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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例63】株式会社FOOD&LIFE COMPANIES「業績予想の修正に関するお知らせ」(2021.8.10)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例63】 株式会社FOOD&LIFE COMPANIES 「業績予想の修正に関するお知らせ」 (2021.8.10)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社FOOD&LIFE COMPANIESが2021年8月10日に開示した「業績予想の修正に関するお知らせ」である。同社は回転鮨店「スシロー」を運営しており、以前は「株式会社スシローグローバルホールディングス」という社名だったが、2020年11月6日に「商号の変更に関するお知らせ」を開示し(同日に「(訂正)商号の変更に関するお知らせの一部訂正について」を開示。これは少し恥ずかしい訂正)、2021年4月1日から現在の社名になっている。以下、同社のことは分かりやすく「スシロー」という。 今回の開示は、2021年9月期の売上収益の予想値を250,600百万円から243,000百万円へ、営業利益の予想値を17,300百万円から21,000百万円へ修正するという内容である(同社はIFRS適用会社)。売上は若干下方修正であるものの、営業利益は上方修正であり、しかも前期はもとよりコロナ前よりも好業績になるという予想なのだ。 2020年9月期は売上収益が204,957百万円、営業利益が12,061百万円であり、コロナ前の2019年9月期であっても、売上収益が199,088百万円、営業利益が14,546百万円である(2020年11月6日開示「2020年9月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」)。売上収益に対する営業利益の比率を見ても、2019年9月期は7.3%、2020年9月期は5.9%だったのに対して、2021年9月期の予想値は8.6%になる。   2 テイクアウト需要への対応 今回の開示の(修正の)「理由」には次の記載がある。 スシローは、今回の開示と同じ2021年8月10日に「2021年9月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」を開示しており、売上収益は178,751百万円、営業利益は18,245百万円となっている。この第3四半期時点で、前期はもとよりコロナ前よりも良い数字になっているのである。 2020年9月期第3四半期の売上収益が150,661百万円、営業利益が8,619百万円、コロナ前の2019年9月期第3四半期の売上収益が145,813百万円、営業利益が11,325百万円であり(2019年8月7日開示「2019年9月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」)、売上収益に対する営業利益の比率も、2019年9月期第3四半期は7.8%、2020年9月期第3四半期は5.7%だったのに対して、2021年9月期第3四半期は10.2%である。 この調子であと3ヶ月頑張れば、売上収益243,000百万円、営業利益21,000百万円を達成できそうだが、この好業績の要因の1つが「コロナ禍におけるテイクアウトやデリバリー需要拡大への適切な対応」である。「2021年9月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」に記載されているが、同社は、今期第3四半期までに国内で「スシロー」ブランドの店舗を37店出店しているのだが、そのうち7店は、今期から新たに始めたテイクアウト型の店舗なのだ。   3 京樽の取得 第3四半期時点では売上収益4,542百万円のプラスなので、まだ大きな影響は出ていないが、「当第三四半期より株式会社京樽及び子会社2社を連結業績に加えたこと」もプラス要因の1つである。スシローは2021年4月1日に株式会社京樽(以下「京樽」という)を株式会社吉野家ホールディングス(以下「吉野家」という)から取得している。2021年2月26日に開示した「株式会社京樽の株式取得(完全子会社化)のお知らせ」の「株式取得の目的」には、次の記載がある。 また、吉野家が同日に開示した「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」の「本株式譲渡の目的と理由」の記載は、次のとおりである。 確かに京樽は吉野家よりもスシローの傘下に入った方がシナジー効果を得られるはずである。この件についてコロナ前から検討されていたのか、コロナ禍になって検討されるようになったのかは不明だが、コロナ禍が後押しすることになったようである。   4 時短協力金計上の影響 「時間短縮による時短協力金等の補助金の計上(約70億を見込む)」の影響も大きい。これが無いとしたら、2021年9月期の営業利益の予想値は、7,000百万円をマイナスして、21,000百万円から14,000百万円になる。そうなると、売上収益に対する営業利益の比率は5.8%であり、前期や前々期よりも低い比率になってしまう。 ちなみに、吉野家も、2021年7月9日に「2022年2月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」を開示しているが、営業利益はマイナス206百万円の赤字であるにもかかわらず、時短協力金等の計上により経常利益はプラス2,520百万円の黒字になっている(同社は日本基準適用会社)。時短協力金については様々な批判があるようだが、両社の数字を見る限り、決して小さくはないプラス要因になっている。 【事例58】では株式会社小僧寿しを、今回はスシローを取り上げた。これは、筆者の生家が鮨屋(回転しない)だったからではなく、あくまでたまたま目にとまったからである(もしかしたら無意識に関心がいっているのかもしれないが)。スシローが元のやり方に固執せず、様々な工夫をして好業績を実現しており、また、第3四半期決算の開示とともに行う通期業績予想の修正ということで、確度も高いと思われたからである。 なお、鮨は、回転するものや、テイクアウトや、デリバリーもいいのだが、やはりカウンターに座って、職人が握ったものをすぐに食べるのが一番美味しい。スシローの取組みも素晴らしいのだが、昔ながらの鮨屋が絶滅危惧種になってしまわないようにコロナ禍を乗り越えてくれることを個人的には切に願う。 (了)

#No. 437(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/09/22

《速報解説》 産競法等改正法の施行に伴い改正措置法通達が公表される~中小企業事業再編投資損失準備金(措法55の2)関係では6項目を新設~

《速報解説》 産競法等改正法の施行に伴い改正措置法通達が公表される ~中小企業事業再編投資損失準備金(措法55の2)関係では6項目を新設~   Profession Journal編集部   令和3年度税制改正のうち法人税関係の改正通達については、既報のとおり6月に「「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)(課法2-21、課審6-3)」が公表されているが、当時は「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号)」(以下、産競法等改正法)が未施行(附則第1条本文に定める施行期日が未定)であったため、関連する税制の通達は織り込まれていなかった。 その後、7月30日公布の施行日を定める政令により産競法等改正法の施行日が令和3年8月2日と定められたことを受け、国税庁は9月17日付けで「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について(法令解釈通達)(課法2-31、課審6-7)」を公表、認定手続等を産競法等改正法に拠る「事業適応設備を取得した場合等の特別償却又は法人税額の特別控除(措法42の12の7)」及び「中小企業事業再編投資損失準備金(措法55の2)」に関する項目が新たに設けられた(連結納税編・グループ通算制度取扱通達も同趣旨の改正)。 今回の改正通達ではまず「事業適応設備を取得した場合等の特別償却又は法人税額の特別控除(措法42の12の7)関係」において、法人が事業適応繰延資産となる費用を分割して支払う場合、たとえその総額が確定しているときであっても、特別償却限度額又は繰延資産税額控除限度額はその費用を支出した日の属する事業年度において支出した金額に基づいて計算することとされており、未払金の額を含めることはできないとされているが、分割して支払う期間が短期間(おおむね3年以内)である場合において、その支出した金額に未払金の額を含めることとしているときはこれを認める(措通42の12の7-3)など4項目が新設されている。 また「中小企業事業再編投資損失準備金(措法55の2)関係」では、本制度の対象となる中小企業者(措法42の4⑧七)であるかどうかを判定する際、その法人が本制度の対象となる株式等の取得をした後、その取得の日を含む事業年度終了の日までの間、中小企業者である場合でなければ本制度の適用がないことが明らかにされており(措通55の2-1)、他に、特定法人の株式等の評価減を否認した場合の中小企業事業再編投資損失準備金の特例(措通55の2-4)など6項目が新設されている。 上記の産競法等改正法に係る改正の他、今回の改正通達では「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律(令和2年法律第62号)」に係る改正も織り込まれている(措法65の4関係等)。なお同法は本日付け国土交通省ホームページにおいて、施行日が閣議決定された旨、明らかにされている(施行日を定める政令の公布は令和3年9月27日)。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 436(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/09/21

プロフェッションジャーナル No.436が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年9月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.436を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/09/16

日本の企業税制 【第95回】「控除率が焦点となる住宅ローン控除制度の見直し」

日本の企業税制 【第95回】 「控除率が焦点となる住宅ローン控除制度の見直し」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇多数となった土地・住宅関係の税制改正要望 8月末に、各府省庁から令和4年度税制改正要望が出揃った。 今回の要望項目数は、単純合計で、国税163項目、地方税166項目、重複排除ベースで、国税126項目、地方税128項目であった。なお、廃止・縮減項目数は単純合計ベースで国税1項目、地方税4項目、重複排除ベースで国税1項目、地方税4項目であった。今回の要望数は、平成26年度改正以降で、重複排除ベースにおいて最少となっている。 その要因の1つが法人課税関係の要望が比較的少ないことである。 今回の要望では、令和2年度税制改正で創設されたオープンイノベーション促進税制(特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の課税の特例)と5G導入促進税制(認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)の延長・拡充や、スピンオフの実施の円滑化のための税制措置の拡充、中小企業の交際費等の損金算入の特例や少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長、減耗控除制度・海外投資等損失準備金制度の延長、ガス事業等の事業税の収入金課税の見直しなどが経済産業省を中心に提出されている。 一方、土地・住宅関係の税制措置については、国土交通省を中心に、多数の要望が出されている。 土地に係る固定資産税については、令和3年度税制改正において、1年限りの措置として、税額が増加する土地について前年度の税額に据え置くこととされたが、国土交通省、経済産業省が、社会経済情勢、地価動向等を踏まえ、必要な検討を行い、所要の措置を講ずるよう要望している。 住宅税制は、住宅ローン控除制度、新築住宅に係る固定資産税の軽減特例、居住用財産の買換え・売却に伴う特例、住宅取得資金の贈与特例、住宅取得に係る登録免許税の軽減特例、住宅及び住宅用土地の取得に係る不動産取得税の特例、認定住宅に係る特例など期限を迎える特例措置が目白押しである。   〇課題とされる住宅ローン控除制度 とりわけ住宅ローン控除制度は減税規模が大きく、また国民生活に直結するものであることから、令和4年度税制改正の議論において大きな課題の1つとなるものと見られる。国土交通省、環境省、復興庁が、2050年カーボンニュートラルの実現等を図る観点も含め、所要の措置を講じるよう要望している。 現行の住宅ローン減税制度は、個人が住宅ローン等を利用して、マイホームの新築、取得又は増改築等をし、令和3年12月31日までに自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たすときにおいて、その住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として一律の控除率(1%)を乗じて計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分(10年間)の所得税額から控除するものである。 なお、令和元年度税制改正では、需要変動の平準化の観点から、消費税率引上げ後の購入にメリットが出るよう、消費税率10%が適用される住宅取得等について、住宅ローン税額控除の控除期間を10年間から13年間へと3年延長することとされ、その際、消費税率2%引上げの負担に着目し、延長する3年間で消費税率引上げ分にあたる「建物購入価格の2%」の範囲で更なる減税を行う仕組みとされ、この特例措置が令和3年度税制改正で令和4年末までの入居分(注文住宅は令和2年10月から令和3年9月末まで、分譲住宅などは令和2年12月から令和3年11月末までに契約することが必要)まで延長されたところである。 しかし、令和3年度与党税制改正大綱では、 とされており、控除率に焦点が当てられている。 控除率については、平成13年度税制改正により、住宅ローンの年末残高をベースに控除税額を計算する新住宅ローン減税制度の創設時に1%と設定されて以後、平成16年度税制改正で居住開始後の年数に応じて控除率を低減させる方式に変更されたことはあったが、リーマンショックによる景気の急激な落ち込みを背景に、平成21年度税制改正で、10年間一律の控除率が適用される制度が復活し、現在に至るまで1%が基本であることが続いてきた。長年にわたり定着してきた制度だけに、その見直しが注目される。 (了)

#No. 436(掲載号)
#小畑 良晴
2021/09/16

〔令和3年度税制改正における〕株式交付に係る課税繰延べ措置 【第1回】「株式交付の仕組み」

〔令和3年度税制改正における〕 株式交付に係る課税繰延べ措置 【第1回】 「株式交付の仕組み」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   1 はじめに 令和元年の会社法改正(令和3年3月1日施行)により、株式交付制度が創設され、産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることなく、現物出資規制や有利発行規制が適用されないこととなったが、株式交付制度に対応する税務上の特例がなかったため、令和3年度税制改正により、株式交付により、その有する株式を譲渡し、株式交付親会社の株式等の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べる措置(以下「株式交付に係る課税繰延べ措置」という)が創設されることとなった。 本連載では、この新たに創設された株式交付に係る課税繰延べ措置について解説する。 【第1回】は、まず会社法における株式交付の仕組みについて確認する。 なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りしておく。   2 株式交付の仕組み(概要) (1) 「株式交付」とは 「株式交付」とは、株式会社が他の株式会社を子会社とするために、当該他の株式会社の株式を譲り受け、株式の譲渡人に対してその株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう(会2三十二の二)。つまり、自社株式を対価とした企業買収を可能とするもので、部分的な株式交換により株式を取得する制度である。ここで、買収会社である「株式会社」を「株式交付親会社」、被買収会社である「他の株式会社」を「株式交付子会社」という。 株式交付子会社の株主に対して交付する対価には、株式交付親会社の株式を必ず含める必要があるが、株式交付親会社株式と金銭等を交付すること(混合対価)も可能である。 《株式交付のイメージ》 《現行の各種規制と株式交付の関係》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 株式交付の留意点 ① 株式交付は他の株式会社を子会社とする場合に限定されている 株式会社が、既に議決権の過半数を有している子会社の株式を買い増す場合や、他の株式会社を子会社としない場合(議決権の過半数の取得に至らない場合)には、株式交付を用いることはできない。 ② 他の株式会社が「外国会社」の場合には株式交付は利用できない 株式交付親会社と株式交付子会社は日本の会社法に準拠して設立された「株式会社」に限定されていることから、他の株式会社が外国法令に準拠して設立された「外国会社」の場合には、株式交付は利用できない。 ③ 三角株式交付はできない 株式交付親会社株式と金銭等を交付すること(混合対価)は可能であるが、株式交付子会社の株主に対して交付する対価には、株式交付親会社の株式を必ず含める必要があり、合併や株式交換のような対価を存続会社等の親会社株式とする特則(会800)はないため、三角株式交付はできない。   3 株式交付の手続き (1) 株式交付親会社における手続き 株式交付に際して、株式交付親会社側では下記の手続きが必要となる。 ① 株式交付計画の作成 株式交付をする場合には、株式交付計画を作成しなければならず、株式交付計画において、下記の事項を定める必要がある(会774の2、774の3)。 ② 事前開示手続き 株式交付親会社は、株式交付計画備置開始日から株式交付の効力発生日後6ヶ月を経過する日までの間、株式交付計画の内容等を記載した書面又は電磁的記録を本店に備え置かなければならない(会816の2①)。 ③ 株主総会決議による株式交付計画の承認 株式交付親会社は、原則として、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、株式交付計画の承認を受けなければならない(会816の3①、309②十二)。 ただし、簡易手続きも認められており、株式交付子会社の株主に交付する対価の合計額の株式交付親会社の純資産額に対する割合が5分の1を超えない場合には、株主総会決議を要しないこととされている(会816の4)。 ④ 反対株主保護手続き 株式交付親会社は、効力発生日の20日前までに、その株主に対し、株式交付をする旨並びに株式交付子会社の商号及び住所を通知しなければならず、株式交付に反対する株主は、株式交付親会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。 ただし、簡易手続きの場合、つまり、株式交付子会社の株主に交付する対価の合計額の株式交付親会社の純資産額に対する割合が5分の1を超えない場合には、株式交付親会社の株主は、株式買取請求をすることはできないとされている(会816の6)。 ⑤ 債権者保護手続き 株式交付に際して株式交付子会社の株式等の譲渡人に対して交付する対価が株式交付親会社株式のみである場合以外の場合(混合対価の場合)には、株式交付親会社の債権者は、株式交付親会社に対し、株式交付について異議を述べることができるとされており、株式交付親会社は、債権者保護手続きをとる必要がある(会816の8)。 ただし、株式交付親会社株式以外の対価の合計額が対価の総額の20分の1よりも小さい場合には、債権者保護手続きは不要とされている(会施規213の7)。 ⑥ 事後開示手続き 株式交付親会社は、効力発生日後遅滞なく、株式交付に際して株式交付親会社が譲り受けた株式交付子会社の株式の数等を記載した書面又は電磁的記録を作成し、効力発生日から6ヶ月間、その書面等を本店に備え置かなければならない(会816の10)。 (2) 株式交付子会社の株式の譲渡し(株式交付親会社と株式交付子会社の株主との手続き) 株式交付親会社と株式交付子会社の株主との間で必要な手続きは、次の通りである。 ① 株式交付親会社による通知 株式交付親会社は、株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対し、株式交付親会社の商号、株式交付計画の内容等を通知しなければならない(会774の4①)。 ② 株式交付子会社の株式の譲渡しの申込み 株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをする者は、譲渡しの申込みの期日までに、申込みをする者の氏名又は名称及び住所、譲り渡そうとする株式交付子会社の株式の数を記載した書面を株式交付親会社に交付しなければならない(会774の4②)。 ③ 株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の割当て 株式交付親会社は、申込者の中から株式交付子会社の株式を譲り受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の数を定めなければならない(会774の5)。 ④ 総数譲渡し契約を締結する場合 株式交付子会社の株式を譲り渡そうとする者が、株式交付に際して、譲り受ける株式交付子会社の株式の総数の譲渡しを行う契約を株式交付親会社との間で締結する場合には、上記①から③は適用しない(①から③の手続きは不要)とされている(会774の6)。 ⑤ 株式交付子会社の株式の給付 株式交付子会社の株式の譲渡人となった者は、効力発生日に、株式交付子会社の株式を株式交付親会社に給付しなければならない(会774の7②)。 (3) 株式交付子会社における手続き 株式交付子会社側では特段手続きは不要であるが、株式交付子会社株式が譲渡制限株式の場合には、株式交付子会社において取締役会等による譲渡承認が必要となる点に留意が必要である(会136、139)。 (4) 株式交付の効力の発生 株式交付計画で定めた効力発生日に、株式交付親会社は、株式交付子会社の株式を譲り受け、株式交付子会社株式の譲渡人は、株式交付親会社の株式の株主となる(会774の11①②)。 ただし、効力発生日において債権者保護手続きが終了していない場合や、株式交付親会社が給付を受けた株式交付子会社株式の総数が株式交付計画で定めた下限の数に満たない場合には、株式交付の効力は発生しないこととなる(会774の11⑤一、三)。 *  *  * 次回以降、旧租税特別措置法における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置及び新租税特別措置法における株式交付に係る課税繰延べ措置について解説していきたいと思う。 (了)

#No. 436(掲載号)
#川瀬 裕太
2021/09/16

[令和3年度税制改正における]結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置

[令和3年度税制改正における] 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置   税理士 徳田 敏彦   結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、父母、祖父母等の直系尊属が20歳以上50歳未満の子、孫等へ結婚・子育て資金を信託等により一括して拠出した場合に、受贈者ごと1,000万円(うち、結婚に際して支払う金銭は300万円)まで贈与税が非課税となる制度である。 本制度における令和3年度税制改正での主な改正点は3点である。 1点目が適用期限の延長、2点目が管理残額の一定部分について相続税額の2割加算の適用、3点目は受贈者の年齢要件を18歳に引き下げることである。 本稿では改正点に重きをおくため、制度の基本的な内容には触れないことに留意する。   1 適用期限 平成27年4月1日から令和3年3月31日までの適用期限が2年延長され、令和5年3月31日までとなる。   2 管理残額の相続税額の2割加算(相続税法18条)の適用 平成27年の本制度創設時から、贈与者が死亡した場合には、管理残額を贈与者から相続等により取得したものとみなされる。そのため、贈与者の死亡にかかる相続税の課税価格に管理残額を含めて計算する制度であることは変わりない。ただし、相続税額の2割加算の適用はなかった。 令和3年度改正において、受贈者が贈与者の子以外(孫等)である場合の相続税額の計算にあたっては、管理残額のうち令和3年4月1日以後拠出分に対応する相続税額については、相続税額の2割加算の対象となる改正が行われた。 改正の推移を一覧表にすると以下となる。 (出典) 国税庁発表資料を一部加工   3 対象年齢の引下げ 受贈者の年齢要件が「20歳以上50歳未満」であるところ、令和3年度改正によって「18歳以上50歳未満」に改正された。令和4年4月1日以後に贈与者から信託等で拠出される資金を取得する受贈者に適用される。 これは、平成30年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立し、令和4年4月1日から施行されることによるものである。   4 改正点における留意事項 (1) 令和3年4月1日以後拠出分の管理残額の相続税額の2割加算について 相続や遺贈、相続時精算課税制度で財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含む)及び配偶者以外の者である場合には、その者の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額を加算する。 本制度を利用する際に、孫、ひ孫を受贈者とする可能性もあるが、代襲相続人でない孫、ひ孫への管理残額は相続税額の2割加算の対象となる。 (2) 受贈者の所得制限 平成31年4月1日以後の拠出については、受贈者の前年分の合計所得金額が1,000万円を超える場合には本制度の適用はできない。これは令和3年4月1日以後も同様である。 (3) 管理残額以外の財産を取得しなかった者の相続開始前3年以内贈与加算 管理残額以外に被相続人から相続開始前3年以内に暦年贈与を受けていた場合でも、相続又は遺贈で管理残額以外の財産を取得しなかった場合には、相続財産の加算の適用はない。 ただし、死亡保険金や死亡退職金等のように、相続又は遺贈により取得したものとみなされる財産を取得した場合には、3年以内贈与加算の適用があることに留意する。 (4) 2割加算の金額の算出 ① 2割加算の対象とならない管理残額の算出 2割加算の対象とならない金額は以下となる。 ② 受贈者の相続税額のうち2割加算の対象とならない部分の金額の算出 (5) 結婚・子育て資金口座の契約の終了 結婚・子育て資金口座の契約は、以下のいずれかの事由に該当した場合に終了し、管理残額がある場合には、その管理残額が贈与税の課税価格に算入される。 (※) ただし、上記(ⅱ)の場合には贈与税の課税価格に算入されるものはない。   5 今後の動向 本制度は利用件数が累計7,210件であり、教育資金一括贈与の利用件数(累計)約24万3,000件と比較すると非常に低調である(利用件数は令和3年3月時点(一般社団法人信託協会発表資料より))。 本年度税制改正により相続税額の2割加算が適用されるため、利用件数がさらに伸び悩むであろう。 また、税理士業務として相続税申告を受託した場合には、過去の本制度の利用を必ず確認する必要があることに留意したい。 (了)

#No. 436(掲載号)
#徳田 敏彦
2021/09/16

相続税の実務問答 【第63回】「遺言としては無効だが死因贈与と認められる場合」

相続税の実務問答 【第63回】 「遺言としては無効だが死因贈与と認められる場合」   税理士 梶野 研二   [答] ご質問の事実関係に照らせば、別荘をあなたに遺贈するとの叔母様の遺言が無効であったとしても、叔母様が亡くなられた時に、叔母様があなたに軽井沢の別荘を贈与するとの死因贈与契約が成立していたと認めることができます。そうしますと、叔母様の死亡とともに、軽井沢の別荘はあなたが取得することとなりますので、あらためてお母様又は叔父様から贈与を受ける必要はありません。 相続税法の規定上、死因贈与は遺贈と同様に扱われますので、あなたが死因贈与により取得した別荘は相続税の課税対象になり、贈与税の課税対象とはされません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺贈と死因贈与 遺贈は、遺言により遺言者の死亡により特定の財産又は割合をもって特定の者に遺産を取得させる行為です。また、死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生じる贈与契約をいいます(民法554)。 遺言は、民法により厳格な方式が定められており、定められた形式要件を満たさない限り、その遺言は無効とされます(民法960)。一方、死因贈与は、当事者の意思の合致により有効に成立します(民法549)。死因贈与においては、贈与契約書を作成することが多いと思われますが、契約書が作成されていないとしても当事者の合意があれば契約は有効に成立しています。ただし、相続人やその他の利害関係人との間で死因贈与契約の有無が問題になった場合には、贈与契約書等の書面がないと死因贈与による財産の取得の主張を通すことは困難となることが多いと思われます。   2 遺言の方式 民法は、一般的な遺言の方式として、次の方式を定めています。 (※) このほかに民法は、特別方式の遺言として、死亡危急者遺言(民法976)、伝染病隔離者遺言(民法977)、在船者遺言(民法978)及び船舶遭難者遺言(民法979)を定めています。 例えば、上記3つの方式のうち最も簡便な自筆証書遺言の場合、自書されていないもの(財産目録を除きます)、日付が記載されていないもの、氏名が自署されていないもの、押印のないものなどは、有効な遺言とは認められません。 しかしながら、このように遺言としては無効なものであったとしても、遺言書・・・を書いた者とその遺言書・・・で遺贈の相手方とされている者との間で、その者の死亡を原因としてその者の財産を相手方に贈与するとの合意が認められるならば、死因贈与契約が有効に成立していると考えられます。いわゆる「無効行為の転換」が認められる典型的なケースと言えます。その場合には、無効な遺言書により遺贈の目的とされていた財産は、その者の死亡とともに死因贈与契約により相手方が取得することとなります。   3 相続税法における死因贈与 上記2のとおり、遺贈が否定されたとしても、死因贈与が有効に成立していると認められることがあります。遺言は無効であっても、死因贈与契約としては有効に成立していると認められるのであれば、無効な遺言で受遺者とされていた者は、死因贈与により被相続人の財産を取得することとなります。 民法は、死因贈与も遺贈と実質的には変わりないことから、死因贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用することとしています(民法554)。相続税法においても、同様の趣旨により、遺贈には死因贈与が含まれることとされており(相法1の3①一、措法69の2①)、相続税の課税上、死因贈与による財産の取得は、遺贈による財産の取得と同様に扱われることとされています。 したがって、遺言が無効であったとしても、死因贈与としては有効に成立していると認められることから、無効な遺言書に記載されていた財産を取得することとなった場合には、その財産は贈与税の課税対象ではなく、相続税の課税対象となります。   4 質問の場合 あなたに軽井沢の別荘を遺贈する旨の叔母様の遺贈が無効であるならば、この別荘は、相続人であるお母様又は叔父様が相続により取得することとなります。あなたがこの別荘を、対価を支払わずに取得するには、相続によりこの別荘を取得したお母様又は叔父様からあらためて贈与を受ける必要がありますが、その場合には、あなたに贈与税が課税されることとなります。 しかしながら、別荘をあなたに遺贈するとの遺言が無効であったとしても、叔母様から、「私が死んだときには、この別荘をあなたにあげるわ」と言われ、叔母様から遺言書の下書きを見せてもらい、あなたがその場でお礼を言うとともに、叔母様に感謝の手紙を送ったとの事実関係に照らせば、あなたと叔母様の間で、叔母様の死亡により、あなたが叔母様のお持ちだった別荘の贈与を受けるとの死因贈与契約が成立していたと認めることができます。そうしますと、この死因贈与契約により、叔母様の死亡とともに、あなたは軽井沢の別荘を取得することとなりますので、あらためてお母様又は叔父様から贈与を受ける必要はありません。 なお、相続税の課税上、死因贈与は遺贈と同様に扱われますので、あなたが死因贈与により取得した別荘は相続税の課税対象となり、贈与税の課税対象とはされません。 (了)

#No. 436(掲載号)
#梶野 研二
2021/09/16

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第3回】「共有で取得した場合の小規模宅地等の特例の適用面積」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第3回】 「共有で取得した場合の小規模宅地等の特例の適用面積」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲の相続発生に伴い、甲の所有していた土地建物を配偶者乙と長男丙がそれぞれ1/2の共有で取得した場合において、乙及び丙が適用できる小規模宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 甲が所有していた土地建物の相続発生前の利用状況は、下記の通り、1階部分は甲が飲食店の経営をしており、2階部分は甲と乙の居住の用として利用していました。建物は1棟の建物ですが、1階と2階部分は、建物の構造上、区分されています。乙は特定居住用宅地等の要件を満たし、甲の事業を承継した丙は、特定事業用宅地等の要件を満たしているものとします。 [A] 小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用面積は、それぞれ次の通りとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 共有で取得した場合の特例の適用面積の2つの考え方 小規模宅地等の特例の対象面積は、被相続⼈の親族が相続⼜は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限るとされています(措令40の2⑩⑫⑱㉒)。この場合の持分の割合に応ずる部分をどのように算定するかについては、次の2つの方法が考えられます。 ① 各共有者の権利は、土地建物全体に及ぶと考えて、乙及び丙がそれぞれ事業用と居住用の1/2ずつを均等に取得したものとして計算する方法(以下「持分均一法」という) この考え方によれば、乙及び丙が取得する面積は、それぞれ次の通りとなります。 乙も丙も持分に応じて居住用及び事業用の土地部分を取得することになります。 乙は居住用の特例適用ができますので、適用面積は40㎡となります。 丙は事業用の特例適用ができますので、適用面積は60㎡になります。 ② 取得した持分に対応する面積の範囲内で優先的に特例適用を考える方法(以下「優先適用法」という) 居住用の土地の面積と事業用の土地の面積は、次の通りとなります。 乙及び丙の持分に応じた面積は、それぞれ100㎡(200㎡ × 1/2)ですので、100㎡の中で納税者が有利になるように乙は居住用を優先的に取得し、丙は事業用を優先的に取得した場合には、特例の適用面積は、下記の通り選択することになります。   2 共有で取得した場合の特例の適用面積の求め方 持分の割合に応ずる部分をどのように算定するかについては、租税特別措置法上の解釈が明確にされていませんので、民法上の共有の考え方を準用し、上記1の①の持分均一法が適切であると考えらます。 民法第249条は、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と規定されていますので、各共有者は共有物の全部について権利を有することになります。したがって、乙及び丙は、土地建物の全部について2分の1の権利を有するものとして特例の適用を考える必要があります。 平成27年6月25日の裁決事例(TAINSコード:J99-8-17)では、共同相続人が、複数の利用区分が存する一の宅地を相続により共有で取得した場合の持分の応ずる部分の算定方法について争われた事例となりますが、下記の通り、判断しています。 本問の場合には、乙は土地建物全体の2分の1を所有していることになりますので、上記1の②の優先適用法での計算は認められず、居住部分及び事業部分のそれぞれの部分を均等に2分の1取得したということになります。したがって、乙は、居住の用に供されていた部分の面積80㎡(200㎡ × 80㎡/200㎡)に自己の持分1/2を乗じた部分(40㎡)が適用面積となります。同様に丙は、事業の用に供されていた部分の面積120㎡(200㎡ × 120㎡/200㎡)に自己の持分1/2を乗じた部分(60㎡)が適用面積となります。   ★実務上のポイント★ 本問の場合には、共有取得ではなく、区分登記及び敷地権割合の設定により、居住用部分を乙が、事業用部分を丙が単独で取得することができれば、200㎡の面積について特例の適用を受けることができます。実務的には、節税効果と登記費用の負担等を考慮し、検討することになります。   (了)

#No. 436(掲載号)
#柴田 健次
2021/09/16

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第46回】「当初の住宅ローンを借り換えた場合」-買換資産に係る借入金又は債務の借換えをした場合-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第46回】 「当初の住宅ローンを借り換えた場合」 -買換資産に係る借入金又は債務の借換えをした場合-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、17年前から住んでいた家屋とその土地を、本年2月に売却しました。 同年3月に、A銀行に住宅ローンを組んで買換資産を購入し、居住の用に供しましたが、同年11月に、B銀行に住宅ローンを新たに組み直して、A銀行の住宅ローンの金額は全額返済しました。 他の適用要件が具備されている場合で、本年12月31日にB銀行の住宅ローンの残高がある場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」における「住宅借入金等」とは、住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又はその家屋の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるために、契約において償還期間又は賦払期間が10年以上の割賦償還又は割賦払の方法により返済することとされている政令(措令26の7⑫)で定める金融機関等からの借入金等とされています(措法41の5⑦四)。 そして、住宅ローンを借換えした場合については、次の通達により取り扱われます。 租税特別措置法関係通達41の5-16(借入金又は債務の借換えをした場合) したがって、本事例の場合、当初の借入金であるA銀行の住宅ローンを消滅させたB銀行の住宅ローンであり、かつ、租税特別措置法施行令第26条の7第12項第1号に規定する金融機関からの住宅ローンであることから、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 (了)

#No. 436(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/09/16

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第30回】「名目監査役の役員給与」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第30回】 「名目監査役の役員給与」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 中小企業における監査役の現状 同族会社の機関設計においても取締役会設置会社を選択する例は数多く存在するため、取締役会設置会社への設置が義務とされる監査役も相当数が存在しているはずである(会社法327②)。中小企業の中には、顧問関係にあると思われる税理士や公認会計士が監査役に就任しているケースも散見されるが、中小企業の監査役の実態としては、権限を正しく行使して職務を行っている存在よりも、親族や元使用人が就任して事実上機能しない、「名義貸し」に近い監査役の方が多いと思われる(以下、「名目監査役」という)。 法人税法上、監査役も役員とされることは今更触れるまでもないが(法法2十五)、会社法上、監査役は使用人を兼ねることができないとされている点は留意するべきである(会社法335②)(※1)。 (※1) この点については【第19回】参照。 すなわち、監査役にも定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与等の法人税法34条の規定が適用されるため、上記の名目監査役、特に死亡退任等で空席となった名目監査役の後任としてこれまで使用人だった存在が就いたケース等において、従来と同様の扱いをしてしまうと税務上問題となり得ることになる。以下、参考となる事例を紹介する。   (2) 監査役に対する残業手当等が損金不算入であるとされた事例 この事例は、法人設立手続きでは監査役とされたが、現場作業に従事していた事実上の使用人(以下、「甲」という)に対し、基本給に加えて残業代や賞与等を支給していたケースにおいて、残業手当や賞与が損金不算入であるとされた事例である(※2)。 (※2) 最高裁平成25年4月12日決定(税務訴訟資料263号順号12199、TAINS:Z263-12199)。高裁・最高裁とも地裁を支持しているため、鹿児島地裁平成24年3月7日判決(税務訴訟資料262号順号11903、TAINS:Z262-11903)の要旨を記載する。 本件は、納税者側の主張として、甲が適法に監査役に選任されておらず、甲は事実上使用人であったと主張したことが注目される。 この点、裁判所は、監査役の選任に当たっては甲本人が記名押印し、そして印鑑証明書を公証役場に提出する必要があることから、甲が自らの意思で監査役に就任したことを認定し、監査役が使用人を兼ねることは禁止されていることから、専ら使用人としての業務を行っていたこと等をもっても、適法に選任された監査役を使用人として扱うことはできないとしている。監査役は、使用人の実態があっても税務上は監査役として取り扱われることが示された事例であるといえよう。   (3) 冒頭の事例 紹介した上記裁判例では、基本給部分自体の損金算入性については争点となっておらず、給与のうち、「残業手当等及びボーナス等については、定期同額給与、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与、同族会社に該当しない内国法人がその業務執行役員に対して支給する利益連動給与のいずれにも当たらず、また、退職給与及び新株予約権による給与にも該当しない」と示すに留まっている。 この点、冒頭の事例で最も留意しておくべきケースは、形式基準であると考える(※3)。例えば、冒頭の事例において、他の取締役らの報酬を株主総会等で定めている場合、当該名目監査役の報酬部分も決議する必要があるだろう。すなわち、監査役が名目である限り使用人としての勤務を継続するため、当該名目監査役の報酬に関する決議は意識されない可能性があり、名目監査役のみ形式基準を充足できないという点がリスクとして存在するのである。この場合には、基本給部分も含めた名目監査役の役員給与全ての損金算入性が問題となり得る。 (※3) 形式基準については【第3回】参照。 筆者が見聞する限りではあるが、「監査役は使用人を兼ねることができない」という点は、あまり認識されていないようにも思われる。このようなリスクを回避するために機関設計を変更し、取締役会を廃止することで監査役の設置義務対象から外れることも一案だといえる。 (了)

#No. 436(掲載号)
#中尾 隼大
2021/09/16
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