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プロフェッションジャーナル No.341が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年10月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.341を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/10/24

山本守之の法人税“一刀両断” 【第64回】「デジタル課税を考える」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第64回】 「デジタル課税を考える」   税理士 山本 守之   1 問題の所在 各国の税務当局は、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などの巨大IT企業が国境を越えて事業を展開しているため、従来の税制では法人税をかけるための収益の源泉がどこにあるかを捉えきれず、頭を痛めています。 会社の利益についても、無形固形資産の使用料等であり、その使用料を税率の低い国で課税を受けるという手法で、実体に見合った税負担を免れているとの批判が強いようです。また、各国に所在する施設や、莫大な倉庫についても「恒久的施設(PE)ではない」として課税を受けないというものです。 これらについてOECD日本政府代表部の参事官安倍憲明氏は「見えないものを視る力:OECDが牽引するデジタル税制」という論文の中で次のように述べています。 つまり、見えない形で大量瞬時に資金が移動し、物理的拠点がなくても事業展開できる経済の中では、伝統的な所得課税やPEの有無で課税する租税原則は見直しを迫られているというのです。 このような中で膨大な利益をあげる多国籍企業の税逃れを許している税務当局は、自分自身の不甲斐なさがあるとしています。 また、このようなひと握りの多国籍企業が膨大な利益をあげ、税逃れをしていることに対する無策が国民の信頼を失っているから、「デジタル化に対応する実効的で信頼できる税制を構築する」としていますが、これが可能であろうかと疑われます。   2 DST(デジタルサービス税)の内容 各国ともに所得課税の中では対応できず、オンライン広告等に課税するデジタル税を施行しているに過ぎません。 これらをまとめたのが、国立国会図書館 調査及び立法考査局 財政金融課の佐藤良氏ですが、次のようになっています。 ◎主なデジタルサービス税(DST)案の検討及び進行状況と制度概要(2019年6月14日現在) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 国立国会図書館「調査と情報 ―ISSUE BRIEF―  No.1064(2019.7.2) デジタル経済の課税をめぐる動向【第2版】」より一部筆者修正 課税の対象はオンライン広告などで、課税対象となる企業は全世界の売上高が7.5億ユーロ超で、その国の売上高が2,500万ユーロ超など(イタリアは550万ユーロ超、スペインは300万ユーロ超)です。   3 デジタル税は所得課税の代替にはならない デジタル税は、巨大企業で国内の売上高もある程度ある企業が対象ですが、税率が2~3%程度ですから、税収は数億ユーロで、所得課税とはケタが違います。 これは所得課税の中で公平を図ったものではないので、いわゆる「ショバ代」として払う程度にしておこうということです。 つまり、デジタル税は所得課税と違って、巨大な企業の税逃れに対する「ショバ代」として徴収するものですから、課税の公平を保つものにはならないのです。   4 デジタル課税の新案(OECD) 新案としてOECDの考えているデジタル課税の手法は次の通りです(2020年1月の大筋合意を目指す)。なお、2015年の米国の代表的株価指数であるS&P500の構成企業の市場価値割合は「機械・不動産などの有形資産」が13%、「無形資産」が87%となっています。 まず、第一段階では企業利益を①無形資産による利益と②通常の利益に一定の算定率によって分割します。 次の第二段階では、「無形資産による利益」を各国が売上高に応じて分割します。 第三段階では、第二段階で分割した利益に対して各国が課税します。 ただ、この調整は大変難しく、第一段階の無形資産と通常の利益を区分する「一定の算定率」をめぐり米国等の主要国と海外のIT企業への課税に積極的な新興国との合意は難しくなりそうです。 また、税収の配分を決める「売上高」について、拠点を置く国と消費者がいる国をめぐりどのようなルール作りをするかにおいても注目したいものです。   おわりに 巨大IT多国籍企業の税逃れに、不甲斐ないと考えている各国税務当局によるデジタル税ですが、現状、公平な課税に戻すというよりは、広告料を対象として、全世界の売上高が巨大で国内でもある程度の売上げをあげている企業を対象として、デジタル税を課するというものです。 しかし、これでは課税の公平を取り戻すことはできないという情けなさはあります。 先日、利益を低税率国に移転したとして、フェイスブックジャパンは、5億円の申告漏れを指摘されました。日本国内の広告料収入を税の安いアイルランドに流していることを問題とするのではなく、広告料に連動するべき報酬が「安すぎる」として課税しただけなのです。フェイスブックジャパンとしては「ショバ代」として払ったものに過ぎないのです。 日本国内の広告料がなぜ海外に流れているかなど、所得課税の原則に戻って課税すべきだったのではないでしょうか。 (了)

#No. 341(掲載号)
#山本 守之
2019/10/24

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第22回】「租税法律主義と租税回避との相克と調和」-租税回避の類型-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第22回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避の類型-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、租税回避の定義に関連して、課税要件アプローチの意義を検討したが、今回は、行為態様アプローチの意義を検討することにしたい。 行為態様アプローチは、課税要件論を前提にして租税負担の軽減・排除すなわち「課税要件の充足回避」の「手段」に着眼するものであるが、その「手段」は、立法者が課税要件を定めるに当たって想定していなかった法形式(「異常な」法形式)である。 「異常な」法形式の選択は、私法の世界では、私的自治の原則ないし契約自由の原則に照らし、立法者が課税要件を定めるに当たって想定していた法形式(「通常の」法形式)の選択と同じく、公序良俗・強行規定等に反しない限り、原則として問題のない行為である。これに対して、「異常な」法形式の選択も「通常の」法形式の選択も、基本的には同一の経済的成果等をもたらすにもかかわらず、前者は課税要件の充足回避(租税負担の軽減・排除)に、後者は課税要件の充足(租税負担の発生)にそれぞれ帰結するので、前者すなわち「異常な」法形式の選択は、税法の世界では、租税負担公平の原則に照らし、これに反する不公平な行為として問題にされるのである(【66】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。 「異常な」法形式の選択の結果生ずる租税負担の不公平は、租税回避の定義(包括的定義[【66】]:「課税要件の充足を避け納税義務の成立を阻止することによる、租税負担の適法だが不当な軽減または排除」)の中に「不当性」という概念要素として取り入れられるのであるが、「異常な」法形式の選択は、税法の世界では、そのような「不当」という法的評価の故に、「私法上の形成可能性の濫用」ないし「私法上の選択可能性の濫用」と呼ばれることがある。 なお、ここでいう私法上の形成可能性ないし選択可能性は、多くの場合、法律行為、特に財産行為について問題にされるが、例えば養子縁組のような身分行為についても(相税15条2項・63条参照)、住所の移転のような事実行為についても(東京高判平成20年2月28日判タ1278号163頁等参照。法律行為との組合せによる場合について最判平成23年2月18日判時2111号3頁参照)、問題にされることがある(【66】)。 租税回避の法的評価については改めて第24回で検討することにして、今回は、「異常な」法形式の選択ないし私法上の選択可能性の濫用という、租税回避の「手段」の観点から、租税回避の類型化を検討することにしたい。   Ⅱ 私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避(第1類型) 前回のⅡ2でみたように、金子宏教授は租税回避の意義について、同『租税法』(弘文堂)の第21版(2016年)まで示されていた、「課税要件アプローチと行為態様アプローチとの相互補完による定義」ともいうべき定義(下記①=第21版125頁。下線筆者)を、同書の第22版(2017年)以後は、アプローチ別にいわば「分節」し、まず、行為態様アプローチによる定義(下記②=第22版では126-127頁、第23版(2019年)133-134頁。下線筆者)から解説を始めておられる。 金子教授が『租税法』(弘文堂)の第22版以後このように租税回避の意義に関する解説の仕方を変更されたのは、同版以後、上記②の行為態様アプローチによる定義の直後に、租税回避の「類型」に関する次のⓐの解説(第22版では127頁、第23版では134-135頁。下線筆者)を「明示的に、かつ、まとまった形で」追加されたからであると考えられる(第21版では、租税回避の定義(125頁)とは離れた箇所(130頁)にある次のⓑの解説(下線筆者)の最後の括弧書で、第2類型に言及されていた)。 租税回避の「類型」に関する上記ⓐの解説は、私法上の形成可能性という、租税回避の「手段」に着眼しその観点から租税回避をみて、行われているが、そうであるからこそ、金子教授はその解説の直前に、租税回避の「手段」に着眼する行為態様アプローチによる定義を示されたものと考えられるのである。このことは、行為態様アプローチが租税回避の類型化において重要な意義を有することを示しているということができよう。 なお、金子教授は前記引用中の省略部分(「・・・・・・。」)において、租税回避の「第1類型」の典型的な例として次のような例を挙げておられる。 また、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)の別冊「国税通則法の制定に関する答申の説明」12頁で租税回避の「顕著な例」として挙げられている次の事例も、租税回避の第1類型の典型例とみてよかろう。 さらに、裁判例のうちいわゆる岩瀬事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁の次の判示からも、租税回避の第1類型の典型例を読み取ることができる。 なお、上記引用判示中の最後の段落で示されている、租税回避の否認に基づく課税(引き直し課税)と租税法律主義との関係に関する考え方は、実質主義の「真骨頂」を租税回避の否認に関して体現する考え方(否認規定不要説。第20回Ⅲ参照)に対抗して展開されてきた租税回避論の「到達点」ともいうべきものであるが、この点については、第27回に租税回避の否認について検討する際に、再度言及することにする。   Ⅲ 税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第2類型) 既にみたように、金子教授が租税回避の「類型」に関する解説を同『租税法』(弘文堂)の中に追加されたのは第22版以後であるが、その契機となったのはいわゆるヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)であると考えられる。金子教授はこの判決に関して次の理解(第22版では491頁、第23版では525頁)を示しておられる。 ヤフー事件では、適格合併等について未処理欠損金額の引継ぎを認める課税減免規定ないし租税減免規定(法税57条2項)の適用の有無が争われたが(第10回参照)、金子教授は、ヤフー事件最判に関する上記の理解を前提にして、既にみたとおり、「租税減免規定の趣旨・目的に反するにもかかわらず、私法上の形成可能性を利用して、自己の取引をそれを充足するように仕組み、もって税負担の軽減・排除を図る行為」(下線筆者)を、租税回避の「第2類型」として類型化したのである。 ここで注意しなければならないのは、既にⅡでみたとおり、金子教授は「いずれも、私法上の形成可能性を濫用(abuse; Missbrauch)することによって税負担の軽減・排除を図る行為」(下線筆者)とされながら、租税回避の「第1類型」と「第2類型」でその「手段」について異なる法律構成を採用しておられることである。このことは、「第2類型」に関する前記の叙述中の下線部と、既にⅡでみた「第1類型」すなわち「合理的または正当な理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、通常用いられる法形式に対応する税負担の軽減または排除を図る行為」(下線筆者)の下線部とを比較すれば、明らかである。 いずれの下線部も、私法上の形成可能性が租税回避の「手段」であることを示しているが、ただ、私法上の形成可能性が「第1類型」の方では租税回避の「直接的手段」であることを示しているのに対して、「第2類型」の方では租税回避の「間接的手段」であることを示している。「第2類型」の方の「直接的手段」は、「租税減免規定」そのものである(前記の叙述中の「もって」は、「充足された租税減免規定をもって」を意味すると解される)。 このことをヤフー事件最判は、次の判示中の下線部(太字も含め筆者)において、端的に説示している。 すなわち、上記の判示中の下線部では「租税回避の手段」(太字)という文言が2回使われているが、そのうち1つ目は「組織再編成」に係る私法上の形成可能性であり、2つ目は「組織再編税制に係る各規定」(具体的には資産の簿価や未処理欠損金額の引継ぎに係る課税減免規定)である。法人税法132条の2が否認の対象とする租税回避について、前者はその「間接的手段」を、後者はその「直接的手段」をそれぞれ意味していると解される。 そうすると、租税回避の「第2類型」は、租税回避の「直接的手段」の観点からは、「税法上の課税減免規定の濫用による租税回避」と呼ぶのが適切であろう。 なお、ヤフー事件最判の前記引用判示のうち「法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され[る]」(下線筆者)という部分については、引き直し先の「正常な行為又は計算」を明示していないことが問題として指摘されることがあるが(例えば、渡辺徹也「法人税法132条の2にいう不当性要件とヤフー事件最高裁判決〔上〕)」商事法務2112号(2016年)4頁、6頁参照)、租税回避の「直接的手段」の観点からすれば、引き直し先の「正常な行為又は計算」を明示しなくても課税減免規定の適用を受けるための「異常な行為又は計算」を否認しさえすれば、「直接的手段」としての課税減免規定の適用は否定することができる。結論的には、課税減免規定の適用を受けないことが「正常な行為又は計算」といってもよかろう。   Ⅳ おわりに 以上を要するに、租税回避の「直接的手段」に着眼しその観点からみると、租税回避は、①私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避(第1類型)と②税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第2類型)とに類型化することができよう(【66】)。 租税回避の定義に関する行為態様アプローチによれば、租税回避の「手段」の観点から上記のような類型化が可能になる。その場合、租税回避の「間接的手段」と「直接的手段」との区別は、Ⅲの最後に述べたように、租税回避の否認による引き直し課税の理解にとって重要な意味をもつが、それだけでなく、第28回で検討する租税回避の否認のアプローチについても、重要な意味をもつと考えるところである。 (了)

#No. 341(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/10/24

令和2年分源泉徴収税額表の変更点

令和2年分源泉徴収税額表の変更点   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   「令和2年分源泉徴収税額表」の平成31年(2019年)分からの変更点は、次の通りである。   1 給与所得の源泉徴収税額表の月額表の変更点 平成31年(2019年)分と異なるのは、図表1のハイライトの箇所である。 ① 甲欄 707,000円未満の表記は、平成31年(2019年)分と同じである。 707,000円以上の表記が、平成31年(2019年)分と異なる。 ② 乙欄 287,000円未満の表記は、平成31年(2019年)分と同じである。 287,000円以上の表記が、平成31年(2019年)分と異なる。 図表1 給与所得の源泉徴収税額表(令和2年分)の月額表(一部抜粋)   2 給与所得の源泉徴収税額表の日額表の変更点 平成31年(2019年)分と異なるのは、図表2のハイライトの箇所である。 ① 甲欄 23,600円未満の表記は、平成31年(2019年)分と同じである。 23,600円以上の表記が、平成31年(2019年)分と異なる。 ② 乙欄 9,600円未満の表記は、平成31年(2019年)分と同じである。 9,600円以上の表記が、平成31年(2019年)分と異なる。 ③ 丙欄 24,000円以下の表記は、平成31年(2019年)分と同じである。 24,000円超の表記が、平成31年(2019年)分と異なる。 図表2 給与所得の源泉徴収税額表(令和2年分)の日額表(一部抜粋)   3 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の変更点 平成31年(2019年)分と異なるのは、図表3のハイライトの箇所である。 図表3 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和2年分) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   4 退職所得の源泉徴収税額の速算表の変更点 変更点はない。   5 電子計算機等を使用して源泉徴収税額を計算する方法の変更点 ① 別表第一 左の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」の549,999円以下の表記は、平成31年(2019年)分と同じである。550,000円以上の表記が、平成31年(2019年)分と異なる。 右の「給与所得控除の額」の表記は、平成31年(2019年)分とすべて異なる。 【平成31年(2019年)分の別表第一】 【令和2年分の別表第一】 ② 別表第二 左の「基礎控除の額」がなくなった。 【平成31年(2019年)分の別表第二】 【令和2年分の別表第二】 ③ 別表第三・四 平成31年(2019年)分の別表第三と令和2年分の別表第四は同じである。 令和2年分の別表第三は、新たに追加になった。 【平成31年(2019年)分の別表第三】 【令和2年分の別表第三】※新設 【令和2年分の別表第四】 ※平成31年(2019年)分の別表第三   6 扶養親族等の合計所得金額要件の変更 ① 源泉控除対象配偶者 その年中の所得の見積額が、「85万円以下の人」から「95万円以下の人」に変更になった。 ② 扶養親族 その年中の所得の見積額が、「38万円以下の人」から「48万円以下の人」に変更になった。 ③ 同一生計配偶者 その年中の所得の見積額が、「38万円以下の人」から「48万円以下の人」に変更になった。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 341(掲載号)
#上前 剛
2019/10/24

〈検証〉TPR事件 東京地裁判決 【第2回】

〈検証〉 TPR事件 東京地裁判決 【第2回】    公認会計士・税理士 佐藤 信祐   3 完全支配関係内の合併でも事業の移転が必要なのか (1) 東京地裁判決の概要 東京地裁では、争点1として 争点2として がそれぞれ争われている。 このうち、争点1について、東京地裁は と判示している。この判断は妥当であり、特に異論はない。 そして、争点2について、 としたうえで、「法人税法57条2項についても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定して、被合併法人の有する未処理欠損金額の合併法人への引継ぎという租税法上の効果を認めたものと解される。」と判示している。 このように、完全支配関係内の合併であっても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が必要であるというのであれば、適格合併であることを否認すべきであるが、法人税法57条2項の繰越欠損金の引継ぎのみを否認している。この点については、 と判示している。 (2) 会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方 平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から公表された「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」には、以下のように記載されている。 このうち、前段を見ると、完全支配関係内の組織再編成に対して税制適格要件を認めることを基本としたうえで、支配関係内の組織再編成にまでその範囲を広げたということが読み取れる。そして、後段を見てみると、支配関係内の組織再編成に対して、事業単位の移転や事業の継続を要求しながらも、完全支配関係内の組織再編成ではこれらの要件を緩和したということが読み取れる。 そのため、東京地裁では、後段部分に着目することにより、完全支配関係内の合併に対して、従業者引継要件、事業継続要件という具体的要件を緩和しただけであって、基本的な理念からすれば、完全支配関係内の合併であっても、事業単位の移転が必要であるという解釈を導き出したものと思われる。 この点、経団連の立場から組織再編税制の導入に関与されていた阿部泰久氏は、組織再編税制の立案経緯について (阿部泰久「改正の経緯と残された問題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』83頁(商事法務、平成14年)) と述べられていた。 そのため、組織再編税制の全体像としては、完全支配関係内の組織再編成を基本として構築されていったと考えることもできる。そして、経済界の要請により、支配関係内の組織再編成が組織再編税制に混入してしまったため、事業単位の移転といった概念を入れざるを得なかったということも言える。この立場からは、完全支配関係内の合併において、事業単位の移転を要求する理由がなく、東京地裁判決が判示した組織再編税制の制度趣旨には誤りがあるということになる。 平成22年度税制改正前の段階では、いずれの解釈も可能であったと思われる。とりわけ、朝長英樹氏が (朝長英樹『組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟』484頁(平成26年、清文社)) と説明されていたこともあり、日本の組織再編税制が「グループ」だけでなく、「事業の継続性」にも着目した制度であり、完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転が必要であると考えた納税者はほとんどいなかったと思われる。 そして、納税者側も、「課税当局に現に所属し、又は過去に所属した者の著書を含む実務上の諸文献においても、完全支配関係下の合併で『事業の継続』が前提となっていることをうかがわせるものはない。」と主張しており、少なくとも、平成27年6月26日にTPRに対して課税処分が行われるまでに出版されたものからは、立法論としても、解釈論としても、そのような文献を見つけることができなかった。 さらに、次回で解説するように、平成22年度税制改正後は、グループ法人税制において、事業単位の移転が要求されていないことから、完全支配関係内の合併であっても、事業単位の移転が必要であるという解釈は導き出せなくなる。 次回では、平成22年度税制改正を踏まえ、TPR事件の問題点について検討を行う。 (※) 一般的に「グループ法人税制」とは、平成22年度税制改正により導入された資本に関係する取引等に係る税制のほか、平成22年度税制改正で見直された組織再編税制を含めた広い範囲の税制をいう(平成22年度税制改正を包括して「グループ法人税制」と説明されることもある。)。そのため、「グループ法人税制」とは、譲渡損益の繰延べ(法法61の13)だけでなく、適格現物分配(法法62の5)と残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)を含めた概念であるとご理解いただきたい。 (了)

#No. 341(掲載号)
#佐藤 信祐
2019/10/24

相続空き家の特例 [一問一答] 【第35回】「親族に譲渡した場合」-特殊関係者に対する譲渡-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第35回】 「親族に譲渡した場合」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年7月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月にA社に対し6,000万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人住まいをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 売却先のA社は、Xの妹の夫Zが経営する会社(Zの持株割合が80%)です。 なお、XとZは生計も住居も別です。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A Xは、「相続空き家の特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 譲渡した資産の譲受者が次に掲げる者に該当する場合には、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません(措令23②、20の3①、法令4②③)。 本事例の場合における、譲渡者Xとその妹の夫であるZとの関係は、姻族2親等の親族関係にありますが、直系血族ではなく、生計も住居も別であることから、ZのA社における持株割合が50%超であっても、譲受者A社は譲渡者Xの特殊関係者(上記表に掲げる者)ではありません(措令23②、20の3①、法令4②③)。 したがって、本特例の適用を受けることができます。 (了)

#No. 341(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/10/24

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例79(所得税)】 「移転補償金を、一時所得として申告すべきところ雑所得で申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例79(所得税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆収用等により取得する各種補償金の所得区分 個人が土地等を収用等されることにより取得する補償金には、いろいろな名目の補償金があるが、これらの補償金は課税上、次のように分類される。 これらの補償金のうち収用等の課税の特例の適用がある補償金は、原則として、対価補償金だけである。課税上の取扱いは、次表のとおりである。 (※) 国税庁HPより筆者一部変更 ◆仮住居補償及び仮倉庫補償金 個人が土地を収用されることにより取得する補償金のうち、資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付される補償金で、仮住居補償及び仮倉庫補償金は移転補償金として一時所得に区分される。       (了)

#No. 341(掲載号)
#齋藤 和助
2019/10/24

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第34回】「ジョイント・テナンシーと贈与税(その1)」-不動産を夫婦名義で取得した場合の課税関係-

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第34回】 「ジョイント・テナンシーと贈与税(その1)」 -不動産を夫婦名義で取得した場合の課税関係-   税理士 菅野 真美   - 質 問 - アメリカでは“ジョイント・テナンシー”という仕組みを使って夫婦名義で不動産を取得すると贈与税や相続税がかからないから一般的な手法だよ、という話をアメリカの友人から聞きました。私たち(日本人で日本居住)でもこの方法は利用できるのでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷ジョイント・テナンシーとは 日本でも夫婦が不動産を共有形態とすることはよくある。共有の場合、その不動産を売却するときは共有者全員の承諾が必要であり、共有者のうちの一人(個人)が亡くなった場合は、原則的には、相続人がその持分を承継することになる。 ところで、複数の者の所有形態は共有だけではない。米国においてはジョイント・テナンシーという方法で利用されることが多い。「ジョイント・テナンシー」と「共有」を比較して大きく異なるのは、各人がジョイント・テナンツ(ジョイント・テナンシーの持分)を他のジョイント・テナンツ保有者の同意なく売却でき、ジョイント・テナンツの保有者が亡くなった場合は、自動的に他のジョイント・テナンツの保有者に持分が移転するという点である。 なお、アメリカ・カリフォルニア州におけるジョイント・テナンシーの成立条件は次の4つである。 日本に住んでいる夫婦(A、B)が、夫Aの資金でカリフォルニア州にある不動産をジョイント・テナンシーの形態で取得し、速やかに日本に居住していない子(C)とその妻(D)(C、Dはいずれも日本国籍)へ贈与したことについて、国税当局がB及びC、D等に対して贈与税の決定処分等を行った事件があり、以下では、その事件での裁判の流れから、不動産をジョイント・テナンシーの形態で取得した場合の課税関係を検討する(一審:静岡地方裁判所平成17年(行ウ)第7号贈与税決定処分等取消請求事件(TAINSコード:Z257-10665)、控訴審:東京高等裁判所平成19年(行コ)第142号贈与税決定処分等取消請求控訴事件(TAINSコード:Z257-10797))。   ▷どのような事案だったのか この事案の論点は、日本に住んでいる夫婦がジョイント・テナンシーを使ってカリフォルニア州の不動産を取得した部分と、その後、日本に住んでいない子供夫婦に贈与した部分の2つがあるが、今回はジョイント・テナンシーを使って不動産を取得した部分、つまりBの贈与税課税部分に特化する。 時系列で事案を並べると次のようになる。 上記の取引についてBは贈与税の申告を行わなかったことから、課税庁は贈与税決定処分と無申告加算税賦課決定処分を行ったところ、不服としてBが処分の取消しを求めた事案である。   ▷本事案取引時点の税制における贈与税の納税義務者の範囲 上記取引のあった平成12年3月時点の日本の税制における贈与税の納税義務者の範囲はいたって単純である。すなわち、贈与時に受贈者(納税義務者)の住所が日本にあるか否かで課税範囲が異なり、日本に住所がある場合は国内外の全財産について課税され、日本に住所がない場合は国内財産のみが贈与税の課税対象だった。 (※) 贈与税の納税義務者の範囲については、その後の税制改正により見直しが行われた。詳しくは国税庁タックスアンサー「No.4432 受贈者が外国に居住しているとき」を参照されたい。 A、Bはいずれも贈与時に日本に住所を有していたことから、Bが贈与により財産を取得した場合は、国外に財産があったとしても贈与税の課税対象となっていた。   ▷課税庁の主張 譲渡証書にジョイント・テナンツとして譲渡する旨が記載されているから、Bは共同所有形態で不動産を取得している。ジョイント・テナンシーの成立要件は、持分保有者全員が均等に持分を取得するものである(上記③)。本事案では、不動産の取得代金はAがすべて支出しているため、BはAから不動産の取得資金の2分の1(Bの持分)を贈与されたことになる。   ▷納税者Bの主張 Bは日本に居住しているから不動産を占有したことはなく、Aと持分割合が均一とは考えたこともない。このため、ジョイント・テナンシーの要件を満たしていないから、ジョイント・テナンシーは創設されていない。不動産の持分を取得した感覚を持ち合わせていないから、本人の意思を無視してジョイント・テナンシーが創設されたとは認定できない。たとえジョイント・テナンシーが創設されたとしても、Bの贈与承諾の意思表示がないから、持分ゼロのジョイント・テナンシーの取得である。   ▷裁判所の判断は Bは、ジョイント・テナンシーの成立要件の一部を欠いているからジョイント・テナンシーは成立しないと主張するが、Bはジョイント・テナンシーと記載された譲渡証書に署名しているから、共同所有形態を認識了承の上で不動産を取得する意思があった。 持分についてゼロとBは主張するが、持分について異なる合意があったことを示す証拠がないから、2分の1の持分で取得したとするのが相当だ。不動産の購入代金はすべてAが負担したから、相続税法9条によるみなし贈与により、Bは持分2分の1に相当する額を贈与により取得するのが相当だ。 よって課税庁の処分は違法ではないから、地裁は納税者の請求を棄却し、高裁も同様に棄却し確定となった。 税の取扱いがどうなるのかを深く考えずに取引を行う人も多いが、取引を行った後に「知らなかったから税負担はない」ということは認められない。税理士の視点では当たり前のことだが、一般の人にとっては納得できないことなのかもしれない。   (了)

#No. 341(掲載号)
#菅野 真美
2019/10/24

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第91回】関西電力株式会社「調査委員会報告書(平成30(2018)年9月11日付)」 

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第91回】 関西電力株式会社 「調査委員会報告書(平成30(2018)年9月11日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【調査委員会の概要】   【関西電力株式会社の概要】 関西電力株式会社(以下「関西電力」と略称する)は、1951年5月設立。国内電力事業者では、東京電力に次ぐ2位のシェアを占める。グループ会社は77社。売上高3兆3,076億円、経常利益2,036億円、資本金4,893億円。従業員数32,597名(いずれも2019年3月期、連結ベース)。本店所在地は大阪府大阪市。東京証券取引所1部上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。   【調査報告書の概要】 関西電力は、2019年10月2日の記者会見に際して、役員等が社外の関係者から金品等を受領していた問題について、2018年7月に、社外の弁護士を含めた社内の調査委員会を立ち上げ、調査を行っていたことを認め、調査報告書を公表した。 本事案は、直接的な意味での「会計不正」ではないが、本調査報告書公表後、関西電力が第三者委員会を設置し、年内にも調査結果が公表される予定であることを踏まえて、本連載でたびたび問題点として挙げている「調査委員会の構成はどうあるべきか」という論点や、金品を受領した取締役らの一部はなぜ、所得税の修正申告をしなければならなかったのか、その資金を提供したとされる吉田開発株式会社(以下「吉田開発」と略称する)はどうやって資金を捻出したのかなど、会計不正の周辺に関する論点も多いことから、本連載で取り上げることとする。 1 調査委員会による調査結果 (1) 調査委員会設置の経緯とその役割 関西電力では、吉田開発への国税当局の査察を端緒とし、国税当局が関西電力に調査に入ったことから、関西電力幹部が高浜町元助役の森山栄治氏(以下、「森山氏」という)から金品を渡されていた事実が発覚したため、コンプライアンス委員会の社外委員の指導・助言のもとで、コンプライアンス部門(法務部門)が、原子力事業本部及び京都支社に対して事実関係の調査を行った。 そのうえで、関西電力は、社外委員3名、社内委員3名(人事担当役員、コンプライアンス担当役員、経営企画担当役員)により構成される調査委員会を設置した。調査委員会は、事実関係の調査結果について検証を行い、必要な追加調査の実施、評価、原因分析及び再発防止策の提言を行ったものである。 (2) 関西電力と森山氏との関係 調査委員会は、関西電力と森山氏の関係について、次のように述べている(3ページ)。 関西電力の対応者は、森山氏に対し、発電所の稼働状況、トラブル、地元企業への発注工事情報など幅広い情報を伝達し、面会等の場で、手土産等として金品を受領していた。こうした対応については、調査対象者からの聞き取りでは「いつ、どのように始まったのか」は確認できなかったということであり、相当長い期間にわたり続けられていたことが推測される。 (3) 関西電力幹部による金品の受領の状況 調査報告書に添付された一覧表によれば、金品を受領していた関西電力の取締役・幹部社員は、調査対象者26名のうち20名であった。中には、代表取締役会長八木誠氏(以下「八木会長」と略称する)、代表取締役社長岩根茂樹氏(以下「岩根社長」と略称する)も含まれている。 なお、金品を受領した者について、次のように述べている(6ページ)。 (4) 吉田開発への工事発注プロセス・発注額 調査報告書は、吉田開発について次のようにコメントを付している(5ページ)。 そのうえで、調査委員会は、関西電力が吉田開発に発注した工事については、工事発注プロセス・発注額は適正であるとしながら、「コンプライアンスの観点から厳密に言えば、森山氏に対し、吉田開発への発注工事の『工事概算額』や『発注先』を開示した行為は、不適切な面があると言わざるを得ない」ことから、「第三者から見て、他の工事業者との公平・公正に関し疑義を招きかねない行為であるとの指摘を受けてもやむを得ない」(15、16ページ)と述べており、結局のところ、不適切な行為であると認定しているのかどうかがよくわからない曖昧な表現にとどまっている。 2 問題発生の背景と要因 調査委員会が認定した問題発生の「背景」と「要因」について、項目の見出しを列挙すると次のとおりである(18ページ以下)。 3 再発防止策の提言 調査委員会による再発防止策の提言内容は次のとおりである。   【調査報告書の特徴】 2019年9月27日に行われた関西電力岩根社長らによる記者会見で存在が示唆されていた「調査報告書」が公表されたのは10月2日の2回目の記者会見の時であった。報告書が作成されてから1年以上もその存在が明らかにされず、取締役会に報告すらされていなかったとされる報告書は、内容的に不十分なものであったのみならず、関西電力の組織的隠蔽体質を疑われても仕方がないような取り扱いを受けたといえるだろう。 報告書を読んで筆者が真っ先に感じたのは、「時間軸」がないということであった。森山氏からの金品の提供開始時期はよくわからない。20人の幹部らが金品を受領した時期もよくわからない。受領した金品の返却時期にいたってはまったくわからない。調査委員会があえて「年月日」を明示しないで報告書をまとめたとすれば、それはどのような考えに基づいての判断であったのか。新たに設置された第三者委員会による調査は、そのあたりの疑問を解決してくれるだろうか。 1 所得税の修正申告 調査報告書7ページに気になる記述があったので、そのまま引用したい。 本事案では、関西電力幹部は、森山氏から金品を受け取っており、課税関係が生じるとすれば、森山氏個人からの贈与であれば、贈与税が課されるはずであるが、金沢国税局は所得税の修正申告を行うべきだと指摘したということである。修正申告の内容について、調査報告書には何も説明がなく、推測の域を出ないが、受け取った金品の一部について、一時所得として修正申告をするように勧奨されたものであることが考えられる。 一時所得について解説した国税庁タックスアンサーを引用する(下線は筆者による)。 この推測が正しいとすれば、金沢国税局は、森山氏が渡したとされる金品が、吉田開発から拠出されたものであり、森山氏は仲介者に過ぎないという確証を得ていることとなろう。 そうであるとすると、さらなる疑問が生じることとなる。すなわち、金品を受け取っていた幹部らは国税局による税務調査があった後、金品を返却したとされているが、返却した相手方は誰なのであろうか。森山氏はすでに2019年3月に逝去してしまっているのだが、それ以前に森山氏に返却したのか、森山氏の遺族に対して返却したのか、それとも吉田開発に返却したのか。調査報告書が返却時期を明記していないこともあって、返却の経緯や方法についても報告書は一切触れていない。 2 再発防止策に対する疑問 調査委員会による提言の最初の項目として挙げられた「対応困難な状況に対し組織として対応する方針の徹底」の説明として、「社外からの無理な要求に個々人が非常識な対応を迫られている場合には、その事実を共有し、協議の上、組織として毅然と拒否するなどの対処を行う旨の方針を役員間で徹底する。」との文章がある。 本事案で問題が長く隠蔽されてきたのは、森山氏からの金品の受領という事実を、各幹部が社内のコンプライアンス部門・コンプライアンス担当役員に報告・相談することなく、コンプライアンス委員会も有名無実化していたという実態に原因があるといえるだろう。繰り返し金品を受領していた幹部は、それを迷惑であると感じながら、なぜ、報告・相談をしなかったのか。前任者や上司から口止めされていたのであれば、なぜ、口止めを指示したのか。報告書は、残念ながら、そういった理由に踏み込んでいるとは思えないため、再発防止策についても、その遂行のために具体的に何をすればよいのかは、読み取ることができなかった。 さらに、再発防止策では「コンプライアンス推進の強化」も挙げられている。しかし関西電力が公表している「関西電力グループレポート2019」における「コンプライアンスの徹底」の項目(74ページ)では、2018年11月に実施した「CSRに関する従業員アンケート」の結果として、「日ごろコンプライアンスを意識して行動しているか」という問いに、95.8%の従業員が「意識している」と答えており、従業員レベルでは、コンプライアンス意識は相当に浸透していることが示されている。また、コンプライアンス相談窓口への相談件数も、2017年度が67件、2018年度は73件と、一定数の相談が寄せられており、内部通報制度も周知されていることが見てとれる。 結局のところ、今回の問題は、一般従業員レベルの話ではなく、取締役をはじめとする、職制上の権限を有する上級幹部社員の意識の問題であり、一般従業員を含む「全社」で、さらにコンプライアンスを推進することが再発防止策に直結するものではないと思料する。 3 「小林弁護士所感」 調査報告書には「小林弁護士所感」として2ページの文書が添付されている。一見、最高裁判決における裁判官の個別意見を思わせる体裁であり、調査委員会委員長を務めた元大阪地方検察庁検事正の見解として注目を集めた文章である。 小林委員長は、冒頭で、調査内容について、「供与者側関係者からの事情聴取が不可能であり、供与の趣旨や資金の原資などに関する事実関係の解明が十分だとまでは言い難い」としながらも、受供与者(関西電力幹部ら)側の供述や工事関係の資料がほぼ網羅的に得られていることから、「事実関係の評価をすることは可能であろうし、許容されるか」と自己評価している。 そのうえで、金品を受領していた幹部らについて、以下のように同情的な評価をしている。 現職の検事であれば、こんな感想をもらして立件を見送るなどという判断はしないと思われるが、関西電力コンプライアンス委員会の社外委員としての立場から、そうした感想につながったのだとすれば、委員会の独立性や中立性に疑義が持たれるのも当然であろう。 なお、一部報道では、小林敬委員長は10月2日の記者会見の席で、生前の森山氏に聞き取り調査をしていないことについて問われ、「国税局がしていたはずで、そこまでは思いが至らなかった」と釈明したと報じられている(※)が、この発言は、「小林弁護士所感」冒頭の「供与者側関係者からの事情聴取が不可能」であったという内容とは矛盾している。 (※) 2019年10月2日付西日本新聞「元助役聞き取りせず、関電調査委」 4 八木会長及び岩根社長の辞任 関西電力は、10月9日、「役員人事等について」の別添資料1で、八木会長が同日付で、岩根社長が「第三者委員会の調査報告書日付」をもって辞任することを公表するとともに、別添資料2で、森中郁雄取締役の退任と役付執行役員である右城望氏、鈴木聡氏及び大塚茂樹氏が辞任を申し出たため総務室付としたことを公表した。 辞任を申し出た役付執行役員はすべて、調査報告書で多額の金品を受領したことが報告されており、関西電力に自浄能力があれば、昨年9月に、調査報告書がまとめられた段階で、辞任の是非を判断すべきであったはずである。一部報道によれば、監査役会は、本報告書に関して開示を受けていたにもかかわらず、監査役が独自に調査を行うことも、取締役会に報告することもなかったということであり、報告書の結論が法的な問題はないというものであったとしても、こうした監査役会の対応には問題があるのではないだろうか。 5 コンプライアンス委員会の位置づけ 関西電力の2019年3月期有価証券報告書「コーポレートガバナンスの概念図」によると、コンプライアンス委員会は、常務会の配下にある「委員会組織」の中の「サスティナビリティ・CSR推進会議」の配下に位置しており、「コンプライアンス相談窓口(内部通報窓口)」との連携が図示されているものの、レポートラインは記されておらず、また、他の組織・会議体との連携についても明確ではない。 本報告書は、コンプライアンス委員会の社外委員である弁護士3名が中心となってとりまとめを行ったものであるということだが、こうしたレポートラインの不明確さが、報告書が取締役会に報告されていないという異常な事態を招来したのかもしれない。 (了)

#No. 341(掲載号)
#米澤 勝
2019/10/24

改めて確認したいJ-SOX 【第7回】「ITを利用した内部統制の評価(前編)」

改めて確認したいJ-SOX 【第7回】 「ITを利用した内部統制の評価(前編)」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   今回及び次回は「ITを利用した内部統制の評価」をテーマに、前編・後編の2回に分けて説明をします。 J-SOXで「IT」という用語を聞いた場合、まずは会計システムや販売管理システムなどの業務で使用しているシステムをイメージしてもらえば問題ありません。 ここで、仮にITを一切使用していない企業があったとします。 この企業ではすべての情報を紙の伝票に手書きして、仕訳帳や元帳を作り、さらに決算の時には電卓(そろばん)を使って集計作業をしていくものと想像されます。 このような企業の内部統制となると、個々の記入に誤りがないかを担当者とは別の者がチェックしたり、集計誤りがないか再度計算したりすることが考えられます。 もし、この企業にITを導入するとどうなるでしょう。 販売管理システムや会計システムの間でデータが自動で連携する仕組みとなっている場合、システムに一番初めに入力する情報の正しさだけをチェックしておけば、あとの情報の連携や集計などの作業はすべてシステムが自動で、しかも正確にやってくれるので、わざわざ入力者とは別の者がチェックしたり、再度計算したりする必要はなくなります。 〈ITの有無による内部統制の違い〉 この例は極端かもしれませんが、ITを利用した場合、「システムが自動で適切に処理してくれるから、人によるチェックは不要」ということになります。しかし、もしこれが何かのトラブルによって、システムが適切に処理しなくなったとしたらどうでしょう。不適切な処理が繰り返し行われ、誤った決算情報ができあがってしまうおそれがあります。 そこでJ-SOXでは、この自動化された処理について、「本当に適切に処理されるのか」を評価し、その評価結果も踏まえて、財務報告の信頼性を担保した内部統制が整備及び運用されていると結論づけることになります。 前置きが長くなりましたが、以上がITを利用した内部統制を評価する理由(必要性)です。 ここからは、具体的にどのようにITを利用した内部統制を評価していくのかを説明していきます。 なお、前編である本稿では、「評価単位をどのように識別するか」までを説明し、具体的な整備及び運用状況の評価方法については、後編(次回)に説明します。   1 評価対象の決定 ◎ 評価範囲 ITを利用した内部統制の評価といっても、企業で利用しているすべてのITを評価するわけではありません。あくまでJ-SOXという枠組みでの評価となるため、財務報告に係る内部統制に関連するものに限定されます。 具体的には、次のような手順で評価範囲を決定します。 ① 業務プロセスと利用システムの整理 本連載の【第5回】(業務プロセスに係る内部統制の評価)では、評価対象となる業務プロセスの把握・整理について以下のように説明しました。 この取引の流れや会計処理の過程を把握する際に、 などについて整理し、この中で出てきたシステムが評価範囲となります。 実務的には、【第5回】でも紹介した業務フローでシステム欄を設け、システム間のデータの流れなどを把握して、業務フロー完成後に使用しているシステムは何かを洗い出す方法が効果的と考えられます。 〈業務フロー(例)〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② IT基盤の把握 評価対象のシステムを把握した後は、そのシステムの運用を支援するIT基盤(ITに関するインフラ)の概要について把握します。具体的には、次のような項目について把握します。 これらの項目について概要を把握することで、ITの全体像を把握できるようになり、次の評価単位が網羅的に識別できるようになります。   2 評価単位の識別 (1) ITに係る全般統制 ① 定義 「ITに係る全般統制」とは、業務処理統制(後ほど詳しく説明します)が意図したとおりに機能する環境を保証するための方針と手続で、次のような項目が該当します。 ITは、いったん適切なプログラムを組み込めば、意図的に手を加えない限り継続して機能する性質を有しています。しかし、その後のシステムの変更の段階で必要な内部統制が組み込まれなかったり、プログラムに不正な改ざんや不正なアクセスが行われたりした場合には、いくら最初に適切なプログラムを組み込んだとしても、システムが意図したとおりに機能しなくなる可能性があります。 そのため、ITに係る全般統制によって、システムが意図したとおりに継続的に運用されることを担保します。 ② 評価単位の識別 ITに係る全般統制は、通常、そのシステムに関連するIT基盤(上記1の②参照)を単位として構築されるため、J-SOX上のITに係る全般統制の評価単位も、IT基盤をベースに決定します。 なお、「財務報告に係る内部統制基準・実施基準」では、次のように例示されています。 (2) ITに係る業務処理統制 ① 定義 「業務処理統制」は、通常、業務プロセスにおいて個々のアプリケーションによる取引の処理に適用される手続と定義されていますが、冒頭に例示した“自動転記”や“自動集計”など、システムで自動化されている処理というイメージを持ってもらえれば問題ありません。 業務処理統制は、あらかじめプログラムに組み込まれて自動化された統制と、ITから自動生成される情報を利用して実施される手作業による統制によって構成されています。 あらかじめプログラムに組み込まれている自動化された統制には、例えば、次のような機能が該当します。 ITから自動生成される情報を利用して実施される手作業による統制において、利用される情報には、例えば、次のようなものが該当します。 ② 評価単位の識別 ITに係る業務処理統制の評価は、基本的には個々のシステムごとに、上記に該当するような業務処理統制がないかを調べて、評価単位として決定していくことになります。その際、上記1の①で例示した業務フローなどを活用すると、もれなく評価すべき業務処理統制を洗い出せるようになります。 *  *  * 今回は前編として、ITに関する内部統制の概念の説明のほか、ITを利用した内部統制の評価のうち、①必要性、②評価範囲の決定、③評価単位の識別まで説明しました。 次回は後編として、④整備及び運用状況の有効性の評価、⑤不備があった場合の取扱いについて説明します。 (了)

#No. 341(掲載号)
#竹本 泰明
2019/10/24
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