税効果会計を学ぶ 【第7回】 「繰延税金資産の回収可能性①」 -定義を理解する- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 税効果適用指針8項(1)に規定されているように、繰延税金資産の回収可能性は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号。以下「回収可能性適用指針」という)に従って判断することになる。 今回は、回収可能性適用指針の定義に関するポイントについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 回収可能性適用指針を理解するために 回収可能性適用指針の開発に際しては、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)及び「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(監査委員会報告第70号)などのうち会計処理に関する部分について、基本的にその内容を適用指針に引き継いだ上で、必要と考えられる見直しを行ったことが記載されている(回収可能性適用指針54項)。 このため、回収可能性適用指針を読む場合には、次の3つのことに注意するとその趣旨を理解しやすくなるものと思われる。 また、回収可能性適用指針の定義に関しては、回収可能性適用指針3項(1)から(5)については、税効果会計基準における定義をそのまま引き継ぐか又は個別税効果実務指針もしくは監査委員会報告第66 号における記載を踏襲している(回収可能性適用指針56項)。 このため、定義に関しては、特に、スケジューリングに関連する用語、一時差異等加減算前課税所得、課税所得がポイントになると考えられる。 Ⅲ 定義 回収可能性適用指針の定義のうち、特に次の用語に注意が必要である。 1 スケジューリング 繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二、二、1)。 このため、税効果会計においては、一時差異について税務上の益金又は損金の算入時期を検討する必要がある。 回収可能性適用指針は、次のように規定している(回収可能性適用指針3項(5)(6))。 2 一時差異等加減算前課税所得と課税所得 「一時差異等加減算前課税所得」と「課税所得」の定義は、次のとおりである(回収可能性適用指針3項(7)(9))。 これらの用語は、それを使用する場面の相違に注意する(回収可能性適用指針58項)。 また、回収可能性適用指針の「[設例1]一時差異等加減算前課税所得の算定方法」において、一時差異等加減算前課税所得の算定方法が例示されている。設例では、「課税所得」の見積額から「一時差異等加減算前課税所得」の見積額を算定するまでの調整の仕方を理解することがポイントになる。 (了)
社外取締役と〇〇マルマル 【第3回】 「社外取締役と独立役員」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 森田 多恵子 1 はじめに 社外取締役に関係が深い概念として、「独立役員」「独立社外取締役」との用語が用いられることがある。本稿では、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という)や上場規則における「独立役員」「独立社外取締役」に関する規定、「独立性」と機関投資家の議決権行使基準との関係について概説する。 2 CGコード CGコードは、「独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと」を取締役会の主要な役割・責務の1つとし(基本原則4、原則4-3)、上場会社は、「取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである」としている(原則4-6)。 この経営の監督と執行の分離を推進し、経営の監督における取締役会の独立性及び客観性を真に確保するためにも、経営陣から独立した社外取締役の活用を図ることが強く期待されており(※1)、CGコード原則4-7は、独立社外取締役の役割・責務について、以下のように規定している。 (※1) 油布志行ほか「『コーポレートガバナンス・コード原案』の解説〔Ⅳ・完〕」商事法務2065号47頁参照。 独立取締役の有効的な活用のために、CGコードは、「独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべき」(補充原則4-8①)、「例えば、互選により『筆頭独立社外取締役』を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべき」(補充原則4-8②)としているが、近時注目が集まっているのは、指名・報酬の検討における独立社外取締役の関与・助言(補充原則4-10①)である。 2018年のCGコード改訂に際しては、CEOをはじめとする経営陣幹部や取締役の指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たって、独立性・客観性ある手続を確立することが重要であるとの指摘を踏まえ、監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、任意の指名委員会・報酬委員会などの独立した諮問委員会を設置することが求められることとなった(補充原則4-10①)(※2)。 (※2) 田原泰雅ほか「コーポレートガバナンス・コードの改訂と『投資家と企業の対話ガイドライン』の解説」商事法務2171号10頁参照。 このような独立社外取締役は、経営陣からの独立性を有しているだけでなく、独立社外取締役に期待される役割・責務を果たせるだけの資質を兼ね備えていることが求められる(※3)。CGコード原則4-9は、取締役会は、「取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべき」であるとし、「金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである」としている。 (※3) 油布ほか・前掲(※1)49頁参照。 また、独立社外取締役が、単に1名だけではなく、複数名存在すれば、有益な意見形成がなされる可能性が高まる上、その意見を取締役会に反映することも格段に容易になるとの考え方(※4)から、原則4-8は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすことのできる資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとしている。 (※4) 油布ほか・前掲(※1)47頁参照。 近年、独立社外取締役を3分の1以上選任すべきとの意見や、3分の1以上の独立社外取締役を実際に選任する企業も増えてきている。2018年のCGコード改訂では、独立取締役の複数選任に加え、「業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社」は、「十分な人数」の独立社外取締役を選任すべきとされた。 3 上場規則 上場会社は、一般株主保護のため、独立役員を1名以上確保することが義務付けられている(※5)。「独立役員」とは、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役をいい、必ずしも社外取締役に限られないが、取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保することは上場会社の努力義務とされている(※6)。 (※5) 東京証券取引所有価証券上場規程436条の2。以下、上場規程の条文番号は、東京証券取引所有価証券上場規程の番号を指す。 (※6) 有価証券上場規程445条の4。 上場会社から取引所に提出される独立役員届出書は公衆縦覧に供される。また、独立役員の確保状況(社外役員のうち独立役員に指定されている人数や、属性情報等)は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載事項でもある。 取引所は、取引所が一般株主と利益相反の生じるおそれがあると判断する場合の判断要素(独立性基準)を定めているが、これは、全上場会社に適用されるミニマムスタンダードであり、独立性基準に抵触しない場合であっても、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがない」とは言えない場合は、独立役員の要件を満たさない(※7)。また、過去に上場会社又はその子会社の業務執行者であった者や、上場会社の取引先の出身者等については、属性情報の開示が求められている(※8)。 (※7) 東京証券取引所「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」(2020年2月改訂版)2~3頁参照。 (※8) 有価証券上場規程施行規則415条1項6号。 本年(2020年)2月には、上場子会社における独立した意思決定を確保し、少数株主の利益を保護する観点から、独立性基準が改定され、就任前10年以内に①上場会社の親会社の業務執行者又は業務執行者でない取締役、②上場会社の親会社の監査役(社外監査役を独立役員として指定する場合)、③上場会社の兄弟会社の業務執行者及び④①~③(重要でない者を除く)の近親者のいずれかに該当した場合は、独立役員の要件を満たさないものとされた。 4 議決権行使基準 多くの機関投資家が議決権行使基準を策定・公表しているが、社外取締役の選任議案では、独立性の有無が争点となることが多い。もっとも、独立性の基準は投資家によって様々である。国内では、金融商品取引所に独立役員として届出されているか否かにより独立性を判断する機関投資家が増えてきているが、大株主や取引先との関係等から総合的に判断するとの議決権行使基準を有する投資家もいる。近年パッシブ運用が拡大する中、多くの機関投資家が参照する議決権行使助言会社の推奨方針においても、独自の独立性基準が設けられている。 非独立とされた候補者の選任議案への反対、取締役会全体として一定割合の独立性が確保されない場合のトップへの反対、取締役候補者全員への反対など、独立性がないと判断された場合の効果も様々である。 たとえば、大手議決権行使助言会社であるISSは、監査役会設置会社の社外取締役は非独立であることのみを理由に反対はしないが、非独立の監査役には反対する、監査等委員会設置会社で非独立の監査等委員である社外取締役には反対する、親会社や支配株主を持つ会社では、株主総会後の取締役会に占める独立社外取締役が2名未満又は3分の1未満の場合には経営トップに反対する、など、機関設計や株主構成によっても求められる独立役員の数・割合は異なっている。 5 おわりに 日本版スチュワードシップ・コード及びCGコードの附属文書として、機関投資家と企業との対話において重点的に議論することが期待される事項をとりまとめた「投資家と企業の対話ガイドライン」では、「独立社外取締役として、適切な資質を有する者が、十分な人数選任されているか」(3-8)、「独立社外取締役は、自らの役割・責務を認識し、経営陣に対し、経営課題に対応した適切な助言・監督を行っているか」(3-9)との項目が設けられている。 独立性の見方には様々なものがあるが、企業価値の向上に資する独立取締役が選任され、活かされるように、企業と投資家との建設的な対話がなされることが期待される。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例48】 株式会社テイン 「(訂正)『公認会計士等の異動に関するお知らせ』の一部訂正に関するお知らせ」 (2020.6.1) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社テイン(以下、「テイン」という)が2020年6月1日に開示した「(訂正)『公認会計士等の異動に関するお知らせ』の一部訂正に関するお知らせ」である。同社が2020年5月28日に開示した「公認会計士等の異動に関するお知らせ」の一部を訂正するという内容である。 訂正したのは「6.異動の決定または異動に至った理由および経緯」であり、その訂正前の記載は次のとおりである。下線を付した箇所を訂正することになる。 2 どう訂正したのか? 訂正後の記載は次のとおりである。加筆修正された文字数はごく僅かだが、読み手の捉え方は、訂正前後で大きく異なるはずである。 訂正前の記載を読んだ方の多くは、「継続監査年数が長期に渡っていることを踏まえて、新たな視点での監査が必要と考えたのだな」と肯定的に捉えたはずである。しかし、訂正後の記載を読んで、捉え方は一変しただろう。「なんだ、継続監査年数が問題というより、監査報酬を上げると言われたからじゃないか」と否定的に捉えるようになったのではないだろうか。 3 なぜ訂正したのか? 結果として読み手から否定的な捉え方をされることになったかもしれないが、自社の事業規模を踏まえて、監査報酬が低い監査法人へと替えるのは、何ら悪いことではない。問題は、なぜこうした訂正が生じたのかである。「監査報酬の増額改定の提示を受けたこと」の記載が漏れてしまったのだろうか、それとも、それを意図的に記載しなかったのだろうか。 記載漏れだったとしたら、開示体制に重大な不備があることになる。「監査報酬の増額改定の提示を受けたこと」という、異動理由の核となる情報が開示資料作成者に伝えられないまま、記載漏れのある開示資料が作成され、それが、経営陣の確認を受けることなく、そのまま開示されてしまったのである。 「監査報酬の増額改定の提示を受けたこと」を意図的に記載しなかったのだとしたら、経営陣の資質に重大な問題があることになる。そうだとしたら、2020年5月28日に開示した「公認会計士等の異動に関するお知らせ」は虚偽開示である。理由はともかく、真実を隠すために、虚偽の開示を行ったことになる。 今回の開示に、訂正した理由に関する記載は一切ない。そこにも、この会社の開示に対する姿勢が表れている。 4 監査人が異動する本当の理由 テインが訂正したのは、監査人の異動に関する開示の中の異動理由である。以前であれば、そこには本当の理由が記載されず、「任期満了」と記載されて終わっていた。テインの開示であれば、第1段落の記載だけで済まされていたのである。 しかし、監査人の異動理由は、投資家にとって重要な情報であるため、昨年の1月、東京証券取引所が「会社情報適時開示ガイドブック」を改訂し、「公認会計士等が退任する実質的な理由及び経緯を記載する」こととされた。 そうして、監査人の異動に関する開示において、監査人が異動する(おそらく)本当の理由が記載されるようになった。しかし、テインのような事例は論外だが、本当の理由が分からない開示がまだ見受けられる。 次の記載は、株式会社レノバが2020年5月26日に開示した「会計監査人の異動に関するお知らせ」の「6.異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」だが、これを読んでも、本当の理由は分からない。 「上記3.の理由により」と記載されているが、その「3.2.(1)に記載する者を会計監査人の候補とした理由」の記載は、次のとおりである。ここに記載されているのは、「有限責任あずさ監査法人を会計監査人の候補者とした理由」であり、本当に必要なPwCあらた有限責任監査法人の退任理由は、全く記載されていない(読みようによっては、PwCあらた有限責任監査法人にIFRS対応能力がないと読めてしまうかもしれないが、そんなはずはないだろう)。 5 中にはこんな会社も もちろんこうした事例ばかりではない。ほとんどの開示では、理由が分かる記載がなされており、中には次のような事例もある。次の記載は、平和不動産株式会社が2020年5月15日に開示した「公認会計士等の異動に関するお知らせ」の「6.異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」である。 なお、この開示では、いわゆる準大手監査法人からいわゆる大手監査法人へと異動するとされている。大手監査法人から準大手監査法人や中小監査法人への異動は多いが、その逆はほとんどなく、稀な事例である。 (了)
《速報解説》 法務局における自筆証書遺言書保管制度、来週7月1日(水)から申請の予約受付開始 ~各種手続は原則として即日処理のため予約が必須~ Profession Journal編集部 7月10日から制度が開始される「法務局における自筆証書遺言書保管制度」については、既報のとおり本年3月には保管申請等に係る手数料を定めた政令も公表され制度開始を待つのみとなっているが、法務省は6月24日付で新たなページ(「予約について」)を公表、7月1日より申請等手続の予約を受け付けることが明らかとなった。 新制度では遺言書の保管申請の他、保管された遺言書の閲覧(モニター又は原本)や遺言書情報証明書(遺言者の相続人、受遺者等が、遺言者の死亡後に交付を受けられる遺言書の写し)の交付請求などができるが、各種登記等の手続と異なり原則として即日処理となるため(書類の不備等の場合を除く)、これらすべての手続について予約が必要とされている。 予約の方法は、専用ホームページでの予約(24時間365日受付可)か、遺言書保管所(法務局)への電話又は窓口での受付(平日8:30~17:15まで(土・日・祝日・年末年始を除く))となる。 (※) 予約専用HPについて、URL(https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/)は公表されているものの、本稿公開時点で閲覧はできない。 なお、遺言書保管所には管轄があるため、各種手続の予約の際は手続を行う遺言書保管所(法務局)を決める必要がある。「保管の申請」は遺言者の住所地、本籍地又は所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に対して行うこととされているが、「モニターによる遺言書の閲覧」はすべての遺言書保管所で可能など手続によって選択可能な場所が異なるため注意が必要だ(「全国の法務局(遺言書保管所)一覧」)。 その他、法務省ホームページでは予約に関する注意事項として、予約は手続を行う本人が行うこととしているほか、下記の点が示されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和元年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2020(令和2)年6月17日、「令和元年10月から令和元年12月までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、国税通則法が4件のほか、所得税法及び相続税法が各1件の、合わせて6件となっており、最近の公表裁決事例としてはかなり少ない件数となっている。 今回の公表裁決では、6件すべてが、国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消されている。 【表:公表裁決事例令和元年10月~12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、原処分庁が重加算税の賦課決定処分を行い、国税不服審判所がその処分を取り消す判断を示した裁決4件について、 における、それぞれの判断のポイントを中心に紹介したい。 なお、複数の争点がある裁決についても、その一部を割愛して、重加算税の賦課決定処分の可否に争点を絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておきたい。 1 相続財産の一部について、相続人が存在を認識しながら申告しなかった事例・・・① 本件は、審査請求人の母が、原処分庁による調査の結果に基づいて、請求人の亡兄の相続に係る相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、申告漏れ相続財産のうち、母が関与税理士に伝えなかった預金については、母がこれを隠蔽し、相続財産として申告しなかったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、母は当該預金を隠蔽したものではないなどとして、母の死亡に伴い納税義務を承継した請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 預金の申告漏れについて、請求人の母に、国税通則法第68条第1項に規定する事実の隠蔽又は仮装の行為があったか否か。 (2) 原処分庁による主張 請求人の母は、平成27年5月15日に、H銀行〇〇支店において請求人の亡兄名義の預金を解約して同支店の同人名義の口座に預け入れ、相続の開始日において預金があることを知っていたにもかかわらず、税理士に預金の存在を伝えることなく、相続税の申告において本件預金を被相続人の相続財産に含めなかった。このことは、通則法第68条第1項に規定する事実の隠蔽、又は仮装したところに基づいて故意に脱漏したと評価することができる。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、原処分庁の主張の根拠である、税理士の申述内容からは、請求人の母が、本件預金の存在を過失により伝えなかったのか、意図的に伝えなかったのかということまでは判別できず、あえて本件預金の存在を伝えなかったという意図まで読み取ることは到底できないと判断して、当初から相続財産を過少に申告する意図を有し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたうえ、その意図に基づく過少申告をしたものと認めることはできないと結論づけ、重加算税の賦課決定処分を取り消す旨の裁決を行った。 2 従業員が行った金員の詐取を目的とした仮装行為の事例・・・② 本件は、建物の総合管理の請負を目的とする法人である審査請求人が、損金の額に算入した外注費のうち、下請業者への工事発注業務等を担当していた請求人の従業員が親族名義の口座に振り込ませた金員について、原処分庁が、架空外注費であり、従業員による行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当するとして、法人税、地方法人税及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、従業員による行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当しないことなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 (2) 原処分庁による主張 原処分庁は、法人の従業員による課税標準等の隠蔽又は仮装行為については、従業員の業務に関連する行為は、法人の活動領域内の行為として自己の行為の一部分とみることができるから、従業員の行為が納税者の行為と同視できないといえるような特段の事情がない限り、原則として、当該法人は適正な申告をすべき義務を自ら怠ったものとみて、重加算税の適用対象となるというべきであると主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、法人の従業員など納税者以外の者が隠蔽又は仮装する行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、納税者本人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当であるとして、原処分庁の主張を認めたものの、従業員の行為を納税者本人の行為と同視できるか否かについては、①その従業員の地位・権限、②その従業員の行為態様、③その従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断するのが相当であるとして、従業員の行為をすべて同視できるものではないと判示した。 そのうえで、本件行為は、請求人の業務の一環として行われたものではなく、従業員が私的費用を請求人から詐取するために独断で行ったものと認められること、従業員は、請求人の経営に参画することや、経理業務に関与することのない一使用人であったと認められることなどその他の事情も含めて総合考慮すれば、本件行為は通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するものの、従業員による本件行為を納税者たる請求人の行為と同視することはできないことから、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるとは認められないと結論づけ、重加算税の賦課決定処分を取り消す旨の裁決を行った。 3 法定申告期限までに申告書の提出が必要であったことを認識しながら、申告をしなかった事例・・・③ 本件は、農場、山林及び果樹園の経営等を目的とする有限会社である審査請求人が、法人税等の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁が、請求人が所有する山林の売却により生じた所得に係る法人税等の決定処分等をしたのに対し、請求人が、原処分において損金の額として認められた費用等とは別に損金の額に算入されるべきものがあるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 (2) 原処分庁による主張 原処分庁は、以下の事実から、請求人は、本件事業年度の法人税等について、申告すべき所得金額及び納付すべき税額が生ずることを明確に認識していながら、確定的な意思に基づいて無申告を貫いたものと認められ、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められることから、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったことは、通則法第68条第2項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当すると主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人代表者について、調査担当職員が、平成29年3月14日、自宅に臨場した際には、売買契約書及び預金口座に係る通帳を提示し、契約に係る売買代金の決済方法等について説明しており、また、請求人は、本件事業年度の法人税等の調査当初から、事業に関連する支出の存在を主張し、さらに、再調査審理庁及び当審判所に対し、支出に関する証拠書類を提出したことからすると、その支出が、法人税法第22条第3項各号の規定により本件事業年度の損金の額に算入することができるか否かは別として、請求人は本件譲渡による所得が生じていないと認識していた可能性も否定できないことから、原処分庁による調査への協力要請に応じなかったことをもって明確な無申告の意図に基づく行為であったと評価することはできないと判断した。 そのうえで、請求人は、本件事業年度の法人税等について、法定申告期限までに確定申告書の提出が必要であったことを認識しながら、これをしなかったことは認められるものの、無申告行為そのものとは別に、請求人が、当初から法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとはいい難いと結論づけ、重加算税の賦課決定処分を取り消す旨の裁決を行った。 4 法定申告期限までに相続税の申告をしなかった事例・・・④ 本件は、審査請求人が、原処分庁の職員による調査を受けて相続税に係る期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人が法定申告期限までに相続税に係る申告書を提出していなかったことにつき、国税通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該賦課要件を満たさないとして、当該賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 本件申告期限までに本件相続税に係る申告書を提出しなかったことにつき、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、平成29年5月10日付で、請求人に対して発送した「相続税の申告等についての御案内」と題する文書及び「相続についてのお尋ね」と題する文書(以下「お尋ね文書」という)について、請求人は、相続税の申告をしなければいけないと認識しており、提出前に、税理士無料相談会において、記載すべき内容等の説明を受けたはずであるにもかかわらず、請求人取得財産及び本件姉取得財産を記載しなかったことが認められるとしたうえで、お尋ね文書は、課税庁が調査の要否等の判断の資料とするために、対象となる納税者に任意の提出を求めるものであり、納税者がそれに虚偽の内容を記載した場合には、課税庁の当該判断を誤らせるおそれがあるから、納税者が本件お尋ね文書に意図的に虚偽の記載をしてこれを提出した場合には、通則法第68条第2項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったといえると主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、お尋ね文書について、次のように判示した。 そのうえで、請求人は、申告期限前、姉に対して、自ら相続税を申告する意思を示していたと認められること、調査の初日に、調査担当職員に対し、請求人及び姉が相続により取得した財産を記載した一覧表を提出していること、その後の調査の結果、相続財産一覧表に記載された財産以外に、請求人及び本件姉が本件相続により取得した財産は確認されなかったなど、請求人が当初から本件相続税を申告しない意図があり、かつ、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとされる事情は見当たらないことから、請求人が、当初から相続税を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたうえ、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったような場合に該当するとはいえないと結論づけ、重加算税の賦課決定処分を取り消す旨の裁決を行った。 (了)
2020年6月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.374を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第80回】 「連結納税制度適用会社のグループ通算制度への移行」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 令和4年4月1日から連結納税制度からグループ通算制度に衣替えされるが、それまで連結納税制度を適用していたグループについては、グループ通算制度への移行について経過措置が設けられている。 〇連結納税制度を適用している場合のグループ通算制度の承認申請 内国法人及びその内国法人との間にその内国法人による完全支配関係がある他の内国法人が、グループ通算制度の適用に係る承認(「通算承認」という)を受けようとする場合には、適用を受けようとする最初の事業年度の開始の日の3月前までに、これらの全ての連名による承認申請書をその内国法人の納税地の所轄税務署長を経由して、国税庁長官に提出する必要がある(法法64の9②)。 しかし、すでに連結納税制度の承認を受けている法人(令和4年3月31日において連結親法人に該当する内国法人、及び同日の属する連結親法人事業年度終了の日において当該内国法人との間に連結完全支配関係がある連結子法人)については、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度の開始の日において、グループ通算制度の適用に係る承認(通算承認)があったものとみなされ、同日からその効力が生じる(改正法附則(※)29①)。また、その法人が青色申告の承認を受けていない場合には、同日において青色申告の承認があったものとみなされる(法法125②)。 (※) 改正法附則:所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)附則(以下、同様)。 したがって、これまで連結納税制度を適用している場合には、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度において、自動的に、グループ通算制度に移行することとなる。例えば、連結親法人事業年度が3月決算の場合には、令和4年4月1日に開始する事業年度からグループ通算制度に移行し、12月決算の場合には、令和5年1月1日に開始する事業年度からグループ通算制度に移行することとなる。 ただし、現行の連結納税制度を適用している企業グループが、グループ通算制度を適用しない単体納税法人に戻りたい場合には、連結親法人が令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに、税務署長に届出書(取りやめ届出書)を提出することにより、グループ通算制度を適用しない単体納税法人となることができる(改正法附則29②)。 〇連結納税制度における連結欠損金の取扱い 連結納税制度における連結欠損金個別帰属額は、各法人の欠損金額とみなされる(改正法附則20①)。この欠損金額は、グループ通算制度における各通算法人の繰越控除の対象となり、そのうち連結納税制度における特定連結欠損金個別帰属額は、グループ通算制度における特定欠損金額(その法人の所得の金額を限度として控除ができる欠損金額(法法64の7②))とみなされる(改正法附則28③)。 したがって、連結納税制度の開始から年数があまり経過していない場合、連結親法人の連結納税制度適用開始前の欠損金額が、グループ通算制度適用開始時(令和4年4月1日以後に開始する事業年度開始の日)において、なお繰越期限内で存在している場合が生じることが考えられるが、この場合、この連結親法人の連結納税制度適用開始前の欠損金額は、特定連結欠損金個別帰属額ではない連結欠損金個別帰属額なので、グループ通算制度へ移行後、当該親法人の特定欠損金額ではない欠損金額として、グループ全体で消化することができると解される。 〇確定申告書の提出期限の延長 グループ通算制度の承認があったものとみなされた法人で、すでに連結親法人が申告期限延長(現行法法81の24①)の適用を受けている場合には、その通算グループ内のすべての法人につき、延長特例の適用及び延長期間の指定を受けたものとみなされる(改正法附則34①②)。 〇グループ通算制度への移行の際の時価評価課税・欠損金の持込制限等 グループ通算制度の承認があったものとみなされた法人については、①グループ通算制度の開始に伴う資産の時価評価課税(法法64の11①②)、②グループ通算制度の開始前に生じた欠損金額及び資産の含み損の制限等(法法57⑧、64の6①、64の7②、64の14)、③繰り延べた譲渡損益調整額の一括計上(法法61の11④)、④繰り延べたリース譲渡に係る損益の一括計上(法法63④)、の規定の適用はない(改正法附則20⑪、25③、26③、27①、28③、30②④、31①)。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第1回】 「〔第1表の1〕第二順位の株主判定」 税理士 柴田 健次 Q 同族関係者でない甲と乙が下記の通り、A社株式(大会社に該当)とB社株式(大会社に該当)を所有している場合において、乙に相続が発生した場合には、乙が保有しているA社株式、B社株式についての評価方式は原則的評価方式(類似業種比準価額)が適用されるのでしょうか。それとも特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるのでしょうか。 【A社及びB社の株主と議決権の保有割合】 なお、その他の株主はA社及びB社の取引先ですが、甲及び乙の同族関係者には該当しません。 甲はA社及びB社の代表取締役です。 乙はA社及びB社の役員でしたが、相続発生の約5年前に退職し、同時に役員も退任しています。また、乙の相続人は長男1人で、A社及びB社の役員には該当していません。 A 乙の相続人は、A社株式については特例的評価方式(配当還元価額等)、B社株式については原則的評価方式(類似業種比準価額)の適用になります。 同じ40%の議決権保有割合であったとしても、他の株主の議決権保有割合によって評価方式が異なることになりますので、次の株主判定の手順を踏まえて、株主の判定を行うことが重要となります。 【同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◆ ◆ ◆ ① 筆頭株主グループの議決権割合 株主を確認し、同族関係者グループの議決権割合を算定し、筆頭株主グループの議決権割合が「50%超」「30%以上50%以下」「30%未満」のどれに該当するかを判定します。 ◇A社株式 筆頭株主グループの議決権割合は55%となり、「50%超」の区分に該当することになります。 ◇B社株式 筆頭株主グループの議決権割合は45%となり、「30%以上50%以下」の区分に該当することになります。 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。 本問の場合には、A社については甲が同族株主となり、B社については甲及び乙が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。本問の場合には、甲の親族がいる場合には、その親族が甲の同族関係者になります。特殊の関係のある法人は、例えば、甲及びその親族が直接又は間接に会社を支配(議決権の50%超保有)している場合におけるその会社が該当します。 本問の場合には、A社株式及びB社株式を保有している甲及び乙の同族関係者はいないことになります。 ② 納税義務者の属する同族関係者グループの議決権割合 ◇A社株式 乙の相続人の属する同族関係者グループの議決権割合は40%となり、「50%未満」の区分に該当しますので、特例的評価方式である配当還元価額が適用されることになります。 ◇B社株式 乙の相続人の属する同族関係者グループの議決権割合は40%となり、「30%以上」の区分に該当しますので、③の手順に進みます。 ③ 納税義務者の議決権割合 ◇B社株式 乙の相続人の議決権割合は40%となり、「5%以上」の区分に該当しますので、原則的評価方式が適用されることになります。 ☆実務上のポイント☆ 株主に相続が発生した場合に原則的評価方式が適用されるのか、特例的評価方式が適用されるのかは、確認しておく必要があります。本問の場合には、事前に5%超の議決権に相当するB社株式を乙から甲に譲渡することにより、乙の相続人はB社の株式についても配当還元価額での評価が可能となります。 特に退職して株主がそのままになっているケースは少なくありませんので、事前対策が重要となります。 (了)
居住用賃貸建物の取得等に係る 消費税の仕入税額控除制度の適正化 -令和2年度税制改正- 【第2回】 「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」 税理士 石川 幸恵 前回は改正の背景と改正前の取扱いについて確認したが、今回より令和2年度税制改正における居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限について「居住用賃貸建物の範囲」や「仕入れ等の日の属する課税期間における取扱い」等を解説する。 1 改正内容と用語の定義 (1) 改正のポイント 今回の改正により、以下の通り消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に第10項が新設された。 すわなち、仕入れに係る消費税額の控除(消法30①)の規定は、事業者が国内において行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しないこととされる(消法30⑩)。 (2) 適用時期と経過措置 (1)の改正は、令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額について適用する(R2所法等附1一イ)。 ただし経過措置として、令和2年3月31日にまでに締結した契約に基づき、令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入れ等については、適用されない(R2所法等附44)。 (3) 用語の意義 ① 居住用賃貸建物とは 本改正の対象となる「居住用賃貸建物」とは、事業者が国内において行う住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物(附属設備を含む)で、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するものをいう(消法30⑩)。 ② 住宅の貸付けの用とは ①における「住宅の貸付けの用」とは、別表第一第13号に掲げるものである。 今回の法改正により、別表第一第13号についても改正があり、下記のとおり「契約のみによる判定」から「状況等による判定」に変わった。 なお、上記別表第一の改正は、令和2年4月1日以後に行われる住宅の貸付けからすでに適用されているので、注意されたい(R2所法等附46)。 改正後の貸付けの用の範囲についてまとめると、下図のとおりである。 〈非課税となる住宅の貸付けの範囲〉 ③ 高額特定資産とは ①における「高額特定資産」とは、棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、一の取引単位の課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円以上のものをいう(消法12の4①、消令25の5①)。 ④ 調整対象自己建設高額資産とは ①における「調整対象自己建設高額資産」とは、他の者との契約に基づき、又は事業者の棚卸資産として自ら建設等をした棚卸資産で、建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額(税抜き)等の累計額が1,000万円以上となったものをいう(消法12の4②、消令25の5③)。 事業者が相続、合併又は分割により事業を承継した場合において、被相続人、被合併法人又は分割法人が自ら建設等をした棚卸資産を含む。 2 経理処理 (1) 控除対象外消費税額等 控除対象外消費税額等は、税抜経理方式を採用している場合において、課税期間中の課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満であるときに、課税仕入れ等の全額控除ができないために発生するものである。 今回の改正で、居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額は、課税売上高や課税売上割合に関わらず控除できなくなるため、控除対象外消費税額等となる。 (2) 控除対象外消費税額等の取扱い (※) 居住用賃貸建物が高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に限定されていることから、(ハ)のように一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満となることは考えづらい。 3 居住用賃貸建物の建設工事が2期以上にわたる場合の工事期間中の取扱い (1) 居住用賃貸建物が自己建設高額特定資産である場合 仕入税額控除の制限の規定は、建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額の累計額が1,000万円以上となった課税期間以後の居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額についてのみ適用される(消令50の2②)。 ここでTAINS(タインズ)に収録されている「消事例4063 第10 仕入税額控除 10-224 調整対象固定資産の範囲 消費税審理事例検索システム(平成12年)国税庁消費税課」(「消費事例004063」で検索)では、次のように2期にわたる工事を取り上げており、改正前の取扱いについて解説されている。 (2) 改正後の取扱い ① 建築中におけるそれぞれの課税期間での取扱い (イ) 前期 基礎部分の課税仕入れについては、仕入税額控除できる(消基通11-7-4)。 居住用賃貸事業用であれば、比例配分法により仕入控除税額が計算されるか、個別対応方式によりその資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入控除税額がないものと計算される。 (ロ) 当期 建物部分の課税仕入れについては、仕入税額控除が制限される(消法30⑩)。 ② 完成の翌課税期間以後に課税賃貸用に供した場合又は譲渡した場合(詳細は次回解説) (イ) 居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整(消法35の2)の適用 建物部分には適用があり、基礎部分についてはない(消令53の4②)。 (ロ) 基礎部分に対する非課税業務用調整対象固定資産を課税業務用へ転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整(消法34)の適用 基礎部分が調整対象固定資産として取り扱われることは、上記TAINS収録資料にも述べられており、改正によって取扱いが変わることはないと考えられる。 (ⅰ) 課税賃貸用に供した場合 取得時に個別対応方式によりその資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入控除税額がないものとして計算されていれば、転用の調整の適用はあると考えられる。 (ⅱ) 譲渡した場合 転用の調整はない(前回参照)。 (了)
オープンイノベーション促進税制の制度解説 【第2回】 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 6 経理要件 当該事業年度の確定した決算において各特別新事業開拓事業者別に特別勘定を設ける方法により経理することが必要となる。なお、当該事業年度の決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法も認められる。 〔損金経理による場合〕 〔剰余金の処分による場合〕 (申告減算処理が必要) 7 申告要件 確定申告書等に損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書その他一定の書類の添付(下記参照)がある場合に限り、損金算入が認められる(措法66の13⑬、措規22の13⑩)。 ➤「国内外における経営資源活用の共同化に関する調査に関する経済産業大臣の証明書」 経営資源活用共同化推進事業者は、以下の3点を満たすことについて、経済産業大臣の証明を受けることができ(共同化省令4①)、当該書類を確定申告書等に添付する。 8 組織再編成との関係 (1) 合併、分割、現物出資 適格合併又は適格分割等(適格分割又は適格現物出資)を行った場合には、次の①②に掲げる適格合併又は適格分割等の区分に応じ、それぞれ①②に定める特別勘定の金額は、当該適格合併又は適格分割等に係る合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人に引き継ぐものとされる(措法66の13②)。 上記の規定の適用を受けるためには、特別勘定を設けている法人で適格分割等を行ったものにあっては、当該特別勘定を設けている法人が当該適格分割等の日以後2月以内に分割承継法人又は被現物出資法人に引き継ぐ特別勘定の金額その他の一定の事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に提出することが必要である(措法66の13③)。 そして、上記により合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人が引継ぎを受けた特別勘定の金額は、当該合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人が設けている特別勘定の金額とみなされる(措法66の13④)。 なお、合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人がその適格合併又は適格分割等の日を含む事業年度の確定申告書等を青色申告書により提出することができる者でないときは、当該事業年度の終了の日における特別勘定の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入される(措法66の13⑤)。 特定株式の全部又は一部を有しないこととなった場合あるいは合併により合併法人に特定株式を移転した場合には、9(次回参照)に記載の通り、益金算入されるところ、適格合併、適格分割及び適格現物出資により特定株式が移転する場合には、例外的に益金算入されることなく、合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人に引き継がれる(措法66の13⑪)。 (2) 株式交換、株式移転 特別勘定を設けている法人が、自己を株式交換等完全子法人又は株式移転完全子法人とする非適格株式交換等を行った場合において、当該非適格株式交換等の直前の時に特別勘定の金額(1,000万円未満のものを除く)を有しているときは、当該特別勘定の金額は、当該非適格株式交換等の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入される(措法66の13⑨)。 非適格株式交換等が行われた場合、株式交換等完全子法人又は株式移転完全子法人においては、一定の資産について時価評価が行われ、含み損益に対して課税が行われる(法法62の9①)。そこで時価評価が行われる法人において特別勘定の金額を有しているときは、益金の額に算入されることとされた。 (了)