さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第60回】 「宅地並み課税事件」 ~最判平成13年3月28日(民集55巻2号611頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第101回】 株式会社ALBERT 「外部調査委員会調査報告書(2020年5月13日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【外部調査委員会の概要】 【株式会社ALBERTの概要】 株式会社ALBERT(以下「ALBERT」と略称する)は、2005年7月に設立。AIを活用したデータソリューション事業を主たる事業とする。2015年2月、東京証券取引所マザーズ市場上場。売上高1,630百万円、経常利益199百万円、従業員数100人(いずれも訂正前の2018年12月期実績)。資本金1,360百万円。会計監査人は有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」と略称する)。 【調査報告書の概要】 2020年2月14日、ALBERTは、2019年12月期決算における監査手続きの過程で、会計監査人であるあずさ監査法人から、第4四半期の売上高計上の妥当性について実態把握をする必要があるという指摘を受け、社外監査役2名と外部の弁護士兼公認会計士による社内調査を進めるとともに、決算発表の延期を公表した。 次いで、同月27日には、より独立性を高めた調査が必要であるとの判断に至り、利害関係を有さない社外の専門家で構成される外部調査委員会の設置を取締役会で決議したことを公表した。その後、あずさ監査法人からは追加の調査を求められたため、ALBERTの2019年12月期決算発表は、調査報告書受領後の5月22日まで延期されることとなった。 外部調査委員会が調査した事案は、ALBERTの取引先単位で合計4事案であり、その結論は、いずれも2019年12月期に売上計上を行うのは妥当ではないというものであり、売上計上を否認された金額は合計で7,700万円を超えている。 1 当初、会計監査人から売上計上の妥当性検証を指摘された事案(本事案) (1) A社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、人材派遣サービスを提供しているA社の研修員をデータサイエンティストとして研修・養成したうえで、派遣社員として受け入れる協業事業を行っていたところ、ALBERTが受託する高度な分析業務スキルを一部のA社派遣社員は期間内に取得することができない状況が続いていた。 ALBERTとA社は、2019年11月7日までに、A社派遣社員に対してOJTによる再研修を行うことで合意し、ALBERTは再研修のため、A社派遣社員をプロジェクトにアサインし、2019年11月及び12月で5,000万円の売上を計上している。一方、A社は再研修に係る検収書を提出するとともに、2019年12月及び2020年1月において、合計5,000万円をALBERTに支払っている。 ② 問題点 ALBERTが「再研修」に見合う役務の提供を行ったか否か。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、現行の会計制度において採用されている実現主義の原則においては、①財貨又は役務の提供が行われ、②対価として現金又は現金等価物を受領したときに収益として認識することが必要であるとしたうえで、A社事案については、A社からの支払がなされていることから、②の要件は満たすものの、①の役務の提供については、ALBERTが行うべき役務の提供があったと認めることは困難であることから、本件の5,000万円については、売上として計上するのは妥当ではないという判断を示している。 (2) B社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、2019年12月25日、B社との間で契約期間を同日から2020年5月31日までとし、業務委託報酬を1,700万円とする業務委託契約を締結し、データ分析業務の一環としてタグ付け作業を実施することを合意した。 ALBERTにおいては請負金額が1,000万円を超え、かつ期間が3ヶ月を超えるプロジェクトについては工事進行基準を適用していたため、タグ付け作業に係る稼働時間に基づいて工事進捗度を約41.4%と算定、2019年第4四半期に約700万円の売上を計上した。 ② 問題点 2019年第4四半期における工事進捗度の算定が適正かどうか。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、調査の結果、以下の実態を指摘して、2019年第4四半期における売上計上の妥当性を否定した。 2 追加で指摘された事案(追加事案) (1) C社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、C社に対してマーケティングデータ分析のプラットフォーム・サービスを提供し、運用・保守契約を締結している。C社との間では、新たな機能の追加や改良のうち、軽微な内容については運用・保守契約に基づくサービスで行い、一定以上の工数が必要となる作業については、個別のプロジェクトとして受注しているところ、2019年12月に4件のプロジェクトを受注し、同月中の業務完了を想定して、必要な人員確保、作業の実施を行ったものの、12月中に業務は完了しなかった。 一方、C社からは2019年12月27日付の検収書4通を交付されており、ALBERTは、検収書に基づき900万円の売上計上を行った。 ② 問題点 業務が完了していないものの、成果物である要件定義書等を提出することによって、検収を受けたとみなして売上計上をすることができるかどうか。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、C社事案については、いずれも2019年12月末時点では業務が完了しておらず、同時点での成果物を契約の目的物に変更する旨の合意が成立した事実が認められないことから、2019年12月に売上を計上するのは妥当ではないと判断を示した。 (2) D社事案 ① 事案の概要 ALBERTは、2019年12月、D社との間で、大量の写真や画像に対するタグ付け、あるいは、タグ付け作業のレビューの業務を行うことを内容とする請負契約を締結した。D社事案について、ALBERTは、実際の作業を中国所在の会社に委託しており、中国においては年末ぎりぎりまで作業が行われることが見込まれたため、2019年12月中に業務が完了することを見越して、事前に、同月中に検収書を発行することが合意されていたが、実際には、タグ付け等の作業の前提となるデータの提供が遅れたために 2019年12月中に業務が完了しなかった。 しかし、D社は、合意に基づき、ALBERTに対して 2019年12月25日付の検収書を発行し、ALBERTは検収書に基づき、1,116万円の売上を計上した。 ② 問題点 ALBERT側において作業に必要な体制を整えていたにもかかわらず、相手方のデータの提供が遅れたことによって、業務が完了しなかったものであり、既に納品した成果物をもって、検収書を発行することにD社の了解が得られているため、売上計上をすることは問題ないとしていた。 ③ 外部調査委員会の判断 外部調査委員会は、D社事案についても、C社事案と同様に、当初予定していた全てのデータに係るタグ付け作業は2019年12月中には完了しておらず、同時点で契約の目的物を変更する旨の合意が成立した等の事情も認められないことから、2019年12月に売上を計上するのは妥当ではないと判断を示した。 3 原因分析(報告書11ページ以下) 外部調査委員会は、直接的な原因として、非定型的な取引について、売上計上のフローが明確ではないこと及び通常の取引フローと異なり最終成果物の納品に先立ち検収書が発行されたことに関し、内部統制が十分に機能しなかったことにあると断じている。 そして、外部調査委員会は、ALBERTでは非定型的な取引を行ううえで、売上計上のフローが明確でなかったにもかかわらず、以下の不備があったことを指摘している。 4 再発防止策(報告書15ページ以下) 外部調査委員会による再発防止策の項目は、以下のとおりである。 【調査報告書の特徴】 2018年12月期の有価証券報告書によれば、ALBERTの取締役は5名のうち、代表取締役CEOを除く4名が社外取締役であり、3名の監査役はいずれも社外監査役である。CEOのもと業務執行にあたる執行役員は5名であり、彼らの業務執行を管理監督することが期待されているはずの社外取締役・社外監査役が何をしていたのか、報告書には一切記述がない。 1 上場会社のCFOとしての責任 外部調査委員会は、「原因分析」の中で、CFOによるモニタリングについて、次のように述べている。 こうした問題意識が、再発防止策のトップに、「CFOの役割の明確化及び充実化」という項目を置き、非定型的な取引において、CFOの権限や責任、財務経理セクションによる内部統制の重要性を指摘しているものと考えられる。 筆者の推測ではあるが、調査報告書におけるd氏とは、適時開示における「問合せ先」の記載から執行役員で経営管理部長である新井普之氏のことを恐らく意味しているものと考えられるが、確かに、A社事案における売上計上の可否について安易に代表取締役に対して「問題ない旨」を答え、B社事案では勤怠データを改竄して工事進捗率を高く偽装するなど、新井氏の上場会社のCFOとして十分な職責を果たせていないことは間違いないところであるが、外部調査委員会の原因分析を読む限り、「なぜ、CFOとしての職責を果たせなかったのか」という視点からの分析はない。 新井氏の経歴がわからないため、CFOとしての経験や見識が不足しているのか、業績予想を達成することに対するプレッシャーがあって、2019年12月期末に無理をしてでも売上計上を推進せざるを得ない立場にあったのか。「原因分析」というよりは表層的な原因となった事実の羅列にとどまっている報告書からは、読み取ることができなかった。 2 会計監査人の異動 あずさ監査法人は、外部調査委員会による調査が進行中の3月19日付で、ALBERTの第15期事業年度(2019年12月期)に係る定時株主総会(その後に開催予定の継続会を含む)の終結時をもって退任する旨の通知を行った。 退任理由としては、調査対象となった事象により監査リスクが高まり、今後の監査契約を継続することが困難になったと判断したためであると通知している。 5月22日、ALBERTは、あずさ監査法人の後任として、一時会計監査人に和泉監査法人が就任することをリリースしている。 3 公表された2019年12月期決算短信 5月22日、ALBERTは、当初の公表予定から3ヶ月以上も遅れて、2019年12月期決算短信を公表した。売上高は2,324百万円で2019年2月15日付の業績予想から75百万円の減少、経常利益は193百万円で同じく166百万円の減少となった。同日に公表した「2019年12月期業績予想と実績の差異に関するお知らせ」では、外部調査委員会の調査の結果、売上計上が否定された事情には触れていない。 すでに述べたように、外部調査委員会が売上計上の妥当性を否認した金額は約77百万円であり、ALBERTの会計処理が認められていれば、経常利益の下方修正はともかく、売上高については業績予想を達成していたことになっていた。 一方、決算短信の中の「今後の見通し」の項目で、ALBERTは、2020年12月期において、外部調査委員会の調査費用など総額190百万円を見込んでいることを説明している。 4 ALBERTによる再発防止策 5月22日、ALBERTは「再発防止に向けた改善措置」を公表した。 具体的な施策としては、「取締役・取締役会の取り組み」として掲げられた2項目の取締役人事のみである。 会長に就任する松村淳氏及び代表取締役に就任する竹田浩氏はともに、株式会社ウィズ・パートナーズに籍を置いており、ALBERTは、2016年12月、同社が業務執行役員を務めるウィズ・アジア・エボリューション・ファンド投資事業有限責任組合を割当先として、無担保転換社債型新株予約権付社債の発行により、24億円あまりの資金調達を実施、2018年12月期末現在で同組合は発行済株式の20.0%を保有する大株主であることから、本取締役人事は、大株主による経営参加と考えるべきであろう。 単なる社外取締役では取締役会の職務を果たせなかったから、会長の肩書を付与して取締役会を主導させ、あるいは代表取締役に選任して業務の執行にも関与させるという方針だと思料するが、裏を返せば、社外取締役は「各会議体での牽制機能」を果たすことができていなかったという結論なのだろうか。 5 関係者に対する処分等 ALBERTは、再発防止に向けた改善措置と同時に「関係者に対する処分等」を公表し、代表取締役社長が月額報酬の10%を3ヶ月分自主返納するとともに、「本件に関わった執行役員等の従業員に対しての処分を実施」するとしている。 2018年12月期の有価証券報告書によると、当時の執行役員は5名で、営業推進部長 安達章浩氏、経営管理部長 新井普之氏、データソリューション本部長 鈴木弥一郎氏、マーケティング部長 平原昭次氏、社長室長 村上嘉浩氏の名前が挙げられている。 本稿執筆時点で、ALBERTの執行役員構成を確認すると、執行役員の員数は5名で前期の有価証券報告書から変化していないが、経営管理部長でCFOであった新井普之氏と社長室長の村上嘉浩氏の名前がなく、代わりに、青木健児氏と武井昭博氏が2020年1月に執行役員に就任しているとのことである。 また、ALBERTの適時開示を時系列で追っていくと、問合せ先が「執行役員CFOコーポレート本部長 新井普之」と記載されているのは、2月14日付の「2019年12月期決算発表の延期と社内調査の実施に関するお知らせ」が最後で、次の適時開示である2月27日付の「外部調査委員会設置に関するお知らせ」には、問合せ先として、「経営戦略部 大江 翔」と記載されており、その後、継続している。 執行役員の異動について、ALBERTのサイトを確認した限りではリリースは出されていないため、こうした人事異動が、処分の一環かどうかは不明であるが、時期的には、この2つの適時開示の間に、何らかの処分があったと考えられそうである。 (了)
税効果会計を学ぶ 【第6回】 「繰延税金資産及び繰延税金負債」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二、二、1)。 今回は、繰延税金資産及び繰延税金負債の計上について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 繰延税金資産及び繰延税金負債の計上 個別財務諸表において、繰延税金資産及び繰延税金負債の計上は次のとおり行う(税効果適用指針8項(1)、(2))。 これらは、基本的に、個別税効果実務指針を踏襲するものである(税効果適用指針92項、93項)。 Ⅲ 繰延税金資産の回収可能性 税効果適用指針8項(1)に規定されているように、繰延税金資産の回収可能性は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号。以下「回収可能性適用指針」という)に従って判断することになる。 1 繰延税金資産 前述のとおり、繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二、二、1)。 このため、繰延税金資産として計上すべき金額は、将来の会計期間における将来減算一時差異の解消又は税務上の繰越欠損金の一時差異等加減算前課税所得との相殺及び繰越外国税額控除の余裕額の発生等に係る減額税金の見積額である(回収可能性適用指針4項)。 2 繰延税金資産の回収可能性の判断 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、次の(1)から(3)に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断する(回収可能性適用指針6項)。 当該規定は個別税効果実務指針を踏襲するものである(回収可能性適用指針59項)。 下記の「(1) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得」を主たる判断基準として繰延税金資産の回収可能性を判断する場合には、会社のいわゆる基礎収益力等、すなわち本業においてどれだけ収益を獲得する能力等があるかが重要になると解される。 3 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順 上記の回収可能性適用指針6項に従って繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の具体的な手順は、次のとおりである(回収可能性適用指針11項)。 ① 期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。 ② 期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う。 ③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する。 ④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額と相殺する。 ⑤ ①から④により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む)と解消見込年度ごとに相殺する。 ⑥ ⑤で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額(⑤で相殺後)と相殺する。 ⑦ ①から⑥により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する。 期末に税務上の繰越欠損金を有する場合、その繰越期間にわたって、将来の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)に基づいて、税務上の繰越欠損金の控除見込年度及び控除見込額のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する(回収可能性適用指針11項)。 なお、将来加算一時差異が重要でない企業の場合、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたって、回収可能性適用指針11項(3)から(7)に従った方法によるほか、事業年度ごとに一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額を合計して、将来減算一時差異の事業年度ごとの解消見込額と比較し、判断することができる(回収可能性適用指針12項)。 4 繰延税金資産の計上 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、回収可能性適用指針6項に従って回収可能性を判断した結果、当該将来減算一時差異(複数の将来減算一時差異が存在する場合は、それらを合計する)及び税務上の繰越欠損金が将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額及び将来加算一時差異の解消見込額と相殺され、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上する(回収可能性適用指針7項)。 税金負担額を軽減することができると認められる範囲を超える額は控除しなければならない(税効果会計基準 注解(注5)、回収可能性適用指針7項)。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第3回】 「コロナハラスメントとその対応策」 弁護士 柳田 忍 1 はじめに ここ数ヶ月の間、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、いわゆる「コロナハラスメント」が頻発しているとの報道等を目にする機会が多い。 例えば、当時感染が拡大していた大阪市から奈良市の製造会社に通勤している女性の上司が当該女性の同僚複数人に対し、当該女性と一緒に食事をとらないよう指示したことから、当該女性は職場での昼食をやめざるを得なくなったといったケースや、患者と職員の院内感染が発生した病院に勤務する看護師の夫が、勤務先の会社から「奥さんが看護師を続ける限り、あなたは出勤できない。会社を辞めるか、奥さんが辞めるか」と迫られたとのケースなどが一部報道されている(※)。 (※) SankeiBiz「コロナハラスメントが深刻化 職場でばい菌扱い、客から悪質な苦情も」(2020年4月29日付)、神戸新聞NEXT「「会社辞めるか、奥さんが辞めるか」看護師と家族に誹謗中傷 神戸・中央市民病院」(2020年5月9日付)等参考。 東京や大阪などを除く39都道府県については5月14日、同月21日には3府県、残りの5都道県についても同月26日に緊急事態宣言が解除され、段階的にではあるが通常どおりの勤務体制に戻す企業も増えている。 しかし、第2波のおそれの懸念もあると言われており、新型コロナウイルスの恐怖から完全に解放されたわけではないと感じている人も多い中、新型コロナウイルスに起因した嫌がらせ等が行われる可能性は増加しているとも言える。 そこで、本稿では、新型コロナウイルスに起因したハラスメントを「コロナハラスメント」と称したうえで、コロナハラスメントの概要、コロナハラスメントの事前防止策及びコロナハラスメントが発生した場合の対応策について述べることとする。 2 コロナハラスメントとは何か コロナハラスメントの概念は未だ成熟していないが、上記のとおり、本稿においては新型コロナウイルスに起因するハラスメント(嫌がらせ)を総称して「コロナハラスメント」と呼ぶことにする。 いかなる場合にコロナハラスメントが違法となるかについて確立した基準はないが、コロナハラスメントが職場における「いじめ・嫌がらせ」であることから、同じく職場での「いじめ・嫌がらせ」であるパワーハラスメントの基準が参考になるのではないかと思われる(拙稿第1回「代表的なハラスメントの定義とその特徴」参照)。 例えば、上記報道の前者の例は、6類型のうちの「③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)」に該当しうる行為である。また、6類型に該当しなくても違法なコロナハラスメントに該当しうることはパワーハラスメントと同様であるから、新型コロナウイルスに起因する不当な退職勧奨や配転命令、仕事外し等も違法なコロナハラスメントに該当する可能性があり、上記報道の後者の例は、このタイプのコロナハラスメントに該当する可能性がある。 3 コロナハラスメントの事前防止策 コロナハラスメントもハラスメントの一種であることから、典型的なハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)について法や指針により義務づけられている対策が、コロナハラスメントにおいても有用である(パワハラにつき令和2年1月15日厚労省告示第5号、セクハラにつき平成18年厚労省告示第615号、マタハラにつき平成28年厚労省告示第312号及び平成21年厚労省告示第509号参照)。 すなわち、コロナハラスメントを職場からなくすべきであるとの会社の方針を明確化し、コロナハラスメントの行為者については厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等に規定化し、研修等の実施によりこれを周知・啓発する等がコロナハラスメントの事前防止策としても有効であると考えられる。 具体的には、例えば、就業規則上に服務規律としてハラスメント全般を禁止する定めや、他人に不快な思いをさせて会社の秩序を乱す言動を禁止する定めなどがあり、懲戒事由として服務規律違反が挙げられている場合は、就業規則を改訂することなく、これらに基づきコロナハラスメントの行為者を懲戒処分の対象とすることができると考えられる。 もっとも、これによる抑止効果を期待するためには、コロナハラスメントが禁止されていること、これに違反したら処分の対象になることを従業員に認識させる必要があることから、コロナハラスメントを許さない旨の方針を社内で周知すべきである(会社トップのメッセージとして周知するとより効果的である)。上記のとおり、配置転換、仕事外しなどの人事権の行使もコロナハラスメントの一環と評価されうることから、これらがコロナハラスメントに該当しうるということも併せて周知するべきである。 また、相談窓口を設置し、これを周知することにより、初期の段階でハラスメントに対処することが可能となる。相談窓口の設置・周知については、コロナハラスメントが他のハラスメントと複合的に行われることが想定されることに照らし、パワハラ・セクハラ・マタハラ被害の相談を受けるために設置してある相談窓口において併せて対応する旨を周知するのが良いと思われる。 更に、コロナハラスメントが新型コロナウイルスへの感染の恐怖から、感染者らしく見える人を職場から排除しようとして生じるという一面を有すると思われることから、厚生労働省のガイドライン等に従い、職場における感染防止策を講じることがコロナハラスメント防止の第一歩となるであろうし、社員の新型コロナウイルスに対する恐怖を軽減するべく、以下の点についての啓発が重要になると思われる。 まず、従業員が過度に新型コロナウイルスへの感染に怯えているような場合、厚生労働省が発表しているデータや医師の見解等に基づき、正確な知識を伝えることも重要である。 過去、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対する誤った理解により、職場においてHIV感染者に対して不適切な対応がなされたケースがあったが、感染経路が限られていること、HIVの感染力が弱いことなどが知られるようになった後は、そのような不適切な対応が見られる機会が減少したことに照らすと、新型コロナウイルス感染症への正確な理解が、コロナハラスメントの減少に繋がるものと考えられる。 また、「新型コロナウイルスに感染したら解雇されたり査定に響いたりするのではないか」との懸念が聞かれるところからすると、「新型コロナウイルスに感染した場合に会社から人事上の不利益な取扱いを受けるのではないか」という恐怖もまた、従業員がコロナハラスメントに及んでしまう理由の1つなのではないかと考えられる。 そこで、会社としては、従業員が新型コロナウイルスに感染したとしても、そのことのみをもって従業員に不利益な処分を科さないことを周知するとともに、上記のとおり、そのような人事権の行使はコロナハラスメントに該当する可能性があり、行為者は懲戒処分等の対象になることを知らしめることも重要であると思われる。 4 コロナハラスメントが発生した場合の対応 コロナハラスメントが発生した場合にも、他のハラスメントに対して義務づけられているのと同様に、事実調査を行い、必要に応じて行為者の処分を行ったり、配置転換を行ったりする等の必要がある。 また、コロナハラスメントの行為者の処分を行ったことを社内で公表することも、コロナハラスメントが禁じられていることの周知及び再発防止策として有効である(もちろん、行為者や被害者の氏名を伏せるなど、プライバシーに十分に配慮する必要がある)。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第6回】 「新型コロナウイルスの労務関係への影響」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 川上 邦久 〔質 問〕 当事務所の顧客が、新型コロナウイルスの影響で経営上大きな打撃を受けています。 労務上の観点からできることはありますか。 〔回 答〕 使用者の判断でできる対応としては、新規採用の停止、非正社員の雇い止め、昇給停止や賞与の減額・不支給、残業禁止、配転・出向、休業といった対応がありますが、賃金減額と正社員の人員削減については、労働者の同意を得ない限り、ハードルが高いことから、それ以外の対応をできる限り行ったうえ、労働者と丁寧に協議するなどして、慎重に進める必要があります。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 前提となる事業計画の立て直し 新型コロナウイルスの世界的な大流行、緊急事態宣言の発令、外出自粛要請に伴う消費の冷え込みという一連の事態を受けて、宿泊業・飲食業から製造業・小売業まで様々な業種の事業者が、経営上大きな打撃を被っている。 一般論として、危機的状況にあっては、事業継続のために必要なヒト・モノ・カネの維持を第一に、流行期間中の事業計画を立て直したうえ、その実現に向けて必要な施策をできる順にやる、可能であれば収束後の事業計画も考慮し施策に優先順位をつけるということになるが、各事業者の事業構造により、経営上とるべき施策は様々であり、先の見通しがなお不透明な状況で、各事業者は困難な経営判断を迫られることになる。 本稿は、想定される経営上の施策のうち、労務に関連するものを対象とするが、後述するとおり、賃金減額や正社員の人員削減といった、労働者への影響の大きい(それだけに経営上効果のある)施策を行うためには、その前提として、①広告費・交通費・交際費等の冗費削減、②役員報酬の削減、③賃料の猶予・減額、④業務委託契約の解除、⑤公租公課の猶予・減免、⑥補助金・助成金の受給、⑦リスケ・新規借入れ等の施策をできる限り行っている必要がある。 2 労働契約の基本知識 さて、労務に関連する経営上の施策を理解するにあたっては、労働契約の基本知識について、一通り理解しておくことが必要である。 労働契約には、「継続性」「集団性」という特徴があるため、労働契約が継続している間に生じた状況の変化(今回でいえば、新型コロナウイルスの流行)に応じて、労働契約の内容を集団的に変更する手段が必要になる。 この点、日本の法制では、解雇権濫用法理により、正社員の解雇が困難になっていることに特徴がある。そのため、正社員の解雇以外の手段、すなわち、①非正社員の雇い止め、②賞与の調整による賃金額の調整、③残業時間の調整による労働時間の調整、④配転・出向による労働編成上の調整、⑤企業レベルの労使交渉及び就業規則変更による職場ルールの変更により対応することが求められている。 上記⑤の点に関し、労働契約については、法律と個別契約以外にも重要なルールがあることに留意する必要がある。すなわち、労働契約の内容は、(ア)法律(強行規定)、(イ)労働協約(労働組合と使用者の書面による合意)、(ウ)就業規則(使用者が定める職場ルール)、(エ)個別契約により定まるとされており、基本的にはこの順で効力が優先すると考えてよい(もう少し厳密に言えば、労働協約については、「誰に適用されるか」という問題があり、就業規則については、これよりも労働者にとって有利な内容を個別契約で定めた場合は、個別契約が優先するという片面的な関係になっている)。 以下では、大まかなイメージをつかめるよう、「使用者の判断でできること」と、「使用者の一方的な判断で行うにはハードルが高いこと」に大別して、労務に関する経営上の施策の概要を説明する。 3 使用者の判断でできること (1) 新規採用の停止 新規採用の停止については、労働契約が未成立であれば、使用者の一方的な判断で行うことができる。ただし、いわゆる内定以前の段階であっても、労働契約が既に成立しているとされる場合には、一方的に契約を終了させることはできない。 (2) 非正社員の雇い止め 非正社員の期間満了時の雇い止めは、使用者の一方的な判断で行うことができる。ただし、契約期間が通算5年を超える労働者から請求があった場合、雇い止めをすることはできないし(労働契約法18条1項)、無期契約と実質的に異ならない場合、労働者が更新を期待することが合理的だと認められる場合は、解雇と同様に扱われる(労働契約法19条)。また、契約期間中の解雇は、やむを得ない事由がある場合でなければできない(労働契約法17条1項)。 (3) 昇給停止や賞与の減額・不支給 昇給停止や賞与の減額・不支給については、具体的な昇給幅や賞与の額が、契約内容として定められていなければ、使用者の一方的な判断でこれを行うことができる。ただし、就業規則や雇用契約の定めを確認する必要がある。 (4) 残業禁止 契約内容とされているのは、あくまでも所定時間の労働なので、使用者が一方的に所定時間外の労働である残業を禁止し、残業代が発生しないようにすることは可能である。ただし、実際に業務量を調整し、サービス残業が生じないようにする必要がある。 (5) 配転・出向 配転・出向については、就業規則に一般的な定めがあることが多く、それに基づいて使用者が一方的に命じることができる。これにより労働力を融通し、無駄な人件費の発生を抑制することができる。ただし、権利濫用にならないように注意する必要がある。 (6) 休業 以上のような対応をしても労働力が過剰になる場合、本来の労働日、あるいはその日の所定労働時間の一部について、使用者の判断で休業させること自体は、使用者の判断で可能である(労働者に就労請求権はない)。 ただし、労働者を休業させた場合、休業分に対応する支払いを常に免れることができるわけではなく、賃金全額、あるいは休業手当の支払いを要することがある。 すなわち、第1に、民法536条では、「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」により、労働者が労務を提供することができなくなった場合、使用者は、賃金全額の支払いをしなければならないとされている。 この点については、新型コロナウイルスについて緊急事態宣言が発令されたことによる休業の場合や、休業させることがやむを得ない経営状況にある場合は、これに当たらないと考えるが、少数組合に対して十分な説明をしなかった場合や、非正社員と正社員とで違う扱いをした場合に、「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」を認めた裁判例もあるところから、交渉手続の公正さにも留意する必要がある。 第2に、労働基準法26条では、「使用者の責に帰すべき事由」により休業した場合には、使用者は、平均賃金(労働基準法12条。原則として直前3ヶ月間の賞与等を除いた賃金総額をその期間の総日数で割った金額)の6割以上の休業手当を支払わなければいけないとされている。 これは、労働者の生活保障のため、使用者の帰責事由をより広い範囲で認めたものであり、不可抗力の場合(①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合)を除き、使用者側の領域で生じた経営上の障害を幅広く含むものと解釈されている。 この点については、新型コロナウイルスについて緊急事態宣言が発令されたことによる休業の場合、争いがあるものの、配転やテレワークにより就労させることが困難であれば、休業手当も発生しないと考えるべきであろう。 その場合も、可能な限り、労使間の合意により任意の休業手当の支払いを行うことが望ましいことは当然であるが、その額は平均賃金の6割を下回ってもよい。ただし、雇用調整助成金(特例措置がとられており、上限の増額と要件の緩和が行われている)を利用する場合は、平均賃金の6割以上の休業手当を支給することが要件とされているため、利用を検討している場合は、支給額に注意する必要がある。 なお、1日の所定労働時間の一部の休業(時短)の場合、行政解釈では、就労時間に対応した賃金が平均賃金の6割を超えていれば、不就労時間に対する休業手当の支払いは要しないとされている(昭和27年8月7日基収3445号)。 4 使用者の一方的な判断で行うにはハードルが高いこと (1) 変形労働時間制の導入 今般の新型コロナウイルス感染症に関連して、人手不足のために労働時間が長くなる場合や、事業活動を縮小したために労働時間が短くなる場合については、1年単位の変形労働時間制を導入することで、1年間を通して労働時間の帳尻を合わせ、人件費の総額を維持することが考えられる。導入のためには、労使協定(過半数労働組合又は過半数代表者との書面による協定)を締結する必要がある。 (2) 賃金減額 賃金減額を使用者の一方的な判断により行おうとする場合、就業規則の不利益変更が問題となる。これについては、就業規則を労働者に周知するという前提で、就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況等の事情に照らして合理的なものであるときに限って認められる(労働契約法10条)。 賃金は、労働契約の根幹となる重要な条件であるから、この変更により①労働者の受ける不利益の程度は極めて大きいといえ、一般的にはそのハードルは高い。 しかしながら、新型コロナウイルスにより事業者が被っている打撃の大きさに照らせば、②労働条件の変更の必要性が極めて高い(労働条件を変更できなければ正社員の人員削減を行わざるを得ない、または倒産する)という場合も多くあるものと思われるところであり、その場合には、③変更後の就業規則の内容の相当性(賃金減額による不利益を労働者に公平に負担させる)、④労働組合等との交渉の状況(賃金減額の必要性が極めて高いことについて労働者に情報提供したうえで交渉する)にも配慮したうえであれば、就業規則の不利益変更による賃金減額も認められると考えるべきである。 労働者に対する情報提供及び交渉は、就業規則の不利益変更を有効に行うためにも必須である。最終的に同意が得られない労働者との関係では、就業規則の不利益変更で対応せざるを得ないとしても、できる限り多くの労働者に納得してもらい、賃金減額について個別の同意を得ることが望ましい。 (3) 正社員の人員削減 正社員の人員削減を使用者の一方的な判断により行う、いわゆる整理解雇については、解雇一般と同様に、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用を受ける。しかし、労働者に落ち度がないことから、解雇一般に比べて、より具体的で厳しい制約を受けることとされ、裁判例上、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性の4要素を総合的に考慮して判断することとされている。 これらの要素の中では、②解雇回避措置の相当性が特に重要であり、「解雇回避措置」として、これまで述べてきたような施策や、労働者との合意による人員削減を目的とした施策(希望退職募集や退職勧奨)のうち、使用者の状況に照らして可能な限りの措置をとることが求められる。 ここでいう「使用者の状況」には、①人員削減の必要性がどれほど切羽詰まったものであるかということも含まれ、使用者の体力と時間的余裕によっては、可能な「解雇回避措置」が限られることもあり得る。その意味で、①人員削減の必要性と、②解雇回避措置の相当性とは、相関関係にある。 これまでの裁判例には、希望退職募集の不実施は、相当な理由がないと、解雇回避努力義務違反に当たるとするものもあったが、新型コロナウイルスの影響により倒産の危機に瀕しているという場合には、そこまでの措置は求められない可能性が高い。 とはいえ、整理解雇が認められるためのハードルは高く、その結果を予想することも困難であるうえ、訴訟を抱えること自体が、金銭・時間の両面で大きな負担であるから、労働者に人件費削減を必要とする状況を説明したうえ、退職に応じてもらう(あるいは賃金減額に応じてもらう)ことが望ましい。 なお、退職に応じてもらう際に、再雇用の約束をした場合、現行制度の下では、再就職活動の意思が否定され、失業保険を受給できない可能性があることに留意する必要がある。この点については、東日本大震災のときなどと同様に、「みなし失業制度」を導入し、休業者であっても失業保険を受給できるようにすること、あるいは、雇用保険未加入者をも対象にした新たな給付制度を導入することが検討されている。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会がKAMに関するQ&A集の統合版を公表 ~前編・後編公表後の各所の議論を踏まえ設問の追加等を行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年6月8日、日本監査役協会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」を公表した。 2019年6月11日公表の「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」、2019年12月4日公表の「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を統合するものである。 Q&A集の前編及び後編は、KAMに関して早期適用を行う会社を想定していたが、統合版は、公表後の議論などを踏まえ検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正点 以下では主な改正点について解説する。 1 事業等のリスクとKAMの記載項目の関連性(Q1-3-9) KAMとされた項目は、必ず、有価証券報告書に記載する事業等のリスクでも記載しないとならないのかについて、両者の整合性は求められていないものの、結果として整合することになると思われるとしている。 可能な限り、記述情報の充実が図られることが望ましいとしている。 2 監査役会等の活動状況とKAMとの関連性(Q1-3-10) 監査役会等の活動状況における記載内容に、KAMを記載しなければならないということはない。 3 KAMと監査役会等の重点監査項目との関係(Q3-2-6) 期初においてKAM候補となった項目と、監査役会等の重点監査項目を一致させる、あるいはあらかじめすみ分けるという整理は不要である。ただし、KAM候補となった項目も、監査役会等の重点監査項目も、ともに監査上の主要な論点であるので、監査役等としては、監査人の情報と執行側の見解を十分に聴取し、チェックする必要がある。 4 株主総会におけるKAMに関する質問(Q3-5-2) 株主総会におけるKAMに関する質問について、次の例示が記載されている。 (了)
《速報解説》 法務省から「会社計算規則の一部を改正する省令案」が公表される ~収益認識に関する会計基準等に対応し注記等が整備される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年6月4日、法務省は、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、「収益認識に関する会計基準」(令和2年3月31日、改正企業会計基準第29号)及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)等に対応するものである。 意見募集期間は2020年7月3日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 損益計算書等の区分 損益計算書等における売上高の表示について、売上高(売上高以外の名称を付すことが適当な場合には、当該名称を付した項目)とする(会社計算規則案88条1項1号)。 2 会計上の見積りに関する注記 注記表に「会計上の見積りに関する注記」を加える(会社計算規則案98条1項4号の2)。 会計上の見積りに関する注記は次に掲げる事項とする(会社計算規則案102条の3の2)。 3 重要な会計方針に係る事項に関する注記 「重要な会計方針に係る事項に関する注記」に、次の規定を加える(会社計算規則案101条2項)。 4 収益認識に関する注記 「収益認識に関する注記」について、次のように改正する(会社計算規則案115条の2)。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 ASBJが「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」の公開草案を公表 ~金利指標置換の可能性の高まりを受け、会計処理等の取扱いを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年6月3日、企業会計基準委員会は、「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第59号)を公表し、意見募集を行っている。 ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate:LIBOR)の公表は、2021年12月末をもって恒久的に停止される。 これにより、LIBORを参照している契約において、参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっていることから、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにする必要がある。 なお、公開草案最終化時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公開草案の最終化から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定とのことである(公開草案48項)。 意見募集期間は2020年8月3日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 範囲 LIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲とする(公開草案3項、21項、23項)。 次のものも適用範囲とする。 Ⅲ 金利指標置換前の会計処理 1 ヘッジ対象又はヘッジ手段の契約の切替 公開草案の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(公開草案5項)。 2 ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ) 3 金利スワップの特例処理等 Ⅳ 金利指標置換時の会計処理:ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ) 金利指標置換前において公開草案の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合については、金利指標置換時において、ヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(公開草案12項)。 Ⅴ 金利指標置換後の会計処理 1 ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ) 金利指標置換前において公開草案の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時以後において、公開草案8項の取扱いを適用しヘッジ会計の適用を2023年3月31日以前に終了する事業年度まで継続することができる(公開草案13項)。 これは、LIBORの公表停止が予定されている2021年12月末から概ね1年間を想定したものである(公開草案48項)。 また、当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(公開草案13項)。 2 金利スワップの特例処理等 金利スワップの特例処理及び振当処理についても原則的処理方法に関して提案した特例的な取扱いと同様の特例的な取扱いとする(公開草案15項)。 Ⅵ 注記事項 Ⅶ 適用時期等 (了)
《速報解説》 会計士協会及び金融庁より COVID-19に係る監査の国際動向(翻訳情報)が続けて公表される ~継続企業の前提の評価、後発事象、金融商品、開示の重要性~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、次の文書を公表している。 また、証券監督者国際機構(IOSCO)は、次の声明を公表している。 これらの文書等は、監査人の監査実務の動向を理解するうえで参考になる部分があると考えられる。 IOSCOは、現在の環境において監査人が課題に直面していることを理解しているとしつつも、監査人には職業上の基準に従って高品質な監査を実行する責任が引き続きあると述べている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 継続企業の前提の評価(IAASB) 国際監査基準に基づき、経営者が継続企業を前提として財務諸表を作成することの適切性に関して、監査人が評価する際の主要な留意事項を述べている。 下記のほか、監査上の主要な検討事項(KAM)、財務諸表の確定(承認)の著しい遅延などについても述べている。 1 新型コロナウイルス感染症の影響による事象又は状況の例示 次の事象又は状況を例示している。 上記の事象又は状況の例示に関する経営者の評価に対して、監査人が検討するポイントとして、例えば、次のことを述べている。 2 追加的な監査手続 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を識別した場合の追加的な監査手続を示し、監査人が留意するポイントとして、次のことを述べている。 Ⅲ 後発事象(IAASB) 国際監査基準に基づき、監査人が後発事象に関する監査手続を実施する際の主要な留意事項を述べている。 現在の環境下における後発事象に関する経営者の責任についてのさらなるガイダンスは、国際会計士連盟(IFAC)がまとめた「COVID-19が財務報告に与える影響」に記載されているとのことである。 1 修正後発事象と開示後発事象 後発事象には、次の2つのものがある(ISA 560「後発事象」)。 監査人は、後発事象に関する監査人のリスク評価(COVID-19の世界的流行の影響に関する根拠を含む)に対応した作業を実施する際に、修正後発事象と開示後発事象の区別に用いたスケジュールを含む、経営者による修正又は開示を検討する。 2 関連性があると考えられる事象及び状況の例示 監査人が、後発事象が発生したかどうか、及び該当する場合に財務諸表に適切に反映されたかどうかを判断する際に、関連すると考えられる事象又は状況の例示として、次のことを示している。 3 新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関する事象が、監査報告書日より後に監査人が知るところとなった場合に要求される監査手続 監査人は、監査報告書日後(財務諸表の発行日の前か後かは問わない)に、財務諸表に関していかなる監査手続を実施する義務も負わない。 しかしながら、監査人が、監査報告書日現在に気付いていたとしたら、監査報告書を修正する原因となった可能性のある事実を知るところとなった場合は、この限りでない。 例えば、2020年4月8日に新型コロナウイルス感染症に関する重要な事象を監査人が知るところとなった場合において、もし当該事象を監査人が2020年3月31日(監査報告書日)に知っており、監査報告書を修正する原因となった可能性があるのであれば、追加の手続が要求される可能性がある。 Ⅳ 会計基準の適用に関するIOSCO声明 証券監督者国際機構(IOSCO)は、証券監督当局の主要な国際機関であり、証券規制のグローバルな基準設定主体として認識されている。 IOSCOは、国際会計基準審議会(IASB)が提供した、COVID-19の発生に起因する経済的不確実性下において、IFRS第9号「金融商品」に従った予想信用損失の会計処理の適用に関する教育的資料を歓迎すると述べている。 COVID-19の流行に対応した政府などの実施する救済プログラムなどの支援策を考慮し、金融商品の残存期間における信用リスクを検討し、入手可能な最良の情報に基づいた長期の経済予測といった将来情報を利用する必要があることなどを述べている。 Ⅴ 開示の重要性に関するIOSCO声明 1 最善の入手可能な情報 現在の環境では、発行体(企業)は通常よりも大きい不確実性を伴う重要な判断と見積りを行う必要があり、IOSCOは、財務情報が公開された後に変更される可能性のある潜在的に不完全な情報であり、変化する不確実な環境において財務諸表を作成することの困難さを理解していると述べている。 それでもなお、IOSCOは、発行体がCOVID-19の流行の影響、基準設定主体が公表したガイダンスと各法域において利用可能な政府の救済と支援策を考慮した、十分に合理的で裏付けのある判断や見積りを行うにあたり、最善の入手可能な情報を使用する責任があると述べている。 例えば、合理的で裏付けのある仮定に基づくキャッシュ・フロー予測では、資産の残存耐用年数にわたる経済状況の範囲について、経営者による最善の見積りが必要になる場合があると述べている(公正価値測定、減損評価)。 2 透明で完全な開示の重要性 IOSCOは、特に不確実性が高まる環境では、十分な水準の透明性を提供し、判断や見積りに内在する不確実性に関して企業固有の開示を、財務報告に含めることが重要であるとしている。 開示に際して次のことを述べている。 さらに次のことも述べている。 上記のほか、例えば、COVID-19に関連しない減損の兆候が流行の前に存在していた場合に、当該減損をCOVID-19に関連させたりしないように注意するように述べている。 (了)