅速に処理するため、民間の高度な専門知識・経験・ノウハウが必要であると考え、平成19年から、弁護土、税理士、公認会計士及び大学の教授又は准教授など、高度な専門知識等を有する民間専門家を国税審判官として公募し採用している。 (4) 争点主義的運営 不服申立てに係る審理の対象の範囲については以下の2つの考え方があり、判例及び訟務実務としては①の総額主義であるとされている。 国税不服審判所が納税者の権利救済機関であることを踏まえると、税務調査によって論点とならなかった事項(争点外事項)を掘り起こすのでは必ずしも適当ではない。 そこで、国税不服審判所は、原処分の適否について新たに行う調査は争点及び争点関連事項の範囲にとどめ、争点外事項については原則として新たな調査を行わないという調査・審理方針である「争点主義的運営」を採用している。 国税不服審判所創設時の制度設計、そして、設立後には大阪国税不服審判所の(実質的な)初代の審理部部長審判官として理論的支柱を担った南博方氏は、国税不服審判所が「争点主義的運営」を調査・審理の基本方針とするのは、以下の理由によるものと述べている(※2)。 (※2) 南博方「租税争訟の理論と実際(増補版)」(弘文堂・1980年)58~59頁。 (了)

#No. 435(掲載号)
#大橋 誠一
2021/09/09

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第61回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第61回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (5) 法人税基本通達2-1-1の11注書 法人税基本通達2-1-1の11は、資産の販売等に係る契約の対価について、値引き等の事実(値引き、値増し、割戻しその他の事実をいい、貸倒れ又は買戻しの可能性に基づく事実を除く)により、変動する可能性がある部分の金額(変動対価)がある場合の取扱いを定めている。例えば、値引き等をする、値増金を受け取る可能性がある場合の取扱いをどうするかという問題である。 具体的には、資産の販売等に係る契約の対価について、変動対価がある場合において、所定の要件を満たすときは、一定の合理的に算定される変動対価につき、法人税法22条の2第1項の引渡日又は役務提供日あるいは第2項の近接日の属する事業年度(引渡し等事業年度)の確定した決算において収益の額を減額又は増額して経理した金額は、引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映することを定めている(本連載第47回参照)。 この法人税基本通達2-1-1の11の注書は、次のとおり、法人税法施行令18条の2の取扱いに関して留意的に明らかにしている(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」32頁参照。ただし図表は筆者作成)。 本通達の注書の内容を順に確認する。まず、本通達の(注)1である。 資産の販売等に係る収益の額を引渡し等事業年度の収益の額として益金の額に算入した場合に、その後の事業年度において変動対価の見積りに変動があった場合の取扱いでは、その事業年度末時点において変動対価が確定していない場合においても、その見積りに変動があったときは、修正経理を行った事業年度において収益の修正をすることが可能である(法令18の2①~③)。 この(注)1は、その際、修正後の金額が税法上の「時価」にならない場合には、法人税法施行令18条の2第3項の適用により変動対価の額が確定した事業年度において変動額を所得の金額の計算に反映することを留意的に明らかにしている。 次に本通達の(注)2である。 この(注)2においては、法人税法施行令18条の2第1項の修正経理は、単なる収益の計上漏れについて引渡し等事業年度後の事業年度の受入れ経理を認めるものではなく、単なる収益の計上漏れは引渡し等事業年度の収益となることを留意的に明らかにしている。 裁判例でも、「単なる計上漏れのように、本来の事業年度で計上すべきであった損益を、後の事業年度において、前期損益修正として計上するような処理を公正処理基準に該当するものとして認めることはできないといわざるを得ない」(東京地裁平成27年9月25日判決)などと説明されている。   (了)

#No. 435(掲載号)
#泉 絢也
2021/09/09

収益認識会計基準を学ぶ 【第12回】「履行義務への取引価格の配分と取引価格の変動」

収益認識会計基準を学ぶ 【第12回】 「履行義務への取引価格の配分と取引価格の変動」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 収益認識会計基準の5つのステップの4番目は、契約における履行義務に取引価格を配分することである(収益認識会計基準17項(4))。 今回は、履行義務への取引価格の配分と取引価格の変動について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 履行義務への取引価格の配分 それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行う(収益認識会計基準65項)。 それぞれの履行義務への取引価格の配分は、契約において約束した別個の財又はサービスの独立販売価格の比率に基づいて行う(収益認識会計基準17項(4)、66項。ただし、収益認識会計基準70項(値引きの配分)から73項(変動対価の配分)の定めを適用する場合を除く)。 独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積もることになる(収益認識会計基準17項(4)、69項)。 当該見積方法には、例えば、次の①から③の方法がある(収益認識適用指針31項から33項、収益認識適用指針129項、130項)。 契約に単一の履行義務しかない場合には、収益認識会計基準68項から73項の定めを適用しない(収益認識会計基準67項)。   Ⅲ 独立販売価格に基づく配分 1 独立販売価格の比率 財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき取引価格を配分する際には、契約におけるそれぞれの履行義務の基礎となる別個の財又はサービスについて、契約における取引開始日の独立販売価格を算定し、取引価格を当該独立販売価格の比率に基づき配分する(収益認識会計基準68項)。 「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格である(収益認識会計基準9項)。 2 独立販売価格を直接観察できない場合 財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合には、市場の状況、企業固有の要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、観察可能な入力数値を最大限利用して、独立販売価格を見積もる。類似の状況においては、見積方法を首尾一貫して適用する(収益認識会計基準69項)。 独立販売価格の最善の見積りは、企業が同様の状況において独立して類似の顧客に財又はサービスを販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格である。財又はサービスの契約上の価格や定価は、当該財又はサービスの独立販売価格となる場合があるが、そのように推定されるわけではない(収益認識会計基準146項)。 独立販売価格を直接観察できない場合には、収益認識会計基準65項の定めと整合するような取引価格の配分となる独立販売価格を見積もる(収益認識会計基準146項)。 3 値引きの配分 契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には、契約における財又はサービスの束について顧客に「値引き」を行っているものとして扱われる(収益認識会計基準70項) 値引きは、契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分する(収益認識会計基準70項)。 ただし、次の①から③の要件のすべてを満たす場合には、契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし、すべてではない)に値引きを配分する(収益認識会計基準71項、147項)。 4 変動対価の配分 次の①及び②の要件のいずれも満たす場合には、変動対価及びその事後的な変動のすべてを、1つの履行義務あるいは収益認識会計基準32項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービスに配分する(収益認識会計基準72項、148項)。 なお、収益認識会計基準72項の要件(上記①及び②)を満たさない残りの取引価格については、収益認識会計基準65項から71項の定めに従って配分する(収益認識会計基準73項)。   Ⅳ 取引価格の変動 1 概要 取引価格は、契約における取引開始日後にさまざまな理由で変動する可能性がある(収益認識会計基準149項)。 取引価格の事後的な変動については、契約における取引開始日後の独立販売価格の変動を考慮せず、契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分する(収益認識会計基準74項)。 取引価格の事後的な変動のうち、すでに充足した履行義務に配分された額については、取引価格が変動した期の収益の額を修正する(収益認識会計基準74項)。 2 取引価格の変動の配分 収益認識会計基準72項(変動対価の配分)の要件のいずれも満たす場合には、取引価格の変動のすべてについて、次の①又は②のいずれかに配分する(収益認識会計基準75項)。 3 会計処理 契約変更によって生じる取引価格の変動は、収益認識会計基準28項から31項に従って処理する(収益認識会計基準76項)。 契約変更が収益認識会計基準30項の要件を満たさず、独立した契約として処理されない場合(収益認識会計基準31項)、当該契約変更を行った後に生じる取引価格の変動について、収益認識会計基準74項及び75項の定めに従って、次の①又は②のいずれかの方法で配分する。   (了)

#No. 435(掲載号)
#阿部 光成
2021/09/09

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第18回】「改正公益通報者保護法とハラスメント」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第18回】 「改正公益通報者保護法とハラスメント」   弁護士 柳田 忍   【Question】 2022年6月までに施行される予定の改正公益通報者保護法においては、一定の事業主に対して、いわゆる内部通報に対応するための体制を整備する義務が課されたと聞きました。当社にはハラスメント事案に関する相談窓口がありますが、当該相談窓口に寄せられた相談についても改正公益通報者保護法の対象になるのでしょうか。 また、ハラスメント事案の取扱いについて、改正公益通報者保護法上、注意すべき点があれば教えてください。 【Answer】 暴行や脅迫、被害者の自殺などを伴うハラスメントについては改正公益通報者保護法の対象事実の通報となり得ます。よって、企業は、通報を受けたハラスメント事案が改正公益通報者保護法の対象事実に該当する可能性があることを前提に、ハラスメント防止体制の見直しなどを行う必要があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 改正公益通報者保護法の概要 公益通報者保護法は、事業者内部の者からの公益通報(以下「内部公益通報」という)を通じた法令違反行為の発生の防止等を目的に2004年に制定されたが、同法施行後も重大な企業不祥事が相次いで発生したことから、2020年6月8日、改正公益通報者保護法(以下「改正法」という)が制定され、事業者に対して、内部公益通報に適切に対応するために必要な措置等をとることが義務づけられることになった(※1)。同法は2022年6月までに施行される予定であるが、これに先立ち、2021年8月20日に事業者がとるべき措置の具体的な内容を示した指針(改正法11条4項)(以下「指針」という)(※2)が公表された。 (※1) 常時使用する労働者300人以下の企業は努力義務。 (※2) 消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)」。 公益通報者保護法は、一定の対象事実(以下「通報対象事実」という)に関する内部公益通報を対象とするものであるが、一部のハラスメントは通報対象事実に該当する。 そこで、以下において、どのようなハラスメントが公益通報者保護法の対象となるかを説明し、指針において示された措置に関して、ハラスメントとの関係で特に注意すべき点について、消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書」(※3)(以下「報告書」という)等をもとに論ずるものとする。 (※3) 消費者庁が開催する「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」が2021年4月に公表した報告書。指針は同検討会における審議結果を踏まえて策定された。   2 「通報対象事実」とハラスメント 改正法は、公益通報者保護法の別表に定める法律(刑法等)において、罰則(刑事罰、過料)(※4)の対象となり得る行為のみを通報対象事実としている(改正法2条3項1号)。 (※4) 現行法においては、通報対象事実は刑事罰の対象となる行為に限定されている。 ハラスメント行為は、原則として人格的利益の侵害として民事上違法となるにとどまるが、パワーハラスメントが暴行や脅迫を伴うものである場合には、刑法の暴行罪(刑法208条)や脅迫罪(刑法222条)の通報として、また、セクシャルハラスメントが暴行や脅迫を伴うものであれば、強制わいせつ罪(刑法176条)等の通報として、通報対象事実の通報となる。また、自殺の結果を伴う重大なハラスメントについては、暴行・脅迫等に該当しないとしても、業務上過失致死傷罪(刑法211条)の構成要件に該当する場合はあり、同罪の通報対象事実の通報となり得る(※5)。 (※5) 山本隆司他「解説 改正公益通報者保護法」130頁脚注86及び131頁脚注87(弘文堂、2021年)   3 指針の概要とハラスメント事案における主なポイント (1) 「公益通報対応業務従事者」の定め(指針第3) 企業は、「公益通報対応業務従事者」を定める義務を負う(改正法11条1項)。 「公益通報対応業務従事者」(以下「従事者」という)とは、内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口(以下「内部公益通報受付窓口」という)において受け付ける内部公益通報に関して、内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置をとる業務(以下「公益通報対応業務」という)を行う者を指す(改正法11条1項)。もっとも、内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う者でなければ「従事者」には該当しない(例えば、社内調査等におけるヒアリングの対象者などは「従事者」に該当しない)(報告書第1の1(1)・6頁、第2の1・20頁)。 改正法は、従事者又は従事者であった者に対し、公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者を特定させる事項(公益通報者を排他的に認識できる事項)を、正当な理由なく漏らしてはならないとの守秘義務を課したうえで、これに違反した従事者への刑事罰を定めている(改正法12条、21条)。ここでいう「正当な理由」とは、通報者から同意を得られている場合や、法令に基づく場合、調査等に必要である範囲の従事者間で情報共有する場合等が想定されている(報告書第2の1・19頁)。 このように、「従事者」は罰則適用のリスクに晒されることになるが、従業員をかかるリスクから守るために、事業者外部(外部委託先等)の者を従事者として指定することが考えられる。弁護士を従事者として指定することも考えられるが、顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とする場合は、以下の点に留意する必要がある(報告書第1の1(2)イ・11頁)。 ハラスメント行為にかかる内部公益通報については、従事者が調査や是正措置等を実施する過程において、被害者が誰であるかを関係者に開示せざるを得ない。この点、ハラスメント事案においては、一般に、被害者と公益通報者とが同一人物であることが多いことから、被害者が誰かを開示するということは、すなわち、公益通報者が誰であるかを推認させることを意味する。このような場合にも、従事者が公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者を特定させる情報を漏らしたと評価され、刑事罰の対象とされるのであれば、従事者による適正な調査や是正措置等の実施の妨げになるおそれがある。 そこで、ハラスメントが公益通報に該当する場合等において、公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進めるうえで、公益通報者の排他的な特定を避けることが著しく困難であり、当該調査等が法令違反の是正等に当たってやむを得ないものである場合には、「正当な理由」が認められると解されている(報告書第2の1・19頁)。 ハラスメント事案については、被害者からの通報内容等を関係者や加害者に共有することについて被害者の同意が得られないことを理由に調査等が行われないケースがしばしば見られるが、上記は、被害者(通報者)の同意が得られないままに関係者に通報内容等を共有することを正当化するものである。すなわち、上記のような場合には、被害者(通報者)の同意を得られなかったという事情は調査等を実施しないことの正当化事由にはならない可能性がある点に留意する必要がある。 (2) 内部公益通報受付窓口の設置等(指針第4の1(1)) 企業は、内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定めなければならない。 内部公益通報受付窓口が他の通報窓口(ハラスメント通報・相談窓口等)を兼ねることは可能であるため(報告書第1の1(1)ア・7頁)、ハラスメント防止措置として既に設置済みの相談窓口において内部公益通報を受け付けることも可能である。実際、通報者が通報の段階で、通報しようとするハラスメント行為が通報対象事実に該当するのか否かを判断することは困難であることから、通報対象事実たるハラスメント行為の通報とそれ以外のハラスメント行為の通報を同じ窓口で受け付けざるを得ないことになろう。 もっとも、上記のとおり、窓口担当者や調査担当者等は、「従事者」として通報対象事実の取扱いについて罰則適用のリスクを負担しながら業務を遂行することになるため、通報を受け付けたハラスメント事案が通報対象事実に該当するか否かを極力早い段階で判断するといった窓口運営等を行うことにより、窓口担当者や調査担当者等の負担を軽減することが望ましい。 また、社内の従業員のみならず、退職者や役員も利用できるものでなければ「内部公益通報受付窓口」には該当しない点について、注意が必要である。 (3) 範囲外共有等の防止に関する措置(指針第4の2(2)) 企業は、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有すること(範囲外共有)等の防止に関する措置を実施する義務を負う。公益通報者が、自らが公益通報したことを他者に知られることをおそれて公的通報を躊躇する事態を防ぐためである(報告書第1の2(2)・12頁)。 特に、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者が同一の事案においては、公益通報者を特定させる事項を共有する際に、被害者の心情にも配慮しつつ、書面によるなど同意の有無について誤解のないよう、当該公益通報者から同意を得ることが望ましいとされている(報告書第1の2(2)・13頁)。 すなわち、上記のとおり、ハラスメント事案においては被害者が誰であるかが多くの関係者に知れ渡ることになり、また、一般に、被害者=通報者であることが多いと認識されていることから、調査等の過程において公益通報者が特定される可能性があることなどを被害者(通報者)に説明したうえで、被害者(通報者)の同意を取得するべきであるということになろう(被害者の同意を得る際に説明すべきその他の事項としては、拙稿第5回参照)。   4 結語 以上の点に注意しつつ、企業においては、ハラスメント防止体制等について、再度確認を行うなどすべきである。 (了)

#No. 435(掲載号)
#柳田 忍
2021/09/09

〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第21回】「令和3年民法改正(不動産登記法)の影響」

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第21回】 「令和3年民法改正(不動産登記法)の影響」   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 川上 邦久   〔質 問〕 ①令和3年民法改正(不動産登記法)(以下「令和3年改正」といいます)の概要を教えてください。 ②令和3年改正による改正事項で、契約実務に影響するものはありますか。 ③令和3年改正による改正事項で、他に税理士業務に影響するものはありますか。 〔回 答〕 ①基本的には、いわゆる「所有者不明土地問題」に対処するための改正ですが、実際の改正の内容は、それだけに留まらず、共有制度や相続制度に大きな影響のある改正となっています。 ②共有制度が見直され、「共有者全員の同意」を得ることなく、「持分価格の過半数の同意」でできることが具体化されました。 ③相続制度が見直され、相続開始から10年が経過した後は、遺産分割にあたって、寄与分や特別受益の主張ができないものとされました。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 令和3年民法改正(不動産登記法)の概要 近年、相続登記・住所変更登記がなされないことなどが原因で、不動産登記を見ても所有者が判明しない、あるいは所有者に連絡することができない不動産が増加している(平成29年度に国土交通省が実施した調査結果によれば、筆数を基準として約22.2%の土地がこのような状態にあったということである)。 このような不動産については、そもそも取引価値の乏しい不動産であることが多く、所有者による管理がなされないことで、不動産そのものの荒廃(災害時の被害拡大、環境・治安悪化)を生じさせていることや、用地買収や民間取引の際の障害となっていることが、社会問題として指摘されてきた。 令和3年改正は、基本的には、上述したいわゆる「所有者不明土地問題」に対処するために行われた改正である。 その主な中身は、①遺産分割における具体的相続分の期間制限、②相続登記の義務化、③住所等の変更登記の義務化であり、これらはいずれも、相続登記・住所変更登記がなされないことによる「所有者不明土地問題」に直接的に対処するものになっている。 ところが、改正の中身全体を見ると、単に「所有者不明土地問題」という事態に限定することなく、一般的な形で、基本法である民法を改正するものになっており、共有制度や相続制度への影響が大きいものと考えられている。 令和3年改正については、最短のもので、公布の日(令和3年4月28日)から2年以内に施行されるとされており、実際の施行はまだ先(未定)となっているが、契約実務、税理士業務への影響を押さえておいていただくことが有益である。   2 契約実務に影響する改正事項 令和3年改正による改正事項は多岐にわたるが、中でも契約実務への影響が特に大きい制度変更として、共有制度の見直しが挙げられる。 令和3年改正では、「共有関係の解消」に関する規定の見直しもなされているが、本稿では、税理士業務の中でも頻繁に登場するものと思われ、特に契約実務への影響が大きいと思われる「共有物の変更・管理」に関する規定の見直しについて取り上げる。 現行法では、共有物については、民法249条から264条までの規定があり、共有物の変更・管理については、以下の規定が置かれている。 【改正前民法】 令和3年改正においても、①変更行為(共有者全員の同意が必要)、②管理行為(持分価格の過半数の同意が必要)、③保存行為(他の共有者の同意を得ることなく各共有者で可能)という、現行法の基本的な枠組みは維持されている。 令和3年改正のポイントは、「共有者全員の同意」を得ることなく、「持分価格の過半数の同意」でできることを具体化したところにある。 第一に、現行法の下では、変更行為の意義及び範囲について明文化されておらず、変更行為にあたるかどうかが明らかでないので、争いがある場合には、共有者全員の同意を得るために本来必要とは思われない譲歩を強いられる、あるいは変更行為自体を断念せざるを得ない、という問題があった。 そこで、令和3年改正では、共有物の変更行為のうち、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(いわゆる軽微変更)については、持分価格の過半数で行うことができるとされた(令和3年改正による改正後の民法(以下「改正後民法」という)251条1項括弧書き及び同法252条1項)。 これでも不明確な部分は残るものの、変更行為を実施しようとする共有者としては、より理論武装をしやすくなったものと考えられる(なお、所在不明の共有者がいる場合は、裁判所の許可を得て、その共有者を除いた共有者全員の同意により変更行為を実施できるようにするという制度も導入された)。 【改正後民法】 第二に、現行法では、①共有物を事実上使用する共有者がいる場合に、他の共有者に共有物を使用させようとするとき、②既に決定された利用方法を変更しようとするときには、共有者全員の同意が必要という見解が有力であり、このような場合に、共有者全員の同意(特に現に共有物を使用している共有者の同意)が得られずに断念せざるを得ない、という問題があった(この問題についてのリーディングケースである昭和41年5月19日最高裁判例でも、現に共有物を使用している共有者に共有物の明渡しを求めるために、何を主張立証すればよいのかが不明確であった)。 そこで、令和3年改正では、共有物を現に使用している共有者がいる場合でも、「共有物の管理に関する事項」として、共有物の利用方法を、原則として持分価格の過半数で決められることが明確にされた(改正後民法252条1項後段)。 そのうえで、既に共有者間で決定された利用方法に基づいて利用している共有者の保護としては、例外的に「特別の影響を及ぼすべきとき」に限り、その共有者の承諾を得る必要があるものとされた(改正後民法252条3項)。 現行法の下では、共有持分を有していれば、共有物の明渡しを求められることは基本的にないと考えることができたが、令和3年改正の施行後は、持分価格の過半数を有する共有者から明渡しを求められる可能性が高まることに、留意する必要がある。 【改正後民法】 第三に、現行法でも、共有物への使用権の設定は、基本的に持分価格の過半数で決められると考えられていたが(昭和39年1月23日最高裁判例)、設定できる使用権の内容については、借地借家法の適用のある借地権や普通借家権を設定することはできない等、ある程度の共通認識はあったものの、必ずしも明確ではなかった。 そこで、令和3年改正では、民法602条の短期賃貸借の上限期間を超えない使用権であれば、原則として持分価格の過半数で設定することができることが明確にされた(改正後民法252条4項)。 【改正後民法】   3 その他税理士業務に影響する改正事項 令和3年改正による改正事項で、その他に税理士業務への影響の大きいものとしては、相続手続に関する改正が挙げられる。 すなわち、相続開始から10年が経過した後(ただし、改正民法施行時に相続開始から10年経過しているものは施行日から5年が経過した後)は、遺産分割にあたって、寄与分や特別受益の主張ができないものとされた(改正後民法904条の3)。 これは、特に相続開始から長期間が経過している相続について、寄与分や特別受益に関するやり取りが遺産分割を困難にしているという認識のもと、遺産分割が成立せずに相続登記がなされないという事態を解消するために導入された規定である。 令和3年改正の施行後は、この規定も念頭に置いたうえで、長期間遺産分割が未了の相続について、いつまでに法的手続に移行する必要があるかを判断する必要がある。 (了)

#No. 435(掲載号)
#川上 邦久
2021/09/09

《速報解説》 各府省庁からの令和4年度税制改正要望が取りまとめられる~各特例措置の延長の他、コロナ禍受け「地方拠点強化税制」は要件緩和の要望も~

《速報解説》 各府省庁からの令和4年度税制改正要望が取りまとめられる ~各特例措置の延長の他、コロナ禍受け「地方拠点強化税制」は要件緩和の要望も~   Profession Journal編集部   昨年はコロナ禍の影響で1ヶ月遅れたが、今年は例年通りの日程で来年度(令和4年度)に向けた各府省庁からの税制改正要望が取りまとめられた。 ここ数年は経済活性化を目的に新たな税制措置を要望している経済産業省だが、今回の要望では、制度スタートと同時期にコロナ禍となった「オープンイノベーション促進税制(措法66の13)」や「5G投資促進税制(措法42の12の6)」が来年3月で適用期限を迎えるため一部要件の見直しと2年延長を要望しているほか、交際費課税の特例措置(措法61の4)、中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)について2年延長等を要望している。また、具体的な要望は見られないが、事業承継税制(法人版・個人版)については、「コロナ禍の影響も含め、事業承継の実施状況や本税制の活用状況等を踏まえ、法人版・個人版事業承継税制における円滑な事業承継の実施のための措置について」の検討を要望している。さらにG20/OECDにおけるデジタル課税の国際的な合意に向けた対応として下記の要望が示されており、令和5年度以降の改正を含めた動向について注視が必要と言える。 経産省からは他に、印紙税のあり方の検討(近年の電子取引の増大等を踏まえ、制度の根幹からあり方を検討)や、子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国際的な租税回避への対応の見直し(日本企業の海外での健全な事業活動に過度な負担が及ぶことがないよう本税制の趣旨やビジネス実態を踏まえた所要の見直し)、企業の生産性を向上させる事業再編を円滑化するための所要の措置として「グループ通算制度における、グループ通算子法人のグループ離脱時の取り扱い等について、制度の施行状況や組織再編税制との整合性等を踏まえ、中期的に必要な検討」を行うことが要望されている。 次に国土交通省からは、年末に適用期限を迎える住宅ローン控除(措法41)、住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置(措法70の2)等について「住宅投資の波及効果に鑑み、(中略)新型コロナウイルス感染症拡大及びまん延防止のための措置等による影響を含めた今後の経済情勢等を踏まえ、2050年カーボンニュートラルの実現等を図る観点も含め、必要な検討を行い、所要の措置を講じる」よう要望されており、具体的な改正の中身については年末にかけての議論で明らかになる模様。また、住宅リフォーム(耐震・バリアフリー・省エネ・多世帯同居・長期優良住宅)をした場合の特例措置(ローン型・投資型)についてもそれぞれ年末で適用期限が到来することから、2年延長と一部要件の見直しが要望されている(固定資産税の特例も同様)。その他、居住用財産の買換え特例(譲渡益の課税繰延べ、譲渡損の繰越控除等)の2年延長や、所有者不明土地対策として「ランドバンクが取得する土地等に係る特例措置の創設(登録免許税・不動産取得税)」が要望事項として示されている。 内閣府からは、国家戦略特区、国際戦略総合特区に係る各特例措置や沖縄振興に関する各施策の延長等の他、コロナ禍を受け本社機能の地方移転を行う企業を後押しするため「地方拠点強化税制(オフィス減税(税額控除又は特別償却)・雇用促進税制の特例(税額控除))」の2年延長及び、「感染症の影響によるビジネス環境や企業動向の変化等を踏まえた適用要件の緩和等の拡充」が要望されている。地方移転の検討を進めている企業にとって注目の改正と言えよう。コロナへの対応としては他に、令和3年度改正で延長された「特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税(新型コロナ税特法11)」について、特別貸付けが延長された場合は当該期限まで延長することが要望事項として掲げられている。 既報のとおり「金融所得課税の一体化に関する研究会」より7月に公表された「論点整理」では、デリバティブ取引への損益通算の範囲拡大に向け、まずは有価証券市場デリバティブ取引について損益通算の対象としていくことが適切とされ、また租税回避のための施策案が提示されているが、今回の金融庁からの要望事項では、この論点整理に準じた要望がなされている(他には「上場株式等の相続税に係る見直し」や「生命保険料控除の拡充」等)。 全体として適用期限をむかえる各特例措置の延長要望が多く、新制度創設や抜本的な見直しは少ないと言えるが、ここ数年の与党大綱では、「相続税と贈与税の一体化(資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築)」や「小規模宅地等の特例措置(節税を目的とした駆け込み的な適用等の防止)」、「教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(次の適用期限の到来時に制度の廃止も含め改めて検討)」など今後の検討事項とされているものが特に資産税関係に多く、与党税制調査会での年末に向けた議論の動向には注視が必要と言えよう。 (了)

#No. 434(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/09/06
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