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措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第25回】「非課税承認が取り消された場合の課税関係」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第25回】 (最終回) 「非課税承認が取り消された場合の課税関係」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 譲渡所得税の非課税承認が取り消された場合、どのような課税が生じますか。   - 回 答 - 受贈法人が、寄附財産を受贈法人の公益目的事業の用に直接供する前に非課税承認が取り消されたときは、寄附者に対して所得税が課税され、公益目的事業の用に直接供した後に非課税承認が取り消されたときは、受贈法人に対して所得税が課税されます(措法40②③、措令25の17⑩~⑱)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 現物寄附を行った財産に対し、寄附を行った個人が非課税承認をいったん受けても、その後、定められた要件(【第13回】参照)を満たさなくなった場合には、その時点で承認が取り消され、本来課されたであろう所得税の課税が行われることになります。 (1) 一般特例の場合 一般特例に係る申請について非課税承認を受けた場合であっても、次の①~③に該当するとその承認が取り消され、非課税承認が取り消された日の属する年分の所得として所得税が課されることになります。 (2) 承認特例の場合 承認特例に係る申請について非課税承認を受けた場合であっても、次の④~⑥に該当するとその承認が取り消され、非課税承認が取り消された日の属する年分の所得として所得税が課されることになります。   (連載了)

#No. 383(掲載号)
#中村 友理香
2020/08/27

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第50回】「建設協力金の会計処理」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第50回】 「建設協力金の会計処理」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 建設協力金とは、ある土地及び建物を借りるにあたって、賃借人が賃貸人(土地の所有者)に建物の建設費用を預託する金銭のことをいう。一般的には、一定期間据え置き後に、利息とともに分割返済される(又は賃料と相殺される)のが一般的である。 今回は、賃借人の建設協力金の会計処理について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 建設協力金は、契約により、将来返還される部分と返還されない部分に分かれる(場合がある)。 そして、ぞれぞれで会計処理が異なるため、将来返還される部分については、【STEP2】及び【STEP3】を検討し、将来返還されない部分について、【STEP4】を検討する。 賃借人が建設協力金を支払った際には、返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値を時価として認識する。そのため、割引計算が必要となる。 そして、支払額と当該時価との差額は、長期前払家賃として計上し、契約期間にわたって各期の損益に合理的に配分する(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」133)。 (※1) キャッシュ・フローの割引現在価値 (※2) 差額 (※3) 支払額 【留意点】 ➤建設協力金に関して、差入企業が対象となった土地建物に抵当権を設定している場合、現在価値に割り引くための利子率は、原則としてリスク・フリーの利子率(例えば、契約期間と同一の期間の国債の利回り)を使用する。ただし、返済期日までの期間が短いもの等、その影響額に重要性がないものは、現在価値に割り引かないことができる(実務指針133)。 ➤現在価値に割り引かない建設協力金は債権に準じて会計処理するため、貸倒引当金の計上を検討する必要がある。   建設協力金は、一般的に一定期間後に返還されるため、返還される前と後で会計処理が異なる。 (1) 建設協力金の返還が始まる前 長期貸付金は、割引計算された金額のため、契約期間に応じて利息をプラスする必要がある(利息法により計算する)。一方、長期前払家賃は、契約期間で均等に費用処理する必要がある。 (※1) 長期貸付金の残高 × 割引率 (※2) 長期前払家賃の残高 ÷ 契約残存期間 (2) 建設協力金の返還が始まった後 上記(1)の会計処理に加えて、契約利率に応じた利息を受け取るため、受取利息を計上する。また、元本返還された金額を会計処理する必要がある。 (※3) 長期貸付金の残高 × 割引率 (※4) 建設協力金残高(= 建設協力金の支出額 - 元本返還額)× 契約利率 (※5) (※3)+(※4) (※6) 建設協力金の元本返還額 (※7) 長期前払家賃の残高÷契約残存期間 将来返還されない部分の額については、支払額で資産計上し、その後、賃借期間にわたり定額法により償却する(実務指針133)。 (1) 支払時 (※1) 支払額 (※2) 勘定科目は各社の状況に応じて適切に設定することが考えられる。 (2) 支払後 (※3) 残高 ÷ 賃借残存期間 《設例》 X社は入居予定の建物の建設資金1,100を、地主A社に建設協力金として支払った。 〈会計処理〉 1 X0年4月1日 (※1) 割引現在価値 (※2) 支払額 (※3) 差額 (※4) 返還されない部分 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 X1年3月31日 (※5) 利息法で計算 (※6) 162 ÷ 10年間 = 16 (※7) 100 ÷ 10年間 = 10 3 X6年3月31日 *  *  * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 383(掲載号)
#西田 友洋
2020/08/27

税効果会計を学ぶ 【第11回】「その他有価証券の評価差額に係る一時差異などに関する税効果」

税効果会計を学ぶ 【第11回】 「その他有価証券の評価差額に係る一時差異などに関する税効果」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、次の事項に関する税効果会計における取扱いについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ その他有価証券の評価差額に係る一時差異 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱いは、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)を踏襲している(回収可能性適用指針107項、108項)。 1 個々の銘柄ごとにスケジューリングする方法 その他有価証券の評価差額に係る一時差異は、原則として、個々の銘柄ごとにスケジューリングを行って、次のように繰延税金資産及び繰延税金負債を計上する(回収可能性適用指針38項)。 2 個々の銘柄ごとにスケジューリングしない方法 上記の「1 個々の銘柄ごとにスケジューリングする方法」が原則的な方法であるが、回収可能性適用指針では、個々の銘柄ごとではなく、次のように一括して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することができると規定している(回収可能性適用指針38項ただし書)。 3 スケジューリング不能なその他有価証券の純額の評価差損又は評価差益に係る一時差異(回収可能性適用指針38項(2)によった場合) 回収可能性適用指針39項は、次のように規定している。 なお、スケジューリング不能なその他有価証券の評価差額に係る一時差異について、回収可能性適用指針38項(2)によった場合、当該一時差異はスケジューリング不能であるため、その他有価証券の売却損益計上予定額を将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む)に含めることはできない(回収可能性適用指針40項)。   Ⅲ 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱いは、「税効果会計に関するQ&A」を踏襲している(回収可能性適用指針110項~114項)。 連結財務諸表における退職給付に係る負債に関する繰延税金資産の回収可能性は、まず、個別財務諸表における退職給付引当金に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産の額を計上し、これに連結修正項目である未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(未認識項目)の会計処理により生じる将来減算一時差異に係る繰延税金資産の額を合算し、この合算額について回収可能性適用指針6項に従って回収可能性を判断する(回収可能性適用指針43項、109項)。 連結財務諸表における当該繰延税金資産の回収可能性については、個別財務諸表において回収可能性適用指針15項から32項に従って判断した分類に基づいて判断する(回収可能性適用指針43項、110項、111項)。 個別財務諸表における退職給付引当金に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産の額に未認識項目の会計処理により生じる将来減算一時差異に係る繰延税金資産の額を合算した繰延税金資産の回収可能性については、回収可能性適用指針35項に定める解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱いを適用する(回収可能性適用指針44項、112項)。   Ⅳ 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い 繰延ヘッジ損益に係る一時差異は、繰延ヘッジ損失と繰延ヘッジ利益とに区分し、次のように繰延税金資産及び繰延税金負債を計上する(回収可能性適用指針46項、115項)。 (了)

#No. 383(掲載号)
#阿部 光成
2020/08/27

令和2年 年金制度改正のポイント 【第1回】「短時間労働者の社会保険の適用拡大(その1)」~対象企業の拡大と勤務期間要件の撤廃~

令和2年 年金制度改正のポイント 【第1回】 「短時間労働者の社会保険の適用拡大(その1)」 ~対象企業の拡大と勤務期間要件の撤廃~   特定社会保険労務士 佐竹 康男   1 改正の概要 改正年金法(年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律)が令和2年5月29日に成立し、6月5日に公布されました。 働き方改革により進められてきた多様な働き方に対応することや、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図ること等を目的としています。 改正法の主な内容は、短時間労働者の厚生年金保険の適用拡大、在職老齢年金の支給停止基準の引上げ、繰下げ受給の上限年齢の引上げ等ですが、被保険者資格に関する適用関係と年金受給に関する給付関係の両面にわたる改正となっているのが特徴です。 【改正年金法の概要】(公的年金部分の主なもの) 〈保険の適用関係〉 〈保険の給付関係〉   2 パートタイム労働者の厚生年金保険への加入拡大(健康保険も同様) (1) パートタイム労働者の社会保険への加入(現行法) 適用事業所に常時使用されている者(厚生年金保険は70歳未満の者)が社会保険の加入者(以下「被保険者」といいます)ですが、パートタイム労働者等の労働時間及び労働日数が正社員より短い者は、1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される正社員の4分の3以上である者が被保険者になっています。 前記要件を満たさないパートタイム労働者(以下「短時間労働者」といいます)の場合は、現に使用されている事業所の規模により適用が異なります。 ① 常時501人以上の被保険者を使用する事業所(特定適用事業所) 次の(a)から(d)までの4つの要件を満たす短時間労働者ついては、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。 ② 常時500人以下の被保険者を使用する事業所 短時間労働者は任意加入になります。「労使の合意」があれば、上記①の(a)から(d)に該当する者を被保険者にすることができます。 (2) 改正後【2022年10月等の施行】 ① 対象企業の拡大 上記(1)の①の従業員規模が見直され、現行の常時501人以上の事業所から、2020年10月には101人以上の事業所へ、2024年10月には51人以上の事業所へ拡大されます。従業員数が前記未満の企業については従来どおり労使の合意があった場合に被保険者になることができます。 ② 勤務期間要件の撤廃 上記(1)の①の(b)の短時間労働者の勤務期間要件である「その事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること」が撤廃されます。したがって、例えば、3ヶ月の雇用契約を締結している短時間労働者でも、他の要件を満たすことができれば被保険者になることができます。 (3) 社会保険加入のメリット・デメリット 短時間労働者は、サラリーマンの配偶者や自営業者の配偶者が大半です。 社会保険の加入は、短時間労働者にとって、将来の年金額の増加等、給付面ではメリットはありますが、費用面では必ずしもメリットだけではなくデメリットもあります。 2020年10月以降の社会保険の適用範囲について、具体的な事例で考えてみましょう。 (了)

#No. 383(掲載号)
#佐竹 康男
2020/08/27

社外取締役と〇〇 【第5回】「社外取締役と善管注意義務」

社外取締役と〇〇マルマル 【第5回】 「社外取締役と善管注意義務」   西村あさひ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 田端 公美   1 善管注意義務とは何か 取締役は、会社との間で委任関係に立ち、その職務を遂行する際に、善良な管理者としての注意義務(いわゆる善管注意義務)を負う(会社法330条、民法644条)。また、取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のために忠実にその職務を行う義務(いわゆる忠実義務)を負う(会社法355条)。 忠実義務は、善管注意義務とは別個の高度な義務を規定したものではなく、善管注意義務を敷衍したものにとどまるというのが判例(※1)の立場であり、本稿においては忠実義務を含む意味において善管注意義務という用語を用いる。 (※1) 最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁 取締役は、善管注意義務に違反し、会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負い、株主代表訴訟の対象となる(会社法423条1項、847条)。また、第三者に損害を与えた場合に、当該第三者に対して損害賠償責任を負う場合もある(会社法429条1項)。   2 社外取締役の善管注意義務の水準及び内容 善管注意義務の求める水準は、当該地位や状況にある者に通常期待される程度のものであり、社外取締役と一般の取締役で異ならない。ただし、特に専門的能力を買われて取締役に選任された者については、期待される水準は高くなるとも指摘されている(※2)。 (※2) 江頭憲治郎『株式会社法(第7版)』(有斐閣、2017年)434頁 注意義務の具体的な内容は、個々の取締役の任務の範囲によって異なる。社外取締役の場合、自らが業務執行をするわけではないため、経営判断に対する直接的な責任は負わず、他の取締役・使用人に対する監視を十分に行っていたかが問題とされる。また、社外取締役は、基本的に非常勤であり、取締役会の審議に参加することを通じて監視を行うことが期待されており、裁判例上も、このような社外取締役の業務執行への関わり方に配慮した判断がなされている。 例えば、ネオダイキョー自動車学院事件高裁判決(※3)は、親会社から不適正に高額な価格で不動産を購入した会社の常勤取締役の責任を肯定したのに対して、非常勤の社外取締役の責任を否定したが、その理由として「非常勤の社外取締役であり、本件取引の真の目的やそれが自動車学院に損害をもたらすことを知らされていないのはもちろんのこと、本件取引の詳細を知ったのは取締役会の席上が初めてであり、不動産の価格については特段の知識を有しておらず、不動産鑑定士による鑑定書によっているので格段問題があると考え」なかったという事情が考慮されている。 (※3)  大阪高判平成10年1月20日判タ981号238頁   3 監視義務の範囲と内部統制システム (1) 信頼の原則 判例は、取締役の監視義務の範囲に関して、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求めて、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有し(※4)、このことは非常勤取締役やいわゆる名目的取締役であっても異なるものではない(※5)としている。 (※4) 最判昭和48年5月22日民集27巻5号655頁 (※5) 最判昭和55年3月18日判タ420号87頁 もっとも、内部統制システム等が整備されている場合には、他の取締役に信頼を置くことが認められ、他の取締役の職務執行が違法であることを疑わせる特段の事情がない限り、監視義務違反に問われることはないと一般に解されている(信頼の原則)。 例えば、ヤクルト本社事件高裁判決(※6)は、「相応のリスク管理体制に基づいて職務執行に対する監視が行われている以上、特に担当取締役の職務執行が適法であることを疑わせる特段の事情が存在しない限り、担当取締役の職務執行が適法であると信頼することには正当性が認められるのであり、このような特段の事情がない限り、監視義務を内容とする善管注意義務違反に問われることはないというべきである。」と判示した。 (※6)  東京高判平成20年5月21日判タ1281号274頁 (2) 社外取締役の内部統制システム構築義務 内部統制システムは、取締役会において基本方針を決定した上で(会社362条4項6号)、業務執行取締役がその具体的な内容を決定し整備を行うことが通常である。社外取締役は、業務執行取締役が、内部統制システムを適切に構築するよう監視する義務を負う(※7)。 (※7) 社外監査役に対して内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務を認めた裁判例として、大阪高判平成27年5月21日金判1469号16頁がある。 いかなる内部統制システムを構築するかについては取締役に広い裁量が認められているものの、裁判例上、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制が必要とされており(※8)、少なくとも同業他社並みのシステムを備えているかが考慮されている(※9)ことを踏まえると、過去の自社及び同業他社の不祥事事案(未遂を含む)を踏まえた検討・整備がきちんとなされているかモニターすることが重要になろう。 (※8) 最判平成21年7月9日集民231号241頁 (※9) 前掲(※6)   4 業務執行の是正 取締役会での説明・報告に不審点がある等、社外取締役が、違法又は不当な業務執行が行われている疑いがあると気づいた場合には、適切な是正措置を講ずる義務がある。 判例(※10)は、「必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求めて、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有する」と指摘する。また、会社法上、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を把握した場合には、直ちに監査役(会)に報告する義務があるところ(会社法357条)、そこまで至らない場合であっても監査役(会)に情報共有することが考えられる。 (※10) 前掲(※4)(※5)(※6)   5 おわりに 社外取締役に期待される役割や取組みに関しては、経済産業省「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(2020年7月31日)や、日本弁護士連合会「社外取締役ガイドライン」(2019年3月14日)が公表されている。これらのガイドラインはベストプラクティスを示したものであるが、善管注意義務を実践する観点からも参考になる。 (了)

#No. 383(掲載号)
#田端 公美
2020/08/27

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例50】株式会社大戸屋ホールディングス「株式会社コロワイドによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」(2020.7.20)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例50】 株式会社大戸屋ホールディングス 「株式会社コロワイドによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 (2020.7.20)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社大戸屋ホールディングス(以下「大戸屋」という)が2020年7月20日に開示した「株式会社コロワイドによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」である。本連載で同社の開示を取り上げるのは、【事例18】に続いて2回目となる。 タイトルのとおり、株式会社コロワイド(以下「コロワイド」という)が大戸屋に対して株式公開買付け(TOB)を行うこととしたのだが(コロワイドは2020年7月9日に「株式会社大戸屋ホールディングス株式(証券コード:2705)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示、それを受けて、同日、大戸屋も「株式会社コロワイドによる当社株式の公開買付けに関するお知らせ」を開示)、大戸屋はそれに反対する意見を表明したのである。   2 敵対的TOBに至る経緯 始まりは、大戸屋の創業者である三森久実氏(故人。以下「久実氏」という)の妻である三森三枝子氏と子息である三森智仁氏(以下「智仁氏」という)からコロワイドへの大戸屋株式(議決権比率18.67%)の譲渡だった。それについて、2019年10月1日、大戸屋は「主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」を、コロワイドは「株式会社大戸屋ホールディングス(証券コード:2705)の株式買付けの決定に関するお知らせ」を開示しているが、コロワイドの開示には次のように記載されていた。 しかし、「友好的協議」とはいかなかったようで、コロワイドは、自らが選んだ候補者を大戸屋の取締役として選任することを、2020年6月25日開催の大戸屋の定時株主総会の議案として提案した。コロワイドが同年4月14日に開示した「株式会社大戸屋ホールディングスに対する株主提案に関するお知らせ」には、次のような記載がある。当初から大戸屋を子会社化する意図があったのだろう。 このコロワイドによる株主提案に対して、大戸屋は反対意見を表明し(大戸屋は2020年5月25日に「当社定時株主総会に係る株主提案に対する当社取締役会の反対意見に関するお知らせ」を開示)、結局、株主総会でそれは否決された(これに関連して大戸屋は2020年6月29日に「当社株主総会における提案株主様の議決権行使について」を開示)。 そのため、コロワイドは、次の手としてTOBへと移ったのだが、2020年6月25日の定時株主総会の後、「株式会社大戸屋ホールディングス株式(証券コード:2705)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示したのが同年7月9日であり、随分迅速な対応である。コロワイドは、株主総会で提案が否決された場合を考慮し、TOBの準備も進めていたのではないだろか。 こうした経緯を見て、読者の多くは、コロワイドに対して強圧的な印象を抱くだろう。ちなみに、大戸屋が2020年7月20日に「株式会社コロワイドによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」を開示した後、コロワイドは大戸屋の独立社外取締役へ書状を送付している。コロワイドが同年7月27日に自社のホームページにのみ開示した「株式会社大戸屋ホールディングス独立社外取締役に対する書状送付のお知らせ」に、その書状の文面が掲載されているが、これもかなりきつめである。   3 TOBは成立するか? 今回のTOBの結論は、本稿執筆時点(2020年8月10日)では未だ不明だが(買付期間は同年8月25日まで)、ホワイトナイトが現れない限り、成立する可能性が高いだろう。大戸屋は2020年5月25日に「中期経営計画の策定に関するお知らせ」を開示しているが、2020年3月期は大赤字だった(同年5月19日に「2020年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」を開示)。コロナ禍の影響もあり、先行きが不透明であるため(大戸屋の決算短信でも、業績予想は非開示)、現在の株価よりも高い価格で買い取ってくれるならばと、TOBに応じる株主が多いのではないだろうか。 また、大戸屋は、反対理由として、コロワイドの子会社になると、企業価値・ブランド価値が毀損される、コーポレートガバナンス上の問題が生じる、経営のリスクが高まる等をあげているが、そうしたリスクはTOBの成立を後押しすることになってしまうだろう。大戸屋の株主としては、コロワイドの子会社になると、株式の価値が下がるようであれば、そうなる前に売ってしまおうと考えるはずだからである。   4 取締役候補者の中には コロワイドが提案した大戸屋の取締役候補者の中には、智仁氏の名前があり、TOB成立後の取締役候補者にも、そのまま名前があげられている。大戸屋が2020年4月16日に開示した「株主提案に関する書面の受領に関するお知らせ」に添付された、コロワイドによる株主提案書には、智仁氏を推薦する理由として、次のように記載されている。 その株主提案書には、智仁氏の略歴も記載されているが、大戸屋に勤務していたのは3年弱で、入社1年後に「執行役員社長室付」、2年後に「常務取締役海外事業本部長」とあり、現場経験はごくわずかのようである。コロワイドは、何をもって「創業者精神の継承」が可能だと考えているのだろうか。創業者の子息だからだろうか。だとしたら、創業者精神を継承しつつ現場で働かれている大戸屋の人達に失礼だろう。 あるいは、智仁氏から、コロワイドに対して、大戸屋株式を譲渡するうえでの条件として、大戸屋の取締役に加えることが提示されていたのだろうか。ちなみに、コロワイドの「株式会社大戸屋ホールディングス株式(証券コード:2705)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」によると、智仁氏らの方から、コロワイドに対して、大戸屋株式の譲渡について持ちかけたとのことである。   5 皮肉な運命 智仁氏は、「してやったり」と思っているのだろうか。智仁氏が3年弱で大戸屋を辞めた経緯については、【事例18】でも触れたが、大戸屋が2016年10月4日に開示した第三者委員会調査報告書を参照してほしい。大戸屋を辞めず、地道に頑張っていれば、いずれ同社の代表となり、同社の求心的存在になっただろうと思われるのだが。 コロワイドの傘下となった大戸屋は、まったく違う会社になるだろう。それは、創業者である久実氏が望んだことだろうか。久実氏にとって、大戸屋は、手塩にかけて育てた子供のようなものだろう。それが、本当の子供である智仁氏によって売り渡されることになるとは、何ともやるせない思いにさせられる。皮肉過ぎるが、これが大戸屋の運命だったのかもしれない。   【追 記】   TOBの買付期間最終日とされていた2020年8月25日、コロワイドは「株式会社大戸屋ホールディングスの現状と買付条件の変更について」を開示し、買付予定数の下限を45%から40%へ変更し(既に保有している分を含めて)、買付期間も同年9月8日まで延長することとした。同社の思うようには進んでいなかったようである。 40%を取得しただけでは、コロワイドが大戸屋を子会社化することはできない。しかし、大戸屋の経営陣を刷新することはできるだろう。 本稿公開日時点においてもTOBの結果は不明だが、果たしてどうなるのか。 (了)

#No. 383(掲載号)
#鈴木 広樹
2020/08/27

プロフェッションジャーナル No.382が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年8月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.382を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/08/20

日本の企業税制 【第82回】「令和3年度税制改正における研究開発税制の課題」-見直し事項とグループ通算制度での取扱い-

日本の企業税制 【第82回】 「令和3年度税制改正における研究開発税制の課題」 -見直し事項とグループ通算制度での取扱い-   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   令和3年度税制改正における法人課税関係の重要課題の1つが研究開発税制となることは間違いない。 研究開発税制は、企業が研究開発を行っている場合、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合(6~14%)を乗じた金額を控除できる制度である。ただし、法人税額に対する控除上限がある(総額型と呼ばれる本体部分は、法人税額の25%)。 総額型の基本的部分は恒久措置であるが、税額控除割合の上限の引上げ(10%⇒14%)の部分は期限切れを迎える。また、平均売上金額に占める試験研究費の割合が10%を超える場合の控除率・控除上限の上乗せ措置も期限切れを迎えるからである(それぞれ令和2年度末まで)。   〇研究開発税制見直しの課題 特に、新型コロナウイルス感染症の拡大により企業の業績が悪化する中、控除上限の金額が大幅に低下する恐れがある一方、積極的な研究開発投資を続けるインセンティブとしては、控除上限の在り方も課題となろう。 また、パッケージソフトの販売からクラウドサービスの提供へとビジネスモデルが転換する中、クラウドに係るソフトウェアは自社利用のソフトウェアとされ、自社利用のソフトウェアの研究開発費の額は、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており、それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされ、必ずしも現状にマッチしていない取扱いとなっている。   〇グループ通算制度における取扱い (1) 控除額の計算 令和2年度税制改正で創設されたグループ通算制度に関しては、令和4年4月1日からの施行に向け、その間の租税特別措置の改正も踏まえながら順次、租税特別措置の取扱いについて、グループ調整計算を行うのか、個別法人ごとの取扱いとするのかについて確定させていくこととされている。 なかでも研究開発税制については、減税規模が大きく、企業の関心が高いことから、例外的に、令和2年度税制改正の時点で、その取扱いが示されている。 グループ全体の試験研究費の合計額に基づき増減試験研究費割合を計算して税額控除割合を判定し、グループ全体の試験研究費の合計額にその税額控除割合を乗じて、グループ全体の税額控除限度額を計算するとともに、グループ全体の調整前法人税額の合計額の25%が控除上限となる。 ここまでの計算については、現行の連結納税制度と同様の処理となっており、グループ調整計算が維持されている。 (2) 通算法人への控除額の配分 上記のように計算したグループ全体での控除額を、各通算法人に配分することになるが、グループ通算制度は個別申告方式であることから、損益通算後の所得に係る法人税額(すなわち調整前法人税額)がない通算法人に控除額を配分しても控除できないので、調整前法人税額の比により、調整前法人税額のある法人(つまり黒字法人)の間で配分することとなる。 したがって、試験研究費の支出に応じて控除額が配分されるわけではなく、また試験研究費を支出していない黒字法人に控除額が配分されるということも起こりうる。 (3) 控除額の清算・会計処理 このように、各通算法人の支出した試験研究費のシェアと配分される控除額とは食い違うことから、事後的に、通算による税効果額を通算法人間で授受することも考えられる。 たとえば、各通算法人の試験研究費の比で按分した金額と、各通算法人の税額控除額との差額を通算による税効果額として授受することもありえよう。 税務上は、グループ内で税金精算をするかどうかは任意であり、通算による税効果額を授受しても、その授受する金額は、益金の額及び損金の額に算入しないこととされている。 もっとも、このような金銭の授受を、個別の通算法人が任意で行うのか、通算親法人が一括して清算することができるのか、また、こうした金額が、会計上、果たして「法人税等」として処理してよいのかどうかについては、会計基準等で明確化が図られることが期待される。 (4) 修更正の場合の処理 ある通算法人において試験研究費の額や調整前法人税額について修更正があった場合、他の通算法人においては、当初の確定申告書に記載された数値で固定され、修更正の影響は遮断される。 もっとも、修更正の生じた法人においては、グループ全体の控除税額計算をやり直し、グループ全体の税額控除可能額が当初の確定申告書に記載された税額控除可能額に満たなくなる場合には、その差額をすべて修更正の生じた法人にチャージし、税額控除可能分配額から減額し、場合によっては取り戻し課税が行われることになる。 (了)

#No. 382(掲載号)
#小畑 良晴
2020/08/20

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第17回】「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出する前に事前確定届出給与を支給した場合」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第17回】 「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出する前に事前確定届出給与を支給した場合」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ 事前確定届出給与制度は、役員に対して、従業員と同じ時期に賞与を支給する場合等に用いられている。事前に所轄税務署長に対し、個人別に支給時期・支給金額を記載した「事前確定届出給与に関する届出書(以下、「届出書」という)」を提出し、その届出どおりの時期と金額で支給をしていれば、恣意性の排除が担保されているものとして、当該支給額が損金算入されることとなる(法法34①二)。 本件の疑問点として、株主総会等で確定したものとして所轄税務署へ届出書を提出する以前に、確定した役員賞与をその定めどおりに支給しても問題ないのか、という点である。   (1) 「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限 ここで、一般的なことではあるが、届出書の期限を確認しておきたい。法人税法は、届出書の提出期限について政令委任しており、法人税法施行令によると、以下①又は②のいずれか早い日とされている(法令69④)。 (※1) 新設法人や臨時改定事由についての期限は割愛。 例えば、3月決算法人が5月20日に定時株主総会を開催し、6月1日から役員が職務執行を開始する旨、そして特定の時期に事前確定届出給与を支給する旨を定めた場合の届出書提出期限を考えたい。 税務上の「期限」は大変重要な論点であり、その期限を把握するためには「期間」の考え方を確認する必要がある。その基礎は、初日不算入の原則(通法10①一)と、「経過する日」と「経過した日」の意義がある。 まず、初日不算入の原則は、期間計算をする場合に初日を算入しないとするものであるため、その翌日が期間計算の起算点となる。これには例外も存在し、「その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるとき」は初日が期間計算に算入される(※2)。 (※2) 例えば、法人税法74条に定める確定申告の期限は「各事業年度終了の日の翌日から二月以内」である。3月決算法人の場合、事業年度終了の日が3月31日、その翌日は4月1日であるから、午前零時から始まる「各事業年度終了の日の翌日」に初日不算入の原則は適用されず、4月1日が期間計算に算入されることとなる。なお、「二月以内」と記載されている通り、期間の定めが月単位であるため暦に従い(同法10①二)、5月末が申告期限となる。 次に、「経過する日」と「経過した日」は、「期間の末日」の翌日が含まれるか否かという点で異なる。「経過する日」が期間の満了する日(末日)であることに対し、「経過した日」が期間の末日の翌日を指すのである。 以上を前提に、届出書の提出期限について確認すると、定時株主総会の当日は初日不算入の原則により期間に含まれないため、5月21日が起算日となる。これに対して職務執行開始日は6月1日であることから、5月21日から1月を経過する日までに提出しなければならない。 5月21日から1月を「経過する日」は期間の末日を指すため、6月20日が上記①に定める期限となる。これに対して、上記②に定める期限については、会計期間開始日が零時から開始するため例外的に初日が算入され、4月1日から4月を「経過する日」である7月31日が期限となる。したがって、この前提に立てば、①の期限の方が早いため、届出書の提出期限は6月20日となる(※3)。 (※3) なお、実際にはここに閉庁日の運用が加わる。具体的には、届出期限が土日祝祭日等に当たる場合、その日の翌日が提出期限となる(通法10②、通令2②)。   (2) 届出書の提出期限内、かつ提出前に役員賞与を支給した場合 上記のように、届出書は提出期限まで1ヶ月程度の猶予があることが一般的であり、翻せば、株主総会日等から1月以内を支給日とする役員賞与の支給を決議したらどうなるのか、という冒頭の疑問が生じる。結果として、届出書の提出前に事前確定届出給与の支給をすることが可能であり、法人税法上の役員給与に関する規定の趣旨である恣意性の排除がなされていないようにも思われるのである。 しかし、この点については、事前確定届出給与の額が株主総会等の決議であらかじめ定められた確定額どおりであれば、その届出書の提出時期を問題とする理由はないという情報が当初から存在することに加え(※4)、(1)で確認した通り、事前確定届出給与に関する諸規定はその届出書の提出期限や届出を行うこと自体が要件であることのみが定められているため、理論上は可能であると考えられる。 (※4) 「事前確定届出給与の届出書、1回⽬の⽀給後の提出でもOK」T&A master305号(2009)。 また、事前確定届出給与は職務執行の対価として役員へ支給されるものであり、それを職務執行期間の前半に支給することについて、それが企業慣行であるならば不自然ではないとする質疑応答事例がある(※5)。 (※5) 国税庁「役員給与に関する質疑応答事例」(2006)8頁。 そして、平成19年度税制改正前の届出書の提出期限は「その給与に係る職務の執行を開始する日と会計期間開始の日から3月を経過する日のいずれか早い日」であり、その給与に係る職務の執行を開始する日を株主総会の日と解すると期限まで実質的余裕がないという指摘もあったことから現行の期限に改正されたという経緯がある(※6)。この点に鑑みると、改正により生まれた期限までの余裕期間中の支給が損金不算入となるのであれば、些か不自然であるといえる。 (※6) 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規、加除式)2161頁の29。 なお、前回触れている通り、定時株主総会等の議事録をバックデートで作成する等の行為があった場合、「事実の仮装」であるとして重加算税の賦課決定対象となるため論外である。したがって、定時株主総会等で支給額の確定がリアルタイムで行われていたことを証することは前提条件となるだろう。 事前確定届出給与の特性や役員の職責に鑑みると、このようなリスクを敢えて取るよりは、通常通り届出書を提出した上で支給するべきであるといえる。このような考え方からか、筆者の見聞する限り、届出書の提出前に事前確定届出給与を支給した例はないが、もし実施するのであれば、このような留意点に気を払うべきである。 (了)

#No. 382(掲載号)
#中尾 隼大
2020/08/20

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第9回】「〔第1表の1〕法人株主がいる場合の株主判定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第9回】 「〔第1表の1〕法人株主がいる場合の株主判定」   税理士 柴田 健次   Q A社の株主と甲一族の親族関係図は、下記の通りとなりますが、株主である甲に相続が発生し、甲が所有しているA社株式を配偶者乙が4%、長男丙が4%に相当する議決権数を相続により取得した場合には、乙と丙のA社株式の評価方式は原則的評価方式が適用されるのでしょうか。それとも特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるのでしょうか。 【相続前後におけるA社の株主と議決権保有割合】 ※B社の株主と議決権保有割合は、下記の通りとなります。 【親族図】 A 乙は特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されることになりますが、丙は原則的評価方式が適用されることになります。 同族株主がいる場合には、下記の通り株主判定を行うことになります。 【同族株主がいる場合の株主判定の手順】  ◆  ◆  ◆ ① 筆頭株主グループの議決権割合 A社の株主を確認のうえ、同族関係者グループの議決権割合を算定し、筆頭株主グループの議決権割合が「50%超」「30%以上50以下」「30%未満」の3つのうち、どれに該当するかを判定します。 本問の場合には、乙の同族関係者として丙、戊、丁、B社が含まれるため、筆頭株主グループの議決権割合は100%となり、「50%超」の区分に該当することになります。 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。 本問の場合には、乙を中心とした同族株主の判定は、下記の通りとなり、株主全員が同族株主に該当することになります。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいいます(民法725)。 本問の場合には、戊及び丁は乙の2親等内の姻族であるため、戊及び丁は乙の親族に該当します。また、戊及び丁は、丙の3親等内の血族に該当し、丙の親族に該当することになります。 特殊の関係のある法人は、例えば、乙及びその親族が直接又は間接に会社を支配(議決権の50%超保有)している場合におけるその会社が該当します。 本問の場合には、B社は乙及び丙の親族の支配している会社となり、B社は乙及び丙の同族関係者に該当します。   ② 納税義務者の属する同族関係者グループの議決権割合 乙の属する同族関係者の議決権割合、丙の属する同族関係者の議決権割合はいずれも100%となり、「50%超」の区分に該当するので、③の手順に進みます。   ③ 納税義務者の議決権割合 乙又は丙の議決権割合が5%以上であれば原則的評価方式になりますが、いずれも4%であり、「5%未満」の区分に該当するため、④の手順に進みます。   ④ 判定対象者が役員 乙及び丙は、役員には該当しませんので、⑤の手順に進みます。   ⑤ 納税義務者が中心的な同族株主 納税義務者が中心的な同族株主か否かを判定することになります。 納税義務者が中心的な同族株主に該当すれば、原則的評価方式が適用されますが、中心的な同族株主に該当しなければ、⑥の判定に進みます。 下記の通り、乙は中心的な同族株主に該当しませんので、⑥の判定に進みますが、丙は中心的な同族株主に該当するため、原則的評価方式が適用される株主に該当することになります。 ◎用語の意義 ▷中心的な同族株主 課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます(評価通達188(2))。 ◎中心的な同族株主の判定 中心的な同族株主の判定は、株主ごとに行います。 (※) 「一定の会社」の範囲 同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社が該当します。   ⑥ 納税義務者以外に中心的な同族株主 納税義務者以外に中心的な同族株主がいるか否かを判定することになります。 上記⑤で確認したとおり、乙の判定において乙以外に中心的な同族株主がいる会社に該当しますので、乙は特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されることになります。   ☆実務上のポイント☆ 同族関係者の範囲及び中心的な同族株主の範囲の違いに注意しながら、株主ごとに同族株主の判定、中心的な同族株主の判定を行う必要があります。 (了)

#No. 382(掲載号)
#柴田 健次
2020/08/20
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