空き家をめぐる法律問題 【事例23】 「借地権付マンションの借地料と支払義務の法的性質」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、分譲事業者から、敷地利用権が借地権のマンション(区分所有建物)を購入して居住している者ですが、周辺の部屋には居住者がおらず、空き部屋も増加しております。 これまで借地料は、分譲事業者が指定した口座に振り込み、それを分譲事業者が地主に支払ってきましたが、地主の口座に直接振り込むことになりました。ところが、地主から空き部屋を含む滞納者分の借地料も支払うように請求されています。 私は滞納者の賃料も支払う必要がありますか。 1 はじめに いわゆる分譲マンションには、敷地利用権が所有権であるものがあるが、地価の高い地域においては、敷地利用権を借地権等の利用権にしているものもある。この場合、区分所有者は土地の所有者に対して借地料の支払義務を負うことになるが、一部が空き家化し、借地料を滞納している区分所有者がいる場合、当該未納部分は誰が負担することになるのだろうか。 そこで今回は、借地権付マンションで空き家が生じた場合の借地料の支払義務の法的性質について検討することとしたい。 2 分割債務か不可分債務か? 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)によれば、区分所有者は、原則として、区分所有建物の専有部分と敷地利用権とを分離して処分することができず、当該敷地利用権の割合は、区分所有建物の床面積の割合によって定められる(同法第22条第1項、第2項、第14条第1項)。そのため、敷地利用権が賃借権である場合、区分所有権者は、賃借権を床面積の割合で準共有していることになる。 問題は、敷地利用権の賃借権が準共有されている場合に、土地の所有権者に対する借地料の支払義務の法的性質が、分割債務であるか、不可分債務であるかという点にある。というのも、分割債務である場合には、区分所有者は、自らの持分割合の限度で借地料を支払えば足りるのに対して、不可分債務である場合には全員の借地料全額を支払わなければならなくなるからである。 この点に関して、従来、不可分債務は、(1)債務の目的が性質上不可分である場合と、(2)その目的が性質上可分であるが、当事者が不可分とする旨の意思表示をした場合に成立するものと解されていた。このうち上記(1)の性質上の不可分には、①物理的に不可分な給付を目的とする債務(例:共有する物件の引渡義務)と、②不可分的な利益としての対価(例:共同賃借人の賃料債務)があるとされてきた。 上記の分類からすると、準共有されている敷地利用権としての借地料の支払債務は、上記(1)の②の性質上の不可分債務に分類されるようにも思われる。この問題については、分割債務説と不可分債務説の両論が存在するが、裁判例においては、(ⅰ)区分所有権者は専有部分と敷地利用権とを一体的な財産として有していることや、(ⅱ)敷地利用権の持分割合を取得するために対価を支払う理由が敷地利用権の割合的持分を取得することにあることから、特段の事情のない限り、分割債務と解されている(東京地判平成7年6月7日判タ911号132頁参照)。 もっとも、当該裁判例は、専有部分と敷地利用権の一体性から直ちに分割債務であることを導いたものではなく、土地所有者が区分所有建物として土地を賃貸する意思があったかを個別具体的に認定した上で結論を導いている。「特段の事情」の位置付けなど裁判例の読み方にもよるが、原則として不可分債務となるが、当事者の意思によって不可分性が排除される場合があることを認めた裁判例と解する余地もあるように思われるため、少なくとも事例判決であると理解するのが妥当である。 なお、民法改正によって、不可分債務の上記2分類のうち、当事者の意思表示によってその目的が不可分とされた債務は連帯債務に分類され、その目的が性質上不可分であるもののみに限定されることになった。法務省の見解によれば、改正後も、共同賃借人の賃料債務のように、不可分的な利益としての対価に関する債務が不可分債務に該当するかは今後の解釈に委ねられているとのことであり、この解釈の行方や上記裁判例の解釈の仕方にも留意しておく必要がある。 上記のように、敷地利用権である賃借権が準共有されている場合の法的性質については、解釈に委ねられている部分があることから、少なくとも紛争を予防する観点からは、分割債務であることを確認する書面等を作成しておくことが望まれる。 3 土地賃貸借の権利関係 借地権付マンションの場合、土地の所有者と区分所有者との間に、分譲事業者等が介在することがある。この場合でも、分譲事業者が土地の所有者から土地を一括して賃借し、それを区分所有者に転貸している場合と、単に区分所有者からの賃料の収集を代行して行っているような場合がある。両者の間には、土地所有者と区分所有者との間に直接の法律関係があるかという点で異なるので留意が必要である。 4 本件の場合 相談者は、賃料を分譲事業者の指定する口座に振り込んでおり、相談者と分譲事業者との間に転貸借関係がある場合には、相談者は分譲事業者との契約に基づいて賃料を支払えば足りることになる。 これに対して、土地の所有者と相談者との間に直接の賃貸借関係がある場合には、当該区分所有建物が取得された際の経緯から、土地の所有者が区分所有建物であることを認容していたような場合には、賃料債務は分割債務となり、区分所有者は自己の持分の限度で賃料を支払うことになろう。 (了)
〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第1回】 「事業計画の概要と損益計画・資金計画の作成手順(前編)」 税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸 -はじめに- 事業計画は、将来に向かうための羅針盤であり、自社の目指すべき将来の目標と、その目標を達成するための具体的なアクションを示したものです。これから打つべき策によって、売上高、利益がどう推移するか、キャッシュがどれほど確保できるかなど将来志向で数値を予測します。 ただし昨今の厳しい経営環境下、日々の業務に追われてしまい、期首にしっかりした事業計画を立て期末後にその検証と改善を行うことは、なかなか難しいのが実情です。 そこで本連載では、一般的な事業計画のうち特に資金繰りなど事業継続に欠かせない損益計画・資金計画の作成を中心に、できるだけ分かりやすく、かつ、実践的に解説していきます。 1 事業計画の作成目的 事業計画の作成目的は、事業を遂行する上で必要なアクションを明確にすること、事業遂行後の検証を行い事業活動の軌道修正することである。また、金融機関などの資金提供者に事業計画を伝えて、資金融資など必要な協力を得ることもある。 さらに、事業計画は法人成りのシミュレーション、中小企業等経営強化法による経営力向上計画、ものづくり補助金の申請、事業承継計画、換価猶予の申請に至るまでさまざまな場面で求められる。 事業計画は机上の計算・空論にならぬよう、現実味を帯びたものでなければならない。そのために、業界・市場の環境分析、事業計画の作成対象となる企業の競争優位性の分析、などを行うことで、将来の予測値の精度を上げることが重要となる。これらの分析を行うためのフレームワークとして「3C分析」、「SWOT分析」、「バリューチェーン分析」などさまざまなものがある。 2 事業計画の種類 事業計画の種類には、新規事業計画、予算・年度計画、中長期事業計画(3年から5年程度)などがある。 例えば、新規事業計画では、新規に店舗を開設した場合に、採算が取れるかどうかなどを検証することになる。また、予算・年度計画では、経営陣の経営方針に基づき各部門が個別計画を作成して、全社的な年間の予算を立てる。予算と実績を比較して、売上高、利益が達成できたかどうかを検証することになる。 3 事業計画書の構成要素 一般的な事業計画は、内外の利害関係者に対して事業計画書という形式で報告する。そこには、事業理念、事業の概要、具体的なアクションなど、事業の全体像が把握できる項目を記載する。事業計画書にはさまざまな形式があるが、一般的な構成要素は、 などから構成される。本連載では、「⑥ 損益計画・資金計画」の作成方法を中心に取り上げる。 なお、金融機関から資金融資を受ける場合は、損益計算書とキャッシュフロー計算書のほか、貸借対照表の作成を求められるケースもある。 4 経営目標の設定 損益計画・資金計画は、経営目標をベースに作成する。経営目標は経営陣からトップダウンで設定するケース、あるいは各部門の現場で作成する売上計画、人員計画などの個別計画をボトムアップで積み上げて設定するケースがある(2つのケースの折衷方式もある)。そして、経営目標をベースにして、損益計画・資金計画を作成する。 5 損益計画・資金計画の作成手順 前期以前の損益計算書をベースに予想損益計算書を作成し、借入資金が返済可能かどうかなどの観点で資金計画(キャッシュフロー計算書)を作成する手順となる。 本連載では、すでに事業を行っている企業(法人)を前提として、期首より事業計画(年次単位)を作成することを想定する。 (1) 前期以前の数値の把握 過去3期分の決算書をベースに、売上高伸び率、売上高営業利益率、当座比率、自己資本比率などを測定・評価する。当該企業の成長性、収益性、安全性などを多面的に把握しておくことで、事業計画の数値の乖離を小さくする。 まずは、会計データから表計算ソフト(Excelなど)にエクスポートし、事業計画の作成のベースとする。あるいは、事業計画用の別の市販ソフトを用いる場合、会計データをインポートして事業計画の作成のベースとする。 次に、前期以前の損益計算書の項目を年次単位で示す(税抜経理)。 〈損益計算書(例)(単位:万円)〉 (後編に続く)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第31話】 「新型コロナウイルスと国税通則法11条」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「そうか・・・とうとう税務職員も新型コロナウイルスに罹ったか・・・」 中尾統括官は、新聞を読みながら、深いため息をつく。 「この確定申告の忙しい時期に・・・」 中尾統括官の机の上には、無造作に白いマスクが置かれている。 「・・・ずっとマスクをしていると息苦しくて・・・仕事にならないよ。」 傍らでマスクをしている浅田調査官に、中尾統括官は、マスクを外している釈明をする。 「しかし、巷でこれだけ感染している人が多いとメディアが報道していますから、税務職員だけがコロナウイルスに感染しないということはありえません・・・中尾統括官も十分注意してください・・・」 浅田調査官は、白いマスクをモグモグさせながら喋っている。 「今回は・・・確定申告期限も延長になったことだしな・・・」 中尾統括官がパソコンで見ている国税庁のホームページでは、令和2年2月27日付けで、次のような見出しで申告・納付期限の延長が掲載されている。 「・・・延期の対象となった税目は、申告所得税、贈与税、個人事業税の消費税・・・ですね。」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「・・・この延長によって、所得課税部門の我々が直接影響を受けているわけだが・・・それにしても確定申告を1ヶ月延長するというのは・・・長くこの仕事をやってきた私にとっても、初めての経験だよ。」 中尾統括官は、新型コロナウイルスの新聞記事にもう一度、目を落とす。 「ところで・・・確定申告の期限を延長する法律上の根拠って、何なんですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「それは・・・国税通則法11条だろう・・・」 中尾統括官は、机の上に置かれている税務六法を手に取る。 「今回の新型コロナウイルスが、この『災害その他やむを得ない理由』に該当する・・・ということですね。」 浅田調査官が再び尋ねる。 「そうだろう。」 中尾統括官は憮然と答える。 「国税庁のホームページに、全国の確定申告の期限について、延長する旨の連絡を載せたのだから、国税庁長官が延長を決断したということなのでしょうが・・・」 浅田調査官は、マスクをしているので、こもった声になる。 「国税通則法施行令3条2項には対象者指定による期限延長として・・・次のように規定されている。」 そう言うと、中尾統括官は、再び税務六法を開く。 「そしてホームページでの告知とは前後するが、3月6日の官報で、国税庁長官名による告示が公布されている。」 「なるほど・・・ただ・・・確定申告の期限を延長するということは・・・納税者(国民)に大きな影響を与えると思うのですが・・・それを国税庁長官が1人で決めるということは・・・なんとなく違和感を感じませんか?」 マスクをした浅田調査官が頸を傾げる。 「それじゃあ国税庁長官以外に・・・誰が申告期限の延期を決めたらいいというのだ。」 中尾統括官は少し怒ったように言う。 「・・・」 浅田調査官は、困った顔をする。 中尾統括官は机の引き出しから、『国税通則法精解〈平成25年改訂〉』(志場喜徳郎他共著/大蔵財務協会)を取り出す。 「この本では、国税通則法11条ができた経緯について、214頁に、次のように述べている。」 「でも・・・東日本大震災のとき・・・国は、特例法で対応しました・・・つまり、震災で被災した人たちの負担を軽減するために、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」を国会で成立させましたよね・・・」 浅田調査官はスマートフォンで、東日本大震災の震災特例法を確認する。 「ということは・・・新型コロナウイルスも国税通則法11条などを適用せずに、国会で法律をキチンと作れということか・・・ただ今回は、法律を作る時間がなかったのかもしれない・・・」 中尾統括官は渋い顔をする。 浅田調査官は素直に頷く。 「ところで、個人事業者の消費税の申告期限・納付期限は、従来、令和2年3月31日だったのを、今回は半月だけ延長し、令和2年4月16日としていますが、他の税目(申告所得税・贈与税)は1ヶ月の延長を認めていますよね。このように税目によって延長期間を異にするということも・・・国税庁長官が独自に判断することになるのですね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「まあ・・・消費税だから・・・国としてはできるだけ早く、税金を徴収したいという気持ちがあるのかもしれない・・・」 中尾統括官は、おもむろに机の上に置かれているマスクを手に取って、苦笑いしながら顔に付ける。 (つづく)
《速報解説》 令和2年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」が 3月31日付官報:特別号外第37号にて公布 ~施行日は原則4月1日、グループ通算制度に関する政省令は未収録~ Profession Journal編集部 令和2年度税制改正関連法が3月27日の参議院本会議で可決・成立し、3月31日(火)の官報特別号外第37号にて「所得税法等の一部を改正する法律」が公布された(法律第8号)。施行日は原則令和2年4月1日(法附則第1条)。地方税関係の改正法である「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第5号)。 なお今年度改正では、連結納税制度の見直し(グループ通算制度の創設)が大きな割合を占めるが、関連する政省令は今回の官報において公布されていない。本件については引き続き動向を注視したい。 また一部報道では新型コロナウイルスに係る経済対策として政府が新たな税制措置を講じるとされているが、今回の税制改正には織り込まれておらず、こちらも今後の情報に十分留意する必要がある。 * * * 以下では主な法律、政令、省令等の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については毎週木曜日公開号において、専門家による解説記事を順次掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された令和2年度税制改正関連の情報については「令和2年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを併せて参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた主な改正情報については、すでに本誌掲載済みの「令和2年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:令和2年3月31日付(特別号外第37号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係・第2条関係) 所得税法施行令及び災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第3条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法の一部改正(第4条関係) 地方法人税法施行令の一部を改正する政令 相続税法の一部改正(第5条関係) 相続税法施行規則の一部を改正する省令 地価税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第6条関係・第7条関係) 消費税法施行令等の一部を改正する政令 消費税法施行規則の一部を改正する省令 酒税法の一部改正(第8条関係) 酒税法施行令の一部を改正する政令 酒税法施行規則の一部を改正する省令 たばこ税法の一部改正(第9条関係) たばこ税法施行令の一部を改正する政令 たばこ税法施行規則の一部を改正する省令 揮発油税法の一部改正(第10条関係) 揮発油税法施行令の一部を改正する政令 石油ガス税法の一部改正(第11条関係) 石油ガス税法施行令の一部を改正する政令 石油石炭税法の一部改正(第12条関係) 石油石炭税法施行令の一部を改正する政令 国税通則法の一部改正(第13条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第14条関係) 国税徴収法施行規則の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第15条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税関係 ・酒税関係 ・たばこ税関係 ・揮発油税・地方揮発油税関係 ・石油石炭税関係 ・航空燃料税関係 ・自動車重量税関係 ・印紙税関係 ・利子税等関係 租税特別措置法の一部改正(第16条関係) ※グループ通算制度に係る改正 租税特別措置法施行令の一部を改正する政令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・消費税等関係 ・国税質問検査章規則の一部改正 ・平成二十六年租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令の一部改正 ・平成二十八年租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令の一部改正 ・平成二十九年租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令の一部改正 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第17条関係) 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第18条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令等の一部を改正する省令 沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律の一部改正(第19条関係) 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する省令の一部を改正する省令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第20条関係) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律の一部改正(第21条関係) 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第22条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第23条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令の一部を改正する省令 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 地方税法等の一部を改正する法律 ( 附 則 ) ・1条関係 ・2条関係 地方税法施行令の一部を改正する政令 地方税法施行規則の一部を改正する省令 ▷その他の主な関係法令・告示 中小企業等経営強化法施行規則の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 平成八年自治省告示第八十三号(地方税法施行令第五十二条の十の四に規定する研究開発を定める件)の一部を改正する件 所有者の探索について特別の事情を有する土地又は家屋及び当該土地又は家屋に係る所有者情報を保有すると思料される者を定める告示 租税特別措置法施行令第二十五条の十七第七項第二号イ及びロ⑵の規定に基づき、内閣総理大臣、総務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣及び環境大臣が財務大臣と協議して定める業務、事業、方法及び所轄庁を定める告示の一部を改正する件 租税特別措置法施行令第二十六条の二十八の二第四項の規定に基づき、文部科学大臣又は文部科学大臣及び総務大臣が財務大臣とそれぞれ協議して定める要件及び方法を定める告示 所得税法第九条第一項第十四号に規定する金品を指定する件の一部を改正する件 所得税法第百八十九条第一項の規定に基づき、同項に規定する所得税法別表第二の甲欄に掲げる税額が算定された方法に準ずるものとして財務大臣が定める方法を定める件の一部を改正する件 所得税法施行規則第五十六条第一項ただし書、第五十八条第一項及び第六十一条第一項の規定に基づき、これらの規定に規定する記録の方法及び記載事項、取引に関する事項並びに科目を定める件の一部を改正する件 消費税法施行令第五十条第三項、第五十四条第五項、第五十八条第三項、第五十八条の二第三項及び第七十一条第五項並びに消費税法施行令等の一部を改正する政令附則第六条第二項並びに消費税法施行規則第五条第三項及び第十六条第三項の規定に基づき、これらの規定に規定する保存の方法を定める件の一部を改正する件 消費税法施行令第十八条の二第二項第三号の規定に基づき、財務大臣の定める基準を定める件 租税特別措置法第十一条第一項及び第四十三条第一項の規定の適用を受ける期間を指定する件 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第二十九条第一項第一号の規定に基づき、同号に規定する所得税法別表第二から別表第四までに定める金額及び復興特別所得税の額の計算を勘案して財務大臣が定める表を定める件の一部を改正する件 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第二十九条第一項第二号の規定に基づき、同号に規定する所得税法第百八十九条第一項に規定する財務大臣が定める方法及び復興特別所得税の額の計算を勘案して財務大臣が定める方法を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第一項第二号に規定する国税庁長官が定める者を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第十条ただし書に規定する国税庁長官が定める措置を定める件 租税特別措置法施行規則第二十三条の五の三第二項第四号の規定に基づき文部科学大臣及び厚生労働大臣が定める事項の一部を改正する件 消費税法施行令第十四条の四の規定に基づき厚生労働大臣が指定する身体障害者用物品及びその修理の一部を改正する件 消費税法施行令第十四条の三第一号の規定に基づき厚生労働大臣が指定する保育所を経営する事業に類する事業として行われる資産の譲渡等の一部を改正する件 租税特別措置法の規定の適用を受ける機械その他の減価償却資産を指定する件の一部を改正する件 中小企業等経営強化法施行規則第十二条第二項第三号ニに規定する投資に関する契約の契約書の記載事項の一部を改正する告示 租税特別措置法施行規則第十八条の十五第六項に規定する経済産業大臣の認定に関する手続を定める件の一部を改正する告示 租税特別措置法施行令第二十五条第七項及び第三十九条の七第二項の規定に基づき、国土交通大臣が指定する区域を定める件 租税特別措置法施行令第二十二条の二第十項等の規定に基づく国土交通大臣が財務大臣と協議して定める基準の一部を改正する件 (了)
《速報解説》 金融庁、令和2年3月期以降の事業年度における 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項を公表 ~開示府令の改正を受け、役員報酬・株式等の保有状況等に関する事例を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和2(2020)年3月27日、金融庁は次のものを公表した。 令和2年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 令和2年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項 主に、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)による改正に関する次のものである。 2 記述情報の充実に向けて 平成31年度有価証券報告書の審査では、記述情報の記載について、法令が求める最低限の記載水準を満たすことだけを目的として、ルールへの形式的な対応にとどまる開示も見られ、投資家等が必要とする十分な情報が得られない事例も見受けられたとのことである(4ページ)。 そこで、今般、記述情報の記載ぶりに改善の余地があると考えられる提出会社に、翌年度からの改善・充実に向けた検討を求める通知を発出している。このような会社は全提出会社の3割程度とのことである。 投資家等との建設的な対話を促進し、企業価値の向上につながるよう、提出会社には、記述情報のより一層の充実が期待されている。 3 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項 平成31年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(令和2年3月27日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき事項について述べている。 当該事項を記載している別紙1は、表紙を含めて37ページある。 記載内容が不十分であると認められた事項には、会計監査の対象となる財務諸表等に関わるものも含まれており、留意すべき事項については、有価証券報告書提出会社だけでなく、監査を実施する公認会計士又は監査法人においても、十分に留意いただきたいと記載されているので、改めて有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 平成31年度有価証券報告書レビューでは、以下の重点テーマに着目して審査している。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度) 1 法令改正関係審査 平成31年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」による改正について、次のものの記載内容を審査する。 これらの項目は主に記述情報からなるため、各提出会社がそれぞれの置かれた状況等に応じて、ルールへの形式的な対応にとどまらない充実した開示が期待されている。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 開示府令改正のポイント等は次のとおりである。 2 重点テーマ審査 令和2年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、令和2年3月31日以降を決算期末とする有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 金融庁、「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書を公表 ~新規・成長企業がその成長プロセスに応じて適切な監査を受けるための環境整備を推進~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年3月27日、金融庁は、「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書を公表した。 これは、近年、IPO を目指す企業は増加傾向にある一方で、監査事務所との需給のミスマッチ等により、必要な監査を受けられなくなっている問題について検討したものであり、新規・成長企業がその成長プロセスに応じて適切な監査を受けることができるための環境整備を進めるための取組みについて述べている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ IPOを目指す企業に対する質の高い監査の提供に向けた環境整備 監査法人、証券会社、ベンチャーキャピタル、取引所などの関係者に対して、以下の取組みが期待されている。 1 大手監査法人 2 準大手監査法人 3 中小監査事務所 4 日本公認会計士協会 前述の取組みが着実に実施されることを確保するように所要の対応を行うことが期待されている。 5 証券会社 引受証券会社については、IPOを目指す企業の監査人として大手監査法人を推す傾向がある等の指摘がなされているが、今後は中小監査事務所の活用も期待されている。 6 ベンチャーキャピタル ベンチャーキャピタルは、自らの知見やネットワークを活用するとともに対話の場に積極的に参加するなどの取組みを通じて、企業がその成長ステージに応じて必要な監査その他のサポートを受けることが可能となるよう、支援の充実を図る。 7 取引所 8 IPOを目指す企業 新規・成長企業は、その成長ステージに応じて、必要な内部管理体制を適切に構築していくことが重要であり、経営者は、専門的知見を有する公認会計士を積極的に活用していくことが望まれる。 また、IPOを目指す企業には、その目指す成長スピードを実現しつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が図られるよう、監査法人や証券会社との対話を深め、上場準備その他の必要な対応を図っていくことが求められる。 (了)
《速報解説》 国税庁、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を公表 ~法人税や相続税、酒税などの個別延長が認められる「やむを得ない理由」を例示~ Profession Journal編集部 国税庁は3月25日、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を公表、既報のとおり2月に決定した申告所得税等の申告・納付期限の一括延長のほか、この一括延長の対象とされていない法人税や相続税、酒税などの手続の延長の取扱い等を明らかにした。 FAQでは、一括延長の対象とされていない手続(法人税や相続税、酒税など)については従来通りの期限としつつも、「地震等の自然災害、火災等の人為的な災害、申告等をする方の重傷病など、災害その他やむを得ない理由により、申告・納付等を期限までに行うことが困難な事情がある方(企業)については、税務署へ申請していただくことにより、申告期限等が個別に延長される制度がある」とし、次のような場合には個別延長が認められるとしている。 なお、上記下線部における「理由」の例示は以下のとおり。 上記④に関しては、「株主総会の開催が遅れる場合の消費税の申告等の期限延長」として、消費税及び地方消費税については法人税と異なり確定した決算に基づいて申告を行うものではないため、定時株主総会の開催延期により決算が確定しないという理由だけでその期限を延長することはできないとしつつ、「しかしながら、定時株主総会の開催延期という理由以外にも、例えば、社員の休暇勧奨などで通常の業務体制が維持できない状況となり、決算書類や申告書等の作成が遅れ、期限までに消費税及び地方消費税の申告・納付等が困難な理由がある場合には、期限の延長が認められます。」としている(「2 申告・納付等の期限の個別延長関係」問3)。 その他、資金繰りの悪化や事業に著しい損失や著しい売上の減少が生じた場合の納税の猶予制度について紹介(「4 納付の猶予制度関係」)、また相続税関係では「相続税の申告において相続人の1人が感染した場合の取扱い」なども明らかにしている(納税の猶予制度については国税庁「新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方へ」を参照されたい)。 なお今回のFAQ含む新型コロナウイルス感染症に関する対応についての情報は、下記の国税庁ホームページにまとめられており、今後も更新されると考えられるため、適宜確認を行っていただきたい。 (了)
2020年3月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.362を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第69回】 「5Gサービス提供設備の早期開設に対する税の優遇」 税理士 山本 守之 1 5Gを考える 5Gとは、「第5世代移動通信システム」のことで、1980年代のアナログ方式の自動車電話の1Gから1990年代にはメールなどのデジタル方式のインターネット回線2G、2000年代には通信速度がさらに速くなり、携帯電話が海外でも使えるようになる3G、2010年代にはスマートフォン時代の4G、と10年ごとに進化して、今は社会のインフラとしてネットワークを支える「5G時代」と言えます。 5Gでは「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」がテーマになっていますが、中国等の世界各国に比べると日本は遅れているので、税の面から支援する必要があるとして考えられたのが、令和2年度税制改正で導入される税制優遇措置です。 2 優遇措置の概要 2020年より5G(第5世代移動通信システム)が導入されることになります。令和2年度税制改正では、5Gサービスの提供に必要なインフラ設備を早期に開設した事業者を対象に、新たな税制優遇措置が設けられることになりました。 その概要は次のようなものです。 3 背景と内容 世界各国では21世紀の基幹インフラ(通信、インターネット、携帯電話)として5Gを整備していますが、特に中国が進んでいます。日本では次のように対応しています。 (1) 成長戦略実行計画 2020年度末までに全都道府県で5Gサービスを開始するとともに、セキュリティの確保に留意しつつ、通信事業者等による5G基地局や光ファイバなどの情報通信インフラの全国的な整備に必要な支援を実施し、2024年度までの5G整備計画を加速するとして、2019年(令和元年)6月21日に閣議決定をしています。 (2) まち・ひと・しごと創生基本方針2019 Society5.0の実現に向けて、2020年度末までに全都道府県で5Gサービスを開始するとともに、通信事業者等による5G基地局や光ファイバなどの情報通信インフラの全国的な整備に必要な支援を実施し、2024年度までの5G整備計画を加速するとして、2019年(令和元年)6月21日に閣議決定をしています。 (3) 世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画 5Gのサービスを支える基地局や光ファイバなどの情報通信インフラの整備を進めるとともに、5G事業者による地域課題解決に向けた開発実証を推進していくとして、2019年(令和元年)6月14日に閣議決定をしています。 国際的には一部の国で5Gサービスがすでに開始されていますが、わが国では次のような問題を抱えています。 〔懸念される事項〕 〔問題点として〕 〔そこで、租税特例措置により〕 〔加えて、税制特例措置により〕 〔共同使用により税制特例措置〕 4 改正の内容 (1) 特別償却・税額控除(租税特別措置法第42条の12の5の2) 【対象となる事業者】 青色申告書を提出する法人で、一定のシステム導入(注)を行う認定導入事業者に該当するもの 【対象資産】 特定高度情報通信用認定等設備(認定導入計画に記載された機械その他の減価償却資産で、一定のシステム導入(注)の用に供するためのもの) (注) 「一定のシステム導入」とは、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律の「認定導入計画」に従って実施される同法の「特定高度情報通信技術活用システム」の導入で、その早期の普及を促すものであってその供給の安定性の確保に特に資するものとして基準に適合することについて主務大臣の確認を受けたものをいいます。 【税制優遇借置】 ・特別償却:対象資産の取得価額 × 30% ・税額控除:対象資産の取得価額 × 15%(※) (※) 控除を受ける事業年度の法人税額の20%を限度とします。 なお、上記税制優遇借置は、特別償却については法人住民税及び法人事業税に、税額控除については中小企業者等に係る法人住民税にも適用されます。 【適用時期】 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」の施行の日から2022年(令和4年)3月31日までの間に取得等をし、事業の用に供された資産について適用されます。 (2) 固定資産税・都市計画税(地方税法附則第15条第49項) 【対象となる事業者】 認定導入計画に基づき、電波法の規定によりローカル5G無線局に関わる免許を受けたもの 【対象資産】 主務大臣の確認を受けた償却資産(取得価額3億円以下のものに限る。) 【税制優遇措置】 対象資産の課税標準を最初の3年間のみ2分の1とする。 【適用時期】 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」の施行の日から2022年(令和4年)3月31日までの間に新たに取得したものについて適用されます。 * * * なお、本稿公開日現在、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律案」は国会で審議されており、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになっています(同法附則第1条)。 (了)
これからの国際税務 【第18回】 「令和2年度税制改正大綱における国際課税の焦点(その2)」 - 一国主義の税制改革と外国税額控除の制限- 21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二 1 はじめに 電子経済を巡る国際課税ルールの改定がいよいよ大詰めを迎えつつある。本年(2020年)1月31日にOECD/G20の下にある包摂的枠組み国(約140ヶ国)が承認した文書では、まず、市場国へ新たに課税権を付与する多国籍企業の所得として、①自動化されたデジタルサービスと、②消費者向けビジネスから生じる超過収益を対象とする課税ルールの基本的枠組みが合意された(第1の柱)。 この提案枠組みは、これまで、GAFAに代表される高度にデジタル化されたビジネスモデルへの課税漏れを防止すべきと主張する欧州勢と、今後の経済のデジタル化進展を見据えて市場国での課税漏れ全般を対象に検討すべきと主張してきた米国、更には、高い成長力を背景に市場国としての税源配分を従来から広範に求めてきた新興国のそれぞれの立場を統合したアプローチであると解説されている。 この合意が達成されれば、現在欧州を中心に拡大しつつある1国限りのデジタルサービス税は廃止されることが期待されている。また、併せて低税率国への所得移転についての追加的措置として、最低税率を下まわる国に所在する関連企業に発生する所得を合算課税したり、それへの支払いの損金算入を否認したりするルール(第2の柱)についても、速やかに枠組み合意を経て2020年末の合意を目指すこととされた。 一方、我が国の令和2年度税制改正案中には、外国税額控除の対象となる税の限定について注目すべき項目が含まれている。すなわち、諸外国で国内法改正により我が国の法人税の課税対象とならない所得に課される税を外国税額控除の対象から外すことを明記する提案である。納税者から見れば二重課税残存のリスクが拡大することにもなりかねないので、本稿ではその内容及び課題について予備的に検討する。 2 令和2年度税制改正案とその効果 外国税額控除制度を規定する法人税法69条1項は、控除対象となる外国法人税を「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの」と規定し、これを受けた法人税法施行令141条は、1項で「法人の所得を課税標準として課されるもの」と規定するとともに、2項及び3項でそれに含まれるもの及び含まれないものをそれぞれ列挙している。 今回の改正では、「含まれないもの」(つまり外国税額控除の対象から除外されるもの)としてリストアップする同条3項に、①外国法人の所得について、これを内国法人の所得とみなして当該内国法人に対して課される外国法人税の額と、②内国法人の国外事業所等において、当該国外事業所から本店等又は他の者に対する支払金額等がないものとした場合に得られる所得につき課される外国法人税の額が追加されることになる(令和3年4月1日以後開始事業年度から適用)。 上記①及び②の法人税額は、前述した2020年末の合意を目指す第2の柱で検討されている課税スキームに関連する可能性のあるものであり、中でも、既にトランプ税制改革により米国で導入された税源浸食・濫用防止税(BEAT税制)が念頭にあるように思われる。BEAT税制は、例えば日本法人NY支店が国外関連者に対して支払う利子等についても適用されるからである。 3 今後の課題 外国の国内法改正により、新たな法人所得に関係する課税が創出された場合には、それが租税条約の所得に関する課税に属するものかどうかにより、条約上の二重課税救済義務の対象になるかどうかが判定される。 BEAT税制については、①その立法経緯において、最終段階まで物品税(Excise Tax)として立案されたという経緯があり、また、課税標準も売上原価のみを控除するという特殊なものであること、②日米租税条約23条1項は、日本国居住者の外国税額控除については、外国で納付した租税を控除することに関する「日本国の法令の規定」に従って控除すると規定されていることから、今回の改正により、BEAT税制で課税を受けた内国法人への外国税額控除適用の可能性は明確に否定されることになろう。なお、このような事例は、英国が2015年から導入した迂回利益税についても既に発生していた。 各国が自国の税収を守る観点から国際協調を待たずに独自導入する事業体課税に関係する税制改正は、2020年末の電子経済課税の合意という期待を持てる動向はあるものの、まだ当分の間続くものと予測される。それによる二重課税のリスクは、タイムリーな多国間あるいは二国間の合意がない限り、納税者が当面負担するしかない。しかし、これらが蓄積するとグローバル経済のサプライチェーンにボディブローのような阻害効果をもたらしかねない。G20のリーダーシップによる国際課税ルール(ルール本体のみならず紛争解決手続を含む)の調和の促進がさらに求められるところである。 (了)