検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10310 件 / 4191 ~ 4200 件目を表示

《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会、子会社の不祥事防止に向け「親会社監査役の役割と責任」に関する報告書を公表~最近の不祥事事例や研究会としての意見も紹介~

《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会、 子会社の不祥事防止に向け「親会社監査役の役割と責任」に関する報告書を公表 ~最近の不祥事事例や研究会としての意見も紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   公益社団法人日本監査役協会(以下、「監査役協会」と略称する)は、2019年11月22日付で、関西支部監査役スタッフ研究会(以下、「スタッフ研究会」と略称する)が取りまとめた「企業集団のガバナンスにおける親会社監査役の役割と責任について-子会社の不祥事防止に向けて-」(以下、「報告書」と略称する)を公表した(ホームページ公表は2020年1月14日)。 本誌連載中の拙稿「会計不正調査報告書を読む」や「最近の子会社不正をめぐる傾向と防止策」(2019年9月掲載)などでも取り上げてきたように、上場会社本体における会計不正は減少傾向にあるものの、子会社に対するガバナンスはまだ不十分である事案は少なくない。そうした状況を踏まえて、スタッフ研究会は、次の内容をテーマに報告書を取りまとめ、公表したものである。 【目次】 本稿では、報告書を概観するとともに、第2章で取り上げられた不祥事事例に対するスタッフ研究会の問題意識について検討するとともに、「研究会としての意見」について検証したい。   Ⅰ 親会社監査役の役割 報告書では、監査役協会が、平成25年11月7日付で公表した「企業集団における親会社監査役等の監査の在り方についての提言」を引用する形で、監査役にとっての企業集団における監査の重要性を指摘するとともに、「企業集団における親会社監査役の役割としては、(ⅰ)連結決算を主体とした会計監査と(ⅱ)取締役の職務執行に対する監査に関連して行う主体とした業務監査がある」としている。 そのうえで、「親会社監査役による子会社に対する調査」の項では、親会社監査役の権限について、「子会社は別法人ではあるものの、グループ経営の観点からは、親会社に対して影響があるため、必要な範囲で親会社の監査役は子会社に対する業務調査権限を有する」こと、また同時に、「親会社の監査役には子会社の監査役と情報交換・意思疎通する努力義務が課される」ことを説明している。 さらに、子会社監査役については、親会社の役職員が兼務していることが多いことから、こうした子会社監査役については、別の項を設けて、次のように説明している。   Ⅱ 子会社で発生した最近の不祥事事例 スタッフ研究会が取り上げた事例は4つ。報告書上ではアルファベット表記となっているが、本稿では、その記述内容を参考にして、親会社を特定しておきたい。 報告書では、「子会社で発生した不祥事に際して、親会社の執行部門や監査役がどのように対応すべきかを考えるために」具体的な事例を紹介するという説明があるものの、これらの事例が選ばれた理由については、とくにコメントがない。 報告書のテーマである「親会社監査役の役割と責任」について言及がある事例は、B社とD社に関する解説の中に見られるので、スタッフ研究会が「問題点」として挙げた点を引用しておきたい。なお、報告書のアルファベット表記を実際の会社名に置き換えている。 まず、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)の連結子会社である九州住宅株式会社の従業員による金融機関向け不動産融資資料の偽造事例について、スタッフ研究会が指摘した「監査役の問題点」は以下のとおりである。 次いで、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社の連結子会社である株式会社カスミの100%子会社、株式会社カスミトラベルの代表取締役による架空売上の計上や使途不明金の発生事例について、スタッフ研究会は次の通り「監査役の問題点」を指摘している。 なお、スタッフ研究会による報告書には触れられていないが、事件発生当時、株式会社カスミトラベルの監査役は、株式会社カスミの常勤監査役が兼務していた。   Ⅲ スタッフ研究会としての意見 報告書の中で、筆者が最も注目しているのが、本項「研究会としての意見」である。本報告書各章の法律上の定義、アンケート調査、事例解説を踏まえて、スタッフ研究会がどのような結論を導いたかを検討したい。最初に、見出しを掲げておく。 1 情報を取りに行くアクティブな親会社監査役、そして監査役スタッフの必要性 はじめに、スタッフ研究会は、不祥事を防止するために親会社の監査役が役割を果たすためには、子会社からの情報をタイムリーにキャッチすることが必要であり、そのためには、「待ち」の姿勢ではなく、積極的に情報を取りに行く姿勢・意識がより大切であり、不祥事の芽を早期に摘むことにもつながっていくのではないかと指摘するとともに、親会社監査役は、子会社監査役に対し、監査役としての法的な側面はもちろん、監査役監査ですべきことやノウハウを伝えていくことも大切な役割であると提言している。 さらに監査役スタッフに対して、子会社監査役にも日頃から目を配り、信頼関係を構築して親会社監査役との橋渡し的な役割を担うなど、グループ全体の監査役を補助する役割が求められていると指摘している。 2 内部通報制度の実効性向上に必要な監査役としての役割 次いで、スタッフ研究会の意見の2項目として、内部通報制度における監査役の役割が指摘されている。 監査役は、内部通報制度が機能しているのかを日頃から意識をするとともに、機能不全に陥っていると監査役が判断した場合には経営陣に問題提起することが必要であり、内部通報制度について報告を受ける場合も、法令等の違反や不正行為の通報については別として、職場環境を害する行為や不正とまでは言えない悩みの情報に接することも監査対象部署の現状を認識するために有効であると説明している。 3 未来の「人材」を育成する子会社監査役制度の検討 さらに、スタッフ研究会は、「企業不祥事が後を絶たず、監査役の役割や責任が大きくクローズアップされる昨今では、より高い知見、経験を積んだ監査役が求められる時流になっている」という現状認識から、子会社監査役を人材育成の場(キャリアパス)とすることによって、経営や現場を直に学ぶことができ、今後のキャリア形成において有益であると考えると指摘している。 4 「戦略的な」グループ会社監査役連絡会の確立と監査役スタッフの役割 最後に、スタッフ研究会は、「グループ会社監査役連絡会」について、企業集団の監査の観点からは、子会社に対する業務調査権限を有している親会社監査役と子会社取締役の職務執行を監査する子会社監査役との意思疎通・情報交換は不可欠であることから、親会社監査役から情報を伝えるだけでなく、親会社監査役と子会社監査役が監査役という共通の立場で相互に意見交換を行い、企業集団の監査を一緒に取り組んでいく意識を作る機会としても活用すること、個々の会社の抱える課題の共有、企業集団としての課題の共有はもちろんのこと、監査ノウハウや好事例の共有、監査手法の共有等の意見交換の必要性を指摘している。 (了)

#No. 352(掲載号)
#米澤 勝
2020/01/20

《速報解説》 前倒し廃止となるIoT税制、3月末までの認定を受けるために優先的な審査対象となる事前相談は2月14日(金)まで

 《速報解説》 前倒し廃止となるIoT税制、3月末までの認定を受けるために 優先的な審査対象となる事前相談は2月14日(金)まで   Profession Journal 編集部   令和2年度税制改正大綱では、平成30年度改正で創設されたコネクテッド・インダストリーズ税制(いわゆるIoT税制。正式名は「革新的情報産業活用設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除制度」(措法42の12の6))が当初予定から1年前倒しで、令和2年3月31日をもって廃止されることが明記された(所得税についても同様)。 コネクテッド・インダストリーズ税制とは、生産性向上特別措置法に規定する「認定革新的データ産業活用事業者」である青色申告事業者が、認定革新的データ産業活用計画に基づいて、指定期間内に一定の設備(革新的情報産業活用設備)への投資を行う場合に、30%の特別償却又は3%(一定の賃上げを伴う場合は5%)の税額控除が認められる制度のこと。令和2年度税制改正を規定した税制改正関連法は1月20日に召集される通常国会で審議されるため施行前ではあるが、廃止期限が差し迫っていることから、総務省・経済産業省は昨年12月20日付で廃止に伴う対応を明らかにしている。 明らかにされた対応では、本税制の廃止に伴い、令和2年3月31日までに認定を受けた法人等が、認定革新的データ産業活用計画に係る革新的情報産業活用設備について令和3年3月31日までに取得・供用した場合には、従前どおり税制の適用ができる経過措置が講じられることから、駆け込みの申請で期日までに認定を受けられないケースが懸念されるため、「所定の期間」に「所要の手続」がなされた案件を優先的に審査するとしている。 ちなみに、上記の経過措置については、与党大綱(P74)には具体的記述が見られないものの、閣議決定後の大綱(P58)では経過措置に係る注書きとして「(注)令和2年3月31日までに認定を受けた法人の認定革新的データ産業活用計画に係る革新的情報産業活用設備については、従前どおりとする。」との記述が追加されている。 この「所定の期間」(「経過的対応期間」)とは令和2年1月6日(月)から令和2年2月14日(金)までをいい、この間に「所要の手続」として、本税制の適用にあたって必要な、本社所在地を管轄する総合通信局又は経済産業局への「事前相談」(記載の不備等を確認するためのもの)を行う必要がある(認定申請書の提出はその後)。 事前相談の受付時には、以下3つの要件を充たしていることが確認される。 なお、経過的対応期間以降でも認定申請は受付け可能だが、優先的な審査の対象外となるため、令和2年3月 31日までの認定が受けられないことが想定されるとしている。また、経過的対応期間内に所要の手続を行った場合でも、審査の過程で申請内容に関する問い合わせ対し申請者から適切な回答が得られない場合等は、令和2年3月31日までに認定が受けれない場合もあるとしている。 (了)

#No. 352(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/01/16

プロフェッションジャーナル No.352が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年1月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.352を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/01/16

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第84回】「立法資料から税法を読み解く(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第84回】 「立法資料から税法を読み解く(その3)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   Ⅲ 実務的取扱いと原則的排他性 1 所得税基本通達120-4 それでは、実務的にはいかなる取扱いとなっているのであろうか。 この点について、所得税基本通達を確認してみたい。 これは、前回立法資料として紹介した当時の国税通則法小委員会における議論と同様の考え方であり、いわば吸収説的な立場に立った考え方であるといえよう。 2 国税通則法上の是正ルートとの関係 法定申告期限内に、当初に提出した申告書の記載内容につき変更をするためには、どのような処理の方法が法定されているのであろうか。国税通則法19条は修正申告を規定するが、これは法定申告期限後・の修正に関する申告書の提出を指すのであろうか(以下の下線は筆者加筆)。 上記のとおり、国税通則法19条は、修正申告書の提出について、同法24条の「更正」があるまでは提出することができるとするだけであるから(金子宏『租税法〔第23版〕』936頁(弘文堂2019))、期限内において修正申告書を提出することを妨げる趣旨ではないように解される。 では、当初申告の記載内容につき、減額の変更を行う場合はどうであろうか。この場合については、国税通則法23条を確認しておく必要があろう。 上記国税通則法23条によると、更正の請求をすることができるのは、法定申告期限から5年以内(2号に係る法人税については9年以内)に限ると規定しているだけであって、法定申告期限内に請求することができないとはされていないと解される。 そうであるとすれば、例えば、当初申告から課税標準等の増額をすべきことに気が付いた納税者が、確定申告期限内において修正申告書を提出することは可能であると思われるし、当初申告から課税標準等の減額をすべきことに気が付いた納税者が、同期限内において更正の請求をすることも可能であると思われるのである。 この点は、上記所得税基本通達の逐条解説が、「申告書を提出した後に、その申告書の記載内容について変更をするためには、法定申告期限内であっても、その変更する内容に応じ、修正申告書又は更正の請求書を提出しなければならない」とするとおりである(森谷義光ほか『所得税基本通達逐条解説〔平成26年版〕』855頁(大蔵財務協会2014))。 〔参考〕 原則的排他性との関係 とりわけ、更正の請求については、いわゆる原則的排他性があると一般に理解されている。 すなわち、更正の請求のルートが法定されているのであるから、減額更正は、その仕組みによって優先的になされるべきであるとする考え方を「原則的排他性」という。 この点について、金子宏教授は、「法がわざわざ更正の請求の手続を設けた趣旨にかんがみると、申告が過大である場合には、原則として、他の救済手段によることは許されず、更正の請求の手続によらなければならないと解すべきであろう。」と論じられている(金子・前掲書946頁)。 この考え方は、抗告訴訟の排他性の観念にならって、そう呼ばれているものであるが、判例及び通説の理解と合致しているといってよかろう。この点を判示する代表的な判例として、租税法領域において錯誤無効を主張することの是非が論じられた最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決(民集18巻8号1762頁)がある(酒井克彦・租税判例百選〔第6版〕198頁参照)。 すなわち、同最高裁は、「所得税法が右のごとく、申告納税制度を採用し、確定申告書記載事項の過誤の是正につき特別の規定を設けた所以は、所得税の課税標準等の決定については最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすることが、租税債務を可及的速かに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞れがないと認めたからにほかならない。従って、確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白且つ重大であって、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を蓍しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、所論のように法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは、許されないものといわなければならない。〔下線筆者〕」と判示している。 3 通達の意義と課題 では、上記所得税基本通達120-4の意義は奈辺にあるのであろうか。 同逐条解説は、次のように説明している。 このような取扱いがなされることは、結果において、修正申告や更正の請求によらずに法定申告期限内において申告内容の是正を認めていることになるのではなかろうか。 しかしながら、同通達逐条解説は、括弧書きにおいてではあるが、以下のようにいわば注意喚起をしているのである。 これは、いかなる意味を有しているのであろうか。 すなわち、所得税法2条《定義》1項37号にいう「確定申告書」について、期限内に提出された複数の申告書のうち、最後に提出された申告書を指すという態度を示してはいるものの、吸収説の考え方を全面的に取り入れることはせず、その申告書の効力においては、依然として留保をしているかのような記載振りである。 いわば、確定申告書としては、納税者の真意を最新の申告書から読み取ることとしながらも、その課税標準や税額等に関する効果についてまでは、当初申告の内容の是正を担保するものではないというのであろうか。 かかる通達の逐条解説は、国税通則法小委員会の議論における吸収説に立ちながらも、申告内容の是正の効力に保証を与えないとする点で難解なものとなっているといわざるを得ない。   Ⅳ 残された問題 1 事務に支障のない場合の取扱い さらに、この通達には、注記が付されている。 この通達の注書きからは、前述の逐条解説にみた括弧書きと同様のスタンスを看取することができる。 この通達の運用に当たっては、「事務に支障」があるかないかで、最終の申告書にこそ納税者本人の真意が所在すると捉えるか否かが左右されるようである。 前述の逐条解説は、この点について、「なお(注)書きの『先に提出された申告書に還付金が記載されており、かつ、その還付金につき既に還付の処理が行われていたような場合』は、事務に支障があると考えられる例示であるが、あくまでも事務に支障があるか否かは、当該事例毎に判断されることになろう。」と解説している(森谷・前掲書856頁)。 このような通達の注書き及び解説は、納税者の税務処理への不安を仰ぐものとなりはしまいか。 還付処理をしているか否かは、あくまでも租税行政当局の事務の執行次第であるが、それによって、期限内に再提出した申告書について、修正申告や更正の請求が提出されたと実質的に同様の取扱いとなるのかが左右されるというのであれば、納税者の知らないところで判断がなされることを意味し、納税者を法的に不安定な状態に置いていることになってはいないであろうか。 還付をしているか否かというのは、あくまでも「事務に支障」があるか否かの例示であるということであるが、還付加算金の問題がそこに所在しているからであろう。 最後に、かかる還付加算金の論点を見ておくこととしよう。 2 還付加算金問題 複数の確定申告書が提出された場合の還付加算金の取扱いについては、既に、前述の国税通則法小委員会においても議論されていた問題である。すなわち、吸収説的な考え方を採用したとしても、還付加算金の取扱いが整理される必要があるし、批判的見地からの見解も示されていたのである。 再度、前述の当時の資料を見てみよう。 ここでは、2以上の申告書の効力がどうかというような議論自体が不要であって、確定申告書の効力は結局のところ、法定申告期限内の提出であるか否かという点のみを見ればよいのであるから、その間にいくつの申告書が提出されているかに影響されず、確定申告期限時における最終の申告書のみを有効なものとみることの妥当性が論じられているのである。 もっとも、この見地に立ったとしても、前述のような後法優先の原則的考え方であることには変わりがないとみてよかろう。   結びに代えて これまで述べてきたとおり、過去における議論を参考にして、解釈の手立てや糸口をつかむという条文解釈手法はオーソドックスなものである。 どうしても、近視眼的になりがちであるし、過去の議論など参考にならないのではないかとの不安もあるであろう。 しかしながら、法には歴史があり、かかる歴史的経緯が今日の解釈を先導しているとみる視角は、法解釈者にとって極めて重要であると思われる。 法律の解釈にあっては、法律は成立時点で解釈されるべきか、あるいは妥当時点(適用時点)で解釈されるべきかという命題が常に突き付けられている(木村弘之亮「国際税法における外国会社の類型比較―歴史的解釈の重要性―」税法学578号33頁(2017)参照)。 この問題は、歴史的立法者の当時の「主観的」意思が問題とされるべきか否かという問題に接続する(木村・前掲稿33頁)。 成立時解釈を重視する立場からすれば、立法当時の議会での議論こそが最も重要な法律解釈素材となるであろう。 適用時点解釈を重要視するとしても、やはり当時の立法者の意思と今日の社会状況がいかに変わっているかを検討する必要に迫られるのは当然である。 かような意味からも、ここに述べた立法資料から往年の議論を振り返るという解釈手法の重要性が改めて確認されるべきであろう。 (了)

#No. 352(掲載号)
#酒井 克彦
2020/01/16

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第27回】「租税法律主義と租税回避との相克と調和」-租税回避の否認の意義-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第27回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避の否認の意義-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回までは、租税回避の意義や法的評価等について主として基礎理論的な観点から検討してきたが、今回からは、租税回避の否認について基礎理論的な観点からだけでなく実定法的な観点からも検討していくことにする。まず、今回は、租税回避の否認の意義について検討することにしよう。   Ⅱ 租税回避の否認の基礎理論的意義 租税回避の否認の意義について、筆者は以前から次のように考えてきた(【69】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号[以下同じ])。 租税回避の否認は、このように、租税回避の基礎理論的意義(第21回参照)を前提にしつつ、行為態様アプローチによる租税回避の定義に対応して、「異常な」行為を「通常の」行為に引き直す(擬制する)ことと定義することができる。また、租税回避の否認規定を補充的課税要件規定あるいは代替的課税要件規定と呼ぶのは、課税要件アプローチによる租税回避の定義を踏まえ、否認要件が回避の対象となる課税要件(通常の課税要件)を補充・代替する別個の課税要件であると考えるからである。 このような考え方は、基本的には、清永敬次教授の次の考え方(同『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)43頁。下線筆者)をベースにしたものである(租税法律主義との関係についても同じ考え方であることについては次々回に述べることにする。また、次の引用文中の「従来の課税要件規定にはない新たな課税要件」を筆者はドイツの租税回避論の用語法に倣って「補充的課税要件」あるいは「代替的課税要件」と呼んでいる。この点については第25回Ⅱ1における杉村章三郞教授によるヘンゼルの租税回避論の紹介も参照)。 ここで述べられている「想定」は、租税立法者の「想定」を意味するものと解されるが、ただ、その「想定」の対象は「法形式」ないし「取引」とされている。この点につき、筆者は租税立法者の「想定」の対象を、次のとおり、税法上の課税減免規定の利用行為も含めより広く、「行為」としていること(【66】)を付言しておく(租税回避の否認アプローチによって「行為」の意味内容が異なることについては、次回参照)。 このような意味で広く租税回避の否認を捉えるのは、第22回で検討した租税回避の2類型(私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避と税法上の課税減免規定の濫用による租税回避)を念頭に置いた上でのことである(Ⅲ1参照)。 金子宏教授は租税回避の否認の意義について次のとおり述べておられるが(同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)135頁。下線筆者)、これも上記のような租税回避の2類型を念頭に置いた上での定義であると解される。 金子教授は、第22回Ⅱでみたように、租税回避の定義に関連して『租税法』の第22版(2017年)から租税回避の類型(2類型)に関する解説を追加されたが(127頁。第23版では134-135頁)、租税回避の否認の意義に関する上記の引用文中の括弧書(下線部)を追加されたのも第22版(128頁)からである。   Ⅲ 租税回避の否認の実定法的意義 1 引き直し課税 租税回避の否認は、以上のように、租税回避の基礎理論上は、「異常な」行為を「通常の」行為に引き直すことを意味するが、実定税法上の租税回避否認規定上も、同様の意義に解されている。 同族会社の行為計算否認規定の不当性要件の解釈適用についてしばしば参照される最判昭和53年4月21日訟月24巻8号1694号の原審・札幌高判昭和51年1月13日訟月22巻3号736頁は次のとおり判示している(下線筆者)。 比較的近時の裁判例(東京地判平成17年7月28日税資255号順号10091・裁判所ウェブサイト)でも下記のとおり判示されている(下線筆者)。 また、組織再編成に係る行為計算否認規定の不当性要件の解釈適用について、ヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁は次のとおり判示している(下線筆者)。 ここでいう「正常な行為又は計算」は、既に第22回Ⅲで述べたように、組織再編成に係る課税減免規定の適用を受けないことの意味に解される。このことを、Ⅱで述べた租税回避の否認の基礎理論的意義に即していえば、次のようになろう。 租税回避の否認は、「異常な」行為を「通常の」行為に引き直すことことを意味するが、このことは、租税回避の類型(第22回)のうち税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については、①課税減免規定をその趣旨・目的に反して利用する行為(課税減免規定の濫用)によってしか当該規定の適用を受けることができない場合に、②当該規定をその趣旨・目的に従って利用する行為を想定しこれを前提として課税関係を構成すれば、当該規定の適用が受けられなくなる(否定される)ことを意味する。それらの行為を租税立法者の立場からみれば、①の行為は立法者の想定外の(という意味で「異常な」)行為、②の行為は立法者の想定内の(という意味で「通常の」)行為とみることができる、ということになろう。 以上を要するに、租税回避の否認による課税は引き直し課税であり、その思考過程に即していえば、納税者が実際に行った「異常な」行為に対して「通常の」行為を想定し前者を後者と擬制して行われる想定課税ないし擬制課税である。 2 実質課税 ところで、国税通則法の制定時には、「[同族会社の]行為計算の否認は、本来、広義における実質課税の原則の一環として考えられるもの」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)18頁)といわれていた。以下では、租税回避の否認による課税(引き直し課税)と実質課税の原則(実質主義)による課税(実質課税)との関係について検討しておこう。 前記の『答申の説明』では、「広義における実質課税の原則」とは、「事態の実体ないし実質を各租税法規と結びつけて実質的に見きわめ、もつて各税法の所期する租税負担の公平の実現を図ること」(同10頁)をいい、「課税において、上記のような実質課税の原則の考え方により、事態の実体ないし実質を各税法の規定と結びつけて実質的に、すなわち主として経済的実質に即して、判断適用することは、通常特に問題となることはないと考えられる。」(同頁)とされていた。 この点について、武田昌輔教授は、「同族会社の行為計算の否認と実質主義」という見出しの下、「もちろん、あらゆる取引は、税法の規定をまつまでもなくその実態に即して判断すべきものであって、単なる法律形式によってのみ判断すべきものではないということは一応当然の事柄としているものと思われる。」と前置きされた上で、次のように述べておられた(武田昌輔『会社税務精説』(森山書店・1962年)790-791頁。下線筆者)。 武田教授のこのような考え方によれば、法人税法31条(現行132条1項)による更正において同族会社の行為計算の否認による課税を行うことと、国税通則法24条による更正において実質課税を行うこととは、経済的実質・実体に即した実質判断の点で本質的に異なるものではない、ということになる。このことは、税制調査会が、先に引用したように、「行為計算の否認は、本来、広義における実質課税の原則の一環として考えられるもの」と述べた後で、「その類型[=旧法人税基本通達355に掲げられた類型]をみてもわかるようにこのような行為計算は、経済的な観察によつて得られた実質的評価からかい離し、その意味で仮装された行為計算であるところから否認されるのである。」(前掲『答申の説明』18頁。下線筆者)と述べているのと同じ考え方に基づくものと解される。 旧法人税基本通達355では、そこに掲げられた行為計算の諸類型についてそれぞれ否認に係る事後的処理が定められていたが、その中には、例えば過大出資に関する「現物出資の資産の価額を過大に計算した場合には、これを払込がなかったものとする。」という事後的処理のように、確かに、内容的には(仮装された行為計算の裏に隠れた、経済的実質・実体「零」の行為計算すなわち「なかったもの」とされる行為計算の認定に基づく)実質課税の意味で理解することができるものも含まれていたのである。このことからすると、当時(少なくとも旧法人税基本通達355が削除された昭和44年頃まで)は、行為計算の否認について、引き直し課税と実質課税とが必ずしも截然とは区別されていなかったように思われる。 しかし、武田教授は、その後20年近くを経て、次のように述べるようになった(金子宏・桜井四郎・武田昌輔・辻敢編『実践租税法大系(下)法人税編』(税務研究会・1981年)26-27頁[武田昌輔執筆]。下線筆者)。 ここで述べられていることは、実質主義による課税(実質課税)が、形式的事実とその裏に隠れた事実(その事実について法的実質を重視する場合と経済的実質を重視する場合とがある)という2つの事実を前提にして、前者を無視し後者に即して課税することを意味するのに対して、租税回避行為の防止のための引き直し課税は、1つの事実を前提にして、その事実が「異常な」事実である場合にこの事実を、これと経済的実質を同じくする「通常の」事実として想定・擬制しこれに引き直して課税することを意味する、という理解に基づくものと解される。つまり、この時期には、武田教授は、実質課税と引き直し課税とを截然と区別されるようになったものと解される。 しかも、武田教授は「同族会社の行為計算の否認規定は、同族会社独自の行為計算であって、国税通則法第24条の範囲外であるがゆえ、課税の公平の見地から、国税通則法第24条を補完する役割を持っていると考える。」(金子ほか・前掲書67頁[武田昌輔執筆]。下線筆者)と述べておられるが、このような考え方を、武田教授はその後も、寄附金の損金算入限度規定に関連して、次のように述べておられる(武田昌輔「租税回避行為の意義と内容」日税研論集14号(1990年)3頁、21頁。下線筆者)。 以上でみてきたところからすると、武田教授は、実質課税を形式的事実(仮装行為)の無視に基づく課税と捉える範囲で、それを租税回避の否認(事実の想定・擬制)による引き直し課税と截然と区別されるようになったものと考えられる。仮装行為の無視による実質課税は、課税要件事実の認定に関する法的実質主義(【57】)からの論理的帰結であり(【62】)、課税処分に関する一般的根拠規定(税通24条~25条)に基づいて行うことができるものである。 そのような実質課税は、第20回Ⅲで取り上げた経済的実質主義に基づく課税とは異なるものである。武田教授の説かれる実質課税(法的実質主義に基づく課税)に対して、これとは異なる意味での実質課税(経済的実質主義に基づく課税)を説く見解として、田中二郎教授の次の見解(同『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)89頁。下線筆者)を以下にもう一度引用しておこう。 このような経済的実質主義に基づく課税という意味での実質課税は、既に第20回Ⅲで述べたように、租税回避の否認について実定税法上の根拠を不要とする考え方(否認規定不要説)に帰結する論理を内包するが、このような考え方の当否については次々回に検討することにする。   Ⅳ おわりに 以上において租税回避の否認の意義を検討してきたが、それは、要するに、租税回避の基礎理論上は、行為対応アプローチによる租税回避の定義に対応して、「異常な」行為を「通常の」行為に引き直すことを意味する。このような基礎理論的意義は、実定税法上の租税回避否認規定の解釈適用上も受け入れられている。その意味で、租税回避論は、税法の基礎理論的研究が実定税法の解釈適用上その意義を発揮する場面として特筆すべきであろう。 租税回避の否認による課税は、納税者が実際に行った「異常な」行為に対して「通常の」行為を想定し前者を後者と擬制して行われるいわゆる引き直し課税であるが、これは、形式的事実と実質的事実という2つの事実を前提にして後者に即した課税を行う実質課税と区別されるべきものである。実質課税は、実質的事実について法的実質を重視する場合はともかく、経済的実質を重視する場合には、租税回避の否認による課税と同じ結果をもたらすが、そのような結果をもたらす実質課税(経済的実質主義に基づく課税)は、これを容認すると、法律に基づく課税を要請する租税法律主義を潜脱することになり、厳に禁じられるべきものである(第20回Ⅲ参照)。 (了)

#No. 352(掲載号)
#谷口 勢津夫
2020/01/16

令和元年分 確定申告実務の留意点 【第3回】「判断に迷う事項Q&A」

令和元年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「判断に迷う事項Q&A」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   最終回は、確定申告実務において判断に迷う事項等のうち5項目を取り上げ、Q&A形式でまとめることとする。なお、本稿では特に指定のない限り、令和元年分の確定申告を前提として解説を行う。   〈寡婦(寡夫)控除の適用〉 【Q1】 次の居住者は、寡婦(寡夫)控除の適用を受けることができるか。なお、表中の「合計所得金額」は令和元年分の金額であり、「子」は居住者と生計を一にしているものとする。 【A1】 ①のケースのみ、寡婦控除の適用を受けることができる。 -解説- 納税者自身が寡婦(寡夫)に該当するときは、寡婦(寡夫)控除の適用を受けることができる(所法81、措法41の17①)。 寡婦(寡夫)とは、次の要件を満たす人をいう(所法2①三十・三十一、所令11、11の2)。 〈寡婦の要件〉 (※) 総所得金額等が38万円以下で、他の人の同一生計配偶者又は扶養親族となっていない子に限られる。 〈寡夫の要件〉 (※) 総所得金額等が38万円以下で、他の人の同一生計配偶者又は扶養親族となっていない子に限られる。 以上より、①から⑤の各人が寡婦(寡夫)に該当するか検討する。 《参考》令和2年分以後の取扱い 令和2年度税制改正大綱において、寡婦(寡夫)控除の見直しが示され、令和2年分以後の所得税(住民税は令和3年度分以後)から適用される。詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 見直しにより取扱いが変更となるのは、①と③のケースである。令和2年分以後の所得税において寡婦(寡夫)控除の適用を受けることができるのは、③のケース(一定の要件を満たす場合)のみとなる。 見直し後、①と③の取扱いは次のとおりとなる。     〈合計所得金額の判定①〉 【Q2】 甲の配偶者乙は、所有していた土地(居住用財産ではない)を令和元年において県に1,000万円で買い取られた(譲渡所得金額950万円)。乙にその他の所得はなく、「収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(措法33の4)」を適用することにより、課税の対象となる土地建物等に係る譲渡所得も生じない。 甲は配偶者控除の適用を受けることができるか。 【A2】 乙の令和元年分の合計所得金額は、特別控除を適用する前の950万円となる。よって、甲自身の合計所得金額に関わらず、甲は配偶者控除の適用を受けることはできない。 また、乙の合計所得金額が123万円を超えていることから、甲は配偶者特別控除を適用することもできない。 -解説- 合計所得金額とは、総所得金額に申告分離課税の所得金額の合計額を加算した金額である(所法2①三十ロ、措法31③一他)。土地建物等に係る譲渡所得については、特別控除を適用する前の金額を合計する(所基通2-41(2))。 合計所得金額の詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 配偶者控除の適用を受けることができるのは、配偶者の合計所得金額が38万円以下の場合である。よって、甲は配偶者控除の適用を受けることはできない。(所法2①三十三の二、83①)。 なお、平成30年分以後の所得税においては、配偶者控除の適用が合計所得金額1,000万円以下の居住者に限られる点にも注意が必要である(所法83①)。     〈合計所得金額②〉 【Q3】 丙の配偶者丁の令和元年における所得は次のとおりである。丙の令和元年分の合計所得金額が800万円である場合、丙は配偶者控除の適用を受けることができるか。 以下の証券口座は、すべて特定口座(源泉徴収口座)である。丁は、確定申告によりB証券会社の口座で生じた譲渡損をA証券会社の口座で生じた譲渡益と相殺する(C証券会社譲渡所得については確定申告の対象としない)。 ※上場株式等の配当等はないものとする。 A証券会社:上場株式等の譲渡所得 30万円 B証券会社:上場株式等の譲渡所得△10万円 C証券会社:上場株式等の譲渡所得 50万円 【A3】 丁の令和元年分の合計所得金額は38万円以下(30万円-10万円=20万円)であり、丁は丙の控除対象配偶者に該当する。よって、丙は配偶者控除の適用を受けることができる。 -解説- 居住者又は恒久的施設を有する非居住者が、金融商品取引業者等に特定口座を開設した場合、当該特定口座内における上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額は、他の株式等の譲渡による所得と区分して計算する(措法37の11の3①)。 また、特定口座のうち源泉徴収選択口座において生じた上場株式等の譲渡による譲渡所得等については、原則として確定申告を要しない(確定申告不要制度)(措法37の11の5①)。ただし、他の口座で生じた譲渡損と相殺する場合や譲渡損失を繰越控除する特例の適用を受ける場合には、確定申告をする必要がある(措法37の12の2)。 なお、確定申告不要制度は特定口座ごとに選択することができる。また、同制度を利用した上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額は、合計所得金額に含まれない(C証券会社の上場株式等の譲渡所得は、丁の合計所得金額に含まれない)。     〈国外居住親族に係る扶養控除〉 【Q4】 国外に居住する母(65歳)について、扶養控除の適用を受けることはできるか。母の令和元年分の所得は、国内源泉所得なし、国外源泉所得50万円である。 【A4】 母と生計が一であれば、確定申告書に親族関係書類及び送金関係書類を添付又は提示することにより扶養控除の適用を受けることができる。 -解説- 扶養控除の適用を受けることができるのは、居住者の親族が控除対象扶養親族に該当する場合である(所法84①)。控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち16歳以上の者をいい、扶養親族とは居住者と生計を一にする親族のうち合計所得金額が38万円以下の者をいう(所法2①三十四・三十四の二)。 扶養親族の判定の基礎となる合計所得金額に国外源泉所得は含まれない。したがって、国外に居住する母に国外源泉所得があったとしても、納税者と生計が一であり国内源泉所得が38万円以下であれば、母は控除対象扶養親族に該当する。 《参考》令和5年分以後の取扱い 令和2年度税制改正大綱において、国外居住親族に係る扶養控除の見直しが示され、令和5年分以後の所得税(住民税は令和6年度分以後)から適用される。見直しの詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 見直しにより、令和5年分以後においては、母が次の①から③のいずれかに該当しなければ扶養控除の適用を受けることはできない。   〈住宅取得等資金の贈与と住宅借入金等特別控除〉 ※平成30年分確定申告実務の留意点【第3回】【Q5】について、令和元年分以降、様式が変更されているのでご注意いただきたい。 【Q5】 令和元年11月に新築の住宅(土地2,000万円、家屋2,200万円(うち消費税等の額200万円)、特別特定取得に該当、共有者はいない)を購入し、11月25日より居住の用に供している。取得対価の額4,200万円のうち500万円は実父から贈与された資金で支払い、残額は金融機関から借り入れた(諸費用分を含め3,800万円)。実父からの贈与については、住宅取得等資金の贈与の特例の適用を受ける。 取得した住宅は認定住宅には該当しない。令和元年12月31日の借入金残高は3,780万円であり、住宅借入金等特別控除の適用要件はすべて満たしている。 住宅借入金等特別控除を適用するために必要となる「令和元年分(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」はどのように記載するのか。 【A5】 令和元年分の住宅借入金等特別控除額は、年末の借入金残高3,780万円と、住宅の取得対価の額等から贈与額を差し引いた3,700万円(4,200万円-500万円)を比較し、少ない方の3,700万円に1%を乗じた37万円(3,700万円×1%)となる。 「令和元年分(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」の記載方法は、次のとおりである。 〇「令和元年分(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 -解説- 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、一定の金額まで贈与税が非課税となる特例の適用を受けることができる(措法70の2)。また、取得等した家屋及び土地等について住宅借入金を有する場合には、住宅借入金等特別控除の適用も合わせて受けることができる(措法41)。 両方の制度の適用を受けるときには、住宅借入金等特別控除の控除額の計算において、家屋及び土地等の取得対価の額等から贈与の特例の適用を受けた金額を差し引く必要がある(措令26⑤)。この場合、平成30年分以前の確定申告においては「(付表1)補助金等の交付を受ける場合又は住宅取得等資金の贈与の特例を受けた場合の取得対価の額等の計算明細書」を作成することとされていたが、令和元年分以降は同様式が廃止され、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」に贈与の特例を受けた金額を合わせて記載することとされた。 なお、特別特定取得に該当する場合の住宅借入金等特別控除の概要については、本稿【第2回】【1】をご参照いただきたい。 (連載了)

#No. 352(掲載号)
#篠藤 敦子
2020/01/16

相続空き家の特例 [一問一答] 【第46回】「第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生しその相続人が複数の場合」-第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生した場合-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第46回】 (最終回) 「第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生しその相続人が複数の場合」 -第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生した場合-   税理士 大久保 昭佳   Q 本年1月にY(父)が死亡し、その際の相続人は、Z(母)、X(子)及びW(子)の計3名でしたが、Yに遺言はなく、遺産分割協議を行う前、同年3月にZが続いて死亡しました。 Zが自己の居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)及びその敷地は、その全部がY名義のままでした。 この度、Zの死亡に伴い、X及びWは、その家屋を取り壊して更地にし、その敷地を売却することを考えています。 Zの相続開始直前まではその家屋にZが一人で暮らしをしていました。 この場合、X及びWは、「相続空き家の特例(措法35③)」を受けることができるでしょうか。 A 家屋及びその敷地のそれぞれを、一人暮らしとなったZから、X及びWが相続した場合には、「相続空き家の特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 前問(【第45回】)と同様に、第一次相続に係る遺言がなく、その遺産分割協議が、第二次相続の発生前に行われていないことから、第一次相続における遺産は民法第898条(共同相続の効力)により共有状態にあります。 ところが、前問の第二次相続に係る相続人が1人の場合とは違って、本問においては、第二次相続に係る相続人が複数名います。 このような場合は、第一次相続に係る被相続人の遺産についての遺産分割を行う地位を承継(民法第896条)する相続人が複数名いることから、第一次相続に係る現存の相続人が1人の場合と違い、その遺産分割協議を行えることとなります。 本事例の場合にあてはめると、Yの遺産について遺産分割を行うZの地位を承継するX及びWによる遺産分割協議により、ZがYの家屋及びその敷地を全部相続し、そして、Zの遺産に係る遺産分割協議により、ZがYから相続した家屋及びその敷地をX及びWが相続する場合で、他の要件を満たす場合には、ZのYに係る法定相続分の2分の1にかかわらず、X及びWはその譲渡所得の全部について、「相続空き家の特例」を受けることができることとなります。 (連載了)

#No. 352(掲載号)
#大久保 昭佳
2020/01/16

金融・投資商品の税務Q&A 【Q51】「複数回にわたって購入した仮想通貨(暗号資産)を譲渡した場合の譲渡価額の計算」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q51】 「複数回にわたって購入した仮想通貨(暗号資産)を譲渡した場合の譲渡価額の計算」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 期末において保有する仮想通貨の評価 仮想通貨を譲渡したことによる収益は、雑所得(仮想通貨取引自体が事業と認められる場合には事業所得)に区分することとされていますが、その所得の金額は、譲渡対価から必要経費を控除して算出します。 この必要経費には、譲渡原価、売却に際して仮想通貨交換業者に支払った手数料等が含まれますが、この譲渡原価は、その年の1月1日において有する仮想通貨の価額とその年中に取得した仮想通貨の取得価額の総額の合計額から、その年12月31日において有する仮想通貨の価額を控除して計算することとなります。 そして、仮想通貨の価額は、総平均法と移動平均法のいずれかを選択して評価することができます。   2 総平均法と移動平均法 総平均法とは、仮想通貨の種類ごとに、その年1月1日において保有していた仮想通貨の取得価額の総額とその年中に取得をした仮想通貨の取得価額の総額との合計額を、これらの仮想通貨の総数量で除して計算した価額をもって、その年12月31日において有する仮想通貨の1単位あたりの取得価額とする方法をいいます。 また、移動平均法とは、仮想通貨の種類ごとに、当初の1単位当たりの取得価額が、種類を同じくする仮想通貨の取得をした都度、当初の仮想通貨とその取得をした仮想通貨との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によって改定されたものとみなして(以後種類を同じくする仮想通貨の取得をする都度同様の方法により改定)、その年12月31日から最も近い日において改定されたものとみなされた価額をもって、その年12月31日において有する仮想通貨の1単位当たりの取得価額とする方法をいいます。 なお、下記の国税庁ホームページでは、総平均法、移動平均法それぞれの計算書が公表されています。   3 評価方法の選定及び変更の手続 仮想通貨の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならないこととされています。 その選定した評価方法については、初めて仮想通貨の取得をした日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、「所得税の仮想通貨の評価方法の届出書」を納税地の所轄税務署長に提出することとされています。 また、選定した評価方法を変更する場合には、新たな評価方法を採用しようとする年の3月15日までに、変更しようとする理由等を記載した申請書(「所得税の仮想通貨の評価方法の変更承認申請書」)を提出し、税務署長の承認を得る必要があります。 なお、法定評価方法は総平均法ですので、上記の選定手続きを行わない場合には、総平均法を選定したものとして取り扱われます。   4 本件へのあてはめ 雑所得の金額の計算上、必要経費とする譲渡原価の計算にあたっては、その年の12月31日において保有する仮想通貨の価額を、仮想通貨の種類ごとに、総平均法又は移動平均法により計算する必要があります。 移動平均法を選択する場合には、その年分の所得税の確定申告期限(平成31年4月1日時点で保有していた仮想通貨については令和2年3月16日)までに、納税地の所轄税務署長に届け出る必要があり、届け出ない場合は、総平均法で計算することとなります。   (了)

#No. 352(掲載号)
#西川 真由美
2020/01/16

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第13回】「幼い子への資産移転後の注意点」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第13回】 「幼い子への資産移転後の注意点」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕   相談内容 私Xは40歳の会社経営者です。30歳の時にA社を創業し、今年、その会社を上場させることができました。 創業当初は赤字が続いていましたので、その間に私が設立したB資産管理会社へA社株式の30%を譲渡し、B社株式を当時5歳だった私の子Yに贈与しました(下図参照)。 私としては、上場時に発生した株式の含み益の一部を、子であるYにうまく移転できたと思っているのですが、今後、何か注意する点はありますか。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 事業承継対策と国外転出時課税制度 (1) 国外転出時課税制度とは 国外転出時課税制度(出国時課税制度ともいいます)とは、国外転出する居住者がその時点(出国時点)で時価1億円以上の有価証券等を有する場合に、その有価証券等を譲渡したものとみなして、所得税を課税する制度をいいます(所法60の2①⑤)。 国外転出時課税制度が創設される以前は、多額の含み益を有する有価証券を保有したまま出国し、キャピタルゲイン課税のない国において売却することにより、日本での課税を逃れることができました。平成27年度税制改正でこの制度ができたことにより、上記のような租税回避行為はできなくなりました。 (2) 海外留学や海外勤務の増加で適用リスクが高まる 事業承継対策において国外転出時課税制度は、特にオーナーの子どもたちが出国する際に問題となる場合があります。 というのも、近年、海外留学や海外勤務を行う人が増えてきており、企業オーナーの子どもたちであれば、当然そのような機会も多くなります。その際に、今回のケースのように、多額の含み益を有する資産管理会社の株式を持っていることもありますので、国外転出時課税制度が適用される可能性が高くなります。 (2) 国外転出は海外留学も含まれる 国外転出時課税制度における『国外転出』とは、「国内に居所及び住所を有しないこととなること」(所法60の2①)と定義されており、所得税法上「居住者」から「非居住者」になる人が対象になります。 したがって、国外で継続して1年以上の予定で仕事をする場合(留学も含みます)は非居住者となりますので、国外転出時課税の対象となります(所令15①、所基通3-2)。 (3) 課税対象となる資産 国外転出時課税の対象資産としては、主に以下のものが挙げられます。   [2] 帰国を前提とする場合は納税猶予の手続きを 実際には、国税転出時の未実現損益に対する所得税を納税する人はまれであり、帰国を前提として、納税猶予を選択することが一般的です。 国外転出時課税制度における納税猶予とは、国外転出者がその国外転出する前日までに、納税管理人の届出を行い、かつ、当該年分の確定申告期限までに、当該納税猶予分の所得税に相当する担保を税務署に供した場合に、5年間の納税が猶予されるという制度です(所法137の2①)。 また、海外での滞在が長期に及ぶ場合は、国外転出する日から5年を経過する日までに、延長の届出を納税地の税務署長宛てに提出することにより、納税猶予期間をさらに5年延長できます(所法137の2②)。 納税猶予期間中は、各年の12月31日に有している納税猶予の対象となった資産等を記載した届出書を、翌年の3月15日までに所轄税務署に提出する必要があります(所法137の2⑥)。 また、納税猶予の期間満了までに帰国した場合は、帰国後4ヶ月以内に更正の請求をすることにより、国外転出時課税の適用がなかったものとして、課税を取り消すことができます(所法137の2⑥⑦、所法153の2①)。 【例:令和2年4月1日に海外留学するために出国する場合】   [3] 結論 お子さんが小さい時に行う株式の含み益の移転については、10年、20年にわたって国外転出時課税制度が付きまとうということに注意が必要です。顧問税理士としては、毎年オーナー家族の出国の予定を確認することにより、納税猶予等の手続き漏れを防ぐことができます。 グローバル化した昨今、将来子どもたちが海外へ留学したり、海外で仕事や家庭を持つというケースは十分あり得ることと認識したうえで、事業承継対策を実行すべきでしょう。 実際の手続きに際しては、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。 (了)

#No. 352(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2020/01/16

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第55回】「集合債権譲渡担保と国税徴収法24条事件」~最判平成19年2月15日(民集61巻1号243頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第55回】 「集合債権譲渡担保と国税徴収法24条事件」 ~最判平成19年2月15日(民集61巻1号243頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 352(掲載号)
#菊田 雅裕
2020/01/16
#