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収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第21回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第21回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   エ 近接日における確定決算収益経理要件 法人税法22条の2第2項は、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の1項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」には、1項の規定にかかわらず、その資産の販売等に係る収益の額は、別段の定め(法人税法22条4項を除く)があるものを除き、その事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入するとしている。 いわば、近接日における確定決算収益経理要件を定めているのであるが、上述のとおり、かかる要件は次の➊近接日要件と➋確定決算収益経理要件に細分化できる。 以下、それぞれの要件について考察を加える。 (ア) ➊近接日要件 (収益経理した日が目的物の引渡日又は役務提供日と近接する日であること) 後述するとおり、立案担当者は、法人税法22条の2第2項について、従前の取扱いによる収益計上を認めるために設けた旨を述べている。 従前から、資産の引渡日又は役務提供日以外の日において収益を認識する会計原則・会計慣行があり、そのような会計原則・会計慣行(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に該当するものに限る)に従って収益経理していた場合には、法人税法上もその経理に従うこととされていた。 今回、法人税法22条の2第1項の創設により、資産の販売等に係る収益の計上時期を決する原則的基準として引渡基準が採用されたことから、従前の取扱いによる収益計上を認めるかが問題となった。平成30年度改正では、この点を踏まえて、従前の取扱いを維持するために、法人税法22条の2第2項を創設した、というのである(財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁参照)。 いずれにしても、資産の販売等に係る目的物の引渡日又は役務提供日と時間的に近接する日であることが法人税法22条の2第2項の適用要件として明文化されたことは明らかである。 そして、上述のとおり、仮に、引渡日又は役務提供日とは異なる日に収益を計上する場合に、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準においても、引渡日又は役務提供日に時間的に近接していることを要求しているとすれば、法人税法22条の2第2項は、引渡日又は役務提供日とは異なる日の属する事業年度に収益計上することを認めるための条件として、引渡日又は役務提供日との時間的近接性を重視し、あえて条文に明記したものという評価が与えられることになる。 この意味では、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が含み持つその判断要素から、引渡・役務提供基準という法人税法上の原則的な収益計上日ないし収益計上基準との時間的近接性が抜き出されて要件化されたものといえるかもしれない。 かような時間的近接性を求める語句が法文に明定されたことの意義は、それなりに重い。 租税法律主義(憲法30条、84条)の原則が厳然と存在するため、租税法規の解釈は文理解釈を原則とする。 したがって、法人税法22条の2第2項の趣旨が従前の取扱いによる収益計上を認めることにあるとしても、従来、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」として認められてきた収益計上日ないし収益の計上時期に係る基準の中に、目的物の引渡日又は役務提供日と時間的近接性が認められないものがあるとすれば、これらについては、法人税法22条の2第2項の適用がないことになる。 かような改正が行われたことについては、批判も示されている(朝長英樹「『収益認識に関する会計基準等への対応』として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(6・了)」T&A master755号16頁以下参照)。 また、後述するとおり、立案担当者は、「近接する日」とされていることから、割賦基準・延払基準による収益計上は、別段の定めがない限り法人税の所得の金額の計算上は認められないと説明している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁参照)。 結局のところ、法人税法22条の2第2項は、引渡・役務提供基準以外の基準による収益計上日について、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」に限定するものであるという説明が成り立ちえよう。 いかに、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理(従前から認められてきた会計処理)であっても、目的物の引渡日又は役務の提供日との時間的近接性が認められなければ、法人税法上はその採用が認められないということである。この意味で、法人税法22条の2第2項は、引渡・役務提供基準から離れた会計処理を行う場面を想定する場合に、引渡・役務提供基準との関係において“限定された柔軟さ”を体現する規定であるといえよう。 《不明確性の根源》 法人税法22条の2第2項は、収益の計上時期について、一定の要件を満たした場合には、資産の販売等に係る収益の額について、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 上述のとおり、かかる近接日基準にいう「資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日」とは、資産の引渡日又は役務提供日との時間的近接性を要求するものである。 もっとも、資産の引渡日又は役務提供日に「近接する日」といっても、具体的事案においてどこまでが「近接する日」として認められるのか、必ずしも明らかではない。 かかる不明確性の根源として、次の3つを指摘しうる。 ①の根源は、引渡・役務提供基準の不明確性の承継である。近接日基準にいう「近接する日」とは、法人税法22条の2第1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」を起点とした「近接する日」である。 この1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」自体が、概念的にも実際的にも漠とした部分を残すものである。2項の近接日がこれを起点に据える以上、1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」自体が有する不明確性を承継することになる。 もっとも、法人税法22条の2第2項が1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」を起点とすること自体には利点もある。引渡・役務提供基準と近接日基準は互いに競合しない(重なり合うことはない)ことである。 ②の根源は、「近接」という語それ自体が持つ曖昧さである。「近接」とは幅のある概念であるから、その文言のみからその許容される程度を明らかにすることは難しい。 しかも、近接性の判断場面においては、採用する収益計上の基準ベースで近接性を判断すべきか、あるいは実際の収益計上日ベースで近接性を判断するのか、という問題も伏在している。さらにいえば、それぞれにおける起点をどのように考えるべきかという点も議論の俎上にあげることができる。 採用する収益計上の基準ベースで近接性を判断する例としては、(国税庁が引渡基準の範疇であると考えている)出荷基準を起点として、(国税庁が近接日基準の範疇であると考えている)契約効力発生基準が近接日基準として認められるか否かを検討するケースを挙げることができる。 また、起点とする引渡・役務提供基準として何を持ってくるべきか、出荷基準以外にも複数考えられる基準の中からいずれを起点とすべきかという問題もある。 実際の収益計上日ベースで近接性を判断する例として、(国税庁が近接日基準の範疇であると考えている)仕切精算書到達日を採用している場合に、実際の到達日が出荷日等の引渡日から相当程度離れている場合に、「近接する日」として認められるか否かを検討するケースを挙げることができる。 また、いずれにしても、起点とする引渡・役務提供日として何を持ってくるべきか、複数考えられる引渡・役務提供日の中からどれを起点とすべきかという問題もある。 条文上は、個々の実際の収益計上日ベースで近接性を判断すべきであるように思えるが、収益計上日の選択ないし採用に継続性が求められることを前提とすると、大抵の場合は、採用する収益計上の基準ベースで近接性の判断に係る議論が進められる可能性はある。 もちろん、時間的近接性のみが問われるのではなく、公正処理基準準拠要件を通じて、そもそも近接日として採用する日の合理性や採用する近接日基準の合理性も問われる。 ③の根源は、公正処理基準準拠要件の不明確性の承継である。上記2つの問題を乗り越えたとしても、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」いるといえるかどうかという点が必ずしも明確ではない、という問題が待ち受けているのである。 法人が採用する近接日基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」いるかどうか、それは純粋に会計的観点から判断すべきか、法人税法固有の観点も織り込むべきか、旧来の法人税基本通達がリードして形成してきた会計慣行をどのように評価すべきか、など検討すべき課題の存在を指摘しうる。   (了)

#No. 354(掲載号)
#泉 絢也
2020/01/30

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第46回】「ポイント引当金」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第46回】 「ポイント引当金」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、ポイント引当金について解説する。我が国では、小売業やサービス業などにおいて、企業の販売促進の手段の1つとして、ポイント制度を導入している会社が多い。ポイント制度は、消費者が商品を購入したり、サービスを利用するたびにポイントが付与され、次の商品の購入やサービスの利用時にポイントを使用できるものである。 ポイント制度は、以下の引当金の4要件(企業会計原則注18)を満たす場合、引当金を計上する必要がある。多くの場合、当期以前に付与したポイントが将来のポイント使用時に費用の発生(又は、収益の減少)につながり、ポイントが使用される可能性は高く、かつ、データが揃えば合理的に見積ることが可能であるため、4要件を満たす場合が多いと考えられる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ポイント制度を導入している場合、顧客に商品の販売やサービスの提供が行われた時にポイントが付与される。 ポイントを付与した時点で顧客はポイントを取得することから、ポイントの付与時にポイント引当金を会計処理することも考えられるが、実務的には、決算時に会計処理することが多いと考えられる。そのため、ポイント付与時には、売上の会計処理のみが行われる。   ポイントが使用された際は、割引が行われる。そのため、ポイントによる割引分については、実態が現金値引であれば売上値引とし、将来の販売促進のための費用であれば販売促進費として処理することが考えられる。   ポイント引当金の金額は、以下のような計算で算出することが多いと考えられる。 (1) 期末日のポイント残高 システム上で、付与ポイント数、使用ポイント数、失効ポイント数を管理し、期末日のポイント残高を集計できるようにする必要がある。 (2) 失効率 失効率は、過去の使用実績及び失効実績に基づいて合理的に見積る必要がある。例えば、過去3年間の期末日のポイント残高に対する失効率の平均等で算定することが考えられる。 (3) 1ポイント当たりの単価 単価は、売価ベースと原価ベースで算定することが考えらえる。 例えば、1ポイント=1円(商品の原価率40%)の場合、売価ベースであれば、単価は1円であり、原価ベースであれば、単価は1円×40%=0.4円である。 《設例》 A社は、個人顧客Bに1,000,000円の商品を現金で販売(原価率40%)し、15,000ポイントを付与した。 ポイントは、1ポイント=1円として使用することができる。 その後、個人顧客Bに50,000円の商品を現金で販売(原価率30%)したが、個人顧客Bは5,000ポイント使用した。 ポイント使用時は、売上値引で処理する。 期末において、ポイント残高は10,000ポイントであり、失効率は20%であると見積った。 ポイント引当金に使用する1ポイント当たりの単価は売価ベースを用いる。 〈会計処理〉 1 ポイント付与時の会計処理 (※1) 1,000,000円×原価率40%=400,000円 2 ポイント使用時の会計処理 (※2) 50,000円×原価率30%=15,000円 3 決算時の会計処理 (※3) 10,000ポイント×(1-20%)×1円=8,000円 なお、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識基準」という)適用後は、以下のように会計処理する。 【販売時(ポイント付与時)】 ポイントが、重要な権利を顧客に提供する場合には、ポイント部分を履行義務として認識し、取引価格を売上部分(売上として計上する部分)とポイント部分(契約負債として計上する部分)にそれぞれの独立販売価格の比率で配分する必要がある。 また、独立販売価格の比率で配分する必要があるため、1ポイント当たりの単価は、売価ベースのみが採用される。 詳細は下記の拙稿を参照されたい。 なお、上記では、ポイント付与時に契約負債を計上する会計処理を紹介しているが、実務上は、収益認識基準適用後も決算時に契約負債を計上することで問題ない。 *  *  * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 354(掲載号)
#西田 友洋
2020/01/30

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第95回】株式会社シーイーシー「特別調査委員会調査報告書(2019年11月8日付)」 

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第95回】 株式会社シーイーシー 「特別調査委員会調査報告書(2019年11月8日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【特別調査委員会の概要】   【株式会社シーイーシーの概要】 株式会社シーイーシー(以下「CEC」と略称する)は、1968(昭和43)年2月設立。デジタルインダストリー事業とサービスインテグレーション事業を主たる事業とする。連結子会社は9社(国内8社、中国1社)、持分法適用関連会社1社(国内)を有する。売上高50,005百万円、経常利益5,058百万円、資本金6,586百万円。従業員数2,216名(いずれも訂正前の2019年1月期、連結ベース)。本店所在地は東京都渋谷区。東京証券取引所1部上場。会計監査人はPwCあらた有限責任監査法人(以下「PwCあらた」という)。   【調査報告書の概要】 CECは、2020年1月期第2四半期報告書に係る四半期レビュー手続において、会計監査人PwCあらたから、2019年7月末時点の売掛金の一部530,698千円の実在性に疑義があるとの指摘を受けた。 PwCあらたが疑義を指摘した点は次のとおりである。 CECは、PwCあらたによる指摘を受けて、当該取引が疑義のある取引であるか、深度ある調査が必要と判断したため、特別調査委員会を設置することとしたものである。 1 調査委員会による調査結果(A社案件) (1) 仕入販売取引 CECでは、PC、サーバー、ライセンス等の製品を仕入れて顧客に売却する物販取引(仕入販売取引)は、主要なビジネスであるシステムの開発及びIT関連サービスの提供に付随して顧客のニーズがあった際に行われるものと位置付けられており、こうした仕入販売取引は、主要ビジネスであるサービス提供と商流が異なる中で、売上高、売上総利益及び利益率等を大きく歪める上に、架空取引や循環取引に巻き込まれるリスクを持つという認識に基づき、独自のルールを設け、運用している。 (2) A社との取引の概要及び経緯 CECサービスインテグレーションビジネスグループ第一営業部所属の従業員は、C社(メーカー)従業員から、C社から複数の会社を経てE社(エンドユーザー)に至る商流への参加を打診され、発注先をD社、販売先をA社とする仕入販売取引を行うこととし、2018年10月、D社に対する発注、検収を行うとともに、2019年1月にA社に対する売上を計上し、支払予定日を4月末日とする請求書を発行した。 ところが、当初の支払期日である4月30日には、A社からの入金はなく、CEC担当者がC社担当者と交渉を行った結果、A社が、8月末日までに、売掛債権に迷惑料を加算した金額を支払うこととなった。 実際には、8月末日に、A社から入金されることはなく、9月2日に、「迷惑料」と称する金銭4,236千円がI社から、9月5日になって、H社からA社案件取引に係る売掛金相当額530,698千円が、それぞれ振込入金された。 (3) PwCあらたによる債権残高確認 PwCあらたは、2020年1月期第2四半期レビューに伴い、上記(2)におけるH社による入金の後、A社に対して2019年7月末時点を基準日とする債権債務残高確認状を、H社に対しては「株式会社シーイーシーとの債務に関する確認ご依頼の件」と称する書面を、それぞれ送付した。 その結果、A社からは「残高なし。金額に心当たりございません」との回答があり、さらに、PwCあらたがA社経理担当者に電話で確認したところ、「債務の認識はない」旨の回答があった。 一方、H社からは、以下の内容の回答があった(一部、記述を省略している)。 (4) 特別調査委員会の評価 調査結果を受けて、特別調査委員会は、A社案件を以下のように評価した。 2 調査委員会による調査結果(B社案件、報告書64ページ以下) 調査開始から1ヶ月後、CECは、「(開示事項の経過)特別調査委員会の調査状況及び新たな疑義の発生に基づく特別調査委員会の体制強化に関するお知らせ」を公表して、特別調査委員会による調査の過程で、「新たな疑義の発生」として、次のように説明した。 このメールを端緒に、特別調査委員会は委員を1人増員したうえで、2014年7月から開始していたB社(上記のリリースでは「F社」と表記されているが、本稿では、調査報告書に合わせる)に対する継続的な商品販売取引案件(B社案件)の調査を行った。 (1) 取引の概要 B社案件とは、CECが、レンタルサーバー提供業者であるB社に対し、C社製(10月17日付リリースでは「E社」であるが、調査報告書の表記に合わせる)のサーバーを購入し、CECの倉庫に受け入れたうえで、B社からの依頼に応じて、B社が契約するデータセンターに納入する取引である。 (2) 前倒し売上計上の手順 商談開始当初、B社は、サーバーが未出荷の状態でCECが請求書を発行した場合であっても、請求金額全額を期限までに支払っていたため、C社から納品される以前に前倒しで売上計上することも可能であった。 その後、B社の支払方法についてはいくつかの変遷を経て、B社への請求は注文された全件が納品されてからまとめて行われることとなり、納品ごとの売上計上との間で、売上月と請求月が不一致になっていた。 2018年10月におけるB社からの発注について、CEC担当者は、2019年5月22日に出荷できる見込みが立ったことから、4月中にB社から出荷指示を得ることにより、4月の売上計上を画策した。売上証憑としてはB社によって作成された「納品受領書」に、「2019年4月17日納品依頼分、2019年5月22日納品分」との記載があった。 同様の方法で、CEC担当者は、2019年5月及び7月にも、B社による出荷依頼をもとに売上計上を行っている。 (3) PwCあらたによる7月の売上計上が認められない見解 2019年8月20日頃から開始された2020年1月期第2四半期レビューにおいて、CEC担当者は、B社からの預り証が未入手であったことから、PwCあらたの担当者に対して、2019年7月に売上計上したB社案件について、未出荷のまま売上げを計上していた事実を伝達した。 その後のレビュー過程で、PwCあらたは、B社からの依頼に基づき、納品日までCECが預かっていることを示す書面(B社確認書)を取得するように要請を行い、CEC担当者は、2019年9月6日にB社確認書を入手した。 しかし、PwCあらたは、以下のような理由から、7月における売上計上が認められないとの見解を示した。 (4) 特別調査委員会による前倒し売上計上認定 調査の結果として、特別調査委員会は、法的には売買契約は有効に存在することを認めたものの、会計的評価としては「実現主義の原則」に基づき、上記、PwCあらたの見解と同様の理由から、「製品が実際に納入されていないにもかかわらず売上計上がされている取引は、(中略)すべて売上の前倒し計上である」と判断している。 特別調査委員会が認定した売上げの前倒し計上額は次のとおりである。 3 発生原因分析(報告書90ページ以下) 特別調査委員会は、CECにおける不適切な行為の発生原因分析の総論として、次のように述べている。 そのうえで、特別調査委員会は、「A社案件」と「B社案件」について、それぞれ、次のように発生原因を分析した。 4 再発防止策の提言(報告書103ページ以下) 特別調査委員会による再発防止策の提言は、以下のとおりである。 比較的一般的な項目が列挙されている中で、特別調査委員会が「強く提言する」と述べている「コーポレートサポート本部の名称変更」について、その理由を引用しておきたい。 CECでは、2015年2月から、従来の管理本部がコーポレートサポート本部へと改称されたため、内部統制におけるブレーキ役を期待されている管理部門が、推進(サポート)役という誤解を招きかねない名称となっている。調査の過程で、経理部等の管理部門が営業部等の現業部門へ強く出ることができなかった事例が見受けられた根底には、管理部門はマネジメントではなくサポートすべきであるというCECの風潮があるのではないか、という指摘である。 5 CECによる再発防止策 特別調査委員会による再発防止策の提言を踏まえて、CECが12月10日に公表した再発防止策は以下のとおりである。 特別調査委員会が強く提言していた、「コーポレートサポート本部の名称変更」については、「経理部等の管理部門が内部統制におけるブレーキ役となるべき管理機能を有することを示していくため、各種の対策を講じます」というのが、CECによる再発防止策であった。   【調査報告書の特徴】 会計監査人が四半期レビュー手続きの中で取引の実在性に疑義を抱き、深度ある調査を要求した結果、当初の疑義以外にも不適切な取引が判明するというパターンは、本連載でも繰り返し取り上げてきた(最近の記事では、【第92回】(株式会社平山ホールディングス第三者委員会調査報告書)、【第89回】(株式会社MTG第三者委員会調査報告書)、【第88回】(ホシザキ株式会社第三者委員会調査報告書)など)。 ただ、本件は、調査開始後に新たな疑義として表面化した「前倒し売上の計上」については、会計監査人による2020年1月期第2四半期レビューの過程で既に存在が判明していることから、特別調査委員会が調査着手後の早い段階でPwCあらたと意見交換を行うなど、情報を共有することができていれば、調査着手段階から「B社案件」についても調査をすることが可能であったのではないかと考える。 1 経理部門における内部統制機能 実際に商品が存在し、請求通りに入金があったB社案件では、売上計上時期の適正性が問題となるという点では、経理部門で適正性に対する疑義を指摘するのは難しく、監査部門による業務監査の強化、もっと言えば、業務監査における指摘事項をいかに現業部門に理解させ、遵守させるかの問題であるように考える。 一方、A社案件については、当初の売掛金回収予定日に入金がされないという情報を得た時点で、経理部門が主導して商談内容の確認を行わなければならなかったのではないか。この点、特別調査委員会は、報告書の「発生原因分析」の項で、次のようにまとめている。 また、調査報告書では、「B社案件」に係る売上計上をめぐって、現業部門担当者の発言として、経理部担当者が信頼されていないことをうかがわせる内容が引用されている。現業部門からの問合せについては、担当者個人の判断で回答するのではなく経理部として組織で見解を統一して回答すべきであることは当然であり、場合によっては、会計監査人の見解を確認する必要もあるが、報告書の記述を見る限り、経理部門の担当者を幹部社員がフォローしている様子はうかがえない(むしろ、経理部長は、「B社案件」についてはイレギュラーな対応を認識しながら、売上計上の適正性を検討することなく、承認をしているとの記述が、報告書「発生原因分析」の項に見られる)。 CEC経理部門のこうした体制が、「経理部門の体制強化」が特別調査委員会による再発防止策の中に織り込まれた原因であったと思料する。 2 CECによる関係者の処分 CECは、2019年12月10日付のリリースで、「関係者の責任の明確化」を公表した。その内容は、「本事案に係る経営責任を重く受け止め」、役員については、降格処分を含む報酬の自主返上とし、従業員については規則に則り、厳正に処分するというものであった。 なお、CECは、12月17日開催の取締役会において、田原富士夫代表取締役社長が代表取締役を辞任し、取締役コーポレートサポート本部長の大石仁史氏が代表取締役社長に就任することを決議したことを公表した。「異動の理由」の前半部分を引用する。 経営責任を問われている取締役が、専務取締役、常務取締役を飛び越えて代表取締役社長に就任することは異例ではないかと思われるが、現業部門の不祥事を再発させないためには、管理部門担当役員を経営トップに据えることが必要であるという経営判断につながっていると評価できるのではないだろうか。 なお、同じリリースでは、代表取締役社長を退任する田原富士夫氏は2020年1月31日付で取締役も辞任するということも公表されている。 (了)

#No. 354(掲載号)
#米澤 勝
2020/01/30

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第11回】「意思能力の明文化・意思表示に関する規定の見直し(その2)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第11回】 「意思能力の明文化・意思表示に関する規定の見直し(その2)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 前回の解説で意思表示に問題があるケースのうち「心裡留保」の見直しについてはわかりましたが、「錯誤」と「詐欺」についてはどのように変わるのでしょうか。 【A】 「錯誤」と「詐欺」については、以下のように改正される。   ◎ 意思表示に問題があるケース 1 錯誤 「錯誤」とは、契約当事者(売買の売主と買主など)の取引内容などの理解に誤解がある場合について、手当を行う制度である。錯誤がある場合、現行法では、以下のように定められている(下線筆者)。 この「法律行為の要素に錯誤」があるというためには、判例において(ⅰ)表意者に錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められること、(ⅱ)通常人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められるほど、その錯誤が客観的に見て重要であることが必要とされている。 また、錯誤は、契約書に売買代金を100万円と書くべきところを、10万円と書いてしまったように、表意者の意思表示の内容と真意が一致しない「表示の錯誤」と、意思表示の内容と真意は一致しているが、その真意が誤解に基づいていた場合の「動機の錯誤」に区別されている。 【表示の錯誤】 【動機の錯誤】 動機の錯誤の場合は、表意者の相手方からは、どのような真意を表意者が持っているかはわからないため、判例では、上述した(ⅰ)(ⅱ)の要件に加えて(ⅲ)動機が相手方に表示されて法律行為の内容となっていることが必要とされている。上記図表【動機の錯誤】の例で、表意者である買主が錯誤を主張するには、売主に対して「A先生の絵だから買う」又は「A先生の作品を探している」などと伝えていることが必要となる。 改正法では、現行法下におけるこれらの規律を明文化することとしている。なお、改正法の規律は、従来の判例の言い回しとは表現が異なるが、判例の考え方を変更するものではないと解されている。 また、現行法では、錯誤があったときのその法律行為(契約)は「無効」になるとされていた。もっとも、錯誤に陥った者の契約の相手方から、その契約が無効であることを主張させることに意味はない。そこで、現行法では、錯誤による無効を主張できるのは、錯誤に陥った者に限られると解されていた。 改正法では、錯誤があったときの効果を無効とするのではなく、錯誤に陥った者がその法律行為(契約)を取り消すことができるものとされた。 2 詐欺 「詐欺」とは、例えば相手方から騙されて契約をしたときなどに、その騙された表意者を保護するための制度である。詐欺によって行われた意思表示(契約など)は取り消すことができるとされている。詐欺について改正が行われたのは以下の点である。 ① 第三者による詐欺の場合 現行法では、第三者により詐欺が行われた場合、表意者の相手方がその事実を知っていたときに限って取消しが可能とされていたが、これを「第三者が詐欺を行ったことを相手方が知ることができた」ときも取り消すことができることとした(改正法96条2項)。 例えば、売主Aが所有する素人が描いた絵画について、Bが買主Cに対して、「Aが持っている絵画は有名な画家が描いたものなので買った方がいい」などと騙し、騙されたCがAからその絵画を買ったときに、Aが、CがBに騙されていることを知っていたときと、CがBに騙されていることを知ることができたときは、Cはその契約を詐欺による意思表示として取り消すことができる。 ② 第三者保護規定 現行法では、詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができないとされており、第三者の過失の有無は問題とされていない。これについては詐欺により意思表示をした者の保護を図る必要性があるという観点から、第三者が保護されるためには善意・無過失であることが必要であることとされた(改正法96条3項)。 例えば、ある不動産を所有するAがBに騙されてBにその不動産を売却してしまい、その後にBからCにその不動産が転売されていたときに、Cが、Aが騙されてBに売却したことについて知らないとき(善意)や、知らないことについてCに過失がないとき(無過失)には、Aの詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者であるCに対抗できず、Aは移転登記の抹消や引渡しを主張できないことになる。 (了)

#No. 354(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2020/01/30

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例43】ユニゾホールディングス株式会社「ユニゾホールディングス株式会社代表取締役及び全役員並びにグループ会社代表取締役及び全役員異動(辞任)のお知らせ」(2019.12.22)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例43】 ユニゾホールディングス株式会社 「ユニゾホールディングス株式会社代表取締役及び全役員並びに グループ会社代表取締役及び全役員異動(辞任)のお知らせ」 (2019.12.22)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、ユニゾホールディングス株式会社(以下、「ユニゾ」という)が2019年12月22日に開示した「ユニゾホールディングス株式会社代表取締役及び全役員並びにグループ会社代表取締役及び全役員異動(辞任)のお知らせ」である。同社と同社グループ会社の取締役、監査役、執行役員全員が辞任するという内容である(筆者がこれだけたくさん「辞任」という言葉が並んだ開示を見たのは、おそらく初めて)。 同社は、この開示と同時に、「株式会社チトセア投資によるユニゾホールディングス株式会社株券(証券コード:3258)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」及び「株式会社チトセア投資による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」を開示している。ユニゾの従業員が意思決定権を有する株式会社チトセア投資が、ユニゾに対してTOB(株式公開買付け)を行うこととなり(すなわちEBO(従業員による企業買収))、ユニゾはそれに賛同するという内容である。 つまり、これからはユニゾの従業員が同社の経営に当たることになるので、現在の役員は皆辞めるというのである。なぜこのようなことになったのか。   2 始まりはHISによるTOB 発端となったのは、株式会社エイチ・アイ・エス(以下、「HIS」という)によるユニゾに対するTOBだった。それをめぐる開示の流れは、以下のとおりである。ユニゾは、HISによるTOBに対して反対意見を表明し(⑤)、それは結局成立しなかった(⑥)。 ① 2019年7月10日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株式に対する公開買付けに関するお知らせ」 ② 2019年7月16日: 「特別委員会の設置に関するお知らせ」 ③ 2019年7月23日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」 ④ 2019年7月30日: 「当社株券に対する公開買付けに関する当社からの質問に対する対質問回答報告書提出のお知らせ」 ⑤ 2019年8月6日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 ⑥ 2019年8月24日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」   3 ホワイトナイトのはずが HISによるTOBが成立しなかったのは、ユニゾが反対したからというわけではない。ホワイトナイト(白馬の騎士)が現れたのである。それは、アメリカの投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、「フォートレス」という)である。 フォートレスによるユニゾに対するTOBをめぐる開示の流れは、以下のとおりである(「サッポロ合同会社」はフォートレスが設立)。①で示された条件が、HISによるものよりも良かったのである。 しかし、フォートレスによるTOBも成立しなかった。正確に言うと、本稿執筆時点で成立していない。ユニゾの株価が買付価格を上回り、TOB成立の見通しが立たなくなったため、買付期間を延長しながら、現在に至っている(③、⑤、⑥、⑧、⑨、⑩、⑪、⑫、⑬、⑮)。 そして、ユニゾは、フォートレスによるTOBに対して、当初は賛同意見を表明し(②)、フォートレスのおかげでHISによるTOBが不成立に終わったにもかかわらず、賛同意見を撤回し(④)(買付価格、TOB後の経営方針、従業員の雇用などを理由に)、最終的に今回の開示と同時に反対意見を表明するに至った(⑭)。 ① 2019年8月16日: 「サッポロ合同会社によるユニゾホールディングス株式会社株券(証券コード 3258)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」 ② 2019年8月16日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」 ③ 2019年9月24日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ④ 2019年9月27日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」 ⑤ 2019年10月3日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑥ 2019年10月17日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑦ 2019年10月21日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」 ⑧ 2019年10月25日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑨ 2019年11月11日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑩ 2019年11月15日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑪ 2019年11月29日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑫ 2019年12月13日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑬ 2019年12月18日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑭ 2019年12月22日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 ⑮ 2019年12月27日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑯ 2020年1月6日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに係る協議状況に関するお知らせ」   4 ブラックストーンの登場 フォートレスと揉めているうちに、今度は別のアメリカの投資ファンドのブラックストーン・グループ(以下、「ブラックストーン」という)が現れ、TOBを提案してきた。それをめぐる開示の流れは、以下のとおりである。 当初、従業員の保護などをめぐり折り合わず、ブラックストーンの提案を受けないとしていたが(①、②)、特別委員会の答申を受けて協議することにした(④)。しかし、その後、協議を続けたものの(⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪、⑫)、結局、今回の開示と同時に協議終了を発表した(⑬)。 ① 2019年9月27日: 「第三者による当社買収提案に係る検討結果のお知らせ」 ② 2019年10月10日: 「第三者による当社買収提案に係る検討結果のお知らせ」 ③ 2019年10月16日: 「ブラックストーンによる当社の同意を条件とした当社の株式を対象とする公開買付けの意向の表明に関するお知らせ」 ④ 2019年10月21日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る対応方針のお知らせ」 ⑤ 2019年10月24日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議状況のお知らせ」 ⑥ 2019年10月29日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑦ 2019年11月7日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑧ 2019年11月18日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑨ 2019年11月24日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑩ 2019年11月28日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑪ 2019年12月7日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑫ 2019年12月13日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑬ 2019年12月22日: 「公開買付けに係るスポンサー候補者との協議結果について」   5 日曜日、午後10時30分の開示 HISによるTOBに始まり、役員全員の辞任に至るまでの流れを見ていると(上掲の多数の開示を見ていると)、「策士策に溺れる」といった印象を受けてしまう。なお、今回の開示は、日曜日の午後10時30分に行われている。日曜日、しかもそんな夜遅くに開示が行われることなど、通常ないのだが、ずっと議論や説得が続けられていたのだろうか。あるいは、何か演出の1つなのだろうか(ともかく、これに付き合わされた従業員の方は気の毒である)。 「株式会社チトセア投資による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」では、この方法が、他と比べて、最も「従業員保護」に適したものであるとされている。この開示には、「従業員保護」という言葉が(カギ括弧付で)、10回も使用されているのだが、ユニゾの経営陣が自らを正当化するために、ことさら「従業員保護」を強調しているように感じられてならない。彼らは、混乱を引き起こした末に、従業員に重荷を押し付けて、会社を去る方々である。 今回の混乱のそもそもの原因は、何なのだろうか。ユニゾが開示した直近の第42期有価証券報告書によると、2014年以降4回も公募増資を行っている。その結果、株式の希薄化により株価が下落したことに加え、株主構成も、2019年3月末現在で、外国人投資家が17%超、個人投資家が28%超となっている。ユニゾは買収の標的とされやすい会社となっていたのであり、その責任はユニゾの現経営陣にある。買収の標的とされる会社は、良い経営資源があるにもかかわらず、経営のやり方が悪いため、株価が低迷している会社であり、ユニゾは正にそうした会社だったのだ。 (了)

#No. 354(掲載号)
#鈴木 広樹
2020/01/30

《速報解説》 エンジェル税制、所得控除の対象企業を設立後5年未満へ拡充する等要件の見直しを図る~認定クラウドファンディングによる確認事務も可能に~

 《速報解説》 エンジェル税制、所得控除の対象企業を設立後5年未満へ拡充する等要件の見直しを図る ~認定クラウドファンディングによる確認事務も可能に~   税理士 仲宗根 宗聡   令和2年度税制改正では、企業によるベンチャー投資促進を図るオープンイノベーション税制が創設されるが、個人投資家によるベンチャー投資を促進する従前のエンジェル税制についても、前回改正から11年ぶりに見直しが行われる。 エンジェル税制とは、ベンチャー企業に対して投資を行った個人投資家へ、税制上の優遇措置を与える制度だが、創業間もないベンチャー企業にとって資金調達は依然大きな課題であり、時代の変化に対応した制度とするために、対象となるベンチャー企業の拡大や、多様な層の投資家がエンジェル税制を利用しやすいよう手続きの簡素化が図られる。 まずはエンジェル税制の概要をおさらいしておきたい。 個人投資家が、創業間もない一定の要件を充たすベンチャー企業へ投資を行った場合、投資を行った年に、所得税の優遇措置(エンジェル税制)を受けることができる。受けられる優遇制度は、次の「優遇措置A」と「優遇措置B」のいずれかを選択する。 優遇措置A:株式投資額の所得控除による減税 ⇒(ベンチャー企業への投資額-2,000円)を、その年の総所得金額から控除する。 ※控除対象となる投資額の上限は①総所得金額×40%と②1,000万円のいずれか低い方。 優遇措置B:株式投資額の株式譲渡益からの控除による減税 ⇒ベンチャー企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除する。 ※控除対象となる投資額の上限なし。   ① 対象企業要件等の見直し まず上記のうち優遇措置Aについて、対象企業要件の見直しが行われる 現行では下表のように、設立後3年未満の中小企業を対象としており、設立経過年数(事業年度)によって試験研究費等割合などの要件が異なる。 (※) 中小企業庁「エンジェル税制のご案内」P3より 令和2年度改正では新たに、設立後3年以上5年未満のベンチャー企業のうち、以下の要件を充たすものが加えられる。 また、適用対象となっている設立後1年以上3年未満のベンチャー企業について、試験研究費等割合の要件が5%超(現行:3%超)に引き上げられる。 さらに控除対象限度額について、令和3年1月1日以後から、現行1,000万円が800万円に引き下げられる(経過措置あり)。 ② 経済産業大臣認定制度の拡充 エンジェル税制の適用に当たっては、優遇措置A・B共に、ベンチャー企業が都道府県に対し、自社がエンジェル税制の対象企業であること、及び、個人がエンジェル税制の対象となる投資をしたことについて、書面によって確認申請する手続が必要となる。 【エンジェル税制申請から確定申告までの流れ】※現行 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係税制改正について」P29 現行では優遇措置Bに限り、経済産業大臣の認定を受けたファンドが都道府県に代わり確認事務を行うことができるが、改正後は優遇措置Aについても認定ファンドによる確認事務が可能となり、さらにA・B共に、経済産業大臣の認定を受けたクラウドファンディング事業者による確認事務が可能となる。 【改正後の確認事務を行う者】 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係税制改正について」P30 ③ 申請手続きの重複を改善 ベンチャー企業が都道府県に行う申請書類の重複を改善し、申請手続きの効率化が行われる。具体的には以下の書類について、申請書への添付を要しないこととされる。 (了)

#No. 353(掲載号)
#仲宗根 宗聡
2020/01/28

《速報解説》 国税庁、事業者が企業発行ポイントを付与・使用した際の一般的な会計処理・税務上の取扱いを公表~ポイント使用時の「課税仕入れに係る支払対価の額」はレシート表記で判断可~

 《速報解説》 国税庁、事業者が企業発行ポイントを付与・使用した際の一般的な会計処理・税務上の取扱いを公表 ~ポイント使用時の「課税仕入れに係る支払対価の額」はレシート表記で判断可~   Profession Journal 編集部   従前からの電子マネーの普及に加え政府が推進するキャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)の活況が相まって、商取引におけるポイントの付与・使用が急速に浸透しつつある。この状況を受け国税庁は、事業者や個人がポイントを使用した際の一般的な会計処理や税務上の取扱い等を新たに公表している。 今回公表された情報は下記のように、PDFファイルによる説明資料やタックスアンサーなど複数にわたっているため留意が必要だ。 まず(1)(共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の一般的な処理例)では、Tポイントや楽天ポイントなど、事業者間で共通して使用できる共通ポイント制度の利用に関し、共通ポイントの付与時・使用時における制度加盟店及びポイント会員(ポイントの利用者)が行う会計処理と消費税の取扱いを、制度運営会社との関係を交えて例示している。消費税の取扱いについては、制度加盟店・制度運営会社間の取引については対価性がないこと(消費税不課税)を前提とした処理となっているが、「ポイント制度の規約等の内容によっては、消費税の課税取引に該当するケースも考えられる」としている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国税庁ホームページより 次に(2)(企業発行ポイントの使用に係る経理処理)では、事業者がポイント利用者として、商品購入時にポイントを使った場合に考えられる経理処理の方法として、①ポイント使用後の支払金額を経費算入する「値引処理」と、②ポイント使用前の支払金額を経費算入するとともにポイント使用額を雑収入に計上する「両建処理」のいずれかで経理するとの見解を示している。(2)で示されたレシートの表示別の仕訳例は以下のとおり。 (※) 国税庁ホームページより また(2)のように事業者が商品を購入した際、その取引(課税仕入れ)については仕入税額控除を行うが、その場合の考え方を示したものが(3)のタックスアンサー(事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方(No.6480))だ。(3)では、商品購入時にポイントを使用した場合、消費税の「課税仕入れに係る支払対価の額」は、 となり、①②のいずれに該当するかは、商品を購入した事業者側が、レシートの表記から判断して差し支えないとしている(ただし仕入税額控除の適用を受けるためには、区分経理に対応した帳簿及び区分記載請求書等の保存が必要)。 (※) 国税庁ホームページより なお冒頭述べた、コンビニ等が行っている即時充当(即時に購買金額にポイント等相当額を充当する方法)による「キャッシュレス・消費者還元事業」に係る仕入税額控除の考え方については、すでに昨年11月に下記の見解が示されており、商品対価の合計額が変わるものではないことから、即時充当による消費者還元を受けた場合には、商品対価の合計額が「課税仕入れに係る支払対価の額」となる。 (※) 国税庁ホームページより 最後に(4)(個人が企業発行ポイントを取得又は使用した場合の取扱い(No.1907))だが、これは個人がドラッグストアのポイントなど企業発行ポイントを取得又は使用した場合に所得税の確定申告が必要かというもの。回答として、一般的に企業が発行するポイントのうち決済代金に応じて付与されるポイントについては、通常の商取引における値引きと同様の行為に当たり、原則として課税対象となる経済的利益には該当しないことから、確定申告を行う必要はないとしている。 ただし、「ポイント付与の抽選キャンペーンに当選するなどして臨時・偶発的に取得したポイント」については、値引きと同様の行為が行われたものとは考えられないため、一時所得に当たり、その使用したポイント相当額を使用した日の属する年分の一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入することになる。 また、ポイントを使用して医薬品購入の決済代金の値引きを受けた場合など、所得控除の対象となる支出にポイントを使用したことが明らかな場合には、 のいずれかの方法により、所得金額及び所得控除額を計算することになる。 *  *  * 今回の(1)~(4)の情報は、キャッシュレス・ポイント還元事業の影響を受ける個人事業など中小・小規模事業者を対象としていることから、確定申告を前にしたこの時期に公表を行ったものと思われるが、上述のようにポイント制度の規約によって消費税の取扱いが異なる可能性もあり、またすでに企業発行ポイントを投資信託に使うなどポイント制度自体のサービス拡充(取引の複雑化)も始まっていることから、さらなる情報の整理・公表が望まれるところだ。 なお、来年適用開始となる「収益認識に関する会計基準」適用企業は対象として想定されていないため、基準適用予定の企業は以前公表された下記の情報を参照されたい。 (了)

#No. 353(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/01/23

プロフェッションジャーナル No.353が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年1月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.353を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/01/23

日本の企業税制 【第75回】「グループ通算制度の特徴」

日本の企業税制 【第75回】 「グループ通算制度の特徴」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇令和2年度改正で注目される「グループ通算制度」 2020年1月20日、第201回国会(常会)が召集された(会期は6月17日までの150日間)。 1月下旬あるいは2月上旬には、昨年末に取りまとめられた令和2年度税制改正大綱に基づき、税制改正法案が国会に提出されるものと見込まれる。 今回の改正法案(法人税法関連)において最大のボリュームを占めるのが、連結納税制度の見直しである。この見直しにより、連結納税制度はグループ通算制度へと衣替えすることになる。 まずは大綱を踏まえ、令和4年4月1日以後開始する事業年度から始まる新たな制度を概観することとしたい。   〇納税主体はグループ内の各法人へ 現行の連結納税制度では、連結納税グループをあたかも1つの法人であるかのごとく扱い、連結親法人がグループを代表して申告・納税義務を負うこととされているが、新たな制度では、グループ全体での損益通算については維持する一方、グループに属する各法人が個別にそれぞれ申告・納税義務を負うこととなる。この点こそが今回の見直しの眼目である。 このように、グループ通算制度はあくまでも単体納税制度の枠組みの中に位置づけられるものである。この見直しによって、グループ内の法人に修更正が生じた場合に他の法人に影響を及ぼしてしまうという連結納税制度の実務上の難点を克服することが企図されており、グループ通算制度の随所に修更正の影響を遮断する仕掛けが盛り込まれているのが、グループ通算制度の特徴となっている。   〇グループ内における損益通算 グループ通算制度のもう1つの眼目は、グループ内での損益通算を行うということである。この点は連結納税制度のメリットを維持するものである。 その方法は、各法人で計算した所得をベースに、赤字法人の欠損の合計額を、黒字法人の所得の合計額を限度に、黒字法人の所得の金額で按分して黒字法人の損金として算入するというものである(損金算入された欠損は赤字法人の欠損の金額で按分し、赤字法人側で益金算入する)。 いったん損益通算が行われた後は、個別の法人において修更正が行われても、損益通算の結果には影響を及ぼさず、当該法人において処理される。   〇繰越欠損金の通算 当期の損益のみならず、繰越欠損金も通算が行われる。損金算入限度額は、損益通算後の黒字法人の所得の50%(大法人の場合)の「合計額」とされており、この点は連結納税制度と同様の取扱いである。 ただし、あくまでも単体納税制度であることから、繰越控除により欠損金を損金算入できる法人は損益通算後の黒字法人に限られるため、グループ内の繰越欠損金を有する法人とそれを控除する法人とが別々になる。すなわち、繰越欠損金の授受が生じる場合がある、ということに注意が必要である。 いったん損益通算が行われた後は、他の法人において修更正が行われても、損益通算の結果には影響を及ぼさず、また、自ら修更正を行った場合でも、他の法人との間で授受を行った繰越欠損金の額は当初の額で固定される。   〇適用税率 単体納税制度の枠組みである以上、適用される税率は、各法人の状況によることになるが、中小法人の軽減税率に関しては、800万円の枠は、グループ全体で1つであり、黒字法人の所得の金額で800万円を按分することとなる。 また、中小法人の軽減税率を適用できるのは、グループの法人のすべてが中小法人に該当する場合のみであることに注意しなければならない。   〇税額控除額のグループ調整計算 単体納税制度に戻るとは言うものの、現行の税額控除の額等を連結グループ全体で計算するグループ調整計算については、個々の制度趣旨や企業の税負担を踏まえ、きめ細かい対応がなされている。特に控除額の大きい外国税額控除や研究開発税制については、グループ全体での計算が維持されている。 ただし、単体納税制度という枠組みの影響はここでも避けられず、赤字法人に税額控除額を配分するわけにはいかないことから、例えば、研究開発税制においては、グループ内の各法人への税額控除額の配分は研究開発費の比ではなく、損益通算後の所得に対する法人税額の比による。 また修更正が生じた場合の取扱いに関しては、外国税額控除については、過去には影響を及ぼさず、すべて進行年度で処理することとされ、研究開発税制においては、控除額が減少する場合には全体で再計算する必要がある。   〇グループ通算制度の適用開始・グループへの加入・グループからの離脱 グループ通算制度の適用開始やグループへの加入に際しては、組織再編税制との整合性の取れた制度とすることで、現行の連結納税制度の適用開始や連結納税グループへの加入の際の時価評価課税や欠損金の切捨ての対象を縮小する。 これは、現行のように、単体納税制度から連結納税制度という、全く異なる課税制度へ移行するわけではなく、単体納税制度の枠組みの中での損益通算の選択となるため、制度間の断絶を考慮する必要がなくなったことによるものとも考えられる。 この見直しにより、適用開始段階では、完全支配関係が維持されることが見込まれていれば時価評価の心配はなくなり、また、現金買収による完全子会社化の場合であっても、要件を満たせば時価評価を受けないこととなる。ただし、租税回避を防止する観点から、含み損等の利用を制限する措置が追加される。また、個別申告方式に移行することを踏まえ、親法人と子法人の制度適用前の欠損金の取扱いが統一され、自己の所得の範囲内で控除すること(特定欠損金)となる。 グループからの離脱に際しては、連結納税制度における連結個別利益積立金額に基づく複雑な投資簿価修正の仕組みが簡素化されるとともに、損失の二重計上を防止する観点から、一定の場合には離脱法人に対して時価評価課税が行われることとなる。 (了)

#No. 353(掲載号)
#小畑 良晴
2020/01/23

これからの国際税務 【第17回】「令和2年度税制改正大綱における国際課税の焦点(その1)」-国外の不動産投資を利用した節税策への対応-

これからの国際税務 【第17回】 「令和2年度税制改正大綱における国際課税の焦点(その1)」 -国外の不動産投資を利用した節税策への対応-   21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二   1 提案の背景 2019年12月に閣議決定された令和2年度税制改正大綱は、国際取引に関して個人と法人によって企画されている2種類の租税回避スキームに関する個別否認規定の導入を提案している。そのうち、今回はまず、個人の海外不動産投資に際して発生する不動産所得の損失を利用した節税策をシャットアウトする改正の意義を検討することとしたい。 建物や船舶・航空機の賃貸によって発生する不動産所得については、賃貸不動産の減価償却費計上等により損失が発生した場合に、当該損失を他の所得と損益通算することが所得税の構造上可能とされていることから、この仕組みを利用した不当な租税回避策が問題視されてきた。これまでは、特に航空機・船舶リース等を利用したタックスシェルター商品を念頭に、所得稼得者が不動産事業を担う組合の執行責任を負わない特定組合員に該当する個人である場合に、上記損失をなかったものとみなす個別的否認規定(租特41条の4の2)が設けられている。 しかし、その後平成27年度の会計検査院の税務行政検査によって、更に、海外の中古建物の減価償却に係る簡便法を利用した損失活用の申告事例が指摘され、そのような節税を可能にしている減価償却制度について、「財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。」との指摘を受けていた。 今回の改正案は、中古資産の減価償却制度(耐用年数省令3条)そのものは改訂せず、従来の特定組合員向け対策と同様、減価償却の結果発生する対応損失を所得税法の適用上なかったものとみなす方式で、検査院の指摘に応えるものとなっている。   2 税制改正案の概要 令和2年度税制改正大綱における改正案は、概要以下のとおりである。   3 改正提案の意義 会計検査院は、指摘した事例において、米国や英国の賃貸建物の使用可能期間が我が国に比べて長くかつ時価の経年低下度合いが低いという条件の下では、国内建物と同様の中古建物に係る簡便法の減価償却(経過済み年数の20%の耐用年数適用)の選択を許すと、次の2重の税収漏れリスクがあると指摘した。 すなわち、①一般的に賃貸収入を超える減価償却が可能となり、各年の不動産所得について過大な損失計上とそれに伴う損益通算という節税効果をもたらすこと、にとどまらず、②その後、賃貸人が当該住宅を譲渡し、不動産所得から長期譲渡の特例適用のある譲渡所得に所得類型の転換を図ったり、更には、自身が国外に転出して、我が国課税管轄から離脱するという、追加的な税務メリットも許しているというものである。 今回の改正案では、所得税の中での不動産所得の所得計算上減価償却の仕組みには修正を加えず、租税計画上活用されている特定損失について「ないものとみなす」方式をとり、根元のところで上記①及び②のリスクを断絶するものとなっている。 なお、本件が検討対象としたスキームは、米国では“不動産タックスシェルター”と呼ばれるものである。米国では、不当な損益通算を制限する制度として長い伝統を持つ趣味の消費活動等から生じた損失控除制限(ホビーロス・ルール)の拡充に加えて、タックスシェルター商品のマーケット拡大に応じて、1969年のミニマムタックスの導入に始まり、受動的活動損失の通算を制限するルールやノンリコースローンに係る資産の減価償却費算入を制限するアットリスクルールなどが開発され、クロスボーダー投資の環境を含めて租税回避への多彩な防御システムが構築されてきている。 これに対して我が国は、米国から輸入されたタックスシェルターに対する対応策の立法が常に後手に回っていたが、ようやく近年立法(上記特定組合員ルールと今回の改正案)及び判例法(フィルムリースに関する最判H.18.1.24判決、米国LPSに関する最判H.27.7.17判決)により、防御態勢が整いつつあると考えられる。ただし、BEPS行動12で勧告された租税回避スキームについての義務的開示制度の立法は、いまだ未処理の立法案件として残っている。 米国ではタックスシェルターの登録義務や登録番号の告知義務が完備されており、納税者にとっての予測可能性を高めている。我が国も今回の改正を補強する意味でも、早期の立法が期待されるところである。 (了)

#No. 353(掲載号)
#青山 慶二
2020/01/23
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