《速報解説》 監査基準の改訂に対応した 「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」がパブコメに ~ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年12月4日、法務省は、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、事業報告に表示すべき事項の一部並びに貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象とするため、及び、「その他の記載内容」等に関する監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)を受けたものである。 意見募集期間は2021(令和3)年1月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正 ウェブ開示によるみなし提供制度に関して次の改正を行うほか、所要の整備を行う(会社法施行規則133条の2、会社計算規則133条の2)。 Ⅲ 監査基準の改訂を受けた改正 会社計算規則126条1項各号に掲げる事項に「第2号の意見があるときは、事業報告及びその附属明細書の内容と計算関係書類の内容又は会計監査人が監査の過程で得た知識との間の重要な相違等について、報告すべき事項の有無及び報告すべき事項があるときはその内容」を追加するほか、所要の整備を行う。 Ⅳ 施行時期等 1 施行期日 2 失効 3 会社計算規則の一部改正に伴う経過措置 (了)
2020年12月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.397を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.95- 「プラットフォーマーの社会的責任とGAFA課税」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 21世紀最大の発明はプラットフォームではないか。 プラットフォームはその活用の場を、ヒト、モノ、遊休資産などの仲介だけでなく、広く教育やヘルスケアなど準公共財的とも呼べる分野にも広げ、今や社会に欠かせないインフラとなっている。またフェイスブックがデジタル通貨リベラの発行を企画するなど、通貨発行権まで取り込もうとしている。国境を越えた自由なサービスの提供と独自通貨の組み合わせは、いずれ国家をも超える存在になるだろう。 一方でプラットフォーマーに対しては、様々な問題が指摘されている。わけても寡占化に伴う競争制限的な動きと、データに伴うプライバシーの問題は重要だ。 * * * プラットフォームには、利用者が増えれば増えるほど利便性が上がり、それにつれてプラットフォームの効用や価値も上がるというネットワーク効果が働くので、ますます寡占化が進む。その結果、優越的地位の乱用など独禁法上の諸問題を引き起こし、新規参入も妨げている。これまでは、消費者利益は損なわれていないとして米国当局も大目に見てきたのだが、ここへ来て流れが変わりつつある。 プラットフォーマーは、我々ユーザーからサービス提供の対価として取得したデータを販売したり、オンライン広告ビジネスに活用して巨額の収益を上げる一方で、ユーザーにはその対価は払われていない。個人情報の売買は、フェイクニュース問題を生む温床にもなっている。 さらに巨額な利益は株主や経営層にだけ分配され、資産や所得格差拡大の直接的な要因となったり、ウーバーのように運転手の社会保障負担を逃れるビジネスモデルを提供したり、タックスヘイブンに利益を移動させ租税回避を行うなど、社会的責任を回避した行動も大きな問題になっている。 租税の分野では、彼らの超過利益にどのように課税するかを巡って、OECDで議論が続いているが、米国の横やりで議論はまとまりそうもない。 * * * もっとも、1つ合意された議論がある。それは、国境を越えて展開する巨大プラットフォーマーから、税の執行や徴収に役立つ情報を当局が収集するためのOECDモデル規則の合意である。 具体的には、オンラインプラットフォーム上での宿泊、飲食配達、旅客輸送など個人向けサービスを提供するプラットフォーマーから各国の税務当局へ、売り手であるプラットフォーマーの持つ顧客情報の提供を各国当局に義務づけるもので、プラットフォーマーの社会的責任を問う小さな一歩である。 情報提供のフォーマットを標準化することでプラットフォーマーの負荷を軽減しつつ、税務当局間の情報交換等による海外プラットフォーマーの情報へのアクセスを容易にする。 加えて欧州では、プラットフォーマーに対し、税務当局とサービス提供者(納税者)の両方へ、サービス提供者の支払情報の報告を義務づける検討が進んでいる。 わが国でも、税務当局は、プラットフォーマーから個人向けサービスの様々な情報を入手して、納税の適正化や簡素化に役立てる検討が進んでいる。 * * * 筆者が座長を務める「デジタルエコノミーと税制研究会」は先月(2020年11月)、「デジタルエコノミーと税制-デジタル・セーフティネットの構築に向けて」を公表した。 毎年公表しているものだが、今回はプラットフォーマーの責任はいかにあるべきかについて一石を投じる内容となっているので、ぜひ参照ありたい。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第1回】 「外国子会社に対する貸付金利子の算定方法」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 外国子会社に対する貸付金利子はどのように算定したらよいでしょうか。 〔A〕 貸付けの条件等について移転価格事務運営要領(事務運営指針)3-8に定める順序に従い検討し、最も合理的と認められる利子を国外関連取引として算定する。 ●●●〔解説〕●●● 1 基本三法に準ずる方法と同等の方法 OECD移転価格ガイドラインの改訂を受け、わが国でも従来の基本三法優先の考え方が見直され、2013年の税制改正で、独立企業間価格算定方法の優先順位を設けず、認められる全ての方法の中から最も適した方法を選択する方式(ベストメソッドルール)が採用された。しかしながら、現在でも基本三法の理論的優位性に変わりはないとされている。 例えば、内国法人が国外関連者となる外国子会社へ金銭の貸付けを行う場合、そこで用いられるべき貸付利率は独立企業間の利率でなければならないのはいうまでもないが、ここでいう独立企業間の利率を適用するに当たり、まず、基本三法と同等の方法(※1)が検証されなければならない。この場合、比較対象取引には、外部の第三者から調達した場合の借入金の利率などを非関連者取引とする独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法が適用可能かどうかを最初に検討することとなる。 (※1) 措置法第66条の4第2項第1号は、棚卸資産の・・・・・売買取引についての独立企業間価格の算定方法として①独立価格比準法(同号イ)、②再販売価格基準法(同号ロ)、及び➂原価基準法(同号ハ)の3つを、いわゆる「基本三法」として規定しているが、有形資産の貸借取引、金銭の貸借取引等、棚卸資産の売買取引以外の取引・・・・・については、同項第2号で、基本三法と「同等の方法」により、独立企業間価格を算定することとしている。このように、わが国の移転価格税制では、棚卸資産の売買には基本三法(それに準ずる方法を含む)及びその他政令で定める方法(同号二。利益分割法や取引単位営業利益法が該当)を算定し、棚卸資産の売買以外の取引については、基本三法(括弧内同じ)及びその他政令で定める方法と同等の方法により算定する(同項第2号)という構成となっている。 しかしながら、現実には、比較可能な非関連者取引が見いだせない場合が多い(※2)。この場合、市場金利等の客観的かつ現実的な指標が入手可能なときには、当該取引を比較対象取引として基本三法に準ずる方法(※3)と同等の方法として独立企業間価格を算定することができるとされている。 (※2) 措置法通達66の4(8)-5は、金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式、利払方法、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることに留意する旨を定めている。一般の事業会社が金銭の貸借を業として行うには登録が必要なので、第三者の事業会社間の金銭の貸付取引の例はほとんどない。したがって、一般事業会社の金銭の貸借取引から比較対象取引を見出すのは、事実上不可能であると考えられる。 (※3) 指針の別冊「移転価格税制の適用にあたっての参考事例集」(以下「事例集」)の【事例1】(11頁)には、[基本三法に準ずる方法の例]として5つの例が示されており、その(1)は、「国外関連取引と比較可能な実在の非関連者間取引が見いだせない場合において、商品取引所相場など市場価格等の客観的かつ現実的な指標に基づき独立企業間価格を算定する方法」としている。 具体的に、移転価格事務運営要領(事務運営指針。以下「指針」)では、その3-8「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の検討」で、法人及び国外関連者が共に業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについては、次の(1)、(2)及び(3)に掲げる利率を、独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法と規定している。 指針3-8の(注)は、上記(1)、(2)及び(3)の順に、独立企業原則に即した結果が得られる(以下「3ステップ」)とし、また、上記(2)に掲げる利率を用いる場合においては、国外関連取引の貸手における銀行等からの実際の借入れが、(2)の同様の状況の下での借入れに該当するときは、当該国外関連取引とひも付き関係にあるかどうかを問わないことに留意すべきとしている。 なお、具体的な利率の算定において、事例集の【事例4】(23~24頁)では、金利スワップにおけるスワップレート(※4)に取引銀行のスプレッド(※5)を加算するという考え方が示されている(※6)。 (※4) 金利スワップにおけるスワップレートとは、国際金融市場において示された、短期金利と交換可能な長期金利の水準を示すものと定義される(事例集23頁)。 (※5) スプレッドとは、金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり、金融機関等の事務経費に相当する部分や借手の信用リスクに相当する部分を含むと定義されている(事例集23頁)。 (※6) 金利スワップにおけるスワップレートに、貸手が国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借入れた場合のスプレッドを加えた利率は、実在する取引ではなく、いわば仮想取引である。仮想取引が比較対象取引として利用可能かについて、東京地裁平成18年10月26日判決(「タイバーツ事件」判決。訟月54巻4号922頁)は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として使用できると判示している。 2 最近の裁決例に見る適用事例 上記の指針にいう3ステップを適用し、国外関連者に該当する子会社に対する貸付金利息の独立企業間価格該当性について判断した最近の裁決例として、平成28年2月19日裁決及び平成29年9月26日裁決がある。前者は外国子会社に対する貸付資金の全てを実際に外部の金融機関から調達した事例であるのに対し、後者は貸付資金は全て自己資金で賄った事例であるという違いがあり、それぞれの判断プロセスについて、以下見ていくこととする。 《平成28年2月19日裁決》 (1) 事案の概要 不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」)は、米国に所在する完全子会社K社に対し貸付け(※7)を行い、同じく米国に所在する請求人の完全子会社L社はK社に対し貸付け(以下、両者の貸付けを併せて「本件貸付け」)を行ったが、いずれの貸付資金もN銀行から調達されたものであった。請求人は本件貸付けの利息について、その契約上の利率に基づき算出した額を収益に計上して申告したところ、原処分庁が、当該利息は独立企業間価格に満たないなどとしての更正処分等を行ったのに対し、請求人は原処分の一部の取消しを求めた。 (※7) 本件貸付けのうち1件は社債により資金を調達したものであったが、詳細は省略する。 (2) 審判所の法令解釈及び認定した事実 基本三法における比較対象取引は、国外関連取引との類似性の程度が十分な非関連者間取引であることを要し、金銭の貸借取引において、国外関連取引と通貨が同一で、貸借時期、貸借期間等の金利に影響を与える諸要因が同様であることが要求される。本件では、原処分庁も審判所も、このような比較対象取引は見出すことができないと判断した。 また、本件では国外関連者である借手が、請求人及びその関連者以外から金銭の借入れを行ったことがないことから、貸付利息の独立企業間価格の算定方法について、借手の銀行調達利率による方法(3ステップの(1))を用いることはできないとし、貸手の銀行調達による方法(3ステップの(2))を用いる余地があると判断した。 そこで、一般に、融資取引の代表例である金融機関による貸付けの利率は、国際金融市場で示された短期金利と交換可能な長期金利の水準を示す金利スワップにおけるスワップレートに、金融機関の事務コストや利ざや等から構成されるスプレッドを加えた利率により行われていることから、貸手の銀行調達利率による方法の利率について、国外関連者への貸付けに係る通貨の貸付日における貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートに、貸手が国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借入れた場合のスプレッドを加えた利率となるとした。 (3) 審判所の判断 (イ) 金利スワップのスワップレートについて 東京金融市場における円の金利スワップレート(※8)であるTOKYO SWAP REFERENCE RATE TELERATE(以下「TSRレート」)の本件各貸付けの各貸付日における各賃借期間に対応するレートを用いることは合理的であるとした。 (※8) 裁決書では明示されていないが、本件貸付けは円建てで実行されたことが類推される。 (ロ) 各借入れに係るスプレッド(※9)について 請求人による借入れは、①本件各貸付けと同一の通貨で貸借時期がほぼ同時期であること、②スプレッドは貸付期間の長短ではほとんど変わらない(※10)という融資業務に関する実態があったことに加え、一般的に、短期融資に比較して長期融資の方がリスクが高いと考えられること③他にスプレッドに影響する要因は見いだせないことなどを踏まえると、請求人が調達した借入れに係るスプレッドを用いることに合理性が認められるとした。 (※9) 本件では、N銀行作成の稟議書等に記載されたスプレッドを用いており、そこでは、N銀行の事務経費に相当する部分や借手の信用力に相当する部分を含むN銀行が得るべき利益に相当する金利であるという認定がされている。 (※10) 「スプレッドは貸付先の信用力によるところが大きく、貸付期間の長短ではほとんど変わらない」というN銀行融資担当者の申述による。 (ハ) 結論 本件貸付利息の独立企業間価格は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法とする貸手の銀行調達利率による方法を用い、TSRレートにスプレッドの数値を加えた利率を用いて算定することが相当であるとした。 《平成29年9月26日裁決》 (1) 事案の概要 審査請求人(以下「請求人」)が、国外関連者に該当する子会社に対する米ドルの貸付け(以下「本件貸付け」)に係る利息について、契約上の利率に基づき算出した額を収益に計上して申告したところ、原処分庁が、当該利息は独立企業間価格に満たないなどとしての更正処分等を行ったのに対し、請求人は原処分の全部の取消しを求めた。 (2) 審判所の認定した事実 借手である子会社には、非関連者である銀行等からの借入れの実績がなく、当該子会社が非関連者である銀行等から本件各貸付けと通貨、借入時期及び借入期間等が同様の状況の下で借入れたとした場合に付されるであろう利率(3ステップの(1))を見いだすことはできず、また、請求人は、取引銀行から、本件各貸付けと通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の借入れを行ったことはなく、同様の状況の下で借入れたとした場合に付されるであろう利率(3ステップの(2))を算定する適切な方法を見いだすことはできなかった(※11)。 (※11) 原処分庁は、米ドルのスワップレートにスプレッドを加えた利率を用いて貸手の銀行調達利率を算定するに当たり、請求人の関与税理士法人を通じて請求人の主要取引銀行の担当者に問い合わせを行い、担当者が回答したスプレッドを採用したが、同行においてこれに関する記録が残されておらず、審判所は、同行による正式回答ではなく、当該スプレッドの正確性が認められないと判断し、採決ではそれを採用しなかった。 そこで審判所は、国に対する金銭の貸付けであり、金融取引の中でも極めて安定性の高い国債等の運用利率による方法を用いることで、一般的な金融取引における市場金利を反映させることができる(3ステップの(3))と判断した。 (3) 審判所の判断 審判所は、発行日が本件貸付け開始日と近似し、また発行日から満期償還日までの期間が本件貸付けの貸付期間と近似する(※12)米国国債(10年)を見出し、本件各貸付けに係る資金を、本件各貸付けと通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債により運用した場合に得られるであろう利率を算定することが可能であることから、国債等の運用利率による方法を採用することが相当であるとした。 (※12) 本件貸付けは2件あり、そのうちの1件の貸付期間は約10年6ヶ月、もう1件の貸付期間は約14年7ヶ月であった。後者について、審判所が国債の償還期間10年と近似すると判断したのは興味深いといえよう。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第14回】 「グループ通算制度の離脱に伴う時価評価」 公認会計士 佐藤 信祐 2 グループ通算制度の離脱 (1) 時価評価 ① 現行法上の取扱い 原則として、グループ通算制度を取り止める場合及びグループ通算制度から離脱する場合には、時価評価課税は課されない。 ただし、グループ通算制度から離脱する法人が、その行う主要な事業について継続の見込みがない場合には、離脱時にその法人が保有する資産を時価評価するとともに、その評価損失を帳簿価額修正の対象にすることとされている(法法64の13①一)。ただし、以下の特例が定められていることから、実際に時価評価を行う場面はそれほど多くはないと思われる。 さらに、帳簿価額が10億円を超える資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれ、かつ、その法人の株式の譲渡等による損失が計上されることが見込まれている場合にも、当該資産を離脱時に時価評価するとともに、その評価損益を帳簿価額修正の対象にすることとされている(法法64の13①二、法令131の17⑤~⑦)。 ② 制度趣旨 このようなグループ通算制度の離脱に伴う時価評価課税が認められている制度趣旨は、資産の譲渡損と株式の譲渡損による損失の2回控除を防ぐためである(※1)。 (※1) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』939頁(財務省ホームページ) このような問題は、第6回で解説したように、グループ通算制度特有の問題ではなく、子会社が保有する資産に含み損がある場合や繰越欠損金がある場合にも生じるため、グループ法人税制において、グループ法人税制の離脱に伴う時価評価課税及び帳簿価額修正を導入すべきであると考えられる。 ただし、損失の2回控除については、「組織再編税制の適格要件は、移転資産に対する支配の継続を要件化したものであり、損失の2回控除の防止が目的ではありませんが、事業の継続見込みを適格要件とすることによって、結果的に損失の2回控除が起きる蓋然性が低くなっていると考えられます。」(※2)と解説されている。すなわち、適格分社型分割又は適格現物出資により含み損のある資産を移転する場合には、分割承継法人又は被現物出資法人に資産の含み損が移転し、分割法人又は現物出資法人が保有している資産の含み損が分割承継法人株式又は被現物出資法人株式の含み損に付け替えられることになる。一部において、支配関係継続要件が損失の2回控除を防ぐための規定であるという誤解があるが、『令和2年度税制改正の解説』は、結果的に損失の2回控除が防がれているだけであり、損失の2回控除が目的ではないことを明らかにしている。 (※2) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』939頁(財務省ホームページ) そうであるならば、損失の2回控除を防ぐために、組織再編税制において、適格分社型分割又は適格現物出資により取得した分割承継法人株式又は被現物出資法人株式、適格株式交換又は適格株式移転により取得した株式交換完全子法人株式又は株式移転完全子法人株式の譲渡により生じた損失に対して、損金の額に算入することを制限すべきであると考えられる。具体的には、特定資産譲渡等損失額の損金不算入にあるように、適格組織再編成の日の属する事業年度開始の日から3年を経過する日までに生じた譲渡等損失額に対して、損金の額に算入することを制限するという手法も考えられるが、それでは、3年を経過するまで待つという租税回避が考えられる。そのため、適格組織再編成の日において、株式を継続して保有することが見込まれていない場合に、株式譲渡損を損金の額に算入することを制限するという制度のほうが望ましいと思われる。 ③ 10億円基準 前述のように、帳簿価額が10億円を超える資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれ、かつ、その法人の株式の譲渡等による損失が計上されることが見込まれている場合には、グループ通算制度の離脱に伴う時価評価の対象になる。このことにより、下記事例のように、株式譲渡方式を採用したとしても、事業譲渡方式を採用したとしても、帳簿価額が10億円を超える資産の含み損については、離脱法人において資産の含み損を実現させることができるが、離脱法人の株主において株式の譲渡損を計上することができない。これに対し、それ以外の含み損については、株式譲渡方式を採用した場合に限り、離脱法人の株主において株式の譲渡損を計上することができる。 (2) 株式譲渡方式と事業譲渡方式の比較 【具体例(株式譲渡方式と事業譲渡方式の比較)】 〈前提条件〉 〈ストラクチャーの比較〉 株式譲渡方式と事業譲渡方式の税務上の影響額について比較すると以下のようになる。なお、単純化のため、ここでは、法人税、住民税及び事業税の影響額のみを比較し、それぞれの法人において繰越欠損金を利用できるだけの十分な収益力があるものと仮定する。 ① 被買収会社側の税負担 ② 買収会社側の税負担 ③ 合計 しかしながら、株式譲渡方式の場合には、被買収会社の含み損のうち、20億円が実現していないことから、買収会社側で実現することができると考えるのであれば、株式譲渡方式における買収会社側の税負担の軽減は△27億円となり、株式譲渡方式のほうが有利になる。そして、被買収会社の含み損が10億円を超えているかどうかの判定において、法人税法施行規則27条の16の12に規定する単位に区分した後の帳簿価額が10億円以下であるものの、含み損を有する資産を積み上げると、含み損の金額が20億円になることが考えられる(そのほか、退職給与引当金や差額負債調整勘定に対する含み損に対しては、グループ通算制度からの離脱に伴う時価評価の対象から除外されているため、同様の効果が生じることがある)。 グループ通算制度の離脱に伴う時価評価の対象となる資産が10億円を超える資産とされている理由は、「会社法における簡易組織再編の適用要件が総資産の20%以下とされ、取締役会決議事項における重要な財産の処分に該当するかどうかの判定が総資産の1%程度が目安とされていること及び連結納税制度の適用対象者が多い資本金10億円超の企業の総資産の平均額が1,600億円であることが考慮されたもの」(※3)と説明されている。 (※3) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』943-944頁(財務省ホームページ) このような制度趣旨は理解できなくはないが、数億円程度の損失の2回控除であれば、容認しても構わないということにはならないと思われる。特定資産譲渡等損失額の損金不算入が帳簿価額1,000万円未満の資産を除外していることを考えると(法令123の8②四)、帳簿価額が1,000万円以上の資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合には、グループ通算制度の離脱に伴う時価評価の対象にするという考え方もあったと思われる。 もちろん、グループ法人税制の離脱に伴う時価評価を導入した場合には、グループ法人税制が適用されるすべての企業グループを含めたうえで数値基準を設ける必要があるため、上記の10億円という数値はさらに小さくする必要がある。 * * * 次回では、帳簿価額修正の制度について解説を行う予定である。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例24】 「法人間の船舶取引に係る譲渡価額と減価償却費」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は東京都内で観光客向けの屋形船を運営する株式会社Aで経理を担当しております。今年はコロナ禍の影響で外国人観光客が激減したことに加え、コロナが流行し始めた時期に屋形船でクラスターが発生したと連日報道された影響で日本人観光客も離れたことから、厳しい経営が続いておりますが、最近になってようやく客足が戻り始めたところで、国や都からの給付金等を得て何とか持ちこたえているところです。 とはいえ、ここ数年の業績は順調であり、昨年も業務拡大のため同業他社Bから屋形船を2隻購入したところです。ところが、先日受けた税務調査で調査官から、当該屋形船の譲渡価額が時価に比して低額であり、法人間において低廉譲渡があったとして、当社の方に受贈益が、屋形船を売却した同業他社の方に寄附金(時価と譲渡価額の差額部分)が生じるのではないかとの指摘を受けました。 本件については、屋形船の売買取引に当たり、その価額を算定する際、法人税基本通達に基づく評価額(未償却残高)によったのであり、資本関係のない当事者間において合意した当該価額は正に適正な時価といえるのであるから、課税庁の主張は不当であると考えております。わが社は課税庁と徹底抗戦すべきと考えておりますが、いかがでしょうか。 〇 屋形船の譲渡価額 【A】 屋形船の譲渡価額が適正な価額といえるかどうかは、不特定多数の当事者における自由な取引において通常成立すると認められる価額をいい、船舶については精通者によるコストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチに基づく評価額を用いるのが合理的と考えられます。 それに対し、法人税基本通達に基づき屋形船の竣工時から定率法により減価償却を行った場合の未償却残高に相当する金額は、減価償却資産に関する評価損益を算定する場合において用いられるものであり、資産の譲渡価額としての時価(客観的な交換価値)には該当しないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 屋形船の適正な時価 法人間における資産の売買は、原則として時価で行われるものと考えられるが、資産の中には当該「時価」が容易には判明しないものも存在する。本件で問題となった中古の屋形船もその1つであると考えられる。 〇 中古の屋形船の売買 この場合、屋形船の販売(譲渡)価格はどのように決定されるのであろうか。1つは専門家に鑑定評価を依頼し、それに基づいて算定された価格を当事者間で同意するという方法である。屋形船のような船舶については、船価鑑定を行っている専門家(一般社団法人日本海事検定協会等)に鑑定評価を依頼する方法が考えられる。 他の方法としては、屋形船の未償却残高(売手の帳簿価格)をベースに取引価格を決定するという手法がある。これは特にコストをかけることなく販売価格を決定できるという意味で、売買当事者にとっては魅力的な手法であり、法人税の実務においても、減価償却資産の時価を求める方法として、法人税基本通達4-1-8や9-1-19を根拠に正当化できると解する向きもある。両通達の規定は主に以下のとおりである。 ① 法人税基本通達4-1-8 ② 法人税基本通達9-1-19 上記①②で示される評価方法は一般に「複成価格法(複成式評価法)」と呼ばれるもので、実務における財産評価法として定着した手法の1つである(※1)。 (※1) 佐藤友一郎編著『九訂版法人税基本通達逐条解説』(税務研究会出版局・2019年)497・808頁参照。 (2) 屋形船の適正な時価と複成価格法 上記(1)でみた複成評価法は、特にコストをかけることなく販売価格を決定できるという意味で、売買当事者にとっては魅力的な手法であるが、不特定多数の当事者における自由な取引において通常成立すると認められる「適正な時価(客観的な市場価値(※2))」といえるかどうかについては、疑問視される場面も少なくない。以下の裁決事例(国税不服審判所平成28年5月19日裁決・TAINSコード:F0-2-647)でこのことを確認してみたい。 (※2) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)409頁参照。 ① 事例の概要 本件は、審査請求人が関連法人(代表者が同一)に船舶を譲渡したことに関し、原処分庁が、当該船舶の譲渡価格は、適正な価額に比して低額であるとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該譲渡価格は適正な価額であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 原処分庁は、本件船舶の適正な価額について、専門家に依頼して鑑定評価を行った上で、本件船舶の適正な価額は当該専門家が算定した評価額であるとし、本件取引金額と当該評価額との差額は、法人税法第22条第2項の益金の額に該当するなどとして、平成27年3月30日付で各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。 ② 事案の争点 本件船舶の譲渡は、適正な価額に比して低廉な価額による譲渡であり、その差額は法人税法第37条第1項に規定される寄附金に該当するか否か。ただし、本稿では船舶の「適正な価額」に絞って検討する。 ③ 争点に対する当事者の主張(「適正な価額」についてに係るもののみ) 原処分庁の主張 請求人の主張 ④ 審判所の判断 なお、本件は裁判所に提訴されているが、船舶の評価額は上記「請求人評価額」によることが妥当とされ、納税者の請求は棄却されている(東京地裁令和元年6月27日判決・判例集未搭載、確定)。 ⑤ 本裁決事例からいえること まず重要なのは、市場における船舶の売買価格が当事者双方によって検証され、当該船舶の類似船舶について客観的な価格が形成されていると認められるような事案については、法人税基本通達9-1-19でいうような複成評価法により適正な価額を算定することは認められないとされた点である。 そのような場合には、専門家に評価額の依頼を行い、コストアプローチ(原価法)、マーケットアプローチ(取引事例比較法)及びインカムアプローチ(収益還元法)の三方式の評価方法により、それぞれの価格を算定し比較検討した上で、本件船舶の適正な価額を算定するのが妥当である旨が示されている。通達で示される複成評価法は簡便で費用がかからないという点で魅力的であるが、売買価額の適正性を担保する役割を果たす場面は限定的といえるだろう。売買当事者が本件のように関連者等で価格の操作が疑われる場合には、尚更であろう。 なお、上記裁決事例で採用された請求人評価額に係る鑑定評価書(別表4)によれば、コストアプローチによる積算価格は、再調達原価及び現価率について、構成品目としての重要性や劣化進行、整備内容の違いのもと3つに区分した上査定を行い、さらに市場性に係る調整を行っており、中古船舶の取得に際し市場参加者が重要視する費用性、市場性を適切に反映した「相対的規範性」の高い価格である、とされている。売買実例による評価額が常に適正であるとはいえないという事例として、参考になるであろう。 (3) 本件への当てはめ 屋形船の譲渡価額が適正な価額といえるかどうかは、不特定多数の当事者における自由な取引において通常成立すると認められる価額をいい、船舶については精通者によるコストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチに基づく評価額を用いるのが合理的と考えられる。 それに対し、法人税基本通達に基づき算定される屋形船の竣工時から定率法により減価償却を行った場合の未償却残高に相当する金額は、減価償却資産に関する評価損益を算定する場合において用いられるものであり、資産の譲渡価額としての時価(客観的な交換価値)には該当しないものと考えられることから、本件の場合、採用できないものと考えられる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第85回】 「コロナ禍における契約形態の変化に伴う印紙税の取扱い」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は内装工事請負業者です。従来から、契約等は対面によって文書を取り交していましたが、コロナ禍の影響で担当者がテレワークにより在宅勤務を取り入れており、対面による契約が難しいため、文書を郵送、メール、FAX、電子契約などの方法により行うことを検討しています。その際の印紙税の取扱いはどうなりますか。 (契約書の作成方法) 【事例1】 作成した契約書等を郵送により送付する方法 【事例2】 作成した契約書等をメールに添付し送信する方法 【事例3】 作成した契約書等をFAXにて送信する方法 【事例4】 電子契約による方法 【事例1】 作成した契約書等を郵送により送付する方法 双務契約である(1)の請負契約書は、双方署名押印された時が契約の成立であり、その際に印紙税の納税義務が生じることとなる。 (2)の請負に係る注文請書の場合は、当方が注文請書を相手方に交付した時が契約の成立であり、その際に印紙税の納税義務が生じることとなる。 【事例2】 作成した契約書等をメールに添付し送信する方法 事例の注文請書を作成し、その文書をメールにて送信後、相手方においてプリントアウトしても、それは現物ではないため、印紙税の課税原因は発生しない。 また、当方で保管されている現物についても、相手方に交付されていないので課税原因が発生していない。このため、ともに課税文書には該当しないため、課税文書には該当しない。 【事例3】 作成した契約書等をFAXにて送信する方法 上記【事例2】と同様にFAXの場合も、送信された文書は現物ではないため、印紙税の課税原因は発生せず、当方で保管されている現物においても、相手方に交付されていないので課税原因が発生していない。このため、ともに課税文書には該当しない。 なお、【事例2、3】の方法で、後日当方にて、現物を郵送等により送付した場合においては、現物が交付されることから課税原因が発生することとなり、郵送等する際には収入印紙の貼付が必要となる。 【事例4】 電子契約による方法 法に規定する課税文書の「作成」とは、基通44条に記載されているが、課税文書となる用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいうとされている。PDF等の電子媒体でやり取りを行う場合は課税文書となる用紙等に課税事項を記載しているわけではなく、課税文書を作成したことには該当しない。 [検討] 課税文書の作成とは 印紙税法では、課税文書を作成した時に印紙税を納めることとされているが、この「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを文書の目的に従って行使することをいうとされている。 また、「作成の時」とは、当該文書の目的に従って行使する時であることから、具体的には、相手方に交付する目的で作成される課税文書は当該交付の時、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書は証明の時とされるなど区分に応じて明らかにされている。 【事例1】の郵送により書類の送付を行う場合は、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し取り交すものであり、課税文書に該当する。しかし、【事例2、3】の注文請書においては、課税文書となる用紙等に課税事項を記載するものの、相手方に交付する目的で作成される課税文書は交付の時が作成の時とされていることから、メールに添付して送信してもFAXにて送信しても現物は当方において保管されていて、コピーを渡したのと同様に、課税文書は交付されていない。したがって課税文書を作成したこととはならないため、相手方に送付された文書は課税文書とはならない。 ただし、相手方に交付した時に課税原因が発生するため、後から郵送等にて現物を送付した時にはその現物が課税文書となる。 また、【事例4】における電子契約については、作成の意義でいう「課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載」という、用紙等に記載しているものではなく、印紙税法では電子契約については想定されていない。 ▷まとめ 新型コロナウイルス感染症への対応として実践されたテレワーク、サテライトワーク等の取組みは後退させることなく、これから迎えるデジタル時代において、一層の生産性向上、経済活性化を図るために極めて重要なものであると位置づけられている。これにより、2020年7月8日には政府と経団連など経済4団体は「書面、押印、対面作業の削減を目指す共同宣言」を発表し、今後、契約書等の文書での作成が書面でなく電子媒体による契約形態が主流となることが考えられる。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第7回】 「店舗兼住宅等の場合の計算例」 -店舗兼住宅等の居住用部分の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q ラーメン店を営むXは、店舗兼住宅をその敷地と共に譲渡しました。譲渡価額と土地建物の使用状況は次のとおりです。 〇 譲渡価額:40,000,000円 〇 建物面積:150㎡ 〇 土地面積:100㎡ この場合、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」の適用にあたって、居住用部分に対応する譲渡価額はいくらでしょうか。 A 居住用部分に対応する譲渡価額は、25,744,000円となります。 ●○●○解説○●○● 居住用部分と店舗部分の譲渡価額を計算すると、次のようになります。 (1) 建物 ① 居住用部分の譲渡価額 (イ) 面積 (ロ) 1㎡当たりの譲渡価額 (ハ) 譲渡価額 ② 店舗部分の譲渡価額 (2) 土地 ① 居住用部分の譲渡価額 (イ) 面積 (ロ) 1㎡当たりの譲渡価額 (ハ) 譲渡価額 ② 店舗部分の譲渡価額 (3) 合計 ① 居住用部分の譲渡価額の総額 ② 店舗部分の譲渡価額の総額 居住の用以外の用に供されている部分のある家屋のうち居住の用に供している部分、及び、その家屋の敷地の用に供されている土地等のうち居住の用に供している部分が、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」の適用対象となります(措通31の3-7(店舗兼住宅等の居住用部分の判定)、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
租税争訟レポート 【第52回】 「課税仕入れの計上時期(第一審:東京地方裁判所2019(平成31)年3月15日判決、控訴審:東京高等裁判所2019(令和1)年9月26日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 〈第一審〉 〈控訴審〉 【事案の概要】 本件は、原告が、平成25年4月25日、土地並びに建物及び附属設備(以下、「本件不動産」といい、本件不動産のうち土地を除く部分を「本件建物」という)を代金7億円で買う旨の売買契約を締結するとともに、本件売買契約の際に生じた所有権の移転及び根抵当権の設定の各登記手続に係る事務を司法書士に委任する旨の約定を司法書士との間でしたとして、本件建物の取得に係る支払対価の額及び司法書士報酬の額を合計した6億1,362万2,313円を、平成25年4月24日から同月30日までの課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に算入した上で消費税及び地方消費税の確定申告をしたところ、行橋税務署長が、平成27年5月26日付けで、本件課税期間の消費税等の更正の処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたため、本件更正処分等には、「課税仕入れを行った日」(消費税法30条1項1号)の解釈及び適用を誤った違法があるなどとして、本件更正処分等の一部の取消しを求める事案である。 原告は、消費税法12条1項に規定する新設分割子法人として、不動産の賃貸借及び所有、管理、利用等を目的として設立され、決算日を4月30日としている。なお、原告の本件課税期間の消費税等の納税義務については、分割親法人の平成23年5月11日から同月31日までの課税期間を基準期間として判定され、分割親法人1年当たりに換算された課税売上高が1,000万円を超えることから、消費税等の納税義務者に該当することとなった。 【売買契約の経緯】 原告と売主との間の売買契約をめぐる日程は次のとおりである。 【第一審判決の概要】 1 争点 争点は次のとおりであるが、本稿では、争点(1)の課税仕入れを行った日が、本件課税期間に属するか否かに対する原告及び被告の主張、これらに対する裁判所の判断を中心に検討することとしたい。 2 被告の主張 被告である国は、次の事実認定から、売買契約の内容のみならず、実際に行われた取引の内容からも、平成25年5月30日に不動産の所有権が原告に移転し、原告が不動産の使用収益を開始したものということができ、同日に不動産の引渡しがあったと認められることから、建物の売買代金に係る課税仕入れを行った日は、平成25年5月30日であり、本件課税期間に属さないというべきであると主張した。 さらに、被告は、原告の本件課税期間における行為を次のように断じて、原告の主張する消費税法基本通達9-1-13(固定資産の譲渡の時期(※1)、以下「本件通達」という)ただし書きによる、「固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期」とする取扱いを否定した。 (※1) 消費税法基本通達9-1-13(固定資産の譲渡の時期) 3 原告の主張 原告は、次のように主張して、建物の譲渡に関する時期について、少なくとも本件通達ただし書きにある「契約の効力発生の日」を基準とすることを排除していないことは明らかであるとした。 (※2) 所得税基本通達36-12(山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期、一部抜粋) (※3) 法人税基本通達2-1-14(固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期) 4 東京地方裁判所の判断 (1) 「課税仕入れを行った日」の意義 東京地方裁判所は、まず、「課税仕入れを行った日」とは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受けた場合における当該課税資産の譲渡等がされた時をいうものであり、それは、譲渡人の下で生じた付加価値が譲受人に移転することが確定した時と解するのが相当であって、具体的には、消費税の課税の対象である付加価値の移転の原因となる課税資産の譲渡等が、例えば、代金の支払、資産の引渡し等によって外部に認識されるに至った状態、すなわち、課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日を指すものと解するのが相当であると、その意義を説示した。 その理由として、消費税が、付加価値の移転を捉えて課税の対象としていると解されるという同法における消費税の性格、趣旨及び内容に照らすと、前述の課税資産の譲渡等がされた時とは、金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益を収受すべき状態が実現した時をいうものと解するのが相当である。その上で、金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益を収受すべき状態が実現したということができるためには、少なくとも譲渡人の下で生じた付加価値が譲受人に移転することが確定した必要があるものと解するのが相当であることを挙げた。 さらに、このように解することは、所得税法における収入金額及び法人税法における益金の額を計上すべき時期について、いずれも、それらを収入すべき権利が確定した課税年度の収入金額又は益金の額に計上すべきであると解されていることとも整合的であるし、企業会計原則において、権利確定主義による実現主義が採用されているとされることとも整合的であるとしている。 (2) 原告の主張について 裁判所は、原告による、「本件通達は、消費税法30条1項1号にいう「課税仕入れを行った日」について、事業者が、固定資産の引渡しの日と契約の効力発生の日のいずれかを選択することを許す趣旨のものである」という主張に対して、消費税法30条1項1号にいう「課税仕入れを行った日」は、事業者が事業として他の者から資産を譲り受けた場合における当該課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日を指すものと解すべきであると判示したうえで、仮に、本件通達について、原告が主張するように解する余地があることを前提としたとしても、本件通達ただし書にいう「契約の効力発生の日」に課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じていなければ、当該日を「課税仕入れを行った日」とする前提を欠くことになるのであり、遅くとも、上記の「契約の効力発生の日」には、課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じていなければならないものというべきであるとして、原告の主張を斥けた。 (3) 結論 そのうえで、裁判所は、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」は、平成25年5月30日であって、同年4月25日ではないから、本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」が、本件課税期間に属する日であるとは認められないというべきであると結論づけた。 【控訴審判決の概要】 控訴審である東京高等裁判所も、控訴人の各請求をいずれも棄却すべきものと判断するとしたうえで、控訴人の控訴審における各主張にかんがみ、補足するとして、争点(1)について、次のように判示したうえで、控訴人の主張は採用することができないと結論づけた。 【解説】 本件は、原告(控訴人)が、約1週間という短い課税期間の中で、金地金5グラムの購入と売却を行って、少額の課税売上げを発生させ、本件課税期間の課税売上割合を100%としたうえで、同じ課税期間内に不動産の売買契約書を作成し、未払金勘定を相手科目として本件建物を資産計上し、所有権等が原告に移転したとする経理処理を行って、多額の消費税について、還付申告を行ったものである。 本件建物は居住用賃貸建物であることから、非課税売上げに対応する課税仕入れに該当するものとして、本来であれば、その大半が仕入税額控除の対象とはならないにもかかわらず、原告の経理処理が認められれば、本件建物の取得に係る消費税等の全額が仕入税額控除の対象とできるところであった。 裁判所は、第一審、控訴審を通じて、課税仕入れの日を契約効力の発生日とする原告(控訴人)の主張を斥けて、処分行政庁の賦課決定処分を認めた。 1 消費税法基本通達9-1-13(固定資産の譲渡の時期)ただし書きの適用 第一審判決では、建物の譲渡に係る権利又は債務が確定する日について、次のように例示している。 建物の譲渡については、契約を締結した日と同日に代金の支払がされ、それと同時に当該建物の引渡しや所有権の移転の登記がされることにより取引が一時に完了し、当該譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日が客観的に明白な場合がある一方、例えば、諸般の事情から各契約当事者の給付等が段階的に複数回に分けてされるなど、外見上は譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日が必ずしも明らかでない場合も生ずるが、そのような場合には、契約上買主に所有権がいつ移転するものとされているかということだけではなく、 の取引に関する諸事情を考慮し、建物の現実の支配がいつ移転したかを判断し、現実の支配が移転した時期をもって、建物の譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日であると判断するのが相当である。 そのうえで、本件通達も、こうした趣旨を明らかにしたものと解することができると判示している。 2 税理士の関与に関する第一審の判断 本稿では、「課税仕入れの日」をめぐる争点(1)に注目して、原告及び被告の主張、これらに対する裁判所の判断を検討してきたが、他の争点の中で、税理士が原告の確定申告に関与していることから、原告の主張が失当であると判断されたものが存在するので、裁判所の結論を見ておきたい。 (1) 本件更正処分等が信義則に反して違法であるか否か(争点(3)) ① 原告の主張 「課税仕入れを行った日」の解釈に関し、原告は、本件通達の定めるところに従って確定申告をしたにもかかわらず、更正処分により本件通達の解釈を否定され、予期しない損害も被ったものであり、原告が本件通達を信じて行動するについて、何ら責めに帰すべき事情はないことから、更正処分等は、原告の信頼した本件通達等の解釈に反する処分であって、本件更正処分等に係る課税を免れさせて原告の信頼を保護しなければ、国税庁長官による法令解釈通達一般についてこれに反する恣意的な課税処分がされることを容認することになり、我が国の全ての納税者の信頼を破壊することになる点で著しく正義に反する。 ② 裁判所の判断 原告は、法定申告期限までに確定申告をしているところ、確定申告の際、税理士(本件訴えにおける補佐人税理士と同一の者である)が代理人として関与していることが認められるから、原告は、税務の専門家である税理士の関与の下で、確定申告をしたものである。本件建物の取得又は司法書士報酬に係る「課税仕入れを行った日」は、いずれも、権利確定主義に基づいて認定されるべきものであるところ、そのことは、税理士であれば、誰しもが承知しているはずの見解である。 そうすると、原告は、権利確定主義に基づいてすべき「課税仕入れを行った日」の認定を誤って、いまだ収受すべき金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益が確定していない日を「課税仕入れを行った日」とすることを前提として確定申告をした結果、更正処分等を受けたにすぎず、原告に生じたとされる不利益は、税務官庁が原告に対して表示した公的見解を原告が信頼した結果に起因するものではなく、自らがした事実認定の誤りに起因するものであるということができるから、更正処分等が信義則に反するものとは認め難い。 (2) 原告に「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるか否か(争点(5)) ① 原告の主張 原告が、消費税等の申告をするに当たり、本件売買契約について消費税法30条1項1号にいう「課税仕入れを行った日」を本件通達本文によらなかったのは、本件通達ただし書によってこれを本件売買契約の効力が発生した日とする取扱いをしたためであるところ、本件通達ただし書は、文言上、何らの限定なく固定資産の譲渡等に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の日とすることを認める旨を明確に定めており、他の税法上の処理と消費税法上の処理を異にすることは許されないという観点からの制約があると解し得ることを除けば、これを制限的に解釈すべき根拠等は全く見当たらないほか、税務当局が作成した書籍にも、同旨の記載があったから、原告が上記の取扱いをしたことについて、原告に帰責性はない。 したがって、原告が、消費税等の申告をするに当たり、本件売買契約について同号にいう「課税仕入れを行った日」を本件通達本文の定めるところによらなかったことにつき、「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるというべきである。 ② 裁判所の判断 本件においては、原告が、本件建物の取得及び司法書士報酬に係る「課税仕入れを行った日」の認定を誤って、いまだ収受すべき金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益が確定していない本件売買契約を締結した日を「課税仕入れを行った日」とする確定申告をした結果、更正処分等を受けたものであるところ、原告が、税理士の関与の下に確定申告をしたことにも照らすと、原告が、本件建物の取得及び司法書士報酬に係る「課税仕入れを行った日」の認定を誤ったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認め難いというべきである。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第6回】 「“連結決算での親会社の役割”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)