《速報解説》 公認会計士・監査審査会が令和3事務年度版の 「監査事務所検査結果事例集」を公表 ~新たに「新型コロナによる監査業務への影響と対応」と「監査結果の通知」の項目を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年7月9日、公認会計士・監査審査会は「監査事務所検査結果事例集(令和3事務年度版)」を公表した。 今回の事例集の特徴は次のとおりである。 「令和3年版 モニタリングレポート」及び「令和3事務年度 監査事務所等モニタリング基本計画」も公表されており、監査法人の状況などについて、会計専門家ではない一般の利用者にもわかりやすく説明がなされている。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役、監査役等、投資者等による活用を期待 事例集では、上場会社等の取締役・監査役等や投資者等に対する監査に関する参考情報の提示という観点から、最近の不正会計事案や会計監査人と監査役等との連携に関するものも含め、公認会計士・監査審査会で確認された指摘事例をできるだけ分かりやすく記載し、また、監査事務所の改善取組などにおいて評価できる取組例も取り入れているので、会計監査人の適切な評価のために、是非参考にしていただきたいと考えているとのことである。 Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 (了)
《速報解説》 国税庁、 文書回答手続の事務運営指針の改正等を公表 ~~事前照会等の範囲に係る要件の整理・合理化を行い、文書回答手続の利便性向上を図る~ 弁護士 下尾 裕 国税庁は、令和3年6月21日付けで(ホームページ掲載日は令和3年6月30日)、「「事前照会に対する文書回答の事務処理手続等について」の一部改正について(事務運営指針)」及び「「同業者団体等からの照会に対する文書回答の事務処理手続等について」の一部改正について(事務運営指針)」をそれぞれ公表した。 これら事務運営指針の改正は、文書回答手続の利便性を向上させるため、文書回答を行う対象となる事前照会等の範囲に係る要件を改めて整理又は合理化したものである。 各事務運営指針における主な変更箇所は以下のとおりであり、令和3年7月1日以後に受け付ける事前照会に対する文書回答手続等について適用される。 1 「事前照会に対する文書回答の事務処理手続等について」の一部改正 (1) 従前、文書回答が適切でないものの例示として列挙されていた以下の①~③を削除した上で、各事務運営指針で示されている事前照会の各要件、さらには、「事前照会の内容が次に掲げるような性質を有しないものであること」との要件における個別列挙事由(以下「個別列挙事由」という)のうち、いずれの事由との関係で問題となるのかの明確化がなされた。 (2) 「同族会社等の行為又は計算の否認等に関わる取引等、通常の経済取引としては不合理と認められるもの」及び「税の軽減を主要な目的とするもの」との個別列挙事由を削除し、代わりに、「実地確認や取引等関係者等への照会等による事実関係の認定を必要とするもの」との要件について、「(同族会社等の行為又は計算の否認等の認定を必要とするものを含む。)」との記載を追加した。 (3) 個別列挙事由において、「審査の途中において、照会の前提とする事実関係が合理的な理由なく変更されるもの」に追記される形で、「審査後において、当該事実関係を合理的な理由なく変更し再度照会するもの」が明示された。 2 「同業者団体等からの照会に対する文書回答の事務処理手続等について」の一部改正 当該事務運営指針における改正は上記1の(1)及び(2)と同様である。同業者団体等からの照会等においては、「審査の途中において、照会の前提とする事実関係が合理的な理由なく変更されるもの」が列挙されておらず、それ故(3)に該当する明示はなされていないが、これらは広くは「本手続による文書回答が適切でないと認められるもの」に含まれるものと解される。 * * * これら改正は「納税者利便の一層の向上の観点」からのものであると説明されている。例えば、今回の改正においては、上記1(2)のとおり、「通常の経済取引としては不合理と認められるもの」又は「税の軽減を主要な目的とするもの」との個別列挙事由を削除し、これらの事由を具体的に考慮する場面として想定される行為計算否認規定等の適用を前提とした記載に統合しており、経済取引の合理性又は税負担の軽減目的といった多分に評価を伴う事項が事前照会制度利用の過度の妨げにならないようにという一定の配慮を感じさせるものになっている。 私見では、これら事務運営指針の改正は、あくまで従前の文書回答制度の事務処理手続等を明確化したものに過ぎず、これらの取扱いを実質的に変更するものではないものと理解されるが、この点は、今後の運用を通して明らかになっていくことになる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 金融庁、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表 ~時価基準の適用指針公表を受け、投資信託の時価算定等について規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年7月7日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)の公表を受けたものであり、投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価について規定するものである。 また、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(2021年1月28日、改正企業会計基準第5号)について、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」1条3項及び「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」1条3項に規定する一般に公正妥当と認められる企業会計の基準とする改正も行う。 意見募集期間は2021年8月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「金融商品に関する注記」(財務諸表等規則8条の6の2第3項~第5項)に、次の規定を設ける。 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」、「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」、「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」などや、関連する「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)」なども改正する。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 経過措置が規定される予定であるので、実際の適用に際して注意する。 (了)
《速報解説》 金融庁「金融所得課税の一体化に関する研究会」、デリバティブ取引への損益通算対象拡大に向けた論点整理を公表 ~時価評価課税の導入や届出制についても議論~ Profession Journal編集部 デリバティブ取引を含む金融所得課税のさらなる一体化(損益通算対象の拡大)については、平成28年施行の特定公社債等に係る課税の見直し以降、与党大綱において「検討事項」とされてきたが、令和3年度税制改正の与党大綱では下記の通り、早急な検討を行う方針が示されていた。 これを受け金融庁では本年5月7日に「金融所得課税の一体化に関する研究会」を設置、同月10日より7月2日にかけて全3回の議論を行った。 その議論の結果として、同会は7月7日に「金融所得課税の一体化に関する研究会」論点整理を公表し、デリバティブ取引を含む金融所得課税の一体化の方向性や課題等を明らかにした。 論点整理ではまず、デリバティブ取引について、個人投資家にとっても、ヘッジや分散投資といった目的で行われることで、投資手段の幅を広げ、ひいては、現物投資の拡大とあいまって、家計による成長資金の供給の拡大と家計の資産形成につながっていくことが期待されるとして、そのための投資環境整備を進めていく必要があるとしている。 現行の税制では、居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、先物・オプション等のデリバティブ取引の差金等決済をした場合には、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%(他に地方税5%))が適用されており、上場株式等の配当・譲渡所得及び特定公社債等の利子・譲渡所得との損益通算はできない。 論点整理では、個人投資家が行うデリバティブ取引には「市場デリバティブ取引」と「店頭デリバティブ取引」に分けられるが、市場デリバティブ取引については取引所での市場流動性を通じた価格・取引の透明性等が担保されていることなどから、まずは「有価証券市場デリバティブ取引」について損益通算の対象としていくことが適切としている。 一方、デリバティブ取引を損益通算の対象に含める場合に想定される租税回避として、上記の通り現行税制ではデリバティブ取引の差金等決済をした場合に課税関係が生じることから、デリバティブ取引の「売り」と「買い」を両建てし、損失があるポジションのみ実現損として損益通算する、いわゆる「ストラドル取引」を行うことで課税の繰延べが可能になると指摘。米国税制の時価評価課税(期末時点で決済されたものとして含み損益を認識させる制度)を導入することで、実現損だけでなく含み益に対しても課税されるため、ストラドル取引に対する有効な租税回避防止策になり得るとした。 この制度導入にあたっては、個人投資家の場合、余剰の現金を持っていないケースもあることから、デリバティブ取引の時価評価を事前に届け出た者のみ時価評価課税(損益通算)を認めるなどの意見が出た。届出制については反対意見もあり、「具体的な時価評価課税の方法については、当研究会で出された意見を踏まえつつ、恣意性の排除の他、政策上の観点、金融機関や税務当局の実務といった執行面についても考慮し、総合的に検討していくことが必要」との見解を示している。 その他論点整理では、特定口座の利用可能性や、個人投資家への影響(届出や確定申告など税務手続の煩雑化や、デリバティブ取引内での損益通算が認められなくなることなど)も整理されているが、損益通算の対象拡大により全体として得られるメリットが大きいとの見解も示されており、今夏以降、来年度の税制改正に向けた動向が注目される。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年7月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.427を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第97回】 「節税義務なるものの正体(その3)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 税理士の商法上の商人該当性 1 商人と商行為 契約関係を前提として、税理士に節税が期待されるとした場合、一般の商人を一方当事者とする性質の役務提供行為がかかる契約に包摂されているものとみるべきなのであろうか。すなわち、ここでは、税理士の商法上の商人該当性を検討してみたい。 商法4条《定義》によると、「商人」とは、固有の商人と擬制商人に分けられるが(商法4)、「固有の商人」とは、「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」であり、「擬制商人」とは、「商行為を行うことを業としないが、店舗その他これに類する設備によって物品の販売を業とする者などで商人とみなされる者」をいう。 税理士は、「物品を販売することを業とする者」には該当しないため、「固有の商人」該当性を考える必要があろう。 そこで、「商行為」の意味するところが明らかにされねばならないが、商法上の商行為には、同法501条が規定する「絶対的商行為」と同法502条が規定する「営業的商行為」、そして、同法503条が規定する「附属的商行為」がある。これらの商行為は以下のとおりである。 ここに示された商行為を業とする者を「固有の商人」という。 ここで、附属的商行為は、そもそも「商人」が行う補助的な商行為をいうとされていることから、先決事項として「商人」該当性が肯定されなければならない。そのため、附属的商行為該当性の検討は後に回すことにしよう。 解釈の手順とすれば、税理士業が「商行為」に当たるか否かについては、税理士業が「絶対的商行為」あるいは「営業的商行為」のいずれかに該当するか否かという論点がまず整理されなければならない問題となる。 この点、商法501条に規定する「絶対的商行為」とは、次のような行為であり、行為自体に営利的性質が付着していることから、継続的な行為ではなく単発の行為であったとしても、これらに該当すれば、当然に商行為とされるものをいう。 これらの行為は税理士が行う行為とはいえまい。 では、次に、商法502条にいう営業的商行為はどうであろうか。 これら13種類の営業的商行為のいずれにも、税理士業は含まれないと解されよう。そうであるとすると、税理士は「固有の商人」に該当しないことになる。前述したとおり、「擬制商人」にも該当しないと解されるため、税理士はいずれの商人にも当たらないことになる。すると、「附属的商行為」該当性も否定されるため、結論的には、税理士は「商人」ではないし、税理士業は「商行為」に該当しないことになる。 (※) ちなみに、国税庁の解釈によれば、印紙税法上の「営業者」は、商法の規定による「商人」と「商行為」を基礎に理解されている。そうであれば、税理士は、印紙税法上の「営業者」にも該当しないことになる。「商人」が営利を目的として同種の行為を反復継続する場合には「営業」に該当することになる。 2 まとめ このように、税理士は商人ではなく、税理士業は商行為でないのである。 契約関係を前提に税理士に節税が期待されていることは前記のとおりであるが、税理士が商人でないとすると、一般の商人を一方当事者とする性質の役務提供行為がかかる契約に包摂されているものとみることは妥当ではないように思われるのである。 商人に該当しないことは単に商法の規定の適用を受けないという意味にとどまりそれ以上の意味を有するものではないとの声もあろう。しかしながら、他方で、通常の営業活動の一環として期待される信認義務などとは距離を置いた契約がそこに所在すると考えるべきではなかろうか。 税理士に対し過度の節税を期待することは、税理士法1条《税理士の使命》において「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定されていることからしても限界があるというべきであり、これまでの節税義務や節税措置義務を肯定してきた裁判例では、総じて、税理士の使命論的視角が欠落してはいなかったであろうか。 議論のあるところではあるが、ともすると、本連載(その1、その2)で提示した判決の理解などを根拠に税理士にアグレッシブな節税要求がなされるとすると、本来の税理士のあるべき立ち位置までもが脅かされるように思われるのである。そのように考えると、信認義務のようなものが税理士に課されていると考えるべきではなく、単に依頼者の期待に応えるべき注意のレベルを論じたものが「節税措置義務」と称されているものというべきではなかろうか。それは、いわば、税理士に課されている「適正申告義務」の枠内での議論であると位置づけられるべきであろう。 節税義務や節税措置義務の判決がその射程に関する意識を欠いたところで一人歩きすることは、税理士のあるべき姿という点からみて、若干の不安を覚えるところである。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q65】 「平成27年以前の割引債類似の公社債の譲渡による譲渡所得に係る取扱い」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 平成25年の金融所得課税の一体化に係る改正前の取扱い 従前、公社債等の譲渡による所得は、経過利子を反映したものであるとして、原則として、所得税は課されないこととされていましたが、一定の割引債等については例外的に総合課税の対象とされていました。さらに、この総合課税の対象となる公社債について譲渡損失が生じた場合には、他の所得との損益通算が認められていました。 〈総合課税の対象となる割引債等〉 また、上記②の割引債類似の公社債は、下記のものが該当することとされていました。 なお、上記の取扱いは、平成25年度税制改正における金融所得課税の一体化の導入により廃止され、平成27年12月31日までの適用とされていました。 2 東京地裁の判決を受けた、平成27年12月31日以前の割引債類似の公社債の譲渡による譲渡所得に係る対応 (1) 東京地裁における判決 東京地裁において、債券の利子の利率が一定の時期における一定の基準(為替レートなど)により変動する債券について、上記1の(エ)に記載した150%基準に該当するか否かが争われ、「150%基準にいう利率の『最も高いもの』及び『最も低いもの』に当たるのは、債券の発行条件に照らし、その発行期間においてとり得るものとされている上限利率及び下限利率であり、このような上限利率を下限利率で除して計算した割合が150%以上となる場合(下限利率が0%である場合を含む。)には、その債券は、その発行時の現況に照らして150%基準を満たす現実的可能性がおよそないと認められるような特段の事情がない限り、150%基準を充足する」と判示されました(令和3年5月20日判決)。 (2) 国税庁による取扱いの公表 国税庁では、この150%基準の判定について、これまで、「発行時点において、発行条件に定められた各利払期間の利子の利率により、その公社債の各利払期間の利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が150%以上になることが必然であるもの」として取り扱っていましたが、上記(1)の判決を受けて、これを変更することを公表しました。 国税庁が公表した取扱いの変更によると、150%基準に該当するか否かについては、判決に則して、「債券の発行条件に照らし、その発行期間においてとり得るものとされている上限利率及び下限利率を基に、その発行時の現況に照らして150%基準を満たす現実的可能性がおよそないと認められるような特段の事情がない限り、150%基準を充足するか否か」により判断することとされます。 この変更は過去に遡って適用されますので、平成27年分以前の所得税の確定申告において、割引債類似の公社債に該当しないものとして取り扱った税額計算に異動が生じることにより、所得税が過大納付となっている場合には、国税通則法の規定に基づき、その申告書の提出日から5年以内に所轄の税務署長に更正の請求をすることにより、所得税の還付を受けることが可能とされています。 なお、実際に更正の請求が可能かどうかについては、個別の状況に合わせて検討が必要です。 3 金融所得課税一体化後の取扱い 金融所得課税の一体化適用後(平成28年以降)は、公社債の譲渡による所得は、株式と同様に、株式等に係る譲渡所得等の対象となります。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第37回】 「離婚に伴う財産分与とその譲渡損失」 -特殊関係者に対する譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q X(夫)は、離婚に伴い、7年前から家族で居住の用に供してきた居住用家屋とその敷地をY(妻)に財産分与しました。 その際、Yが長女Zを養育し、Xは、Yに対しZの養育費として毎月20万円を交付することで合意しました。Yには他に収入がなく、Yは、Xから受け取る養育費によりZと共に暮らしています。 Xが分与する土地は、現在、取得価額以下に値下がりし、時価を基にして譲渡所得を計算すると譲渡損失が発生しました。 他の適用要件を満たしている場合に、Xは当該譲渡損失について「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A Xは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある親族などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、財産分与による資産の譲渡は、離婚後における譲渡であることから、XからYへの譲渡は配偶者に対する譲渡(措法41の5⑦一、措令26の7③一)には該当しません。 また、Yは、Xから交付を受けるZの養育費により生計を維持していますが、離婚に伴う財産分与、損害賠償その他これらに類するものとして受ける金銭により生計を維持していることから、租税特別措置法施行令第26条の7第3項4号に掲げる者にも該当しません(措通31の3-23(「個人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの」の意義)後段、措通41の5-18(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用)。 したがって、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 なお、分与者に対しては、分与した土地家屋の時価を基にして譲渡所得課税が行われ、つまり、その譲渡価額については実勢価額(通常の取引価額)に基づき計算されます。 おって、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第4回】 「「適格請求書発行事業者の登録申請書」の記載に関する注意点」 ~提出時は課税事業者であるが、インボイス制度開始時に免税事業者となる場合~ 税理士 石川 幸恵 【Q】 令和3年10月1日に資本金1,000万円で9月決算の法人を設立しました。このため設立第1期(R3.10.1-R4.9.30)及び第2期(R4.10.1-R5.9.30)は新設法人の納税義務の免除の特例により課税事業者になります(消法12の2)。このたび、基準期間や特定期間となるこれら2期の売上を予測したところ、インボイス制度のスタートと重なる第3期(R5.10.1-R6.9.30)からは免税事業者となる見込みなのですが、主な売上先は事業者なので、インボイス制度のスタート時より適格請求書発行事業者になることを考えています。適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限と、申請書の書き方の注意点を教えてください。 〔ポイント〕 (1) インボイス制度スタート時までの納税義務を確認する。 (2) 令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合の申請書の提出期限はいつか。 (3) 申請書の提出後に令和5年10月1日の属する課税期間が免税事業者となった場合においても、令和5年10月1日以後、納税義務の免除の規定の適用はない。 * * * 【A】 (1) インボイス制度スタート時までの納税義務の確認 免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受けることとなった場合には、登録を受けた日から課税事業者となる経過措置(28年改正法附則44④、インボイスQ&A問8、インボイス通達5-1、連載【第2回】もご参照ください)があります。インボイス制度スタート時の納税義務が明らかになってからでないと、この経過措置の適用を受ける必要があるかどうかわかりませんが、申請書は、インボイス制度スタート時の納税義務が明らかになる前に提出することが可能です。 質問者の方が設立する法人の設立第1期、第2期は、新設法人の納税義務の免除の特例(消法12の2)により、課税事業者です。 インボイス制度の開始と同時にスタートする第3期の納税義務は、基準期間における課税売上高(消法9)及び特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額(消法9の2)による判定となります。 次の(2)で、第3期の納税義務判定のパターンを3つに分けて、それぞれのパターンでの申請書の提出期限と申請書の書き方について見ていきます。 (注) ここでは、第1期、第2期において、調整対象固定資産や高額特定資産の取得はしていないことを前提とします。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限 ① パターン1(設立第1期の課税売上高が1,000万円超) 設立第1期の課税売上高が1,000万円を超えた時点で、第3期は課税事業者であることが確定します。適格請求書発行事業者の登録申請書は令和5年3月31日までに提出します。申請書の記載方法は連載の【第1回】をご参照ください。 ② パターン2(設立第1期の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間の判定により課税事業者となる) 設立第1期の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間(令和4年10月1日から令和5年3月31日まで)の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円超(※1)となった場合は、第3期は課税事業者となります(消法9の2)。 (※1) 特定期間における納税義務の判定では、課税売上高又は給与等支払額の合計額のいずれで判定するかは納税者の任意で選択することができます。したがって、課税売上高又は給与等支払額の合計額の一方が1,000万円超で、他方が1,000万円以下の場合は、免税事業者又は課税事業者いずれの判断も可能です(消法9の2)。 インボイスQ&A問7には、「特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる場合の申請書の提出期限」について言及があり、提出期限は令和5年6月30日とされています。パターン2はこれに当てはまりますので、令和5年6月30日までに申請書を提出します。 (注) インボイスQ&A問7における「特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000 万円を超えたことにより課税事業者となる場合」の判定対象の課税期間が、申請書の提出時なのか、登録時(=インボイス制度のスタート時)なのか、Q&Aからは、はっきり読み取れません。本稿では、登録時についての判定と捉えております。 申請書の記載方法はパターン1と同じですので、連載の【第1回】をご参照ください。 ③ パターン3(第3期は免税事業者) 設立第1期の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間(令和4年10月1日から令和5年3月31日まで)の課税売上高又は給与等支払額の合計額(※2)が1,000万円以下となった場合は、第3期は免税事業者となります。 (※2) 特定期間における納税義務の判定では、課税売上高又は給与等支払額の合計額のいずれで判定するかは納税者の任意で選択することができます。したがって、課税売上高又は給与等支払額の合計額の一方が1,000万円超で、他方が1,000万円以下の場合は、免税事業者又は課税事業者いずれの判断も可能です(消法9の2)。 特定期間の課税売上高の算定には、3月中の売掛金の集計も必要となりますので、本来の提出期限である令和5年3月31日までに登録申請書を提出することは難しいかもしれません。また、インボイスQ&A問7の「特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる場合」にも当てはまりませんので、提出期限が令和5年6月30日になることもないと考えられます。 このような場合は、令和5年3月31日までに提出できなかったことにつき困難な事情がある場合に該当すると考えられます。困難な事情がある場合は、登録申請書の提出は令和5年9月30日まで可能です。申請書に困難な事情を記載する必要がありますが、その困難の度合いは問われません(インボイスQ&A問7)。 (3) パターン3の場合の申請書記載の注意点 申請書の表面の事業者区分の「課税事業者」の にレ印を付します。次葉の「免税事業者の確認」欄にチェックがなくとも経過措置が適用されることとなります。 (3) パターン3の場合の申請書記載の注意点 第3期は納税義務の判定上、免税事業者ですが、経過措置を受けて期首から課税事業者になればよいと考えられます。ここで注意していただきたいのが、適格請求書発行事業者の登録申請書の記載です。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ① 想定される誤り 適格請求書発行事業者の登録申請書の表面の事業者区分には、「この申請書を提出する時点において、該当する事業者の区分に応じ にレ印を付してください」という指示があります。パターン3の場合、申請書を提出すると考えられる令和5年9月30日までの課税期間(第2期)は課税事業者ですから、「課税事業者」にレ印を付すこととなります。 次にこの枠内の※印のまた書き以降を読むと、「また、免税事業者に該当する場合には、次葉「免税事業者の確認」欄も記載してください(詳しくは記載要領等をご確認ください。)」と指示があります。パターン3は、申請書の提出時は「免税事業者」には該当していませんので、指示だけに従うと「免税事業者の確認」欄をすり抜けてしまう恐れがあります。 なお、本稿執筆時点で記載要領等は公開されていませんので、注意喚起があるのかどうかは不明です。 ② 「免税事業者の確認」欄も漏れなく記載 「免税事業者の確認」欄に経過措置を受ける旨のチェックがあります。このパターン3の場合は、「課税事業者」にレ印を付し、かつ次葉の「免税事業者の確認」欄の「令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受け、所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第44条第4項の規定の適用を受けようとする事業者」にレ印を付す必要があると考えられます。 ③ 経過措置を受ける旨のチェックが漏れたら? パターン3のような場合も含め、経過措置の適用を希望する事業者が、経過措置を受ける旨のチェックの漏れた申請書を提出した場合、どのような取扱いになるのでしょうか。 インボイス制度は、これまで納税事務負担を考慮して納税義務が免除されていた事業者にも広く影響のある制度です。登録番号が通知され、登録日が令和5年10月1日となっていれば、登録日から課税事業者となるというような柔軟な取扱いがあるかもしれません。 (4) 適格請求書発行事業者の登録申請書の記載要領について 先般公表された「適格請求書発行事業者の登録申請書の記載要領」には、「申請書の提出後に令和5年10月1日の属する課税期間に免税事業者となった場合においても、経過措置により令和5年10月1日以後は納税義務の免除の規定の適用はない」とされています。 このことより、申請書の提出前に、令和5年10月1日の属する課税期間について判定することは求められていないものと推察されます。結果として、令和5年10月1日を含む課税期間の納税義務の有無が明らかになっていなくても、申請書の提出は可能と考えられます。 〈適格請求書発行事業者の登録申請書の記載要領〉 つまり、質問者のようにインボイス制度のスタート時より適格請求書発行事業者になりたい場合には、令和5年10月1日を含む課税期間の納税義務の有無に関わらず、令和5年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出すればよいと考えられます。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第31回】 「複数後継者、資産保有型会社等の場合の事業承継税制」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私は不動産賃貸業等を行うA社の代表取締役社長です。先代からA社株式の70%を相続しています。なお、30%は取締役副社長である私の弟Zが所有しています。A社の財政状態は下記の通り健全です。 なお、私には一人娘Xがおり、娘の夫Yを私の養子としています。Yは取締役として、Xも従業員としてA社を支えてくれており、将来は2人に会社を任せたいと考えています。 今年、私は70歳になるので、そろそろY及び実の娘であるXにA社株式を贈与し会社を引退したいと考えています。ただ、株式の贈与にあたり、贈与税が高いことが悩みの種です。 そんな中、事業承継税制という制度があることを知り、利用したいと考えています。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 事業承継税制の概要 従来から事業承継税制はありましたが、平成30年度税制改正において「事業承継税制の特例」が創設されました。「事業承継税制の特例」は一定の要件のもと、相続税・贈与税の納税が猶予及び免除される時限措置(2027年12月31日までの相続又は贈与が対象)です。 《「事業承継税制の特例」の概要》 [2] 複数後継者の留意点 特例措置においては最大3人までの後継者に承継が可能ですが、下記の要件を満たす必要があります。 本件では、後継者は2名(X及びY)です。Xは取締役ですが、Yは従業員であるため3年以上役員とする必要があります。また、贈与の時においてX及びYともに会社代表権を有する必要があります。 議決権割合についても注意が必要です。上述の〔同族内筆頭要件〕にてX及びYの議決権割合がZ(同族関係者)の議決権割合30%を上回る必要があります。 なお、複数の後継者が先代経営者1人から贈与を受ける場合は、同一年中に贈与を受けなければ特例制度の適用を受けることができません。 [3] 資産保有型会社及び資産運用型会社の制限 承継会社が資産保有型会社及び資産運用型会社(以下「資産保有型会社等」)の場合、原則として事業承継税制を適用できません。本件の場合、A社は資産保有型会社等に該当します。 (※1) 剰余金配当等一定の調整が必要。 (※2) 特定資産は以下のとおり。 ➤有価証券等 ➤現に自ら使用していない不動産 ➤ゴルフ会員権等 ➤絵画、貴金属等 ➤現預金その他これらに類する資産 ただし、資産保有型会社等であっても、次の全ての要件を満たす事業実態のある会社は、事業承継税制の対象となる資産保有型会社等に該当します。適用に当たってA社は以下の要件全てに該当する必要があります。またその疎明資料は下記の通りです。 [4] 退職金の支払いと相続時精算課税の適用 事業承継税制には期限確定事由があり、この事由に該当する場合、事業承継税制を適用しなかった場合に払うべきであった贈与税及び利子税の支払いが必要となります。 したがって、事業承継税制を適用する際は、当該リスクに対応するため株価対策及び相続時精算課税適用の検討が必要となります。 株価対策としては、先代経営者への退職金の支払いによる評価下げが考えられますが、事業承継税制では先代経営者(贈与者)が代表権のない役員の辞任をすることまでは求められていない一方、法人税法上、役員退職金を損金とするためには実態として先代経営者(贈与者)が退任している必要があります。 また、相続時精算課税を適用することにより、暦年贈与課税の税率が最大55%であるのに対して、相続時精算課税(※3)の税率は20%であり、贈与する株式の株価が高い場合、期限確定事由となった場合の贈与税及び利子税のリスク金額を抑えることができます。 (※3) 相続時精算課税を適用する場合は、贈与税申告書等を税務署へ提出する際「相続時精算課税選択届出書」の提出を失念しないように留意が必要です。 [5] 贈与後の手続 贈与後の手続としては、次のとおりです。 これらの届出書等は添付書類も多いため、事前に準備しておくことが必要です。 [6] 結論 「事業承継税制の特例」の概要・手続を理解した上で、この制度を利用するということであれば、おおよそ以下の手順で進めることになります。 (※4) 贈与後の手続については、上記「[5] 贈与後の手続」を参照。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)