《速報解説》 日本監査役協会がKAMに関するQ&A集の統合版を公表 ~前編・後編公表後の各所の議論を踏まえ設問の追加等を行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年6月8日、日本監査役協会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」を公表した。 2019年6月11日公表の「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」、2019年12月4日公表の「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を統合するものである。 Q&A集の前編及び後編は、KAMに関して早期適用を行う会社を想定していたが、統合版は、公表後の議論などを踏まえ検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正点 以下では主な改正点について解説する。 1 事業等のリスクとKAMの記載項目の関連性(Q1-3-9) KAMとされた項目は、必ず、有価証券報告書に記載する事業等のリスクでも記載しないとならないのかについて、両者の整合性は求められていないものの、結果として整合することになると思われるとしている。 可能な限り、記述情報の充実が図られることが望ましいとしている。 2 監査役会等の活動状況とKAMとの関連性(Q1-3-10) 監査役会等の活動状況における記載内容に、KAMを記載しなければならないということはない。 3 KAMと監査役会等の重点監査項目との関係(Q3-2-6) 期初においてKAM候補となった項目と、監査役会等の重点監査項目を一致させる、あるいはあらかじめすみ分けるという整理は不要である。ただし、KAM候補となった項目も、監査役会等の重点監査項目も、ともに監査上の主要な論点であるので、監査役等としては、監査人の情報と執行側の見解を十分に聴取し、チェックする必要がある。 4 株主総会におけるKAMに関する質問(Q3-5-2) 株主総会におけるKAMに関する質問について、次の例示が記載されている。 (了)
《速報解説》 法務省から「会社計算規則の一部を改正する省令案」が公表される ~収益認識に関する会計基準等に対応し注記等が整備される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年6月4日、法務省は、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、「収益認識に関する会計基準」(令和2年3月31日、改正企業会計基準第29号)及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)等に対応するものである。 意見募集期間は2020年7月3日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 損益計算書等の区分 損益計算書等における売上高の表示について、売上高(売上高以外の名称を付すことが適当な場合には、当該名称を付した項目)とする(会社計算規則案88条1項1号)。 2 会計上の見積りに関する注記 注記表に「会計上の見積りに関する注記」を加える(会社計算規則案98条1項4号の2)。 会計上の見積りに関する注記は次に掲げる事項とする(会社計算規則案102条の3の2)。 3 重要な会計方針に係る事項に関する注記 「重要な会計方針に係る事項に関する注記」に、次の規定を加える(会社計算規則案101条2項)。 4 収益認識に関する注記 「収益認識に関する注記」について、次のように改正する(会社計算規則案115条の2)。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 ASBJが「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」の公開草案を公表 ~金利指標置換の可能性の高まりを受け、会計処理等の取扱いを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年6月3日、企業会計基準委員会は、「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第59号)を公表し、意見募集を行っている。 ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate:LIBOR)の公表は、2021年12月末をもって恒久的に停止される。 これにより、LIBORを参照している契約において、参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっていることから、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにする必要がある。 なお、公開草案最終化時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公開草案の最終化から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定とのことである(公開草案48項)。 意見募集期間は2020年8月3日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 範囲 LIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲とする(公開草案3項、21項、23項)。 次のものも適用範囲とする。 Ⅲ 金利指標置換前の会計処理 1 ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替 公開草案の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(公開草案5項)。 2 ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ) 3 金利スワップの特例処理等 Ⅳ 金利指標置換時の会計処理:ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ) 金利指標置換前において公開草案の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合については、金利指標置換時において、ヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(公開草案12項)。 Ⅴ 金利指標置換後の会計処理 1 ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ) 金利指標置換前において公開草案の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時以後において、公開草案8項の取扱いを適用しヘッジ会計の適用を2023年3月31日以前に終了する事業年度まで継続することができる(公開草案13項)。 これは、LIBORの公表停止が予定されている2021年12月末から概ね1年間を想定したものである(公開草案48項)。 また、当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(公開草案13項)。 2 金利スワップの特例処理等 金利スワップの特例処理及び振当処理についても原則的処理方法に関して提案した特例的な取扱いと同様の特例的な取扱いとする(公開草案15項)。 Ⅵ 注記事項 Ⅶ 適用時期等 (了)
《速報解説》 会計士協会及び金融庁より COVID-19に係る監査の国際動向(翻訳情報)が続けて公表される ~継続企業の前提の評価、後発事象、金融商品、開示の重要性~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、次の文書を公表している。 また、証券監督者国際機構(IOSCO)は、次の声明を公表している。 これらの文書等は、監査人の監査実務の動向を理解するうえで参考になる部分があると考えられる。 IOSCOは、現在の環境において監査人が課題に直面していることを理解しているとしつつも、監査人には職業上の基準に従って高品質な監査を実行する責任が引き続きあると述べている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 継続企業の前提の評価(IAASB) 国際監査基準に基づき、経営者が継続企業を前提として財務諸表を作成することの適切性に関して、監査人が評価する際の主要な留意事項を述べている。 下記のほか、監査上の主要な検討事項(KAM)、財務諸表の確定(承認)の著しい遅延などについても述べている。 1 新型コロナウイルス感染症の影響による事象又は状況の例示 次の事象又は状況を例示している。 上記の事象又は状況の例示に関する経営者の評価に対して、監査人が検討するポイントとして、例えば、次のことを述べている。 2 追加的な監査手続 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を識別した場合の追加的な監査手続を示し、監査人が留意するポイントとして、次のことを述べている。 Ⅲ 後発事象(IAASB) 国際監査基準に基づき、監査人が後発事象に関する監査手続を実施する際の主要な留意事項を述べている。 現在の環境下における後発事象に関する経営者の責任についてのさらなるガイダンスは、国際会計士連盟(IFAC)がまとめた「COVID-19が財務報告に与える影響」に記載されているとのことである。 1 修正後発事象と開示後発事象 後発事象には、次の2つのものがある(ISA 560「後発事象」)。 監査人は、後発事象に関する監査人のリスク評価(COVID-19の世界的流行の影響に関する根拠を含む)に対応した作業を実施する際に、修正後発事象と開示後発事象の区別に用いたスケジュールを含む、経営者による修正又は開示を検討する。 2 関連性があると考えられる事象及び状況の例示 監査人が、後発事象が発生したかどうか、及び該当する場合に財務諸表に適切に反映されたかどうかを判断する際に、関連すると考えられる事象又は状況の例示として、次のことを示している。 3 新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関する事象が、監査報告書日より後に監査人が知るところとなった場合に要求される監査手続 監査人は、監査報告書日後(財務諸表の発行日の前か後かは問わない)に、財務諸表に関していかなる監査手続を実施する義務も負わない。 しかしながら、監査人が、監査報告書日現在に気付いていたとしたら、監査報告書を修正する原因となった可能性のある事実を知るところとなった場合は、この限りでない。 例えば、2020年4月8日に新型コロナウイルス感染症に関する重要な事象を監査人が知るところとなった場合において、もし当該事象を監査人が2020年3月31日(監査報告書日)に知っており、監査報告書を修正する原因となった可能性があるのであれば、追加の手続が要求される可能性がある。 Ⅳ 会計基準の適用に関するIOSCO声明 証券監督者国際機構(IOSCO)は、証券監督当局の主要な国際機関であり、証券規制のグローバルな基準設定主体として認識されている。 IOSCOは、国際会計基準審議会(IASB)が提供した、COVID-19の発生に起因する経済的不確実性下において、IFRS第9号「金融商品」に従った予想信用損失の会計処理の適用に関する教育的資料を歓迎すると述べている。 COVID-19の流行に対応した政府などの実施する救済プログラムなどの支援策を考慮し、金融商品の残存期間における信用リスクを検討し、入手可能な最良の情報に基づいた長期の経済予測といった将来情報を利用する必要があることなどを述べている。 Ⅴ 開示の重要性に関するIOSCO声明 1 最善の入手可能な情報 現在の環境では、発行体(企業)は通常よりも大きい不確実性を伴う重要な判断と見積りを行う必要があり、IOSCOは、財務情報が公開された後に変更される可能性のある潜在的に不完全な情報であり、変化する不確実な環境において財務諸表を作成することの困難さを理解していると述べている。 それでもなお、IOSCOは、発行体がCOVID-19の流行の影響、基準設定主体が公表したガイダンスと各法域において利用可能な政府の救済と支援策を考慮した、十分に合理的で裏付けのある判断や見積りを行うにあたり、最善の入手可能な情報を使用する責任があると述べている。 例えば、合理的で裏付けのある仮定に基づくキャッシュ・フロー予測では、資産の残存耐用年数にわたる経済状況の範囲について、経営者による最善の見積りが必要になる場合があると述べている(公正価値測定、減損評価)。 2 透明で完全な開示の重要性 IOSCOは、特に不確実性が高まる環境では、十分な水準の透明性を提供し、判断や見積りに内在する不確実性に関して企業固有の開示を、財務報告に含めることが重要であるとしている。 開示に際して次のことを述べている。 さらに次のことも述べている。 上記のほか、例えば、COVID-19に関連しない減損の兆候が流行の前に存在していた場合に、当該減損をCOVID-19に関連させたりしないように注意するように述べている。 (了)
2020年6月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.372を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.89- 「コロナ禍で始まる「口座付番」の検討」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 新型コロナ対策として全国民へ1人10万円が支給される定額給付金は、「遅い」「手続きが煩雑」などの批判が相次いでいる。そしてそのような苦情が、番号と預金口座を紐づけるという問題(預貯金口座付番、以下「口座付番」)へ発展した。 自民党政務調査会マイナンバーPTは5月19日、「マイナンバー制度等の活用方策についての提言」を取りまとめた。そこには、「緊急時給付迅速化法」として以下の内容の議員立法の制定を目指すことが書かれている。 上記の提言は給付金に焦点を合わせたパッチワークの内容だが、番号制度(マイナンバー制度)が開始されて4年、この間の口座付番をめぐる議論を、筆者なりに整理してみた。 * * * 2016年1月から始まった番号制度だが、口座付番については導入時(民主党政権時)に検討されたものの結論が出ず先送りされた。その後2018年1月に、預貯金者に直接的な告知義務を課さない「任意」の形で口座付番が行われることとなった。「任意」なので、現実の口座付番は遅々として進んでいない。 そもそも国民には、国(税務当局など)に自分の口座情報を知られたくないという根強い思いがある。とりわけ個人事業者は、ストック情報からフローの所得が推測できるので、本音では付番には反対だ。 金融機関も、8億あるといわれている口座への付番は、莫大なコストと手間がかかるので、避けたい。金融機関を監督する金融庁も、そうでなくても経営弱体化している金融機関に付番を押し付けたくはない。 税務当局はどうか。口座情報は欲しいところだ。しかし自らが前面に立って口座付番を訴えれば逆効果になる、ということで静観の構えだ。また利子所得への課税は、源泉分離課税なので、この面での税の徴収漏れはない。 最後に番号を所管する総務省や内閣官房、さらに政治は、国民の反発を買いたくないので、あえて打って出ない。政治のリーダーシップは一切見えない。 このような背景から、今日まで口座付番の問題は置き去りにされてきた。それが今回、口座付番ができていないために国民への給付が遅れるという状況が生じ、ようやくこの問題が動き始めたということだ。 * * * 確かに国民にとって口座付番のメリットは少ない。しかし、所得税、相続税の把握の精度を向上させることは、番号制度の導入目的の1つである「適正・公平な課税」に必要であり、国にとって極めて重要なことである。 さらには社会保障においても、所得(フロー)基準で決められている社会保障給付や負担を、預貯金残高(ストック)の情報も加味して決める方がはるかに公平感が高い。これも番号制度の導入理由である「社会保障給付・負担の公平化・効率化」に資する。 口座と結び付いていない番号制度は、おそらくわが国だけではないか。筆者は米国と英国に勤務していた当時、現地で銀行口座を開設した経験があるが、社会保障番号を書き込まなければ口座を開設できなかった。 * * * 最後に、口座付番を効率的に行う方法がある。それは、すでに番号で預金情報の提供を求めることが認められている預金保険機構を活用することである。 法律で義務付けられていた証券口座の付番が遅れていたが、ほふり(証券保管振替機構)が直接、住基ネットから顧客の個人番号をまとめて取得し、証券会社や株式等の発行者(企業)に提供できる仕組みが2020年4月から導入された。 この例にならい預金保険機構を活用すれば、金融機関のコストはかからず一気に進めることができるのではないだろうか。 コロナ禍で、口座とマイナンバーが結び付くことのメリットが認識されたこのチャンスに、政治のリーダーシップの下で、国民的な議論を始めてもらいたい。 (了)
[令和2年度税制改正における] ひとり親控除の創設と寡婦(寡夫)控除の見直し 【第2回】 「源泉徴収事務における注意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 ひとり親控除と寡婦控除は、いずれも給与等及び公的年金等の源泉徴収の際に適用することができる(所法187、203の3)。 本稿では、給与・賞与(以下「給与等」という)の源泉徴収事務におけるこれらの控除の取扱いについて解説を行う。 なお5月29日付で国税庁より「ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ(源泉所得税関係)」が公表されているので、併せて参照されたい。 【1】 月々の源泉徴収 改正後の規定に基づいた源泉徴収は、令和3年1月1日以後に支払うべき給与等からとされている(附則8①)。よって、月々の給与等に対する源泉徴収においては、令和2年分と令和3年分以後で対応が異なる。 (1) 令和2年分の対応 令和2年分の源泉徴収では、改正前の規定に基づいて徴収税額を求める(附則8①)。したがって、令和2年分の扶養控除等(異動)申告書(以下「扶養控除等申告書」という)の「寡婦」、「特別の寡婦」又は「寡夫」欄にチェックがついている場合には、扶養親族等の数に1人を加算して徴収税額を求める。 (2) 令和3年分以後の対応 令和3年分以後の源泉徴収では、改正後の規定に基づいて徴収税額を求める。令和3年分以後の扶養控除等申告書において、寡婦又はひとり親に該当する旨の記載がある場合には、扶養親族等の数に1人を加算して徴収税額を求める。 【2】 年末調整 年末調整では、令和2年分も令和3年分以後も、改正後の規定(※)に基づいて計算を行う。 (※) 令和2年3月31日以前に年末調整を行う場合は、改正前の規定(附則8②)。 【1】で述べたとおり、令和2年分の扶養控除等申告書は、改正前の規定に基づいて記載されている。年末調整では改正後の規定に基づく計算を行うため、次に該当する者は、令和2年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に対して扶養控除等申告書(又は異動申告書)(※)を提出する必要がある(附則8③④)。 (※) 令和2年分の扶養控除等申告書には「ひとり親」欄は設けられていない。このため、「寡婦」「寡夫」「特別の寡婦」の欄を「ひとり親」に訂正する等の方法による(下図参照)。 (※) 国税庁「ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ(源泉所得税関係)」P8より (※) 「改正前の寡婦→改正後の寡婦」の場合、及び「改正前の寡夫又は特別の寡婦→改正後のひとり親」の場合は、申告書の提出は不要。 【3】 令和2年分のまとめ 令和2年分の源泉徴収及び年末調整での取扱い、年末調整時の申告の要否についてまとめると、次のとおりである。 【4】 ケーススタディ 以下、令和2年分を前提に、5つのケースについて源泉徴収と年末調整での取扱いを示す。 なお、「子」「未婚」「事実婚」については下記のとおりとする。 (連載了)
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第8回】 「不動産鑑定評価について(その6)」 -価格に関する鑑定評価(土地(農地・林地・宅地見込地))- 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 相続財産の評価に当たって、評価通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもないとされています。 上記の証明を求めて、相続財産が不動産(土地等、家屋等)である場合には、不動産鑑定士等に不動産鑑定評価を依頼することが通例となります。 この連載では、不動産鑑定評価に関する知識を確認してみることにします。 第6回目となる今回は、価格に関する鑑定評価のうち「土地(農地・林地・宅地見込地)」について、その主要項目を確認してみることにします。 解決への指針 不動産の鑑定評価は、専門的学識と応用能力に基づいて個々の案件に応じて行うものですが、具体的な案件に望んで的確な鑑定評価を期するためには、基本的に不動産の種類別に応じた鑑定評価の手法等を活用する必要があります。 上記に掲げる不動産の種類のうち、「土地(農地・林地・宅地見込地)」についてその主要項目をまとめると、次のとおりとなります。 (1) 農地 公共事業の用に供する土地の取得等農地を農地以外のものとするための取引に当たって、当該取引に係る農地の鑑定評価を求められる場合があります。 この場合における農地の鑑定評価額は、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するものとされています。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきであるとされています。 なお、公共事業の用に供する土地の取得に当たっては、土地の取得により通常生じる損失の補償として農業補償が別途行われる場合があることに留意する必要があります。 不動産鑑定評価基準では、農地(同基準では農地とは、農地地域のうちにある土地を指すものとされています。)は、一般的に耕作の用に供されることが合理的と判断されることから、そのような利用状況にある農地の取引価格を評価することは馴染まないものと考えられ、不動産の鑑定評価には含まれないものとされています。 したがって、不動産鑑定評価基準の評価指針が示されている農地は、現状の利用状況は農地であっても、農地以外の利用(例えば、公共事業の施行の結果、道路用地(公衆用道路)に転用)を前提とした取引に際しての鑑定評価額を求めるものとされています。 比準価格を求めるには、取引事例(公共事業以外の一般の転用事例を収集します。)に係る取引価格を検証する必要がありますが、具体的には、当該取引価格のうちに農業補償(農業の廃止、休止、経営規模縮小等の補償)相当額が含まれていないか否かを確認することが重要となり、もし含まれているのであれば、これを除外して適正な農地の取引価格に補正した後の数値を採用する必要があります。 収益価格は、当該農地に係る適正な純収益(標準的な農業総収益からこれに対応する標準的な総費用を控除して求めます。)を基礎として求めるものとされています。 積算価格は、対象農地について再調達原価が直接把握できる場合(開墾造成された農地である場合)には利用可能となりますが、この場合においても間接的に求める方法(近隣地域及び同一需給圏内の類似地域における農地の造成事例より比準させて求める方法)も併用することが望ましいものと考えられます。 (2) 林地 公共事業の用に供する土地の取得等林地を林地以外のものとするための取引に当たって、当該取引に係る林地の鑑定評価を求められる場合があります。 この場合における林地の鑑定評価額は、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するものとされています。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきであるとされています。 なお、公共事業の用に供する土地の取得に当たっては、土地の取得により通常生ずる損失の補償として立木補償等が別途行われることがあることに留意する必要があります。 不動産鑑定評価基準における林地の価格の求め方は、上記(1)の農地の価格の求め方と同様となっています。(異なるのは、農地の場合は農地補償とされていますが、林地の場合は立木補償等とされている点のみです。) 林地は、一般的に当該林地上に存する林木と一体となって取引されるものであることから、林地の価格を求める場合には、森林(森林とは、林地と当該林地上の林木が一体となっているものをいいます。)の取引事例を確認し、当該取引事例に係る取引価格から林木の価格を控除する方法が用いられます。 上記の林木の価格を求める方法には、次の①ないし③に掲げるものがあります。 ① 売買価に基づく方法 売買価に基づく方法とは、評価対象である林木の樹種、樹齢、径級、長級及び材種等の物的観点のみならず、当該林地に係る自然、社会、経済及び行政的観点からみて同質的な影響下にあると認められる林木の取引価格から、評価対象である林木の売買価を求めようとするものです。 ② 費用価に基づく方法 費用価に基づく方法とは、評価対象である林木を育成するのに要した純経費(育成期間中に投下された経費からその期間中に得られた収益を控除した額をいいます。)の後価(注)の合計額を求めることによって、その林木の費用価を求めようとするものです。 (注) 後価の例として、ある年の純経費が1,000,000円、年利率を4%、育成完了までの期間を10年とすると、次の算式により計算した金額(約148万円)となります。この計算は、複利終価率を用いて算定します。 ③ 期望価に基づく方法 期望価に基づく方法とは、現在から伐期までに期待される純収益の前価(注)の合計額を求めることによって、その林木の期望価を求めようとするものです。 (注) 前価の例として、伐期における純収益が1,000,000円、年利率を4%、伐期までの期間を10年とすると、次の算式により計算した金額(約67万円)となります。この計算は、福利現価率を用いて算定します。 (3) 宅地見込地 宅地見込地の鑑定評価額は、比準価格及び当該宅地見込地について、〔A〕価格時点において、転換後・造成後の更地を想定し、その価格から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の〔B〕熟成度に応じて適切に修正して得た価格を関連づけて決定するものとされています。 この場合においては、特に都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度及び次に掲げる事項を総合的に勘案するものとされています。 宅地見込地とは、宅地地域以外の地域(例えば、上記(1)の農地地域、(2)の林地地域)にあるものの、宅地地域へと転換(利用地目が変更されることをいいます。)しつつある地域に存する土地をいいます。 なお、「価格時点において、転換後・造成後の更地を想定」(上記〔A〕 部分)するとは、価格時点において予想される当該宅地見込地の転換後・造成後の宅地見込地の最有効使用に対応した更地を想定することをいいます。 また、「熟成度に応じて適切に修正」(上記〔B〕 部分)とは、評価対象である宅地見込地の存する地域が自然、社会、経済及び行政的要因の影響により宅地地域化する期間及び蓋然性に応じて修正することを指しています。 一方、熟成度の低い宅地見込地を鑑定評価する場合には、比準価格を標準とし、〔C〕転換前の土地の種別に基づく価格に宅地となる期待性を加味して得た価格を比較考量して決定するものとされています。 この「転換前の土地の種別に基づく価格」(上記〔C〕 部分)は、農地は上記(1)、林地は(2)の鑑定評価の手法によるものとされます。 (了)
〔失敗事例から考える〕 この相続対策の問題はドコ!? 【第2回】 「贈与税の配偶者控除に関する失敗事例(その1)」 ~「婚姻期間」のカウントミスを原因とする贈与契約の不成立と自宅管理の未対応~ 公認会計士・税理士 木下 勇人 - 事 例 - 私(夫)はかねてより婚姻期間20年を記念して妻に評価額2,110万円(持分3分の2)の自宅(敷地含む)を生前贈与するつもりでいた。 税理士に確認したところ、「1月1日現在において、20年経過した年にならなければ、贈与税の配偶者控除の適用ができない」との回答があったため、その日を待ち望んでいたが、その日が到来する前に妻は認知症(重度)を発症してしまった。 ■ ■ ■ 回 答 ■ ■ ■ この事例における失敗は、贈与税の配偶者控除の要件の1つである「婚姻期間」の20年のカウント方法を間違え、贈与のタイミングを逸してしまったことです。 また、仮にカウントミスがなかった場合においても、認知症問題を想定した自宅管理の未対応が考えられます。 -解 説- 1 贈与税の配偶者控除の要件 まず、贈与税の配偶者控除の要件が、以下であることをおさえておきたい。 2 本事例への当てはめ 上記要件のうち、①の「20年」というのはあくまで「婚姻期間」でカウントするため、本事例における「1月1日現在」を基準とした期間のカウントは、明らかなミスであるといえる。 おそらく、カウントの方法を住宅取得等資金贈与や特例税率の20歳基準と混同してしまっていると考えられ、このような単純ミスにより、贈与のタイミングを逸してしまうことは、税理士として絶対に避けなければならない。 3 贈与の前提条件は意思能力があること 令和2年4月1日施行の改正債権法により、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と規定される(改正民法3条の2)。 これは従来あった判例等を明文化したものであり、実務上の取扱いとしては何ら変わることなく、意思能力がないことを理由とする無効を主張できるのは、「意思無能力者側」からのみ(相対的無効)とされている。 4 仮に婚姻期間のカウントミスをしなかった場合における問題点の検証 本事例において仮に婚姻期間のカウントミスをせず、妻は贈与時点で意思能力を有しており、実際に贈与実行した場合における問題点を検証する。 夫が老人ホームに入居するための資金や生活資金が枯渇しており、リバースモーゲージ(自宅を担保に、老後の生活費などを一時金又は年金形式で借りられる貸付制度)を検討する場合、妻への贈与実行後に、妻が認知症(重度)を発症すると、自宅が夫婦の共有物であることから、妻の意思では自宅の担保提供ができないことになる。また、資金確保のために自宅を売却し夫婦で老人ホームに入居する場合でも、同様の問題が生じることになる。 この問題への対処法は、贈与税の配偶者控除を他益信託で組成(相基通21の6-9)するか、妻に成年後見人を選任する以外方法がない。 税理士の視点としては、自宅売却による所得が3,000万円を超える場合、夫婦共有にしておくことで居住用財産の3,000万円控除(措法35①)を合わせて適用する可能性ばかりを追ってしまうが、高齢者の認知症問題を常に意識しておくと、①実際に売却が可能か否か、②売却後の財産管理をどうするか、という視点が浮かぶはずである。 5 最後に 税理士による適用要件の間違いは言語道断であるが、「課税関係さえよければ問題ない」というスタンスでは税理士としての十分な役割を果たせず、クライアントからの期待にも応えられない。 「税理士=財産管理の一翼を担う存在」という視点を常に持ち合わせておくことが、これからの税理士に求められるのではないであろうか。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例18】 「臨床検査の委託を受ける会社における検査機器に対する特別償却の適用」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、東京都内で医療機関から委託を受けて臨床検査を行うことを主たる業務とする株式会社Aにおいて、経理を担当する者です。当社において扱っている臨床検査項目は、大きく分けて「アレルギー検査」、「遺伝子・染色体検査」、「薬物・毒物検査」、「濫用薬物検査」、「研究検査」となっております。正確かつ信頼性のある臨床検査を行うため、当社においては常に優れた臨床検査技師の雇用はもちろんのこと、最新の臨床検査機器の導入に努めております。 近年、臨床検査機器の高度化に伴い、その価格も高額化しております。そのため、わが社の限られた資金を効率的に投入する目的で、臨床検査機器については購入のみならずリース(所有権移転型リース取引)による調達も積極的に行っているところです。また、その経理処理の際には、租税特別措置法に定める特別償却の適用(措法42の6)を受けています。なお、わが社は租税特別措置法施行令第27条の6に定められる「中小企業者」に該当します。 ところが、先日受けた税務調査において、当社が取得した臨床検査機器は、租税特別措置法に定める特別償却の適用が受けられる「機械及び装置」には該当しないことから、特別償却に係る金額の損金算入が認められない旨を言い渡されました。 当社が導入している高度・高価な臨床検査機器が「機械及び装置」には該当せず、特別償却の恩恵に与れないという調査官の主張には、どうにも納得がいかないのですが、私の解釈の方が間違っているのでしょうか。 【A】 社会通念上、臨床検査機器が「機械及び装置」と「器具及び備品」とのいずれに該当するのかを一義的に決することは困難ですが、法人税法及び減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づき解釈すれば、有形固定資産が「機械及び装置」であるといえるためには、標準設備を形成していなければならず、それぞれが独立して機能する臨床検査機器がそれに該当するとはいえないでしょう。 そうなると、A社が保有する臨床検査機器は、租税特別措置法に規定された特別償却に係る金額の損金算入は認められないこととなります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 特別償却の意義 所得税法及び法人税法においては、そこに規定されている減価償却の方法が公正妥当な会計処理の基準であると解されているが、租税特別措置法では、当該基準に該当しない特別(減価)償却制度が規定されている(措法10の2以下、42の5以下)。 特別償却は、特定の減価償却資産を取得し、それを事業の用に供した場合に、その日を含む事業年度(初年度)において、普通償却(限度)額に加えて、取得価額の一定割合について償却し損金に算入することを認める制度である(初年度特別償却)(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)388~389頁。 また、このような初年度特別償却を狭義の「特別償却」と捉え、障害者を雇用する場合の機械等の割増償却制度(措法46)のように、対象資産取得後の一定期間に普通償却の一定割合を償却限度額に加算する制度を「割増償却」として、(広義の)特別償却の一形態とみる見解もある(※2)。 (※2) 坂本雅士「特別償却制度」『日税研論集69巻』(日本税務研究センター・平成28年)121頁。 特別償却と普通償却とを比較した場合、最終的な減価償却費の総額は同じであるため、特別償却は非課税措置ではなく課税繰延措置に過ぎない。一方で、特別償却の場合、初年度に追加的な償却額を計上できるため、当該金額につき課税が猶予されることに伴う自己金融効果により、いわば国庫から無利息融資を受けているのと同等の経済的効果を享受できるともいえる(※3)。また、償却費を早期に回収できるため、資産の更新を促す効果も期待できる。 (※3) 金子前掲(※1)書389頁、坂本前掲(※2)論文119頁。 (狭義の)特別償却と割増償却につき、それぞれの償却費の計上時期を図解すると、概ね以下のとおりとなる。 〇(狭義の)特別償却と割増償却(定額法の場合) (2) 中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却 ① 制度の概要 本件において適用の可否が問題となったのは、中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却制度(措法42の6)である。この制度は、青色申告書を提出する中小企業者などが、平成10(1998)年6月1日から令和3(2021)年3月31日までの期間内に新品の機械及び装置などを取得し又は製作して、国内にある製造業、建設業などの「指定事業」の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却(又は税額控除(※4))を認めるものである。 (※4) 中小企業者のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人又は農業協同組合等については、新品の機械及び装置などのうち特定経営力向上設備等に該当するものの取得等をして、これを国内にあるその中小企業者などの営む指定事業の用に供した場合には、取得価額の全額の償却(即時償却)若しくは取得価額の7%又は10%相当額の税額控除が認められる(措法42の6②)。 なお、特別償却と税額控除との重複適用はできない(措法42の6②)。 ② 適用対象 特別償却の適用対象となる法人は中小企業者である。ここでいう「中小企業者」とは、以下の掲げる法人を指すものとされている(措令27の6①)。 ③ 適用対象資産 この制度の対象となる資産(特定機械装置等)は、その製作の後事業の用に供されたことのない(新品の)以下に掲げる資産で、指定期間内に取得し又は製作して指定事業の用に供したものである。ただし、内航運送の用に供される船舶の貸渡しをする事業を営む法人以外の法人が貸付けの用に供する資産は、特定機械装置等には該当しない。 なお、平成29年度の税制改正で、対象資産から「器具備品」が除外されている。 ④ 償却限度額 償却限度額は、基準取得価額の30%相当額の特別償却限度額を普通償却限度額に加えた金額である。 ここでいう「基準取得価額」とは、船舶についてはその取得価額に75%を乗じた金額をいい、その他の資産についてはその取得価額をいう。 ⑤ リース取引 平成20(2008)年4月1日以後に締結される「所有権移転外リース取引」により賃借人が取得したものとされる資産については、特別償却の規定は適用されない(措法42の6⑥)。 (3) 有形固定資産の「機械及び装置」該当性が問題となった事案 本件に関して、仮に、有形固定資産である医療用の臨床検査機器が「器具及び備品」に該当する場合、租税特別措置法第42条の6第1項に掲げる減価償却資産には該当しないため、当該条項に基づく特別償却の適用が受けられないことは明確であるが、法令上そのような限定列挙のない「機械及び装置」に該当する場合には、その適用が受けられることとなる。この点について争われた裁判例(東京高裁平成21年7月1日判決・税資259号-124(順号11237)、TAINSコード:Z259-11237、棄却・確定)があるので、以下で検討してみる。 ① 事案の概要 本件は、中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却又は法人税の税額の特別控除を定めた租税特別措置法第42条の6の適用の有無が問題となった事案である。 すなわち、主として臨床検査、公害検査、水質検査等を目的とする会社であり、医療機関ではない控訴人が、臨床検査で使用するリース物件である原判決別表1及び別表2記載の各資産(※5)について、これが措置法第42条の6第1項第1号の減価償却資産に該当し、かつ同条第3項の規定が適用されるとして法人税の確定申告をしたところ、福山税務署長から、当該規定の適用を否定する内容の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、控訴人は、これらの処分の取消しを求めたものである。 (※5) 具体的には、全自動染色装置、血液ガス分析装置、全自動マイクロプレート分析装置、自動浸透圧計等である。 措置法第42条の6第1項第1号には減価償却資産として「機械及び装置並びに器具及び備品」を挙げている。このうち「器具及び備品」について、同号は財務省令で定めるものに限ると規定するが、同号の委任を受けた財務省令である租税特別措置法施行規則第20条の2の2第1項には、本件各資産に該当するものが存在しない。この点につき控訴人(原告・納税者)は、一審において、本件各資産は措置法第42条の6第1項第1号の「機械及び装置」に該当すると主張したところである。 一審の東京地裁平成21年1月16日判決・税資259号-3(順号11116)(TAINSコード:Z259-11116)では、以下のように判示し、原告の訴えを棄却した。 まず、関連法規との整合性の観点から「機械及び装置」及び「器具及び備品」の意義を検討したところ、国語辞典等の文献を参照するなどしても、措置法第42条の6第1項第1号の「機械及び装置」及び「器具及び備品」の意義を一義的に決することはできないところ、これらはいずれも法令上の用語であるから、ある減価償却資産が「機械及び装置」又は「器具及び備品」のいずれに該当するかの判断に当たっては、法的安定性の観点から、関連法規との整合性が図られるような解釈をする必要があるというべきであるとした。 次に、ある減価償却資産が措置法第42条の6第1項第1号の「機械及び装置」又は「器具及び備品」のいずれに該当するかを判断するに当たっては、それが、耐用年数省令の別表第二において設備の種類ごとに369(55に改変(本稿執筆時点))に区分され、その一部についてはさらに細目が設けられ、個別具体的に掲げられた「機械及び装置」と、別表第一において構造又は用途に応じて12に区分され、さらに細目が設けられ、個別具体的に掲げられた「器具及び備品」のいずれに該当するのかを検討するのが相当というべきである、とした。 上記観点から本件各資産について検討すると、それらはいずれも耐用年数省令別表第一の「器具及び備品」のうち「医療機器」に該当すると解するのが相当であり、本件各資産が、同別表第二の「369」の「前掲の機械及び装置以外のもの並びに前掲の区分によらないもの」に該当するということはできないというべきである。 したがって、本件各資産は、法人税法第2条第23号及び法人税法施行令第13条第7号にいう「器具及び備品」に当たり、法人税法第2条第23号及び法人税法施行令第13条第3号にいう「機械及び装置」には当たらないということになるから、措置法第42条の6第1項第1号の「器具及び備品」に当たり、同号の「機械及び装置」には当たらないということになる。 ② 事案の争点 事案の争点は、本件各資産が措置法第42条の6第1項第1号に規定する「機械及び装置」ではなく「器具及び備品」に該当するか否かである。 ③ 裁判所の判断 東京高裁は基本的に一審の判断を是認しており、更に以下の判断を付加している。 ④ 本裁判例からいえること 本裁判例も、その争点である耐用年数省令別表第二に掲げられた「機械及び装置」の意義については、従来の裁判例と同様に、「機械及び装置」に係る総合耐用年数は元々、資産の集合体としての選定された標準設備(モデルプラント)の効用持続年数に基づいて決定されていることを根拠に、他の資産と一体となって共通の効用に資するべく機能するものであることを重視している(※6)。 (※6) 一高龍司「法人税法上の減価償却に関する主要な裁判例-昭和63年以降-」『日税研論集』69集(日本税務研究センター・平成28年)232頁。 そのため、主として臨床検査、公害検査、水質検査等を目的とし、医療機関でない原告が、臨床検査で使用するリース物件である全自動染色装置や血液ガス分析装置といった検査機器は、それぞれが独立して機能するものであるため、「機械及び装置」には該当せず、措置法第42条の6第1項第1号の「器具及び備品」に該当するとされた。 本件係争年度における租税特別措置法の下では、「器具及び備品」のうち、「事務処理の能率化等に資するものとして財務省令(旧措規20の2の2)で定めるもの」に限定されており、具体的には電子計算機、デジタル複写機等の事務機器9種目(検査機器は該当せず)が挙げられていた。 そのため、納税者のリース物件(検査機器)が、法令上適用対象につき限定列挙されていない「機械及び装置」に該当しない場合には、適用対象が限定列挙された「器具及び備品」に該当することから、特別償却の対象外となるわけである。耐用年数省令の解釈、特に減価償却資産が同省令別表第一・第二のどのカテゴリーに入るのかを解釈するときには、参考になる裁判例ではないかと思われる。 (4) 本件への当てはめ 社会通念上、臨床検査機器が「機械及び装置」と「器具及び備品」とのいずれに該当するのかを一義的に決することは困難であるが、法人税法(租税特別措置法を含む)及び減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づき解釈すれば、有形固定資産が「機械及び装置」であるといえるためには、標準設備(モデルプラント)を形成していなければならず、それぞれが独立して機能する臨床検査機器がそれに該当するとはいえない。 そうなると、A社が保有する臨床検査機器は、租税特別措置法に規定された特別償却に係る金額の損金算入は認められないこととなる。 (了)