検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10482 件 / 2831 ~ 2840 件目を表示

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第13回】「事業の一部を転業等した場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第13回】 「事業の一部を転業等した場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は中華料理屋の飲食店業を40年間営んでいましたが、甲の相続発生に伴い、甲の事業の用に供していた下記のA宅地及び建物を長男乙が取得しました。 ■A宅地の相続開始前の利用状況 乙は甲の生前から中華料理屋の従業員として勤務していましたので、中華料理屋を引き継ぐことにしましたが、相続後のA宅地の利用状況がそれぞれ次の通りであった場合には、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡になるでしょうか。 ■A宅地の相続開始後の利用状況 [A] 小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用面積は次の通りとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定事業用宅地等の事業継続要件 特定事業用宅地等の要件として、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く、以下同じ)の⽤に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たす必要があります(措法69の4③一)。 なお、特定事業用宅地等の意義については、【第11回】で解説しています。   2 事業継続要件の判断 A宅地については、1の①被相続人の事業を承継した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が被相続人の事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその事業を営んでいることが要件とされています。 本問の場合のそれぞれの特例の適用の可否については、それぞれ下記の通りとなります。 〔①の判定〕 特定事業用宅地等に該当する部分は、被相続人等の事業継続部分に限ります(措令40の2⑩)ので、事業の用に供していない部分については、特例の適用を受けることはできません。したがって、乙の自宅の荷物置き場とした2階部分については特例の適用を受けることができませんが、1階部分については事業継続していますので、特例の適用を受けることができます。 〔②の判定〕 被相続人の事業である中華料理屋の飲食店業を継続していない部分については、上記1の①の要件を満たさないため、喫茶店に転業した部分については、特例の適用を受けることができないことになりますが、貸付事業以外の事業への一部転業については、租税特別措置法関係通達において、緩和措置があります。すなわち、租税特別措置法関係通達69の4-16(申告期限までに転業又は廃業があった場合)では、「被相続人の事業の一部を他の事業(同号に規定する事業に限る。)に転業しているときであっても、当該親族は当該被相続人の事業を営んでいるものとして取り扱う。」とされていますので、一部転業の場合でも他の要件を満たせば、A宅地の全てについて特例の適用を受けることができます。 なお、「同号に規定する事業」は、貸付事業以外の事業をいいます。 ところで上記の「他の事業」が被相続人の事業と全く関係がない事業であった場合には、特例の適用が被相続人の事業継続部分に限る(措令40の2⑩)としていることと矛盾が生じていますので、特例の適用を受けることができない可能性があります。「他の事業」の範囲については、法令や通達で明らかにされていませんので、注意が必要となります。私見としては、法令において被相続人の事業継続部分を特例の対象としていることから、被相続人の事業とは全く関係がない事業への一部転用した場合には、その転用部分についての特例適用はできないと解するのが相当と考えられます。 〔③の判定〕 一部転業の場合の緩和措置である上記の租税特別措置法関係通達69の4-16の定めは、貸付事業以外の事業の場合に適用され、貸付事業の場合には適用されませんので、その通達の取扱いを受けることはできません。よって、貸付事業部分については要件を満たさないことになります。一方で貸付事業以外の部分については、被相続人の事業を継続していますので、他の要件を満たせば、特例の適用を受けることができます(措通69の4-18)。 〔④の判定〕 被相続人の事業を承継し、その事業を相続税の申告期限まで営んでいることが要件とされていますので、④については要件に該当しないことになってしまいますが、事業を行う上で建替えは必要不可欠であるため、租税特別措置法関係通達69の4-19において「申告期限までに建替え工事に着手された場合に、当該宅地等のうち当該親族により当該事業の用に供されると認められる部分については、当該申告期限においても当該親族の当該事業の用に供されているものとして取り扱う。」とされています。したがって、1階部分については事業の用に供されているものとみなされますが、2階部分については認められないことになりますので、1階部分のみが特例の対象になります。 〔⑤の判定〕 相続税の申告期限までに被相続人の事業について法人化した場合については、被相続人から承継した事業を申告期限までに廃止していますので、要件を満たさず、特例の適用を受けることはできません。事例では使用貸借ですが、仮に賃貸借の場合でも同様に特例の適用を受けることはできず、また、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等についても、被相続人が貸付事業を行っていないため適用を受けることはできません。   ★実務上のポイント★ 条文だけでは要件を満たさない可能性があると考えられる場合であっても、一部転用や建替え工事のように租税特別措置法関係通達による要件緩和措置がありますので、特例の適用については、通達も確認して判断を行う必要があります。 また、一部転用の「他の事業」の範囲については明確にされていない部分もありますので、判断に迷うような場合には、相続税の申告期限までは被相続人の事業を継続し、その後に事業の転業を行うようにアドバイスをすることも重要となります。   (了)

#No. 446(掲載号)
#柴田 健次
2021/11/25

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第11回】「小規模住宅用地特例の適用誤りにつき、申告書の不提出が過失相殺に該当するか否かが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第11回】 「小規模住宅用地特例の適用誤りにつき、申告書の不提出が過失相殺に該当するか否かが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税と申告 固定資産税は、土地、家屋、償却資産について、その所有者を、原則的には、納税義務者として、固定資産の所在する市町村(東京都特別区については東京都)が、固定資産の評価額に基づいて課税標準を定め、税率を乗じて納税額を算定し、納税者に通知して、納税者が納付するものである(地方税法第341~343、349条)。このような課税方式を賦課課税方式という。 固定資産税評価額が課税標準になるのが原則であるが、政策的な配慮から、固定資産税評価額から一定の減額を行ったものを課税標準とするものがある。その1つとして住宅用地の課税標準の特例がある。この住宅用地の課税標準の特例は、小規模住宅用地(200㎡以下の住宅用地)と一般住宅用地(小規模住宅用地以外の住宅用地)に分かれ、小規模住宅用地の課税標準については価格の6分の1の額とし、一般住宅地の課税標準については価格の3分の1の額としている(地方税法第349条の3の2)。 この住宅用地とは、専ら人の居住の用に供する家屋の敷地の用に供されている土地については、その上に存在する家屋の総床面積の10倍までの土地である。一部を人の居住の用に供する家屋で、その家屋の床面積に対する居住部分の割合が4分の1以上あるものの敷地の用に供されている土地については、その面積に下表の率を乗じて得た面積(住宅用地の面積がその上に存在する家屋の床面積の10倍を超えているときは、床面積の10倍の面積に下表の率を乗じた面積)に相当する土地となる(地方税法施行令第52条の11)。 また、小規模非住宅用地に対する固定資産税及び都市計画税の減免もある。東京都においては、平成14年度から一定の要件を満たす非住宅用地に対する固定資産税及び都市計画税の税額を2割減免する制度が条例で定められている。 今回は、小規模住宅用地特例の適用誤りのうち5年を超えた部分について国家賠償法第1条第1項(国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる)に基づき過誤納付金と遅延損害金を求めて訴えた事案について、過失相殺が認められるか否かを含めて検討する。   ▷どのような事案か この事案の経緯は以下の通りである。   ▷事案の争点 争点は、①賦課決定は国家賠償法に基づき違法であるかと、②過失相殺があるかの2点である。   ▷裁判所の判断 ① 国家賠償法に基づき、賦課決定は違法か 裁判所は以下のように言及し、賦課決定は国家賠償法に基づき違法であるとした。 ② 申告書の不提出等は過失相殺に該当するか 裁判所は以下のように言及し、過失相殺はないとした。 今回は、過失相殺0の国家賠償請求が認められた。 本連載の【第1回】で紹介した事案については、納税者の不申告が損害の発生及びその増大に一定程度寄与しているから過失相殺は考慮すべきとして2割控除を認めていた。本事案についても、Xが申告をしたとしても、1階及び2階の階段部分を居住部分と理解して申告することはできなかったと考えられる。間違った申告をした場合も過失相殺はないと判断したのだろうか。 (了)

#No. 446(掲載号)
#菅野 真美
2021/11/25

〈注記事項から見えた〉減損の深層 【第7回】「鉄道事業が減損に至った経緯」ー減損が発生しやすい会社の特徴は?ー

〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第7回】 「鉄道事業が減損に至った経緯」 -減損が発生しやすい会社の特徴は?-   公認会計士 石王丸 周夫   〈はじめに〉 減損が発生しやすい会社には、特徴があります。もちろん、様々な側面から論ずることができるテーマなので、一概にはいえないのですが、収益構造に関して見られるある特徴は、その1つであるといってよいでしょう。 それはどのようなものでしょうか。さっそく、注記事例で見ていきましょう。   〈今回の注記事例〉 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 この注記は鉄道会社のものです。伊豆箱根鉄道といって、伊豆半島の三島と修善寺を結ぶ駿豆(すんず)線で知られています。修善寺といえば温泉ですが、駿豆線はそれだけではありません。沿線には、幕末期に大砲を鋳造していた韮山反射炉が今も威容を放っており、世界遺産に登録されています。歴史マニアには外すことのできない観光スポットです。 注記によると、その駿豆線の資産について合計34億円もの減損損失が発生しました。減損に至った経緯は、「当初想定していた収益を見込めなくなった」ことです。新型コロナウイルス感染拡大による観光客の減少であることは間違いありません。実際、この会社の営業収益は以下のとおり激減しています。 前年比55%です。収入が半分近くに減り、しかも回復のめども立たなければ、減損やむなしかもしれません。しかし、厳密にいうとそれだけでは減損になりません。費用の方も考慮しなければならないからです。   〈ポイントは固定費の占める割合〉 営業収益が半分になった場合でも、営業費用も半分になれば、損益の赤字化は回避できます。下の図を見てください。 この図は、営業収益と営業費用のイメージ図で、2つの棒グラフの差が利益を示します。 この状態から営業収益が半分になったとします。そうすると、営業収益が営業費用を下回ってしまい、赤字になります。 ところが、このとき営業費用も半分になったとしたらどうでしょうか。下の図のとおり、利益が確保できることがわかります。 減損処理が必要かどうかの判定は、まず、営業損益がプラスかマイナスかということから検討が始まります。単純にそれだけで決まるものではありませんが、ここで利益が出るかどうかはとても大事なところです。したがって、営業収益が減ったときに、営業費用が減らせるかどうかということがポイントになるのです。 営業収益が変動した時に、それに伴って変動する費用のことを、変動費といいます。一方、営業収益が変動しても一定のまま変わらない費用のことを固定費といいます。会社の費用は、必ずしも変動費と固定費にきれいに分けられるものではありませんが、全体としてどちらの傾向が強いのかということで、その会社の収益構造がわかります。   〈鉄道業の場合は?〉 では、伊豆箱根鉄道の場合はどうだったのでしょうか。 上掲の注記は連結財務諸表の注記でしたが、実は、この年度については、減損損失の金額が連結も個別も同じで、減損損失はすべて親会社の資産について計上されたものだったことがわかります。そこで、収益構造の検討も親会社に絞って見ていくことにします。 この会社の財務諸表(個別)を参照して、鉄道事業に係る営業収益と営業費の金額を2年度分並べてみます。 (出所:有価証券報告書の数値により筆者作成) まず、営業収益の前年度比を見てください。表の右上の部分です。69%となっています。鉄道事業の営業収益は前年度の69%まで落ち込んだことがわかります。 ではそのとき、営業費の方は同じように減ったのでしょうか。その下には、営業費が内訳つきで表示されていますが、鉄道の運行に直接かかわる費用と見られる「運送営業費」は前年度の90%程度にしか減っておらず、一般管理費や減価償却費に至っては前年度より増えています。 営業費全体では前年度の97%ということで、営業収益が70%弱まで減っても、営業費はちっとも減らないことがわかります。つまり、固定費の比率が高いというわけです。この収益構造こそ、減損損失の計上につながりやすいのです。 このことは会社もよくわかっています。 この年度の「重要な会計上の見積り」の注記を見てみましょう。 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 下線を引いたところがポイントです。営業コストの相当部分が固定費で構成されていると書いてあります。そのため、営業収益の比較的小幅な減少であっても、営業利益に大きな影響を及ぼすとのことです。この年度については、新型コロナウイルス感染症の影響による事業環境の悪化に伴い旅客乗車人員が減少して収益性が低下し、減損に至ったとのことです。   〈鉄道業の宿命か〉 以上のことは、統計データでも確認できます。伊豆箱根鉄道の有価証券報告書には鉄道事業の統計データも載っていますが、それによると、2020年度の旅客乗車人員は、定期が17.9%減、定期外が37.3%減であるのに対し、客車走行キロ(全客車の累計走行距離)は6.5%減でしかありません。要するに、乗客が減っても電車の運行を減らせないのです。 実際、2020年4月の第1回緊急事態宣言の期間中でさえ、駿豆線の1日の運行本数は、コロナ前の144本から106本に減らされただけです(2020年6月22日「新型コロナウイルス感染拡大による運行計画(ダイヤ)の再変更について」参照)。 台風等の災害時に、鉄道が全面的に運休してしまうことがたまにありますが、そうした経験からもわかるとおり、鉄道を止めてしまうと社会が機能不全になります。第1回緊急事態宣言の期間中、駿豆線も朝夕の通勤時間帯は減便しませんでした。 以上から、固定費の比率が高いビジネスは減損リスクが高いといえますが、問題は、固定費が高いことの背景に、そのビジネス特有の宿命的理由があるかどうかではないでしょうか。 (了)

#No. 446(掲載号)
#石王丸 周夫
2021/11/25

〈事例から学ぶ〉不正を防ぐ社内体制の作り方 【第12回】「身近な資産を守るための仕組み作り」~不当な売却や幽霊資産を防ぐ工夫~

〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第12回】 (最終回) 「身近な資産を守るための仕組み作り」 ~不当な売却や幽霊資産を防ぐ工夫~ 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   はじめに ものづくりの現場で日常的に用いられる工具や備品のなかには、高価で長期の使用に耐えるものが多くあります。これらは消耗品とは異なり、日常で継続的に用いられる資産として、会社の財務諸表に計上して管理します。また、工具や備品に留まらず、商品や製品については、たとえ破損しても、それが経済的な取引価値を持つ限り、資産として管理することをおろそかにはできません。 我が国の内部統制報告制度は、米国の内部統制が標榜する目的のほかにも、会社の資産保全を重要な目的の1つに加えています。こうした視点から、身近な会社の資産に対して日頃から注意を払い、きちんと管理の行き届く仕組みが必要になります。   《1》 現場に置き忘れられた資産 あるものづくりの会社を訪問した時、工場の片隅に無造作に積み上げられた製品を見かけました。包装からむき出しになっている製品や、既に包装すらないものもありました。「一体なぜここに積み上げられているのか」と訊ねると、「顧客による使用後の返品、搬送中の破損や故障などの理由により、出荷されたにもかかわらず工場に戻された製品が、臨時に積まれている」とのことでした。 よく見れば、なかには修繕などのアフターケアを施すことで、再販が可能な経済価値のある製品が含まれています。当面とはいえ放置して管理の目が行き届かないままでは、いつ不正に持ち出され、不当に売却されてしまうか懸念されます。いったん工場から出荷された製品で、諸事情から工場に戻された製品でも、修繕をすることで再販価値があるもの、売却処分により製造コストをわずかでも回収できる経済的な価値を持つ限りは、会社の大切な資産のはずです。適切な場所に保管、管理して対応すべきであり、日常管理の仕組みが求められます。   《2》 ものづくりに欠かせない工具 ものづくりの現場で用いる工具類のなかには、稀少であるがゆえに高価な鉱物、いわゆる「レアアース」が使われているものが数多くあります。たとえば、金属を加工する際に用いられる超硬工具類には、高価なタングステンが用いられています。そのため、そういった会社の資産となる工具類の使用は現場任せとしてはいけません。工具類をきちんと保管、管理する部門や担当者を配置する仕組みが必要になります。 タングステンは、世界の約60%が中国に埋蔵されており、市場では高額で取引されます。たとえタングステンを用いた工具が老朽化したとしても、工具自体からタングステンを取り出して再利用することが可能です。そのため、高価な工具類の管理をないがしろにしたり、怠れば、現場から持ち去られたうえ、不当に売却されてしまうおそれがあります。 工具といえど、会社の大切な資産の1つであることに変わりありません、やはり日常の管理の仕組みが欠かせません。   《3》 貸し出し、展示される固定資産 日常で身近にある固定資産は、必ずしも社内だけで利用されるわけではありません。自社開発の製品として展示会などのブースに展示されることがあり、グループ内の子会社や関連会社、さらには顧客に貸し出されることもあります。 読者のみなさんの会社で固定資産の実地棚卸をしてみると、あるはずの固定資産が見つからないということはありませんか。展示に持ち出されたまま戻ってこない、貸し出されたまま、貸出期間が過ぎても返却されないなどの管理が行き届いていない固定資産が実際にあります。 こうしたものは時が経過すればするほど、所在がわからなくなり、やっと所在をつきとめてみると、いつのまにか不当に売却されていたということもあります。こうしたことを避けるためにも、固定資産の実地棚卸は、少なくとも1年に1回以上は取り組むことが大切です。管理を怠っていると、そこにあるはずの資産が見つからない、あるいはあるはずのない幽霊資産が社内で不意に見つかるといったことが起きます。   《4》 不要となったスクラップ 破損して修繕不能となった製品、コストがかかり過ぎるために修繕のできない製品や、鉄をはじめとした金属屑などは処分価値のある限り、売却処分をしてコストを回収するのが一般的な対応です。こうした売却処分は、通常は特定の部門や担当者に任せて行われていると考えられますが、適切な売却処分を行うためには、相互牽制の視点から、あらかじめ手続において次の注意を払うことが大切です。 (1) 取引における役割分担 第一に、実際の売却処分の場では、取引を担当者1人に任せず、必ず別の者を立ち会わせます。取引業者に対する社内の対応者を2人以上とすることで、相互に牽制をかけます。 単独で対応すると本来の処分対象とは異なる資産を余計に処分したり、より経済価値のある資産を勝手に処分して取引業者から返礼(キックバックなど)を受け取ることにもなりかねないからです。 (2) 取引と記録における役割分担 次に、実際に売却処分を実施する担当者には、経理部門に所属して経理上の仕訳を入力する者を当てることは避けます。 なぜなら、売却処分の担当者が経理上の仕訳も入力できると、仕訳を通じて実際の処分取引を不正に操作する余地を残すことになるからです。適切な売却処分のためには、売却処分の担当者とその取引を経理上の仕訳に反映する担当者の業務をそれぞれ分担し、相互牽制を図ることが必要になります。 *  *  * 日常、身近にある資産についていくつか事例を挙げましたが、身近にあるからこそ適切に管理すべきであり、注意と配慮が行き届いた仕組み作りが求められているといえます。   【参考】 内部統制の目的について (※) 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(Ⅰ.1)から一部抜粋、下線は筆者による。 (了)

#No. 446(掲載号)
#打田 昌行
2021/11/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例65】テラ株式会社「過年度の適時開示の訂正等に関するお知らせ」(2021.9.28)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例65】 テラ株式会社 「過年度の適時開示の訂正等に関するお知らせ」 (2021.9.28)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、テラ株式会社(以下「テラ」という)が2021年9月28日に開示した「過年度の適時開示の訂正等に関するお知らせ」である。「適時開示の訂正」とあるが、「2020年4月から2021年3月までの1年間の期間において当社が行った適時開示60件を確認した結果、合計24件の適時開示資料においてその一部またはその全部に事実と異なる内容またはそのおそれがある内容が記載されていたことが判明」したというのである。1年間に行われた適時開示のうち半分近くが正しくなかったという酷い内容なのだが、なぜそうしたことが起きたのだろうか。 なお、同社は、これまでも不適切な開示を理由に改善報告書の提出を求められたことがあり(2020年12月15日開示「東京証券取引所からの『改善報告書』の再提出請求について」、2021年1月7日開示「東京証券取引所への『改善報告書』の提出に関するお知らせ」)、もともと開示姿勢に問題がある会社ではある。   2 始まりは テラは、2020年4月27日に「CENEGENICS JAPAN株式会社との業務提携及び新たな事業の開始に関するお知らせ」を開示している。CENEGENICS JAPAN株式会社(以下「セネジェニックス・ジャパン」という)と業務提携を結ぶことにしたというのだが、同社の代表は、当時テラの取締役監査等委員だった藤森徹也(以下「藤森氏」という)という人物である。そうした利益相反取引は、取締役会の承認を得れば可能ではあるのだが、自社の監査等委員が代表を務める会社との業務提携に対して、筆者個人としては違和感を覚える。このセネジェニックス・ジャパンとの業務提携がことの始まりだった。   3 第三者割当増資を行うものの テラは、セネジェニックス・ジャパンを割当先とする第三者割当増資も行うこととし、2020年10月28日に「第三者割当により発行される新株式の募集並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」を開示している。 しかし、その後、申込期日や払込期日の変更、新たな事実の判明があり、「(開示事項の変更)第三者割当により発行される新株式の募集に係る申込期日及び払込期日の変更並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動予定年月日の変更に関するお知らせ」という同じタイトルの開示を5回も行っている(2020年11月14日、2020年11月27日、2020年11月30日、2020年12月14日、2020年12月15日)。 ようやく増資が完了し、2020年12月17日に「第三者割当による新株式発行の払込完了及び一部失権並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関する取り消しのお知らせ」を開示したのだが、払い込まれる予定だった2,574,350,000円のうち実際に払い込まれたのは1,001,300円だけだった。   4 藤森氏への辞任勧告 その後、藤森氏による極めて不適切な行為が発覚し、テラは同氏に対して辞任勧告を行うことになる。2021年2月15日に開示した「監査等委員である取締役1名に対する辞任勧告の決議について」の「辞任勧告の理由」に、その極めて不適切な行為が次のように記載されている。   5 嘘だらけ こうしたことがあり、セネジェニックス・ジャパンに対して不信感を抱くようになったテラは、セネジェニックス・ジャパンとのそれまでの取引についての調査を法律事務所に依頼することにした。その結果について、2021年8月6日に「社内調査報告書の受領と今後の訂正開示に関するお知らせ」を、2021年9月27日に「追加調査となる社内調査報告書の受領のお知らせ」を開示したのだが、わかったことは、セネジェニックス・ジャパンの言っていたことが嘘だらけということだった。 例えば、テラは、2020年8月26日に「株式取得(子会社化)に関する株式譲渡契約書締結に関するお知らせ」を開示し、セネジェニックス・ジャパンから、同社の100%子会社のプロメテウス・バイオテック株式会社(以下「プロメテウス・バイオテック」という)の株式を51%取得するとしていた。そして、2020年12月25日には「子会社の異動を伴う株式譲渡に関するお知らせ」を開示し、そのプロメテウス・バイオテックの株式を再びセネジェニックス・ジャパンに譲渡するとしていた。しかし、そのプロメテウス・バイオテックという会社はそもそも存在していなかったのである。   6 上場廃止か? その調査結果を受けて今回の適時開示の大量訂正へと至ったのだが、さらにテラは監査法人から監査契約を解除されることになってしまう。2021年10月22日に開示した「会計監査人からの監査契約解約通知の受領に関するお知らせ」には、次のように記載されている。 このため、同社は、2021年12月期第3四半期報告書をその提出期限である2021年11月15日までに提出することができなくなった(2021年10月29日開示「2021年12月期第3四半期報告書提出遅延等及び当社株式の監理銘柄(確認中)指定の見込みに関するお知らせ」)。後任の監査法人を見つけ、四半期レビューを行ってもらい、2021年12月15日までに四半期報告書を提出することができなければ、同社は上場廃止になる。 なお、同社は2021年11月11日に「公認会計士等の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」を開示しており、後任の監査法人を見つけることはできている。   7 悪いのは こう見てくると、テラはセネジェニックス・ジャパンに騙された可哀想な会社のように思えてしまうのだが(セネジェニックス・ジャパンの方はその後破産。2021年9月10日開示「CENEGENICS JAPANの破産手続き開始に伴う当社への影響について」)、悪いのはセネジェニックス・ジャパンで、テラに非はないのだろうか。 そんなことはないだろう。テラも、上場会社として行わなければならないことが全くできていなかったのである。テラは、2021年10月13日付で特設注意市場銘柄に指定されているのだが、東京証券取引所からも以下の点を指摘されている(2021年10月13日開示「特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求に関するお知らせ」)。   8 誕生時から テラの創業者である矢﨑雄一郎氏(以下「矢﨑氏」という)は、2018年9月13日に法令等への違反を理由に代表の座を追われている(2018年9月13日開示「代表取締役の異動に関するお知らせ」)。また、同社は2018年12月12日に「主要取引先との取引停止に関するお知らせ」を開示し、代金の不払いを理由として「医療法人社団医創会に属する医療機関」との取引を停止することにしたとしているのだが、その医療法人と矢﨑氏の関係について、矢﨑氏は「本件法人の理事や社員ではないものの、本件法人を事実上コントロールする立場にある」としている。矢﨑氏は自身の利益のためにテラを利用していたのだろう。 医師でもある矢﨑氏の医師としての資質は不明だが、筆者が思うに上場会社の経営者としての資質は無かったのではないだろうか(ちなみに藤森氏も医師)。テラはそうした人物がつくった会社であり、誕生時から問題をはらんでいたと言える。 (了)

#No. 446(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/11/25

《速報解説》 「倫理規則」の改正に関する公開草案が会計士協会より公表される~倫理規則の理解のしやすさ向上や遵守促進のため、体系及び構成等の見直しを実施~

《速報解説》 「倫理規則」の改正に関する公開草案が会計士協会より公表される ~倫理規則の理解のしやすさ向上や遵守促進のため、体系及び構成等の見直しを実施~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月22日、日本公認会計士協会は、「「倫理規則」の改正に関する公開草案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、倫理規則の理解のしやすさを向上させ、その遵守を促進するため、倫理規則の体系及び構成等の見直しを行うとともに、国際会計士倫理基準審議会(The International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)の倫理規程の改訂を踏まえて、実質的な内容の変更を伴う個別規定の見直しを行うものである。 公開草案の公表に先立ち、次のものを公表している。 意見募集期間は2022年1月24日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 公開草案は全文で、242ページあるので、以下では主な内容について解説する。 「公開草案の概要」や「守秘義務に関する倫理規則の改正に当たっての考え方」なども公表している。 今後、倫理規則の遵守の徹底及び社会からの理解・信頼を得るため、倫理規則の根本となる基本的かつ重要な考え方について簡潔に示した「公認会計士倫理宣言(仮称)」を確定版と共に公表することを予定しているとのことである。 1 体系及び構成の見直し 現行の職業倫理の規範体系を見直し、次のものを廃止して「倫理規則」に統合するとともに、「倫理規則」全体の構成の見直しを行う。 基本原則の遵守及び独立性の保持は倫理規則全体を通じた要求事項であることを強調する規定としている。 会計事務所等所属の会員も、会計事務所等という組織の中においては、当該組織に所属する会員であるので、組織所属の会員に対する規定が適用されることから、次の順番で規定している。 2 勧誘 3 会員に期待される役割及びマインドセット 「探求心を持つこと」とは次のことを意味する。 4 審査担当者等の客観性 業務にかつて従事した者が当該業務の審査担当者に選任される際にクーリングオフ期間を設けるなど、審査担当者等の客観性の原則の遵守に関する規定を新設する。 5 報酬 6 非保証業務 7 客観性の原則 基本原則の「公正性の原則」を「客観性の原則」に変更する。 基本原則のうち、会員がバイアス、利益相反及び個人や組織等による過度の影響又は依存に影響されることなく、職業的専門家としての判断を行使することを、現行倫理規則では「公正性」としているが、「客観性」に改める。 8 守秘義務に関連する規定の見直し   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/24

《速報解説》 金融庁が「監査に関する品質管理基準の改訂」を確定~監査業務の変化に対応した品質管理体制の構築を監査事務所に求める~

《速報解説》 金融庁が「監査に関する品質管理基準の改訂」を確定 ~監査業務の変化に対応した品質管理体制の構築を監査事務所に求める~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月16日付けで(ホームページ掲載日は2021年11月19日)、企業会計審議会は、「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」を公表した。 これにより、2021年6月30日から意見募集していた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられたコメントの概要及びコメントに対する考え方も公表されている。 これは、経済社会を取り巻く環境変化が加速し、監査業務にも変化が生じていることから、監査事務所において、より積極的に品質管理上のリスクを捉えて、当該リスクに対処する品質管理体制の構築へとするものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ リスク・アプローチに基づく品質管理システムの導入 リスク・アプローチに基づく品質管理システムとは、監査事務所自らが、品質管理システムの項目ごとに達成すべき品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうるリスクを識別して評価を行い、評価したリスクに対処するための方針又は手続を定め、これを実施することである。 公開草案に対して、監査法人には、「リスク・アプローチ」の趣旨に沿った効果的で効率的な品質管理を行うことで、品質管理のトータルコストを増やさないように対応を行うことを強く求めるとのコメントが寄せられた(No.3)。 これに対して、品質管理基準は、監査基準と一体として適用されるものであり、監査事務所及び監査チームにおいて、監査業務のみならず、品質管理が効果的に行われることを前提にして、効率性も追求されることが期待されるとのことである。   Ⅲ 品質管理システムの構成 品質管理システムの項目ごとの主な改訂点は次のとおりである。 1 監査事務所のリスク評価プロセス 監査事務所の主体的な品質管理を可能とするため、監査事務所に対し、品質管理システムの項目ごとに、品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうる品質リスクを識別して評価を行い、評価した品質リスクに対処するための方針又は手続を定め、実施することを求める。 2 ガバナンス及びリーダーシップ 監査事務所に対し、次のことを求める。 3 職業倫理及び独立性 監査事務所に対し、次のことを求める。 4 監査契約の新規の締結及び更新 監査事務所に対し、次のことを求める。 5 業務の実施 より質の高い監査の実施を可能とするため、監査事務所に対し、次の事項に関する品質目標を設定することを求める。 6 監査業務に係る審査 原則としてすべての監査業務について審査を求めるとともに、品質管理の方針又は手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が定められている場合には審査を受けないことができることを規定する。 監査事務所は、意見表明前だけでなく、監査業務全体を通じて適時に適切な審査が行われていることを確かめなければならないことを明確にしている。 また、審査の担当者が客観性及び独立性を保持し、審査の担当者としての職業倫理を遵守しているかを確かめることを求める。 7 監査事務所の業務運営に関する資源 監査事務所に対し、人的資源に加え、テクノロジー資源、知的資源等の業務運営に関する資源の取得又は開発、維持及び配分に関する品質目標を設定することを求める。 8 情報と伝達 監査事務所の内外から適時に情報を収集し、監査事務所の内外と適時に情報の伝達を行うことが重要であるので、情報と伝達に関する品質管理システムの項目を新たに追加する。 9 品質管理システムのモニタリング及び改善プロセス 監査事務所が、監査事務所自身によるモニタリング、改善活動の実施、監査事務所の外部からの検査及びその他の関連する情報から得られた発見事項の評価を行うことを明確化する。 10 監査事務所間の引継 監査事務所に対し、監査事務所間の引継について品質目標を設定し、不正リスク対応基準において求められる引継に関する手続をすべての監査に対して求める。   Ⅳ 監査事務所が所属するネットワークへの対応 監査事務所に対し、品質管理システムにおいてネットワークの要求事項を適用し、又は業務運営に関する資源等を利用する場合には、監査事務所としての責任を理解した上で、適用又は利用することを求める。   Ⅴ 品質管理システムの評価 監査事務所の品質管理システムに関する最高責任者に対し、少なくとも年に一度、基準日を定めて品質管理システムを評価し、当該システムの目的が達成されているという合理的な保証を監査事務所に提供しているかを結論付けることを求める。   Ⅵ 適用時期等 改訂品質管理基準は、2023年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間(公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間)に係る財務諸表の監査から実施する。 改訂品質管理基準中、品質管理システムの評価については、改訂品質管理基準の実施以後に開始する監査事務所の会計年度の末日から実施することができる。ただし、それ以前の事業年度又は会計期間に係る財務諸表の監査から実施することを妨げない。 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/22

《速報解説》 会計士協会、EDINET で提出する監査報告書の欄外記載に関するお知らせを公表~書面と電磁的方法とを問わない改正公認会計士法施行後の記載例を示す~

《速報解説》 会計士協会、EDINET で提出する監査報告書の欄外記載に関するお知らせを公表 ~書面と電磁的方法とを問わない改正公認会計士法施行後の記載例を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月19日、日本公認会計士協会は、「EDINETで提出する監査報告書の欄外記載について(お知らせ)」を公表した。 これは、改正公認会計士法が2021年9月1日に施行されており、EDINETで提出する監査報告書の欄外記載に関する取扱いを示すものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 IT委員会研究報告第44号「新EDINETの概要とXBRLデータに関する監査人の留意事項」(以下「IT研44号」という)では、EDINETで提出する監査報告書において、監査報告書の原本に記載された事項を電子化した旨及びXBRLデータについては監査対象でない旨を欄外記載する場合の記載例を示している。 当該記載例は、書面により監査報告書を作成している場合だけを前提としていたことから、次のように、改正公認会計士法施行後の記載例(書面と電磁的方法とを問わない)を示している。 EDINETにより提出する中間監査報告書や四半期レビュー報告書についても、欄外記載について、同様に表現を工夫することが考えられるとのことである。 なお、上記の記載例は、必ず使用しなければならないという性質のものではなく、例えば、書面により監査報告書を作成する場合においては、IT研44号において提供している記載例を引き続き使用することも考えられるとのことである。 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/19

《速報解説》 会計士協会が「イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針」の公開草案を公表~改正電帳法施行に伴い取引情報の電子化加速が見込まれることなどに対応~

《速報解説》 会計士協会が「イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針」の公開草案を公表 ~改正電帳法施行に伴い取引情報の電子化加速が見込まれることなどに対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月19日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会実務指針「イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しに伴い、特にスキャナ保存制度の要件緩和などにより、企業の取引情報の電子化の一層の加速が見込まれることなどに対応し、監査人が監査証拠を電子データの一種であるイメージ文書で入手する場合の実務上の指針を提供するものである。 実務指針では、電子帳簿等保存制度を参考とすることが多いが、企業の電子帳簿等保存制度への準拠や適合の状況に関する監査人の対応について直接に取り扱うものではないとのことである。 意見募集期間は2021年12月20日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 「イメージ文書」とは、可読性のある電子データであり、書面の取引証憑と同等の記載内容を保っているデータをいう(12項(5))。 ファイル形式としては、PDFファイルや他の画像ファイル(BMP、TIFF、JPEG、PNG等)が想定されている(12項(5))。 実務指針は、次の両方のイメージ文書を対象としている。 さらに、原本である書面を電子化する場合には、企業が関連する法令等に従って電子化する場合と、監査の過程で監査人が依頼したことで電子化される場合があり、実務指針はこの両方を対象としている。 次の付録も記載されている。 2 原本 「原本」とは、イメージ文書に変換する前の元になったものであり、書面又は情報システムから出力された可読性のある電子データをいう(12項(6))。 実務指針は、監査の過程で監査人が監査証拠として入手する可能性のあるイメージ文書を取り扱っているため、原本という用語をイメージ文書と対比する目的で、上記のように定義している。 実務指針では、イメージ文書の作成を前提としていない書面等についての原本を定義することを目的としていないため、他の法令等における定義とは異なる場合があるとのことである(12項(6))。 監査人は、イメージ文書の元になった原本が被監査会社の管理下に存在し、それが監査の目的に関連する情報であり、監査人が監査証拠として必要と判断する場合には、経営者に対し当該原本の提供を求めることがある(14項)。 3 イメージ文書に係るリスクの識別と評価 監査人は、電子取引において受領又は交付したイメージ文書が複製であることのみを理由に監査証拠として十分かつ適切ではないと判断する、又は、情報の信頼性を何ら検討せずにイメージ文書が複製元の原本と全く同一の記載内容であると判断する、といった先入観を持たず、入手したイメージ文書が有する証明力並びに監査証拠としての十分性及び適切性を適切に評価して対応する(20項)。 監査人は、入手したすべてのイメージ文書に対して、その原本を確かめることを必ずしも常に要求されるものではないが、監査人が重要な虚偽表示リスクの程度が高いと評価し、より確かな心証が得られる監査証拠を入手する場合には、監査証拠の量を増やすことや、より適合性が高く、より証明力の強い監査証拠を入手することがある(42項、43項)。 後述のように、スキャナ保存に関しては、令和3年度(2021年度)税制改正により、スキャナ保存後直ちに書面の原本を廃棄することが可能となっている。 そのため、監査人は、監査上必要と判断する一定金額以上の契約書など、重要な監査証拠となり得る記録や書面の原本を、監査に必要な期間保存する必要があると判断する場合、被監査会社と事前に十分に協議し、例えば、被監査会社が原本を廃棄する前に、監査人が原本を確かめる又は必要に応じて廃棄予定の原本を監査人が入手するなどのような対応を検討することが考えられる(64項)。 4 令和3年度(2021年度)税制改正による監査への影響 令和3年度(2021年度)税制改正により、国税関係書類の電子的な保存のための要件が緩和されており、イメージ文書の保存に関して以下に留意する(32項)。 5 内部統制 監査人は、監査に関連する内部統制を理解する際に、監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」第12項に従い、内部統制のデザインを評価し、これらが業務に適用されているかどうかについて、企業の担当者への質問とその他の手続を実施して評価する(34項)。 イメージ文書の作成、受領及び保管に関する内部統制(IT全般統制を含む)を理解するに当たってのポイントなどが記載されている(37項ほか)。 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/19

《速報解説》 会計士協会、「合意された手続業務に関する実務指針」及びQ&Aの改正を確定~適用は2022年1月1日以降~

《速報解説》 会計士協会、「合意された手続業務に関する実務指針」及びQ&Aの改正を確定 ~適用は2022年1月1日以降~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月15日付けで(ホームページ掲載日は2021年11月19日)、日本公認会計士協会は、次のものの改正を公表した。 これにより、2021年4月30日から6月30日までの間及び2021年10月1日から11月1日までの間に意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられたコメントに対する対応も公表されている。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)「国際関連サービス基準(ISRS)4400「Agreed-Upon Procedures Engagements」」(2020年4月3日)の公表に伴うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」 合意された手続業務では、業務依頼者が実施される手続を業務の目的に照らして適切であると認めた場合に、業務実施者が、業務実施者と業務依頼者が合意した手続を実施する(6項)。 合意された手続業務は、監査業務、レビュー業務又は監査及びレビュー業務以外の保証業務ではない(8項)。 合意された手続業務では、いかなる場合でも、業務実施者が意見又は保証の結論を表明することを目的として、証拠を入手することはない(8項)。 主な改正点は次のとおりである。 1 合意された手続業務における職業的専門家としての判断の明瞭化 業務実施者は、業務の状況を考慮して、合意された手続業務の契約の新規の締結及び更新、並びに実施及び報告において職業的専門家としての判断を行使しなければならない(19項)。 2 独立性に関する事項 独立性が要求されていない合意された手続業務についても、実施結果報告書において独立性に関する記載を行う(独立性の保持が要求されていない旨の記載。33項(12))。 3 「合意された手続実施結果報告書の目的」に関する見出しの追加 合意された手続業務(契約)の目的の明瞭化のため、改正版専門実4400では、実施結果報告書に「合意された手続実施結果報告書の目的」に関する見出しが追加されている。 4 実施結果報告書の配布及び利用制限 改正版専門実4400では、関係者のみに実施結果報告書を配布及び利用する旨の要求事項はない。 配布及び利用制限については、業務実施者の判断に基づいて決定する。   Ⅲ 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に係るQ&A 1 職業的専門家としての判断について(Q4) 合意された手続業務に関して、業務実施者は職業的専門家としての判断が求められる。 業務実施者は、業務の状況を考慮して、合意された手続業務の契約の新規の締結及び更新、並びに実施及び報告において職業的専門家としての判断を行使しなければならない(専門実4400第19項)。 2 独立性(Q8) 専門実4400に基づく合意された手続業務において、法令又は契約条件に基づく場合を除いて、業務実施者の独立性は求められていない。 しかしながら、各国の倫理規程、法令、その他の職業的専門家としての要求事項又は合意された手続業務の業務対象に関する契約、プログラムもしくは取決めにより、独立性に関する要求事項が規定される場合がある(専門実4400のA14項)とし、独立性に関して詳細に記載している。 3 合意された手続及びその手続実施結果の記載(Q11) 合意された手続及び手続の実施結果の記載に関する留意事項として、合意された手続業務の契約を締結する条件として、合意された手続及びその手続実施結果は、明確で、誤解を招かず、かつ、様々な解釈が生じない方法で、客観的に記述することが求められている(専門実4400第23項(3))とし、「手続実施結果の適切な記載」と「手続実施結果の不適切な記載」の例を示しつつ、詳細に記載している。   Ⅳ 適用時期等 2022年1月1日以降に契約を締結する合意された手続業務に適用する。 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/19
#