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2020年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】

2020年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   Ⅲ 会社法の改正   「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」という)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「整備法」という)が、2019年12月4日に成立し、同年12月11日に公布された。 改正点は、以下のとおりである。   1 株主総会に関する規律の見直し (1) 株主総会資料の電子提供制度の創設 現行法上は、書面で招集通知を発送する必要があり、情報を早期かつ十分に公開することが難しい。そのため、以下の改正が行われた。 (出所:法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」) (2) 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備 近年、1人の株主が膨大な数の議案を提案するなど、株主提案権の濫用的な行使事例が発生し、権利の濫用と認められた裁判例も出てきた。そのため、株主提案権の上限が設けられた。   2 取締役等に関する規律の見直し (1) 取締役の報酬に関する規律の見直し 取締役の個人別の報酬の内容は、取締役会又は代表取締役が決定していることが多い。報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要がある。そのため、以下の規定が設けられた。 (2) 会社補償に関する規律の整備 役員等の責任を追及する訴えが提起された場合等に、株式会社が費用や賠償金を補償すること(会社補償)については、利益相反性があるが、現行法上は、会社補償について直接に定めた規定はない。そのため、以下の規定が設けられた。 (3) 役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備 株式会社が役員等を被保険者とする会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入させることについては、利益相反性があり得るが、現行法上は、D&O保険への加入について直接に定めた規定はない。そのため、以下の規定が設けられた。 (4) 業務執行の社外取締役への委託 現行法上、業務を執行した場合には社外性が失われることにより、社外取締役が期待される行為をすることが妨げられることがないようにする必要性が指摘されていた。そのため、以下の規定が設けられた。 (5) 社外取締役の設置の義務付け 上場会社等において、社外取締役の設置が義務付けられた。   3 社債の管理等に関する規律の見直し (1) 社債の管理に関する規律の見直し 社債の管理については、現行法上、社債管理者の制度があるが、権限が広く、責任が重いことを原因として、なり手の確保が難しく、利用コストも高くなると指摘されていた。そのため、以下の規定が設けられた。 (出所:法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」) (2) 株式交付制度の創設 現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換制度があるが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない。そのため、完全子会社化を意図しない場合でも、株式交換と同様に株式を取得できるように新たに株式交付制度が設けられた。 (出所:法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」)   4 その他   5 適用時期 改正会社法は、公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(改正会社法附則1)。 ただし、株主総会資料の電子提供制度の創設(上記1(1))、会社の支店の所在地における登記の廃止(上記4)については、公布の日から3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(改正会社法 附則1ただし書)。   Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正   金融庁より、2019年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が公表された。有価証券報告書の主な改正内容は、以下のとおりである。 本解説では、以下のうち、2020年3月期から適用又は2020年3月期から適用可のもの(記載箇所の変更は除く)について、解説する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 「第2【事業の状況】1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の記載は、以下のように改正される(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(30)、第三号様式 記載上の注意(10)等)。 (※1) 「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」の内容については、目標の達成度合を測定する指標、算出方法、なぜその目標を利用するのかについての説明等を記載することが考えられる。経営計画等の具体的な目標数値の記載を義務付けるものではないが、当該目標数値を任意で記載することは妨げられない。  有価証券報告書に合理的な検討を踏まえて設定された経営計画等の具体的な目標数値を記載する場合には、有価証券報告書提出日現在において予測できる事情等を基礎とした合理的な判断に基づくものを記載すべきであり、必要に応じて記述情報による補足も含めるべきと考えられる(「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下、「金融庁考え方」という)」No.6)。   2 事業等のリスク 「第2【事業の状況】2 事業等のリスク」の記載は、以下のように改正される(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(31)、第三号様式 記載上の注意(11)等)。 (※2) 「経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて」記載することを求めており、リスク項目を羅列するのではなく、主要なリスクを記載することを明確化している。  リスクの発生可能性や企業への潜在的影響の大きさの観点から、企業の成長、業績、財政状態、将来の見込みについて重要であると経営陣が考えるものに限定するとともに、企業に固有でない一般的なリスクを記載する場合は、具体的にどのような影響が当該企業に見込まれるのか明らかにすることが求められる。(金融庁考え方No.10)。 (※3) 「顕在化する可能性の程度や時期」については、経営者として判断した根拠が記載されることが望ましいと考えられる(金融庁考え方No.11)。 (※4) 「影響の内容」については、定量的な記載に限られるものではないが、リスクの性質に応じて、投資者に分かりやすく具体的に記載することが必要と考えられる(金融庁考え方No.12)。 (※5) 「リスクへの対応策」については、実施の確度が高いものを記載するものと考えられるが、実施を検討しているに過ぎないもの等を記載する場合には、その旨を記載し、投資者に誤解を与えないような記載が求められる(金融庁考え方No.13)。 (※6) リスクが顕在化する可能性の程度や時期及び影響の内容は、比較を容易にする観点からも前年との変化が分かるように記載することが望ましいものと考えられる(金融庁考え方No.14)。 (※7) 特定の取引先・製品・技術等へどの程度依存しているかについては、可能な限り定量的に説明することが期待される(金融庁考え方No.15)。 (※8) 重要事象等について監査役会で議論が行われている場合には、「監査役会の活動状況」において記載することも考えられる(金融庁考え方No.17)。   3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 「第2【事業の状況】3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載は、以下のように改正されている(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(32)、第三号様式 記載上の注意(12)等)。 (※9) キャッシュ・フローの状況における資金需要の動向に関する経営者の認識の説明に当たっては、企業が得た資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載することが有用と考えられる(金融庁考え方No.19)。   4 監査の状況 「第4【提出会社の状況】4 コーポレート・ガバナンスの状況等(3)監査の状況」の記載は、以下のように改正されている(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(56)、第三号様式 記載上の注意(37)等)。 (※10) 監査役、監査委員及び監査等委員の活動状況については、常勤者の活動だけではなく、非常勤の者も含めて記載される必要がある(金融庁考え方No.34)。 (※11) 監査の継続期間は、例えば、以下のように整理される。 ① 提出会社が有価証券届出書提出前から継続して同一の監査法人による監査を受けている場合、有価証券届出書提出前の監査期間も含めて算定する。 ②-ⅰ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間も含めて算定する。 ②-ⅱ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の被取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間は含めないものとして算定する。 ③-ⅰ 過去に監査法人において合併があった場合、当該合併前の監査法人による監査期間も含めて算定する。 ③-ⅱ 提出会社の監査業務を執行していた公認会計士が異なる監査法人に異動した場合において、当該公認会計士が異動後の監査法人においても継続して提出会社の監査業務を執行するとき又は当該公認会計士の異動前の監査法人と異動後の監査法人が同一のネットワークに属するとき等、同一の監査法人が提出会社の監査業務を継続して執行していると考えられる場合には、当該公認会計士の異動前の監査法人の監査期間も含めて算定する。  継続監査期間の算定に当たっては、上記の整理も踏まえ、基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記することが考えられる。  また、継続監査期間の記載方法については、「●年間」と記載する方法のほか、「●年以降」といった記載も考えられる(金融庁考え方No.36)。 (※12) どこまでネットワークに含めるべきかは、監査人に確認しないとわからない場合もあるため、実際に記載する際は、監査人に確認することが望まれる。 Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)   2018年7月6日に、金融庁・企業会計審議会から「監査基準の改訂に関する意見書」が公表された。そして、2018年11月30日に「「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について」が公表された。 これらの公表により、「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)」が導入された。KAMとは、「監査の過程で監査役等と協議した事項の中から、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項」をいう(日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書(以下、「監基報」という)701.7)。 今まで、監査報告書ではどの企業も同じ文面であった。しかし、KAM導入後は、企業によって、KAMが異なるため、監査報告書も企業によって異なる。なお、KAMはあくまでも監査上、特に重要な事項を記載するだけであって、個々の論点について個別の監査意見を表明するわけではない。   1 KAMの決定過程 監査人は、毎期、監査の過程で監査役等と協議する。 そして、その協議した事項から、以下を考慮して、「特に注意を払った事項」を決定する(監基報701.8)。 (※) 特別な検討を必要とするリスクとは、監査人が識別し評価した重要な虚偽表示リスクの中で、特別な監査上の検討が必要と監査人が判断したリスクをいう(監基報315.3(3))。 最後に、「特に注意を払った事項」から当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要(相対的な重要性)であると判断した事項(=KAM)を決定する(監基報701.9、A59)。 海外の事例では、収益認識、のれんの評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、各種引当金等が記載されることが多い。 KAMは各社の中での相対的な重要性により決定されるため、KAMがゼロになるケースは稀であると考えられる。 【KAM決定のイメージ図】   2 監査報告書の記載事項 (1) 冒頭の記載 監査人は、KAMについて、監査報告書の「監査上の主要な検討事項」の区分の冒頭に以下を記載する(監基報701.11)。 (2) 個々のKAMの記載 上記(1)の記載の下に個々のKAMに適切な小見出しを付して、以下を記載する(監基報701.12)。   3 KAMと企業による開示との関係 企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、KAMの記載は、経営者による開示を代替するものではない。監査人がKAMを記載するために、企業がまだ未公表の情報を記載する必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示(注記、有価証券報告書の経理の状況より前での開示、決算短信等)を促すことが考えられる(監査基準の改訂について 二1(5))。 なお、監査人が追加的な情報開示を促した場合において経営者が情報を開示しない場合、監査人が正当な注意を払って職業的専門家としての判断において当該情報をKAMに含めることは、監査基準に照らして守秘義務が解除される正当な理由に該当する(監査基準の改訂について 二1(5))。   4 適用対象及び適用時期 (1) 適用対象 当面、金融商品取引法上の監査報告書(年度)に適用される。なお、非上場企業のうち、資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除かれる。 (2) 適用時期 2021年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年度から適用される。ただし、2020年3月31日以後に終了する連結会計年度及び事業年後から早期適用することもできる。 (注) KAMは監査報告書に記載する内容であるため、いつから適用するか判断するのは、企業ではなく、監査人である。 (了)

#No. 360(掲載号)
#西田 友洋
2020/03/12

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第32回】「計算書類における「0」の表記に注意」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第32回】 「計算書類における「0」の表記に注意」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例32-1】 数字の記入漏れ、記入ミスがある。 【事例32-1】の連結株主資本等変動計算書には、記入漏れが1ヶ所と記入ミスが1ヶ所あります。いずれも数値欄です。どこだかわかりますか? これは難問かもしれません。単純なミスなのですが、気がつきにくいのです。「まずは計算チェックでもやってみよう」と思った方は、思いとどまってください。それをやっても見つからない可能性が高いです。   2 「0百万円」は「0円」ではない では、正解を見てみましょう。以下のとおりです。 赤丸で囲んだところが、正しく修正したところです。正解できたでしょうか。 説明するまでもありませんが、「0百万円」というのは、「0円」ではなく、「1円~999,999円」を示しているので、「0百万円」や「△0百万円」の記載は、欠かせないのです。「もちろん、そんなことはわかっていたが間違えてしまった」というのが、この事例です。   3 このミスの原因は? 【事例32-1】のミスが発見されなかった原因を考えてみましょう。 それは以下の2つです。 第1は、計算チェックをしてもわからないという点です。「△0」が記載漏れになっていたり、「△0」が「-」になっていたりしても、計算チェックの結果には影響がありません。したがって、いくら計算チェックをしても、異常に気がつけません。 第2は、連結株主資本等変動計算書のマトリクス状のフォームです。ご覧いただいたとおり、数値欄がマトリクスになっていて、必ずしもそのすべての欄に数字が記載されるわけではありません。したがって、数字が記載されるべき欄が、空欄や「-」になっていても違和感がないのです。 以上から、この種のミスを防ぐには、ミスの事例を習得して、似たようなケースには気をつけるというのが早道です。   4 類似事例 類似事例を1つ紹介しておきます。 計算書類の附属明細書に掲載する「有形固定資産及び無形固定資産の明細」の事例です。 【事例32-2】 「0」と「-」の使い分けが間違っている。 赤丸で囲ったところが、異常な部分です。 機械装置と工具器具備品の当期増加額は、いずれも「0百万円」(1円~999,999円)ですが、有形固定資産合計の当期増加額は「-」(0円を示す)となっています。内訳に「0百万円」が含まれているにもかかわらず、合計が「-」になることはありえません。 したがって、機械装置と工具器具備品の「0」を「-」とするのか、有形固定資産合計の当期増加額を「0」とするのか、いずれかであるはずだとわかります。 前回に引き続き、「0」という数字が出てきたときは、何かとミスが起こりやすいので、十分に注意しましょう。   〈今回のまとめ〉 計算書類では、円単位で作成していない限り、「0」は「0円」ではないことを常に意識しておきましょう。 (了)

#No. 360(掲載号)
#石王丸 周夫
2020/03/12

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第24回】「リモートワークを導入する際の留意点」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第24回】 (最終回) 「リモートワークを導入する際の留意点」   弁護士 影島 広泰   -Question- 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、予防対策としてリモートワークの導入を検討していますが、中小企業がリモートワークを導入する際に情報管理の面で気をつけるべき点は何でしょうか。 -Answer- 覗き見・盗難の防止、データの暗号化、パソコン起動時のパスワード設定、ウイルス対策等、個人情報保護法の安全管理措置を講じる必要があります。 これまで本連載では、23回にわたって中小企業の情報管理と法的責任について解説してきた。最終回となる今回は、これまでの連載を参照しながら、中小企業がリモートワークを導入する際の留意点について考えたい。   1 リモートワーク 新型コロナウイルスの感染・拡散防止のための対策を講じることを契機に、リモートワーク(自宅等での勤務)を導入する企業が急増している。また、実際の導入までは至っていないとしても、今後BCP(事業継続計画)を考える際にリモートワークを導入することを検討している企業も多いであろう。 中小企業がリモートワークを導入する際に、情報管理の面から気をつけるべき点は何であろうか。 (1) 物理的な措置 リモートワークを導入する際に、情報管理の面で気をつけるべき法律は、個人情報保護法である。本連載の【第2回】で述べたとおり、個人データを漏えいしないよう、個人情報保護法20条の「安全管理措置」を適切に講じる必要がある。その中で、特に重要なものは以下のとおりである。 ① 区域の管理 個人データを取り扱う事務を実施する際には、他社からの不正な覗き見などを防止しなければならない(第3回)。自宅でパソコンを使って仕事をするのであればともかく、カフェやフリースペースなどで仕事をするのであれば、画面に覗き見防止フィルムを貼るなどの対策を講じておく必要があろう。 ② 盗難の防止 パソコン等を盗まれないように管理しなければならないのは当然である(第3回)。特に、電車内でのスリ・盗難や、自動車への車上荒らし等に注意すべきである。なお、パソコン内にデータが保存されないよう、リモートから会社の環境にアクセスして仕事をすることができる環境を導入するのが、より安全である(ただし、導入コストはかかる)。 ③ 持ち運ぶ際の漏えい等の防止 個人データが入ったパソコン等を持ち運び、紛失や置き忘れをした際に情報が漏えいしないよう、パソコンのデータは暗号化しておきたい(第4回)。少なくとも、WindowsなどのOS起動時のパスワード設定は行っておく。 ④ パソコン等の廃棄 2019年に、HDD等の廃棄を受託していた企業の従業員が、機器をインターネットオークションに横流ししていた事件が発覚した。廃棄を委託する前に、データを完全消去するソフトウェアなどで自社において消去しておくか(第4回)、委託先での廃棄の状況を写真で確認するなどしたい(第6回)。 (2) 技術的な措置(第5回) ① アクセス制御 上述のとおり、アクセス制御として、せめてWindowsなどのOS起動時のパスワード設定は行っておく。 ② アクセス者の識別と認証 従業員を外部から会社の環境にアクセスさせるのであれば、ID・パスワードなどで本人かどうかの識別と認証を行う。 ③ 外部からの不正アクセスの防止 パソコンには、ウイルス対策ソフトを導入(あるいはOSに付属しているのであればそれを有効化)し、パターンファイル(ウイルス対策ソフトがウイルス検出のために使用するファイル)等は最新版にしておく。OSの自動更新機能も有効にしておく。 ④ 情報システム使用時の漏えい等の防止 会社の環境やサーバとパソコンとの間の通信は、暗号化しておきたい。 (3) 営業秘密として保護しておくための対応 リモートワークで使用する電子データが営業秘密として保護された状態を維持するためには、「秘密として管理されていること」、具体的には、合理的な方法で管理する(秘密管理措置)ことで、秘密とする意思があることが十分に認識できるようになっていることが必要である(第7回)。電子データの場合には、ファイル名や文書のヘッダーにマル秘表示をしたり、ファイルやフォルダにパスワードを設定しておくことが考えられる(第8回)。 もっとも、感染症が蔓延するなどの緊急事態において、個別のファイルにマル秘表示していくことなどは難しいケースも多いであろう。このようなケースではどうすれば良いであろうか。要は、情報に接した者にとって、「その情報を秘密として管理する意思」を会社が持っていることを「認識」できるように管理しておくことが「秘密として管理されていること」の根幹である。 したがって、最低限、リモートワークを行う際に、自宅のパソコン等で利用・保存する会社のデータは、会社にとっての営業秘密であり、社内と同等の秘密管理を行うべきものであることについて、従業員から誓約書等を取得しておくと良いであろう。 これにより、従業員に対して、会社が秘密として管理する意思を持っていることを認識させることができ、後で「リモートワークで保存したデータが秘密の情報だと思わなかった」などという言い訳を封じることができると考えられる。 なお、このような対応は、自社にとっての営業秘密として管理するという意味だけではなく、他社から受領した情報について、当該会社との間の守秘義務契約等の契約上の義務を果たすためにも必要なケースが多いことから、注意したい。 (4) まとめ 個人データに対する安全管理措置はリスクに応じたものとすることが求められているから(通則ガイドライン3-3-2)、以上の対策で十分かどうかは、取り扱う情報の重要性(特に、漏えいしたときに本人が被る権利利益の侵害の大きさ)によって変わってくる。 しかし、一般的には、以上の対策を講じておけば、個人情報保護法の安全管理措置としては問題ないと評価できるであろう。より詳細なセキュリティ対策については、総務省の「テレワークセキュリティガイドライン」に詳しく記載されているから、参考にされたい。 なお、会社が管理しているパソコンではなく、従業員が所有する私物のパソコンを利用すること(BYOD)は、会社としての管理が行き届かないリスクがあることに留意が必要である。BYODが法的に認められないわけではなく、むしろ多くの企業で導入されているものではあるが、会社として、安全管理措置に問題のない状態をどのように確保するのかを検討する必要がある。近時は、外部のパソコンから会社のメールやファイル等を安全に取り扱うことができる安価なソリューションも多く存在しているから、導入を検討したい。   2 これまでの連載のまとめ 今回をもって、本連載は最終回である。最後に、これまでに解説したことを以下に簡単にまとめるので、各々の状況に応じて適宜参照されたい。 なお、この中で、【第10回】で述べた個人データ漏えい時の対応については、2020年に個人情報保護法が改正される際に、本人への連絡や個人情報保護委員会への報告の義務化が予定されているから、留意されたい(※)。 (※) 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」の閣議決定について」(2020年3月10日) (連載了)

#No. 360(掲載号)
#影島 広泰
2020/03/12

〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第3回】「退職税理士による顧客の引抜きの防止」-その3:その税理士が「税理士法人の社員」の場合-

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第3回】 「退職税理士による顧客の引抜きの防止」 -その3:その税理士が「税理士法人の社員」の場合-   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 枝廣 恭子   〔質 問〕 近いうちに当事務所を退社する予定の税理士(税理士法人の社員である税理士)が、独立することを担当している顧客に告げているようで、引き抜こうとしているのではと心配です。これに対して、何か対策はとれるのでしょうか。 また、昨年、退社した元所属税理士(税理士法人の社員であった税理士)が、税理士事務所を開業したのですが、当法人の顧客を勧誘して引抜きにかかっているようです。これに対して、契約上の有効な対応策はないのでしょうか。 〔回 答〕 ➤税理士法人の社員である税理士が顧客の引抜き行為を行おうとしている場合は、税理士法人に対する善管注意義務、忠実義務、又は競業避止義務に違反する行為であるとして、行為の中止や、損害賠償請求、さらに、除名処分を行うことができます。 ➤税理士法人の社員であった税理士が顧客の引抜き行為を行おうとしている場合は、当該税理士には在職中とは異なり広範な営業の自由が保障されているものの、税理士法人を誹謗中傷したり、顧問契約を解約するように誘導したりする行為に対しては、行為の中止や損害賠償を求めることができます。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 税理士法人の社員税理士による引抜き行為(法人化していない税理士事務所の税理士の場合との違い) 本連載の第1回、第2回では、法人化していない税理士事務所における元所属税理士による顧客の引抜きへの対応方法について述べた。本稿では、法人化している税理士事務所の元社員税理士による顧客の引抜きへの対応について解説する。 この点、税理士法人の社員と税理士法人との関係は、法人化していない税理士事務所と所属税理士の関係とは異なるため、引抜き行為に対処する法的根拠も異なってくる。そこで、まず、税理士法人の社員の法的地位について確認する。 税理士法人の社員は、税理士法人と雇用関係には立たず、むしろ、税理士法人内部においては会社法上の役員(取締役、監査役等)と類似の地位にある。実際、税理士法人の社員の権利義務に関する税理士法の規定の多くは、会社法の役員に関する規定を準用している。 すなわち、税理士法人の社員は、原則として税理士法人を代表して業務を執行する権限を有し(税理士法48条の11第1項)、税理士法人に対して善管注意義務及び忠実義務を負う(同法48条の21第1項・会社法593条第1項、第2項)。これらの義務を怠ったときは、税理士法人に対して損害賠償責任を負う(税理士法48条の21第1項・会社法596条)。 また、税理士法人の社員は、自己もしくは第三者のために、所属する税理士法人の業務範囲に属する業務(競業行為)を行うことはできない(税理士法48条の14)。競業が禁止される業務は、税理士業務は当然のこと、定款に税理士法施行規則21条で定める業務(税理士業務に付随しない財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務)が当該法人の業務として定められていれば、その範囲に属する業務も競業禁止の対象となる。そして、競業禁止規定に違反した場合、社員は税理士法人に対して損害賠償責任を負うとともに、税理士法人における除名の対象にもなり得る(税理士法48条の17、48条の21・会社法859条)。 法人化している税理士事務所が元社員による顧客の引抜き行為に対応する場合、上記のような税理士法上の各規定を主な根拠として対応策を検討することになる。以下、詳述する。   2 在職中の引抜き行為について (1) 引抜き行為をやめさせる法的根拠 退社を予定している社員税理士が、将来の競業行為(新事務所開設)のための準備(開業準備行為)を行うことは、原則として自由である。しかし、社員の営業の自由と税理士法人の利益との調和の観点から、税理士法人の顧客に対し、顧問契約等を解約して、開設する事務所と顧問契約を締結するように、違法不当な方法で働きかけることは、善管注意義務及び忠実義務、並びに競業禁止規定の趣旨に違反するものとして許されない。 「違法不当な働きかけ」とは具体的にどのようなものだろうか。例えば、退任する予定であることやその理由を顧客に伝えたり、新たな事務所の案内をしたりすること、顧問契約等を解約する段取りについて助言を求める顧客に対して指導することであれば、「違法不当な働きかけ」にはあたらない(退社後の引抜きに関する東京地判平成26年5月28日判決参照)。 しかし、社員の立場で知った税理士法人あるいは顧客の営業秘密に係る情報を用いたり、税理士法人の信用を貶めたりして、顧客に対して税理士法人との顧問契約を解除して、自らが退社後に所属する事務所と契約するよう誘導するような行為は、「違法不当な働きかけ」と評価されるべきものであり、許されない。 税理士法人は、違法不当な方法で引抜き行為を行っている社員に対して、善管注意義務及び忠実義務に反するものとしてその行為の中止を求めることができる。また、引抜き行為の結果、税理士法人と顧客との顧問契約が解除され、社員が税理士法人を退職後に顧客と顧問契約を締結するに至るなど、税理士法人が社員に顧客を奪われた場合は、元社員に対して、逸失利益(売上減少分)を損害として請求できる余地がある(ただし、後述するとおり実際に損害賠償請求を実現することはそれほど容易ではない)。 (2) 具体的な対応方法 所属社員が顧客と接触している事実は、税理士法人も把握できるであろう。しかし、当該社員が顧客に、退社して独立する予定であることを伝えるにとどまらず、退社後に自分が所属する事務所と顧問契約を締結するように勧誘する言動を行っているか否かまで把握し、証拠をつかむのは困難であると思われる。 それでも、勧誘行為をしていることについて一定の裏付けや証拠を確保できれば、まずは当該社員に対して、引抜き行為をやめるよう警告するべきである。警告は、第1回、第2回でも述べたように、状況に応じて、口頭又は書面で行うこととなるが、その際、当該行為が損害賠償の原因となり得ることを告知すべきである。 しかし、訴訟において損害賠償が認められるためのハードルは低くない。なぜなら、税理士法人の請求が認められるためには、社員が違法不当な勧誘を行い、それによって税理士法人と顧客との契約が解除されるに至ったことを立証する必要があるが、勧誘の態様についての証拠収集は困難である上、裁判例は、社員の営業の自由を重視し、在職中の開業準備行為を比較的広範に許していると考えられることから、たとえ勧誘行為があったことを立証しても、それが違法不当なものと認定されるのは極めて難しいからである。 しかも、仮に勝訴判決を得ても、一定期間の逸失利益(当該顧問契約を解約されたことによる売上減少分等)の賠償が認められるのみで、判決で顧問契約の締結(復活)が認められるわけでもないので、訴訟が税理士法人の損害を回復する方法として必ずしも最適とは言えない。 そうすると、社員税理士が引抜き行為を行っている事実を認めた場合は、敢えて訴訟に持ち込むことをせず、早期に警告をして引抜き行為をやめさせ、損害賠償の問題になり得る旨を伝えてけん制し、退社後にさらなる引抜き行為に及ぶことを防ぐという対応が望ましいだろう。   3 退職後の引抜き行為について (1) 引抜き行為をやめさせる法的根拠 税理士法人を退社して社員ではなくなった税理士に対しては、もはや税理士法における税理士法人とその社員に関する規定は適用されない。すなわち、元社員税理士は、独立した立場において営業の自由を保障されており、広範な営業活動を行うことができる。例えば、退社後に、所属していた税理士法人の顧客に退社した旨及び新たに事務所を開設した旨の案内文を送ったり、顧客を訪問して退社したことやその理由を伝えたりすることは、当該社員と顧客との人的関係を利用したに過ぎず、許される。 ただし、その営業活動に行き過ぎた点があり、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で、所属していた税理士法人の顧客を奪取したとみられるような場合は、不法行為に当たり損害賠償責任を負う(元従業員の競業行為に関する、最判平成22年3月25日第一小法廷判決参照)。例えば、在籍中に知った、顧客や税理士法人の情報を利用して、税理士法人を誹謗中傷したり、顧問契約を解約するように誘導したりする行為は、不法行為として損害賠償の対象となり得る。 (2) 具体的な対応方法 前記のとおり、税理士法人を退社して社員ではなくなった税理士には、在職中とは異なり広範な営業の自由が保障されているため、退社前の社員の引抜き行為の場合よりも一層、損害賠償が認められるためのハードルは高く、訴訟にまで至ることは避けるのが得策である。 そこで、仮に引抜き行為についてある程度の証拠等があった場合でも、まずは元社員に対して引抜き行為をやめるよう書面で警告をした上で、交渉によって解決を図るのが妥当である。 また、勧誘行為について具体的な証拠や裏付けがない段階で、元社員に対していたずらに警告することは控えるべきである。引抜き行為による顧問契約の解約を防ごうと、顧客に対して元社員の在籍中の行為等を並べて誹謗中傷するようなことをすれば、元社員の営業の自由を侵害したとして、反対に損害賠償請求をされることにもなり得るので、慎重な対応が求められる。 (了)

#No. 360(掲載号)
#枝廣 恭子
2020/03/12

《速報解説》 金融庁、時価算定会計基準への対応として「財務諸表等規則」等を改正~令和3年4月1日以後開始事業年度から適用も経過措置に留意~

《速報解説》 金融庁、時価算定会計基準への対応として 「財務諸表等規則」等を改正 ~令和3年4月1日以後開始事業年度から適用も経過措置に留意~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020(令和2)年3月6日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第9号)が公布された。これにより、令和元年12月12日から意見募集されていた改正案が確定することになる。内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されている。 これは、2019年7月4日に「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)等が公表されたことを受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 以下では、財務諸表等規則に関する改正について解説する。 1 市場参加者の定義(財規8条関係) 「市場参加者」の定義を示し、時価の算定の対象となる資産もしくは負債に関する取引の数量及び頻度が最も大きい市場、当該資産の売却による受取額を最も大きくすることができる市場又は当該負債の移転による支払額を最も小さくすることができる市場において売買を行う者であって、一定の要件をすべて満たす者とする(財規8条64項)。 そのほか、時価の算定に係るインプット、観察可能な時価の算定に係るインプット、レベル1、2及び3について定義する(財規8条65項~68項)。 2 金融商品に関する注記(財規8条の6の2関係) 金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、その内訳に関する次に掲げる事項を注記する。 財務諸表等規則ガイドラインでは留意点が詳細に規定されている。 財規8条の6の2第1項本文の規定にかかわらず、市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、同項第2号に掲げる事項の記載を要しない。この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記しなければならない。 3 棚卸資産に関する注記(財規8条の33関係) 従来の「たな卸資産」を「棚卸資産」と表記し、市場価格の変動により利益を得る目的をもって所有する棚卸資産については、財規8条の6の2第1項3号の規定に準じて注記しなければならないとする(重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる)。 当該事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、記載することを要しない。 なお、「期首たな卸高」を「期首棚卸高」と表記する改正なども行われている。   Ⅲ 施行日等 公布の日(令和2年3月6日)から施行する(経過措置に注意されたい)。 なお、次の附則も規定されている。 (了)

#No. 359(掲載号)
#阿部 光成
2020/03/06

《速報解説》 指定国際会計基準適用企業の開示負担軽減を目的とした改正開示府令が公布、同日施行される~コメントを受け一部修正も~

《速報解説》 指定国際会計基準適用企業の開示負担軽減を目的とした改正開示府令が公布、同日施行される ~コメントを受け一部修正も~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和2年3月6日、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第10号)が公布された。これにより、令和元年12月12日から意見募集されていた改正案が確定することになる。 これは、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、指定国際会計基準を適用する企業の開示負担の軽減等を図るためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 第二号様式(有価証券届出書)の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(記載上の注意)(32)のdからfまでを改正し、継続的な差異開示を廃止するものである。 これまで適用初年度の差異開示及び並行開示は(32)e及びfに、2年目以降の差異開示を(32)dに記載していたが、今回の改正により、適用初年度の差異開示は(32)dに、並行開示は(32)e及びfに記載することとしたため、規定上の構成を変更している。 改正前開示府令第二号様式記載上の注意(32)eのただし書きでは、「提出会社が初めて提出する届出書に指定国際会計基準に準拠して作成した連結財務諸表を記載する場合又は米国基準適用会社である場合は、記載を要しない」とされていた。 今回の内閣府令(案)では、これに対応した規定が設けられていないことから、当該記載は必要となるのかとのコメントを受けて、提出会社が初めて提出する届出書に指定国際会計基準又は修正国際基準に準拠して作成した連結財務諸表を記載する場合についても、改正前と同様に差異開示の記載は不要であることから、内閣府令(案)を修正している。 内閣府令(案)の別紙1では、次の図表が示されていた。 (※) 金融庁ホームページより   Ⅲ 施行日等 公布の日(令和2年3月6日)から施行する(経過措置に注意されたい)。 (了)

#No. 359(掲載号)
#阿部 光成
2020/03/06

《速報解説》 国税庁、配偶者居住権の評価に係る改正相続税法基本通達を公表~改正のあらましでは「配偶者居住権等の評価明細書」の記載例も~

《速報解説》 国税庁、配偶者居住権の評価に係る改正相続税法基本通達を公表 ~改正のあらましでは「配偶者居住権等の評価明細書」の記載例も~   Profession Journal編集部   国税庁は2月27日に相続税法基本通達の一部改正通達を、3月4日には同改正通達のあらましを公表、来月(4月1日)から施行となる配偶者居住権に係る規定の整備を行った。 (※) 昨年(令和元年7月2日)の改正相続税法基本通達では配偶者居住権が所有者との合意や配偶者による放棄により消滅した場合の課税関係について明らかにしている(相基通9-13の2)。 改正相続法(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号))で創設された配偶者居住権は、相続開始時に被相続人が所有(又は夫婦共有)し、かつ、その配偶者が無償で居住していた家屋(居住建物)に、一定の条件の下、相続開始後も配偶者が終身又は一定の期間満了日まで無償で住み続けることのできる権利をいい、本年4月1日以後に開始した相続から適用が始まる。 昨年度の税制改正ではこの配偶者居住権に関する各評価方法が定められたところだが(相法23の2、相令5の8、相規12の2、12の3、12の4)、今回公表された改正通達では、この評価における計算要素について、「いつの時点のものとするか」を明らかする項目の新設が中心となっている(配偶者居住権の評価の計算方法について下記の記事を参照されたい)。 【参考】 配偶者居住権の評価方法(算式) 例えば上記算式のうち赤線で囲んだ部分の各数値は「当該配偶者居住権が設定された時」のものとされているが(相法23の2①二・三、相令5の8③一・二)、新設された新相基通23の2-2ではこの「配偶者居住権が設定された時」について、①遺産分割によって配偶者居住権を取得するとき(民1028①一)は「遺産の分割が行われた時」、②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき(民1028①二)は「相続開始の時」としている。なお、遺産の分割が複数回にわたって行われた場合の上記「遺産の分割が行われた時」は、配偶者居住権の設定に係る遺産の分割が行われた時とされる。 次に上記算式における「経過年数」は居住建物の新築時から配偶者居住権の設定時までの年数をいうが(相法23の2①二イ)、相続開始前に増改築がされた場合であっても、増改築部分を区分することなく、新築時からの経過年数によるとしている(新相基通23の2-5)。 さらに新相基通23の2-4では上記算式の「法定利率」について、配偶者居住権が設定された時における民法404条《法定利率》の規定に基づく利率をいうとし、上記算式の「存続年数」の元となる「配偶者の平均余命」を決める際に必要な「完全生命表」(厚生労働省が5年ごとに作成)は、配偶者居住権が設定された時の属する年の1月1日現在において公表されている最新のもの(※)によるとしている(新相基通23の2-5)。 (※) 本稿公開日現在の最新の完全生命表は平成29年作成の「第22回生命表(完全生命表)」。 なお国税庁は3月4日に「相続税法基本通達の一部改正について(法令解釈通達)のあらましについて(情報)」を公表、今回の改正通達の趣旨説明を行っており、「配偶者居住権等の評価明細書」の様式(下記参照)及び設例による記載例も掲載されている。この様式の裏面には《参考》として上記の「第22回生命表(完全生命表)に基づく平均余命」や「複利現価表(法定利率3%)」などが記載されている。 〈配偶者居住権等の評価明細書〉 (※) 国税庁ホームページより (了)

#No. 359(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/03/06

プロフェッションジャーナル No.359が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年3月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.359を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/03/05

monthly TAX views -No.86-「新制度で変われるか、法科大学院」

monthly TAX views -No.86- 「新制度で変われるか、法科大学院」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   筆者は法科大学院に14年間勤務してきたが、本年3月に定年退官する。おりしも法科大学院は今、大きな変革期を迎えようとしている。この機会に、自らの経験を基に法科大学院改革について述べてみたい。 法科大学院制度は創設から15年を経たが、設立当初の目的を果たしているとは言い難い状況にある。法曹人口の増加を受け入れるだけの社会体制が整わず、司法試験の合格者や合格率が想定より大きく低下した。加えて、合格まで時間がかかることによる経済的な負担の増加、極めつけは予備試験という抜け道が拡大したことによる。 *  *  * 司法試験を受験するには法科大学院の修了が要件となっており、通常、法学既修者で2年、未修者で3年かかる。その間の経済的負担は、授業料だけで年間200万円弱である。 一方、経済的負担などを考慮して、法科大学院に行かなくても司法試験を受験できる例外的な制度として予備試験がある。時間的・経済的負担が軽減できるので、多くの大学生が予備試験を選択し始めた。このため予備試験は優秀な学生が受験するコースとして認識され、予備試験合格者は大手法律事務所の就職に有利になるという、本末転倒な状況が生じている。 その結果、法科大学院への志願者は大幅に減少した。過半数の法科大学院が募集を停止、入学者はピーク時の28%にまで落ち込んだ。志願者に至ってはピーク時の1割強という惨状である。 このような状況を踏まえ、本年4月から新たな制度が始まる。 新制度では、法学部に法科大学院直結の3年法曹コースが設置され、法科大学院既修コース(2年間)に入れば在学中に司法試験の受験ができるようになる。これにより、法科大学院卒業後、直ちに司法研修所に入所すれば、法曹になるまでの年数が8年から6年へと2年短縮され、予備試験合格者と同じになる。 *  *  * しかし、法科大学院の根本問題は、グローバル化・複雑化した経済社会の中で多様な法務ニーズに応える法曹人材の育成ができるかどうかということであり、法科大学院の生き残り策ではない。 筆者はコロンビアロースクールで学んだ経験がある。米国の大学には法学部がないので、ロースクールの入学者は皆、法律の素人である。それが2年間の教育で、驚くほどの法律知識を吸収する。24時間開いている図書館は、常に学生で埋まっている。 この彼我の違いがどこから来るのか、筆者には未だ理由はわからないが、多くのロースクール生が数年の社会人経験を経ていることが影響しているのではないかと思う。理科系の学生や哲学などを先行した多様な学生が集まり、これが多方面で活躍するローヤーの供給につながっている。 多様な法曹の育成という見地からは、大学で法学を終了していない未修者や社会人経験者への教育がカギを握る。未修者は累積合格率(大学院修了後5年間)が5割と低く、志半ばで進路変更する者も数多く存在する。これは、現在の司法試験があまりにも知識に偏った内容であることによる。 今後は、社会人経験者の貴重な経験を尊重したなんらかの優遇措置を考えていくことも一案である。今回の改革は、出発点に過ぎない。 (了)

#No. 359(掲載号)
#森信 茂樹
2020/03/05

〔免税事業者のための〕インボイス導入前後の実務対応 【第4回】「免税事業者が適格請求書発行事業者になるための手続②」-ケーススタディ-

〔免税事業者のための〕 インボイス導入前後の実務対応 【第4回】 「免税事業者が適格請求書発行事業者になるための手続②」 -ケーススタディ-   税理士 石川 幸恵   前回の解説を踏まえ、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の手続について、次の5つのケースに分けて検討する。 なお、〔ケース1〕及び〔ケース2〕は免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の原則的な手続であり、〔ケース3〕及び〔ケース4〕は適格請求書等保存方式の施行日である令和5年10月1日を含む課税期間についての経過措置を受けた手続である。 また〔ケース5〕では、相続があった場合のみなし登録期間について取り上げる。相続があったときの消費税の取扱いについては、遺産分割等の後にまわされがちなので、気をつけておきたい。 ◆  ◆  ◆ ① 登録手続 納税地の所轄税務署長に、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する。申請書の「納税義務の免除の規定の適用を受けないこととなる翌課税期間の初日から登録を受けようとする事業者」にレ点を入れ、翌課税期間の初日を記載する(下図参照)。 併せて、下記のそれぞれの届出書を提出する。 ② 効力発生日 翌課税期間の初日。 ③ 提出期限 適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限は、課税事業者となる課税期間の初日の前日から1月前の日である(インボイス通達2-1)。 〔課税事業者となる翌課税期間から適格請求書発行事業者登録を受ける場合〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 上図では、令和7年1月1日に開始する課税期間を想定して、第1-(5)号様式を用いている。令和6年1月1日に開始する課税期間から適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、第1-(1)号様式又は第1-(3)号様式(提出日が令和5年10月1日の前か後かによって使い分ける)を提出することで、同様に翌課税期間から適格請求書発行事業者となることができる(詳しくは前回参照)。   ① 登録手続 納税地の所轄税務署長に、「課税事業者選択届出書」及び「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する。申請書の「事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする事業者」にレ点を入れ、課税期間の初日を記載する(下図参照)。 ② 効力発生日 事業を開始した課税期間の初日。 ③ 提出期限 「課税事業者選択届出書」及び「適格請求書発行事業者の登録申請書(第1-(5)号様式)」共に、事業を開始した日の属する課税期間の末日までである。 〔令和6年10月1日以後に設立した新設法人又は開業した個人事業者〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ① 登録手続 納税地の所轄税務署長に、適格請求書発行事業者の登録申請書(第1-(1)号様式)を提出する。申請書(次葉)の「免税事業者の確認」上段の「令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受け、所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第44条第4項の規定の適用を受けようとする事業者」という欄にレ点を入れる(下図参照)。なお、経過措置の適用を受けるため、課税事業者選択届出書は提出しない。 ② 効力発生 令和5年10月1日が登録日となり、同日から課税事業者となる。 ③ 提出期限 令和3年10月1日から申請書を提出できることととなっている(インボイスQ&A 問2)。ただし、申請書(次葉)における免税事業者の確認欄は、令和5年10月1日時点の納税義務が明らかになった後でなければ、正確に記載できない。提出期限は前回の(2)②の経過措置があるので、令和5年9月30日までとなる。 〔令和5年10月1日から登録を受ける場合〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ① 登録手続 適格請求書発行事業者の登録申請書(第1-(3)号様式)を提出する。 ② 効力発生日 登録日。前回の(2)①の経過措置の適用があるので、登録日前は免税事業者、登録日から課税事業者となる。 ③ 提出期限 登録申請書の提出から登録日までの期間は、本稿執筆時点では明らかになっていないため、速やかに提出すべきと考えられる。 事業を開始した日にさかのぼって適格請求書発行事業者の登録を受けたいのであれば、〔ケース2〕と同様に、課税事業者選択届出書を併せて提出する必要があると考えられる。 〔令和5年10月1日に設立した新設法人又は新規開業した個人事業者〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (※) 相続があった場合の納税義務の免除の特例(消法10)により、課税事業者となる相続人を想定している。 ① 登録手続 適格請求書発行事業者の死亡に関しては、個人事業者の死亡届出書(第7号様式)及び適格請求書発行事業者の死亡届出書(第4号様式)を適格請求書発行事業者の納税地の所轄税務署長に、速やかに提出しなければならない。 相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、納税地の所轄税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書、課税事業者届出書、相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表(第4号様式)を提出する。 ② 効力発生日 相続人の適格請求書発行事業者の登録日。 ③ 提出期限 特に設けられていないが、速やかに提出すべきと考えられる。 ④ みなし登録期間 適格請求書発行事業者である個人事業者が死亡した場合、適格請求書発行事業者の登録は相続人に引き継がれない。適格請求書発行事業者でない相続人が被相続人の事業を引き継ぐときは、相続人が新たに適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要がある。相続人が登録を受けるまでの間、事業の継続に支障を来さないよう、みなし登録期間が設けられている。 「みなし登録期間」とは、相続のあった日の翌日から、相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日又は被相続人が死亡した日の翌日から4月を経過する日のいずれか早い日までの期間である。 みなし登録期間は、相続人を適格請求書発行事業者とみなし、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす(インボイス制度導入後の新消費税法57の3)。 〔みなし登録期間〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 *  *  * 連載最終回となる次回は、免税事業者が課税事業者(適格請求書発行事業者)になった後の取扱いについて確認する。 (了)

#No. 359(掲載号)
#石川 幸恵
2020/03/05
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