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基礎から身につく組織再編税制 【第15回】「非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第15回】 「非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いについて解説します。   1 資産負債の譲渡損益 (1) 原則 被合併法人が合併により合併法人にその有する資産等の移転をしたときは、合併時の時価による譲渡をしたものとします。譲渡損益は、被合併法人の最後事業年度の損金又は益金の額になります(法法62①②)。 (2) 完全支配関係がある法人間で非適格合併が行われた場合 ① 内容 グループ法人税制の適用により、完全支配関係がある法人間で非適格合併が行われた場合には、譲渡損益調整資産(②参照)に係る譲渡損益が繰り延べられ、譲渡損益調整資産については簿価で移転したのと同様の結果となります(法法61の13①)。譲渡損益調整資産以外の資産については、原則通り、譲渡損益を認識します。 ② 譲渡損益調整資産 「譲渡損益調整資産」とは固定資産、棚卸資産である土地等、有価証券(売買目的有価証券を除きます)、金銭債権、繰延資産のうち、直前の帳簿価額が1,000万円以上の資産をいいます。   2 みなし事業年度 被合併法人の事業年度の中途で合併が行われた場合には、その事業年度開始の日から合併の日の前日までの期間を1事業年度とみなします(法法14①二)。このみなし事業年度が被合併法人の最後事業年度となります。「合併の日」とは、合併契約で効力が生じる日として定めた日をいい、新設合併の場合には、設立登記の日をいいます(法基通1-2-4、法基通1-4-1)。   3 申告納付手続き 被合併法人は合併により消滅するため、最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行うこととなります(通法6、地法9の3、消法59)。   4 最後事業年度の所得計算、税額計算上の留意点 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。被合併法人が最後事業年度終了時に有する減価償却資産、繰延資産については、通常通り損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金になります。ただし、最後事業年度が1年に満たない場合には、月数按分処理が必要になるため、留意が必要です。   5 被合併法人の役員、使用人に対する退職給与 一般に、役員に対して支給する退職給与は、株主総会等で金額が具体的に確定した日又は退職給与を支給した日の属する事業年度の損金になるとされています(法基通9-2-28)。 合併に伴い退職した被合併法人の役員に対して退職給与を支給する場合に、合併承認総会等において金額が確定されていないときは、被合併法人が退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、最後事業年度において未払金として損金経理してもよいとされています(法基通9-2-33)。 この取扱いは、被合併法人の役員であると同時に合併法人の役員を兼ねている者又は被合併法人の役員から合併法人の役員となった者に対し、合併により支給する退職給与についても適用されます(法基通9-2-34)。 合併により退職した被合併法人の使用人に対して退職給与を支給する場合には、退職給与規定等で退職給与を支給する旨及びその金額が定められているときは、最後事業年度において未払金として処理しても債務として確定しているため、損金の額に算入されます。   6 欠損金の繰戻し還付 非適格合併の場合、被合併法人の最後事業年度に生じた欠損金額又は合併の日前1年以内に終了した事業年度において生じた欠損金額があるときは、合併の日以後1年以内に欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求ができます(法法80①④)。   7 資産調整勘定、負債調整勘定 非適格合併の場合には、資産調整勘定の残高は、被合併法人の最後事業年度の損金の額に算入し、負債調整勘定の残高は、被合併法人の最後事業年度の益金の額に算入することとなります(法法62の8④⑦)。   8 繰延資産、一括償却資産 非適格合併の場合には、繰延資産、一括償却資産の残高は、被合併法人の最後事業年度の損金の額に算入することとなります(法令133の2④、法基通8-3-6)。   9 事業税 被合併法人の最後事業年度の事業税は、被合併法人では損金にすることができず、合併法人において、その金額が確定した年度に損金算入されます。   10 最後事業年度の法人税申告書の添付書類 最後事業年度の法人税申告書には、貸借対照表、損益計算書等の他に合併契約書の写し、組織再編成に係る主要な事項の明細書(適格組織再編成に該当するかの判定に必要な情報、移転資産負債の明細を記載するもの)を添付する必要があります。   11 具体例 (被合併法人の合併時の貸借対照表) 〔前提〕 〔被合併法人の移転税務仕訳〕   ◆非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いのポイント◆ 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。 最後事業年度が1年に満たない場合には、減価償却、繰延資産など月数按分処理が必要になります。 非適格合併により被合併法人が解散した場合には、欠損金の繰戻し還付を適用できます。 最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行い、法人税の申告書の添付書類には合併契約書の写し等が必要になります。   (了)

#No. 365(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/04/16

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~【第1回】「販売価格の最低ラインを知る」~「自分にごほうび」の値段~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第1回】 「販売価格の最低ラインを知る」 ~「自分にごほうび」の値段~   公認会計士 石王丸 香菜子   ◇◆◇はじめに◇◆◇ 我が家で食べ慣れているお菓子。最後の1つをめぐり、きょうだいゲンカが始まります。「半分ずつにしなさい!」「だって9個入りだから半分にできないもん!」「えっ?前は10個入りだったのに・・・。実質値上げかぁ。」 近頃は「値上げ」が話題になることが多いですね。値上げは、消費者の立場からすると痛手ですが、企業の立場からすると利益確保の重要な鍵を握ります。近年における人件費・物流費の高騰や増税などを考慮すると、費用削減による利益確保は難しいため、価格設定の在り方や値上げの方針が企業の業績を大きく左右すると言えるでしょう。 本連載では、値上げが企業の利益に与える影響や、正しい価格設定の在り方などを、管理会計の視点からやさしく解説します。PNガーデン社のメンバーと一緒に、値上げの「理屈」を探っていきましょう。 *  *  * 登場人物 *  *  * 「消費者は価格を左から読む」と言われることがあります。 「端数価格」と呼ばれるもので、スーパーなどの小売業界でよく見かける価格設定です。298円と300円の差はごくわずかなのですが、一番大きな桁が違うので、298円のほうが割安な印象を与えて、購入してもらいやすいのですね。ただし、格安ブーケに対するリミちゃんの反応のように、品物によっては安物感が漂ってしまうこともあるようです。 「商品の販売価格をいくらに設定するか?」・・・これは、多くの会社が頭を悩ませる課題です。販売価格を設定する際には、まず、販売価格の最低ラインを明確にしておく必要がありますが、これが意外にも難しいものです。 *  *  * *  *  * ハナダ店長は、ブーケに直接紐づけるコストとして、花の仕入原価250円のみを考えています。そして、販売価格(298円)から仕入原価(250円)を差し引くと粗利(48円)が生じることをもって、「ブーケ販売による利益が出ている」と考えているようです。この考え方は、売上から売上原価を差し引いて売上総利益を算定するという決算書(損益計算書)と同じ方式で、〈財務会計的な発想〉と言えます。 〈財務会計的な発想〉 〈財務会計的な発想〉をすると、販売価格から仕入原価を差し引いた粗利がプラスの状態であるなら、販売量を伸ばせば最終的な利益(営業利益)も増えるように思えます。 しかし、リミちゃんが指摘したように、ブーケを販売するためには、花の仕入原価以外にも、包装費や家賃、給料など、様々なコストがかかっています。仕入原価以外の様々なコストは、財務会計の損益計算書では「販売費及び一般管理費」に集められているのが通常です。そのため、販売する商品に直接紐づけて考えにくい傾向にあります。 そこで、リミちゃんとハナダ店長は、財務会計上の「売上原価」「販売費及び一般管理費」のどちらに該当するかではなく、販売量とどのような関係にあるかに着目して、コストを分類し直してみることにしました。 *  *  * *  *  * 管理会計では、販売量に比例して発生するコストを「変動費」、常に一定額が生じるコストを「固定費」と呼びます。 販売価格の最低ラインを把握する際には、財務会計上の売上原価ではなく、管理会計上の変動費全てを、商品に直接紐づけるコストとして認識する必要があります。 2人がコストを分類したところ、花の仕入原価の他に、ブーケ1束につき包装費や消耗品費などの変動費が60円かかることがわかりました。ブーケ1束当たりの変動費合計は、花の仕入原価250円+包装費など60円=310円です。販売価格は298円ですので、ブーケ1束を販売するごとに12円の損失になっています。 〈管理会計的な発想〉 *  *  * *  *  * 販売価格から変動費を差し引いた残りは、管理会計上「限界利益」と呼ばれます。限界利益がマイナスになってしまう販売価格に設定してしまうと、「売れば売るほど損失が出る」状態になります。つまり、商品の販売価格は最低でも変動費を上回っている必要があるのです。 ごく当たり前のことなのですが、決算書に散らばるコストが変動費か固定費かを明確に把握しないまま、値下げ競争に巻き込まれて販売価格を引き下げ、売上を伸ばすことだけに注力していると、このような基本を見落とすおそれがあります。商品の販売価格の最低ラインは、限界利益がプラスになる価格であることを意識することが大切です。 *  *  * (了)

#No. 365(掲載号)
#石王丸 香菜子
2020/04/16

2020年3月期決算における会計処理の留意事項~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~ 【後編】

2020年3月期決算における会計処理の留意事項 ~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~ 【後編】   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   【前編】公開以降の公表情報について 本連載【前編】の公開後にも、以下のとおり、金融庁、日本取引所等から様々な情報が公表されている。 1 金融庁 (1) 有価証券報告書等の提出について 2020年4月14日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」が公表された。内容は、以下のとおりである。 (※)四半期報告書、半期報告書及び親会社等状況報告書も含む。 例えば、以下のとおりとなる。 なお、正式な改正は、内閣府令の改正(本稿公開時点で未公布)で確認されたい。 (2) 株主総会について 2020年4月15日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」が公表された。内容は、以下のとおりである。 計算書類、監査報告等の提供を、決算日から3ヵ月より後に行う方法については、基準日を変更し、株主総会の開催日を延期する方法と継続会にする方法が考えられる。その際の留意点として、例えば以下が挙げられる。 実務上、他にも検討しなければいけない事項が発生する可能性があるため、顧問弁護士等に相談しながら、検討していただきたい。   2 日本取引所グループ 2020年4月14日に日本取引所グループより、「「有価証券報告書等の提出期限の延長」に伴う決算発表日程の再検討のお願い」が公表された。内容は、以下のとおりである。 有価証券報告書及び計算書類の提出の延期にあわせて、短信発表についても延期が必要かどかを検討する必要がある。   3 日本公認会計士協会 (1) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」 2020年4月10日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表された。会計上の見積の監査にあたっての留意事項がまとめられている。概要は、以下のとおりである。 会社は、できるだけ内部及び外部情報を入手し、その情報に基づき仮定を設定した上で、(悲観的でも楽観的でもない)事業計画を作成することが重要である。また、その作成過程をしっかりと監査人に説明することが重要である。 (2) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」 2020年4月15日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」が公表された。上記1(1)及び(2)に関連して、日本公認会計士協会からアナウンスが行われている。具体的な内容は、上記1(1)及び(2)と同様である。 なお、計算書類及び有価証券報告書の提出が伸びることで、後発事象(本稿【後編】Ⅱ(10)参照)の検討期間も伸びることになる。そのため、後発事象の検討についても、監査人と十分に協議することが重要である。   4 国税庁 2020年4月8日に国税庁より、「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表された。また、2020年4月13日に「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の更新版が公表された。 【前編】Ⅰ1から更新されたもののうち、特に重要であると考えられるものは、以下のとおりである。 (1) 法人の申告・納付の期限の個別延長 新型コロナウイルス感染症の影響により、法人がその期限までに申告・納付ができないやむを得ない理由がある場合には、申請により期限の個別延長(※)が認められる。 (※)法人税、消費税、源泉所得税に係る各種申請や届出なども同様である。 【やむを得ない理由】 やむを得ない理由には、例えば、法人の役員や従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染したようなケースだけでなく(【前編】1(2)参照)、次のような方々がいることにより通常の業務体制が維持できない、事業活動を縮小せざるを得ない、取引先や関係会社においても感染症による影響が生じているなどにより決算作業が間に合わず、期限までに申告が困難なケースなども該当する。 また、上記以外の理由であっても、感染症の影響を受けて申告・納付期限までに申告・納付が困難な場合には、個別に申告・納付期限の延長が認められる。 (2) 申告・納付期限 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告・納付することが困難な法人は、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内の日を指定して申告・納付期限が延長される。つまり、申告書等を作成・提出することが可能となった時点で申告を行うことになる。 (3) 個別延長の手続 別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記する。 このため、当初の申告期限以降に、申告書を提出する際には、新型コロナウイルス感染症の影響による申告期限及び納付期限を延長する旨を申告書(手書の場合)や送付書(電子申告の場合)に記載し、提出する。源泉所得税においては、納付を行う際に所得税徴収高計算書の「摘要」欄に「新型コロナウイルスによる納付期限延長申請」 である旨を付記する。 (4) 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額 新型コロナウイルス感染症により、以下のような状況(例示)のため、役員給与を減額した場合、「業績悪化改定事由による改定」に該当する。したがって、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入することができる。   Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項   新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項としては、以下が挙げられる。 (1) 上場有価証券の評価 新型コロナウイルス感染症が広まった3月以降、株価が下落傾向にある。そのため、会社で保有している上場有価証券について、減損の検討が必要になる場合も多いと考えられる。 (※) 回復可能性がある場合とは、時価の下落が一時的なもので、期末日後、概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みのある場合をいうが、これを立証することは、通常難しいと考えられる。 【会計処理】 (2) 関係会社株式の評価 新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社(子会社及び関連会社)の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。この場合、関係会社株式の評価を慎重に検討する必要がある。非上場の関係会社株式の評価における具体的な検討は、以下のとおりである。なお、上場の関係会社株式の評価は、上記(1)のとおりである。 ① 株式の評価 関係会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく低下(下記②参照)した場合は、減損処理する。 【会計処理】 ただし、実質価額について、関係会社の事業計画等をもとに回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理は不要である。 事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初の事業計画等において、開業当初の累積損失が5年を超えた期間経過後に解消されることが合理的に見込まれる場合を除き、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行う。 したがって、回復可能性を監査人に説明する際には、基本的に5ヶ年の実行可能で合理的な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのか、具体的に説明する必要がある。 なお、新型コロナウイルス感染症の将来への影響がわからない場合、実行可能で合理的な事業計画を作成することが難しくなる可能性がある。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要であると考えられる。 ② 投資損失引当金の計上 関係会社株式の減損処理を行う必要はないが、以下のとおり、健全性の観点から、投資損失引当金を計上できる場合がある。 【会計処理】 ③ 債務超過に対する引当金 関係会社が債務超過である場合、実質価額がマイナスであるため、関係会社株式はゼロまで減損処理する。一方、関係会社株式は、減損においてはゼロまで評価を切り下げることしかできないが、関係会社の債務超過額は、最終的には、親会社が負担(子会社の場合は、全額負担、関係会社の場合は、他の株主との契約で決められた分の負担)する可能性が高いと考えられる。そのため、債務超過額のうち、負担する部分について関係会社事業損失引当金等で損失処理する必要がある。 【会計処理】 ◎関係会社に対する債権がある場合及び関係会社に対して債務保証を行っている場合 関係会社に対する債権がある場合や関係会社に対して債務保証を行っている場合、関係会社に対する債権部分には貸倒引当金を計上し、債務保証部分には、債務保証損失引当金を計上する。そして、この2つの引当金の合計と債務超過額の差額を関係会社事業損失引当金等で計上することも考えられる(下図参照)。 一方、貸倒引当金や債務保証損失引当金としては計上せずに、債務超過額全額に対して関係会社事業損失引当金等で計上することも考えられる。 (3) 非上場株式の評価 関係会社株式以外の非上場株式を発行している会社についても、新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している可能性がある。業績が悪くなっている場合、非上場株式の評価についても慎重に検討する必要がある。 非上場会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく低下(下記②参照)した場合は、減損処理する。 【会計処理】 (4) 固定資産(のれんを含む)の減損 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している会社、店舗、支店、工場等が多くなっている可能性がある。業績が悪くなっている場合、固定資産(のれんを含む)の減損についても慎重に検討する必要がある。具体的な検討は、以下のとおりである。 【会計処理】 (5) 貸倒引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、得意先(関係会社を含む)の業績が悪化し、売上債権の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。また、関係会社へ貸付を行っている場合も貸付金の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。 そのため、貸倒引当金についても慎重に検討する必要がある。具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の回収状況や法的整理等の情報を適時に入手した上で、債権を以下の3つに区分し、それぞれの区分ごとに貸倒引当金を算定する必要がある。特に、「貸倒懸念債権」又は「破産更生債権等」に該当する得意先、関係会社がないか、慎重に検討する必要がある。 【会計処理】 貸倒引当金繰入額は、原則、その性質に応じて販管費又は営業外費用に計上するが、新型コロナウイルス感染症の影響により発生した貸倒引当金繰入額は、非常に特殊な事象であるため、金額が多額に発生する場合には、特別損失に計上することも考えられる。 (6) 債務保証損失引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社の業績が悪化し、経営難に陥り、関係会社において取引先に対する仕入債務の返済や金融機関への借入金の返済が滞る可能性がある。このような場合に、関係会社の仕入債務や借入金について、親会社が債務保証を行っている場合、債務保証に係る損失が発生する可能性がある。 そのため、債務保証損失引当金についても慎重に検討する必要がある。具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の関係会社の仕入債務の支払状況や金融機関への借入金の返済状況に関する情報を適時に入手し検討する必要がある。 【会計処理】 債務保証損失引当金繰入額は、発生事由等に応じ営業外費用又は特別損失に計上することが考えられる。 (7) リストラクチャリング関連の引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化し、経営難に陥った場合、将来に向けての立て直しのためにリストラ(支店・店舗・工場等の閉鎖、早期退職の募集等)を決定することが考えられる。このような場合、例えば、以下のような損失について見積った上で、リストラクチャリング関連の引当金の計上を検討する必要がある。 (※) 従業員が早期退職制度に応募し、金額を合理的に見積ることができる時点で費用処理する。 【会計処理】 上記の勘定科目は例示であるため、各社の実態に応じて、適切な名称を付すことが考えられる。 (8) 繰延税金資産の回収可能性 新型コロナウイルス感染症の影響により、会社の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。その場合、繰延税金資産の回収可能性の検討において、以下の点について、慎重に検討する必要がある。 ① 税効果の企業の分類 業績の悪化により、課税所得が減少する場合、税効果の企業の分類を変更しなければいけない可能性がある。 ② 一時差異等加減算前課税所得の見積り 分類3から分類4の会社において、繰延税金資産の回収可能性の検討に当たっては、一時差異等加減算前課税所得の見積りは非常に重要である。 しかし、新型コロナウイルス感染症の将来への影響がわからない場合、合理的で説明可能な事業計画を作成することが難しいため、一時差異等加減算前課税所得を見積ることが困難となる可能性がある。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要である。 また、事業計画を監査人に説明する際には、合理的で説明可能な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのかを、具体的に説明する必要がある。 【会計処理(繰延税金資産を取り崩す場合)】 (9) 棚卸資産の評価 通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。 新型コロナウイルス感染症により、棚卸資産の滞留が増加したり、赤字でないと販売できなくなるなどの状況が発生した場合には、多額の棚卸資産評価損を計上しなければいけない可能性がある。そのため、3月及び4月の販売実績及び5月以降の販売に関する情報を収集し、正味売却価額を合理的に見積った上で、棚卸資産評価損を計上する必要がある。 【会計処理】 棚卸資産評価損は、原則、売上原価に計上するが、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が新型コロナウイルス感染症による臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上できる。 (10) 後発事象の注記 後発事象には、以下の2つがある。 新型コロナウイルス感染症の影響で、期末日後にいろいろな事象が発生したり、意思決定が行われるものと考えられる。後発事象の発生時点や内容により、修正後発事象又は開示後発事象のいずれに該当するかが異なるため、上記のいずれかに該当しそうな事象がある場合、適宜、監査人に確認することが望まれる。 《新型コロナウイルス感染症に関連する開示後発事象の例示》 (注) 上記項目は、開示後発事象としての例示であるが、発生時点等によっては、修正後発事象に該当する可能性もある。 (11) 継続企業の前提に関する注記 ① 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況 新型コロナウイルス感染症の影響で、業績が悪化している場合、新たに「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況(以下、「事象又は状況」という)」が存在する場合に該当する可能性がある。 そのため、「事象又は状況」が存在する場合に該当していないかどうかを慎重に検討する必要がある。 《継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の例示》 ② 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるとき 期末において、「事象又は状況」が存在する場合には、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策(効果的で実効可能なもの)を検討する必要がある。新型コロナウイルス感染症の影響により、以下の対応が必要であると考えられる。 そして、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められるときは、継続企業の前提に関する以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。 なお、貸借対照表日後において、「事象又は状況」が解消し、又は改善したため、継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められなくなったときには上記の注記を行う必要はない。ただし、この場合には、当該「事象又は状況」を解消し、又は改善するために実施した対応策を重要な後発事象として注記することも考えられる。 ③ 有価証券報告書の「経理の状況」より前における記載 上記②の注記が必要でない(「重要な不確実性」がない)場合であっても、「事象又は状況」が存在する場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」にその旨及びその内容等を開示する。 また、上記②の注記をする場合でも、当該注記に係る「事象又は状況」が発生した経緯及び経過等について、「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載する。 ④ 事業報告における記載 会社法に基づく事業報告においても、株式会社の現況に関する事項(会社法施行規則120①Ⅳ、Ⅷ、Ⅸ等)に、適切な開示をすることが望まれる。 ⑤ 後発事象の注記 貸借対照表日後に「事象又は状況」が発生した場合で、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められ、翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼすときは、重要な後発事象として、以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。 上記のような後発事象のうち、貸借対照表日において既に存在していた状態で、その後、その状態が一層明白になったものについては、継続企業の前提に関する注記の要否を検討する必要がある。   Ⅲ 会計上の見積りにあたって   新型コロナウイルス感染症の影響により、決算作業が遅れている場合も多いと考えられる。また、事業計画を作成することも困難な状況になっている場合も多いと考えられる。 そのため、株式の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性等の「会計上の見積り」をどのように行うか悩まれている経理担当者も多いと思われる。 このような中、2020年4月10日にASBJより2020年4月9日に開催された第429回ASBJの議事概要が公表された。当該議事概要では、以下のとおり、会計上の見積りを行う上での留意点がまとめられている。 以上から、決算にあたり、以下の対応を行うことが必要であると考えられる。 【実務上の対応】 ➤企業グループ内で、現在発生している事象又は発生する可能性のある事象に関する情報(内部情報)を収集する。 ➤客観的な外部情報をできるだけ収集する。 ➤内部情報及び外部情報に基づいて、一定の仮定を設定する。その仮定に基づき、事業計画等を作成する。また、修正(特に、下方修正)する必要がないか検討する。 ➤仮定及び事業計画等が不合理でないかどうか、監査人と協議(に説明)する。 ➤会計上の見積りにおける仮定について、追加情報の注記が必要かどうか検討する。   (連載了)

#No. 365(掲載号)
#西田 友洋
2020/04/16

税効果会計を学ぶ 【第2回】「資産負債法と繰延法」

税効果会計を学ぶ 【第2回】 「資産負債法と繰延法」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 税効果会計の方法には、資産負債法と繰延法とがあり、わが国の会計基準では、資産負債法を採用している。 第2回は、税効果会計の基本となる資産負債法と繰延法について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 資産負債法と繰延法 「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」では、税効果会計の方法には繰延法と資産負債法とがあるが、資産負債法によることとし、貸借対照表上の資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額を「一時差異」と定義している(税効果会計意見書三、1、税効果会計基準第二、一、2、税効果適用指針88項)。 このように、税効果会計の方法には、資産負債法と繰延法がある(税効果会計意見書三、税効果適用指針88項)。 両者の基本的な相違は、「調整対象となる差異の内容」と「適用する税率」にある。   Ⅲ 資産負債法 1 差異の内容 資産負債法とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である(税効果適用指針89項(1))。 2 適用する税率 資産負債法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、一時差異の解消見込年度に適用される税率である(税効果適用指針89項(1))。   Ⅳ 繰延法 1 差異の内容 繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である(税効果適用指針89項(2))。 2 適用する税率 繰延法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である(税効果適用指針89項(2))。   Ⅴ 税効果会計基準で採用した資産負債法 1 資産負債法の採用 税効果会計基準で採用した方法は資産負債法である(税効果会計意見書三、税効果適用指針88項)。 資産負債法は、税率変更等に応じて繰延税金資産又は繰延税金負債の回収額又は支払額をより適切に示す方法であり、国際的にも主流となっている方法である(「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」(企業会計審議会)第二部、二、3(3))。 一時差異(資産負債法)と期間差異(繰延法)の関係は、次のように整理される(税効果適用指針90項)。 ただし、未実現損益の消去に係る税効果会計については、資産負債法の例外として繰延法が採用されているので、税効果会計の適用に際しては注意が必要である(税効果適用指針34項、131項)。 企業会計基準委員会の審議では、国際財務報告基準(IFRS)では資産負債法が採用されており、また、米国会計基準においても棚卸資産以外の資産の未実現損益の消去に係る税効果会計については資産負債法が採用されることから、連結税効果実務指針における繰延法の取扱いについて国際的な会計基準と整合性を図り、資産負債法に変更すべきとの意見もあった(税効果適用指針131項)。 検討の結果、未実現損益の消去に係る税効果会計については、従来どおり、繰延法の採用が継続されている(税効果適用指針34項、136項)。 2 設例 本連載の第1回で用いた数値例により、資産負債法に従って解説を行う。 《数値例》 〈税効果会計を適用する場合〉 (※1) (税引前当期純利益5,000+評価減1,000)×法定実効税率40%=2,400 (※2) 評価減1,000(=税務上の帳簿価額1,500-会計上の帳簿価額500)×法定実効税率40%=400 (仕訳) 税効果会計基準では資産負債法を採用しているので、当該方法に従って算出すると、税務上の資産の額1,500と会計上の資産の額500との差額1,000が一時差異となる。 法定実効税率40%が、将来において、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率である場合には(税効果適用指針45項)、前述の一時差異1,000に40%を乗じて、繰延税金資産400が認識されることになる。 (了)

#No. 365(掲載号)
#阿部 光成
2020/04/16

給与計算の質問箱 【第4回】「社会保険の料率の変更」

給与計算の質問箱 【第4回】 「社会保険の料率の変更」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 今月から新年度(令和2年度)になりますが、各種社会保険の料率は変更されるのでしょうか。 A 労災保険、雇用保険、厚生年金保険の料率の変更はない。 健康保険、介護保険(第2号被保険者)、子ども・子育て拠出金の料率は変更がある。 * * 解 説 * * 1 料率の変更がないもの (1) 労災保険 労災保険料は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから、給料計算には関係しない。 〔労災保険率表〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 雇用保険 一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.6%、従業員負担が0.3%である。従業員は、給料の総支給額×0.3%=雇用保険料を給料から天引きされる。 例えば給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.3%=900円の雇用保険料を給料から天引きされる。 〔令和2年度の雇用保険料率〕 (※) 厚生労働省「令和2年度の雇⽤保険料率について」より (3) 厚生年金保険 厚生年金保険の料率は、18.3%を折半して会社負担が9.15%、役員・従業員負担が9.15%である。 役員・従業員は、標準報酬月額×9.15%=厚生年金保険料を給料から天引きされる。例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×9.15%=27,450円の厚生年金保険料を給料から天引きされる。 〔令和2年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)〕 (※) 協会けんぽホームページより   2 料率の変更があるもの (1) 健康保険 協会けんぽに加入の東京の会社の令和2年2月分(3月納付分)までの健康保険の料率は、9.9%を折半して会社負担が4.95%、役員・従業員負担が4.95%だった。令和2年3月分(4月納付分)からの健康保険の料率は、0.03%引下げの9.87%を折半して会社負担が4.935%、役員・従業員負担が4.935%になった。 役員・従業員は、標準報酬月額×4.935%=健康保険料を給料から天引きされる。例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×4.935%=14,805円の健康保険料を給料から天引きされる。 (2) 介護保険(第2号被保険者) 第2号被保険者とは、40歳以上65歳未満の役員・従業員をいう。40歳未満及び65歳以上の役員・従業員の給料からは、介護保険料を天引きしない。 協会けんぽに加入の東京の会社の令和2年2月分(3月納付分)までの介護保険の料率は、1.73%を折半して会社負担が0.865%、役員・従業員負担が0.865%だった。令和2年3月分(4月納付分)からの介護保険の料率は、0.06%引上げの1.79%を折半して会社負担が0.895%、役員・従業員負担が0.895%になった。 役員・従業員は、標準報酬月額×0.895%=介護保険料を給料から天引きされる。例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.895%=2,685円の介護保険料を給料から天引きされる。 (3) 子ども・子育て拠出金 子ども・子育て拠出金は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから、給料計算には関係しない。 令和2年3月分(4月納付分)までの子ども・子育て拠出金の料率は0.34%だった。令和2年4月分(5月納付分)からの子ども・子育て拠出金の料率は、0.02%引上げの0.36%になった。 子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額×0.36%の総額である。例えば厚生年金保険の標準報酬月額300,000円の役員1名だけが社会保険に加入している会社の場合、300,000円×0.36%=1,080円の子ども・子育て拠出金を年金事務所へ支払う。 (了)

#No. 365(掲載号)
#上前 剛
2020/04/16

〈Q&A〉消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第1回】「消費税転嫁対策特措法・下請法の概要と異同」

〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第1回】 「消費税転嫁対策特措法・下請法の概要と異同」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也   ◇ はじめに ◇ 本連載は、施行されて約6年半となる「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(以下「消費税転嫁対策特措法」という)が禁止する消費税転嫁拒否等の行為と、「下請代金支払遅延等防止法」(以下「下請法」という)による規制の異同について、両法律が重なり合う範囲に絞ってQ&A方式で横断的に解説し、両法律の内容やこれらを遵守するために留意すべきポイントを、読者の皆様にご理解いただくことを目指すものである。 *  *  * 【Q】 消費税転嫁対策特措法と下請法は、それぞれどのような法律ですか? また、これらの法律の共通点と相違点はどのようなものですか?   【A】 消費税転嫁対策特措法は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を図るため、消費税の転嫁を拒む5つの行為を禁止しています。 下請法は、下請取引の適正化を図るため、親事業者に4つの義務を課し、11の行為を禁止しています。 これらのうち、「減額」、「買いたたき」、「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」は、両方の法律で禁止されている行為ですが、規制を受ける事業者の範囲や規制内容は大きく異なっていますので、両法律の異同を正しく理解することが重要です。   1 消費税転嫁対策特措法の概要 消費税転嫁対策特措法は、消費税率の引上げに伴って社会で生じることが予想される様々な不都合を解決するために必要な4つの措置を定めた法律であり、平成25年6月5日に成立し、同年10月1日から施行されている。なお、消費税率引上げに適切に対処するための法律であるため、令和3年3月31日限りで効力を失う時限立法とされている。 同法の定める4つの措置の概要は、以下のとおりである。 ※下線は、下請法との交錯が特に問題となるため本連載で取り上げる違反行為。 以上のとおり、4つの措置の内容は、それぞれ全く異なるものである。消費税率の引上げに伴う混乱を回避するために必要な4つの措置が、1つの法律にパッケージとして詰め込まれたと考えると、この法律の全体像をイメージしやすいのではないかと思われる。 本連載が取り上げるのは、上記の4つの措置のうち、消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置である。上記措置は、「特定事業者」が、「特定供給事業者」に対し、消費税転嫁拒否等の行為を行うことを禁止するというものである。   2 下請法の概要 下請法は、多数の中小企業に支えられる我が国の産業構造を踏まえ、親事業者が下請事業者に不利益を与える行為等を規制することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正化するとともに、下請事業者の利益を保護することを目的とする法律である。 同法は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という)が禁止する優越的地位の濫用規制を補完する立法であると位置づけられている。もっとも、優越的地位の濫用規制は個別具体的事情に応じた実質判断を重視するのに対し、下請法は事件処理の迅速化・効率化のため形式判断を重視する点に特徴がある。 下請法は、「下請事業者」と取引する「親事業者」に対し、以下の4つの義務を課すとともに、以下の11の行為を行うことを禁止している。 《親事業者の4つの義務》 《親事業者の11の禁止行為》 ※下線は、消費税転嫁対策特措法との交錯が特に問題となるため本連載で取り上げる違反行為。 お気づきの読者も多いのではないかと思われるが、下請法が禁止する11の禁止事項のうち、「下請代金の減額」、「買いたたき」、「物品の購入・役務の利用強制」、「不当な経済上の利益の提供要請」は、消費税転嫁対策特措法においても、消費税転嫁拒否等の行為として禁止されているものである。 つまり、異なる2つの法律において、「買いたたき」の禁止など同じ名称の規制が設けられていることになるため、コンプライアンスの徹底のためには、これらの異同を正確に把握しておく必要があるということになる。   3 2つの法律の大まかな異同 消費税転嫁拒否等の行為が禁止されるのは、事業者がお金を支払って物を購入したり、サービスを利用したりする場面であり、その点では下請法の適用場面と重なるが、対象となる取引の範囲は下請法と比較して極めて広範にわたる。下請法の規制対象となる「親事業者」及び「下請事業者」の意義、消費税転嫁対策特措法の規制対象となる「特定事業者」及び「特定供給事業者」の意義については、本連載の第3回で詳しく述べることとしたい。 次に、2つの法律に含まれる同じ名称の規制であるが、名称は同じであっても、規制の内容や留意すべき場面はかなり異なっている。「買いたたき」については第4回及び第5回、「減額」については第6回、「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」については第7回で、それぞれ詳しく述べることとしたい。 そして、次回の第2回では、これらの具体的な規制の異同や留意すべきポイントを述べるに先立ち、消費税転嫁対策特別措置法及び下請法における当局の調査・勧告等の状況について述べることとする。 (了)

#No. 365(掲載号)
#大東 泰雄、福塚 侑也
2020/04/16

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第4回】「鑑定評価に登場する価格形成要因と相続税の財産評価との関係」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第4回】 「鑑定評価に登場する価格形成要因と相続税の財産評価との関係」   不動産鑑定士 黒沢 泰     1 鑑定評価と価格形成要因 (1) 一般的要因とは 一般的要因とは、この経済社会において不動産の価格を形成する上で共通する要因を指します。具体的には、①自然的要因、②社会的要因、③経済的要因及び④行政的要因がこれに該当しますが、各々のイメージは以下のとおりです。 これらはマクロ的要因ともいえますが、例えば不動産に関する税制改正の状況(緩和又は強化)が取引件数や需要量にどのような影響を与えているのかといった問題は、一般的要因と深く関連します。 ただし、わが国全体として捉えた場合、これら諸要因の動向と地域的にみた場合の動向とが必ずしも一致するとは限らない点に留意する必要があります。例えば、大都市の中心部の経済状況と地方都市のそれとは必ずしも連動しておらず、タイムラグを生ずることは筆者もしばしば経験するところです。 このように、一般的要因の影響といっても、それは全国一律に同質に作用するものではなく、地域ごとに異なった影響を与え、また、同種の地域に対しては同質的な影響を与える(=地域的な指向性がある)ことも経験則によって認められています。 (2) 地域要因とは 地域要因とは、不動産の属する地域の特性(住宅地か商業地か工業地か、さらに住宅地であれば戸建住宅の多い地域か共同住宅の多い地域か等)を形成する上で基になっている要因を指します。 例えば、戸建住宅の多い地域であれば、建蔽率は40%、容積率は80%に指定されていることが多いでしょうし、共同住宅の多い地域であれば建蔽率は60%、容積率は200%に指定されていることが多いと思われます(ただし、これは一般的なケースであり、なかには容積率が200%に指定されていても、その地域のほとんどが戸建住宅という場所もあります)。 地域要因にはこのような都市計画法及び建築基準法上の規制だけでなく、以下に例示するとおり、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える様々な要因が含まれています(住宅地域であれば居住の快適性に、商業地域であれば収益性に、工業地域であれば生産性に重点が置かれます)。 (不動産鑑定評価基準総論第3章第2節Ⅰ.1) (3) 個別的要因とは 個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいいます。例えば、その土地が角地であれば眺望がよく(商業地であれば商品陳列の効果もあります)、道路に接していても間口の著しく狭い土地であれば利用上の便が劣るなど、価格に与える影響は様々です。 財産評価基本通達に規定されている画地条件に関する様々な補正率表は、これに該当する個々の要因を画一的に評価に反映させるために作成されているといってもよいでしょう。その意味で、ここに明らかな形で鑑定評価との接点(共通点)を見い出すことができるといえます。 ただし、ここで忘れてはならないことは、不動産の価格を求めるに当たっては、その不動産の属している地域の特性や地域における標準的な使用方法との関連を考慮に入れながら個別的要因の分析を行う必要があるという点です(個々の不動産の価値は地域の特性に裏付けられた価格水準を基に形成されているからです)。   2 財産評価基本通達による土地評価と価格形成要因 それでは、財産評価基本通達によって土地の評価を行う場合、鑑定評価における一般的要因や地域要因はどのように捉えればよいのでしょうか。 冒頭にも述べましたが、財産評価基本通達に掲げられている補正率表はあくまでも画地条件に関するものであり、個々の土地の特徴を評価に反映させるためのものです。その基になるのは、「評価対象地の属する地域の標準的な区画形状の土地の価格水準がいくらとなっているか」ということであり、ここに、鑑定評価にいう地域要因が反映されなければならないということになります。 財産評価基本通達に基づく路線価図には各土地の接する路線で1つのまとまりごとに価格が付されていますが、これがまとまった地区ごとに想定されている標準的な区画形状の土地の価格を表しており、地域要因の集約された結果であるということができます。そして、路線価図には目に見える形で登場してはこないものの、一般的要因の動向が根底に位置しており、地域の価格水準に全般的な影響を及ぼしていると考えることができます。 このように捉えた場合、ともすれば個々の補正率表のみに目が向けられがちな相続税の財産評価にも、鑑定評価と共通する一般的要因や地域要因の考え方が反映されていることが理解されます。 以上述べてきた内容をイメージしたものが次の図です。 (了)

#No. 365(掲載号)
#黒沢 泰
2020/04/16

[新型コロナウイルスを乗り越えるための]中小企業の経営相談 【第2回】「資金繰り対策」~融資、助成金・補助金、リスケ、支払い繰り延べ~

[新型コロナウイルスを乗り越えるための] 中小企業の経営相談 【第2回】 「資金繰り対策」 ~融資、助成金・補助金、リスケ、支払い繰り延べ~   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 山口 智寛 株式会社バンカーズ・アイ 代表取締役 山田 正貴   -相談内容- 当社はコロナショックのあおりを受けて売上げが激減してしまっています。財務状況を分析したところ、このままだと数ヶ月後に資金ショートすることがわかりました。倒産を回避するためには、どのような資金繰り対策の手段があるでしょうか。   ※本稿は2020年4月13日時点での情報に基づくものです。 ● ● ● 回 答 ● ● ● 1 資金繰り対策の手段とコロナショック対応 中小企業の資金繰り対策としては、新たな資金を獲得する手段として、①金融機関等の融資、②補助金・助成金の給付があり、資金流出を抑える手段として、③金融債務のリスケジュール(リスケ)、④金融債務以外の支払いの繰り延べ等がある(他にも経営者個人や個人投資家からの資金投入もあり得るが、どの会社にも有効な現実的手段とは言い難いのでここでは取り扱わない)。 いずれの手段においても、従来からの制度に加えて、今回のコロナショックに伴う緊急措置として特別な制度や優遇措置が設けられている。以下では、本稿執筆時点での最新情報に基づき、各種資金繰り手段の特徴について整理する。 具体的な制度内容については、経済産業省のサイトに最新情報がまとめられているので、こちらを参照していただきたい。刻一刻と状況が変わっているので、最新情報をこまめにチェックしておくと良い。   2 金融機関等の融資 (1) 民間金融機関(メガバンク、地方銀行、信用金庫、信用組合等) 金融庁は2020年2月以降、各金融機関に対して事業者の資金繰り支援への対応を度々要請しているものの、現状、一定規模以上の融資以外については、中小企業向け緊急融資の対応は主に政府系金融機関頼みになっているようである。 とはいえ、銀行等の民間金融機関もコロナショックで多くの会社で資金需要が高まっていることは十分に理解しているから、まずはメインバンクに融資の相談をしていただきたい。融資は無理でもリスケには応じる、という対応をしてもらえる可能性もある(リスケについては後述する)。 なお、既にリスケに応じてもらっている金融機関から追加融資を得ることは非常に難しい。この状況は、コロナショックの発生を前提とする現在においても基本的には変わらないものの、リスケ中の追加融資が絶対にあり得ないというわけではないので、追加融資の相談を躊躇する必要は無い。 (2) 政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金、農林中金) 日本政策金融公庫、商工中金(商工組合中央金庫)、農林中金(農林中央金庫)といった政府系の金融機関は、中小企業向けの融資については種々の制度を設定しており、コロナショックに伴う中小企業の緊急の資金需要にもいち早く対応している。 特に日本政策金融公庫の融資は、保証人や信用保証協会の保証が不要で、金利や返済開始までの据え置き期間等の優遇措置も充実しているので、中小企業の資金繰りの頼みの綱と言える。現在は、融資の申し込みが殺到している中で、公庫の側もフル稼働で融資審査に対応しており、最短で数日から1週間程度で融資が実行されている。 (3) 信用保証協会 信用保証協会は、中小企業の資金繰りの円滑化を図るために、中小企業が金融機関から融資を受ける際にその債務を保証することを業務とする公益法人である。企業の側からすれば、信用保証協会の保証額の枠が広がれば、その分、金融機関から融資を受けることができる額も増えることになる。 信用保証協会の保証については、もともと中小企業の緊急の資金需要に対応するセーフティネット保証(経営安定関連保証)の制度が設けられていたが、今般のコロナショックを受けて、セーフティネット保証の対象、要件、保証限度枠が緩和されるとともに、大規模な経済危機・災害等の発生時に発動される危機管理保証も適用されることとなった。 (4) その他(中小機構、自治体) 中小機構(中小企業基盤整備機構)は、中小企業の事業活動の活性化のための基盤整備を行う独立行政法人である。中小機構には小規模企業共済と経営セーフティ共済という2つの共済制度があり、いずれにおいても共済契約者は借入を行うことができる。 このほか、多くの自治体でも独自に制度融資を設定している。信用保証協会の保証料や金融機関の利息の一部を補助する制度を用意しているところもある。自社が拠点を置いている自治体の情報を収集してみると良い。   3 補助金、助成金等 補助金、助成金といった言葉の定義は明確でないが、いずれも、国や自治体が給付する返済不要の資金のことを指している。 一般的には、事業そのものに対して援助がなされる(したがって、審査をクリアするために事業内容とその有用性を説明する必要がある)ものが「補助金」、雇用関係や研究開発といった事業の中の1つの事象に対して援助がなされる(したがって客観的な要件を満たせば受けられる)ものが「助成金」であるとされている。その他、給付金、奨励金などという名称が付されたものもある。 補助金や助成金は、厳格な要件が定められていて申請手続が煩雑である点、融資のように数千万円から数億円単位での給付は期待できない点、審査を経て給付がなされるまでにある程度時間がかかる点で、金融機関等の融資に比べると緊急時の資金繰り方法としての優先度は劣る。 しかし、返済不要である点で資金繰りには非常に有用なので、自社が支給を受けることができそうな補助金や助成金の情報にあたった場合には、是非、申請を検討していただきたい。 なお、4月7日に閣議決定した令和2年度補正予算案には、個人事業主及び中小事業者の事業の継続支援策として「持続化給付金」が盛り込まれた。コロナショックの影響により売上が前年同月比で50%以上減少している事業者が(中堅・中小企業のほか、フリーランスを含む個人事業者など幅広い事業者が対象になる予定)、法人は最大200万円、個人は最大100万円の給付を受けることができるというものである。令和2年度補正予算案の正式な成立が前提であるため、現時点では制度の詳細は未定とされているが、早晩実現されることは確実であるから、こまめに情報収集をしていただきたい。   4 リスケ 借入先の金融機関と交渉して金融債務の返済条件の変更に応じてもらうことを、リスケ(リスケジュール)と言う。一般的には、約定利息のみ支払いを続け、元本については6ヶ月後に一括返済することとし、その後、6ヶ月ごとに元本返済猶予を繰り返すことが多い。金融債務の返済を少しでも抑えることで、運転資金を確保するわけである。 借入先の金融機関が複数ある場合には、すべての金融機関で同時にリスケに応じてもらう必要がある。そうでなければ、金融機関同士で不公平が生じるからである。 金融機関にリスケに応じてもらうためには、試算表、資金繰り表、経営改善計画書といった客観資料を作成し、リスケ期間中に経営改善を行うことで返済を正常化できるということを説得する必要がある。 コロナショックを受けて、金融庁は2020年3月6日付で官民の金融機関に対して「元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること」を要請している。これを受けて、各金融機関は、従来であればリスケの相談から実行まで1ヶ月ほど要していたところ、最短で数日から1週間程度で実行に至るなど、かなり柔軟性のある対応をとっているようである。 一方、リスケにはデメリットもある。第一に、金融機関にリスケに応じてもらった場合、金融機関内部における債務者の信用格付け(区分)が「正常先」から「要注意先」又は「破綻懸念先」に低下し、新規の融資を受けることが非常に難しくなる。 第二に、信用保証協会付きの融資についてリスケする場合、信用保証協会に対して追加の信用保証料を支払う必要がある(信用保証料は借入金額及び返済期間に基づいて算定されるので、リスケして返済期間が延びると、その分保証料も高くなる)。   5 金融債務以外の支払いの繰り延べ 金融債務のリスケに加えて、それ以外の支払いについてもできる限り繰り延べ(一時的な支払い留保)ができれば非常にありがたい。そこで、支払いに優先順位を付けて管理すると良い。 支払いの優先順位は、①支払手形、②従業員の給与、③仕入先への支払い(買掛金)、④設備・インフラ関係の固定費(賃料、水道光熱費等)、⑤公租公課(税金、社会保険料)である。 (1) 支払手形 手形取引をしている場合、不渡りを繰り返すと銀行取引停止処分になり事業活動ができなくなってしまうので、手形の支払いは最優先で行う必要がある。 東日本大震災のときは、震災の影響で手形決済ができない場合には不渡りとして取り扱わないという特別措置が実施されたが、今回のコロナショックに際しては、現在(2020年4月1日時点)のところ同様の措置は実施されていない。 そこで、手形の支払いが困難になった場合には、手形所持人と交渉して手形の書換(支払延期/ジャンプ)に応じてもらうよう努めるべきである。 (2) 従業員の給与 給与は個々の従業員の生活の糧であり、また、従業員の給与を満足に支払うことができなければ、従業員の士気が下がり、会社の事業がますます停滞してしまう。 したがって、経営者や役員の報酬をカットしたり支払いを繰り延べたりする場合でも、一般従業員の給与については支給日に満額支払わなければならない。 なお、労働基準法で給与は必ず支給日に全額支払わなければならないとされており、これに反した使用者には罰則(30万円以下の罰金)が課される(第24条、第120条第1号)。 (3) 仕入先への支払い(買掛金) 仕入先への支払いに関しては、相手と直談判して、代金の支払いを一定期間猶予してもらったり、分割払いに応じてもらったりできれば良いが、そこまで至らなくても、支払期日を少しずらしてもらうだけでも資金繰りが改善することがある。 売掛金の支払期日(回収日)も買掛金の支払期日(支払日)も、どちらも月末に設定されていることが多いが、例えば、大口の仕入先に対する買掛金の支払いを翌月5日や10日に変更してもらえれば、月末に回収した売掛金から余裕を持って買掛金の支払いを行うことができる。買掛金の支払期日がより早く設定されている場合には、尚更である。 (4) 設備・インフラ関係の固定費(賃料、水道光熱費等) 本社や事業所、工場の賃料は、支払日に賃料の入金が無いからと言って直ちに貸主に賃貸借契約が解除されることはない。電気、ガス、水道などの公共料金も、通常、1、2ヶ月支払いが遅れても利用が停止されることはない。 したがって、いずれも正常に支払いを行うに越したことは無いが、緊急時には他の支払いを優先させることもやむを得ないだろう。 (5) 税金・社会保険料 税金・社会保険料については、従来からある制度の拡大適用や新たに創設された特例制度により、納税・支払いの猶予が認められる可能性がある。所轄の税務署・年金事務所に相談してみると良い。 なお、何の相談もなく単に納税・支払いをしないで放置していると、会社の資産の差押えを受けたりする可能性もあるので注意が必要である。 (了)

#No. 365(掲載号)
#山口 智寛、山田 正貴
2020/04/16

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第24回】「生前贈与の手法と老後資金の関係」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第24回】 「生前贈与の手法と老後資金の関係」   税理士法人トゥモローズ   前回までは、事業承継後にできる老後資金準備策について検討を行ってきたが、今回から4回にわたり、相続対策と老後資金の関係について解説する。 はじめに検討する相続対策は、生前贈与についてである。生前贈与は相続税の節税対策や遺産分割対策として、相続対策の中でも最もポピュラーな手法であり、顧客に提案するケースも多い。   1 生前贈与の種類 (1) 暦年贈与 受贈者1人あたり年間110万円まで非課税枠があるため、子や孫が複数人いれば、毎年「その人数分×110万円」の財産を無税で次世代に移すことができる。また、相続税の限界税率と贈与税の実効税率を比較し、敢えて110万円を超える贈与をすることにより、より効果的な節税をすることも可能だ。なお、暦年贈与をする上での注意点は下記2を参照されたい。 (2) 相続時精算課税制度 相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度である。非課税枠は2,500万円で、それを超えた場合には一律20%の税率となる。相続時精算課税贈与による財産は、相続時に贈与時の時価にて持ち戻されるため、収益不動産や将来価値が上がる財産を贈与した場合など、相続税の節税ができるケースは限定的である。 (3) 生前贈与に係る主な特例制度 生前贈与に係る主な特例制度は下記の通りである。各特例の適用要件については国税庁ホームページにまとめられているため割愛するが(各リンク先を参照)、本稿執筆現在、②については令和3年3月31日まで、③については令和3年12月31日までと期間が定められているため、適用の際は最新の制度内容を確認するよう留意されたい。   2 名義預金と認定されないための生前贈与の方法 生前贈与を行うに当たり、そのやり方を間違えてしまうと贈与不成立(いわゆる名義預金)と税務当局から認定され、相続税の課税対象となってしまうことがある。名義預金と認定されないための生前贈与の方法を以下に解説する。 (1) 贈与契約書の作成 贈与契約は口頭でも成立するため、贈与契約書の作成は、贈与契約成立のための必須ではない。しかし、口頭での贈与はいつでも取り消すことができるため、税務当局への説明資料という観点からも、贈与契約書を作成すべきである。 (2) 贈与の実行 贈与契約書を作成しただけで満足してしまい、実際の贈与の実行を失念してしまうこともあるが、必ずその贈与を贈与契約書記載の通りに実行する必要がある。また、金銭贈与の実行は、現金ではなく、できるだけ客観的な記録が残る預金を通して行うべきである。 (3) 贈与後の管理支配 受贈者は、贈与を受けたお金を管理支配しないと、贈与が成立したとはいえない。贈与者は、子や孫に無駄遣いさせないためや金銭感覚を狂わせないために、贈与した後も贈与したお金を実質的に管理支配してしまうケースが散見される。しかし、これでは贈与が成立したと税務署に対抗することができない。 贈与後は、受贈者がもらったお金を自由に使える状態にしなければならない。そのためには、受贈者が普段から使っている普通預金の口座に振り込むのが良いであろう。   3 生前贈与と老後資金の関係 本連載の趣旨からみた場合、老後の生活資金が枯渇するほど生前贈与をしては、本末転倒である。このため、生前贈与を実施する前に、必ず現状把握をすることが大切である。この場合の「現状把握」とは、現在の個人貸借対照表(すなわち財産債務目録)の作成及び、個人資金繰り表(すなわち将来のキャッシュフローがわかる表)の作成である。 個人貸借対照表を作成することにより、贈与に当てられる流動資産がどのくらいあるのかを把握することができる。また、個人資金繰り表を作成することにより、将来予想される収入と支出を把握し、今どのくらいの資金が必要かを逆算することができる。主な将来の支出としては、生活費、遊興費、医療費、老人ホーム入居費用、自宅のリフォーム等、様々なものが想定できる。また、将来の相続税も流動資産で残しておく必要がある。 これらを事前に把握した上で、贈与可能な金額の算出、受贈者及び贈与手法の選定、将来の相続税の限界税率と贈与税の実効税率を比較等して、適正な贈与計画を策定する必要がある。 (了)

#No. 365(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2020/04/16

《速報解説》 「独立性に関する指針」の改正に伴うローテーションに関する規定の見直しを受け、会計士協会が「監査人の独立性チェックリスト」を改正

《速報解説》 「独立性に関する指針」の改正に伴うローテーションに関する規定の見直しを受け、 会計士協会が「監査人の独立性チェックリスト」を改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年4月9日付けで(ホームページ掲載日は2020年4月13日)、日本公認会計士協会は、「倫理委員会研究報告第1号「監査人の独立性チェックリスト」の改正について」を公表した。 これは、2018年4月に「独立性に関する指針」が改正され、ローテーションに関する規定が見直されたことを受けて、チェックリストの関連する項目について見直しを行うものである。チェックリストについては、エクセル版も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 改正箇所 2 見直しを行った主なチェック項目 (了)

#No. 364(掲載号)
#阿部 光成
2020/04/15
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