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事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第20回】「公務員との会食と経営トップの問題意識」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第20回】 「公務員との会食と経営トップの問題意識」   弁護士 原 正雄   1 本件問題の発覚とその後の経緯 TS社は1986年に衛星放送事業を開始し、以後その業容を拡大してきた。2002年にJASDAQスタンダード市場に上場し、衛星放送業界全体の発展にも尽力してきた。 ところが、2021年2月4日発売の週刊誌で、TS社の役職員が総務省職員との間で国家公務員倫理規程違反となる会食をしていたとの報道がなされた。TS社と総務省に疑惑の目が向けられ、国会で連日質問がなされることとなった。さらにTS社が放送法の定める外資規制に抵触したままBS4K放送(左旋)の認定を受けたという問題も発覚した。 その結果、総務省では、会食に参加した職員11名が処分された。TS社でも、関係役員等に解任等の処分が下された。さらにTS社は、BS4K放送(左旋)の認定(当時は子会社が承継)を取り消されるに至った。 TS社は特別調査委員会(以下「委員会」という)を設置し、2021年5月24日、上記問題についての調査報告書を公表した。また、総務省も、2021年6月4日、「検証結果報告書(第一次)」を公表した。 そこで、これらの報告書を参考に、報道等も参照しつつ、コンプライアンスとガバナンスの観点から本件について検討する。   2 会食について (1) 会食の状況と、国家公務員倫理規程への違反 TS社では、K執行役員が総務省との窓口を担っており、総務省職員との会食のほとんどを設定していた。そこにTS社の他の役職員が参加することがあり、父親が内閣官房長官を務めていたS統括部長も参加することがあった。 委員会の調査によれば、K執行役員が総務省職員に個別具体的な相談や依頼を行った事実は確認できなかった。S統括部長も同様であった。 ただ、会食を繰り返し設定し、費用も負担していたことから、総務省との会食は単なる情報交換を超えて、昼間の打合せ等では得られない情報を取得するなどの目的があったと疑われる可能性があった。また、親族が有力な政治家である役職員を参加させたことは、当該親族との関係を用いて業務上の便宜を得ようとしたとの疑念を持たれる可能性があった。 こうした会食は、国家公務員倫理規程3条1項6号が禁止する「利害関係者から供応接待を受けること」などに抵触するものであった。そのため、委員会は、コンプライアンス上重大な問題があったと結論付けた。総務省も11名の職員を処分した。 (2) 国家公務員倫理規程違反の認識 会食に参加したTS社の役職員は「TS社が費用を負担しての総務省職員との会食はコンプライアンス上望ましくない」という認識は持っていた。 それにもかかわらず総務省職員との会食に参加したのは、以前から慣行として問題なく行われており、総務省職員も誘いを断らずに会食に応じているため、特に問題ないと考えたからとのことであった。 会食の参加者は、社内で共有されるスケジュールに「総務省」等と記載しており、総務省職員との会食を隠そうともしていなかった。TS社の役職員は、総務省職員との会食のリスクを過小評価していた。 (3) 公務員との会食についてのルールの不存在 TS社の役職員が総務省職員との会食のリスクを過小評価していたことの一因に、TS社が公務員との関係について規程等を定めていなかったという事実がある。グループ行動規範で「贈り物の授受や接待・被接待については、頻度・金額とも合理的かつ法令はもとより社会通念上妥当と認められる範囲で行います」と定めてはいたが、これは相手方が公務員かどうかを問うものではなかった。 また、国家公務員倫理規程に関する研修等も行われたことがなかった。 (4) チェックがされていなかった ルールがない以上は当然であるが、TS社では、公務員との会食についてのチェックもされていなかった。 会食の交際費については「使用報告書」に会食の相手を記載して上席者の決裁承認を得なければならなかったが、この報告書は経理上の記録を残すためのものであった。そのため、出席者に公務員が含まれているかの確認はされていなかった。 また、内部監査室は、会食について、飲食費の多寡、報告書の作成の有無等を確認していたが、国家公務員倫理規程を意識したうえでの内部監査は行っていなかった。 さらに、会食について内部通報窓口に通報がなされたこともなかった。 (5) 原因~経営トップの問題意識の欠如 TS社は全体として総務省職員との会食のリスクを正しく理解できていなかった。 その根本的な原因は、経営トップに国家公務員倫理規程違反を避けるべきとの基本的な法令遵守の意識が欠如していたことにあった。当時の社長は、K執行役員が会食を通じて総務省職員との人間関係を継続深化させることをむしろ評価していた。 TS社は監査等委員会設置会社である。そのため、こうした場合、経営トップを監督監査して問題点を指摘するのは、監査等委員会の役割である。 ただ、TS社では監査等委員会に社外取締役が3名いたが、この3名はいずれも放送メディア業界出身であって他業種の経験は有していなかった。そのため、異なる業種等の視点を持てず、総務省職員との会食について明確な問題意識を持てずにいたようである。結果として、監査等委員会も、経営トップに対する問題点の指摘には至らなかった。   3 外資規制への抵触 (1) 外資規制に抵触した状況での認定 外国株主が議決権の20%以上を保有している場合、放送法上の外資規制により、その事業者は基幹放送業務の認定を受けることができない。 2016年10月17日当時、TS社では、外国株主の議決権が20%を超過していた。ただ、TS社で申請手続を担当したT氏は、放送法を正しく理解していなかった。TS社は、放送法が定める欠格事由はないと考え、総務省にBS4K放送(左旋)の認定を申請した。 2017年1月24日、TS社は、外資規制に抵触していて本来は認定を受けることができないのに、総務省からBS4K放送(左旋)の認定を受けた。 (2) 外資規制への抵触に気付かなかった原因 衛星放送事業者である以上、放送法の正しい理解は必要不可欠であるが、TS社では、申請手続の担当者に対して放送法の研修を受ける機会を与えておらず、マニュアル等も作成していなかった。また、申請手続の担当は1名だけで、複数人でチェックする体制はなく、他部署が関与する仕組みもなかった。 TS社は、放送法の重要性を正しく理解できていなかった。その根本的な原因は、経営トップが上述のとおり総務省との会食を通じての人間関係の構築を重要視するあまり、個別法令の重要性に思いが至らなかった点にあると解する。 なお、TS社では監査等委員会に放送メディア業界出身の社外取締役が3名いたとのことだが、放送法に関するチェック体制の不備までは確認できなかったようである。 (3) 外資規制への抵触の事実の把握と、総務省への報告 BS4K放送(左旋)の認定を受けてから約半年が経過した2017年8月4日、TS社は衛星基幹放送事業の認定に関する手続を準備する中で、外資規制への抵触に気付いた。 TS社は、新たに100%子会社を設立し、TS社が有するBS4K放送(左旋)の認定をその子会社に承継させることで、外資規制への抵触を回避することにした。 TS社は、K執行役員を通じて、総務省の課長に、外資規制に抵触するおそれがあることや承継のスキームについて口頭で報告した。また、同月18日、K執行役員は改めて総務省を訪問し、総務省側から「4Kの承継を速やかにやってほしい」旨の要請を受けた。 なお、こうした総務省への報告・相談の際にS統括部長が関与した記録はないとのことである。 上記に対して、2021年3月、衆議院予算委員会で総務省の課長は、外資規制への抵触について報告を受けた記憶は全くない旨を答弁している。 しかし、委員会は、当時の資料やメール等を分析した結果、TS社が総務省に外資規制抵触を報告したことや、外資規制抵触を前提とした子会社への認定の承継を報告・相談をしたことについて「認定することが合理的である」としている。 また、総務省の報告書も、最初に報告を受けた日時や、最初に報告を受けた職員が誰かなどについては他の可能性も否定できないとしつつ、総務省の一部職員が外資規制抵触を認識していた可能性は高いと認定している。 (4) 外資規制抵触の判明後の総務省職員との会食と、子会社への認定の承継 外資規制抵触が判明した直後の2017年8月28日、K執行役員は、総務省の課長と会食を行った。これは外資規制抵触の判明前から日程が決まっていたものではあった。ただ、会食ではプロ野球の話が盛り上がり、同課長に東京ドームのシートのチケットを譲ることとなり、後日、TS社が同課長にチケットを交付している。 その会食とチケット交付から2週間後の同年9月11日、TS社は総務省に対して、子会社にBS4K放送(左旋)の認定を承継させる旨の認可申請書を提出した。 その申請から約2週間後の同月27日、K執行役員は、総務省の官房審議官(情報流通行政局担当)と会食をした。 その会食から約2週間後の同年10月14日、総務省は上記申請を認可し、当該子会社はTS社からBS4K放送(左旋)の認定を承継した。 (5) 外資規制抵触の判明後の会食についての評価 当時のメールのやり取りには、外資規制に関する記載は確認できなかったようである。また、当時、TS社は、総務省から認定の取消しを示唆されていたわけではない。そのため、TS社において、認定の取消しを避けるために総務省に不当な働きかけを行う強い必要性があったわけではないようである。 しかし、会食当時、TS社が認定の承継の準備や手続を進めていたことは事実である。そのため、当該会食で認定の承継に関する話題が一切なされなかったとは考え難く、認定の承継が話題に上って会話がされたと考えるのが自然というのが委員会の考えである。少なくとも上記会食の際に、昼間の打合せ等では得ることのできない情報を取得するなどの目的があったと疑われる可能性があったとしている。 また、プロ野球チケットを交付したことについて、委員会は「この時期・相手に対して、そのような対応をすることが、第三者から不当な働きかけの対価と評価される可能性があることに全く思い至らなかった点は軽率に過ぎ、当委員会としても驚きを禁じ得ない」としている。 以上から、委員会は、上記会食及びプロ野球チケットの交付について「国家公務員倫理法令に照らし、コンプライアンス上重大な問題がある」と結論付けている。 また、総務省の報告書は、会食やチケット交付によって行政が歪められたことは確認できないとしている。TS社から子会社への承継が認可されたのは、政策推進のためになるとの自己正当化が理由であった可能性が高いとする。ただ、それら会食やチケット交付が国民の行政に対する信頼を著しく損なうものであったことは明らか、とも指摘している。   4 まとめ 本件の経緯を全体としてみると、TS社は会社全体として、国家公務員倫理規程や放送法の重要性を理解していなかったことが分かる。TS社は、法令よりも行政との人間関係を重視していた。その結果、不当な会食を繰り返して国家公務員倫理規程違反を重ね、かつ、放送法違反に気付かずに外資規制抵触という問題を起こし、その問題が継続している最中においてさえも総務省職員との間で会食を実施してしまった。 コンプライアンスの確立においては、コンプライアンス担当部門をはじめ現場の各部署における意識付けや仕組み作り、ルール作りが重要である。ただ、それらは、経営トップの高いコンプライアンス意識があって初めて成立する。経営トップのコンプライアンス意識が低ければ、会社としてコンプライアンス体制を構築することは不可能である。本件では経営トップが問題意識を持てずにいた。 そこで、経営トップのコンプライアンス意識に問題がある場合、ガバナンスの観点から、社外取締役が経営トップに問題を指摘し、是正を求めなければならなかった。ところが、本件では、社外取締役の全員が業界出身で、行政との会食が「業界の常識、世間の非常識」であることに気付かず、経営トップと同様に問題意識を持てずにいた。また、放送法のチェック体制の不備については、業界出身者として放送法に一定の知識を有していたものの問題に気付かずにいた。 本件は、コンプライアンスの実現は経営トップの意識があって初めて実現できるという事実を示している。また、ガバナンスを担う社外取締役がコンプライアンス実現の最後の砦であるという事実も示している。こうした事実をそれぞれ反対の方向から示す事例として参考になる。 (了)

#No. 442(掲載号)
#原 正雄
2021/10/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例64】メディアスホールディングス株式会社「株主総会決議を超過する監査役報酬の支払について」(2021.8.27)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例64】 メディアスホールディングス株式会社 「株主総会決議を超過する監査役報酬の支払について」 (2021.8.27)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、メディアスホールディングス株式会社(以下「メディアス」という)が2021年8月27日に開示した「株主総会決議を超過する監査役報酬の支払について」である。タイトルどおり、株主総会で承認された額を超えた監査役報酬が支払われていたという内容である。分配可能額を超えた配当が支払われていたという開示は時折目にするが、こうした開示を目にすることはなかなかない。 ちなみに同社は現在東証一部上場で、来年の4月に予定されている市場再編後の市場はプライム市場を選択するとしている(2021年7月13日に「新市場区分『プライム市場』適合に関するお知らせ」、同年9月17日に「(開示事項の経過)新市場区分『プライム市場』選択に関するお知らせ」を開示)。   2 なぜ気付かなかったのか? 今回の開示の「株主総会決議による監査役報酬の上限枠」は次のように記載されている。 監査役が3名だったときに株主総会で監査役の報酬額は年額50,000千円以内と決められていたのだが、その後、監査役が6名に増え、50,000千円を上回る報酬を支払ってしまっていたのである。「監査役体制の強化に伴い」監査役を増員した結果、こうした事態が生じたというのは何とも皮肉な話である。 しかし、それにしても、メディアスの第11期有価証券報告書の「役員の報酬等」には、「2010年9月22日開催の第1期定時株主総会において、(中略)監査役の報酬限度額は年額50,000千円以内とする旨を決議いただいております」という記載があったうえで、「監査役の報酬については、監査役の協議に基づき個別報酬を決定しております」と記載されている。 なぜ監査役の方々は気付かなかったのだろうか(ちなみに監査役6名のうち2名は弁護士)。分配可能額を超えた配当については、「他が確認していると思っていた」といった言い訳が為されるのだが(成り立たない言い訳だが)、この件については、「ぼーっとしてました」としか言いようがないだろう。   3 外部からはわからない 株主総会で承認された額を超えた監査役報酬の支払いは、2019年6月期から2021年6月期まで3期にわたって行われていた。有価証券報告書の「役員の報酬等」には役員に対する報酬の総額が記載されるため、「そんなこと、誰かがすぐに気付くのでは?」と思われるかもしれないが、関係者以外が気付くのは難しい(配当額が分配可能額を超えているか否かは、関係者以外でも、開示されている情報から確認することができるが)。 有価証券報告書の「役員の報酬等」には取締役や監査役それぞれに対する報酬の総額が記載されるのだが、社外取締役と社外監査役に対する報酬の総額は、合わせて「社外役員」に対する報酬の総額として記載されるため(企業内容等の開示に関する内閣府令・第2号様式・記載上の注意(57)、第3号様式・記載上の注意(38))、監査役(社内監査役+社外監査役)に対する報酬の総額は外部からわからないのである(すべての役員に対する報酬の総額が、株主総会で承認された役員報酬額の総額を超過していれば、支払いの超過があることに気付けるが)。   4 返還してもらうとのことだが 今回の開示の「今後の対応」は次のように記載されている。 「報酬限度額を超過した部分」は監査役から返還してもらうとのことだが、おそらく今後の株主総会で「年額50,000千円以内」よりも大きな額を承認してもらったうえで(「上限枠の適正な金額設定について今後検討」とあるし)、また監査役に返還することになるのだろう。 なお、再発防止のための「監査役報酬の決定プロセス」とは、どのようなものになるのだろうか。監査役報酬の決定を監査役以外の者が確認するのだろうか。もしもそうだとしたら、監査役として情けないと言わざるを得ないだろう。   5 他にもたくさん? 冒頭でこうした開示を目にすることはなかなかないと述べたのだが、実は最近立て続けに目にしている。メディアスの開示の少し前の2021年7月29日に前澤工業株式会社が「株主総会決議を超過する社外取締役報酬の支払について」を開示している。これは、社外取締役に対する報酬額が株主総会での承認額を超えていたという内容である。おそらく、現在の株主総会での承認額に気付かずに、社外取締役を増やした分、報酬額を増やしたのだろう。もしかすると、メディアスはこの開示を見て、「もしかしたら」と思い、確認して気付いたのかもしれない。 また、メディアスの少し後の2021年9月24日には株式会社ビーブレイクシステムズが「株主総会決議を超過する社外監査役報酬の支払いについて」を開示している。これは、社外監査役に対する報酬額が株主総会での承認額を超えていたという内容だが、こちらは、メディアスの開示を見て、「もしかしたら」と思ったのだろうか。 株主総会で承認された額を超えて役員に報酬を支払ってしまうというような事例は極めて稀であるように思われるのだが、こう立て続けに目にしてしまうと、「他にもたくさんあるのでは?」と思えてきてしまう。もしかすると、この後、同様の「株主総会決議を超過する~報酬の支払いについて」といった開示がぞろぞろと出てくるかもしれない。 (了)

#No. 442(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/10/28

《速報解説》 国税庁、令和3年度税制改正を踏まえ「短期退職手当等Q&A」を公表~令和4年以後の退職手当等の算定方法について、13問の質疑応答事例を掲載~

 《速報解説》 国税庁、令和3年度税制改正を踏まえ 「短期退職手当等Q&A」を公表 ~令和4年以後の退職手当等の算定方法について、13問の質疑応答事例を掲載~   公認会計士・税理士 新名 貴則   令和3年度税制改正において退職所得課税の適正化が行われ、「短期退職手当等」が導入されたことを受け、国税庁は令和3年10月8日、「短期退職手当等Q&A」を公表した。 以下では、その内容について解説する。   ① 短期退職手当等の概要 平成24年度税制改正において導入された「特定役員退職手当等」に該当して税負担が増加することを避ける目的で、あえて役員等に就任せずに短期間で高額の退職金を受け取るようなケースに対応するため、令和3年度税制改正において「短期退職手当等」が導入された。 具体的には、役員でない従業員が、5年以下の勤続年数に対して高額の退職金を受け取る場合等が該当する。 「短期退職手当等」に該当する場合、退職所得金額の算定において、退職金の額から退職所得控除額を控除した残額のうち、300万円を超える部分については「2分の1」を乗じないこととされた。 この改正は、令和4年分以後の所得税について適用される。   ②「短期退職手当等Q&A」について 令和3年度税制改正により、退職手当等は「特定役員退職手当等」、「短期退職手当等」及びそれら以外の「一般退職手当等」に分類されることになった。今回公表されたQ&Aでは、改正法適用後に実務上生じると考えられる、次のような疑問点を挙げて解説している。 【Q2】 (※) 原則として退職日によって判断するため、改正前の法令の適用となる。 【Q3】 (※) 勤続期間のうちに役員等として勤務した期間がある場合は、これも含めて5年以下か否かを判定する。 【Q4】 【Q5】 【Q6】 【Q7】 【Q8】 【Q9】 【Q10】 【Q11】 【Q12】 【Q13】 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 441(掲載号)
#新名 貴則
2021/10/22

プロフェッションジャーナル No.441が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年10月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.441を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/10/21

日本の企業税制 【第96回】「賃上げを行う企業への税制支援」

日本の企業税制 【第96回】 「賃上げを行う企業への税制支援」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   岸田総理は、10月8日の所信表明演説において、「働く人への分配機能の強化」の一環として、「労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業への税制支援を抜本強化します」と述べた。 これを契機として、令和4年度税制改正における、賃上げを行う企業への税制支援策について関心が高まっている。 既存の税制としていわゆる所得拡大促進税制があり、令和3年度税制改正で見直しが行われたばかりであるが、まずはこの制度の創設からの経緯を振り返ってみたい。   〇平成25年度税制改正(創設) この制度は、平成25年度税制改正において、当時の経済情勢等を踏まえつつ、「成長と富の創出の好循環」を実現し、「強い経済」を取り戻すため、個人所得の拡大を図り、所得水準の改善を通じた消費喚起による需要の回復をもって経済成長を達成するため、企業の労働分配(給与等支給)の増加を促す措置として、創設され、給与等支給額を増加させた場合におけるその増加額の一定割合の税額控除を可能とすることとされた。 具体的には、法人の平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度における雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額(3月決算法人の場合平成24年度の雇用者給与等支給額)に対する割合が5%以上である場合において、次の要件を満たすときは、その雇用者給与等支給増加額の10%相当額の税額控除ができるというものであった。 なお、雇用促進税制の適用を受ける事業年度等は、この制度の適用を受けることはできないこととされていた。   〇平成26年度税制改正 「消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について(平成25年10 月1日閣議決定)」において、「「政・労・使」の連携による経済の好循環の実現」として、企業収益の拡大が賃金の上昇や雇用の拡大につながり、消費の拡大や投資の増加を通じて更なる企業収益の拡大に結び付くという好循環を実現していくため、「企業による賃金引上げの取組を強力に促進するため、与党税制改正大綱に基づき平成25年度税制改正で創設した所得拡大促進税制を拡充する」とされたことから、この制度について、計画的・段階的に賃上げをしていく企業を支援する仕組みに改めるとともに、企業の従業員構成の多様性に対応する要件緩和を行うこととされるとともに、制度の適用期限が平成30年3月31日まで2年延長された。 具体的には、次のとおり、要件の見直しが行われた。   〇平成27年度・28年度税制改正 平成27年度税制改正では、企業の賃上げへの動き出しを一層強く後押しするための対応として、次の事業年度における雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合(増加促進割合)に係る要件が次のとおり引き下げられた。 平成28年度税制改正では、本制度と雇用促進税制との重複適用禁止措置が廃止され、同一事業年度において本制度と雇用促進税制の両方を適用することができることとされた。   〇平成30年度・令和2年度税制改正 政府は、「新しい経済政策パッケージ(平成29年12月8日閣議決定)」の中で、「人づくり革命」と「生産性革命」とをその克服に向けた車の両輪として位置づけ、これを断行することとし、2020年までを「生産性革命・集中投資期間」として、大胆な税制等により、①労働生産性(1人あたり、1時間あたりの実質 GDP)の年2%向上、②対2016年度比で日本の設備投資額を10%増加、③2018年度以降3%以上の賃上げ、といった目標の達成を目指すこととされた。この一環として「賃上げ及び投資の促進に係る税制(※)」により実質的な税負担割合を25%まで引き下げることとされた。 (※) 平成25年度税制改正において創設され、その後累次の改正が行われてきた所得拡大促進税制が平成30年3月末に適用期限を迎えることから、これを「賃上げ及び投資の促進に係る税制」として、改組された。 主たる適用要件が、基準年度(平成24年度)比の給与総額の増加要件から前年度比の給与水準の増加要件へと変更され、企業の賃金引上げをより後押しする一方、大法人にあっては一定以上の国内設備投資が求められるとともに、基準年度からの給与総額の増加額ではなく、前年度からの給与総額の増加額に対して一定の税額控除ができる制度とされた。さらに、大法人の税額控除限度額が法人税額の20%(改正前:10%)相当額まで引き上げられ、実質的な税負担の軽減がより図られた。 具体的には、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に開始する各事業年度において、次の①及び②の要件を満たすとき(その法人の雇用者給与等支給額がその比較雇用者給与等支給額以下である場合を除く)は、その雇用者給与等支給額からその比較雇用者給与等支給額を控除した金額の15%(その事業年度において次の③の要件を満たす場合には、20%)相当額の税額控除ができることとされた。 令和2年度税制改正では、上記②の要件が90%から95%に引き上げられた。   〇令和3年度税制改正 平成30年度税制改正において改組された制度が適用期限を迎えた令和3年度税制改正では、コロナ感染症の拡大という困難な状況を踏まえ、雇用や生活を支えながら成長分野への円滑な労働移動とそのために必要な人材投資を促すとともに、新卒者等を巡る就職環境が厳しい中、第二の就職氷河期を作らないといった観点から、適用要件等が見直され、人材確保・人材育成に着目した税制へと改組された。 具体的には、適用要件について、従前の「継続雇用者」に対する給与等の支給額の増加率から、「新規雇用者」に対する給与等の支給額の増加率へ変更する等の見直しを行うとともに、国内設備投資額についての要件を撤廃し、また、税額控除割合の基礎として、これまでの「雇用者」に対する給与等の支給額の増加額から、「新規雇用者」に対する給与等の支給額へ見直した上で、教育訓練費を前期比一定程度増加させる場合には、税額控除割合を5%上乗せするとの見直しが行われた。 (了)

#No. 441(掲載号)
#小畑 良晴
2021/10/21

〔令和3年度税制改正における〕繰越欠損金の控除上限の特例の創設 【第1回】「特例制度の概要」

〔令和3年度税制改正における〕 繰越欠損金の控除上限の特例の創設 【第1回】 「特例制度の概要」   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   1 はじめに 平成23年度の税制改正では、課税ベース拡大の一環として資本金1億円超の大法人に係る繰越欠損金の控除限度額が、所得の100%から80%(現在は50%)に制限されることとなった。 一方、コロナ禍の厳しい経営環境の中で、赤字企業でもポストコロナに向けて、事業再構築等に取り組んでいくことが必要との認識の下、令和3年度税制改正では、こうした経営改革に果敢に挑む企業に対し、繰越欠損金の控除上限の引上げ措置が講じられた。 そこで本稿では、令和3年度税制改正により創設された繰越欠損金の控除上限の特例について2回にわたって解説する。 まず、今回の【第1回】では特例制度全体を確認し、次回の【第2回】では特例の適用に当たって必要となる産業競争力強化法の認定手続について解説する。   2 概要 本特例は、産業競争力強化法に新たな計画認定制度を創設した上で、事業再構築等に向けた投資内容を含む事業計画を事業所管大臣が認定し、認定を受けた法人について、コロナ禍に生じた欠損金を対象に、最長5事業年度の間、控除上限を投資の実行金額の範囲内で最大100%に引き上げるものである。 〈投資額と控除上限の関係のイメージ〉 (出典) 経済産業省「「繰越欠損金の控除上限」の特例ガイドライン」p2より。 具体的には、青色申告書を提出する法人で認定事業適応法人の適用事業年度において繰越欠損金の控除の規定(法法57①)を適用する場合において、欠損金額のうちに特例欠損事業年度において生じたものがあるときは、繰越控除の限度額が、所得金額の50%相当額に超過控除対象額に相当する金額を加算した金額となる(措法66の11の4①)。 (1) 認定事業適応法人 本特例は、改正産業競争力強化法の認定を受けることが前提となる。認定事業適応法人とは、産業競争力強化法の施行日(令和3年8月2日)から同日以後1年を経過する日までの間に認定を受けた認定事業適応事業者をいう。認定事業適応事業者とは、認定事業適応計画に従って実施される成長発展事業適応を行う事業者をいう。なお、産業競争力強化法の認定手続について詳しくは次回を参照いただきたい。 (2) 適用事業年度 適用事業年度とは、認定事業適応計画に記載された実施時期内の日を含む各事業年度で、次に掲げる要件の全てを満たすものをいう。 (※1) 経済社会情勢の著しい変化に対応して行うものとして主務大臣が定める基準に適合するものであることを確認した旨の表示がある産業競争力強化法の認定書(様式第18の2)に添付された確認申請書の写しに特例事業年度として記載された事業年度で、当該写しを保存することにより証明がされたもの(措規22の12の2①)。 (※2) 特例事業年度とは、令和2年4月1日から令和3年4月1日までの期間内の日を含む事業年度において新型コロナウイルス感染症の影響により青色欠損金額が生じた一又は二の事業年度をいう。ただし、令和2年2月1日から同年3月31日までの間に終了した事業年度において新型コロナウイルス感染症の影響により青色欠損金額が生じた場合において、一定の要件に該当するときは、その要件に該当する最初の事業年度及びその翌事業年度を特例事業年度とすることができる。 〈適用事業年度の例〉 (3) 特例欠損事業年度 特例欠損事業年度とは、特例事業年度において生じた欠損金額のうちに超過控除対象額(下記(4)参照)がある場合における当該特例事業年度をいう(措法66の11の4②)。 (4) 超過控除対象額 超過控除対象額とは、次に掲げる金額のうち最も少ない金額をいう(措法66の11の4②)。 (※1) 適用事業年度に係る適合証明書(様式18の20)に特例対象投資累積額(認定事業適応計画の開始の日(改正産業競争力強化法施行日を含む事業年度中に開始する認定事業適応計画については、当該事業年度開始の日又は令和3年3月31日のいずれか遅い日とすることも可)から5年を経過する日までの間に、認定事業適応計画に従って投資をした額の累積額)として記載された金額(適用事業年度の確定申告書等に適合証明書の写しの添付がある場合における当該金額に限る)。 (※2) 超過控除対象額の過去使用額は、適用事業年度前の事業年度で本特例の適用を受けた超過控除対象額の合計額となる。 (※3) 超過控除対象額の当期使用額は、適用事業年度における超過控除対象額を算出しようとする特例事業年度前の各特例事業年度において生じた欠損金額に係る超過控除対象額の合計額となる。 (5) 手続 本特例は、確定申告書等に超過控除対象額及び超過控除対象額の計算に関する明細書(別表7(1)及び7(1)付表5)の添付がある場合に限り適用される(措法66の11の4④)。また、適合証明書の写しを添付する必要がある(措規22の12の2②)。   -計算例- 上記を前提に、以下の①及び②における欠損金の繰越控除額を算出する。 ① 令和5年3月期 ⅰ 令和3年3月期に生じた欠損金1,000 (ア) 特例事業年度の欠損金額の残額 1,000 -(0 + 1,800 × 50%)= 100 (イ) 累積投資残額 600 -(0+0)= 600 (ウ) 所得金額による制限額 1,800 × 50% - 0 = 900 (エ) (ア)~(ウ)の最小金額:100(超過控除対象額) ⅱ 令和4年3月期に生じた欠損金1,000 (ア) 特例事業年度の欠損金額の残額 1,000 -(0 + 0)= 1,000 (イ) 累積投資残額 600 -(0 + 100)= 500 (ウ) 所得金額による制限額 1,800 × 50% - 100 = 800 (エ) (ア)~(ウ)の最小金額:500(超過控除対象額) ➡ 令和5年3月期においては、控除前所得金額1,800に対し、当該金額の50%相当額である900の他、上記 ⅰ 100及び上記 ⅱ 500の計1,500の欠損金の繰越控除が行われる(欠損金額の残高は500(令和4年3月期発生分))。 ② 令和6年3月期 ⅰ 令和4年3月期に生じた欠損金1,000のうち500 (ア) 特例事業年度の欠損金額の残額 1,000 -(500 + 800 × 50%)= 100 (イ) 累積投資残額 800 -(600 + 0)= 200 (ウ) 所得金額による制限額 800 × 50% - 0 = 400 (エ) (ア)~(ウ)の最小金額:100(超過控除対象額) ➡ 令和6年3月期においては、控除前所得金額800に対し、当該金額の50%相当額である400の他、上記 ⅰ 100の計500の欠損金の繰越控除が行われる(欠損金額の残高は0)。   (了)

#No. 441(掲載号)
#安積 健
2021/10/21

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第31回】「役員貸付金の解消方法としての貸倒損失」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第31回】 「役員貸付金の解消方法としての貸倒損失」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員貸付金の存在 中小企業において役員貸付金が存在する場合、金融機関は時として冷ややかに対応するといわれる。というのも、役員貸付金が存在する場合には、金融機関はその内部格付けを行うための定量分析において、当該役員貸付金を事実上、回収可能性のない資産と評価する場合があり、各財務数値に悪影響を及ぼすという可能性があるからだ。また、税務上においても、無利息の貸付金が存在することで役員に対する経済的利益の供与とされないために(※1)、いわゆる認定利息の利率設定等が問題となるだろう。 (※1) 役員に対する経済的利益の供与については、【第9回】参照。 したがって、役員貸付金の解消は中小企業にとって大きな課題の1つであるといえるが、役員貸付金の解消方法としては、以下の諸方法が一般論として説かれている。 これらの方法は適正に運用する限り、大きな税務上のリスクがあるわけではない。それぞれ一長一短とされるが、中小企業を顧客とする実務の現場ではセオリーといえる対応だろう。 ここで、仮に役員に返済能力がなかった場合、役員貸付金を貸倒損失として計上し、損金算入を行うという方法はどうだろうか。元代表者に対する貸倒損失を損金算入とした場合について争われ、結果として損金算入が認められたイレギュラーな事例があるので、以下に紹介する。   (2) 元代表者に対して貸倒損失を計上し、損金算入したことが認められた事例(※2) (※2) 東京地裁平成25年10月3日判決(税務訴訟資料263号順号12301、TAINS:Z263-12301)。 役員貸付金を貸倒損失として損金算入することは、かなりの無理筋であるという感覚が、一般的な実務感覚として正常であると思われる。 地裁が引用した興銀事件最高裁判決は、貸倒損失が損金算入される要件として、「当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解され」、「その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならない」が、そのためには、 を踏まえ、「社会通念に従って総合的に判断されるべきものである」として社会通念基準を示している(※3)。 (※3) 最高裁平成16年12月24日判決(税務訴訟資料254号順号9877、TAINS:Z254-9877)。評釈として、品川芳宣「興銀判決とそれが貸倒処理に及ぼす影響」TKC税研情報14巻(2005)3号58頁等がある。 本件地裁においても社会通念基準に沿って事実認定を行っているが、地裁が認定した事実として特筆すべき事項は以下の通りである。 本件地裁は上記の事情がありながら合理性を有すると判断したのであるが、興銀事件を引用している以上、債権者側の事情について同族会社特有ともいえる事情について合理性を認めた地裁判決には違和感があるといわざるを得ない(※4)。 (※4) 東京地裁平成25年10月3日判決について事実認定の粗略さ等を指摘した上で、元代表者との訴訟に関しても作為性を感じるとし、貸倒れ判定に合理性が認められないという指摘として、渡辺充「元代表者に対する貸付金等の回収可能性」速報税理33巻(2014)28号31頁がある。 すなわち、債務者の返済能力等がないことにより貸倒損失の損金算入について実務上検討する場合、通常は、法人税基本通達9-6-2の「その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」に該当するかどうかを検討することとなり、事実認定について悩むこととなる。この点、同通達と上記社会通念基準について、「回収不能かどうかは第一義的には債務者側の事情により判断する」とした上で、「債務者側の事情のみでは回収不能かどうかを判断することができない事情があるかどうかも個別具体の事例に即して慎重に見極める必要がある」という解説がある(※5)。 (※5) 高橋正朗編著『法人税基本通達逐条解説(十訂版)』(税務研究会出版局、2021)1072頁。なお、興銀事件判決後、国税庁はHP上に「平成16年12月24日最高裁判決を踏まえた金銭債権の貸倒損失の損金算入に係る事前照会について」を掲載し、興銀事件判決を受けて一般納税者からの問い合わせに事前照会として対応する旨を明らかにした。 このように考えると、東京地裁平成25年10月3日判決の判断は、貸倒損失の対象が中小企業特有といえる役員貸付金であったため社会通念基準により債権者側の事情を確認したが、地裁が行った事実認定は合理性に欠けると評価するべきだと考えられる。 したがって、役員貸付金に係る貸倒損失について損金算入を検討する場合、同族会社特有といえる事情があったとしても、今回紹介した事例のように是認されるとはいい難く、社会通念上妥当な状況となることは考えにくいため、通常は困難といえるのではないだろうか。 このように、役員貸付金を貸倒損失として損金算入することはかなりの無理筋であるといえる。個人的には、役員貸付金が存在する時点で経営として正しい判断なのだろうかと疑問を抱くが、税理士としては、役員貸付金が発生しないようにクライアントに助言することが最優先であり、その解消についても貸倒損失まで検討しないためにアドバイスするべきであるといえよう。   (3) その他 このように、役員が個人的に費消したり、役員個人の借入金を返済したりするために会社が金員を貸し付けるという行為は、中小企業特有の事情であるといえるが、そもそもこれらの行為は、会社法356条1項2号の利益相反取引となり、株主総会や取締役会で承認を得ることが必要な場合があるため留意が必要である。 また、役員貸付金について貸倒損失を計上した場合、役員側にとっては経済的利益の供与、すなわち賞与として取り扱われる可能性も確認しておきたい。いわゆる倉敷青果荷受組合事件(※6)は、理事長に対して行った債務免除益について、賞与に該当し源泉徴収義務があるか否かについて争われた事例である。 (※6) 最高裁平成27年10月8日判決(税務訴訟資料265号順号12733、TAINS:Z265-12733)。その後、差戻控訴審後の最高裁判決にて確定している。 最高裁は、納税者が債務免除に応じた事情としてその貢献に対する評価があったとし、「理事長が納税者に対し雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として、納税者から功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付とみるのが相当である。したがって、本件債務免除益は、所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当するものというべきである」としている(※7)。 (※7) 債務免除を受けた理事長が社団に多大な迷惑をかけた事情に鑑み、一時所得に当たるとする指摘として、金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019)244頁がある。 したがって、仮に役員貸付金に対して貸倒損失を計上する場合、源泉徴収義務についても検討することは必要であるといえよう。 (了)

#No. 441(掲載号)
#中尾 隼大
2021/10/21

基礎から身につく組織再編税制 【第33回】「適格分割を行った場合の繰越欠損金の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第33回】 「適格分割を行った場合の繰越欠損金の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格分割を行った場合の繰越欠損金の取扱いについて解説します。   1 繰越欠損金の引継ぎ 適格合併の場合には、原則として、被合併法人の未処理欠損金額は合併法人に引き継がれますが、適格分割の場合は、分割法人の未処理欠損金額は分割承継法人に引き継がれません。   2 分割承継法人の繰越欠損金額の使用制限 (1) 内容 適格分割の場合、分割法人の資産は簿価で引き継がれるため、その含み損益は分割承継法人に移転します。そのため、引き継いだ資産の譲渡により含み益を実現させ、分割承継法人の欠損金を使用することが可能となります。そのような租税回避を防止するために、分割承継法人の欠損金については一定の使用制限が課されています。 完全支配関係又は支配関係がある適格分割のうち、次のいずれにも該当しない適格分割については、分割承継法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 (2) みなし共同事業要件 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 なお、みなし共同事業要件については、本連載の【第35回】で詳しく解説します。   3 繰越欠損金の使用制限の対象金額 (1) 内容 分割承継法人の繰越欠損金額について使用制限が課された場合には、次の繰越欠損金額を使用することができません(法法57④、法令112⑤⑪)。 (※) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額については、前9年内事業年度とされています。 制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 (2) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、支配関係事業年度開始の日において分割承継法人が有していた資産の譲渡損失等のことをいいます。なお、特定資産譲渡等損失額については、次回詳しく解説します。   4 時価評価した場合の特例 (1) 内容 分割承継法人において、含み益が生じている資産を多額に有しており、かつ、欠損金が生じているケースでは、仮に含み益を実現させれば、欠損金のうち含み益部分は自社で利用することが可能であり、租税回避とはいえないため、欠損金を制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113)。 (2) 時価純資産超過額 「時価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)を超える場合のその超える部分の金額をいいます。 (3) 簿価純資産超過額 「簿価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)に満たない場合のその満たない部分の金額をいいます。 (4) 時価純資産超過額がある場合の特例 分割承継法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額以上の場合には、欠損金の制限はありません。 分割承継法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、支配関係前欠損金額のうち、その満たない部分の金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 (5) 簿価純資産超過額がある場合の特例 簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後に生じた特定資産譲渡等損失額に満たない場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額については、全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、簿価純資産超過額のみ制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   5 事業の移転がない場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格分割の場合には、移転資産の含み益に対応する欠損金の使用を制限すれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、事業の移転がない場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、欠損金の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、移転資産の含み益に相当する金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 移転資産の含み益が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額を超える場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額については、全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、移転資産の含み益から支配関係前欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 今回詳しく説明できなかった「特定資産譲渡等損失額」及び「みなし共同事業要件」については、次回以降で解説します。   ◆適格分割があった場合の繰越欠損金の取扱いのポイント◆ 合併と違い、分割法人の欠損金は引き継ぎません。 租税回避防止のため、分割承継法人の欠損金について使用制限規定が設けられています。 欠損金の制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 適格合併と違い、欠損金の制限対象金額の計算には、事業の移転がない場合の特例が設けられています。   (了)

#No. 441(掲載号)
#川瀬 裕太
2021/10/21

相続税の実務問答 【第64回】「検認を受けずに開封してしまった自筆証書遺言による遺贈」

相続税の実務問答 【第64回】 「検認を受けずに開封してしまった自筆証書遺言による遺贈」   税理士 梶野 研二   [答] 相続人が遺言書を発見した場合には、開封せずに、遅滞なく家庭裁判所に提出し、その検認を受けなければなりません。しかしながら、検認を受ける前に誤って遺言書を開封したとしても、そのことによって遺言が無効になることはありません。 叔父様の遺言が有効なものであれば、あなたは、遺贈によりAゴルフ倶楽部の会員権を取得することとなりますので、相続税が課税されることとなります。 なお、開封してしまった遺言書は、速やかに家庭裁判所に提出して、その検認を受けてください。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺言書の検認 民法は、一般的な遺言の方式として、自筆証書遺言(民法968)、公正証書遺言(民法969、969の2)及び秘密証書遺言(民法970、971、972)の3つの方式を定めています。このうち公正証書遺言以外の遺言書については、その保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出し、その検認を請求しなければならないこととされています(民法1004①②)。また、遺言書の保管者がいない場合に、相続人が遺言書を発見したときも、同様に、家庭裁判所の検認を受けなければならないこととされています(民法1004①)。 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ開封することができないこととされています(民法1004③)ので、そのような遺言書を発見した場合には、家庭裁判所に提出する前に勝手に開封してはいけません。 (※1) 自筆証書遺言書保管制度を利用して、法務局に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認は不要とされています(法務局における遺言書の保管等に関する法律11)。 (※2) 検認を受けるために家庭裁判所に遺言書を提出することを怠ったり、その検認を受けずに遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、50,000円以下の過料に処されることがあります(民法1005)。 公正証書遺言以外の遺言について、家庭裁判所への提出及び検認を求めるのは、遺言書の現状を確認し、公正かつ確実に遺言内容が実現できるように証拠の保全をするとともに、遺言に利害関係を持つ者に広く遺言の存在を周知徹底させるためです(新基本法コンメンタール「相続」(2016年、日本評論社)219頁)。 ただし、遺言書による遺言の効力は、その遺言書について検認の手続きを経たかどうかにより左右されるものではありません(大審院昭和3年2月22日判決)。したがって、自筆証書遺言について検認を受けずに開封してしまったとしても、そのことによって有効な遺言が無効になるわけではありません。   2 検認を受けていない遺言書の扱い 上記1で述べたように、家庭裁判所の検認の手続きを経ていない遺言であっても、そのために有効な遺言が無効な遺言になるわけではありません。 しかしながら、例えば、自筆証書遺言により不動産を取得し、その旨の不動産登記をするために登記所にその遺言書を提出する場合には、家庭裁判所の検認済証明書付きの遺言書でなければなりません(法務局ホームページ「不動産登記の申請書様式について」の「所有権移転登記申請書(相続・自筆証書遺言)の記載例」参照)。 その他の財産についても相続等の手続きを行う際には、同様に家庭裁判所の検認済証明書付きの遺言書の提出を求められることがあります。家庭裁判所の検認の手続きを経る前に誤って開封してしまった遺言書についても、検認手続きを受けることはできますので、できる限り速やかに検認手続きを受けておくことが必要です。   3 相続税の申告書の添付書類 相続税の申告において、配偶者の税額軽減の規定(相法19の2)や小規模宅地等に係る相続税の課税価格の計算の特例の規定(措法69の4)を適用するためには、申告書に財務省令で定める一定の書類を添付することとされており、遺言により財産を取得した場合には「遺言書の写し」を添付することとなります(相規1の6③一、措規23の2⑧)。 財務省令には、添付書類が自筆証書遺言等の写しの場合には、家庭裁判所の検認済証明書の付されたものとまでは定められていませんので、その遺言書が有効なものである限り、検認を受けていない遺言書を相続税の申告書に添付したとしても、そのことにより配偶者の税額軽減の規定や小規模宅地等に係る相続税の課税価格の計算の特例の規定の適用が否認されることはないと思われます。ただし、民法の規定や登記実務などに照らせば、速やかに家庭裁判所の検認を受けておくべきでしょう。   4 ご質問の場合 叔父様の遺言書を発見した叔母様が、家庭裁判所の検認を受けることなく、その遺言書を開封してしまったとのことですが、そのことによってその遺言が無効になることはありません。叔父様の遺された自筆証書遺言は自筆証書遺言としての形式を整えており、無効となる事由もないと考えられますので、あなたは、この自筆証書遺言により叔父様の所有していたゴルフ会員権を取得することができます。そうしますと、叔父様の財産を遺贈により取得した者として、あなたに対して相続税が課税されることとなります。 なお、ゴルフ会員権の名義書換えの際に、家庭裁判所の検認済証明付きの遺言書の提示を求められることもありますので、速やかに検認の手続きを執っておくべきでしょう。 (了)

#No. 441(掲載号)
#梶野 研二
2021/10/21

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第8回】「未分割財産として申告した後に一部分割があった場合の小規模宅地等の特例の適用の留意点」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第8回】 「未分割財産として申告した後に一部分割があった場合の 小規模宅地等の特例の適用の留意点」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲の相続人である乙及び丙は、遺産分割の話し合いがまとまらず、当初申告においては、分割見込書を提出し、未分割で相続税の申告をしていました。相続税の申告期限は令和2年5月10日です。小規模宅地等の特例対象宅地等は貸付事業用宅地等であるA宅地(150㎡)及びB宅地(100㎡)が該当します。 令和4年5月10日にA宅地についてのみ分割が確定し、相続人である乙及び丙が1/2ずつ取得することになりましたが、B宅地の全ての取得を主張している丙は、小規模宅地等の特例について、合意をしなかったため、A宅地の分割時においては、更正の請求をしませんでした。 その後、令和5年5月10日にB宅地を含むその他の財産について分割が確定し、B宅地については、丙が取得し、その他の財産については乙が取得することになりました。乙及び丙は、A宅地については乙及び丙がそれぞれ50㎡ずつ選択し、B宅地については100㎡を選択して小規模宅地等の特例を適用し、令和5年9月10日に更正の請求を行いました。 この場合には、A宅地は更正の請求期限を過ぎていますが、A宅地及びB宅地の小規模宅地等の特例は認められるのでしょうか。 [A] 未分割である場合の小規模宅地等の特例(以下、単に「特例」という)は、分割が確定した日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行う必要があります。したがって、A宅地の特例は認められず、B宅地のみが特例の対象になります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 未分割財産と更正の請求の特則 相続税の申告期限までに分割されていない特例対象宅地等については、原則として特例の適用はできないこととされています。ただし、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、特例対象宅地等が申告期限から3年以内に分割された場合には、遺産分割が確定した日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができます。 なお、3年以内に分割がまとまらなかった場合においても、相続税の申告期限から3年を経過する日までの間に分割されていなかったことについて相続等に関する訴えがされているなど一定のやむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、その申請につき、所轄税務署長の承認を受けた場合には、判決の確定日など一定の日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができます(措法69の4④⑤、措令40の2㉓、措規23の2⑧六、相法32①、相令4の2)。   2 一部分割があった場合の更正の請求の取扱い 相続税の申告書の提出期限後に特例対象宅地等の一部が分割された場合には、その分割された日において他に分割されていない特例対象宅地等があるときであっても、その分割された特例対象宅地等の一部について特例の適用を受けるために更正の請求を行うことができるのは、その分割された日の翌日から4ヶ月以内に限られており、その期間経過後においてその分割された特例対象宅地等については、更正の請求をすることはできないとされています(措通69の4-26)。 したがって、本問の場合には、A宅地については更正の請求期限経過後に更正の請求を行っていますので、更正の請求の対象とすることはできず、B宅地のみが特例の対象となります。   3 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例の相違 配偶者の税額軽減の規定による更正の請求は、国税通則法23条3項による更正の請求も認めていますので、その更正の請求の期限は、分割が行われた日の翌日から4ヶ月を経過する日と相続税の申告書の提出期限から5年を経過する日とのいずれか遅い日とされています(相基通32-2)。 これに対して、未分割財産が確定したことにより小規模宅地等の特例を受ける場合の更正の請求は、国税通則法23条3項による更正の請求は認めていませんので、更正の請求期限は、遺産分割が確定した日の翌日から4ヶ月以内とされています。この相違は、配偶者の税額軽減の規定は、原則として配偶者が取得した財産については税額軽減を行うとしているのに対して、小規模宅地等の特例は、納税者が特例対象宅地等を選択してはじめて減額が認められることに起因していると考えられます。 また、更正の請求期限の延長は、災害等による期限の延長(通法11)を除き、認められていませんので、原則として、4ヶ月を経過した後は、更正の請求は認められません。 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、いずれも分割がまとまらなかった場合の分割見込書の提出は、共通していますが、上記記載の通り、更正の請求期限が違う点については、特に留意する必要があります。配偶者の税額軽減の規定(相法19の2)は本法で定められていますが、小規模宅地等の特例の規定(措法69の4)は、租税特別措置法で定められています。昭和54年4月17日の大阪地裁(TAINSコード:Z105-4381)では、小規模宅地等の事例ではなく、所得税の事件ですが、下記の通り、租税特別措置法については、法律を厳格に解釈するべきであると示しています。 したがって、配偶者の税額軽減で更正の請求が5年間認められるからという理由で小規模宅地等の特例の更正の請求期限は延長されることはありませんし、たとえ、本問のように相続人同士で合意ができない事由があったとしても更正の請求の期限延長が認められるという法的論拠はありませんので、原則として更正の請求は認められないことになります。 実務上は、更正の嘆願という方法で所轄税務署と個別事案として話し合いになりますが、法的な根拠があるわけではありませんので、必ず認められるというものではありません。   ★実務上のポイント★ 一部分割があった場合の更正の請求を行う場合には、特例の合意ができていることを前提に分割をしてもらうことがポイントとなります。また、当初申告時に納税者に更正の請求期限を充分に説明し、一部分割も含めて分割が確定次第、すぐに連絡をもらえるように説明をしておく必要があります。   (了)

#No. 441(掲載号)
#柴田 健次
2021/10/21
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