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《速報解説》 国税庁、令和2年度の再調査の請求、審査請求、訴訟の概要を公表~コロナ禍が権利救済分野にも影響~

 《速報解説》 国税庁、令和2年度の再調査の請求、審査請求、訴訟の概要を公表 ~コロナ禍が権利救済分野にも影響~   公認会計士・税理士 大橋 誠一   2021年6月23日、国税庁は、令和2年度(会計年度)における「再調査の請求」「審査請求」「訴訟」の概要をそれぞれ公表した。 国税に関する法律に基づく処分についての納税者の救済制度には、処分庁(税務署長など)に対する再調査の請求(かつての異議申立て)や国税不服審判所長に対する審査請求という行政上の救済制度(不服申立制度)と、裁判所に対して訴訟を提起して処分の是正を求める司法上の救済制度がある。 以下では、令和2年度におけるこれら救済制度に係る統計情報等について検討する。   1 再調査の請求 (1) 発生状況 (※) 国税庁「令和2年度における再調査の請求の概要」より抜粋。 平成28年度以降の申立件数が減少しているのは、従前は青色申告書に係る更正等以外の処分については必ず異議申立て(現在の再調査の請求)を経なければ審査請求を行うことができなかったが、平成28年4月1日以後の処分については、納税者の選択により、再調査の請求を経ずに直接審査請求できるように国税通則法が改正され、そのようにした納税者が多くなった(令和2年度の直接審査請求割合は71.5%)からである。 令和元年度及び令和2年度の申立件数の減少は、新型コロナウイルス感染症の影響により、税務調査件数の減少に伴う不利益処分件数の減少が影響しているものと考えられる。 (2) 処理状況 (※) 国税庁「令和2年度における再調査の請求の概要」より抜粋。 令和2年度の認容割合(処分の全部又は一部が取り消された割合)は10.0%であり、例年10%前後の数値を示している。 国税庁の業績目標である標準審理期間の3ヶ月以内処理件数割合は99.9%と急上昇しているが、令和2年度は災害等による調査の中断や納税者の都合によって3ヶ月以内に処理できなかった事案を除外して算出しており、当該影響を含めた割合は87.9%であったことから、やはり新型コロナウイルス感染症の影響はあったとみられる。   2 審査請求 (1) 発生状況 (※) 国税庁「令和2年度における審査請求の概要」より抜粋。 平成28年度以降の請求件数が増加しているのは、前述の直接審査請求の増加による請求時期の前倒しの影響とみられる。 令和元年度及び令和2年度の申立件数の減少は、新型コロナウイルス感染症の影響により、税務調査件数の減少に伴う不利益処分件数の減少が影響しているものと考えられる。 (2) 処理状況 (※) 国税庁「令和2年度における審査請求の概要」より抜粋。 令和2年度の認容割合(処分の全部又は一部が取り消された割合)は10.0%であり、例年10%前後の数値を示している。 国税庁の業績目標である標準審理期間の1年以内処理件数割合は83.5%と急減しているが、審判官の合議によって審理する国税不服審判所の性格から、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止に対応した審理態勢の構築に一定の時間を要した影響とみられる。   3 訴訟 (1) 発生状況 (※) 国税庁「令和2年度における訴訟の概要」より抜粋。 新規発生である第一審の件数は概ね減少傾向にあるが、これは事前照会に対する文書回答手続などの制度の充実により、納税者の予測可能性が一定程度向上していることによるものと考えられる。 令和2年度の発生件数の減少は、新型コロナウイルス感染症の影響とみられる。 なお、不服申立て(再調査の請求・審査請求)は不利益処分の件数を単位としており、例えば、1人の請求人が5件の不利益処分を受けて全件不服申立てをすれば「5件」としてカウントするが、訴訟は原告単位であり、上記の例では「1件」とカウントすることになる。 (2) 終結状況 (※) 国税庁「令和2年度における訴訟の概要」より抜粋。 令和2年度において被告である国が敗訴した割合である敗訴件数割合は7.8%であり、例年10%弱の数値を示している。 なお、不服申立て(再調査の請求・審査請求)は不利益処分がいったん取り消されるとその効力が確定する(処分庁はそれを不服として上級審理庁に判断の見直しを求めることができない)が、訴訟は国が敗訴しても控訴・上告によって判断の見直しを求めることができるという相違点がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 425(掲載号)
#大橋 誠一
2021/06/24

プロフェッションジャーナル No.425が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年6月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.425を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/06/24

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第3回】「課税要件法定主義と委任命令」-ふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第3回】 「課税要件法定主義と委任命令」 -ふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義。租税法律主義の意義と分類については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第1回】参照)の要請のうち課税要件法定主義に関して委任命令の委任範囲逸脱の問題を扱ったふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁(以下「本判決」という。本判決には宮崎裕子裁判官の補足意見と林景一裁判官の補足意見が示されているが、以下では「宮崎補足意見」、「林補足意見」という)を取り上げる。本判決は、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)では当然のことながら取り上げていないが、現在改訂作業中の同書第7版(今秋刊行予定)では欄外番号【30】で取り上げることにしている。 形式的租税法律主義すなわち法律によらない課税の禁止の原則からすれば、課税要件をはじめとして納税者の実体的・手続的権利義務にかかわる事項は、すべて法律で定めなければならない(前回Ⅱで取り上げた大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁等参照)。この要請は、租税法律主義の民主主義的再構成(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第34回】Ⅱ、【第43回】Ⅳ、【第45回】Ⅲ参照)に基づき租税立法者の規律責務を明確にし租税法律の規律密度(ここでは特に規律事項の範囲)を高めるものであり、課税要件法定主義と呼ばれる。 課税要件法定主義の下では、命令(行政立法)への委任について①委任する租税法律(委任法律)の側で委任の仕方が、②委任を受けて定められる命令(委任命令)の側で委任範囲の逸脱が問題にされる。①については、個別的・具体的委任は許されるが、一般的・白紙的委任は課税要件法定主義に反し違憲であることに異論はない(ただし、一般的・白紙的委任を認めた裁判例としては神戸地判平成12年3月28日訟月48巻6号1519頁があるくらいで、これも控訴審・大阪高判平成12年10月24日訟月48巻6号1534頁で覆された)。また、②については、委任範囲を逸脱した委任命令を課税要件法定主義に反し違憲とするか、又は委任法律に反し違法とするかはともかく(本判決と同じく筆者も後者の立場である)、その委任命令が無効であることに異論はない。 今回検討する本判決は上記の②の問題について、従来の判例の立場を踏まえつつ、新たな判断を示したものとして注目される。以下では、拙稿「判批」民商法雑誌157巻2号(2021年)281頁をベースにしながら、本判決について検討することにする。その検討に入る前に、本件の事案の概要を以下に述べておこう。 ふるさと納税制度(地税37条の2第1項・第2項、314条の7第1項・第2項)は、平成20年度税制改正により導入された。創設当時は、地方団体が寄附金の受領に伴い当該寄附金の支出者に対して提供する物品、役務等のいわゆる返礼品について特に定める法令上の規制は存在しなかった。もっとも、その後、寄附金の額に対する返礼品の調達価格の割合(返礼割合)の高い返礼品を提供する地方団体が多くの寄附金を集める事態が生じたこと等から、Y(総務大臣-被告・被上告人)は、地方団体に対する技術的な助言(自治254条の4第1項)として、平成27年以後、状況の変化に応じて通知(本件各通知)により是正を求めたにもかかわらず、一部の地方団体が過度な返礼品を送付して多額の寄附金を得る状況はその後も継続していた。 そこで、総務省は、過度な返礼品を送付しふるさと納税制度の趣旨を歪めているような地方団体を特例控除の対象外にすることができるようにするとの基本的な考え方に基づいて、所定の基準(募集適正基準等)に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対する寄附金のみを特例控除対象寄附金とする制度(本件指定制度)を導入すること等を内容とする法律案(本件法律案)を作成した。本件法律案は内閣から国会に提出され、平成31年3月27日に成立し、そのうち本件指定制度の導入等を内容とする改正規定(本件改正規定)は令和元年6月1日から施行された。本件指定制度を定める地方税法37条の2第2項(本件授権規定)に基づき、総務大臣は、平成31年4月1日、募集適正基準等を定める告示(本件告示)を発し、令和元年6月1日から適用することとした。 本件告示1条はふるさと納税制度の趣旨について「ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝え、又は税の使い途を自らの意思で決めることを可能にすること」と述べている。本件で本件授権規定による委任の範囲の逸脱が問題とされたのは本件告示2条3号であるが、これは、募集適正基準の1つとして、「平成30年11月1日から法第37条の2第3項・・・・・・に規定する申出書を提出する日までの間に、前条に規定する趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような第1号寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による第1号寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の第1号寄附金を受領した地方団体でないこと」という指定基準を定めるものである。 以上のような経緯で導入された本件指定制度の下で平成31年4月5日付けで初年度に係る指定の申出(本件指定申出)をした泉佐野市に対してYが当該指定をしない旨の決定(本件不指定)をした。その理由は、本件指定申出に係る申出書等の内容上の問題(不指定理由①)、本件告示2条3号のうち過去の募集実績に係る基準(過去の募集実績基準)違反(不指定理由②)及び法定返礼品基準違反(不指定理由③)であったが、X(泉佐野市市長-原告・上告人)は、本件不指定を不服として、地方自治法250条の13第1項に基づき国地方係争処理委員会への審査の申出を経て、令和元年11月1日、本件不指定は違法な国の関与に当たると主張して、同法251条の5第1項2号に基づき、Yに対し本件不指定の取消しを求めた。   Ⅱ 本判決の判断基準とその適用 以下では、今回の主題に従い不指定理由②に関する本判決の判断内容を以下でみておこう。 まず、本判決は委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準について次のとおり判示した。 次に、本判決は、「このような観点から,本件告示2条3号の効力について検討する」として、「法文の文理」、「委任の趣旨」及び「立法過程における議論」(「本件法律案の作成の経緯」及び「国会における本件法律案の審議の過程」)を検討しているが、これらのうち本判決が委任の範囲逸脱の判断において特に重視したものと解される「委任の趣旨」に関する判示(下線筆者)を次に引用しておく。 最後に、本判決は次のとおり判示して本件告示2条3号の規定につき地方税法37条の2第2項(本件授権規定)の委任の範囲逸脱を認めた。   Ⅲ 委任の趣旨と「法律の専管事項」 1 従来の判例法理 本判決は、委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準として、医薬品ネット販売事件・最判平成25年1月11日民集67巻1号1頁が次の判示で採用した「授権趣旨の明確性」(宮村教平「判批」阪大法学63巻5号(2014年)1627頁、1632頁、宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣・2020年)309頁等)という基準を「下敷き」(中原茂樹「判批」法教480号(2020年)114頁)にして、「事例判断的な表現」(高木光「判批」民商149巻3号(2013年)269頁、277頁)も含めて、同じような判断基準を採用したものと解される(原田大樹『判例で学ぶ法学 行政法』(新世社・2020年)211頁参照)。 このような基準によって判断する際の考慮要素について、上記最判に関する調査官解説(岡田幸人「判解」最判解民事篇(平成25年度)1頁、20頁)は従来の判例の立場を次のように整理している。 2 委任の趣旨に関する「法律の所管事項二分論」 本判決について従来の判例法理と比べて特徴的と思われるのは、「委任の趣旨」に関する前記の判示である。 本判決は、まず、本件授権規定が募集適正基準の策定を本件告示に委任した趣旨として、同基準の策定が❶「総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄」及び「状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄」である旨を判示している。この判示は、委任の趣旨に関する一般論(岡田・前掲「判解」19頁、宇賀・前掲書301頁参照)を募集適正基準について述べたものであり、特に異論はなかろう。 本判決は、次に、法律の所管事項について❶と区分して、❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」を示し、過去の募集実績基準はこれに該当する旨を判示している(法律の所管事項二分論)。この点について、林補足意見は「Yにおいて、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであったといえる。」と述べている。 「委任の趣旨」に関する本判決の以上の判断からすると、❷の事項はいわば「法律の専管事項」である以上、これに該当する過去の募集実績基準の策定は本件授権規定によって委任されていないこと(いわば「委任の不存在」)になるから、「[過去の募集実績]基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできない。」と結論づけられたものと解される。つまり、この結論にとって決定的な意味をもつのは、「委任の趣旨」に関する前記の判断のうち、過去の募集実績基準が❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」という「法律の専管事項」に該当するという判断であると考えられる。 3 過去の募集実績基準の「法律の専管事項」該当性の理由 では、その判断はどのような理由に基づくものであろうか。「委任の趣旨」に関する前記の判示によれば、過去の募集実績基準は、「[本件指定制度]の導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点」から、設けられたものとされているが、この「観点」には、ⓐ過去すなわち本件指定制度の導入前の募集実績の考慮とⓑ他の地方団体との公平の確保という2つの要素が含まれている。 まず、ⓐについて、本判決は、遡及課税立法に関する判例(最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁等)の趣旨に照らして、ⓐを法律で定めることを要求したものと解される。判例では、遡及課税を法律で定めたとしても、「[当該法律の]適用によって納税者の租税法規上の地位が変更され,課税関係における法的安定に影響が及び得る場合」には当該法律の憲法84条適合性が問題となり得るとされているが、そうすると、過去の募集実績基準が「委任の趣旨」に関する前記判示にいう「指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるもの」である以上、ⓐは❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」に該当するとされたものと解される。 次に、ⓑ他の地方団体との公平の確保は、地方自治の保障(憲92条・94条)からの要請であると解される。地方自治の基本的要素としての団体自治は、国からの独立性に加えて地方公共団体相互の公平性をも要素とすると考えられる。後者は法律の枠内で保障されるものとされている以上、ⓑも前記❷の事項に該当するとされたものと解される。   Ⅳ おわりに 以上において、委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準に関する判例法理に対して本判決が新たに付け加えた、「委任の趣旨」に関する法律の所管事項二分論ともいうべき考え方を明らかにし過去の募集実績基準に関して検討した。 最後に、本件の背景にある、より本質的と思われる立法のあり方の問題についても若干の検討を加えておきたい。 宮崎補足意見は、「本件の背景にあるいくつかの問題を俯瞰しつつ」法廷意見の理由を補足しているが、その問題の1つとして、本件告示1条で示されたふるさと納税制度の趣旨(Ⅰ参照)に照らして、「寄附金と税という異質なものが制度の前提にあ」り「調整の仕組みを欠いた状態」で「本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為を,制度の趣旨に反するか否か,あるいは制度の趣旨をゆがめるような行為であるか否かという観点から評価することには無理がある。」と述べている。 思うに、そのような不明確な「趣旨」では、一方で、「本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為」を「制度の濫用」(外国税額控除余裕枠利用事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁。この判決については「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』【第7回】等参照)と認めることまではできないし、他方で、立法者が制度設計に当たりその要件を定める場合における要件化の基準として制度の規律密度を高めることに資する「立法基準性」を満たし得ず、したがって、規律密度の低さに帰結すると考えられる。規律密度の低い制度は、その回避や濫用を容易に許してしまういわゆる「脇の甘い」制度であるが、ふるさと納税制度は、本件指定制度の導入までは、そのような制度の1つであったといえよう。 ふるさと納税制度の「脇の甘さ」は、本件指定制度の趣旨や本件におけるYの主張の中で述べられている「他の地方団体との不公平」に帰結した。すなわち、ふるさと納税制度の創設時には地方団体に「良識ある行動」が強く期待されていたが(「ふるさとのうぜい研究会報告書」(平成19年10月)23頁参照)、「良識ない行動」が同制度上禁止されておらず、しかも「良識ある行動」をする場合に比べて「良識ない行動」をすることによって同制度を通じて多額の寄附金を受け取ることができるというのであれば、「良識ない行動」をする地方団体が現れることは想定できるし(実際に想定されていた)、実際に現れたのである。 ふるさと納税制度のこのような問題(弊害)は、構造の点では、租税回避の類型の1つである税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(前掲拙著【66】参照)の問題と類似する。この租税回避の問題は、納税者が税法上の課税減免規定をその趣旨・目的に反して(その要件を文言上のみ充足して)利用することによって課税減免の利益を享受し、当該課税減免規定を利用しない納税者との間で租税負担の不公平をもたらすという問題であり、当該課税減免規定の趣旨・目的に反する利用に対する適用除外規定の欠缺(隠れた欠缺)による規律密度の低さに基因するものである。そのような欠缺を補充し租税負担の公平を実現するのは、第一次的には、立法者の責任である(前掲拙著【69】参照)。この意味で、次の見解(宮崎裕子「一般的租税回避否認規定-実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の目線から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、43頁)は正鵠を射たものである。 この見解を裁判官の立場から述べるとすれば、次のようになろう(Albert Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 230.)。 これらの見解は、ふるさと納税制度の弊害である「他の地方団体との不公平」の是正についても、基本的に妥当すると考えられる。そもそも、他の地方団体との公平の確保は、Ⅲ3で述べたように、憲法上の地方自治の保障から要請されることに加え、ふるさと納税制度のそのような弊害は制度検討段階から想定されていた以上、現実に生じてきた弊害への対応を本件各通知に委ね法律改正の遅延により本件のような事態を招いた責任は、第一次的には、国(総務大臣及び国会)にあると考えるべきである。 このように考えると、ふるさと納税制度については、無条件に、「Yにおいて、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであった」(林補足意見)ということにはならないように思われる。過去の募集実績基準のような行政による「事後立法」を必要としない、機動的な「質の高い立法力」(宮崎・前掲論文43頁)こそが、立法者に強く求められると考えるところである。 「質の高い立法力」は行政立法についても不可欠であり、委任命令が委任法律による委任の範囲を逸脱することがないよう、行政は「委任の趣旨」を的確かつ適切に具体化する委任命令を制定しなければならない。最判令和3年3月11日裁時1763号4頁・裁判所ウェブサイト(本件第一審判決及び控訴審判決については「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』【第18回】【第19回】参照)をみても、そのことを痛感する次第である。 (了)

#No. 425(掲載号)
#谷口 勢津夫
2021/06/24

令和3年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第1回】「カーボンニュートラル投資促進税制の創設」

令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第1回】 「カーボンニュートラル投資促進税制の創設」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   ~はじめに~ 連結納税適用法人を対象に令和3年度税制改正の概要を解説したい。 連結納税適用法人に関する税制は、次の4種類に分類される。 令和3年度の税制改正は、ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生、デジタル社会の実現、グリーン社会の実現、中小企業の支援・地方創生を主要テーマとした改正となっている。ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生では、企業のDXを促進する措置の創設、活発な研究開発を維持するための研究開発税制とコロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し、繰越欠損金の控除上限の特例の措置、株式対価M&Aを促進するための措置が講じられている。 また、デジタル社会の実現では、納税環境のデジタル化として税務関係書類における押印義務の見直し、電子帳簿等保存制度の見直し等、グリーン化社会の実現では、カーボンニュートラルに向けた税制措置の創設、中小企業の支援・地方創生では中小企業向けの投資促進税制及び所得拡大促進税制の見直しと延長が実現している。 本稿では、連結納税制度に関係する改正項目について、その具体的な取扱いについて解説していくこととする。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。   [1] カーボンニュートラル投資促進税制の創設 連結納税制度においても、2050年カーボンニュートラルに向け、脱炭素化効果の高い先進的な投資(化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資)について、税額控除又は特別償却ができる措置が創設されている(3年間の時限措置)。 連結納税制度におけるカーボンニュートラル投資促進税制は、各連結法人を計算単位として税額控除額が計算され、各連結法人の税額控除額の合計額を連結法人税額から控除し、各連結法人の税額控除額が個別帰属額となる。 具体的には以下の取扱いとなる(新措法68の15の7③⑥)。 以上のとおり、税額控除の限度となる法人税額基準額について、連結グループ全体の連結法人税額を考慮すること、住民税の課税標準からの控除について、連結親法人が中小企業者(適用除外事業者を除く)に該当するかで判断することを除いて、単体納税制度と同様の取扱い(新措法42の12の7③⑥、新措令27の12の7③)となる。 また、カーボンニュートラル投資促進税制は、次に掲げる連結法人について適用できない(新措法68の15の7⑧)。   (了)

#No. 425(掲載号)
#足立 好幸
2021/06/24

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第23回】「〔第5表〕借地権の計上」-個人から法人へ相当の地代に満たない地代の収受があった場合-

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第23回】 「〔第5表〕借地権の計上」 -個人から法人へ相当の地代に満たない地代の収受があった場合-   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲が所有しているA土地は、甲が株式を100%保有している甲株式会社に賃貸していますが、経営者甲が甲株式を令和3年に後継者である乙に贈与する予定です。 土地の賃貸借の概要は下記の通りとなります。なお、甲株式会社はA土地について借地権の認定課税を受けたことはありません。 上記の場合において、実際に支払っている土地の地代が次のそれぞれの場合には、甲株式会社の第5表「一株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地の借地権の相続税評価額は、それぞれいくらになるのでしょうか。 A 第5表「一株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する借地権の相続税評価額は下記の通りとなります。  ◆  ◆  ◆ ① 相当の地代に満たない地代を支払う場合の借地権の価額 権利金の支払がなく、相当の地代に満たない地代を支払っている場合には、次の算式により借地権の価額を計算することになります(相当地代通達2・4)。 なお、「実際に支払っている地代の年額< 通常の地代の年額」である場合には、土地を賃借している法人に通常の借地権部分が帰属していると考えられるため、「自用地価額 × 借地権割合」で評価を行います。 相当の地代の年額は、下記の算式により計算した金額をいいます(相当地代通達1)。 通常の地代の年額は、通常の借地権部分を控除した底地に対応する地代の額をいいますので、下記の算式により求めます。 ただし、同族会社の株式を保有している被相続人又は贈与者に相当の地代に満たない地代を支払っている場合において、上記の算式により計算した修正借地権割合が20%に満たない場合には、被相続人の土地が80%で評価されることの権衡を考慮し、自用地価額の20%で評価することとされています(相当地代通達7、昭和43年10月28日付直資3-22他「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達)。   ② 本問の場合における借地権の価額 (1) 相当の地代の90%を実際に支払っている場合 相当の地代に満たない地代を支払う場合の算式は、下記の通りとなります。本問の場合には、100,000千円 ×(1-60%)×6%=2,400千円が通常の地代の年額となります。 修正借地権割合が20%に満たない場合には、被相続人の土地が80%で評価されることの権衡を考慮し、自用地価額の20%で評価することとされていますので、借地権の価額は、10,000千円ではなく、20,000千円となります。 (2) 相当の地代の70%を実際に支払っている場合 相当の地代に満たない地代を支払う場合の算式は、下記の通りとなります。 したがって、借地権の価額は30,000千円になります。 (3) 相当の地代の30%を実際に支払っている場合 相当の地代に満たない地代を支払う場合の算式は、下記の通りとなります。 「実際に支払っている地代の年額(1,800千円)< 通常の地代の年額(2,400千円)」である場合には、土地を賃借している法人に通常の借地権部分が帰属していると考えられるため、「自用地価額 × 借地権割合」で評価を行います。 したがって、借地権の価額は、60,000千円(100,000千円 × 60%)になります。   ☆実務上のポイント☆ 「土地の無償返還に関する届出書」の提出がない場合において、相当の地代及び権利金を支払っていない場合には、相当の地代に対してどれぐらいの地代を支払っているかが重要となります。地代の支払いが少ないほど、借り得する部分が増えて、修正借地権割合が高くなりますが、借地権割合が限度となります。 (了)

#No. 425(掲載号)
#柴田 健次
2021/06/24

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例99(消費税)】 「課税売上げのみに対応するテナント用賃貸建物の取得をした際に、不利な一括比例配分方式で申告してしまった。さらに第3年度において課税売上割合が著しく変動した場合の調整の対象となってしまったため、二重で損害が発生してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例99(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆仕入控除税額の計算方法(消法30②) 消費税の原則課税における仕入税額控除の計算は、課税売上高5億円超又は課税売上割合が95%未満の場合には、全額控除は認められず、(1)個別対応方式と(2)一括比例配分方式のいずれかを選択しなければならない。 (1) 個別対応方式 その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額のすべてを、①課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの(以下「課税対応」という)、②非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの(以下「非課税対応」という)、③課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの(以下「共通対応」という)に区分が明らかにされている場合には、次の計算式により仕入控除税額を計算することができる。 (2) 一括比例配分方式 個別対応方式のように課税仕入れ等に係る消費税額が区分されていない場合、又は区分されていてもこの方式を選択する場合に適用し、次の計算式により仕入控除税額を計算する。なお、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間の継続適用要件がある。 ◆課税売上割合が著しく変動した場合の調整(消法33①) 課税事業者が調整対象固定資産の課税仕入れ等に係る消費税額について比例配分法により計算した場合において、その事業者が第3年度の課税期間の末日においてその調整対象固定資産を有しており、かつ、第3年度の課税期間における通算課税売上割合が仕入れ等の課税期間における課税売上割合に対して著しく減少したときは、次の金額を第3年度の課税期間の仕入控除税額から控除する。 (※) 第3年度の課税期間の末日において有する調整対象固定資産の課税仕入れ等の消費税額。 ◆比例配分法により計算した場合 個別対応方式において「共通対応」について、課税売上割合を乗じて仕入控除税額を計算する方法又は一括比例配分方式により仕入控除税額を計算する方法をいう。したがって、個別対応方式において「課税対応」に区分された調整対象固定資産は上記調整の対象にならない。 ◆著しく減少した場合(消令53②) 次の①、②のいずれの要件も満たした場合に調整が必要となる。       (了)

#No. 425(掲載号)
#齋藤 和助
2021/06/24

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第6回】「賃借人が負担した建物附属設備の固定資産税(償却資産税)の納税義務者は誰になるのかが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第6回】 「賃借人が負担した建物附属設備の固定資産税(償却資産税)の納税義務者は誰になるのかが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷建物附属設備と付合 固定資産税の課税客体は、土地、家屋、償却資産(地方税法第341条第1号、第342条第1項)であるが、償却資産は土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産(地方税法第341条第4号)とされている。 電気設備、ガス設備、冷暖房設備、エレベーター等は、通常は償却資産ではなく、家屋の評価額に含まれて固定資産税の対象となるが、これらが家屋の評価額に含まれるための要件として、①家屋の所有者が所有していること、②家屋に取り付けられて家屋と構造上一体となっていること、③家屋の効用を高めるものの3点から判断することになる(固定資産評価基準第2章第1節七)とされている。 民法において、付合という制度があり、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない」と定められている(民法第242条)。建物附属設備が建物に付合しているかについて「当該不動産の構成部分又は社会通念上その不動産の一部分と認められる状態となり、当該物自体としての取引上の独立性を失った場合においては、不動産の所有者は民法第242条本文の規定により当該付着物の所有権を取得し、また、このような場合には当該付着物は独立した所有権の対象とならないというべきであるから、同条但書の適用はないものというべきである」(最高裁昭和35年10月4日第三小法廷判決)という判断がある。この判断のキーポイントは、建物附属設備がそれ自体として取引の独立性を失っているかどうかである。 この付合という制度が、建物附属設備を家屋の固定資産税評価額に含める根拠の1つになると考える。 それでは、賃貸借契約を締結し、賃借人の負担で取り付けた建物附属設備の固定資産税納税義務者は誰になるのか。まず、この建物附属設備の固定資産税の納税義務者について争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か 建物の所有者XがYと賃貸借契約を締結し、Yがショッピングセンターとして使用していた。完成前にXは工事請負契約を締結して、建物附帯設備の設置を含めた建物の建築を注文した。工事請負契約に際して、Xは、Yとの間で附帯設備とその設置費用はYの負担とすることで合意していた。賃貸借契約で、附帯設備は建物賃借人の所有とすること、賃貸借契約終了時には、Xの選択にしたがってYが附帯設備を撤去して原状回復するか、Yが無償で残置することに合意していた。 建物附帯設備とは、次のようなものであった。 上記附帯設備を建物の評価額に含めて賦課したことについて、Xが不服であるとして訴えたものである。   ▷裁判所の判断 裁判所は、Xの請求は理由がないものとして棄却した。 裁判所は、上記建物附属設備は、建物から撤去されれば、他に転用できず経済的効用を失うから、建物の構成部分又は社会通念上本件建物の一部分と認められる状態となり、当該物自体としての取引上の独立性を失っているから、建物の所有者であるXが所有権を取得したと判断した。 Xは、「スケルトン貸し」(建物躯体以外の建物設備、内装、造作の費用を賃借人が負担して借りるもの)の場合に、建物に付合されるのは不合理だと主張したが、一般的には、建物の所有者が設置する防災設備やエスカレーター、エレベーターを賃借人が負担することは「スケルトン貸し」を前提として不合理と主張するのは事実的基礎を欠いている。 Xは、この賦課決定後に地方税法第343条第9項(現同条第10項)が設けられて、付合により家屋の所有者が所有することとなった附属設備であっても、取り付けた者の事業の用に供することができる資産である場合に限り、取り付けた者をもって所有者とみなすから、建物附属設備の所有者はXではないと主張した。裁判所は、あくまでもこの制度は、建物賃借人等が、自己の事業の用に供するために自己の負担で建物に附帯設備を設置したような場合であり、もともと、建物に附属設備が付合している場合は、建物所有者に対して、附属設備を含めた建物価格について固定資産税を課すことを予定しているから、本件の場合は、附属設備を含めた家屋の価格に基づく賦課決定処分は適法だと判断した。   ▷現行の法令に当てはめた場合はどう考えるか このように、判決においては、建物所有者のXが賃貸借契約の前に締結された建物附属設備の工事請負契約の当事者だから建物附属設備部分も固定資産税の納税義務者となると判断されたと考えるが、現行の地方税法第343条第10項に本件を当てはめた場合はどうなるのか検討する。 地方税法第343条第10項は次のとおりである。 この家屋の附帯設備とは、固定資産評価基準第2章における建築設備及び特殊設備のほか、地方税法施行規則第10条の2に規定するものであるが、この建築設備には、電気設備、衛生設備、空調設備、防災設備、運搬設備(エレベーターやエスカレーターを含む)がある。 また、建物附属設備の費用は賃借人が負担するが、建物附属設備の工事請負契約を締結するのは建物所有者とする実務もあるが、これは賃借人が所有者の想定していないような工事を勝手にすることを防止するためであるといわれる。 本事案を当てはめると、問題となった附属設備は建築設備に該当している。これらの工事請負契約の当事者は所有者のXであるが、XとYの間で費用負担はYと決めており、Yの事業であるショッピングセンターの使用のために不可欠である。実質的には、家屋の所有者以外のYが事業の用に供するために取り付けたものであると考える。 よって、建物附属設備部分については、Yが建物附属設備部分の納税義務者として償却資産税を負担することができると考える。 (了)

#No. 425(掲載号)
#菅野 真美
2021/06/24

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第35回】「親族に対する譲渡と親族の経営する会社に対する譲渡」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第35回】 「親族に対する譲渡と親族の経営する会社に対する譲渡」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xが、居住用家屋とその敷地を、Xの弟であるZ(XとZは住居も生計も別であり、譲渡後に当該家屋に同居する予定もありません)に売却した場合と、Zが経営するD社(Zの持株割合90%)に売却した場合とでは、他の適用要件が具備されている場合に、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」の適用関係に差が生ずるでしょうか。 A いずれの場合にも「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができますので、差はありません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある法人などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、Zは、租税特別措置法施行令第20条の3第1項第1号及び第2号に掲げる親族には該当しません。また、D社も、同項第5項に掲げる会社には該当しません。したがって、いずれの場合も特例の適用を受けることができます(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められています(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)。 (了)

#No. 425(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/06/24

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第56回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第56回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (2) 混合取引(特に現物配当)を巡る議論 法人税法22条の2第6項との関係では、資本等取引の要素と損益取引の要素が混合ないし混在している取引(混合取引)に関する議論を確認しておく必要がある。 金子宏「法人税における資本等取引と損益取引」同編『租税法の発展』337頁以下(有斐閣2010)において、要旨次のような問題提起及び提言がなされていた(下図は筆者作成)。 混合取引の例としては、現物配当、残余財産の現物分配、現物出資(特に、デット・エクイティ・スワップ)、自己の株式の取引等が挙げられる。 このうち現物配当は、利益又は剰余金の分配として資本等取引に該当する(※)が、それは、混合取引として、同時に会社から株主への資産の移転という要素をもっているところ、この会社から株主への資産の移転が、「資産の譲渡」に該当し、そこから譲渡所得が発生すると解すべきか否かという問題がある。 (※) 法人税法22条5項。その他利益剰余金の分配に当たる部分は、22条5項の「法人が行う利益又は剰余金の分配」に当たり、その他資本剰余金の分配に当たる部分は、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」に当たる。 行政解釈は、現物配当からは譲渡損益が生ずると解している模様である(平成22年度改正による法人税法62条の5第3項(下記参考1参照)の規定の中にその趣旨が現れている)が、 この行政解釈の適否については、ほとんど検討が行われていない。 現物配当は、混合取引であるとはいっても、その課税関係、すなわちそれに対して、譲渡所得の課税を行うべきか否か、また譲渡損失の控除を認めるべきか否かは、課税要件に関する極めて重要な問題であるから、租税法律主義(課税要件法定主義)の下では、立法によって対処すべき問題であって、解釈論のレベルで処理できる問題ではないし、現物配当の課税関係に関する疑義を解消するためにも法律で明確に規定することが好ましい。 現物配当からも譲渡所得が生ずると解することは、法解釈としては困難であるが(下記参考2参照)、立法論としては、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値の増加益、すなわち未実現のキャピタル・ゲインに対しては、配当の機会に配当会社に課税するのが妥当である。 立法の形式としては、法人税法22条2項の中に、あるいは別の条文で、現物配当からは、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値増加益の金額に相当する額の収益が生ずるとみなす旨の規定を設けるべきである。 (3) 立案担当者の見解の要旨 法人税法22条の2第6項について、『平成30年度 税制改正の解説』は次のように解説している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』277頁以下 これによれば、法人税法22条の2第6項は、おおむね混合取引を巡る議論を踏まえて、「明確化」のために作られたものと解してよいであろう。 既に見たように、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値の増加益について、配当の機会に配当会社に課税するための立法の形式としては、法人税法22条2項の中に、あるいは別の条文で、現物配当からは、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値増加益の金額に相当する額の収益が生ずると「みなす」旨の規定を設けるという改正提言がなされていた。 他方、法人税法22条の2第6項は、「無償による資産の譲渡に係る収益の額は、金銭以外の資産による利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しその他これらに類する行為としての資産の譲渡に係る収益の額を含むものとする」と規定している。 かように、創設的規定という評価に結び付くような「みなす」規定ではなく、単なる確認的規定という評価に結び付くような「ものとする」規定とされた。 現物配当からも譲渡所得が生ずると解することについて、法解釈としてこれを認める行政側(立案担当者側)とこれを(基本的には)認めない上記(2)で改正提言を行った論者との間には、もとより懸隔があり、それぞれにおける立場の違いが、このように立法の形式ないし表現の相違になって現れたのであろう。 また、上記解説によれば、法人税法22条の2第6項の創設は、収益認識会計基準の公表に伴う改正という枠組みの中では、あくまで1項ないし5項の改正を「契機」として付随的に整備されたものにすぎないという位置付けになる。 このほか、立案担当者は、「その他これらに類する行為」として、例えば、法人税法24条1項6号及び7号に掲げる事由のような、株主等に対する持分権の消滅の対価としての現物資産の交付が想定される旨説明している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』278頁)。   (了)

#No. 425(掲載号)
#泉 絢也
2021/06/24

〈事例から学ぶ〉不正を防ぐ社内体制の作り方 【第7回】「コロナ禍で高まる子会社管理リスク」~内部統制報告書から課題と問題点を学ぶ~

〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第7回】 「コロナ禍で高まる子会社管理リスク」 ~内部統制報告書から課題と問題点を学ぶ~ 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   はじめに 国内外に多くの拠点を展開し、子会社を持つ会社が増えています。そのなかで、子会社はじめ支店や営業所での管理体制が問われる事例が絶えません。たとえば、上場会社は、毎期自社の内部統制の有効性に関する評価結果を内部統制報告書によって株主はじめ広く利害関係者に伝えています。その報告書を見ると、子会社の不正や不適切な会計処理が増加している傾向がわかります。 筆者の調査によれば、2020年通年の報告書において伝えられた子会社の不正や不適切な会計処理は、内部統制の不備を報告した報告書延べ件数全体の約48%に及びます。コロナ禍により、国内外への出張が制限されるなか、国内外の拠点を直接管理する眼が十分届かない状態にあります。こうして国内外に展開する拠点の管理体制に潜在するリスクが見過ごされてしまう懸念も増えているといえます。   《1》 国内外の子会社に潜むリスク 子会社の運用の現状を考えてみると、物理的な距離を隔て、管理の眼が届きにくいことばかりでなく、それを管理する親会社や本社の側にも課題や問題を抱えていることが見えてきます。以下にいくつかの課題とそこに潜むリスクを挙げます。 (1) 規模の小さい子会社、支店や営業所 国内外の子会社、支店といっても社内で業務のローテーションを図るほど規模や陣容が整っているわけではなく、業務の分担が固定化しがちで、相互牽制の働きも滞る会社が多くあります。 (2) 現地経営者自らが不正を働く 海外拠点の場合、派遣された日本人経営者が業務に精通すると、重宝されて長くそのポストに収まるということがしばしば起きます。国内の親会社か本社の監視の眼が十分届かず、また監査も頻繁に行われないため、現地経営者自らが不正に手を染めるという事故が起きています。あるいはその逆のケースとして、本社の売上計上に対する過度のプレッシャーが原因となり、不正が行われるという事例も散見されます。 (3) 親会社や本社のモニタリングのリソースが不足している 経営者、取締役会、監査役又は内部監査部門によるモニタリング機能が十分働かず、監視機能の不足が問われています。その一因として、展開、拡大する国内外の子会社、支店や営業所に対し、モニタリングのリソースが追いつかない現状が挙げられます。 (4) 国内外の子会社、支店や営業所を管理する権限が錯綜する 国内外の子会社、支店や営業所に対して、親会社や本社が持つ管理、監督権限が錯綜し、時には重複することが挙げられます。親会社や本社は現場の情報を把握するため、定期的な報告を求めますが、時にそれらが重複して業務の妨げとなることも起きています。   《2》 内部統制報告書を読み解く~課題やリスクは子会社ばかりではない~ 前述の課題やリスクを表す事例が、最近の内部統制報告書に数多く報告されています。 子会社に対する管理だけでなく、それを管理する立場にある親会社の課題に関して、2021年に出されたある内部統制報告書は次のように伝えています。 上記報告書より改めて会社の課題や問題点を掘り下げてみると、次のような構造的な要因が明らかになります。   《3》 子会社はじめ支店や営業所に対する管理体制 物理的な隔たりに加え、世界的なパンデミックのなか、どうしたら子会社はじめ支店や営業所に対する管理体制を構築できるのか、いくつかのヒントを以下に挙げてみたいと思います。 (1) オンラインによる定期的なモニタリング パンデミックによってテレワークはもちろん、オンライン会議が急速に普及しました。そのおかげでわざわざ遠い現地に赴かずに、監査やモニタリングを実施することが可能になりました。 オンラインでは現地の雰囲気や、臭いや明暗などを実感することはできませんが、現地にいるわけではないので、都合がつく限り頻繁に会議やモニタリングを重ねることで多くの情報を入手することができます。その結果、限られた陣容のなかで現地への牽制機能を強化することができます。 (2) 経営層、スタッフに対する教育支援 管理一辺倒ではなく、子会社はじめ支店や営業所で働く現地経営者やスタッフに対する教育訓練を大切にする必要があります。現地経営者に経営経験が足りない場合や、スタッフに対するコンプライアンス意識の醸成含め、親会社や本社が積極的な教育訓練を実施することが大切です。 (3) 管理体制を構築する権限の整理 親会社や本社が持つ子会社はじめ支店や営業所に対する管理権限が錯綜しているという指摘をよく聞きます。現地からの財務情報を定期的に入手し、異常な徴候に早く気づくことは大切ですが、同じような情報を親会社や本社の各部門がこぞって子会社はじめ支店や営業所に求めることは、避けたいことです。親会社や本社の各部門が持つ管理権限の整理が求められます。 (4) モニタリング体制の構築 子会社はじめ支店や営業所に対する管理、監督機能が不十分であることが内部統制報告書で指摘されていました。とはいうものの、監査役をはじめとする内部監査機能が拡大を続ける国際化に、陣容がついていけていないという現実があります。 限られたリソースを有効活用するためには、モニタリングや監査先に一定の基準に基づき、優先順位をつけて効率的な対応をすることが求められます。 〈モニタリングや監査先にかかる一定の優先基準(例)〉 (了)

#No. 425(掲載号)
#打田 昌行
2021/06/24
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