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《速報解説》ASBJが「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」を確定~税効果会計の会計処理等に関する経過的な取扱いも規定されており、適用時には注意を~

《速報解説》 ASBJが「グループ通算制度を適用する場合の 会計処理及び開示に関する取扱い」を確定 ~税効果会計の会計処理等に関する経過的な取扱いも規定されており、適用時には注意を~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年8月12日、企業会計基準委員会は、「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第42号)を公表した。これにより、2021年3月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされたことに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 グループ通算制度 連結納税制度は企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は次の特徴をもつ(実務対応報告39項)。 2 実務対応報告の基本的な方針 グループ通算制度を適用する場合の実務対応報告の開発にあたっては、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除いて、次のものを踏襲している(実務対応報告40項)。 また、実務対応報告は、実務対応報告に定めのあるものを除いて、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号。以下「法人税等会計基準」という)又は「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という)等の定めに従うこととし(実務対応報告6項、8項)、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示している(実務対応報告41項)。 3 適用範囲 グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する(実務対応報告3項)。 実務対応報告は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については取り扱っていない(実務対応報告3項)。 4 法人税及び地方法人税に関する会計処理 次のとおりである(実務対応報告6項、7項)。 5 税効果会計に関する基本的な会計処理 次のとおりである(実務対応報告8項)。 6 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性 個別財務諸表において次のとおりである(実務対応報告13項)。 連結財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性については、通算グループ全体について回収可能性適用指針6項から34項に従って判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は、連結上修正する(実務対応報告14項)。 7 投資簿価修正 投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額は、投資簿価修正が行われる年度の課税所得を増額又は減額する効果を有することから、期末時点における他の通算会社の株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額は、一時差異と同様に取り扱うとし、個別財務諸表及び連結財務諸表の会計処理が規定されている(実務対応報告19項、20項)。 8 適用時、加入時及び離脱時の取扱い グループ通算制度を新たに適用する場合の取扱い、株式の取得等によって新たに通算子会社となる場合の取扱い(加入)、株式の売却等によって、通算子会社でなくなる場合の取扱い(離脱)が規定されている(実務対応報告21項から23項)。   Ⅲ 適用時期等 税効果会計の会計処理及び開示に関する経過的な取扱いなどが規定されているので、実際の適用に際して注意する(実務対応報告32項、33項)。 (了)

#No. 431(掲載号)
#阿部 光成
2021/08/13

プロフェッションジャーナル No.431が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年8月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.431を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/08/12

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第98回】「節税義務が争点とされた事例(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第98回】 「節税義務が争点とされた事例(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   税理士が職務上の注意義務を怠り同族会社の留保金額に対する特別の法人税の申告を失念したとの債務不履行による損害賠償責任が争点とされた事例として、神戸地裁平成5年11月24日判決(判時1509号114頁)がある(※)。 (※) この事例を扱った論稿として、酒井克彦・税務弘報52巻14号90頁(2004)も参照。 今回は、この事例を検討することとしよう。   Ⅰ 事案の概要 本件は、X社(原告)が、税理士であるY(被告)を相手取り、税務相談を内容とする契約に基づいてYが教示した税務処理が誤っていたことから、依頼者であるX社に節税の機会を失わせ損害を受けたとして、Yの債務不履行に基づく不納付加算税や延滞税相当額等について損害賠償請求を行った事例である。以下、X社の請求原因を中心に事案の背景を確認する。 どちらもRが代表取締役を務めるX社と訴外会社では、訴外会社の業績が振るわなかったことからX社が資金援助を行っており、X社は訴外会社に対して貸金債権を有していた。Rは両会社を解散して引退したいと考え、Yに対し、X社を解散して有利に残余財産の分配を受け得るに必要な方法の相談、すなわち、X社の訴外会社に対して有する貸金債権を貸倒損失として損金算入し、これとX社の所有不動産の売却によって発生する譲渡益とを相殺することが許されるかにつき相談を行った(なお、X社とYとの間の税務顧問契約を、以下「本件契約甲」という。)。 詳細は割愛するが、その後Rは、いくつかのYの教示に従って、訴外会社を解散し、X社の所有不動産の売却と解散などの手続きを行った。 ここでは、「資産の買換えの場合の課税の特例」(以下「買換特例」という。)の利用を前提としていたところ、Yから、「K税務署と話し合いがつき、昭和62年度にX社を解散した場合には、その解散確定申告において、本件欠損金を損金算入し、利益控除に利用できることとなったから、買換資産の買収を中止し、直ちにX社を解散してもよい。」との教示がなされたことから買換特例の利用を取りやめたほか、Yが代行した本件解散確定申告は、同族会社の留保金額に対する税額の申告を忘れていたため税務当局より修正申告を求められたこと、X社がRに対し支給した退職金に関して源泉徴収所得税を納付しなければならなかったにもかかわらず、Yがその源泉徴収税額及び納付期限を教示しなかったために納付期限を経過しA税務署長より納税告知を受けたことなどがあった。 そこで、X社は、適正な税務処理をした場合、すなわち昭和62年度中に解散をせず、同年度に発生した所有不動産の売買差益中の法定額を特別勘定に繰入れ、昭和63年度になって繰入額全額を繰戻した場合に課税される税額と、誤った税務処理をすることによって課税された税額との差額が、Yの誤った教示によってX社が被った損害となるとして、Yに対し損害賠償請求を行った。   Ⅱ 争点 税務相談を内容とする契約に基づいて税理士がなすべき適正な税務処理を教示する債務の不履行があったとして、Yに対する損害賠償請求が認められるか否か。   Ⅲ 判決の要旨 1 欠損金の繰越し機会を喪失した件 神戸地裁は、まず、欠損金の繰越し機会の喪失に関して次のように示す。 そして、X社の業績が悪く、解散がなくても本件欠損金を控除する余地はなかったから、X社に被害はない旨のYの抗弁については失当であるとする。 続けて、Yの職務上の義務について次のように述べる。 また、「K税務署と話し合いがつき、昭和62年度にX社を解散した場合には、その解散確定申告において、昭和61年度に発生した本件欠損金6,619万7,142円を損金算入し利益控除に利用できることとなった」旨のYの説明について、上記のYの義務には何ら影響はないとする。 そして、結論として、次のとおり、Yの損害賠償責任を認めている。 2 同族会社の留保金課税申告に関する件 神戸地裁は、同族会社の留保金課税申告に関する件に関しても次のように判示して、Yの責任を認めている。 3 源泉徴収義務の納期限徒過に関する件 また、神戸地裁は、源泉徴収義務の納期限徒過に関する件に関してもYの責任を認めている。   Ⅳ コメント 本件は、税理士が、❶誤った教示を行ったという不完全な履行をし、それによってX社は土地売買差益の繰延べができなくなったこと、❷Yが代行するX社の申告において、同族会社の留保金課税に関する申告を失念したことから延滞税を負担することとなったこと、❸源泉徴収義務の納付期限に関する教示をしなかったことから、X社が不納付加算税及び延滞税の負担をしたことなどについて、相当因果関係がある損害を受けたと認められるとして損害賠償責任が認定された事例である。 これらの損害賠償責任は共通して、本件契約甲に基づき、YがX社に対し適正な税務指導をなすべき債務を負担していたことが前提とされており、また、X社が被ることとなった損害とYの行為との間に相当因果関係があることが認定されたものである。 本件における税務顧問契約である「本件契約甲」とは、「Yは、X社につき、税務代理、税務書類の作成、税務相談及びそれらの業務に附随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行をする。」というものであった。この契約にいう税務代理、税務書類の作成、税務相談及び付随業務の代行から、いかにして、①「適正な税務指導をなすべき債務を負担していた」ことが導出されるのであろうか。これは、裁判所の判示にいう②「Yの職歴および税理士としての資格・経験等に鑑みると、Yには、前記法人税法及び租税特別措置法の各規定の法意を十分理解しておくべき職務上の義務があったというべきである。」という点が根拠になるのであろうか。 Yの職務上の義務はあくまでも税理士としての職務上の一般的な義務というべきものであって、本件契約甲に由来する適正な税務指導をなすべき債務とは別のものと捉えることも可能であるように思われるが、判決の説示が、② ➡ ①の順になされていることに注目すれば、神戸地裁は①の「適正な税務指導をなすべき債務を負担していた」ことと、税理士の一般的な専門家としての義務とを、別のものとして議論していないことが判然とするのである。 したがって、①の「適正な税務指導をなすべき債務を負担していた」には、本件税務顧問契約の締結がなされる前提として、かかる契約が、②にいう一般的な税理士の義務を前提として締結されているもので、それによって締結された契約上の義務には、税理士に期待される義務履行が付着したものと解されているのであろう。 もっとも、そこまでの整理を行い得たとしても、他方で、①「適正な税務指導をなすべき債務」から節税指導をどのように導出するのかについて、この判決は必ずしも明確に示していないようにも思われるのである。 (了)

#No. 431(掲載号)
#酒井 克彦
2021/08/12

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第5回】「適格請求書発行事業者が免税事業者になるための手続きと注意点」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第5回】 「適格請求書発行事業者が免税事業者になるための手続きと注意点」   税理士 石川 幸恵   【Q】 税理士事務所の監査担当者として、クライアントの消費税の納税義務には、常に注意を払ってきました。 適格請求書発行事業者の登録後は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となっても事業者免税点制度が適用されないので、基準期間における課税売上高に注意を払う必要はなくなると考えてよいでしょうか。 〔ポイント〕 (1) 適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となっても自動的に免税事業者になることはありません。 (2) 適格請求書発行事業者の登録の取消しをすれば、事業者免税点制度(消法9)の適用があります。 *  *  * 【A】 適格請求書発行事業者をやめることによって、事業者免税点制度の適用を受けられます。税理士事務所の監査担当者としては、クライアントの基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合は、適格請求書発行事業者をやめることのデメリット(連載【第1回】参照)と納税事務負担を比較して、適格請求書発行事業者をやめて免税事業者になるという選択肢があることと、その手続きの方法を示す必要があると思われます。 なお、インボイス制度が始まっても、簡易課税制度には変更がありませんので、「簡易課税制度選択届出書」を過去に提出している場合には、基準期間における課税売上高が5,000万円以下か5,000万円超か、納付税額の試算、設備投資の予定などに注意を払う必要があります。   (1) 事業者免税点制度の不適用 適格請求書発行事業者は、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合でも免税事業者となりません(インボイスQ&A問18、消法9①、インボイス通達2-5)。   (2) 適格請求書発行事業者が事業者免税点制度の適用を受けるには? 適格請求書発行事業者が事業者免税点制度の適用を受けるには、適格請求書発行事業者の登録を取りやめることが必要です。 ① 登録の取りやめ 適格請求書発行事業者の登録を取りやめるには、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「登録取消届出書」といいます)を提出します(インボイスQ&A問14、消法57の2⑩一)。 ② 「登録取消届出書」の提出期限 「登録取消届出書」は、適格請求書発行事業者の登録の取消しをしたい課税期間の前課税期間の末日から起算(末日を「1日前の日」としてカウント)して30日前の日の前日までに提出しなければなりません(インボイスQ&A問14、インボイス通達2-5)。 ③ 「課税事業者選択届出書」を過去に提出している場合 「課税事業者選択届出書」を過去に提出している場合には、課税事業者選択の適用を受けることをやめようとする課税期間の初日の前日までに、「課税事業者選択不適用届出書」を提出しなければなりません(消法9⑤)。 ④ その他配慮すべき事項 実務上、継続取引においては、取引の買い手は、取引開始時あるいはインボイス制度開始時に一度、売り手が適格請求書発行事業者かどうかを確認し、以後は継続して適格請求書発行事業者であるという前提で処理をすると考えられます。適格請求書発行事業者でなくなる場合には、速やかに買い手に通知するのがベターです。   (3) 2年継続の規程はない 「登録取消届出書」の提出にあたっては、課税事業者選択や簡易課税制度選択のような2年継続適用の制限はありません。また、「登録取消届出書」を提出した事業者が再度、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する際にも2年継続の制限はありません。 (了)

#No. 431(掲載号)
#石川 幸恵
2021/08/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第32回】「所在不明株主の株式売却制度による株式集約」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第32回】 「所在不明株主の株式売却制度による株式集約」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私は東北地方で警備会社や運送会社などを束ねるEグループホールディングス(以下「E社」といいます)の総務部長をしております。 当社は、地域の有力企業との結びつきが非常に重要な業種柄、新たに進出する地域の有力者や取引関係者に出資をお願いすることで関係強化を図り、業容を拡大してきました。 先代経営者が従業員にも自社株式の保有を推奨していたため、当社には取引関係者や元従業員を中心に300名を超える株主が存在し、A社長一族の株式保有割合が非常に低い水準となっています。 〈E社の株主構成〉 A社長は今年で70歳になり、息子であるB常務への事業承継が近づいています。2代目経営者であるA社長は株主からの信頼が厚く、株式保有割合が低くても株主との間でトラブルが発生したことはありませんが、3代目となるB常務への経営承継に向けて、A社長一族や従業員持株会の株式保有割合を高め、B常務が自由度の高い経営ができるような株主構成にしていきたいと考えています。 当社は5年程前に従業員持株会を設立し、買取りの要請があった株主から会員規約に定めた価格(配当還元価額と同額)で株式を取得してきました。従業員持株会への譲渡をお願いする書面を株主総会の招集通知に同封するなど株式集約に向けた対策を積極的に行い、この5年で50名程の株主から10%近い株式を買い集めることができました。 ところで、当社は毎年株主総会を適切に開催していますが、出席いただける株主が非常に少なく、定足数を満たすことに大変苦労しています。株主総会の招集通知が返送されてくる株主も一定数存在しますし、創業時の従業員で年齢的にもご存命でない可能性が高い株主もいますので、相続人の方から株式を買い取るなどの対応をしたいと考えていますが連絡先もわかりません。 このように連絡のつかない株主からB常務や従業員持株会が株式を買い取れる何か良い方法はないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 所在不明株主の株式売却制度 (1) 所在不明株主 株式会社は、所在不明株主が保有する株式を競売し、非上場株式については、裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することが可能です。売却する株式の全部又は一部を発行会社が自己株式として取得することも認められます(会197)。 所在不明株主とは、次のいずれにも該当する株主をいいます。通知又は催告は実際に郵送で行われることが必要ですが、配当については、無配の場合でも配当を受領しなかったものと解されています。 (2) 公告及び個別催告 所在不明株主が保有する株式を競売又は売却する場合には、所在不明株主その他の利害関係人が一定の期間内(3ヶ月以上)に異議を述べることができる旨の公告を行い、かつ、当該株主に個別に催告しなければなりません(会198①、会規39)。 〈公告事項〉 (3) 裁判所への株式売却許可申立 所在不明株主の保有する株式を競売せずに売却する場合は、競売に代えて売却することの相当性、売却価格の相当性といった点を記載した申立書に以下の疎明資料を添付して裁判所に提出します。 〈疎明資料〉 (出所) 「所在不明株主の株式売却許可申立事件についてのQ&A」(東京地方裁判所)を筆者加工。 株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しなかった事実の疎明においては、5年以上の期間にわたる株主総会の招集通知及び返戻封筒の実物を提出することが求められます。代表取締役の陳述書などの代替書面によることは認められていませんので、株主総会の招集手続きを適切に行い、返戻封筒を会社で保管しておくことが重要です。 株式の売却代金は、発行会社が株主に交付する日、又は、時効により消滅する日まで発行会社が負債に計上することになります。発行会社は売却代金を供託することによってその債務を免れることも可能です(民法494)。   [2] 株式の売却価格 市場価格のない株式について裁判所に売却の許可を得る際には、第三者機関による株価鑑定書を提出し、売却価格の相当性を疎明しなければなりません。 裁判所における株価の考え方として、支配株主や発行会社が株式を取得する場合には、DCF法や純資産価額などを加味した比較的高い株価、少数株主が株式を取得する場合には、ゴードンモデル(配当還元法)などの比較的低い株価が採用される傾向がありますが、少数株主間の取引事例が一定数存在していれば、税法基準による配当還元価額であっても売却価格として認められています。 所在不明株主の株式売却制度においては、申立ての時期や株式の売却先を発行会社が任意に決定することができ、株価の鑑定評価書も発行会社が第三者機関に依頼して作成してもらうことが可能です。したがって、比較的低い株価による売却が認められそうな売却先を選定したり、一定数の取引実績を用意したうえで取引価格事例法による売却許可を申し立てるなど、裁判所の許可を得るための工夫がしやすい制度といえます。   [3] 経営承継円滑化法の特例 令和3年8月2日に施行された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に伴う経営承継円滑化法の改正により、中小企業者の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じている場合であって、当該中小企業者の一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者に円滑に承継させることが困難であると経済産業大臣の認定を受けた者(特例株式会社)については、通知又は催告の期間が「5年以上」から「1年以上」に、剰余金の配当の期間が「5年間」から「1年間」に、それぞれ短縮されることになりました(経営承継円滑化法12①一ホ、15)。 これまでは、株式売却に向けた準備を開始してから5年以上の期間を要していた手続きが、定時株主総会の招集通知が2回分到達しないことで所在不明株主として認められるようになりました。代表者が継続的かつ安定的に経営を行うことが難しい状態の中小企業は、円滑な承継を行うためにも積極的に制度の活用を検討すべきでしょう。   [4] 結論 長期にわたり所在不明となっている株主が存在する場合、裁判所の許可を得て経営陣に都合の良い相手に株式を売却することが可能です。 本事例のように、従業員持株会が外部株主から、配当還元価額と同額で株式の買戻しを行ってきた実績がある企業では、取引価格事例法を採用した株価鑑定書を提出して、税法基準による配当還元価額による売却が認められています。したがって、所在不明株主からの買取りを検討されている法人においては、少数株主間の取引実績を一定数用意してから裁判所に売却許可の申立をすることをお勧めします。 経営承継円滑化法の改正により、一部株主が所在不明であるため事業承継が困難となっている旨の認定を受けた中小企業者に限り、所在不明株主からの株式買取り等の手続きに必要な期間が5年から1年に短縮されることになりました。経済産業大臣の認定を受けることができれば、短期間での株式売却が可能となりましたので、これまで株主総会の招集手続きを適切に行っていなかった法人や、これから準備を始める法人であっても株主対策のソリューションとしての活用が視野に入ってくるのではないでしょうか。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 431(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/08/12

令和3年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】「「大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の見直し・延長」「株式対価M&Aを促進するための措置の創設」「中小企業経営資源集約化税制の創設」「中小法人の法人税の軽減税率の延長」」

令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 (最終回) 「「大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の見直し・延長」 「株式対価M&Aを促進するための措置の創設」 「中小企業経営資源集約化税制の創設」 「中小法人の法人税の軽減税率の延長」」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [6] 大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の見直し・延長 大企業が、前期より所得が多いにも関わらず、一定の賃上げと設備投資を行わなかった場合、研究開発税制など一部の租税特別措置を適用させないという規制がある。 これを『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』という。 連結納税制度においても単体納税制度と同様に大企業に対する租税特別措置の適用除外措置があるが、連結納税制度の場合、次の点で単体納税制度と異なる取扱いとなる(新措法68の15の8⑥~⑨、新措令39の48⑤~⑬)。 令和3年度税制改正では、この大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の適用期限が3年延長された(平成30年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する連結親法人事業年度に適用される。新措法68の15の8⑥)。 また、本措置の規制対象にカーボンニュートラル投資促進税制及びDX投資促進税制が加わっている(新措法68の15の8①十六・⑥)。 さらに、継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額を超えることとの要件を判定する場合に雇用調整助成金及びこれに類するものを控除しない取扱いに見直している(新措法68の15の8⑥一)。 なお、人材確保等促進税制又は所得拡大促進税制では、継続雇用者の抽出、設備投資要件の判定が不要になるが、本措置については、継続雇用者の抽出、設備投資要件の判定が必要となる点は改正後も変わらない。 なお、令和3年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(カーボンニュートラル投資促進税制及びDX投資促進税制の適用除外措置は産業競争力強化法の改正法の施行日(令和3年8月2日)から適用される。令和3年所法等改正法附則1、43、65)。 [7] 株式対価M&Aを促進するための措置の創設 令和3年度税制改正では、買収会社(株式交付親会社)の自社株式等を対価とするM&Aに係る対象会社(株式交付子会社)の株主について、会社法の見直しにより新たに創設された「株式交付制度」を活用した機動的な事業再構築を促すため、譲渡した対象会社株式(株式交付子会社株式)に係る譲渡損益の計上を繰り延べる株式交付税制が創設されている。 連結納税制度においても、連結法人が株式交付子会社の株主となる場合に、その譲渡した株式交付子会社株式に係る譲渡損益の計上を繰り延べることになる(新措法68の86①)(注1)。 (注1) 対価として交付を受けた資産の価額のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上である場合に限ることとし、株式交付親会社株式以外の資産の交付を受けた場合には株式交付親会社株式に対応する部分の譲渡損益の計上を繰り延べる。 この場合、交付を受けた株式交付親会社株式の取得価額は、株式交付子会社株式の譲渡直前の帳簿価額に株式交付割合(注2)を乗じて計算した金額とする(新措令39の110①)。 (注2) 株式交付割合とは、交付を受けた株式交付親会社株式の価額が交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(剰余金の配当として交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額を除く)のうちに占める割合をいう。 また、連結法人が株式交付親会社となる場合に、株式交付制度で取得した株式交付子会社株式の取得価額は、①株式交付子会社株式を50人未満の株式交付子会社の株主から取得をした場合、その株主が有していた株式交付子会社株式のその取得の直前における帳簿価額に相当する金額とし、②株式交付子会社株式を50人以上の株式交付子会社の株主から取得をした場合、株式交付子会社の前期期末時(株式交付子会社の取得の日を含む事業年度の前事業年度)の税務上の簿価純資産価額にその取得した株式交付子会社株式の持株割合を乗じた金額とする(新措令39の110②、新措規22の73の2)(注3)。 (注3) 対価として交付した資産の価額のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上である場合に限ることとし、株式交付親会社株式以外の資産の交付をした場合には、①又は②の金額に株式交付割合を乗じた金額にその株式以外の資産の価額を合計した金額とする。なお、株式交付子会社株式の取得価額に対応して資本金等の額が増加することになる(新措令39の110②)。 なお、令和3年4月1日以後に行われる株式交付について適用される(令和3年所法等改正法附則1、69)。 [8] 中小企業経営資源集約化税制の創設 令和3年度税制改正では、M&A実施後に発生する中小企業の特有のリスク(簿外債務、偶発債務等)に備える観点から、M&Aに関する経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が、株式譲渡によってM&Aを実施する場合(取得価額が10億円以下の場合に限る)において、株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積立金額を損金算入できるという中小企業経営資源集約化税制を創設している(計画の認定期限:令和6年3月31日)。 この準備金は、据置期間終了後、原則として、5年間で均等額を取り崩して益金算入されることになる。 連結納税制度においても中小企業経営資源集約化税制が創設されており、各連結法人ごとに、以下の取扱いとなる(新措法68の44、新措令39の73)。 なお、連結親法人又はその連結子法人のうち、次に掲げる連結法人については、この措置は適用されない(新措法68の44④)。 [9] 中小法人の法人税の軽減税率の延長 連結親法人が中小法人(適用除外事業者を除く)に該当する場合の年800万円以下の連結所得に対する軽減税率(本則19%)を15%にする措置について、令和5年3月31日までの間に開始する連結事業年度まで延長する(新措法68の8①)。   (連載了)

#No. 431(掲載号)
#足立 好幸
2021/08/12

金融・投資商品の税務Q&A 【Q66】「株式交付制度により譲渡した株式の譲渡所得の特例」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q66】 「株式交付制度により譲渡した株式の譲渡所得の特例」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 株式交付制度の概要 株式交付は2021年3月1日に施行された改正会社法において導入された制度で、ある企業を買収する際に、株式交付子会社(対象会社)の株主に対して、株式交付親会社(買収会社)の株式を交付するという、株式を対価としたM&A手法のひとつです。従来の株式交換と類似していますが、株式交換が買収の対象となる会社の発行済株式の100%を取得する場合にしか用いることができないのに対して、株式交付は、対象会社の発行済株式を部分的に取得し、当該対象会社に既存株主を残すことが可能となる制度です。 また、株式交付親会社は、株式交付子会社の株主に対して、株式交付親会社の株式に加えて、金銭等他の財産を交付することも認められています。   2 株式交付制度に基づく株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例 (1) 株式等に係る譲渡所得等の課税の繰延べ 上記1の株式交付制度の導入に伴い、2021(令和3)年度税制改正において、株式交付子会社の株主に生じる譲渡益について、課税を繰り延べる措置が講じられています。 具体的には、個人が有する株式を発行した法人を株式交付子会社とする株式交付によってその有する株式を譲渡し、その株式交付に係る株式交付親会社の株式の交付を受けた場合には、その株式の譲渡をなかったものとみなすというものです。 ただし、株式交付により交付を受けた株式交付親会社の株式の価額が、その株式交付により交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちに占める割合が80%に満たない場合は、この措置の対象外とされています。また、株式交付により交付を受けた金銭等の資産(株式交付親会社の株式を除きます)がある場合には、その金銭等の資産に対応する部分についても、この措置の対象外となります(つまり、課税の繰延べの対象となるのは、譲渡益のうち、株式交付割合(※1)を乗じて計算した金額に相当する部分のみです)。 (※1) 株式交付割合 (2) 株式交付親会社の株式の取得価額 上記(1)の適用を受けた個人が交付を受けた株式交付親会社の株式に係る取得価額は、次に掲げる金額の合計額とされています。   3 本件へのあてはめ 株式交付制度に基づいてA社株式の譲渡を行うとのことですので、譲渡益に対する課税の繰延べ措置の適用が考えられます。また、株式交付親会社の株式以外に、金銭の交付を受けることから、課税の繰延べの対象となるのは株式の交付に係る部分のみとなります。 (適用の可否判定) (1) 株式等の譲渡に係る譲渡所得の金額 (2) 株式交付親会社の株式の取得価額   (了)

#No. 431(掲載号)
#西川 真由美
2021/08/12

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第41回】「譲渡前に買換資産を取得している場合」-買換資産の取得期間-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第41回】 「譲渡前に買換資産を取得している場合」 -買換資産の取得期間-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、18年程前から住んでいた家屋Aを買い換えるため不動産仲介業者に売却と購入を依頼していたところ、家屋Aの買手が見つかる前に希望どおりの物件が見つかったので、住宅ローンを組んで家屋Bを購入し、昨年の10月に家屋Aから家屋Bに転居しました。 転居後、家屋Aは空き家となっていましたが、本年4月に買手が見つかり家屋Aを売却したところ、多額の譲渡損失が発生しました。 買換資産の取得期間以外の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る買換資産については、譲渡の日の属する年の前年1月1日から、その譲渡の日の属する年の翌年12月31日までの間に取得をし、かつ、その取得の日からその取得の日の属する年の翌年12月31日までの間に譲渡した個人の居住の用に供すること、又は供する見込みであることとされています(措法41の5⑦一)。 また、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」にも、「居住用財産の特別控除(措法35②)」と同様に、その居住用家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合には当該譲渡に該当すると規定されています(措法41の5⑦一ロ)。 したがって、本事例の場合、Xは家屋Aの譲渡年の前年に家屋Bを取得し、また、家屋Aを居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する年の年末までに譲渡していることから、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができます。 (了)

#No. 431(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/08/12

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第4回】「再調査の請求(異議申立て)の効果的な利用の仕方」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第4回】 「再調査の請求(異議申立て)の効果的な利用の仕方」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 職権主義の審理の理解 (1) 再調査の請求は「税務調査」の延長線上 再調査の請求は、その上級に位置する審査請求・訴訟に比して、簡易迅速な納税者の権利救済を志向しているが故に、審査請求・訴訟のような納税者と原処分庁との対審構造を意識した制度設計とは異なるものとなっている。 具体的には、再調査の請求は、処分をした行政庁自身をして当該処分の当否について(その名のとおり)再調査をさせることを目的としており、国税通則法、国税徴収法及び租税特別措置法等の国税に関する法律の規定による当該職員の質問検査権等に基づいて行われる。 したがって、それには対立当事者といった概念の介入する余地はなく、二当事者の対立構造を前提とする主張や立証責任の法理の適用もないとされている。 (2) 審理面に精通した調査官による調査の見直し しかし、審理の公正を保障する趣旨から、原処分担当者以外の者(具体的には、各課税第1部門所属の不服申立担当調査官)を再調査審理の担当者とする取扱いをしており、仮に、原処分担当者の主観に多分に依拠した判断がなされていた場合には、その異なる(より審理面に精通した)調査官による判断の修正が期待される。   2 「違法性」のみならず「不当性」も審理の対象 (1) 処分の「違法」と「不当」 審査請求の条文である国税通則法第102条第2項は、「違法若しくは不当を理由として裁決で取り消され」と規定しており、裁判所の審理範囲である「違法」のみならず、「不当」が処分の取消事由になることを明記している。 再調査の請求は審査請求の前段階の審理であるが、行政庁による審理であることには変わりなく、同様に「違法」のみならず「不当」も審理対象とすべき(※)と考えられている。 (※) 中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所、1989)4342頁参照。 この「違法」と「不当」の審理範囲は以下の図で整理される。 (2) 違法な処分 違法な処分とは、法令に違反した処分のことで、具体的には以下の2つの類型がある。 (3) 不当な処分 これに対し、不当な処分とは、法令上必ずしも違法とまではいえないが妥当とはいえないものをいい、裁量権の逸脱・濫用に至らない程度の不合理な行使についても、処分を取り消すか否かの審理対象となる。 これは、税務行政が国民の財産を侵害する「課税」という徴税権力を有し、その権力行使に対する自己反省機能として再調査の請求(及び審査請求)が位置付けられていることに基因する。 (4) 「不当」の具体例 「不当」の具体例としては、青色申告の承認取消しが「できる」規定であることによる、税務署長が承認の取消しをしたことの適否を争う審理が挙げられ、このような原処分庁の裁量に委ねられている規定について「不当」を争うことになる。 (5) 「不当」を理由に裁判所で争うことができない 前述のとおり、裁判所の審理範囲は「違法」のみであり、「不当」を理由として出訴することができないことから、特に「不当」を理由として争う場合には、再調査の請求(及び審査請求)の段階で権利救済を求め、積極的に主張立証することが望まれる。   3 口頭意見陳述 (1) 口頭意見陳述とは 再調査の請求の審理手続は職権主義を基調としており、対審構造を意識した制度設計とは異なるといえども、不服申立てという事後的な納税者の救済であることを前提として、当事者主義的構造の長所はできる限り採り入れるべきとの思考に基づいて用意された手続が口頭意見陳述である。 すなわち、口頭で意見を述べる機会を付与することによって、以下の長所を制度的に取り込もうとしている。 (2) 申立てをすれば機会は与えられる 申立てがあった場合には、再調査審理庁はその機会を与えなければならないため、その陳述が行われないままされた再調査決定は違法となる。 日時はできる限り再調査の請求人の希望が尊重されるが、あまりに将来の日程を希望するといった審理の進行にネガティブな影響を与える希望は叶わないことがある。 (3) 対象となる事項 口頭意見陳述はその申立人が再調査の請求に係る事件に関する意見を述べるものであり、その事件に関係のない事項(原処分担当者に対する誹謗中傷など)については制限される。 具体的には、録取書の取りまとめの都合上、陳述内容の概要について事前に電話等で聴取され、その内容が事件に関係があるか否かを事前に判断し、関係がある事項の範囲内で当日の陳述を許可するといった運用が想定される。 (4) 職員による陳述事項の聴取 再調査審理庁は、必要があると認めるときは、その行政機関の職員に、申立人の意見の陳述を聴かせることができる。 審査請求の場合には、陳述の場に原処分庁側の職員(不服申立担当調査官及び国税局課税部審理課職員)を同席させて、自らの陳述を聞かせるか否かを決めることができるほか、請求人から当該職員に対して質問を発することができる。 一方、再調査の請求の場合には、原処分庁側の職員を同席させるか否かは審理庁の裁量に委ねられており、請求人からの質問は認められていない。 いずれにせよ、請求人から「原処分調査をした調査官本人を出席させて陳述を聴かせたい」という要望を行ったとしても、実際の運用においては、大方のケースで実現しないものと思料される。   4 再調査の請求に向く事案 再調査の請求は税務調査の延長線上であり、税務調査の見直し(再検証)という性格を帯びる以上、原処分調査時の調査官による「事実関係の把握の誤り」及び法令解釈に当該事実を当てはめる段階の「事実認定の誤り」を是正したい場合に向いている。 一方、事実関係に争いはなく、当該規定の法令解釈の相違に基づく事案は、再調査の請求における救済の可能性は遠く(付言すれば、審査請求における救済の可能性も遠く)、訴訟の提起を見据えた事前活動と考えた方がよい。 したがって、 といった場合には、再調査の請求段階から主張・立証活動を行うことが効果的であろう。 (了)

#No. 431(掲載号)
#大橋 誠一
2021/08/12

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第59回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第59回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (3) 法人税法施行令18条の2第1項・第2項 ア 法人税法施行令18条の2第1項 法人税法施行令18条の2第1項は次のとおり定めている。 これは、例えば、資産の販売等に係る収益について、引渡し等事業年度で値引きや割戻し等を見積もり、その分を差し引いて益金の額を計上し、その後、引渡し等事業年度後において、当初見積額等の修正を行った場合に、その修正を行った事業年度で、その修正を課税所得計算に反映させるための規定である。 条文を整理すると次のようになる。 法人税法施行令18条の2第1項について、立案担当者は、次の諸点を述べている(財務省『平成30年度 税制改正の解説』278頁)。 補足すると、上記要件④があるから、修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算に反映するといっても、それは法人税法22条の2第4項の範囲内の額ということになる。 法律効果部分を見れば明らかなように、遡って修正することを認めているわけではない。 上記要件③にあるように引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算において修正の経理をしたことを前提として、その修正の経理により増加又は減少した収益の額相当額について、その修正の経理をした事業年度の益金の額又は損金の額に算入する、ということである。 もちろん、ご都合的に修正の時期を選択できる、どのような修正経理でもいい、というわけではない。上記要件②で、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを求めていることに注意が必要である。基本的には、収益認識会計基準がこれに含まれることを所与のものとしているのであろうか。 上記要件②に関連して、法人税基本通達2-1-1の11(注)2は、引渡し等事業年度における資産の販売等に係る収益の額につき、その引渡し等事業年度の収益の額として経理していない場合において、その後の事業年度の確定した決算において行う受入れの経理(その後の事業年度の確定申告書における益金算入に関する申告の記載を含む)は、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って行う修正の経理には該当しないことを留意的に定めている。 このような場合は、本来計上すべきであった事業年度、すなわち、引渡し等事業年度の収益の額として処理しなければならないという。 イ 法人税法施行令18条の2第2項 上記要件②では、引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算における修正の経理を求めているが、別途、申告調整による修正の経理も認めるための手当てが法人税法施行令18条の2第2項においてなされている。 同項は次のとおり定めている。 これは、当初申告による申告調整により、引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算において修正の経理をした場合と同様の所得の金額の計算を可能にさせるための規定である(財務省『平成30年度 税制改正の解説』279頁)。 法人税法22条の2第2項と第3項の関係を彷彿とさせる規定である(本連載第31回参照)。 つまり、この法人税法施行令18条の2第2項を適用する場合にも、第1項に係る一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを求める同項の②の要件を満たす必要があるという議論をなしうる。このことは、法人税法22条の2第2項と第3項の場合と同様である。 この法人税法施行令18条の2第2項によって「みなされる」のは、「その増加させ、又は減少させる金額につき当該事業年度の確定した決算において修正の経理をした」ことにすぎず、第1項にいくつか定められている同項の適用要件のうちの一部にすぎないことに留意する必要があろう。   (了)

#No. 431(掲載号)
#泉 絢也
2021/08/12
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