検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10383 件 / 2841 ~ 2850 件目を表示

遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第3回】「遺言により現預金の寄付をする場合」

遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第3回】 「遺言により現預金の寄付をする場合」   税理士・中小企業診断士・行政書士 脇坂 誠也   今回は、遺言で現預金の寄付をする場合の課税関係について説明していきたい。 例えば、公正証書遺言や自筆証書遺言の中に、「現預金〇〇円は、特定非営利活動法人〇〇へ寄付をする」というような遺言を遺すケースである。   1 遺言による寄付の相続税の課税関係 遺言で非営利団体に寄付をする場合に、特定公益増進法人や認定NPO法人に寄付をすると相続税が非課税になるが、一般社団法人や一般財団法人、認定を受けていないNPO法人などに寄付をすると課税されると考えている方もいるが、これは間違いである。 遺言による法人への寄付の場合には、寄付先に関わらず、原則として相続税は課税されない。法人は原則として相続税の納税義務者にならないからである。 ただし、遺贈により、遺贈をした者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについては、法人を個人とみなして、相続税が課税される。 つまり、遺言による寄付は、原則は相続税はかからないが、遺言による寄付が、租税回避行為とされた場合については、法人を個人とみなして、法人に相続税を課するということである。 《遺言による法人への寄付の相続税の課税関係》   2 相続税法66条の規定 遺言による寄付について、相続税法66条に定められているので、条文を確認することにする(下線筆者)。 (1) 人格のない社団等の取扱い(相法66①) 相続税法66条1項では、法人ではない団体、税法では、「人格のない社団等」と言われるが、通常、任意団体についての取扱いについて述べられている。 人格のない社団等は、法人税法では法人とみなすとされている(法法3)が、相続税法には、この規定はない。相続税法では、人格のない社団等は、個人とみなして相続税を課することになる。 例外として、相続税法12条1項3号で、「宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続又は遺贈により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの」は、相続税の課税価格に算入しないとされている。 例えば、交通遺児に対する奨学金の支給で有名な「あしなが育英会」は、長い間、任意団体であった(2019年に「一般財団法人あしなが育英会」に移行)。あしなが育英会の活動が、「公益を目的とする活動」であることは誰もが異存のないところであろう。したがって、あしなが育英会への遺言による寄付について、相続税が課税されることはなかった。 一方で、国税庁の質疑応答で、町内会に対する遺言による寄付の取扱いが公表されている。町内会に遺言で寄付をした場合には、相続税法12条1項3号の相続税の非課税財産にならず、相続税法66条1項の規定により、町内会が相続税を納める義務があるというものである。 (※) 国税庁 質疑応答事例「町内会に寄附した相続財産」 (2) 法人の取扱い 相続税法66条4項では、「持分のない法人に対して遺贈があった場合」の取扱いが定められている。非営利法人は、持ち分のない法人に該当する。 持分のない法人に対する遺贈は、「遺贈により遺贈をした者の親族その他これらの者と第64条第1項に規定する特別の関係がある者の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるとき」について、相続税法66条1項の規定が準用される。相続税法66条1項の規定は、前述の通り、「当該社団又は財団を個人とみなして、これに相続税を課する」ということである。 逆に言うと、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められなければ、法人は、原則として相続税の納税義務者にならないのであるから、相続税は課税されない。 また、収益事業課税が適用されるNPO法人や、非営利型一般社団・財団法人、公益社団・財団法人等であれば、寄付金は収益事業にならないので、法人税も課税されない。 そうすると、気になるのは、どのような場合に、「相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるのか」ということである。 次回は、この問題を取り上げていく予定である。 (了)

#No. 439(掲載号)
#脇坂 誠也
2021/10/07

租税争訟レポート 【第57回】「事務所立退料の所得区分(第一審:東京地方裁判所平成25年1月25日判決、控訴審:東京高等裁判所平成26年2月12日判決)」

租税争訟レポート 【第57回】 「事務所立退料の所得区分(第一審:東京地方裁判所平成25年1月25日判決、控訴審:東京高等裁判所平成26年2月12日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決/決定の概要】 〈第一審〉 〈控訴審〉 〈上告・上告受理申立て〉   【事案の概要】 本件は、弁護士である原告が、平成18年分、平成19年分及び平成20年分の所得税について、その法律事務所のために賃借していた建物の部分を賃貸人に明け渡したことに伴って賃貸人から取得したいわゆる立退料(原告が取得したこの金員を総称して、以下「本件金員」という)に係る所得を一時所得に区分した内容の確定申告書をそれぞれ提出したところ、麹町税務署長から、当該所得の一部は事業所得に区分される等として、本件各更正処分等を受けたため、それらの一部の取消しを求めた事案である。 原告が、旧事務所の賃貸人との間で合意した内容(合意書の要旨)は以下のとおりである。   【第一審判決の概要】 1 原処分庁による更正処分等/国税不服審判所による裁決 原告の平成18年分から平成20年分までの確定申告における所得区分ごとの金額、課税所得金額に対する税額と、これに対する原処分庁による更正処分等(更正処分等は2度行われているため、2度目の処分)の内容及び国税不服審判所による裁決は、次の表のとおりである。 〈各係争年分の原告の所得金額・税額の一覧(単位:円)〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 争点 なお、本稿では、〔争点1〕に係る所得区分について、原告及び被告の主張、これらに対する裁判所の判断を検討する。 3 所得区分(争点1)に関する主張 (1) 被告(国)の主張の要旨 被告は、明渡合意書に基づき支払われた金員は、旧事務所の明渡移転費用及び平成18年の差額賃料補填費用等並びに新事務所の賃料等の差額補填費用の一部、旧事務所から新事務所に移転するに当たって生ずべき費用を補償する性質のものであることは明らかであると主張した。 そのうえで、所得税法施行令94条1項2号に規定する「当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」について、 との見解を示したうえで、本件金員は、原告の事務所の移転に伴う支出である移転関係費用、内装工事費用等及び新事務所における旧事務所との賃料等の差額分に充てるためのものから構成されており、移転関係費用と差額賃料に関しては、原告の事業所得の金額の計算上、本件金員の支払を受けた年分の必要経費に算入されるものであるから、原告の必要経費を補填するために受領した金銭であり、所得税法施行令94条1項2号の「収益の補償として取得する補償金」に該当すると解すべきものであることは明らかであると主張した。 さらに、資本的支出である内装工事費用についても、その大部分が将来の年分の必要経費となり、通常の経費とは必要経費に算入する時期が異なることになるが、結局は、事業所得の必要経費に算入される金額であるから、当然、資本的支出を補填するために受領した金銭もまた一般の必要経費を補填するために受領した金員と同様、「収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に該当するものとして、一般の必要経費を補填するための支払と同様の課税ルールの適用対象とされる必要があることから、本件金員は、いずれも原告の事業所得の必要経費を補填する趣旨で支払われた金員であることに変わりはなく、いずれも前記①ないし③の要件を満たす金員であるから、所得税法施行令94条1項2号の規定に基づき、その取得した年分の原告の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべきものであると結論を導いている。 (注) 本稿で引用している条文、通達等に関しては一部括弧書き等を省略している。 (2) 原告(納税者)の主張の要旨 原告は、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的な地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうのであり、弁護士である原告の職務は、一般の法律事務であるところ、弁護士の事業所得となる弁護士報酬は、法律相談料や書面による鑑定料、着手金、報酬金、手数料、顧問料、日当であって、立退料はこのいずれにも当てはまらない。そもそも、立退料は、弁護士の職務とは全く関係のない収入であり、事業所得とは到底評価することができないものであると所得区分について主張した。 そのうえで、一時所得とは、営利目的もなく、継続的でもなく、労働や資産からの収入でもなく、偶然かつ一時的に生じた収入であり、たまたま運良く得た一時的・臨時の収入のことであり、この一時所得なるものを認め、事業所得等とは異なった税率を課している趣旨は、臨時・偶発的な利得について、税負担の軽減を図り、事業所得とは異なった扱いをすることとした点にあることから、一時所得であるか否かを考える場合、課税の実質を考慮し、上記の趣旨に沿うものであるか否かを考える必要があるとして、本件金員に係る所得については、一時所得として扱われるべきであると結論づけた。 さらに、原告は、本件のこれまでの経緯について、各更正処分等、異議決定、減額再更正処分及び裁決における結論がそれぞれ異なっており、厳格であるべき課税行為が、このように揺れ動くこと自体おかしなことというべきであると批判した。 4 東京地方裁判所の判断 第一審である東京地方裁判所は、結論として、原告が取得した金員のすべてを事業所得とする判断を示し、そのうえで、被告が本件訴えにおいて主張する原告の本件各係争年分における納付すべき所得税の額は、前記の表のとおり、各更正処分における納付すべき税額をいずれも上回るから、本件各更正処分はいずれも適法であるという判決を示した。 所得区分に関する裁判所の判示内容は主に次のとおりである。 5 東京高等裁判所の判断 控訴審である東京高等裁判所は、原審判決を維持して、控訴を棄却する判断を示した。ただ、判示事項の中で、控訴人(第一審原告)が取得した本件金員の一部については、一時所得とすることを認めている。その部分の判示内容は次のとおりであり、退去費用補填を一時所得としたとしても、納付すべき税額が、平成18年分の更正処分の金額を下回ることはないため、処分は適法であると結論づけている。 (1) 退去費用補填分の取扱いについて 退去費用補填分は、控訴人の平成18年分確定申告のとおり、平成18年の一時所得の総収入金額に算入されると解すべきであるが、支出された退去費用は事業所得に係る経費ではなく、一時所得に係る経費に算入されるべきである。所得税法34条2項は、「一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする」と規定し、一時所得に該当する立退料収入を得た場合に支出した立退費用は、立退料収入と直接的な対応関係のある費用であり、その金額は、立退料収入を生じた原因である立退行為の発生に伴い直接要した金額というべきであるから、一時所得の金額を算出するに当たり、一時所得を得るために支出した経費の金額として、一時所得の総収入金額から控除すべきである。 (2) 平成18年分更正処分について 裁決書によると、退去費用補填分は、同額が退去費用として支出されたことが認められるから、一時所得の総収入金額に計上される額と一時所得を得るために支出した経費として計上される額には、同額が計上されることとなり、結果として、一時所得の金額は0円となり、平成18年分確定申告書のように、支出された本件退去費用を事業所得に係る必要経費として、事業所得に係る収入額から控除することはできない。 平成18年分更正処分の根拠となる金額及び納付すべき税額の算定方法は、退去費用補填分及び退去費用を除くと原判決記載のとおりと認められるため、平成18年分の所得税の算定においては、退去費用補填分を一時所得とした場合の計算であっても、本訴における被控訴人主張額の計算と同じく、一時所得の金額は0円となり、しかも、本来事業所得の必要経費として控除されるべきではない退去費用が事業所得から控除されているから、控訴人の平成18年分の所得税の課税標準額及び納付すべき税額が、上記被控訴人主張額及び平成18年分更正処分の金額を下回ることはない。したがって、平成18年分更正処分は適法である。 6 最高裁判所の判断 最高裁判所(第一小法廷)は、本件上告/上告受理申立てについて、次のように理由をつけて、棄却/不受理の決定を行った。   【解説】 原告である弁護士が賃貸人との間で合意した事務所明渡しの補償金は合計6,000万円。合意内容を読むと、このうち2,000万円は、それぞれ新事務所との賃貸借契約継続を条件にして1年当たりの金額を決めていることから、新旧事務所の賃借料の差額補填の意味合いが強そうであり、麹町税務署による更正処分も全額を「事業所得」と認定している模様である。 一方、合意書締結時と明渡時に支払われた4,000万円については、その性格は判然としない。原告の弁護士は確定申告において、全額を「一時所得」としているが、麹町税務署、国税不服審判所はこれを否認し、一部を「事業所得」と認定した。そして、この判断は裁判でも維持された。 あらためて、立退料の所得区分について考えてみたい。 1 所得区分の定義 本件では、弁護士である原告が取得した立退料について、その所得区分が問題となったわけだが、ここで、あらためて、争点となった所得区分について、それぞれの定義を確認していきたい。引用する定義は、すべて、金子宏『租税法(第23版)』に拠っている(一部の文章を省略し、又は文言を補っていることをお断りしておく)。 (1) 事業所得(※1) 事業所得とは、各種の事業から生ずる所得のことであり、事業とは、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行われる活動のことである。 (※1) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年、239頁)。 事業と非事業との区別の基準は必ずしも明確ではなく、ある経済活動が事業に該当するかどうかは、活動の規模と態様、相手方の範囲等、種々のファクターを参考として判断すべきであり、最終的には社会通念によって決定するほかはない。 (2) 一時所得(※2) 一時所得とは、利子所得ないし譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一次の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質をもたないものをいう。その特色は一時的・偶発的利得であることにある。これらの利得は、制限的所得概念のもとでは、所得の範囲から除かれるのが普通であるが、所得税法は、包括的所得概念の考え方の影響のもとに、これを課税の対象としたのである。 (※2) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年、297頁)。 2 立退料の所得区分について、国税庁が公表している見解 所得税法施行令94条1項に規定する、「業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金」が、事務所移転に伴う立退料を包含するものであるという裁判所の判断は、条文の文言だけを読んでも、なかなか理解しづらいところである。 おまけに、所得税基本通達では、括弧書きを読み飛ばしてしまうと、立退料は一時所得に該当すると判断したくなるような規定も置かれている。前述の施行令では「業務の休止、転換又は廃止」、通達では「業務の休止」という文言がそれぞれ使われており、事務所移転に際し、業務の休止期間がない場合には、これらに該当しないという主張の余地も考えられよう。 さらに、裁判において、原告が主張の根拠の1つとしていた国税庁の「タックスアンサー」で公開されている情報も引用しておきたい。 こちらも「事業の休業による補填」と明示されている。 このタックスアンサーの内容について、被告は、第一審で次のように説明している。 一方、控訴審判決で、東京高等裁判所は、こう説明している。こちらは、タックスアンサーには、根拠となる通達が明示され、その取扱いは従前から変更がないこと、納税者が弁護士であることという事情から、タックスアンサーを参考に申告を行ったことを理由に、過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとはいえないとしている。 3 実務上の取扱い 中央大学法科大学院の酒井克彦教授は「立退料の所得区分」について、以下のように分類している(※3)。 (※3) 酒井克彦『二訂版 裁判例から見る所得税法』(大蔵財務協会、2021年、348頁)。 そのうえで、賃貸借の当事者間で授受される立退料が上記①から③のように明確に区分されていることは少なく、その法的性質を分類することは困難であることが多いことから、「所得税基本通達34-1(一時所得の例示)」を参照する形で、上記の①から③の性質が事実認定として判然とする場合を除き、「課税実務においては、借家人が受ける立退料のうち、借家権の消滅の対価の額に相当する部分の金額は、譲渡所得に係る収入金額に該当するとし、それ以外のものついては一時所得として取り扱っている」と説明している。   (了)

#No. 439(掲載号)
#米澤 勝
2021/10/07

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第49回】「「住宅借入金等特別控除(措法41)」との適用関係」-居住用財産の譲渡損失特例と他の特例との重複適用関係-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第49回】 「「住宅借入金等特別控除(措法41)」との適用関係」 -居住用財産の譲渡損失特例と他の特例との重複適用関係-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、16年前から住んでいた家屋とその土地を、本年1月に売却しましたが、多額の譲渡損失が算出されました。 同年3月に、銀行に償還期間20年の住宅ローンを組んで買換資産を購入し、現在、居住の用に供しています。 他の適用要件が具備されている場合に、譲渡資産に関しては「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けて、買換資産に関しては「住宅借入金等特別控除(措法41)」を受けることは可能でしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」は、「住宅借入金等特別控除」との重複適用が可能です。 ●○●○解説○●○● 「住宅借入金等特別控除(措法41)」は、入居した年とその前後の2年ずつの5年間にその家屋(その家屋の敷地等を含みます)以外の資産(従前の住宅及びその敷地の譲渡に限ります)を譲渡した場合において、その資産の譲渡につき、次に掲げるいずれかの特例を受けるときは、その入居した年以後10年間の各年分についてその適用を受けることができないこととなっています(措法41⑳㉑)。 したがって、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」は重複適用できない規定から除かれていることから、本事例の場合、Xは、譲渡物件については「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受け、買換物件に係る住宅ローンについては「住宅借入金等特別控除」を重複して適用できることとなります。 (了)

#No. 439(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/10/07

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第92回】「ソフトウェア等開発委託基本契約書」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第92回】 「ソフトウェア等開発委託基本契約書」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社はソフトウェア開発会社です。コンピュータソフトウェアの開発に係る業務を請け負うにあたり、下記の「ソフトウェア等開発委託基本契約書」を取り交わすことを予定していますが、印紙税の取扱いはどうなりますか。 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当し、印紙税額は4,000円となる。   [検討1] ソフトウェア等の開発業務の委託契約は請負契約か委任契約か ソフトウェア等の開発業務を委託する際に、業務の完成を受託者にすべて任せるのか、あるいは委託者の指揮命令によってソフトウェアの開発業務を行うのかにより取扱いが異なる。 事例のように業務の完成を受託者にすべて任せる場合は、請負契約に該当し、委託者の指揮監督下のもとソフトウェア等の開発に携わる場合には委任契約あるいは人材派遣契約に該当する。   [検討2] 継続的取引の基本となる契約書の要件は 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当するものの要件は、以下のすべての条件を満たすものとされている。   [検討3] 著作権の譲渡とは ソフトウェア等の開発業務の委託にあたり、著作権が受託者から委託者に移転することとされているものは、無体財産権の譲渡にあたり第1号の1文書に該当する。 なお、無体財産権の譲渡に関する契約書は、無体財産権そのものを譲渡するものであり、無体財産権を利用できる権利(実施権又は利用権)を他人に与えたりする場合は無体財産権の譲渡にはあたらない。   ▷まとめ ① 事例のソフトフェア等開発業務の委託契約はソフトウェア等の受託者である乙が開発業務を請け負い、検収完了後、成果物を甲に引き渡し、請負代金を乙に支払うこととしていることから、請負契約に該当し第2号文書に該当する。 ② また、この契約書は営業者間における基本契約であり、個々の開発物について2以上の取引を継続して行うために作成する文書で、第1条において、印紙税法施行令第26条第1号に規定する取引条件のうち、目的物の種類「コンピュータソフトウェアの開発」を、第4条において「対価の支払方法」を定める文書に該当することから、第7号文書にも該当する。 ③ 第6条において、納入物に関する著作権は、乙より甲に移転されるものとされることから、第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)にも該当する。 このことにより、事例の契約書は第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)、第2号文書(請負に関する契約書)及び第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当するが、第1号の1文書及び第2号文書に係る記載金額がないため第7号文書に該当する。   (了)

#No. 439(掲載号)
#山端 美德
2021/10/07

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第63回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第63回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   9 通達の取扱い 収益認識会計基準の公表に伴い、平成30年度税制改正が行われ、これを受けて収益の計上時期や計上額等に関する法人税基本通達も様変わりした。通達は原則として納税者や裁判所を法的に拘束するものではないが、その内容は法令よりも具体的であり、税務職員は基本的にこれに従って処理を行う。よって、通達が実務に与える影響は大きい。 もちろん、通達の内容が法令に適合しているかという視点を常に持ち続ける必要はあるが、通達にピントを合わせることにより、関係法令に対する理解も深まり、新たな気付きを得ることもできる。 かねてより、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売等に係るその事業年度の収益の額とされ、その収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされている(法法22④)。このことを受けて、法人税基本通達等において具体的な収益の計上時期等についての取扱いが定められていた。 顧客との契約から生じる収益に関する包括的な会計基準として収益認識会計基準が導入され、これを踏まえ平成30年度税制改正において資産の販売等に係る収益に関する規定の改正が行われた。同基準は、「企業会計原則」に優先して適用される会計基準としての位置付けがなされており、「履行義務」という新たな概念をベースとして収益の計上単位、計上時期及び計上額を認識する会計処理を行うものとしている。法人税法では、22条の2を創設するなどし、新たに資産の販売等に係る収益の計上時期及び計上額を明確化する規定が設けられるなどの改正が行われている。 これらを踏まえ、法人税基本通達においては、収益認識会計基準における収益の計上単位、計上時期及び計上額について「履行義務」という新たな概念を盛り込んだ形で見直しを行うとともに、法人税法において収益の計上時期及び計上額についての規定が設けられたこと等に伴う取扱いの整理を行っている(国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について」参照)。今回の通達の整備方針については、本連載第3回を参照。 新たに整備された通達の趣旨については、国税庁から「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」(以下「趣旨説明」という)として公表されている。 以下では、改正された法人税基本通達のうち基本的なものや今後の検討に有益なものを取り上げて検討する。 (1) 収益の計上の単位の通則(法人税基本通達2-1-1) 収益認識会計基準は、顧客との契約を識別し(ステップ1)、契約における履行義務を識別し(ステップ2)、契約における取引価格を算定し(ステップ3)、履行義務に取引価格の配分をし(ステップ4)、最後に、履行義務の充足に基づいて収益の認識を行うこととしている(ステップ5)。 同基準では、約束した財又はサービスを顧客に移転することにより、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識する。履行義務は、所定の要件を満たす場合には一定の期間にわたり充足され、所定の要件を満たさない場合には一時点で充足される(基準17(5)、35、38、39)。収益の認識の単位として、履行義務に着目しているのである。 このように収益認識会計基準は履行義務単位で収益を認識することを原則とするが、一定の場合には契約単位で認識することを認めている。 IFRS第15号では、契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分について定められており、契約書の記載とは異なる収益認識の単位の識別及び取引価格の配分が求められる可能性がある。 この点について、わが国においては、契約書は、企業と顧客が諸条件を合意したものであり、その履行に法的責任を伴うものであるから、契約書に客観的な合理性を認め、企業による過度の負担を回避するために、契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を認めるべきであるとの意見がある。 他方、契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を無条件に認めると、IFRS第15号における契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分による結果と乖離することへの懸念も示されている(指針174)。 これらを踏まえ、適用指針では、次のとおり、一定の場合には、個々の契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を認めることを定めている(指針101)。 そこで、法人税法においても、収益の計上の単位をどのように考えるべきかが問題となるが、法人税法はこの点に関する具体的な定めを設けていない。 以上を踏まえ、法人税基本通達2-1-1に収益の計上の単位の通則に関する定めが設けられた。   (了)

#No. 439(掲載号)
#泉 絢也
2021/10/07

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第19回】「M&AのためのB/SとP/Lの基本姿勢~B/S編~」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第19回】 「M&AのためのB/SとP/Lの基本姿勢~B/S編~」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの売り手探しに際して有用な財務面の見方のヒントを得る。 売り手企業 ⇒M&Aに備えて財務面のどこに着目するかを知る。 支援機関(第三者) ⇒売り手の財務面の見方のポイントを知りM&Aの助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒売り手に対する視点を通じて対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。   1 過去の期間の蓄積情報の把握と時価の情報源としてB/Sは重要 中小企業の経営者に「どの決算書を意識し重視するか」という質問をすれば、相当な割合でP/Lは挙がる一方、B/SはP/Lと比べると相対的に意識が薄く、さほど重視していないという回答結果になるのではないでしょうか。もちろん、キャッシュ全体や借入残高を把握するために便利ですから、部分的には活用が考えられます。そうは言っても、やはり、毎期の業績の方がシンプルに経営者の心をつかみやすいと思います。 しかし、M&Aの世界では、B/SはP/Lと匹敵するくらい、いやそれ以上か、いやいやそもそも比べられるものでも、優劣をつけるものでもまったくありませんが、とにかくB/Sは重要です。 企業が誕生してから現在に至るまでの財務情報の蓄積の結果が、すべてB/Sに凝縮されています。皆様も、テレビなどで「継ぎ足し」の「秘伝のタレ」といった話題を見聞きした経験があると思いますが、B/Sは上書きを繰り返しながら、企業の歴史とともに、もっとも新しい情報へと塗り替えられていくものです。 それは、企業の性格、最新の財務状況(会計用語で言えば“財政状態”と表現されるB/S)、(算定すれば)時価、正味財産、安全性分析のための指標の基礎データにはじまり、細かくみれば、キャッシュ、在庫、売掛金、固定資産、借入金、内部留保といった勘定科目のほかの状況に至るまで、様々な情報を利用者側に提供してくれます。 M&Aの買い手側から見れば、統合後、どの資産を活用できそうで、追加投資の必要性があるか、借入金の返済資金の捻出をどのように考えるか、処分の必要性がある資産を吟味する、といった具合に、今後取り得る戦略、計画についてB/Sを起点に検討できる意味で、M&A情報の要と言える財務諸表の1つです。 今回は、M&AのためのB/SとP/Lの基本姿勢のうち、前回のテーマで扱ったP/Lに対して、B/Sの内容を解説します。   2 M&AのためのB/Sの基本姿勢 前回のP/L編と同様に、中小企業のM&Aに備える経営者として好ましい(あるいは好ましくない)B/Sの基本姿勢の例を見ていきます。 (1) 「会計方針」と言われても何のことか思い浮かばない ➡ 好ましくない 多くの中小企業では、大半の勘定科目について、記録した時の取得原価や簿価で計上したまま、時価の変動や回収可能性などの事象の変動を考慮しない方針をとっていると思います。 しかし、M&Aの現場では、少なくとも「会計方針」に則って、さらに一部の科目では「会計方針」の枠組みを超えた範囲で時価の計測を行うなど、現状のB/Sとは相当程度異なるアプローチをとっていきます。 「会計方針」に従った会計処理をしていると、M&A時にもそのまま通用するものが複数あります。たとえば、引当金、金融商品などの時価評価、固定資産の減損会計、税効果会計などです。これらを反映すれば、B/Sは財政状態をより忠実に表現できるレベルへと高めますが、実際のところ、ほとんどの中小企業のB/Sは、現状のままではその役割を十分に発揮しているとは言えません。 売り手自らが「会計方針」に従う会計処理をし、B/Sを作成するのが難しければ、顧問への要請を通じて、B/Sをブラッシュアップするのも手です。本来あるべきB/Sにする方が、対金融機関などからの信頼もアップしますので、M&Aを問わずB/Sへの向き合い方を変える1つのきっかけとなるはずです。 (2) B/Sの情報をさほど確認しない ➡ 好ましくない 「B/Sの情報をさほど確認しない」ということは、B/Sに注意を払っていないということになります。これは、当社の財政状態の把握を放棄しているに等しく、今後も安定した経営を継続できるか、投融資の必要性があるか、経営戦略の転換が必要か、といったこれからの計画、戦略までを考える経営ができていない、言い換えれば、成り行き経営しかできないと宣言しているのも同然です。 手持ちの駒をどのように活かして、あるいは、足りない駒をどこからどのように集めて、次の成長、発展につなげるかを考える際の材料が手元にあるわけですから、見方は誰かから教わるとしても、何よりもまず、活用しないという選択肢はないはずです。 (3) 当社のB/Sを使って、B/Sのバランスや当社の特徴を言える ➡ 好ましい 上記は、すべてB/Sを活用して言えるB/Sのバランスや企業の特徴ばかりです。 思うような経営ができている理由も、できていない原因も、B/Sの中に案外答えやヒントが隠されているかもしれません。定点観測をする上で、これほど役立つ情報源はないでしょう。 P/LにB/S情報を加えてみて当社がどのような企業かを説明できるか、一度、口頭又は文章で起こせるかを試してみると、買い手と融合した場合の強みになる新たな発見が得られるかもしれません。 (4) 潜在リスクを挙げられない ➡ 好ましくない M&Aで遭遇する代表的な潜在リスクは簿外債務です。必ずしも粉飾や不正をしているというわけではなくて、潜在的に、取引先や顧客に対してなんらかの形で債務を負う可能性がある、訴訟に巻き込まれて賠償責任を負うリスクを伴う契約があるなど、とりわけ将来の経営悪化リスクを企業として十分に把握、予測できているか、という予見性の能力のレベルを見るために、「潜在リスク」はとても重要な概念になります。 主力工場が災害や事故などによって操業停止に追い込まれたら、当社商製品の不買運動が起こったら、法改正で規制がかかったら、故障、不具合、未払い、訴え、賠償、要求といった相手のある事象から、環境、災害、感染症、法令といった企業を取り巻く将来事象の変化までを考慮すれば、いったいどれほどの潜在リスク、経営上のリスクがあるでしょうか。 上場企業などに作成義務のある有価証券報告書には、「事業等のリスク」という企業グループの抱えるリスクを掲げる項目が設けられています。リスクを考えない経営、M&Aはありませんので、売り手側の経営者は買い手に対して、どのような潜在リスクがあるかを説明できるくらいの整理をしておくのが当然ですし、M&Aがなくても潜在リスクをわかっていない経営をしているようであれば、この先危険です。 (5) 勘定科目、金額を見ても、いつ頃から何のために計上したかを思い出せないものがある ➡ 好ましくない 中小企業の決算書で多く見かけるケースで、誰かが行った会計処理の結果が後の担当者に対して十分に引き継がれずに、いつの間にか、誰が見てもよくわからない勘定科目と金額が計上しっぱなしになっている、というものがあります。いわば“M&Aあるある”の1つです。 中小企業の経理は属人的になりやすく、経営者が決算書に関心を寄せない場合、経理しか決算書の内容を説明できる人材がいなくなってしまいます。ところが、B/Sには何十年、ときには百年を超える会計処理が蓄積されますから、途中で担当が変わって、過去の処理の理由、目的などが伝わらないまま放置されると、いずれ誰も説明できない勘定科目、金額になってしまう、というオチです。 いわゆる不明残高として処理するか、過去の膨大な資料を探しながら当初になぜそのような会計処理を行ったかの記録を遡って追う、などが事後の処理として考えられますが、いずれにしてもほとんどの場合は確証のない後味の悪い顛末を迎えます。 B/SはP/Lと異なり、過去の取引が蓄積されていきますので、より明瞭さ、明確さが求められるもの、という認識が必要です。 *  *  * M&Aのデューデリジェンスを中心とする手続きでは、B/Sの情報源を重視して検証が進められます。それだけに、M&Aの際には、売り手が決算書に対して普段どれだけ丁寧に向き合ってきたかどうかがわかってしまうものです。 M&A時点で売り手をもっともよく知るはずの売り手自身が、ぱっとしない回答しか出せないのでは、買い手や第三者からの信用を簡単に失うでしょう。B/Sへの向き合い方、姿勢を見直すかどうかは、今後の売り手自身の意識にかかっています。 (了)

#No. 439(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/10/07

収益認識会計基準を学ぶ 【第14回】「財又はサービスに対する保証」

収益認識会計基準を学ぶ 【第14回】 「財又はサービスに対する保証」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 収益認識適用指針は、「特定の状況又は取引における取扱い」を規定している。 この取扱いは、収益認識会計基準を適用する際の補足的な指針とは別に、特定の状況又は取引について適用される指針である(収益認識適用指針131項)。 今回は、「財又はサービスに対する保証」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 財又はサービスに対する保証 1 概要 財又はサービスに対する保証には、次のものがある(収益認識適用指針132項)。 保証の内容と会計処理の概要は次のとおりである(収益認識適用指針34項~36項)。 2 引当金の対象となる保証 例えば、製造業者がある地域において製品を販売し、その地域では法律により、企業の想定どおりに製品を使用している消費者に生じるいかなる損害についても製造業者が責任を負うものとしている場合がある(収益認識適用指針134項)。 このように、財又はサービスが危害又は損害を生じさせた場合に賠償金の支払を企業に要求する法律は、履行義務を生じさせるものではない(収益認識適用指針134項)。 財又はサービスによる特許権、著作権、商標権又はその他の権利侵害から生じる負債及び損害について顧客に補償するという企業の約束は、履行義務を生じさせるものではない(収益認識適用指針134項)。 これらの義務については、「企業会計原則」注解(注18)に従って引当金の計上の要否を判断することとされている(収益認識適用指針134項)。 3 保証サービスを含むかどうかの判断 財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを含むかどうかを判断するにあたっては、例えば、次の(1)から(3)の要因を考慮する(収益認識適用指針37項)。 4 保証を単独で購入するオプション 顧客が財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプションを有している場合には、契約に記載された機能性を有する財又はサービスに加えて、企業がサービスを顧客に提供することを約束しているため、当該保証は別個のサービスとなる(収益認識適用指針133項)。 このため、収益認識適用指針34項から37項の定めにかかわらず、顧客が財又はサービスに対する保証を単独で購入するオプションを有している場合には、当該保証は別個のサービスであり、収益認識会計基準32項から34項に従って履行義務として識別し、取引価格の一部を収益認識会計基準65項から73項に従って当該履行義務に配分することとされている(収益認識適用指針38項)。 保証を単独で購入するオプションとしては、例えば、財又はサービスに対する保証が個別に価格設定される又は交渉される場合があげられる(収益認識適用指針38項)。   (了)

#No. 439(掲載号)
#阿部 光成
2021/10/07

対面が難しい時代の相続実務 【第6回】「想定される場面(その4)」-遺産分割調停における対応-

対面が難しい時代の相続実務 【第6回】 「想定される場面(その4)」 -遺産分割調停における対応-   クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎   今回は、法定相続人間だけでの遺産分割協議では合意ができず、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する場面を取り上げる。 【想定される場面(その4) 遺産分割調停における対応】   1 コロナ禍における調停手続の実情 本稿の執筆時点では、新型コロナウイルスの感染拡大が問題となる前年までの司法統計しか公表されていないものの、ここ20年間の推移を見ると、家庭裁判所が受理した家事事件の新受件数は、この間でほぼ倍増となっている。 なかでも遺産分割等に関して裁判官が判断を下す審判事件は、2倍以上の伸び率で推移しており、同様に家事調停事件も1.3倍程度の伸びを示している。 このように、年々、家庭裁判所が取り扱う事件数は増加している状況にあるが、これは代理人として活動している中でも肌で感じている。 たとえば東京家裁の例でいえば、家事調停で使用されるフロアや調停室は年を追うごとに増加しているし、待合室が改装されるたびに広くなっているが、それでも日に2~3回ある調停期日の集合時間には、待合室のソファに座りきれないほどの当事者・代理人が集まってくるということが日常的な光景となっている。 このような状況は、新型コロナウイルスの影響が続いている令和2年以降でも、変わりないように感じている。 同様に、調停の具体的手続も、特段、新型コロナウイルス流行の前後で変わるところはないといえる。調停室のテーブルにはビニールシートやアクリル板が設置され、換気のため調停室のドアは開けたままで調停を行うといったような感染防止のための処置はいろいろ取られているものの、双方当事者がそれぞれ交代で調停室に入り、調停委員と協議しながら話し合いを進めていくという基本的な手順に変わりはない。 そして、現在の状況下でも、調停期日では、当事者は裁判所へ毎回出頭することを要求される。   2 電話調停方式の積極的な利用 他方で、現在の調停制度では、「電話調停」を利用することも可能である。 これは、調停が行われている裁判所から遠隔地に居住している場合等に、当該当事者が電話で調停に参加できるという制度である。 この制度は新型コロナウイルス流行前から設けられているものであるが、実務の運用では、以前にも増して電話調停の利用が認められるケースが増えてきているとの声を聞く。 特に相続・遺産分割が問題となる調停事件では、当事者が全国各地に散らばっているケースも多く、コロナ禍の緊急事態宣言等により県をまたいでの移動の自粛が要請される状況では、必要に応じて電話調停での参加を希望してみるというのも1つの方法であろう。 筆者も遺産分割事件で、電話調停の形式で毎回の期日に参加した経験がある。 通常、調停事件では、代理人がついている事件でも当事者本人が同席するケースが大半であることもあり、どうしても1回の期日の時間が1~2時間前後と長くなりがちである。実際に調停委員を目の前にしてこれまでの経緯を語り、自分が納得いかない点や強く主張したい点を述べていると、気持ちが入ってどうしても話が長くなることが多い。 しかし、電話調停の場合は、音声でのやり取りに限定される分、当事者の方でも幾分か冷静さが保たれ、必要な要点のみをスピーディーに意見交換し、かえって調停がスムーズで迅速に進むという印象を持っている。   3 家事調停における電話調停方式の積極的な利用 以上のように、コロナ禍の現在でも、調停手続では基本的に当事者の出頭が要請され、通常裁判のようなウェブ会議等は認められていないのが現状である。 電話調停についても、特別な理由がない限り、自宅や代理人事務所の近隣の裁判所においては認められないと思われる。その意味では、通常の民事訴訟と比べても、民事調停手続はオンライン化・非対面化がまだまだ遅れているといわざるを得ない。 そのような状況の中、令和3年4月の最高裁判所の発表によれば、東京や大阪など4つの家庭裁判所で、令和3年度内にウェブ会議方式での調停の実施を目指しているということである。この方式では、調停委員は裁判所にいて、双方の当事者は自宅等にいながら調停期日にウェブで参加することになる。 ウェブ会議方式では、コロナ禍でわざわざ裁判所に出頭する必要がなくなり、感染防止や紛争解決のスピードアップに役立つ反面、他人による「なりすまし」の問題や、画面外で無資格者が事実上の助言を与える等の「非弁活動」に利用される等の悪影響も考えられるところである。 このようにプラス・マイナスの両局面はあるとして、通常訴訟がそうであるように、デジタル化・非対面化はもはや不可避の流れといえ、全国の家庭裁判所でも今後同様の運用がなされていくものと思われる。 (了)

#No. 439(掲載号)
#栗田 祐太郎
2021/10/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第49話】「雑損控除における「損失」」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第49話】 「雑損控除における「損失」」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   昼休みにもかかわらず、浅田調査官は『税務六法』を開き、所得税法72条(雑損控除)のページをジッと見ている。 浅田調査官は『税務六法』を見つめながら、先日会った会社勤めの友人の話を思い出していた。 「実は、俺・・・詐欺に遭ったんだけれど、確定申告で、雑損控除の適用を受けることができるのかな?」 友人は、詐欺で100万円を騙し取られたという。 「・・・詐欺か・・・」 所得税法72条には、「詐欺」という用語はない。 「たしか刑法246条には・・・詐欺について規定されていたな・・・」 浅田調査官は『ポケット六法』を手に取る。 「それから・・・「横領」については刑法252条だったな・・・」 「詐欺は10年以下の懲役とされているのに対して・・・雑損控除の対象となっている横領は・・・5年以下の懲役か・・・」 浅田調査官はそうつぶやきながら、刑法252条の条文を見つめる。 「何を熱心に調べているんだい?」 いつの間にか、昼食を終えた中尾統括官が浅田調査官の傍らに立っている。 「ええ・・・雑損控除について少し調べているのですが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見上げて言う。 「・・・雑損控除では、災害、盗難そして横領による損失は認められていますが・・・詐欺は認められていません・・・一方、刑法では、詐欺は10年以下の懲役で、横領は5年以下の懲役と規定されています・・・すなわち懲役の期間を考えると、詐欺の方が横領よりも悪質ということですよね。そうすると、より悪質な者によって損失を被った詐欺についても・・・横領と同様に、雑損控除を認めてもよいと思うのです・・・」 浅田調査官は『ポケット六法』に目を移したまま、話を続ける。 「・・・もともと雑損控除の意義は、納税者の担税力の減殺要因になるような資産の損失を控除するということですから・・・」 浅田調査官は、不満そうな表情を浮かべる。 「まあ・・・詐欺が雑損控除から除かれる理由として、詐欺には、詐取された者の責任の要素が入っているからと言われている・・・すなわち、騙される方にも責任がある・・・ということだろう・・・」 そう言うと、中尾統括官は苦笑する。 「・・・すなわち、災害、盗難そして横領は、納税者の意思に基づかない損失であるのに対して、詐欺は納税者の意思に基づくものといい得る・・・ということらしい・・・」 中尾統括官は、説明を続ける。 「もっとも、詐欺又は恐喝については、その判定が難しいという税務執行上の問題があるということが、税制調査会答申(昭和36年12月)で指摘されている・・・そして、横領については、その性質が最も盗難による損失に近いと思われるとして、雑損控除として認められたらしい。」 浅田調査官は、黙って聞いている。 「ただ、私も個人的には、詐欺による損失についても雑損控除を認めてよいのではと思うよ。実際に・・・損失を被っているのだから・・・詐欺が納税者の意思に基づくといい得るといっても・・・騙されたのだからな・・・」 中尾統括官は、腕を組んで、少し考える。 「・・・ここに、振り込み詐欺についての裁決があるのですが・・・次の①~③によって、災害、盗難そして横領に該当しないと判断しています。」 浅田調査官は、国税不服審判所の公表裁決事例(平成23年5月23日裁決)を中尾統括官に見せる。 「なるほど、振り込み詐欺か・・・確かにこのケースでは・・現行の所得税法72条の規定からすると、災害又は盗難若しくは横領による損失には当たらない・・・ということになるのだろうな。」 中尾統括官は、裁決の要旨を見ながらうなずく。 「・・・ところで、余談ですが、所得税法72条は『盗難』になっていますが、刑法235条は『窃盗』という用語を使っています・・・これって、同じ意味・・・ですよね?」 浅田調査官は、頭をかきながら尋ねる。 「そうだよ、『窃盗』は、お金を盗む側の行為を表し、『盗難』は、お金を盗まれることを意味する・・・したがって刑法は、その行為をした者を罰する規定だから、当然『窃盗』という用語を使い、また、所得税法72条の雑損控除は、被害に遭った納税者に対するものだから、『盗難』という言葉を使うことになる・・・」 中尾統括官の丁寧な説明に、浅田調査官は恥ずかしそうにしながら、大きくうなずく。 (つづく)

#No. 439(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/10/07

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和3年1月~3月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和3年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2021(令和3)年9月29日、「令和3年1月から3月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法が7件(うち、重加算税の賦課決定に関するものが5件)、所得税法が1件で、合わせて8件となっている。 今回の公表裁決では、8件のうち7件が国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消され、納税者の審査請求が棄却されたものは1件となっている。 【表:公表裁決事例令和3年1月~3月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 事例③から⑤については、相続税の申告時における生命保険金等の一部申告漏れの事案であり、⑥と⑦は、第三者が行った所得税の確定申告が問題となった事案である。本稿では、この2種類の事案(いずれも、国税不服審判所が、原処分庁の重加算税の賦課決定処分を取り消し、過少申告加算税のみを認めるという判断を示している)について、検討したい。 なお、複数の争点が存在する裁決に関しても、重加算税の賦課決定処分の可否に係る争点のみを取り上げることを、あらかじめお断りしておく。   1 みなし相続財産に該当する生命保険金の申告漏れについて、「仮装、隠蔽」を認めなかった事例・・・③、④、⑤ これらの事例は、みなし相続財産である複数の生命保険金等を取得した相続人(審査請求人)が、そのうち1件の生命保険金等を含めないで相続税の申告書を提出したことに対し、原処分庁が、こうした審査請求人の行為が国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして、重加算税の賦課決定処分をしたものであり、国税不服審判所は、それぞれの事例において、次のように判示して、重加算税の賦課決定処分を取り消したものである。 (1) 事例③ 国税不服審判所は、認定した事実に基づき、被相続人が、その生前に農業協同組合との間で締結していた生命共済に係る契約に基づく死亡共済金について、審査請求人が、当初申告書の提出時において、相続税の申告すべき財産であることを認識していたことを認めたものの、審査請求人が税理士に対して殊更に共済金の存在を秘匿したとまでは認められないという判断をした。 そのうえで、審査請求人が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとうかがわせる事情が存在しないのみならず、むしろ、調査担当職員から共済金の申告漏れを指摘された後、遅滞なくそれに応じて修正申告書を提出していたことが認められることから、審査請求人の行為は国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとはいえず、これに反する原処分庁の主張は理由がないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した。 (2) 事例④ 国税不服審判所は、認定した事実に基づき、審査請求人が、被相続人が生前、G社との間で締結していた2口の生命保険契約に基づき支払を受けた死亡保険金のうち、相続税の申告書に記載していなかった1口の死亡保険金について、相続財産として申告が必要なものであることを認識したものと認めたものの、審査請求人は、被相続人の死亡後、保険担当者からの指摘を受けるまでは、死亡保険金に係る生命保険契約が締結されていた事実すら知らず、当初は申告すべき保険金は1口のみであると誤認していたことに加えて、各保険金の支払請求手続をした時期は、審査請求人が多忙な時期に当たっており、送付された死亡保険金の請求書類を審査請求人が約2ヶ月間そのまま放置していること、死亡保険金が預金口座に振り込まれているものの、通帳の残高の確認を審査請求人自身がしていない可能性があることから、死亡保険金の存在について、審査請求人が主張するような誤認や失念が生じた可能性がないとはいえないと判断した。 そのうえで、原処分庁の主張に対し、審査請求人がそもそも税理士等とのやり取りの際に、死亡保険金が存在しこれについて申告が必要であることを正しく認識していなかった可能性を否定できず、また、その後の行為からしても、当初から本件相続税の課税財産を過少に申告することを意図して特段の行動をしたと認めることができないことから、原処分庁の主張には理由がないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した。 (3) 事例⑤ 国税不服審判所は、認定した事実に基づき、審査請求人が、銀行支店の担当者からの説明を受けて、「相続税の申告書に記載のない保険契約について、納税のための生命保険契約であり、全て税金を納めるためのものであり、被相続人の財産にはならない」と、みなし相続財産として相続税の課税の対象となることはないと誤って理解してしまうなどした可能性も直ちに否定できないことから、この保険金について税理士に伝えなかった可能性も否定できないものというべきであり、審査請求人が保険金の存在について税理士に伝えなかったことをもって、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとまではいえず、他に審査請求人に特段の行動があったと認めるべき事情も見当たらないと判断した。 そのうえで、原処分庁の主張については、審査請求人が、保険金が相続税の課税の対象とならないものと誤解し、かかる誤解に基づいて、保険金について税理士に伝えなかった可能性を否定できないことから、原処分庁の主張には理由がないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した。   2 第三者の「隠蔽仮装行為」による過少申告と重加算税・・・⑥、⑦ この2つの事例は、審査請求人は異なるものの、「隠蔽仮装行為」を行った第三者は同一の者であると認められ、その手口も同じであるため、事実関係と国税不服審判所の判断については、まとめて説明したい。 (1) 事実関係 F社が経営するキャバクラ店において、ホステス業を営んでいた審査請求人は、常連客であったHに所得税の確定申告を依頼することとし、F社作成の支払調書と明らかに事業と関連性のない支払に係るものも含めて、多数の領収書類を渡していたが、4月下旬になっても所得税等の還付金が振り込まれなかったことから、所得税等の確定申告書が提出されているかを原処分庁に確認したところ、未提出である旨の回答があったため、Hに対し、同申告書の提出について確認したところ、Hは、審査請求人に係る虚偽の支払調書を作成のうえ、所得税等の確定申告書及び所得税青色申告決算書(一般用)を原処分庁に提出した。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、Hの行為について、過大な源泉徴収税額を記載した虚偽支払調書を作成したうえで、これに基づいて申告書を作成し、申告書に虚偽支払調書を添付して原処分庁に提出しており、この虚偽支払調書の作成行為は、過少申告行為そのものとは別の隠蔽又は仮装行為に該当するとしたものの、Hが作成した試算表については、申告書及び決算書と同様に、架空の過大な必要経費の額が記載され、事実がわい曲されたものであったことは認めたものの、試算表の作成が、申告書の作成及び提出とは別の行為に該当すると認めることは困難であることから、Hが、審査請求人の事業所得に係る必要経費の計上につき、過少申告行為そのものとは別に、事実の隠蔽又は仮装と評価すべき行為を行ったとはいえないと判示した。 そして、審査請求人については、仮にHが税理士であると信じたとしても、通常の注意を払えば、Hが税理士の資格を有しないことを容易に認識することができたというべきであり、申告書作成の受任者を誠実に選定せず、かつ、Hが、審査請求人の確定申告につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行うことを認識し、又は認識することができたものと認められるとし、全証拠によっても、申告書の作成及び提出に係るHの行為を、審査請求人の行為と同視することが相当でないとする特段の事情は認められないと判断した。 その結果、原処分庁による重加算税賦課決定処分のうち、源泉徴収税額の過大計上については、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているものの、事業所得に係る必要経費の過大計上については、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていないことから、その一部を取り消した。 (了)

#No. 439(掲載号)
#米澤 勝
2021/10/06
#