《速報解説》 会計士協会、「企業及び企業環境の理解を通じた 重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正案を公表 ~現行監基報315から大幅な項目の追加・削除等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月26日、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、2019年12月に国際監査・保証基準審議会(IAASB)から公表されたISA 315(Revised 2019)及び監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)に対応するものである。 現行監基報315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」を、改正監基報315では、「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に変更する予定である。 意見募集期間は2021年3月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」の公開草案は、現行の監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」から大幅な項目の追加・削除等を行っており、表紙を含めて101ページに及ぶものである。 1 本報告書の目的と定義 監査人の目的は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクと、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価することである(10項)。 アサーションとは、経営者が財務諸表において明示的か否かにかかわらず提示するものであり、財務諸表が、情報の認識、測定、表示及び注記に関して適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されていることを表すものである(11項(4))。 本報告書では、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについては、固有リスクと統制リスクとに分けて評価することが要求されている(5項)。 また、特別な検討を必要とするリスクとは、識別された次のような重要な虚偽表示リスクをいう(11項(10))。 固有リスク要因とは、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう(11項(6))。 内部統制とは、企業が、経営者、又は取締役会、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会の統制目的を達成するために策定する方針又は手続をいう(11項(11))。 内部統制システムとは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、事業経営に係る法令の遵守を促すという企業目的を達成するために、経営者、取締役会、監査役等及びその他の企業構成員により、整備(デザインと業務への適用を含む)及び運用されている仕組みをいう(11項(12))。 2 リスク評価手続とこれに関連する活動 リスク評価手続には以下を含めなければならない(13項)。 3 企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解 監査人は、以下の事項を理解できるように、リスク評価手続を実施しなければならない(18項)。 4 企業のリスク評価プロセス 監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解や評価により、財務諸表の作成に影響を及ぼす企業のリスク評価プロセスを理解しなければならない(21項)。 5 重要な虚偽表示リスクの識別 監査人は、以下の2つのレベルで重要な虚偽表示リスクを識別しなければならない(27項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 監査役協会より「改正会社法及び改正法務省令に対する 監査役等の実務対応」が公表される ~主に3月決算会社を念頭に株主総会等に係る対応を取りまとめる~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月26日、日本監査役協会 監査法規委員会は、「改正会社法及び改正法務省令に対する監査役等の実務対応」を公表した。 これは、2021年3月1日に施行される改正会社法及び改正法務省令に対応した監査役等の実務対応を取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主として大会社かつ公開会社を念頭に置き、かつ、3月決算会社(6月定時株主総会開催会社)を念頭に、次の事項について記載している。 「社債の管理」(社債管理補助者制度、社債権者集会)を含む一部の改正については言及していないとのことである。 表紙を含めて52ページに及ぶので、以下では主なものについて解説する。 Ⅲ 株主提案権の濫用的な行使を制限するための規定の整備 1 法令の概要 取締役会設置会社の株主が議案要領通知請求をする場合において提出する議案の数の上限を10とする(会社法305条4項)。 株主総会の目的事項である議題提案権及び議場における議案提案権については、制限されていない。 2 適用時期 改正会社法施行後(2021年3月1日以降)に開催される定時株主総会から適用される。 ただし、施行後に株主総会が開催される場合でも改正会社法施行前に行われた議案要領通知請求については、従前の例による。 3 監査役等の対応 監査役等としては、10を超える議案については、取締役が定めるとされていることから、自社に「株式取扱規程」があり、当該規程に対応する規定を設ける場合は、改正趣旨を反映した規程となっているか、当該規定に基づいた対応がなされているかについて確認する必要がある。 Ⅳ 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針 1 法令の概要 有価証券報告書の提出義務を負う監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)の取締役会及びすべての監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬等の内容について、定款又は株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められていない場合には、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針(会社法施行規則98条の5)を決定しなければならない(会社法361条7項)。 2 適用時期 本規定は、特段の経過措置が定められていないため、対象となる会社は改正法の施行日である2021年3月1日よりも前に取締役会においてこれらの事項を決定しておかなければ、形式的には決定義務違反になることに留意が必要となる。 3 監査役等の対応 監査役等は決定手続等の透明性を高めるという法改正の趣旨に従って取締役会の決議がなされているかを確認する。 Ⅴ 会社役員の報酬等に関する事業報告による開示の充実化 1 法令の概要 事業年度の末日において公開会社である会社の事業報告では、会社役員に関する事項として報酬等に関する事項を記載しなければならない(会社法施行規則119条1項2号)とされており、新たに事業報告に記載すべき事項が追加されている(会社法施行規則121条1項4号、5号の2~6号の3)。 例えば、取締役、会計参与、監査役もしくは執行役ごとの報酬等の総額又は会社役員ごとの報酬等の額について、当該報酬等が業績連動報酬等又は非金銭報酬等を含む場合には、業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等の(総)額である。 2 適用時期 当該改正に係る経過措置として、施行日である2021年3月1日より前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告の記載については、なお、従前の例による(省令附則2条11項)。 そのため、3月決算の会社の2021年3月期の事業報告は、当該経過措置の対象とならないため、新たに事業報告に記載すべき事項を要することに留意が必要となる。 3 監査役等の対応 監査役等としては、当該記載が行われているか、並びにその内容が法改正の趣旨に沿うものとなっているかを確認することが求められる。 本改正は会社役員に対して適切なインセンティブが付与されているかどうかについて株主が判断し得るようにすることを目的としており、記載の確認の際には、かかる趣旨を満たす程度の記載がなされているかを検討することが必要となる。 Ⅵ 社外取締役に期待される役割に関する開示義務 1 法令の概要 取締役の選任議案において、その候補者が社外取締役候補者であるときは、当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要を株主総会参考書類に記載しなければならない(会社法施行規則74条4項3号、74条の3第4項3号)。 事業年度の末日において公開会社である場合には、会社役員に関する事項として、社外役員である社外取締役について、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を事業報告に記載しなければならない(会社法施行規則119条2号、124条4号ホ)。 2 適用時期 本規定につき、施行日前に招集の手続が開始された株主総会又は種類株主総会に係る株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による(省令附則2条9項)。 施行日より前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告については、なお従前の例による(省令附則2条11項)。 したがって、3月決算会社を例にとると、2021年3月期に係る事業報告、並びに2021年6月開催の定時株主総会参考書類における記載においてそれぞれ対応が必要となる。 なお、事業報告への記載については、規定上株主総会参考書類における記載との対応が示されていないため、施行以前に選任された社外取締役(当該社外取締役の選任議案において、選任された場合に果たすことが期待される役割についての記載がなかった場合)についても、期待される役割に関して行った職務の概要を記載しなければならない。 3 監査役等の対応 監査役等としては、当該記載が行われているか、並びにその内容が法改正の趣旨に沿うものとなっているかを確認することが求められる。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、KAM及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載に関する取りまとめを公表 ~審議のオンライン化に伴う自署押印の対応及び代替案にも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月26日、日本監査役協会 監査法規委員会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載について」を公表した。 これは、「監査報告のひな型」における記載に関し、追記・修正等の対応を考慮することが必要な事項について取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のポイントと文例が記載されている。 1 監査上の主要な検討事項(KAM)について 監査役等の監査報告におけるKAMの取扱い、すなわちKAMに関する記載の要否について関心が寄せられていることから、本報告にて取り扱っている。 金商法上のKAMの記載の要否、及び会社法上の会計監査人の監査報告へのKAMの任意記載の有無のパターンごとに、監査役等の監査報告の「監査の方法及びその内容」において考え得る記載の在り方が整理されている。 そこで、自社に当てはまる類型に応じて、いずれの考え方に沿って記載を行うかを検討するものと考えられる。 例えば、【文例1-2A 金商法上のKAMの記載が義務付けられる会社で、会社法上の会計監査人の監査報告に任意記載が行われない場合(監査役等の監査報告においてKAM について明示的に言及する記載例)】では、次の文例が示されている。 2 コロナ禍を契機とする監査の方法の変更について 新型コロナウイルス感染症の影響による監査活動の変化について、監査役等の監査報告に記載する場合の文例が示されている。 例えば、【文例2-1 ひな型をベースに修正を検討する場合】の記載例では、「電話回線又はインターネット等を経由した手段も活用しながら、」と記載されている。 3 自署押印について 監査報告作成のための監査役会等の審議もオンライン形式に移行し、監査役等が現実に一堂に会しての審議を行い、その場で自署押印を行うという従来の流れが実務上困難となるケースも増加しているとのことである。 そこで、今後の実務において考えられるいくつかの対応(全員が郵送回付等により自署押印を行う方法など)とともに、監査報告を電磁的記録により作成した場合に電子署名を行うに当たっての考え方が紹介されている。 (了)
《速報解説》 EDINETで提出される監査報告書のXBRLタグ付け範囲が KAMまで拡大するに伴い、タグ付け誤り防止のための 留意事項等が会計士協会から公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月22日付けで(ホームページ掲載日は2月24日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 金融庁の2021年版EDINETタクソノミにおいて、従前から行われているEDINETで提出される金融商品取引法に基づく監査報告書に対するXBRLのタグ付けの範囲が、「監査上の主要な検討事項(KAM)」にまで拡大されているので、注意が必要である。なお、2020 年3月期の金商法に基づく監査報告書においては、訂正事例が散見されたとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 業務本部2021年審理通達第1号 次のことが記載されている。 Ⅲ EDINETで提出される監査報告書のXBRLタグ付け範囲の拡大に関する留意事項 2021年3月31 日以後に終了する事業年度の財務諸表の監査から、KAMの記載が義務化されることに伴い、XBRLのタグ付けの対象にKAMが含まれることになった。 KAMは、監査人が作成する監査報告書に記載される事項であるが、EDINETで監査報告書を提出するためには、有価証券報告書等を提出する被監査会社が、監査人から入手した監査報告書の草案に基づいて、有価証券報告書等を作成するためのシステム(以下「開示書類作成支援システム」という)に監査報告書の記載事項を入力し、また、XBRLタグ付けを行うこととなる。 監査報告書には、被監査会社ごとの違いのない定型的な記載ではなく、KAMのように個々の被監査会社ごとに固有の事項が記載されるため、監査報告書へのXBRLタグ付けについても、XBRLのタグとタグ付け範囲に不一致が生じないように慎重な作業が求められる。 次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「倫理規則の体系及び構成等の見直しに 関する論点の整理」の方針案を公表 ~体系等の整備により更なる規則の遵守促進を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月24日、日本公認会計士協会は、「倫理規則の体系及び構成等の見直しに関する論点の整理」を公表し、意見募集を行っている。 これは、現行の倫理規則などの体系がわかりにくいとの意見があることから、倫理規則の理解のしやすさを向上させ、その遵守を促進するため、倫理規則の体系及び構成等の見直しを検討するものである。 論点の整理は、今後の検討を進めるために、公開草案として具体的な規定案を示す前に、まずは見直しの方針案を公表し、意見募集するものである。今後、実質的な内容の変更を伴う個別規定の見直しも検討する方針とのことである。 また、「公認会計士倫理宣言」の作成を検討するとのことである。 意見募集期間は2021年3月24日までである。 以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 現行の倫理規則など 現行の倫理規則などは次の4つから構成されている。 このほか、「職業倫理に関する解釈指針」、「独立性に関する法改正対応解釈指針」がある。 なお、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)(以下「IESBA」という)は、2018年4月に「職業会計士のための国際倫理規程(国際独立性基準を含む)」(以下「再構成版IESBA倫理規程」という)を公表している。 2 論点の整理の対象 次の3つの論点について整理を行い、意見募集を行っている。 「職業倫理の規範体系のイメージ」について、現行と改正後(案)のものが示されている。 (了)
《速報解説》 改正通達受け「消費税経理通達関係Q&A」及び趣旨説明が公表される ~インボイス導入後の免税事業者との取引における法人税(申告調整等)の取扱いを事例で示す~ 税理士 石川 幸恵 1 パブコメを経て改正消費税経理通達が公表される 令和2年12月15日から約1ヶ月間パブコメに付されていた「「消費税法等の施行に伴う法人税法の取扱いについて」(法令解釈通達)(以下「消費税経理通達」)ほか1件の一部改正(案)」は、令和3年2月10日、軽微な修正を経て正式に公表された。 今回の消費税経理通達改正の目的は、仮に、法人が免税事業者からの課税仕入れについてインボイス導入前のように仮払消費税等の額として区分した金額があっても、税務上はその仮払消費税等の額として経理した金額を取引の対価の額に算入して法人税の所得金額の計算を行うことを明らかにするためである。ほか1件とは所得税に関する通達を指し、同様の目的の改正がなされている。 本改正の背景については、パブコメ段階における下記拙稿も参照されたい。 2 改正消費税経理通達の発遣に伴う関連2情報の公表 (1) 改正通達の趣旨説明 上記の改正通達発遣を受け、2月19日、国税庁ホームページにおいて、改正消費税経理通達の趣旨説明が公表された。 この「趣旨説明」では、改正消費税経理通達において改正・廃止・新設のあった項目ごとに、何を明らかにするものか、旧経理通達からの変更内容、廃止の項目については廃止の理由を解説している。 (2) 令和3年改正消費税経理通達関係Q&A (1)の公表に合わせて、改正後の消費税経理通達を基に、免税事業者からの課税仕入れについて、法人税の課税所得計算と申告調整を事例(全9問)で解説している(詳細は後述)。なお「消費税経理通達」という略称はこのQ&A[凡例]において定義されている。 3 Q&Aでは法人税の課税所得計算を具体的に解説 (1) 免税事業者から取得した建物の取扱い 免税事業者から取得した店舗用建物につき、支払対価の110分の10を仮払消費税等として区分して経理し、決算時に仮払消費税等を雑損失に振り替えた場合の別表四、別表五(一)の記載の仕方が具体的に示されている(問5)。 本事例では、この雑損失の額は、本来は建物の取得価額に算入すべきものであるので、 という申告調整を行うとしている。 なお、インボイス制度導入後6年間は、免税事業者からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合を課税仕入れに係る消費税額とみなす経過措置が設けられており、この経過措置期間内の取得についての取扱いも例示されている(問8・問9)。 (2) 交際費の取扱い 交際費の損金不算入制度は、平成26年4月1日から令和4年3月31日までの間に開始する事業年度について適用される(措法61の4)ため、インボイス制度が開始する令和5年10月1日以降の同制度の在り方は、Q&A公表時点では不明である。 このためQ&Aでは、仮に現行制度のまま延長された場合を前提として、免税事業者に支払った飲食代につき、仮払消費税等を区分して経理したときの交際費の額の計算や、交際費から除かれる飲食費の金額基準である5,000円以下の判定についても言及している(問7[参考])。 全9問の項目及びリンク先は以下の通り。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年2月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.408を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
令和2年度税制改正における 国外財産調書制度の見直し 【第5回】 (最終回) 税理士 谷口 勝司 4 国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示又は提出がない場合の過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の特例の創設 (1) 特例の内容 国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税に関し修正申告等があり、過少申告加算税又は無申告加算税の適用がある居住者が、その修正申告等があった日前に、国税庁、国税局又は税務署の当該職員から国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用又は処分に係る一定の書類(その電磁的記録を含む)又はその写しの提示又は提出を求められた場合において、その提示又は提出を求められた日から60日を超えない範囲内でその提示又は提出の準備に通常要する日数を勘案して当該職員が指定する日までにその提示又は提出をしなかったとき(その居住者の責めに帰すべき事由がない場合を除く)における軽減措置又は加重措置の適用については、次のとおりとされた(調書法6⑦)。 上記の特例は、要するに、税務調査時の税務当局の求めがあった場合に、これに応じないで、国外財産の関連資料を指定された期限までに提示・提出しなかったときは、過少申告加算税等の軽減措置は適用せず、また、加重措置は加算税割合を更に5%加重するというものである。 例えば、国外財産に係る所得税に関する修正申告等があった場合、当該国外財産につき国外財産調書の提出・記載があれば、通常10%の過少申告加算税は軽減措置の適用により5%の割合になるが、税務当局の求めに応じないで国外財産の関連資料を提示・提出しなかった場合はこの特例措置により(軽減措置は適用されず)10%の割合となる。 また、修正申告等の基因となった国外財産につき国外財産調書の提出・記載がなければ、通常10%の過少申告加算税は加重措置の適用により15%の割合になるが、税務当局の求めに応じないで国外財産の関連資料を提示・提出しなかった場合は、この特例措置により更に5%加重されて最終的に20%の割合となる、ということである。 また、上記(1)本文の「その居住者の責めに帰すべき事由がない場合」とは、例えば、調査において国外財産に関する書類の提示又は提出を求められた後に、その居住者又はその書類を保有する者が、災害、病気による入院等があったことにより、指定された期限までにその提示又は提出をすることができない場合のほか、当該書類を保有する者に書類の取寄せを依頼しても、当該書類の収集に相当な困難を伴うことが判明した場合をいう(調書通達6-6)。 なお、過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用に当たっては、その修正申告等の基因となる国外財産についての国外財産調書への記載の有無(重要な事項の記載が不十分であるかどうかを含む)について、一の国外財産ごとに判定することとされている。このため、この提示・提出がない場合の特例の適用に当たっても、国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用又は処分に係る一定の書類の提示・提出の有無は、一の国外財産ごとに判定することになる(調書通達6-7、6-8)。 (2) 国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用又は処分に係る書類 上記(1)の「国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用又は処分に係る一定の書類」は、調書法規則において国外財産の区分に応じてそれぞれその書類が定められており、居住者が通常保存し、又は取得することができると認められるものに限られている。 例えば、次の国外財産は、それぞれ次の書類とされている(調書法規則13の2)。 5 過少申告加算税等の軽減措置、加重措置等の対象となる追徴本税額の計算規定の整備等 国外財産調書の提出がある場合の軽減措置又は国外財産調書の提出がない場合等の加重措置、税務調査時に関連資料の提示・提出がない場合の特例などの適用については、一の国外財産ごとに判定することとされている。 また、一の修正申告等があった場合、その修正申告等の中には、過少申告や無申告が国外財産に基因するものとそれ以外のもの、あるいは隠蔽・仮装によるもの(重加算税対象のもの)等が含まれる場合があり、この場合には、それぞれに応じて加算税の割合や種類が異なることとなる。 このため、一の修正申告等による追徴本税額について、加算税の割合や種類が異なるごとに追徴本税額を区分計算する必要があり、令和2年度改正においてはこの区分計算規定の整備も行われている(調書法6⑧、調書法施行令11②~⑦、12②③)。 この整備の内容については、技術的な計算規定に関するものであり、また字数の関係もあることから、本稿では割愛させていただいた。 【参考】 改正前後の加算税割合の一覧表 〇 国外財産に係る所得税に関し修正申告等があった場合の加算税の割合 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※1 一の国外財産ごとに判定を行う。 ※2 加算税の税率は通常の税率を示している。例えば、過少申告加算税は、期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%となる等、通常の税率と異なる場合があるが、その場合にはそれぞれの税率に、軽減又は加重した税率となる。 ※3 期限後の提出が、調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、期限内に提出されたものとみなされる。 ※4 その年の12月31日において相続国外財産を有する者の責めに帰すべき事由がない場合には、国外財産調書の提出がない場合等の加重措置は適用されず、それぞれ5%減額した税率になる(15%⇒10%、20%⇒15%、25%⇒20%)。 ※5 その居住者の責めに帰すべき事由がない場合を除く。 〇 国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合の加算税の割合 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※1 一の国外財産ごとに、かつ、相続人ごとに判定を行う。 ※2 加算税の税率は通常の税率を示している。例えば、過少申告加算税は、期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%となる等、通常の税率と異なる場合があるが、その場合にはそれぞれの税率に、軽減又は加重した税率となる。 ※3 期限後の提出が、調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、期限内に提出されたものとみなされる。 ※4 その年の12月31日において相続国外財産を有する者の責めに帰すべき事由がない場合には、国外財産調書の提出がない場合等の加重措置は適用されず、それぞれ5%減額した税率になる(15%⇒10%、20%⇒15%、25%⇒20%)。 ※5 その居住者の責めに帰すべき事由がない場合を除く。 (連載了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第18回】 「買換資産を取得した年の12月31日以前に住宅借入金を全額返済した場合」 -居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合- 税理士 大久保 昭佳 Q X(夫)とY(妻)は、共に12年程前から住んでいたX所有のA家屋を1,000万円で、Y所有のA土地を2,000万円で、本年3月に売却しました。 買換資産Bに係る購入価額は総額6,000万円で、譲渡資産のそれぞれの収入金額割合に応じ、家屋Bと土地Bの各持分をXが3分の1、Yが3分の2の割合で、本年5月に取得しました。 なお、その購入資金は売却代金の他に、XはM銀行から、YはN銀行から別々の住宅ローンを組んで購入しましたが、同年12月に、XはM銀行にその全額を返済しました。 その他の適用要件が具備されている場合、Yは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることはできるでしょうか。 A 買換資産に係るXの住宅ローンが、買換資産を取得した日の属する年の12月31日までに全額返済されていることから、Yも「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る譲渡家屋の所有者以外の者が、その譲渡家屋の敷地の用に供されている土地等で、その譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超えているものの全部又は一部を所有している場合において、租税特別措置法通達41の5-11(居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合の取扱い)に掲げる要件の全てを満たすときは、これらの者がともに同特例を受ける旨の申告をしたときに限り、その申告を認めるとされています。 そして、上記通達に掲げる要件(4)において、住宅借入金等の年末残高に係る要件が示されています。 ※下線及び赤字部分については筆者加筆。 したがって、本事例の場合は、Yは買換資産を取得した年の12月31日に住宅ローンの金額を有しているものの、譲渡物件に係る家屋の所有者のXが有していないことから、譲渡物件に係る土地の所有者であるYも「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができません。 (了)
〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第2回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 3 争点及び当事者の主張 (1) 争点 本件の争点は、本件各更正処分の適法性であり、具体的には①法人税法132条1項にいう「その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の該当性、及び②Xの本件事業年度における所得金額及び納付すべき法人税額である。ただし、本件では、第一審及びその控訴審ともに、①の争点における該当性が認められなかったため、②については、いずれの判決においても検討されていない。 (2) 国(被告・控訴人)の主張(※8) (※8) 控訴審における当事者の補充主張を要約している。 法人税法132条1項の不当性要件については、原判決も説示する経済合理性基準(「専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否かという客観的、合理的基準」をいう。以下同じ)を踏まえ、①同族会社の具体的な行為・計算が異常ないし変則的であるといえるか否か、②その行為・計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的があったと認められるか否かによって判断すべきである。 これを本件についてみると、次の(A)~(E)の事情に照らせば、本件組織再編取引等及びその一部である本件借入れは、①極めて異常で変則的なものであり、②これを行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的はなかったから、経済的合理性を欠く「不当」なものであり、法人税法132条1項の不当性要件該当性が認められる。 (3) Xの主張 法人税法132条1項の不当性要件については、納税者の経営判断の当否に課税庁の独自の視点で過度に踏み込んで判断してはならず、経済合理性基準を踏まえて、法人税の負担が減少するという利益を除けば当該行為又は計算によって得られる経済的利益がおよそないといえるか、あるいは、当該行為又は計算を行う必要性を全く欠いているといえるかという観点から判断すべきである。控訴人の主張する不当性要件の判断枠組みに関する解釈は、独自の見解であり、失当である。 本件組織再編取引は、V社グループが全世界で買収を重ねた結果、錯綜したグループ内の関連会社の関係を整理して事業を効率化するとともに、財務上の利益を図るために実施されたものであり、次のようなオランダ法人の負債軽減(下記目的①)、日本法人の経営の合理化(同目的②・③、⑥~⑧)及び日本法人の財務の合理化(同目的④・⑤)の3つの柱(本件8つの目的)を同時に達成するために、経営上の必要から行われたものである。したがって、本件借入れには経済合理性がある。 【V社グループが設定した本件8つの目的(目的達成のため組織再編取引等を実施)】 (続く)